<学校・校庭 10:38AM>
美坂香里が両手を合わせて目を閉じる。
まるで神に祈るかのように。
その少し離れた場所で、カノンと青龍の戦いが始まろうとしていた。
お互いに身構え、走り出す。それぞれ右手を振り上げて、渾身の力を込めたパンチを繰り出すと、そのパンチはほぼ同時に互いの胸に命中した。
だが、倒れたのは青龍の方であった。
どうやらカノンの方がパワーは上のようだ。
二、三歩よろめいたカノンだが、すぐに体勢を整えると倒れた青龍にキックを浴びせようとする。
慌てて後ろへと転がり、そのキックをかわした青龍はその勢いを利用して立ち上がると中国拳法のような構えをとった。そして、カノンに向かって飛びかかっていく。
左右の手を振り上げ、カノンに襲いかかるが、カノンは両手で青龍の手を受け止め、がら空きになった胴に膝を叩き込む。
更に首筋に肘を落とし、青龍の首を手で抱えると、後ろへと投げ飛ばした。
地面に叩きつけられ、転がる青龍。
それを見て、カノンは何かおかしいと思っていた。
(最後の一体がこんなに弱いはずはない・・だが・・・早いうちに決着をつけるに越したことはないっ!!)
さっと身構え、カノンは必殺のキックを放つ体勢に入った。
このキックは二度三度と出来る技ではない。全身のエネルギーを足先に集中させるため、その後の戦闘にかなりの影響をもたらす諸刃の剣なのだ。
「決めるしかないっ!!」
カノンが走り出す。
 
