<諏訪湖SA 11:25AM>
トラックの荷台のドアをぶち破って黒い翼を持つ怪人・ガダヌ・シィカパが表へと吹っ飛ばされてきた。
地面に叩きつけられたガダヌ・シィカパが上半身を起こし、荷台の方を見やる。
もう一匹の怪人・ギャソヂ・バカパも荷台の方を見ている。
ドアの無くなった荷台の奥で何かが光った。
その光は徐々に大きくなり、まばゆいばかりの光となる。
「まさか・・・?」
中津川忠夫が呆然と呟く。
光の発生源が少しずつ前へと出てくる。
「何なの?」
戦闘の場から少し離れたところに止めてある大型トレーラーの中にいる七瀬留美がモニターに映る光を見てそう言った。
光の発生源が遂に荷台の一番端に姿を見せた。
それは・・・白い姿の戦士。
腰のベルトの中央がまばゆい光を放っている。
純白といっていいほどの白い、そして筋肉を模したボディアーマーに身を包み、白い手甲とナックルガード、その間、ちょうど手首にあたる部分には赤い宝石がはめ込まれている。足首には手首と同じく赤い宝石をはめ込んだアンクレット。
頭は赤い大きな目、牙のような意匠を持つ口、金色の輝く、左右に開いた角を持つ仮面。
「・・・カノン・・・」
その姿を見た美坂香里が呟いた。
五年ほど前に、彼女達を守って命がけで戦い炎の中に消えていった相沢祐一が変身した姿に、今、彼女の前にいる戦士は瓜二つであった。違う部分があるとすれば、それは身体の色・・・かつてのカノンはグレイを基調としていたが、今目の前に立つ戦士は完全なる白、である。
「・・・・・カァノォン・・・・」
低い声でガダヌ・シィカパが言い、白い戦士を指差した。
それを聞いた香里がはっとガダヌ・シィカパを見、それからカノンと呼ばれた白い戦士を見た。
白い戦士は荷台から地面に降りると両手を大きく左右に広げた。そして、ファイティングポーズをとる。
それを見た怪人達は少しひるんだように後ずさった。
それでもギャソヂ・バカパが口を開いてドリルのような舌を伸ばす。
すっと体を右に動かし、その舌の一撃をかわした白い戦士がギャソヂ・バカパに一気に詰め寄り、強烈なパンチを叩き込んだ。
よろけるギャソヂ・バカパに更に接近し、パンチを何度も叩き込む。
そこに立ち上がったガダヌ・シィカパが白い戦士の背後から飛びかかった。だが、白い戦士は素早く後ろに向かって左の足を突きだし、ガダヌ・シィカパを迎撃する。
よろけて、二、三歩後退するガダヌ・シィカパ。
それを見たギャソヂ・バカパがまたも舌を伸ばすが、白い戦士はその舌を掴むと後ろに向かって投げ飛ばした。
円を描くように宙を舞いギャソヂ・バカパがガダヌ・シィカパに激突する。
二体の怪人がもつれ合ったまま倒れるのを見て、白い戦士がすっと構えを変えた。
腰を低く落とし、相手を睨み据える。
「あれは・・・」
その構えに香里は見覚えがあった。
戦士・カノンが敵を倒すときに使用した必殺のキックの構え。
それを見た二体の怪人は明らかに動揺を見せた。
「ゴゴバ・ビリシャボルザ・リリ」
ガダヌ・シィカがパギャソヂ・バカパに言う。
「ジャザ・ノデジェバ!!」
ギャソヂ・バカパはガダヌ・シィカパの言うことが不満のようだ。
ガダヌ・シィカパの腕を振り払い、白い戦士の方へと向き直る。
「リシィイシェギマ・ソモジャ!シィヲヌバ・サジャラヅ!」
ガダヌ・シィカパが声を荒げたので、振り返るギャソヂ・バカパ。
その様子を白い戦士は身動きせずに見守っている。
「ロトレ・シェロゲ、カノン!!」
「ゴモガヂバ・ガマダウ・ガレヌ!」
ガダヌ・シィカパが背中の黒い翼を広げ、いきなり宙に舞い上がった。
その足に捕まり、ギャソヂ・バカパも宙へと舞い上がる。
誰もがいきなり逃げ出した二体の怪人に目をやっている間に。
何時しか、白い戦士の姿は消えていた。
 
仮面ライダーカノン
Episode.8「復活」
 
<諏訪湖SA 12:39PM>
簡単な応急処置を施して貰った国崎往人はレストハウスの外に広がる惨状を呆然と眺めていた。
死者数名、負傷者多数。
幸いなことに車両などが爆発することがなかったのでそれ以上の負傷者や死者が増えることはなかったが。
「一体何なんだよ・・・?」
先程まで傍若無人に暴れていた怪人のことを思い出す。
そして、それを撃退した白い姿のもう一体の怪人。
「信じて貰えるとは思えないけど、多分あれがあの遺跡に封印されていたのよ」
後ろから声をかけられ、国崎が振り返ると、そこに香里が立っていた。
「・・・マジか?」
「ええ、大マジよ」
顔色一つ変えることなく香里は言い放つ。
「中津川先生に聞いたけど・・遺跡での事件、目撃ビデオがあるんだってね?」
「・・・ああ、ダビングして貰ったものだから映りは良くないが・・・」
「私にも見せて貰えないかしら、そのビデオ?」
「・・・気分が悪くなっても知らないぜ」
そう言って国崎は歩き出した。
香里もその後に続く。
同じ頃、倉田重工とかかれたトレーラーの中では。
かなりボロボロになったPSK−01の各パーツが取り払われ、中からぐったりとした北川潤が顔を見せていた。
「すいません・・・初陣でPSK−01をこんなにして・・・」
かなり意気消沈した声で北川が言う。
「威勢の良い事言いましたが、あれが俺の・・・」
「あなたは良くやったわよ、北川君。ただ、あの怪物が文字通りの怪物だったって事」
留美がタオルを彼に渡しながら言う。
「あなたがでていったお陰であの怪物は一般人を襲わなくなったのは事実よ。結果的には人命救助には成功しているわ」
「ですが・・・あいつらを倒せたわけでは・・・」
「PSK−01はまだ試作一号機よ。これから、強くなるの。だから大丈夫よ」
留美はそう言ってPSK−01のチェックをしている斉藤を振り返った。
「どう?」
「かなりのダメージですが・・・これだけのダメージを受けても北川さんが無傷だと言うことを考えると大したもんです。流石は最新の合金・・・」
斉藤が嬉しそうに言う。
「・・・でも・・・許可無しでPSK−01を起動させ、尚かつここまで傷だらけにしたって事を・・上層部が許してくれるかどうか・・・」
今度は不安そうな顔をして留美を見る斉藤。
「あの怪物達はビデオに撮ってあるわ。これが証拠になるから大丈夫!」
留美がそう言って笑顔を浮かべた。
 
