<江東区豊洲埠頭 16:36PM>
青くなったカノンが倉庫の屋上へと飛び出してくる。
片膝をついて着地し、すぐさま立ち上がる。
その耳に不快な羽音が聞こえてくる。
未確認生命体第6号ソヌギ・ゴカパの飛ぶ音だ。しかし、その姿は見えなかった。
それもそのはず、ソヌギ・ゴカパは遙か高空からカノンを見下ろしているのだから。
カノンの姿が青から基本の色である白に変わる。
「何処だ・・・?」
空を見渡すカノン。
神経を集中させていく。
すると、次の瞬間カノンの体が緑色に変化した!
同時にボディアーマーも緑になり、左上腕部に緑色のリングが現れる。その肩もやや大きめの肩当てに覆われ、代わりに右肩の肩当てが無くなる。
仮面の目も赤から緑に変わり、大きく左右に開いた金色の角の間、丁度中央あたりにやや大きめの緑の宝玉が現れる。
その姿に変わった瞬間から、カノンの五感に変化が現れた。
耳には様々な音が無造作に飛び込んで来、目も様々なものをとらえていく。普段なら見えないようなものまで見え、なおかつ聞こえる。
その急激な変化は今のカノンにとって苦痛なだけであった。
「うわぁぁ・・・頭が・・・割れそうだ・・・!!」
激しい頭痛がカノンを襲う。
耳を押さえ、よろけるカノンが屋上から足を滑らせ、地面へと落下した。
「うわぁぁぁぁっ!!」
地面に叩きつけられるカノン。
そこにソヌギ・ゴカパが降りてきた。
「シィルニザ・ヴァヅノルジャマ?」
そう言って倒れているカノンの背を踏みつける。
「ロサレン・ゴドネタ・ゼースソ・ダグミマヅ」
更に踏みつけるソヌギ・ゴカパ。
その足下でカノンの体が緑から白に戻り、そして祐の姿へと戻っていく。
どうやら力を使い果たし、変身が解けたようだ。
「リモシィバ・ソダッシャ」
ソヌギ・ゴカパの吸血管が祐の首筋へと伸ばされる。
と、急にソヌギ・ゴカパは近くの腰を抜かしたのか座り込んで青ざめている里村茜を見た。
「ニヲタリ・ヌヅマ・シュジバ・ロサレバ」
にやりと笑い、そう言う。
それを見た茜は気を失ってその場に崩れ落ちた。
再び吸血管を気を失っている祐の首へと伸ばしていったその時、いきなり横合いから散弾が叩き込まれ、ソヌギ・ゴカパは吹っ飛ばされた。
すぐに起きあがって散弾が飛んできた方を見ると、そこにはアメリカンバイクに跨り、ショットガンを構え、サングラスをかけた青年がじっとソヌギ・ゴカパの方を見ていた。
「わりぃがよ、まだそいつを殺させるわけにはいかねぇんだ」
青年はそう言うと、ショットガンの引き金を引いた。
再び散弾が発射され、正面からソヌギ・ゴカパに叩き込まれる。
その衝撃に吹っ飛ばされるソヌギ・ゴカパだが、ダメージは大して与えられていないようだ。
「やっぱりこんなもんじゃきかねぇか。蚊を退治するならこれってね」
青年はそう言うと、ショットガンをおろし、懐から短い筒のようなものを取り出した。
口で片方の栓を取り、ぽいっと投げる。
するとその筒から白い煙が立ち上り、たちまち辺りを包み込んだ。
「マヲジャ・ゴモ・ゲスヂバ?」
ソヌギ・ゴカパはその煙に苦しみながら、何とか羽根を広げて空へと逃げ出した。
「カノン・シュジバ・ガマダウ・ゴドヌ!」
そう言い残し、空の彼方へと消えていくソヌギ・ゴカパ。
それを見ながら青年が呟いた。
「やっぱり蚊には蚊取り線香ってね」
そして、青年は倒れている祐を見る。
「あんたにはまだ死んでもらっちゃ困るのさ・・・俺のスポンサーのご意向でね」
青年がそう呟いた時、一台の覆面パトカーがこっちに向かってくるのが見えた。
「後は任せるか」
アメリカンバイクがその場から走り去る。
その少し後、覆面パトカーがその場にたどり着き、それに乗っていた国崎往人刑事は倒れている祐と茜を発見するのだった。
 
仮面ライダーカノン
Episode.12「疾風」
 
<城西大学考古学研究室 17:41PM>
美坂香里はいかにも意気消沈したような顔で自分の机の前に座っていた。
少し離れたところでは同じ研究室生であるエドワード=ビンセント=バリモア、通称エディが落ち着き無くうろうろしていた。
「・・・ちょっとエディ、落ち着きなさいよ」
顔を上げ、香里が言う。
「落ち着いてなんかいられないよ。僕のせいで里村さんが飛び出していったんだから。これでもし彼女に何かあったら僕、どうすればいいか・・・」
不安そうにエディが言い返す。
「・・・祐さんがきっと見つけてくれるわ。今こっちに向かっているんじゃないかしら?」
自分の希望も込めて香里はそう言って微笑んだ。
香里自身、城西大学の周辺を探し回ったのだが豊洲埠頭まで来ているとは思わないので見つかるはずもなかった。
と、そこに香里の持っている携帯電話の着信音が鳴り響いた。
ディスプレイを見ると・・・見たことのない電話番号。どうやら相手も携帯電話のようだ。
「一体誰かしら・・・もしかしたら里村さん本人からだったりして」
エディを安心させるように香里がそう言い、通話ボタンを押した。
「はい、美坂です」
『ああ、あんたか?俺だ』
「・・・私に俺という名前の知り合いはいないわ」
不機嫌を隠さずそう言う。
『・・・国崎だ。覚えているだろう?』
「・・・・・ああ、あの黒ずくめの役立たずの刑事さん」
『ひどい言われ様だな。ところであんたに聞きたいことがあるんだが』
「スリーサイズは教えないわよ」
『誰がそんなこと聞くかっ!!あんた、喫茶ホワイトって店知っているか?』
「最近常連よ。それがどうかした?」
『そこに勤めている髪の長い若い男、知っているか?』
「髪の長い若い男・・・祐さんのこと?」
『多分そいつで合っていると思う。今そいつと一緒にいた女性を一人、保護しているんだ。あの里村教授の娘さんで・・・』
「茜さん!?今どこなの!?」
『関東医大病院だ。未確認に襲われたらしいが、二人とも無事だ』
「・・・わかったわ。そっちに行くからちょっと待ってなさい!」
香里はそう言うと一方的に通話を切り、エディを見た。
「エディ、里村さんが見つかったわ。車出して!」
「OK!!」
エディは嬉しそうな顔をして、上着を手に取った。
 
