<学校前 12:35PM>
救急車や消防車、新たなパトカーなどが続々と到着してくる中、相沢祐一は負傷した身体を押して歩き続けていた。
傍目にも彼の身体は重傷である。
着ているコートは血に染まり、ボロボロである。額からも血を流しており、その顔色もかなり悪い。足もふらふらで歩いているのが不思議なほどである。
更に変身を解いた後に起こる体調不良が今、彼を襲っていた。
「・・・・・ここで・・・倒れてたまるかよ・・・」
ふらふらになりながらも祐一は必死に歩き続ける。
折角買ったバイクも先程の朱雀との戦闘で破壊されてしまっている。
ボロボロになって守った学校の仲間からは非難の声を浴びせられた。
「・・・くそっ」
流石に悔しくなってきた。
必死になって戦って、傷だらけになって、バイクまで失って、その結果がこれである。
代償を求めていたわけではないが、これでは一体何のために戦ったのか。
「俺も・・・奴らと一緒だって言うのか?」
奴ら・・・学校を襲った怪人共。
人を傷つけることに何のためらいもなく、何の呵責もなく、それを楽しんでいる怪物達。
だが、他の人から見たらやはり同じなのかも知れない。
戦う力を持たない人たちからすれば自分もあの怪人達と変わりがない。
「・・・そうだったな」
不意に彼女に言われたことを思いだした。
『何時か人は祐一君も敵だと、あの怪人と同じように思うかも知れないんだよ?』
だが・・・彼のことを味方だと思っている人物もいる。
『僕の使命はその誤解を解くことだ。仮面ライダーが人類の味方であり、人類のために自らを犠牲にして戦う仲間であることを証明することが』
城西大学考古学教室助教授・中津川忠夫。
カノンの正体が祐一であることを薄々気付いている彼が、知るところただ一人だけの味方かも知れない。
「気は進まないが・・・」
今は彼だけが助けだ。
祐一はふらふらと歩き続ける。
薄れていく意識、歪みゆく視界、全身を襲う脱力感、それらと戦いながら、祐一は歩き続ける。
彼の姿が真昼時の街中に消えていく・・・。
 
仮面ライダーカノン
Episode.4「憤怒」
 
<水瀬家 13:12PM>
玄関先でこの家の家主・水瀬秋子は警察からの訪問を受けていた。
「そんな・・・まさか祐一さんが・・・・?」
珍しいことに秋子の表情が驚愕のまま固まっていた。
「とにかく祐一君が帰ってきたらすぐに署まで来るよう言っておいてください」
「祐一さんを・・・どうするんです?」
「わかりません。上が決めることです」
その警官はそう言うと、秋子に一礼して玄関先から去っていった。
「どうして、どうして祐一さんが・・・」
何となくおかしいと思えるところはあった。
あの異常なまでの疲労の様子、そして今朝の態度。
それまでは全くなかったことだ。
「祐一さん・・・」
秋子が心配そうに空を見上げる。
 
<保健室 13:21PM>
保健室の中は怪我人で一杯だった。
その一角に美坂香里と栞の姉妹と北川潤が座っていた。
「大丈夫、栞?」
自分の肩に頭を寄りかからせてハァハァと荒い息をしている妹を心配げに見つめる香里。
どうやら急に熱がでてきたようだ。
「だ、大丈夫・・・お姉ちゃんは?」
「私は心配ないわ・・・」
そう言って栞の頭を撫でてやる。
「しかし・・・相沢の奴・・・」
北川がそう言って香里を見た。
「一体何時の間に・・・」
「彼のことは言わないで。栞がこういう目にあったのは彼のせい・・・」
北川を睨みつけ、香里がそう言いかけたとき、栞が姉の手をぎゅっと握りしめてきた。
「違う・・・違うよ、お姉ちゃん。祐一さんは・・・私を守ろうとしてくれたんだよ・・・」
ハァハァと荒い息をしながら栞が言う。
上目遣いに姉を見上げ、
「だって・・・私たちをかばってくれたじゃない。あの怪人から・・・」
「でも、それは相沢君が・・・」
彼が自ら引き寄せた敵だから。だから戦っただけ。
そう言おうとする香里を栞が目で制する。
「祐一さんはそんな人じゃない。例えあの怪人が祐一さんを追ってきたとしてもそれは祐一さんが望んだことじゃない。だから・・・だから必死に戦って・・・」
目に涙を浮かべて栞が言う。
「でも、私、そんな祐一さんにひどい事しちゃった・・・」
少しだけ笑みを浮かべる栞。
香里も北川も黙って聞いている。
「初めてあの姿を見たとき、怖くて・・・泣き出しちゃった・・・私を命がけで助けてくれたのに」
そう言って栞は泣き出した。
そんな妹をぎゅっと抱きしめる香里。
「・・相沢は・・・一体・・」
北川がそっと呟く。
今の彼らには何もわからない。
ただ、時間だけが過ぎていく。
 
