<二輪ショップMOTOSAKA 16:04PM>
何かそう言う予感があったのだろうか。
本坂は先程からまだ未完成だと彼自身が言っているオリジナルのオフロードバイクをいじり続けている。
「まだそいつを作っていたんですか、本坂の親父さん・・・」
若い男の声が後ろから聞こえたので本坂が振り返ると、そこにはオンロードタイプのバイクに跨った黒いライダースーツの青年がいた。
青年はバイクのスタンドを建てると、バイクから降り、ヘルメットを脱いだ。
「久しぶりですね、親父さん」
懐かしげに青年が言う。
本坂は青年の顔を見ても顔色一つ変えず、また作業に戻った。
「ふん・・・まさか・・お前が帰ってきているとはな・・・」
作業をしながら本坂が言う。
「今まで何処で何をやっていた、折原浩平?」
折原浩平と呼ばれた青年は苦笑を浮かべただけであった。
「それよりもお願いがあって来たんですよ」
「何だ?」
不機嫌そうに返す本坂。
また浩平が苦笑する。
「親父さんに何も言わずに居なくなったことは謝ります。でも俺はやらなきゃいけないことがある。そう言うことです」
「で、お前のお願いって何だ?」
「そのバイク・・親父さんのオリジナル、俺に譲って貰えませんか?」
そう言った浩平は顔に浮かべていた笑みをすっかり消していて、真剣な顔をしていた。
「俺のやらなければならないことに、どうしても親父さんのバイクが必要なんです」
「・・・こいつはお前にはやれないな」
「親父さんっ!」
浩平がやや語気を荒くした。
「こいつはまだ未完成だ。誰にもやることは出来ん。その代わり・・お前にはあれを」
そう言って本坂が立ち上がった。
奥にある倉庫に入っていき、そこの一番奥においてあるバイクを出してくる。
「こいつでどうだ?」
本坂がそう言って浩平を見る。
「これは・・・」
「今作っている奴の前に仕上げたものだ。たまたま仕様がオンロードとなったんで走行場所を選ばないとは言えないが、お前はどっちかというとオンロードタイプの方が好きだっただろ?」
ちょうどいいじゃないか、と言わんばかりの顔で本坂は浩平を見た。
浩平はそのバイクのハンドルに手をやると、グリップを握り、少し回してみたりしてその感触を楽しんだ。
「これで充分だ・・・ありがとう親父さん」
「これでお前に貸しがまた一つ出来たんだ。ちゃんと返せよ」
本坂はそう言ってバイクの始動キーを浩平に渡した。
「今乗っている奴はどうするんだ?」
「親父さんに預けます。何時か、こいつを帰す日が来たらまたこれに・・・」
浩平は今さっきまで乗っていたバイクのシートを愛おしそうに撫で、それからヘルメットをかぶった。
「じゃ、親父さん、また」
新たなバイクに跨り、キーを差し込み、エンジンをかける。
バイクは一気にスピードを上げ、本坂の店の前から走り去った。
それを見送りながら本坂は、ため息をつき、また作業に戻っていった。
 
<城西大学考古学教室棟屋上 16:09PM>
いきなり青くなったカノンの左右を挟むようにガレヅ・ヂカパとシィーシャ・ボカパが油断無く身構えていた。
カノンも油断のない、隙のない構えをしつつ左右どちらが来てもすぐに対応できるよう体を屈めている。
(でも・・・今のパワーじゃダメージを与えることは難しい。一体どうすれば・・・?)
そんなことを考えていると、いきなりシィーシャ・ボカパがダッと間合いを詰めてきた。
慌ててかわすカノン。
シィーシャ・ボカパのスピードの体がついていっているようだ。
白いボディの時は目で追うことすら出来ず、為す術もなく翻弄されていたシィーシャ・ボカパのスピードに、この青いボディのカノンはどうやら追いつくことが出来るらしい。
と、その時、ばぁんと音を立てて、屋上に通じるドアが開き、そこから数人の警官がなだれ込んできた。
「発砲許可がでてるさかい、遠慮は無用や!どんどん撃ったれ!!」
関西弁でそうはやし立てるのは警官隊の中に混じっているスーツ姿の女性、神尾晴子警部だった。
どうやら城西大学を出た後、何か思うところあって警官隊を連れて戻ってきたところにこの騒ぎである。
警官隊で包囲し、一斉に拳銃で射撃し、未確認生命体を殲滅するつもりらしい。
全員が拳銃を構え、カノン、ガレヅ・ヂカパ、シィーシャ・ボカパに狙いを付ける。
「撃てっ!!!」
晴子が叫ぶのと同時に一斉に発砲が開始された。
飛んでくる銃弾を転がってかわすカノン、ジャンプしてよけるガレヅ・ヂカパ、目にも留まらぬ速さで動いてかわすシィーシャ・ボカパ。
「な、何やねん、こいつらはっ!?」
流石の晴子も思わず驚きの声を上げていた。
「ええい、弱気になったらあかん!もっと撃つんや!!」
まるで自分に言い聞かせるようにいい、更に発砲を続ける。
「くっ!!」
まさか人間相手に戦うわけに行かないカノンはとりあえずこの場から脱出することを考えた。
ガレヅ・ヂカパ、シィーシャ・ボカパもどうやらそのつもりであったようで、ガレヅ・ヂカパがまずジャンプして屋上から飛び降り、シィーシャ・ボカパは警官隊の中を強行突破しようとダッシュした。
それに気付いたカノンがシィーシャ・ボカパの行く手を邪魔するように追いすがり、背後から首をがしっと締め上げた。
「カサン・ヌヅマ!!」
シィーシャ・ボカパがそう言ってカノンを振り落とそうとしたとき、一発の銃弾がシィーシャ・ボカパの右目を直撃した。
噴き出す血。
その痛みに耐えきれないのか、シィーシャ・ボカパは片手で目を押さえ、ものすごい力でカノンを振り払うと、ガレヅ・ヂカパと同じように屋上から飛び降り、あっという間に何処かへと消えていった。
「逃げたんか?」
晴子がそう言って屋上のフェンスに駆け寄る。
下を見ても怪人の姿などもう見えはしなかった。
振り返ると・・・いつの間にかカノンの姿もない。
「・・・あの青い奴・・・うちらを守ったんか?」
確かにあの猫科の猛獣を思わせる怪人が自分たちに向かって来ようとしたとき、青い怪人はそれを押しとどめるかのようにもう一体の怪人に飛びかかっていった。
しかし、それが何を意味するのか・・・まだ彼女にはわからなかった。
 
