<城西大学近くの路上 12:36PM>
相沢祐一の目の前で、長森瑞佳は背中から血を吹き出しながら崩れ落ちていく。
崩れ落ちる瑞佳の向こう側には彼女を傷つけた未確認生命体第2号ガダヌ・シィカパの姿。
激しい戦いの中、深く傷付き、それでも尚戦おうとする祐一。だがその身体は本来の調子を取り戻していず、瑞佳はそんな彼をかばってガダヌ・シィカパの魔手の餌食になったのだ。
「うわあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
祐一が絶叫する。
その身体がブートライズカノンへと変わり、物凄い勢いで拳をガダヌ・シィカパに叩きつける。その一撃でガダヌ・シィカパは思い切り吹っ飛ばされ、反対側の民家の塀に叩きつけられた。
「ウアアアアアッ!!」
雄叫びを上げながらガダヌ・シィカパに飛びかかったブートライズカノンは容赦なくその顔面を何度も殴りつける。
機械に覆われた頭部が変形するくらい何度も殴られ、口から血を吐くガダヌ・シィカパ。何とか逃げだそうと左右の踵をうち鳴らす。すると、足の裏にある小型ブースターに火がつき、ガダヌ・シィカパの身体が急上昇する。
急にガダヌ・シィカパの身体が上昇したのでブートライズカノンの拳は空を切り、そのまま塀に直撃、コンクリートの塀を粉砕してしまう。その状態のままブートライズカノンは上を見上げるが、もう既にガダヌ・シィカパは逃げ去ってしまったのか、何処にも姿は見えなかった。
塀から拳を引き抜き、さっと瑞佳の方を振り返る。そして素早く駆け寄った。
背中からの出血はまだ止まってない。だが、その傷口はあまりにも鋭利すぎ、そして綺麗だったのでそれ以上広がる事もなく、出血もそれほど多くはないようだ。苦しげではあるが呼吸も止まっていないし、早く病院に連れて行けば命に別状はないだろう。
そう思って彼女の身体を抱き上げようとした時だった。
「瑞佳ぁぁぁぁぁぁっ!!!」
その叫び声と共にブートライズカノンに向かって突っ込んでくる深緑色の戦士。怒りに身体を震わせ、両手の鉤爪を突き出しブートライズカノンに襲いかかる戦士。その名はアイン。
「ウオオオオオッ!!」
雄叫びを上げてアインが右手を振り下ろす。
両手を交差させて、その一撃を受け止めるブートライズカノンだが、アインはがら空きになったボディに爪先蹴りを叩き込んできた。
ブートライズカノンの身体が宙に浮く。そこにアインの左手の掌底が叩き込まれ、ブートライズカノンは吹っ飛ばされてしまった。
「くうっ!!」
アスファルトの上を転がるブートライズカノン。
そこに飛びかかっていくアイン。鉤爪を伸ばし、それを突き刺そうと拳を振り上げる。
「死にやがれっ!!この野郎ッ!!」
地面を転がり、落ちてくる拳をかわすブートライズカノン。
アインの拳が地面を直撃、アスファルトを陥没させる。
何とか起きあがったブートライズカノン。そして陥没した地面から拳を引き上げるアイン。
互いに一定の距離を取り、じっと睨み合う。
 
仮面ライダーカノン
Episode.37「誤解」
 
<城西大学近辺の住宅街 同刻>
「うわあああっ!!」
悲鳴を上げながら宙を舞う警官。
未確認生命体第26号ゾヂダ・ボバルは物凄い力で警官達を次々と投げ飛ばしていた。
あっと言う間に崩れる警官達の包囲網。
「あかん!引きぃ!!」
この場の指揮をしている警視庁未確認生命体対策本部の刑事・神尾晴子がそう言って警官隊に一時撤退の指示を出す。このままでは第26号の怪力の前に全滅する可能性もある。
「なんちゅう馬鹿力や!!」
「相手は未確認なんだぞ!そんな事言っている場合じゃないだろう!!」
晴子にそう言い返したのは同じ未確認生命体対策本部の刑事・国崎往人。手に持っているライフルで他の警官達を逃がす為の時間稼ぎとばかりに第26号を牽制する。そのライフルには対未確認生命体用に開発された炸裂弾が装填されている。だが、未確認生命体にはほとんどダメージを与える事は出来ない。出来る事と言えば牽制する事ぐらいなのだ。
「このっ!!」
何度も引き金を引き、炸裂弾を発射するがゾヂダ・ボバルの動きは止まらない。逃げ遅れた警官達を物凄い力で投げ飛ばしている。
また一人の警官が胸ぐらを捕まれ、軽々と持ち上げられた。
そのゾヂダ・ボバルの胸で小さな爆発が何度か起こり、思わずゾヂダ・ボバルはよろめき、警官を落としてしまった。
「ジャデジャ!?」
そう言ってゾヂダ・ボバルが振り返ると、そこにはブレイバーショットを構えたPSK−03の姿があった。
「遅いぞ、この野郎!!」
国崎が怒鳴るのに頷き、PSK−03はブレイバーショットをホルスターに戻して背中のジャスティスブレードを手にした。全長180センチメートル、幅20センチメートル。まさしく規格外のグレートソード型の高周波ブレード。
「ウオオオオオッ」
ジャスティスブレードを振り上げるPSK−03。
「リャアアアアアッ」
一気に振り下ろす。
ジャスティスブレードがゾヂダ・ボバルの肩口に叩きつけられ、火花が飛ぶ。だが、鋼の筋肉に覆われたゾヂダ・ボバルはまるでダメージを受けた様子はなく、逆にPSK−03に向かって手を伸ばしてきた。その首筋を掴み、そのまま持ち上げてしまう。
「な、何っ!?」
ゾヂダ・ボバルは肩口にジャスティスブレードの一撃を受けながらも片手でPSK−03を振り回し、その勢いで投げ飛ばしてしまう。
地面に叩きつけられたPSK−03の各パーツから火花が飛び散る。
「何てパワーだっ!!」
『北川さん、各パーツに10%のダメージ!気をつけてください!』
Kトレーラーの中でPSK−03の戦闘をモニターしている斉藤がそう声をかけてくる。
『北川君、相手は予想以上に堅いわ!上手く狙いなさい!』
PSKチームリーダーの七瀬留美の声も聞こえてきた。
『相手がただのゴリラの化け物と思ったら痛い目を見るわよ!気をつけなさい!』
「わかってますっ!」
PSK−03装着員、北川潤はそう答えると素早く立ち上がり、投げ飛ばされた時に落としてしまっていたジャスティスブレードを拾い上げた。ジャスティスブレードを持ち上げると同時にゾヂダ・ボバルに向かって駆け出す。
「うおおおりゃあああ!!」
雄叫びと共に今度は横からジャスティブレードを叩きつけようとする。だが、それをゾヂダ・ボバルはあっさりと片手で受け止めてしまった。そのまま余った方の手でPSK−03にパンチを食らわせる。物凄い勢いで吹っ飛ばされるPSK−03。
「うわあああぁっ!!」
地面を転がりながら火花を散らすPSK−03。
何とか起きあがろうとするが、その前にゾヂダ・ボバルが飛びかかってきた。太い両腕でPSK−03の首を締め上げようとする。
「くそっ!!」
何とか自分の両腕を間に入れ、首を絞められるのを防ぐPSK−03だがゾヂダ・ボバルの力は圧倒的で徐々に絞まってくる。
「フッフッフ・・・ギナサノ・シィガダバ・ノモシェリジョガ」
にやりと笑いながら力を込めてくるゾヂダ・ボバル。
その圧倒的な力の前にPSK−03は為す術もない。
何とか腰のホルスターに手を伸ばし、ブレイバーショットを引き抜くと相手の脇腹に押しつけて引き金を引いた。
ドスドスドスッと3回ほど重い音がし、首を絞めるゾヂダ・ボバルの力が弱まった。PSK−03はチャンスとばかりにブレイバーショットの銃把でゾヂダ・ボバルの側頭部を殴りつけ、何とかゾヂダ・ボバルの下から脱出する。
「ハァハァハァ・・・少しはダメージを・・・」
PSK−03は少し離れてブレイバーショットをゾヂダ・ボバルに向けている。その前でゆっくりと立ち上がるゾヂダ・ボバル。先程撃たれた脇腹に手をやるとフンッと気合いを込めた。するとそこからブレイバーショットの銃弾が3つほど飛び出して来るではないか。しかもゾヂダ・ボバルは平然とその脇腹を撫でている。どうやらほとんどダメージを与えていないらしい。
「な、何て奴だ・・・」
流石に怯む潤。
ジャスティスブレード、ブレイバーショットは鋼の筋肉の前に通じず、パワーは圧倒的に相手の方が上。こちらに残る武器は勇気とパイルバンカーのみ。しかし、その勇気も挫けそうになってはいるのだが。
「ジョルニジャ? ガガッシェゴリ」
挑発的に手招きするゾヂダ・ボバル。
(・・・・一か八か・・・やるしかないか!!)
