夢・・・夢を見ている・・・。
それは昔の夢。
 
『ほら、いつまで泣いてるの!』
叱責するような母の声。
『全く・・・帰ってきたと思ったらずっとこれなんだもの!参っちゃうわね!』
『お姉さん、落ち着いて下さい。あんな事があったんですもの、まだ気持ちを落ち着けるのは無理ですよ』
『そのことだけだったらいいわよ!あんたのところの名雪ちゃんも・・・』
『名雪のことなら構いません。あの子は・・・』
母と、その妹である秋子さんの声。
それを聞きながら僕は・・・自分で助けることの出来なかった子のことを思う。
何度も「危ない」って言ったのに。
その制止を聞かないで、あの子は木の上から落ちてしまった。
あの子の落ちた辺りの雪が赤く染まっていく中、僕は何も出来なかった。
あの子のそばで泣きわめくことしかできなかった。
助けることが出来なかった。
でも、あの子は・・・僕に向かって笑って見せた。
痛いだろうに。怖いだろうに。
でも、僕を安心させるかのように笑って見せた。
何で・・・何で・・そうやって笑えるの?
その強さが、その十分の一の強さでも僕にあったなら。
 
場面は移り変わる・・・時の過ぎゆくように。
 
『まだ泣いてるの?ホント、よく飽きないわね?』
あきれたような母の声。
『さっき名雪ちゃんが出掛けたけど・・・あんた、知ってるの?』
僕は膝を抱えて顔を伏せて泣いていたので何も答えない。
『何か、約束したんじゃないの?』
僕は答えない。
約束した覚えはない。あれは名雪が勝手に言っていたことだ。
『全く・・・あんたも以外と・・・』
母の声が遠くなる。
 
遠ざかる雪の街。
僕は涙に濡れた目で遠くなっていく街を見ている。
名雪は本当に駅前で僕を待っているのだろうか?
あの子はどうなったのだろうか?
そんな思いが心に沸き上がるけど・・・もう何も考えたくなかった。
『それで良いの?』
不意に母が僕を見て言った。
わざわざ僕の目線にあわすようにしゃがみ込んで。
『あんたに何があったのかは聞かない。聞いたって話すわけないでしょ?』
頷く僕。
『だったら全部忘れさせてあげることも出来るわ。あんたがそれを望むならね』
えっと言う顔で僕は母を見た。
『ただし、これだけは約束しなさい。この先、あんたが守りたいと思ったものを守れるだけの強さを持ちなさい。力だけじゃないわよ、心の強さも。そして、誰かのために何かが出来る男になるの。この二つの約束、守れるわね?』
僕は頷いた。
『悲しみに負けて全てを忘れるのはこれっきりよ。強くなりなさい、祐一』
母はそう言って僕の目をじっと見つめた。
そうだ・・僕は強くならなきゃいけない。
あの子を助けられなかったけど。
でも、これからは違う。あの子を助けられなかった分まで、僕は強くなるんだ。
そして、みんなのために何が出来るか、探していこう・・・。
 
<川澄家 21:53PM>
はっと目が覚め、相沢祐一は身を起こした。
「・・・夢・・か?」
そう呟いて、額の汗を拭う。
随分と古い夢を見たような気がする。
あれは・・・そう、7年前の事・・・自分の中からすっかり抜け落ちてしまっている記憶。
「何で・・今頃?」
今まで・・・この街に帰ってきてから一度も思い出すことなど無かった。特にここ二、三日は戦いに継ぐ戦いでそんなこと思い出す余裕すらなかった。
立ち上がると、勝手に部屋を横切り、洗面所に入る。
洗面台で顔を洗い、鏡を見る。
「・・・随分と・・・痩せたもんだ・・・」
鏡の中の祐一は確かに痩せていた。
彼が変身するようになってからどんどん体重が落ちていた。
それに変身後に起きる体調不良。
明らかに身体に変調が起きている。
「一体・・どうなってるんだ?」
鏡の中の自分にそう問いかける。
勿論、答えはない・・・彼がその答えを知るのはまだ先のことである。
 
仮面ライダーカノン
Episode.5「信念」
 
<学校・校庭 09:36AM>
補修工事の進む校舎を校庭から見ながら北川潤は寒さに体を震わせた。
空を見上げると、雪が降り始めている。
「全く、俺も馬鹿だねぇ。あんな事があってまだ補修も終わってないのに来るなんて」
そう呟いて、彼はため息をついた。
家に帰ろうと思って校舎に背を向けたとき、校庭に転がるバイクの残骸が目に付いた。
『やっぱりバイクに限る!風を切って進むあの爽快感!バイクでないと味わえないぜ!』
『オープンカーがある?何言ってんだよ、一体感ってものが違うんだ、一体感ってもんが』
『おい、聞いてくれよ!ようやく金が貯まったんだ!これで買いに行くぜ!憧れのバイクをさ!』
『買ってもお前だけには乗せてやらねーからな!どーせ、免許もないんだろうけどな!』
バイクの残骸を見ながら、自分に嬉しそうにそう話してきた男の事を思い出す。
そいつは自分たちを守るために命がけで戦った。
その結果、そいつが得たものは・・・大勢からの非難の声と、満身創痍の身体、そして・・・折角買ったバイクの残骸。
「馬鹿、か・・・お前もそうだよ、相沢・・・」
そう呟いて北川は歩き出した。
 