仮面ライダーカノン
Episode.10「青嵐」
 
<城西大学キャンパス 16:21PM>
考古学教室のある棟の近くの木の陰からずっとカノンと怪人の戦闘を見ていた美坂香里と長森瑞佳は戦闘が終わったようなのを確認すると、ようやく木の陰からでてきた。
「香里さん、一体あれ、何だったんだよ・・・?」
興奮しているのかやや顔が赤い瑞佳。
「さっきも言ったわ。戦士カノン。私たちを悪の怪人から守ってくれる戦士よ」
歩きながら香里が言う。
「私たちの味方・・なの?」
香里に追いつこうと少し駆け足になりながら瑞佳が言うと、香里は頷いた。
足を止め、瑞佳の方を振り返る。
「昔・・・五年ほど前、私はカノンに会ったことがあるの。彼は・・・怪人と同じような姿、力を持っているけど、ちゃんとした人間よ」
そう言いきると、香里はまた歩き出した。
「香里さん・・・」
「研究室に戻るわ。被害が余り大きくないことを願いたいわね」
瑞佳の呼びかけに振り返りもせずにそう答え、香里は校舎の中へと入っていく。
その様子を見ながら瑞佳は自分がどうしてここにきたのかを考えていた。
いきなり喫茶ホワイトを飛び出していった祐が心配になったのか。
記憶喪失のはずの祐が、一体何を感じ、急に飛び出したのか興味があっただけかもしれない。
そして謎の怪人達による戦闘・・・白い怪人と猫科の猛獣を思わせる怪人、そして蛙のような怪人は敵対していたように見えた。
香里は何か知っている・・・それはほぼ彼女の中で確信へと変わっていた。
その時、近くの茂みからがさっと言う音が聞こえてき、瑞佳はびくっと体を震わせた。
ゆっくりと振り返り、恐る恐る茂みに近寄っていくと、そこに何と祐が倒れているではないか。
「祐さんっ!!!」
思わず大きい声を上げて祐のそばにしゃがみ込む瑞佳。
祐は苦しそうな顔をして、気を失っているだけであった。
とりあえず生きていることを確認した瑞佳は祐の身体を何とか起こし、その肩を支えて、立ち上がらせた。
「と、とにかく・・・何処かに運ばないと・・・」
そうは思うのだが、女の身では男である祐を運ぶのは容易いことではない。
「・・・祐さん、重いよ〜・・・」
情けない声を上げ、その場に倒れる瑞佳と祐。
「おいおい、大丈夫か?」
不意にそんな声がしたので瑞佳が顔を上に向けると、そこに黒ずくめの少し目つきの悪い男が立っていた。
「すいません・・手を貸してください・・・」
泣きそうな声で瑞佳が言うので、その黒ずくめの男はさっと祐の体を抱き起こし、背中に背負った。
「何処に行くんだ?」
「えっと・・・喫茶ホワイトって近くにあるんです。そこまでお願いできますか?」
「わかった」
男はそう言うと後は黙って歩き出した。
瑞佳は知らなかったがこの男、N県に帰ったはずの国崎往人であった。
二人が城西大学構内を出ていったのと丁度同じ頃、一台の黒いオンロードタイプのバイクが校門の前に止まった。
「・・・奴らは・・・何が目的でここに?」
ヘルメットの下から聞こえてきた声・・それは折原公平のものだった。
 
<喫茶ホワイト 16:48PM>
気を失ったままの祐を二階に運び込んでから、国崎と瑞佳はようやく店舗スペースの一階に下りてきた。
「すいません、いきなり手伝ってもらって・・・」
そう言って瑞佳が国崎に頭を下げる。
「ああ、構わないよ。・・・人助けが俺の仕事のようなもんだからな」
国崎は瑞佳にそう言い、空いているカウンターの椅子に腰掛けた。
「ハイよ、ご苦労さん」
そう言って国崎の前にコーヒーの入ったコップを出すマスター。
「一体何があったんだ、瑞佳?」
「私にもよくわからないんだよ・・・でも、とりあえず祐さん、かなり疲れているみたいだから今は寝かせておいてあげて」
瑞佳がそう言ってマスターを見た。
黙って頷くマスター。
「しかし・・・一体何があったんだろうな。警察も出てきていたようだし」
コーヒーを飲みながら国崎が言う。
「警察まで・・・大丈夫だったのか、瑞佳?」
心配そうに言うマスターに頷き、瑞佳は微笑んで見せた。
「私は大丈夫だよ・・・でも・・・」
そう言って少しだけ微笑みを曇らせる。
心配そうに二階を見上げる瑞佳。
その視線の先には未だ意識を失い、眠り続けている祐の部屋があった。
 
<都内某所(何処かの橋の下) 17:17PM>
薄暗い橋の下で、一人の女がうずくまっている。
流れの小さい川に自らを映して顔に手を当て、何かを取り出そうとしている。
やがて、それがとれたのか、女が立ち上がった。
その手には血に濡れた黒い物体・・・拳銃の弾丸が握られている。
「ゴモガヂバ・ガマダス・ガレヌ!」
憎々しげにそう言い、女は本当の姿・・・シィーシャ・ボカパの姿に戻った。
そこに数人の不気味な影が現れた。
先頭にいるのは美しいドレス姿の女性。
その後ろに黒い服を着た男、やたら体格のいい男、腕を組んで爪を噛んでいる男、そしてにたにたといやらしい笑みを浮かべている男が続いている。
「ガルヲシャーン・シシュゲシャ・ノルジャマ?」
ドレス姿の女性がそう言ってシィーシャ・ボカパを見た。
「マヲジェ・ニッシェヅ?」
「ロデザ・ロニレシャ」
そう言って前に出てきたのはにたにたといやらしい笑みを浮かべている男だった。
シィーシャ・ボカパはその男を見ると、何か怒ったような顔をした。
「ギョゲリマ・ゴション・・・・」
シィーシャ・ボカパのその呟きを無視してドレス姿の女性がすっと手を出した。
「ガルヲシャーン・ヴァシャヌバ・レミシャモシ・ザラヅ」
手に何やらボード状のものを持ち、シィーシャ・ボカパがドレス姿の女性を見た。
「マヲジャ?」
「ゴモセモ・ガシャギン・ルシャネド!」
そう言って自分の目を指さすシィーシャ・ボカパ。
ドレス姿の女性はそれを見ても表情一つ変えず、シィーシャ・ボカパの手からボードを取り上げた。
「ガッシェミ・ニド」
そう言い残し、ドレス姿の女性はきびすを返し、歩き始めた。
「ゼースン・バイセヅオ・・・」
歩きながらドレス姿の女性が言う。
後に続くのは黒い服の男、体格のいい男、爪を噛んでいる男。
ニタニタいやらしい笑みを浮かべている男だけはシィーシャ・ボカパのそばに残っている。
「マヲモ・ギョルジャ?」
「シェシュジャッシェ・ギャドルガ?」
そう言って男が唇を舌で嘗め回しながらシィーシャ・ボカパに迫り寄る。
「カノンザ・ラダヴァ・デシェソ・ラヲニヲ・ジェギヅゾ」
「ロサレモ・シャヌゲ・マオビ・シュウギョルマリ!」
シィーシャ・ボカパはそう言うと、男を振り払って風のように走り去っていった。
後に残された男は唇を舌でぺろりと嘗めると走り去ったシィーシャ・ボカパの後ろ姿を見、歩き出した。
 
