<喫茶ホワイトガレージ 09:21AM>
また徹夜でもしたのだろうか、眠そうな目を擦りながら美坂香里は喫茶ホワイトまで歩いてきた。
すると店の横側にあるガレージのスペースでここの店員で、居候でもある祐と呼ばれる青年が一台のオフロードタイプのバイクのフロント部分にペンで何かを書き込んでいるのが見えた。
「おはよう、祐さん。朝から何やってるの?」
そう声をかけると、祐が「ああっ!!」という声を上げ、香里を振り返った。
「ど、どうしたの?」
祐が泣きそうな顔をしたので驚いた香里が尋ねると・・・
「失敗しちゃいました・・・」
そう言って祐はバイクのフロント部分を指さした。
そこにはいびつに歪んだ古代文字で「戦士」を表すマークが書き込まれている。
「せっかく香里さんに教えてもらったんで慎重に書いていたのに・・・」
本当に祐は悲しそうだった。
とりあえず失敗の理由が自分が声をかけたことにあるので、香里はそうっとその場を離れ、店内へと向かった。
「あ〜〜〜、香里さん!逃げないでくださいよ!!」
そう言って祐が追いかける。
 
<喫茶ホワイト 09:25AM>
店内はまだ開店したばかりだからか全く客は居なかった。
香里はいつもの指定席と既になってしまっているカウンターの一番奥の席に腰掛けるとマスターに挨拶をした。
「おはよう、マスター」
「おはよう、香里ちゃん。また徹夜かい?」
コーヒーを入れながらマスターが聞くので、香里は小さく頷いた。
「私でも役に立つみたいだから、ついついね・・・」
そう言って苦笑を浮かべる。
「あまり無理はしない方がいいよ。睡眠不足は美人の大敵って言うから」
コーヒーの入ったカップを置きながらマスターが言う。
「それを言うなら美容の敵だよ・・・」
そう言ったのはこの店の店員・長森瑞佳。
香里とは気が合うのか今ではすっかり仲良しである。
「それはともかく・・・さっき祐さんが外でうなっていたけど?」
香里の隣に座って瑞佳がそう言うと、香里は明らかに視線をはずしてコーヒーカップに口を付ける。
「頑張って書き直して、って言っておいて・・・」
ばつが悪そうに香里が言う。
そんな二人を横目で見ながらマスターはテレビのスイッチを入れた。
『朝のワイドショー、今日の特集は「未確認生命体第3号について」です』
テレビからそんな声が流れてくる。
香里、瑞佳も思わずテレビの方を見た。
テレビの画面ではかなりぶれた写真が映し出されている。
しかし、そこにはっきり写っているのは白い戦士・カノン。警察には未確認生命体第3号と呼ばれている存在であった。
 
仮面ライダーカノン
Episode.11「迷走」
 
<喫茶ホワイト 09:30AM>
店内で声を出すものは居ない。
三人が三人ともテレビをじっと見ているからだ。
『かなりぶれていますがこれがこの間港湾倉庫街でほかの未確認生命体と激しい戦闘を繰り広げていた未確認生命体第3号と警察発表された個体です。一体この怪人は何故ほかの未確認生命体と戦うのか?果たして一体どこから来た何者であるのか?一体何を目的としているのか?今日の特集ではその辺のところを追求していきたいと思います』
ワイドショーの司会がそう言って隣に並ぶ学者や元警察官などを紹介していく。
それを見ながら瑞佳は香里に声をかけた。
「香里さんの方がよっぽどよく知っているのにね」
そう言われて香里は瑞佳を見る。
「私が知っていることは古代文字に関してのこと。未確認生命体第3号なんて知らないわ」
そう言って香里が微笑む。
「しっかし、物騒だねぇ。こんなんじゃおちおち外も出歩けない」
マスターが腕を組んで言う。
「瑞佳も香里ちゃんも気をつけなよ。ああいう連中もきっと美人の方がいいだろうから」
首を傾げる二人。
マスターの言っていることに意味がわからなかったのだろう。
「ほら、よくあるじゃない。B級ホラーで」
「ああ、なるほど・・・ああいうのってかならず美人の女の人が襲われますもんね〜」
香里と瑞佳の後ろからそんな声が聞こえてきた。
振り返るとそこには祐がいつもと同じ笑顔を浮かべて立っている。
「あの連中がそうであるとは限りませんけどね」
そう言って祐は椅子の背にかけてあったエプロンを手に取った。
「もし・・襲われたら、祐さん、助けてくれる?」
香里がいたずらっぽい笑みを浮かべて祐を見る。
「そうですねぇ・・・瑞佳さんなら。香里さんにはさっきの恨みがありますから」
祐はカウンターの中に入りながらそう答えた。
「・・祐さん・・・」
香里が笑顔で祐を見る。
笑顔であるが・・・しかし目は少しも笑っていない。
「冗談ですよ。ははっ、冗談冗談」
どことなく引きつった笑みを浮かべた祐が慌ててそう言った。
それを見て笑う瑞佳とマスター、それに香里。
つられて祐も笑い出した。
 