<ものみの丘 13:41PM>
いつの間にか、彼はそこに辿り着いていた。
ここなら人もいないのでゆっくり休むことが出来るだろう。
そう思って彼はここにやってきたのだが先客がいた。しかも三人。
その誰もに見覚えがあった。
「ひどい・・ひどいよ・・・どうしてこんな・・・」
そんな声が聞こえてくる。
水瀬家での同居人、沢渡真琴の声だった。
いつもとは違い、悲しみが多分に含まれた声。
「おそらく・・・全滅、でしょうか?」
やけに落ち着いた雰囲気のする声。
真琴の友人で、彼にとっての後輩、天野美汐だった。
「多分・・・」
どこか感情を押し殺したような声。
だが、押し殺したはずのその声の中にはっきり怒りが読みとれてしまう。
川澄舞だ。
三人はこの丘中に散らばるキツネを死骸を一箇所に集めて埋めていた。
始めにこの場所に来たのは舞だった。
何らかの異様な気配を感じて学校を抜け出し、ここにやってきて、この惨状を発見したのだ。
次に現れたのは美汐である。
彼女も何かに導かれるかのようにあの騒ぎの中、学校を抜け出し、このものみの丘にやってきたのだ。そして、彼女は目にする。この惨状を。
最後にやってきたのが真琴であった。
彼女もまたこの場所に深い因縁を持っている。その因縁が彼女をこの場へと呼び寄せたのだろう。
この惨劇の跡を見た真琴が、始めにしたことは・・・大声で泣き叫ぶことであった。
美汐に慰められ、三人はようやくものみの丘のあちこちに散らばるキツネ・・・この地の伝説に言うところの「妖狐」の死骸を集め始めた。そして、一箇所に集めると誰ともなしに穴を掘り始め、そこに妖狐の死骸を埋めていく。
彼がこの場に辿り着いたのはちょうど全ての死骸を埋め終わった直後だった。
「誰が・・こんなことを?」
美汐がそう言ったとき、後ろでがさっと言う音がした。
振り返る三人。
そこで彼女達が見たのは・・・血だらけのコートを着、ボロボロの身体を必死に立たせて、虚ろな目を向けている祐一の姿であった。
「祐一!?」
真琴が驚きの声を上げる。
彼女が知っている限りでは彼は家で寝ているはずだったからだ。
虚ろな目を、彼女達三人に向けた祐一は・・・ふらっとその場に倒れてしまった。
「祐一!」
「相沢さん!!」
慌てて駆け寄る舞と美汐。
だが祐一は返事をすることもなく、意識を失っていた。
 
<市内某所 14:09PM>
薄暗い部屋の中、明かりは燃える蝋燭の炎だけ。
「玄武と朱雀が死んだようだな?」
若い男の声が響く。
「やったのはカノンか?」
「それ以外に彼らを倒せるものは今の時代にはいないだろうね」
子供のような声が答える。
「肩慣らしの方は終わったのかい?」
「いーや、まだだ。後一匹だけ残ってやがる」
そう言ってかなり野性的な風貌の男が光の中に映し出された。
朝、祐一が家の前で見かけた男である。
「居場所は突き止めてあるからいつでも始末できるが。先に始めた方がいいか?」
「君の好きにすればいいよ。ただ・・・カノンは予想以上に手強そうだから気をつけてね」
「言われるまでもない・・・それに相手が強ければこっちも燃えるってもんだ」
男はそう言うと、部屋を出ていった。
「そろそろゲームも終盤だ。あの方も出番を待っているだろうし、こっちも動き出さないと」
子供のような声の持ち主はそう言うと、ふっと蝋燭の炎を吹き消した。
後に残るのは静寂・・・。
 
<川澄家 23:45PM>
ゆっくりと意識が回復していく。
まず目に入ったのは・・・見たことのない天井。
「・・・ここは・・・?」
そう呟き、身を起こすと全く見知らぬ部屋の中にいることがわかった。
「・・何処だ、ここは?」
「・・・気がついた?」
不意に声を掛けられたので声のした方を振り返ると、そこには私服姿の舞が立っていた。
「舞・・・か?」
思わずそう言ってしまう祐一。
すかさず舞のチョップが頭に落とされる。
「ははっ、悪い悪い。舞の制服以外の格好って見たことなかったから・・・」
祐一は笑顔を浮かべてそう言った。
「ところで・・・何処なんだ、ここ?」
「私の家」
「・・舞の家?一体どうして?」
祐一が真顔で聞いてきたので舞は一瞬表情を曇らせた。
「憶えてないの?」
「・・・イヤ・・・ものみの丘にたどり着いたんだよな。それで・・・」
考え込むように腕を組む祐一。
「そこで倒れた」
舞が言う。
「そうだそうだ、意識がなくなったんだよな、そこで。そこまでしか記憶がないからな」
何故か自信たっぷりに言う祐一。
そんな祐一を見て、舞はようやく少しだけ表情を緩めた。
「三人で何とかここまで運んだ」
「三人・・・?」
「私と、下級生の子と、何時か夜に見かけたあの子」
舞の言葉から大体誰がいたのか祐一は見当がついた。それにものみの丘という場所を考えれば誰がいたのかすぐに見当がつきそうなものだった。
「真琴と天野か・・」
視線を落とし、呟くように言う。
「二人はどうしたんだ?」
「遅いから帰した」
舞がそう言って時計を指で示した。
見ると、もうじき12時になろうとしている。
「・・・俺、一体何時間意識を失っていたんだ?」
「10時間くらい」
律儀に答える舞。
それを聞いた祐一は時計を見、また腕を組んだ。
(身体が予想以上に早く回復している・・・慣れてきたって事か?)
そう思って起きようとするが身体は彼の言うことを聞かず、全く動かなかった。
それどころか急に意識が朦朧としてき、更に視界が歪み始める。
「え?・・ええ?」
思わず驚きの声を上げる祐一。
そして、そのまま、彼は再び倒れ込んだ。
「祐一!?」
慌てる舞だが、倒れた祐一から寝息が聞こえてきたのでふっと肩の力を抜いた。
「驚かせる」
そう言って祐一の頭に軽くチョップを喰らわせ、舞は布団を掛けてやった。
「お休み、祐一」
舞はそう言うと、その部屋を出ていった。
その表情にはかすかに笑みが浮かんでいた。
 
