<都内某所・とあるビルの屋上 21:39PM>
月すらない暗闇に覆われた空。
そんな暗い空の下、そびえる摩天楼。
まるで闇に溶け込むかのように黒い服を着た男がその摩天楼の一つの屋上に立っている。
「……オソイ」
黒い服を着た男が呟く。
それは何処か機械が発したものに似た声。
「……イツマデマタセル……」
どうやら誰かを待っているようだ。
その相手は時間にルーズなようで、黒い服の男は長い時間待たされているようだ。
不意に強い風が屋上を吹き抜けた。
被っていた帽子を吹き飛ばされないよう手で押さえる黒い服の男。
と、そこに一人の老婆が姿を現した。
何処から現れたのか、気配一つさせず、まるで始めからその場にいたかのように。
「待たせたな……」
老婆が低い声でそう言った。
「次はこの二人を始末してくれ」
そう言って二枚の写真を取り出す老婆。
黒い服の男は老婆から写真を受け取るとじっと二枚の写真を見つめた。
月すら出ていないと言うのに写真がわかるのだろうか。
黒い服の男が帽子の縁を持ち上げる。その下から現れたのは小型スコープのような目。それが動き、写真を少ない明かりの中でも見られるようにしているようだ。
「……ワカッタ。ダガヤクソクヲワスレルナ」
「わかっておるわ。お主が力を借りる代わりにお主に更なる力を与える。この婆は約束を違えたりはせん」
何処か不機嫌そうに言う老婆。
黒い服の男は帽子を戻すと、にやりと笑った。
「イイダロウ。コンドハコノフタリダナ?」
そう言いながら写真を老婆に返す。
写真を受け取りながら、大きく頷く老婆。
「コノオレニマカセロ」
黒い服の男はそう言うと、ビルの端に向かって歩き出した。超高層ビルの為、屋上にはフェンスなど貼っていず、男はそのまま地上へとダイブするかのようにビルの端から飛び出した。だが、次の瞬間、何か巨大な鳥がすっと舞い上がった。
暗闇の空を、その巨大な鳥が翼を羽ばたかせて飛んでいく。
それを老婆は少しの間じっと見つめていた。
「……大婆様」
老婆の後ろから声がした。
今までその場には誰もいなかったはずなのに、いつの間にかそこには一人の少女が立っていた。
「彼の容態が落ち着きました。この様子ならもうすぐ目を覚ますと思います」
「そうか、ご苦労じゃったな、伊月」
老婆は振り返りもせずにそう言った。
その場にいた伊月と呼ばれた少女は特に気を害した様子もなく、老婆に向かってお辞儀すると、そのまますっと闇の中へと消えていく。
「……フフフ……どうやら時は熟しつつあるようじゃの……」
老婆の不気味な笑い声が響く。
その手に握られている写真がクシャリと音を立てて握りつぶされ、更に老婆はそれを目の高さに掲げると、一度目を閉じ、そして見開いた。
老婆の目が金色の光を宿し、同時に握りつぶされた写真が燃え上がる。
燃え上がる写真をその場に捨て、老婆も闇の中へと消えていった。
その場に残されたのは燃えている写真だけ。
その写真には、皆瀬真奈美と山田正輝が写されていた……。
 
仮面ライダーカノン
Episode.43「魔手」
 
<喫茶ホワイト 11:03AM>
カランカランとカウベルの音がして、ドアが開いた。
中にそっと入ってきたのは長森瑞佳。この喫茶ホワイトのマスターの親戚で、喫茶ホワイトのウエイトレス。少し前、未確認生命体第2号の手により重傷を負ったが、一命を取り留め、順調に回復、そして今日退院してきたのだ。
瑞佳が店内に入ると、いきなりパンパンパンとクラッカーが鳴った。
「瑞佳さん、退院おめでとー!!」
満面の笑顔でそう言ったのはこの喫茶ホワイトのアルバイトウエイトレス、霧島佳乃。
瑞佳がいない間、結構頑張ってくれていたのは彼女である。
「瑞佳さん、退院おめでとう」
そう言って入ってきた瑞佳に花束を渡したのは喫茶ホワイトの常連にして、瑞佳の友人でもある美坂香里。
彼女は瑞佳が入院している間、色々とあって彼女が入院していた関東医大病院に泊まり込む事も多かった。入院している瑞佳の所に見舞いに行ったりする事も多々あったので、彼女が退院してくる日も知っていたのだ。
「あ、あの、退院おめでとうございます!」
一人、瑞佳の知らない顔がそう言ってきた。でも、何処か見た事のあるような顔である。瑞佳が首を傾げていると、横から香里が口を出してきた。
「私の妹で栞って言うの。瑞佳さんがいない間、ここで働いていたのよ」
それを聞いてようやく合点がいったようだ。瑞佳はうなずくと、栞に向かって笑みを見せた。
「はじめまして、栞さん。どうもありがとうね、今まで」
「い、いえ、とんでもありません!」
何故か恐縮しまくる栞。
「お帰り、瑞佳。もう本当に大丈夫なのか?」
心配げに問いかけてきたのは喫茶ホワイトのマスターだった。
「うん、もう全く大丈夫だよ。今日からでも充分働けるくらい」
そう言って笑みを見せる瑞佳だが、マスターは慌てて手を振った。
「やめとけやめとけ。急に倒れられても俺が困る」
「そうそう、マスターの言う通り。瑞佳さんは後二、三日休養しておいてください。その分俺が頑張っちゃいますから」
親指を立てながらそう言ったのはこの喫茶ホワイトの居候兼バイトの相沢祐一だった。
「よく言うよ、祐一。お前、いっつも用事とかで居なくなるじゃないか」
「そうそう、その分あたし達が頑張っているんだよぉ!」
マスターと佳乃がそう言ったので祐一は罰が悪そうに苦笑し、頭をかいた。
それを見て瑞佳が笑い出し、更に香里達も笑い出した。
久し振りに喫茶ホワイトの店内が明るい笑い声に包まれる。
「さて、それでは今日は瑞佳の退院祝いと称して盛大にやるか!」
マスターがそう言ったので、その場にいた皆が一斉に拍手する。
何とも平和な一時であった。
 
<倉田重工第7研究所 11:54PM>
難しい顔をして七瀬留美と深山雪見は北川潤と向き合っていた。
お昼、ほんのちょっと前の食堂である。
まだお昼休みではないので人の数は余りない。だが、それも時間の問題だろう。もうじき正午になるのだから。この食堂が一日の中で一番忙しくなるのが正午過ぎなのだ。
その食堂の奥の方にあるテーブルを占拠して、3人は所長である倉田佐祐理を待っていた。
普段佐祐理は自分でお弁当を作ってくるので食堂には現れないのだが、この日はわざわざ朝からちゃんとアポを取っているのでちゃんとやってくるだろう。
「……遅いわね」
留美が呟くように言った。
一応約束しておいた時間は11時半である。既に20分以上過ぎている。もっとも佐祐理は所長という事実上、この第7研究所のトップであるから、色々と忙しいのだろうとは思うのだが。
などと留美が考えていると、食堂の入り口に佐祐理の姿が見えた。
「所長、こっちです!」
佐祐理の姿に始めに気がついたらしい雪見が立ち上がって手を振った。それで佐祐理も気がついたようで、走って彼女たちの元へとやってくる。