<警視庁未確認生命体対策本部 09:45AM>
大きく未確認生命体第3号の写真が掲載されている新聞を見ながら国崎往人はため息をついた。
一体何処から撮ったのか・・・かなりぶれてはいるが第3号が第4号と戦っているのがはっきりとわかる。
「やれやれ・・まさかワイドショーのネタになるとは思わんかったなぁ・・・」
そう言って対策本部の置かれている会議室に入ってきたのは神尾晴子だった。
「おっ、居候。早いやないか」
晴子がそう言って国崎の肩をたたいた。
「あんたか・・・もういいのか?」
ちらりと晴子を見上げ、国崎が聞く。
晴子は第4号を一度包囲したのだが逆襲にあい、あわやと言うところで第3号に命を助けられていた。しかし助けられたとはいえ、負傷したこともまた事実であり、一応病院に行っていたのだ。
「あれしきのことでへたっていられるかいな」
そう言って晴子が国崎の正面に位置する椅子に座る。
「それより・・・テレビ見たか?」
「いや?」
「ワイドショーでこの前の・・・第3号と第4号、第5号が戦っとったことが話題になっとる。一体何処でかぎつけてきたのやら・・・」
「あれだけ派手に報道していて話題にならない方がおかしいだろ・・・」
確かにあの日、警察は被害の拡大を防ぐため、未確認生命体の存在を一般に公表、そして出現したポイントには避難勧告も出した。さらにはテレビなどのメディアで注意を呼びかけている。
これだけやれば野次馬なテレビ局などが動き出さないわけがない。
「俺が心配するのはこういう写真を撮っている連中がどうやって、どこから撮っているかってことだ」
そう言って国崎は新聞を晴子に見せた。
「こいつらは自分が被害者になるとは思わないのか?」
「自分の命よりもスクープの方が大事なんでしょうかね?」
いきなり誰かが口を挟んできたので、国崎が声のした方を向くと、そこには同じ対策本部に配属された若い刑事・住井護が居た。
手には国崎のものとは別の新聞とコーヒーの入った紙コップを持っている。
「こういう連中を何とかするのも我々の仕事なんでしょうか?」
「そこまで手が回ればいいんだがな」
国崎はそう言うと、また新聞に目を落とした。
気になることがある。
「一体・・・第3号はどうしてほかの奴と戦う?」
そして・・・彼の脳裏にある光景が浮かぶ。
あの日・・第3号が第4号、第5号を倒した直後、現場に乱入した香里のスクーターを起こすのを手伝っていた青年。それに警察の築いたバリケードを突破していった青年。
それは確かに前、諏訪湖で未確認生命体第2号にバイクで立ち向かった青年であり、つい先日城西大学内で気を失っていたのを背負って近くの喫茶店にまで運んだ青年であった。
「あいつ・・・何かあるな・・・」
 
<都内某所(人気のない植物園風の場所) 10:27AM>
そこは・・・昔は本当に植物園だったのか、今でも様々な植物があちこちに乱立している。今は封鎖されたのか、人気もなく、それにいくつかの植物は既に枯れていた。
そんな中、少し段になった場所にテーブルがあり、その前に美しいドレス姿の女性が一人物憂げに座っていた。
イヤ、一人ではない。
よく見ると、植物の影になるように黒い服を身にまとった男。
不機嫌そうに肩を怒らせている体格のいい男。
腕を組んで爪を噛んでいる男。
そして・・・やせぎすの、細面の男がそこに入ってきた。
そのすぐ後ろには何処か蛇を思わせる顔つきの女。
「ギシャガ」
ドレス姿の女性が二人を見て言う。
「ゼースン・バイセヅショ・ギリシャ」
細面の男が言う。
「ギメヲ・ヌテギ・ブーヌショタデリギャーザ・ロデガ?」
「ノルジャ」
ドレス姿の女性はそう言うとリングのような装飾品を細面の男に投げて渡した。
「マリヲガブリツ・シャヌヂーイガヲジェ・ブローガブリツ・シャブリツミヲジャ」
「マリヲガブリツ・シャヌヂーイガヲジェ・ブローガブリツ・シャブリツミヲジャマ?」
ドレス姿の女性が言ったことを確認するかのように繰り返す細面の男。
「ゴモ・シィミルレミ・ハルゲシュギ・ソヌギ・ゴカパマダ・ダグコルジャ!」
そう言って細面の男は本来の姿・・・蚊を思わせる怪人・ソヌギ・ゴカパへと変身する。
背中に生えている半透明の羽を不快な音をさせて羽ばたかせ、ソヌギ・ゴカパは空へと舞い上がり、そのまま消えていった。
 
<東京駅 11:38AM>
N県からの特急列車が東京駅のホームに入ってきた。
列車が完全に停止し、ドアが開く。
列車の中から大勢の人々が出ていく中、その女性が居た。
何処か愁いを帯びた表情。
長い髪の毛を三つ編みにし、左右に垂らしたその女性は行き先案内の看板を見、目的のホームへと歩き出した。
 
<中央区晴海 11:45AM>
一人の男が急ぎ足に道を歩いている。
時折腕時計を見て時間を確認して、更に足を速める。
と、男の耳に急にどこからともなく蚊の飛ぶようなイヤな羽音が聞こえてきた。
立ち止まり、周りを見回す。
いくら何でも今はまだ2月末である。
まだ蚊の飛ぶような時期ではない。
首を傾げながらまた歩き出そうとした時、男の背後にすっと何かが降り立った。
その気配に男が振り返ると、そこには巨大な蚊を思わせる怪人が立っていた。
「サウヴァヲミヲ」
そう言ってその怪人、ソヌギ・ゴカパはその鋭い管のような口を男の首筋に突き刺し、血を吸い始めた。
見る見るうちに男の体から血液が奪われ、男の体がひからびていく。
ソヌギ・ゴカパは男を話すと、腕につけているリングの勾玉を一つ動かし、にやりと笑った。
 
<警視庁未確認生命体対策本部 12:03PM>
国崎はまだ新聞をじっと眺めていた。
晴子は住井を相手にホワイトボードの前で何やら話し合っている。
と、そこに一人の制服警官が飛び込んできた。
「中央区晴海で未確認生命体によると思われる事件が発生したとの連絡が所轄からありました!」
それを聞いて、晴子は住井と頷きあい、それから国崎を見た。
「行くで、居候!」
「それ、やめろよな・・・」
苦笑しつつそう言い、国崎は立ち上がった。
部屋の壁にかけられている黒いコートを掴み、他の刑事達とともに会議室を出ていく。
「一体第何号や?」
歩きながら晴子が飛び込んできた制服警官に聞く。
「手口からして新しいものだと・・・」
緊張の度合いを濃くして制服警官が答える。
「第6号か・・・」
住井の顔にも緊張の色が隠せない。
国崎は少し後を歩きながら考え込んでいた。
(今度は一体どうして・・・?)
何となく彼にはこの未確認生命体第6号の犯行が今までとは違うと感じていた。
そして、これが本当の始まりであるとも漠然と感じていた・・・。
 