<商店街 23:51PM>
真琴と美汐が川澄家を出たのは実は祐一が目を覚ますほんのちょっと前のことだった。
真琴が祐一のそばをなかなか離れようとしなかったのでこういう時間になってしまったのだ。
結局、一度家に電話をすれば、と言う舞の意見で水瀬家に電話した真琴だが秋子に帰ってくるように言われ、仕方なく舞の家から帰ることになったのだ。
「あう〜、美汐、ご免ね〜」
真琴が申し訳なさそうな顔で隣を歩く美汐に言う。
美汐があんな時間まで真琴や舞、祐一に付き合う義理はないと彼女は思っているからだ。
「構いません。私も望んであの場にいたわけですし・・・それに家に帰っても誰も居ませんから」
そう言って美汐は苦笑して見せた。
家族は共働きで何時も遅い。今日に限っては両方とも出張が重なり、家には彼女しかいない。そんな家に帰りたいとは余り思っていなかった。
「・・・ねぇ・・・うちに来る?」
真琴が美汐の顔を伺って言った。
彼女の言う「うち」とは水瀬家のことだろう。
家主である秋子が余り来客を拒まない、それどころかどんな来客でも喜んで迎える傾向にあることは真琴にもわかっていた。
それは、例えば記憶喪失の自分を家族同様に扱ってくれていたり、その自分が拾ってきた子猫のぴろを飼うことをあっさり了承してくれたりしたことでよくわかる。
今から美汐を連れて行っても秋子はきっと快く迎えてくれるだろう。
「こんな時間にお邪魔するとかえって迷惑です。だから帰ります」
予想通りの答え。
美汐が余り他人と関わることを望まないことを知っていたが。
だが、これは常識の範囲のことであった。
「秋子さんなら大丈夫だよ!・・・それに・・・一人じゃ・・寂しくない?」
真琴のその言葉は美汐の心に響いた。
だが、それを表に出すこともなく、彼女は首を左右に振った。
「この場合、常識でもお邪魔するものではないと思います」
そう言って美汐は笑みを浮かべた。
「真琴も、もうちょっと大人になって下さいね」
「あう〜」
少しならずがっくりとした表情を浮かべる真琴。
そうこうしているうちに二人はいつの間にか商店街に入り口にまで差し掛かっていた。
「私はこっちですから。真琴、気をつけて」
「うん、美汐もね。明日、また祐一の様子、一緒に見に行こう?」
そう言った真琴に笑顔で頷き、美汐は彼女と別れて歩き出した。
しばらく一人で歩いていると、彼女は一人の男とすれ違った。
その男は・・・かなり野性的な容貌の男。全身から血に飢えた野獣のような、そんな気配を撒き散らしている。そして・・・。
「・・・・・!?」
美汐の足が止まった。
今すれ違った男の身体から漂ってきた匂い・・・それは血の匂い!それもかなり大量に浴びている。
「まさか・・・?」
言いようのない不安にとらわれる美汐。
今先ほど別れたばかりの少女のことが気になる。
美汐は慌ててその男を追うように走り出した。
 