「す、すいません。会議が予想以上に長引いてしまって……」
ハァハァと息を切らせながら佐祐理がそう言い、空いている椅子に腰を下ろす。一応彼女の方が上司であるのだが、彼女は誰に対してもこういう感じであった。
「さて、所長も来られた事ですし、そろそろ話をはじめましょうか?」
雪見がそう言ったのでその場にいた一同は大きく頷いた。
「まず……何から聞くべきなのかしら?」
やや戸惑い気味に留美が言う。
「第3号の事かしらねぇ。北川君、君は第3号の正体、知っていたの?」
雪見の質問に黙って頷く潤。
「確信が持てていた訳じゃないんですが……」
慌ててそう付け加える。
「第3号をはじめて見た時、俺は5年前を思い出しました。N県であった事件……あれに俺は巻き込まれていた……」
昔を思い出すように目を閉じる潤。
「その話は前にも聞いたわ。君の親友が未確認に立ち向かっていって死んだとか、自分は何も出来なかったからPSK計画に参加したとか」
留美が口を挟んだので、潤は閉じていた目を開けて頷いた。
「そもそも……PSK計画とは」
いきなり佐祐理が口を開いたので、他の3人は佐祐理に注目した。
3人の視線を浴びながら、佐祐理は一度咳払いをして続ける。
「PSK計画はあの時何も出来なかった佐祐理達の罪滅ぼしのようなものです。あの事件は大勢の人の命を奪い、そして人生をも狂わせてしまった……佐祐理や、北川さんもその内の一人です」
そう言って悲しげに微笑む。
「もっとも一番運命を狂わされたのは、相沢祐一さんとその家族でしょうけど……」
「その相沢祐一と言う人が第3号、所長や北川君が言うところの”カノン”な訳ですよね?」
留美がそう尋ねると、佐祐理と潤が一斉に頷いた。
「佐祐理はその姿を直接見た訳じゃないんですが……」
「俺はあいつが変身するところも、戦っているところも全部見ていた。めちゃくちゃ苦戦していても、最後には勝つ。そう言うところを」
潤はそこで言葉を切る。
少し、間を空けていたのはあの時の事を思い出していたからだろうか。
「あいつはたった一人で戦って、そして周りからは非難されて、それでも俺たちを守る為に戦って、ボロボロになるまで戦って、そして死んだ。俺はあの時、何も出来なかったから……」
潤の脳裏にはあの時の光景が浮かんでいた。
そう、灰色のカノンが黒くなり、黒麒麟を渾身の力を込めたパンチで打ち倒した時の光景が。あの時、相沢祐一の身体は既にボロボロ、満身創痍だったはずで、その後に起きた爆発の炎の中から逃げ出す事は出来なかったはずだ。
そして、その場にいた彼は、炎の中に消えていく祐一を見ていることしか出来なかったのだ。
「取り合えず昔の話はいいわ。今聞きたいのは第3号は敵か味方か、まずそれよ」
雪見がそう言ったので、潤の意識は急速に現実に戻された。
「同じ未確認生命体であるならこの先殲滅の対象にもなりうるからね。その辺、はっきりさせないと」
「相沢は敵なんかじゃないし、未確認とも違う!」
潤は思わず立ち上がっていた。
「あいつは未確認からみんなを守る為に、自分のことを犠牲にして、同じ力を手に入れたんだ! あいつが敵になんてなるはずがない!!」
いきなり立ち上がった潤に驚きの目を向ける留美と雪見。だが、佐祐理は至って落ち着いているようだ。彼女もまた、潤と同じ気持ちであっただろうから。
「わ、わかったわ、北川君」
「落ち着いて、まず座って」
なだめるように留美、雪見が言う。その横では佐祐理が黙ってテーブルの上に用意されていたお茶を飲んでいた。
「君の気持ちはわかるけどね。未確認も、亜種も人間の姿をとることが出来るわ」
腰を下ろした潤に向かって言い聞かせるかのように雪見が話しかける。
「第3号が君の親友である可能性は否定しないわ。でも、たまたま君の親友のそっくりさんだったって言う可能性もあると思うの」
「……俺はあいつと喋った。あれは相沢祐一に間違いない!」
潤の言葉を聞いて留美と雪見は顔を見合わせた。
「……取り合えず一度会ってみませんか、二人とも?」
不意に佐祐理が口を開いた。
3人が佐祐理の顔を見る。いつもの笑みはそこにはなく、いつになく真剣な表情が彼女の顔にある。
「北川さんが見た祐一さんが……本物であるかどうか、佐祐理も見てみたいと思いますから」
佐祐理はそう言って3人の顔を見返した。
(そう……舞の為にも……祐一さんが本物であるかどうか、佐祐理が確かめないと……)
心の中でそう呟きつつ。
 
<都内某所・とあるマンションの一室 13:43PM>
ベッドの上で静かに寝息を立てながら眠っている山田正輝の顔を見つめながら、皆瀬真奈美は微笑みを浮かべていた。
ここしばらく、こうやって落ち着いた時間がほとんど持てなかった。
そう、あの老婆が現れ、真奈美の中に眠る力を覚醒させ、更に正輝に謎の宝珠を埋め込んだあの日から。
二人きりの静かな時間。
恋人同士の甘い時間などあったものではない。
「こんな時間、昔はもっとあったのにね」
真奈美はそう呟くと、正輝を起こさないように立ち上がった。
大分回復して来てはいるが、まだまだ彼の身体はダメージが大きい。とてもじゃないが、変身して戦える程ではない。今は只、回復する為に時間が欲しい。
そう祈るように、真奈美は目を閉じ、そっとその部屋から出ていった。
「お疲れさま」
「きゃっ!!」
いきなり声をかけられ、真奈美は思わず驚きの声を上げてしまった。
さっきまでこの部屋には誰もいなかったはずなのだ。同居人同然の皆瀬葵は数日前に飛び出していったきり行方不明。更に老婆と、その老婆が常に従えている水瀬名雪という少女も姿を消している。誰もいないはずなのだ。
「わわっ、びっくりした〜」
どうやら、いきなり悲鳴にも似た声を上げた真奈美に、相手の方も驚いたようだ。少し間延びしたような声でそう言って胸を押さえている。
「あ……あれ? お姫様じゃない」
真奈美は自分の胸を押さえている少女を見て、そう言った。
水瀬一族の次期宗主、水瀬名雪。
老婆が常に自分の側に置き、従えているはずの彼女が、今は真奈美の目の前でふ〜っと息を吐いて胸を撫で下ろしている。
「真奈美さん、いきなり大きい声出すからビックリしたよ〜」
そう言って笑みを見せる名雪。
その名雪の笑みに戸惑いを覚える真奈美。
少なくても彼女の知っている名雪は真奈美や葵に対して話しかけることもなければ、笑いかけることなど無かったからだ。常に無口無表情で、老婆の言うことにのみ従う。まるで人形のような少女。それを揶揄するかのように葵が彼女を「お姫様」と呼び出したのだ。
その人形の「お姫様」が今、自分に向かって笑みを見せている。
一体どう言うことなのか、真奈美にはまるでわからなかった。
「……お姫様……あの……大婆様は?」
「知らないよ?」
「何時も一緒に居るんじゃ……?」