<レストハウス内 12:43PM>
「うう・・ん」
うっすらと目を開ける青年、祐。
その視界に心配そうな顔をした本坂の顔が入ってきた。
「おお、気がついたか、祐の字!?」
「・・・ここは・・地獄?」
祐がそう言った瞬間、本坂が祐の頭を殴りつけた。
「あたっ・・」
「そんな馬鹿が言えるところを見ると大丈夫のようだな。全く無茶をして・・・心配したぞ」
「すいません」
そう言って祐は身を起こした。
レストハウスの中は彼の他にも多くの怪我人で一杯であった。
「あの怪人達は?」
「何かまた別の怪人が出て、そいつと戦って逃げたらしい。その別の怪人もいつの間にか居なくなっていたそうだ」
本坂の手を借りながら立ち上がる祐。
ずきりと頭が痛み、顔をしかめる。
「お前は怪人に投げ飛ばされて気を失っていたようだ。あのトラックのそばに倒れていたと見つけてくれた人が言っていたぞ」
「そうですか・・・とりあえず、俺はもう大丈夫です。心配かけてすいませんでした!」
そう言って祐は本坂に頭を下げた。
「気にするな。もうじき県警が来て、事情聴取が始まるだろうから、それまでは・・・」
「警察ですか・・・やだなぁ・・・」
警察と聞いて露骨にイヤそうな顔をする祐。
それを見た本坂が
「何だ、お前。警察に追われているのか?」
冗談交じりで聞いた。
「イヤ、多分そんなことはないと思うけど・・・記憶喪失する前に何か警察にイヤな目に遭わされたような・・・」
祐は少し考えるような仕草を見せて言った。
「とにかくもう少し休んでいろ。マスターには俺が電話しておいたから」
本坂はそう言うと、祐から離れて外へとでていった。
祐が勝手に使用したバイクを片付けに行ったようだ。
椅子に腰を下ろし、祐はため息をついていた。
そして自分の拳をじっと見つめる。
何やらやるせないように・・・。
 
<車内 12:45PM>
車内に搭載されたナビゲーションシステムにビデオを取り付け、国崎はビデオテープをセットする。
「さっきも言ったが画像はダビングだから最悪に近い。おまけにモニターが小さいからな。文句は言うなよ」
そう言ってから国崎は再生ボタンを押した。
モニターに黒から砂嵐のような画像となり、そしてノイズまじりの映像が始まった。
あちこちに立てられた照明。
動き回る人々。その中には香里の知っている人物もいる。
同じ大学の研究生、中津川が助手として使っていた学生、N県立大学の考古学教授・里村博士の姿もある。勿論N県立大学の生徒の姿も・・・。
その誰もが今はもう、この世にいない。
(確か・・・里村先生には私と同じくらいの歳の娘さんがいるって言ってたわね・・・)
何となくそんなことを思い出す香里。
彼、里村教授自身はいい人だった。
中津川を肝心の日に外したのは彼の助手を務める助教授だろう。
『この辺で良いかな?』
『もうちょっと右じゃないか?』
ちょっと聞き難いが声も聞こえてきた。
流石に誰の声か、迄はわからない。
『良し、蓋を開けてみるぞ!』
誰かがそう言って石棺の蓋に手をかけた。
少しずつ石棺の蓋が動き、中があらわになる。
(・・・おかしいわ・・・私が先生と見に行った時には石棺の蓋が閉じていたはず・・・)
モニターをじっと見ながら香里はそう思った。
警察が閉じたのだろうか?
『ダメですね・・人の手じゃ動きませんよ』
「国崎さん、あの石棺は警察がここの来たときにはどうなっていたんですか?」
いきなり香里が国崎にそう聞いた。
「俺は担当じゃないからよくは知らないが、こいつを持って行けと言った奴の話によると石棺はビデオの位置にはなかったらしい。横倒しになっていたそうだ。色々と証拠物件をこの場から持ち出すときに邪魔なんで元に戻したって聞いているが・・・何処まで本当だか」
国崎は今一つ興味なさそうに言った。
『持ち上げてみるか?滑車の用意、出来てるか?』
これは香里も聞いたことのある声だった。
「・・・里村先生・・・」
モニターの中では数人の人が石棺の周囲で滑車を準備している光景が映し出されている。
ふと、香里にはモニターの中の石棺が少し動いたように見えた。
(・・・?今・・・動いた・・・?)
だがそれは一瞬のことで、ただの見間違い、勘違いかもしれないと思った香里は隣にいる国崎には何も言わなかった。
滑車が準備され、ロープが石棺に巻き付けられる。
『よし、それじゃ引いてくれ』
また里村教授の声。
数人の発掘調査員がロープを引っ張っている。
少しずつ持ち上がる石棺。
それを見ながら香里は例えようのないイヤな予感に襲われた。
(ダメ・・・それを動かしちゃ・・・・)
石棺が安置されていた場所から少し動かされたとき、いきなり、画面が激しく揺れた。
「何?」
「俺達もわからないが・・・中津川とか言うおっさんが言うにはこの部屋だけが激しく揺れたのではないかってよ」
「この部屋だけが・・・?」
「ほら、見ていろよ。ここからが問題なんだ」
国崎にそう言われ、香里は再びモニターに目を落とす。
持ち上げられた石棺の下、石畳となっている部分が割れ、そのひび割れが石棺の頭の方の壁へと走る。そこには何か古代文字が書かれているようだったがモニターが小さい上に、暗すぎてわからなかった。
壁が割れ、その中から不気味な影が姿を現した。
「・・・!!」
香里が息をのむ。
不気味な影・・・そのシルエットは五年前見たあの怪人達の最後の一体・黒麒麟にどことなく似ている。そう思ったからだ。
不気味な影はあまりに突然現れたので発掘調査員はただパニックに陥ることしかできなかった。
悲鳴をあげるもの、訳の分からない叫びをあげるもの、逃げ出そうとするもの。
その一人一人に不気味な影は迫り寄り、次々とその命を奪っていく。
勿論その中には里村教授の姿もあった。
「・・・・」
香里は言葉を失っていた。
あまりにも酷い惨劇。今さっき起こった怪人の襲撃を遙かに越える殺戮劇。
動くものが不気味な影一つになったとき、ようやくその影は石棺に近寄った。そして、石棺の蓋を片手でずらすと、中からベルト上のものをとりだし、それを大きく上へと掲げ、一気に地面に叩きつけた。
『・・・カァノォン!!!!』
不気味な声で影が叫ぶ。
そこでテープが終了したようだ。
画面が砂嵐のような画面に戻る。
「これでお終いだ。最後の方にでてきたあの影、あれが調査団を皆殺しにしてから石棺の中から取りだしたベルトのような奴なんだが・・・さっき確認したらトラックの中から消えていた。もしかすると奴らが持ち逃げしたのかもしれない」
国崎がビデオテープを巻き戻しながら言う。
「・・・それはないわ」
香里はそう言うと車のドアを開けた。
「とりあえずあのベルト状のものはあったのね?」
「ああ・・・俺が持ってきて一番始めの奥に積んでおいた・・・が?」
それがどうかしたかと言わんばかりに国崎は香里を見た。
「それだけ聞いて安心したわ」
そう言ってドアを閉める香里。
慌てて反対側のドアから出てくる国崎。
「おい、待てよ!」
「何?」
レストハウスの方に行こうとしていた香里を呼び止める国崎。
「あの黒い影が言っていた『カノン』って何だ?それとあのベルトは何か関係があるのか?」
「・・あのベルトを身につけた戦士が『カノン』よ」
香里はそう言うと、レストハウスに向かってまた歩き出した。
後に残された国崎は首を傾げている。
 