<関東医大病院 18:14PM>
エディの運転する車で関東医大病に着いた二人を国崎が出迎えた。
「よお、久しぶりだな」
そう声をかける国崎だが、香里は相手にせず、ロビーの中に入っていく。
「おい、無視するなんてひどくないか?」
「今はあんたよりも里村さんのほうを優先するのよ。相手して欲しかったら後にして」
容赦なく言い捨て、香里はずんずんと進んでいく。
その後ろにどことなく打ちひしがれたような感じで続く国崎。
と、いきなり香里が立ち止まった。
そして振り返ると国崎に不機嫌そうにこう尋ねる。
「里村さんの病室は?」
「5階の502号室だ」
国崎が答えると香里はまた彼に背を向けて歩き出した。
国崎の言う病室にたどり着くと、そこには制服の警官が二人程ドアの前に立っていた。
「何?」
「ああ、未確認に襲われたらしいんでな。警備をつけてあるんだ。この人はいい。通してくれ」
国崎がそう言うと、警官は少し移動し、ドアの前をあけた。
国崎がドアノブをひねり、先に病室の中へと入る。
「失礼します・・・」
そう言って香里が続く。
中ではベッドに寝かされた茜がすうすうと寝息を立てて眠っていた。
「里村さん・・・」
その姿に安心したように香里は息をついた。
「今は鎮静剤が効いていて眠っている。起きたら事情を聞きたい。未確認に襲われてどうして無事だったかも知りたいしな」
国崎がそう言う。
「どうして未確認生命体に襲われたってわかるのよ?」
香里が振り返ってそう言うと国崎は
「企業秘密だ」
と答えた。
とたんに香里の表情が険しくなる。
「・・・冗談だ。今度の未確認は移動する時に特定の音を出している。それを追跡していったらこのお嬢さんともう一人がいたわけだ。もっとも二人とも気を失っていたがな」
国崎はそう言うと、香里を促して病室を出た。
「もう一人についてだが・・・」
「祐さんのこと?」
「ああ。そいつについてはいろいろと聞きたいことがある」
隣の病室に向かいながら国崎は表情を険しくした。
503号室と書かれたプレートのある病室のドアを開けるとそこでは祐がベッドの上で眠っていた。
「彼にも鎮静剤を?」
香里が祐の様子を見て聞くと、国崎は首を左右に振った。
「こいつはずっと気を失った時のままだ。で、俺が知りたいのは・・こいつが何者かってことだ」
そう言って国崎は病室内にあるパイプ椅子を手にし、それを広げて腰を下ろした。
「俺の記憶違いでないならこいつは諏訪湖の時、未確認第2号にバイクで立ち向かった奴で・・・この前の第4号と第5号の時にバリケードを強引に突破していき、そして第4号と第5号が第3号に倒された後、あんたを助け起こしていた奴だよな?」
じっと香里を見る国崎。
香里は何も言わずに自分用にパイプ椅子を出し、それに腰を下ろした。
国崎は香里が何も言わないので再び口を開く。
「俺は第4号と第5号が城西大学に現れ、そして逃げていった後、その場に駆けつけたんだよ。偶然だったんだがな、逃げていった後ってのは。そこで俺はこいつが気を失っているのを見つけた」
それを聞いた香里の表情が少しだけ変化した。
(瑞佳さんが気を失って倒れていた祐さんを見つけて誰かに助けてもらってホワイトにまで運んだって言っていたけど・・・それがこの国崎だった訳ね・・・)
国崎は香里の表情に表れた変化に気付いていたが、あえて無視して続ける。
「その男が何で気を失っていたのかは知らないが・・・」
「あんたは今からあたしがする話を何処まで信じることが出来るのかしら?」
不意に口を開いた香里がそう問うた。
「何?」
怪訝な顔をする国崎。
香里の言ったことの意味がわからなかったのだろう。
「あたしが知っていることを話したとして・・・それを信じることが出来るかってことよ」
不機嫌そうに香里は言い、腕を組んだ。
「つまり・・とてもじゃないが信じられない話ってことか・・・まぁ、大丈夫だ。未確認とかがでている世の中だし、それでなくても俺は変わり者で通っているからな。更に言えば俺は一番始めに未確認と接触した男だ。たいていのことなら信じるぞ」
国崎はそう言って胸を張った。
「威張るようなことじゃないと思うけど・・・とりあえず何処から話せばいいのかしら?」
香里はそう言って少し困ったような顔をした。
「あたしの知っている範囲で話すわよ。まず、彼、祐さんのことだけど、彼は3,4ヶ月前にN県の山の中で喫茶ホワイトのマスターが見つけてきた記憶喪失の青年。マスターがいい人でね、住み込みで働いているのよ、あの喫茶店で」
「ほう・・・」
感心したように国崎が言う。
ベッドの上で眠っている祐をちらりと見る。
「とても信じられないな。こいつが記憶喪失者だなんて」
「あたしの知り合いに彼そっくりの人がいるけど・・・・それが彼かどうかはわからないわ」
「・・・で?」
話の続きを促す国崎。
「彼は諏訪湖の事件の時に発掘品の一つを身につけて、戦士・カノンになる力を得たの」
「諏訪湖の事件ってあれか?」
「そう、あんたが未確認第1号とか第2号と遭遇した時のことよ」
「発掘品の一つって無くなっているとか言っていたベルト状の奴か・・・・そいつを身につけてって・・・あれはただの発掘品じゃ・・・」
驚いたような顔をする国崎に香里は話を続ける。
「あれはただの発掘品じゃないわ。身につけた者を戦士・カノンに変える力を持っているのよ。後はあんたの想像通りよ」
「想像通りって・・・じゃあの第1号の時にでてきた白い奴、第4号と第5号を倒した青い奴は・・・」
「はい、確かに俺です」
そんな声がして、今までベッドの上で横になっていた祐が起きあがった。
「俺が香里さんの言うところの戦士・カノンです」
いつもと変わらず、のんびりとした口調で言う祐。
「・・・・!!」
それを聴いて国崎はびくっと椅子から立ち上がり、少し後ずさりした。
「大丈夫よ。祐さんはあたし達の味方だから」
そう言ったのは香里であった。
「彼が今までに未確認生命体以外を襲ったことなんか無いでしょ?」
「その言い方だとまるで俺が未確認を探して襲っているみたいじゃないですか」
国崎を安心させるように言う香里に祐がちょっとふくれて言い返した。
「あら?そうじゃないの?」
いたずらっぽく笑みを浮かべて香里が言うと、
「違いますよ。あれは何か勝手にわかるんです」
そう反論する祐。
「未確認が出ると何か頭に走るんですよ。ピキーンって」
「それであの時も飛び出していったのね・・・」
香里は未確認生命体第4号が城西大学に現れた時のことを思い出していた。
あの時も祐は急に何かに気付いたように飛び出していったのだ。
「・・・と、とりあえず・・・お前、ちょっと来い!」
国崎はそう言って祐の手を取った。
「ここには俺の知り合いが勤めている。そいつにこれから検査してもらうんだ!」
「お、俺、何処も悪いところなんか無いですよ!」
そう言って祐が慌てたように国崎の手を払おうとするが意外な程強く国崎の手は祐の腕を掴んでいた。
「お前、自分の身体が変化しているんだぞ!一度ちゃんと確認してもらった方がいい!!」
「確かにそうね。祐さん、一度検査してもらったら?」
国崎に続いて香里もそう言ったので祐は頷くしかできなかった。
 