<住宅街 00:04AM>
夜の住宅街は静かなものである。
明かりと言えば道沿いにある街灯だけ。
その中を真琴は急ぎ足で歩いていた。
きっと秋子は心配しているだろう。
眠ったまま起きない名雪、急に倒れた祐一。
彼女にとって子どもたちに何かあることが一番不安なのだろうから。その子どもたちの中には真琴も含まれる。
「あう〜・・怒られるかな・・・?」
先程電話したときはそれ程怒っているようには思えなかった。
ただ連絡をしなかったことだけを注意されたのだ。
「・・・多分・・・大丈夫!」
そう言って更に歩くスピードを上げる。
その時、彼女の後方に一人の男の姿が浮かび上がった。
かなり野性的な容貌を持つ男。全身から血の臭いを撒き散らし、ギロッとした目で真琴の後ろ姿を見つめている。
その男から放たれる殺気に気がついたのか、真琴が足を止めた。
「くっくっく・・・こんなところにいたとはな」
男がそう言った。
振り返る真琴。
「まさか人間の姿をしているとは・・・お前らの特殊能力だったよな。もっともその姿になることによって全ての記憶を失い寿命を縮めるそうだが」
そう言って男がニヤリと笑う。
「な、何よ、あんた?」
男から放たれる殺気に後ずさりしながら真琴が聞く。
「わからないか?」
「・・・・・・」
質問に対して質問で返され、真琴は少々困った顔をした。だが、すぐに全身で危険信号を感じる。それはまさに本能的に感じたものだった。
とっさに後ろへとジャンプして下がる。
同時に男が凄い勢いで突進してきた。目にも見えないスピードで男の右腕が真琴のいた場所をなぎ払う。
「・・・かわした・・・か。ガキのくせにやるじゃねぇか」
そう言った男の顔に凶悪な笑みが浮かぶ。
その右腕は鋭い爪が生え、白い体毛が生え、筋肉が隆々と盛り上がっている。
「な、何なのよ、あんたッ!!」
真琴が右腕を見て叫び声をあげる。
「わかんねぇのか・・・お前の仲間を皆殺しにしたのが俺だよ・・・」
言いながら男の姿が変化を始めていた。
全身の筋肉が盛り上がり、白い体毛に覆われていく。そのあちこちに黒いストライプが入り、更に顔がだんだん肉食動物のそれへと変わっていく。
言うならば、直立した白い虎。
「始めまして、妖狐のお嬢ちゃん。俺が血に飢えし野獣、白虎だ」
白虎はそう言うと壮絶な笑みを浮かべた。
それは見たものを凍りつかせる笑み。恐るべき野獣の笑みだった。
「何で・・・何でそんなことするのよ!!」
がたがた震えながら真琴が叫ぶ。
彼女には直感的に分かったことがあった。
それは、ものみの丘での妖狐達の虐殺をしたのがこの怪物であるということ。
「ただの腕ならしさ。意味はない。でもな、一匹でも逃がすと何時寝首をかかれるかわからんからなぁ」
鋭い爪を舌で嘗めながら白虎が言う。
その目は真琴を捕らえて放さない。
「そう言うわけで悪いがお嬢ちゃんにも死んで貰う」
そう言って白虎は鋭い牙を覗かせて笑った。
「何で真琴がッ!?」
真琴が怯えたような声を出す。
「やっぱり記憶をなくしているようだな・・・お前は・・・」
白虎がそう言ったとき、彼の後頭部に何かがぶつかった。
「逃げなさい、真琴ッ!!」
その声は走って戻ってきた美汐だった。
ハァハァと荒い息をしながら白虎の頭に持っていたカバンを投げつけたらしい。
「美汐!どうして!?」
「いいから、早く逃げなさいっ!!」
美汐が必死に叫ぶ。
白虎は振り返ると、自分にカバンを投げつけた美汐を睨みつけた。
「ほお・・・お前、このお嬢ちゃんの秘密を知っているのか・・・」
そう言われて、美汐の顔色が変わる。
「ここで俺に会ったことを不幸と思うんだな・・・」
白虎がそう言って鋭い爪をしゃきんと伸ばした。
あの爪での一撃を受けたら美汐の身体などひとたまりもないだろう。
息をのむ美汐。
白虎が美汐に後一歩まで迫ったその時、真琴がその背中に飛びかかっていた。
「美汐、逃げて!!」
「真琴ッ」
「早く!ここは真琴が何とかするから!!」
そう言って真琴は白虎の頭を殴りつけた。
だが、あっさりと白虎は真琴を振り落としてしまう。
地面に倒れた真琴のそばにすかさず駆け寄る美汐。
「どうして逃げなかったんですか?」
「美汐は友達だよ!友達を残して真琴一人だけ逃げられるわけないじゃない!!」
真琴が当然のように言う。
「真琴・・・」
美汐は真琴の気持ちが分かって言葉を失っていた。
「さて・・そろそろお終いといこうか?」
二人のそばに白虎が立ち、二人を見下ろして言った。
そんな白虎を見上げ、美汐は両手を広げて真琴の前に立った。
「真琴は・・殺させません」
その表情は決意に満ちている。
「真琴は私の友達です。友達をそう簡単に殺させるわけにはいきません」
「・・・美汐」
先程振り落とされたときに痛めたのか、真琴は右足を押さえていた。
それをかばうように美汐は立っていた。
「美しい友情って奴か?安心しな、お前もすぐに後を追わせてやるよ!」
白虎が右手を振り上げる。
鋭い爪が再び伸ばされる。
その恐ろしさに美汐が目を閉じた時、疾風の如く影が美汐と白虎の間に割って入り、今にも振り下ろそうとしていた白虎の右手を手にしていた剣で跳ね上げていた。
「大丈夫?」
その声に美汐が目を開けると・・・そこでは剣を持った舞が白虎と対峙していた。
「川澄先輩?」
舞は別れたときと同じ服装に剣を持っている。その姿が妙なくらいはまっているように美汐には思えた。
「ここは任せて」
いつもと変わらない短い発言だが、今はかなり緊張感が感じられた。
「・・・ほう、人間の戦士か・・・面白い、その細腕でこの俺に敵うとでも思ったか!」
何故か嬉しそうに言う白虎。
一方対峙している舞は油断無く剣を構えつつ、相手の隙を伺っていた。
その額から頬に掛けて汗が流れ落ちる。
(こいつ・・・想像以上に強い・・・)
今まで夜の学校で見えない魔物と戦っていたが、それでもこれほどの恐怖を感じたことはなかった。
(恐怖・・・私が・・怖がっている?)
不意に自分の中に沸き上がった感情にとまどう舞。
その心の動揺が彼女の持つ剣に現れた。剣先が震えだしたのだ。
「ふっふっふ・・怖いか?怖いだろうな。何せこの俺は・・・お前ら人間などとは比べものにならない力を持っているからな」
白虎が震えだした剣を見てそう言った。
「力と言えばあの連中も俺には劣るもののかなり強い力を持っていたのにな。それを戦いに使う術をしらん為、俺に滅ぼされたのだ」
「あの連中・・・!!」
舞はその時になって気付いた。
この白虎という怪物こそ、ものみの丘の妖狐を惨殺した張本人であることに。
「・・・貴様!!」
舞に心に怒りの灯がともった。
それは今まで彼女が感じていた恐怖を吹き飛ばす程に一気に燃え上がり、震えていた剣先がぴたりと止まる。
「お前だけは許さない!!」
そう言って舞が剣を振り上げる。
「やる気になったようだな!それでこそ、戦士だ!!」
舞の鋭い一撃をかわした白虎がことさら嬉しそうに言う。
怒りにまかせて縦横無尽に振り回される舞の剣。だが、その全てを悠然とかわし続ける白虎。
いつもの冷静な舞の姿はもう無かった。
怒りに駆られ、剣を振り回すが一向に当たらず、だんだん焦りを募らせていく。
「このっ!!!」
思い切り、剣を上段から振り下ろす。
すっと後ろに下がってその一撃をかわす白虎。
勢いよく振り下ろされた剣が地面を叩き、その衝撃が舞の剣を握る手を痺れさせる。それでも剣を放さなかったのは流石、と言うところだろう。
「くっ・・・」
だが、そこに舞にとって致命的な隙が出来てしまった。
それを逃す白虎ではない。
猛然と舞に飛びかかる白虎。
その鋭い爪が彼女を襲う。
舞は必死に身をよじってその一撃をかわすことしかできなかった。しかし、かわしきれず、左腕を少し切り裂かれてしまう。
「ううっ・・・」
痛みに顔をしかめ、片膝をつく舞。
その左腕からは血が流れ落ちる。
「今度で最後だな」
白虎がそう言って後方を見やった。
そこにはまだ美汐と真琴がいる。
舞もそのことに気がつくと、何とか立ち上がり剣を構えようとする。だが左腕が痛み、剣を構えることが出来なかった。
それを見て白虎は口の端を歪めて笑った。
「お前は良く戦ったよ、人間の戦士。だが所詮人間では我々には敵わないのだ」
そう言って右手を振り上げる。
「川澄先輩ッ!!」
美汐が叫び声をあげる。
真琴が息をのむ。
誰もがもうダメだと観念したとき・・・彼はやってきた。
灰色のボディアーマー、左右の手には灰色のナックルガードと手甲、その手首には赤く輝く宝石がはめ込まれている。膝には灰色のサポーター、足にも灰色の足甲が備わり、頭は金に輝く角、赤い目、牙の異様の口を持った仮面。
戦士・カノンである。
カノンは白虎に肩から体当たりすると、舞の前に立った。
突然現れたカノンにぎょっとなる三人。
「お前は・・・」
舞が声を掛けようとすると、体当たりを喰らって倒れていた白虎が起きあがり、カノンを睨みつけた。
「出てきたな、カノン!!この俺がお前を殺す!!」
そう吠えると、一気にカノンに飛びかかる白虎。
正面から白虎を受け止め、地面を転がってその勢いを受け流すカノン。
そのまま立ち上がり、白虎はカノンを持ち上げると投げ飛ばした。
宙を舞うカノンだが空中で一回転し街灯の柱を蹴って白虎に飛びかかり、パンチを食らわせる。
そのパンチが綺麗に白虎の顎に直撃、よろける白虎。
着地したカノンは白虎の方を振り返るとさっと身構えた。
必殺のキックの体勢である。
白虎に向けて走り出すカノン。間合いを計った上でジャンプ。空中で一回転した後右足を前に突き出す。
それを見た白虎は同じようにジャンプしてカノンを迎撃した。カノンと同じように空中で一回転した後、右手を前に突き出す。
カノンの右足が白虎の胸に直撃するのと全く同時に白虎の右手がカノンの胸を直撃する。
両者は同時に地面に倒れた。
「くう・・・流石だ・・・」
白虎はそう言いながら、ゆっくりと立ち上がった。だがその足下はふらふらである。
カノンはピクリともしないで倒れている。
「これで・・・終わったと思うな、カノン」
それだけ言うと白虎はその場から歩み去った。
これ以上の戦闘は不可能だと判断したのかも知れない。
一方倒れていたカノンのそばに駆け寄った舞は思わぬものを見ることになる。
そこに倒れていたのは・・・舞の家で寝ているはずの祐一だったのだ。
 