<喫茶ホワイト 20:27PM>
辺りはもう真っ暗であるが喫茶店ホワイトの中はまだ明かりがついている。
一応営業時間は夜の22時まで、と言うことなのだが、実際にその時間まで居る人とか来る人はほとんどいない。
と言うことで店内ではマスターと長森瑞佳がカウンターの椅子に腰掛けてぼうっとテレビを眺めていた。
『先日N県Y市山中で起きた遺跡発掘団の事件ですが警察は熊の出現と不発弾が爆発したとの見解を発表した模様で・・・』
「・・・ねぇ、マスター。確か祐さんを見つけたのってY市の山の中だったよね?」
テレビを見ながら瑞佳が言う。
「この事件の現場と近い山の中だな・・・確か。あの時は熊なんかでなかったが」
マスターがカウンターに肘をついてテレビを見ながら答える。
「そうそうでてたら大変だよ・・・それにしても祐さん遅いね〜」
「本坂から電話があって何か諏訪湖の辺りで色々とあったようで遅くなるそうだ」
「何があったんだろう?・・・ニュースもやらないしねぇ・・・」
瑞佳がそう言って時計を見たとき、表に車の停まる音がした。
「あれ?」
「帰ってきたかな?」
二人が立ち上がると、ドアが開いて祐が中に入ってきた。
「あ、ただいま」
笑顔を浮かべて祐がそう言った。
「はい、これおみやげ。野沢菜とわさび漬け」
手に持っていた包みを瑞佳に渡すと、祐はカウンターの椅子に腰を下ろした。
「あ〜〜〜、今日は疲れた・・・」
そう言って大きく伸びをする。
「一体何があったの?」
瑞佳が隣に座って聞く。
「色々・・・あれ、ニュースになってないの?」
「なってないよ」
「おかしいなぁ・・・あれ、かなり大きい事件になったと思ったけど・・・」
「お前、口止めされただろ・・・」
そう言って本坂が中に入ってきた。
「とりあえずこのことはしばらくの間何処にも言うなって言われていたじゃねーか。正式な警察発表があるまでは」
あきれた顔をする本坂。
マスターは本坂の後ろから祐をのぞき込んでいた。
「あ・・・そうだったっけ?」
祐はあっけらかんとそう言い、苦笑して見せた。
それを見て、同じように苦笑する瑞佳達。
「とにかく今日はもう店じまいするか。祐、お前、表の看板だけ片付けておいてくれ」
マスターがそう言い、エプロンを外す。
「了解」
祐が立ち上がって表にでていく。
「瑞ちゃんは俺が送っていくよ。女の子の一人歩きは危ないからな」
本坂がそう言ってニッと笑う。
「その方が危ないかも」
そう言ったのは表にでている看板を持って戻ってきた祐だった。
「祐の字ッ!!」
本坂がそう言い、皆が笑い出す。
平和な夜だった。
 
<城西大学考古学研究室校舎前 10:22AM>
結局、一度N県警に戻ることとなり、翌朝早くに出発した国崎、香里、中津川達は10時を過ぎてからようやく城西大学にたどり着くこととなった。
「今度は邪魔が入らなかったな」
車から降りた国崎が言う。
「そうそう邪魔が入られても敵わないがね」
中津川がそう言ってトラックを見た。
「とりあえず研究室に運んで貰おうか。気をつけてな」
運送屋にそう言い、中津川がさっさと校舎に入っていく。
香里は一度大きく伸びをしてから歩き出した中津川に声をかけた。
「先生、私、少し良いですか?」
立ち止まり、後ろを振り返って中津川は
「ああ、かまわんよ。搬入が終わるまで時間があるだろうし、君も疲れているだろう?少し休んでくればいい」
「ありがとうございます。で、何時戻ってくれば・・・?」
「そうだなぁ・・本格的なことは明日から始めよう。だから今日は家に帰ってゆっくりと休みなさい」
「わかりました。それじゃ、ここで失礼します」
香里は一礼すると中津川に背を向けて歩き出した。
「国崎君、君は残って手伝ってくれよ」
「何で俺が・・・」
「後でラーメンセットを君におごろうじゃないか。ここの学食のラーメンセットはなかなかなものだぞ」
「何でも言ってくれ」
二人のやりとりを背中越しに聞きながら香里は笑みを浮かべていた。
 