潤は何かを決意したかのように頷いて見せた。
「パイルバンカー射出準備」
呟くようにそう言い、右手でブレイバーショットを構える。通用しない事はわかっている。こちらの思惑を知られたくなかったからそうしたまでだ。
その間に左肩に装備されたシールドが展開し、中から鋭い槍が姿を見せた。先のガイドが伸び、グリップを左手で握るとブレイバーショットの引き金を引きながら走り始めた。
ゾヂダ・ボバルはブレイバーショットの弾丸を正面から受けながらも平然と立っている。自らの鋼鉄の筋肉に自信があるかのように。その様な弾丸では自分を傷つける事などで気はしないと高をくくっているかのように。
「スジャマ・ゴション・・・」
憐れむようにそう言い、迫ってくるPSK−03に向かって両手を広げるゾヂダ・ボバル。
潤はそれを見て、マスクの中でにやりと笑った。
(筋肉と筋肉の隙間・・・人体の弱点・・・そこを狙えば奴だって!!)
PSK−03に搭載されているAIは何処を狙えばいいかの計算を既に終えている。後は寸分違わずそこを狙うのみ!
彼が狙っているのは人体における水月という急所。丁度心臓の真ん前。いくら強靱な未確認生命体といえども心臓を貫かれれば生きているはずがない。
「シャモニ・ガッシャザ・ソル・ロヴァヂジャ」
PSK−03をその腕の中に捕らえ、一気に締め上げようとするゾヂダ・ボバル。だがその腕をかいくぐり、PSK−03は左腕を、パイルバンカーをゾヂダ・ボバルの胸元に押し当てた。
はっとなるゾヂダ・ボバル。
「喰らえっ!!」
そう言いながら射出ボタンを押す潤。
バシュッという音と共に射出されるパイルバンカー。
ブシュッと噴き出す血がPSK−03のマスクを濡らす。
「やったか・・・?」
『北川君!まだよ!!すぐに後退して!!』
留美の悲痛そうな声が聞こえたのと同時にPSK−03は物凄い力で吹っ飛ばされていた。どうやら横殴りに殴られたらしいと言うのが倒れてからわかってしまう。
頭部を殴られたと言う事で各種センサーが異常を起こしたのかモニターの映像にノイズが混じり始めた。それに危険を知らせるアラームが鳴り響く。
「くっ・・・やられた・・・?」
地面に手をつき、起きあがろうとするが力が入らない。何処を切ったのか血が潤の頬を伝い、口の中に入ってきた。
一方のゾヂダ・ボバルは脇腹に深々と突き刺さったパイルバンカーを必死に引き抜こうとしている最中であった。とっさに横に動いたのだが、間に合わず、脇腹をパイルバンカーに貫通されてしまい、PSK−03を殴り飛ばすのが精一杯だったのだ。
深々と突き刺さったパイルバンカーはゾヂダ・ボバルの肉をえぐり、血を噴き出させ、なかなか抜けようとはしない。それでも物凄い怪力で徐々にパイルバンカーを抜き始める。
「グググ・・」
激痛に顔を歪めながらパイルバンカーを引き抜くゾヂダ・ボバル。
からんと音を立てて地面に落ちるパイルバンカー。
ゾヂダ・ボバルは傷口を手で押さえながらPSK−03を見下ろした。
「ビサンミ・ニシェバ・マガマガ・ギャヅ・ジャザ・ゴゴサジェジャ」
そう言って片方の手を振り上げる。これを振り下ろすだけでPSK−03の頭部を粉砕する事は十分可能だ。
「そうはさせるかっ!!」
国崎がそう叫んでライフルの引き金を引く。
狙う場所は一点。先程パイルバンカーにえぐられた傷の裏側。表側は手で押さえられているが裏側、背中側はまだ血があふれ出している。そこに炸裂弾が直撃すれば少しはダメージを与える事が出来るだろう。
数発撃ったが傷口には命中しない。だが、ゾヂダ・ボバルの注意を引く事は出来たようだ。
「おらおら、こっちだ、こっち!」
挑発するようにそう言う国崎だが、ゾヂダ・ボバルはすぐに興味を失ったかのようにPSK−03の方に向き直った。
と、その時である。
突如空中から黒い影が舞い降りて来、ゾヂダ・ボバルにつかみかかっていったのだ。
「だ、第2号!!」
その黒い影を見た国崎が驚きの声を上げる。
つい先程までブートライズカノンと戦っていた未確認生命体第2号ガダヌ・シィカパが、今度はゾヂダ・ボバルに襲いかかったのだ。
「オレハ・・・ムテキダ・・・シネッ!シネッ!!」
何処か機械的な声でそう叫びながらガダヌ・シィカパは左手の金属の鉤爪でゾヂダ・ボバルに斬りつけていく。
ゾヂダ・ボバルはいきなり現れたガダヌ・シィカパの攻撃に防戦一方になってしまっていた。しかもガダヌ・シィカパの鉤爪は易々とゾヂダ・ボバルの鋼の筋肉を切り裂き、次々と新しい傷を増やしていく。
「ロモデ!カパモ・ツヲオリジェ!!」
吹き出す自分の血に激昂したゾヂダ・ボバルは脇腹の傷口を押さえていた手を離し、両手でガダヌ・シィカパにつかみかかった。
だが、その手をかいくぐりガダヌ・シィカパはゾヂダ・ボバルの腹に蹴りを食らわせる。
未確認生命体同士の戦いを呆然と見ていた国崎だが、はっと我に返ると慌ててPSK−03に駆け寄った。
「お、おい!大丈夫か!?」
「な、何とか・・・生きてはいるよ・・・」
PSK−03から弱々しい声が帰ってくる。
「だが・・ダメージが大きいな・・これ以上の戦闘は無理だ」
「くっ・・・何も出来ないのかよ、俺たちじゃ!!」
悔しそうに国崎が言い、PSK−03に肩を貸して立ち上がらせた。
「七瀬さん、すいません。一旦そっちに・・・」
『わかってるわ。すぐに修理が出来るよう手配済みだから早く戻ってきなさい』
PSK−03がKトレーラーに戻っていくのを見てから国崎は未確認生命体第2号と第26号の方に目を向けた。彼以外の警官達は既にある程度の距離を置いて両者の戦闘を眺めているだけであった。彼が一番第2号と第26号に近い場所にいるのだ。
「オレハダレニモマケナイ!キサマラハオレガコロシテヤル!シネッ!!シネッ!!」
「カパザ・ロロギマ・グシィン・シャシャグマ!」
ガダヌ・シィカパの鉤爪がゾヂダ・ボバルの身体を次々と切り裂いていく。だが、その全てが浅く、致命傷には成り得ない。その上、ゾヂダ・ボバルの驚異的な回復能力はガダヌ・シィカパの付けた傷をたちどころに治していく。
一方ゾヂダ・ボバルの攻撃は大振りなのと力任せである為にかガダヌ・シィカパにはかすりもしなかった。一つ当たればそれで致命傷にもなるであろう一撃を幾度と無く放つのだが、動きの素早いガダヌ・シィカパには当たらない。
