<江東区亀戸 18:34PM>
片膝をつき、ゆっくりと立ち上がるゾヂダ・ボバル。
油断無く相手を見ながら身構えるカノン。
ほぼ両者の間に倒れているアイン。
その三者を遠巻きにして取り囲み、じっと声一つあげることなく見ている警視庁未確認生命体対策本部の刑事、国崎往人、神尾晴子。
「ゴヲジョバ・ギナサザ・ラリシェガ・カノン?」
ゾヂダ・ボバルがカノンを見てそう言った。そして指をポキポキと鳴らし、首を回す。
「ラリシェミ・ショッシェ・ブノグバマリ」
「な、何か話しとるで、あいつ」
何処か慌てたように晴子が言う。
「いや、連中には独自の言語があると前からわかっていただろうに」
やや冷静に答える国崎。
そんな会話が交わされている前でゾヂダ・ボバルが両手を振り上げ、走り出した。その動きは想像以上に速い。
カノンは迫り来るゾヂダ・ボバルの両腕をかいくぐると、その背にキックを叩き込んだ。
思わずよろけるゾヂダ・ボバルに追い打ちをかけるように飛びかかる。相手の首筋に組み付き、右肘を肩口に叩きつけていく。
二発目を叩き込もうとすると、ゾヂダ・ボバルの手が伸び、カノンの頭を掴んだ。そのまま強引にカノンを背から引きはがし、地面に叩きつける。
「ニメ!!」
ゾヂダ・ボバルが倒れたカノンに向かって足を振り下ろそうとするが、一瞬早くカノンは横に転がり、その足をかわした。
その体勢のままゾヂダ・ボバルの膝に向かって蹴りを放つカノン。だが、鋼鉄の筋肉を自称するゾヂダ・ボバルには効き目がなかったようだ。更に逆の足を振り上げ、カノンの上に落とそうとする。
「くっ!!」
今度は後方に回転してその足をかわし、素早く立ち上がるカノン。
そこに物凄いスピードで突っ込んでくるゾヂダ・ボバル。肩からカノンへと体当たりを食らわし、カノンを吹っ飛ばしてしまう。
吹っ飛ばされたカノンが民家の塀に激突する。
「ぐわっ!」
再び地面に倒れるカノン。
それを見たゾヂダ・ボバルは悠々とカノンに向かって歩いていく。
と、そこに先程まで倒れていたはずのアインが飛びかかっていった。空中からゾヂダ・ボバルの顔面に向かってキックを放つ。
「ウオオオッ!!」
アインの気合いの入ったキックを喰らい、吹っ飛ばされるゾヂダ・ボバル。
着地したアインは倒れたゾヂダ・ボバルを見て一言。
「油断大敵ってな」
そう言うと右手をすっと前に構えた。その手甲から鋭い鉤爪が伸びる。
「今度は油断しねぇ・・・」
鉤爪を前にジャンプするアイン。
起きあがろうとしていたゾヂダ・ボバルの側に来るとその鉤爪で斬りつけていく。高周波ブレードすら通じなかった鋼の筋肉がアインの鉤爪の前にあっさりと切り裂かれ、血が噴き出した。
「ウオオオオオッ」
思い切り右手を引き、一気に突き出すアイン。
ゾヂダ・ボバルは必死に身体をよじってその一撃をかわした。
そこに立ち上がったカノンのパンチが決まる。
もんどり打って倒れるゾヂダ・ボバル。
そして、睨み合うカノンとアイン。
「・・・また会ったな。今度は前のようには行かないぜ・・・」
カノンが呟くように言う。
「今度会った時は必ず殺すと言ったはずだ。死んで貰うぞ・・・」
アインがそう言ってカノンに飛びかかった。
 
仮面ライダーカノン
Episode.38「死闘」
 
<都内某所・路上 同刻>
ジェットブースターを装備したPSK−03が必死に逃げるガダヌ・シィカパを追う。
手に持ったブレイバーバルカンがガダヌ・シィカパを襲うが右に左に必死にガダヌ・シィカパはその弾丸をかわしていた。
「くそっ!!当たらないっ!?」
PSK−03装着員北川潤が焦ったような声を上げる。
PSK−03に搭載されているAIは機能しており、ブレイバーバルカンの照準の補正をやっている。にもかかわらず命中しないのはガダヌ・シィカパが巧みに身体を左右にずらせているのと潤が飛行中の姿勢制御にまだ慣れていない所為であった。
何しろ実験も無しに行ったぶっつけ本番のモードF使用である。慣れるも慣れないもあったものではない。むしろ潤がこうして飛行出来ているだけでも凄いのである。
『北川君、落ち着いて!!』
マスクに内蔵されているスピーカーからPSKチームのリーダーである七瀬留美の声が飛び込んできた。
『ヘタに狙っても無駄よ!今は弾をばらまく事を考えなさい!』
「わかりました!」
そう答え、潤は再びブレイバーバルカンの引き金を引く。
今度は先程と違い、ガダヌ・シィカパを狙うのではなく、とにかく前方に弾丸をばらまくかのように。
その弾丸がガダヌ・シィカパの足を遂にかすめた。
「ぐっ!?」
一瞬バランスを崩すガダヌ・シィカパだが、すぐに体勢を立て直す。
「よし!!」
潤はそう呟くと再びブレイバーバルカンの引き金に指をかけた。と、その時である。急に警告用のアラームが鳴り、マスク内のモニターにジェットブースターの燃料切れが表示された。
「何だって!?」
『北川君、時間切れだわ!早く着地して!』
「後少しだって言うのにっ!!」
そう言ってから舌打ちし、PSK−03は少しずつ降下、路上に着地する。
その様子を振り返りながら見ていたガダヌ・シィカパはにやりと笑うと左右の踵を打ち付けた。内蔵されているブースターに火がつき、ガダヌ・シィカパの身体が急加速する。その速度のまま、大きく旋回し、着地したばかりのPSK−03に向かって突っ込んでいく。
着地したばかりのPSK−03はまだそれに気がついていない。
AIが急接近してくるガダヌ・シィカパに対して警告音を鳴らすのと同時に留美の声が耳に届く。
『北川君、よけてっ!!』
はっと顔を上げるPSK−03だが、もう遅い。おまけに背中のジェットブースターがデッドウエイトになり、ガダヌ・シィカパの体当たりをかわす事が出来ずに吹っ飛ばされてしまった。
「くそっ!!」
何とか背中のジェットブースターを切り離し、起きあがるPSK−03。
その背にまたも体当たりを食らわせてくるガダヌ・シィカパ。
為す術もなく吹っ飛ばされ、PSK−03はアスファルトの上を転がった。
「くう・・・このままじゃダメだ・・・七瀬さん、あれを!」
『・・・わかったわ。PSK−03,Bモード、起動!!』
留美の声と共にPSK−03のモニターが真っ赤に染まる。
内蔵されているもう一つの特殊AIが起動したのだ。戦闘用、敵を殲滅する事に特化された超戦闘攻撃用特殊AI。それは装着員の意志すら凌駕し、ただひたすらに敵となる対象物を破壊殲滅する事だけを優先する。
だからこそPSK−03には別名があるのだ。
狂戦士、いわゆる”ベルセルガ”と言う名の。
特殊AIの起動したPSK−03がさっと立ち上がった。近くに落としてしまっていたブレイバーバルカンを拾い上げると素早く弾倉を交換し、構える。
その間にも特殊AIはPSK−03の全てのセンサーを使用して姿の見えないガダヌ・シィカパを探していた。
ピピッという短い警告音と共に上を見上げるPSK−03。同時に手に持っていたブレイバーバルカンの銃口も上に向ける。
「やらせるかよっ!!」
潤の声と共に引き金が引かれ、上に向かってブレイバーバルカンの弾丸が発射されていく。
ガダヌ・シィカパはそれに気付くと必死に状態を反らし、体の向きを変え、射線上から逃れた。そしてそのまま空の彼方へと逃げ去っていく。どうやら自分の不利を悟ったようだ。
「逃がした、か・・・」
そう呟いてPSK−03はブレイバーバルカンを降ろした。
『北川君、大丈夫?』
「こっちは何ともありません。しかし奴・・第2号は逃がしてしまいました」
『それは別に構わないわ。それよりまだバッテリーとか大丈夫?』
「バッテリー・・・あ、ちょっとやばいかも」
『なら先にバッテリーの交換をしましょう。それからKディフェンサー出先に現場に向かって』
「わかりました」
潤が留美からの通信にそう答えた時、KトレーラーがPSK−03のすぐ横にまでやって来て、停車した。
 