<警視庁入り口ロビー 12:09PM>
三つ編みを左右に垂らし、憂いを秘めた表情の女性が警視庁の入り口でどうすればいいのかわからないと言った様子で立ちつくしている。
そこにどやどやと未確認生命体対策班の面々が現れた。
それを見た彼女は意を決したように頷き、その一団に近寄っていく。
「あ、あの・・・」
か細い声。
誰も足を止めず歩き去っていく。
「あ、あの・・すいません・・・」
今度は先ほどより少し大きめの声で呼びかける。
それに気付き、立ち止まったのは一番最後を歩いていた国崎だけであった。
「何か用か?」
無愛想に聞く。
彼の場合、いつものことなのだがこの女性はそんなことはもちろん知らない。
「す、すいません・・・」
そう言ってうつむいてしまう。
国崎はばつが悪そうに頭をかくと、女性を壁際に連れて行った。
「すまないが事件が起きて急いでいるんだ。何か聞きたいことがあるなら手短に頼む」
今度は少し優しい口調で言う。
女性は国崎を見上げると、またうつむいてしまった。
「・・・話したいことが・・・」
そこまで言いかけた時、女性が意を決したように顔を上げた。
「未確認生命体対策班の方にお話があるんですが・・・」
「・・・俺がそうだ」
国崎は少し意外だという風に答えた。
この女性が一体どうして未確認生命体対策班と関わるのか、まるでわからなかったからだ。
「あの・・・N県の事件・・・第0号の捜査はどうなっているんですか?」
その時始めて女性の目に感情が浮かび上がった。
それは深い悲しみ。
「あんたは・・・?」
「私、第0号に殺されたN県立大学教授里村幸三の娘で茜と言います」
国崎はそれでようやく彼女がどうして深い悲しみを宿した瞳をしているのか理解した。
肉親を殺された、その悲しみはそう簡単に癒せるものではない。
特に・・・肉親を殺した相手が未だ捕まりもせずのうのうと生きているならば尚更だ。
「・・・すまないな。第0号については俺たちも未だに手がかりを探しているような状況だ。N県警も必死に第0号の情報を集めてくれている。それに・・・今は第6号が出てそれどころじゃない、と言うのが本当だ」
国崎はすまなさそうにそう言って茜と名乗った女性を見た。
「そんな・・・」
茜は驚きと悲しみの入り交じった顔で国崎を見ていたが、やがてあきらめたように顔を伏せた。
「すいません・・・お手間をとらせてしまって」
そう言って頭を下げ、茜は外に向かって歩き出した。
「・・・・・・信じてくれ。必ず第0号は捕まえるから」
その寂しそうな後ろ姿に向かって国崎が声をかける。
そうでもしないと、彼女が自殺でもしかねない、そう思ったからだ。
茜は国崎の声を聞いて足を止め振り返った。
「私は・・・何も信じられません」
そう言って茜はそのまま振り返らずに出ていった。
国崎は何もいえずに彼女の背を見送ることしかできなかった。
 
<江東区東雲 12:15PM>
東雲から有明に向かう道を数人の若い男が歩いている。
お互いに他愛ないことを喋りながらのんきに歩いている彼らの上空に奇怪な影が現れる。
それは不快な羽音をさせながらまるで品物を見定めるかのように遙か下を歩く若い男達を見下ろしていた。
「シュジバ・ギャシュダジャ」
影はそう呟くと驚くべきスピードで降下を開始した。
・・・始めに気がついたのは一番後ろを歩いていた若者だった。
「何だ・・・この時期に蚊?」
そう言って周りを見回す。
次の瞬間、彼はいきなり何かに捕まれ、宙を舞っていた。
不快な羽音が彼の耳に響く。
振り返った彼が見たものは・・・今にも吸血管を自分に突き刺そうとしているソヌギ・ゴカパの不気味な顔であった。
「うわぁぁぁぁぁっ!!!」
彼の悲鳴があたりに響く。
それを聞いた他の若者達が足を止めた。
「あれ?」
「今あいつの声が聞こえたんだけど・・・?」
思い思いに辺りを見回し自分達と一緒にいたはずの若者が居なくなっていることに気付く。
「おかしいなぁ・・」
誰かがそう呟いた時、彼らの後ろでどさっと何かが墜ちる音がした。
彼らがゆっくりと振り返ると・・・そこには変わり果てた彼らの仲間が倒れている。
「お、おい・・・」
一人がそばに寄ろうとして、倒れている若者を見、ヒッと声を上げた。
倒れている若者は既に生前の面影はなく、干からびたミイラのようになっていたのだ。
腰を抜かし、その場に座り込む若者。
それを見た彼の仲間が少しずつ後ずさりを始める。
そのとき、不快な羽音と共にソヌギ・ゴカパが彼らの背後にすっと降り立った。
「ヴァヲミヲ・ソミザナヲ」
ソヌギ・ゴカパはそう言うとにやりと笑った。
イヤ、表情はほとんどわからなかったが、彼らには確かにそう思えた。
そう、獲物にされようとしている彼らには。
 