仮面ライダーカノン
Episode.6「炎上」
 
<学校・校庭 10:41AM>
走り出したカノンを見た青龍はさっと左右に目を走らせ、近くに張ってあった黄色と黒のロープ、通称タイガーロープを見つけるとそれに向かって手を伸ばした。
すると・・・タイガーロープが独りでに浮き上がり、青龍の手に収まった。
それを持った青龍がニヤリと口を歪めて笑う。
青龍の手の中でタイガーロープが一瞬ぼやけ、次の瞬間にはそれが青い鞭と化する。
その間にもカノンは間合いを詰めており、今ジャンプしたところであった。
空中で一回転するカノンめがけて、青龍が青い鞭を放つ。
その鞭はカノンの首に巻き付き、カノンを地面へと叩きつけた。
「く・・・一体何だ?」
必殺のキックを邪魔され、なんとか片膝をついて身体を起こすカノン。
一体何が起きたのかよくわかっていないようだ。
その右手首に再び青龍が振るった鞭が巻き付く。
「何ッ・・・うわっ!!」
驚く間もなく、鞭が引っ張られて前のめりに倒れるカノン。
青龍が鞭を手繰り寄せたのだ。
倒れたカノンに向かってジャンプする青龍。その両足でカノンの背を踏みつけようと言うのだ。
素早く起きあがったカノンは横に転がり、青龍の足をかわす。そして、着地したばかりの青龍の背に横になったままキックを食らわせ、青龍をよろめかした上で、素早く立ち上がる。
立ち上がると同時に右手首に巻き付いた鞭を引き剥がすカノン。
そして、再び身構えると、青龍に向かって走りだした。
懐に入り込んでしまえばその鞭が使えない、と考えてのことである。
だが、青龍は鞭をその場に捨てると、ジャンプしてカノンを飛び越えた。そして、そのままカノンに背を向けて走り出す。
「・・・逃げる気かっ!!」
すかさず反転して青龍を追うカノン。
青龍は校舎の補修用の資材が置いてある場所まで来ると、立ち止まった。振り返り、カノンが来るのを待ち受ける。
「へっ・・・ようやく追いかけっこはお終いか?」
カノンがそう言って身構える。
「・・・無敵の鎧の玄武、赤き空の女王・朱雀、血に飢えし野獣・白虎・・・我が同胞を倒したその力・・・見極めさせて貰う!!」
青龍の口から・・・変身前とは違う、太い声が吐き出される。
「大いなる魔・青龍の力を見よ!!」
そう言った青龍は後ろの資材の中から適当な長さの棒を手に取った。
それを両手で握り締まると、その棒の姿がぼやけ、一瞬の後に青いロッドへと変化する。
「これが我が能力・・・手にしたものを武器へと変える・・・さぁ、覚悟しろ、カノン!!」
ロッドを振り回しながら青龍がカノンへと迫る。
回転するロッドはものすごい早さで、風すら巻き起こしている。
(・・・こいつ・・・接近戦の弱さをカバーする為に武器を持つことが出来るのか・・・)
カノンはじりじりと後退しながら相手の隙を伺う。
青龍がロッドの回転を止め、両手でしっかりと握り、カノンに襲いかかった。
突き出されるロッドを間一髪かわすカノンだが、すかさずジャンプしてきた青龍はロッドの反対側でカノンの方を打ち据える。更に、また逆の端でカノンを叩き上げる。
大きくのけぞったカノンの腹にロッドを突き込み、そのまま、持ち上げて投げ飛ばしてしまう。
地面に叩きつけられたカノンは再び振り下ろされようとしていたロッドを横に転がることでかわしたが、青龍はそんなカノンを追うように何度もロッドを振り下ろす。
何度も転がりながらカノンは必死でロッドをかわしていたが、そのうちに壁際まで追いつめられてしまったていた。
青龍のロッドが振り下ろされる。
意を決したカノンは両手を交差させてロッドを受け止めると、その状態からなんとか立ち上がった。
そして、青龍の腹のキックを食らわせると、後方の壁に向かってジャンプする。
よろめいている青龍に壁を蹴って勢いをつけたカノンのパンチが炸裂した。
吹っ飛ばされる青龍。
その手からロッドがこぼれ、元の棒へと戻ってしまう。
それを見たカノンが青龍へと飛びかかる。
よろよろと立ち上がろうとしていた青龍に体当たりし、そのままもつれ合ったまま倒れるがお互いに相手を組み伏せようとごろごろと転がった。
だが、互いに決め手が無く、両者は離れると素早く立ち上がった。
お互いに肩を上下させ、荒い息をしている。
睨み合ったまま、どちらともなく右方向へと走りだした。
ある一点でまるで申し合わせたようにジャンプ、空中で交差するカノンと青龍。その一瞬にも互いにパンチやチョップを繰り出している。
着地すると同時に振り返り、再び睨み合う。そして、両方ともその場に片膝をついてしまった。ダメージは互角のようだ。
(ハァハァハァ・・・このままじゃ駄目だ・・・)
青龍を睨みながらカノンは考える。
彼の身体に変調が訪れ始めていた。
やけに呼吸が上がり、心臓の鼓動も早くなってきている。気を張っていないと今にも身体中の力が抜け落ちそうだった。
(早く・・・ケリをつけないと・・・)
一方青龍はカノンを睨みつつも、周りに注意を向けていた。
格闘能力ではカノンに劣る青龍が今同等の力を発揮できるのはカノンがかなり弱ってきている証拠だった。
だが、青龍は油断しない。
同胞である玄武・朱雀・白虎を倒した油断ならない相手だからだ。
その視線が、カノンの向こう側にある資材置き場を捉えた。
ニヤリと笑う青龍。
すっと右腕を伸ばす青龍。
カノンは何事か、と身構えるが彼自身には何も起きない。
何かが起きているのは後方の資材置き場だった。
鉄パイプが一本宙に浮かんでいる。そして、それはカノンめがけて一気に後方から襲いかかった!
「相沢、危ない!!!」
不意に聞こえる声。
それに従うようにその場でジャンプするカノン。
その真下を鉄パイプがくぐり抜けていく。
着地したカノンが声のした方を見ると、そこには北川潤がニヤリと笑って立っていた。
カノンの視線に気がつくと、右手の親指を立ててみせる。
頷き、カノンも右手の親指を立てて見せた。
青龍は飛んできた鉄パイプをキャッチするとカノンを見た。
「そろそろ決着をつけよう・・・これで終わりにしてやる」
そう言った瞬間、青龍の手の中で鉄パイプが長剣へと姿を変えた。
カノンは青龍の持つ剣を見ると、すかさず自分も後ろに下がって、鉄パイプを手に取った。
武器には武器、そう考えてのことだ。
「うおおおっ!!」
雄叫びをあげながら青龍に突っ込んでいくカノン。
がむしゃらに鉄パイプを振り下ろすが、それをあっさり剣で受け止めてしまう青龍。
そして、左手をすっと前に出すと・・・触れてもいないのにカノンの身体が吹っ飛んでいく。
資材置き場に突っ込んでしまうカノン。
それを見て、青龍がゆっくりと近寄っていく。
その手に握られた剣が禍々しい光を受けて反射している。
「相沢、立て!そんなところで倒れている場合じゃないだろっ!!」
北川が叫ぶ。
彼からは青龍と資材が邪魔でカノンの姿は見えなかった。
今、彼に出来ることと言えば・・・カノンを応援することだけである。
「相沢ッ!!」
青龍が剣を振り上げ、一気に振り下ろす。
だが・・・カノンは鉄パイプでその一撃を受け止めていた。
両足をそろえて、青龍の胸板を蹴りつけ、カノンは素早く起きあがる。
二、三歩よろけた青龍だったがすぐにカノンへと目を向けて、剣を構えた。
カノンも鉄パイプを両手に持ち、身構える。
何度めかの睨み合い。
北川は声もなくただ見守ることしかできない。
じりじりとお互いの距離が狭くなる。
「死ね、カノン」
青龍が剣を振り上げた。
「うおおおっ!!」
カノンが鉄パイプを振り上げる。
両者が同時に武器を振り下ろす!
だが・・・青龍の剣はカノンの持つ鉄パイプをあっさりと切断し、更にその剣先がカノンのボディアーマーを切り裂いていた。
がっくりと膝をついて、その場に倒れるカノン。
倒れた彼の身体の下から血が広がっていく。
「あ・・・あ・・・あい・・ざわ・・・?」
呆然とその様子を見やる北川。
青龍は倒れて動かなくなったカノンを見ると、その剣を逆手に構えた。
カノンにとどめを刺そうと言うつもりらしい。
「・・・や、やめろっ!!」
そう言って北川が走り出す。
彼は倒れているカノンのそばまで来ると、両手を広げて彼をかばうように青龍の前に立った。
「決着はついた!もう充分だろっ!!」
「・・・どけ」
冷徹に言い放つ青龍。
「どくものか!こいつは今まで必死に俺達を守ってくれたんだ!自分自身がどれだけ傷つこうと・・・誰も理解してくれなくても・・・俺は・・・こいつの親友だ!そう簡単にこいつをやらせるわけにはいかないんだよ!!」
北川はそう言って青龍を睨みつける。
だが青龍はひるまない。
「・・・どけ。人間風情が口を挟む問題ではない」
「どかねぇって言っただろ!それに・・・ここに倒れている奴も、人間だ!てめぇみたいな怪物じゃねぇんだ!」
青龍は北川を見、無表情に空いている左手をすっと持ち上げた。そして・・北川を張り飛ばす!
北川の身体はあっさりと吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられる。
「く・・・」
何とか起きあがり、口の端から流れる血を手の甲でぬぐい去り、再びカノンのそばに駆け寄ろうとするが、青龍は左手を彼に向けて気合いを放った。
それだけで吹っ飛ばされる北川。
しかし、彼はまた立ち上がる。だが、それまでだった。
彼の身体は彼自身の言うことを聞かず、その場に崩れ落ちてしまう。
「くそ・・・俺に・・俺にも力があったら・・・」
涙を流しながら北川が呟く。
「相沢君!立って!!」
「相沢、立てよ!!」
「相沢さん、立ってください!!」
不意に声が聞こえた。
北川が必死に顔を上げると・・・いつしか生徒達が倒れているカノンととどめを刺そうとする青龍を中心にして集まっていた。
そこには・・・彼のクラスメイトや、そうでないものさえいた。
「祐一、立って!」
「祐一さん、立ってください!!」
川澄舞や倉田佐祐理の姿もそこにはあった。
「相沢さん・・・負けないでください!!」
天野美汐の姿もある。
「相沢君!立ってぇっ!!」
美坂香里の一際大きい声が響く。
今、この場にいるものの気持ちが一つになっていた。
その思いを受けたのか・・・倒れているカノンの手がぴくっと反応を示す。
それが何度か続いた後、その手がゆっくりと握り込まれる。
一方青龍はとまどいを隠せなかった。
この場に集まった人の声に。
この場に集まった人の思いに。
「一体・・・何だ・・・これは・・・?」
二、三歩後ずさる青龍。
その足を、何かが掴んだ。
びくっとして足元を見ると、カノンがその足首を掴んでいる。
「何処へいく気だ?」
そう言ってカノンが一気に立ち上がった。
勿論、青龍はその場に倒されてしまう。
カノンの身体は胸の傷から流れる血で赤く染まっていた。だが、傷自体はもうふさがっている。
立ち上がったカノンを見て、歓声が上がった。
青龍は信じられないと言った様子でカノンを見上げていたが、すぐに気を取り直し、剣を構えて立ち上がった。
「今度こそ、殺す!」
そう言って剣を振り上げる青龍だが、カノンはその場に立ったままかわそうともしない。
一気に振り下ろされる剣。
それを両手で挟んで受け止めるカノン。
真剣白羽取りというものだ。
剣を挟んだ手を左へと持っていき、がら空きになった青龍の胴にキックを食らわせる。
思わず剣から手を離し、よろける青龍に剣を投げ捨てたカノンのパンチが襲いかかった。
一発、二発、三発、何度も叩き込まれるカノンのパンチ。そして、身体を沈ませて反転しながらのキック。
吹っ飛ばされ倒れる青龍。
それを見たカノンが身構えた。
必殺のキックの体勢である。
「うおおおおおっ!!」
雄叫びをあげながら走り出すカノン。
よろよろと起きあがろうとする青龍との間合いを充分計った上でジャンプ。空中で一回転した後右足を前へ突き出す。その足が光に包まれ・・・立ち上がったばかりの青龍の胸を直撃した!!
吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられる青龍をバックに着地するカノン。
青龍はよろよろと立ち上がるとカノンに向かって指差した。
「これで最後だと思うな、カノン・・・ゲームは・・・まだ終わらない」
その言葉を継げると青龍は両手を広げて天を仰いだ。
次の瞬間、青龍の身体が大爆発を起こした。
その爆風が収まった後には・・・傷だらけでボロボロの相沢祐一が立ちつくしていた。
それを見た生徒達から再び歓声が上がった。
 