<中央区晴海 19:52PM>
黒い色のオンロードバイクが無造作に道の脇に止められている。
そのすぐそばにはびしょ濡れの黒いライダースーツの青年が苦しそうにうずくまっていた。
折原浩平である。
ウツボカズラの怪人から逃れるために海に飛び込んだ彼だったが、ウツボカズラの怪人が姿を消した後、飛び込んだその場所から何とかはい上がり、バイクに乗ってその場から去ったのであった。
だが、急に胸に痛みが走り、バイクを走らせることもままならず、今に至るのである。
「く・・・・こんな暇は・・・無いってのに・・・・」
胸を押さえながら苦しそうに呟く浩平。
彼はしっかり聞いていたのだ。
ウツボカズラの怪人が去り際に言い残した言葉を。
『本当の目的はお前の様な失敗作ではない。あの娘だ・・・』
怪人の言う『あの娘』が誰であるか、彼にはわかっていた。
だが、一体何故彼女が狙われねばならないのかまではわからなかった。
それでも彼は彼女を守ろうと決意していた。
必死に体を奮い立たせ、立ち上がる。
「・・・あいつに・・・これ以上の悲しみを与えるな・・・」
そう呟き、よろけた彼がバイクに寄りかかる。
その目がまた紫色の光を帯び始める。
 
<関東医大病院診察室 22:53PM>
国崎と祐が所在なげに診察室内の椅子に座っている。
あの後、国崎の知り合いだという女医師、霧島聖を紹介され、その後1時間以上にわたる検査を終え、今その結果を待っているのである。
「遅いな・・・こんなに時間がかかるとは」
国崎がそう言ってドアのほうに歩き出すと、ドアが開いて聖が入ってきた。
「これでもずいぶん早くしたのだがな、国崎君」
聖は少々不機嫌そうな顔をしている。
本当なら帰れるところをこうやって居残りさせられているからだろう。
「とりあえずCTスキャンの結果がこれだ」
そう言って聖は手に持っていた封筒から数枚の写真を取り出し、机の上に投げ出した。
「腰のある一点から全身に神経のようなものが張り巡らされている。これは本来の神経と結びついて更に強化しているようだ。それに筋肉組織が異常な程強化されているようだな。それは特に右足において顕著に現れている」
聖は一つ一つの写真を指で示しながら説明する。
「ああ、だから右足が熱くなるんだ・・・」
祐が右足の説明を聞いてそう呟いた。
それを聞き逃さなかった国崎が祐を見、
「どういうことだ?」
「えっと第1号を倒した時のことなんですけどね。第1号にキックを決めようと走り出した瞬間右足がカァーッと熱くなって、それでキックを第1号に食らわせたら何か倒せちゃいました」
あっけらかんと言う祐に国崎と聖は声も出ないようだった。
「説明、続けてください」
祐が笑顔を浮かべてそう言ったので聖ははっとなり、こほんと咳払いをして別の写真を指さした。
「これが問題の腰の一点だ。詳しくはわからないが・・・この異物から全身に神経状のものが広がっている。今はまだいいがこれが脳に達するとどうなるかはわからないな」
彼女が指さしたレントゲン写真には腰の辺りが映し出されており、その丁度中央に何か丸い石のようなものがあった。更にその石のようなものから太い糸のようなものが広がっている。
「外科手術で取り除けないのか?」
「ちょっと待ってくださいよ!俺、まだやめるつもりはないんですよ!」
そう言った国崎を慌てて止める祐。
「馬鹿野郎!お前、自分の体がどうなってもいいのか!?それにあいつらと戦うのは俺たちの仕事だ!お前のような民間人が出る幕じゃない!!」
大きい声でそう国崎が言う。
その迫力に負けたのか祐は押し黙ってしまう。
「・・・残念だが国崎君。今の状態ではこの異物を取り除くことは不可能だ。取り除くにはあまりにも全身にこの神経状の組織が行き渡りすぎている」
聖がそう言って散らばった写真を集め出した。
「変身についてのメカニズムだが、おそらくこの腹部の異物からの命令が全身に行き渡り体を戦う姿に変化させているんだろう。あくまで推測に過ぎないが」
「さっきこの神経状のものが脳に達するとどうなるかわからないって言ったな。大体のところの見当をつけているだろう?」
国崎が聖を見て言った。
「・・・あくまで推測に過ぎないが・・・この異物から発せられる命令が戦うことであるならばいずれこの神経状の組織が脳に達した時、彼は」
聖がそう言って祐を見る。
「おそらく戦うだけの生物兵器となるだろう」
その一言を聞いて国崎は息をのんだ。
まさか今目の前にいる青年がいずれ未確認生命体と同じような存在になるのではないか。
そんな不安を込めて祐を見る。
だが当の本人である祐は何故かにこにこしていた。
「大丈夫です。俺がしっかりしていればきっと。生物兵器になんかなりはしませんよ」
そう言って右手の親指を立ててみせる。
「・・・とにかく、お前がこれ以上戦う必要はない。未確認生命体は俺たち警察が何とかする」
国崎はそう言って祐の肩に手を置いた。
祐はそんな国崎に困ったような顔を見せるだけであった。
 
