<都内某所(路上) 15:37PM>
一台の黒いオンロードバイクが交差点の赤信号の前で停止した。
エンジンをアイドリングさせながら、ギヤをニュートラルにし、フルフェイスのヘルメットのバイザーをあげる。
「やれやれ、ついてないな、今日は」
これで信号に引っかかるのは何度目だろうか。何時もと比べて必要以上に信号によって足止めを喰らわされている。思わずぼやきたくなるのも頷けるというものだろう。
信号が替わった。
ギヤをファーストに入れ、バイクを発進させる。
特に何処に行くというわけではない。毎日毎日、彼はバイクを走らせているだけであった。目的がないわけではない。全く手がかりのないものを彼は毎日探しているのだ。
彼の探しているもの、それは彼の最愛の妹と母親を奪い、そして彼の身体を変えてしまった謎の組織、教団。
この何気ない都会の闇に生息し、密かに改造変異体と呼ばれる怪人を使って世界を支配しようと企む教団。その規模は個人レベルで戦えるものでは到底無いのだが、それでも彼はやるだけの事をやると決意していた。
「たまには食いついて来いよ・・・前みたいによ」
そう呟きながらバイクのスピードを上げる。
彼の名は折原浩平。またの名を戦士・アイン。
カノンと同じく超古代文明のベルトの力を受け継ぐ現代の戦士である。
彼が走り去るその反対車線側の歩道。
そこを一人の女性が沈鬱な表情のまま、俯いて歩いていた。
着ている服は黒を基調としたシックなもの。明るい笑顔が本当ならよく似合う彼女だが、この日ばかりは何時も暗い表情しか浮かべない。
「・・・浩平・・・」
悲しげに女性が呟く。
彼女の幼なじみは数年前のこの日にいなくなった。家族と一緒に。その後、その幼なじみから一度だけ手紙があった。
この日に妹が死んだから墓参りだけ頼む、と。
何処にいて何をしているのか、そう言う事は一切書いて無く、ただ何処にお墓があるのかだけを書いてあった短い手紙。
「・・・馬鹿・・・」
また女性が呟く。
今にも泣き出しそうな顔で。
「本当に・・・馬鹿だよ・・・」
それは誰に向けた言葉だったのか。
女性の名は長森瑞佳。
彼女はそれから足早に駅へと向かい、雑踏の中へと消えていった。
 
仮面ライダーカノン
Episode.33「邂逅」
 
<喫茶ホワイト 19:32PM>
店の横にあるガレージに一台のオフロードバイクが入り、停車した。
しっかりと鍵をかけ、タイヤにU字ロックまでかけてから乗っていた青年は店の中へと移動する。
「どうだった、相沢君?」
店の中に青年が入るなり、中のカウンターの一番奥に座っていた女性が振り返り、尋ねる。
青年は首を左右に振った。顔には悔しそうな表情を浮かべて。
「駄目だ。だいたい心当たりが無さ過ぎる。秋子さんに東京の知り合いがいるのかさえも俺は知らないのに・・・」
悔しそうに言う青年。それは自分の無力さを嘆いているのだ。散々世話になっておきながら、いざという時には何も出来ない自分の無力さが、物凄く悔しかった。
「・・・さっき国崎にも電話しておいたわ。あいつも探してくれるって言っていたから」
女性が青年を慰めるように言うが、青年はまた首を左右に振る。
「国崎さんはそれどころじゃないさ。それに・・・あいつは関係ない。秋子さんは俺たちが、俺が探し出さなきゃならないんだ」
青年はそう言うと、店内にある時計を見た。
「もう少し探してみる。香里は適当に帰ってくれ」
そう言ってまた店から飛び出していく青年。
女性はその後ろ姿を心配そうな目で見送っていた。
青年の名は相沢祐一。
現代に甦った謎の未確認生命体・ヌヴァラグに対抗する力を、超古代文明のベルトから受け継いだ戦士・カノンでもある。
彼は今、行方不明となった叔母である水瀬秋子を捜していた。
秋子は遙か古代から人類に対して恨みを抱く水瀬一族の次期宗主に選ばれた自分の娘、名雪をその手で葬るべく行動しているはずであった。祐一は秋子の行為を止めるべく、そして名雪を水瀬一族の呪縛から救うべく必死になっていた。だが、流石の彼も秋子がその水瀬一族の手に落ちたと言う事は知らない。
だからこそ、彼は秋子を捜して東京中を走り回っているのだった。
愛車ロードツイスターのエンジンを始動させ、また祐一は街の中へと消えていく。
店の中では先程祐一と話していた女性・美坂香里が沈鬱な表情を浮かべてカウンターに肘をついていた。
「今度は人捜しかい?」
そう言ってマスターが香里の前にコーヒーの入ったコップを置いた。
顔を上げた香里は苦笑を浮かべる。
「相沢君、ここ手伝えないって何時も悔しそうでした。結構気に入っているんですね、彼も」
「まぁな。あいつ、あれでもなかなか素質あるよ。あいつさえ望むならここを譲ってやってもいい」
マスターの言葉を聞いて、香里は驚いたような表情を見せた。
「マスター、本気なの?」
「半分くらいな。まぁ、あいつにその気があるならってのと俺が引退してからっていう条件付きだがな」
そう言ってマスターは笑った。
つられて香里も笑みを浮かべる。
「お、ようやっと笑ってくれたな、香里ちゃん」
「え?」
「さっきまで暗い顔ばかりしていたからな。少し心配していたんだよ、これでも。やっぱり美人には笑顔でいて欲しいからな」
にっと笑みを見せるマスターに、香里は小さく頷いて見せた。
 