<江東区亀戸 18:43PM>
飛びかかってきたアインを受け止めたカノンはそのまま地面に倒れ込むようにしてアインを投げ飛ばした。
だがアインもそれをわかっていたのか、両足をつき、その反動を利用して起きあがる。
カノンも素早く立ち上がるが、そこにアインがドロップキックを喰らわせていく。両手でそのキックをはたき落としたカノンが膝蹴りを叩き込もうとするがアインはその膝に手をついてそのままジャンプ、後方へと下がる。
互いに間合いをとって睨み合うカノンとアイン。
「ちったぁやるようだな・・・」
アインがそう言って構えを解いた。
「それじゃあ、こっちは本気を出させて貰うぜ」
ゆっくりと右手を前に出すアイン。左手は腰に当て、何かの構えのようなポーズ。
「激変身っ!!」
その瞬間、アインのベルトの左右にある赤い宝玉が光を放ち、アインの身体が赤く変わる。
より戦闘的、より野性的に姿を変えたアインを見てカノンが一歩たじろいだ。
「こ、こいつも・・・フォームチェンジ出来るのか・・・」
驚きの声を上げるカノン。
「ウアアアアアッ!!」
雄叫びを上げてカノンに再び飛びかかっていくアイン。
「フォームアップッ!!」
アインが突っ込んでくる寸前、カノンも姿を変えた。基本形態の白から素早さ、瞬発力の増す青へと。
さっとジャンプしてアインをかわした青いカノンはそのまま民家の屋根の上へと着地する。
立ち止まり、屋根を振り返るアイン。それからカノンを追いかけるようにジャンプ、自身も屋根の上に降り立った。
「逃がさねぇよ」
アインはそう言うとカノンにつかみかかっていった。
屋根の上を後退しながらアインの手をかわすカノン。右に左に身体を反らし、たまにアインの手を自分の手で払い落とす。
「このっ!!ちょこまかしやがって!!」
アインが怒鳴り、右の回し蹴りを放つがそれを軽くジャンプしてかわし、カノンはそのまま地面へと向かってダイブした。その途中にあった物干し竿を手に取りながら着地、素早く屋根の上のアインを振り返る。
その手の中で物干し竿が青いカノン専用の武器に変化した。アームガードにはめ込まれている宝玉が光り、物干し竿を青き力を秘めたロッドへと変化させたのだ。そのロッドの両端がすっと伸び、その長さを更に増す。
「お前が何で俺を殺そうとするのかは知らないがな!俺はまだ殺されてやるわけには行かないんだよっ!!」
カノンがそう言いながら青いロッドを構えた。
「黙れっ!!」
アインが屋根の上からカノンに向かって飛び降りる。
青いロッドでアインを払い除けながらカノンは民家の塀を背にした。
着地したアインがゆっくりと右腕を上げ、構える。その腕に生えているヒレが徐々に光を帯び始めた。
「ハアアアアァァァァァ」
ヒレが大きさと堅さを増していく。
「ウラアァァァァッ!!」
アインの気合いの声と共にその右腕がカノンに向かって振り下ろされる。
とっさにロッドでその一撃を受け止めようとするカノンだが、アインのその一撃はカノンの青いロッドを真っ二つに切り裂いてしまった。
「何っ!?」
「死にやがれぇっ!!」
驚いている暇もなく、襲ってくるアインの右腕。まともに喰らえば今度は自分が一刀両断にされてしまう。それほどの威力を秘めた一撃。
カノンは思い切って前に飛び出し、アインの振り下ろしている右腕の下をかいくぐった。前転してから起きあがり、振り返るとアインの一撃を受けた民家の塀がその衝撃に大きく引き裂かれていた。
「な、何て威力だ・・・」
思わず驚きの声を上げるカノン。
そこにゆっくりと振り返るアイン。
「お前が・・・お前が俺の全てを奪った!!その償い、ここでして貰うぞ!!」
怒りに震える声でアインが言い、右腕を振り上げる。
「お前の全てを奪っただと?」
カノンがそう言うと、アインは右腕を振り上げたまま頷いた。
「何の事だ? 俺はお前のこと何か知らないぞ?」
「しらばっくれてんじゃねぇっ!!」
カノンの言葉はアインの怒りの火に油を注いだようなものであった。激昂したアインが右腕を振り下ろす。すると、物凄い衝撃波が生まれ、カノンを触れてもいないのに吹っ飛ばしてしまった。
「お前さえいなけりゃお袋も、みさおも、瑞佳だってああ言う目に遭わなかったんだ!!」
アインはそう言うとカノンに向かって人差し指を突きつけた。
「お前が・・・お前が・・・どうして俺から全てを奪う!?」
その声にカノンは確かな悲しみを見て取ってしまった。
何か誤解されているようだが、目の前の戦士が自分の家族やそれまでの生活などを奪われたのは本当の事だろう。そしてその怒りの矛先が今、自分に向けられている。それは何故だ?
「ま、待ってくれ!俺は本当に・・・」
「黙れっ!!お前はここで死ねっ!!」
そう言ってジャンプするアイン。大きく振りかぶられる右腕。あの一撃を食らえばひとたまりもない。
「話し合いの余地は無しかよ!?」
だが、ここで大人しくやられてやるわけには行かない。まだやらなければならない事があるのだ、俺にも。
「フォームアップッ!!」
叫びながらジャンプ。空中で白いカノンに戻り、更に一回転。
アインの振り下ろされている右腕に向かってカノン必殺のキック。
次の瞬間、物凄い衝撃波が周囲に飛び散った。
その衝撃波により、周囲に民家の窓ガラスに次々とひびが入り、一瞬の後に外側に向かって割れ飛ぶ。更に塀もまるで地震でもあったかのように揺れ、あちこちにひび割れが発生していた。
カノンとアインの戦いを見ていた警官達もその衝撃波に巻き込まれ、吹っ飛ばされていた。
それは互いの必殺技に込められたエネルギーが互いに干渉しあい、増幅された結果起こった現象。
「な、何だったんだ、今のは・・・?」
何とか起きあがった国崎が頭を振りながらそう呟く。
何か酷く頭ががんがんする。まるで金槌か何かで殴られたかのように。
顔を上げてみると、カノンとアインが離れた場所にそれぞれ倒れているのが見えた。お互い何とか起きあがろうとしているが、それぞれダメージがあるようで起きあがれないでいる。
「あいつら・・何なんだ・・・?」
やがてアインが立ち上がった。
よろよろと歩き出すと、自分の愛車であるブラックファントムに寄りかかる。
「く・・・」
頭を抑えたアインは何とかブラックファントムに跨るとそのままその場から逃げるように走り去っていった。
それを待っていたかのように立ち上がるカノン。
やはりよろよろとしているがこちらは頭を抑えてはいない。そのまま愛車ロードツイスターの側まで行くと頭を左右に振ってから跨り、エンジンをかけ、走り去っていった。
「・・・おいおい・・・」
苦笑を浮かべて呟く国崎。
彼のお仲間である警官隊は未だ誰一人として起きあがろうとはしてない。綺麗さっぱり気を失っているようだ。
国崎は身体を起こすと、その場にあぐらをかいた。
「・・・そう言えば」
ふとある事を思い出し振り返ってみるが、彼の目的としたものはもういなかった。
「また逃がしたか・・・」
未確認生命体第26号ゾヂダ・ボバル。
カノンとアインの戦闘の最中に上手く逃げ出したらしい。
そこにサイレンの音が聞こえてきた。
音のする方を見るとようやくKディフェンサーに乗ったPSK−03の姿があった。
「おせぇよ・・・ったく」
PSK−03の姿を見ながらそう呟く国崎であった。
 
