<神奈川県逗子海岸 17:44PM>
未確認生命体第28号ガーミ・ガバルの一撃に吹っ飛ばされるPSK−03。地面に激突しそうになったPSK−03をカノンが受け止める。
「北川、余り無茶するな。後は俺に任せて、お前は……」
「うるさい! 俺があいつを倒すんだ!!」
PSK−03装着員、北川潤はそう言うと、カノンの手を振り払って立ち上がった。そして、ブレイバーショットを撃ち尽くし、今度は電磁ナイフを持ってガーミ・ガバルに向かって突っ込んでいく。
その後ろではカノンが必殺のキックの体勢に入っていた。このままではPSK−03が危ないと判断し、先に倒してしまう為に。
「ハァァァァァァ……ハッ!!」
カノンがガーミ・ガバルに向かってジャンプする。空中で一回転しながらPSK−03を飛び越し、その右足を突き出すと、その足先が光に包まれていく。光に包まれたカノンの右足がガーミ・ガバルに直撃するが、ぬるぬるとする体表を滑ってダメージを与えることは出来なかった。
「何っ!?」
驚きの声を上げながら体勢を崩し、地面に倒れるカノン。そこにPSK−03が飛び込んできた。
「うりゃぁぁぁぁっ!!」
雄叫びをあげながら電磁ナイフを突き出すが、その切っ先もガーミ・ガバルの体表を滑ってしまう。
「え?」
そのまま勢いよくカノンの上に倒れてしまうPSK−03。
「ニメ・カノン!ビサンモネヲニ!!」
ガーミ・ガバルが両手のハサミを交差させてジャンプする。身体を回転させながら折り重なって倒れているカノンとPSK−03の真上から二人めがけて自身の身体を回転ドリルのようにして落下していく。
「くっ!! 北川、邪魔だ! どけっ!!」
「う、動けないっ!!」
自分達の方に向かって落下してくるガーミ・ガバルを見ながら、カノンが自分の上に倒れているPSK−03を押しのけようとするが、PSK−03の体は余りにも重く持ち上げられない。
「……この、フォームアップ!!」
カノンがそう叫ぶと、カノンの身体が赤くなった。素早く右腕だけでPSK−03の体を押しのけ、自らも横に転がった。ほぼ同時に地面に激突するガーミ・ガバル。巻き上がる大量の砂。
素早く起きあがったカノンが巻き上がる大量の砂に向かって身構えた。右の拳を振り上げ、一気に突き出すと、砂の中からほぼ同じタイミングでハサミが突き出されてきた。カノンの左肩に直撃するハサミ。
ハサミの直撃を受けカノンが吹っ飛ばされるが、同時にガーミ・ガバルもカノンのパンチを受け、吹っ飛ばされていた。先程白いカノンのキックを受け流した胸の部分の甲羅にひびが入っており、更にうっすらと古代文字が浮かび上がっている。
「ウググググ………」
浮かび上がった古代文字を手で押さえ、唸り声を漏らすガーミ・ガバル。
「ロトレシェ・ロゲ・カノン!!」
ふらふらとよろけながら、ガーミ・ガバルは海の方へと歩き、そのまま海の中へと消えていく。
あえて逃げるガーミ・ガバルを追おうとはせず、カノンは左肩を手で押さえて立っているだけだった。その手の下からは真っ赤な血が流れ落ちている。
「あ、相沢!!」
その声にカノンが変身を解きながら振り返ると、そこにはPSK−03の全てのパーツを脱いだ北川潤が立っていた。
「何で……何で奴を逃がしたんだよっ!!」
潤はそう言って相沢祐一に詰め寄ってきた。
祐一は何も答えず、只じっと潤を見ただけだった。
「お前……まさか……」
潤がそう言って祐一の襟首を掴む。だが、その目に彼の血に染まった左肩が入り、襟を掴んだ手を離す。
「あ……す、すまん。まさか怪我していたなんて……」
「たいした怪我じゃない」
祐一は素っ気なくそう言うと歩き出した。
「ま、待てよ、相沢ッ!!」
慌てて追いかける潤。

仮面ライダーカノン
Episode.44「鬼牙」

<都内某所・とあるマンションの前 17:48PM>
吹っ飛ばされたフォールスカノンが無断駐車している車のドアに叩きつけられる。
「ぐはっ!!」
その場に倒れ込むフォールスカノンを見て、先程フォールスカノンを車のドアに叩きつけた張本人である異形の戦士は肩を竦めた。
「やれやれ……その程度でしたか、期待外れですね」
異形の戦士・オウガはそう言うと一歩一歩倒れているフォールスカノンに向かっていく。
「正輝ッ!!」
悲鳴を上げたのは近くでフォールスカノンとオウガの戦いを見ていた皆瀬真奈美だった。
オウガが真奈美の方を振り返る。
「お嬢さん、心配しなさんな。こいつの次はあんただからさ」
そう言ってまたフォールスカノンの方を向くが、もうすでにそこにフォールスカノンの姿はなかった。
「なっ!?」
オウガが驚きの声を上げると同時にフォールスカノンがオウガの目の前に現れる。
「真奈美には手を出させねぇ」
低い声でそう言い、オウガのボディにパンチを叩き込む。身体を九の字に折り曲げるオウガに更に肘を落としていくフォールスカノン。今度はオウガの方が地面に倒れてしまう。
「おうらぁっ!!」
倒れたオウガを蹴り飛ばす。
「ぬおっ!!」
地面に手を突き、その勢いで蹴りをかわしたオウガは起きあがると同時にフォールスカノンにキックを叩き込もうとする。
そのキックを左腕でガードし、空いた右手でのフック。
バックステップしてそのフックをかわしたオウガはフォールスカノンのボディに蹴りを叩き込んだ。
「くっ!!」
よろけて後退するフォールスカノン。
思わず片膝をついてしまうフォールスカノンと、少し距離を置いて対峙するオウガ。
「なかなかやりますね……あなたが本調子だったらもっと苦戦したのでしょうが」
余裕たっぷりに言うオウガ。
フォールスカノンは片膝をついたまま顔を上げ、オウガを睨み付ける。
「いつまで遊んでおる……そろそろケリをつけんか、キリト」
その声はフォールスカノンの向こうから聞こえてきた。
振り返るまでもなく、その声に聞き覚えがある。
「……まさか……あんたの差し金か、大婆様よ?」
フォールスカノンがそう言うと、いつの間にかフォールスカノンの後方に現れた老婆がしっかりと頷いた。
「……何で俺たちを? あんたにとって必要な手駒じゃないのか?」
「使い物にならぬ手駒など必要ではない」
「なるほど、俺があんたの期待を裏切ったからか。折原浩平も相沢祐一も殺せなかったもんな」
「この婆の眼鏡違いだったわ。せめて真奈美と共にあの世に行くが良い」
老婆のその言葉と同時にオウガが走り出した。あっと言う間にフォールスカノンとの距離を詰め、その顔面に向かってパンチを繰り出す。
必死に両手でガードするフォールスカノンだがオウガのパンチ力は物凄くそのまま吹っ飛ばされてしまう。
(な、何てパワーだ……)
両手に残る衝撃に歯を噛み締めながら耐えるフォールスカノン。
(単純なパワーだけでもアインと同じ、いや、それ以上かも知れない……)
「止まっている余裕がありますか?」
はっとフォールスカノンが顔を上げた時、目の前にオウガが迫っていた。叩き込まれる右拳。錐揉みしながら吹っ飛び倒れるフォールスカノン。
「くう……」
地面に手をつき、何とか起きあがろうとするフォールスカノンだが、身体が動かなかった。流石にダメージが大きすぎるらしい。
「正輝ッ!!」
真奈美が悲鳴を上げながら倒れたフォールスカノンに駆け寄ろうとするが、その前にすっと二人の少女が立ちはだかった。
「申し訳ありませんが」
「行かせるわけにはいきません」
口々に言う少女達。
「あ、あなた達は………?」
「私は水瀬伊月」
「私は水瀬小夜」
「………水瀬一族………他にもいたのね……」
真奈美は二人の少女を睨み付け、すっと目を細めた。自分よりも年下の少女達。おそらくは自分達が「お姫様」と呼んでいる水瀬名雪よりも年下であろう、この少女達がいかなる力を持っているか。それがわからない内はヘタに手を出すことは避けた方がいい。
二人の少女はじっと真奈美と対峙したまま動かない。
だから、真奈美は自分の後ろで何が起きているか気付かなかった。
地面から次々と泥人形が立ち上がっていることに。その泥人形が真奈美に向かって手を伸ばしていると言うことに。
「真奈美、後ろだ!!」
フォールスカノンが叫ぶ。