<倉田重工N県支社ビル 10:38AM>
倉田重工・・・日本でも有数の工業会社である。
その生産物は小さいものから携帯ラジオや携帯電話、大きいものは車や船舶など多岐に及ぶ。しかし、裏では戦車や戦闘機などを開発しているという噂もある。それを自衛隊に供給しているらしい、とのもっともらしい噂もあった。
そして、自衛隊の最新装備候補・特殊災害及び対テロリスト用強化装甲服・PSK−01もここ倉田重工で開発されたのである。
今その倉田重工N県支社ビルの最上階にある会議室で、北川、留美、斉藤の三人は自衛隊の幹部とN県警本部長及び幹部、そしてPSK−01開発スタッフ、倉田重工重役・倉田佐祐理の前で昨日の一件の報告を行っていた。
「全てはこの一部始終を録画したビデオを見て貰えればわかるはずです!」
やや興奮気味に留美が言う。
しかし、佐祐理以外の幹部連中はやや当惑した様子で彼女達を見ている。
「わからんね・・・君の言うビデオは先程見せて貰ったが・・・信じられん。これでは子供向けのテレビ番組だ」
そう言ったのは自衛隊の幹部である。
「うちの刑事が一人あの場に出くわしているが・・・報告はまだ来ていないな」
N県警本部長がそう言い、幹部の一人を見る。
「申し訳ありません。そいつ・・・国崎というのですが奴は朝から東京に行っており、報告書をまだ提出しておりません」
幹部が恐縮しながらそう言い、頭を下げる。
「・・・このビデオに映っている怪物が本物である可能性はいかほどのものかね?」
また別の自衛隊幹部がそう言った。
「それはどういう意味ですか!?」
ばっと立ち上がり、留美が言う。
「PSK−01の有効性を照明するために君たちが自作自演したものでないか、と言っておるのだよ」
「何ですって!!」
そう言った留美はかなり怒りをあらわにしているようだ。
「それはあり得ませんね」
今まで黙っていたPSK−01開発スタッフの一人が手にボードを持って立ち上がった。
「PSK−01の受けたダメージは想像以上のものでした。修理には少なくても三日はかかると思われます。で、PSK−01が主にダメージを受けた胸部装甲についてですが、これを破壊するには並のものでは歯が立たないようになっております。44マグナム弾や対戦車ライフル弾、果ては戦車用の砲弾でも耐えうる装甲をああも破壊することははっきり言って不可能と思われます」
「戦車用の砲弾でも耐えるなんて・・・」
「勿論装着者のダメージは無視して、ですが」
「あ、そう」
一気に興味を無くしたように留美が言う。
いくら戦車用の砲弾に耐えることが出来ても中にいる装着者が無事でないなら意味はない。
「しかしだね、君。現実に・・・」
また先程の幹部が口を開く。
「はい。それ程の装甲をあそこまで破壊できた、と言うことはあの怪物・・・いえ、怪人と言った方がいいかもしれませんが」
「そんなことはどうでもいい。結論を言いたまえ」
「あれは我々の想像を超えた未知の存在・・・未確認生命体とでも言うべき存在だと言えます」
その言葉に会議室内がどよめいた。
「その強さは実際に戦闘を行った北川三尉がよくおわかりでしょう」
そう言って開発スタッフが北川を見た。
頷く北川。
「あの怪人が本物だとして、北川君。どうして君は我々の許可無しでPSK−01を起動させたのかね?」
また別の自衛隊幹部が言う。
「PSK−01はまだ極秘だと君自身よく理解していると思っていたが?」
「PSK−01を起動させなければもっと多くの被害者がでていた・・・自分は少しでも被害を少なくするために・・・」
「その結果、怪物も倒せず肝心のPSK−01は大破、一体どうなっているんでしょうな」
そう言われて、返す言葉もない北川。
「しかし、彼がPSK−01を起動させたことにより、あの怪人は狙いを一般人からPSK−01に変えました!そう言う意味では彼は自らを犠牲にして一般市民を守ったんです!」
また留美が大きい声で言う。
「とりあえずPSK−01無断使用の件は不問としよう。問題はあの怪人共がまた現れるかどうかと言うことだ」
「おそらくまた現れるでしょう」
そう言ったのは佐祐理だった。
「PSK−01の現在の装備では怪人に通用しないようですね、北川さん?」
「はい」
佐祐理の質問に簡潔に答える北川。
「PSK−01のパワーアップ、武装の強化、それは我々倉田重工にお任せ願いますか?」
そう言って佐祐理は自衛隊幹部、N県警幹部を見やった。
渋々と言った感じで一同が頷く。
「ありがとうございます。北川さん、七瀬さん、斉藤さん、あなた方はPSK−01の修理と改修が終わるまで残っていてください」
「わかりました」
三人を代表して留美が答えた。
「警察と自衛隊の方々は例の怪人達の捜査をお願いします。一般市民への被害は最小限に食い止めないといけませんから」
「わかっていますよ、そんなことは」
誰かがそう言ったが佐祐理は気にせず、席に着いた。
それでこの会議は解散となったようだ。
皆がぞろぞろと会議室を出ていく。
佐祐理はその中である一人に声をかけた。
「石橋さん・・・この事件は五年前の時とよく似ています。その事を皆さんに・・・」
石橋と呼ばれた男は佐祐理の言葉に小さく頷いた。
後に残されたのは佐祐理、北川、留美、斉藤の四人だけだった。
「全く・・・未だにPSK−01のことを認めないんだから」
そう言って頬を膨らませる留美。
かなり不機嫌そうだ。
「すいません、佐祐理さん。俺のせいで大事なPSK−01を・・・」
北川が会議室内に戻ってきた佐祐理に向かって頭を下げる。
「北川さん・・・北川さんは間違ったことをしたと思っているんですか?」
「え?」
思わぬ返し方をされてとまどう北川。
「あなたがしたことは間違っていたんですか?」
佐祐理はかなり真剣な目をして北川に問いかける。
「俺は・・・俺は間違ったことをしたとは思ってない!」
今まで我慢してきたものがあったのか激しく北川が言う。
横に座っていた斉藤がびくっと肩を震わせたぐらいだ。
「そうです。北川さん、あなたは間違ったことをしていません。だからもっと自信を持ってください」
佐祐理が笑顔を見せた。
「相手がこっちの予想以上に強かった。あの時の怪人とは比べものにならないくらいに。そう言うことです」
「・・・そうですね・・・」
北川は苦笑して答えた。
 