<城西大学考古学研究室 18:56PM>
考古学教室の中はかなり散乱としていた。
そんな中、香里は一人パソコンの前に向かっていた。
幸いなことにこの部屋に忍び込んだシィーシャ・ボカパはすぐに目的のものを見つけたらしく、パソコンなどは全く無事であった。
それで香里は大急ぎでパソコンを立ち上げ、古代文字による碑文の解析を始めたのである。
白いカノンが突如青く変化したこと・・・それが一体どういうことなのか、もしかすると碑文の中に隠されているのかもしれない。
五年前に発見された遺跡の中の古代文字による碑文にも灰色のカノンについて多くのことが書かれていたことから彼女はきっと新たに見つかった遺跡の古代文字の碑文の中に青い戦士のことが書かれていると確信していた。
香里が検索のヒントとして選んだ言葉は「青」、「空」、「水」など青い色を連想させるものばかりであった。同時に戦士のことについても検索を開始する。
検索を始めて約二時間半が経とうとしたとき、ようやく検索の結果が画面に表示された。
それは青い戦士のことではなく、後から始めた戦士についての碑文の検索。
「・・・戦士、姿、一つ、ない・・・」
画面に映る文字を一つ一つ読み上げる香里。
文字単独の意味・・・それをつなげて文章にする。それが一番大変な作業だった。
「戦士の姿・・・これはこれで良さそうね・・・次の一つ・・それにない・・・」
腕を組みながら香里は首を傾げる。
「何かが足りないのかしら・・・違うわ・・・戦士の姿が一つでない・・・そう言うこと?」
薄暗い部屋の中、一人呟いている香里。
「戦士の姿は一つにあらず・・・」
呟きながら近くにおいてあるメモにそう書き込む。
「・・・一つでないなら・・あの青い戦士以外にもまだ・・・・?」
さらにキーをたたいて新たな検索を始める。
「違う・・これじゃない・・・これも・・・」
画面を見ながら香里が言う。
そのとき、不意に画面上にある一文が表示された。
「これは・・・光、白、戦士・・・白き戦士は光の戦士・・・まばゆい光で敵をうち倒す・・・」
画面を見ながら香里ははっと思い当たった。
二日前に怪人に襲われたとき、助けにきた人物は腰のベルトからまばゆい光を放っていた。そして、その人物は白い戦士、カノンへと変身し、怪人を倒した。
「そう言うことね?」
誰に言うともなしにそう言い、香里は立ち上がった。
「戦士の名は・・・カノン・・・」
また画面に表示される碑文を見、頷く香里。
しかし、肝心の青い戦士についての検索は未だ終わっていなかった。
 
<警視庁会議室 20:25PM>
警視庁にある幾多ある会議室の一つ。
その入り口には「未確認生命体対策本部」と書かれた看板が立っている。
中には数人の制服警官や、私服警官が神妙な顔をして座っていた。
「遅くなってすまない。これより会議を始めよう」
そう言って一人の初老の人物が会議室に入ってきた。
「私がこの未確認生命体対策本部の本部長を務めることになった鍵山だ。よろしく頼む。さて、先日から各地で目撃されている未確認生命体と呼ばれるものについてだが・・・本日も城西大学で目撃、更にまた数名の学生や警備員の被害者が出た。そのことについては・・・神尾君、報告を頼む」
「はい」
そう言って立ち上がったのは神尾晴子である。
「うち・・・やなかった、私が本日遭遇した未確認生命体は三体、どれも今回初めて確認された個体だと思われます」
晴子は話しながら手元にある資料をめくった。
そこには三枚の写真がある。
「まずはこの猫科の猛獣を思わせる未確認生命体・・・便宜上この個体を未確認生命体第4号と呼びますが、これが始めに城西大学に現れたものだと多数の目撃証言からわかっています。で、ここで問題があるのですが・・・この第4号ははじめは人間の姿をしていたという目撃者がおりまして・・・」
「人間の姿、ですか?」
そう言ったのはこの会議室の中にいるメンバーの中でもかなり若い男であった。
名を住井護という。
「では未確認生命体は人間の姿と怪物の姿と二つの姿を持っていると?」
「そう言うことやろうな。で、次、この青いやつ。諏訪湖での事件の際、目撃された第3号とよく見ていることからなんか関係あると思いますが、未だ詳細不明です」
「そいつは多分第3号と同じやつだろう。白いやつが青く変化したって俺は聞いているぜ」
そんな声がドアの方から聞こえてきたので、会議室にいた全ての人間がドアを振り返った。
そこにいたのは・・・国崎往人である。
「居候!おまえ、N県に帰ったんとちゃうんか?」
晴子が驚いたような顔をし、同じく驚いたような声を出す。
「あんたと別れた後、鍵山本部長に呼ばれてな。報告書はファックスで送って、とりあえずこの対策本部に参加しろって言われてたんだよ」
そう言って国崎は空いている椅子に座った。
「国崎君、今までどこに?」
鍵山が国崎を見て問う。
「城西大学です。一応まだ何かないか聞き込みを」
「それでその証言を得た、ということかね?」
「はい」
「わかった。神尾君、続けてくれ」
鍵山が納得したように頷き、晴子に続けるよう促す。
「では・・・次にこのカエルみたいな怪人・・・第5号。これは第3号と第4号との戦いに割り込んできた、という証言を得ています」
「この5号と3号が戦っていると、いきなり3号の体の色が青くなったそうだ」
晴子に続いて国崎が言う。
「とりあえず私と警官隊で一度包囲したんですが、三体とも人間とは思えない動きで逃げられてしまいました」
「発砲許可はでていたと思うが?」
「はい。ですが奴らには通用しませんでした。それに人間の限界を超えた動きで弾丸をかわしていたような感じもあります」
「諏訪湖や城西大学での話だが、至近距離から発砲しても全く通じなかった。あいつらに今の警官の持っている拳銃は効かない。そう考えた方がいいだろうな」
国崎がまた口を挟んだ。
その態度に会議室の中の誰もが顔をしかめている。
例外は鍵山本部長と晴子だけだ。
「そのことについてですが、機動隊でも導入を検討している新型ライフルをこちらに回してもらうよう手配済みです。後コルトパイソン357マグナムも導入できるよう手配を開始しております」
そう報告したのは眼鏡をかけた制服警官だった。
「各所轄には下手に手出しをしないように通達してくれたまえ。とりあえずこの報告では下手に手を出せばこちらの被害の方が大きそうだ」
「しかし、それでは市民の被害が・・・」
「我々が防壁となる。所轄の警官は未確認生命体の包囲などをまかせるんだ。・・・とりあえずもう一度未確認生命体第1号から見直してみよう」
鍵山の一言で再び資料が全員に配られる。
会議はまだまだ長引きそうだ。
 
