燃え上がる炎。
その向こう側で笑みを浮かべている人物がいる。
その人物が口を開いて何かを言った。
「じゃあな」
確かにその人物はそう言った。
声は聞こえなかったが、はっきりそう口が動いたのを彼女は見て取った。
「名雪のこと、頼んだぜ」
更にそう続けられた。
やはり声は聞こえない。
炎が更に勢いを盛んにして燃え上がった。
それは向こう側にいる人物をも焼いていく。
「いやぁぁぁぁぁぁっ!!!」
彼女が叫び声をあげる。
 
はっとそこで彼女・・・美坂香里は目を覚ました。
見慣れた天井が見える。
額にかいていた背を手の甲で拭い、彼女は身を起こした。
「・・・久しぶりね、この夢も・・・」
そう呟いてベッドを降りる。
全身に汗をかいており、かなり気分が悪い。シャワーでも浴びてすっきりさせたくなった彼女は時計を見て、まだ時間があることを確認するとユニットバスに向かった。
すぐにシャワーの流れる音が聞こえてくる。
 
あの日から・・・戦士・カノンこと相沢祐一が恐るべき怪人・黒麒麟との死闘の末、炎と共に消えてしまった日から五年の月日が流れていた。
その月日は彼女達を色々な方向へと成長させていた。
美坂香里はあの事件の後、自らが進むべき道を選びなおした。
それまで考えていた進路を捨て、城西大学考古学教室に進んだのである。
そこはあの事件に関わった中津川忠夫が助教授を務めるところでもある。彼の元で、香里はあの遺跡に書かれてあった古代文字の解析を始めていた。
それが相沢祐一に対する、今の自分が出来ることだと思ったのだ。古代文字を解読することによって相沢祐一の身に何が起こっていたか、そして、あの怪人達が一体何者だったのか、それを理解し、記録として残すことで相沢祐一がこの世に存在したことを示したかったのだ。
 
シャワーの音がやみ、少ししてから香里がリビングに戻ってきた。
濡れた髪をタオルで拭きながら彼女はテーブルの上に置いてある写真立てを見た。
そこには・・・五年前に撮った写真が飾られている。
すましたような顔の自分、笑顔でピースサインをしている北川潤、満面の笑顔を浮かべている親友の水瀬名雪、そして・・・何に気を取られたのか横を向いている相沢祐一。
何事もなかったそんな平和な頃の写真。
香里はふっと笑みを漏らすと、写真立てを伏せた。
 
仮面ライダーカノン
Episode.7「転生」
 
<喫茶店ホワイト 08:52AM>
カランカランとカウベルが鳴り、ドアが開かれる。
中に入ってきたのは香里とそう歳の変わらない女性だった。
「もう、また何も準備してないよ〜」
困ったようにその女性が言い、二階へと続く階段へと足を向ける。
この喫茶店ホワイトは店舗と住居を兼ねた作りになっており、二階にはここのマスターと住み込みで働いている青年が住んでいるのだがどうやら店舗の方で何も準備がなされていないところを見ると二人ともまだ寝ているようだ。
「よくこれでつぶれないものだよ〜」
そう言いながら二階へと上がっていく。
一番手前の部屋がこの喫茶店ホワイトのマスターの部屋で、一番奥にあるのが住み込みで働いている青年の部屋である。
「マ〜スターッ!!!祐さ〜〜んっ!!!ほら、起きて〜〜〜っ!!!」
廊下で大声を張り上げる。
少しして手前のドアが開いて、中から眠たそうな顔をした中年男が顔を見せた。
「・・・瑞佳か?準備の方、頼むわ・・・俺は・・・まだ寝る・・・」
中年男は女性にそう言ってまたドアを閉じようとしたが、それを女性がしっかりと止めた。
「マスター・・・?」
にっこりと笑みを浮かべる女性。
もっとも目は少しも笑っていない。
「・・・昨日遅くまで何やってたんだよ?」
詰問するように言う。
「え〜と・・・」
マスターは困ったような顔をしていたが、やがて降参とばかりに手を挙げた。
「わかった。すぐに準備をするから、祐の奴を起こしてきてくれ」
そう言ってマスターはドアを開けて廊下に出てきた。
瑞佳と呼ばれた女性は頷くと、廊下の奥に向かった。
一番奥の部屋のドアをこんこんとノックして、それからドアを開けると中には誰も居なかった。
「・・・あれ?祐さん?」
部屋の中に誰も居ないことに首を傾げて瑞佳はベッドに近寄っていく。
布団の乱れ方から誰かが寝ていたのは確かのようだが・・その寝ていたであろう人物がいなくなっている。
ふと、風を感じた瑞佳は窓が開け放たれているのに気がつき、窓から顔を出して外を見た。
すると、そこに・・・屋根の傾斜に腰を下ろして空を見上げている一人の青年の姿があった。
青年の長い目の髪が風に揺れている。
「こんなところにいた〜」
瑞佳がそう言うと、青年は彼女の存在にようやく気がついたように振り返った。
「そんなところにいると危ないよ〜」
「おはよう瑞佳さん。朝は・・・」
青年は瑞佳の心配を余所に笑顔を見せて言った。
「おはよう、でしょ?」
少し困ったような笑みを浮かべて瑞佳がそう言ったのを見て、青年は頷いた。
「それは良いから、早く戻ってきてよ〜、そんなところにいると危ないよ〜」
「大丈夫・・・俺、こう見えても身体軽いから」
そう言って青年が立ち上がった。
「高所恐怖症じゃなかったの?」
「下見なければ大丈夫」
不安そうな瑞佳にそう言いながら青年は屋根を器用に歩いて窓へと向かってくる。
窓枠に手を突いて青年はにこっと笑ってみせた。
「瑞佳さん」
「あ、ご免ね」
自分がどかないと青年が中に入れないと言うことに気がついた瑞佳がすぐに窓からどいた。
部屋の中に戻ってくる青年。
ぽんぽんと手を叩いて埃を払ってから青年が瑞佳を見た。
「ね?」
笑みを浮かべて青年が言う。
一瞬何のことかわからなかったがすぐに先程言った大丈夫だと言うことだと思いつき、頷いてみせる。
「ああ、もうこんな時間じゃないか!開店準備しないと!!」
時計を見た青年がそう言って慌てた様子で部屋を飛び出していく。
少しの間瑞佳はその部屋の中でぼうっとしていたが、すぐに気を取り直して、一階の店舗へと向かった。
 
<城西大学考古学教室 09:18AM>
城西大学のキャンパスでも一番端の方にある古い校舎の一角に考古学教室、更には助教授・中津川忠夫の担当する研究室があった。
「おはようございます」
そう言いながら研究室のドアを開けて中に入ってきたのは香里だった。
しかし、中には誰も居ない。
「また誰も居ない・・・ドアに鍵もかかってないし・・・全く」
この研究室には担当の中津川、香里以外にも何人かの生徒がいるのだが、いつもドアの鍵がかかっていなかったりと管理はすこぶる悪い。
香里はその事をいつも中津川に言っているのだが、彼は聞いているようで聞いていないことが多かった。
「いなくなるなら鍵ぐらいかけなさいよ・・・」
そう言いながら自分の専用のパソコンの前に置いてある椅子の背に上着を掛ける。
パソコンの電源を入れてから彼女は研究室に備え付けのコーヒーメーカーに向かった。いつも誰が作っているのかは知らないがこのコーヒーメーカーにコーヒーがないことはない。でもその日に限って誰も作っていなかったらしく、中は空っぽだった。
「・・・ついてないわね・・・」
香里はこのコーヒーを片手に古代文字の解析作業を始めるのが日課になっていた。
仕方なしに香里は上着を手にすると研究室を出た。
勿論ドアに鍵をかけるのを忘れない。
「近くに喫茶店なんかあったかしら・・・?」
そう呟きながら彼女は歩き出した。
 