「う〜ん、そう言うわけでもないよ。ここしばらく見てないもん」
真奈美の質問に答える名雪は、今までの名雪とは明らかに違う。表情など、ごく自然にでている。前までの無口無表情がまるで嘘みたいに。
(ああ、そうか……こっちが本物なんだ……)
不意に真奈美は理解した。
今、目の前にいる名雪が、本来の名雪であると言うことを。前までの、大婆様にのみ付き従い、無口無表情だった名雪は本当の彼女ではないと言うことに。
そんな事を考えている真奈美の前で名雪は大きく欠伸をした。
「ふわあぁぁ……」
急に眠たそうな目をして、名雪は真奈美を見た。
「真奈美さん、ベッド貸して……」
そう言ってふらっと真奈美の方に倒れ込む。
「ど、どうしたの!?」
それが余りにも突然だったので真奈美は慌てて彼女の身体を受け止めた。
「もうダメ……眠たい……くー……」
真奈美に抱き留められたまま、名雪が寝息を立て始める。
自分の腕の中で眠りはじめてしまった名雪を見ながら、真奈美は苦笑を浮かべた。
そう言えば前からこのお姫様はよく眠っていたわね。力の反動とか大婆様は言っていたけど。取り合えず、あの頃から寝顔だけは変わらないと言うことは、あの寝顔はやはり本物の彼女、無意識化では本当の彼女が顔を見せていたと言うことか。
真奈美はそんな事を考えながらすっかり眠ってしまった名雪を別のベッドルームへと運んでいった。
その部屋の窓を、じっと見ている視線があることに気付かないまま。
 
<喫茶ホワイト 14:32PM>
「だからね、基本的にマスターはお祭り好きだと思うのよ」
香里が赤い顔をしてそう言うと、コップをどんとテーブルの上に叩きつけた。
「そうでしょ!? そう思うでしょ、相沢君も!!」
「あ、ああ。確かにな……」
赤い顔の香里の迫力に戸惑い気味の祐一。
誰が持ち出したのか、マスター秘蔵のお酒がいつの間にか振る舞われていたのだ。佳乃、栞のアルバイトウエイトレスコンビは早々と撃沈。マスターは一人カウンターの奧でちびちび飲んでいる。瑞佳は酔いつぶれたのか、椅子に座って眠ってしまっているようだ。そして、残ったのが祐一と香里で、すっかり酔っぱらってしまっている香里の相手をあんまり飲んでいない(給仕とかさせられていたのだ)祐一が相手をせざるを得なくなってしまったと言うところだった。
「でもね、あの子達にお酒はまだ早いと思うのよ、私は!!」
そう言って香里は撃沈済みの二人を指さした。
「ああ、確かにそれは俺も同感だ……」
佳乃にしろ、栞にしろ、まだ20を越えた位。それほどお酒を飲んだこともないし、どっちかというと甘いものの方が好きなのだろう。あっと言う間につぶれてしまったのだから。
「だいたい何で喫茶店にお酒なんかおいてあるの!? コーヒーとか紅茶とかに入れるの!? これ、日本酒よ!!」
そう言ってコップに入ったお酒をぐいっと煽る香里。
一体これで何杯目か、考えるのが怖い。
「そうよ、まだブランデーとかなら理解も出来るわっ! でも、何で日本酒な訳!?」
またしてもテーブルの上にドンッとコップを叩きつけるかのように置きながら香里が言う。
端から見ていると怖い以外の何ものでもないだろう。
と、その時、店の中の電話が鳴った。
これ幸いとばかりに立ち上がる祐一。香里に何か言われるよりも先に、急いで受話器を手に取る。
「はい、白い雪のように爽やかな味を……あ、何だ、北川か」
電話の相手を知り、やや落胆したような声を出す祐一。これが単純に客からの出前の依頼だったらこの場を逃げられたのに。
「で、何か用か?」
祐一が何処か素っ気なくそう言うと、電話の向こう側の相手が何か言ったらしく、祐一の表情が訝しげなものへと変わった。
「それはどうしてもか?」
しばしの沈黙。相手の言ったことに対してどうすればいいのか考えているようだ。
「……わかったよ。じゃ、また後でな」
そう言って受話器を戻す祐一。
その顔には何処か難しいような、戸惑ったような表情が浮かんでいる。
「……すいません、マスター。ちょっと出かけてきます」
祐一はそう言うと、つけていたエプロンを外し、喫茶ホワイトから出ていった。すぐに遠ざかっていくロードツイスターのエンジン音。
それを聞きながら、香里は何時しか夢の中へと引き込まれていくのであった。
 
<江東区有明西埠頭公園 15:21PM>
道端にロードツイスターを止め、祐一はベンチに座ってじっと海を見つめていた。対岸に見える10号地埠頭、あそこで一度PSK−01と、北川潤と出会っていることを彼は何気なく思いだしていた。
「そういや、そうだったんだなぁ……」
あの時もこの間と同じ質問をされた。だが、あの時は、記憶を失っていたからPSK−01が北川潤であるとは思い出すことが出来なかったのだ。
未確認生命体第7号と第8号、その猛威を協力(?)して撃破した事などを思い出していると、後ろに人の気配を感じ、祐一は振り返った。
「随分待たせるじゃないか、北川」
そう言ってベンチから立ち上がる。
「ああ、悪かったよ。その事については謝る」
神妙な顔をして潤が答えたので、祐一は訝しげな顔をして、彼を見返した。少なくても祐一の知っている彼はそう言う表情を見せたことがない。もっともそれは5年前の情報でしかないのだが。
「……何だよ、お前らしくないな。で、話って何だ?」
少しの間をおいて、祐一は苦笑を浮かべながらそう言った。
だが、潤は笑み一つ見せず、じっと祐一を見つめている。
その視線を気味悪そうに見返し、祐一は黙っている潤の横を通り過ぎた。
「……お前に会いたいって人が居る。今の俺の仲間で、そしてお前も良く知っているはずの人だ」
潤の言葉に足を止める祐一。
顔を上げると、その視線の先に見知った顔があった。
懐かしい笑顔を浮かべて、こっちの方を見つめている。その目には涙が浮かんでいるのは気のせいではないだろう。ここにも居たのだ、5年間、彼のことを生きていると信じて、心配していてくれた人が。
「……お久し振りです、祐一さん」
「ええ、お久し振りですね、佐祐理さん」
佐祐理の笑顔に返すように祐一も笑みを浮かべる。
「さて、話はこれからだ、相沢」
祐一のすぐ後ろまで来ていた潤がそう言い、祐一の肩に手を乗せた。
そして佐祐理の側に現れる二人の女性。
祐一は知らないが、それは留美と雪見であった。
まるで祐一を取り囲むように、3人の女性が彼の側にやってくる。
一体何が始まるのか、祐一はやや不安な表情を浮かべながら近寄ってくる3人の女性を見ているのであった。
 
<神奈川県逗子市逗子海岸 15:53PM>
まだシーズン前と言うこともあって逗子海水浴場には人の姿はなかった。
そこに現れる幾つかの人影。
目つきの鋭い切れ長の瞳の女、苛立たしげに爪を噛んでいる男、そして美しいドレス姿の女性など。