「居候!!下がりぃっ!!」
離れたところから晴子の声が聞こえてきたので国崎はそちらの方を振り返った。彼女の手には催涙ガス弾発射用の銃が握られている。
慌てて晴子達のいる辺りまで走る国崎。
国崎が走り出すのを見て晴子は催涙ガス弾を発射した。
未確認生命体に催涙ガスが通用するのかどうかはわからない。しかし、奴らは人間に近い存在であるならば通用するかもしれない。そう言う期待を込めて二度、三度と引き金を引く。
第2号と第26号の足下に転がる催涙ガス弾。そこから催涙ガスが噴射され、あっと言う間に二体の未確認生命体の姿は見えなくなってしまう。
「どうだ・・・?」
誰もが固唾をのんで催涙ガスの煙の中に目を凝らす。
バッと何かが空に飛び上がった。第2号ガダヌ・シィカパである。催涙ガスに耐えきれなかったのか、あっと言う間に空の彼方へと消えていく。
残るはより厄介な26号。
だが、催涙ガスの消えたその後に第26号の姿はなかった。点々と血の跡が近くのマンホールにまで続いている。どうやらそこから逃げたらしい。
「逃げたか・・・」
安堵の息を吐く国崎。
「すぐに付近一帯に非常線をはるんや!それとこのマンホール、何処につながってんねん!?」
晴子が何処か不機嫌そうに指示を飛ばす。
まだまだ彼らの仕事は終わらない。
 
<城西大学近くの路上 12:53PM>
アインの右の拳がブートライズカノンの左腕を直撃、そのまま民家の塀にまでブートライズカノンを吹っ飛ばす。
「ウオオオオオオオオッ!!」
天を仰いで絶叫するアイン。
さっとブートライズカノンを睨み付けると、一気に走り出す。そしてある一点で大きくジャンプし、右足を振り上げる。アイン必殺の踵落とし。
「ウウウウアアアアアッ!!」
ブートライズカノンは塀から離れると素早く右足を振り上げ、アインの右足を自分の右足で受け止めた。だが、アインは残る左足でブートライズカノンを蹴り飛ばし、更に空中で一回転してから着地する。再び壁に叩きつけられるブートライズカノン。
「グウウウウ・・・」
唸り声を放ちながらブートライズカノンは塀から離れ、身体を低くして身構えた。
アインも両腕を構え直し、再び対峙する。
「う、ううっ・・・」
不意に、その時、弱々しい声が聞こえてきた。
はっとなり、ブートライズカノンが倒れている瑞佳を見やる。
意識を取り戻したのか、彼女の身体が少し動いた。
アインもそれには気付いたようで、素早く彼女の方に駆け寄り、彼女を抱き起こした。
「・・・運が良かったな。だが、次に会ったら必ず貴様は俺が殺す!!」
そう言うと、アインは瑞佳を抱き上げ、そのまま走り去っていった。
後に残されたブートライズカノン、その姿が祐一のものへと戻り、そして彼はその場に崩れ落ちた。
「な、何なんだよ・・・」
そう呟き、そのまま意識を失ってしまう祐一。
 
<関東医大病院 13:19PM>
ある病室のベッドに水瀬秋子の姿があった。
目を閉じ、まるで死んでいるかのように眠っている。
「秋子さんなら秋子さんだってちゃんと言ってくれれば・・・」
「まぁ、特に隠すつもりもなかったんだがな・・」
秋子の眠るベッドの側でそんな会話をしているのはこの関東医大病院の女医・霧島聖と、彼女を手伝って共に秋子をここまで運んできた美坂栞である。
「でも・・・」
栞は眠っている秋子の顔を見て呟くように言った。
「一体何があったんだろう・・・?」
彼女も、そして聖も知らない。
秋子が自分の娘を殺そうとして返り討ちにあい、尚かつ精神を破壊されかけた事など。むしろ知る必要など無い事なのだろう。
「さて、相沢君の様子でも見に行くか。手伝ってくれた褒美と言っては何だが、一緒に来るか?」
聖が笑みを浮かべながらそう言って栞を見た。
「いいんですか?」
「もうそろそろ回復出来ているだろう。多分大丈夫なはずだ」
聖が秋子の病室のドアを開けて廊下に出る。
慌てて追いかける栞。
そこに一人の看護婦が慌てた様子でやって来た。
「霧島先生!急患です!!」
それを聞いた聖の顔がいつもの何処か余裕のある笑みからきりっと引き締まる。
「わかった。美坂君、済まないが相沢君の所へは一人で行ってくれないか? 許可は私が出そう」
聖は栞にそう言い残すとその看護婦と共に廊下を駆け足で去っていった。
その場に残された栞はしばし呆然としていたが、やがて一人、祐一の病室に向かって歩き出した。だがそこに彼がいないとは勿論彼女は知るよしもない。
聖はすぐに手術着に着替えると急患が運び込まれた手術室に向かった。
手術室の前では一人の青年が不安そうな面もちで立っている。その彼が聖に気がつくと、すぐに駆け寄ってきた。
「頼む、あいつを助けてやってくれ」
「出来る限りの事はするつもりだ」
短く答える聖。
「あいつは何も悪くない。絶対に死んじゃ駄目なんだ。頼む、あいつを・・・瑞佳を助けてやってくれ!」
そう言って青年・折原浩平が頭を下げる。
それを見た聖は浩平の肩に手を置き、笑みを浮かべた。
「私は神じゃない。だから絶対と言う事は言えないが、それでも全力を尽くす。だから君も信じていてくれ」
聖はそう言うと手術室の中に入っていった。
顔を上げた浩平の前で手術室のドアが閉じられ、手術中のランプがついた。
「・・・瑞佳・・・絶対に死ぬなよ・・・あいつは・・・俺の手で殺してやる!!」
浩平はそう呟くと拳をぎゅっと握りしめた。
 
<城西大学近くの路上 13:21PM>
倒れている祐一の顔に爪先を当てている女性がいた。
その女性は祐一が完全に気を失っていると見るとその場にかがみ込み、その頭髪を容赦なく掴み、顔を持ち上げた。そしてすうっと息を吸うと大きい声を彼の耳に向かって出す。
「起きろ!!馬鹿息子っ!!!」
その声は完全に失われていたはずの祐一の意識を揺さぶり起こしたようだ。
はっと目を開く祐一。
「な、何だ?!」
驚いたようにキョロキョロと左右を見る祐一。
「・・・何こんな道端で堂々と寝転がっているのかな、君は?」
半眼になって祐一を見つめがら言う女性。
その時になって祐一はその女性の存在に気がついたようだ。女性の方を見て、更に驚きに目を丸くする。