<公園 10:11AM>
美坂香里は噴水の見える公園の入り口に立っていた。
特に用があったわけではない。
ただ、一人になれる場所を探していたらここに辿り着いたのだ。
彼女は昨日のお昼前、ものみの丘とこの辺りの人たちが呼ぶ丘の方でいきなり立ち上った炎を見ていた。
それは・・・祐一が、戦士・カノンが恐るべき強敵、白虎を倒したときの爆発。
だが、彼女はそんなことなど知らない。知らないが、また祐一が変身して戦った、そして勝ったと言うことだけが直感的に理解できた。
「本当に・・・栞の言う通りなのかしら?」
白い息を吐きながら香里が呟く。
一昨日、彼女の妹、栞は急に熱を出してまた入院してしまっていた。
元々体の丈夫な方ではないので心配ではあったが、前みたいに重病ではないし、今は熱も下がっているようなので安心して病院から出てきたのだ。
栞は祐一のことを信じているようだった。
謎の怪人に二度も襲われ、それを助けてくれたのだから信じるのも無理はないだろう。
しかし・・・香里自身は無条件に信じることは出来ない。
「直接本人に話を聞くまでは何とも言えないわね」
そう言って香里は噴水の方を見た。
そこには・・・祐一が立っていた。
香里の顔の驚きの色が広がる。
まさか、ここで会えるとは思ってもいなかったのだ。
それは祐一の方も同じだったようだ。
驚きの表情で香里を見つめている。
「相沢君・・・」
「よ、よう・・・」
ぎこちなく祐一が片手をあげて挨拶する。
「ここで会うとは・・・思ってもみなかったな」
「それはこっちの台詞よ。今まで・・・何処にいたの?」
香里は腕を組むと、小さく嘆息してから聞いた。
「知り合いのところ。一晩だけ泊めて貰ったんだ。それで、迷惑がかかる前に出てきた」
そう言って祐一は苦笑して見せた。
その笑みはいつもの・・・彼女の知っている相沢祐一のものではなかった。
彼女の知っている相沢祐一はそう言う笑みを浮かべない人物だったはずだ。
何時も北川や名雪を相手に馬鹿をやっていたが、困ったような顔を隠す為に張り付いたような、それでいてはにかんだような笑みなど浮かべたことなど無かった。
彼の笑顔は何時も・・・本当に笑顔であった。悲しいときや苦しいときに、それを隠せるような笑顔を見せることなど出来なかった。
それ程、素直な感情の持ち主だったはずだったのに・・・。
「・・・随分・・・痩せたみたいね?」
心に浮かんだ思いを押し殺し、香里はそう言った。
彼女が最後に見た時よりも、彼は痩せている。イヤ、むしろ衰弱しているようにさえ見える。
「ダイエット中なんだよ。最近太ったようなんでな」
そう言った祐一は先程の笑みを崩さない。
「嘘言わないで。・・・ねぇ、聞かせて欲しいの。一体何があったの?一体何が起きているの?」
香里がそう言った瞬間、祐一の顔から笑みが消えた。
「聞いて・・どうするんだ?これは俺の問題だ。巻き込まれるのはイヤだろ?」
祐一が真剣な顔をして言う。
他人を巻き込むのは彼の本意ではない。
栞もそう言っていた。
だが、もう巻き込まれていると言っても違いはない、と香里は思っていた。
「もう・・充分巻き込まれていると思うけど・・・?」
いつもの・・・冷静な口調、シニカルな笑みを浮かべて香里は言った。
少なくても本人はそのつもりであったが、実際には声は震えていたし、顔は笑みなど浮かべてはいなかった。
「巻き込まれている・・・か。そうだな、確かにその通りだ」
祐一は不意に空を見上げた。
一時間ほど前から降り出した雪は今も降り続けている。
空は重く暗い雲に覆われていた。
「一番始めを憶えているか?」
空を見上げながら祐一が言った。
「・・一番始め?」
「そうだ。あの騒ぎ・・・初めて怪人が出てきたときのことだ」
「忘れようにも忘れられないわ」
「あの日・・・学校に飛び込んできた奴がいただろ?あいつ、中津川って言ったっけかな、が持っていたベルト・・・あれを俺は身につけたんだ」
祐一はそう言って香里を見た。
「あのベルト・・・あれはあの怪人共と戦う力を俺に与えてくれた。だから俺はあいつらと戦っている。それだけだ」
「随分と・・簡単にいうわね」
「それだけの話だからな」
香里はまたため息をついた。
他人のことには結構関わってくるくせに自分のこととなると関わりを持たせようとはしない。
そんなところだけは前と変わりがない。
「こっちから質問するわ。その方がいいでしょ?」
「勝手にしろよ」
「じゃ、勝手にさせて貰うわ。・・・どうして、あのベルトを身につけようと思ったの?」
いきなり核心に触れる質問だった。
祐一は苦笑して、だが答えようとはしなかった。
「どうして、戦っているの?」
また苦笑する。
「いつまで戦うつもりなの?」
「・・・後・・・一匹」
「え?」
「後一匹だけだ。そいつを倒せば終わると思う」
祐一は香里をじっと見ている。
「その後・・・は?」
その質問を口に出したとき、香里は震えていた。
これは聞いてはいけない質問だったのかもしれない。
「さぁ・・・な」
そう言って祐一は香里に背を向けた。
「話はこれで終わりだ。俺は最後の一匹を探しに行く。今までは奴らが先に来ていたけど、今度はこっちから行って、この手で終わらせるよ」
祐一が手を見せて言う。
香里は何も言わずにその背を見送っていた。
 