<教団支部 20:12PM>
埃っぽく薄暗いその部屋は元は倉庫だったのだろうか、未だに沢山の段ボール箱が無造作におかれていたりする。
その中で一人の女性が腕を組んで別の誰かがやってくるのを待っていた。
かつかつかつと靴を鳴らしながら彼女はイライラを隠そうともしない。
と、そこに小柄な、まだ少女と言ってもおかしくない年頃の女性が入ってきた。
「遅いわよ、由依!!」
始めからこの部屋にいた女性が新たに入ってきた女性を見つけて小さい声で、しかし鋭く言う。
「約束した時間を何分過ぎていると思っているのよ!」
「えへへ、ごめ〜ん。ちょっとさ、手間食っちゃって」
そう言って舌を出す女性。
それを見たもう一方は呆れたような表情を浮かべた。
「それで?何か掴んだから呼んだんでしょ?」
「え〜!?あたしじゃないよ?あたしもここには呼び出されたんだから」
それを聞いた女性の表情が変わる。
呆れたような、そんな顔から一気に警戒する顔つきへ。素早く周囲に目をやり、更に気配を探る。しかし、これは相手が人間である場合しか通じない方法だ。もしも相手が改造変異体なら、自分達に為す術はない。
「あんた、一体誰に・・・」
「私しかいないじゃない、この場合」
新たな声が聞こえてきた。
二人が振り返ると、そこにはやや呆れた顔の女性がドアのすぐ脇に立ち、腕を組んでこっちを見つめている。
「・・郁未さん!」
「・・郁未・・驚かさないでよ・・・」
二人が安堵の表情を浮かべる。
天沢郁未は組んでいた腕を解くと二人の側にやってきた。
「全く・・・これじゃ何時気付かれてもおかしくないわよ」
呆れたように言う郁未を見て、由依と呼ばれていた女性が頬を膨らませる。
「郁未さんがそう言うややこしい事をしなければですねぇ」
反論しようとする彼女だが、もう一人の女性がそれを制した。
「確かに今日は油断していたわ。私はともかく、由依はね」
それを聞いて名倉由依は更に頬を膨らませる。
「だって夕方頃にあの高槻がいなくなったんだよ?それだけでも充分嬉しいじゃない!」
「高槻がいなくなったところで私達がやろうとしている事が無謀である事には変わりはないわよ」
郁未がそう言って苦笑を浮かべた。
「それで?まさか私達が油断しているかどうかを見る為に呼んだ訳じゃないでしょ?」
もう一人の女性、巳間晴香が郁未を見てそう言う。
真剣な顔をして頷く郁未。
由依も緊張してかごくりと唾を飲み込んでいた。
「晴香、あなたのお兄さん、巳間支部長が動くわ」
「良祐が!?」
晴香が驚きの声を上げる。
「もっとも実働部隊の指揮は別の奴がやるでしょうけどね。今度の行動に彼が関わっている事は間違いないわ」
郁未は驚いている晴香を見ながら続ける。
「狙いは倉田重工第7研究所。噂のPSKチームの本拠地」
「PSKチームって言ったら確かB−11を倒したんだよね?それじゃもしかしてカノンとかアインとかと同じ力を持つ奴が・・・」
由依が口を挟んだので、郁未は彼女を見た。
「違うわ。あそこにはビサンの遺産はない。PSKチーム、PSK−03は現代科学の結晶よ」
「へえ、すっごいんだぁ」
感心したような声を上げる由依。
その様子はまだまだ子供っぽかった。
「でもでも、それじゃどうしてそこを狙うの?」
「ビサンの遺産無しで改造変異体を倒したからよ。あそこは前にも一度やっている。あの時は偶然かと思っていたらしいけど、今度は正真正銘、レベル4の改造変異体を倒したわ。しかも強化改造された奴をね」
「つまりは聖戦の邪魔になった、と言うわけ?」
ようやく驚きから立ち直ったらしい晴香が話に参加する。
「そうみたいね。とにかく、私は相沢祐一に接触するから、二人のうちどちらかが折原浩平と接触してそれとなく伝えるのよ。私達がやろうとしている事にはPSKも充分役に立つわ」
郁未の言う事に頷く晴香と由依。
「時間はあまり無いわ。出来れば今すぐにでも行動を始めたいところだけど?」
「折原浩平には私が会うわ。ここに残って、もし良祐に会ったら何をするかわからないから」
晴香がそう言って由依と郁未を見る。
「じゃ、由依はまたお留守番ね」
からかうように言ったのは郁未。
それを聞いてまた由依が頬を膨らませる。
「とにかく、急ぎましょう。それじゃ、気をつけて」
そう言って三人はその場で別れ、行動を開始した。
 
<倉田重工第7研究所 06:32AM>
まだ外はそれほど明るくなかった。
空が厚い雲に覆われている所為もあっただろう。だが、それは何ともイヤな予感を抱かせる、そんな暗さであった。
倉田重工第7研究所の入り口に立っている警備員も空の暗さを気にしているのか、それとも雲の厚さに雨でも心配しているのか、空を見上げている事が多い。
だから、彼は気付いていなかった。
気配を消し、じっと第7研究所を物陰から見ている影があった事に。
同じ頃、中にある研究室の一つでは深山雪見が何やら作業に没頭していた。彼女の横には何やらばかでかい機械の固まりがある。
キーボードを軽やかに叩く彼女の前のモニターには何やらライフルのような、そんなものの設計図が映し出されていた。
「・・・後はもう少し小型化出来れば問題ないんだけどね・・・」
そう呟いて手を止める。
同じ机の上に置いてあったコップを手に取り、中になにも入ってない事を確認すると彼女は立ち上がった。
「今日の所はこの辺にしますか・・・後はあれ待ちだし・・・」
そう言って雪見は首を振りながらその研究室から出ていった。
 
<教団支部 08:31AM>
都内某所にある教団支部。
その建物の一角にはちゃんとガレージになっている部分があり、今、そこに郁未の姿があった。
一台のバイクを押しながらガレージの外に出ようとする彼女の前にすっと一人の肌の浅黒い少年が現れる。
「やぁ。はじめまして、だね?」
少年が気さくに声をかけてくるが郁未は無視してバイクをガレージの外に出した。余程長い間乗られていなかったのかバイクは埃まみれになっている。
郁未は顔をしかめるともう一度ガレージのほうに戻っていった。
少年は何も言わず郁未をじっと見ているようであった。その視線を完全に無視して、郁未は中から適当な布を手にバイクの側に戻ってくる。あまり綺麗な布ではないが、埃取りぐらいならこれで充分だった。
「バイクかぁ・・・気持ちいいんだろうね。風を切って走るなんて」
少年が声をかけてくるが郁未はひたすら無視し続ける。今は物凄く急いでいるのだ。見ず知らずの少年の相手をしている暇は少しもない。
一通りバイクの吹き終わると布をまだこっちを見ている少年に押しつけ、バイクに跨る。
「エンジン、かからないと思うよ」
郁未がエンジンをかけようとした時、いきなり少年がそう言った。思わず少年の顔を見てしまう。それから、エンジンをかけてみるが、少年の言った通りエンジンはかからなかった。
「あ、あれ?」
「だから言ったじゃない」
少年がにこにこしながら言う。
郁未はそんな少年を睨み付けた。
「あんた、知っていたの!?」
思わず厳しい口調で言ってしまう。
少年は肩をすくめた。
「知っていた訳じゃないよ。ただいかにも長い間放っておかれたみたいだからね。そう思っただけだよ」
「だったらもっと早く言ってくれたら良かったじゃない!」
「聞こうとしなかったのは君だよ」
郁未は忌々しげに少年を睨み付けると、バイクから降り、エンジンの辺りを見た。
「これから君が何をしようとしているかは知らないけど、一つ忠告しておいてあげるよ。相沢祐一に会うなら気をつけた方がいい。きっと君も巻き込まれるよ、天沢郁未」
少年の声にはっと郁未が彼のいる場所を見る。
だが、そこに少年の姿はなかった。
郁未は少しの間少年の姿を探してキョロキョロとしていたが何処にも少年の姿を見つけられなかった。薄気味の悪いものを感じ、身体を震わせるが、すぐに気を取り直し、バイクのエンジンを見る。少しいじってみてからエンジンをかけてみると、すんなりとエンジンがかかった。
「・・・一体何だって言うのよ?」
郁未はかなり不服そうに呟いた。
「それに・・・巻き込まれるって・・・」
彼女の不安を表すかの如く、空は重く、そして暗い雲に覆われたままであった。
 