<学校・保健室 11:38AM>
傷だらけの祐一がふらりと倒れそうになるのを支えたのは香里だった。
自分の制服に血がつくのも構わず祐一を抱きしめるように支えた彼女はすぐに保健室へと向かった。
保健室は青龍が変身する前に暴れたときに出た怪我人で一杯だった。
それでも香里はベッドを開けて貰い、祐一をそこに寝かせてやる。
「・・・終わったわよ、相沢君。やっと・・・全部・・・」
そう言った香里の目に涙が浮かぶ。
祐一は死んだように眠っていた。
 
<遺跡 11:43AM>
誰も居ない古代遺跡。
昨日の警官負傷事件で再び閉鎖されたのだ。
今は警備の警官さえ立っている。
その内部・・・ちょうど石棺の安置されている部屋で・・・。
石棺がぐらぐらと揺れだしていた。
まるでその下に何かがあり、それが表へと出ようとするように。
その揺れは次第に大きくなり、遂に石棺にひびが入った。
そして・・・石棺を粉々に砕いて、その下から異形の獣が姿を現す!
それは全身禍々しいまでの黒い色に染められた身体を持つ怪人。
口から白い蒸気を吐き出し、ゆっくりと歩き出す。
今・・・遂に地獄の封印は解かれた。
古代文字に言う「最悪の獣」が甦り、現代に解き放たれたのだった・・・。
 
<学校・保健室 12:25PM>
保健室の喧噪は既に収まっていた。
主だった怪我人は病院へ運ばれたり、軽い怪我のものは休校となったので家に帰ったりしていたからだ。
今、この保健室にいるのは眠り続けている祐一とそれを見守る香里、顔に大きな湿布を貼った北川だけである。
「・・・これで・・終わったんだな」
北川が呟く。
「ええ・・相沢君が傷つくことはもう無いわ」
香里がそう答える。
「後は・・・名雪が目を覚ませば全部終わり。物語はハッピーエンドで終わるのよ」
「・・・全く、俺が体を張って時間を稼いだんだ。このお礼はしっかりさせて貰うぜ、相沢」
「あら、みんなを説得したのは私たちよ?」
香里の言う通りだった。
カノンと青龍の戦いの場に生徒達が駆けつけてきたのは香里や、舞、美汐、それに佐祐理が皆を説得した事によるもの大きい。
「多分・・これで貸し借り無しよ」
みんなの思いがカノンを再び立ち上がらせ、あの怪人を倒させたのだと言うことを、薄々香里は感じていた。
「全く酷い目にあったもんだぜ。始めの怪物といい・・・」
そう言って頭をかく北川。
確かに彼はかなり酷い目に遭っている。
と、その時、保健室のドアが開けられ、中に警官達が入ってきた。
振り返る二人の顔にさっと驚愕の色が広がる。
二人はその時まで完全に忘れていたのだ。
相沢祐一が、怪物事件の重要参考人として警察が捜していると言うことを。だが、この二人は同時に祐一が自らを犠牲にして怪人と戦い、自分たちを守ってくれていたことも知っている。
だから二人は、祐一をかばうように警官達との間に壁を作っていた。
「一体何の用ですか?」
北川がそう言って警官達を見る。
「ここに相沢祐一という少年がいるはずだ。出して貰おう」
居丈高にそう言って警官達をかき分けて一人の男が出てきた。
「私はここ最近の怪物発生事件の担当をしている橘というものだ。相沢祐一がいるなら素直に出したまえ」
橘と名乗った男はそう言って北川を押しのけようとしたが、北川はその手を振り払った。
「出せって・・・ものじゃないんだぜ、相沢は」
「それに・・一体相沢君に何の用があるんですか?」
香里がそう言って橘を睨みつける。
「君たちには関係のないことだ!さぁ、そこに寝ているのがそうなんだろう?早く起こして・・・」
「ふざけんじゃねぇぞ!相沢をあんたらに渡す理由などこれっぽっちもないんだからな、おれたちには!!」
北川が怒鳴った。
だが橘はひるまず、
「・・彼はここしばらくの怪物事件の重要参考人だ。彼が怪物達と何らかの関係があることは既にわかっている。かばいだてすると君たちも・・・」
「脅しですか?随分なんですね、警察も」
そう言って香里は軽蔑のまなざしを橘に向ける。
「その辺にしたまえ、美坂君に北川君」
また警官達をかき分けて一人の、今度は同じ学校の制服を着た少年が入ってきた。
生徒会長の久瀬である。
「久瀬だ・・・」
何かイヤなものでも見るように北川が呟く。
「彼があの怪物と同じ姿になって戦っていたと言うことは全校生徒が見ていることだ。それに怪物を倒したと言って安心は出来ない。いつ、彼があの怪物と同じように我々を襲うかわからないからな」
「そんなこと無いわ!相沢君はっ!!」
「何故そう言える!?」
香里の反論を叩き伏せる久瀬。
「・・・で、あんた達はどうしたいんだ?」
不意に香里達の後ろから声がしたが、久瀬は気がつかなかったようだ。
「彼はおそらく大学病院で調査されるだろう。危険とわかればその場で処分だろうな。そして・・・」
「解剖されて、標本、か?」
「そんなところだ」
「この野郎!仮にも同じ・・・」
久瀬の言うことに頭に来た北川が殴りかかろうとするのを、声を出していた人物、祐一が止める。
「相沢・・・お前・・・」
「いいさ、どうせこうなるんじゃないかって思っていたからな」
そう言った祐一が笑顔を見せる。
(それに・・・余り長くないだろうしな、俺の命も)
口には出さず、心の中で呟く。
「香里、北川。今までありがとうな。結構楽しかったぜ、短い間だったけど」
祐一はベッドから降りると警官達をじっと見た。
警官達がびくっと後ずさったのがわかる。
苦笑を浮かべ、祐一は両手を差し出した。
「拘束しておくか?」
「当たり前だ!!」
そう言って橘が手錠をはめる。
「よし、連れて行け!」
橘が偉そうに命令する。
「・・・ああ、そうだ。ちょっとだけいいか?」
祐一が振り返って言う。
「なぁ。秋子さんとか真琴、栞に舞、佐祐理さんとか天野によろしく言っておいてくれ。それと・・・名雪のこと、頼むな」
まるでどこかに遊びに行くかのように気軽に言う祐一。
「相沢君・・・・」
香里が目に涙を浮かべながら言う。
祐一は何も答えなかった。
「相沢・・俺はお前のこと、親友だと思っているぞ!お前は俺達を守ってくれた英雄だともな!」
北川が真剣な目をして言う。
それにも祐一は答えない。
橘は警官達を促して、祐一を連れて保健室を出ていった。
残されたのは香里と北川、そして久瀬。
「これで世の中、平和になる・・・」
久瀬がそう言ったとき、北川は思い切り拳を振り上げていた。
「てめぇ、あいつがどんな思いで戦っていたのかも知らないで!!」
だが、久瀬と北川の間に香里が割って入った。
「美坂、邪魔するな!」
「・・・北川君。やめなさいよ。こんな奴殴ってもあなたの拳が汚れるだけだわ」
そう言って香里は北川の肩に手を置いた。
「あなた・・・ご立派ね。でもね、忘れないでよ・・今私たちがこうして無事でいられるのは相沢君のお陰だって事・・・」
久瀬にそう言って香里は乱れたベッドのシーツを戻す。
「・・・死んじゃえばよかったのよ・・・あんたなんか・・・」
ぼそりと呟く香里。
その目からはとめどなく涙が流れ落ちていた。
「出ていけよ」
北川が久瀬を睨んで言う。
「出ていけって言ってんだろ!!でないと・・・俺がお前を殴り殺すぞ!!」
大声で怒鳴る北川。
その目には何も出来なかった悔しさの涙があふれている。
久瀬は・・・そんな二人に何も言わないで逃げるように保健室を出ていった。
 