「お、お袋!? どうしてここに!?」
「そんな事はどうでもいいから。早くおきなさい。あんた今年でいくつになるの?」
呆れたように女性・相沢冬美は言う。秋子の姉にして祐一の母親。
祐一は慌てて起きあがると冬美の方に向き直った。
「で、何でここにお袋が?」
「偶然通りかかったら見た事あるのが倒れていたからね。一応確認してみたらやっぱり見た事ある奴だったから、人様に迷惑がかかる前に起こしておこうと思ったわけ」
「偶然ね・・・」
祐一はそう言ってふと、周囲の地面に目をやった。
まだ乾ききっていない血の跡。
視線を上げるとあちこち陥没した塀が視界に入ってくる。
あれも偶然の産物だったのだろうか。
偶然自分がこの付近で倒れ、偶然それを瑞佳が見つけ、偶然未確認の第2号がそこに現れ、偶然瑞佳が自分をかばって第2号の凶刃に倒れ、偶然それを見た深緑色の奴が自分に襲いかかってきた。そんなに偶然が重なるわけはない、と思いながらも何処かで偶然が重なり、ああ言う悲劇が起きたのではないかとも考える。
「まぁ、せいぜい頑張ったところでこの辺りが限界なんでしょうね」
冬美がそう呟いた。
はっとなって母親の顔を見る祐一。
「みんな守ってみせるって息巻いたって実際には一人の女性も守れない・・・ああ、そうだな。これが俺の限界かも知れない」
自嘲するように呟く。
「俺の所為で・・・また・・・」
名雪、舞、真琴、栞、みんな俺の所為で傷付いた、変わってしまった。
香里や北川も俺の所為で人生を狂わされた。
そして今また瑞佳さんも俺の所為で死に瀕している。
全て、俺の所為で・・・俺が不甲斐ないばかりに。
「どだい一人で何もかもやろうって言うのが無理だって言うのよ」
そんな息子の思いに気がついているのかどうか、冬美は静かにそう言った。
「人間一人一人の力には限界があるからね。どれだけ凄い力持っていたってそれは同じ。ましてあんたみたいに何でも自分で背負い込もうとするなら尚更」
冬美はそう言って祐一を見、笑みを浮かべた。
「一人で出来ないんなら誰かと協力すればいい。それだけの事だよ」
「だけど!!」
俺以外に誰があの未確認生命体と戦えるというのだ。現代科学の粋を尽くしたPSKシリーズでも歯が立たない。勿論警察の装備では勝ち目すらない。そんな連中に。
「あんたに何が起きていて何をしなくちゃならないなんか聞く気はないよ。でもね、あんたは昔私と約束したんだ。それをしっかり守りなさい」
そう言った冬美の目に真剣な色が宿る。
「お袋・・・」
昔、母と交わした約束。
守りたいものを守れる強さを持つ事、誰かの為に何かが出来るようになる事。そして、その力が今、自分にはある。
「弱音なんか聞く気はないよ。約束は守れ。そう教えたはずだからね」
厳しく言い放つ冬美。
少し怯む祐一。母の鋭い眼光に射すくめられたのかも知れない。昔から母親には頭が上がらなかった。だから、そこで祐一はしっかりと頷いた。そうするしか出来なかった。
「わかったよ。何とか頑張ってみる」
祐一のその言葉を聞いた冬美は眉を寄せるが、とりあえず頷いた。
「何とかってのが気に入らないけど、まぁいいわ」
「・・・そう言えば、お袋、秋子さん、大丈夫なんだろうな?」
思い出したように尋ねる祐一に冬美はにやっと笑ってみせた。
「誰にものを言っているんだい、この馬鹿息子」
そう言うと祐一の頭を掴んで髪の毛をくしゃくしゃを引っかき回す。
「あの子ならもう大丈夫。まぁ、ちょっと精神状態が酷かったから落ち着かせるのに手間がかかったけどね。今頃関東医大病院に運ばれているはずだよ」
冬美はあっさりとそう言ったが、実際はもっと大変だった。
同じ水瀬一族の皆瀬真奈美にかけられた精神攻撃は秋子の精神を後一歩まで追いつめていたし、そこに老婆の精神攻撃も加えられていたのでもうほとんど秋子は死人同然だったのだ。それを1晩掛けて何とか元の状態にまで戻し、尚かつ精神攻撃をされた時の記憶まで消去していたのだから。
冬美が真奈美と同じ系統の力をより強力な力として持っていなければ無理な芸当である。
「ありがとう、お袋」
祐一がそう言うと、意外そうな顔をして冬美は息子の顔を見た。
「何であんたが礼を言うのさ?」
「・・・秋子さんを止められなかったのは俺の所為だからな。助けてくれたし、それに秋子さんに名雪を殺させずに済んだし」
苦笑して祐一が言う。
「まぁ、確かに危なかったけどね。もう少し遅かったら名雪ちゃんが秋子を殺していただろうし、我ながらいいタイミングだったわ。さて、私があんたの手伝いをするのはここまで。名雪ちゃんを取り戻すのはあんたの仕事だよ、祐一」
冬美はやや表情を緩めてそう言った。
今度は祐一が驚いたような顔をする。
「これ以上あの大婆様とかと関わりになりたくないのよ。あの人、マジで化け物だし。それに周りにいた子達、あの子達は決して悪くないからね。私と秋子とが手を組んだらシャレにならないし」
そう言って冬美は祐一の肩を叩いた。
「まぁ、がんばんな。祐一、あんたの出来る事を精一杯。無理なら誰かに手を借りたらいい。全部一人でやれとまで言わないさ」
にやりと笑って冬美は歩き出した。
その後ろ姿を見ながら祐一は苦笑を浮かべる。
「何だよ、もう帰るのかよ?」
「愛しのマイダーリンが寂しがっていちゃいけないからね」
振り返りもせずに冬美が答える。
「・・・親父によろしく言っておいてくれよ。俺は元気でやってるって」
「心配なんかしてないって。あんたはこの私とマイダーリンの子供なんだから!じゃぁね、馬鹿息子!」
大きく手を振りながら歩いていく冬美。
祐一も同じように手を振り、母親を見送った。
母の姿が見えなくなってから、身体の痛みが消えている事に気付いた祐一は拳をぎゅっと握ってみせた。どうやら身体は回復したらしい。これならブートライズカノンに変身してしまう事はないだろう。白いカノンならば、あの深緑色の戦士に後れを取る事もない。
「だけど・・・今は・・・」
そう呟き、すっと目を閉じる。
先程から感じている気配。それはじっと彼の姿を見続けているようだ。だが、何かしようと言う気はないらしい。
「・・・俺にも名雪達と同じような力が目覚め始めたって訳だ・・・」
今ならわかる。
先程からじっと自分を見つめているのが誰であるかと言う事が。