<住宅街 23:47PM>
一人の警官が自転車に乗ってパトロールを行っていた。
放火などがないかわざわざこの時間に巡回しているらしい。
「今日も平和で何もなし、だねぇ」
彼がそう呟いたとき、いきなり疾風が彼を追い抜いた。
思わず自転車を止めてしまう警官。
その前方に・・・シィーシャ・ボカパが立っていた。
「サウバ・ビジョヂ・・・」
そう呟き、警官に襲いかかる。
「う、うわぁぁぁぁっ!!」
警官が悲鳴をあげた時、シィーシャ・ボカパの後方からライトが当てられた。
思わず振り返るシィーシャ・ボカパ。
そこには・・・一台の軽トラックが止まっていた。
「何だ、あいつは?」
トラックの運転手、本坂は窓を開けて身を乗り出した。
「・・・・怪物?」
一度諏訪湖で見たことがある怪物とは違うが、本坂は取り乱したりはしなかった。
「おいおい、またかよ・・・」
そう言って窓を閉め、エンジンを吹かす。
このまま軽トラックでつっこむつもりなのだ。
「・・・」
シィーシャ・ボカパは一瞬だけ悔しそうな顔をすると、また風のように走り出した。
その姿が闇の中にあっという間に消えていく。
「なんて早さだ・・・」
本坂はシィーシャ・ボカパの消えた闇を見ながらそう呟いた。
そのころ、襲われた警官は額から血を流しつつも大急ぎで本署に連絡を入れていた。
 
<喫茶ホワイト 10:21AM>
その日は珍しく朝から忙しかった。
瑞佳が注文の品物を乗せたトレイを持って走り回り、霧島佳乃が注文をとって回る。
マスターは注文された品物を作るので手が一杯だった。
「マスター、祐さんは?」
ちょっと間が空いた時に佳乃が聞くと、マスターは首を左右に振った。
「だめだめ。何をやっても起きないの。耳元でわーって叫んでもふっと息を吹きかけても体を揺さぶってみても、枕を抜こうとしても、お客さん終点ですよーって言っても全く起きない」
「ついでにフライパンをたたいてみても風船を耳元で割っても無駄だったよ」
そう言ったのは瑞佳だ。
「一体どうしたんだろうね、祐さん?」
佳乃が首を傾げる。
(多分・・・昨日のダメージがまだとれてないんだ・・・)
そんなことを考えながら瑞佳が二階を見上げると、二階へと続く階段から眠たそうな顔をした祐が姿を見せた。
「ふわぁぁ・・・おはよー、瑞佳さん、佳乃ちゃん、ついでにマスター」
「俺はついでか」
苦笑を浮かべるマスター。
「祐さん、大丈夫なの?」
心配そうに瑞佳が言うと、祐は頷いてみせた。
「しっかり寝させてもらったからもう大丈夫。佳乃ちゃんも、ごめんね。迷惑かけて」
「あたしは大丈夫だよ。祐さんこそ・・・まだ顔色あまりよくないよ?」
トレイを抱きかかえて心配そうな顔をする佳乃。
「大丈夫大丈夫、ほらこんなにも元気」
そう言って祐は力こぶを作って見せた。
実際には出来ていなかったが、それを見た佳乃は安心したように笑みを浮かべた。
「全くのんきだよな、おまえは。世間は未確認生命体のニュースで持ちきりだって言うのに」
マスターがそう言ってテレビをつける。
テレビではタイミングよくニュース速報を流していた。
『ただいま入ったニュースです。未確認生命体第4号が警官隊の包囲を突破してお台場方面に逃走中。お台場方面に向かっている方、お台場在住の方に避難勧告が出されています』
それを聞いた祐の表情が変わった。
「行くの、祐さん?」
その声に振り返ると瑞佳がじっと祐の方を見ていた。
「・・・瑞佳さん・・・」
「ちょっと来て」
そう言って瑞佳が祐の腕をとって外へと連れ出した。
「祐さん、どうして戦うの?」
表に出るなり、祐を振り返り、尋ねる瑞佳。
「昨日、見たの。祐さんが未確認生命体って言うのと戦っているのを。何で?どうして祐さんは変身できるの?どうしてあいつらと戦うの?」
「・・・瑞佳さん・・・」
「私、心配だよ・・・祐さん、いつかあの怪人と一緒になっちゃうんじゃないかって」
そう言って瑞佳は祐を見上げた。
その目には涙が薄くにじんでいる。
「・・・瑞佳さん、俺が変身できるようになったのは偶然なんだ。諏訪湖であの怪人達に襲われた時、何かベルトのようなものを見つけて・・・」
祐は言いながら上を見上げた。
あの時を思い出しているのかもしれない。
「後はよく覚えてないんだけどね。ベルトを身につけたら変身できるようになっていて、あいつらが出てくると何かわかるようになってた」
そこまで言うと祐は瑞佳から離れて、バイクに歩み寄った。
「瑞佳さん、瑞佳さんは明日が来ないって考えたことあります?」
突然祐がそう言ったので瑞佳はとまどったような表情を見せた。
「ありませんよね。何気ない日常を送っていたら明日が来ないなんてことはない。そりゃ、事故とかで死んでしまうことがあるかもしれないけど、普通なら誰にだって明日は来ます。奴らは・・・未確認生命体とか呼ばれている奴らは・・・何の罪もない人の明日を平気で奪っているんです。それを・・止める力が俺にはある。だから俺は戦うんです」
「でも・・・それは・・・」
あなたがどうしてもしなければならないことではない。
そう言いかけて、瑞佳は言葉を失った。
祐が、とてもさわやかな笑顔を自分に向けていたからだ。
「誰かのために何かが出来るんです。それって良いことじゃないですか」
そう言うと、祐はバイクのエンジンをかけた。
「じゃ、行って来ます」
「待て!」
いきなり別の声がしたので二人がその声のした方を振り返った。
そこには一台の軽トラックが止まっており、その運転席から本坂が降りてきた。
「話は聞かせてもらったぞ。悪いとは思ったがな。祐の字、諏訪湖で見たあの白い奴はお前だったんだな?」
本坂はいつになく不機嫌そうに祐に向かって言う。
「は、はい・・・そう言うことになります・・・」
その迫力におどおどしながら答える祐。
「そうか・・だったらこいつを使え。それじゃあの怪人には追いつけない」
本坂は軽トラックの荷台に乗せているバイクを指で示した。
そこに乗っているのはいつか本坂がまだ未完成だと言っていた彼オリジナルのバイクだった。
「俺はな、昨日未確認生命体第4号とか言われている奴に偶然遭遇した。あれは恐ろしいほど足が速い。しかし・・こいつなら充分に追いつけるはずだ」
「でも本坂さん、こいつはまだ未完成だって・・・」
「乗り手のないバイクなんぞ完成品とはいわねーんだよ!さぁ、行くんだろ?さっさと乗れ!」
本坂が怒ったように言ったので、祐はあわてて軽トラックの荷台に飛び乗った。
そこに瑞佳が追いすがってくる。
荷台の上の祐を見上げて瑞佳は心配そうに聞く。
「祐さん、祐さんは・・・祐さんだよね?」
その言葉に果たしてどういうような思いが込められていたのか。
そして、その言葉を聞いた祐がその言葉をどういう風にとらえたのか。
祐は黙って頷き、右手の親指を立てて見せた。
「行け、仮面ライダー!!」
本坂が叫ぶ。
その声を背に、祐の乗ったバイクが飛び出していった。
 