<都内某所・道場のような所 20:32PM>
一人の男が少し汚れた空手着を着て演武を行っている。
拳が空を切り、鋭い蹴りが見えない相手を倒すかのように空を薙ぐ。
男の顎の先から汗の滴がしたたり落ちた。
板張りの床の上にはその男の流した汗がまるで水たまりのようになっている。一体どれくらいの時間、演武を続けているのか。床に飛び散っている汗の量からするとかなりの時間のようなのだが、男は疲れた素振りすら見せず、流れるような動きを維持し続けていた。
「ハッ!!」
時折男が発する短い気合い。
突き出される拳の先から汗が舞い散る。
今度は素早い後ろ蹴り。
それで演武は最後だったのか、ゆっくりと残心を残しながら深呼吸し、直立不動の構えに戻っていく。
そこでふっと気を抜いた瞬間だった。
男の胸の奥に激しい痛みが走り、男は空手着の胸元を掴んでその場に崩れ落ちた。
「くっ・・・・くううっ・・・・」
歯を噛み締めてその激痛に耐えることしかできない男。額には先程とは違う、脂汗が滲み、頬を伝って床に落ちていく。
意識を失ってしまえば楽なのかも知れないが、その痛みはそこまで達する事はなかった。そのギリギリのラインで彼を苦しめ続ける。
どれくらいそうしていただろうか、その痛みが来たのと同じくらいすっと痛みが引いていった。
「ハァハァハァ・・・またか・・・」
男はそう呟くとゆっくりと起きあがった。
全身汗だくである。演武の時に流した汗と、先程胸の激痛に耐えていた時に流した脂汗と。板張りの床の上にはかなりの量の汗が本当に水たまりを作っていた。
その水たまりに男の顔が映る。
普段とは違い、何処か疲れたような生気のない顔。
「・・・これが大婆様の言っていた事か・・・」
そう言って立ち上がると、壁の方まで歩いていって、壁にもたれるようにして腰を下ろす。
おいてあったタオルで汗を拭い、大きく息を吐く。
「もう・・・あんまり残ってないんだな・・・」
呟き、タオルを頭にかぶせる。
その呟きには何かあきらめのような、そんな悲しい色が含まれていた。
思い出されるのは恋人の笑顔。
それを守りたいが為にこの力を得た。多分に怪しいとは思いながらも。本能的な危険を感じながらも。命に関わるような予感をしつつも。
ただ、恋人の、あの笑顔を守る為だけに、自分の命を捨ててもいいと思った。
「・・・真奈美・・・お前の為に・・・」
ぎゅっと拳を握りしめる。
「生き延びたければカノンかアインを殺す事じゃな」
不意に不気味な声が聞こえてきた。
顔を上げるといつの間に入ってきたのか一人の老婆が板張りの道場の中にいる。
「お前が生き延びる為にはカノンの霊石、もしくはアインの霊石と宝玉を奪い取り、自分の中へ埋め込む必要がある。その為には奴らを殺さねばならぬがの」
そう言うと老婆は低い声で笑った。
一体何が楽しいのか、この老婆が何を考えているかわかったものではない。何故こんな老婆に恋人である皆瀬真奈美や彼女の姉貴分だと名乗った皆瀬葵が従っているのか。それにこの老婆が執拗なまでに付き従えている通称「お姫様」。
一体何を企んでいるのか、元々部外者である彼には計り知れなかった。
しかし、わかる事はある。
自分が生き長らえるにはカノン、もしくはアインの体内に眠る霊石が必要だと言う事。
それを奪い取ると言う事がどれだけ困難な事かわからない彼ではない。
だが、それでも。
恋人の笑顔を守る為に。
俺は生き続けなければならない。
「やってやる・・・」
呟くようにそう言い、ゆっくりと立ち上がる。
「奴らを殺して・・・俺は絶対に生き延びてみせる!!」
彼はそう言って頭からかぶっていたタオルをはぎ取った。そしてそのまま、足早に道場から出ていく。
その後ろ姿を見送りながら老婆は低い声で笑い続ける。
「ヒヒヒ・・・さぁ、殺し合え!ビサンの遺産を持つもの同士殺し合うがいい!!」
人気の無くなった道場の中に老婆の声が響き渡る。
何処かヒステリックさを感じさせる不気味な声。
「誰一人として・・・この世には残さん・・・」
やがて外から走り去るバイクのエンジンの音が聞こえてきた。
「正輝よ、折原浩平、相沢祐一の二人にお前が勝てるとは思わん。じゃがせめて傷の一つでも負わせてくれればよい・・・」
遠ざかるエンジン音を聞きながら老婆が不気味に呟いた。
 
<都内某所・ガード下 21:29PM>
「ハァハァハァ・・・・」
激しい頭痛に折原浩平は息も荒く、壁に寄りかかっていた。
額を手で押さえ、流れる脂汗もそのままに、ひたすら襲い来る激しい頭痛に耐えている。
だが、もうその痛みに一歩も歩く事さえ出来なくなっていた。
「な・・・何なんだよ・・・・」
壁に寄りかかったまま、ずるずると地面に座り込んでしまう。
「くっ・・・」
歯を思い切り噛み締め、必死に痛みに耐える浩平。
その視界が痛みのあまりにあふれ出した涙に歪む。
だから彼は気付かなかった。
自分のすぐ側にいつの間にか現れた少女の姿に。
頭には赤いカチューシャ、黒いタートルネックのセーターを着、同じく黒いダッフルコートに身を包んだ少女。
「フフフ・・・助けてあげるよ、アイン・・・」
少女はそう言って微笑むとすっと右手を浩平の方に差し出した。少女の目がすっと細められ、差し出された右手が少し震える。
徐々に浩平の表情から苦しそうなものが消えていく。
と、その時だ。
何かの気配を感じたのか、少女は細めていた目を開き、さっと左手の方を向いた。
「・・・・・」
少女は少し悔しそうな顔をするとその場から逃げ出すように走り出した。
それから時をおかずして一人の男がその場に姿を現す。
不機嫌そうに腕を組みながら爪を噛んでいる男。
「こんな所にいたのか。随分探させて貰ったぜ」
男はそう言うと、気を失っているかのようにぐったりとしている浩平に蹴りを食らわせようとした。
すっと手を動かし、その足を受け止める浩平。
ほおっと少し驚きにも似た表情を浮かべる男。
「随分と手荒なんだな」
浩平はそう言うと相手の男を睨み付けるように目を上げた。
「何だ、テメェは?」
男はにやりと笑い、浩平を見下ろした。
「そうツンケンするなよ。少なくても今はお前の敵じゃない」
「今は、ね。じゃ、何時かは敵になるって言うわけだ?」
立ち上がりながら浩平は言う。
先程、動けなくなるくらい酷かった頭痛はかなり治まっている。まだ多少ズキズキするがこれならば動き回るのに差し障りは無さそうだ。
「今は同じ目的を持っているようだからな。手を組まない手はないだろう?」
男はそう言うと組んでいた腕を広げた。
自分に敵意がない事を示しているつもりらしい。
「同じ目的?」
「・・・カノンの抹殺」
それを聞いた瞬間、浩平の頭がズキリと痛んだ。
思わず額を手で押さえ、壁にまた寄りかかってしまう。
「き、貴様は・・・」
そう言った浩平の目の前で男はその真の姿を見せた。
カメレオンのような怪人、ガセデ・ババル。
長い舌を出し、唇を舐め、ガセデ・ババルはにやりと笑う。
「フフフ・・・驚く事はないだろう。お前だって同じじゃないか」
浩平はガセデ・ババルの言った事に思わず身構えていた。
いつでも変身出来るように、そして飛びかかれるように。
それを見たガセデ・ババルは肩をすくめて見せた。
「おいおい、今は敵じゃないと言っただろ?」
「だが味方でもない」
油断無く浩平は言い放つ。
緊張が走る。
「・・・同じカノンの抹殺という目的の為に手を組まないか?」
ガセデ・ババルが緊張の中、そう言う。
「お前と俺たちが手を組めばカノンなど・・・」
「フッ、悪いがな、お前らと手を組むつもりはねぇよ」
浩平はそう言ってにやりと笑った。
その言葉を聞いたガセデ・ババルが訝しげな顔をして少し身を引いた。
「俺にとっちゃお前らも敵に変わりない。敵と手を組むつもりはさらさら無いんだよ!」
そう言って浩平は油断無く変身の為のポーズをとった。
「カノンを殺すのは俺一人で充分だ!お前らに譲るつもりはない!!出直してくるんだなっ!!」
そのまま変身する浩平。
「くっ!!」
素早く後方へと飛び退くガセデ・ババル。
「やはり貴様とは相容れる事が出来ないか!ならば後悔するがいい!」
ガセデ・ババルはそう言い残し、夜の闇の中へと消えていった。
アインはそれを追おうとはせず、すぐに変身を解くと停めてあったブラックファントムに跨った。
「カノンは・・・俺がこの手で殺す・・・」
 