<水瀬家 07:41AM>
朝はいつも何も変わらずにやってくる。
それは水瀬家でも変わりなかった。
変化があったとすれば・・・昨夜遅く、真琴が友達だと言って舞、美汐を連れて帰ってきたことだろうか?
三人はよほど疲れていたのか未だに眠っている。
そして・・・祐一も一緒にいた。ただし、意識を失っていたが。
今、秋子は祐一の部屋にいた。
ベッドの上では祐一が未だ意識を失ったままである。
心なしか、その顔色が悪く、頬も少しこけているように思えた。
「衰弱している・・・?」
誰に言うともなしに呟く。
一体何が彼の身に起きているのだろうか。
彼の身体中に見たことのない傷が多く刻まれている。
そのどれもが最近出来た物だったが今ではすっかりふさがっている。
「祐一さん・・・」
不安げに甥の名前を呼ぶ秋子。
その時、玄関のチャイムが鳴らされた。
秋子は立ち上がると、祐一の部屋を出て、玄関へと向かう。
そこで待っていたのは私服姿の香里だった。
「香里ちゃん・・・」
「おはようございます、秋子さん」
そう言った香里は何かを決意したような思い詰めた表情をしている。
「おはよう、香里ちゃん。どうしたの、こんなに朝早くから・・・」
秋子はいつもの笑みを浮かべてそう尋ねた。
「名雪の様子・・・どうなったか心配になったんです・・・」
そう言う香里だったが、秋子にはそれが嘘だとすぐにわかった。
彼女がここにきたのは、確かに名雪のことが心配だったと言うこともあるのだろう。しかし、それよりも優先する理由が存在する。
「名雪なら変わり無しよ。まだずっと夢の中・・・何か良い夢でも見ているのかしらね?」
秋子はそう言って香里を中に招き入れた。
「祐一さんも夢の中・・・でも余り良い夢を見ているようじゃないけど」
祐一の名を聞いて、香里の全身がぴくっと反応した。
それを見逃す秋子ではないがあえて何も言わずにリビングへと案内する。
「ねぇ。香里ちゃん・・・」
お茶を入れながら秋子が香里を見ずに声を掛ける。
その香里はと言えば俯いて黙り込んでいた。
「祐一さんと一体何があったの?」
「え?」
秋子のその一言に香里は顔を上げた。
「名雪のことなら心配ないってお医者様も言っていたわ。頭を打ったから何時目が覚めるかわからないけど脳波も異常ないし特に異常もない。香里ちゃんがそこまで心配すること無いのよ」
「でも、名雪が怪我をしたのは・・・」
「あなたのせいじゃないわ。それより・・・今は祐一さんのことが気になるんでしょ?」
そう言って秋子は笑みを浮かべた。
「そうでなければ祐一さんの名前にそんなに反応するわけないでしょ?」
また祐一の名を出されたとき、香里はぴくっと体を震わせていたらしい。
本人すら気がついていなかったのだ。
「私は・・・相沢君に・・・」
そこまで香里が言いかけたとき、二階から誰かが降りてくる音が聞こえた。
その足音はリビングには来ず、すぐに玄関から出ていく。
「・・・」
秋子は無言で立ち上がる。
そして、玄関に向かい、すぐに外に出て、先に外に出た人物に声を掛けた。
「あなたに会いたい人が居るわよ」
「会えません」
「・・・何処にいくの?」
「わかりません。でもここにいるときっと秋子さんに迷惑を掛けます」
その人物はそう言うと歩き出した。
秋子もあえて止めようとはしない。
「これだけは憶えておいてください。祐一さん、あなたが帰る場所は、ここですから」
それだけ言って秋子は玄関に戻っていく。
歩き出した人物、祐一はその場に足を止め、ぐっと拳を握りしめた。
「ありがとう・・・ございます、秋子さん」
その声に、涙が混じっていたのは気のせいだろうか。
祐一は再び歩き出す。
一方、秋子は玄関先でドアにもたれて上を見上げていた。
そうしないと、涙がこぼれそうだったからだ。
彼女は祐一の背中に何かの決意を見出していた。そして、それは誰が何と言っても決して止められないと言うことも。
だから、送り出す以外何も出来なかった。
そして・・・香里はそんな秋子をリビングのドアからそっと見ていることしかできなかった。
 