<喫茶ホワイト 10:46AM>
カランカランとカウベルの小気味いい音が店内に響く。
「いらっしゃいませ〜」
店内にいた二人のウエイトレスの声が重なった。
「お久しぶり」
そう言って笑みを浮かべて入ってきたのは香里だった。
家に戻らずここに来たらしく、服装は大学を出たときのままである。
「お久しぶりって・・一昨日に会ったばかりだよ」
そう言ったのは瑞佳である。
「今日も前と同じので良いかな?」
「ええ、それでお願いするわ」
そう言いながらカウンターの椅子に腰掛ける香里。
「マスター、ホワイト特製コーヒーう〜〜〜んと濃いバージョン!!」
「はいよっ!!」
何か違うノリの瑞佳とマスター。
それを見て、香里はくすっと笑った。
そこにさっと水の入ったコップが差し出される。
「いらっしゃいませ」
そう言ったのはにこにこ笑顔の祐であった。
「昨日はどうも。あれから無事でした?」
「・・・あなた!!あなたこそ無事だったの?」
驚いたように香里が声を大きくする。
「はい、頑丈ですから、俺」
そう言って祐はガッツポーズをとって見せた。
「・・ちょっと話があるんだけど、いい?」
急に真剣な顔をして祐に言う香里。
「・・・今暇だから良いですけど・・・一体何ですか?」
当惑したような祐。
「こっちに来て」
そう言って香里は祐の腕をとって店内の一番目立たない隅の席へと移動した。
まず祐を座らせてから、香里はその正面に座り、祐をじっと見る。
じっと見つめられ、祐は少し照れたように視線を逸らした。
「・・・何です?話って?」
「あなた・・・私に見憶えない?」
「は・・・?一昨日会って、昨日も会いましたよね」
「そうじゃないわ。もっと前に会ったことがない?」
「・・・・・・すいません、俺記憶喪失って奴らしくて・・・」
そう言って頭を下げる祐。
少しの間、考え込んでいたような香里だが再び口を開くのにそう時間はかからなかった。
「私、あなたにそっくりな人を知っているの。そいつはいたずら好きで、何時も馬鹿なことをやっていたけど、本当は優しくて友達思いのいい奴だったわ」
祐から視線を外さずに香里がいう。
「そいつはね、私や私の妹、他にも多くの仲間を守ってあの怪物達と同じような奴らと戦ってくれたの。自分自身は傷だらけになって、そして誰にもその戦いを理解して貰えなくて、ボロボロになりながら・・・」
祐は黙って香里の話を聞いている。
「守りたいものを守ることの出来る強さ、誰かのために何かが出来る力、自分が出来ることをする・・・それが自分の信念だって言って・・・たった一人で」
「ずっと戦った・・・?」
「そう・・・でもそいつは・・・」
「死んだんですか?」
「いいえ、死体は発見されなかったそうよ。もっとも死体が残ったかどうかはわからないけど・・・私は生きていると信じているわ。私だけじゃない。彼を知っている人はみんなそう思っているわ」
香里はそう言っていつの間にか自分の瞳に浮いていた涙を拭った。
一方祐は何か困ったような顔をして香里を見ている。
「・・・えと・・・」
「美坂香里。香里でいいわ」
少し重たげに口を開く祐にそう言う香里。
「じゃ、香里さん。香里さんは俺がその人に似ているからその人じゃないかって思っているんですよね?でも俺にはわからない。俺はマスターが見つけてくれたときからの記憶しかないから・・・」
悲しげに言う祐。
「もしかしたら香里さんの言うそんな立派な人かもしれない。でも、俺は・・そんなに立派な人じゃないですよ」
「でもあなたは昨日・・・」
「夢中でしたからね。ああいうの、黙って見過ごせないんです、俺」
祐はそう言って笑みを浮かべた。
そして、立ち上がる。
「瑞佳さん、コーヒー、ここです」
そう言うと、祐はカウンターの方へと歩いていこうとした。
「待って。もう一つだけ教えて欲しいことがあるの」
香里が慌てたように声をかける。
足を止める祐。しかし振り返ろうとはしない。
「あなた・・・白い戦士を見た?」
「白い戦士・・・?何の話ですか?」
「あの時怪人達を追い払った戦士のこと。あなたも近くにいたはずよね?」
「さあ・・・俺、気を失っていましたから」
そう言って祐は歩き出した。
途中、お盆を持った瑞佳とすれ違う。
「何お話してたの?」
「香里さんの昔話を聞いていました」
そう言って笑顔を見せる祐。
首を傾げる瑞佳。
「コーヒー、待ってますよ、香里さん」
祐がそう言いカウンターの方へと歩いていく。
「そうだね」
そう言って瑞佳がテーブルの上にコーヒーを置くと、香里は窓の外を見ながら小さい声で呟いた。
「・・・あなたが・・・そうなの?」
瑞佳にはその意味が分からなかった。
 
<城西大学学生食堂 13:26PM>
国崎と中津川はテーブルで顔をつきあわせてラーメンをすすっていた。
「どうだね、国崎君。なかなかのもんだろう?」
「むうう・・・確かに。学生食堂の割にはなかなかだ」
二人は額に汗をかきながらひたすらラーメンをすすっている。
「安価な上に美味いからな。私もよく利用している」
「だろうな。注文したときにおばさんがまたかって顔をしていたぜ」
今度はセットになっているライスを食べながら会話を続ける二人。
「むう・・・米もなかなか上等なものを使っているな?」
「それが自慢だ」
ひたすら食べ続ける二人。
至って平和であった・・・。
 