はっと振り返る真奈美の身体を泥人形達が押さえつけた。
「な、何!?」
地面に押さえつけられた真奈美のすぐ側に伊月と小夜がやってくる。二人の両目が金色の光を帯びていることに、真奈美は今更ながら気がついた。
「あ……あなた達……」
真奈美が顔を上げて二人を見るが二人は無表情に真奈美を見下ろしているだけだった。
「真奈美に手を触れるんじゃねぇっ!!」
泥人形に押し倒された真奈美を見て、フォールスカノンが叫ぶ。素早く起きあがり真奈美に向かって駆け出す。
「あなたの相手は俺でしょうに?」
そう言ってオウガがフォールスカノンの前に現れ、そのボディに膝を叩き込んだ。
「ぐう………」
呻き声を上げてその場に崩れ落ちるフォールスカノン。そこに更に蹴りを叩き込んでいくオウガ。吹っ飛ばされるフォールスカノンを見て、老婆が笑い声をあげ、真奈美が悲痛な声を上げる。
「ふはははは!!」
「正輝ぃっ!!」
真奈美の声にフォールスカノンが身を起こす。
「この……」
地面に手をつき、身体を徐々に起こし、片膝をつく。
「真奈美に手を触れるんじゃねぇ……」
低く鬼気迫る声でそう言いながらゆっくりと立ち上がるフォールスカノン。
「やれやれ、しぶとい人だ……」
またも立ち上がったフォールスカノンを見てオウガが呟く。
「そろそろ終わりにしましょうや」
ゆっくりとフォールスカノンに近寄っていくオウガ。
と、いきなりオウガの目の前からフォールスカノンが消え、次の瞬間、オウガのボディにフォールスカノンのボディブローが決まっていた。
「ぬあ!?」
「言ったはずだ、真奈美には手を出させないってな」
オウガの耳元にそう言い、フォールスカノンは身体を九の字に曲げたオウガを突き飛ばして真奈美の方に向かって駆け出す。
「動くな、正輝ッ!!」
老婆の鋭い声が響き、フォールスカノンが足を止めた。
見ると、いつ移動したのか老婆が泥人形に押さえつけられている真奈美のすぐ側に立っていて真奈美の頭の上に持っている杖を突き付けているではないか。
「……何のマネだ、婆さん?」
「どうやらお前さんの身体の埋め込んだ霊石、あれは完成形に近いものだったようじゃ。だからな、人質よ」
老婆はそう言ってニヤリと薄気味の悪い笑みを浮かべた。
「これでお前さんは戦えん。ヘタに戦うならば真奈美がどうなるかわかるよな?」
「……くっ、卑怯な」
「勝負は非情さ。時にはこう言う手段も有効だってね」
そう言ったのはオウガだった。いつの間に復活したのかフォールスカノンのすぐ後ろに立っている。
「くっ!!」
振り向き様に裏拳を叩き込もうとするが、オウガは片手でその裏拳を受け止めてしまう。
「今度という今度こそ、終わりにしますよ」
オウガはそう言うとフォールスカノンの肩を掴み、その場で回転し始めた。徐々に上がっていく回転スピード。そのスピードが頂点に達した時、オウガはフォールスカノンの身体を宙へと放り投げた。更にフォールスカノンを追って自身もジャンプする。
「あの世で彼女が来るのを待ってな」
オウガはそう言うと、空中でフォールスカノンの首を両足でがっちりホールド、更にフォールスカノンの両足を手で持ちそのまま空中でも回転を始めた。空中でぐるぐる回転しながら落下していくオウガとフォールスカノン。
「ぬおおおっ!!」
脱出しようともがくフォールスカノンだがオウガの両手両足を離すことは出来なかった。
いつしかフォールスカノンを逆さまにがっちりとホールドしたオウガはコマのように横回転を加え始めた。そのまま地面へと激突する。
「正輝ッ!!」
真奈美が悲鳴を上げる。
もうもうと立ち込める土煙。その向こう側に地面に頭を串刺しにされたフォールスカノンの姿があったからだ。
「ジ・エンドって所ですかね」
そう言ってオウガが変身を解いた。そして、泥人形に未だ押さえつけられたままの真奈美の側へとやってくる。
「さて、次はお嬢さん、あんたですが……」
「待て、キリト。真奈美にはまだ使い道がある」
老婆がそう言って真奈美に手を伸ばそうとしたキリトを制した。
「お前には先にやって貰わねばならん事がある。次は……カノンじゃ。カノンを殺せ」
「……カノン、ね……了解。それじゃ早速行ってきましょう」
キリトは肩を竦めながらそう言うと、停めてあったアメリカンバイクに跨った。すぐにエンジンをかけるとその場に老婆達を残し、新たな獲物を求めて去っていく。
老婆はキリトの後ろ姿を見やり、それから真奈美を見た。
「さて……お前には……」

<倉田重工第7研究所・医務室 19:32PM>
「ハイ、これでOKよ」
そう言って深山雪見が包帯を止め終える。
祐一は無言で脱いでいたTシャツを着、上着を手に取った。
「あんたねぇ、礼の一言も言ったらどうなの?」
雪見がムッとした様子で言ったので祐一はちらりと彼女を見た。その顔は確かにムッとしているようだ。
「……ああ、ありがとう」
祐一がそう言うと、今度はギョッとしたような表情を見せる雪見。
「何だよ。礼を言えって言うから言ったらそんな顔かよ」
今度は祐一がムッとしたような顔を見せたので、雪見はぷっと吹きだした。
「何で笑うんだよ、おい」
「ゴメンゴメン、君が思ったよりも素直だったから……」
まだ笑みをかみ殺しながら雪見が言う。
「………」
憮然とした表情で祐一は手に持っていた上着の袖に腕を通す。
雪見はそれを少しの間黙って見ていたが、祐一が完全に上着を着てしまうとすっと立ち上がった。
「さて、そろそろ分析の結果とかも出ている頃だし、行く?」
「行くって何処へ?」
「君も知りたいでしょ、第28号のこと。ちゃんと分析しているんだから」
そう言って雪見はさっさと医務室から出ていった。
敵のことが少しでもわかるならそれにこしたことはない。それに折角誘ってくれているのだ、ここは好意に甘えるのも悪くはないだろう。
祐一は先に出ていった雪見を追いかけるように医務室から出ていった。

<東京都大田区羽田空港付近 19:38PM>
慌ただしく人が走り回っている、そのすぐ近くにある物陰に彼は踞っていた。胸元には大きな傷跡があり、しかし、それはすでに治り始めている。
「グウゥ……ギャッシェ・グデヅ……」
そう呟き、男は傷の痛みに顔をしかめた。
その傷は自らの手でえぐり取ったもの。カノンによってつけられた古代文字の力の浸透を防ぐにはそれしかなかったのだ。あのまま放っておけばいずれ古代文字の力が全身に行き渡り全身バラバラになってしまうことだろう。
「……イガヲバ……サジャラヅ」
傷の痛みに耐えながら男はそう呟き、空を見上げた。
「フフフ………フフフフ………」

<倉田重工第7研究所・分析室 19:43PM>
置かれているTVモニターに映し出されているのはPSK−03視点での対未確認生命体第28号戦の様子だった。PSKチームのリーダーである七瀬留美、同オペレーターの斉藤、そしてPSK−03装着員の北川潤の3人が黙って画面を見ているところに雪見に連れられた祐一が入ってくる。
「遅れてごめんなさい。彼も連れてきたけど、いいわよね?」
雪見がそう言うと、留美が振り返り祐一を一瞥して頷いた。
「この際だから彼の意見も聞きたいわ」
そう言ってまた画面に向き直る留美。
モニター上ではPSK−03がやや優勢気味に戦闘を行っている。と、突然画面が真っ白い泡に覆われてしまう。
「これです」
潤が短くそう言った。
「これがそうなのね?」
改めて問いただす留美に頷いてみせる潤。
モニター上ではどうにか白い泡から脱出したPSK−03がやけにつやつやしている第28号の攻撃を受け吹っ飛ばされていた。
「この辺からもうその症状は出ていたの?」
「あの白い泡から抜け出した時点で影響が出ていました」
留美と潤の会話。祐一にはまるで何のことだかわからない。当然と言えば当然なので黙って画面を見つめているだけだ。
モニター上にカノンの姿が現れた。カノンの制止を振り切って第28号に襲いかかるPSK−03だが、第28号の逆襲にあってしまっている。両手のハサミを交差させてPSK−03に向かってジャンプしてくる第28号。その一撃で吹っ飛ばされるPSK−03。更にカノンも第28号の猛攻に吹っ飛ばされてしまっている。