<二輪ショップMOTOSAKA 10:21AM>
「イヤな天気だな」
本坂がそう言って空を見上げる。
後ろには泣きそうな顔をした祐一がいて、そしてロードツイスターと聖鎧虫がいる。
「本坂さん、現実逃避しないでくれ〜!!」
その声に振り返る本坂。
「あのなぁ、祐の字。いきなりこんなもの持ってこられても困るだけだって言うのがわからんか?」
いかにも不機嫌そうに言う本坂を見て、祐一は苦笑を浮かべるしかなかった。
「俺だってまさかこいつが来るとは思ってなかったんですよ」
どうやら祐一が例によって行方不明の秋子の姿を追って街中を走り回っている時に、不意にこの聖鎧虫が飛んで来たらしい。前回合体したロードツイスターを気に入ったのかどうかはわからないが、とにかく聖鎧虫はずっと祐一とロードツイスターの上をついてきて目立つ事この上ない。仕方なく祐一はロードツイスターの制作者であり、知り合いの中で一番広い隠し場所を持っていそうな本坂の店にまでやって来たのである。
「全く・・・で、どうしろって言うんだ?」
やっぱり不機嫌そうに本坂が言い、近くにあった丸椅子に腰を下ろす。
「とりあえずしばらくの間こいつをかくまって欲しいんです」
祐一はそう言って聖鎧虫を指さした。
聖鎧虫は、今は身じろぎもせず、静かに、まるで置物のように鎮座している。
「こいつが俺の上にいると目立ちすぎて身動きがとれません。まるで俺がカノンだと宣伝しているみたいで」
「まぁ、そうだろうな。こいつにカノンは何度も助けられているんだろうし、こいつがいればカノンがいるって言う事になるからな」
「一応俺の言う事は聞くみたいなんでここで大人しくしているように言っておきます。だから・・・」
「・・・わかった、わかったよ。但し、ここじゃ店の邪魔になる。奧の倉庫の方に連れて行ってやれ。あそこの方が出入りもしやすいだろ?」
本坂が奧を指さして言う。
この店の奥には色々な部品やらパーツをおいてある倉庫がある。店の方から入る事も出来るし、倉庫の裏の方からも入る事が一応可能である。裏側は人通りの少ない路地になっており、そこからなら聖鎧虫が何時飛び出していっても人目に付かないだろうとの本坂の配慮だった。
「ありがとうございます!・・・ほら、行くぞ」
祐一がそう言って立ち上がり、聖鎧虫に声をかける。すると聖鎧虫が目を開き、ちょこちょこと祐一の後について裏の倉庫の方へと歩いていった。
それを見ながら本坂は感心したように目を細める。
と、そこに表からブレーキをかける音が聞こえてきた。
本坂が振り返ると、店の前に一台の黒いオンロードバイクが止まっている。
「やれやれ、今度はお前か?」
呆れたように本坂が言うと、黒いオンロードバイクに乗っていた黒いライダースーツの青年がヘルメットを脱いで苦笑して見せた。
「今度はってどういう意味だよ、親父さん?」
「お前も祐の字もここに来る時は決まってろくな事をしねぇからな」
言いながら本坂が黒いバイクの方に歩み寄っていく。バイクのカウルなどを手でさわりがなら満足げに頷いた。
「やっぱりこいつの方がお前にあっていたようだな、浩平」
にやりと笑う本坂に同じように笑みを返す浩平。
「こいつはまさに俺専用って感じだよ、親父さん。こいつ程相性のいいマシンはない」
「だろうな。そいつはお前が使うであろう事を念頭に置いて作ったからな」
「流石だよ。本当に親父さんは最高のバイク屋だ」
二人がそんな事を話していると、奧の倉庫から祐一が戻ってきた。作業場においてあるロードツイスターを押しながら表に出てくる。
「本坂さん、俺、またちょっと行ってきます」
浩平と話している本坂にそう声をかけ、ヘルメットをかぶる祐一。それからロードツイスターに跨り、エンジンを始動させる。
「おう、気をつけろよ、祐の字!」
本坂が片手をあげて祐一を見送った。
浩平は黙って祐一を見ていたが、彼の乗っているロードツイスターを見て、一瞬驚いたような表情を浮かべた。だがそれはほんの一瞬の事、誰もそれに気付かなかった。本坂も、そして祐一も。
祐一が走り去っていくのを見てから、浩平が本坂に声をかける。
「親父さん、あいつは?」
声をかけられた本坂が浩平を振り返る。
「あいつは相沢祐一。まぁ、言ってみればお前の後釜みたいなもんだ。近所の喫茶店の居候だが、なかなかいい腕をしている」
「俺よりも?」
「さぁな。お前とはタイプが違うから何とも言えないが・・・あいつはオフロードの方が上手いからオンロードのお前とは勝負にならないんじゃないか?」
「へぇ・・・」
感心したように浩平が頷く。脱いでいたヘルメットをかぶり直し、何も言わずエンジンを始動させる。
「おい、浩平、何を・・・」
本坂が声をかけるよりも早く、黒いマシン・ブラックファントムが走り出す。
「あいつ・・・やっぱり気付いたのか・・・?」
呆然と浩平を見送ることしか、本坂には出来なかった。
 
