<城西大学周辺路上 21:38PM>
夜の道を美坂香里は愛用のスクーターで走っていた。
つい先程まで考古学研究室でこの間発見された遺跡で見つかった古代文字の解析を行っていたのだ。よほど熱中していたらしく、気がついたら午後9時半を過ぎていた。
それで慌てて考古学教室を辞し、住んでいるマンションへとスクーターを走らせているのである。
彼女の住んでいるマンションは城西大学からおよそ10分ほどバイクで走った位置にある。始めの頃は歩いていたのだが、原付免許を取ったこともあり、それに意外と便利なので今はスクーターを愛用しているのであった。
まだ二月、風は冷たく、しかも夜なので気温も低い。寒さに体を震わせながらスクーターを走らせていると、いきなりエンジンがストップして動かなくなった。
「あら・・?」
一度キーを抜いて、もう一度差し込みスタートボタンを押す。
エンジンはかからない。
同じ事をもう一度する。
やはりエンジンはかからない。
香里はスクーターのスタンドを建ててから、とりあえず降りてみた。
今度はキックレバーでのエンジン始動を試みるが結果は同じであった。
「やっぱり中古車なんか買うんじゃなかったわね・・・」
そう呟いてからどうしようかと腕を組んで考え始めたとき、いきなり声をかけられた。
「あれ・・・香里さんじゃないですか。どうしたんです?」
声のした方を振り返ると、そこには人なつっこい笑みを浮かべた青年が立っていた。
彼の名は、祐。
記憶喪失のため、唯一わかっている手がかりの焼き焦げた免許証に書かれていた文字が「祐」という一字だけ。それを今の名前代わりにしているのだ。
香里は祐の姿を見ると少し安心したような笑みを浮かべた。
「バイクが壊れちゃったみたいなのよ。それでどうしようか途方に暮れていたところ」
「バイク屋さんならいいところ知っていますよ。俺に任せてください」
祐はそう言うと香里に変わってスクーターのハンドルを手に取った。
「近くですからついてきてください」
そう言って歩き出す。
「今から行くの?迷惑じゃない?」
香里が至極当然のことを言う。
「大丈夫です。本坂さんは変わり者ですから。それに香里さんも、バイク無いと困るでしょ?」
確かに祐の言う通りであった。
バイクがないと明日は歩いて大学まで行くことになる。別にそれはそれで良いのだが、何となく何時も使っていたので不便な気もしていた。
そんな香里の当惑も知らずに祐はどんどん歩いていってしまう。
「あ、ちょっと待ってよ!!」
先に進んでいく祐に気がついた香里が慌てて彼を追いかけた。
 
仮面ライダーカノン
Episode.9「襲来」
 
<二輪ショップMOTOSAKA 21:52PM>
本坂がやっているバイク屋・二輪ショップMOTOSAKAの前まで来た祐が閉まっているガラス戸をどんどんと叩いた。
「本坂さ〜ん、急用で〜すっ!!!」
大声でそう言う祐を見て、香里は何とも恥ずかしくなり、俯いてしまう。
少しの間をおいて、ガラス戸の中が明るくなり、中から不機嫌そうな本坂が顔を出した。
「・・・祐の字、一体何のようだ?」
「このバイク、急に動かなくなったんです。修理お願いできますか?」
相手の不機嫌など何処吹く風とばかりに祐がいつもの笑顔で言う。
本坂はバイクを見、それから祐の後ろにいる香里を見た。
思わず頭を下げてしまう香里。
「・・・中に入れろ」
不機嫌なのは変わらないまま、本坂はそう言い、ガラス戸を開けた。
祐がスクーターを押して中に入れると本坂は早速工具を片手にあちこちを触りだした。
香里はガラス戸を閉めてぐるりと店内を見回した。
ここはどうやら整備場らしく、様々な工具やパーツが所狭しとあった。その一角に何か思わせぶりに布のかけられたバイクらしきものが見える。
それに気がついた祐がそっと忍び寄り、布に手をかけた。
「祐の字、さわるな」
振り返りもせずに本坂が言う。
「さわるなと言われると余計さわりたくなっちゃいます」
そう言って布を取り去る祐。
「・・・ったく。お前のその好奇心は・・・」
文句を言いながらも本坂は責めはしなかった。
布の下から出てきたのは何処のメーカーのものでもないオフロードタイプのバイクだった。しかもかなりデザインが変わっている。
「本坂さん、これは?」
「俺のオリジナルマシンだ。こいつの性能はそんじょそこらのバイクとは比べものにならない。昔から少しずつこつこつと作り続けてきた最高傑作だよ・・・まぁ、まだ未完成だがな」
そう言って本坂が立ち上がった。
香里のバイクの修理は終わったらしい。
「ほら、出来たぜ。しかしこいつはもう限界だな。新しいのを買うことを薦めるよ、お嬢さん」
本坂がそう言って香里を見た。
「その時はお願いします」
そう言って香里は頭を下げた。
「で、修理代は?」
「・・・いいよ。新しいバイクを買うときにうちに来てくれるんならな。サービスしておくよ」
「あ〜〜、俺の時はそんなに優しくしてくれたこと無いのに」
未だ本坂オリジナルのバイクをさわっていた祐が恨みがましく言う。
「馬鹿、お前にはそいつがあるだろ?」
そう言って本坂が指差したのは先日諏訪湖SAで怪人相手に大立ち回りを演じたバイクだった。
「ただでそいつに乗せてやってんだ。それだけでも感謝しろ」
「でも、俺、こいつの方がいいなぁ・・・・」
祐はそう言いながら本坂オリジナルのバイクを撫でる。
「お前が俺の求めるライダーならそいつをやってもいい。まぁ、この前みたいなタイムじゃ無理だがな」
そう言って本坂が笑った。
「こいつはな、俺が昔TVで見た仮面ライダーのバイクを真似しているんだ。並の性能じゃない。ありとあらゆる場所を走破し、最高速度は300キロ。ま、およそ普通の人間の乗りこなせる代物じゃないな」
「仮面ライダー・・・」
香里が小さい声で呟いた。
彼女の先生である中津川忠夫は戦士・カノンのことを何時も仮面ライダーだと言っている。
奇妙な偶然。
香里はそう思うことにした。
 