<校門 12:40PM>
何台ものパトカーが止まっている中、祐一は橘について歩いていた。
何人もの人が何事かと遠巻きにこの騒ぎを眺めている。
その中に中津川忠夫の姿もあった。
彼は祐一の姿を見つけると駆け寄ってきた。
「少年、生きていたか!?」
「何だ、お前は?邪魔をするな!」
そう言って邪険に中津川を押しとどめようとする橘だったが中津川はそれを無視して祐一に話しかける。
「心配していたんだ。その様子だと・・・倒せたようだな?」
「なんとかな。これで終わりだ。あんたともお別れだな、嬉しいことに」
「僕は残念だ。・・・何処にいくんだ?」
「警察か・・・訳の分からない病院じゃないか?事情聴取されて、解剖されて・・・ってとこだろ」
「・・・・・・やはり、君は・・・」
「気にするなよ。あんたのせいじゃないから。俺が自分で決めたことなんだ。後悔はしてないよ」
「おい、もう行くぞ!!」
苛立たしげに橘が言う。
「じゃあな、中津川のおっさん」
祐一が初めて中津川の名を呼んだ。
「・・・少年!まだだ!まだ終わっていない!!」
中津川が不意にそう叫んだ。
だが祐一は笑みを浮かべてパトカーに乗り込んでいく。
きっと今の中津川の発言をこの場に引き留めるための嘘だと思ったのだろう。
中津川もそれを感じたらしく、がっくりと肩を落とした。
「・・駄目だ・・・まだ終わりでは無いというのに・・・我々は最大の守護者を失ってしまう・・・」
悔しそうにそう呟く。
パトカーが走り出す。
と、その前方にいきなり一人の少年が飛び出してきた。
その少年は笑顔を浮かべたまま、接近するパトカーを見ている。
パトカーを運転していた警官が慌ててハンドルを切り、ブレーキを掛けた。
後続のパトカーも慌てて急ブレーキを掛ける。
「危ないじゃないか、君」
一番先頭のパトカーを運転していた警官が窓から顔を覗かせて少年に言う。
だが少年は笑みを浮かべたままだ。
「・・・一体何だというのだ?」
ちょうど三台目のパトカーに乗っていた橘がそう言って前を見る。
隣にいた祐一もつられたかのように前を見、そこに立っている少年を見た瞬間・・・全身が凍りつくような殺気を感じた。
「駄目だ・・・逃げろっ!!」
いきなり祐一が叫ぶ。
同時に少年がすっと右手を前に差し出し・・・次の瞬間先頭のパトカーが宙に浮き、地面へと叩きつけられた!!
それを見た他のパトカーから警官達が降りた。そして、少年を取り囲む。
「ふふふ・・・・」
少年は笑みを浮かべながら警官達を見回して、
「早く来ないと・・・この人達が死んじゃうよ」
少年がそう言った瞬間、少年を取り囲んでいた警官が残らず吹っ飛ばされてしまっていた。
「な・・なにが・・・?」
橘はパトカーから降り、目の前で起こった光景を信じられないでいた。
「全員発砲許可だ!!」
橘がそう言って拳銃を抜く。
残った警官達も拳銃を抜いて少年に向けるが・・・それでもなお少年は笑みを浮かべたままだ。
「君たちはこの時代の戦士かい?」
少年がそう言って首を傾げる。
「なら遠慮はいらないね?」
また手を前へと差し出す。
今度は少年の身体が宙に浮き上がった。
それを見た祐一もパトカーの外へと飛び出した。
「やめろぉっ!!!」
必死に叫ぶが遅かった。
警官達の拳銃が一斉に暴発、さらに、見えない力によって吹っ飛ばされてしまったのだ。
「あのおっさんの言ったことは・・・本当だったのか・・・?」
呆然と呟く祐一。
その周りには血を流して警官達が倒れている。
「まだ・・・終わりじゃないのか・・・?」
絶望にもにた気分が祐一を襲う。
「玄武・朱雀・白虎・青龍を倒したのは君?」
不意に少年が祐一の前に立っていた。
「なら・・・戦う権利を得たんだね」
そう言って嬉しそうに微笑む少年。
と、祐一の手に掛けられていた手錠ががちゃりと言う音を立てて、地面に落ちた。
「さぁ・・・始めよう?」
少年の姿が変化していく。
それは・・・何といっていいのだろうか。
ほ乳類のようであり、爬虫類のようであり、鳥類のようであり、両生類のようであり・・・その全てであるようであり。
「・・・麒麟」
不意に祐一の脳裏にそんな言葉が思い浮かんだ。
「四聖獣が東西南北を守護し、その中央に鎮座する獣・・・それが麒麟」
だが、今目の前にいるのは真っ黒の姿の怪物である。
言うならば・・・黒麒麟。
「・・・・やるしか・・無いようだな・・・」
そう言って身構える祐一。
今、周りに倒れている人たちを救えるのは自分しかいない。
それに今この怪物を見過ごせば今までやったことが全て無駄になる。
そんな気が彼にはしていた。
だから・・・覚悟を決める。
ここで命が尽きても悔いはない。
「・・変・・・」
その時、彼の視界に不意にダッフルコートを着た少女の姿が飛び込んできた。
「駄目!それ以上変身したら祐一君が死んじゃう!!」
しかし・・・祐一の手は動く。
右手が十字を切り。
左手を引き。
右手が左拳の上へと添えられる。
「・・・身!!」
目の前の少女の瞳に涙が浮かぶ。
「祐一君・・・」
祐一の身体が戦士・カノンのものへと変化する。
だが、それは祐一の身体にかなりの負担を強いていたようだ。
変身し、すぐに片膝をついてしまうカノン。
黒麒麟は右手を前に差し出した状態で一歩一歩カノンのそばへと歩み寄ってくる。
「さぁ・・・ファイナルゲームを始めるよ」
黒麒麟が子供のように無邪気な声で言った。
同時にカノンに襲いかかる見えない衝撃波。
為す術もなく吹っ飛ばされ、パトカーのフロントガラスに叩きつけられるカノン。
「くう・・・」
起きあがろうとするカノンの前にすっと黒麒麟が現れ、そのボディを踏みつける。
ガシャッ!!
カノンの背中でガラスの割れる音がする。
必死に黒麒麟の足を掴んで持ち上げようとするが手に力が入らず、ぐりぐりと押し込まれていく。
(駄目だ・・・力が入らない・・・)
先程までの青龍との戦闘の影響か、それとも彼自身の生命エネルギーが尽きかけているのか。
と、いきなり黒麒麟が足をあげた。
そして、すっと地面に着地する。
「四聖獣を倒せたのは偶然の賜物だったのかい?」
そう言って手も触れずにカノンを宙へと持ち上げる黒麒麟。
「本当の力を見せてくれないと面白くないよ」
カノンの身体が再び、今度は別のパトカーのボンネットに叩きつけられる。
そこから滑り落ちるように地面に倒れるカノン。
何とか地面に手をついて立ち上がろうとするカノンだが、そこに近寄ってきた黒麒麟が脇腹に蹴りを叩き込んできたため、またも吹っ飛ばされてしまう。
近くのパトカーのバンパーにぶつかり、動かなくなるカノンを見て、黒麒麟は少々面白くなさそうな顔をして見せた。もっとも外見からはわからないが。
「・・・弱い・・・この弱さで、どうして四聖獣は倒されたのか・・・」
言いながら一歩一歩カノンに近寄っていく黒麒麟。
黒麒麟が後一歩まで近付いた時、カノンが猛然と立ち上がり、右手のパンチを思い切り黒麒麟の顔面に叩き込んだ。
突然の反撃に思わずよろける黒麒麟。
それを見たカノンがまた右手を振りかぶり、思い切りパンチを繰り出す。
だが、黒麒麟は左手でそのパンチを受け止めるとその手を捻りあげた。
「くあああっ!!」
「フフフ・・・なかなか良いパンチだったけどそれじゃ駄目だ」
そう言って空いた右手でカノンの腹にパンチを食らわせた。
カノンの身体が九の字に折れ曲がり、そのまま吹っ飛ばされる。
またもパトカーのボンネットに叩きつけられるカノン。
「強い・・・桁違いだ・・・」
全身に走る激痛に耐えながらカノンは身を起こす。
その時、いきなりカノンの前方、黒麒麟の後方で爆発が起こった。
一番始めに黒麒麟が破壊したパトカーが爆発したようだ。
叩きつけられたときにガソリンがこぼれ、それに今までの戦闘で起こった火花が引火してのことのようだ。
一瞬黒麒麟の注意がカノンから爆発の方へと向く。
(今だっ!!)
素早くボンネットから飛び降りたカノンが黒麒麟に向けて走り出す。
必殺のキックで一気に勝負に行くつもりなのだ。
「うおおおおおおっ!!!」
 