<関東医大病院 21:43PM>
相沢祐一は一階のロビーの長椅子に腰掛けていた。
その表情は決して晴れたものではない。
「こんな所にいたのか?」
後ろから声をかけられ、祐一が振り返るとそこには関東医大病院の医師、霧島聖が立っていた。
「彼女には会ったのか?」
「いや・・・まだ寝ているようだったし」
聖が祐一の隣に腰を下ろす。
手に持っていた缶コーヒーを祐一に差し出し、それを祐一が受け取ると、自分の分の缶コーヒーのプルタブを開けた。
「・・・彼女は救急車で運ばれてきたんだが付き添いで一人の青年が一緒に来ていた。何処か君に似た印象を私は持ったが、君に心当たりはないか?」
聖がそう言うのを聞いて祐一は顔を上げた。
「俺に似た・・・?」
祐一がそう言うと聖が大きく頷く。
「まぁ、何処が、と言えば困るんだが。どことなく君に似た印象を持った、と言うだけでな。あ、あと真っ黒いオンロードタイプのバイクに乗っていたな。君のと違ってそれが結構印象的だった」
「黒いオンロードマシン・・・まさか・・・」
祐一の表情に驚きの色が浮かぶ。
彼の思い当たった人物は一人。ほんの数日前、彼の前に現れ、マシン勝負を挑んできた男、折原浩平。同じ制作者によるマシンを操る謎の男。
もし彼がここに彼女、長森瑞佳を運び込んだ張本人であるならばあの戦士は彼だと言う事になる。
(・・・確か奴の口から「瑞佳」と言う名前が出ていたな・・・もし本当に折原浩平があいつなら、瑞佳さんが俺をかばって傷付いたあの瞬間を見ていたのかも知れない・・・)
おそらくそれを誤解されたのだろうと祐一は思う。
だが。
(しかし、あの俺に対する憎みよう・・・あれは異常なほどだ・・・それに瑞佳さんだけじゃなくお袋やもう一人、みさおという名前・・・俺には全く心当たりがない・・・それに・・・俺と折原浩平はあの時が初対面のはずだ・・・俺が奴にあそこまで恨まれる理由がわからない・・・)
そう思って祐一は頭を左右に振った。
「心当たりはあるのか?」
「いや、自信がない。とりあえず瑞佳さんが起きたらわかるかも知れないけど・・・」
そう言ってからふと祐一はある事を思い出していた。
瑞佳がこの街にいる理由。
行方不明になった幼なじみをずっと捜している。その幼なじみの名前は確か「浩平」と言ったはずだという事を。
「・・・まさか・・・?」
思わず口から出る疑問形の言葉。
だが答えるものは誰もいない。
 
<関東医大病院・瑞佳の病室 21:56PM>
まだ麻酔が効いているのか瑞佳はぐっすりと眠っていた。
背中の傷は聖の手によって完璧な処置が施されており、跡もほとんど残らないだろう。出血が多かったのでそれだけが不安要素だが、今の容態は安定しているようだ。
時折身体を揺する瑞佳。
その度に表情が少し苦しそうなものとなる。
「駄目・・・だよ・・・浩平・・・」
彼女の口から言葉が漏れる。
「浩平は・・・間違ってるよ・・・駄目・・・」
何か夢でも見ているのだろうか、瑞佳はうわごとのように続ける。
「駄目・・・戦っちゃ駄目・・・祐さんと・・・」
再び彼女の意識が深淵へと引き込まれていく。
彼女の眠りはまだ解けそうにない。
 
<倉田重工第7研究所 22:54PM>
留美は装備開発担当の深山雪見と共にPSK−03モードF用ジェットブースターをじっと見つめていた。
「やっぱり稼働時間が問題ね〜。えっと20分ぐらいしか持たなかったんだっけ?」
雪見が隣に立っている留美に声をかける。
「だいたいですが、それくらいだったと思います。それと飛行中に使用出来る武装もブレイバーバルカンやブレイバーショットなど限られてくるのも何とかしたいんですが」
留美は手に持ったクリップボードを見ながら言う。
「まぁ、両手が自由になるだけでもマシだと思って頂戴。その辺はこれから考えるわ。それとモードAだけど、試作品が出来たから」
そう言って雪見はジェットブースターの隣に置いてあった鎧のようなものを指さした。
「攻撃力の増加という面では申し分ないと思うけどね、搭載しているものがものだけに使用出来る場所を選ぶわよ」
「・・・本当にやったんですか、あれ?」
少し引きながら留美が問うと雪見はにやりと笑って見せた。
「あったり前じゃない。使えると思ったらとりあえず使ってみるのよ!それがPSK−03の強化に繋がるんですから!」
ビシッと留美に向かって指を突きつける雪見。
「は、はぁ・・・」
流石の留美も雪見のこのテンションにはついていけない。
「とりあえずデータが欲しいから次の出動の時には持っていってね。使うかどうかは現場の判断に任せるから」
「・・・わかりました」
とりあえず不安がないわけではないが頷いておく留美。
「それと、やっぱり接近戦用だから気をつけてねって北川君に言っておいて」
「接近戦用? どうしてですか?」
何気なく付け加えた、と言った感じで言う雪見に留美が聞いた。
実際にこのモードAを使用して戦うのは現場であるPSKチームである。少しでも不安要素は排除しておきたい。
「前に作ったパイルバンカー、あれの改良版がメインウエポンになると思うわ。名付けてガトリングステーク」
「ガトリングステーク・・・」
「パイルバンカーはある意味失敗作よ。ガトリングステークが本物。まぁ、前以上に接近戦専用になっちゃったけど」
新兵器ガトリングステークの説明を始めた雪見を見て留美はため息をこっそりとついた。
深山雪見、確かに信頼出来る開発者である。しかし、やや自分が開発したもの対して愛着を持ちすぎるきらいがある。開発出来たものがあればついつい自慢したくなるのだろうか、PSKチームの誰かを捕まえては長々と説明を繰り広げてくれると言う妙な上に厄介な癖を持っていた。
未だに隣では雪見がガトリングステークについての開発苦労話を続けている。
モードA用にPSK−03の改良をしたい留美だがなかなか逃げ出せそうにもなかった。
 