<お台場へ続く道路 10:48AM>
お台場へと続く道路はほとんどが封鎖されていた。
警察が未確認生命体の被害を少しでも減らすためにバリケードを築いているのだ。
各地に築かれたバリケードのそのうちの一つに国崎の姿があった。
『第4号は包囲を突破、そのまま港湾倉庫街へと逃走中!!』
『当方の被害は甚大、これ以上の追跡は困難!』
次々と入ってくる無線はほとんどが悪い報告だった。
「チッ・・・こんなところでじっとしている場合じゃないんだけどな・・・」
覆面パトカーの中で国崎が呟く。
彼は未確認生命体第4号出現の報を聞いてすぐに飛び出してきたのだが、彼が出た直後にコルトパイソンが支給され、対未確認生命体捜査班はそれを持って第4号殲滅に動き出したのだ。一人、普通の拳銃を持っていた国崎は危険だと言うことでバリケードの監視に回されているのだった。
「やれやれ・・・第4号がこれで倒せたら・・・次は行方不明の第2号と第3号、そして第5号か・・・」
実際のところ、彼は拳銃が今使用しているものから威力の大きいコルトパイソンに変わったところで未確認生命体と呼ばれる怪人を倒せるとは思っていなかった。
もっと根本的な改良・・・使用する弾丸などの改良がない限り人間の力では敵わない。
たとえダメージを与えることが出来たとしても、それが致命的な一撃になるのかどうかはわからないのだ。
と、そのとき、外が騒がしくなった。
窓を開けると、何やら警官達の声が聞こえてくる。
「ここから先は通行止めだ!」
「向こうに回れ!」
「やめろ!ここは通行止めだと!!」
どうやら何かが接近してきているらしい。
様子を見ようとドアを開けかけた時、一台のバイクがバリケードをジャンプして飛び越え、国崎の覆面パトカーの前方に着地した。
一瞬ぎょっとなる国崎だが、バイクに乗っている青年はそんな国崎にちょこっと頭を下げるとまた走り出した。
その場にいた全員があっけにとられている中、我に返った国崎はあわてて覆面パトカーの中に戻り、バイクの青年を追い始めた。
「あいつは俺が追う!!」
そう言い残して。
一方バイクの青年・・・祐は未確認生命体第4号がいると思われるポイントに向かってバイクを走らせながら青いカノンのことを考えていた。
「青いカノンはスピードとかジャンプ力がすごいけどパンチ力とかが弱くなっている・・・でも白いままだとあいつらの動きに追いつけない・・・」
口に出しながら祐は更にスピードを上げる。
「でも・・・やらないと・・・!」
そこへ国崎の乗った覆面パトカーが追いついてきた。
「おい、そこのお前!止まれ!ここは封鎖区域だぞ!!」
窓を開けて前方を走るバイクに呼びかける。
「すいません、でも、俺行かなくちゃいけないんです!!」
祐は後ろを見ずにそう言うと、一気にスピードを上げた。
あっという間に取り残される国崎の覆面パトカー。
「・・・あの声・・・確か・・・」
何処かで聞いたことのあるような・・・国崎はそう考えながらも、バイクを追い続ける。
 