その連中は皆、同じように海の方を見つめていた。まるで、そこに何かがあるかのように。
と、海の方から何かが波をかき分けて海岸へと向かってきた。その速度は尋常ではなく、あっと言う間に砂浜にそれが姿を現す。
「サシャネシャマ」
砂浜に現れたのは巨大な蟹の怪物であった。蟹種怪人、ガーミ・ガバル。未確認生命体ヌヴァラグの一体である。
「次は、お前だ」
美しいドレス姿の女性がそう言ってリング状の装飾品をガーミ・ガバルに向かって投げ渡した。
そのリング状のものを受け取ったガーミ・ガバルは人間の姿になるとにやりと笑った。
「マリヲガマリヲ・シャマリヲシャマリヲイガヲジェ・マリヲガマリヲ・シャマリヲシャマリヲミヲ・ソヲグバ・ラヅサリ?」
そう言って高らかな笑い声をあげる。
「ウリツヲショ・ギョギュルザ・ラヅギョルジャマ」
と、突然その場に一人の男が姿を見せた。
素肌の上に革のジャンパーを着、ジーンズをはいたサングラスをかけたキザな男。
その男の登場は、それまでその場にいた者達に衝撃を与えたようだ。美しいドレス姿の女性以外の誰もが青ざめた顔をしている。
「……タッシャガ・マヲモギョルジャ?」
美しいドレス姿の女性がキザな男に向かってそう言うと、キザな男は肩をすくめて見せた。
「ゼースモ・ヌヌシズラリン・シミギシャニ・ギサッシェヅジャドル」
「ギナサシャシィモ・ジェタヲバ・サジャモ・バウジャ」
そう言ったのは切れ長の瞳の女。
「シマ・ニチデン・ギダニシェヅ・バギャグニドショマ」
キザな男がそう言い返し、にやりと笑った。
「ジャザ・ソルニタダグ・サッシェギャドル」
「ゼースン・カサバ・ナネヲ!」
ガーミ・ガバルがそう言ってキザな男を睨み付けるが、キザな男は少しも動じた様子はない。
「ネリエリ・ザヲアヅ・ゴショジャマ」
キザな男がそう言ってガーミ・ガバルを見る。
歯を思い切り噛み締め、ガーミ・ガバルはその場から足早に立ち去っていった。
「……少しは面白くなりそうだな、ターダ?」
キザな男が日本語で美しいドレス姿の女性に向かって言うが、美しいドレス姿の女性は何も言わずに彼を見返すだけだった。
 
<都内某所・とあるマンションの一室 16:30PM>
真奈美はまた正輝が眠っているベッドの側にいた。
勿論、名雪は別の部屋に寝かせてきたので、この部屋の中では二人っきりである。
「正輝……早く元気になってね……」
眠っている正輝に向かって真奈美がそう話しかける。
その時だった。
隣の部屋から何かが割れる音が聞こえてきたのは。
はっと立ち上がる真奈美。その足で隣の部屋に続くドアを開けようとノブに手を伸ばすと、それよりも先にドアが開き、黒い手袋に包まれた手が真奈美の手を押さえる。
「………ッ!!」
慌てて自分の手を押さえた黒い手袋を振り払おうとするが、思った以上に強い力で黒い手袋は真奈美の手を押さえていて、振り払うことが出来ない。
それでも必死に何とか黒い手袋を振り払おうとする真奈美の前で、ゆっくりとドアが開き、不気味な黒い服を着た黒い帽子の男が姿を見せる。
相手の姿を見た真奈美は、すかさず意識を切り替えた。何故かはわからないが、この男から激しい害意を感じ取り、とっさに水瀬の力の使用モードに入ったのだ。
視線さえ合わせることが出来れば、相手の意識下に侵入し、自在に相手を操ることも出来る真奈美の力。だが、逆に言えば視線を合わせることが出来なければその力は使えない。だから、真奈美は空いている手で相手の帽子を払い落とそうとした。
だが、それよりも早く、男は自分の帽子を脱ぎ捨て、その奇怪な顔を露わにした。
「ひぃっ!!」
露わになった男の余りもの奇怪な顔に思わず悲鳴を上げてしまう真奈美。
更に男はそんな真奈美の目の前でその真の姿を露わにする。そう、未確認生命体第2号ガダヌ・シィカパへと。
今度は言葉も出なくなる真奈美。
ガダヌ・シィカパは金属の左手をゆっくりと振り上げ、その狙いを真奈美の喉へとつける。そのまま振り下ろせば一撃で真奈美は死ぬだろう。
「フフフ、シネ」
ガダヌ・シィカパがそう言って左手を振り下ろそうとした時、誰かがドアを蹴り飛ばし、同時に真奈美の身体を掴んでベッドの方に投げ飛ばした。
ガダヌ・シィカパは勢いよく閉じられたドアに腕を挟み、苦痛の声を上げ、真奈美はベッドの上に尻餅をつき、呆然と自分を助けた男の背中を見ていた。
「……ま、正輝……?」
「大丈夫か、真奈美?」
振り返りもせずに正輝が言う。ドアの向こう側にいるガダヌ・シィカパを警戒しているのだ。
「わ、私は大丈夫だけど……正輝は?」
「俺のことなら……心配するな」
心配そうな真奈美の声にそう答える正輝。だが、真奈美は気付かなかったが、その声は少し震えていた。まだ完全に回復したわけではない。それどころか立っているのもやっとだ。しかし、それでも。
正輝が身構えるのと同時にドアが外側へと吹っ飛んだ。向こう側にいたガダヌ・シィカパが力任せに引っ張ったようだ。
「シネェェェェェェッ!!!」
奇声を上げながら飛び込んでくるガダヌ・シィカパを冷静に受け流し、その勢いを利用して床に叩きつける正輝。
「真奈美、逃げろっ!!」
正輝の声に、真奈美は頷き、ベッドルームから飛び出していく。そのまま部屋からも飛び出し、廊下に逃げ出していく。
「な、何で……ここが……」
呆然と走りながら、真奈美は呟いた。
この部屋は誰にも知られていないはずだ。同じ、この部屋で生活していた葵、名雪や大婆様はともかく。以前ヌヴァラグの首領格の女性と会談したところもここではないし、名雪の母親である秋子も、その秋子の双子の姉である冬美ですらこの場所を知りはしないだろう。
しかし、あの改造されたヌヴァラグの男はこの場所を知っていた。その上、自分達を襲ってきたのだ。自分達、水瀬一族の者を襲わないと言う約定があるにもかかわらず。
「何で……何で……」
真奈美はマンションの一階に辿り着くと、すぐに表へと飛び出した。それとほぼ同時にガシャーンという音が頭上から聞こえてき、何かが上から降ってくる。それは丁度マンションの入り口付近においてあった車の屋根の上に落下、屋根を大きく凹ませる。
思わず足を止めた真奈美がその車を見ると、ガダヌ・シィカパが呻き声を上げながら起きあがろうとしているところだった。
「グゥゥ……オ、オノレ……」
そう言って頭を左右に振ると、少し離れたところで立ちつくしている真奈美の姿が視界に入った。そしてにやりと笑う。どうやら、まだまだついているようだ。
「フフフ………」
ガダヌ・シィカパは不気味に笑いながら車の屋根から降りると、真奈美に向かって歩き出した。
真奈美は恐怖の余り動けなくなっている。
「ウオオリャァァァァッ!!」
そこに空中から聞こえてくる雄叫び、そして飛び降りてくる影。それは真奈美に迫ろうとしてたガダヌ・シィカパにキックを喰らわせると、その勢いそのままに地面を転がった。