<警視庁 10:29AM>
警視庁内のとある会議室に国崎往人はいた。
「では君は例の未確認生命体同士が戦闘を行っていた、と?」
警視庁の幹部が尋ねる。
「諏訪湖での時もそうだったがそのヤモリみたいなのと白い奴はどっちかというと敵対しているみたいだった」
国崎はホワイトボード上の写真を指差して言った。
「ヤモリみたいな奴は無差別に人を襲ったりしたが白い奴はそのヤモリみたいな奴しか狙っていなかったからな」
「しかし、それだけでその白い怪人を味方だと思うのは危険だな」
そう言ったのは先程とは別の幹部である。
「とりあえず現状ではこの白い怪人も我々にとって危険視する必要があるな。国崎君、君はN県警に戻りたまえ」
それを聞いた国崎は頷くと、立ち上がった。
「それじゃ失礼させて貰うぞ」
遠慮のない言い方に幹部達が苦笑する。
国崎が会議室を出て歩き出そうとすると、いきなり後ろから肩を叩かれた。
振り返るとそこにはにこにこ笑みを浮かべた女性が立っていた。
少し背は国崎の方が高いので自然と見下ろすような形になる。
「久しぶりやなぁ、居候!」
女性がそう言って国崎の肩をぽんぽんと叩いた。
「居候は止せよ。もうあんたの家に世話にはなってないだろ?」
国崎はやや困ったような顔をしてその女性を見る。
「い〜や。一度でもうちに世話になったんや。あんたはいつまで経っても居候や!」
「・・・なぁ、晴子さん。俺ももうちゃんとした刑事だぜ。あの頃みたいな食うや食わずの生活を送っているわけじゃないんだ」
「そないなこと言うて・・晴子さん、かなしーわぁ」
晴子と呼ばれた女性がすっと国崎に詰め寄った。
そして国崎の胸に人差し指をぐりぐりと押しつける。
「あのなぁ・・・他の人に誤解されるだろう!」
国崎は晴子の肩を掴んで引き離すとため息をついた。
「で、何の用だ?あんたのことだ。何の用もなしに俺に声をかけると言うことはないだろう?」
「流石は国崎往人。曲がりなりにも警視庁きってのエリートと呼ばれた過去を持つだけのことがあるなぁ」
それを聞いて、また国崎はため息をついた。
「ここで話すのも何やし・・・折角の再会や。どっかいこか?」
晴子が笑みを浮かべてそう言い、国崎の手を取って歩き出した。
 
<都内某所(スクランブル交差点) 10:58AM>
人が行き交う雑踏の中・・・そいつは立っていた。
急ぎ足で歩く人々を見回しながらそいつはただそこに立っている。
ただ、時折いやらしそうに唇を長い舌でなめ回している。
そいつのそばに・・・一人の女性が近寄ってきた。
美しいドレス姿の女性・・・だが何処か奇妙な雰囲気を漂わせている。
その女性はそいつとすれ違いざまに何かをささやいた。
「ゼースン・バイセヅ・・・ラシュサデ」
それはほんの一瞬の出来事。
しかし、確実にそいつに女性の言葉は届いていた。
ニヤリと笑い、唇を嘗めるそいつ・・・。
 
<都内某所(渋滞している交差点) 11:15AM>
交通量の多いそこは何時もと変わらず渋滞していた。
鳴り響くクラクション。
排気ガスがもうもうと立ちこめる空気の悪い場所。
そこに奴はいた。
渋滞のため動きの悪い車達をじっと睨みつけている。
今にも飛びかからんほどの剣幕だ。
奴の後ろに美しいドレス姿の女性が現れた。
その気配に気がついたのか、奴がその剣幕のまま振り返る。
「ゼースン・バイセヅ・・・ラシュサデ」
「ロデシャ・シィモ・ジェタヲガ?」
「ノルジャ」
「ヴァガッシャ」
女性が奴に背を向けて歩き出した。
奴はもう一度振り返り、渋滞している車を睨みつけると女性とは逆の方向へと歩き出した。
 
<都内某所(人でにぎわう繁華街) 11:38AM>
その男は行き交う人々を見ながら苛立たしげに爪を噛んでいた。
何にそんなに苛ついているのか・・・男は歩き出した。
人混みの中に入っていった男はやはり苛立たしげに周りを見回している。
そこに美しいドレス姿の女性が現れた。
女性に気がついた男がそのそばに歩み寄る。
「シュリ・ミバイサ・ヅモガ?」
「ノルジャ・・・ゼースン・バイセヅ・・・」
「リシュ?ジャデガダ?」
「リサバ・サシェ」
女性はそう言って男を一瞥した。
そのまま女性が人混みの中に消えていく。
男は頷くと、女性とは違う方向に歩き出した。
 