<市内某所 11:35AM>
揺れ動く蝋燭の炎。
その光の中には今は一人分の影しかない。
「白虎も死んだようだね・・・やれやれ、これで最後か・・・」
子供のような声が響く。
「あの御方も復活する・・・これで全員死んだらきっと喜んでくれるだろうね、あの御方も」
何故か嬉しそうな声。
「今度のカノンがそこまで強くなったのは一体どうしてだろうね?前のカノンは封印するので精一杯だったのに」
誰に話すわけでもないのに質問の形式。
「それを知るためにも・・・最後のゲームを始めようか?」
炎の産む光の中に一瞬、青い身体の龍の姿が浮かび上がる。
次の瞬間、炎が一瞬にして消えた。
新たな戦いの幕が上がろうとしている。
 
<並木道 11:46AM>
降り続ける雪を掌に乗せ、その溶けていく様をじっと見つめる祐一。
何を思っているのだろうか、その顔には表情らしい表情はない。
「守りたいと思ったものを守れるだけの強さ・・・誰かのために何かが出来る・・・そうだよな、お袋」
ぎゅっと拳を握りしめ、祐一は歩き出した。
 
<遺跡 12:38PM>
学校の裏山で発見された遺跡。
発掘初日に起きたあの事件・・謎の怪人出現と発掘作業員の惨殺事件のため、封鎖されていたこの場所に城西大学考古学教室助教授・中津川忠夫はやってきていた。
勿論彼一人ではない。
彼のしつこい説得に負けた警官が数人も一緒である。
この警官がいると言うことでようやく遺跡の再調査が許可されたのだ。
三日前にも一度ここには来てるのだがその時は警官が邪魔をしてよく調査できなかったのだ。
「僕の邪魔だけはしないでくれたまえよ、諸君」
そう言って遺跡の中に入っていく中津川。
「真実でないことを祈りたいが・・・」
懐中電灯で中を照らしながら中津川は進んでいく。
昨日一日、彼はこの遺跡で発見された古代文字の解読を行っていた。
本格的な発掘がされる前に一度この遺跡を調べた発掘チームのリーダーである教授がわざわざ調べて残したもので、この遺跡の中のほぼ全ての古代文字が丁寧にノートパソコンに入力されており、後はそれを解読すればいいだけの状態になっていたようだったが 、その解読作業が全くされていなかったのだ。おそらく、遺跡の発掘をしながら解読作業を進めていくつもりだったのだろう。
この解読作業が予想以上に困難なものだった。
今まで見たことのない古代文字。
似たようなものを検索して、近い意味であろうものを検索していく。
そして、ある程度解読できた文字を並べて意味のある文章にしていく。
その繰り返しであるが、午前四時くらいまでやっても解読できた文章はほんの少しであった。
その中に気になる文章があったので、今彼はそれを確認するために来たのである。
その文章とは・・・「聖なる獣四体倒れし時、地獄の封印が解かれ、最悪の獣甦らん」というものであった。
「四聖獣はそれぞれが東西南北を守護するという・・・では最悪の獣とは何処にいる・・・?」
懐中電灯が遺跡の内部を照らしていく。
それがベルトをつけていたミイラの収められていた石棺を照らし出した。
「この中にあのベルトはあった・・・」
呟きながら石棺に手を伸ばすと、いきなり石棺の蓋に彫り込まれている古代文字が光を放った。
「な、なんだ!?」
思わず後ずさりしてしまう中津川。
「この中に眠りし戦士のベルト、完全ならず。身につけし者、その命と引き替えに戦う力を得ん」
不意に後ろから声がした。
それは子供のようなどこか無邪気な声。
「そう書いてある。もっとも君には読めないようだけどね」
中津川が振り返ると、そこに一人の少年が立っている。
年頃は祐一と同じくらいだろうか。背格好もそう変わらない。
だが、そのまとっている雰囲気が決定的に違う。
「き、君は・・・?」
「フフフ・・・彼、カノンに伝えて。ゲームを始めるよって。舞台はあの学校。開始時間は明日の朝10時から。じゃ、確かに言ったよ・・・」
少年はそう言うと、クルリときびすを返して遺跡の入り口へと去っていった。
慌てて追いかける中津川。
だが、彼が遺跡の入り口で見たものは・・・無惨にも血まみれで倒れている警官達の姿であった。
 