水瀬の大婆様。
そう、確かに近くのビルの屋上から老婆が祐一と冬美を見ていたのだ。
「・・・完全にあやつが目覚める前に・・・何をしているのじゃ、折原浩平は・・・」
老婆はそう呟き、舌打ちした。
「それに・・・あやつらも・・・そろそろ始末するべきじゃの」
にやりと笑う老婆。
その笑みは何か壮絶なものであった。
 
<倉田重工第7研究所 14:56PM>
PSK−03は幸いな事にそれほど大きなダメージはなく、少しの配線が断線し、各装甲板を取り替えればいいと言う程度だったので自動修理装置に収納、最終チェックだけを斉藤にやるように命じておいて留美は別の研究室に来ていた。そこにはこの第7研究所の所長であり、PSK計画の責任者、倉田佐祐理、PSKシリーズ装備開発担当深山雪見の姿もあった。
「どう、自動修理装置?」
雪見が笑顔で話しかけると留美は小さく頷いて、笑みを返す。
「手間が省けていいとは思いますがどっちにしろ自分の目で最終的なチェックをしないと気が済みません」
「まぁ、そうでしょうね。自動修理装置じゃやれる事に限界があるし。あ、そうそう。ブレイバーバルカンの修理、終わったわ。次の出動時には使用可能だから」
「ありがとうございます。ですが今度の未確認に通用するかどうかは怪しいですね。何せジャスティスブレードでもダメージを与えられないほどの相手でしたから」
「あれで!?」
驚いたような顔をする雪見だが、すぐに何処か納得したような表情を浮かべた。
「まぁ、あれは大きくなった分高周波ブレード自体の威力は下がっているかも知れないし、充分そう言う事もあり得るわね。もっと改良の余地あり、か」
誰に言うとも為しにそう言うと雪見は一人頷いた。
そこに3人分のコーヒーカップを乗せたお盆を持った佐祐理が割って入る。
「とりあえず、始めましょうか。まずはこれでも飲んで落ち着いてから」
笑顔でそう言ってお盆をテーブルの上に置く。
「とりあえず、PSK−03の強化案ですが今のところ3つほど考えています」
椅子に座るなり留美が口を開く。
「今のところPSK−03のAIに対応出来ているのはその内の二つ、モードFとモードA、後一つであるHWSシステムについては新たにプログラムを書き加えなければなりません」
「モードF用の装備の開発は終了しています。後はテストだけ。モードAに関してですがこれはもう少し時間がかかりますね。HWSなんてまだまだですし。開発部総動員しているんですけど」
留美に続けて雪見が手に持った報告書を見ながら言う。
「問題はどっちも稼働時間がそう長くないと言う点でしょうか。モードFはプロペラントの増加で何とか対応出来ますがその分本来の目的である機動性が殺されます」
「わかりました。PSK−03強化計画はそのまま続けてください。七瀬さん、PSKシリーズ量産計画の方ですが?」
佐祐理が満足げに頷いた後、留美の方を見て聞いた。
「PSK−01で得たデータを元にPSK−03などに採用されたオートフィット機能を装備、装甲などの強度を若干下げてコストダウンをはかったPSKライトの開発を始めています。残念ですが装備の方もやや貧弱になりそうです」
別の報告書を手元に持ってきて、留美は答える。
「PSKライトのコンセプトは誰にでも扱えるPSKシリーズです。PSK−03みたいに装着員を選ぶような特殊なものでなくても構いませんよ」
そう言って佐祐理が微笑む。
「誰にでも扱えるPSKシリーズ、ねぇ」
呟くように言う雪見。
「誰にでも扱える、PSKシリーズ・・・」
何故か強調するように言う留美。
雪見は自分の親友でもある川名みさきが、留美は同じPSKチームの斉藤がそれを装着して戦っているところを想像していた。
ぷっと吹き出す雪見とはぁとため息をつく留美。
そんな二人の様子を見て、佐祐理はくすっと笑みを漏らすのであった。
 
<関東医大病院 15:43PM>
浩平は不安そうに手術室の前を行ったり来たりしていた。
あの時、倒れていた瑞佳を見つける事が出来たのはまさに天の助けとでも言うべきか。まるで引き寄せられるようにあの場所に行き、そして倒れている瑞佳と何時か自分を襲ったあの戦士がいた。そう、自分の母や妹を奪った憎い存在であるカノンが。
今、また自分の目の前で母や妹と同じように大切な幼なじみである瑞佳をカノンの手によって奪われてしまう。そう思うと身体中の血が怒りに沸き上がり、その怒りのままに変身し、カノンに襲いかかってしまった。しかも怒りに我を忘れていた為、自分の本当の力も発揮せずに。本当の力を発揮出来ていればカノンなどあの場で、瑞佳の意識が戻る前に殺せたはずなのに。
「今度こそ・・・確実に・・・」
そう呟き、歯をぎしっと音が出るくらい噛み締める浩平。その目が何処か狂気の色を宿す。
と、その時、手術中のランプが消えた。
はっと手術室のドアを見る浩平。
ドアが開き、中から疲れたような顔をして聖が出てくると浩平はすぐに駆け寄った。
「先生、瑞佳は!?」
必死な顔の浩平を見て、聖は疲れた顔に薄く微笑を浮かべてみせた。
「元々の傷が綺麗だったんでな。縫合するのは楽だったよ。出血量が多かったのでそれが少し不安だが、もう大丈夫だ」
聖の言葉を聞いて安堵のため息を漏らす浩平。
それからすっと表情を引き締め、聖に向かって一礼する。
「すいません。俺はもう来れないかも知れませんが瑞佳の事、お願いします。じゃ」
そう言うが早いか、浩平は走り出していた。
聖が呼び止める間もない。
病院の外に飛び出した浩平は駐車場に止めてあった黒いオンロードバイク・ブラックファントムに跨ると、一気に走り出した。
「奴は・・・何処だ?」
 
<都内某所・下水道の中 16:51PM>
測道に腰を下ろし、荒い息をついている大柄な男が一人。
その脇腹には酷い傷があり、そこを手で押さえている。傷自体はもう塞がっているようだが、失われた血液はすぐに回復するわけではない。とにかく血を流しすぎた。その為に予想以上に体力の回復に時間がかかっている。
「ガダヌザ・ダサニマゲデタ・・・」
忌々しげにそう呟くと、ゆっくりと立ち上がる。
残された時間はまだあるが、決して多いわけではない。今は完全に回復しないまでも、ゼースを進めるべきだ。そう判断したのか、大柄な男は歩き始めた。
 
