<品川埠頭 13:03PM>
「俺の邪魔を・・・するなぁっ!!」
カノンが叫びながら身体に巻き付いた触手をまとめてその触手の主・リソジ・ガバルを投げ飛ばす。
宙に弧を描き、地面に叩きつけられるリソジ・ガバル。
それを見たカノンは身体に巻き付いている触手をふりほどき、リソジ・ガバルに向かって走り出した。その右足が徐々に光を帯びていく。
「ウオオオオオッ」
雄叫びをあげながらジャンプするカノン。空中で身体を丸めて一回転し、光に包まれた右足を突き出す。
「ウオオリャァァァッ!!」
再び雄叫びをあげるカノン。
リソジ・ガバルはこっちに迫ってくるカノンを見ると素早く身体を縮めた。同時に吹き出す大量の水。その水は狙い違わずカノンに向かって飛び、カノンに直撃する。
「うわっ!!」
リソジ・ガバルが放った水流にカノンはキックの勢いを殺され、地面に落下してしまう。
素早く起きあがろうとするカノンの目の前でリソジ・ガバルはしわしわになった身体を隠すようにその場から逃げ始めた。どうやら身体に蓄えていた水分の大部分を先程放出してしまったらしい。このままではまともにカノンとは戦えないと言う事か。
「逃がすかっ!」
そう言ってカノンがリソジ・ガバルを追いかけようと走り出す。
と、その前に一台のバイクが停車した。そのバイクに乗っているのはメタリックシルバーの外装の強化装甲服DS−01。
DS−01は腰のホルスターから専用の銃を引き抜くとそれをカノンへと向けた。
「そこを動くな、第3号。私はPSKチームと違って甘くはない」
カノンは無言で動きを止める。
「おい、ちょっと待てよ!」
カノンと睨み合っているDS−01の後ろからライフルを手に持った国崎往人が言う。
「今は第3号よりも第24号の方が先じゃないのか?」
「この場にいる未確認生命体を倒す事が最優先事項だと思いますが?」
冷静な声で言い返すDS−01。
その声を聞いて国崎は驚いたような顔をした。
「お前・・・女か!?」
「女性で悪いか!!」
DS−01がそう言って国崎を振り返った。
「この非常時に男も女も関係ないだろう!?」
「た、確かにそうだな・・・」
DS−01の剣幕に国崎はまたも驚きを隠せずにいた。
彼としてはちょっとした事を言ったつもりだったのだが、ここまで反応されるとは。余程自分が女性であると言う事を気にしているのだろうか?
だが、その間にカノンは姿を消していた。
ある意味、国崎のやった事はカノンの助けになったようだ。
「しまった・・・第3号が・・」
DS−01はカノンが居なくなっている事に気付くと、国崎を睨むように彼を見た。だが、それもすぐにやめ、再びバイクを走らせ、その場から去っていった。
「何だったんだ・・・あいつは?」
去っていくDS−01の背を国崎はやや呆然としながら見送るしかできなかった。
 