<川澄家 13:03PM>
まだ起きたばかりなのだろうか、川澄舞の顔はかなり眠たそうであり、更に髪の毛もぼさぼさである。
「祐一?」
「はい」
そう言ったのは天野美汐だった。
彼女のそばには沢渡真琴がいる。
昨日の戦いの後、また意識を失った祐一をものみの丘から一番近かった舞の家に運び込んで、舞は二人を家に帰したのだ。
白虎が死んだ以上、もう真琴が狙われることはないだろうと判断した上で、である。
二人のうち、真琴が特に祐一のそばを離れたがらなかったのは前と同じだったのだが、美汐が話をしたいと強引に連れ出し、そのまま家に帰したのである。
そのことを美汐から電話で聞いて舞は翌日二人で様子を見に来るよう言っておいたのだ。
「・・・いない。寝ている間に出ていったみたい」
二人を中に招き入れながら舞が言った。
「起きたらこれが残されていた」
そう言って彼女が出したのは一枚の紙だった。
広告の裏を利用して書かれたらしい祐一の書き置きだった。
『迷惑がかかる前に出ていく。今までありがとう。祐一』
それを読み終わると美汐は舞を見た。
「迷惑とは・・・一体どう言うことでしょう?」
首を左右に振り、舞は美汐を見返す。
どうやら彼女にもわからないらしい。
「祐一・・・何処に行ったんだろ?」
真琴が不安げに二人を見上げる。
だが、二人には答えることは出来なかった。
そこに、新たな人物が飛び込んできた。
「舞ッ!!」
新たに入ってきた人物はかなり慌てているようで、舞の姿を見つけるなり、すぐに彼女に抱きついた。
「佐祐理・・・?」
驚いた表情のまま、舞は新たな客・倉田佐祐理のされるがままになっている。
「祐一さんが・・祐一さんが・・・」
「祐一に・・・何かあったの?」
舞が佐祐理を引き離して問う。
「祐一さんが・・・学校を追い出されたって本当なんですか?」
それを聞いた舞、美汐の顔色が変わった。
二人は玄武・朱雀が襲ってきたときには学校を抜け出してものみの丘にいたため、戦いが終わった後の騒ぎを知らないのだ。
「どうして・・・相沢さんが?」
美汐が呆然と言う。
舞は黙って今にも泣き出しそうな佐祐理の肩を抱きしめていたが、やがて美汐と真琴の方を見た。
「祐一の・・あの姿・・・あれを見た人はどう思う?」
「・・・何も知らなければ私たちが戦ったあの怪人と同じだと思う・・・そう思います」
美汐が答える。
真琴は首を傾げたままだ。
「・・・みんな、誤解している。祐一は・・・あいつらとは違う・・・」
舞がきっぱりと言って、佐祐理に向かって頷いた。
「祐一を捜さないと!!」
舞がそう言って立ち上がる。
「・・・佐祐理も手伝います」
泣きそうな顔をしていた佐祐理だったがすぐに舞をおって立ち上がった。
「真琴、私たちも行きましょう・・・」
「うんっ!!」
四人が川澄家を出ていく・・・しかし、結局彼女達は祐一を見つけることは出来なかった。
 
<病院 16:26PM>
栞の病室の中、香里は椅子に座って窓の外を見ていた。
昼間、あれだけ降っていた雪もやみ、外はもう薄暗くなっている。
今夜もまた寒くなりそうだ。
栞はと言うと、薬が効いているのかぐっすりと眠っている。
布団から出ていた腕に気がついた香里はそっとその腕を布団に戻してやる。
「全く・・・風邪引くわよ」
そう言って笑みを浮かべる。
だが、窓の外を見てその笑みが消える。
「・・・相沢君・・・大丈夫なのかしら?」
そう呟いてカーテンを閉める。
公園で別れてから何時間が経つだろう。
彼はあれからずっと敵を探し続けているのだろうか?
だが・・・それでは彼の敵と同じではないだろうか、とも思う。
「結局・・・戦うだけの・・・怪物になりかけているんじゃないの?」
ため息をつきながら椅子に座り直す。
その時、病室のドアがノックされた。
「はいはい・・・」
そう言って立ち上がり、ドアを開けるとそこには北川が立っていた。
「よう」
ぎこちない笑み。
それを見た香里は無言でドアを閉じた。
「おいおい、そりゃ無いだろう〜?」
ドアの向こう側から情けない声が挙がる。
香里は再びドア開けると廊下まで北川を押し出した。
「一体何のよう?」
「栞ちゃん、どうかなって思って」
「・・・嘘ね」
「やっぱりわかった?」
「当たり前よ・・・北川君がどうして栞をそこまで気にしないといけないのか、その理由がないもの」
香里はそう言うと、北川を近くにあったベンチに誘った。
二人は並んで座り、どちらも口を開かなかった。
しばらくそうしていたのだろうか、不意に香里が口を開く。
「一体何のようだったの?」
「美坂の顔を見に来た・・てのはダメか?」
「相沢君じゃあるまいし・・・やめてよ、そう言うの」
「何ッ!!あいつ、そんな事していたのかっ!?」
北川が立ち上がる。
「妹にね。まだ体の調子が悪かった頃の事よ。妹はね、良く家を抜け出して学校まで来ていたのよ。何時も中庭にいたわ」
「あ・・・知ってる。先に俺が見つけたんだよ、栞ちゃんを」
「座ったら?・・・相沢君と栞はその一日前に会っていたそうだけどね。栞は何を思ったか相沢君に会えるかもって思ってきてたそうよ」
北川が座るのを見てから続ける香里。
その顔には笑みが浮かんでいる。
「・・・相沢か・・・あいつ、どうしているんだろうな?」
そう言って北川は上を見上げた。
「生きているのかな?凄い傷だったし」
「・・・傷はもう治っていたようだったけど・・・まだ戦い続けているのは確かみたい」
北川とは対照的に俯いて香里が言う。
それを聞いた北川が香里を見る。
「会ったのか、相沢と?」
「今日の朝ね・・・後一匹とか言っていたわ。それで終わりだって。その後、どうするか聞いたけど教えてくれなかったわ」
「後一匹か・・・そいつを倒したら・・・相沢は素直に警察に行くのかな?」
「警察?・・・どう言うこと!?」
今度は香里が驚く番だった。
「知らないのか?」
北川は驚いた顔をして、香里を見た。
「あの怪物達と何か関係あるって事で探しているそうだぜ」
「ど、どうして警察が?」
そもそも祐一が変身して怪人と戦っていることを知っているのはそう多くはないはずだった。
イヤ、あの時、爆発の中から変身を解いて出てきた祐一の姿を大勢の生徒が見ていた。
その中の誰かが通報したというのだろうか?
「生徒会長の・・・久瀬って奴がいただろ?あいつがわざわざ通報したそうだ。相沢がいなくなればあの怪物共は襲ってこないって思ったようだぜ」
吐き捨てるように北川が言う。
「そんな話誰から?」
「直接本人から。今日休校だったんだけど間違えて学校まで行ったんだよ。その帰りしなにばったり出会った。向こうは俺を捜していたようだけどな。俺が相沢の友人だと知ってわざわざ話が聞きたいってよ」
その事を話す北川はかなり不機嫌そうだった。
よほど相手が気にくわなかったらしい。
「・・相沢は・・・一体何のために戦っているんだろうな?」
不意に北川が話を変える。
「始めは・・・わからなかったけど、もしかして・・・水瀬さんのことがあったからじゃないかって思うんだよ」
「名雪のこと?」
「・・初めて怪物が出たとき・・・水瀬さんが怪我しただろ?それで・・・あいつ、水瀬さんのこと、何時も気にしていたからな」
「・・・好きだったのよ。本人に自覚があるのかどうかは知らないけど。お互いにね」
香里はそう言ってため息をついた。
祐一がこの街に来る前、彼女は名雪からよく従兄弟の祐一の話を聞かされていた。
7年前、振られた初恋の人。
でも決して忘れることの出来なかった人。
その思いは着々と育っていた。
今の名雪には、祐一は単なる従兄弟の少年ではなく確実に恋愛の対象となっていることを、香里はよく聞かされていたのだ。
『よくそんな酷い振られ方したのにまだ好きでいられるわね?』
何時だったかそう言ったことがある。
でも名雪は笑って、
『あの時は私が悪かったんだよ。祐一の気持ちも考えないで自分の気持ちだけを押しつけて・・・でもね、祐一は、本当の祐一は優しい、いい人なんだよ』
そう答えたのだった。
それで香里は疑問の一つがようやく解けた気になった。
(そうか・・・名雪が・・・傷つけられたから・・・相沢君はあいつらと戦ったんだ・・・)
少しだけ安心できたような気がした。
あのベルトを身につけたことで、祐一が戦闘を求める生物に変化したのではないか、と思っていたが決してそうでない。
大切な人を傷つけられたからこそ、彼は戦う力を欲したのだ。
「相沢君は・・・まだ相沢君ね・・・」
小さい声で香里はそう呟いた。
しかし・・・二人は祐一の身に起きている異常を知りはしなかった・・・。
 