<警視庁未確認生命体対策本部 17:46PM>
逃げた未確認生命体第26号は未だ発見されてはいなかった。各地に非常線をはり、大規模な捜索を行ったにもかかわらず、だ。
「下水道の中まで探したンになぁ?」
そう言って首を傾げる晴子。
「下水道管なんか網の目のように走っているんだぜ。隠れようと思えば何処にだって隠れる事が出来るさ」
そう言ったのは下水道の中まで入って第26号を探していた国崎である。シャワーでも浴びてきたのか、いつもの黒いスーツではなく、制服に袖を通していた。まだ濡れている髪を無造作にタオルで拭きながらホワイトボードに貼られている地図を見る。
「半径1キロは隈無く探したんだ。もっと範囲を広げる必要があると思うぜ」
そう言って首を傾げている晴子を振り返った。
「範囲はもう広げてる。それにしても・・・やっぱり催涙ガスもきかんかったんやろうなぁ・・・」
「とりあえず科警研の新兵器待ちだな。炸裂弾が通じない、催涙ガスも効き目が無いじゃ俺たちのする事がない」
「あのPSK何たらもあかんかったし、ほんまどないすればいいんやろ」
そう言ってため息をつく晴子。
(祐の字だったら奴に勝てたか・・・カノンなら・・・)
タオルを首に掛け、国崎は思う。
祐一の身体のダメージが酷かったのであえて連絡はしなかったし、実際に祐一は現場には現れなかった。だが、あの場に祐一が、カノンがいれば第26号を倒していただろうか?
(イヤ・・・あいつでも苦戦したはずだな。第2号まで現れたりしたんだし・・・)
過ぎてしまった事はもうどうしようもないと、首を振ってその考えを追い出した国崎はふと思い立って携帯電話を取りだし、廊下へと出た。
かけた先は関東医大病院。もうそろそろ祐一の意識も回復しただろうと思って、である。
「あ、もしもし、聖か?」
『君も毎度毎度懲りない男だな。聖さんと呼べと言っているだろう。それにどうしてこう何時もタイミングが悪いんだ、君は?』
容赦なく不機嫌な声で聖が出る。
『だいたい君は年上に人間に対する敬意というものがだな・・・』
「あ〜、悪い。年上の聖さん、祐の字はもう目、覚ましたかな?」
わざと「年上」の部分を強調して言ってみたりする国崎。
しばしの沈黙の後、聖がやけに冷静な声で答えてきた。
『彼ならまた行方不明だ。だが時間的に見てそろそろ回復出来ている頃だろう。さて、国崎君。暇ならこれから私の実験に付き合って欲しいのだが』
「・・・実験?」
『そうだ。人間の身体が何処まで無麻酔で切り刻めるか、その耐久テストを君でやってみたいのだが何か不服はあるかね?』
聖の声からこれが本気だと察した国崎は慌てて
「あ、いや、すまん!まだ仕事があるんだ!第26号の行方も捜さないといけないからな!じゃ!」
そう言うと、通話を切る。
大きくふ〜〜〜っと息を漏らし、胸を撫で下ろす。今度は手みやげの一つでも持っていかないと本当に無麻酔で切り刻まれるかも知れない、と思いながら駐車場に向かう国崎。
祐一が行方不明だと言う事はおそらく未確認が現れた事を察知して飛び出していったに違いないだろう。その時点で彼が何処まで回復していたかは不明だが、一応は動けるようにはなっているらしい。動けるならばきっと愛車であるロードツイスターに乗っているだろうから、それと連絡のとることが出来る自分愛用の覆面車へと彼は急いでいるのだ。
と、その彼の後ろからどやどやと同じ未確認生命体対策本部の面々が走って来るではないか。
「おお、居候!こんな所におったんか!」
先頭を走っていた晴子が国崎を見つけると彼の前で立ち止まった。他のものは彼女を追い越して駐車場に向かっている。
「何かあったのか?」
「第26号が出たっちゅう報告があった。場所は亀戸の辺りや!急ぐで!!」
そう言うと晴子は国崎の腕を掴んで走り出した。
駐車場に着くと、先に降りていた連中は既に出発しており、残されているのは国崎愛用の覆面車のみであった。
思わずげっと言う顔をする国崎だが、晴子はそれに構わず助手席側のドアを開けて中に飛び乗る。反対側のドアを開けて国崎に早く乗るように怒鳴りつける事も忘れない。
「はよのらんかい、居候!!うちらが一番遅いんやで!!」
「あ、ああ!わかったよ!」
そう言って国崎が運転席に入ろうとした時だった。
一台のバンが猛スピードでその覆面車の前に停車したのだ。横のドアがスライドして開き、中から白衣を着た男が飛び出してくる。手には大事そうにジュラルミンのケースを抱えて。
「間に合った!!」
男はそう言うと国崎の側に駆け寄った。
何がなんだかわからず、国崎も晴子も当惑している。
「国崎さん、これが例の特殊弾です!」
興奮した口調で言う男。
「ああ、あんた、確か南とか言うた・・・」
ようやく思い出したかのように晴子が言うと、南と呼ばれた男は大きく何度も頷いた。
「そうです!N県警鑑識課から科警研に出向となった南です!でもってこれが昨日お話しした特殊弾のサンプルです!」
そう言って腕に抱えていたジュラルミンのケースを国崎に手渡す。
「この特殊弾の中に注入されている薬品が血液に反応し、次々とその細胞を破壊していきます。時間がなかったのでとりあえずサンプルとして10発だけ持ってきました。それと実験していないのでどの程度の成果が出るかはわかりません。更に、これは勿論人間にとっても危険なものです。使用の際は充分注意してください」
興奮冷めやらぬ南、だが真剣な目をして国崎に言う。
それに対し、国崎もしっかりと頷いて見せた。
「わかった、気をつけて使わせて貰うぜ」
そう言って南の肩を叩き、覆面車に乗り込む。ジュラルミンのケースは助手席にいる晴子に手渡し、エンジンをかけると一気に駐車場を飛び出していった。
 
<都内某所・路上 18:01PM>
未確認生命体第26号出現の報はすぐさま倉田重工第7研究所にも伝えられ、修理の終わったPSK−03を積んだKトレーラーが現場に向かって疾走している。
「北川さん、本当に大丈夫なんですか?」
心配そうな目を潤に向ける斉藤。
潤は額に包帯を巻いており、口の端にも絆創膏が痛々しい。
「大丈夫だ。今度はブレイバーバルカンもあるし、何とか出来る」
そう言って潤はPSK−03を見上げた。