<港湾倉庫街 11:06AM>
未確認生命体捜査班の面々が未確認生命体第4号ことシィーシャ・ボカパを一見追いつめていた。
数台のパトカーでシィーシャ・ボカパを取り囲み、何人もの警官が拳銃を構えている。
だが、誰も発砲できていなかった。
コルトパイソンを持ちながらも、全く通じなかったからだ。
その場で指揮を執っていた晴子も呆然と拳銃を構えているだけであった。
シィーシャ・ボカパはそんな警官達をじっと見回している。
まるで誰から手にかけようか物色しているかのように。
「ジャデガダ・ニミシャリ?」
そう言ってシィーシャ・ボカパが動いた。
一番近くにいた警官を殴り飛ばし、パトカーのボンネットの上に飛び乗ってそこにいた警官を蹴り飛ばす。
次から次へと警官達を殴り、蹴り、叩きのめしていくシィーシャ・ボカパ。
拳銃が何度も発砲されるがそれに怯むシィーシャ・ボカパではない。
また一人の警官がシィーシャ・ボカパに吹っ飛ばされる。
それを見た晴子が言葉を失った。
後、この場に残っているのは自分だけ。
まさか自分をこの怪物が見逃すはずがない。
(・・観鈴・・・堪忍やで・・・)
思わず目を閉じる晴子。
シィーシャ・ボカパがすっと右手を上に上げたそのとき、一台のバイクがそこに突っ込んできた。
猛スピードで突っ込んできたバイクの前輪の直撃を食らい、吹っ飛ばされるシィーシャ・ボカパ。
晴子はバイクに乗っている人物を見て、また声を失った。
バイクに跨っているのは未確認生命体第3号、白い戦士・カノンだった。
カノンはバイクから降りると、晴子に駆け寄り、助け起こした。
「大丈夫ですか?」
いきなり駆け寄ってきた未確認生命体第3号がそう話しかけてきたので、驚き、とまどった晴子は頷くことしかできなかった。
それを見ると、カノンは立ち上がり、シィーシャ・ボカパを見た。
「カノン・・・ゴヲジョゴノ・ゴドヌ!」
シィーシャ・ボカパはそう言うとカノンに向かって走り出した。
カノンはジャンプして、シィーシャ・ボカパをかわすと素早くバイクに飛び乗った。
アクセルを回し、エンジンを吹かす。
すると、カノンの腰のベルトの中央が光を放ち、バイクを包み込んだ。その光の中、バイクが変形を開始した。
本坂オリジナルのバイクからカノン専用の白いスーパーマシンへと。
「行くぞ!!」
ギヤを変え、一気にバイクが飛び出す。
そのスピードはシィーシャ・ボカパを凌駕していた。あっという間に追いつき、そして跳ね飛ばす。
倒れたシィーシャ・ボカパはすぐに起きあがると、また接近してきているバイクをかわし、その場から逃げるように走り出した。
逃げるシィーシャ・ボカパを追ってバイクを走らせるカノン。
ただ一人、そこに残された晴子は呆然とそれを見送っていたが、我に返ると立ち上がり、近くにあったパトカーに乗ってカノンを追い始めた。
 
<古びた倉庫内 11:28AM>
シィーシャ・ボカパが古びた倉庫の中でようやく足を止めた。
振り返って相手がいないことを確認すると安心したように肩を大きく上下させる。
と、そのとき、シィーシャ・ボカパの横合いに高く積まれていたドラム缶を吹っ飛ばしてバイクに乗ったカノンが飛び込んできた。
着地したカノンがバイクを滑らせるように反転させ、シィーシャ・ボカパを見る。
一定の間合いをとってお互いに睨み合う。
「カノン・・・ゴドヌ!!」
苛立たしげにそう言い、シィーシャ・ボカパが先に動いた。
ダッとその場を蹴ってカノンに飛びかかる。
カノンは素早くバイクをウィリーさせて、前輪でシィーシャ・ボカパを受け止め、横になぎ払った。
倒れたシィーシャ・ボカパはすぐに立ち上がり、カノンに背を向けて走り出した。
「ロリシュウゲ・ヅソモマダ・ロリシュリ・シェシド!!」
挑発するようにそう言うシィーシャ・ボカパ。
カノンは一度アクセルを回してエンジンを吹かすと、猛然とシィーシャ・ボカパを追った。
倉庫内を縦横無尽に走るシィーシャ・ボカパと、それを追うカノン。
階段を上り、狭い二階部分へとあがるシィーシャ・ボカパ。
カノンはバイクの前輪を一度持ち上げて、階段を一気に上って追いかける。
狭い通路を風のように走り抜け、ジャンプして一階に飛び降りるシィーシャ・ボカパ。
続けてカノンも狭い通路をバイクで走り抜け、通路の端からジャンプして一階に飛び降りた。
置き捨てられたような段ボール箱やドラム缶の転がる中を走りぬけ、シィーシャ・ボカパは後ろをぴったりと追ってくるカノンを見て、焦りの表情を浮かべた。
一方カノンはこのままでは埒があかないと判断し、シィーシャ・ボカパを追うことをやめ、広くなっている右側へとバイクを転身させた。
ひたすら走り続け、壁の手前で振り返ったシィーシャ・ボカパは後ろにカノンがいないことに気がつくと、首を傾げた。
先ほどまでぴったりと後ろに食らいついていたというのに。
一体何処に消えたのか。
そう考えた時、またも横合いからバイクに乗ったカノンが飛び込んできた。
「サシャゴモ・タシャーヲガ!?」
今度は床面すれすれにバイクを倒し、滑り込んできたカノンは、そのタイヤでシィーシャ・ボカパの足を払うと、バイクを止めた。
倒れたシィーシャ・ボカパの上に飛びかかり、パンチを食らわせる。
一発目のパンチがヒットするとシィーシャ・ボカパはカノンの首をつかみ、投げ飛ばした。
地面を転がりながら立ち上がるカノンに、素早く起きあがるシィーシャ・ボカパ。
睨み合いが続く。
そこに倉庫の窓を突き破ってガレヅ・ヂカパが飛び込んできた。
「シャシャシャ・・・カノン、ロサレン・ゴドヌモ・バゴモ・ロデジャ!」
不気味な笑い声を発しながらガレヅ・ヂカパがそう言う。
「くう・・・」
カノンは新たに現れたガレヅ・ヂカパを見て、苦渋の声を漏らした。
二対一では圧倒的に不利だからだ。
「ゴゴサジェ・ジャマ・カノン!!」
勝ち誇ったようにシィーシャ・ボカパが言う。
 