<都内某所・路上 10:42AM>
本坂の店から少し離れた交差点で祐一は信号待ちをしていた。
これから何処をどう探そうかなど一切考えていない。闇雲に走り回っても仕方ないとは思うのだが、じっとしている事も出来なかった。
「しかし・・・一体どうすれば・・・」
祐一がそう呟いた時、先程本坂の店の前で見た黒いバイクがすぐ横に並んだ。
「よお」
ヘルメットのバイザーをあげて乗っている男・浩平が声をかけてくる。
祐一は驚いたように浩平を見ると、浩平は片目をつぶってこう言った。
「俺と勝負しないか?何、簡単な勝負だ。ここから城西大学を一周して親父さん・・・本坂さんの店の前。先に着いた方が勝ち。どうだ?」
「・・・悪いが、俺には・・・」
断ろうとする祐一だが、浩平はにやりと笑う。
「逃げるのか?親父さんもとんだ弱虫にそいつを託したんだな」
わかりやすい程の挑発。
だが、今の祐一は非常に精神的に落ち着きがない状態だった。だからか、あっさりとその挑発に乗ってしまう。それに、今、一瞬だけだが彼から感じた何とも形容のしがたいもの。それを見極めてみたい。
「・・・良いだろう!」
そう言って祐一が正面を見る。
浩平はヘルメットのバイザーを降ろし、正面の信号が青になるのを待った。
信号が赤から青へと変わる。それと同時に飛び出すロードツイスターとブラックファントム。物凄い速さで角を曲がり、城西大学の方へと向かう。勿論スピード違反な事は言うまでもない。
(なかなかやるじゃねぇか・・・)
浩平はブラックファントムを走らせながら全く遅れることなく自分にぴったりとくっついているかのような祐一のロードツイスターを見て一人、にやりと笑う。
(親父さんの目は確かだって事かよ・・・)
一方祐一は浩平のブラックファントムの想像以上のスピードに必死になって食らいついていた。離れないようにするのが精一杯、追い抜く事など出来そうにもない。
(なんて速さだ!ロードツイスターでこれが精一杯なのに!!あのバイク、それに乗っている奴もただ者じゃない!)
城西大学が見えてきた。それでも二人はスピードを落とさない。城西大学キャンパスの外壁に沿って疾走する二台のマシン。どうやらテクニックは互角のようだ。
そこに一台にミニパトが通りかかった。
「あ・・・」
乗っていた婦人警官が思わず口を開けてしまう。
「・・・物凄いスピード違反ですね」
助手席にいた婦人警官が冷静な口調でそう言うと、運転席の婦人警官が思いきりアクセルを踏んだ。急にスピードを上げるミニパト。そして加速時のGに、身体を椅子に押しつけられる助手席の婦人警官。
「このぉ!!そこにスピード狂!!止まりなさぁいっ!!!」
運転席の婦人警官が吠える。
サイレンを鳴らし、物凄いスピードで二台のバイクを追いかけるが普通のミニパトではあの二台に追いつけるはずもなかった。何しろ、あの二台、カノンとアインの愛車であるのだから。勿論、それを婦人警官達が知るよしもない。
あっと言う間に見えなくなった二台のバイク。
ミニパトを運転していた婦人警官が悔しそうにハンドルを叩くが、助手席にいた婦人警官は何かを考えるような仕種を見せていた。
(・・・あれは・・・相沢さんが乗っていたバイクじゃ・・・?)
助手席の婦人警官、彼女の名は天野美汐。
さて、その頃ミニパトを振り切ってしまった二台のマシンは城西大学のキャンパスを離れ、本坂の店の側まで戻ってきていた。彼の店の前は見事なまでの直線道路である。そこで二台のマシンの優劣の差がついた。
オンロード専用マシンであるブラックファントム。その真価は直線で発揮される。最高時速350キロの超スピードを誇る黒いマシンが遂にロードツイスターを振り切り、本坂の店の前を通過する。
それにやや遅れて通過したのはオフロード、オンロード関係なし、全ての地形を走覇することを念頭に置かれたロードツイスター。
二台のマシンがブレーキをかけ、停止すると、店の中から本坂が出てきた。
「・・・お前らな、ここはサーキットじゃねぇぞ!!」
怒鳴り声をあげる本坂だが、それに構わず、浩平と祐一はヘルメットを脱いでいた。
「なかなかやるじゃねぇか。見直したぜ、お前の事」
笑みを浮かべてそう言う浩平だが、祐一は無言で答えない。
「俺が勝ったのはこいつがオンロード専用でここが直線だったからだ。条件が同じならどっちが勝ったかわからないと思うぜ」
「・・・確かにそうかも知れない。だが、俺はこいつのスピードに自信があった。絶対こいつなら誰にも負けないって言う自信が・・・」
悔しそうに言う祐一。
「まぁまぁ、そう言うなって。同じ親父さんメイドのマシンだ。そりゃ市販のバイクをちょっといじったようなのに負けたら自信も無くすけど、こいつはいわばそれの兄弟みたいなもんだ。だからって言う訳じゃないが、そう気を落とすなよ」
浩平はそう言って祐一の肩を叩いた。
「・・・兄弟?こいつとそいつが?」
驚いたような顔をして祐一が言うと、浩平は大きく頷いた。
「オンロードに特化したのがこいつ、ありとあらゆる地形を走覇することを目的としたのがそれ、狙いがそもそも違うんだ。俺が勝って当たり前なんだよ。それに俺が見たかったのは・・」
そこで浩平は言葉を切った。
真剣な目をしてから祐一に向かって言う。
「お前がそのマシンに相応しい奴かどうかを見極めたかった。そう言う事さ」
それを聞いた祐一がぎょっとした顔になる。
「お前・・・」
「俺は折原浩平。じゃぁな、相沢祐一!」
浩平はまたヘルメットをかぶるとブラックファントムを発進させ、あっと言う間に走り去った。
祐一はロードツイスターに跨ったまま、それを見送っている。
そこに本坂が駆け寄ってきた。
「祐の字、どうした?」
「・・・本坂さん、あいつは・・・?」
「・・・あいつは・・・お前がホワイトに来る前、俺が育てていたレーサーだ。ある日突然いなくなったんだが・・・何か急に帰ってきて、ロードツイスターをほしがった。だが、そいつはまだ未完成だったんでな、代わりにあいつにはあれをやったんだ」
「じゃ、あれも本坂さんの?」
「ああ、あれはオンロードに特化したマシンでな、時速350キロ以上を・・・」
本坂の説明は浩平が口にしたものを裏付けるだけであった。
祐一は本坂の説明を聞きながら、浩平から何か形容のしがたいものを感じていた事を思い出していた。
(あいつは・・・折原浩平は・・・一体・・・?)
 