<喫茶店ホワイト 09:26AM>
カウンターの中ではマスターが、店内を長い髪を後ろで束ねた青年と長森瑞佳の二人が掃除をしていた。
「これでよく朝九時から開店だなんて看板出せるもんだよ・・・」
いつものようにあきれた顔の瑞佳。
彼女はここのマスターの親戚であり、そのつてでここのウエイトレスをしているのだ。
彼女を手伝って掃除をしている青年の名は「祐」。
三ヶ月ほど前からこの喫茶店ホワイトで住み込みで働いているが、その素性を瑞佳は知らない。
ただ、いつもにこにこと笑顔を浮かべており、人当たりもいいので悪い人間でないことだけは確実のようだ。そう思っていた。
「そうは言っても朝の九時からこの店に来る人なんかほとんどいないからな。今から準備しても大丈夫だよ」
マスターはそう言いながらコーヒーメーカーからコップにコーヒーを移した。
それも三人分。
どうやらマスター本人と瑞佳、そして青年の分らしい。
「さて、それでは今日も開店と参りますか!」
そう言ってコーヒーカップに手を伸ばしたとき、カランカランとカウベルが鳴って、中に一人の客が入ってきた。
「あら・・・まだ準備中?」
その客は手に箒を持っている青年とモップを持っている瑞佳を見てそう言った。
「大丈夫です。今マスターが開店を宣言しましたから」
笑顔でそう言ったのは青年だった。
すぐに手にしていた箒を片付け、青年は客の女性をカウンター席に薦めた。
「ご注文は、お嬢さん?」
マスターも笑顔たっぷりで言う。
「相手が美人だとすぐこれだよ・・・」
あきれたように呟く瑞佳。
彼女は手にしていたモップを片付けると自分もカウンターの中に入った。
「コーヒー。う〜んと濃い奴でお願い」
「ハイな。瑞佳、コーヒー。う〜と濃い奴で」
マスターがすぐ後ろにいる瑞佳にそう言った。
「祐、お前は外の水撒き頼む。その後はテーブル拭きな」
「了解!」
青年がそう言って表へと出ていった。
女性客は出ていった青年の後ろ姿をちらりと眺め、もう一度カウンターに向き直った。
「こんなところに喫茶店があったなんて知らなかったわ」
水を出してくれたマスターにそう言ってにっこりと微笑みかける。
「近くに城西大学があるのに宣伝も何もしないから余り流行ってないんです」
そう言ったのは瑞佳だった。
「それでもお昼時になるといつも混むじゃないか。宣伝なんかしなくてもそれで充分だよ」
マスターがそう言って瑞佳に反論する。
「半分マスターの趣味だもんね、この喫茶店」
コーヒーをコップに移しながら瑞佳が言う。
「はい、お待たせしました。喫茶ホワイト特製コーヒー、う〜んと濃いバージョンです」
カウンターから手を伸ばして瑞佳がコップを女性客の前に置いた。
「お嬢さんは城西大学の?」
マスターが声をかけてきた。
今店内にいるのはこの女性客と瑞佳だけなので暇なのだろう。
「ええ。考古学教室の四年生・・・」
「考古学教室って言えば面白い先生がいるところだな。確か・・中津川とか言った」
「あら・・・先生を知っているんですか?」
「数少ないここの常連さんだもん」
マスターと女性客の会話に瑞佳が割り込んだ。
「何というか、あの先生はロマンチストだな。遙か古代の浪漫を追いかけているというかなんというか」
一人腕を組んで頷いているマスターを見て、瑞佳がため息をつきながら呟く。
「だからマスターとあの先生、気が合うんだね・・・」
「中津川先生と気が合うなんて・・・とんだ変人のようね」
女性客が小声でそう言った。
頷く瑞佳。
意外とこの二人、気が合うのかもしれない。
「私は美坂香里よ。あなたは?」
「長森瑞佳。よろしくね、美坂さん」
「香里で良いわ。私も瑞佳って呼ばせて貰うけど、良い?」
女性客・美坂香里が笑顔を浮かべてそう言ったので瑞佳は大きく頷いた。
そこへ外で水撒きをしていた祐が戻ってきた。
何もこの寒い中で水撒きしなくても・・・そう思った香里がドアの方を振り返り・・・言葉を無くした。
「あ〜、寒い寒い・・・」
そう言いながら祐は布巾を手にしてテーブルを拭き始める。
香里はその姿をじっと見ているようだった。
「香里さん・・・?」
瑞佳が声をかけると、香里ははっとしたように彼女を振り返った。
「御免なさい・・・またお昼頃に来るわ。じゃ・・・」
香里は何故か焦ったようにそう言うとコーヒーの代金を置いてさっさと出ていった。
「・・・どうしたのかな、急に?」
「まさか・・・俺に惚れたとか?」
マスターが瑞佳の横でそう言ったが誰も相手にしなかった。
 