<城西大学キャンパス 18:49PM>
外はもう暗くなっており、人の姿もまばらとなっている。
今夜は月も雲に隠れており、かなり暗い。
その暗い空を何かが飛んでいる。
それは・・・かなり大きな鳥のような姿である。
それは城西大学のとある校舎の屋上に降り立つとその黒い翼を畳んだ。
ガダヌ・シィカパである。
その巨大な目が考古学教室のある校舎を捉えた。
「ラノゴ・ザノルジャ」
そう言って考古学教室のあるところを指で示す。
「ラノゴガ・・・ロデミサ・ガネド」
すっと不気味な影がガダヌ・シィカパのすぐ後ろに現れた。
ギャソヂ・バカパであった。
この二体、遂に東京にまでやってきたのであった。
「リサバ・サウリ。ラナミ・マヅサジェサシェ」
今にも飛び出そうとしていたギャソヂ・バカパを制止するガダヌ・シィカパ。
「・・・・・・」
ギャソヂ・バカパは不服そうにガダヌ・シィカパの腕を振り払うとすっと闇の中に消えていった。
 
<喫茶ホワイト 09:12AM>
「ほおらぁ〜、起きなさいよ〜」
瑞佳がそう言って布団を巻き上げる。
ベッドの上で未だ惰眠をむさぼっていた祐がいきなりの事にベッドから転がり落ちた。
「・・・あ、瑞佳さん。おはよう」
祐がまだ少し寝ぼけたような目をして瑞佳に言う。
「おはようじゃないよ・・・今何時だと思ってるんだよ・・・」
瑞佳があきれたように言う。
「え・・?えっと・・・もう九時過ぎているじゃないかっ!!」
時計を見て慌てて立ち上がる祐。
ベッドサイドにかけてあったバンダナを掴み、すぐにドアから出ていく。
「慌てると危な・・・」
瑞佳が声をかけようとしたとき、階段の方からどたどたどたと言う音が聞こえてきた。
「祐さんっ!!!」
慌てて部屋を出て階段の前まで来ると、祐が階段の下で気を失っているのが見えた。
「だから言ったのに・・・」
また一つため息をつく瑞佳。
 
<喫茶ホワイト 10:14AM>
一時間後・・・祐は頭に冷やしたタオルを乗せてカウンターに突っ伏していた。
「あたたたた・・・・」
先程からずっと呻いている祐を見て瑞佳は苦笑を浮かべていた。
「慌てるからだよ。もっと落ち着かなきゃ」
「祐さんって意外とドジなんだぁ」
そう言ってもう一人のウエイトレス・霧島佳乃が笑う。
「う〜〜〜ん・・・佳乃ちゃん、それはないよ・・」
まだ呻きながら祐は言い返す。
「でも本当じゃない」
「あう・・・」
佳乃にあっさりと言い返され、祐は押し黙った。
今店内にはこの三人しかいない。
マスターはどうやら外出中のようだ。
「しかし暇だね〜〜。こんなんでいいのかな?」
佳乃がそう言ってがらんとした店内を見回した。
「いつものことだよ」
あっさりと瑞佳が言い放つ。
「そう言えば・・・祐さん、昨日香里さんと何話したの?」
「だから、香里さんの昔話を・・・」
「祐さん、本当のこと話して。香里さんはもしかしたら祐さんのことを知っているかもしれないんだよ」
そう言った瑞佳の顔は真剣そのものだった。
そばにいる佳乃も、そして話しかけられている祐自身も少し驚いていた。
何時もにこにこして優しい瑞佳がこういう顔をすることは滅多にない。あるとすれば・・・それは彼女の心に重くのしかかるある出来事を思い出している時。
「祐さん・・・私、祐さんのこと、心配して言っているんだよ。祐さんのこと、何処かで待っている人が、何処かで祐さんのことずっと探している人が居るかもしれないんだよ?だから・・・」
「瑞佳さん・・・」
本当に心配してくれているのだろう、瑞佳の顔は悲しげだった。
それは、あるいは自分と重ね合わしているのかもしれない。
「仮に自分が記憶を失っているとして・・・記憶を失う前に何かがあって、その何かは、もしかしたらとても大変なことかもしれない。それを・・・怖いと思ったこと、ありませんか?」
そう言った祐の顔も真剣そのものだった。
それを見て、瑞佳は理解できた。
(祐さんは・・・自分の記憶が戻ることを恐れているんだ・・・自分の記憶の中に・・何かがある・・・それは・・・彼にとっていい事じゃない・・・だから・・・)
不安げな顔をする瑞佳。
それは漠然とした・・・祐の過去への不安。
一体彼は何者なのか・・・過去、何があり、記憶を失うことになったのか・・・。
「祐さん、もしかして思い出したくないの?」
そう言ったのは佳乃だ。
「でも、それってイヤじゃないかなぁ?自分が何処の誰かわからないまま生きていくのって。瑞佳さんも言ったけど、何処かに祐さんのこと探している人が居たり、祐さんのこと待っている人が居ると思うよ」
「佳乃ちゃん・・・」
祐が佳乃を見る。
「それに祐さんだって家族いるはずだし。でなきゃ祐さん、この世にいないでしょ?」
佳乃が笑顔を見せて言う。
「・・・ああ、そうだね。佳乃ちゃんの言う通りだよ。少なくても祐さんの家族は心配してると思うよ」
瑞佳もそう言って祐の肩に手を置いた。
「大丈夫だよ・・・多分」
諭すように瑞佳が言う。
祐は何も言わず、ただ、じっとしているだけであった。
 