<ものみの丘 09:54AM>
祐一はまたこの場所にやってきていた。
静かに吹く風の中、一人立ちつくしている。
身体中の傷はいつの間にか治っていた。全身を包んでいた脱力感もなく、今は身体中に力が漲っている。ただ、それでもひどく疲れてはいた。
「ここにいたんですね」
後ろから声が掛けられる。
振り返るとそこに美汐が立っていた。
「・・・滅多に人の来るようなところじゃないからな」
そう答える祐一。
「昨夜のこと、憶えていますか?」
「ああ・・・間に合って良かったと思っている」
「説明・・していただけますか?」
「省略して良いか?」
「出来ればちゃんとお願いします」
「長くなるぞ」
「構いません。今日学校は休校ですから時間はいくらでもあります」
そう言って美汐はその場に腰を下ろした。
つられるかのように祐一も腰を下ろす。
「まだ三日か四日しか経ってないんだよな・・・・」
そう言って祐一は話し始めた。
 
<川澄家 10:25AM>
水瀬家を出た舞はまっすぐに自分に家へと帰ってきていた。
昨日受けた左腕の傷は昨夜の内に秋子が施してくれた処置が良かったのか血は止まりほとんど痛みはない。
だが、剣を持って戦うにはまだ不十分だった。
鏡を見ながらその傷の上に包帯をきつめに巻いていく。
格好は動きやすく、着慣れた制服。
長く伸びた髪の毛をリボンでまとめ、舞は押入の中から昨夜使った剣とは別の日本刀をとりだした。
昨日の戦いで白虎の爪や牙の堅さが大体分かっている。
もしかすると剣が折られるかもしれない。その時のための予備だ。
日本刀を袋に入れ、いつもの西洋刀を手に舞は家を出る。
「あいつは・・・この手で倒す!」
 