<関東医大病院入り口ロビー 23:31PM>
ロビーのすぐ脇にある公衆電話のところに祐はいた。
とりあえず喫茶ホワイトにいるマスターに今日は帰れないことを伝えるためだった。
「はい、多分明日には帰してもらえると思います。・・・あくまで多分ですが」
電話の向こう側ではマスターが心配そうな声を出している。
「大丈夫です。俺は無事ですから・・・まぁ、何か無いか検査のようなものを受けていて遅くなったんでこのまま泊まることにしただけです。警察の事情聴取とかは午前中に終わらせてもらって何とか店に戻りますから・・・わかりました。それじゃ、お休みなさい」
そう言って祐が受話器をおろし、ロビーに向かって歩き出すと自動販売機の前で聖と出会った。
「あれ・・・先生、帰ったんじゃなかったんですか?」
祐が声をかけると聖は彼に向かって苦笑を浮かべて見せた。
「そのつもりだったんだがな・・・何となく帰る気にならなかったんだ」
そう言うと、聖は自動販売機から缶コーヒーを取り出した。
「君も何か飲むか?」
「・・・・・・」
祐の脳裏に何か似たようなやりとりをした記憶がおぼろげに浮かび上がる。
「いらないのか?私がおごるなど滅多にないことだぞ?」
聖が不審そうにそう言ったので祐は慌てて笑みを浮かべた。
「折角だから頂きます」
「・・・ほら」
再び自動販売機から缶コーヒーを取り出し、祐に手渡す。
「全く・・・君といい、国崎君といい、どうして私を危ないことの仲間にしようとするんだ?」
缶コーヒーのプルタブをあけながら聖が言う。
「俺にそのつもりはなかったんですけど・・・」
苦笑を浮かべる祐。
「・・・だが、君の体に起きている変化はとても面白い。出来ることなら解剖してじっくりと調べてみたいところだが」
「ご遠慮します」
「遠慮などするな。まぁ、今は無理だが、何時か君が死ぬようなことがあれば私に解剖させるよう手配しておいてくれればいいから」
聖が何処まで本気なのか、不安になりながら祐は缶コーヒーを飲む。
「・・・先ほどは言う必要がないと思って言わなかったのだが」
不意に聖が真剣な顔をして祐を見た。
「君の体の中の異物、実は一つじゃない。レントゲンに映っていた大きめのもののそばには小さい欠片のような同質のものがいくつも存在していた。大きめのものが発している光に隠れてよくはわからなかったがやはり微妙に発光しているようだ」
聖にそう言われて祐は自分の腹部を見た。
その中に一体何が入っているというのか。
「白い状態から青い状態に変化するのはもしかしたらその小さい欠片のせいではないか、と思うのだが」
「・・多分違うと思います。もし、欠片があるとすればそれは・・・」
そこまで言って祐は顔をしかめた。
不意に何かイヤな記憶がよみがえりかけて・・・思い出すことを拒否するように頭痛が彼を襲う。
その様子を見た聖が慌てた様子で彼の顔をのぞき込む。
「どうした?大丈夫か?」
「大丈夫・・・です」
そう答え、祐は残っていた缶コーヒーを一気に飲み干した。
そして大きく息を吐く。
「・・・実を言うと隠していたんですが青以外にも変化するようなんです、俺の体」
祐はそう言って聖を見た。
「今度の色は緑でした。物凄く耳が聞こえて物凄く目も見えて・・・とにかく凄い感覚でした」
「・・・物凄く、か」
驚きもせずに聖が言う。
「はい。でもなんかすぐ元に戻っちゃったんですけどね」
「・・・・君の体に張り巡らされた神経状の組織は元々の君の体の神経とほぼ融合を果たしている。それが極度に緊張した結果感覚が鋭敏になった」
正面を見据え、聖が話し始める。
「え?」
「極度の緊張は普通の人でもその感覚を鋭敏にする。君の場合、うまく精神集中すれば遠方の目標をはっきりと捉えたり、遙か彼方の音も聞き取れるのではないか?」
聖の説明を聞き、祐は納得した表情で頷いた。
「なるほど・・・だからあまり長くは持たないのか」
「おそらく緑になった時は普段の数倍のエネルギーを消費するんだろう。だから君は気を失ってしまったのではないか?」
そこまで言って聖はようやく祐の方を見た。
「みたいですね・・・とりあえず香里さんに緑の戦士について何か無かったか探してもらわないと・・・」
「・・・やはり戦うのか?」
そう言った聖の目は優しかった。
少なくても祐が聖と知り合ってから始めて見る優しい表情であった。
「あの刑事さんはああ言っていましたけど・・・俺は俺の出来ることをするだけです。誰かのために何かが出来る。それっていいことでしょ?」
そう言った祐の顔にも笑みが浮かんでいる。
「戦う理由は・・・誰かのためか?」
「誰かの明日を守るためです。それは自分かもしれないし、先生かもしれない。ただ、それだけです」
「ずいぶんと・・・身近なヒーローだな、君は」
そう言って聖が微笑んだ。
「俺は自分がヒーローだなんて思っていませんよ」
「いいや・・・それでも君はヒーローの資格がある。私は何も言わない。君が選んだのならな。多分君なら大丈夫だろう」
聖は手に持っていた缶をゴミ箱に放り込み、歩き出した。
「私が世界で唯一の君の主治医となろう・・・国崎君など気にせず思う存分やりたまえ」
祐に背を向けたまま聖はそう言って廊下の奥へと消えていった。
「まぁ、今の警察には未確認を止める力はないからな。君に頑張ってもらわないと妹の身に何かあったら困る」
そう言う呟きもしっかり祐の耳に届いていた。
苦笑を浮かべて祐は聖を見送っていた。
 
<関東医大病院 03:26AM>
草木も眠る丑三つ時・・を過ぎているというのに蠢くものがあった。
それは関東医大病院の中庭に入り込むと壁にしゅるしゅると長い蔓を伸ばしていく。
その蔓を根本の方に辿っていくと、そこにはウツボカズラの怪人が立っていた。
「ふふふ・・・こんなところにいたのか・・・」
ウツボカズラの怪人はそう言うと、伸ばした蔓を自分の方へと戻していく。
「我々の聖戦・・・始まりはこのような夜であってはいけない・・・」
そう呟くとウツボカズラの怪人は何処かへと消えていった。
 
<香里のマンション 08:52AM>
その日、香里は電話の音でたたき起こされていた。
「・・・もう・・・全く誰よ、こんな時間に・・・」
不機嫌そうにそう呟きながら香里はベッドから起き出し、未だ呼び出しのベルを鳴らし続けている電話のそばまで歩いていく。
彼女は低血圧でもないのだが昨夜は結局家に帰ってきたのがかなり遅かったのだ。そのため睡眠不足に陥っていた。
「はい、美坂です・・・」
『あ、香里さん?俺、祐。ちょっと大急ぎで調べて欲しいことがあるんだけど・・・えっと緑色の戦士のことなんだけど、それでなんか物凄く耳がよく聞こえて、それで、物凄く目もよく見えて』
受話器の向こう側の祐は何やらかなり興奮しているようで早口に次々とまくし立てている。
「ちょっと待って・・・こっちは今起きたところなのよ」
香里はそう言うと、受話器を首に挟み、台所に行って冷たい水をコップに入れて一気に飲み干した。
「で、何?」
それで少し落ち着いたのか、それとも目が覚めたのか改めて聞いてみる。
『だから緑の戦士だってば!凄いんだよ、とにかく物凄く耳が聞こえて目も見えて・・』
「緑色の戦士・・・?何のことなの?」
怪訝そうに聞く香里。
『そう言う戦士になったんだよ、昨日!青い時と同じように!どう戦えばいいのかわからないからすぐに大至急検索して欲しいんだよ!!』
受話器の向こう側の祐はかなり興奮しているようだ。
『緑とか耳がよく聞こえるとか五感が鋭いとかさ、何かそう言う戦士について何か書かれてあったら』
「関東医大病院でいいの?」
『ウン、とりあえずもうしばらくいるから。もし、何処か行くならまた連絡するよ!じゃ!!』
そう言って祐が電話を切ったようだ。
香里は受話器をおろすと、大急ぎで着替えて部屋を出ていった。
 