「正輝ッ!!」
真奈美が悲鳴にも似た声を上げる。
そう、上から飛び降りてきたのは正輝だったのだ。
「真奈美には……指一本触れさせん」
よろよろと立ち上がりながらそう言い、正輝は再び身構えた。両手を腰の前で交差させると、そこにベルトが浮かび上がる。そして、ゆっくりと右手を挙げ、続いて残る左手と上に挙げた右手を胸の前に素早く交差、一気に左右に振り払う。
「変身ッ!!」
ベルトの中央が光を放ち、正輝の姿をフォールスカノンへと変える。
異形の姿のカノン。今回はそれに加えて全身がボロボロであった。まだ完全に回復していなかった所為だろう。
「……くっ」
少しよろけるが、何とか踏ん張り、フォールスカノンはガダヌ・シィカパと対峙した。
「お前が真奈美に何かしようとするんなら、俺が全力でお前を倒してやる。たとえ、お前がヌヴァラグの者だとしてもな」
フォールスカノンはそう言うと、ガダヌ・シィカパに向かってダッシュした。ガダヌ・シィカパの直前で足を止め、ジャンプしながらの回し蹴りを叩き込む。その一撃は綺麗にガダヌ・シィカパの頭部を捕らえ、ガダヌ・シィカパを吹っ飛ばした。
「フゥゥゥゥゥ……」
大きく息を吐きながらフォールスカノンがその場で身構え、倒れたガダヌ・シィカパを睨み付ける。
その様子を、マンションの屋上からじっと見下ろしている影があった。
サングラスをかけた線の細そうな男と杖を持った老婆、そしてその後ろには二人の少女が控えている。
「まずは奴じゃ……奴を消せ」
老婆が隣に立つ男にそう呼びかけると、男は黙って頷くのであった。
 
<都内某所・Kトレーラー内 16:43PM>
祐一は不機嫌そうな顔をし、目を閉じ、腕を組んだ状態で椅子に腰掛けていた。
すぐ隣には何処か困ったような笑みを浮かべた佐祐理が居、更に警戒の表情を浮かべた雪見が居る。
「何か……変なことになりましたね」
そう言ったのはトレーラー内に装備されている各種コンソールの前に座っている斉藤であった。勿論、不機嫌そうな祐一には聞こえない程度の声の大きさで、であるが。
「……あの人が噂の未確認生命体第3号でしょ? 本当に大丈夫なんですか?」
不安そうにちらちらと祐一の方を見たりしながら斉藤がそう言う。
その隣の椅子に座っている留美は先程から何度となく繰り返される斉藤の質問を既に無視することを決め込んでいた。勿論彼女も祐一に興味がないわけではない。だが、それを表面に表すことはなかった。
そしてこの場にいるべき最後の一人、北川潤だが、彼の存在こそが祐一を不機嫌にさせている最大の理由であった。彼はPSK−03の全装備を纏ってその場にいるのだ。これは雪見の指示によるもので、祐一のことを未だ警戒している為の措置であった。それについて、潤は反対したのだが、留美も特に反対しなかったし、佐祐理も何も言わなかったので押し切られてしまったのだった。
PSK−03に押し黙った祐一、愛想笑いを浮かべている佐祐理に警戒心全開の雪見。果てしなく異様な雰囲気がトレーラー内に漂っていた。
と、その時だった。
コンソールに備え付けられている無線の呼び出し音が鳴り響いたのは。
素早く留美がスイッチをONにすると、祐一も聞いたことのある声が飛び込んできた。
『警視庁未確認生命体対策本部より各車両へ。未確認生命体第28号が逗子海岸付近に出現! 直ちに急行してください!!』
警視庁未確認生命体対策本部の本部付の婦警の声だった。
祐一のロードツイスターは一度改造された時に無線を搭載しており、その無線は主に警視庁未確認生命体対策本部の刑事・国崎往人との連絡に使われているのだが、警察無線も傍受することが出来るのだ。
「こんな時に!!」
そう言ったのは雪見であった。
心底悔しそうな顔をしてPSK−03を振り返る。
「北川君、さっさと片付けてきなさい!!」
「深山さん、PSKチームの指揮権は私にあるんですが……」
雪見の後ろから留美がそう言うと、雪見は彼女の方を振り返った。そして、肩をすくめてみせる。
「……北川君、今回は通常装備のみだけど大丈夫ね?」
「大丈夫です! 任せてください!!」
潤がそう言って自分の胸を叩く。どうやらかなり自信があるようだ。ここ最近、PSK−03でも充分に未確認生命体と互角に戦えていることから来る自信の現れだろう。
「じゃ、北川君……PSK−03はKディフェンサーにで逗子海岸に先行、我々もすぐに後を追うって事でいいわね?」
確認するかのように留美がいい、それに潤は頷いて答える。
Kトレーラーの後部においてあるKディフェンサーに跨るPSK−03。
祐一はその雄姿を黙って見つめているのであった。
「相沢、先に行ってるぜ。俺の戦いっぷりを見ておけ!!」
潤が祐一にそう言い、その直後、KディフェンサーがKトレーラーから降ろされ、逗子海岸へと向かって疾走を始めた。
Kトレーラーの後部ドアが閉じられ、再び沈黙が中を支配する。その中、祐一はすっと立ち上がると、Kディフェンサーの横に置かれてあったロードツイスターに歩み寄った。ミラーに引っかけているヘルメットを手にすると、佐祐理達の方を見る。
「……悪いけど、ここで降ろして貰えないか?」
「何処に行く気なの?」
そう言ったのは留美である。
少し険しい表情を浮かべて、じっと祐一を見つめていた。
雪見も彼女と同じように彼を見つめている。極めて険しい表情で。
「……あんた達が俺をどう思っているかは知らないが」
祐一は真剣な目を雪見と留美に向けて口を開く。本人には特にそのつもりはないのだが、二人には祐一が凄んでいるように見えた。思わずぞくりと身体を震わせてしまう。
「俺は少なくても未確認の味方をするつもりは毛頭無い。あんたらの敵になるつもりもない」
そう言って祐一はずっと黙っていた佐祐理を見た。
小さく、だがしっかりと頷く佐祐理。
「トレーラーの後部ドアを開いてください。……祐一さん、走りながらでも降りられますか?」
「北川に出来たことが俺に出来ないとでも?」
そう言ってにやりと笑う祐一。
その笑みは留美や雪見、斉藤には不敵な笑みと映っただろうか。
祐一はヘルメットを被るとロードツイスターに跨った。そして佐祐理に向かって、右手の親指を立てて見せた。
「斉藤さん」
佐祐理がそう言って斉藤を見たので、斉藤は仕方なさそうに頷いた。
Kトレーラーの後部ドアが開いていく。
祐一はそれを見ると、ロードツイスターを発進させた。走行中のKトレーラーから道路に飛び出し、そのまま一気にスピードを上げて逗子海岸へと向かう。
 
<都内某所・あるマンションの前 16:52PM>
吹っ飛ばされるガダヌ・シィカパ。
マンションの前に止めてあった自転車を薙ぎ倒しながら、地面に倒れ込む。
「グウゥゥ……オ、オノレ……」
何とか身を起こすガダヌ・シィカパだが、その目の前にフォールスカノンが飛び込んできた。豪快な蹴りがガダヌ・シィカパを捕らえ、また大きく吹っ飛ばす。