<喫茶ホワイト 11:32AM>
カランカランとカウベルの音がして中に入ってきたのは国崎だった。
「いらっしゃいませ」
カウンターの空いている椅子に腰を下ろした彼の前に水の入ったコップをおいたのはアルバイトの美坂栞。
何度か国崎とは面識があるはずだが、どちらもそうと気付いている様子はない。
「おや、いつぞやの刑事さん」
カウンターの内側で新聞を広げていたマスターが国崎に気付いて声をかける。
何度かここ喫茶ホワイトに来ては祐一を連れだしている国崎にマスターが一体どういう印象を抱いているのかはわからないが、歓迎してない節はない。
「コーヒー、アメリカンで」
「はい」
間髪をおかずに横から祐一がコーヒーカップを置く。
「・・・何だ、いたのか」
国崎が祐一の方を見て言う。
「いたのかって随分酷い言いようだな。俺はここでバイトして居るんだぜ、しかも住み込みで。居ないわけないだろうに」
ちょっと不服そうに言いかえす祐一。
「普段ちっとも手伝わないくせに」
そう言ったマスターの視線が冷たい。
引きつったような苦笑を浮かべるしかない祐一を見て、栞もくすくす笑っていた。
「まぁ、いてくれて助かったって言うのが実際の所だがな。後でちょっと付き合ってくれないか?」
国崎が疲れたような表情でそう言うと、祐一はマスターの方を見た。
マスターはあきれかえったような顔で祐一を見ると、行けとばかりに手を振った。
「・・済まないな、マスター。何時もこいつを連れだしちまって」
国崎がそう言ってマスターを見るがマスターはまた新聞を広げており、何も答えなかった。
苦笑を浮かべ、顔を見合わせる祐一と国崎。
「あ、あの・・・」
恐る恐る声をかけてきたのは栞。
「マスターには後でちゃんと言っておきますから、祐一さん・・・」
「ああ、悪いな、栞。昼過ぎには佳乃ちゃんも来るだろうし、それまで悪いが頼んだ」
そう言ってエプロンを外す祐一。
コーヒーを一気に飲み干した国崎は立ち上がると祐一と共に店から出ていった。
店の外に止めてあった国崎の覆面車に乗り込むと国崎がおもむろに口を開いた。
「昨日の未確認だが一晩中探したが未だに行方がつかめていない。それとあいつ、カノンと戦っていた奴だがあれは前にも何度か姿を見せているらしい」
ハンドルの前に置いてあったクリップボードを手に取り、そこに挟んでいる資料を見ながら国崎が言う。
「未確認やら未確認亜種やらと戦っているところを目撃されているんでな。だが、何でカノンを?」
「それは俺が知りたいよ。あいつとは初めて会ったはずなんだ。なのに奴は俺を酷く恨んでいるようだし、俺を殺さなきゃ修まらない様子だった」
祐一は腕を組み、やや表情を強張らせながら言う。
「多分誤解とは思うんだが、それじゃ修まらないだろう。今度会ったら、確実にまた戦う事になるだろうな」
「・・・勝てるか、あいつに?」
真剣な目をして国崎が尋ねてくる。
勝てない=死。
彼にもそれがわかるのだろう。
「さぁな・・・」
少し考えた後、祐一はぽつりとそう言った。
「多分単純な戦闘能力はあっちの方が上だ。負けないようにする事は出来るかも知れないが勝つとなると難しい」
それに・・・と祐一は心の中だけで続ける。
まだわからないが奴はきっと瑞佳さんの関係者だ。殺すわけにはいかない。だが、勝つには奴を殺すしか無さそうだ。手を抜いて勝てるような相手じゃない事は充分にわかっている。
「難しい、か・・・」
そう言って俯く国崎。
彼なりにどうすればいいか考えているのだろう。
黙り込む二人。
少しの間沈黙が車内を押し包む。
その時、車内に搭載されている無線が鳴った。祐一との連絡用ではない、警察無線である。
『未確認生命体対策本部所属の各車に通達。未確認生命体第26号が千葉県幕張に出現!各車すぐに現場に向かってください!』
それを聞いた国崎が顔を上げた。
「遂に来たな」
「ああ」
短く祐一が答える。
「第26号が現れたとなると俺が、カノンが現れる。奴もきっと来るな」
続けた祐一の言葉に国崎は黙り込む。
「・・・・PSK−03とやらに頼るのも何だが、被害を防ぐ程度の事ならやってくれるだろう。奴が現れる前に第26号を倒したいが奴もかなり強いからきっと無理だろうし」
「俺たちも何とかやってみる」
国崎の言葉に頷く祐一。
ドアを開け、覆面車の外に出ると空を見上げた。
空は一面の黒雲。時折、雷の鳴る音も聞こえてきている。
「・・・一雨来そうだな・・・」
そう呟いてロードツイスターに駆け寄る祐一の後ろでは国崎の覆面車が既に発進していた。単純な速度ではロードツイスターが覆面車を遙かに上回るからだ。勿論スピード違反な訳だが、あまりにも速すぎて捕まる事がない。
祐一はヘルメットをかぶると、ロードツイスターのエンジンをかけ、すぐに発進させた。
 
<千葉県美浜区 12:54PM>
警官隊が及び腰になりながらも未確認生命体第26号ゾヂダ・ボバルに拳銃を向けている。だが、いくら発砲しようとその強靱な筋肉には通用しなかった。
「ルヅナリ・ギャシュダジャ」
そう言って一人の警官の胸ぐらを掴み上げる。
「う、うわああ・・」
恐怖のあまり声が出なくなる警官。
その警官を思いきり投げ飛ばし地面に叩きつけるゾヂダ・ボバル。
バシャッとまるでスイカが割れたかのように飛び散る血。
無惨な姿となった同僚を見て他の警官達が更に怯む。
そこにサイレンを鳴らしながらKディフェンサーに乗ったPSK−03が突っ込んできた。
PSK−03はゾヂダ・ボバルと警官隊の間に割って入ると素早く装備ポッドからブレイバーバルカンを取り出し、その銃口をゾヂダ・ボバルに向ける。
「よぉ、また会ったな。リターンマッチと行こうか?」
そう言ってPSK−03はKディフェンサーから降り、引き金を引いた。
秒間50発の特殊弾丸がゾヂダ・ボバルを襲う。その直撃を受けたゾヂダ・ボバルが流石によろめいた。鋼鉄の筋肉と言えどこれだけの衝撃には耐えられないらしい。
「グオオオオ・・・」
だがよろめくだけであり、何とか必死に踏みとどまろうとしているゾヂダ・ボバルを見た潤は素早く無線を使って近くにいるKトレーラーを呼び出した。
「七瀬さん、ブレイバーバルカンだけじゃ駄目みたいです!モードA試しましょう!!」
『北川君、本気で言っているの? そいつに接近戦を挑むのは危険すぎるわ!!』
「ですがブレイバーバルカンじゃ倒す事は出来ません!」
『・・・わかった。何とかこっちに戻ってきて』
「がんばりますっ!」
潤はそう答えるとゾヂダ・ボバルを睨み付けた。
相変わらず発射され続けている特殊弾丸の直撃を受けつつも倒れないゾヂダ・ボバル。このままでは戻る事は出来ないだろう。この場にカノンがいればまた話は別だが。せめて未確認対策班の刑事達がいれば。
「くっ・・・どうすれば・・・」
 