「今度は前みたいにはやられないさ」
「・・・モードAが使えればもっと楽になると思うんだけど・・・今はモードFしか使えないから。とりあえずパイルバンカーでえぐった傷、あそこが奴のウイークポイントよ!」
留美にそう言われ、潤は大きく頷いた。
と、その時、Kトレーラーの天井に何かの衝撃が襲いかかった。
思わずよろけてしまう3人。
留美は素早く態勢を整えるとモニターを切り替えてみた。するとKトレーラーの上部に未確認生命体第2号の姿があるではないか。
「第2号!?まさかこっちを襲いに来るなんて!?」
モニターを覗き込んだ斉藤が驚きの声を上げる。
「運転手、このままスピードを落とさないで!北川君、行くわよ!」
まずKトレーラーの運転手に声をかけ、それから潤を見る留美。
潤は頷くよりも早くPSK−03の各パーツの装備をはじめていた。各パーツを装着し、そして最後にマスクをつける。同時にオートフィット機能が作動、潤の身体に全てのパーツが無駄なく装備され、AIが起動する。
「相手は第2号・・・モードFを使うわ。いい?」
頷くPSK−03。
一方、Kトレーラーの上部に取り付いたガダヌ・シィカパは左手の鉤爪でその装甲を破ろうと何度も叩きつけていた。だが、装甲に傷は付くもののほとんどダメージを与えられない。余程頑丈な金属を使用しているようだ。
と、Kトレーラーの後部が開いた。
思わずそっちの方を覗き込むガダヌ・シィカパ。そこにPSK−03のアッパーカットが叩き込まれる。吹っ飛ばされ、Kトレーラーの上部に倒れ込んでしまう。
素早く起きあがったガダヌ・シィカパは翼を広げ、宙を舞った。そのまま開いた後部ドアから中に飛び込もうというつもりらしい。
しかし、後部ドアの前にはPSK−03がブレイバーバルカンを構えて立っていた。その背中には銀色に輝く翼がある。
「行きます!!」
PSK−03はそう言うと、疾走するKトレーラーからジャンプした。
同時に留美は後部ドアを閉じ、そしていつでもシステム起動可能にしておいたキーを押す。
「PSK−03,モードF起動!!」
閉じられたドアの向こう、PSK−03の背中に装備された小型ジェットブースターに火がつき、PSK−03は宙を舞った。
「ウオオオオオッ」
雄叫びを上げながらガダヌ・シィカパに向けてブレイバーバルカンを発射するPSK−03。
正面から突っ込んできたPSK−03の姿に驚きながらも何とか急上昇してブレイバーバルカンの弾丸をかわすガダヌ・シィカパ。
大きく旋回してガダヌ・シィカパを追うPSK−03。そのスピードは決してガダヌ・シィカパの飛行速度に劣っていない。
背中に装備したジェットブースターによる高機動、および空中での戦闘を可能にした新装備。それがモードF。A flight game and high movement type equipment 。
PSK−03のAIによる補正を受け、ブレイバーバルカンの照準は逃げるガダヌ・シィカパを正確に捉えだす。命中しないのは飛行中の姿勢制御に潤が慣れていない為だ。
「行けぇぇぇぇぇっ!!」
 
<江東区亀戸 18:18PM>
夕闇の住宅街をまるで我が物顔をして闊歩するゾヂダ・ボバル。
すぐに出動した所轄の警官達も全く拳銃の通用しない相手に、ただ被害を増やすばかりである。
そうやって遠巻きにゾヂダ・ボバルを包囲していることしかできない警官隊の少し後ろにブラックファントムに跨った浩平の姿があった。
すっと自分の手を重ねて前へと突き出し、それをそのまま左の腰に引き寄せた。次いで右手だけをもう一度伸ばし、更にすぐ引き寄せる。そして首刀を立て、ゆっくりと前に突き出していく。
「変身っ!!」
その声と共にベルトが浩平の腰に浮かび上がり、その中央が紫の光を放つ。その光の中、浩平の身体が戦士・アインのものへと変わっていく 。同時に乗っているバイクもアイン専用のブラックファントムへと変化した。
エンジンを二、三度噴かしてから発進、警官隊の頭上をジャンプして飛び越えると華麗に着地を決める。
「奴の前にまずはお前だ・・・」
アインはそう言うとゆっくりとブラックファントムから降り、身構えた。
ゾヂダ・ボバルは突如現れたアインに嬉しそうに目を細める。
「アインガ・・・ラリシェミ・ショッシェ・ブノグバマリ」
そう言って腕を広げてアインにつかみかかった。
両腕を広げてゾヂダ・ボバルの腕を受け止めたアインはがら空きの胴に右回し蹴りを叩き込む。だが、その程度ではゾヂダ・ボバルの鋼の筋肉は揺るぎもしない。逆にゾヂダ・ボバルの前蹴りがアインのボディに叩き込まれ、アインはあっさりと吹っ飛ばされてしまう。
地面に倒れるアインだがすぐに起きあがり、ゾヂダ・ボバルを睨み付けた。
悠然とアインに向かって手招きするゾヂダ・ボバル。
むっとしたアインが駆け出し、鋼の筋肉に覆われた胸へと何度もパンチ、チョップを叩き込む。
「何だ、こいつの身体は!?」
パンチやチョップを放った自分の手の方が痺れている事に気付いたアインが驚いたようにゾヂダ・ボバルを見る。その首をぐっと掴み、アインの身体を悠々と持ち上げるゾヂダ・ボバル。
「ロデバ・バガメモ・ギヲミグ・ゾヂダ・ボバル!!」
高らかにそう宣言するとアインの身体を振り回し、地面に叩きつけた。あまりの衝撃に地面が陥没する。
「ぐううう・・・」
地面に叩きつけられたアインが呻き、何とか起きあがろうとするが、その胸にどんとゾヂダ・ボバルが足を落としてきた。
「ジョルニジャ・アイン?ノモシェリドガ?」
馬鹿にしたようにアインを見下ろし、そう言うゾヂダ・ボバル。
「ふざけんじゃねぇぞ、このゴリラ野郎!!」
アインはそう言うと自分の胸を踏みつけている足を両手で掴んだ。
「ウオオオオオオオオオオッ!!」
雄叫びを上げながら足を持ち上げるアイン。同時にその姿が荒々しいものからよりシャープなものへと変貌する。
「激変身ッ!!」
アインのベルトの中央がまばゆい光を放ち、アインの姿は完全体へと変わる。完全体になった事により、アインの身体は新たなエネルギーに包まれていく。
「ウオオオオオッ!!!」
一気にゾヂダ・ボバルに足を持ち上げ、アインは陥没した地面から身を起こし、飛び出した。逆に足を持ち上げられたゾヂダ・ボバルの方が陥没した地面に無様にも倒れてしまっていた。