と、カノンがPSK−03を見て何事かを言った。だがそれを無視してPSK−03が第28号に向かって突っ込んでいく。その頭上を越えてカノンが第28号の攻撃を防ぐようにキックを決め、着地すると同時に回し蹴りを叩き込む。吹っ飛び、倒れる第28号を見て、前にいるカノンを押しのけてPSK−03が前に出る。高周波ブレードを突き出すが、第28号のハサミによって高周波ブレードが叩き折られてしまう。そのままハサミに一撃を受けて吹っ飛ばされるが、どうやら後ろにいたらしいカノンが彼を受け止めてくれたようだ。しかし、それすら振り払って立ち上がったPSK−03はブレイバーショットを引き抜いて更なる攻撃を続ける。だが、全く通じていないようで第28号がゆっくりと迫ってきていた。
「………」
苛立たしげにモニターを見つめている留美。その横では無表情にモニターを見ている潤がいる。
モニター上でブレイバーショットを撃ち尽くしたPSK−03が今度は電磁ナイフを片手に第28号に向かって走り出していた。その頭上を飛び越えてカノンが必殺のキックを繰り出すが、第28号の身体に直撃すると同時にまるで滑りでもしたかのように体勢を崩して倒れてしまう。更にPSK−03が電磁ナイフを突き立てるがそれも第28号の体表の上を滑っていく。そして倒れているカノンの上に倒れ込んでしまう。
「………もういいわ。止めて、斉藤君」
留美がつまらなさそうにそう言った。
「会話は録音されてなかったのね」
雪見がそう言うと、留美は無言で小さく頷いた。
「あの白い泡に覆われてからは全く。それまでは入っていたんですが」
答えたのは斉藤だった。
「さてと……まずは君から話を聞かせて貰おうかしら?」
「……相沢祐一だ」
「え?」
「俺は君って名前じゃない。ちゃんと相沢祐一って名前がある」
憮然とした様子でそう言う祐一をきょとんとした顔で見返す留美。
「あ、ああ、そうね。じゃ、相沢君、あなたの意見を聞かせて欲しいんだけど」
少し慌てた様子でそう言い、留美は祐一に向き直った。
「あなたは第28号についてどう思う?」
「……強敵だな。普通にやっても固い甲羅。おまけにそれがつるつるすると来た。俺のキックも通じない」
祐一は腕組みをしてそう答える。
「更にあのハサミが厄介だな。あのハサミを何とかしないとあの蟹野郎には勝てない」
「……確かにあのハサミは厄介だ。攻防一体の武器と言って過言じゃないだろう……」
そう言ったのは潤だった。腕組みをして立っている祐一をちらりと見て続ける。
「だが、奴にとっての武器はそれ以外にもある。あの泡だってそうだ」
「泡? 俺は見てないぜ?」
「お前の来る前だったからな。多分甲羅がつるつる滑るようになったのはあの泡の所為だ」
潤がそう言う横で留美も腕組みをして何やら考え込んでいた。
「あの泡ね……ところで北川、聞きたいことがあるんだがな」
祐一がそう言って潤をじろりと睨み付けた。
呼びかけられて、潤も同じように祐一を睨み返した。それがさも当然であるかのように。
「あの時何で俺の言うことを聞かなかった? 俺の言うことを聞いてくれていればあいつを倒せていたかも知れないんだぞ」
「……何で俺がお前の命令を聞かないとダメなんだ?」
潤の返答は祐一にとって予想もしてないものだった。特にどう言う返答を予想と言うか期待と言うか、していたわけでもなかったがこの返答だけは想像すらしていなかった。
思わず言葉を無くしてしまった祐一に潤は更に続ける。
「5年前のあの時、戦えるのはお前一人だった。だが今は違う。俺も充分にあの未確認ともやり合えるんだ。だからお前に命令されたくないな」
「北川……お前っ!」
祐一は思わず潤の胸ぐらを掴みあげていた。
いきなりの祐一の行動に驚いた雪見が慌てて止めに入る。
「ちょっとちょっと、よしなさいよ!」
そう言って潤の胸ぐらを掴んでいる祐一の手を掴むがとてもではないが雪見の力では彼の手を離すことは出来なかった。
「命令だと? 俺がいつお前に命令なんかしたっ!?」
「しただろう、第28号と戦っている時にっ!!」
「あれの何処が命令だよっ!!」
「うるさい、黙れっ!!」
そう言って潤が祐一の腕を振り払った。
「お前に俺の気持ちがわかるか? あの時何も出来なかった俺の気持ちが!!」
今度は潤が祐一の胸ぐらを掴みあげた。
「5年だ! 俺はこの5年間ずっとお前の後ろ姿を追いかけてきたんだ!! そして今、ようやくお前に追いついたんだ!! 俺はお前と並んだんだ!! だからお前に命令される必要はないんだよっ!!」
そう言うと、潤は祐一の胸ぐらを掴んでいる手を離した。それから彼の肩をどんと突き飛ばす。
「お前は……いつだってそうだ」
吐き捨てるように呟く潤。
「何でもかんでも自分一人で抱え込もうとする……お前はいつだって自分だけなんだよ」
祐一は何も言い返さない。悲しげな目をして潤を見返しているだけだった。
「……斉藤君、分析の結果、出た?」
不意に留美がそう言ったのでその場にいた皆が彼女を見た。
「あ、はい。出ています。PSK−03の装甲部に付着した液体はかなりの腐食作用をもつ酸性のもので、それが装甲板を浸食、内部の各メカにもダメージを与えています」
斉藤は自分の前のモニターに分析結果を映しだし、それを読み上げる。
「現在修理が行われておりますが、完全に修復するにはやや時間がかかると思われます。予定では明日の朝ぐらいだそうですが」
「……明日の朝までに対策を講じないといけない訳ね」
斉藤の報告を聞き、留美がそう言って雪見を見た。
「あの甲羅をどうやってぶち破るか、ね?」
雪見がそう言うと、留美が大きく頷いた。
「腐食性の泡も何とかしないといけないんだけど、あれは近寄りさえしなければ大丈夫な気がするし。北川君、接近戦は禁物よ!」
「了解です!」
にわかに動き出したPSKチーム。それを見た祐一は黙って分析室から出ていった。そのまま廊下を歩いていき、駐車場までやってくると、彼はそこで意外な人物を見つけることになる。
「……佐祐理さん?」
「ここにいれば会えると思っていました」
倉田佐祐理はそう言うとにこりと笑みを浮かべた。それに祐一は苦笑を返しながら、置いてあるロードツイスターに歩み寄っていく。
「いいマシンですね」
ロードツイスターを見ながら佐祐理がそう言ったので祐一は頷いた。
「知り合いから貰ったものですけどね、俺にとっちゃ最高の相棒ですよ」
「……相棒……」
そう呟いた佐祐理の表情が少し曇ったのを祐一は見逃さなかった。
「……佐祐理は……舞にとってのベストパートナー、相棒にはなれなかったんでしょうか?」
佐祐理はそう言って祐一を見る。
「5年前のあの戦いが終わった後、舞は急に旅に出ると言い出しました。今の自分じゃ祐一さんに顔向け出来ないと言って。佐祐理には止めることなんか出来ませんでした。佐祐理は……舞になにもしてあげられなかったんです。あの時、祐一さんが死んだと聞かされて、ひたすら泣き喚いていた舞を慰めることすら出来なかったんです」
「……佐祐理さんは何も知らなかったんだ。仕方ないよ」
「……いつも仲間はずれですね、佐祐理は」
「そう言うつもりはないんだけどなぁ。どっちかというと佐祐理さんを危ない目に遭わせたくないってのが本音だろ、舞の」
祐一はミラーにかけてあったヘルメットを手に取りながらそう言った。
「俺も同じだぜ、佐祐理さん。他の奴もそうだけど、佐祐理さんも危ない目に遭わせたくはないんだ」
そう言って笑みを見せる祐一に、佐祐理も笑みを返した。
佐祐理の笑みを見た祐一は正直ほっとしていた。あの明るく屈託の無かった佐祐理がこうも思い詰めていたとは知らなかったからだ。
「……そう言えば舞に会ったよ。元気にしてたぜ。それに前よりも強くなってたし」
「そうでしょうね。舞って頑張り屋さんだから」
親友の話題を聞いて佐祐理が嬉しそうな顔をする。
「……帰って……来ますよね?」
「帰ってくるさ。舞にとっても佐祐理さんは大事な人だろうからな」
そう言ってウインクする祐一。
佐祐理はそれを聞いて頬を赤く染める。
そんな佐祐理を見ながら笑みを浮かべ祐一はヘルメットを被り、ロードツイスターに跨った。