<中央区晴海 12:33PM>
路上に止められたパトカーの中、国崎は一人、あの女性のことを考えていた。
あの深い悲しみを帯びた瞳の女性、里村茜。
このまま放っておくと何かいけないような気がしているのだ。
今、彼以外の捜査員は路上で未確認生命体第6号の被害者の検分を行っている。
「居候!出てきてちょっとは手伝い!!」
晴子がそう言って国崎の乗っている覆面パトカーの窓をたたいた。
その顔はかなり不機嫌そうだ。
国崎はドアを開け、外に出ると大きく伸びをした。
「俺一人居ても居なくても変わらないだろ?」
そう言うと晴子が彼の頭を殴りつけた。
「阿呆!!仕事し、仕事!!」
そう言うと晴子はまた死体のそばに歩いていった。
渋々後に続く国崎。
「・・こいつはひどいな」
死体を見るなり国崎がそう言った。
「体の血液はおろか水分の約90%が抜かれています。はっきり言ってしまうとミイラ、ですね」
検死を行っている鑑識員がそう言った。
「90%・・・一体どうやって?」
「それがわかれば苦労せんわい!!」
そう言ってまた晴子が国崎の頭をはたいた。
「詳しいことは解剖してみないとわかりませんが、首筋に何かを刺した後があります。おそらくはそこから・・・」
鑑識員がそう言って国崎達を見る。
そこにパトカーに戻っていた住井が駆け寄ってきた。
「江東区東雲でまた被害者が出たそうです!」
その声に振り返る晴子と国崎。
「またか・・・」
「場所を移動していやがる・・・当たり前だが・・・やっかいなことだな」
国崎はそう言うと覆面パトカーに向かった。
晴子達も覆面パトカーに向かって歩き出した。
「何とか被害を食い止めんと・・」
そう呟く晴子だがどうすればいいか、全くわからないでいた。
 
<城西大学考古学研究室 14:09PM>
かちっかちっとマウスをクリックする音が静かなこの研究室内に響く。
一度マンションに戻ったのだがろくに眠ることが出来ず、香里はまたここに戻ってきていた。
「あれ、香里さん帰ったんじゃなかったの?」
研究室に入ってきた外国人、エドワード=ビンセント=バリモアがパソコンの前に座っている香里を見て言う。
「帰ったけどね、何か眠れなかったのよ。だから」
そう言って苦笑する香里。
「エディこそ、ずいぶん遅かったじゃない」
「遅い・・・?ああ、さっきまでテレビ見ていたから」
エドワードことエディは鞄を自分の机の上に置きながらそう言った。
「また新しい未確認が出たようだよ。今度は無差別に一般市民を襲っているって」
「・・・そうなの・・・怖いわね」
そう言って香里はまたパソコンのモニターに目をやった。
今彼女が検索しているのは戦士・カノンの新たなる姿であった。
前回、白いカノンが青くなったことでいろいろと検索した結果、カノンにはまだ他の形態があるようなことがわかった。
青いカノン以外にも他の色のカノンが存在しており、その戦力は未だ未知数でそれがわかればもっと戦いやすくなるかもしれない。
そう思ってのことだった。
「なかなか出ないわね・・・ま、当然か」
まだ検索を始めたばかりである。
そう思って香里は背もたれに体を預けて大きく伸びをした。
「出ませんか、検索結果?」
いきなり耳元で声がしたので、驚いた香里が椅子から転がり落ちた。
思い切り腰を打ち、うめき声を上げる香里を見て、声をかけた人物は慌てて香里を助け起こした。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないわよ・・・いきなり耳元で声をかけられて驚かないとでも思ったの?」
不機嫌そうに香里はそう言い、その人物、祐を睨み付けた。
祐は困ったような顔をして香里を助け起こし、それからパソコンのモニターを指さした。
「で、何か検索結果で面白いもの、出ました?」
「何もでてないわ・・・というか、さっき始めたばかりだからそんなにすぐ出ないわよ」
少し怒ったように言い、香里はモニターを見た。
それから何を思ったのか、マウスを手に取り、モニター上に新しいウィンドウを開いた。
「この前出た青い戦士のことだけど」
ウィンドウに出た古代文字を指さして香里は言葉を続ける。
「ほら、戦ってる最中に手に持ったパイプが青い色の棒に変わったじゃない。あれについての記述が・・・ほら、これ」
香里が指で古代文字を一つ一つなぞっていく。
「青き戦士の手に長きもの在りし時、大いなる力現れ長きもの水の力の棒と化す」
ほうと感心したような顔をする祐。
「白い戦士については何かないんですか?」
「それはまだわからないわ。今調べている最中だから」
そう言ってウィンドウを閉じる。
祐は腕を組みながら
「白い時でも同じようなことが起きたはずなんですよ。ロードツイスターが変形したから」
「ロードツイスター?」
祐を見上げて首を傾げる香里。
「本坂さんにもらったバイクです。何か名前がないとカッコがつかないからロードツイスターって名付けました」
笑顔でそう言う祐。
「ロードツイスター・・・道を行く竜巻ってところかな?」
今まで会話に参加していなかったエディがそう言って二人を見る。
「そう!まさしくその通り!」
右手の親指を立てて祐がエディを見る。
そのとき、ドアをとんとんとノックする音が聞こえてきた。
「はい、どうぞ」
香里がそう言って立ち上がるとドアが開かれ、そっと三つ編みにした長い髪の毛を左右に垂らした女性が中に入ってきた。
その女性を見て、香里は言葉を無くす。
「里村さん・・・」
その声にぺこりとお辞儀する里村茜。
慌てて祐とエディもお辞儀する。
「いつ東京に?」
「今日です・・・警察に行って来ました」
香里はドアのところに立ちつくしている茜を中にはいるように進め、応接セットの机を大急ぎで片づけた。
香里と茜は初対面ではない。
惨劇の起きたあの遺跡の合同調査をする前、一度顔合わせとばかりにN県立大学に香里は中津川やエディ、それに他の多くの学生と行っており、そのとき、向こう側の代表である里村教授に会っており、その日の晩に彼の娘である茜とも引き合わされていた。
同じ歳で、同じ道を歩んでいると言うことから里村教授が香里に好感を持ち、会わせてみようと思ったらしい。
始めて会った時、香里は茜についてどことなくはかなげな印象を受けた。それは今でも変わらないが・・・今はそれに危なげな感じもつきまとっている。
「警察・・・未確認生命体関係ですか?」
香里の質問に頷く茜。
「第0号の捜査が何処まで進んでいるかを知りたくて来たんです・・・でも・・・」
茜はそう言ってうつむいてしまう。
「警察の捜査はあまり進んでいなかったようですね」
少し落胆したように香里が言う。
彼女も未確認生命体第0号について新たな情報が得られたかどうかは気になっていたのだ。
「今は第0号より第6号のほうが先だそうです・・・」
「確かにそっちのほうが優先だろうね。第0号は今どこにいるかわからないし、全く動いていないようだけど第6号は今日の朝から続々と被害を増やしているから」
そう言ったのはエディだった。
彼はそれほど深い意味もなく言ったに違いない。しかし、父親を亡くしたばかりの彼女にとってそれは禁句であった。
「エディ!」
香里がきっと彼を睨み付けたがもう遅かった。
茜がまたうつむいてしまう。
そして、きびすを返して研究室を走り出ていってしまった。
「里村さん!!」
追いかけようとして、香里は呆然と立っている祐に気付き、
「祐さん、彼女を追いかけるの、手伝って!」
「わ、わかりました!」
慌てて駆け出す祐。
だが、部屋を出たとたん立ち止まり、香里を振り返った。
「・・・俺、あの人知らないんですけど?」
「いいから早く!!」
香里が大きい声でそう言ったので祐は慌てて走り出した。
 