<都内某所 10:36AM>
そこは長い通路の先にあった。
その通路の中を一台のバイクが走っている。
かなりの大型のバイクである。オンロードタイプと大型スクーターの中間の形をしたそのバイクは一見してかなりの改造を施されているのがわかる。
通路の先はやや広くなっており、天井も高くなっている。
バイクはそこまで来ると急停止し、乗っていた人物が床に降り立った。
その姿はメタリックシルバーの鎧をまとった騎士のようである。
一歩一歩前へと進む銀色の姿の人物。
と、いきなり天井が落ちてきた!
だが、銀色の騎士は少しも慌てることなく、両手を上へと上げて天井を受け止めた。
天井の重さに少し膝を曲げてしまうが、それでも徐々に天井を押し返し始める。
「はっ!!」
気合一閃。
銀色の騎士が天井を押し返し、上へと放り返した。
続けて銀色の騎士の正面にマシンガンが数丁現れる。そして、一斉に銀色の騎士に向かって発砲が開始される。
銀色の騎士は少しよろけたものの、その銃弾の雨の中、しっかりと立ち続けていた。
銃声がやみ、今度は銀色の騎士が腰のホルスターから大型の銃を取り出した。
銃の横にあるセレクターを回し、射撃モードをマシンガンモードへと切り替え、さっと構えた。
次から次へと現れるターゲットを正確にその銃が撃ち抜いていく。
全てのターゲットを破壊した後、今度は鋼鉄製の板が銀色の騎士の左右から迫ってきた。
素早く銀色の騎士は後退し、バイクのハンドルにあるボタンの一つを押した。
するとバイクの後部が開き、中から様々な物が出てきた。
そのうちの一つ、グレネードランチャーを取り出した銀色の騎士は手にしていた銃にグレネードランチャーをセットし、右側の板に向けて発射。
その一撃で鋼鉄製の板が粉砕される。
左側の板に対してはわざわざ銃をバイクのシートに置いた上で別の装備をし、さっと向き直る。
その手には手甲と一体となったナイフが。
ナイフの刀身が淡い光を放ち、鋼鉄製の板をいともあっさりと切り裂いた。
真っ二つになった板が床に落ちる。
『ご苦労様、テストはこれで終了よ』
その声と共に部屋に光が灯った。
銀色の騎士はそれで安心したかのように頭を保護している仮面のようなヘルメットを脱いだ。
中から出てきた顔は汗びっしょりであったがそれでもかなり満足げな表情を浮かべている。
よく見ると、この部屋にはマジックミラーがあり、その向こう側では数人の人間がいるのがわかった。
『よくやったわ、北川君。この一年間の訓練の甲斐があったわ』
その声に北川と呼ばれた青年がニッと笑顔を見せた。
マジックミラーの向こう側、モニター室では数名の人間が銀色の騎士の動きなどをモニターしていた。
背広を着た者、警察の制服を着た者、中には自衛隊の制服を着た者もいる。
先程北川潤に声をかけたのは自衛隊の制服を着た女性だった。
「対災害救助、対テロリスト用装備PSK−01の性能テスト、いかがでしたか?」
そう言ったのはこの中にいるもう一人の女性だった。
彼女の名は倉田佐祐理。
ごく普通のスーツ姿の彼女だがこの場で独特の雰囲気を出している。
「自衛隊と我が倉田重工が共同開発したこのPSK−01・・・完璧な仕上がりです」
にこにこしながら言う佐祐理。
「これならばありとあらゆる災害、それに近年増加、そして凶悪化の傾向にあるテロに対しても充分すぎる効果を望めると思えますが?」
「しかしだね・・・これはちょっと強力過ぎはしないかね?」
そう言ったの警察の制服を着た男だった。
「使う者次第ではこのパワードスーツ・・・かなり危険なものとなるのでは?」
「それはそうですね。ですからこそ、その装着員は厳選された人物のみに絞っています。彼・・・北川潤さんはその資格を充分に満たしていますよ」
佐祐理にそう言われても警察の制服を着た男は渋い顔をしたままだった。
「災害救助に関しての装備はこれからも続々と開発予定があります。今の警察や消防だけでは手に負えない災害もありますでしょうから」
そう言ってふっと佐祐理は暗い顔になった。
何かを思いだしたのかもしれない。
この場にいるもう一人の女性・七瀬留美はその横顔を見てそう思った。
「当面はこのPSK−01は自衛隊の管轄に置いて実地訓練と性能評価を行います。警察などへの量産化はその試験以降のこととなるでしょうな」
自衛隊の幹部がそう言った。
「わかりました・・・ではその結果を聞いて検討いたしましょう」
警察の制服を着た男がそう言ってモニター室から出ていく。
続いて自衛隊の幹部。
中に残ったのは佐祐理と留美、そしてもう一人のオペレーターである斉藤だけであった。
「お疲れさまでした、七瀬さんに斉藤さん。これで少しはめどが立ったと思います」
佐祐理がそう言って二人に礼をする。
「PSKが量産されれば災害救助も随分楽になるんでしょうけどね」
「大地震とか飛行機の墜落事故とかでも充分PSKの力を見せることが出来ると思うわよ。それに・・・テロ対策にもね」
斉藤、留美が口々に言う。
「テロと言えば・・・五年前凄い事件がありましたよね?」
「五年前?」
斉藤が言った言葉に顔色を変える佐祐理とそれに気がつかずに尋ね返す留美。
「七瀬さん、知らないんですか?五年前、N県のとある街であった警察官惨殺事件。かなりの人数が死亡したそうですよ?」
「へぇ・・・そんな事件があったんだ。で、犯人とかはどうなったの?」
「それが不明なんですよ。一部では怪物がでてきてそれに殺されたとか言う噂もあったんですが・・・」
「その通りだよ」
不意に別の声がした。
三人が振り返るとモニター室のドアを開けて北川潤が立っている。
「それは噂じゃなくて真実・・・と言ったらどうする?」
始めは真剣な顔をしていた北川だが、いきなりニッと笑ってそう言ったので斉藤と留美の二人は肩をがっくりと落とした。
一方佐祐理だけが安心したような顔つきをしている。
「もう、北川君てば脅かさないでよ」
留美がそう言って頬を膨らませる。
「それよりも今日はご苦労様。あなたのお陰で旨くいきそうだわ、PSK計画も」
「北川さんのお陰です。ありがとうございます」
「そんな・・俺はいつもの訓練と同じ事をしただけで・・・」
留美には何も言わず、佐祐理には照れながら北川が答える。
「それじゃ佐祐理はこれで失礼しますね」
そう言って立ち上がる佐祐理を見て北川がドアを開ける。
「そこまでお送りします」
「じゃ、お願いします」
北川と佐祐理の二人が部屋を出ていく。
それを見送っていた留美と斉藤は
「・・・あの二人って知り合いなんですかね?」
「みたいね・・・でもあくまでただの知り合いって・・・そんな感じでもなさそうだけど」
 
<喫茶ホワイト 13:26PM>
カランカランとカウベルが鳴る。
「いらっしゃいませ〜〜っ!!」
やたらと元気な声が入ってきた香里を出迎えた。
やや落ち込んだような表情で入ってきた香里はぎょっとしたように顔を上げる。
見ると朝にはいなかったウエイトレスが一人いて、その代わりに「祐」と呼ばれていた青年の姿がなかった。
「あ、香里さん、いらっしゃいませ」
瑞佳が香里に気がついて声をかけてきた。
「瑞佳さん・・・あの人・・・祐って呼ばれていた人はいないの?」
香里が何となく落胆したような安心したような複雑な表情を見せて瑞佳に問う。
「祐さんならさっき出掛けたよぉ」
そう言ったのは先程香里を出迎えたウエイトレスの子だった。
「確か今日は・・・本坂さんのとこに行ったんだと思うけど?」
「あ、そうか・・・そう言えば今日だったわね」
瑞佳が頷いて香里を見た。
「御免なさい、祐さん、ちょっと別の用事で居ないみたい」
「そう・・・なら良いわ」
香里はそう言うとカウンター前の空いている席に座った。
「ここに来れば会えるんだから・・・次でも」
小さい声で呟く。
「祐さんに何か用だったの?」
瑞佳が水の入ったコップを置きながら聞く。
「あ、でも香里さん今日初めてだったよね・・・祐さんとどこかであったことあるのかな?」
何か引っかかる言い方をする瑞佳。
気になった香里が彼女を見る。
「祐さんって実は記憶喪失なんだよ。半年ほど前にマスターがN県のある山の中で倒れていたのを拾ってきたんだけど、持っていたのが焼けこげた免許証だけ。かろうじてバイクの免許だと言うことと、名前の一部分『祐』という字がわかっただけで後は何もわからなかったって。あの通りいつもにこにこしているから悪い人じゃないって思うんだけど記憶がないからちょっと不安かなって思わないでもないかな?」
苦笑する瑞佳。
「N県・・・?」
香里が驚いたような顔をする。
「瑞佳さん、それ本当!?」
「う、うん・・・」
当惑したように瑞佳が答える。
香里はそんな瑞佳に構わず空いていた椅子に腰掛け、考え込むように腕を組んだ。
「まさか・・あの時は・・・でも・・・」
真剣な顔をして呟いている香里。
「彼の居場所、わかる?」
不意に瑞佳を見てそう言う香里。
「え?」
「その祐さんって人の居場所、わかる?」
「あ、ああ・・・祐さんならすぐ近くにある本坂さんって人がやっているバイク屋さんと一緒に出掛けたと思うけど・・・」
「何処に?」
「佳乃ちゃん、知ってる?」
瑞佳がもう一人のウエイトレス、霧島佳乃に声をかけた。
「確か新しいバイクのテストするって言ってたけど・・・場所までは聞いて無いなぁ」
記憶を確認するように少し上を見上げて佳乃が答える。
「そう・・・それなら仕方ないわね」
香里は明らかに落胆したような表情を見せ、肩を落とした。
「香里さん、祐さんとは・・・」
「わからないわ。私の知っている彼がその祐さんと同一人物かどうかは」
そう言って香里は瑞佳を見上げた。
「帰ってきたらまた教えて。一度会ってみたいから」
「今日の夜には帰ってくると思うよ?」
佳乃が笑顔を浮かべてそう言った。
その時、香里の持っていたカバンの中で携帯電話の呼び出し音が鳴った。
「御免なさい」
そう言って香里がカバンの中から携帯電話をとりだした。
「はい、美坂です・・・あ、先生・・・え?・・・はい、わかりました。すぐに戻ります」
携帯電話のスイッチを切って香里は瑞佳を見た。
「御免なさい、瑞佳さん。急用が入ったの。また来るわ」
さっと携帯電話をカバンに直し、立ち上がる香里。
そしてすぐにドアを開けて出ていった。
「結局何しに来たんだろうね、あの人?」
佳乃がそう言って瑞佳を見た。
「・・・多分香里さんは祐さんのことを知って居るんだよ・・・」
 