<千葉県市川市 12:56PM>
祐一は未確認生命体第26号が出現した幕張へとロードツイスターを飛ばしていた。
湾岸道路を疾走していると、その後方に見覚えのある黒いオンロードマシン。
「来たな・・・やっぱり・・・あいつか!」
祐一はバックミラーに映る黒いヘルメットの男を見て確信した。
自分を殺そうと襲いかかってきたあの謎の戦士、あれが何時かロードツイスターと勝負した折原浩平であると言う事に。
「戦う事は避けたかったが・・・そうもいかないか!変身っ!!」
祐一がそう叫ぶのと同時にその姿が白いカノンへと変化する。更にロードツイスターもその影響を受けて、カノン専用マシンへと変化した。
「・・・!!あれはカノン!!丁度良い!ここで殺してやる!!変身っ!!」
前方を走るバイクの男がいきなりカノンに変身するのを見た浩平は自分も素早くアインへと変身した。ブラックファントムもその姿を専用マシンへと変え、一気にロードツイスターに追いついていく。
「死んで貰うぞ、カノン!!」
「そう簡単にやられるわけにはっ!!」
猛スピードで走る2台のスーパーマシン。
共に湾岸道路を東に向かって疾走。原木大橋を超えた辺りで湾岸道路を降り、そのまま潮見町の方へと向かう。互いに人の出来る限りいない場所へと向かっているかのようだ。
あるところで互いにマシンを停車させ、さっと地面に降り立ち、向かい合う。
「3度目の正直、ここでケリをつけてやる・・・」
アインがそう言って身構えた。
「何度も言うようだが俺はお前なんか知らないんだ。誤解だと・・・」
「問答無用!!」
カノンが言い終わるのを待たずアインが走り出す。
と、その前を一台のバイクがいきなり通り過ぎた。
思わず足を止め、走り抜けたバイクの方を見るアインとカノン。
バイクは後輪を滑らせながら横向きに停車し、乗っていた男が静かに地面に降り立つ。
その男はかぶっていたヘルメットを投げ捨てるとカノンとアインを睨み付けた。
「お前らを殺せば・・・俺は生き延びる事が出来る・・・」
そう言ってさっと両手を腰の前で交差させた。
「俺は生きる!絶対に生きてみせる!!」
山田正輝はそう言うと右手を上に挙げ、続いて下に残していた左手と胸の前で素早く交差させると一気に左右に振り払った。
「変身っ!!」
次の瞬間、正輝の身体がフォールスカノンへと変身完了する。
「お前は!?」
「あの時の!?」
カノンとアインの口から同じような言葉が漏れる。
互いに以前このフォールスカノンには痛い目に遭わされているのだ。
フォールスカノンはそれに構わず身構えるとアインにまず向かっていった。
「お前らを殺す!!」
そう叫びながらアインにキックを浴びせかけるフォールスカノン。着地すると同時に連続バック転してカノンに近寄り、裏拳を叩き込む。
いきなりの事に二人とも反応すら出来ずに吹っ飛ばされた。
倒れたカノン、アインを見ながら身構えるフォールスカノン。
「へっ、やってくれるじゃねぇか。邪魔をするならテメェもたたっ殺してやるからそう思え!!」
そう言いながら立ち上がるアイン。
「激変身ッ!!」
その声と共にアインの姿が変わる。荒々しいものからより洗練されたシャープな姿へと。アイン完全体へと。
フォールスカノンはそれを見ても少しもひるみもしない。ただじっと身構えているだけだ。
カノンもゆっくりと立ち上がった。
(あいつは・・確か水瀬の一族の関係者だったな・・・名雪の居場所をしているかも知れない・・・殺させるわけにはいかない!)
そう決意すると、一つ頷き、カノンがジャンプしてアインの前に降り立つ。
「悪いがちょっと事情があってな。こいつを殺させるわけにはいかないんだ!」
言いながらアインに殴りかかるカノン。
だがそのパンチをあっさりと受け止め、アインはカノンに逆にボディブローを叩き込んだ。
その衝撃にカノンの足が宙に浮く。
「テメェにどういう事情があるのかしらねぇが、俺にとっちゃテメェは敵なんだよ!!」
そう言ってアインはカノンを投げ飛ばした。
宙を舞うカノンに向かってフォールスカノンがジャンプし、空中でカノンを蹴り飛ばす。
「うわっ!!」
吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられるカノン。
「どう言うつもりかは知らないが・・俺にも事情があるんでな。死んで貰う」
着地したフォールスカノンがそう言い、腰を低く落とした。必殺のキックの体勢に入ろうとしているその無防備な背中にアインが蹴りを叩き込む。
「悪いな、奴を殺すのは俺だ」
アインはそう言うと、倒れたフォールスカノンを容赦無く蹴り飛ばした。
吹っ飛ばされたフォールスカノンが起きあがったばかりのカノンにぶつかり、両者がもつれ合って倒れる。
それを見たアインは天を仰いで雄叫びを上げた。
「ウオオオオオオォォォォォォ!!」
その雄叫びと共に左右の踵から鉤爪が伸び、それが光を帯びていく。そしてカノンとフォールスカノンに向かってダッシュ。一定の距離を置いて大きくジャンプし、空中で身体を伸ばしたまま回転、左右の踵をカノンとフォールスカノンに向けて振り下ろす!
アインの攻撃に先に気がついたのはカノンであった。
素早く起きあがると、同じように起きあがったフォールスカノンを突き飛ばして自分も後方へと飛び退く。
そこを通過していくアインの踵。
後一瞬遅ければアインの踵の鉤爪はカノンを直撃していただろう、それほど際どいタイミングであった。
ドゴォン!!
アインの踵が振り下ろされた先の地面がその衝撃に耐えきれず、陥没する。
「・・・相変わらず凄い破壊力だな・・・」
陥没した地面を見ながらカノンが呟く。
あの一撃を食らえば一溜まりもない。恐ろしいまでの攻撃力、破壊力。
「ハァァァァァァ・・・・リャアッ!!」
不意に聞こえてきた鋭い気合い。
見るとフォールスカノンがジャンプしている。必殺のキックの体勢。それが狙うのは着地したばかりのアイン。
「死ねぇぇっ!!」
「・・・邪魔すんなって言っただろっ!!」
振り返りながらフォールスカノンの蹴り足を払い、物凄い勢いのフックをボディに叩き込むアイン。
必殺のキックをかわされたばかりかボディに物凄い一撃を食らったフォールスカノンが地面に叩きつけられ、身体を九の字に折り曲げる。起きあがれないところを見ると相当なダメージのようだ。
カノンはその倒れて動けないフォールスカノンの前に出るとまるでフォールスカノンを守るかのように身構えた。
「・・・お前、バカじゃないか? そいつはお前を殺そうとしているんだぜ。何でそんな奴を守ろうとする?」
アインがそう言うがカノンは動かない。
「こっちにはこっちの事情ってもんがある。それをお前に言われる筋合いはない」
こいつにはどうにかして名雪の事を教えて貰わなければならないからな、と心の中で付け加えるカノン。
「フッ・・・・こんな時に女の事なんかよく考えられるもんだ」
馬鹿にしたようにアインが言ったのでカノンがはっと口元に手をやった。
どうやら久々に悪い癖が出たらしい。心の中で思った事を対口に出してしまうと言う悪い癖。意識して出さないようにしているのだが、どうやらそこまでの余裕はないようだ。
「誰かの為に戦う、それが俺の信条だからな」
ややばつが悪そうに言い返すカノン。
両者が睨み合う。
 