「あ、祐一さん、もうお帰りになるんですか?」
「ええ、あまり長居しても悪いし。俺、関係者じゃないし」
「夕食、ご一緒して貰おうと思ったんですが」
「すいません、待ってる連中がいるんで。またの機会にって事で勘弁してください」
祐一は申し訳なさそうな顔をして、エンジンをかける。
そして走り出そうとすると、その前にすっと佐祐理が立った。
「祐一さん……」
佐祐理は今まで彼には見せたことのない真剣な表情を浮かべて祐一を見やった。
ロードツイスターを発進させることが出来ず、祐一は訝しげな顔をして佐祐理を見返す。だが、佐祐理の真剣な表情を見て、自分も真剣な表情を浮かべた。
「お願いがあります。聞いて貰えますか?」
「その内容にも寄りますね。例えば舞を連れ戻せって言われても今どこにいるかわからないから困りますし」
そう言って祐一が笑みを見せるが佐祐理はニコリともしない。
「……お願いです。彼に力を貸してあげてください、祐一さん」
真剣な表情のままそう言う佐祐理。
「……彼、と言うのは?」
「……冗談を言っているんじゃありませんよ。佐祐理は本気でそう思っているんです」
佐祐理の言葉を聞いて祐一はかけていたロードツイスターのエンジンを切った。どうやらそう簡単に終わりそうな話では無さそうだ。それに先程彼女が夕食に誘おうとしたのもこの事を伝えたかったからのようだ。
「……北川には俺なんかよりも立派な良い仲間がいるじゃないですか。それに佐祐理さん、あなただっている。俺なんかが出る幕じゃない」
ヘルメットを脱いで、祐一が佐祐理を見返しながらそう言う。
だが、佐祐理は首を左右に振って祐一の意見を否定した。
「佐祐理は勿論、七瀬さん達PSKチームもはっきり言って経験不足です。未確認生命体相手の戦いなら祐一さん、あなたに一日の長があります。佐祐理は……誰にも死んで貰いたくありません。だから……」
「………北川は死にませんよ。それに未確認生命体相手の戦いってのは経験なんか役に立たない。次から次へと新しい奴が出てきて、前よりも強い奴が出てきて、その度に必死に戦っているだけですからね、俺も」
苦笑を浮かべて祐一が言う。
「その証拠に一度だって楽に勝ったことがない」
「それでも祐一さんは戦うことに置いては佐祐理達よりも経験があるじゃないですか。5年前のあの時だってそう、今だって数多くの未確認生命体を倒してきているじゃないですか」
「運が良かっただけ……って事はないけど……まぁ、必死だったからなぁ、あの時も今も」
祐一はそう言って天井を見上げた。
そう、いつだって必死だった。元々格闘技などの経験はほとんど無い祐一が、精々ケンカぐらいしかした事のない祐一があの残虐非道な未確認生命体相手に、いくらカノンの力があるからと言って、今まで互角に戦って来れたのはひとえに命懸けで、必死に戦ってきたからに他ならない。単純な腕力や未確認生命体が持つ特殊能力などでカノンを上回る敵には必死に知恵を絞って戦ってきたし、カノンだけの力で倒せなかった敵もいる。ロードツイスター、聖鎧虫、それに警視庁未確認生命体対策本部の刑事・国崎往人の助力もあった。城西大学考古学研究室の美坂香里による古代文字の碑文解読が決め手となった事もある。それでも実際に未確認生命体と戦っているのは彼だけだ。
国崎や香里はどちらかと言うと情報提供などががメインで、戦闘には参加していない。尤も国崎は他の刑事達と共に未確認生命体に果敢に挑んでいるようなのだが。
「……佐祐理さん、仮に協力するとして俺に何をさせたいんです?」
祐一は天井を見ていた視線を下げ、佐祐理に尋ねる。じっと佐祐理を見つめながら。
「……佐祐理達と一緒に行動して、共に戦う……後、北川さんの訓練の相手など……」
「……悪いけどね、佐祐理さん。俺にはやらなくっちゃいけない事があるんだ。だから一緒に行動出来ない」
佐祐理の言葉を遮るように祐一が言う。
「それに俺が居たって邪魔なだけだよ、北川にとっちゃ」
そう言って祐一は苦笑のようなものを浮かべた。
「そんな事は……!!」
「良いんだよ、それでも。俺にあいつの気持ちはわからない。あいつに俺の気持ちがわからないように。でもまぁ、あいつはあいつなりにやってるし、俺は俺で未確認とかよりも優先させたい事がある」
佐祐理はそう言った祐一の顔に物凄く切なげな表情が浮かんでいる事に気付いた。罪のない一般市民を脅かす未確認生命体を倒す事よりも優先させたい事、それが何か佐祐理にはわからない。だが、それは祐一にとって本当に大事な事のようだ。それがわかったから、佐祐理はもう何も言えなくなってしまっていた。
黙り込んだ佐祐理を見て、祐一はため息をついた。
「……5年……短いようでいて、やっぱり長いよなぁ」
再びヘルメットに手をやり、祐一が呟いた。
「……みんな、変わっちゃいました」
悲しげな笑みを浮かべる佐祐理。
「そうでもないさ」
ヘルメットを被りながら祐一が言う。
「少なくても佐祐理さん。今日久し振りに佐祐理さんと会った時の佐祐理さんの笑顔は昔のままだったと思いますよ」
「……祐一さん」
思わず頬を赤らめる佐祐理に祐一は右手の親指を立てて見せた。

<倉田重工第7研究所・正門 20:28PM>
佐祐理と駐車場で別れた祐一はロードツイスターを第7研究所の正門へと走らせていた。
「やれやれ、随分遅くなっちまったな」
門の脇にある守衛室を覗き込み、現在の時間を見るともうそろそろ午後8時半になろうとしている。今から喫茶ホワイトまで帰るとなると午後9時は確実に過ぎるだろう。どうやらホワイトの閉店までには帰り着けそうだ。
「それじゃ、ちょっと急ぎますか」
そう呟き、アクセルを回してロードツイスターを発進させる。周囲はすでに真っ暗になっており、街灯とロードツイスターのライトだけを頼りに祐一は喫茶ホワイトへと急いでいた。
それから5分程経った頃だろうか。軽快に走るロードツイスターの後方に一台のバイクらしき光が見えてきたのは。
それは猛スピードでロードツイスターに追いつき、あっと言う間に並んでしまう。ちらりと見てみると、車高の低いアメリカンバイクで、乗っているのはノーヘルにサングラスの細身の男。
「よぉ」
その男は祐一が自分を見ている事に気づくと片手をあげて見せた。同時にロードツイスター側の足を離し、祐一に向かって蹴りを放ってくる。
「うおっ!?」
慌ててその蹴りをかわした祐一は急ブレーキをかけてロードツイスターを停止させた。少し遅れてアメリカンバイクも停止する。
「何しやがるっ!!」
祐一が怒鳴るが、サングラスをかけた男は全く気にしていない風であった。ゆっくりとアメリカンバイクのシートから立ち上がるとじっと祐一の方を見る。
「あんた、相沢祐一だろ?」
「……ああ、そうだ」
サングラスの男の問いかけに、何やら得体の知れない不気味さを感じつつ祐一は答える。何故かはわからない。この男は危険だと言うサインが頭の中に浮かび、警鐘を鳴らし続けている。
「……悪いね、死んで貰うよ、あんた」
そう言ってサングラスの男が祐一に飛びかかっていく。サングラスの男の不意をついた攻撃に祐一は一瞬対応が遅れた。更にロードツイスターに乗っていて、とっさに動く事が出来ず、そのまま地面へと押し倒されてしまう。
両手を使い、ぐいぐいと祐一の首を締め上げていくサングラスの男。
「お、お前は……」
男の腕を掴み必死に引きはがそうとしながら、祐一が言う。だが、首を締め上げる男の力は物凄く、なかなか離れていかない。
「く……」
「フフフ……」
段々意識が朦朧としてきた祐一を見下ろし、男がニヤニヤ笑う。
祐一は相手と自分の身体の間に膝を入れ、足で相手の身体を思い切り押し上げた。それでようやく男の手が自分の首から放れる。
「チッ……」
「ゴホッゴホッ……ハァハァ……」
舌打ちする男に咳き込む祐一。だが、祐一は素早く起きあがりキッと相手を睨み付けた。
「て、テメェ、何者だ!?」
「……ふっ……」
男がニヤリと笑みを浮かべた。わざとらしい仕種で両手を広げ、それから肩を竦めてみせる。
「殺し屋がそう問われて名前を名乗るとでも思ったのかい?」
「……殺し屋だぁ?」