<倉田重工第7研究所 11:42AM>
第7研究所のガレージにおかれているKトレーラーのすぐ横にもう一台、似たようなトレーラーが止まっている。
そのトレーラー部分にはわざわざ「自衛隊対未確認生命体特殊部隊」と書かれていた。トレーラーの周囲には銃を持った自衛隊員がいて、厳しい目で周囲を見張っている。まるで歩哨のようだ。実際その通りなんだろうが。
「誰が覗くもんですか」
そう呟いたのは七瀬留美である。
「そっちのものよりも私達のPSKシリーズの方が優秀なんだから」
「七瀬さん、聞こえちゃいますからよしましょうよ〜」
気弱な声で続けたのは斉藤。
留美と同じくPSKチームの一員である。少々気弱な面もあるが、それでもなかなか優秀のようで留美に何時も凹まされながらも毎日頑張っている。
「聞こえたところで何?本当の事じゃない!」
留美は自信満々である。
「さて、それはどうですかね?」
そんな声が聞こえてき、留美は真剣イヤそうに顔をしかめた。その声に聞き覚えがあるからであり、そしてその声の主があまり好きでないからである。
「我々が開発したDS−01はあなた方のPSK−03を遙かに越えるものですよ。何でそれをわかっていただけないんですか?」
言いながら一人の青年がトレーラーの影から姿を見せた。
DS−01開発総合プロデューサー久瀬である。後ろには例によって広瀬真希の姿もあった。何時もと違うのは彼女が自衛隊員と同じ服装であると言う事ぐらいか。
留美はそんな真希の姿を見て、一瞬驚いたような顔を見せる。
「広瀬・・あんた・・・」
「それでは失礼するよ、七瀬君。我々は倉田所長に用があるのでね」
久瀬は留美が真希に話しかけるのを遮るようにそう言い、彼女を伴って歩き出した。
留美は少しの間二人の後ろ姿を見送っていたが、やがて首を左右に振ってKトレーラーの中に入っていく。
先程まで久瀬と留美のやりとりをおろおろしながら見ていた斉藤も慌てて彼女についてKトレーラーの中に入っていった。
斉藤が中に入ると留美は既にPSK−03のマスクに色々とコードを繋ぎ、作業の準備を終えていた。
「何やってるの、斉藤君。あまり時間をかけられないから急いでやるわよ」
「は、はい!」
斉藤は慌てて自分の席に着くと作業の準備を始める。
その横では留美が早くもキーボードを叩きはじめていた。
 
<都内某所 11:51AM>
浩平がまた気ままにブラックファントムを走らせていると、やや後方に見た事のある女性が例によってオープンカーに乗って自分を追っている事に気がついた。
「やれやれ、またあのお嬢さんかい?」
そう呟くと、浩平はにやりと笑った。
先程相沢祐一という男と会い、いい勝負をして機嫌が良かったのでその女性と少し遊んでみようと思ったのだ。
「さぁ、ついてきな、お嬢さん」
そう呟いてアクセルを回す。
ブラックファントムがスピードを上げる。
それを見た女性が慌ててアクセルを踏んだ。オープンカーがスピードを上げ、ブラックファントムを追う。
「全く、何で気がつくのよ、あいつは!!」
オープンカーの女性、巳間晴香はそう呟くと、更にアクセルをふむ。
今回は逃がすわけには行かない。絶対に捕まえ、ある事を彼に伝えた上で更に彼に頼み事をしなければならない。
「ここで逃げられたら意味が無いじゃない!!」
浩平の操るブラックファントムは先程から一定の距離を保ちながら、しかし絶対に追いつかせない。しかも時折、ちらりちらりとこちらを振り返っているではないか。
「遊んでる?・・・・あいつ!!」
晴香はむっとしたようにアクセルを踏み込んだ。
ある程度近づき、ここからなら声が届くと判断した彼女はすうっと息を吸い込んでから大声で前方を走る浩平に向かって怒鳴り声をあげた。
「コラァッ!!そこの黒いのっ!!話があるから止まれぇっ!!」
その声が聞こえたのか、浩平のバイクのスピードが落ち、晴香のオープンカーと並ぶ。
「何か言ったか?」
走りながら浩平が問いかけてくる。
「あんたに話があるの!ちょっと止まってくれない?」
また大声で言う晴香。
浩平は頷くと、またブラックファントムを先行させた。だが、今度は晴香がついてくるのに問題ないスピードである。そのまま少し走り、近くにあったコンビニの駐車場へと入っていく。
「で、俺に何の用だ?」
ヘルメットを脱ぎ、浩平が仏頂面をして尋ねる。
「あんたは前にも俺をつけていたよな?あの時は俺が話しかけても何も言わなかったのに今日はそっちから声をかけてきた。その辺の所もあわせて聞かせて貰いたいもんだな、あんたの正体と、目的を」
「・・・それを話さないと協力しては貰えそうにないわね」
晴香はそう言って苦笑して見せた。
「私は巳間晴香。教団の一員よ」
浩平は晴香の口から「教団」という言葉を聞き、思わず身構えていた。彼にとって教団は不倶戴天の敵、彼の仇であるのだ。
「ちょっと、早とちりしないでよ。私は貴方の敵じゃないわ。むしろ、あなたの味方よ」
慌てて晴香がそう言い、さっと周囲を見回した。
「どうした?」
「・・・何となく癖になっているのよ。私は教団の人間だけど、同時に教団を倒そうとも思っているから」
「・・・どういう・・・事だ?」
訝しげな顔をする浩平。
「話せば長くなるんだけど・・・今はそれどころじゃないわ。あまり時間がないからね。あなたには信じて貰うほか無いんだけど」
申し訳なさそうに言う晴香。
だが、浩平は訝しげな表情を崩さない。
「何も言わずにあんたを信じろとは勝手な言いぐさだな」
「確かにね」
浩平の冷たいまでの口振りにそう答える晴香。
「でも・・・本当に時間がないのよ。今ここでこうやっているのですら無駄な時間なんだから」
そう言って晴香は腕時計を見た。
針は既に12時20分頃を刺している。
「時間がないわ。ここからじゃ間に合わないかも・・・」
青ざめる晴香。
「一体何がどうだって言うんだ?まるで話が見えないぞ」
浩平がそう言うと、晴香は青くなった顔を彼に向けた。
「倉田重工第7研究所に改造変異体が大量に投入されるのよ!あそこを壊滅させる為に!あなたにそれをとめて欲しいの!」
縋り付くように晴香が言う。
浩平はそんな彼女を見ながら、倉田重工第7研究所の事を思い起こしていた。
倉田重工第7研究所と言えば対未確認生命体専門の特殊対策チームを擁している事で有名である。その特殊チームが持っているPSKとか言う強化装甲服が今までに何度か未確認生命体を倒している噂もある。その噂は多分に眉唾物だと浩平自身思っているが改造変異体ぐらいなら充分倒せるだろう。教団の言う聖戦が既に始まっており、今までにその犠牲になった人が少なからずいると言う事を知っている浩平は、それら暗躍していた改造変異体を倒したのがそのPSKだと思っていた。
「そこには確かPSKとか言う奴がいたはずじゃないか。あいつで十分対処出来るだろ?」
浩平がそう言うと晴香は首を左右に振った。
「駄目よ!お兄ちゃんは・・・良祐達はもうレベル5の改造変異体の開発に成功しているんだから!」
「レベル5だと!?」
今度は浩平が驚く番であった。
今までで彼が知っている改造変異体はレベル4が最高であった。レベル5は未だ研究中であり、かなり苦労しているとも聞いていた。
「遂に・・・・出来たというのか?」
呆然と言う浩平に頷いてみせる晴香。
改造変異体はその出来によってレベルが変わってくる。レベル1では人間に毛の生えた程度、レベル2で怪人と呼ばれる怪力や超能力を持ち、レベル3になるとその能力は人間を完全に凌駕する。今までの最高レベルであるレベル4では改造変異体は人間と怪人と二つの姿を使い分ける事が出来、更にレベル3とは比べものにならない能力を持っているのだ。レベルが一つ上がるとその強さがおよそ3倍、いや、それ以上になる。それが改造変異体のレベルなのだ。
「レベル5・・未確認と同じくらいの強敵って可能性が高いな」
浩平はそう言うと、ブラックファントムを振り返った。
「・・・あんたを信じた訳じゃない。だが、真相を確かめる必要はある。レベル5が投入されているというなら尚更だ」
ヘルメットをかぶる浩平。
晴香は黙っていて何も言わなかった。
「次に会う時はちゃんと全部話して貰うぜ」
そう言ってブラックファントムを発進させる浩平。
頷き、晴香は浩平を見送った。
「こんなところで死なないでよ・・・あんたはまだ利用価値があるんだから」
小さい声でそう呟きながら。
 