<関東医大病院 10:11AM>
聖が眠たそうな顔をしながらロビーにまで降りてきた時、丁度ロビーに国崎が入ってきたのが見えた。
「よう!元気か?」
元気いっぱいに国崎がそう言ったので聖はすっと手に手術用のメスを構えて見せた。
「昨日遅くまで私をここに縛り付けておいてよく言えるな、そのようなことを」
にたりと笑みを浮かべ聖がそう言った。
それを見た国崎の表情が凍り付く。
「・・スマン、俺が悪かった」
「わかればいいんだ。で、今頃何のようだ?」
メスをすっと上着の何処かへと隠し、聖が問う。
「里村茜の事情聴取だ。後、ついでにあの祐って奴のもな」
そう言って国崎が聖の脇を通り抜けようとする。
「・・その様子だと第6号の捜査からはずされたか?」
ぼそりと呟く聖。
だが、それを聞き逃す国崎ではない。
「違う。第6号に襲われたにもかかわらず助かっているから一体どうして助かったかを聞きに来たんだ。それによっては未確認の弱点がわかるかもしれないしな」
わざわざちゃんと戻ってきてそう言う。
「私は今から帰って一眠りする。じゃあな、国崎君」
そう言って聖はロビーから出ていった。
彼女を見送った後、国崎は茜の病室に行ったが、そこには誰の姿もなかった。
「・・・ん?」
頭をかきながら国崎は部屋の中を見回したが、やはり誰もいない。
「帰ったか・・・そんなわけないか。じゃ、何処に?」
国崎はそう呟いて病室を出た。
廊下に出ると、すぐ隣の病室から祐が丁度出てきたところだった。
「お、いいところに!」
国崎は祐を見るとにんまりと笑みを浮かべた。
「お前、里村さんを知らないか?」
「いないんですか?」
祐は驚いたような顔をして国崎を見た。
「さっき電話をしに行った時にはまだ寝ていたと思っていたんですが」
そう言った祐を見て国崎は腕を組んで考え込んだ。
「まだそう遠くには行っていないな・・・」
「俺、探してみます!」
そう言って祐が駆け出そうとするのを国崎が止める。
「待て!彼女は未確認に一度襲われ、何とか逃げ延びている。また未確認が襲いに来ないとも限らない。俺が探しに行く」
「じゃ、俺は病院の中を・・・」
「だから!お前はおとなしくしていろ!!」
国崎はそう言って祐を壁へと押しつけた。
「お前が出る幕はないと昨日も言ったはずだ!このまま戦い続けてもし、お前が未確認と同じ存在になって見ろ!お前の家族とかが悲しむだろうが!!」
凄い剣幕でそう言い、国崎は祐を放してエレベーターの方に向かって歩き出した。
「いいか、絶対に何もするな!!」
最後にそう言い残し、国崎はエレベーターに乗り込んだ。
その場に残された祐はしばらく呆然と国崎を見送っていたがやがて、顔を引き締めると廊下を歩きだした。
(まだそう遠くには行っていない・・・特に東京に来て間もない人なら・・・)
祐はある確信を持って階段へと向かった。
 
<都内某所(人気のない植物園風の場所) 10:25AM>
枯れ果てた植物やいまだ青々とする植物が乱立する不気味な雰囲気の中、そいつらはいた。
中央のテーブルの前には美しいドレス姿の女性が座り、その周囲には黒い服を身にまとった男、不機嫌そうに肩を怒らせている体格のいい男、腕を組んで爪を噛んでいる男、何処か蛇を思わせる容貌の女がいる。
そこに細面の男が入ってきた。
「ギモルジェ・マリヲシャヌヂーミヲ・ゴドミジャ・ラショ・レリショミヲジャ」
細面の男が腕につけているリング状の装飾品を見せて言う。
「ラショ・レリショミヲガ・・・」
美しいドレス姿の女性がそう言って細面の男を見た。
「マリヲガショルー・シャニグヌイガヲ・ラデタ・クルツヲジャ」
細面の男はそう言ってにやりと笑った。
それを苦々しげに見ている周りの男達。
「ギモルバ・ミザニシャザ・ゴヲジョ・ラッシャダ・ガマダウ・カノンン・ゴドヌ!」
そう言い、細面の男は本来の姿ソヌギ・ゴカパへと姿を変えた。
 
<関東医大病院屋上 10:44AM>
屋上へと続く階段を上り、祐がドアを開けると、そこは一面の白いシーツで埋め尽くされていた。
穏やかな風になびく白いシーツ。
それをかき分けてフェンスのそばまで行き、そこで祐はようやく彼女を見つけることが出来た。
「また、探しました」
そう言って祐は笑みを浮かべて彼女のそばに歩み寄った。
彼女はフェンスに手をついたまま、祐の方を見ようともしない。
穏やかに吹き続けている風が彼女の長い髪の毛をなびかせている。
「刑事さんが探していました。・・・昨日は香里さんで今日は刑事さんで・・・よく探されていますよね」
冗談のつもりでそう言うが、彼女の反応はない。
祐は困ったように苦笑すると、彼女と同じようにフェンスに手をついた。
「ここからだと・・・いろんなものが見えますね」
今度は彼女に向かって話しかけているようではなかった。
まるで呟くそうに祐はしゃべり続ける。
「でも自然があまり見えない・・・高層ビルとかの人工物ばかりで。N県はいいですよね。自然が多くて」
フェンスに手をついている彼女、茜は無反応のままだ。
「・・・香里さんから話を聞きました。お父さんを第0号に殺されたって」
仕方なく祐はそう切り出した。
びくっと茜の肩がふるえる。
「ありきたりのことしか言えないんですけど、元気出してください。第0号は・・・」
そこまで言った時、茜がようやく祐の方を向いた。
「警察は何もしてくれない!今も第6号の方ばかりを追いかけて、それに何にも出来ていないじゃないですか!!」
思いも寄らない程激しい口調で茜が言う。
その目には涙が浮かんでいる。
「私は父のことが大好きでした!でももう帰ってこないんです!それなのに元気を出せって・・・一体どうすればいいんですか!」
祐は何も言えずにただ茜の言う言葉を黙って聞いている。
「貴方に何がわかるって言うんですか!父を殺された私の気持ちが・・・貴方にはわかるはずがないんです!・・・誰も・・誰も私の気持ちなんか・・・」
「そうですよね」
祐がそう言った。
至極当然のように。
茜はあっけにとられたように祐を見上げた。
「誰も貴女の気持ちに何かなれませんよ。人は人、どんなにやってもその人にはなれませんから」
そう言った祐は落ち着いた表情をしている。
「でも、何とか思いやることぐらいは出来ますがね」
「でも・・・」
「信じてください。みんな、やる時はやってくれますから。今は第6号の被害を少しでも減らすために必死なんです。でも必ず第0号もちゃんと。それに・・貴女にも何かやる時が来ます。なのに・・いつまでもそうやって落ち込んでいたらきっとお父さんも悲しみますよ」
祐にそう言われて、茜ははっと口元を手で押さえた。
「悲しんでもいいんです。でも、その悲しみを乗り越えて進まないと、いつまで経っても貴女のお父さんは何処にも行けなくなってしまう。そう思いませんか?」
茜はうつむいて、祐の胸の額をつけて嗚咽し始めた。
 