<駅前広場 17:27PM>
駅前の広場にあるベンチに祐一は腰掛けていた。
身体中が酷く疲れている。
だが、変身後に起きる体調不良とは違っていた。
「体力自体が落ちている・・・感じだな」
そう呟いて正面を見る。
人の流れの向こうに見知った顔がある。
ダッフルコートを着、背中に羽の生えたリュックを背負った少女・・・。
「こんなところにいると風邪引くよ、祐一君」
泣きそうな笑顔でその少女は言った。
「何処にも行くところがないんでな・・・実は困っている」
そう言って苦笑する祐一。
「それに腹減って動けないってのもある。情けないけどな」
「じゃ・・これ、食べる?」
近寄ってきた少女がそう言ってたい焼きを差し出してきた。
「・・・盗品じゃないだろうな?」
受け取りながらそう言うと、少女はむっとした顔になった。
「そんなこと言うんなら・・・」
「悪い悪い、冗談だよ」
そう言って受け取ったたい焼きを口に含む。
しばらく二人は黙ってたい焼きを食べていたが、少女が持っていたたい焼きが無くなると、少女が祐一をみた。
「これじゃ・・足りないよね?」
「そんなことないさ。・・・それより、聞きたいことがあるんだけどな」
祐一はそう言ったが決して少女とは目を合わせようとはしない。
「お前・・・あゆの姿をしているけど・・・一体誰なんだ?」
その瞬間、少女の方がびくっと震える。
まるで、この質問を恐れていたかのように。
「そ、それは・・・・」
「イヤ、責めているわけじゃないんだ・・・ただ、知っていることを教えて欲しいだけなんだよ、俺は」
祐一はそう言って微笑んだ。
「今、俺の身体の起きている異常、それに・・敵の全容・・何でもいい。知っていることがあれば教えてくれないか?」
「・・・ボクは・・・」
少女はそう言って俯いた。
「・・・ボクは月宮あゆ。祐一君、ボクはただ、メッセンジャーに選ばれただけなんだ。祐一君が戦士・カノンに選ばれたのと同じように」
言いながら少女は祐一を見る。
「ボクが知っていることは・・・あの遺跡は超古代に作られたもので、あの怪人達はその古代人達が守護戦士として作ったものが暴走したものだって事。そして・・・カノンは守護戦士達のデータを元に作られたものだったこと」
「データを元にって・・・その割にはあいつら圧倒的に強いじゃないか」
「完全じゃないからだよ。今の祐一君が身につけているベルトは試作品の一つに過ぎないんだ」
「試作品・・・まさか・・・!?」
祐一の表情に驚きの色が広がる。
「本当だよ・・・だから祐一君の身体がおかしくなってきているんだ・・・」
悲しげに言う少女。
「祐一君、これ以上戦ったら祐一君の命が危なくなるんだよ・・・もうやめよう?」
「・・・・・・」
祐一は少女に答えない。
しばらく二人は黙り込む。
「限界は・・・後何回だ?」
ようやく祐一が口を開いた。
「俺は後何回変身できる?」
そう言った祐一の目は真剣そのものだった。
「わからない。今祐一君がつけているベルトは使用者の生命エネルギーで動いているから・・・祐一君の生命エネルギーが尽きたときが最後だよ・・・祐一君・・・?」
少女がそっと祐一の目をのぞき込んだ。
「まさか・・・戦う気なの!?」
「後一匹だけだ。それで終わる・・・」
「どうして・・どうして戦うの?祐一君がそこまでやる必要ないじゃない!誰も祐一君を認めてくれないんだよ!!」
そう言って少女が立ち上がる。
「みんな、祐一君が必死になって戦っているのにそれをわかっていないんだよ!!それはもう祐一君だって知っているでしょ!?」
少女の目には何時しか涙が浮かんでいた。
「・・・わかっているさ。でもな、あゆ・・・誰かのために何かが出来るんだ・・・これっていいことなんだろ?」
そう言って祐一は微笑みを浮かべた。
その笑顔は・・・何かを決意したものが浮かべる爽やかな笑み。
「今の俺には俺が守りたいと思う人を守れる力がある。誰かのために何かが出来る力がある。それを使わないでどうするんだ?誰かに認められるためにやるわけじゃない。俺は俺の信じた道を行くだけだ」
ベンチから立ち上がる祐一。
そして、少女の頭に手を乗せてくしゃくしゃと撫でてやる。
「何時か・・本当のお前に会えるといいな、あゆ」
「・・・祐一君・・・思い出したの?」
少女が祐一を見上げる。
「全部思い出した訳じゃない。ただ・・・あゆって女の子が俺の記憶の中にいた・・・それだけだ」
そう言って祐一は少女から離れた。
少女の姿が消えていく。
「祐一君・・・頑張ってね・・・」
その声だけが最後に残された。
「ああ・・・」
小声で呟く祐一。
それは吹き出した冷たい風に消されてしまうような、そんな小さい声。
 