<倉田重工第7研究所 11:57AM>
第7研究所所長室では倉田佐祐理が久瀬と真希の二人と対面していた。
佐祐理は所長用に用意された執務用の机に、久瀬はその正面にわざわざソファを移動させて座っている。真希はと言えばそんな久瀬のすぐ後ろに直立不動で控えていた。
「それで?」
佐祐理が笑みを浮かべてそう言う。
「それで、とはどういう事ですか、倉田さん?」
久瀬はやや不服そうに問い返す。
「私が言った事に対してそう言う返答を・・・」
「あなた方が言った事に対する返答は前にも言ったはずですが?何度も同じ事を言わないとわかっていただけないんですか、久瀬さん?」
久瀬の言葉を遮り、佐祐理はやはり笑みを浮かべたまま言う。だが、顔は笑っているが目は少しも笑っていず、更に言葉も棘だらけだ。余程彼の訪問を歓迎していないのだろう。
「なっ!!」
カッとなり思わず腰を浮かせる久瀬。
「あなた方のDS−01がどのように活動しようと一切構いませんと申し上げたと記憶していますが?佐祐理はここのスタッフが開発したPSK−03に自信がありますから」
そんな久瀬を冷ややかに見ながら佐祐理は続ける。
「実際PSK−03はこの間未確認生命体に対して充分の成果を上げましたわ。久瀬さん、あなたご自慢のDS−01は第24号はおろか第3号も取り逃がしたとか。この差は大きいと思いますが?」
「あれは!!」
頭に血の上った久瀬が言葉荒げに言おうとするのを制するかのように真希が一歩前に出た。静かに、落ち着き払って口を開く。
「警官の邪魔が入らなければ第3号を取り逃がす事などありませんでした。そして第24号が倒された時、DS−01はまだ調整中でした。仕方のない事だと思いますが?」
「そ、そうだ!DS−01はまだ完成して間もない!色々と調整しなければならない点があるんですよ!!」
真希に続けて久瀬が勢い込んで言う。
「それではいざという時の対応が遅れますよ、久瀬さん」
佐祐理は冷静なままそう返す。
「その為にあなた方がいるんです。あなた方、PSKチームは民間人の避難誘導を助け、敵を牽制する事がこれからの役目、そう心得て欲しいのですが?」
そう言ったのはまたも真希である。
この真希の言葉には佐祐理も驚いたようである。今まで浮かべていた笑みをやや強張らせて彼女を見る。
「・・・それは我々にあなた方の露払いをしろ、と言う事ですか?」
「そう受け取って貰って結構。何しろ我々は自衛隊、つまりは防衛庁から直々に未確認生命体に対する活動を命令されているのでね」
今度は久瀬が言った。しかも自信たっぷりに、である。
「これからは我々に任せて、倉田さん、あなたはゆっくりとしてくれればよろしいのですよ」
「・・・佐祐理達は警視庁と連携して行動をしています。悪いですがそう言うわけにもいきません」
毅然とした態度で佐祐理が言う。
「私達はあなた方とは違います。私達はあくまで未確認生命体の殲滅が最優先事項。民間人の避難誘導は警察、そして警察に協力しているあなた方の役割では?」
同じように毅然と言い返したのは真希である。
二人が無言で睨み合う。
その時だ、研究所中にサイレンが鳴り響いた。
佐祐理は机に備え付けの電話の受話器を取った。
「何事ですか?」
『み、未確認生命体の襲撃です!!』
それを聞いた佐祐理は思わず立ち上がっていた。
『相手は物凄い数です!!既に門を突破され・・・うわあぁぁぁっ!!』
受話器の向こう側で悲鳴が聞こえ、沈黙が訪れる。
それで全てを悟った佐祐理は受話器を戻すと、全館放送モードに切り替えた。
「PSKチーム、出動です!敵はここを襲ってきました!即刻対処願います!他の職員は皆シェルターに非難してください!!被害者をこれ以上出したくありません!急いでください!!」
それだけ言うと、佐祐理はまだこの部屋にいる久瀬と真希を見た。
「非難なされるならお早めに。こんな事もあろうとかシェルターの数は用意してありますから」
そう言って足早に所長室から出ていく佐祐理。
残された久瀬はやや青ざめたような顔をして真希を振り返った。
「ま、まさか、どうして?」
「・・・ここに装備一式を持ってきていたのは正解でした。私達の実力を見せつけるに絶好の機会だと思いますが?」
冷静に真希が言い、久瀬はそれで落ち着いたらしく、小さく頷いた。
「ひ、広瀬君、DS−01、出動だ!」
「了解です!」
真希が敬礼して所長室から出ていった。
その後を慌てて追いかける久瀬。
同じ頃、とある研究室では雪見が完成したばかりのPSK−03用新装備を見ながらKトレーラーに繋がる回線でKトレーラーにいるであろう留美達に連絡を取っていた。
「ええ、そう!第9研究室よ!そこにPSK−03用の新装備があるわ!北川君に何とかここまで来るように言って!!・・・ええ、頼んだわよ!!」
それだけ言うと、雪見は椅子に腰を下ろした。
「まさかここが襲われるなんてね・・・予想外の展開って奴?」
言ってから苦笑する。
「北川君が早いか、敵さんが早いか。あまりやりたい賭けじゃないわね、本当に」
彼女のすぐ側にあるモニターには次々と研究所内に入ってくる改造変異体の姿が映し出されていた。
「期待しているわよ、北川君」
 