まさに圧倒的。
一方的にフォールスカノンがガダヌ・シィカパを攻め立てている。ガダヌ・シィカパは防戦するのが精一杯だが、それすらほとんど通用しない。
「真奈美に手を出そうとしたことを後悔するんだな……」
フォールスカノンはそう言うと、腰を落とし、身構えた。
「ハァァァァァァ………」
息を吐きながら力をため込んでいく。フォールスカノン必殺のキックの体勢だ。この一撃を食らえば、ガダヌ・シィカパとて無事にはすまない。
逃げ出そうとするガダヌ・シィカパだが、今までのダメージの所為か、満足に動くことが出来ない。
「ハッ!!」
フォールスカノンがジャンプした。空中で左足を突き出す。まさしく必殺のキック。それがガダヌ・シィカパを襲う。
と、その時だ。
一台のアメリカンバイクがそこに突っ込んできたのは。
そのアメリカンバイクは常識を越える速さで突っ込んで来、その勢いのままジャンプ、フォールスカノンのキックを前輪で受け止めてしまう。
「ぐわっ!!」
必殺のキックを突如現れたアメリカンバイクによって阻止されたフォールスカノンが地面に倒れる。
「正輝!!」
悲鳴にも似た声を上げたのは真奈美であった。
少し離れたところでフォールスカノンとガダヌ・シィカパとの戦いを見ていたらしい。倒れたフォールスカノンを見て、今にも飛び出し、側に駆け寄ってこようとしている。
「……来るな! 俺は大丈夫だ!!」
フォールスカノンはさっと手を突き出して真奈美を制し、素早く起きあがった。そして、アメリカンバイクの方を見る。
アメリカンバイクに乗っていたのはサングラスをかけた青年で、その青年はガダヌ・シィカパに逃げるように手で指図していた。
「グゥゥゥ……ス、スマナイ……」
ガダヌ・シィカパはそう言うとさっと漆黒の翼を広げ、空へと舞い上がった。そしてそのまま、空の彼方へと消えていく。
「さて……」
アメリカンバイクの青年はガダヌ・シィカパが逃げたことを確認すると、フォールスカノンの方を向いた。
フォールスカノンは油断無く、身構えている。このアメリカンバイクに乗った青年はただ者ではない。何故かはわからないが、とにかく危険だと本能的にフォールスカノンは察知していた。
「あんたに特に恨みはないんだがね……」
そう言ってバイクから降り、サングラスに手をかける。
サングラスの下から露わになった顔にフォールスカノンは勿論、真奈美ですら見覚えがあり、二人は驚きに言葉を失う。
「お前は……」
「キリト君?」
どうにか絞り出すように言う二人。
サングラスを胸ポケットに納めた青年、キリトはにやりと笑ってフォールスカノンを、真奈美を見やった。
キリトは水瀬一族の長老、大婆様に雇われた謎の傭兵であり、そう言うことから何度か顔を会わせたことがある。もっとも、その正体は彼らも知らないのだが。何時も連絡を取っていたのは皆瀬葵であり、真奈美や正輝はそれほど彼と面識があるわけでもない。
「……何故貴様が……」
「何故って、あんた方とヌヴァラグは同盟関係にあるんでしょう? なのにあいつを殺しちゃまずいんじゃない?」
ニヤニヤ笑いながらキリトがフォールスカノンの問いに答える。
「先に手を出してきたのは奴だ!!」
「そうよ! 正輝の言う通りなんだから!!」
二人が口々に叫ぶ。
だが、キリトは肩をすくめてみせるだけであった。
「まぁ、そんな事は俺には関係ないんだけどね。俺は俺の仕事をするだけだし」
そう言って身構えるキリト。
それを見た真奈美が驚きの表情を浮かべた。
「な、何を……」
「悪いね、あんた達に恨みはこれっぽっちもないんだけど……これも俺の仕事さ」
そう言ってフォールスカノンに飛びかかるキリト。
鋭い蹴りをフォールスカノンに見舞うが、フォールスカノンはそれをかろうじて受け止めて見せた。
キリトはそれがさも当然であるかのように頷くと、鋭い攻撃を何度もフォールスカノンに見舞っていく。その全てをフォールスカノンは受け止め、または受け流していく。
パシッとキリトの上段への回し蹴りを受け止めたフォールスカノンがキリトを睨み付ける。
「貴様、何のマネだ!?」
「……やっぱりこの程度じゃ勝てませんか……」
やや落胆したような口調で言うキリト。勿論、フォールスカノンの問いに答えてはいない。
さっとフォールスカノンから離れると、ある程度距離を置いてフォールスカノンを見る。
「まぁ、生身で勝てるとは始めから思っていませんでしたが……」
「……だったら何だ? PSK−02でも持ってくるか?」
段々キリトの人を食ったような態度に腹が立ってきたフォールスカノンが苛立たしげにそう言った。
「ああ、残念ですが、そのご期待には応えられそうにもないんですがね。何せ、PSK−02はもうスクラップになってしまったもので……」
やはりキリトの調子は変わらない。人を馬鹿にしているのか、それとも怖いものなど何もないのか。相手の怒りの火に油を注ぐようなマネを平気でする。
「その代わりと言っては何ですがね……あなたに面白いものをお見せしましょう……冥土のみやげに」
キリトはそう言うと、さっと一歩後退し、大きく両手を円を描くように回し、腰の前に拳を合わせた。そこに浮かび上がるのは中央に宝玉を持つベルト。そう、カノンやアイン、そしてフォールスカノンと同じベルトがそこに浮かび上がったのだ。
「な、何!?」
思わず驚きの声を上げるフォールスカノン。
真奈美は既に言葉を無くし、呆然と立ち尽くしているのみだ。
「変身出来るのが自分だけと思わないで貰いたい……確かあんたが折原浩平に言った言葉でしたか……同じ言葉をあんたに返しますよ」
そう言うと、キリトは両手を前に突き出した。
「変身ッ!!」
素早く顔の前で腕を交差させ、一気に振り払う。すると、ベルトの中央の宝玉が光を放ち、その光の中、キリトの姿が変貌していった。
それはカノンやアイン、フォールスカノンとは違った姿。黒と紫に色分けされた第2の皮膚に全身が覆われ、だが機動性を重視したというのだろうか、そこに生体装甲の姿はない。頭部には赤いヘルメットのような仮面が現れ、その額からは鋭い二本の角が突き出している。まるで鬼のような姿。いや、何とシャープな鬼なのだろうか。その姿には美しさすら漂っている。
フォールスカノンは呆然とキリトが変身していく様を見ているだけであった。
目の前に現れた新たな戦士。
その戦士から放たれる圧倒的な殺気。
フォールスカノンは変身を遂げたキリトに対し、圧倒されていた。
「キ、キリト……?」
「違うな……」
角を持つ鬼のような戦士はそう言った。
「我が名は……オウガ」
「オウガ………?」
「そう……貴様らを冥土に送る戦士、オウガだ」
オウガと名乗った戦士が走り出す。
圧倒的な速さでオウガがフォールスカノンに襲いかかった!!