<ものみの丘 10:47AM>
祐一と美汐は黙っている。
彼らは昨日美汐達が作った妖狐達の墓の前にいた。
「酷いことをしやがる・・・」
祐一が呟く。
「この子達は何もしていなかったのに・・・力があると言うだけで殺されたんです。お願いします。この子達の敵をとってあげてください」
美汐が祐一の方を見ずに言う。
「相沢さんにはその力があるんです。お願いします」
「・・・・・・」
だが、祐一は答えなかった。
この力のために彼は何かを失っている。それを美汐は理解しているのだろうか。
「真琴が・・・最後の妖狐だとあの怪物は知っています。このままだと必ず真琴が襲われます。だから、その前に」
美汐がそこまで言ったとき、真琴が姿を現した。
「美汐・・・?」
驚愕の表情で美汐を見る真琴。
振り返った美汐の表情が強ばる。
「真琴は・・人間じゃないの?」
震える声で言う真琴。
美汐は何も答えない。答えられない。
「答えて、美汐。真琴は、人間じゃないの?」
「真琴・・・」
何とか声を絞り出そうとする美汐。
「そう、お前はこの丘に住む妖狐の最後の生き残りだ!」
いきなり大声が響いた。
三人が振り返ると、そこには白虎が立っている。
「妖狐の一族にはその記憶と寿命を引き替えに人間になる能力が備わっている!お前はその力を使って人間になった妖狐なんだよ!」
「・・・嘘・・・」
白虎の言葉に愕然となり、その場に膝をつく真琴。
「嘘!嘘!嘘!真琴はっ、真琴はっ!!」
泣き叫ぶ真琴。
「真琴は人間なのっ!!」
「自分のこともわからねぇ・・・悲しい妖狐の生き残り、せめて最後は自分のことを思いだして仲間のところに行きな」
白虎はそう言うと、右手の爪を伸ばした。
「そうはさせない」
そんな声がして、舞が真琴と白虎の間に躍り出た。
手にはいつもの西洋刀。
「お前にそんなことをする権利はない」
舞の声はいつもと同じく静かだが怒りがこもっている。
「この俺に敵わないことは昨日よくわかったんじゃないのか?」
白虎がそう言うが舞はひるまない。
「言ったはず。お前だけは許さない」
そう言って斬りかかる舞。
だが白虎はそれを右手で受け止めてしまう。そして、舞の手から剣を奪い取ると、その剣を投げ捨てた。
「戦士としての心意気はいいんだがな、相手じゃないんだよ」
白虎が舞を殴り飛ばす。
吹っ飛ばされ、地面を転がる舞。
すぐさま起きあがろうとする舞を祐一が手で制した。
「お前じゃ無理だよ・・・」
静かにそう言うと、祐一は真琴を振り返った。
「真琴、昔のお前はどうあれ今のお前はちゃんとした人間だ!俺や、秋子さんや名雪の、大切な家族だ!だから・・・自分を見失うな!」
そう言ってから白虎を見据える。
「白虎・・お前だけは許さない。真琴や舞、天野を傷つけ、そして何の罪もないこの丘の妖狐達を殺したお前だけは!!」
そう言った祐一の目から涙があふれ出していた。
それは妖狐達を悲しむ涙だったのか、それとも怒りの涙だったのか。
「変身!!!」
右手で十字を切り、その手を腰に据えた左手の上に添える。そして、両手を広げると、腰の部分にベルトが浮き上がり、その中央部分が放射状に光を放った。
三人の見ている前で、祐一の姿が戦士・カノンへと変化する。
「今度こそ決着をつけてやる!」
昨夜商店街では互いに大きなダメージを受け、戦闘継続が不可能となった。
しかし、今度は違う。
白虎は自分が勝つ自信があった。
カノンはそれに答えず、油断無く身構え、一定の距離を保っている。
先に動いたのは白虎だった。
猛然と頭からカノンへと突っ込んで来る。
それを横にかわし、左足で白虎の背をけりつけるカノン。
のけぞり、よろける白虎だが、すぐに振り返り、カノンめがけて右腕を振り下ろす。
左腕で受け止め、更に接近して間合いを詰め、カノンは膝蹴りをその腹に叩き込む。追い打ちを掛けるように身体をくの字に曲げた白虎の首筋に今度は肘を落とす。
またもよろける白虎だが、いきなり地面に手をつくと、その反動を利用して宙に飛び上がった。空中で一回転し、上からカノンに襲いかかる。
鋭い爪がカノンめがけて振り下ろされるが、何とかそれをかわし、カノンは白虎と間合いを取るべく少し飛び退いた。
しかし、白虎はそこを逃さずタックルをカノンに喰らわせてきた。そのまま地面に押し倒し、カノンの肩口に噛みつく。
爪に負けず鋭い牙がカノンの左肩のアーマーを貫き、その身体を傷つけていく。
「ぐああっ・・・」
悲痛な声を上げるカノン。
噛まれた部分から血が噴き出す。
顔面をカノンの血で濡らしながらも白虎はまだ離さない。
そこへ、日本刀を持った舞が斬りつけてきた。
刃のほとんどつぶれた西洋刀とは違い、この日本刀の刃は健在である。その鋭い切っ先が白虎の無防備な背中に突き刺さった。
「ぎゃああっ!!!」
今度は白虎が悲鳴を上げる番だった。
思わずカノンの肩から口を離し、のけぞる白虎。
日本刀の刺さった傷口からは血がどくどくと流れ出している。
「今だっ!」
すかさずカノンが両足をそろえて白虎の腹を蹴った。
吹っ飛ばされ、地面に倒れる白虎。
起きあがったカノンは舞を見て右手の親指を立てて見せた。そして、起きあがってくる白虎を見据える。
「よくも!よくもやってくれたな!!もう手加減はしない!皆殺しにしてやる!!」
白虎はそう言うと、両手を地面についた。
それが本来の姿であるように、また白虎の姿が変化する。四つ足の獣の姿に。
ダッと地面を蹴る白虎。
そのスピードは先程とは比べものにならなかった。
あっという間にカノンのそばまで来、前足でカノンを殴り飛ばす。
倒れたカノンの上にのしかかり、大きな口を開いて牙をカノンの首へと突き立てようとするが、カノンは両手でその上顎と下顎を掴んで必死にくい止める。
「・・何てパワーだ!さっきとは全然違う!!」
カノンは必死に白虎を押しとどめようとするが着々とその牙はカノンへと迫ってきていた。
「祐一ッ!!」
舞がそう叫びながら日本刀を振り上げて白虎に向かってくる。
それに気付いた白虎はカノンから放れると、今度は舞に向かって飛びかかった。
舞が日本刀を振り下ろす。
だが白虎は牙でその一撃を受け止めてしまった。
そのまま、日本刀をかみ砕き、舞を前足で突き飛ばす。勿論鋭い爪は伸ばされたままだ。
突き飛ばされた舞の制服の右肩部分が破れ、そこから血が流れ出していた。更に彼女の左手の袖の下からも血が流れ落ちている。おそらく昨夜受けた傷が開いたのであろう。
倒れた舞を見て、白虎がニヤリと笑った。
「まずは・・・」
「たぁぁぁぁっ!!」
カノンが白虎に飛びかかる。
背中に馬乗りになり、首を両腕で締め上げる。
だが白虎は身体全体を大きく振ってカノンを引き剥がした。
「小賢しいぞ、カノン!!」
そう言ってカノンの足をくわえて投げ飛ばす。
宙を舞い、地面に叩きつけられるカノン。
白虎はカノンが倒れたことを確認すると、真琴と美汐の方を見た。
「まずは・・お前らからだ」