<N県某ホテル 15:59PM>
そのホテルのロビーに香里が鞄を肩に担いで入ってくると彼女の到着を待っていたかのように一人の男が近寄ってきた。
「すまないな、美坂君。わざわざ呼び出してしまって」
そう言ったのは香里の所属する考古学教室の助教授・中津川忠夫である。
彼の姿は五年前と少しも変わりがない。
「いえ・・・こんな形で帰ってくることになるとは思っていませんでしたけど・・・一体何があったんですか?」
神妙な顔をして香里が聞く。
すると中津川は真剣な顔になって
「例の遺跡を発掘していた連中が・・・皆殺しになったそうだ」
そう言って黙り込む。
香里の顔色も変わる。
「まさか・・・また・・・?」
「わからないが・・その可能性もあるだろうな。今度は何が封印されていたかはまだわからないが」
真剣な顔をしたまま中津川が呟くように言う。
「どっちにしろ封印されているものが人類の味方である可能性は少ないだろうな」
「今度は・・・カノン、相沢君はいないんです。もし封印されていたのがあの時のような怪物だったら人類に立ち向かう手はないのではないでしょうか?」
「希望があるとすれば・・・ベルトだ。相沢少年が身につけたものは試作品だった。と言うことはどこかに完成品が存在する可能性がある。もっとも試作品が一つではないという可能性は否定できないが」
二人は歩きながら話している。
「前の時の遺跡と同じタイプなら封印の鍵としてベルトをつけたミイラがあったのでは?」
香里がそう言うと中津川はすまなさそうな顔をして
「それを調べる前に追い出されたんだよ。お陰で命拾いしたが」
「追い出された?またどうして?」
「合同調査をしていた県立大学の奴がイヤな奴でね。肝心の調査の当日に変なことを知って追い出したのさ」
「変なこと?」
「ああ・・・五年前のことだよ。似たような遺跡だったからな。そこで起きた事件もわざわざ調べたらしい」
「それは・・御啾々様です」
香里はそう言ってチェックインを終わらせ、再び鞄を肩に担いだ。
「先にカバンだけでも置いてきます。この後の予定はその後で」
「わかった。ここで待っていよう」
中津川が頷いたのを見て、香里はカバンを持って部屋へと向かった。
 
<森の中 17:42PM>
薄暗い森の中、うごめく影がある。
その影はふらふらと歩きながら両手を振り回していた。
その手の先から何やら不気味な光がほとばしり、その光が地面に当たるとそこが不気味に盛り上がる。
「ギョギザ・レデ・・・ヴァザ・ジョルボル・シャシィギョ・・・」
誰も居ない森の中に不気味な声が響く。
すると・・・まるでその声に誘われたかのように地面から手が生えてくる。
次から次へと・・・。
「ラデン・ロレ。ヴァデダザ・ギョギザレシャゴション・シネシュゲシェギャデ」
不気味な声でそう言い残し、影が森の奥へと消えていく。
そして・・・影が立ち去った後に不気味な姿の怪物が二体、地面の中から現れていた。
 
<N県県警本部 18:36PM>
「あ〜〜〜、腹減った・・・」
刑事課と書かれた札のかかっている部屋の中、一人の男が机の上に突っ伏して情けない声を上げていた。
「せめて・・・ラーメンセット・・・」
力無い情けない声で呟いている。
部屋の中には人の姿はなく、この男一人しか居ない。
そこに一人の中年男が入ってきた。
「誰か居ないか・・と、国崎しか居ないのか」
「悪いか」
不服そうに言った中年男に机に突っ伏したまま言い返す男。
「まぁ、これくらいのことならお前で充分だろ。お前、今何も担当していないだろ?」
「悪かったな。誰も俺に付き合ってくれないからな」
「それはお前の素行に問題があるからだ。それはともかく、明日、お前は例の遺跡から発掘された出土品の警護をして東京まで行って来い」
「は?東京?」
ようやく男が身体を起こした。
「例の遺跡ってのはあの発掘団が皆殺しになった遺跡のことか?」
「そうだ。みんな朝からその捜査にかかりっきりになっているのにお前は何をして居るんだ?」
「別の事件の報告書を書いていたんだよ。気がついたら誰もいねーし」
「それはともかく、その遺跡で発掘されたものを東京の城西大学にまで運ぶからその警備にお前が行ってこい」
「はん、やなこった。そんな危なっかしいものの警護なんざお断りだね」
男はそう言うと立ち上がった。
「国崎、何処へ行く気だ?」
「今日のお仕事はこれでお終い。じゃさいなら〜」
男は椅子の背もたれにかけていた黒いコートを着るとそそくさと部屋を出ていこうとした。
だが、その肩を中年男が捕まえる。
「これは命令だ。いいな、国崎」
「・・・わかったよ。で、明日は何時に行けば良いんだ?」
「朝の九時からトラックに積み込みを始めるそうだ。だからその頃には現場に行っておけ」
「はいはい、じゃ、俺はこれで」
男はそう言うと肩に置かれた手を振り払って歩き出した。
その後ろ姿を見送りながら中年男はため息をついていた。
「全く・・・あれで警視庁きってのエリートだったとは信じられんな・・・」
 