<警視庁近くの喫茶店 11:42AM>
国崎往人はかつて自分が警視庁にいた頃に世話になった神尾晴子と共に警視庁の近くにある喫茶店にやってきていた。
ひとしきり、互いの近況を話し合い、晴子はじっと国崎を見た。
「・・・何だよ、急に黙り込んで・・・?」
「イヤ・・・ええ男になったなぁ思てな」
晴子が笑みを浮かべて言う。
「・・・あのなぁ・・・あんた、そう言うことを話すために俺をここまで連れてきたのか?」
国崎が本気でイヤそうな顔をしたので晴子はちょっと怒ったような顔をして
「何や!人が折角誉めたってんのに、そう言う言い方はないやろ!!」
「イヤ、俺も一応N県に戻って色々と報告しないといけないんだが・・・」
「まだ時間あるやろ・・・それにあんたに聞いておきたいことがあるんや」
そう言った晴子の顔は真剣なものに変わっていた。
「あんたが諏訪湖とか城西大学で遭遇した怪人のことや・・・どうもなぁ、それらしき連中がこの東京に続々と集まってきているようなんや」
「いいのかよ、そんなこと俺に話して?」
「もうじき合同捜査本部が設置される。そしたらあんたもその一員や」
晴子はテーブルに肘をついてそう言った。
「ところで・・・どうしてあの怪人共が東京に来たってわかるんだ?」
国崎がもっともな質問をする。
彼が遭遇したのは諏訪湖SAに現れたガダヌ・シィカパと城西大学に現れたギャソヂ・バカパの二体だけである。他の怪人が現れたという話はまだ聞いていなかった。
「あちこちで目撃されているようなんや。連中の目的、どうして東京に来るのかがはっきりせんと手の打ちようがない」
「奴らの目的ねぇ・・・それなら俺なんかよりもっといい奴がいるよ。そいつのいるところ教えるから、自分で聞きに行ってくれ」
国崎はそう言うと、胸ポケットから手帳を取り出し、何かを書き付けてそのページを破って晴子に渡した。
「城西大学考古学研究室美坂香里・・・何や、あんたの今度のこれか?」
メモを見て晴子は小指を立ててニヤリと笑う。
「そんなわけねーだろ・・・大体そいつは・・・」
そこまで言って国崎は香里の怒った顔を思い出し、げんなりとした表情を浮かべた。
「とにかくそいつに話を聞いてくれ。俺は一度戻らないと流石にやばい」
「次にあんたが来るまでにこの事件が解決しているとええけどな」
「無理だろうな。あいつらには常識が通用しないと思うぜ。何しろ拳銃も通用しないからな」
国崎はそう言って立ち上がるとさっさと喫茶店を出ていった。
後に残された晴子はしばらくメモを見ていたがやがてはっとしたように顔を上げた。
「何や、ここのお代、うちが払うんか!?」
 
<都内某所(何処かのガード下) 12:42PM>
薄暗いガード下に何処からともなく人が集まってきていた。
それは・・・いずれもあの女性に声をかけられた男達。
そして後二人いた。
「ラシュ・サッシャガ?」
渋滞する車に異常に興奮していた男が見回して言う。
「ゼースン・バイセヅ・ショギリシャ」
スクランブル交差点にいた男が言う。
「ジャデザ・バイセモ・ブデリガーミ・マヅ?」
苛立たしげに爪を噛んでいた男が言う。
「ガルヲシャーン・ソッシェリヅ・モバロデジャ」
そう言ったのは黒い服に身を包んだ男。
「ロサレバ・ギャソヂン・シヌシェシャ」
「ノヲマ・ギャシュミ・ゼースモ・ゲヲヂバ・マリ!」
そう言ったのは最後の一人。
その一人だけが女だった。
「カノンザ・ラダヴァ・デシャモ・ジャオ!」
黒い服の男がそう言って周りにいる男達を見る。
しかし、その誰もが冷たい視線で彼を見ていた。
「ロデザ・リッシェ・ガルオシャーン・ショッシェゴ・マゲデタ・ゼースン・バイセヅ・ゴショザ・ジェギヅヲ・ジャオ!!」
黒い男が必死にそう言うが誰も彼を冷たく見たままである。
「ジャッシャダ・ロデザ・カノン・ンゴドヌ!」
そう言って黒い服の男が背を向けて歩き出そうとしたとき、美しいドレスを着た女性が姿を見せた。
「マヲモ・ナヴァジジャ?」
「ガダヌザ・カノン・ンゴドヌ・ノルザ」
少し馬鹿にしたようにスクランブル交差点にいた男が言う。
「ガッシェ・マサメバ・ヌヅマ・ガダヌ」
女性はそう言って黒い男の肩に手をやった。
その手が不気味に変化し、黒い男の頭を締め付けた。
「ガルヲシャーン・ヴァシャネ・ガダヌ」
「ウアア・・・」
黒い男は苦しみながらも、懐からリング上のものをだし、女性に手渡した。
リングを受け取った女性は黒い男を離すと、他の四人を見た。
「ゼースン・バイセヅ・サレミ・・・・」
女性がそこまで言ったとき、一台のオンロードバイクが通りかかった。
バイクがそこにいる一団に気付き、急停車する。
「・・・貴様らは・・・」
バイクに乗っている黒いライダースーツの青年が一団を見やり、そして再びバイクを発進させた。
「リリモガ?」
「ヴァシュバ・ラリシェミ・ヌヅマ」
ドレス姿の女性が今にも走り出そうとしていた女に向かって言う。
「ナギミ・ソルビショ・シュモ・ガルヲシャーン・ナザヌ・ビシュギョル・ザラヅ」
「ロデミ・・・・ロデミ・ギャダネ・シェグデ!」
黒い服の男がそう言ってドレスの女性にすがりつく。
「ロサレミ・ノヲマニ・ガグバマリ!」
そう言って女が黒い男を蹴り飛ばした。
地面を無様に転がる黒い男。
「ゴモ・ヴァシャニ・ザリグ・・・ソヲグバ・マリマ?」
黒い男を蹴り飛ばした女がそう言って姿を変えた。
シィーシャ・ボカパ・・・何処か猫を思わせる風貌の女怪人。
「ガエギャヂ・バギャリ・シィーシャ・ボカパ・ミサガネド!」
女怪人はそう言い残すと風のようにその場から走り去っていった。
「ガネリ・ニマグシェ・リリガ?」
スクランブル交差点にいた男がそう言ってドレスの女性を見た。
「シィーシャバ・ノモギョル・マゴション・モオヲジェ・バリマリ」
そう言ったのは爪を噛んでいた男だ。
「ガレヅ・ヂカパ・・・ソル・サシェマリガ?」
ドレス姿の女性がスクランブル交差点にいた男を見て言う。
「カノンミ・バリドリドショ・ルダシザ・ラヅ」
そう言った男の姿が緑色の蛙を思わせる怪人・ガレヅ・ヂカパへと変わった。
「ロデバ・ガダヌショ・シィザル!」
ガレヅ・ヂカパはそう言うと再び人間の姿になり、一団から離れていった。
「・・・ガルヲシャーザ・シェミバリヅ・サジェ・ゼースバ・ロラウゲジャ」
ドレス姿の女性がそう言い放った。
 