訝しげな顔をする祐一。殺し屋などに狙われる理由など思い当たらない。それに誰が殺し屋を自分に差し向けたというのか。
「ついでに言っておくけどさ、依頼人の名前も教えないぜ。守秘義務って奴でな」
ニヤニヤ笑いながら問われもしない事を言う男。
祐一は相手を油断無く見つめた。一体何者なのか。殺し屋だと名乗ったが果たして本当なのか。どうにも信じられないのだが。
「さて……そろそろ死んで貰いますか」
男はそう言うとサングラスを外し、そっと上着の胸ポケットに仕舞った。そして、両足を肩幅に開き口元を歪めた。
「冥土のみやげですよ……よーく、見ておきなさいな」
大きく両手を円を描くように回し、腰の前で拳を合わせる。そこに浮かび上がったベルトを見て、祐一は驚きに目を見張った。
(まさか……奴も……!?)
驚いている祐一を尻目に男は両手を前に突き出している。
「変身ッ!!」
素早く顔の前で両手を交差させ、一気に振り払う。するとベルトの中央の宝玉が光を放ち、その光の中、男の姿が変わった。紫の鬼、オウガへと。
「お、お前……一体何者だ?」
「我が名はオウガ……お前を冥土へと誘う戦士、オウガだ」
オウガはそう言うと祐一に襲いかかった。
祐一に掴みかかろうと腕を伸ばすが、祐一はすっと身を退いてオウガの腕をかわし、素早く両手を交差させながら前に突き出した。左手を腰に退き、残した右手で十字を描く。
「変身ッ!!」
祐一の腰に浮かび上がったベルトの中央にある霊石が光を放った。その光の中、祐一はカノンへと変身する。
「そうでなければ面白くないっ!!」
オウガがそう言ってカノンに向かってパンチを放つ。そのパンチを左手で受け止め、反撃とばかりにアッパー気味のパンチをオウガのボディに叩き込む。更に追い打ちをかけるように膝蹴り。それを受け吹っ飛ぶオウガ。
「フフフ……流石はカノンって所ですか」
よろめきながらも何とか倒れる事は防いだオウガがそう言って、カノンを見た。
「そう簡単に倒せるとは思っていませんが……」
首を大きく回し、オウガが走り出す。そのスピードが徐々に上がっていき、あっと言う間にカノンとの距離を詰めてしまう。
「何っ!?」
驚いているカノンに肘打ちを叩き込み、更に掌底打ちをカノンに叩き込む。今度はカノンが吹っ飛ぶ番だった。地面を転がるカノン。何とか起きあがろうとするが、そこにオウガが追いついて来、蹴りを叩き込んでくる。
「倒せない相手でもない……」
オウガがそう言って倒れているカノンを見下ろした。
カノンが両手をついて身を起こす。そして、側に立っているオウガを見上げた。
「お前は……」
「少なくてもあんたの敵だよ」
そう言って起きあがろうとしているカノンを蹴り飛ばす。
またしても地面を転がるカノン。だが、今度はその勢いを利用して一気に立ち上がった。そしてオウガに向かって飛びかかっていく。
「野郎ッ!!」
パンチを繰り出すカノンだが、すっと身をのけぞらせてパンチをかわしオウガはまたも掌底をカノンの腹に喰らわせた。
うっと呻きながらよろけて後退するカノンに更に追い打ちの蹴り。更によろけて倒れてしまうカノン。
「甘い甘い、その程度では……」
オウガはそう言って倒れたカノンに向かって歩き出す。
「クソ……強いじゃねぇか」
カノンは立ち上がると油断無く相手を見やった。今、自分の方に歩み寄ってきている相手はおそらく今までにない強敵だ。全力を尽くしても勝てるかどうか不安なくらいに。
「……ここで負けるわけにはいかないんだよな、俺も」
そう呟いたカノンの脳裏にある女性の姿が思い浮かんでいる。幼馴染みで、従姉妹で、そして最も愛しい女性の姿が。彼女の為にもここで殺されるわけにはいかない。
オウガが両手を広げてカノンに迫ってくる。自分の力にかなりの自信があるというのか。その姿に余裕が伺える。
「さぁて、そろそろ……」
オウガの声を聞きながらカノンが身構えた。
それを見てオウガが地を蹴ってジャンプした。軽々と宙を舞い、カノンに向かって跳び蹴りを放つ。それを横にかわすカノン。着地したオウガはそのまま身体を沈み込ませて横によけたカノンの足を払う。倒れるカノンだが、地面を転がってすぐに起きあがり更に回転した勢いを利用してオウガにエルボーを喰らわせようとした。
タッと再び地面を蹴って軽く後ろにジャンプするオウガ。カノンのエルボーをかわしながら足を突き出し、カノンに蹴りを食らわせる。よろけて後退するカノンに再び飛びかかろうとオウガが身体を屈伸させ、溜を作る。反動を利用しつつカノンに向かってジャンプ。カノンは身体を沈ませてオウガをかわしつつ、その身体に手をやって相手の勢いを利用して投げ飛ばした。だが、オウガは宙で一回転して華麗に着地して見せた。
「……チッ」
華麗に着地したオウガを見て、カノンが舌打ちする。
オウガは振り返ると首を左右に振って見せた。
「この程度で倒される俺じゃないんでね」
その口振りにはまだ余裕がある。まだ全力など出していないと言う事なのか。もしそうなら一体どれだけの実力を秘めているのだろう。流石のカノンも形勢は不利だと言わざるをえない。
(こうなったら………やるしかないな)
カノンは意を決すると足を広げて腰を沈めた。
「ハァァァァァァ……」
必殺のキックの体勢。左手を腰に、右手を前に出し、右から左へと水平に動かしていく。
「フン、そっちがそうならこっちもね……」
オウガもカノンと全く同じ体勢をとった。違うのはオウガがまるでカノンを鏡に映したかのように逆の手足を出していると言う事だけ。
「フゥゥゥゥゥゥ……」
カノンとオウガの前に出している手がある一点で止まり、返される。そして同時にジャンプ。
「ハッ!!」
「トォッ!!」
両者、空中で一回転し、カノンは右足、オウガは左足を突き出した。二人の足が空中で激突する。
以前フォールスカノンとブートライズカノンのキックがぶつかり合った事があった。あの時は互いを吹っ飛ばしただけだったのだが、今回は違っていた。ぶつかり合った二人の足を中心に爆発が起こったのだ。その爆発により吹っ飛ばされる両者。
地面に叩きつけられるカノン。しかし、一方のオウガはまたしても華麗に着地を決めていた。片膝をついて着地したオウガがゆっくりと顔を上げ、立ち上がる。
「フフフ………」
笑みを漏らすオウガ。
カノンは地面に叩きつけられた衝撃が大きかったのか、まだ起きあがれていない。
「そろそろとどめを……」
そう言って一歩足を踏み出した時、オウガはいきなり目眩を感じてよろめいた。左手でこめかみの辺りを押さえ、ふらふらと後退する。
「な、何だ……?」
突如、自分の身に起こった事にオウガは戸惑いを隠せない。一体何が自分の身に起きたのか見当もつかない。だが、感じている目眩は徐々に酷くなり、頭痛もし始めている。これでは戦闘を続ける事は出来ないだろう。
「くぅ……運が良かったな、カノン、いや相沢祐一! 次こそあんたの命、貰いますよ!」
オウガはそう言うと、ふらふらしながらも自分の乗ってきたアメリカンバイクに跨り、そのまま夜の闇の中へと消えていった。
オウガの乗ったアメリカンバイクのエンジンの音が遠ざかるのを聞きながらカノンが身を起こす。その姿がカノンからすぐに祐一のものへと戻り、祐一は唇の端に浮かんだ血を手で拭った。
「……何でだ……何でとどめを刺さなかった………?」
祐一にはオウガの身に起こった変調を知る術はない。だから、あの絶好のチャンスを何故自ら手放したのか全く理解出来なかった。
しかし……と祐一は思う。あのまま戦っていても勝ち目があったかどうか。必殺のキックを使っても倒せなかった相手。おそらく体術などは圧倒的に相手の方が上手だろうし、戦闘経験も向こうの方が遙かに上だろう。自分にとってアドバンテージになるものは何一つ無い。
「……運が……良かったんだな、本当に」
そう呟いて祐一は地面に拳を振り下ろした。
「くそっ!! 俺の……俺の……圧倒的に負けじゃねぇか!!」
ヘタをすれば死んでいた。相手の気まぐれで助かった。祐一はギリギリと歯を噛み締め、悔しさの余り地面を何度も殴り続けていた。
(こんなんじゃ……名雪を助けるなんて無理だっ!! もっと……もっと強くならないとっ!!)