 
<神奈川県逗子海岸 17:34PM>
早々と警官隊に取り囲まれたガーミ・ガバルはすぐにその真の姿をとり、警官隊に襲いかかっていた。その最大の武器である両手のハサミは鋼鉄すら切り裂く。背中に背負った甲羅は拳銃の弾など弾き返す程頑丈だ。
警官隊は次々とハサミの犠牲となっていく。
そこにサイレンを鳴らしながらKディフェンサーに乗ったPSK−03が到着した。
PSK−03はそこに広がる惨状に思わず目を反らせたが、すぐにガーミ・ガバルを睨み付けた。
「お、お前が28号か!?」
そう言いながらKディフェンサーから降り、装備ポッドからブレイバーバルカンを取り出す。
「これ以上好き勝手にはさせない!!」
そう言うと、ブレイバーバルカンの銃口をガーミ・ガバルに向け、その引き金を引いた。秒間50発を誇る特殊弾丸がガトリングシリンダーから放たれ、新たに出現し、数多くの警官達の命を奪った未確認生命体に叩き込まれていく。
だが、ガーミ・ガバルは一歩も退くことなく、それを受けきった。
「何っ!?」
驚きの声を上げるPSK−03。
「ならば、これでどうだ!!」
素早く手元のスイッチを操作し、ガトリングモードからグレネードモードへとブレイバーバルカンを切り替える。ブレイバーバルカンの先端部が開き、そこに新たな銃口が現れた。
「喰らえッ!!」
PSK−03が引き金を引くのと同時にグレネード弾が発射され、ガーミ・ガバルに命中、派手な爆発を起こす。
爆発が砂を巻き上げ、空から降ってくる中、PSK−03は爆炎の中をセンサーでスキャンしていた。
「……やったか?」
そう呟いた時、爆発の炎の中から何かが飛び出してきた。それはPSK−03の胸部装甲に直撃、PSK−03を大きく吹っ飛ばしてしまう。
「うわぁぁぁっ!!」
吹っ飛ばされ、大きく宙を舞ったPSK−03が砂浜の上に叩きつけられる。だが、必死に身を起こし、爆発の方を見ると、そこには無傷のガーミ・ガバルが立っているのが見えた。爆発のダメージなど何処にも見当たらない。只、ちょっと全身から煙を立ち上らせているだけだ。
「な、何て奴だ……」
再び驚きの声を上げるPSK−03。
想像を絶する防御力を備えているのだ、この未確認生命体第28号は。とてもじゃないが、遠距離もしくは中距離からの攻撃ではその鉄壁の防御をうち崩すことは出来ないだろう。ならば、死中に活あり。接近して何とかダメージを与えるしかない。勿論、接近すると言うことはあのハサミの届く距離に入ると言うことで、危険は倍増するだろう。しかし、それでもやらなければならない。
PSK−03,潤はそう決意すると、Kディフェンサーに駆け戻り、別の装備ポッドから高周波ブレードを取り出した。
「いくら堅いって言っても正面からなら……」
そう呟きながら高周波ブレードを右手にセットする。そしてさっと振り返るとガーミ・ガバルに向かって走り出した。
一方ガーミ・ガバルは自分に向かって突進してくるPSK−03を面白そうに見つめていた。
「マガマガ・ロソニドリ・ラリシェミ・マッシェギャヅ」
そう言うと、右手のハサミを振りかぶる。
PSK−03が自分の間合いに入るのと同時にハサミを振り下ろすが、それを内蔵されているAIの計算によって予測していたPSK−03は何とかかわしてみせた。すぐに高周波ブレードを突き出すが、ガーミ・ガバルは素早く後退し、その切っ先は届かない。
「このっ!!」
短く叫び、PSK−03が更に一歩踏み込む。それに合わせて再び高周波ブレードを突き出すが、ガーミ・ガバルは身体を捻ってそれもかわしてしまう。
「ギャヅマ・ビサンモネヲニ!」
ガーミ・ガバルはそう言うと、左手のハサミを開き、PSK−03に襲いかかった。
その場にしゃがみ込み、ハサミをかわすPSK−03。立ち上がりながら高周波ブレードを逆袈裟に斬り上げる。
のけぞってその一撃をかわすガーミ・ガバルだが、それにより、体勢を崩してしまう。思わず足を滑らせ、その場に片膝をついてしまったのだ。
「今だ!!」
PSK−03が高周波ブレードを振り上げた。そのままガーミ・ガバルの頭上へと向かって振り下ろそうとしたその時、ガーミ・ガバルはいきなり口から泡をふきだした。その勢いは物凄く、思わず振り下ろそうとしていた腕を止めてしまうPSK−03。
「何っ!?」
白い泡はあっと言う間にガーミ・ガバルを包み込み、更にはPSK−03をも包み込んだ。視界が白い泡に覆われ、何も見えなくなる。
「くそっ! 目くらましか!!」
すぐにモニターをセンサー重視に切り替え、PSK−03はガーミ・ガバルの姿を探した。
センサーがPSK−03のすぐ真横に何かいることを示す。
「そこか!」
PSK−03が高周波ブレードを横に薙ぐが、手応えはない。
「いない!?」
「ゴゴジャ」
その声はPSK−03の真後ろから聞こえてきた。
殺気を感じたPSK−03が身体を前へと投げ出す。その一瞬後、さっきまでPSK−03の首があった場所をハサミが通り抜けた。
あの殺気に気がつかなければ今頃は首と胴体がお別れしていただろう。思わず唾をごくりと飲み込んでしまう潤。
「このままじゃ不利だ……この泡を何とかしないと……」
そう呟き、PSK−03は地面を転がった。
またさっきまでPSK−03がいたところにハサミが振り下ろされる。どうやら相手にはPSK−03がはっきりと見えているようだ。
「……このままじゃ……」
そう呟きながらごろごろと地面を転がっていると、不意に視界が開けた。どうやら泡の中から脱出出来たらしい。
「良し、ここなら!!」
転がる勢いを利用して立ち上がるPSK−03。
そこにPSK−03を追いかけて泡の中からガーミ・ガバルが姿を現した。全身泡だらけで、妙につやつやしている。
「さぁ、今度こそ行くぜぇ……」
PSK−03がそう言って高周波ブレードを構える。その時、一瞬だが全身の動きに潤は違和感を覚えた。だが、すぐにそれを振り払い、目の前の相手を見やる。
ガーミ・ガバルは両手のハサミを閉じたり開いたりしながらPSK−03との間合いを計っているようだ。一歩一歩横に移動している。
それを目で追うPSK−03。だが、不意にガーミ・ガバルの動きが早くなった。とてもではないが、目では捕らえられない程に。
「何っ!?」
いきなりのことでPSK−03にはどうしようもない。余りもの速さで自分の周囲を回転移動するガーミ・ガバルに手も足も出しようがないのだ。
「ニメ・ビサンモネヲニ」
その声はPSK−03の真後ろから聞こえてきた。
PSK−03が振り返ると、閉じられたハサミがPSK−03に直撃、大きく吹っ飛ばされてしまう。
砂浜に叩きつけられるPSK−03。
何とか身を起こそうとするが、何故か全身が妙に重く感じる。まだバッテリーの残量は充分すぎる程あるというのに。装着員である潤の意志に反してPSK−03の動きは先程までとは違ってかなり鈍くなっていた。
「な、何で……」
それでも何とか起きあがったPSK−03は自分の身体をスキャンしてみた。そしてわかり驚愕の事実。何とPSK−03の全身の装甲がかなりの範囲で錆びついていたのだ。更に内蔵されている各種装置にもその影響は出始めている。
「い、一体何で……ま、まさか……」
呆然とする潤だが、心当たりがあるとすれば一つしかない。
ガーミ・ガバルの吐いたあの泡だ。あれは只の目くらましではなかった。実際には強酸性であり、PSK−03をも溶かしてしまうのが目的だったのか。いや、本当の目的はどうだったにしろ、あの場を切り抜けつつPSK−03にダメージを与えたのは事実だ。
「ギナサバ・ビサンミ・ニシェバ・マガマガギャヅ・ジャザ・ゴモガーミ・ガバルナサミバ・ガマルサリ」
ガーミ・ガバルは余裕たっぷりにPSK−03に向かって歩き出した。
と、そこにバイクのエンジン音が響き渡った。
思わず振り返るPSK−03とガーミ・ガバル。
一台のバイクがこっちに向かって突っ込んでくる。乗っているのは勿論、相沢祐一。ロードツイスターだ。
「……相沢!?」
思わず驚きの声を上げる潤。
祐一はKトレーラーの中にいるはずだ。とてもじゃないが、留美や雪見が潤の救援の為に彼を解放するとは思えなかった。と言うことは、残る一人。佐祐理が彼を解放したのだろうか?