<城西大学校門前 14:21PM>
里村茜が泣きながら校門を飛び出てくるのを物陰からそれはじっと見つめていた。
その手には彼女の写真が握られている。
「・・・あれが・・・そうか・・・」
不気味な声でそれが呟く。
それの足下から緑色のツタが一本しゅるしゅると延び、地面を這っていく。
そのツタが校門のところで立ち止まり、顔を手の甲でぬぐっている茜にまで後少しと迫った時、一台の黒いオンロードタイプのバイクが走ってきて彼女の前で止まった。
黒いバイクに乗っている黒いライダースーツの青年は黙ってヘルメットを茜に投げ渡し、乗れと指で示して見せた。
一瞬きょとんとした茜だが、少し考えてから無言でヘルメットをかぶり、青年の後ろの腰掛け、その体に腕を回した。
「行くぞ」
青年は一言そう言うと、バイクをいずこともなく走らせ始めた。
「逃がしたか・・まぁいい。チャンスはまだある・・・」
それはそう呟くと長く延びたツタを回収した。
 
<江東区豊洲埠頭 15:49PM>
埠頭の一番端にバイクを止め、青年はバイクから降りた。
続けて茜も降り、ヘルメットを脱ぐ。
「少しは落ち着いたか?」
青年が海の方を見ている茜に向かって聞いた。
その声に茜が振り返って未だヘルメットをかぶったままの青年を見る。
何処かで聞いたことのある声だったからだ。
「あなたは・・・」
茜が問う。
青年は答える代わりにヘルメットをとった。
「浩平・・・!!」
青年を見て茜が声を無くした。
青年、折原浩平は頷くと、ライダースーツの胸ポケットからサングラスを手に取り、かけた。
「久しぶりだな、茜」
「・・・久しぶりです、浩平。3年ぶり・・・でしょうか?」
茜は浩平の横に立ってそう言う。
その間、彼女は一度も浩平の顔を見ようとはしなかった。
「3年か・・・短いようで長いよな」
浩平はそう言い、苦笑を浮かべた。
「・・・ひどいです」
「え?」
「私達の誰にも何も言わずに急にいなくなるなんて・・・」
ちょっとすねたように茜が言う。
「少なくても私か長森さんには・・・」
「すまないな・・・急だったんで話す暇がなかったんだ」
浩平はそう言ってバイクのほうに向き直り、歩き出した。
黒いオンロードタイプのバイクのそばで立ち止まり、再び茜のほうを向く。
「茜はどうして東京にいるんだ?確かN県立大の考古学部に入ったはずだろ?」
「今日は・・・・」
そこまで言いかけて茜は黙り込んでしまった。
浩平は黙って次の言葉を待っている。
「・・浩平は・・未確認生命体の事件を知っていますか?」
絞り出すように茜が言う。
浩平は小さく頷いた。
「テレビでやっている程度のことはな。でも、それがお前と・・・」
「私の父は未確認生命体第0号に殺されました」
まだ続けようとしていた浩平を遮るように茜がそう言い、うつむいてしまう。
浩平は何も言えずに黙り込んだ。
それ以外にすることが見つからなかったのだ。
「警察は他の未確認生命体の捜査に忙しくて第0号のことは後回しになっているようです。・・・私は・・・」
茜はそこまで言って浩平のほうを振り返った。
「私は・・・私は悔しいんです!どうしてお父さんが殺されないといけなかったんですか?何で・・・何で・・・」
涙を流しながら茜はそう言い、浩平の胸にすがりついた。
そのまま茜は声を上げて泣き続けた。
黙って浩平は茜の背に手を回し、そのまま彼女の好きにさせていた。
しばらくそのままでいたが、やがて茜は泣きやんだようで、黙って浩平の胸に手をついて彼の体を押し離した。
「・・・すいません・・・」
「イヤ、いいさ・・・。なぁ、茜・・・」
浩平はそう言って茜と少し間をおいた。
そして真剣な顔をして
「お前の悲しみは・・・俺にはわかる」
一言、そう言った。
それを聞いた茜が顔を上げ、浩平を見る。
「どうして・・・あなたに・・・」
「俺も・・・家族を失くしたからな。大事なものを失った気持ちはわかる・・・」
浩平はそう言って茜から顔を背けた。
そして彼の脳裏に飛来する嫌な思い出・・・。
『母さん!やめてくれ!みさおは・・みさおはまだ!!』
『浩平、これがみさおにとって一番いい方法なの・・そう、一番・・』
『お兄ちゃん・・・大丈夫だよ・・・』
(それが・・みさおの最後の言葉だった・・・)
浩平の顔に苦渋の色が浮かぶ。