「ウォォォォォォッ!!」
天を仰いで吼える祐一。

<神奈川県川崎区千鳥町 08:23AM>
「うわぁぁぁぁっ!!」
「た、助けてくれぇっ!!」
悲鳴や叫び声が乱れ飛び、逃げまどう人々。
その向こう側には傷の癒えたらしい未確認生命体第28号ガーミ・ガバルの姿がある。両手のハサミを不気味に動かしながら逃げまどう人々をまるで品定めでもするかのように見回していた。

<倉田重工第7研究所 08:54AM>
研究所内に鳴り響くサイレン。
慌ただしく走り回る所員達に混じり、潤はKトレーラーの置かれてある地下駐車場へと向かっていた。
「今度こそ……」
そう呟きながら階段を駆け下り、地下駐車場にはいるとKトレーラーの側に雪見と留美が立っていた。二人とも険しい表情を浮かべている。
「どうしたんですか?」
潤がそう尋ねると、二人が彼の顔を見た。
「残念なお知らせよ、北川君」
留美がそう言い、隣で雪見が頷いた。それで何となくだが、その「お知らせ」の中身がわかったような気がする潤。
「あの泡に対する対策、出来なかったんですね?」
「簡単に言うとそう言う事ね。それにあの甲羅をうち破る事が出来そうなものも開発出来なかったわ」
申し訳なさそうに雪見が言う。
「モードAは使えないんですか?」
「第28号が出現した場所が悪いわ。東電の火力発電所。周囲に被害の出る可能性は抑えたいわね」
「なるほど……モードAだと周囲に何が起こるかわかりませんものね」
留美の否定的な発言に頷くしかない潤。
モードAの攻撃力ならば第28号の強固な甲羅もうち破る事が出来るかも知れない。だが、その装備の一つであるクレイモアランチャーは外すととんでもない被害を周囲に起こす事になる。数千発を誇るベアリング弾が一斉に発射されるのだ、それを受ければ無事で済むものなど無い。留美はそれを危惧しているのだろう。かと言ってクレイモアランチャー抜きだとその攻撃力は一気に低下する。
「でもそう悲観する事もないわ。使えるものを使って戦うのよ!」
留美がそう言ってピシッと潤の後ろを指さした。
振り返った潤がそこに見たのは何かのアタッシュケースを持った斉藤の姿。いきなり指を突き付けられて彼は驚いている。
「な、なんですか、いきなり?」
「あんたじゃないわ。そのアタッシュケースに用があるのよ」
留美はそう言うとずかずかと彼に歩み寄り、アタッシュケースをひったくった。そして潤達の方を振り返ってニヤリと笑う。
「これが秘密兵器よ。理論上、これで奴を倒せるはず」
「秘密兵器? そんなものいつ……」
雪見が驚いたような声を上げる。装備開発部主任としては聞き捨てならない話だ。それに留美にそんな暇があったとはとてもじゃないが思えない。
「実は前に使用出来なかったものを利用しようと思いまして。計算上、これで上手くいくはずです」
留美が雪見に向かって説明するように言う。
「計算上……? それじゃ間に合わないって始めから考えていた訳ね?」
雪見がそう言って留美を睨み付けると、留美は慌てて手を振った。
「そう言う訳じゃありませんよ。只、いくら深山さんでも一晩で何か新兵器を開発するのは無理だと思っただけです」
「……余り変わらないような気もするけど、まぁいいわ。とりあえずそれで頑張ってきてね」
「了解です! 行くわよ、北川君、斉藤君!」
留美はそう言って雪見に敬礼すると二人よりも先にKトレーラーに乗り込んだ。潤と斉藤も雪見に向かって何故か敬礼してからKトレーラーに乗り込んだ。
すぐにKトレーラーが未確認生命体第28号の出現したポイントへと発進していく。
雪見がその様子を見ていると、そこに息を切らせながら佐祐理がやってきた。
「……遅かったですか?」
「ええ、今PSKチーム、出動しました」
振り返りもしない雪見の報告を聞いて佐祐理は苦笑を浮かべる。
「どうかしましたか、所長?」
雪見がそう尋ねるが、佐祐理は苦笑を浮かべたままで答えない。
「第28号………倒せますよね?」
少ししてから佐祐理がそう言ったので雪見は彼女を振り返った。先程まで浮かべていた苦笑は既に無く、どことなく不安めいた表情が彼女の顔に浮かんでいる。
「さぁ……七瀬さんは何やら秘策があるようでしたけど」
そう言って笑みを浮かべる雪見。
「………」
佐祐理は雪見の言葉に特に反応を示さなかった。黙って、すがるように雪見を見つめている佐祐理。
「……大丈夫ですよ………多分」
何かいたたまれなくなり、呟くように、だが佐祐理に聞こえるようにそう言う雪見。
佐祐理は黙って頷くだけだった。

<神奈川県川崎区千鳥町 09:29AM>
未確認生命体第28号ガーミ・ガバルは所轄の警官達に加え、神奈川県警の機動隊、それに警視庁未確認生命体対策本部の面々にすでに包囲されていた。
場所は相変わらず東電の火力発電所内。すでに作業員の大半は非難を終え、残る作業員達も警官隊の誘導によりガーミ・ガバルから離れたところを通って避難中である。
「やれやれ……避難が完了するまで攻撃は出来ないのか」
パトカーの陰に隠れながらライフルを構えている黒尽くめの男、警視庁未確認生命体対策本部の刑事、国崎往人が呟く。
「ヘタに攻撃して発電所に何かあったら大変じゃないですか」
国崎の呟きにそう言ったのは同僚の住井である。
「それにあいつは逗子海岸でかなりの警官を殺しているんです。油断出来ない相手なんですよ」
「わかってるよ、そんな事は。ただな、何であいつが俺たちに付き合うかのように動かないのか、それが気になるんだよ」
確かに国崎の言う通りであった。
未確認生命体第28号は警官隊に包囲されてからと言うもの一歩も動いていない。まるで何かを待っているかのように。身動ぎ一つしないのだ。国崎にはそれが不気味に思えて仕方がなかった。
(何だ……何を待ってる……?)