<関東医大病院駐車場 10:58AM>
関東医大病院の周囲を茜を求めて探し回っていた国崎が駐車場に戻ってきたのは丁度祐が茜と屋上で話し合っていた頃だった。
とりあえず探す範囲を広げようといつもの覆面パトカーのドアを開けると、電源が入りっぱなしだったカーナビが何かを映し出している。
「これは・・・第6号!!」
慌ててカーナビが映している地区を確認すると、それはこの関東医大病院のすぐそばであった。
「く・・・まさかこんな時にっ!!」
国崎はドアを乱暴に閉じると病院に向かって走り出した。
 
<城西大学考古学研究室 11:00AM>
祐の電話によりたたき起こされた香里は一度喫茶ホワイトに寄って朝ご飯代わりのサンドイッチを注文し、それを考古学研究室に届けてもらうよう手配してから考古学研究室に来、大急ぎで古代文字の碑文の検索を始めていた。
パソコンのおいてある机の隅に1時間程前に届けられたサンドイッチが未だラップをかけられたまま残っている。
「そう簡単にはでてこない、かな?」
そう呟いて香里はようやくサンドイッチに手を伸ばした。
と、その瞬間、画面に検索終了の文字がでる。
慌ててマウスを手にし、検索の結果を表示させると、こういう碑文が画面に現れた。
『緑の戦士は風の戦士。遙か彼方の敵を知り、疾風のように撃ち落とせ』
香里はこのことを祐に知らせようとそばに置いてあった携帯電話を手に取った。
だが、いざかけようとして彼女は自分が祐のいる関東医大病院の電話番号を知らないことを思い出す。
「・・・仕方ない、あいつなら知っているでしょうし・・・」
そう思って香里はある男の携帯の電話番号をプッシュした。
少しの呼び出しの後、相手が電話にでる。
『国崎だ!今忙しいから後にしてくれないか!』
「こっちも急ぎの用なの!でなければあんたになんかかけないわよ!」
いきなり怒ったように言われてカチンと来た香里がそう言い返す。
『だったら早く用件を言ってくれ!』
「関東医大病院の電話番号を知りたいの。祐さんに話があるから」
『今、俺がそこにいる!話なら俺がしてやるから言え!』
「・・いい、緑の戦士は風の戦士、遙か彼方の敵を知り、疾風の如く撃ち落とせ。これを伝えて!」
『・・・何だ、それは?』
さすがにきょとんとした返事が返ってくる。
「戦士・カノンについての新たな記述よ!絶対に伝えてよ!」
そう言って香里は通話ボタンをオフにした。
とりあえず肩の荷が下りた。
そう思って彼女はサンドイッチに手を伸ばす。
 