<校門前 13:07PM>
失意の香里と北川が並んで校門前まで来るとそこで呆然と立ちつくしている一人の男を発見した。
「あれは・・・」
北川が男に気がつき、近寄っていく。
「おい、そこのおっさん」
「・・・・・・」
「おっさん・・・あんたに話があるんだが・・・」
その男がまるで気がついてないようなので北川は更に近寄り、その方に手を置いた。
「うわっ!!」
大げさな声を上げて、飛び退く男。
「何だね、君は?」
その男・・・中津川はかなり驚いたような顔で北川を見る。
「・・・忘れたのか?一番始めに出てきた怪物の時に会っただろ?」
あきれたように北川が言う。
「・・・・おお、あの時のもう一人の少年!!」
「もう一人って・・・」
「相沢祐一少年の友人だな、確か」
中津川の口から思いも寄らない名前が出て、今度は北川が驚く番だった。
「相沢を知っているのか?」
北川が中津川に詰め寄る。
「あ、ああ・・・彼が変身できることもな」
中津川がそこまで言ったとき、近くから爆発音が聞こえてきた。
はっと音のした方を向く中津川。
「・・・まさか・・・」
驚きを隠さず、中津川が青い顔をする。
「・・・どうしたんだよ、おっさん?」
北川も緊張を隠せない。
何か、とてもイヤな予感がしてならない。
それは少し離れた場所にいる香里も一緒だった。
あってはならないことが起きている。そう言うイヤな予感がしてならないのだ。
「最悪の獣・・・もう出てきたというのか?」
呆然とした感じで呟く中津川。
それを聞いた北川は焦りの表情を浮かべて中津川の襟首を掴みあげた。
「どう言うことだよ、おっさん!!後一匹だけじゃなかったのかよ!?」
「彼は知らなかったんだ!この僕でさえ、ついさっき知ったばかりのことだぞ!どうしてそれをっ!!」
中津川が怒鳴り返す。
それから彼は自分の襟首を掴んでいる北川の手をふりほどくと走り出した。
「何処行くんだよ!?」
「彼のところだ!!」
中津川はそう言い残して走り去る。
北川は、香里の方をちらりと見て・・・香里が頷くのを確認して、彼女と共に走り出した。
そこで三人を何が待ち受けているかも知らずに。
 
<公道 13:09PM>
「うおおおおおおっ!!!」
雄叫びをあげながら猛然と黒麒麟に向けて走るカノン。
黒麒麟との間合いを計った上でジャンプ。
空中で一回転して、右足を前へと突き出す。その足が光に包まれる。
それを見た黒麒麟だが、怯みもしなければ逃げようともしない。
まるでそのキックを待ち受けるかのように立っている。
「おおおりゃあっ!!」
更に高くなるカノンの雄叫び。
黒麒麟はカノンの光に包まれた右足をがしっと両手で受け止める。
ブスブスと白い煙がその手から上がるがそれにも構わず、黒麒麟はカノンの足を押し返した!
逆に吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられるカノン。
「これで終わりだ、カノン!!」
ジャンプしてカノンめがけて右の手刀を繰り出す黒麒麟。
必殺のキックを受け止められた上に、跳ね返されたカノンにそれをよける力はもう無かった。
黒麒麟の手刀がカノンのベルトの中央を貫く!!
何かが・・・砕ける音がした・・・。
 
<水瀬家・台所 13:10PM>
流しの前に立って洗い物をしているのはこの家の家主である水瀬秋子である。
娘である名雪は今だ眠り続けており、甥の祐一がいない今、この家でちゃんと存在しているのは秋子と居候である沢渡真琴の二人だけと言っても過言ではないだろう。
先程、お昼ご飯を終え、今その時の洗い物をしている秋子だが、何となくその表情は暗い。
やはり娘のことや甥のことが気になるのだろうか?
と、その時、いきなり置いてあったコーヒーカップが触れもしないのにひびが入り、そして・・・割れた。
それを見た秋子の顔に驚きと不安の色が広がる。
割れたコップは祐一が愛用していたものだったのだ。
「祐一さん・・・・」
甥の身に何かあったのだろうか・・・そんな不安が彼女を支配する。
 
<住宅街 13:10PM>
舞と佐祐理が並んで歩いている。
二人はカノンと青龍との戦いが終わった後、休校になったのをいいことにさっさと家路についていたのだが、何となく家に帰る気が起こらず街中を二人してぶらぶらしているのだった。
と、いきなり舞の胸を何らかの衝撃が貫き、彼女は足を止めた。
「舞?」
いきなり足を止めた親友を訝って佐祐理が舞の顔をのぞき込む。
舞は自分の胸を右手で押さえて、その場に座り込んだ。
「・・・祐一・・・?」
そう呟いた舞の顔は青ざめ、全身に汗をかいていた。
ものすごく・・・イヤな予感が彼女の脳裏によぎる・・・。
 
<商店街 13:10PM>
沢渡真琴は昼食を終えた後、わざわざ水瀬家まで来た天野美汐と一緒に商店街までやってきていた。
美汐は学校での祐一の戦いを真琴に話して聞かせたりしていたが、不意に真琴が自分の胸を押さえてその場にうずくまった。
「真琴、どうしたんです?」
心配そうに美汐がそばに駆け寄ってくる。
「・・・わからない・・・急に・・・胸が苦しくなって・・・」
そう言って真琴が美汐を見上げたとき、彼女の上着のポケットから小さな鈴が転がり落ちた。
それを見た真琴の顔色が変わった。
「・・・祐一・・・」
胸に広がる不安。
それはそばにいる美汐にも伝染していた。
「・・・相沢さん・・・」
 
<病院 13:10PM>
香里の妹である栞は未だ入院していた。
元々病弱なため、少し高い熱がでただけでも彼女の身体はかなり弱ってしまうのだ。
ベッドで横になり、窓の外を見ていた栞だが・・・不意に胸の辺りにずきんと痛みが走る。
胸を手で押さえ、苦しそうに顔をしかめる栞。
彼女の脳裏に祐一の姿が思い浮かんだ。
「・・・祐一さん・・・?」
大きく息を吐き、胸の鼓動を落ち着かせる栞。
何かとてもイヤな予感がする。
祐一の身に何かが起こったに違いない・・・半ば彼女は確信していた。
 