油断無くライフルのスコープに第28号の姿を捕らえながら国崎は考える。
(奴は……人を殺すのが目的じゃないのか?)
ふと頭に浮かんだその考え、それはないだろうとすぐに否定する。人を殺すのが目的でないはずがない。逗子海岸で何の罪のない人々を惨殺したのはこいつじゃないか。
(……まさか、奴……カノンを待っているのか……?)
国崎がそう考えた時、そこにサイレンの音が聞こえてきた。振り返るとそこまでKディフェンサーに乗ったPSK−03が来ている。
国崎達の前でKディフェンサーを止め、PSK−03は警官隊の包囲に先にいる第28号を見やった。
「今度こそ……」
そう呟いてKディフェンサーから降りる。装備ポッドの中から分解されているブレイバーバルカンを取り出し、素早く組み立てるとさっと国崎達の方へと振り返った。
「ここから先は俺がやる。下がっていてくれ」
そう言って警官隊よりも前に出るPSK−03。
それを見たガーミ・ガバルがすっと身構えた。
別段PSK−03を待っていたわけではない。警官達がどう出るか楽しみに待っていただけなのだが、先にPSK−03が出てきたので相手をしてやろうという気になっただけだ。こいつなら少しは楽しませてくれる、尤も自分の敵ではないが。
「ゴリ・ラリシェミ・マッシェ・ギャヅ」
そう言ってPSK−03を巨大なハサミで手招きする。
「こいつ……!!」
『北川君、挑発に乗っちゃダメよ! あいつとは距離を取って戦うの! 接近するのは最後の一手を積む時よ!!』
聞こえてくる留美の声に潤ははやる気持ちを抑えた。やれるのならば接近戦に持ち込みぶん殴りたいところだが、PSK−03で格闘戦に持ち込んでも第28号に勝てる可能性は低い。Kトレーラー内で受けた指示の通り戦うのが一番確実だろう。
ぐっと前に出ようとする足を踏みとどめ、ブレイバーバルカンを構える。
「行くぞっ!!」
そう言って横に走りながらブレイバーバルカンの引き金を引く。同時にガーミ・ガバルも同じ方向に走り出す。その足下にブレイバーバルカンから発射された特殊弾丸が着弾する。それはまるでガーミ・ガバルの足を止めるかのように。だが、そんなもので足を止めるような相手ではない。勿論それは潤も承知の上だった。
(良し……ついてこい!!)
そう思いながら潤は走る。これは第28号を警官隊から引き離す為。そして第28号が倒された時に起こる爆発の被害を抑える為。
一定の距離を置いて走り続けるPSK−03とガーミ・ガバル。と、不意にガーミ・ガバルが向きをPSK−03の方へと替え、PSK−03に突っ込んできた。
「何っ!?」
突然の事でPSK−03は立ち止まれず、そのままガーミ・ガバルの体当たりを食らって吹っ飛ばされてしまう。
倒れたPSK−03に飛びかかろうとするガーミ・ガバルだが、PSK−03はブレイバーバルカンをガーミ・ガバルに向けて素早く引き金を引く。特殊弾丸ではガーミ・ガバルの甲羅を撃ち抜く事は出来ないが、その衝撃を叩き込む事は出来る。それが狙いだった。
秒間50発を誇る特殊弾丸の洗礼を受け、吹っ飛ばされるガーミ・ガバル。
それを見たPSK−03はすぐに立ち上がると、再び走り出した。
ガーミ・ガバルは起きあがると同時駆け出し、PSK−03を追う。
「……何処までいく気だ、あいつら?」
呆然と国崎が呟く。
すでにPSK−03もガーミ・ガバルもかなり遠くに行ってしまっていた。辛うじて見える、と言う感じだ。
「とりあえず追いかけましょう、国崎さん!!」
そう言って住井がパトカーに飛び乗る。
「あ、ああ……」
国崎も自分の覆面車に乗り込んだ。そこに入ってくる無線の音。
「国崎だ」
『相沢だ。28号はどうなってる?』
「今PSK−03と一緒に走ってる」
『……何だよ、それ。とにかくもうそこに着くから』
「ああ、わかった。気をつけてくれよ」
『そっちこそ。ああ、そうだ。28号の甲羅に銃弾は効かないと思う。狙うなら甲羅に覆われてない場所を頼むぜ』
「……わかった」
国崎はそう言うと、無線のマイクを置き、覆面車を発進させた。

PSK−03を追うガーミ・ガバル。
その距離は徐々に縮まっていた。PSK−03が遅いのではない、ガーミ・ガバルの足が異常なまでに早いのだ。しかもガーミ・ガバルは普通に走るのではなく、身体を横にして横方向に移動しているのだ。
「くっ……速いッ!!」
センサーで第28号の位置を確認したPSK−03が呟いた。
『もう少しよ! 頑張りなさい、北川くんっ!!』
マスクに内蔵されている無線から留美の声が聞こえてくる。当初から予定されていた戦闘ポイントまでもう少しなのだ。
「ゴゴサジェジャ」
耳元で聞こえてくるガーミ・ガバルの声。それに驚く暇もなくPSK−03は物凄い衝撃を背に受け、前のめりに倒れて転がった。その手からブレイバーバルカンが放れて地面の上を転がっていく。
「しまったっ!!」
少し離れたところに転がったブレイバーバルカンを見てPSK−03が手を伸ばす。だが、その背をガーミ・ガバルが踏みつけた。
「ラノチバ・ロヴァヂジャ」
そう言ってハサミを振り上げるガーミ・ガバル。
もうダメだ、と潤が目を閉じた時だった。一台のバイクが猛スピードで突っ込んで来、軽くジャンプしてガーミ・ガバルを吹っ飛ばす。
キキッとブレーキ音を鳴らして急停止したのはやはりと言うかロードツイスターだった。勿論乗っているのは祐一である。ヘルメットを脱ぎ、ロードツイスターから降りた祐一は自分が吹っ飛ばしたガーミ・ガバルを見据えてからさっと両手を腰の前で交差させた。そのまますっと前に伸ばし、左手だけを腰まで引く。残った右手で十字を描き、鋭い声で叫ぶ。
「変身ッ!!」
その声と同時に腰に浮かび上がるベルト。その中央にある霊石が光を放った。眩い光が周囲に溢れ、その光の中、祐一の姿が戦士カノンへと変わる。
カノンは拳をぐっと握り込むと、起きあがったガーミ・ガバルへと突っ込んでいく。一気に距離を詰めてパンチを食らわせていく。
カノンの登場によりピンチを脱したPSK−03は身を起こすと地面に転がっているブレイバーバルカンを拾い上げた。
『北川君、チャンスよ! 第3号が第28号の相手をしている間に例のあれを!!』
「わ、わかりました!」
PSK−03はブレイバーバルカンの横のボタンを押し、ガトリングモードからグレネードモードへと切り替える。そして、その銃口を第28号へと向ける。
「喰らえッ!!」
躊躇無く引き金を引くPSK−03。ブレイバーバルカンから発射されたのは通常のグレネード弾ではなく、いつか開発されながらも使用する事がなかった冷凍ガス弾。それが発射され、第28号とカノンの真上で爆発する。
カノンはそれに気付くとガーミ・ガバルにパンチを食らわせて、素早く横に転がった。次の瞬間、ガーミ・ガバルの頭上から冷凍ガスが降り注ぎ、周囲を凍らせていく。
絶対零度に近い超低温ガスで空気中の水分まで一気に凍らせてしまう、それがこの冷凍ガスの効果である。それが今、未確認生命体第28号に襲いかかったのだ。
何が起きたのかわからず、周囲を見回すだけのガーミ・ガバル。その間にも超低温ガスはその周囲を凍りつかせていく。
『どう、北川君。冷凍ガスの効果は?』
「まだです、まだ……」
そう言いながら潤は相手をじっと見つめている。
『これでダメなら……みんな、お終いよ。何とか気張りなさい!』
「了解です!」
潤がそう答えた時、何か見えない力が横から襲いかかりガーミ・ガバルを吹っ飛ばした。
「なっ!?」