<関東医大病院 11:02AM>
国崎はいきなりの香里の電話にとまどいを隠せなかった。
「どういうことだ・・・緑?撃ち落とせ?」
ふと、自分の上着の内側にある拳銃が思い起こされた。
「それより今は!!」
国崎は再び階段を駆け上り始めた。
そのころ屋上ではようやく泣きやんだ茜が祐の胸から離れていた。
「すいません・・・ご迷惑をかけてしまって」
「別に迷惑だなんて思っていませんよ」
そう言って頭を下げる茜に祐は笑顔を見せる。
「俺の方こそ、なんかえらそうなこと言って・・すいません」
「・・・いえ、貴方の言うことは正しいと思います。そうですよね、いつまでも悲しんでばかりもいられませんよね・・・」
茜はそう言って何とか笑みを浮かべようとした。
「大丈夫!今は笑えなくても、いつかきっと笑えるようになります!そして、お父さんもきっとそれを望んでいると思いますから!」
右手の親指を立てて祐がそう言った。
その遙か上空にソヌギ・ゴカパがいる。
偶然見つけたこの二人が昨日思わぬことで逃がした獲物とカノンだということに気がついたのだろう。
にやりと笑うと急降下を開始する。
その瞬間、祐の頭に何かが走った。
危険信号・・・敵が現れた時に走るこの感覚。
「里村さん、離れて!!」
そう言って祐はその場を蹴って後ろにジャンプした。
その直後、ソヌギ・ゴカパが今まで祐のいた場所に着地する。
「やっぱり、第6号!!」
茜は驚きのあまり腰を抜かして、ソヌギ・ゴカパのすぐ後ろに倒れていた。
祐がすっと両手を交差させて前へと突き出した時、屋上に通じるドアが開けられ国崎が拳銃を構えて飛び込んできた。
「未確認!!お前の好きにはさせんぞ!!」
そう言って発砲するが、ソヌギ・ゴカパはその銃弾を手で払い落とした。
それでも国崎は引き金を引き続け、いつしか祐のすぐそばまでやってきていた。
「お前は彼女を連れて早く逃げろ!」
「そんなこと出来ませんよ!刑事さん一人じゃ危なすぎます!」
「馬鹿野郎!民間人が首を突っ込むなっていっただろう!!」
「いえ、突っ込みます!俺は・・こんな奴らのために誰かが悲しむのはもう見たくないんです!」
祐はそう言うと国崎を押しのけて前にでた。
「こいつらは・・何の罪もない人の明日を自分勝手に奪っている!俺はそれが許せない!俺には誰かを守れる力がある!だから!!」
そう言って祐が再び両手を交差させて前に突き出した。
「見てください!俺の!変身っ!!」
そう言って左手を腰まで引き、残る右手で十字を描く。そして、右手と左手を入れ替えると・・・彼の腰の部分にベルトが出現し、その中央がまばゆい光を放った。
その光の中、ベルトから全身に向かって白い第二の皮膚が覆い、その上を筋肉を模したような生体装甲がまるでボディアーマーの様に包み込む。左右の手には手甲とナックルガード、手首に当たる部分には赤い宝玉がはめ込まれたブレスレットが。足首には手首と同じ赤い宝玉をはめ込んだアンクレット。膝には同じく赤い宝玉がはめ込まれたサポーター。頭には赤い大きな目、牙のような意匠の口、金色に輝く左右に開いた大きな角を持つ仮面。
戦士・カノンへと姿を変える祐。
目の前で祐の変身を見た国崎は言葉を失っていた。
「カノン・・・ゴヲジョバ・ミザナヲ!」
ソヌギ・ゴカパがそう言ってカノンに飛びかかっていく。
カノンはそれを受け止めるとフェンスの方へと投げ飛ばした。
フェンスに叩きつけられるソヌギ・ゴカパ。
そこに飛びかかるようにパンチを繰り出すカノンだが、ソヌギ・ゴカパは素早く体をフェンスから引きはがし、パンチを空振りしたカノンの背にキックを食らわせた。
今度はカノンがフェンスに叩きつけられるが、肘打ちを繰り出しながらカノンが振り返る。
その肘打ちを食らい、よろけるソヌギ・ゴカパ。
カノンが追いすがり、パンチ、パンチ、キックと連続で叩き込む。
よろけ、しりもちをつくソヌギ・ゴカパ。
それを見たカノンは少し腰を落として相手との間合いを計るように立った。
そして、意を決したように走り出す。
ソヌギ・ゴカパはそれを見ると背中の羽根を不快な音をさせながら羽ばたかせた。
「うおりゃあぁぁぁっ!!」
裂帛の気合いと共にカノンがジャンプキックを放つが、間一髪ソヌギ・ゴカパは上空へと脱出していた。
着地したカノンが素早く立ち上がり、空を見るがソヌギ・ゴカパの姿はもう見えない程の高さにまで達している。
それでもあの不快な羽音だけは何故か耳に届いていた。
「・・・」
国崎は今までの戦闘を見て、呆然としていたが、やがてあることを思い出していた。
香里からかかってきた電話の内容。
『緑の戦士は風の戦士。遙か彼方の敵を知り、疾風の如く撃ち落とせ』
国崎は目の前で空を見上げているカノンを見、そして自分の拳銃を見た。
「撃ち落とせ・・・」
そう呟いてみる。
空の上であの怪人はカノンを狙っているのだろうか。
国崎はカノンに変身する前の祐の言葉を思い出し、苦笑を浮かべた。
「誰かを守れる力、か・・・確かにな。お前なら信頼しても良さそうだ」
そう言って国崎は自分の拳銃をくるりと回してカノンに向かって突き出した。
「緑の戦士は風の戦士、遙か彼方の敵を知り、疾風の如く撃ち落とせ、だと。さぁ、これを使えっ!!」
カノンが自分の方を見たのを確認してから拳銃を渡す。
頷き、カノンは拳銃を手に取った。
そして再び空を見上げ、精神を集中させる。
するとカノンの体が緑色に変化した。
同時に手に持っていた拳銃も緑色のボウガンへと姿を変える。
空を見渡すカノン。
神経をとぎすませ、精神を集中させていく。
鋭敏になった五感をフル動員させて見えない敵の姿を求める。
その耳に・・・あの不快な羽音がはっきりと捉えられた。
その音源に向かって目を凝らすと・・・こちらを見下ろし、今にも急降下をしようとしているソヌギ・ゴカパの姿がはっきりと見えた!
「そこか!」
そう言ってカノンが緑色のボウガンを構えた。
ボウガンの後部にあるレバーを引き、内部に圧縮された空気の矢を生み出す。その先端にエネルギーを込め、レバーを放し、同時に引き金を引く!
圧縮空気の矢が空にいるソヌギ・ゴカパに向かって打ち出された!!
それは物凄い早さで一直線にソヌギ・ゴカパへと向かっていく。
急降下しようとしていたソヌギ・ゴカパはその時になってカノンが何をしたかに気付いた。
慌てて回避しようとするが圧縮空気の矢はソヌギ・ゴカパの飛ぶスピードを遙かに上回っており、あっという間にソヌギ・ゴカパの体を貫いた!
貫かれた場所に古代文字が浮かび上がり・・・ソヌギ・ゴカパは空中で爆発四散した。
病院の屋上からそれを見上げているカノンが祐の姿へと戻っていく。
手に持っていたボウガンも元の国崎の拳銃に戻っていた。
振り返り様に祐が右手の親指を立ててみせるのを見て、国崎はふっと苦笑を浮かべていた。
その様子を見ていたものがもう一人いた。
中庭の植え込みの中に身を潜めているウツボカズラの怪人である。
「・・・あのような者がそばにいては・・・もう少し待つか」
ウツボカズラの怪人はそう呟くと、姿を消した。
 