<城西大学考古学研究室 13:47PM>
考古学教室のある棟は何故か何時も日当たりが悪いのか薄暗い。
その薄暗い廊下を今、一人の女性が歩いていた。
「随分なとこにあるなぁ・・・」
女性がぼやきながら薄暗い廊下を進み、考古学教室の前で立ち止まった。
「ここか・・・」
入り口に掛けられた「考古学教室 担当中津川忠夫」と書かれたプレートを見上げ、手に持っていたメモをポケットに押し込む。
それからドアをノックしようとすると、いきなり中からドアが開かれた。
「先生!!」
「スマン、美坂君!ではしばし留守にするっ!!!」
ドアを開けた男がそう言って廊下に出、走るように廊下の奥へと消えていく。
呆然とそれを見送り、女性はそっと開けたままになっているドアの影から中を覗き見た。
中では一人の女性がパソコンの前に座って何やら怒ったような顔をして廊下の方を睨みつけていた。
「・・・あの〜・・・ちょっとええかいな?」
恐る恐る声を掛けてみると、中にいた女性がはっとしたように立ち上がった。
「す、すいません、今まで気がつきませんで・・・」
そう言って女性・・・美坂香里がドアの方までやってきた。
「どうぞ、お入り下さい。何も出ませんけど」
「ほな、失礼させて貰うで・・・」
大きく開かれたドアをくぐって部屋の中にはいると・・・
「なんや、ここは?」
思わずそう言ってしまっていた。
部屋の中は散らかりまくっており、そこかしこに袋に入った出土品が散らばっている。
「すいません。この前、色々とありましたので」
香里がそう言って応接用の椅子を勧めた。
「あー・・・聞いとる聞いとる。あの未確認生命体やろ?」
勧められた椅子に座りながら女性がそう言ったので、驚いたような顔をする香里。
「どうしてそれを・・・あれはまだ・・・」
「うちはこう見えても警察の人間や。で、あんたが美坂香里さんか?」
「は、はい」
「国崎往人からあんたに会って話を聞けて言われてな。うちは神尾晴子。こう見えても警視庁の警部や」
そう言ってニヤリと笑う神尾晴子。
「話と言われても・・・私にも何がなんだかわからないことだらけで」
香里は苦笑を浮かべてそう言う。
「そもそも私の専門は古代文字の解析で、発掘品などは専門外で・・それにああいう様な怪人はまったくの専門外でして」
申し訳なさそうに香里が続ける。
「ほな、その古代文字とやらにその未確認生命体の情報はないんか?その・・・目的とか弱点とか」
晴子が期待に満ちたまなざしで香里を見るが、香里は困ったような表情をして晴子を見返した。
「その様な情報があるかどうかはまだ解読できていないので何とも。怪人が封印されていた遺跡の中の古代文字はまだ解読を始めたばかりですから」
「そうか・・・それなら仕方ないなぁ。せめて奴らの目的だけでもわかれば対応もし易いんやけどなぁ」
残念そうに晴子が言い、ため息をついた。
「奴らの目的・・・ですか?・・・関係あるかどうかはわかりませんが一つ気になることがあるんです」
そう言って香里は一度立ち上がるとパソコンの前まで行き、数枚の写真を手にまた応接用のテーブルの前まで戻ってきた。
「これはN県警の方がここに運ばれてきた発掘品を前もって撮影していたものです。ここに運ばれたのは主に小さいものばかりで、大きいものはN県立大学の方で調査が始められるそうなんですが・・・実は足りないものがあるんです」
「足りないもの?」
晴子は余り興味なさそうに写真を見た。
テーブルの上に並べられた発掘品の写真はいずれも何をどうするものかまるで彼女にはわからなかった。これにあの未確認生命体の手がかりがあるとは思えない。
「一つ目はこのベルト状のもの・・・」
そう言って香里が一枚の写真を指差した。
確かにベルトのような感じの装飾品が写されている。
「ン・・・これは・・・あの白い奴の・・・?」
驚きの目で晴子が香里を見る。
「もう一つはこのリング状のもの」
香里は晴子を無視して話を進めた。
再び彼女が指差した写真にはいくつかの勾玉がついたリング状の装飾品であった。
前回ギャソヂ・バカパが持ち出そうとし、謎の黒い男が持ち去ったリング・・・そして、今は謎のドレスの女性が持つ「ガルヲシャー」と呼ばれるもの・・・である。
もっともその事を香里は勿論晴子も知りはしないが。
「諏訪湖でもここでもあの怪人達はこれらを狙っていたような形跡があります。特にここでのことですが・・・諏訪湖では無差別に人を襲っていたヤモリのような怪人が私を襲わずに何事かを聞いていたような感じがありました」
「・・・何やて?あいつらは言葉を話しよるんかいな?」
更に驚いたような顔をする晴子。
頷く香里。
「・・・しかし、あないな未確認生命体に襲われた言うんに随分と冷静やな、あんた」
「初めてじゃないですから」
そう言った香里の表情が曇る。
彼女が思い出したのは五年前のこと。しかし、晴子は諏訪湖のことだと思ったらしい。勝手に納得して頷いている。
「とりあえず私にわかるのはこのくらいですが」
「・・・色々面白い話を聞かせてもろたわ。ありがとさん。またなんぞあったら協力して貰うかもしぃへんけど、そん時はよろしゅうな」
晴子がそう言って立ち上がった。
「すいません、余り役に立てなくて・・・」
香里も立ち上がり、晴子に向かって頭を下げる。
「いやいや、あんたの話、役に立つと思うで。今度の捜査会議で使わせて貰うわ」
そう言って晴子は笑みを浮かべた。
晴子が出て言ってから香里はまたパソコンの前に戻った。
パソコンの前に飾られている一枚の写真を見て、彼女は笑みを浮かべた。
「私、少しは役に立てているみたいよ」
写真の中では彼女の妹と一緒に彼女、そして相沢祐一が写されていた。
 