<城西大学考古学研究室 11:38AM>
パソコンをおいてある机で突っ伏すように香里は眠っていた。
結局昨夜は徹夜になったようでついついそのまま眠ってしまったようだ。
彼女の前のパソコンのモニターには検索終了とのメッセージが出ている。
不意に風が彼女の髪の毛を揺らした。
どうやら研究室のドアが開いて、誰かが中に入ってきたらしい。
「香里さん・・・香里さん?」
その声は瑞佳の声だった。
瑞佳は香里のいる机まで来ると彼女の肩に手をかけて揺らした。
「香里さん、起きて〜〜」
ゆさゆさ揺らしながら瑞佳がそう言うと、ようやく香里が目を覚ましたようだ。
大きく伸びをして、香里は身を起こした。
「う〜〜〜〜〜ん・・・・体が痛い・・・」
そう呟くと、香里は横に立っている瑞佳に気づいたようだ。
「・・・おはよ、瑞佳さん・・・」
「おはようじゃないよ〜・・・もう11時半過ぎているんだよ」
瑞佳があきれたようにそう言い、香里はあわてて時計を見た。
この研究室の壁に掛かっている時計の針は確かに11時半過ぎを刺している。
「大変!!検索は・・・終わってるわね・・・」
香里はそう言うと、マウスを操作して検索の結果を画面に表示させた。
「青い戦士は水の戦士・・・流れる水の如く敵を受け流し、溢れる水の如く薙ぎ倒す・・・」
画面に表示された文字を口にする香里。
「一体何?」
瑞佳がのぞき込んで香里に尋ねるが、当の香里にも今はわからなかった。
そのとき、ドアが開いて一人の外国人が中に入ってきた。
「オハヨーゴザイマス」
「おはよう、エディ」
入ってきた人物に気づいた香里がそう言う。
エディと呼ばれた人物は笑顔を見せると、手に持っていたラジオを自分の机においた。
「いつ帰ってきたの?」
「三日程前。でも何か大変なこと、起きてるみたいだね?」
流暢な日本語を話すエディに瑞佳は驚いていた。
「未確認生命体とか言うの、今も暴れているみたいだし。ボクが日本を離れる前はそんなことなかったのにね」
『ただいま入った未確認生命体に関する最新情報です!未確認生命体第3号と第4号が現在も港湾倉庫街で交戦中・・・更に第5号も出現したという未確認情報がありました!付近の住民は更に警戒を強めるよう・・・』
ラジオから流れる声に、香里は思わず研究室を飛び出していた。
後に残された瑞佳とエディが呆然とその後ろ姿を見送る。
「どうしたんでしょ、香里さん?」
エディが瑞佳を見て聞くが、瑞佳は首を傾げるしかなかった。
 
<古びた倉庫内 11:45AM>
シィーシャ・ボカパとガレヅ・ヂカパの二体の怪人はカノンを挟むように間合いをとりながら歩いている。
一方カノンはどちらが来ても対処できるように油断なく身構えていた。
始めに動いたのはシィーシャ・ボカパだった。
素早い動きでカノンに飛びかかってくる。
ジャンプしてそれをかわすカノンだが、それを待っていたかのようにガレヅ・ヂカパがジャンプしたカノンに飛びかかってきた。
その瞬間、カノンのベルトの中央が青い光を放った。同時にカノンの体も青くなり、手首足首の宝玉も青くなる。更に赤かった目が青い色に変化し、額の中央、左右に開いている金色の角の丁度真ん中に青い色の宝玉が出現する。
青いカノンは更にジャンプのスピードを上げ、ガレヅ・ヂカパの手からすり抜け、着地した。
「・・・また青くなった・・・!?」
いきなりの変化にとまどうカノン。
しかし、敵は待ってはくれない。
着地したカノンに飛びかかってくるシィーシャ・ボカパを何とか受け流し、カノンは中国拳法の様な構えをとった。
何となく、このスタイルが一番あっているような気がしたからだ。
(パンチ力とかが落ちている以上、手数で行くしかないのか?)
そう考えたカノンはジャンプして一気にガレヅ・ヂカパに接近すると、何度もパンチを食らわせ、相手が怯んだところにそのボディにキックを食らわせた。
よろけるガレヅ・ヂカパ。
更に追い打ちをかけようとしたカノンだが、背後から迫ってきたシィーシャ・ボカパが猛然と右腕をふるってきたのでそれをかわし、肘をボディにたたき込む。そこで更に体を反転させて胸元にキック。
吹っ飛ぶシィーシャ・ボカパ。
それを見ていたカノンの背にガレヅ・ヂカパが両足でのキックを食らわせ、今度はカノンが吹っ飛ばされる。
地面を転がるカノンにガレヅ・ヂカパがジャンプして攻撃しようとするが、素早くカノンは立ち上がり、その一撃をかわす。
そして着地したばかりのガレヅ・ヂカパに強烈な回し蹴りをたたき込むが、起きあがったシィーシャ・ボカパが後ろからカノンを羽交い締めにしてしまった。
カノンのキックを食らってよろけたガレヅ・ヂカパだが、シィーシャ・ボカパに羽交い締めにされているカノンを見るとゆっくりと近寄ってきた。
カノンのボディにパンチを何発もたたき込むガレヅ・ヂカパ。
(くっ・・・やはりこのままじゃ・・・)
何とかカノンは両足を持ち上げ、ガレヅ・ヂカパにキックすると、今度は肘で羽交い締めにしているシィーシャ・ボカパの脇腹を攻撃し、脱出した。
しかし、カノンの受けたダメージは少なくない。
両肩を大きく上下させ、荒い息をついている。
(どうすれば・・・どうすれば良いんだ・・・!?)
 