<千葉県美浜区 13:03PM>
そこに警視庁未確認生命体対策本部の警官達が乗った車両が到着したのはPSK−03がブレイバーバルカンの最後の一発を撃ち終えた直後だった。
かなりの量の弾丸を喰らったはずのゾヂダ・ボバルだが、多少よろけているだけで倒れる様な様子はない。
「何てタフな奴だ・・・」
そう呟く潤。
流石に身体から血は流れているが、それもかすり傷程度のようだ。本格的なダメージを与える事が出来た様子はなかった。
「さぁ、今度こそってやっちゃで!!」
車から降りてきた神尾晴子がそう言って他のものにゾヂダ・ボバルを包囲するよう指示を出す。その彼女の隣では同じ対策本部の刑事・住井護がライフルを片手に立っていた。
そこに別の覆面車に乗っていた国崎がやってくる。
「筋肉弛緩剤を入れた弾丸がこれだ。取り扱いには気をつけろとのお達しだぜ」
そう言ってポケットから弾丸の入った箱を取り出し、それを住井に渡す。
頷きながら箱を受け取る住井。すぐに箱から弾丸を取り出し、手にしていたライフルに装填していく。
「住井が筋肉弛緩剤入り弾を撃ち込んだら居候、あんたは例の新兵器や。あの筋肉ダルマに今度っちゅう今度こそ痛い目見せたろやないか!」
晴子が勢い込んでそう言った時、車内の無線が呼び出し音を鳴らした。
「何や何や、この忙しい時に!」
ぶつぶつ言いながら無線のマイクをとる晴子。
「こちら警視004号・・・」
『こちらはPSKチームです。PSK−03を一度離脱させたいので援護の方を願います!』
「何やて!? 離脱させる!? 本気で言うとるんか、あんた!?」
無線に出たのはおそらくPSKチームの斉藤だったのだろう、晴子のいきなりの剣幕にやや驚きながら言い返してくる。
『こ、こっちにだって色々と考えている事があるんです!と、とにかく援護の方、お願いします!』
そう言って無線を切る斉藤。
晴子は驚きと怒りに顔を真っ赤にして国崎達を振り返る。
「どうしたんだ?」
国崎が尋ねるが晴子は何も答えないで戦闘中のPSK−03を睨み付けた。
「居候、住井、あいつがこっから離脱出来るよう援護や!ええな!!」
「離脱って・・・?」
住井がそう聞くが晴子は振り返って彼を睨み付け、黙らせる。
それを見た国崎は肩をすくめた。
「やれやれ、それじゃやりますか」
ライフルを構えてその照準をゾヂダ・ボバルに向ける。慌ててそれに倣う住井。
「あの筋肉ダルマ野郎には先にそっちの筋肉弛緩剤を撃ち込まないとこっちは何も出来ない。頼むぜ、住井ちゃん」
「わかってます、国崎さん・・・」
そう答えた住井だが、緊張のあまり手が震えている。
「何してんや!!」
晴子の怒鳴り声が聞こえ、思わず引き金を引いてしまう住井。
ライフルから発射された弾丸が未だよろけているゾヂダ・ボバルに命中する。
「効いてくれよ・・・」
祈るような気持ちで国崎が呟く。
PSK−03は弾倉を交換したブレイバーバルカンをゾヂダ・ボバルに向け、相手の様子をうかがっていた。少しふらふらしていたゾヂダ・ボバルが態勢を整えようとした時に、住井のはなった弾丸が命中、一瞬身体を硬直させる。
「グッ・・グアッ・・・マ、マヲジャ・・・?」
驚き、そして自分の体に起こった変化に対する不審。それがゾヂダ・ボバルの動きを封じる。
「効いたか!?」
住井が声を上げる。
「よし!」
同時に引き金を引く国崎。
「ギナサマガ!?」
振り返るゾヂダ・ボバル。
その身体にある傷にまるで吸い込まれるかのように国崎の放った銃弾が命中した。
その弾丸は科警研が開発した対未確認生命体用特殊弾。中には相手の血液から浸透し、その細胞を破壊する薬品が仕込まれている。通称”細胞破壊弾”。
「グアッ!?」
突如自分の体に起こった異変に身体を震わせるゾヂダ・ボバル。
「今や!さっさと離脱せぇっ!!」
晴子が怒鳴った。
それに頷き、PSK−03は走り出した。Kディフェンサーに飛び乗るとKトレーラーへと大急ぎで戻っていく。
「居候、住井、どんどん撃ちぃ!!他のもんもぼさっとせんと一斉に攻撃や!今なら充分奴にダメージ与えられる!!」
自分も拳銃を持ってゾヂダ・ボバルに向けて発砲する晴子。
包囲している警官達も一斉に射撃を開始する。
筋肉弛緩剤と細胞破壊弾とのダブルアタックでふらふらになっているゾヂダ・ボバルはその射撃の雨をかわす事すら出来ない。
その頃、近くに停めてあったKトレーラーの中ではPSK−03が活動用のバッテリーの交換と新たな装備・モードAへの換装を行っていた。
「モードAは接近戦専用の装備がほとんどよ。それはあいつの攻撃の範囲の中に飛び込むと言う事と同義。充分気をつけて」
「わかってます。これで何とか26号を倒す事が出来れば・・・」
PSK−03のマスクを外した潤がそう言って留美を見る。
真剣な目をして頷く留美。
「でもね、あなたが死んだら意味はないわ。死なない程度に頑張って」
「わかりました」
そう言って潤はマスクを装着した。
「PSK−03モードA、アクティブ!!」
留美がそう言ってキーボードのボタンを押した。
さっと立ち上がるPSK−03。
その上半身には赤い配色の追加装甲。その肩が大きく盛り上がって見える。更に右腕にはパイルバンカーによく似たものが装備されている。左腕の追加装甲には内蔵型のガトリングガン。両足の追加装甲にはPSK−03の機動性を保持する為の小型ブースターとローラー。
「いきます!!」
Kトレーラーから飛び出していくPSK−03。
追加装甲の背中側に設置されてあるブースターが火を噴き、PSK−03をあっと言う間に戦場まで運んでいく。
そこではゾヂダ・ボバルが何とか回復したらしく暴れ回っていた。筋肉弛緩剤も細胞破壊弾も、ゾヂダ・ボバルの超回復能力には一歩及ばなかったようだ。
自分にダメージを与えられたと言う事で怒り狂ったゾヂダ・ボバルが両腕を振り回し、次々と警官隊を投げ飛ばし、ぶちのめしていく。
「な、何て奴だ!!」
国崎がそう言って再びライフルを発射するが今度は鋼の筋肉に防がれてしまう。
その一撃がゾヂダ・ボバルの気を引いてしまったようだ。怒りに燃えた目で国崎を睨み付け、のしのしと彼に向かって進んでくる。
「ギナサガダ・ゴドニシェギャヅ!!」
怒りのままにそう言い、太い腕を国崎に向けて伸ばすゾヂダ・ボバル。
「させるかぁっ!!」
そう言ってそこに突っ込んでくるPSK−03。
左腕のガトリングガンを発射しながら突っ込んで来、そのまま肩から体当たりを食らわせていく。
吹っ飛ばされるゾヂダ・ボバル。
「お前・・・それを取りに行っていたのか!?」
国崎がPSK−03の新たな装備を見て言うと、PSK−03は頷いた。
「だったら初めから装備して来いよ・・・」
「まだ試作品だったんだ。それにこいつは攻撃力がかなり高く設定されている。あんた達は退避してくれ」
PSK−03の言葉に国崎はさっとその場から走り出す。
そこにゾヂダ・ボバルが飛びかかってきた。両腕でPSK−03の肩を押さえつけそのまま走り、建物の壁に押しつける。バチバチと火花が押しつけられた背中側から飛ぶ。
「くっ・・・何てパワーだっ!」
何とか押し返そうとするPSK−03だが全く敵わない。
「グウウゥゥゥ・・・」
低い声で唸るゾヂダ・ボバル。
「なら・・・これで・・・どうだっ!!」
PSK−03が右腕を自分とゾヂダ・ボバルとの間に押し込んだ。次の瞬間、バシュッという炸裂音と共にパイルバンカーによく似た装備、ガトリングステークが発動した。
一発こっきり、射出したらそのままのパイルバンカーと違い、このガトリングステークは射出用の薬莢を装填する事で最大6回まで連続使用が可能である。その理由はまずは形状がリボルバー型であると言う事、そして射出されるべき槍の部分が杭打ち機のような形に固定されていると言う事である。その為に射程はほぼ0に等しく、完全な接近戦用の武器となってしまったのだ。だがその威力は負けていないどころか増している。
射出された槍がゾヂダ・ボバルの鋼の筋肉をも突き破り体内に深く突き刺さった。
「ぐおっ!?」
思わぬ反撃に顔をしかめるゾヂダ・ボバル。
その背中に住井が撃った筋肉弛緩剤入りの弾丸が数発突き刺さった。先程は一発だけだったがそれでも効果があった。今度はそれが数発、間をおかずに命中したのだ。
更に国崎も細胞破壊弾を発射して援護する。
筋肉弛緩剤を受けて鋼の筋肉がゆるんだところに次々と命中する細胞破壊弾。
「グッ・・・グアアアアアッ!!!!」
悲鳴を上げてのけぞるゾヂダ・ボバル。だがその身体には未だガトリングステークが突き刺さっている。
「今だっ!!行けっ!!クレイモアランチャー!!」
PSK−03がそう叫ぶのと同時に盛り上がった肩の部分が開き、そこから数千発にも及ぶベアリング弾が発射された。
一発一発は細かいベアリング弾。それが数千発、散弾銃の要領で発射されたのだ。人間なら消し飛んでしまうほどの威力のあるクレイモアランチャー。これがあるからこそモードAは戦う場所を選ぶのである。
至近距離からクレイモアランチャーの直撃を受けたゾヂダ・ボバルが血をまき散らしながら吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられた。
筋肉弛緩剤が効いていたのでベアリング弾を跳ね返す事が出来なかったゾヂダ・ボバルは全身血まみれになりながらもよろよろと起きあがる。
その驚異的な生命力に国崎達は言葉を失っていた。
『き、北川君・・・26号は?』
「まだです!ですが・・・これでとどめを刺します!!」
潤はそう言うと起きあがったゾヂダ・ボバルを見やった。
「七瀬さん、モードBを!」
『わかったわ!北川君、任せたわよ!!』
留美の返事を聞き、潤はしっかりと頷いた。
『PSK−03,モードB,起動!!』
PSK−03のマスク内のモニターが真っ赤に染まる。同時に反応速度などが桁違いに上がる。
「うおおおおおおおっ!!」
雄叫びを上げながらPSK−03が背中のブースターをふかせ、右手を構えながらゾヂダ・ボバルに向かって突っ込んでいく。更に左手には電磁ナイフを逆手に持っている。
「喰らえぇぇっ!!」
さっとぶつかる直前に左手の電磁ナイフを横に一閃、噴き出す血に構わず右手のガトリングステークをその傷に突っ込む。
一回目の炸裂音。めり込むガトリングステーク。噴き出す血。
二回目の炸裂音。再びめり込むガトリングステーク。更に噴き出す血。
三回、四回と連続する炸裂音。その四回目でPSK−03はゾヂダ・ボバルを上に持ち上げた。
「とどめぇぇっ!!」
潤の叫びと共に炸裂音がひびき、ガトリングステークがゾヂダ・ボバルの身体の中にある何かをうち砕き、そのまま貫通した。
「がはっ!!」
口から大量の血を吐き出すゾヂダ・ボバル。そして次の瞬間PSK−03の頭上でゾヂダ・ボバルが爆発四散した。
と、同時に降り出す雨。
空には雷も鳴っている。
その雨に爆発の黒煙がすぐに流され、片膝をついて屈み込んでいるPSK−03の姿が見て取れた。
「・・・大丈夫か、おい?」
恐る恐る近寄った国崎が声をかけるとPSK−03が彼の方を向いた。
「・・・俺たちの勝利だ」
そう言ってPSK−03が左手の親指を立ててみせる。
それを見て国崎も同じ仕草を彼に返すのだった。
 