<城西大学考古学教室 10:24AM>
中津川、香里、そして国崎の三人は研究室の中に散乱している発掘品を前に呆然と立ちつくしていた。
「何をどうすればここまで散らかるの?」
香里が腕を組み、眉をぴくぴくと震わせながら言う。
「整理すると言うことを知らないの?」
「イヤ・・・整理しようと思ったんだが・・・」
すっかり恐縮したように中津川が言う。
「これじゃまず片付けないとな・・・。ってもしかして俺も手伝うのか?」
国崎がぎょっとした顔を香里に向けた。
「この場にいる以上当たり前よ!」
そう言って香里が手近にある発掘品を手に取ろうとした。
その時、窓ガラスを叩き割って中に黒い影が飛び込んできた。
はっと窓から飛び込んできた影を見る三人。
それは諏訪湖SAで見た怪物のうちの一体、ギャソヂ・バカパであった。
すかさず拳銃を抜き、構える国崎。
だが、それを見たギャソヂ・バカパは素早く国崎に近寄ると拳銃を払いのけ、国崎を殴り倒した。
ドアのところまで吹っ飛ばされる国崎。
それを見て、声を上げることすら忘れたかのように唖然となる香里と中津川。
 
<喫茶ホワイト 10:27AM>
祐が何も言わないので沈黙が店内を包み込んでいた。
と、いきなり祐の頭に何かが走った。
それは・・・まるで助けを呼ぶ声のようにも彼には感じられ、祐がはっとしたように立ち上がる。
「祐さん・・・?」
いきなり立ち上がった祐を見て、瑞佳と佳乃が驚いている。
「ど、どうしたの?」
「ご免、ちょっと出掛けてくる!!」
そう言って祐が表に飛び出していった。
しかもかなり真剣な表情で。
二人は呆然と見送るしかできなかった。
 
<城西大学考古学教室 10:32AM>
「うわぁぁぁぁっ!!!」
中津川の身体が宙を舞い、本棚に激突する。
「先生っ!!」
悲鳴を上げる香里。
国崎は先程殴り倒されたまま、身動き一つしない。気を失っているのだろうか。
香里は自分が何一つ出来ないことを悔しく思いながらも、それでも身動き一つ出来ないでいた。
「ジョゴジャ?ジョゴミ・ラヅ?」
ギャソヂ・バカパが香里を見て言う。
「な、何?」
自分に向かって何かわからないが話しかけながら近寄ってくるギャソヂ・バカパを見ながら、香里は震えていた。
「ジョゴミ・ラヅモジャ!?ガルヲシャー・バ!?」
何処か苛立たしげなギャソヂ・バカパの声。
「イヤ・・・助けて・・・助けて・・・相沢くんっ!!!!」
香里が叫び声をあげる。
と、同時にいつの間にかギャソヂ・バカパの後ろに回っていた国崎が拳銃を構えて立ち上がった。
「この野郎っ!!!嘗めるなっ!!!」
国崎の声と共に銃弾が全てギャソヂ・バカパの背中に叩き込まれる。
だが、ギャソヂ・バカパの身体に銃弾はめり込むがすぐにはじき返されてしまう。
「こいつも銃が通用しないのか!?」
「カサン・ヌヅマ!!」
そう言ってギャソヂ・バカパが国崎につかみかかる。
拳銃を持っている手を払い飛ばし、首に手をかけ、軽々と持ち上げてしまう。
「くう・・離せっ!!」
そう言ってギャソヂ・バカパの身体を蹴るが全く通用しない。
「ギレ・ド!」
またも投げ飛ばされる国崎。
彼の身体がドアを突き破って廊下へと飛び出していく。
廊下の端まで転がってようやく国崎の身体は停まった。
「つつ・・・どうしろって言うんだよ・・・」
痛みに顔をしかめながら国崎が呟く。
「国崎さん!大丈夫!?」
香里が廊下に飛びだしてきた。
倒れている国崎に駆け寄ると、香里はさっとドアを振り返った。
ドアのところにはギャソヂ・バカパが立ってこちらを見下ろしていた。
「ロサレ・シャシィ・ゴドヌ!!」
ギャソヂ・バカパが両腕を振り上げる。
「・・・相沢くんっ!!」
再び香里が、今はいない人物の名を呼ぶ。
彼女は彼のことをまだ生きていると信じているし、もしかすれば彼の名を呼ぶことによって彼が帰ってくるのではないか、と言う薄い期待もあった。
「相沢君・・助けてっ!!!」
虫のいいことかもしれない。
あの時、一度は彼を拒絶しておきながら。
それでも彼は何一つ言わずに助けてくれた。
自分の命を引き替えにしてまで。
それでも。
彼女は。
あえて彼の名を呼ぶ。
「相沢くんっ!!!」
その時、薄暗い廊下の向こうから光が倒れている国崎、そのそばにいる香里、そして、ギャソヂ・バカパを照らした。
三つの視線が光の源を見る。
「あれは・・・」
「相沢君・・・?」
香里の目には涙が浮かんでいた。
逆光の中に見えるシルエットが彼女の知っている相沢祐一のものと重なって見えたのだ。
「変身っ!!」
シルエットの人物が両手を交差させて前へと突き出す。
そして、左手を引いて腰に当てて残った右腕で十字を描く。それから右手と左手を入れ換えるように左手を右方向へと伸ばし、右手を腰に当てる。
そのポーズが終わった瞬間、シルエットの腰の部分がまばゆい光を放射状に放った。
思わず目を伏せる国崎と香里。
ギャソヂ・バカパも余りもの閃光に腕で顔を隠している。
光が収まったとき、そこに立っていたのは・・・白い戦士。
純白といっていいほどの白い、そして筋肉を模したボディアーマーに身を包み、白い手甲とナックルガード、その間、ちょうど手首にあたる部分には赤い宝石がはめ込まれている。足首には手首と同じく赤い宝石をはめ込んだアンクレット。
頭は赤い大きな目、牙のような意匠を持つ口、金色の輝く、左右に開いた角を持つ仮面。
そんな姿の戦士がそこに立っている。
「・・カノン・・・ゴヲジョゴノ・ゲヂン・シュゲヅ!」
白い戦士を見たギャソヂ・バカパがそう言って走り出した。
白い戦士・カノンはすっと左足を引いて身構えるとギャソヂ・バカパを待ち受けた。
一気に飛びかかるギャソヂ・バカパだが、それを待っていたカノンががしっと受け止め、後ろへと投げ飛ばした。
廊下に叩きつけられるギャソヂ・バカパだがすぐに立ち上がり、カノンに向けて舌を伸ばした。
その舌がカノンの首に巻き付くが、カノンは少しも慌てることなく舌を掴むと、一気に引き寄せた。
よろけながらカノンの方に引き寄せられるギャソヂ・バカパ。
腹部にキックを食らわせてから首に巻き付いた舌を引き剥がし、強烈なパンチを顔面に叩き込む。
その一撃でギャソヂ・バカパは考古学教室の入り口近くまで吹っ飛ばされた。
倒れたギャソヂ・バカパの口から血が流れ落ちていた。
それを見ながら一歩一歩カノンが歩み寄ってきている。
接近しているカノンに気付いたギャソヂ・バカパは四つん這いになりながら考古学教室の中へと逃げ込んでいく。
追うカノン。
考古学教室の中は先程ギャソヂ・バカパが暴れたせいで更に色々なものが散乱していた。
何処に隠れたのかギャソヂ・バカパの姿は見えなかった。
「・・・・・・?」
キョロキョロと研究室内を見渡すカノン。
その背後から迫りよるギャソヂ・バカパ。
「・・・危ないっ!後ろだっ!!」
いきなり中津川の声がした。
彼はこの中で倒れていたのでいち早くギャソヂ・バカパの動きに気がついたのだ。
カノンに飛びかかるギャソヂ・バカパ。
振り返りざまにカノンが肘打ちを喰らわせる。カウンター気味に肘打ちを喰らったギャソヂ・バカパが吹っ飛ばされ、積み重ねられていた発掘品の入った箱を薙ぎ倒していく。
箱の中身が床に散乱する。
倒れたギャソヂ・バカパが散乱した発掘品の中にあるものを見つけ、目を輝かせた。
それは小さな勾玉が大量についたリング・・・ブレスレットのようなリングであった。
ギャソヂ・バカパはそれをつかみ取ると素早く立ち上がった。
そして自分が飛び込んできたときに割った窓から表へと飛び出していく。
それを見たカノンもギャソヂ・バカパを追うように表へと飛び出していった。
 