<公道 13:12PM>
その場にようやく辿り着いたとき、中津川、香里、北川の三人が見たものは・・・。
黒い怪物と・・・その怪物に身体を貫かれたカノンの姿であった。
怪物・・・黒麒麟はゆっくりとカノンを貫いたままその身体を持ち上げる。
「あっけないものだ・・今度こそ、と思ったけど」
黒麒麟がそう言ってカノンを見上げる。
そして、空いている手でカノンの身体を支えると、無造作に投げ捨てた。
地面に大の字になって叩きつけられたカノンの姿が祐一のものへと戻っていく。
全身傷だらけで着ているものはボロボロで血だらけ。更に彼が叩きつけられた場所では地面に血が広がっている。
額からも血が流れ落ちており、天を見上げている目に光はない。
一番酷いと思われるのは腹部だろうか?
黒麒麟の手刀の跡と思われる穴が空いている。
そんな祐一の姿を見て、香里が悲鳴を上げた。
「いやああああああぁぁぁぁぁっ!!!!!」
中津川と北川の二人は呆然と倒れている祐一を見ていた。
「・・・まさか・・・そんな・・・」
北川はがくりと膝をついて祐一を見た。
「どうして・・・どうして・・・お前は・・無敵じゃなかったのかよ?」
「それ以上に・・・あいつが強い・・・・そう言うことだ」
中津川はそう言うと、近くに止めてあるパトカーに駆け寄った。
「まだ動く、か・・・」
そう呟いて中津川は黒麒麟を見た。
黒麒麟は勝利の余韻に浸っているのか身動き一つせずに立ちつくしている。
「君たちは彼を連れて逃げろ。ここは僕が何とかする」
「おっさん、何をする気だ?」
「早く逃げろ。あいつが動き出せば今まで異常の被害がでる。僕は命を懸けてでもあいつを止める」
中津川はそう言うと、黒麒麟をじっと睨みつけた。
「相沢ですら勝てなかったんだぞ!あんたに勝てるわけがないっ!!」
北川がそう言って中津川に駆け寄る。
「勝つつもりはない。あいつを道連れにしてでも・・・」
「それでも無理だ!」
そう言って北川は中津川を突き飛ばした。
そして、さっとパトカーに乗り込む。
「あんたが死んだら誰があいつらのことを調べるんだよ・・・」
北川はドアを閉めながらそう言って、ニヤリと笑った。
「君・・・まさか・・・!!」
「相沢は俺の親友なんでなっ!」
北川は思い切りアクセルを踏み込んだ。
パトカーが猛スピードで立ちつくしている黒麒麟めがけて走り出す。
「うおおっ!!死にやがれぇっ!!」
雄叫びをあげる北川。
それでようやく気がついたのか、黒麒麟がパトカーの方を振り向いた。
だがもうかわす暇もなかった。
パトカーが黒麒麟に直撃する。
バンパーに足を取られ、ボンネットに倒れ込む黒麒麟。
それでも北川はアクセルを踏んだままだった。
更にスピードを上げ、パトカーは別のパトカーに横から突っ込んだ。
二台のパトカーの間に挟み込まれる黒麒麟。
北川はそれを見ると素早くパトカーから飛び降りた。
そして、逃げるようにその場を離れ、走り出す。
と、彼の後方で二台のパトカーが爆発を起こした。
その爆風に吹っ飛ばされる北川。
中津川は呆然とした様子でその光景を見ていた。
「やった・・のか?」
吹っ飛ばされた北川が地面を転がりながらも中津川の元へと戻ってくる。
「大丈夫か、少年!?」
「へへっ・・・仇はとったぜ、相沢・・・」
北川は頬から流れる血を拭いながらそう言った。
二人の後ろでは香里が祐一の身体を抱き起こそうとしていた。
着ている制服に彼の血がまたつくが彼女はもう気にしている余裕など無かった。
「相沢君・・・相沢君・・・」
泣きながら祐一の名を呼ぶ香里。
「見て・・北川君が・・・仇、とってくれたのよ・・・」
そう言って燃え上がる二台のパトカーを見る香里。
だが、一瞬の後、その目に驚愕の色が広がった。
燃え上がる炎の中でゆっくりと立ち上がる影。
「そんな・・・」
香里が絶望的な呟きを漏らした。
「・・・あんなもんで死ぬわけないか」
一方北川は以外と冷静だった。
カノンを倒した相手である。あの程度で倒せるわけがない。
「同じ手はもう使えないな、少年。どうする?」
中津川も同様であった。
「死ぬ気になりゃ・・・何とか出来るかもな」
「死ぬのが早いか遅いかの違いだけだ」
炎の中から一歩一歩北川達に向かってくる黒麒麟。
その身体に目立ったダメージはなさそうだった。
「相沢君!あなたが・・・あなただけが・・・希望だったのにっ!!どうして、どうして・・・どうしてなのよぉっ!!!」
香里が叫ぶ。
黒麒麟は黙ったまま三人へと向かってくる。
 
<水瀬家・名雪の部屋 13:23PM>
祐一のコーヒーカップが割れた後、秋子はすぐに娘の部屋へとやってきていた。
ベッドの上で今だ眠り続ける娘・名雪の手を取りながら秋子は祐一の事へと思いをはせる。
「名雪・・祐一さんが大変なのよ・・・名雪は祐一さんのこと好きなんでしょ?だから・・・力を貸して頂戴」
秋子はそう言うと名雪の手を取ったまま両手を合わせて、目を閉じた。
名雪の手が秋子の手を握り返す。
「祐一・・・」
眠っているはずの名雪がそう呟いた時・・・親子の身体を光が包み込んだ。
 
<住宅街 13:23PM>
塀に手をついて舞は何とか立ち上がった。
心配そうに佐祐理が肩を貸そうとするのを舞は手で押しとどめた。
「大丈夫だから」
「でも・・舞、何か苦しそう・・・」
確かに佐祐理の言う通り、舞はかなり荒い息をしながら立っている。
額からは脂汗がだらだらと流れていた。
不意に舞の視界が暗くなった。
目の前に・・・ウサギの耳をつけた少女が現れる。
「彼が危ないよ・・・」
「わかってる」
「・・・助けに・・行く?」
「祐一は私を助けてくれた。だから・・・助けに行く」
「・・・力・・・貸してあげてもいい?」
少女がそう言って微笑む。
舞は大きく頷いた。
「舞はそこで待ってて」
「祐一を・・お願い、まい」
今度は少女が頷いた。
そしてすっと少女の姿が消えていく。
急に視界が回復し、舞はその場に倒れ込んだ。
「舞っ」
佐祐理が倒れた舞に駆け寄る。
だが、倒れた舞の顔は先程までの苦しそうなものではなく、安心しきったような顔になっていた。
 