<喫茶ホワイト 14:00PM>
お昼の一番忙しい時間が過ぎ、今喫茶ホワイトには客の姿が無くなっていた。
「今日のお昼はあたしの当番だよぉっ!!」
元気一杯な霧島佳乃の声が店内に響き渡ると同時に同じ店内にいた祐と長森瑞佳、そしてマスターの顔色がさっと曇った。
「か、佳乃ちゃんの番だったんだ、今日?」
そう言ったのは引きつった笑みを浮かべている瑞佳である。
この喫茶ホワイトでは店員のお昼ご飯を交代で作ることにしているのだ。
マスターは勿論、瑞佳もかなり料理が上手い。祐はそこそこ。佳乃に至っては殺人的な下手さである。
上手く佳乃の当番の日は佳乃を休みにするように今まではしていたのだがそれにも限界があり、今日のようなことも起こるのだった。
「そうだよぉ。今日は腕によりをかけて美味しいもの作るから期待しててねぇ」
満面の笑顔で言う佳乃を見て、流石に文句など言えなかった。
「楽しみだなぁ、イヤ、ホント」
祐がそう言って笑みを浮かべた。
この男、本気でそう思っているような感じがある。
「ちょっと、祐さん!!」
そう言って瑞佳が祐の腕をとって佳乃に聞こえないような場所まで移動する。
「祐さん、佳乃ちゃんの料理の腕前、知っているんでしょ?だったらそんな事言わないで・・・」
「大丈夫ですよ。あのジャムに比べたら・・・」
コソコソ話している祐と瑞佳。
「あのジャム?」
「・・・へ?」
聞き返した瑞佳に向かって祐がおかしな顔をした。
「あのジャムって?」
また瑞佳が聞くが、祐は首を傾げていた。
「・・・ジャム・・・何だろう・・・懐かしいような・・・」
そう呟く祐を見て、瑞佳は
「何か昔の事じゃないの?思い出せそう?」
「・・・・・ダメです。思い出せません」
そう言った祐の顔はあっけらかんとしたものだった。
まるであっさりと思い出すことをやめたかのように。
「祐さん!!」
思わず声を荒げてしまう瑞佳。
それを聞いて、マスターや料理の準備をしていた佳乃も二人のいる方を振り返った。
「祐さん、自分のことなんだよ?思い出せなくてもいいの?」
「瑞佳さん・・・」
悲しげな目をして瑞佳が言う。
そんな瑞佳を見上げながら祐も悲しげな目をする。
「そんなに思い出さなきゃいけないのかな?」
不意に祐がそう言った。
「俺は今の生活、嫌いじゃないよ。マスターがいて、瑞佳さんがいて、佳乃ちゃんがいて・・・毎日毎日、色々面白いことがあって・・・それでもってまたいつものように明日が来る。そんな生活が俺は好きだな」
「でも・・・何処かで祐さんのこと、ずっと待っている人が居るかもしれないんだよ」
そう言った瑞佳の目は今にも泣き出しそうだった。
何かを思い出しているのか、それとも祐と自分を重ねているのか。
祐は一度瑞佳から昔のことを聞いたことがあった。
彼女には探している幼なじみがいると言うこと。その幼なじみがいなくなる前、自分は何も出来なかったこと。その幼なじみに会って、何とか助けになれないか、ずっと考えていることを。
「瑞佳さん・・・俺は・・・」
祐がそこまで言ったとき、いつものようにカランカランとカウベルの音が鳴り響き、香里が中にやってきた。
「あら、何か取り込み中?」
「いらっしゃいませ」
先程までとはうって変わって明るい声で祐が言う。
「取り込み中だなんてとんでもない。さあ、何処でも空いていますからどうぞ」
わざわざ祐が立って香里を案内する。
「やけにサービスがいいわね。何かあるの?」
そう言った香里の顔に笑みが浮かんでいる。
祐が率先してカウンター席の椅子を引き、香里に座るように薦めた。
「あ、そうだ。香里さんも一緒にどうですか?今から佳乃ちゃんがお昼ご飯を作ってくれるんですよ」
祐のこの一言でようやくやたら祐が愛想良くしていた理由が他の人間(と言っても佳乃以外)にも理解できた。
「そうなの?じゃ、頂こうかしら」
椅子に座りながら香里がそう言ったので慌てて瑞佳が
「香里さん、今日のお薦めは・・・」
「折角だから今日のお薦めは佳乃スペシャルだ!」
瑞佳を遮るようにマスターがそう言ったので、厨房の中の佳乃も
「りょ〜かいっ!!!」
やたら元気のいい声で反応していた。
おそらくマスターと祐は自分たち以外の被害者を求めていたのだろう。瑞佳は何となくため息をついて、香里の肩に手を置いた。
「はああ・・・ご免ね、香里さん」
「・・・・?」
香里が何事かと瑞佳を見るが、彼女はもう何も言わなかった。
その十数分後、香里はこの世にあの謎ジャムに匹敵する料理が存在することを知ることになる・・・。
 