沸き上がる疑問。だが、そんな潤の疑問などお構いなしに祐一はロードツイスターに跨ったまま、立ち上がり、ハンドルから右手だけを離す。そしてその手で空に十字を描き、短く、力強く叫んだ。
「変身ッ!!」
祐一の腰にベルトが浮かび上がり、中央にある宝玉が光を放つ。その光の中、祐一は戦士・カノンへと変身し、同時にロードツイスターも戦士・カノン専用のマシンへと変貌を遂げる。
カノンはそのまま、ガーミ・ガバルの前までロードツイスターで走り、その足下をタイヤですくい上げ、ガーミ・ガバルを倒させると、すぐにPSK−03の側まで寄っていった。
「大丈夫か、北川?」
そう言ってくるカノンにPSK−03は頷いて見せた。
「ああ、大丈夫だ。しかし、余計な事してくれたな、相沢。こっから俺の華麗なる反撃が始まるってのに」
PSK−03はそう言うと、倒れたガーミ・ガバルに向かって走り出した。
「あ、おい、北川っ!!」
カノンが呼び止めようとするがもう遅い。
立ち上がろうとしているガーミ・ガバルに向かってPSK−03は高周波ブレードを振り下ろしていた。
「もらったぁっ!!」
ガーミ・ガバルは振り下ろされてくる高周波ブレードを右手のハサミを素早く受け止めた。そのまま立ち上がり、PSK−03を押し返す。
「く……こ、この……」
何とか押し戻されないよう耐えるPSK−03だが、ガーミ・ガバルの力の方が遙かに上であり、更に今のPSK−03は泡によるダメージで全力が出せないでいる。
そこに飛び込んでくるカノン。
ガーミ・ガバルにパンチを浴びせると、PSK−03をかばうように前に出た。
「相沢ッ!!」
「馬鹿、俺に任せておけ!!」
そう言ってガーミ・ガバルを睨み付けるカノンだが、そのカノンを押しのけてPSK−03が前に出る。
「あいつは俺がやるんだ!! 俺が倒すんだ!!」
「おい、よせ、北川ッ!!」
カノンが止めるのよりも早く、PSK−03が駆け出した。
ガーミ・ガバルは両方のハサミを交差させると、PSK−03に向かってジャンプしてきた。その一撃を正面から受け、吹っ飛ばされるPSK−03。
またも砂浜に叩きつけられるPSK−03。
「このっ!!」
それを見たカノンが着地したばかりのガーミ・ガバルに飛びかかった。鋭いパンチを何発も叩き込んでいくが、強靱なボディを持つガーミ・ガバルには余りダメージを与えられない。と、そのパンチの一発をガーミ・ガバルがハサミで受け止めた。そして空いている方のハサミでカノンを殴り飛ばす。
「ぐわっ!!」
PSK−03の側まで吹っ飛ばされるカノン。
「何て奴だ……全然効いてねぇぞ」
起きあがりながらカノンが言う。
同じく立ち上がったPSK−03の方を見たカノンは、
「北川、手を貸してくれ。二人がかりならあいつを……」
そう言いかけるが、PSK−03はそれを聞いていなかった。高周波ブレードを構えて再び飛び出していく。
「北川、無理だ! よせっ!!」
カノンが叫ぶがPSK−03は止まらない。
「あの馬鹿ッ!!」
カノンも走り出す。
「うりゃぁぁぁっ!!」
PSK−03が高周波ブレードを振り下ろすが、ガーミ・ガバルはそれをハサミであっさり弾き返してしまう。残る片方のハサミでがら空きのPSK−03のボディに一撃、思わずよろけるPSK−03に今度は開いたハサミを突き込もうとする。
と、そこにPSK−03の真後ろからジャンプしたカノンが蹴りを食らわせてきた。その一撃はハサミを直撃、ハサミに引っ張られるようにのけぞり、後退するガーミ・ガバル。着地したカノンはその場で身体を回転させての後ろ回し蹴りをガーミ・ガバルに叩き込んだ。
後ろに吹っ飛び、倒れるガーミ・ガバル。
それを見たPSK−03は前にいるカノンを押しのけてガーミ・ガバルに迫った。
「今度こそっ!!」
高周波ブレードを突き出すPSK−03。
その切っ先を横に転がってかわすガーミ・ガバル。そして、転がった勢いを利用して起きあがると、再び高周波ブレードを振り上げているPSK−03に向かってハサミを叩き込んだ。
振り下ろされる高周波ブレード。叩き込まれるハサミ。その両者が激突する。
「ぬおっ!?」
驚きの声を上げたのはPSK−03だった。
振り下ろした高周波ブレードはガーミ・ガバルのハサミの表面にぶつかると、パキーンッと音を立てて砕けたのだ。そして高周波ブレードを叩き折ったハサミはその勢いを保ったまま、PSK−03に叩き込まれ、PSK−03は宙を舞った。
地面に激突しそうになるPSK−03を受け止めるカノン。
「北川、余り無茶をするな。後は俺に任せて、お前は……」
そう言うカノンだが、PSK−03はその腕を振り払って立ち上がる。
「うるさい! 俺があいつを倒すんだ!!」
そう言うと、PSK−03は折れた高周波ブレードを捨て、ブレイバーショットを引き抜いた。
「俺はあの時の俺とは違う! 今の俺は……今の俺は……」
そう言って引き金を引くPSK−03。その姿には何か鬼気迫るものがある。しかし、ブレイバーショットではガーミ・ガバルを怯ませることすら出来なかった。
一歩また一歩とPSK−03に迫り寄るガーミ・ガバル。
「俺は……俺は強くなったんだ!! お前に……相沢に……カノンに負けないくらい!!」
ブレイバーショットが弾切れを起こす。
すると、今度は電磁ナイフを手に持ち、PSK−03はガーミ・ガバルに向かって走り出した。
「認めさせてやるんだ! 俺があの時の俺じゃないことを! 俺は強くなったって事を!!」
潤の叫びが木霊する。
「ハァァァァァ……ハッ!!」
その後方でカノンがジャンプした。空中で一回転すると右足を突き出す。その足が光に包まれ、PSK−03を飛び越え、ガーミ・ガバルに直撃し、そしてガーミ・ガバルの体表を滑っていく。
「何っ!?」
体勢を崩され、地面に倒れるカノン。
そこにPSK−03が飛び込んできた。
「うりゃああああっ!!」
雄叫びをあげながら電磁ナイフを突き出すが、それもガーミ・ガバルの体表を滑ってしまう。
「え?」
そのまま勢いよく体勢を崩してカノンの上に倒れるPSK−03。
それを見て、ガーミ・ガバルは腰に手を当て大声で笑い出した。
「フハハハハ……ツアサジャマ・カノン」
そう言うと、また両のハサミを交差させ、それを頭上に掲げた。そして身体を回転させながら大きくジャンプ。ジャンプの頂点まで来ると、今度は倒れているカノンとPSK−03の真上から落下してきた。それはさながら回転ドリルのような感じで。
「ニメ・カノン!ビサンモネヲニ!!」
ガーミ・ガバルがカノンとPSK−03に迫る!!
 
Episode.43「魔手」Closed.
To be continued next Episode. by MaskedRiderKanon
 
次回予告
何とかガーミ・ガバルを退けることに成功するカノンとPSK−03。
だが、二人の間に不信感が芽生え始める。
潤「俺は……お前にも、誰にも負けない、負けたくないんだよ」
キリト「勝負は非情さ。時にはこういう手段も有効だってね」
圧倒的な強さに加え、真奈美を人質に取り、フォールスカノンを屠るオウガ。
その魔手は遂にカノンへと向けられる。
老婆「次は……カノンじゃ」
佐祐理「お願いです。彼に力を貸してあげてください、祐一さん」
恐るべき強敵オウガ、そして未確認生命体第28号の猛攻にどう立ち向かう?
絶体絶命の危機を救う秘策とは!?
留美「これでダメなら……みんな、お終いよ」
次回、仮面ライダーカノン「鬼牙」
乗り越えろ、その運命!!

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