「浩平・・・?」
茜がそう言った時、いつの間にか彼の足下に忍び寄っていた緑の蔓がいきなり跳ね上がり、浩平の首に巻き付いた。
「くっ!?」
いきなりのことだったので何の抵抗も出来ず、浩平は首に巻き付いた蔓をただ握って首が絞まるのを防ぐことしかできなかった。
「・・・く・・・あ、茜!逃げろっ!!」
何とか首に巻き付いた蔓をとろうとする浩平だが蔓は意外な程強く締まっていてなかなかとれない。
とにかく危険が迫っているのだけは確かだったので浩平はそう叫んだのだ。
「俺はいい!早く逃げろっ!!」
必死に声を絞り出し、浩平がそう言うので茜は頷いて、走り出した。
「はっはっは・・女だけを逃がすとは・・・騎士気取りか、折原浩平?」
茜の姿が見えなくなってから物陰から緑色の不気味な姿の怪人が現れた。
それを見た浩平の顔色が変わった。
「貴様・・・どうしてここに!?」
「ふっ・・・わからないか?この俺がこうしてここにいると言うことの意味が?」
緑色の怪人はそう言うと、更にその姿を変化させた。
その姿はまるでウツボカズラに手足をつけて直立させた様な姿。
「ついに始まるのだ、我らの聖戦が・・・」
「・・・植物型変異改造体レベル2V−03・・・まさか・・・本当に・・・」
「この俺様はお前のような失敗作ではない!所詮お前はただの実験体、この俺様はより強化された戦闘体、完全体なのだ!!」
ウツボカズラの怪人はそう言うと右手から伸ばしている蔓を左手で掴み、自分のほうへと引き寄せた。
ぐいっと引き寄せられ、浩平がバランスを崩して転倒する。
それにも構わずウツボカズラの怪人はぐいぐいと浩平を引き寄せる。
どうやらその巨大な壺状の体内に引きずり込む魂胆のようだ。
本物のウツボカズラと同じく、その中に引きずり込まれたら最後、脱出することも出来ず、徐々に溶かされていくに違いない。
「く・・・そうは・・・」
何とか踏ん張ろうとする浩平だが、両手がふさがっている上、倒れたままの状態ではうまくいかない。
そのままずるずるとウツボカズラの怪人のほうへと引き寄せられていく。
(このままじゃまずい・・・こうなれば・・一か八か・・・)
浩平は覚悟を決めると、首を締め付ける蔓を必死にくい止めている手を離し、地面に手をついて起きあがると、自分からウツボカズラの怪人に向かって走り出した。
「な、何!?」
突然の浩平の行動に驚いたウツボカズラの怪人が思わず左手を離した時、浩平は思いきりそのボディに蹴りをたたき込んでいた。
「ぐはぁっ!!」
変な声を上げて倒れるウツボカズラの怪人。
浩平はその隙に首を締め付ける蔓を引きはがし、少し離れた場所に止めてあるバイクに飛び乗った。
そしてエンジンをかけ、一気にエンジンを吹かす。
ウツボカズラの怪人が起きあがるのを見て、ブレーキを離し、ギヤをファーストに入れ、一気にその場から飛び出した。
猛スピードでバイクが走り、ウツボカズラの怪人を跳ね飛ばす。
吹っ飛ばされ、倒れたウツボカズラの怪人だが倒れながらも右手から緑色の蔓を、走り去ろうとする浩平に向かって伸ばしていた。
蔓が浩平の首に後ろから巻き付いていく。
「何っ!?」
慌ててバイクのブレーキをかけるが遅かった。
浩平の体はバイクから引きはがされ、地面に叩きつけられてしまう。
「今度こそ終わりだ、折原浩平!!」
ウツボカズラの怪人がそう言って蔓を手繰り寄せる。
浩平は何とか起きあがろうとするが全身に激痛が走り、動くことすらままならなかった。
「く・・・・このまま・・やられて・・・」
そう言う浩平の顔からサングラスがはずれた。
今までサングラスの下に隠されていた彼の目が・・・紫に光る!
次の瞬間、彼の腕が紫色に変化し、ぐっと太くなった。
そして、自分の首を締め付ける蔓を掴むと、逆に手繰り寄せようとする。
一瞬、両者の力が均衡した。
そのときを狙って浩平は起きあがると、蔓を引きちぎり、海に向かってジャンプした。
大きな水しぶきが上がり、浩平は海中へと消えていく。
ウツボカズラの怪人は右手に掴んでいた蔓を放すと、海をのぞき込んだ。
「・・・敵わないと知ってあきらめたか・・・ふふふ・・・本当の目的はお前のような失敗作などではない。あの娘だ・・・愚かな奴め」
ウツボカズラの怪人はそう言うと、何処へともなく姿を消していった。
 