<城西大学キャンパス内 15:09PM>
その女はキャンパスの中でもかなり異彩を放っていた。
体にぴったりとしたボンテージ風の服を着、長い髪を後ろに無造作に垂らしている。その美貌は・・・何処か猫を思わせるものがあったがかなりの美女であることは間違いない。
そんな彼女を見て、一人の軽薄そうな男が声を掛けた。
「ねーねー彼女、俺と一緒にお茶しない?」
そう言って女に近寄るが女はある一点・・・考古学教室のある棟をじっと見つめたまま、何の反応も示さない。
「無視するなんて酷いな〜。俺ってこう見えてもこの大学でもてる男ランキング三位なんだぜぇ」
軽薄男がそう言って女の肩に手を回す。
その瞬間、きっと女が軽薄男を睨みつけた。
「そう言う怖い顔もいいねぇ・・・ね、君なんて言うの?」
軽薄男が女の様子が変わったことにも気付かずそう言った。
「バマネ」
一言そう言って女が肩に回された軽薄男の手を振りほどく。
「おいおい、つれないなぁ・・・」
軽薄男がそう言ってまた女の肩に手を回そうとしたとき、女はいきなり何処か猫を思わせる風貌の怪人・・・シィーシャ・ボカパに変身した!
「うわあああっ!!!」
情けない声を上げてその場に座り込む軽薄男。どうやら腰が抜けてしまったらしい。
「バザマバ・シィーシャ・ボカパ・・・ガエギャヂ・バギャリ・シィーシャ・ボカパジャ!」
シィーシャ・ボカパはそう言うと、座り込んでいる軽薄男を蹴り上げた。
その一撃で、軽薄男が数メートル吹っ飛ばされる。
地面に叩きつけられた軽薄男は首を変な方向に曲げ、事切れていた。
「きゃぁぁぁぁぁぁっ!!!」
いきなり悲鳴が聞こえた。
たまたま通りかかった学生がこれを見て、大声を上げたのだ。
「ルヅナリ・ギャシュジャ」
そう呟き、シィーシャ・ボカパが目にも留まらぬ速さでその学生のそばに駆け寄り、その首をがしっと掴んだ。そのまま、持ち上げ、一気に地面に叩きつける。
「うわぁぁ・・・」
また声が聞こえた。
どうやら先程の悲鳴を聞きつけて他の学生がやってきたらしい。
「か、怪物だぁっ!!」
そう叫びながらその学生が逃げ出していく。
逃げていく学生を見て、シィーシャ・ボカパはチッと舌打ちした。
「ギャギャゴニ・リゴショ・ミマヅサ・レミ・ガルヲシャーン・ナガヌブロ・ザリリガ」
シィーシャ・ボカパはそう呟くと、考古学教室のある棟へと走り去った。
 
<喫茶ホワイト 15:15PM> 
カウンターでは香里がまだ突っ伏したままうんうん唸っていた。
その横では佳乃が申し訳なさそうに付き添っている。
「香里さん、御免なさい・・・あの、あたし、もっと頑張ってきっと美味しい料理作るから・・・あの・・・」
「大丈夫よ、佳乃ちゃん・・・悪いのは・・・」
そう言って顔を上げた香里は新聞を広げているマスターとテーブルを拭いている祐をじっと睨みつけた。
「知っていて、薦めたわね、マスター、それに祐・・・・」
そう言う香里だが、二人は顔を合わせようとはしない。
その時、祐の頭に何かが走った。
はっと顔を上げ、窓の外を見る祐。その方向は・・・城西大学のある方向である。
彼の脳裏に・・・猫のような怪人の姿がイメージされた。
「すいません、俺、ちょっと出掛けてきます!!!」
祐はそう言うと、布巾をマスターに渡して、表へと飛び出していった。
「きゃっ・・・」
「ご免、瑞佳さん!!」
ドアのところで丁度外から帰ってきた瑞佳とすれ違う。
祐は表にでると、店の横にあるガレージに停めてあったバイクに飛び乗ってエンジンをかけ、一気に走り去っていった。
「・・・何だったんだ、あいつ?」
呆然として、見送るマスター。
「これで二回目だね」
佳乃がそう言って瑞佳を見る。
頷く瑞佳を見て、香里も立ち上がった。
「前って何時のこと?」
「確か・・・二日ほど前の事かな?」
「二日・・・」
それはギャソヂ・バカパが考古学教室を襲った日。
香里はそれを思い出すと、すぐに喫茶ホワイトを出ていき、城西大学へと向かった。
「香里さん、待って!私も行く!」
そう言って瑞佳も外へと飛び出していく。
「おいおい、店はどうするんだよ・・・」
でていった瑞佳を見て、マスターが呆然と呟いた。
 