そう言って白虎が一歩一歩二人に迫っていく。
それを見た舞は周囲を見回し、自分の剣を探した。
日本刀は折られて使い物にはならない。西洋刀は投げ捨てられて何処にあるのかわからない。武器もなしに白虎に勝てるとは思えない。
「く・・・」
悔しそうに唇を噛む舞。
美汐は自分たちに迫ってくる白虎を見て、それから真琴を見た。
「な、何?」
その視線に気がついたのか真琴が訝しげな顔をする。
「真琴、御免なさい。あなたのこと、本当は知っていたんです。でも、それは話すべきではないと思っていました」
美汐はそう言って真琴の目をじっと見つめた。
「やっぱり・・・真琴は・・・人間じゃなかったの?」
「いいえ、違います。元は確かに人間じゃなかったかもしれません。でも今のあなたはちゃんとした人間で、相沢さんや水瀬さんの家族の一員です。そして・・・」
美汐はそこで言葉を切った。
「・・・昔、私はあなたの仲間と出会いました。その子は・・・力を使い果たして死んでしまいましたが真琴はそれを乗り越えて、本当の人間になったんです。だから、安心して」
すっと手を伸ばし、美汐は真琴を抱きしめた。
「あの子は助けてあげられなかったけど、真琴は助けてあげられます。これが・・・私なりの・・・償いです」
美汐はそう言うと、真琴を突き飛ばし、白虎の方へと走り出した。
「美汐ッ!!」
突き飛ばされ、地面にしりもちをつきながら真琴が叫ぶ。
彼女には直感的に分かっていた。
美汐が自分を逃がすために死ぬつもりだと言うことが。
「だめぇっ!!!!」
真琴が叫ぶ。
次の瞬間、ざわっとものみの丘全体が揺れた。
彼女の叫びに答えるかのように。彼女の思いに答えるかのように。
白虎の身体に、足下に生えていた雑草が巻き付いていく。風は彼にとって逆風になり、動きを鈍らせる。
「な、何だ?何が起きた!?」
慌てる白虎。
舞は左手で肩の傷を押さえながら周りを呆然と見回している。
「これは・・・あの子たちの思い・・・?」
美汐も呆然と立ちつくしている。
「真琴の声に・・答えたんですか・・・?」
真琴も呆然と風の中に立ちつくしている。
「みんな・・・真琴に答えてくれたの・・・?」
それは奇跡だったのか、それとも成仏できなかった妖狐達の怨念だったのか。
とにかく白虎は動けなくなっていた。
「うおおおっ!!!」
動けない白虎の前にカノンが現れ、思い切り振りかぶったパンチをその顔面に叩き込んだ。
二度、三度、何度もパンチを叩き込むカノン。
その姿に妖狐達の姿が重なる。
まさに怒りの化身。
「うおおおりゃぁぁっ!!」
最後に強烈なアッパーカット。
身体に巻き付いた草ごと、宙に舞いあげられる白虎。
地面に倒れた白虎の顔はカノンのパンチでボロボロになっており、鋭い牙も何本か折られていた。
「ぐあああ・・・」
よろけながらも何とか立ち上がる白虎。
カノンの姿は先程の連続パンチの時に白虎が流した血で赤く染まっていた。
「よくも・・やってくれたな・・・まだ、これで終わりではないぞ、カノン!」
白虎はそう言うと、走り出した。
昨夜カノンのキックと相打ちになったパンチを放とうとしているらしい。
あのパンチはかなりの威力を持っている。今の状態でもカノンと相打ちぐらいにはなるだろう。
カノンは油断無く身構えた。
こっちも必殺のキックの体勢である。
「祐一ッ!!」
舞が横から叫んだ。
彼女の手から何かが宙に投げられる。
それは先程白虎によって噛み砕かれた日本刀の切っ先部分の破片。
「とおっ!!」
カノンがジャンプする。そして、その破片にキックを食らわせた。
破片が一直線に白虎に向かう。
「何ッ!?」
白虎は既にジャンプしていたのでその破片をかわすことは出来なかった。
破片が白虎の額に突き刺さる。
「ぐわぁぁぁっ!!!」
叫び声をあげながら地面に倒れる白虎に向かってカノンは走り出した。
間合いを計った上でジャンプ。空中で一回転した後に右足を前に突き出す。その足が光に包まれ・・・白虎の額、日本刀の破片が刺さった部分に命中する!!更に、左足で白虎の胸板を蹴り、とどめとばかりに顎を右足で蹴り上げ、カノンは空中で一回転した後、着地した。
必殺の三段蹴り。
カノンの怒りが込められたその三段蹴りを喰らった白虎は二、三歩よろめくとそのまま大の字になって倒れた。
「ま、まさか・・これほどの力が・・・」
白虎の最後の言葉。
次の瞬間、白虎の身体が大爆発を起こした。
思わず身を伏せ、爆風をかわす舞、美汐、真琴。
だが、その爆風の中、祐一は呆然と立ちつくしていた。
左肩からは血がだらだらと流れ落ち、それを右手で押さえている。
全身には白虎の返り血がつき、服のあちこちを染めている。
「祐一?」
舞が駆け寄ろうとするが、その気配を察した祐一は左手でそれを制した。
「来るな!」
その激しい口調に、舞の足が止まる。
美汐と真琴も祐一の方を見た。
「俺は・・・俺だって奴らと一緒だ。あいつらと同じ・・血に飢えた怪物でしかない・・・・」
俯いたまま言う祐一。
「怒りにまかせて・・・あいつを殴っていたとき、俺の意識は真っ白だった。何も考えられない・・・ただ、目の前のあいつを倒すことしか考えていなかった。これじゃ・・・奴らと何も変わらない」
祐一はそう言うと天を見上げた。
既に肩から流れていた血は止まっている。その代わり、いつもと同じく強烈な疲労感、脱力感が彼を襲い始める。
「違います!」
不意に大きい声がした。
振り返ると、美汐が彼を睨みつけている。
「相沢さんは奴らとは違います!奴らは血も涙もない怪物です!でも相沢さんは・・・例え、奴らと同じ力を持っているのだとしても・・・それでも・・・あなたはあの子たちのために泣いてくれました」
そう言った美汐の目から涙がこぼれ落ちる。
そして、それを見た祐一の目からも涙がこぼれた。
その場にがっくりと膝をつき、天を見上げたまま、祐一は涙を流し続ける。
それは・・・果たして何の涙だったのだろうか?
誰かのために戦い続け、ようやくそれを認めて貰えた喜びの涙なのだろうか?
果てしなく続く戦いに巻き込まれ、命を落としたものへの悔やみの涙なのだろうか?
ものみの丘は・・・ただ静かに・・・彼の涙を風に乗せて運んでいた。
 
Episode.4「憤怒」Closed.
To be continued next Episode. by MaskedRiderKanon
 
次回予告
再び戦いの舞台となる学校。
久瀬「どうしてだ?あいつはもういないのに!?」
北川「何で・・・何でそんなになってまで戦うんだよ!?」
戦士となった少年が浮かべる決意の笑み。
香里「相沢君・・・頑張って」
名雪『祐一は優しい、いい人なんだよ』
人の思いを背に、戦士・カノンは戦い続ける。
祐一「誰かのために何かが出来るんだ・・・これって良いことなんだろ?」
次回、仮面ライダーカノン「信念」



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