<学校 09:25AM>
校舎の補修がある程度終わったようで、この日は授業が再開されていた。
北川も香里もちゃんと教室に来ているが、二人の前の席には相変わらず人はいない。
「あいつら・・どうなるんだろうな?」
北川が香里に向かって言うと、香里も頷いて、
「そうね・・・心配だわ」
「それと・・・また連中が来ないといいんだけど・・・」
「連中?」
「あの怪人共さ。もうこの前みたいなことはこりごりだからな」
北川がそう言って肩をすくめる。
おそらく玄武の時のことを言っているのだろう。
「今日は栞は来ていないからすぐに逃げれるわよ」
香里がそう言って微笑んだ。
「それに別に私を待つ必要なんて無いじゃない。北川君一人で逃げればいいのよ」
「う・・・確かに・・・」
顔を引きつらせる北川。
彼が香里に好意を寄せているのは明らかなのだが、香里の方は気がついていないのか、それとも無視しているのか・・・どちらにしろ北川、不幸である。
「もっともまたここを襲うとは限らないけどね」
そう言って香里は正面を見た。
教壇の上には初老の教師が立ち、古文の講義をやっている。
もっとも誰も聞いていないが。古文の授業というのは大概そう言うものだ。
しばらく何事もなく授業は続いていく。
最初の授業が終わり、二時間目が始まって時計の針が十時を指そうとしたとき、それは起こった。
何気なく窓の外を眺めていた北川の目に自分たちとそう変わらない背格好の少年の姿が飛び込んできた。その少年は北川の視線に気付くと、彼に向かってにこっと笑いかけた。そして、一気にその窓にまで飛び上がってきた。窓ガラスを突き破って教室の中に飛び込んできた少年は笑顔を浮かべたまま教室の中を見回した。
「これだけいるんなら充分だね・・・後は時間と彼が来るのを待つだけだ」
そう言って机の上にどっかりと座り込んだ。
そこは偶然にも・・・香里の席だったのだが、それを見た北川がカッとなって少年に詰め寄っていた。
「何処に座ってんだよ、おいっ!!」
そう言って少年につかみかかろうと手を伸ばしたとき、少年がその手を取ってすっと、まるで何もなかったかのように北川を投げ飛ばした。
投げ飛ばされた北川が教室の中央に叩きつけられる。机や椅子が彼の落下によって散乱した。
同時に女生徒の悲鳴が上がる。
「そろそろ時間だ。彼は来ないようだな・・・それでは始めようか?」
少年はそう言って微笑んだ。
 