<江東区豊洲埠頭(少し離れた場所) 16:08PM>
茜は訳もわからないまま、浩平に言われたとおり走り続けていた。
とにかくあの場にいてはいけない、危険だと言うことだけが何となくわかったのだが、では今もあの場所に残っている浩平は大丈夫なのだろうか。
そのことに気がついた茜が立ち止まり、戻ろうかどうか思い悩んでいると、一台のオフロードタイプのバイクに乗った青年が彼女の前に止まった。
「ああ、ようやく見つけた・・」
青年はそう言うと、バイクのスタンドを建て、自分はバイクから降りてヘルメットを脱いだ。
「あなたは・・・」
茜はその青年に見覚えがあった。
ほんの少し前、城西大学考古学教室にいた青年・祐である。
「ずいぶん探しました。香里さんに言われて今まで探していたんですよ」
祐はそう言って笑顔を見せた。
「香里さんも心配していますし、エディさんも謝りたいっていってました。一度戻りませんか?」
にこやかに言う祐だが、茜はとまどっているようだ。
それに彼女には気になることがある。
「・・・!・・・お願いがあります・・・」
はっと何かに気がついた彼女はじっと祐を見て言った。
 
<江東区新木場 16:10PM>
未確認生命体第6号ソヌギ・ゴカパによる被害者は更に増えていた。
国崎達が今いる新木場でも新たな被害者が5人もでており、その全てが今までと同じく全身の水分の90%を失っていた。
「これで・・・10人目だな」
国崎は死体を見下ろしてそう言った。
「一体どうしてこんなことをするんでしょうか?」
そう言ったのは少し離れたところにいる住井だった。
「さあな?未確認の考えていることなんかわかるか」
国崎がそう言った時、彼の背広の内ポケットに入っている携帯電話が鳴った。
死体のそばを離れ、携帯電話を手に取った。
「国崎だ」
『久しぶりだな、国崎君』
「・・・げ」
『何だ、その声は。久しぶりに声を聞いたのだ。少しは嬉しそうにすればいいじゃないか?』
「何処をどうすれば嬉しそうにするという発想が出てくるのか疑問だが」
『それはとにかく検死の結果がでたので報告するぞ。今までその未確認生命体第6号に殺された被害者には共通することがいくつかある。全員が何か鋭いもので首筋を刺された、と言うこと。それと刺されたところに蚊の唾液に近い成分のものが検出された』
「蚊?蚊ってあの夏場にでる虫の蚊か?」
『そうだ。おそらく第6号は蚊の怪人だろうな。それでだが、相手が蚊と言うことはあの耳障りな羽音をさせているに違いないと思ってな、それとなく調べておいたのだが・・・』
「何を?」
『第6号が人を襲った場所の周辺にある気象レーダーとかその他いろいろに手を回して何か変わったことがなかったか、をだ』
「それで?」
『うむ・・・やはりというか何というか、あの耳障りな羽音が犯行時刻に確認されている。うまくすれば第6号を発見できるのではないか?』
「そうか・・・わかった。貴重な情報、感謝する」
それだけ言うと国崎は携帯の通話ボタンを切った。
携帯電話を元のポケットに直そうとすると、また呼び出しのベルが鳴った。
「国崎だ」
『こらこら、まだ話は終わっていないぞ、国崎君』
口調は穏やかだが、何となく国崎は相手が怒っているのが目に見えるような気がした。
『とにかく第6号を追えるように改造したナビを持った警官がもうじきそっちにつくはずだ。うまくやれよ、国崎君』
「やけに協力的だな、あんたにしては?」
『妹の身に何かあったら困る。それだけだ』
今度は相手のほうから通話を切ったようだ。
国崎は切れた携帯電話を見て、ため息をつき、すぐに内ポケットに仕舞った。
「やれやれ・・相変わらず妹には甘いんだな、あいつは・・・」
呟きながら覆面パトカーまで歩いていくと、一台の白バイがやってきた。
その白バイは国崎の前で停車すると、荷台に積んでいたものを国崎に手渡した。
「これがそうか?」
国崎の問いに頷く白バイ隊員。
「わかった。すまないな」
白バイ隊員はまた頷き、その場から去っていった。
国崎は覆面パトカーに乗り込むと、白バイ隊員から渡されたものをカーナビに取り付けて、スイッチを入れた。
画面にこのあたりの地図と点が表示される。
「これは・・・まさか・・・!!」
国崎は慌ててエンジンをかけ、その場からパトカーを走らせ始めた。
「あ、国崎さん、何処いくんですか!?」
慌てたような住井の声が聞こえたが、国崎は無視し、画面上に映る点が向かう先・・・豊洲埠頭へと車を走らせた。
 