<千葉県船橋市 13:46PM>
降り出した雨の中、未だ対峙を続けるカノンとアイン。
どちらも動けないのだ。
攻撃能力はアインの方が上だがカノンはアインよりも戦闘経験が多い分、動きで勝っている。それに元々カノンの方がアインより動きは素早いのだ。
ピカッと周囲が稲光に照らされた。
どうやら雷雲はほぼ真上、何時落ちてきてもおかしくない状態のようだ。
カノンの後ろではフォールスカノンがまだ倒れていた。だが、降り出した雨のおかげか意識は回復している。今はじっとチャンスをうかがっているのだ。
(カノンは何でか知らないが俺を守ろうとしている・・・今俺がカノンを羽交い締めにすればアインがカノンを倒す・・いや、アインは邪魔をするなと言って俺を攻撃するな・・・)
横目でカノンを見上げながらフォールスカノンは自分がどう動くべきか考える。
(ならばカノンを利用してアインを倒すべきか・・・?)
「へっ、何時までもちんたら睨み合っていても仕方ねぇ!!こっちから行くぜ!!」
アインはそう言うと倒れていた両腕の鉤爪を起こした。
「死ねぇっ!!」
雄叫びを上げながらカノンに向かって飛びかかるアイン。
カノンはさっと足を動かしその一撃をかわすと着地したアインの背に蹴りを放った。
だが、それを身を屈めてかわし、足を伸ばす時の反動でカノンに肘を喰らわせるアイン。
「ぐっ!」
いきなりの反撃に思わずよろけるカノン。
「今だ!」
そう言って突如フォールスカノンが起きあがった。
よろけていたカノンに飛びかかり、後ろから腕を回して首を締め上げようとする。
その腕を掴んでカノンは強引にフォールスカノンを引き離し、そのまま背負い投げで地面に叩きつけた。
そこに飛びかかってくるアイン。右足でカノンを蹴り飛ばし、その足をそのまま倒れているフォールスカノンの胸の上に叩きつける。
「・・・邪魔するなって言っただろう・・・」
自分が踏みつけているフォールスカノンに向かってそう言ったアインはよろけながらも何とか体勢を立て直したカノンの方を見た。
「お前もしつこいな。そろそろ死んでくれないか?」
「何度も言った通り、俺はまだ死ぬわけにはいかないんだ」
アインに向かって油断無く身構えながらカノンが言い返す。
降りしきる雨は更に激しさを増し、稲光も更に大きくなっている。
「・・死ねっ!!」
パッと又稲妻が瞬いたその時、アインが大きくジャンプした。
同時にカノンもジャンプ。
伸身で空中回転するアイン、身体を丸めて空中回転するカノン。
互いに必殺技の体勢だ。
「ウアアアアリャァァァッ!!」
「ウオオオオリャァァァッ!!」
互いの雄叫び、そしてキックが交差する。
そして巻き起こる物凄い衝撃波。互いの必殺技に込められたエネルギーが干渉し、増幅されて周囲に飛び散った。
カノンとアインも互いに逆の方向へと吹っ飛ばされている。
地面に叩きつけられるが、すぐに起きあがったのはアインだった。まるでそれを予測していたかのように倒れているカノンに向かってダッシュする。
「ウオオオオオオッ!!」
右腕を振り上げ、猛然とカノンに迫るアイン。
ようやく起きあがったカノンは自分に向かってくるアインに気付き、すぐにジャンプしようとしたが、そこにフォールスカノンが背後から飛びついてきた。
「何を!?」
「お前だけでも!!」
ふりほどこうとするカノンだがフォールスカノンは必死にカノンに食らいつく。
「死ねぇぇぇっ!!」
そこにアインの右拳が、カノンの胸に向かって叩き込まれた!!
鉤爪がカノンの胸板を突き破り、そこに血が滲む。だが、それはかろうじて致命傷ではない。アインとしては心臓を貫くつもりだったのだろうが外してしまったようだ。
「ぐあっ・・・」
「くっ!!」
苦しそうな声を漏らすカノンを前に、鉤爪を引き抜くアイン。再び右腕を振り上げ、今度こそ心臓を貫こうとする。
「これで・・終わりだっ!!」
そう言ってアインが右腕を振り下ろそうとした時だった。
信じられない事に、空から降り注いだ一条の稲妻がカノンの身体を貫いたのだ!!
「ぐわああああぁぁぁぁっ!!!」
絶叫を上げるカノン。
そしてその落雷の衝撃に吹っ飛ばされるアインとフォールスカノン。
落下した稲妻の光が消え、そこには全身にバチバチとスパークを飛び散らせているカノンがぽつんと立っているだけとなった。
アインもフォールスカノンの姿もない。落雷の衝撃にかなり遠くまで吹き飛ばされてしまったようだ。
 
降りしきる雨、それに濡れながらアインは浩平の姿へと戻っていた。
「ハァハァハァ・・・うっ、うわああぁぁっ!!」
不意に頭に走る激痛。
頭を抱え、その場でのたうち回る浩平。
「うわあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
悲鳴を上げながら彼はその場でのたうち回り続ける。
「助け・・・・助けて・・・助けてくれぇぇぇっ!!!!」
口から漏れる叫びが雨の中に吸い込まれていく。
「助けてくれっ!!助けてくれよっ!!瑞佳ぁぁぁっ!!!」
 
海の上、波間に浮かぶ一つの姿。
フォールスカノン、いや、もう正輝の姿に戻っている。
気を失ってしまっているのか、彼は目も開けずに波の間に浮かんでいる。
「・・・済まない・・・」
彼の口がそう動いたように見えた。
そして、そのまま彼は波の間に消えていく。
 
全身の放電現象が徐々に治まり、カノンの姿が祐一の姿へと戻っていく。
彼の格好はボロボロだ。おそらく落雷の衝撃によるものであろうか、上着やズボンのあちこちが焦げている。何処を見ているのか、虚ろな眼差し。雨に濡れ、額に張り付く前髪を気にする様子もなく一歩前に踏み出そうとして、そのまま前に倒れてしまう。
「俺は・・・俺はまだ・・・」
虚ろな視線を彷徨わせ、何とか手を前に伸ばそうとする。だが、そこで力つきたのか、その手がばたりと地面に落ちた。
と、そこに現れる人影。
差していた傘を置き、雨に濡れるのも構わず倒れ、気を失っている祐一の手を取るとそっと両手で包み込む。
「祐一・・・」
人影がそう静かに呟いた。
その人影は、自分の両手で包み込んだ祐一の手をそっと頬擦りし、閉じられた目から一条の涙を流す。
「ゴメンね、祐一・・・」
彼女は、水瀬名雪は、雨に濡れながら静かにそう呟くのだった。
 
Episode.38「死闘」Closed.
To be continued next Episode. by MaskedRiderKanon
 
次回予告
アイン、フォールスカノンとの戦いで傷付いた祐一。
しかし新たな未確認生命体の魔手が罪もない人々に忍び寄る。
香里「あんたと・・・あんたと戦いさえしなければ!!」
潤「だったら俺が食い止めてみせる!」
未確認生命体の恐るべき能力に遂に倒れてしまうカノン。
PSK−03ですら手も足も出ない恐るべき敵!!
祐一「俺がやらないでどうする」
国崎「祐の字!? しっかりしろっ!!!」
そして暗躍する教団。
カノンの運命や如何に!?
聖「済まない・・・手は尽くした・・・」
次回、仮面ライダーカノン「絶望」
全てを絶望が包み込む・・・

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