<水瀬家 19:48PM>
ピンポーンとドアチャイムが鳴る。
ぱたぱたぱたと奥のリビングから玄関へと出てきたのは勿論この家の家主、水瀬秋子である。
ドアを開けた秋子はドアの外に立っていた人物を見て、にっこりと微笑んだ。
「お久しぶりです、秋子さん」
そう言って頭を下げたのは香里であった。
あの後、ホテルのロビーに隣接している喫茶店で中津川とこの後の予定・・発掘されたものの調査のために発掘品を東京の城西大学まで運ぶと言うこと、他にも香里に一度現場となった遺跡を見て欲しいと言うこと、を話した後、彼女はわざわざここにまで足を運んだのだ。
この家に来るのは彼女が高校を卒業して以来のことである。
「ふふっ、随分美人になったわね、香里ちゃん」
秋子が笑顔でそう言って香里を中に招き入れる。
久々に来るこの水瀬家は前に来たときと何ら変わりはなかった。
ただ・・・何というか寂しい気配が漂ってはいたが。
「この家にお客様なんて久しぶりだから何もおもてなしできないけど勘弁してね」
いいながらお茶を出す秋子。
「秋子さん・・・名雪の様子は?」
いきなり香里が話し出す。
まず気がかりになったのはこの事だった。
あの時、炎の中に消えていった祐一が最後に言い残した言葉に「名雪を頼む」という一言があったにもかかわらず香里は東京にでてきていた。
いわば祐一との約束を破ったのだ。
それに対する罪悪感があったせいか、彼女がこの家に来てまず気になったのは名雪のことであった。
「あの子は相変わらずですよ。今も夢の中で・・・」
そう言いながら秋子が香里の正面に座る。
心なしかその顔色はよくない。
「今度東京のお医者様に見ていただこうかと思っているの。流石に・・・心配だから」
「手伝えることがあったらいつでも声をかけてください。私、東京に住んでいますから」
香里がそう言ったので秋子は頷いた。
「ところで香里ちゃん・・・祐一さんのことだけど・・・」
今度は秋子から話しかけてきた。
「相沢君は・・・あの時に・・・」
香里は秋子にあの時のことを全て、自分が知る範囲で話していた。勿論、祐一の最後も。
「でも・・・死んだかどうかはまだわからないでしょ?」
「それはそうですが・・あの爆発の中で・・・」
「じゃ・・・今日私が見たのは一体何だったんでしょうね?」
そう言って秋子が頬に手を当てた。
「今日・・・見た・・・?」
香里が驚いたような顔で秋子を見る。
秋子は頷いて、
「今日祐一さんにそっくりな人を見かけたわ。髪の毛が伸びていて・・・後ろでくくっていたからちょっと見、感じが違って見えたけど」
「・・・まさか・・・?」
香里の脳裏に朝大学の近くの喫茶店で見かけた「祐」という青年のことが浮かび上がる。
確かに彼も髪を後ろでくくっていた。
それに・・・彼は香里もそう思ったくらい祐一にそっくりである。
「・・秋子さん、私も相沢君とそっくりの人を今日の朝、大学の近くで見かけました。その彼が秋子さんの見た彼と同一人物かどうかはわかりませんが・・・一度連れてきますから是非会って下さい!」
「え、ええ・・・いいけど」
香里の迫力に押されたのか秋子が少し引きながら答える。
それから二人はお互いの近況などを少しの間話し合っていたが、香里が翌日の予定のことを告げて、水瀬家を辞したのが夜の十時頃であった。
香里を玄関まで見送った秋子はドアを閉じると五年間目覚めない娘が眠っている二階を見上げた。
「名雪・・・祐一さん、生きているわよね?」
 
<N県遺跡発掘現場 08:36AM>
朝早くだというのにこの現場には大勢の人が集まり、忙しそうに作業を開始していた。
そんな中、中津川と香里は遺跡の内部に入っていた。
内部はいくつかの部屋に別れていたがその中でも一番広い部屋、その中央には傾いた石棺がある。
「この形は前の時の遺跡と全く変わりがない。あるとすれば部屋の数が違うと言うこと、そして書かれている古代文字だろう」
懐中電灯で照らしながら中津川が言う。
「古代文字に関してはわかります。確かに研究室で今私が解読しているもの以外の文字もかなりあるようですから。部屋の数に関してはどう言うことですか?」
中津川のすぐ後ろにいる香里がそう聞いた。
「前の遺跡は部屋はたった一つだけ・・・石棺のある部屋しかなかった。こちらにはいくつかの部屋がある。と言うことは石棺以外にも何か隠されている可能性がある、と言うことだ」
振り返りもせずに中津川が言う。
彼は香里に向かって話しながらも興味深そうに遺跡内部を見ているようだ。
「とりあえずこの部屋の分だけでもなんとか研究室に持って帰りたいですね」
香里が別のところを見ながら言う。
おそらく彼女の言っているのは古代文字のことだろう。
「そうすれば何がここに封印されていたのかわかりそうな気がします」
「そう言えば・・・石棺の中には何があったんだろうな?あの事件の後、警察が色々と持ち出したらしいが・・・」
石棺のそばに寄りながら中津川が言った。
香里も石棺に近寄り、中津川が照らしている石棺の表面を見てみる。すると、そこに見覚えのある古代文字を発見できた。
「先生・・・これ」
その文字を香里が指で指し示す。
「・・・『封印』を表す古代文字・・・だな」
「それとこの文字・・・・確か『戦士』でしたよね?」
別の文字を指して香里が言う。
頷く中津川。
「・・・どうやらまた、のようだな」
「・・・警察が持っていたものの中にベルトがあればいいんですが・・・」
「そして、そのベルトが・・・完成品であることを願うばかりだ」
二人が遺跡の外に出ると、一人の黒ずくめの男がぼうっと積み込み作業を眺めていた。
何かとてもこの場には不似合いであり、かなり浮いている。
「・・彼は?」
中津川が香里に聞くが、彼女も首を傾げ、更に肩をすくめただけである。
「私の知り合いじゃないですよ」
そう言いたげに。
仕方なさそうに中津川がその男のそばにまで歩いていく。
「そこの君、そこの黒ずくめの君だ」
そう言われて黒ずくめの男が中津川を振り返った。
かなり目つきが悪い。更にどことなく拗ねたような表情を浮かべている。
「君は一体何者だ?」
「・・・俺か?俺は国崎往人。N県警の刑事だ、こう見えても」
どうやら自分があまりにも刑事っぽくないことは一応理解しているらしい。
「あんたが城西大学の中津川さんか?俺が一応東京までの警備役を仰せつかった。よろしくな」
黒ずくめの刑事、国崎往人はそう言うとすっと右手を差し出した。
慌ててその手を握り返す中津川。
「こちらこそよろしく頼む」
「・・ああ、そうだ。あんたに見て貰いたいものがあるんだ。ちょっと来て貰えるか?」
国崎はそう言うと中津川を自分が乗ってきた車に誘った。
「ああ・・・美坂君・・?」
中津川が振り返り、自分の教え子の姿を探したが、彼女の姿はそこになかった。
「・・・・・」
仕方なく、頭をかきながら中津川は先に歩き出している国崎を追って彼の車を目指した。
 