<城西大学キャンパス内(考古学教室棟) 15:29PM>
前に立ちはだかる警備員を次々となぎ倒し、シィーシャ・ボカパは考古学教室のある棟にまでやってきていた。
そっと窓を見上げて、一度壊された窓を見つけると、足を曲げてジャンプしようとする。
が、そこに一台のバイクが走り込んできた。
そのバイクがシィーシャ・ボカパと校舎の間に停車し、乗っていた男がヘルメットを投げ捨てながらバイクから降りた。
誰あろう、祐である。
両手を交差させて、前へとつきだし、彼は叫ぶ。
「変身!!」
その声に反応してか、腰の辺りにベルトが出現する。
左手を引いて、腰の辺りに添え、残る右手で十字を描く。そして、その右手と左手を一気に入れ換える。次の瞬間、ベルトの中央が光を放った。
その光の中、祐の姿が戦士・カノンのものへと変わっていく。
カノンの姿を見たシィーシャ・ボカパが一瞬ひるんだように後ずさった。
「カノン・・・・シュリミ・ジェシェギシャガ・・・」
そう言ってシィーシャ・ボカパがカノンに飛びかかった。
そのスピードはギャソヂ・バカパとは比べものにならない。あっという間にカノンは校舎の壁へと押しつけられる。
「くっ・・・」
ぐいぐいと壁に押しつけられ、苦しそうな声を上げるカノン。
シィーシャ・ボカパは油断無く、両手でカノンを締め上げるが、カノンは膝をシィーシャ・ボカパの腹に叩き込み、何とか脱出した。
よろけるシィーシャ・ボカパに今度はカノンが飛びかかり、パンチを食らわせる。
二発目を喰らわせようと拳を振り上げたとき、シィーシャ・ボカパが素早くその拳を押さえた。
そして、頭でカノンの胸を突き飛ばす。
今度はカノンがよろける番だった。
そこにジャンプしたシィーシャ・ボカパのキックが叩き込まれる。
更によろけ、倒れるカノン。
追い打ちをかけるようにシィーシャ・ボカパがまたジャンプし、上からカノンを踏みつけようとする。
だが、カノンは素早く横に転がり、その攻撃をかわすと着地したシィーシャ・ボカパに向かって倒れた状態からキックを食らわせた。
いきなりの反撃によろけ、倒れるシィーシャ・ボカパ。
カノンは素早く立ち上がると、倒れているシィーシャ・ボカパに踵落としを喰らわせ、更に地面に叩きつける。
そんなところに喫茶ホワイトを飛び出してきた香里と瑞佳が到着した。
二人は木の陰に隠れて、カノンとシィーシャ・ボカパとの戦いを見守る。
「か、香里さん、あれは・・・?」
「カノン・・・戦士、カノンよ・・・」
恐ろしげに言う瑞佳に淡々と答える香里。
「ああいう奴らから私たちを守る・・・伝説の戦士・・・」
そう言った香里の表情にはある種の感慨が浮かんでいた。
何かを懐かしむような。
そんな表情。
カノンとシィーシャ・ボカパとの戦いは新たな展開を迎えていた。
立ち上がったシィーシャ・ボカパが猛スピードで走り、カノンを惑わし始めたのだ。
まるで円を書くようにカノンの周囲を走るシィーシャ・ボカパ。
「く・・・・」
あまりの速さにカノンは何処にシィーシャ・ボカパがいるのかわかりかねていた。
徐々にその姿がぶれ始め、まるで複数のシィーシャ・ボカパがいるようにも見えてくる。
と、いきなり、円の中央に向かってシィーシャ・ボカパが飛んできた。
右手をつきだしてカノンに体当たりするシィーシャ・ボカパ。
為す術なく吹っ飛ばされるカノン。
地面に倒れたカノンに、またシィーシャ・ボカパが円から飛び出し、上から踏みつけ、また円に戻っていく。
「こ、このままじゃ・・・やられる・・・どうすれば・・・」
何とか片膝をついて起きあがるカノン。
「この円の中からでないと・・・」
そう言って立ち上がったカノンはジャンプして円を飛び越えようとした。
しかし、それを許すシィーシャ・ボカパではない。
同じようにジャンプして、カノンをたたき落とそうとする。
「今だ!」
カノンはジャンプしてきたシィーシャ・ボカパをがしっと受け止めると、そのまま地面へと倒れ込んだ。
そのまま地面を転がり、ある一点で両者が離れた。
互いに間合いを取りつつ、身構える。
じりじりと間合いを詰め、相手の隙を伺う。
香里達も息を殺してこの戦いを見ていた。
と、その時、シィーシャ・ボカパがいきなり上を見上げた。
それを見たカノンが一気に駆け出そうとした時、上空から緑色の影がカノンに覆い被さってきた。
いきなりの事でかわすことも出来ず、カノンは地面に押し倒される。
緑色の影は愉快そうに笑い声をあげ、シィーシャ・ボカパを見た。
「マミン・ニシェリヅ?ロサレ・モニゾショバ・ガルヲシャーン・ナザヌ・ゴショカマ・ガッシャモガ?」
緑色の影・・・ガレヅ・ヂカパ はそう言うと、立ち上がり、倒れているカノンの背を踏みつけた。
「カノンモ・ラリシェバ・ゴモ・ホルリモ・カヲター・ガレヅ・ヂカパミ・バガネド」
ガレヅ・ヂカパはそう言うとさっさと手を振ってシィーシャ・ボカパを追い払うような真似をした。
「ガレヅ!ギナバモ・シャヌゲ・マジョリ・ダヲ!!」
シィーシャ・ボカパはそう言うと、ガレヅ・ヂカパを突き飛ばすようにその肩を右手でどんと突いた。
よろけるガレヅ・ヂカパ。
「マミン・ヌヅ!?」
「カサン・ヌヅマ!!」
二体の怪人が言い争っている間にカノンは立ち上がり、停めてあったバイクに駆け寄った。バイクに跨ると、カノンはエンジンをスタートさせ、二体の怪人めがけて走り出す。
「あのバイク・・・祐さんのバイク・・・?」
驚いたように瑞佳が言う。
「やっぱり・・・彼が・・・カノン?」
香里が瑞佳の言葉を受けてそう呟いた。
いきなり突っ込んできたバイクにシィーシャ・ボカパとガレヅ・ヂカパが吹っ飛ばされる。
さっとUターンしたカノンが再びバイクを走らせるのを見て、ガレヅ・ヂカパは素早くジャンプしてその上に飛び乗り、がしっとカノンの首を両足で締め上げた。
「ゴゴバ・サガネド!ロサレバ・ガルヲシャーン・ナザネ!」
ガレヅ・ヂカパがそう言い、シィーシャ・ボカパが不承不承ながら頷いた。
立ち上がると、ジャンプして考古学教室にある部屋の窓を突き破って中に飛び込んでいく。
「また!?」
香里がまたしても壊された窓を見て呟いた。
その間もカノンはバイクを走らせながら、ガレヅ・ヂカパの足を振りほどこうともがいていた。
「くううっ!!」
うめき声を上げながら片手で足をほどこうとするが、ガレヅ・ヂカパの足は強烈にカノンの首を締め上げる。
更にガレヅ・ヂカパは体を左右に振り、バイクのバランスをも狂わせようとしてきた。
たまらずバランスを崩して、倒れるバイクとカノン。
ガレヅ・ヂカパは倒れる前に足を離して、その被害を免れていた。
「く・・・」
何とか立ち上がるカノンだが、ダメージはかなりのものらしい。
ふらついているところにガレヅ・ヂカパがジャンプして突っ込んできた。
吹っ飛ばされるカノン。
更にガレヅ・ヂカパは大きく上にジャンプして勢いよくカノンの上に降下する。
ガレヅ・ヂカパの全体重ののせられた両足がカノンを直撃し、思わず仰け反るカノン。
そんなカノンを掴み、ガレヅ・ヂカパはまた上へとジャンプした。
どうやらジャンプの頂点からカノンを地面に叩きつけようと言う魂胆らしい。そして、その目的は達せられた。
ものすごい勢いでカノンが地面に叩きつけられる。
「ぐはっ・・・」
一度バウンドし、カノンがぐったりと動かなくなってしまった。
それを見た香里は思わず木の陰から飛び出していた。
「カノン!!相沢君!!立ってぇっ!!!あなたが・・・あなたしかいないのよっ!!」
その声が届いたのか・・・ゆっくりと地面に手を突いてカノンが起きあがった。
そして、いつの間にか校舎の屋上に立っているガレヅ・ヂカパを見上げた。
「とぉっ!!」
気合と共にジャンプするカノン。
だが、それを見たガレヅ・ヂカパもジャンプし、より上空からカノンを蹴り落とした。
またしても地面に叩きつけられるカノン。
「くう・・・ダメだ・・・今のジャンプ力じゃ奴には勝てない・・・もっと、もっとジャンプしないと・・・」
必死に地面に手を突きながら立ち上がるカノン。
ガレヅ・ヂカパは屋上からそんなカノンを馬鹿にしたように見下ろしている。
「うおおっ!!!」
再び全身に気合を込め、カノンがジャンプした。
その瞬間、カノンのベルトの中央が青い光を放ち、手首足首の宝石の色も青くなる。頭部の赤い目も青くなり、額の中央に青い宝石が出現する。そして、ボディアーマーも白から青に変わり、どことなくすっきりとした形へと変化した。
「・・・青くなった・・・!?」
ジャンプしたカノンを見て香里が呟く。
驚いていたのは香里達だけでない。
ガレヅ・ヂカパもいきなりのカノンの変化に驚いていた。
先程と同じようにジャンプして蹴り落とそうとしたのにも関わらず、カノンは何とガレヅ・ヂカパと同じ高さまでジャンプしていたのだ。
攻撃することも忘れ、屋上に着地するガレヅ・ヂカパ。
一方、青く変化したカノンも屋上に着地し、さっと立ち上がると自分の体を見た。
「・・・青くなった・・・?」
自分の身体の変化にとまどいを隠せないカノン。
「ジャンプ力があがっている?」
そう呟いたとき、先に我に返ったガレヅ・ヂカパが飛びかかってきた。
さっとそれをかわしたカノンがガレヅ・ヂカパのボディにパンチを食らわせるがガレヅ・ヂカパは少しもよろけない。
それどころか効いている風ですらない。
「何だ・・・?パンチ力が落ちている!?」
またもとまどうカノンにガレヅ・ヂカパはパンチを食らわせてきた。
よろけるカノンだが、すぐに頭を振って意識を相手に向けると後方へと飛び下がり、身構えた。
「体が・・軽い・・・一体どうなっているんだ?」
と、不意に後ろから殺気を感じ、カノンはその場でジャンプした。
その真下をシィーシャ・ボカパがものすごいスピードで駆け抜けていく。
シィーシャ・ボカパは手に何やらボードのようなものを持っていた。
「シシュゲ・シャモガ?ガルヲシャーン?」
「ゴデバ・ノルジャ」
ガレヅ・ヂカパの問いに手に持っているボード見せて答えるシィーシャ・ボカパ。
二体の怪人がゆっくりとカノンの方を見る。
「ラジョバ・・・」
「カノンン・ニサシュ・ヌヅジャゲ」
そう言ってじりじりとカノンに迫り寄るシィーシャ・ボカパとガレヅ・ヂカパ。
カノンもじりじりと後退する。
絶体絶命のピンチ・・・そんな言葉がカノンの頭によぎっていた。
 