<商店街 13:23PM>
真琴は落ちた鈴を拾うと美汐の顔を見上げた。
「祐一に何かあったの・・・行かなきゃ」
「でも居場所が分かるんですか?」
美汐の質問に真琴は一瞬キョトンとした顔になったが、やがて困ったような顔をして美汐を見た。
「あう〜」
いつもの口癖も忘れない。
「でもでも、真琴が行かなきゃいけないのっ」
そう言って真琴が美汐にすがりつく。
「・・探しましょう・・・」
美汐はそう言うと真琴の手を取った。
その時、不意に真琴の胸に痛みが走った。同時に彼女の視界が暗転する。
「何・・・?」
『真琴の力がいるのよ』
不意に聞き慣れた、だがここしばらく聞いていなかった声が聞こえてきた。
「真琴の力・・・?」
『そうだよ。真琴の持っている本来の力・・・妖狐としての力、祐一のために貸して欲しいの』
「祐一のため・・・?」
『うん・・・祐一、今大変なんだよ・・だから』
「わかった。真琴の力でいいならいくらでも貸してあげる。その代わり・・・後で大きいわよ!」
その瞬間、真琴には名雪の笑顔が見えたようだった。
ふっと視界が回復し、真琴は美汐を見た。
「どうしたんですか?」
「・・・真琴は・・・真琴だよね、美汐?」
「・・・そうです。真琴は真琴です。それが何か?」
「美汐、もし・・・真琴がここで倒れても心配しないでね。祐一を助けてくるだけだから」そう言って真琴は目を閉じた。
一瞬真琴の身体が光を帯び、その光が消えると同時に真琴は気を失って美汐にもたれかかった。
「真琴・・・?」
美汐が心配そうに声をかけるが真琴は笑みを浮かべたまま、意識を完全に失っていた。
 
<病院 13:23PM>
栞はベッドから降りるとドアに向かって歩き出していた。
その身体はふらふらして頼りない。
と、いきなり足がもつれた。
よろける彼女を・・・すっと誰かの手が支えた。
「す、すいません」
栞が謝って、その手から離れて助けてくれた人物を見る。
そこにいたのはダッフルコートを着、赤いカチューシャをして背中に羽付のリュックを背負った少女・・・月宮あゆだった。
「あゆさん・・・?」
「栞ちゃん、まだ寝てないと駄目だよ」
そう言ってあゆが笑みを浮かべる。
「駄目です。行かないと行けない場所があるんです」
そう言って栞は歩き出そうとする。
だがあゆは栞の腕をとって彼女を止めた。
「今の栞ちゃんがすることは身体を回復させることだよ。それに行っても祐一君は喜ばないよ」
あゆがそう言うのを聞いて栞は振り返った。
「あゆさん・・・?」
「大丈夫、栞ちゃんの気持ちはボクが届けるから。だから栞ちゃんはここで待ってて」
栞はそう言ったあゆの笑顔を見て、頷いていた。
「あゆさん・・・お願いします。祐一さんを助けてあげてください」
「うん、わかったよ。ボクに出来ること、全部やるから・・・任せて置いて!」
あゆがまた笑顔を浮かべた。
そしてその姿が・・・すっと栞の目の前で消える。
だが栞は驚かなかった。
何となく栞にはわかっていたのだろうか。この場にいるあゆが・・・本当はいないという事を。存在しないと言うことを。
「あゆさん・・・任せました」
そう言って栞はその場に倒れ込んだ。
 
<公道 13:25PM>
黒麒麟がすっと手を前に差し出した。
見えない衝撃波が北川と中津川を吹っ飛ばす。
それを見た香里は何も出来ずにただ震えていた。
 
『祐一君・・・祐一君、起きてよ』
・・・誰かが俺を呼んでいる・・・?
『祐一君てば・・・』
その声は・・・あゆか?
『そうだよ・・・なかなか起きてくれないから心配したよ』
悪いな・・・疲れてたんだ。
『じゃあ・・・ボクと一緒に行く?』
え・・・?
『一緒に行くんならもうこれ以上苦しまなくてもいいんだよ?どうするの?』
これ以上苦しまなくてもいい、か・・・魅力的だよな。
俺はそう言ってあゆが差し出した手を見る。
この手を掴めば苦しむことはない・・・苦しむ・・・一体何に?
俺はそこで思い出す。
まだ戦いが終わっていないことを。
四聖獣は倒したが、まだ最後に残っていた敵・黒麒麟がいる。
だが・・・俺の力では黒麒麟には敵わない。
このまま、あゆの手を取って・・・そのままいってしまうのも良いかもしれない。
『駄目だよ、祐一!まだ終わってないんだよ!!』
『そうですよ、祐一さん。あなたはそんな弱い人じゃないはずですよ』
不意に聞こえてきた声・・・それは・・・名雪と秋子さん?
『今ここで祐一が逃げたら今までやってきたことが無駄になる』
『私たちが来た意味が無くなるよ』
今度は二人の舞。
大きい舞と・・・少女の頃のまい。
『それにまだ真琴の復讐だって終わってないんだから、勝手にいなくなったりしたら許さないんだから!』
真琴が俺を睨んでいる。
『祐一さん・・・負けないでください・・・』
栞が両手を胸の前で合わせて、潤んだ瞳を俺に向けている。
『祐一君』
『祐一』
『祐一さん』
『祐一』
『祐一』
『祐一さん』
六人が一斉に俺を見つめる。
俺は・・・俺は・・・!!
『いいよ、祐一君が決めたのなら』
あゆがそう言って俺の手を取った。
『祐一、私とお母さん、それに真琴の力を貸してあげるよ』
名雪がそう言って微笑んだ。最後に名雪の笑顔を見たのは一体何時のことだろう?
『祐一、私の力も使って』
舞がいつもと同じ表情で言う。だがその眼差しは優しかった。
『祐一さん、私には何の力もありませんが・・・出来ることをします、だから・・・』
泣きそうな顔の栞。
その五人の姿が光となり、俺の身体に同化する。
今までまるで感じることの出来なかった感覚がだんだん復活し始める。
『祐一君・・・』
あゆがじっと俺を見ている。
『約束、果たせなくなるけど・・・ボクの最後の力、全部祐一君にあげる。だから・・・負けないで。敵にも、運命にも、悲しみにも、自分にも』
あゆはそう言って笑顔を見せた。
その笑顔はまるで今にも泣き出しそうな・・・精一杯の笑顔。
昔・・・自分が重傷なのに俺を励まし続けてくれた女の子の笑顔。
俺は頷いた。
「俺は・・負けない!!」
あゆが頷く。
『さよなら・・・祐一君・・・』
光が俺とあゆを包み込む・・。
 