<城西大学キャンパス 10:58AM>
突然、飛び出してきたギャソヂ・バカパを見た学生が悲鳴を上げる。
だが、ギャソヂ・バカパはそれに構わずキャンパス内を走り始めた。
行く手を阻む学生達を次々と突き飛ばし、必死になって逃げているようにも見える。
「ガダヌ・・・ジョゴ・ミリヅ、ガダヌ!!!」
走りながらそう言い、空を見上げる。
と、その時、カノンがギャソヂ・バカパを飛び越えていった。
どうやってかはわからないが、カノンはいつの間にかギャソヂ・バカパに追いついていたのだ。
着地したカノンがギャソヂ・バカパの方へと振り返る。
「カノン・・・ジョゴサジェソ・カサン・ヌヅ!」
苛立たしげにそう言い、ギャソヂ・バカパが口を開いて、舌を突き出す。
その舌は鋭い槍のようになってカノンを襲うが、カノンはその場でジャンプして舌をかわし、尚かつその舌の上に乗って更にジャンプした。
そしてカノンは空中からギャソヂ・バカパに向けてキックを放つ!
そのキックを受けたギャソヂ・バカパが吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられた。
一方着地したカノンの右足の裏から、ブスブスと白い煙が立ち上っている。
地面に手をつき、ギャソヂ・バカパは立ち上がろうとした。
「サジャジャ・・・サジャ・・・ロヴァヅヴァゲミバ・・・・」
そう言いながら何とか立ち上がり、両手を天に向かって伸ばす。
丁度キックを受けた部分にまるで焼き付けられたかのように古代文字が刻印されていた。
その文字から全身に光のひびが入り・・・ギャソヂ・バカパが爆発四散する!
爆発を見届けカノンはゆっくりと背を向けて歩き出した。
その姿が・・・白い戦士・カノンから、祐へと戻っていく。
だが、それを見たものは誰も居ない。
祐は何事もなかったようにその場から去っていった。
 
<城西大学キャンパス 11:14AM>
ギャソヂ・バカパが爆発したところから少し離れたところに、ギャソヂ・バカパが持ち出したリングが転がっていた。
爆発したときにここまで吹き飛ばされてきたのだろう。
それを・・・黒い手が掴みあげた。
「ゼースザ・バイサヅ・・・・」
黒い手の持ち主がそう言ってニヤリと笑った。
 
<都内某所 12:26PM>
黒いライダースーツの青年がバイクを止め、ヘルメットを脱いだ。
そしてサングラスをかけながら目の前にあるビルに入っていく。
ビルは余り大きなものでなく、雑居ビルという類のものだった。
ある一室の前に来ると青年はノックもせずにドアを開けて中に入っていった。
「ようやくお戻りかな、折原君?」
部屋の中には机が一つだけあり、その向こう側にはドアに背を向けたまま椅子に座っている男がいた。
「遂に始まる・・・我々の聖戦が・・・」
青年は何も答えず、ただ男の背を見ているだけだった。
「君の活躍に期待しているよ・・・」
「・・・俺はお前らの道具じゃない!それを言いに来ただけだ!!」
乱暴にそう言い、青年はクルリと背を向け、入ってきたドアから外へとでていった。
ばたんとドアが乱暴に閉じられる。
「くっくっく・・・まぁ、あがきたまえ・・・いくらあがいても君は・・・もう運命からは逃れることは出来ないのだよ・・・そう、カノンと共に・・・」
男が低い声で笑った。
 
Episode.8「復活」Closed.
To be continued next Episode. by MaskedRiderKanon
 
次回予告
続々と集合する謎の敵。
その恐るべき奴らの目的は何か?
国崎「あいつらには常識が通用しないと思うぜ」
香里「奴らの目的・・・ですか?」
街を疾走する謎の影の正体は?
警官「何だ、あいつは!?」
本坂「お前が帰ってきているとはな・・」
戦士・カノンの新たなる戦いの幕が上がる!
祐「変身っ!!」
次回、仮面ライダーカノン「襲来」
白き奇跡、再び・・・!!


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