<江東区豊洲埠頭 16:18PM>
祐と茜が先ほど浩平が襲われていた場所にやってきたが、そこには誰の姿もなかった。
浩平の姿も、彼の乗っていた黒いバイクも、そして緑色の怪人も。
「・・・誰もいませんね・・・」
祐が辺りを見回しながらそう言った。
「・・・・・・」
茜は無言で頷いた。
「何処かへ・・・逃げたんじゃないですか?」
そう言って祐が茜を振り返るが、彼女は無言のままであった。
祐は少し困ったような顔をしたがすぐにいつもの笑顔を見せて、茜のそばに歩み寄った。
「大丈夫です。きっと里村さんの探している人は無事ですから、探しましょう」
それを聞いて茜は小さく頷いた。
二人が並んで歩き出す。
それを遙か上空から見ている影があった。
未確認生命体第6号ソヌギ・ゴカパである。
「シュジバ・ラモ・ショルーミヲ」
そう言って急降下する。
茜と一緒に歩いていた祐の頭に、いきなり何かが走った。
それは第4号・シィーシャ・ボカパが現れた時と同じ感覚。
誰かに危険が迫っている・・・そして敵が現れたという信号。
祐はいきなり茜を抱きしめて、横に飛んだ。
その一瞬後、ソヌギ・ゴカパが今まで彼らのいた場所に着地する。
茜はいきなり自分を抱きしめ、横に押し倒した祐に驚いていたが、いきなり空から降りてきたソヌギ・ゴカパを見、言葉を失った。
「・・未確認生命体第6号!!」
祐はそう言って茜を離して立ち上がる。
ソヌギ・ゴカパは二人を見て、そっちへと歩き始めた。
祐はそんなソヌギ・ゴカパを睨み付けながら両手を交差させ手前へと突き出した。そして、左手を腰まで引き、残る右手で十字を描く。
「変身!!」
そう言って右手と左手を入れ替える!
次の瞬間、腰にベルトが出現、その中央がまばゆい光を放つ。
光の中、祐の姿が戦士・カノンへと変化していく!
ベルトから全身に向かって白い第二の皮膚が覆い、その上を筋肉を模したような生体装甲がまるでボディアーマーの様に包み込む。左右の手には手甲とナックルガード、手首に当たる部分には赤い宝玉がはめ込まれたブレスレットが。足首には手首と同じ赤い宝玉をはめ込んだアンクレット。膝には同じく赤い宝玉がはめ込まれたサポーター。頭には赤い大きな目、牙のような意匠の口、金色に輝く左右に開いた大きな角を持つ仮面。
「ロサレバ・カノン!!」
ソヌギ・ゴカパが驚きの声を上げた。
今さっきまで獲物として狙っていた人物がまさか自分の仲間を倒した戦士・カノンだったとは思いも寄らなかったのだろう。
とまどいながらも、ソヌギ・ゴカパは身構えたカノンを見て、自身も身構えた。
まだ倒れている茜は目の前で起きていることを信じられないように呆然と見つめていた。
今先ほどまで横にいて、にこにこしていた祐がいきなり変身し、また目の前にいる未確認生命体と対峙している。
これほど非現実的な光景はそうもないだろう。
「・・・シィルジョリリ・ゴゴジェ・カノン・ギナサン・ゴドヌ!」
ソヌギ・ゴカパはそう言うとカノンに向かって飛びかかった。
それを受け止め、後ろへと投げるカノン。
倒れたソヌギ・ゴカパに、今度はカノンが飛びかかり、パンチを浴びせる。
二発目のパンチを食らわそうとするカノンだが、ソヌギ・ゴカパはそれを受け止めると、巴投げのようにカノンを投げ飛ばした。
投げ飛ばされたカノンだが、うまく受け身をとり、すぐに立ち上がるとソヌギ・ゴカパと距離を置いて睨み合った。
互いにその距離を維持したまま、走り出す。
両者が近くにある倉庫の中に入り、置いてあるものを蹴散らせながら再び対峙した。
そして、互いに飛びかかり、空中で交差する。
その交差した瞬間、カノンのパンチがソヌギ・ゴカパの胸を直撃し、ソヌギ・ゴカパが倒れた。
着地したカノンが振り返り、起きあがろうとしているソヌギ・ゴカパに踵落としを食らわせて地面に叩きつける。
続けて蹴りを食らわせ、ソヌギ・ゴカパを吹っ飛ばす。
ソヌギ・ゴカパが積んである一斗缶を突き崩しながら地面に叩きつけられた。
それを追うようにカノンが駆け寄るが、そこにソヌギ・ゴカパの姿はなかった。
「・・・何処へ消えた・・・?」
左右を見回しながらカノンがその場から油断無く離れていく。
次の瞬間、カノンの耳にブーンと言う不快な羽音が聞こえてきた。と、同時にカノンの背を何かが吹っ飛ばした。
その勢いはかなりのもので、カノンは宙を舞い、そして地面に叩きつけられる。
立ち上がろうとするカノンだが、そこにまたあの耳障りな羽音が聞こえ、またカノンが吹っ飛ばされた。
「く・・・奴か?」
カノンは何とか立とうとするが、そのたびに耳障りな羽音と共に吹っ飛ばされてしまう。
「・・なら・・・!!」
カノンは何かを決意すると両手をついて、腕の力だけでジャンプした。それと同時にカノンの体が青く変化する。
素早さとジャンプ力を増したカノンの形態の一つである。
着地したカノンの耳にまた羽音が聞こえてきた。
今度はかわせると思ったカノンだが、相手は目にもとまらぬ早さで、カノンを吹っ飛ばした。
「なにっ!?」
この姿でも追いつけないのか?
倒れながらカノンはそう思い、何とか片膝をついて起きあがると素早くジャンプした。
天井近くの梁に一度着地し、更に上にジャンプする。
風雨にさらされてか、ぼろぼろになっている天井を突き抜け、屋上に着地したカノンがまた白い姿に変化する。
あの耳障りな羽音が耳に聞こえてくるが相手であるソヌギ・ゴカパの姿は見えない。
「・・何処だ・・・?」
空を見渡すカノン。
神経を集中させていく。
その瞬間、カノンの体が緑色に変化した!!
いきなり五感が鋭くなり、カノンの耳には様々な音が飛び込んでくる。
「うわああ・・?!」
耳を押さえ、カノンはその場にうずくまった。
様々な音はカノンの五感を狂わせていく。
「くう・・何だ・・・?」
何とか頭を上げると、その目が様々なものをとらえる。
普通なら見えないものが今のカノンには見えていた。
「うわぁぁ・・頭が・・・割れそうだ・・・!!」
激しい頭痛に襲われ、カノンはよろけて、倉庫の屋上から落ちていく!!
 
Episode.11「迷走」Closed.
To be continued next Episode. by MaskedRiderKanon
 
次回予告
緑に変化したカノンはその感覚の鋭さにとまどい、戦えなくなってしまう。
その一方で失意の茜を狙う謎の怪人。
祐「誰も貴女の気持ちに何かなれませんよ」
香里「緑色の戦士・・・?」
遙か空から襲い来る未確認生命体第6号・ソヌギ・ゴカパ。
いかにしてカノンは戦うのか?
茜「誰も・・誰も私の気持ちなんか・・・・」
国崎「これを使えっ!!」
新たなカノンの力が炸裂する!!
そして・・・新たな戦士が・・・!!
浩平「茜に・・・手を出すな・・・!!」
次回、仮面ライダーカノン「疾風」
白き奇跡、再び・・・!!

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