驚きの声を上げる潤、そしてすぐに何らかの力が作用した方向を見る。すると、そこには真っ白い巫女装束のような服を着た一人の女性の姿。
「み、水瀬……」
「名雪ッ!! 邪魔をするなっ!!」
現れた女性を見て苦渋の声を漏らす潤と怒鳴り声をあげるカノン。
巫女装束の女性、水瀬名雪は黙って、悲しげな瞳を伏せながら首を横に振った。
「それは出来ないよ、祐一……私達はヌヴァラグと持ちつ持たれつの関係にあるからね」
「な、何を言ってるんだ、水瀬は……?」
PSK−03がそう言ってカノンを見るが、カノンはじっと名雪を見つめたままだ。ぎゅっと拳を固く握り込み、肩を細かく震わせている。
「本気で……そう言ってるのか?」
「………」
カノンの問いに名雪は答えず、すっと右手を前に突き出した。そこに生まれる衝撃波がカノンとPSK−03を吹っ飛ばす。
「うおっ!?」
「くっ!!」
吹っ飛ばされ、地面を転がるカノンとPSK−03。
そこにガーミ・ガバルが襲いかかった。巨大なハサミを振り上げ倒れているカノンに向かって振り下ろす。
「だ、だめっ!!」
そう言ったのは名雪だった。同時にその手に生まれた衝撃波がガーミ・ガバルをまたも吹っ飛ばした。
「な……」
驚きの声を上げたのはカノンよりもPSK−03だった。身を起こした彼が見たのは、今自分が何をしたか気付き驚いている名雪だった。
おそらくとっさの事だったのだろう。本能的に彼女は祐一を助けたいと思ったのだ。それが行動に出てしまい、ヌヴァラグの敵であるはずのカノンを、祐一を助けてしまったのだ。
「あ……ああ……」
青ざめた顔をして二、三歩後退する名雪。
ガーミ・ガバルが身を起こして名雪を見る。その目が怒りに燃えていた。
「ルダギッシャマ・シマネモ・ロヲマ!」
そう言って名雪に向かって飛びかかろうとするガーミ・ガバル。だが、その前にカノンが立ちはだかった。
「させねぇよっ!!」
カノンの回し蹴りが走り出したガーミ・ガバルの顔面にヒット、横に吹っ飛ばす。それからカノンが振り返るが、もうそこに名雪の姿はなかった。
「こ、今度こそ!!」
PSK−03がそう言ってブレイバーバルカンを発射した。今度は頭上ではなく、真正面に向かって。冷凍ガス弾が起きあがったばかりのガーミ・ガバルに直撃する。一気に下がる周囲の気温。凍りつき始める甲羅。
「グググ……」
ガーミ・ガバルは口から白い泡を吐き出し、己の身体を包み込もうとする。
「もう一発だ!! もう一発、撃ち込めッ!!」
カノンの声にPSK−03は反射的に引き金を引いていた。たった3発しか用意されてない冷凍ガス弾。その全てが今使用されたのだ。
(これでダメならもう手は無いッ!! 頼む、効いてくれ!!)
祈るような気持ちでガーミ・ガバルを睨み付けるPSK−03。
二発目の冷凍ガス弾は白い泡ごとガーミ・ガバルを凍りつかせていく。
「今だっ!!」
すかさずブレイバーバルカンのモードをガトリングモードに切り替え、引き金を引く。秒間50発の特殊弾丸が凍りついたガーミ・ガバルに叩き込まれていく。
ガーミ・ガバルの身体を覆い尽くした氷が砕け散る。
「ヌオオオッ!!」
雄叫びをあげて内側から氷を叩き割るガーミ・ガバル。どうやらとっさに吐いた白い泡が全身を防御していたようだ。
「な、何っ!?」
『北川君、まだ諦めないで!!』
留美の声が聞こえてくるが、潤の心は挫けかけていた。
「ウオォォォォォッ!!」
挫けかけていた潤の耳に飛び込んできたのはカノンの雄叫び。いつもの白いフォームから赤いフォームへと変身し右拳を振り上げながら突っ込んでくる。
「ヌウウッ!!」
ガーミ・ガバルが振り返りながらハサミで赤いカノンの拳を跳ね上げた。更にもう一方のハサミでカノンのボディを分断しようとする。
「やらせるかっ!!」
そう言ってPSK−03が横から突っ込んでいった。肩からの体当たりに吹っ飛ばされるガーミ・ガバルを見下ろし、PSK−03は電磁ナイフを持つ。
「行くぞっ!!」
電磁ナイフを片手にガーミ・ガバルに飛びかかっていくが、倒れたままのガーミ・ガバル蹴り飛ばされてしまう。
素早く起きあがったガーミ・ガバルはよろけて背を見せているPSK−03に襲いかかろうと両方のハサミを振り上げた。
「北川ッ!!」
そう言って駆け出そうとしたカノンは、身体の中に何か違和感を感じて立ち止まった。
(何だ………この感覚は……?)
カノンの姿が赤いカノンから白いカノンへと戻る。ベルトの中央にある霊石が更なる光を放つ。次の瞬間、カノンの目が赤から金に変わり、全身に黒いラインが走った。
「ウオッ……ウオオオオッ!!」
何かわからない力が全身を駆けめぐる。それを制御しきれない。
「クウウウ………」
苦しげな声を上げてその場に崩れ落ちるカノン。
「ヌオオオオッ!!」
苦しげに左手を前に伸ばしたその時だ。突如その先の空間が歪みだした。
その歪む空間の向こう側ではPSK−03が背にハサミの一撃を受けてのけぞっていた。
「き、北川、こっちだ! こっちに奴を……」
必死に声を絞り出すカノン。全身に走った黒いラインが徐々に広がってきている。それに合わせるかのように軋みをあげるカノンの身体。
PSK−03にその声が届いたのか、PSK−03はよろけた足を踏ん張り、後ろにいるガーミ・ガバルに向かって足を突き出した。それは丁度PSK−03に襲いかかろうとしたガーミ・ガバルにカウンター気味に決まり、カノンのいる方へと吹っ飛ばした。
ガーミ・ガバルの背がカノンの前に出来ている歪んだ空間に触れたその時、まるでブラックホールにでも吸い込まれるかのようにガーミ・ガバルの姿が歪んだ空間へと吸い込まれていく。ただ吸い込まれるだけではない。バキバキバキと嫌な音をたてて、身体を押しつぶしながら、歪んだ空間の中へと消えていく。
「ハァハァハァ………」
荒い息をしながら、カノンが祐一の姿に戻っていく。全身汗だくになり、その顔色もかなり悪い。それに消耗しきっているのか、その場から動こうともしなかった。
そこにPSK−03が近寄ってきた。
「相沢………」
呼びかけられ、顔を上げる祐一。
PSK−03はマスクを外し、その素顔を露わにする。
「……助かった。礼を言う」
「俺は……俺の出来る事をしただけだ……」
まだ荒い息をしながら祐一が潤に言い返した。そして片膝をついてゆっくりと立ち上がる。
そんな祐一から目を外し、潤は空を見上げた。
「なぁ、相沢……」
潤に呼びかけに祐一は彼に目を向ける。
「俺は……お前にも、誰にも負けない、負けたくないんだよ」
それだけ言うと潤は歩き出した。
祐一は黙ってその場に立ち尽くし、去っていく潤の後ろ姿を何も言わずに見つめているだけだった。

Episode.44「鬼牙」Closed.
To be continued next Episode. by MaskedRiderKanon


次回予告
突如カノンの中に目覚めた謎の力。
しかし、その力を祐一は制御しきれない。
香里「そうね……これはカノンの、って言うよりも水瀬の、って言うのが正解じゃない?」
名雪「……どうしても、なの?」
自らの力に振り回される祐一、そこに襲い来るオウガ。
姿の見えない未確認生命体に苦戦を強いられるPSK−03。
潤「何だ……センサーをやられた!?」
キリト「逃がしはしませんよ、相沢祐一」
謎の力の正体とは?
そして、名雪に迫る老婆の邪悪な魔の手!
秋子「出来なければ……死ぬだけですよ」
次回、仮面ライダーカノン「究明」
乗り越えろ、その運命!!

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