<二輪ショップMOTOSAKA 16:04PM>
本坂が一台のバイクをいじっている。
それは何時かの夜に祐達に見せたバイクであった。
「まだそいつを作っていたんですか、本坂の親父さん・・・」
そんな声が彼の後ろから聞こえてきた。
本坂が振り返ると、そこにはオンロードバイクに跨った黒いライダースーツの青年がいた。
青年はバイクのスタンドを建てると、バイクから降り、ヘルメット脱ぎ捨てた。
「久しぶりですね、親父さん」
懐かしげにそう言う青年。
本坂は青年を見ても顔色一つ変えずにまた作業に戻った。
「ふん・・まさか・・・お前が帰ってきているとはな・・・」
その声にはどことなく不機嫌さが感じられる。
「今まで何処で何をやっていた、折原浩平?」
折原浩平・・・そう呼ばれた青年は苦笑を浮かべただけだった。
 
Episode.9「襲来」Closed.
To be continued next Episode. by MaskedRiderKanon
 
次回予告
突如青く変化したカノン・・・その戦い方がわからず苦戦する。
迫り来る二大怪人の猛攻にどう立ち向かうのか?
祐「青いカノンはスピードとかジャンプ力が凄いけどパンチ力とかが弱くなっている・・・」
晴子「な、何やねん、こいつらはっ!?」
疾風の如く駆け回るシィーシャ・ボカパ。
恐るべきジャンプ力の持ち主ガレヅ・ヂカパ。
この怪人達をカノンは倒せるのか?
本坂「こいつなら充分に追いつけるはずだ」
瑞佳「祐さんは・・・祐さんだよね?」
戦いの鍵を握るのは新マシン・ロードツイスター。
そして、古代文字の解読。
香里「青き戦士は水の戦士!流水の如く受け流し、薙ぎ払う!」
次回仮面ライダーカノン「青嵐」
白き奇跡、再び・・・!!


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