<都内某所 12:42PM>
倉田重工第7研究所に向かう道を浩平はブラックファントムで飛ばしていた。
その気になれば時速350キロまで出せるスーパーマシンである。あっと言う間に距離を稼いでいたが、それでもまだ第7研究所までは距離があった。
「やれやれ、間に合うと良いんだがな・・」
そう呟き、更にスピードを上げるべく、アクセルを回そうとした時だった。
突如前方の地面が盛り上がり、アスファルトを突き破って不気味な姿が顔を見せたのは。
慌ててブレーキをかけ、タイヤを滑らし、白煙を上げながら停車するブラックファントム。
丁度不気味な姿が顔を覗かせたところから5メートル程離れた場所でブラックファントムは停止しており、向こうも停止したブラックファントムに気付いたようだ。のそのそと這い出してくる。
浩平はブラックファントムから降りると素早くヘルメットを脱ぎ捨てた。
「こんな時に!!」
今彼の目の前にいるのは未確認生命体、ロゲダ・ゴバル。オケラに似たヌヴァラグの怪人である。
「ゲッゲッゲ、ロサレジェ・マリヲミヲジャ」
嬉しそうに言うロゲダ・ゴバル。
左手首につけているリング状のものについている勾玉の数から既に何人かの被害者は出ているようである。今度は偶然ここを通りかかった浩平を獲物にしようと言うのだろう。
「テメェの相手をしている暇はねぇんだよ!さっさと片付けてやるから覚悟しろ!!」
浩平はそう言うと、自分の手を重ねて前へと突き出し、それをそのまま左の腰に引き寄せた。次いで右手だけをもう一度伸ばし、更にすぐ引き寄せる。そして首刀を立て、ゆっくりと前に突き出していく。
「変身っ!!」
ベルトが浩平の腰の辺りに出現、その中央が光を放つ。その光の中、浩平の身体が戦士・アインのものへと変わっていく。だが、そのアインはかつてのままであった。荒々しい姿のままのアイン。
「ウオオオオオッ!!」
左右の手首から鉤爪を立て、猛然と雄叫びをあげながらロゲダ・ゴバルに飛びかかっていくアイン。
 
<都内某所・廃倉庫? 12:51PM>
いつから使われていないのか、その倉庫の中はかなり埃っぽかった。
そんな床に一人の女性が寝かされている。
腕を後ろで縛られ、顔には目隠し、足は自由だが、身動き一つその女性はしなかった。
死んでいるのか、それとも眠っているのか。
と、そこに音もなく一人の老婆が出現する。
「なかなかしぶといの、秋子よ。どうやら冬美に精神攻撃に対する抵抗法を少しは教わったものと見える」
老婆がそう言うが床に寝かされている女性、水瀬秋子は何も言わない。いや、正確には何も言えない程彼女は消耗していたのだ。
囚われの身となった秋子を待っていたのは老婆による精神攻撃であった。彼女の精神を痛めつけ、最終的には洗脳する。それが老婆の目的であったようだが、秋子は頑強にその精神攻撃に抵抗を続けていた。
「お前の力は一族の中でもかなりのもの、出来れば殺さずに洗脳してやろうと思っておったがそこまで抵抗するなら仕方あるまい」
そう言って老婆がため息をつく。
「次なる宗主様の為にお前には死んで貰う事にするよ」
その言葉を聞いた秋子の体がびくっと震えた。
「もっとも楽には殺さん。お前は一族を裏切った。その報いは受けて貰うぞ」
冷たく言い放つ老婆。
そこに一人、また一人と人影が増えていく。
「葵、例のキリトとか言う男はどうした?」
老婆が人影の一つに聞く。
「例のおもちゃで遊びに行っているわ。場所は倉田重工第7研究所」
人影の一つ、皆瀬葵が答える。
「では真奈美、正輝は何処にいる?」
今度は別の人影に聞く。
「いるよ。正輝は私と何時も一緒だもん」
別の人影、皆瀬真奈美がそう言って笑みを浮かべる。確かに彼女の言う通り、彼女のすぐ後ろに影のように一人の男が付き添っていた。この男が山田正輝である。
「正輝、お主にやって貰いたい事がある」
「珍しいな。大婆様直々のご指名とは」
正輝がおどけたように言い、一歩前に出た。
「お主はこの男を速やかに始末してくるのじゃ」
老婆がそう言って一枚の写真を彼の方に向かって投げた。宙を舞う写真をすっと受け取る正輝。そこに映っていたのは相沢祐一の姿。
「こいつを?一体何者だい?」
「お主には関係ない。そのものは邪魔者だ。折原浩平、アインと同じくな」
正輝は老婆の言葉に肩をすくめた。
「それじゃ正輝、いこっか?」
真奈美がそう言って正輝の腕を取る。
「真奈美、お主にはやってもらわないと困る事がある。悪いが今回は正輝とは別行動じゃ」
「え〜〜〜〜〜〜〜」
真奈美は老婆に明らかに不服そうな態度を取って見せた。すると、老婆が彼女の方を向き、目を金色に光らせる。
「わ、わ、待った!待った!!大婆様、やる、やります!文句言いません!!!」
慌ててそう言う真奈美。
それを聞いた老婆が満足そうに頷いた。
「葵、正輝を」
「ハイな」
葵が正輝の側までやってくる。
「じゃ、頑張って頂戴」
そう言うのとほぼ同時に葵の目が金の光を帯び、正輝の姿がその場から消えた。
老婆はそれを見てまた頷き、床に倒れている秋子の方を見た。
いつの間にか秋子の側には秋子によく似た若い娘がいた。名雪である。彼女は自分の母親をまるで物でも見るかのように見下ろしながら呟いた。
「大好きだったよ、お母さん」
それは本当に小さな声。だが、秋子を絶望に落とし込むには充分すぎるものがあった。
名雪は秋子から離れると老婆の方までゆっくりと歩いてくる。
彼女の口元には小さな笑みが浮かんでいた。
 