<港湾倉庫街入り口周辺 11:57AM>
城西大学を出た香里はスクーターをものすごいスピードで走らせ、ついに港湾倉庫街の入り口にまでやってきていた。
途中何度か道路封鎖のバリケードがあったのだが、その全てを無理矢理突破してきたのだ。
そして、今港湾倉庫街の入り口の前、最後のバリケードが彼女の前にある。
カノンとシィーシャ・ボカパがここに入ってから作られたもののようだ。
数台のパトカーが停車しているだけだが、そこにいる警官達は一様に物々しい表情を浮かべている。
「・・・行くしかない・・・わね。もう・・あの時みたいのはゴメンだから・・・・」
香里はそう呟くと、スクーターのスピードを全開にして、一気に走り出した。
今彼女の脳裏には5年前、何も出来なかった自分がいた。
しかし、今の自分は今のカノンを助けることが出来るかもしれない情報を握っている。
あの時、泣き叫ぶことしかできなかった自分。
でも、今は・・・。
「どいてどいて〜〜〜!!!」
叫びながら香里はパトカーとパトカーの間をすり抜けていく。
警官達の制止の声が聞こえてくるが、振り返らない。
今は一刻を争う時なのだ。
「ごめんなさ〜〜〜い!!!」
それでも一応謝っておくのが彼女らしいと言えば彼女らしい。
とにかく香里はカノンと怪人達との戦場に一番近いところに飛び込んでいったのだった。
 
<古びた倉庫 12:00PM>
カノンが吹っ飛ばされ、積み重ねられていたドラム缶を突き崩しながら地面に倒れ込む。
ガレヅ・ヂカパのキックをまともに受けてしまったのだ。
倒れたカノンは何とか立ち上がろうとするが、その上にドラム缶が落ちてきて、その下敷きになってしまう。
「く・・ダメだ・・このままじゃ・・やられる・・・」
ドラム缶の下敷きになったカノンに一歩一歩近寄ってくるガレヅ・ヂカパとシィーシャ・ボカパ。
渾身の力を込め、何とかドラム缶の下から這い出たカノンが立ち上がると同時にシィーシャ・ボカパが飛びかかり、カノンごと、倉庫の外へと飛び出した。
またしても地面にたたきつけられるカノン。
そこへ香里の乗ったスクーターが現れた。
香里は地面に倒れている青いカノンをみると急ブレーキをかける。
その反動でスクーターがバランスを崩し、香里は地面に投げ出されたが、すぐに顔を上げ、カノンに向かって叫んだ。
「青き戦士は水の戦士!流水の如く受け流し、薙ぎ払う!」
その声を聞いたカノンが香里をみた。
香里はカノンが自分の方を見たのに気づくと、右手の親指を立てて見せた。
頷くカノン。
シィーシャ・ボカパがまだ倒れたままのカノンに飛びかかってきた。
両足を曲げて、突き出し、シィーシャ・ボカパを撃墜したカノンは立ち上がるとジャンプして倉庫の入り口へと着地した。
(受け流すのはわかった・・・でも薙ぎ払うって言うのは・・・?)
考えているカノンめがけて倉庫の中からガレヅ・ヂカパが飛び出してくる。
それをかわしたカノンは少しバランスを崩したのか近くに立てかけてあった古いパイプを手にした。
その瞬間、カノンの脳裏に青いロッドを持って戦う戦士のイメージが浮かび上がる。
「そうか!」
そう言ってカノンはそのパイプを両手に持ち、構えた。
次の瞬間、パイプは青いロッドへと変化していた。
そのロッドの両端がすらりと延びる。
カノンはロッドを回転させながらガレヅ・ヂカパとシィーシャ・ボカパに迫っていく。
「ゴガム・マ!」
そう言ってシィーシャ・ボカパが飛びかかるが、カノンはロッドでシィーシャ・ボカパの顔面を打ち据え、たたき落とした。
その隙にジャンプしてきたガレヅ・ヂカパを、ロッドの反対側で殴り飛ばす。
地面に叩きつけられたガレヅ・ヂカパに向かってカノンがロッドを振り下ろした。
あわてて地面を転がり、ロッドをかわすガレヅ・ヂカパ。
不意にカノンはロッドを後方へとつきだした。
そこには襲いかかろうとしていたシィーシャ・ボカパが居て、その腹部にロッドの先がめり込んでいる。
カノンは振り返るとシィーシャ・ボカパにキックを食らわせ、再び正面にいるガレヅ・ヂカパを見た。
大きく一度ロッドを回転させ、構えるカノン。
さすがに動揺を隠せなくなっているガレヅ・ヂカパ。
しかし、それでもガレヅ・ヂカパはジャンプした。後方へと向かって。
どうやら形勢不利を悟り、逃げ出そうと言うつもりらしい。
カノンはそれを追ってジャンプし、ロッドを大きく振りかぶって叩きつけた。
肩にその一撃を受けて地面に叩きつけられるガレヅ・ヂカパ。
着地したカノンはロッドを地面に突き立て、そこを支点にして立ち上がったばかりのシィーシャ・ボカパにキックを食らわせ、更によろけたところにロッドで強烈な突きを食らわせた!
そして素早く反転し、ジャンプ。
よろよろと起きあがるガレヅ・ヂカパに向かって空中からロッドを突き出す!
ロッドの先端がガレヅ・ヂカパの胸を直撃、吹っ飛ばされるガレヅ・ヂカパ。
さっと着地したカノン、その左右少し離れたところでシィーシャ・ボカパとガレヅ・ヂカパがよろよろと二、三歩後退する。
その体には古代文字が焼き付けられたように刻印されていた。
その文字から全身に光のひびが入り・・・シィーシャ・ボカパとガレヅ・ヂカパは爆発四散した!
その爆発をバックにカノンの姿が祐へと戻っていく。
そして、彼が手に持っていたロッドもただの古びたパイプへと戻っていた。
「・・やった・・・」
香里は未だ倒れたままであったがそう言うと、ようやく立ち上がった。
そんな香里を見つけて、祐が笑顔を浮かべて右手の親指を立ててみせる。
「ちょっと!手伝ってよ!」
そう言って香里は倒れたスクーターを起こそうとした。
あわてて駆け寄り、手伝う祐。
二人の顔は笑顔であった。
少し離れた場所・・・倉庫の影に一台の覆面パトカーが停車している。
運転席には国崎の姿。
「・・・・まさか、な」
彼はそう呟くと、窓を閉じた。
 
Episode.10「青嵐」Closed.
To be continued next Episode. by MaskedRiderKanon
 
次回予告
未確認生命体第3号として追われるカノン。
その正体に国崎が迫る。
国崎「第3号はどうしてほかの奴と戦う?」
茜「私は・・・何も信じられません」
一人の女性の悲しみが運命の輪を回す。
そして新たな未確認生命体が・・・!!
香里「里村さん・・・」
浩平「お前の悲しみは・・俺にはわかる」
動き出す運命、そして暗躍する謎の集団!!
カノンはどう立ち向かうのか!?
祐「変身!!」
次回、仮面ライダーカノン「迷走」
白き奇跡、再び・・・!!

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