<商店街 10:03AM>
朝の商店街の店の大半はまだ開店していなかった。
そんな中を祐一はふらふらと頼りない足取りで歩いていた。
結局何処にいたのかかなり眠たそうな顔をしている。
余りきちんと寝ていないのだろう。
「ったく・・・何処にいやがんだよ・・・」
そう言って彼はため息をついた。
残る最後の一体・・・青龍という名の怪人は一体どれだけ強いのだろうか。
玄武、朱雀、白虎と何とか倒してきたが今度も勝てるとは限らない。
それでもやらなければならない。
そう思って正面を向いたとき、彼の視界にこっちに向かって走ってくる人影が入ってきた。
「お〜〜〜〜〜〜〜〜いっ!!」
その人物は祐一だとわかると大きく手を振りながら駆け寄ってきた。
「今まで何処にいたんだ、少年。随分と探したぞ」
ハァハァと荒い息をしながらその人物・・・中津川忠夫は祐一を見た。
「俺に用でもあるのか?」
「用事どころの話じゃない!あの怪人が・・・君に挑戦状を叩きつけてきたぞ!」
それを聞いた祐一の表情が固まった。
こちらから探し出して先手を打つつもりがまた後手に回ったようだ。
彼の脳裏にイヤな予感が走る。
「そいつは君と同じような姿をしていた・・・どうやら変身能力も持っているようだな」
「そんなことより!一体何て言ってきたんだ!?」
そう言って中津川に詰め寄る祐一。
「ゲームを始める。舞台は学校。開始時間は今日の朝10時・・・そう言っていた」
中津川がそう言ったので、祐一は慌てて腕時計を見た。
短針は十を、そして長針は一を指している。
「いかん、もう始まっているっ!?」
同じく時計をのぞき込んできた中津川がそう言って青くなった。
「くそっ!!」
祐一は舌打ちすると、走り出した。
「行くのか、少年!?」
その背を中津川が呼び止める。
祐一は足を止めて振り返った。
「俺が行かなくて誰が行くっていうんだ?」
そう言ってニッと笑う。
中津川にはその笑顔が何かを決意し、覚悟を決めたものが浮かべる笑みに見えた。
「・・・気をつけたまえ。残る一体だ、どんな力を持っているかわからんからな」
「・・・何で最後の一体だってわかるんだよ?」
「一昨日、あれだけ派手に戦闘をやっておいてわからないはずがないだろう?ホテルからでも見えたぞ、爆発が」
中津川はそう言って苦笑した。
祐一も苦笑を返す。
「俺は負けないさ・・・」
呟くようにそう言って、祐一は再び走り出した。
その背を見送りながら中津川は言わなくてはならなかった言葉を噛み締めていた。
『戦士のベルト、完全ならず。身につけし者、その命と引き替えに戦う力を得ん』
あの怪人が言った石棺の上に書かれた言葉。
「死ぬんじゃないぞ、少年・・・・」
今はこれだけしか言えなかった・・・。
 