そして・・・奇跡が起こった・・・。
 
ドックン・・・。
香里は目の前まで迫ってきている黒麒麟に震えながら、祐一の体に起こった変化を感じ取った。
心臓が鼓動を始めている。
始めは弱く、だが確実に強く。
天を見上げている祐一の目に、再び光がともる。
黒麒麟がすっと手を香里に向けようとしたとき、その手を祐一が掴んでいた。
祐一は一気に起きあがると黒麒麟の胸へとキックを叩き込み、香里の前に立つ。
「・・・相沢君・・・?」
「・・・みんなの思いが・・・俺にもう一度戦う力をくれた!その思いに報いるために・・・俺は戦う!!」
すっと変身ポーズをとる祐一。
右手で十字を切りながら左手を腰に添える。
「変身ッ!!!」
右手を左拳の上に添えて両手を左右に開くと、腰の辺りにベルトが浮かび上がる。
その中央は穴が空いたようになっているがそれでも祐一の身体は変化を始めた。
灰色のボディアーマー、灰色の手甲とナックルガード、足甲に膝を守るサポーター、そして・・・赤い目と牙の意匠を持つ口、輝く角を持った仮面。
戦士・カノン・・・だが、そこからまたカノンの身体に変化が訪れる!
肩に天に向かって伸びる角のような棘の生えたアーマー、肘にも同じく棘が伸びる。足の踵にはやはり天に向かうような鋭い棘。そして・・・その全身が灰色から白を経て、一気に黒に染まる。
「そ、その姿は・・・」
黒麒麟が驚きを隠せないかのように言う。
黒いカノンは・・・悠然と手を広げてファイティングポーズをとった。
「フフフ・・それで良い!それなら充分だ!!」
黒麒麟は嬉しそうにそう言うと、自らもファイティングポーズをとった。
「うおおおっ!!」
カノンが走り出す。
その速さは先程まで手緒は比べものにならない速さ。
まさに風の如くカノンが疾走する。
対する黒麒麟も同じように走り出していた。
激突する黒と黒。
両者は同時に吹っ飛ばされ、互いに周りを囲んでいるかのようなパトカーのバンパーに激突する。
だが、両者とも素早く立ち上がると睨み合った。そして、ゆっくりとお互いに向かって歩き出す。
香里も北川も中津川も何も言えず、ただ見守ることしかできなかった。
黒いカノンと黒麒麟がお互い後一歩まで迫ったところで、いきなり黒麒麟がカノンにパンチを放った。
すっと上体を反らせてそのパンチをかわしたカノンは反らせた反動をつけてパンチを黒麒麟にお見舞いする。
そのパンチは黒麒麟に胸に直撃、ぱっと血がそこから飛び散った。
よろける黒麒麟だが、それを見て迫ってきたカノンにキックを食らわせた。
それを食らって今度はカノンがよろける番だった。
よろけたカノンめがけて黒麒麟が飛びかかってくる。
がしっと両手で受け止めたカノンは黒麒麟をそのまま後方へと投げ飛ばした。
黒麒麟がパトカーのボンネットに叩きつけられる。
それを追ってカノンがジャンプした。
黒麒麟はそれに気がつくとすっと両足をつきだしカノンを迎撃する。
着地すると同時に胸に黒麒麟の蹴りを受けたカノンがそのまま、地面に倒れるのを見て、黒麒麟は立ち上がった。
そして、倒れたカノンの上に向かって飛び降りる。
カノンの上に馬乗りとなった黒麒麟がその拳を振り上げた。
その拳が振り下ろされた瞬間、カノンがカウンターのように黒麒麟の顔面を殴り飛ばした。
思わず上体をよろめかせる黒麒麟。
それを見たカノンが素早く身体を反転させ、黒麒麟と身体の位置を入れ換える。
そうはさせじと黒麒麟も身体をふって回転する。
両者がごろごろと地面を転がった。
どちらも相手を組み伏せようと必死であったが、互いに打つ手を無くし、ばっと立ち上がり、離れた。
肩を大きく上下させ、荒い息をつく両者。
(流石に・・・強いな・・・)
カノンは油断無く相手を見ながらそう思った。
(祐一君、余り時間がないよ)
あゆの声が心の中に響く。
(みんなに借りた力ももう限界に近いよ・・・早く決着をつけないと・・・)
(ああ・・そうだな)
カノンはすっと右手を高く上へと掲げた。
左手は腰へと引き、足を前後に少し開く。
「うおおおっ!!」
雄叫びと共にカノンが走り出す。
それを見た黒麒麟が身構えた。
カノンの必殺のキックは黒麒麟には通じない。それをわかっていてなお、カノンは黒麒麟めがけて走る。
(いつものキックは通じなかった・・・でもこれならどうだ!)
すっとカノンが前へと倒れ込んだ。
地面に手をついてそこで一回転する。地面から手を離すとき、少し腕を曲げて反動をつける。
「とおりゃあぁっ!!」
低い弾道での必殺のキック!
先程と同じ軌道でのキックを想定していた黒麒麟はそのキックを受け止めることが出来なかった。
カノンのキックが黒麒麟の下腹部に直撃する。
吹っ飛ばされ、黒麒麟がまたもパトカーのドアに背中から叩きつけられた。
着地したカノンがドアに叩きつけられて動かなくなった黒麒麟を油断無く見つめる。
(決まり切らなかった・・・あれで倒せたとは思えない・・・)
カノンの予想通り、黒麒麟の身体がむくっと起きあがった。
だが、かなりのダメージを喰らったらしくその動きは先程までとは比べものにならない。
(もう一度・・・もう一度やる!みんな、これが最後だ!!)
カノンは立ち上がると、再び走り出した。
それを見た黒麒麟が両手を前へと出して構える。
カノンは黒麒麟との間合いを計った上でジャンプ、空中で一回転する。 そして両足を揃えて前へと突きだした。その両足が光に包まれていく。
「うおおおっ!!」
雄叫びと共にカノンのキックが黒麒麟の両手を直撃する!
今度もまた受け止める黒麒麟!
またキックを押し返されそうになった時、カノンは左足を引いた。
引いた足を再び押し出し、黒麒麟の手を支点にするように後方へとジャンプする。
着地したカノンがその反動を利用して一気に黒麒麟の懐に飛び込んだ!
全身全霊の力を込めた右手でのパンチを繰り出す!!
「うおおおりゃああっ!!!」
そのパンチは・・・黒麒麟の胸板を貫き、背中へと貫通する。
ばっと飛び散る血しぶき。
カノンは・・・まるで彫刻になったかのようにそのままの状態で動かない。
その姿が祐一のものへと戻っていっても、だ。
「ま・・・さか・・・これほどの・・・力が・・・」
黒麒麟が呻くように言う。
「これが・・・人の思いの力・・・?」
そう言って天を見上げる黒麒麟。
その目から光が失われる。
その時、いきなり近くにあったパトカーが爆発を起こした。
どうやら北川が黒麒麟を倒すべくぶつけ爆発させたパトカーから飛んだ火の粉が漏れたガソリンに引火、それが広がったようだ。
次々と連鎖するように爆発が起こる。
「危ないっ!!」
中津川がそう言って未だ呆然と戦いを見守っていた香里の腕をとって走り出した。
「ここにいると君まで死んでしまうぞ!!」
そう言う中津川だが香里には聞こえていないようだった。
「相沢っ!逃げろぉっ!!」
北川が叫ぶが祐一は動かない。
「相沢・・・」
ふと、祐一の首が動いた。
ぼうっとした虚ろな目で北川や中津川、香里の方を見る。
炎で歪む空気の中、彼は微笑んだようだった。
「相沢くんっ!!」
香里が叫ぶ。
祐一の口が動いたが、声は届かなかった。
そして、口を閉ざすとニッと笑い、空いている左手の親指を立てて見せた。
次の瞬間・・・大爆発が起こった!
しかも祐一達を中心にして。
一際巨大な炎が立ち上る。
それを見ながら・・・香里はがくんと膝をついていた。
呆然と、今何が起こったのかまるで理解できないまま、ただ瞳からは涙がとめどなく流れ続ける。
まるで全てを無かったことにするが如く、炎は燃え上がっていく・・・。
 
Episode.6「炎上」Closed.
To be continued next Episode. by MaskedRiderKanon
 
次回予告
一つの戦いは終わった・・・。
だがそれがただの始まりで過ぎないことを知る者はいない。
幾多の歳月の果て、人々がその平和と繁栄に溺れたとき、それは復活する・・・。
未知なる人類の敵。
立ち向かうのは一体誰か?
新たな戦いの幕は上がり始めている・・・。
次回、仮面ライダーカノン「転生」


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