<森の中 08:58AM>
中津川と国崎が話をしている間、香里が何気なく辺りを見回しているとじっとこっちを見ている人影があることに気がついた。
その人影は香里に気がつくと、森の中へと逃げるように走り出した。
普段なら気にしない香里だが、何か引っかかるものがあったのか、香里はその人影を追いかけて森の中へと入っていった。
「ちょっと〜、出て来なさ〜いっ」
そう声をかけながら森の中を進んでいくと、何時しか彼女は大きな切り株の前へと出てきていた。
「・・・・・・ここは・・・?」
周囲を見回してみて、香里はこの場所を知っていることに気がついた。
昔、この場所には街を見下ろすほどの大きな木があったが何年か前・・・確か12年前、この木から幼い子供が落ち、意識不明の重傷を負ったと言うことで切り倒された・・・その跡である。
切り株からは小さな芽が少しだけ生えていたがこれが昔のように大きくなるにはもっと歳月が必要なのだろう。
そんなことを思いながら切り株に手をやる。
その瞬間、彼女の脳裏に何かがひらめいた。
幼い少年と少女。
少女が木に登って街を見ている。
少年が心配そうにその少女を見上げている。
そんなヴィジョン。
はっと切り株から手を離す香里。
「・・・あれは・・・」
今見えたヴィジョンの中の少年に、彼女は見覚えがあった。
(あれは・・・名雪のアルバムの中で見た・・・昔の相沢君!?)
「それはこの木に記憶されているほんの一つに過ぎないよ、お姉さん」
いきなり後ろから声がしたので香里が振り返ると、そこには背の低い女の子が立っていた。
逆光になるので顔立ちなどはよくわからないが、声から女の子だとわかる。
「・・・どう言うこと?」
不審げに香里が聞き返す。
「この木が・・・12年前までの大きさになるまでどれくらいの月日が必要だと思う?それは膨大な月日が必要なんだ。つまり、それだけ長生きしているって事。それだけ長生きしてるって事はそれだけ多くのことを知っているって事」
少女が言う。
「お姉さんは少しだけ知る権利を持っているんだよ。だからもう一度、木に手を当ててみて」
香里は少女に言われるままに切り株に触ってみた。
すると今度は・・・異形の姿の怪物達と戦う一人の戦士の姿がヴィジョンとなって彼女に頭に流れ込む。
その戦士の姿は5年前、彼女達を守って必死に戦った相沢祐一の変身した姿・・・カノンにそっくりである。
再び、はっとなった香里が手を離す。
そして振り返るがそこにはもう誰も居ない。
「・・・・今のは・・・・?」
その質問に答えるものは誰も居なかった。
 