少し離れた場所でアインは倒れたゾヂダ・ボバルを油断無く見つめている。
「クク・・・ノルジャ・ノルジェ・マゲデバ・ロソニドグ・マリ」
嬉しそうにそう言って起きあがるゾヂダ・ボバル。
アインは油断無く身構え、ゾヂダ・ボバルの出方を待つ。
(奴はパワーとそれを支える筋肉の固まりだ。動きならこっちの方が早い。奴が何かやっても充分間に合うな)
そう思い、アインは動かない。だが、それが間違いである事を彼はすぐに思い知らされる。
「リグオ」
ゾヂダ・ボバルが呟くように言い、物凄い速さでアインとの距離を詰め、右肘をアインの胸に叩き込んだ。
「なっ!?」
驚く間もなく、アインは民家の塀に叩きつけられてしまう。しかもその衝撃で塀が崩れてしまう。崩れた瓦礫を浴びながらアインはゾヂダ・ボバルの方を見た。
「何だと・・・あいつ、こんな素早い動きが出来るのか?」
「タガミ・ニシェソダッシェバ・ゴサヅ」
そう言ってゾヂダ・ボバルは首をコキコキとならした。
「ロデザ・タヴァージャゲ・ジャショ・ロソルマ」
アインが立ち上がるのを待ちながらゾヂダ・ボバルは言う。随分と余裕があるようだ。
それを見たアインはすっと腰を落とし身構えた。
(油断したな・・・奴を外見だけで判断した俺のミスだ・・・)
真剣な表情をし、あくまで悠然と身構えているゾヂダ・ボバルを睨み付けた。
睨み合う両者。
その時、警視庁を出発した未確認生命体対策本部の面々がその現場に到着した。
「状況はどうだ?」
ライフルを持った刑事がそう言ってアインとゾヂダ・ボバルを囲んでいる警官に声をかける。
「は、はい!第26号とあの・・・もう一体が戦闘を行っているようでして・・・」
当惑したように言う警官。
訝しげに思った刑事だが、すぐにその警官の言った事を理解した。目の前では第26号と第3号に何処か似たような感じの未確認生命体が対峙している。
「な、なに・・・?」
驚きに言葉を無くしてしまう刑事。
そこに国崎と晴子を乗せた覆面車が到着した。二人とも手にライフルを持ち、飛び出してくる。
「な、何や、あれ!?」
「何だ・・・カノンじゃない・・・?」
二人が口々に言う。
深緑色の、カノンに何処か似通った姿の未確認生命体が第26号と対峙し続けているのだ。
アインとゾヂダ・ボバルは対峙したまま、一歩も動かない。相手の力がわかるだけにうかつな事が出来なのだ。
「今のうちや、居候、例の新兵器、使って見」
晴子がそう言って国崎を見た。
国崎は頷き、覆面車の中においてあったジュラルミンのケースを取り出す。その中に収められている弾丸を取り出すと自分のライフルに装填した。
「細胞破壊弾、か・・・こいつが効いてくれないとちょっと困るな・・・」
そう呟いて苦笑する。
ライフルを片手に、アインとゾヂダ・ボバルを包囲している警官隊をかき分け一番前に出た国崎はすっとライフルを構えた。
「効いてくれよ・・・」
祈るような気持ちで引き金を引く。
ライフルから発射された細胞破壊弾は一直線にゾヂダ・ボバルの胸に向かい、命中した。
いきなりの狙撃に思わずよろけるゾヂダ・ボバル。
そこに生まれた隙を逃すアインではない。身体を低くしてゾヂダ・ボバルに向かって突っ込んでいく。
「ウガアアアアアアッ!!」
雄叫びを上げてゾヂダ・ボバルに迫るアインだがゾヂダ・ボバルはそれを待っていたかのように両腕を振り上げ、アインの背に向かって振り下ろした。
背にゾヂダ・ボバルの物凄い一撃を食らったアインがその場に叩きつけられる。更にゾヂダ・ボバルが右足でアインを蹴り飛ばした。
思い切り吹っ飛ばされるアイン。
「何だ、効いていないのか!?」
国崎は吹っ飛ばされるアインとダメージを受けた様子のないゾヂダ・ボバルとを見比べ、思わずそう言い驚いていた。
と、聞き慣れたバイクのエンジン音が響き渡った。
国崎が振り返ると、そこには白いスーパーマシン・ロードツイスターに跨った白き戦士・カノンの姿がある。
カノンは国崎を見て、小さく頷くとロードツイスターのエンジンを吹かして一気に走り出した。そのまま、先程アインがやったのと同じように警官達の頭上を飛び越え、着地すると同時に今度はアインと違い、そのままゾヂダ・ボバルの方へと突っ込んでいく。
「ギ、ギナサバ・カノン!!」
驚きの声を上げるゾヂダ・ボバルに構わずカノンはそのままロードツイスターで突っ込み、ゾヂダ・ボバルを吹っ飛ばした。
カノンはロードツイスターを停止させると、倒れているアイン、そしてゾヂダ・ボバルを見た。
「こ、今度は第3号・・・?」
誰かが驚きの声を漏らす。
一度の3体もの未確認生命体が一挙にそろったのだ。過去にも似たような光景を見た事のあるものもいるが、今となっては珍しい事である。
「ど、どうします、神尾さん?」
まだ未確認生命体対策本部に配属されて間もない刑事が晴子に向かって不安そうな声で問いかける。
「ど、どないするもこないするも・・・」
晴子も少しうろたえたような顔をして国崎の背を見る。
国崎はカノン、アイン、ゾヂダ・ボバルから目を離せない。
ゆっくりと起きあがり、カノンをじっと見るゾヂダ・ボバル。
倒れたまま動かないアイン。
油断無く身構えたまま、ゾヂダ・ボバルを睨み付けているカノン。
死闘はまだ終わらない。
 
Episode.37「誤解」Closed.
To be continued next Episode. by MaskedRiderKanon
 
次回予告
カノンと対峙するゾヂダ・ボバル。
その戦いにアインも参入し、死闘は更に繰り広げられる。
浩平「お前が・・・お前が俺の全てを奪ったっ!!」
瑞佳「浩平は・・・間違ってるよ・・・」
超高空から襲い来るガダヌ・シィカパに苦戦するPSK−03!
そして再びカノン、アインに牙をむくフォールスカノン!
正輝「お前らを殺せば・・・」
潤「やらせるかよっ!!」
迫り来る悪夢の時!
アインの鉤爪が遂にカノンを捕らえる!!
祐一「俺は・・・俺はまだ・・・」
次回、仮面ライダーカノン「死闘」
目覚めろ!新たな力!!

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