<学校 10:15AM>
突然の乱入者によって学校中がまたしても騒然となっていた。
「何だ、一体何の騒ぎだ!?」
自分の教室から廊下に飛び出す生徒会長・久瀬。
何時か、祐一がいなければ怪物は襲ってこない、と言い張った人物である。
だが、彼が見た光景は・・・自分たちとそう変わらない背格好の少年が、手も触れないで次々と生徒達を投げ飛ばし、折角取り替えたばかりの窓ガラスを次々と割っていく・・・そう言う光景だった。
その少年は何故か嬉しそうな笑顔を浮かべて、自分の方へと迫ってきている。
久瀬は青い顔になって迫り来る少年を見ていることしかできなかった。逃げだそうにも恐怖に足がすくんで動けなかった。
「な、何だ、お前はっ!?」
そう言えたのはやはり生徒会長としての責任だからだろうか?
少年は答えず、すっと右手を彼の方に向ける。
次の瞬間、久瀬の身体は宙を舞っていた。天井に叩きつけられ、リノリウムの廊下にも叩きつけられる。
何が起きたか、久瀬にはわからなかっただろう。
それ程一瞬の出来事だったのだ。
「な・・何が・・・」
何とか顔を上げて正面に立つ少年を見上げる。
「フフフ・・・気分はどうだい?」
少年がわざわざ久瀬の前にしゃがみ込んで聞く。
「ど、どうして・・・」
久瀬は譫言のように言う。
「どうしてだ?あいつはもういないのに!?」
「あいつ・・・君の言うあいつというのが誰かわかるような気がする。カノンのことだね?」
少年は笑顔のままそう言う。
「カノンがいなければ何もないと思うのは間違いだよ。カノンは守る者。我々は狩る者。君たちは狩られる者。ただそれだけだよ」
「ど、どういう意味だ・・・?」
「我々は狩りの場所を決める。そこにカノンがいようといまいと関係ない。カノンは我々を関知し、我々の狩りから狩られる者、君たち人間を守る。ゲームのルールはそれだけだ」
少年はそう言うと立ち上がった。
「遙か古代から続く・・・それだけが我々のゲームのルール」
微笑みからニヤリとしたイヤな笑みを浮かべる少年。
「カノンは・・・まだ来ないのかな?」
そう言って窓の外を見る。
そして、まるで何かが来たことを察知したかのようにニヤリと笑う。
「運が良かったね」
一言そう言って少年が窓ガラスに手を添える。すると、窓ガラスが一瞬にして外側に向かって割れる。
「さぁ・・・ゲームの第二段階の開始だよ・・・」
少年がすっと外へと飛び出した。
その身体は重力に逆らって飛び出した位置にとどまっている。
少年の視線が校庭へと逃げ出している生徒達に注がれる。
その中には一番始めに彼が襲った教室の生徒達もいた。
勿論、北川や香里もその中にいる。
「ほら、早く!!」
香里が北川を急かすが、北川は少年に投げ飛ばされたときに身体のあちこちをかなり強く打ちつけていたので未だその痛みが取れていない状態だった。
「これでも急いでいるんだけどなぁ・・イテテ」
顔をしかめながらよろよろと歩く北川。
その時、上空からゆっくりと少年が降り立ってきた。
それを見た生徒達が一瞬足を止め、言葉を失う。
「ゲームはまだ終わりじゃない。狩りの獲物を逃がすようなことはしないよ」
少年が酷薄な笑みを浮かべる。
そして、少年は足下に落ちているガラスの破片に目をやった。
「大勢を相手にするならこれがいい」
少年がそう言った瞬間、そのガラス片が宙に浮き上がる。
「まずは一回目」
ガラス片が周囲にいる生徒達めがけて飛んでいく。まるでそこから放たれた矢のように。
「きゃああっ!!」
「うわぁぁっ!!」
次々と上がる悲鳴。
ガラス片が何人もの生徒に突き刺さり、切りつけていったのだ。
香里と北川はかろうじて、その一撃目の被害にあっていなかった。だが、少年の周りにはまだガラス片が浮いており、それが今にも他の生徒を襲おうと隙を伺っているようだった。
「これじゃ逃げられそうにもないわね」
香里がそう言って北川を見た。
「美坂は俺が守る!」
そう言って北川が香里の前に出る。
「その身体で何が出来るって言うのよ・・・気持ちは嬉しいけど」
香里は何とか笑みを浮かべた。
「せめて、その顔ぐらいはかばってやるよ」
「嬉しい事言ってくれるわ、ホント」
二人がそんなことを言っている間に少年は再びガラス片を飛ばしていた。
それは香里達二人も完全に狙いに捉えていた。
「きゃああああっ!!」
香里が悲鳴を上げる。
北川が目を閉じる。
だが・・・いつまで経ってもガラス片の刺さる、もしくは切りつける痛みは二人を襲わなかった。
二人がゆっくりと目を開けると・・・そこに、一人の少年が二人をかばうように立っていた。
大きく両手を広げ、二人をかばうように背中を向こう側に向けたその少年は・・・背中のあちこちにガラス片を突き刺されながらも、背中から血を流しながらも二人が無事なことを見て、にこっと笑って見せた。
「よっ・・・待たせたな」
「あ、相沢・・・」
北川が自分たちをかばった少年を見て呻くように言った。
「どうして・・ここに?」
「あいつが最後に一匹だからだ。それに・・・あいつがこの場所を選んだんだ・・・」
そう言って祐一は少年の方を向いた。
「随分待たせたようだな。退屈しのぎにしちゃ、ちょっとやりすぎだと思うぜ」
「それがゲームだ・・・君は彼らを守り、我々は彼らを狩る。君がいなかった間は狩りは自由にやらせて貰ったよ」
少年が笑みを浮かべたまま言い返す。
「何がゲームだ・・・そっちの勝手なゲームに付き合う義理はこっちにはないんだぜ」
祐一は痛みに顔をしかめながら言う。
背中に刺さったガラス片の数はかなりのものである。
香里も北川も、その背を見ながら何も言うことが出来なかった。
「今度はこっちのゲームに付き合って貰おうか・・・お前を倒すってゲームになっ!!!」
そう言った祐一が変身ポーズをとろうとする。
だが、背中の激痛に、その場に膝をついてしまう。
「くう・・・」
歯を噛み締め、激痛に耐える祐一。
「相沢ッ・・・お前・・・」
北川が彼に駆け寄る。
「何で・・・何でそんなになってまで戦うんだよ!?」
「守りたいものを守ることの出来る強さ・・・誰かのために何かが出来る力・・・今の俺が出来ることをするだけのことだ」
言いながら立ち上がる祐一。
「それが・・俺の・・・信念だっ!!」
祐一が右手を高く掲げる。
「変身ッ!!!」
掲げた右手を真下に下ろし、更に左から右へと動かし、十字を描く。そして、その手を、左の腰に構えている左拳の上に添える。
続いて、両手を左右に広げると、腰の部分にベルトが浮き上がり、その中央部分が光を放射状に放った。
その光の中、祐一の姿は戦士・カノンのものへと変わっていく。
「戦士、カノン・・・さぁ・・・楽しませて貰うよ・・・」
そう言った少年の姿が変化していく。
それは・・・ワニを思わせるような爬虫類の顔・・・イヤ、更に凶悪そうである。言うならば龍を思わせるような顔つき。
少年だった身体も変化を始めていた。
全身の筋肉が盛り上がり、表面に青く輝く鱗のようなものが現れる。身体には鱗と同じく青く輝くボディアーマー。
太い手の指先には鋭い爪が生え、それが青い輝きを放っている。
「ゲームスタートだ」
カノンが走り出す。
少年が変身した怪人・青龍もカノンに向かって走りだした。
「うおおおおおっ!!」
カノンが雄叫びをあげて右の拳を振り上げる。
青龍も同じように拳を振り上げた。
両者が交差する・・・・。
香里は両手を合わせて目を閉じていた。
まるで神に祈るように・・・。
「相沢君・・・頑張って」
 
Episode.5「信念」Closed.
To be continued next Episode. by MaskedRiderKanon
 
次回予告
熾烈なる青龍との戦い。カノンを襲う脅威の特殊能力。
北川「そんなところで倒れている場合じゃないだろっ!!」
香里「あなたが・・・あなただけが・・・」
交錯する人の思い。襲い来る最後の悪夢。
青龍「ゲームは・・・まだ終わらない・・・」
あゆ「駄目!それ以上変身したら祐一君が死んじゃう!!」
それは・・・人の思いが起こした奇跡なのだろうか?
祐一「・・・名雪のこと、頼むな」
次回、仮面ライダーカノン「炎上」


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