<諏訪湖SA 10:58AM>
まだ午前中だというのにその日の諏訪湖SAは人が多かった。
そんな中、駐車スペースに一台のトラックと黒塗りの車が入ってきた。
その二台は他の車から少し離れた位置に停車し、車内から香里と中津川、そして国崎が出てきた。
「あー、やれやれ。長時間の運転は疲れるぜ」
「あんた、運転してないでしょ?」
大きく伸びをしている国崎に向かって容赦なく言い放つ香里。
ここまで運転していたのは実は香里だったのだ。
「あんた、警備役なんでしょ?」
「だからこそ、俺が疲れていたらダメなんだろ?さ、とりあえず休憩だ」
国崎がそう言ってさっさとレストハウスの方へと歩いていく。
あきれたように肩をすくめ、香里と中津川が後に続いた。
三人がレストハウスの中に消えていったのとほぼ同じ頃、一台の軽トラックが諏訪湖SAに入ってきた。
「すっかり遅くなったなぁ・・・マスターに怒られるよ、これじゃ」
助手席に座っている青年がそう言って停車したトラックから降りた。
「何を言っているんだ。お前がもっとなぁ・・・」
運転席の中年男が自分も降りながら青年に向かって言う。
荷台には泥だらけのオフロードタイプのバイクが固定してあった。何度も転んだようでかなり傷だらけである。
「祐の字、お前がもっと俺を納得させられるだけのタイムを出してくれれば問題なかったんだよ」
「本坂さん・・・無茶言わないでくださいよ。俺、バイクの免許持ってるって言っても何時とったかの記憶もないんだから」
「それでもあれだけ乗れれば大したもんだ。まぁ、今回は納得行かなかったが次は・・・」
「まだやるの?」
祐の字と呼ばれた青年・・・祐は少しイヤそうな顔をして本坂と呼んだ中年男を見た。
「当たり前だ!こいつの本当の性能をお前はまだ俺に見せていないからな!」
本坂が怒ったようにそう言って祐を見る。
「はいはい・・・」
二人がそう言うやりとりをしながらレストハウスに向かって歩いていくとレストハウスの方から一人の男が駐車場に向かって歩いてきた。
その男、全身黒ずくめのライダースーツを着、首に白いマフラーを巻いて、サングラスをかけて人相がわからなくなっている。だが、年齢は若そうだ。祐や香里とそう変わりがないだろう。
祐と黒いライダースーツの青年がすれ違う。
一瞬・・・ほんの一瞬だけだが二人の間に何かが走った。
だが、それはお互い、本人すら気がつかないほどの小さなもの。
しかし、確実に運命の歯車が一つ、回っていた・・・。
黒いライダースーツの青年は駐車場の一番レストハウス寄りにあるバイク置き場に止めてあったオンロードタイプのバイクに跨ると、バックミラーにかけてあったヘルメットを手に取った。
ヘルメットをかぶろうとして、青年はサングラスを外し、空を見上げた。
空は雲一つないほどの晴天である。
だが、青年はそこに何かを見つけたかのように険しい顔をする。
少しの間青年は空を見上げていたが、やがてヘルメットをかぶり、サングラスをかけ直す。
「まだ・・・俺には関係ない・・・」
そう呟き、青年はバイクのエンジンをスタートさせた。
青年のバイクが出ていくのと入れ違いに今度はかなり大きめのトレーラーが入ってきた。
その荷台には大きく「倉田重工」の文字が書かれている。
「あ〜〜〜〜〜〜、疲れたって言ったらありゃしない!」
荷台のドアが開いて中から七瀬留美が出てきた。
今は自衛隊の制服ではなく、ごく普通のスーツ姿をしている。
「旅の楽しみって言ったら外の風景を眺める事じゃないの?だのにどうして私たちはこのトレーラーの中で・・・」
「七瀬さん、仕方ないですよ」
続いて出てきた斉藤が苦笑して言う。
彼も制服ではなく、ラフな格好をしている。
「このトレーラーの実践テストも兼ねていますからね」
「そう言うことを言わない!」
ぴしっと斉藤に指を突きつけ留美が言う。
「私たちのことはまだ極秘扱いなのよ!それを軽々しく口に出さないの!でないと・・・」
そう言いながら留美が斉藤のこめかみに拳をぐりぐりと押し当てる。
「痛いです、痛いです、七瀬さ〜んっ!!」
斉藤が泣きそうな声で言う。
「その辺で勘弁してあげたらどうですか、七瀬さん」
そう言ってまた一人荷台から降りてきた。
彼はジーンズのジャンパーにジーンズというかなりラフな格好をしていた。
「北川君。こいつにはそんな甘い顔をする必要はないわ」
容赦なく留美が言う。
「そうでないと増長するもの」
「酷い言われようだな、斉藤」
そう言って北川潤が笑った。
「完全に他人事ですね、北川さん・・・」
斉藤が恨めしそうに北川を見る。
「まぁ、とりあえず休憩にするわよ。この後、何時こんな休憩がとれるかわからないからね」
留美がそう言って男二人を引き連れてレストハウスに向かって歩き出す。
三人が歩き出して程なく、レストハウスからこれまた三人一組が出てきた。誰あろう、香里、国崎、中津川の三人である。
ちょうど両者は入り口でばったり出会うこととなった。
「失礼」
そう言ったのは国崎である。
ちょうど先頭を歩いていた彼はさっと留美達を一瞥すると、そのまま外に出ていった。
続いて外に出ようとした香里がこっちの出るのを待っていてくれている三人組を見て、はっとした顔になる。
それは相手の出ていくのを待っている三人組の一人、北川も同じであった。
「・・・美坂?」
「・・・北川君?」
二人の間で時間が止まる。
「・・・・・・久しぶりね」
先に沈黙を破ったのは香里だった。
「ああ、卒業以来だな」
素っ気なく北川が答える。
「今までずっと連絡がなかったけど、何をしていたの?」
「お前こそ・・・相沢との約束を果たしているんじゃなかったのか?」
お互いにどこか険を含んだ口調である。
「名雪はあれからもずっと眠り続けているそうよ。少なくても私は・・・」
「お前が相沢との約束を守ってくれていると思っていたんだがそうじゃなかったのか・・・だったら俺のことをとやかく言う権利はないな」
北川は香里に最後まで言わせずそう言って中に入ろうとした。
「待ちなさいよ!」
そう言って香里が北川の腕を掴む。
「一体今まで何処で何をしていたの?あなたも相沢君に名雪のことを頼むって言われたんでしょ!?」
「・・・俺は・・・あの時に言ったことを・・・実践するために努力をしていただけだ」
そう言って北川が香里の腕を振り払う。
と、その時・・・空から何かが飛び降りてきた。
駐車場に止めてある一台の車の屋根の上に降り立ったのは・・・奇怪な姿の怪物であった。
全体的なイメージは・・・爬虫類を思わせる。しかもヤモリとかイモリとか言った・・・そんな感じの。
「な・・・何だ、あれは・・・?」
誰かがそう言った。
ヤモリの怪物、ギャソヂ・バカパは周囲を見回すようにキョロキョロしていたが、やがて車の上から降りると思いの外素早い動きで近くにいる人に飛びかかった。
「危ないっ!!」
そう言って駆け出す北川。
「北川君、何処に行くの!?」
留美が走り出した北川に向かって叫ぶ。
「あの怪物を止めます!」
「無茶言わないで!」
「だったら・・・あれを!!」
北川が足を止めて留美をじっと見る。
「許可なしにあれを起動させるのはちょっとまずいと思いますけど・・・」
そう言ったのは斉藤だ。
初めて見る怪物にかなりびくびくしているのがわかる。
留美は少しの間考えていたが、ギャソヂ・バカパに襲われている人を見てようやく決意を決めたようだ。
「斉藤君!あれを起動させるわ!良い実戦訓練よ!!」
敢然と言い放ち、自らもトレーラーに向かって走りだした。
北川も頷いて、トレーラーに走り出す。
そして、斉藤も頭を低く、怪人に見られないようにトレーラーへと向かった。
「・・・先生、あれは・・・」
今だレストハウスの入り口辺りにいる香里が突如空から振ってきた怪人を見て呆然と呟いた。
「あれが・・・・封印されていたのか?しかし、どうやってここまで・・・」
中津川がそう言って空を見上げて、顔色を変えた。
「み、美坂くんっ!!」
そう言って空を指差す中津川。
香里がその声を聞いて空を見上げ・・・顔色を変える。
そこには・・・もう一匹の怪物がぐるぐると円を描くように飛んでいたのだ。
「まさか・・・また?」
「・・・美坂君、あいつらの狙いはなんだと思う?」
「狙い・・・?」
「ああ、前の時はゲームと称してたくさんの人を傷つけていたが、今度はどうだ。わざわざここにまでやってきた。同じ事をするならわざわざここまで来る必要はないだろう」
「と言うことは・・・」
「我々がここまで運んできたものの中に奴らにとって厄介なものがある、と言う事じゃないか?そう、例えば・・・ベルト、とか?」
そう言って中津川がニヤリと笑う。
「先生、まさか・・」
香里が驚いたような顔で彼を見た。
「相沢祐一君が命を懸けた戦いに私は何もしてやれなかった。だが、今度は違うぞ。この私が・・・」
中津川がそう言ったとき、空にいた怪人が急に降下してきた。
黒い翼を持った怪人、ガダヌ・シィカパは地上に降り立つとギャソヂ・バカパと違って真っ直ぐに中津川達が乗ってきた車とトラックに向かって走りだした。
「いかん、奴に気付かれた!」
そう言って中津川が走り出す。
先に出て、車に乗り込もうとしていた国崎は自分の方に向かってくる怪物を見ると一瞬目を丸くしたがすぐに腰の後ろのホルスターから拳銃を取り出し、構えた。
「止まれ!止まらないと、本気で撃つ!!」
そう言うがガダヌ・シィカパは勿論止まらない。
「カサン・ヌヅマ!!」
そう言って両手を振り上げるガダヌ・シィカパ。
それを見た国崎は何の躊躇もなく引き金を引いた。
銃弾がガダヌ・シィカパに襲いかかるが、その全ての銃弾をガダヌ・シィカパの身体の表面が跳ね返してしまう。
「何ッ!?」
驚きの声を上げる国崎。
再び拳銃を構えようとする国崎にガダヌ・シィカパが近寄り、その手をものすごい力で押さえつけた。