<世田谷区多摩川玉川公園 13:03PM>
祐一はロードツイスターをとめ、ぼうっと空を見上げていた。
もう何をどうすればいいのか全くわからない。秋子の行方は以前つかめず、何処をどう探して良いやら検討もつかない。
困り果てたあげく、彼はぼうっと空を見上げているのであった。
あまりいい天気ではない。雲は厚く、何時雨が降ってもおかしくないような天気だ。
「・・とりあえずここでぼうっとしていても意味がないな」
そう呟いて立ち上がると周囲を見回し、大きく伸びをした。
闇雲でも何でも探さなければならない。
改めて決意し、ロードツイスターのミラーにかけていたヘルメットに手を伸ばした時だった。
「あ〜〜〜〜!!!やっと見つけたあぁぁぁぁ〜〜〜〜!!!」
いきなり大声でそう言われたのは。
振り返ると中型のバイクに一人女性が跨ってこっちに向かってきているではないか。しかも何となくその運転は荒っぽいように見える。それでもそのバイクの女性は祐一の手前まで来るとちゃんと止まって見せた。
「もう、随分探したんだから!一体何処行ってたのよ!!」
祐一に向かって文句を言いながらヘルメットを脱ぐ。
文句を言われている方の祐一は何がなんだかわからないまま相手の女性を見ているだけであった。
「久し振りね、祐さん!」
「あんた・・・天沢郁未!?」
驚いたような声を上げる祐一。
「何であんたがこんな所にって言うか、俺を探していたって?」
「そうよ、朝から随分探させて貰ったわ。さぁ、来て貰うわよ!」
郁未はそう言って祐一の上着を掴む。
「ちょ、ちょっと待った!」
祐一は郁未の手を振り払って彼女を見る。
「一体何なんだよ?いきなり現れて来て貰うって言われてもな・・・」
「時間がないのよ!もう始まっているかも知れないのに!!」
困ったように言う祐一を制して、本当に焦ったように言う郁未。
そんな彼女の様子を見て、祐一は何か不意に胸騒ぎを覚えた。
「一体何が・・・」
郁未が何をそんなに焦っているのか、それを問おうとすると、いきなり辺りにバイクのエンジン音が響き渡った。
祐一のロードツイスターはエンジンを切った状態であり、郁未の乗っているバイクはアイドリング状態でそんなに音がしない。聞こえてきたエンジン音はアクセルを全開にした時のものだ。
「何・・・?」
異様な雰囲気が二人を包み込む。
ごくりと唾を飲み込む郁未。
不意に彼女の脳裏を出てくる直前に出会った謎の少年の言葉がよぎった。
『相沢祐一に会うなら気をつけた方がいい。きっと君も巻き込まれるよ』
今の今まで全く気にもとめていなかった言葉を今になって思い出す。
郁未は祐一がカノンだと言う事を知っている。
それをふまえて巻き込まれると言う事は・・未確認生命体が現れると言う事か?
更にエンジンの音が高くなった。間髪をおかず一台のバイクが祐一達の方に向かって飛び出してくる。
「危ないっ!!」
祐一が叫んで、郁未の身体を掴み、そのまま地面へとダイブする。ほんの一瞬遅れて二人の上を一台のバイクのタイヤが通過していった。もし、あのままだったら、祐一が自分を助けてくれなかったらあのタイヤの餌食になっていただろう。そう考えると、郁未は冷や汗が流れるのをとめられなかった。
「な、何を・・・」
先に起きだした祐一がさっき飛び越えていったバイクをそのライダーを見て言う。
そのライダーは丁度かぶっていたヘルメットを脱いだところだった。サングラスをかけた若い男。彼は祐一の姿を見ると、上着の胸ポケットのかなから一枚の写真を取りだした。そして、その写真と祐一を見比べ、やがて写真を元通り、上着の胸ポケットに戻す。
「お前が相沢祐一だな?」
若い男がそう聞いてくるので祐一は頷いた。
「・・お前は・・・?」
そう問い返すと、男はにやりと笑い、両手を腰の前で交差させた。そこに浮かび上がるベルト。
それを見た祐一は驚愕のあまり何も言えなくなってしまう。
「べ、ベルト・・・まさか・・あいつも・・・?」
そう言ったのは未だ倒れたままの郁未だ。
彼女も驚きを隠し切れていない様子である。
男・・・山田正輝はゆっくりと右手を上に挙げ、続いて下に残していた左手と胸の前で素早く交差させると一気に左右に振り払った。
「変身っ!!」
次の瞬間、正輝の身体がフォールスカノンへと変身完了する。
「あ・・あれは・・・!?」
祐一は驚きのあまりそれだけ言うのが精一杯だった。
「まやかしの力のカノン・・・一体・・何?」
祐一と同じく郁未もそう言うだけで精一杯。
そんな二人に向かってフォールスカノンが一歩一歩迫ってくる。
「悪いが・・・お前には死んで貰う」
余りもの衝撃に動けない二人にフォールスカノンの手が伸びる・・・。
 
Episode.33「邂逅」Closed.
To be continued next Episode. by MaskedRiderKanon
 
次回予告
次々と迫る改造変異体に苦戦を強いられるPSK−03とDS−01。
そして遂に姿を見せる改造変異体レベル5,その猛攻に潤は耐えきれるのか?
真希「こんな事で・・・!!」
正輝「お前が俺に勝てるか!?」
ロゲダ・ゴバルとの戦いに苦戦するアイン。
そして祐一もフォールスカノンの猛攻に手も足も出ないのか?
祐一「何なんだよ、お前は!?」
潤「こ、こいつが・・・ブレイバーノヴァ・・・?」
炸裂する新兵器、ブレイバーノヴァ。
そしてアインに、カノンに起こる変化!
浩平「激変身ッ!!」
次回、仮面ライダーカノン「光刃」
それは悪夢の序章・・・!!

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