<城西大学前通り 16:02PM>
香里が茜と並んで歩いて駅へと向かっていた。
「いろいろとご迷惑をかけてしまって・・・」
茜がそう言うと、香里は慌てて手を振った。
「そんなこと無いですよ。私達こそ・・・あんな事件に巻き込んでしまって申し訳ありません」
「未確認生命体の事件についてならいいんです。運が悪かったと思っていますから」
茜がそう言って笑みを浮かべた。
「祐さんにお礼を言っておいてください。あの人には感謝してもし足りないくらいです」
香里は苦笑を浮かべ茜を見る。
「何を言っていたのか知らないけど、あたしも彼には感謝するわ。里村さんが元気になってくれてよかったと思うもの」
「心残りがあるとすれば・・・彼のことだけです」
そう言った茜の表情がわずかに曇った。
「その・・ここから豊洲埠頭まで里村さんを連れて行った彼のことね?」
香里の顔にも陰りが浮かぶ。
「はい・・・無事だと思いますが心配は心配で・・・」
「何かわかったら知らせるわ。・・・第0号のこともちゃんと警察が調べてくれるって言っていたし」
「信頼することにします・・・それに・・私も出来ることをやります。じっと待っていても仕方ないですから」
茜はそう言うと、右手の親指を立てて見せた。
それを見て、香里も頷いて親指を立ててみせる。
互いに笑みを浮かべ、どちらとも無く笑い出した。
その様子をじっと見ている影が一つ。
ウツボカズラの怪人である。
「ふふふ・・・あの戦士もいない。今ならば・・・」
そう言ってウツボカズラの怪人が蔓を地面に這わせていく。
歩いている二人はそれに気付かない。
周囲に人影はなく、誰一人としてウツボカズラの怪人の凶行を止める者はいない。
蔓が二人の足下にまで迫った時、どこからとも無く一本のナイフが飛んで来、蔓の先端を地面に縫いつけた。
「むう!?」
ウツボカズラの怪人がナイフの飛んで来た方向を見るとそこには黒いライダースーツに白いマフラー、更にサングラスをかけた男が電信柱にもたれて立っていた。
その男は電信柱から離れるとすっとサングラスをはずして、投げ捨てた。
「貴様、折原浩平!!」
ウツボカズラの怪人はいきなり現れた彼に驚きを隠せなかった。
「お前が誰を狙っているかは知っている。俺がここにいるのは言うならば当然のことだ」
浩平がそう言って一歩前に出る。
その目がウツボカズラの怪人を睨み付けていた。
「・・・ならば貴様をこの場で殺し、あの娘を・・・」
「茜に・・・手を出すな・・・!!」
低い声で浩平が言い、また一歩踏み出した。
その時だ、浩平の腰の辺りにベルトが浮かび上がったのは。
それはカノンのものとよく似ていた。
そして、その中央が光を放つ!
光の中、ベルトから濃い紫色の第二の皮膚が現れ全身を覆い、その上に深緑の生体装甲が形作られる。
それはカノンのものよりも分厚く、より戦闘的であった。
手は肘から先が生体装甲に覆われ、外側には一列に棘が並び、手首の少し上に二本の鉤爪が備わった。一度、しゃきんと伸び、その鉤爪は手首に収まっていく。肘の先にも鋭い爪が現れていた。
足は膝から下が分厚い目の生体装甲に覆われていた。膝には棘が、踵の部分にも天に向かって鉤爪が伸びている。
何処までも戦闘的なイメージを思わせるその姿は仮面にも現れていた。
カノンと同じく赤い目だが、それはカノンと違いやや鋭角的で、口を守る部分もより牙が大きくなっている。左右に大きく広がる角もカノンと違い荒々しいものであった。
「き、貴様、変身できるのか!?」
ウツボカズラの怪人がまたも驚きの声を上げる。
「ウオオォォォォォォッ!!!!」
その深緑の戦士が大きく天を仰いで吼えた。
 
<都内某所(高いビルの屋上) 16:08PM>
その少女はあるビルの屋上のフェンスの上にバランスよく座っていた。
何処を見ているのか・・・沈んでいく夕日が彼女を赤く染めている。
と、その少女がある一点を見下ろした。
「・・ついに・・・覚醒したんだね。カノンに続いて・・アインも・・・」
少女が呟いた。
その少女がつけている赤いカチューシャが夕日を受けてきらりと輝く。
 
<城西大学内裏庭 16:11PM>
浩平の変身した深緑色の戦士はウツボカズラの怪人と共に城西大学の裏庭にまで移動していた。
そこは人気もなく、資材倉庫があるだけであった。
戦うにはもってこいの場所である。
ウツボカズラの怪人が両手から蔓を伸ばし、深緑の戦士の体に巻き付けていく。
蔓は深緑色の戦士の両手、腰、首に巻き付き戦士の動きを封じていった。
「く・・・・」
苦しそうにうめき声を上げる戦士。
「フッ、変身できたと言っても所詮は失敗作だな!手も足も出ないか!!」
ウツボカズラの怪人がそう言って蔓を引き寄せる。
その為バランスを崩し、戦士は前のめりに倒れてしまう。
体に巻き付いた蔓はぎしぎしと締め付け、戦士を苦しめていく。
「さっさとあの娘を殺さんといけないんでな。お前の始末はここでつけさせてもらう」
ウツボカズラの怪人がそう言って更にぐいっと蔓を引き寄せた。
このまま自分の体内に取り込み、一気に溶かしてしまうつもりなのだ。
「悪いが・・・そう言うわけにはいかないんでな」
戦士はそう言うと、物凄い怪力で首に巻き付いている蔓を掴んだ。
そして一気に引きはがす!
更に右手の鉤爪が伸び、ウツボカズラの怪人へとつながる蔓を切断した。
後ろへよろけるウツボカズラの怪人。
そこに戦士が飛びかかっていった。
延びたままの鉤爪でウツボカズラの怪人の体を切り裂き、着地すると同時に左足のキックを食らわせる。
倒れたウツボカズラの怪人の上に馬乗りになり、鉤爪を突きつけ、戦士はこう言った。
「何故だ?何故茜を狙う?」
「あの娘が我々の聖戦にとって危険な存在になりうる可能性があるからだ!」
ウツボカズラの怪人が何とか抜け出そうともがきながら言う。
「お前らの言う聖戦とはいったい何なんだ?」
「・・・貴様のような失敗作に言う必要など無い!」
戦士はそれを聞くと、無言で鉤爪を振り下ろした。
ブシュッと緑色の体液が吹き出し、戦士の顔を濡らす。
「だったら・・このまま死ね!!」
何度も何度も戦士は鉤爪のついた右手を振り下ろした。
「ぐぎゃぁぁぁぁぁっ!!!」
ウツボカズラの怪人が悲鳴を上げる。
戦士はウツボカズラの怪人から離れると、その頭部を手で掴み、無理矢理立たせると投げ飛ばした。
よろけて地面に倒れるウツボカズラの怪人。
「ウオオォォォォォォッ!!!」
雄叫びをあげ、戦士が走り出す。
ウツボカズラの怪人がふらふらと起きあがるのを見ながらジャンプ。
大きく右足を振り上げ、一気に振り下ろす!
踵に生えている鉤爪がウツボカズラの怪人の体に深く食い込んだ。
そこにカノンがとどめを決めた時に浮かび上がる古代文字と同じものが浮かび上がり、そこからウツボカズラの怪人の全身に光のひびが入る。
「りゃあぁぁっ!!」
地面についていた左足を跳ね上げ、そのままサマーソルトキックのように一撃を食らわせた戦士が空中で一回転して着地する。
その前方でウツボカズラの怪人が後ろへと倒れて爆発した。
爆発の生み出した風と煙の中、戦士の姿から浩平の姿へと戻っていく。
浩平は大きく息を吐くと、その場から足早に立ち去っていった。
 
Episode.12「疾風」Closed.
To be continued next Episode. by MaskedRiderKanon
 
次回予告
変身の後遺症に苦しむ浩平、彼を救う謎の少女。
果たして一体何者なのか?
浩平「アイン・・・だと?」
佐祐理「佐祐理は・・間違っていたのでしょうか?」
暗躍する未確認生命体達。
その魔の手を防ぐことが出来るのか、カノン?
祐「今度は紫、ですか?」
北川「今度こそ・・・!!」
繰り広げられる死闘!
出動せよ!PSK−01!!
次回、仮面ライダーカノン「再動」
運命の輪は回り始めた・・・!!

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