もう片方の空いている手で国崎の首を掴み、そのまま、彼を後方へと投げ飛ばす。
大きく宙を舞い、国崎は停めてある車の屋根へと叩きつけられた。
「くあ・・・」
うめき声を上げる国崎。
その時、レストハウスの中から騒ぎを聞きつけたらしい人々が我も我もと出てきた。その中には本坂と祐もいる。
「何の騒ぎだ、一体?」
本坂がそう言って身を乗り出す。
そこにいきなり一人の人間が投げつけられてきた。
ギャソヂ・バカパが放り投げたのだ。
いきなりの事だったので誰もその投げられた人を受け止めることが出来ず、押し倒されてしまう。
押し倒された人たちの向こうにギャソヂ・バカパが悠然と立ち、レストハウスの方を見つめていた。
その視線の先に、祐の姿があった。
祐は怪人をじっと見返している。その目には恐れや恐怖など微塵もない。
「お、おい、祐の字、止せ!」
本坂が叫ぶ。
「本坂さん、バイク、借ります!!」
祐はそう言うと、すぐに乗ってきたトラックに向かって走りだした。
その頃、北川達はトレーラーの内部で特殊装甲服、PSK−01を起動準備を完了させていた。
「初めての戦闘になるけど大丈夫?」
留美がPSK−01を装着した北川に声をかける。
「大丈夫です・・・それに・・・戦闘は昔経験していますから」
そう答えた北川に不審そうな顔を向ける留美と斉藤。
「無事に戻って来れたら話しますよ」
北川はそう言うと、最後のパーツであるヘルメットを手に取った。
「私たちはこのトレーラーに設置されたカメラでモニターしているから。安心して戦ってきなさい!」
「了解!」
そう言ってヘルメットを装着する北川。
PSK−01の完成である。
「最優先事項は人命救助、戦闘は二の次。良い?」
「了解!」
トレーラーの後部が開いて専用の大型拳銃を構えたPSK−01が表へと躍り出た。
そして、素早くギャソヂ・バカパを確認すると、拳銃を向けた。
「オートマグナムスタンバイ!マシンガンモード!!」
銃身に付いているモード切り替え装置をいじってマシンガンモードに替えてからPSK−01は引き金を引いた。
後ろからその銃弾を受けたギャソヂ・バカパが仰け反り、吹っ飛ばされる。
倒れたギャソヂ・バカパを見て、PSK−01は銃を下ろし、一歩一歩近寄っていく。
すると、倒したと思ったギャソヂ・バカパがいきなり立ち上がり、PSK−01に向かって飛びかかってきた。
「くっ!!」
いきなりの反撃にPSK−01の対応が遅れる。
為す術もなく押し倒され、馬乗りになったギャソヂ・バカパがその胸に手をついて、ジャンプした。空中で口を開き、舌を伸ばす。
PSK−01は必死に身体を捻ってその舌の一撃をかわしたが、ギャソヂ・バカパの舌はアスファルトの地面に穴を穿っていた。
「何て威力だ!!」
穿たれた穴を見てPSK−01が呟く。
『まともにあの一撃を食らったらPSK−01の胸部装甲でも危険よ。北川君、気をつけて!!』
留美が無線でPSK−01に呼びかける。
だが、着地したギャソヂ・バカパは素早い動きでPSK−01へと接近し、舌での一撃を食らわせていた。
PSK−01の胸部装甲から火花が飛び、一条の傷が付けられる。
よろけるPSK−01。
そこへ一台のバイクが突っ込んできた。
前輪を浮かせたまま、そのバイクはPSK−01とギャソヂ・バカパの間に割って入り、前輪を地面に落としてアイドリングする。
他でもない、祐である。
彼はギャソヂ・バカパと戦うPSK−01を見ていたが、そのまま突っ込んできたのだ。
「何のつもりだ!民間人は下がれ!!」
PSK−01が祐にそう言うが、祐は振り返りもしない。
「マヲジャ・ロサレバ?」
ギャソヂ・バカパが首を傾げながら言う。
言いながらも一歩一歩祐達に迫ってきている。
祐は相手との間合いを計りながらエンジンの回転をあげていた。そして、ギャソヂ・バカパが近寄ってくるのを見て、一気にアクセルを吹かし、ギヤをニュートラルからファーストへとあげた。
ものすごい勢いで前輪が跳ね上がり、そのまま、祐のバイクはギャソヂ・バカパを跳ね飛ばした。
「今だ!!」
祐が後ろにいるPSK−01にそう言う。
「お、おう!!」
PSK−01は一瞬呆気にとられていたがすぐに気を取り直して、銃を構えた。そして引き金を引く。
ものすごい勢いで発射された弾丸がギャソヂ・バカパの身体に叩き込まれていく。その度にギャソヂ・バカパの身体がぴくぴくと痙攣する。
「これだけやれば・・・」
PSK−01が全ての銃弾を使い果たした銃口を上へと上げる。
その間にも祐はもう一体の怪人、ガダヌ・シィカパのいる方へとバイクを走らせていた。
ガダヌ・シィカパはトラックの荷台のドアをこじ開けようと先程から苦戦しているようだった。
その後ろから祐はバイクで突っ込んでいた。
いきなりの事にガダヌ・シィカパはかわすことも出来ずに吹っ飛ばされてしまう。
バイクをその場でアイドリングさせて、祐は倒れたガダヌ・シィカパを見た。
そこに中津川と香里がやってきた。
「大丈夫か、君?」
中津川が声をかけると、祐は
「俺はいいからあの人を!」
そう言って倒れている国崎を指差した。
「・・・あなた!」
不意に香里が祐を見て声を上げた。
「あ・・・昨日のお客さん・・・」
祐は今まで浮かべていた険しい表情を急に穏やかな笑顔に変えて香里を見た。
「こんなところで会うなんて奇遇ですね」
「そんな事言っている場合じゃないわ!あなた、今何やっているかわかっているの?」
「わかっていますよ。俺で出来ることを精一杯やっているだけです」
そう祐が言ったとき、ガダヌ・シィカパが立ち上がり、祐に向かって飛びかかってきた。
香里と話していて、そっちにまで気を向けていなかった祐はあっけなく吹っ飛ばされる。
「相沢くんっ!!」
思わず香里は叫んでいた。
吹っ飛ばされた祐が、かつて命がけで彼女達を守ってくれた相沢祐一と重なって見えたのだ。
「こうなれば・・・やるしかない!!」
中津川はそう言うと荷台のドアを開け、中に入ろうとした。
そこにガダヌ・シィカパが飛びかかり、中津川を地面へと引きずり下ろす。
「このっ!!」
香里がガダヌ・シィカパの後ろから飛びかかるが、あっさりと、振り払われてしまう。
ガダヌ・シィカパが荷台へと登ろうとしたとき、今まで倒れていたはずの国崎がその背中に飛びかかっていた。
首筋にしっかりと腕を回し、ガダヌ・シィカパを地面に引きずり下ろそうとするが、ガダヌ・シィカパの力と国崎の力は比べものにならなかった。
ガダヌ・シィカパが片腕で国崎の腕を掴み、またあっさりと振り払い、自らは完全に荷台へと登ってしまう。
「ああ・・・」
絶望的な声を上げる中津川。
倒れたまま、呆然と荷台を見上げる香里。
国崎はまたも立ち上がろうそしている。
その一方でPSK−01は再び立ち上がってきたギャソヂ・バカパの猛攻に晒されていた。
各部の装甲は傷だらけになり、トレーラーの中でモニターしている留美や斉藤にもピンチだと言うことがわかる。
『北川君!ダメよ、これ以上のダメージはあなたの生命に危険が!!』
留美が叫ぶ。
しかし、PSK−01の中の北川はまだ戦おうとしていた。
(こんなもんじゃ・・・あいつの戦いはこんなもんじゃなかったんだ!俺はまだ倒れるわけにはいかないんだよ!!)
ギャソヂ・バカパの舌が又PSK−01に直撃する。
火花を散らしながら倒れるPSK−01。
「くう・・・・」
流石に今度は立ち上がることすら出来ないPSK−01。
ギャソヂ・バカパはそれを見るとガダヌ・シィカパが消えたトラックへと近寄ってきた。
その時!!
荷台のドアを突き破ってガダヌ・シィカパが表へと吹っ飛ばされてきた!!
地面に叩きつけられたガダヌ・シィカパだがすぐに上半身を起きあがらせ、荷台の方を睨みつけた。
誰もが突然のことに唖然としている中・・・荷台の奥から光が漏れてきた。
その光は何かから発せられているようだ。
「・・・・まさか・・・?」
中津川が呆然と呟く。
「な、何なの?」
その光はトレーラーの中にいる留美達にも確認できた。
荷台の中から・・・白い姿の戦士が・・・一歩一歩姿を現していく。
純白といっても良いほど白いボディアーマーに身を包み、白い手甲とナックルガードをつけ、足首には赤い宝石をはめ込んだアンクレットをつけた戦士。頭は赤く大きな目、牙のような意匠の口、金色の輝く角を持った仮面。
腰には光を放つベルト。
手甲とナックルガードの間、ちょうど手首の部分にも赤い宝石が確認できる。
「・・・カノン・・・」
その姿を見た香里が呟いた。
五年前、彼女達を守って戦った相沢祐一が変身した戦士・カノン。
その姿とほとんど変わりがない。
「・・・・・カァノォン・・・・」
低い声でガダヌ・シィカパが言う。
「一体誰が・・・?」
香里の疑問に答えるものは今はいなかった。
 
この駐車場を見下ろせるほど大きな木の枝に一人の少女が腰掛けていた。
赤いカチューシャをしたその少女はトラックの荷台から現れた戦士を見て、くすっと笑みを漏らす。
「始まったんだね、遂に」
嬉しそうに呟く少女。
「運命の輪がどうゆう風に回るのか、楽しみにさせて貰うよ、カノン♪」
 
Episode.7「転生」Closed.
To be continued next Episode. by MaskedRiderKanon
 
次回予告
現れた謎の白い戦士。
二大怪人を相手にその力が見せつけられる。
香里「あなたが・・・そうなの?」
北川「俺は間違ったことをしたとは思ってない!」
人類に迫り来る恐るべき敵。
祐「それを怖いと思ったこと、ありませんか?」
瑞佳「大丈夫だよ・・・多分」
新たな運命の輪が回るとき、戦士・カノンは復活する!
次回、仮面ライダーカノン「復活」
白き奇跡、再び・・・!


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