仮面ライダーカノン
Episode.32「悲劇」
 
<品川埠頭 13:07PM>
カノンが必殺のキックをリソジ・ガバルの放った水流によって受け止められていたのと同じ頃、少し離れたところでは水瀬秋子とその娘、名雪がある程度の距離を置いて対峙していた。
名雪は緊張した顔をして秋子をじっと見つめている。
「名雪・・・あなたを殺しに来たわ」
先程、秋子は確かにそう言った。間違いなく、その口から。
それが何を意味するのか、わからない名雪ではない。
(お母さんは冗談であんなことを言う人じゃない・・・本気だ・・・)
ぎゅっと拳を握り込む名雪。
頬を汗が伝う。
秋子はいつもの笑みを浮かべてじっと名雪を見ながら身動き一つしない。正確には出来なかった。
(流石は次期宗主・・・物凄い力ね・・・)
互いに緊張の糸が張りつめていく。
その内、名雪はひどく頭の奧が痛むような感じを覚えた。視界がやんわりと歪み始める。呼吸も少しずつではあるが荒くなり始めていた。
「何で・・・何でお母さんが邪魔をするの!?」
絞り出すように言う名雪。
その目には涙すら浮かんでいる。
「私がやっている事は正しいのに!何で、お母さんは間違った人類の味方を、祐一と同じようにしちゃうんだよ!?」
名雪の悲痛な声を聞いた秋子の顔から笑みが消える。しかし、それはほんの一瞬の事で、今度は悲しげな笑みを浮かべ、名雪を見る。
「・・・あなたが・・・名雪の事が大好きだから・・・」
小さい声でそう言い、秋子はすっと右手を持ち上げる。
それを見た名雪の顔に緊張が走る。
「名雪には・・・幸せでいて欲しかった・・・一族の宿命とかそう言うものが関係ないように・・・」
言いながら秋子の目から涙が一筋、流れ落ちる。
「お母さん・・・!!」
「死になさい、名雪っ!!お母さんもすぐに行ってあげるから!!」
挙げていた右手を一気に振り下ろす秋子。
そこに生まれたのは見えない力によって引き起こされた衝撃波。それが一直線に名雪に向かう。
とっさに名雪は両手を左右に広げ、同じ衝撃波を自分の前に、壁のように発生させ、秋子の衝撃波を受け止める。
二つの衝撃波がぶつかり合い、一瞬、その場の空気をかき乱した。巻き起こる突風に二人の髪が舞い上がり、地面の埃も舞い上げ、互いの姿を見えなくする。
(流石と言うべきかしら・・・とっさに防御するなんてね・・・)
秋子は巻き起こる突風から顔をかばいながらも名雪が立っていた方向をじっと見つめている。彼女の周囲には第2,第3の攻撃を仕掛けるべく、見えない空気の固まりが渦巻いている。
(力はほぼ互角と見て良いわね・・・なら経験が多い分こっちが有利・・・)
冷静に分析を下す秋子。
その顔には躊躇いや、後悔など微塵もない。ただ悲しげな笑みを浮かべているだけ。
舞い上がった砂埃の向こうに人影が見えた。
「今度こそ!!」
そう言うと同時に秋子の周囲で渦巻いていた空気の固まりが小さな竜巻となって人影の方に向かっていく。
一方の名雪は舞い上がった砂埃を見ながらおろおろとしていた。
(お母さんは本気だ!本気で私を殺そうとしている!!)
それは彼女にとって物凄くショックであった。幼い頃から親子二人でずっと育てられてきた、最愛の母が、敵対するのみならず、自分を本気で殺そうとしている。最初の一撃こそとっさにはった防御の衝撃波で防ぐ事が出来たが、次からの攻撃を全て受けきれるかどうか自信はない。何しろ、母親は、秋子は、名雪にとって何一つ追い越せない最大の壁であったから。しかし、それ以上に名雪は秋子と戦いたく、殺し合いたくなかったのだ。だからどうすればいいのかわからず、ただおろおろするばかりなのである。
その名雪に向かって迫ってくる小さな竜巻。
気付くのが遅すぎた。今からでは防御の衝撃波を生み出す事すら叶わない。思わず目を閉じる名雪。
と、次の瞬間、竜巻がまさに名雪を吹き飛ばそうとした瞬間、彼女の姿がまるでそこになかったかのようにかき消えた。
「消えた!?」
秋子が突如姿を消した名雪に驚きの声を上げる。
だが、すぐに表情を引き締め、後ろを振り返った。そこにはダークブルーの強化装甲服を着た男とショートカットの女性が立っている。
「やっぱりあなたの仕業ね、葵?」
「まだお姫様を殺されるわけにはいかないからね。それに・・・秋子ねーさんに実の娘殺しをさせたくないってのもあるかな?」
ショートカットの女性、皆瀬葵はそう言ってニッと笑った。
秋子は無言で葵とその隣に立つ強化装甲服・PSK−02を見ると片手を振り上げた。
「出来れば邪魔はして欲しくなかったわ、葵」
そう言うのと同時に振り上げた手を振り下ろす。同時にPSK−02が葵の前に出た。目に見えない衝撃波がPSK−02を襲う。だが、PSK−02は少し後退しただけでその衝撃波に耐えきった。
「流石はPSK−02だ。あの一撃を受けても平気だとはな・・・」
PSK−02がそう言って腰のホルスターからマグナマシンガンを取り出す。
「次はこっちの番・・・」
そこまで言いかけて、PSK−02は身体が全く動かない事に気付いた。
「なっ・・・!?」
何が起きているのかPSK−02には全く理解出来なかった。わかっている事と言えば自分の方を見ている秋子の目が金色の光を強く帯びていると言う事。
「下手な手出しは身を滅ぼすと言う事を覚えておきなさい・・・」
冷たく言い放つ秋子。
その声に葵は冷や汗を流した。
「・・・キリト君、ここは引くわよ・・・」
「しかし・・・」
「お姫様は助け出してあるから大婆様に文句は言われないわよ。秋子ねーさん相手じゃ分が悪すぎるし・・・」
「・・・わかった」
PSK−02の返事を聞き、葵は秋子を見た。
「ねーさん、この場は引かせて貰うわ。でもねーさんがお姫様を狙うんだったら私達が相手になるってこと、忘れないでよ!」
それだけ言うと、葵はPSK−02の肩に手を置いて、一度目を閉じた。次にその目が開かれると、彼女の目は秋子と同じように金色の光を帯びており、同時に彼女たちの姿が消えていく。
二人が消え去った後、その場に残されたのは秋子一人。
少しの間、彼女はその場で身動きしなかったが、やがて空を見上げると、小さくため息をついて歩き出した。
 
<品川区天王洲アイル付近 13:09PM>
時間は少しさかのぼる。
PSK−03は空を自由に飛び回る鷹怪人に苦戦を強いられていた。
とにかくその動きは早い。手にしたブレイバーバルカンの照準をつけられない程に。特殊AIを起動させればそれなりに追いつくのであろうが、これは装着員である北川潤の身体にかなりの負担を強いるものであり、現状では使いこなせていない。
「くそっ!!」
地上にいるPSK−03を見下ろしながら鷹怪人は上空を自由自在に舞い、時折、急降下してPSK−03に攻撃を加えにきている。だが、その都度、PSK−03は物凄い反応を見せ、逆に攻撃を仕返しているのだ。だが、決定的なダメージを与える事が出来ない。
その様子をKトレーラー内のモニターで見ていた七瀬留美が急に別のキーボードを叩き始めた。
「七瀬さん?」
驚いたのは隣で彼女のサポートをしていた斉藤だった。
「こうなったら意地でもあの怪人を倒すわよ!斉藤君、君はとにかく北川君をサポートしていて!!」
留美はキーボードと別のモニターから目を離さずにそう言う。どうやら彼女、鷹怪人の動きの計算を始めたようだ。
その二人の後ろからモニターを覗き込んでいる深山雪見は真剣な面もちで鷹怪人とPSK−03の戦いを見ている。
「・・・これだったら別の新兵器を持ってくるべきだったわね・・・」
ぼそりと呟く雪見。
今回彼女が持ってき、更に装備させたのは接近戦用の新兵器である。この鷹怪人のようにヒットアンドウェイで来られてはほとんど役に立たないのだ。
「何とか接近戦に持ち込めればね・・・」
「無茶ですよ!あんなに素早い動きの相手に接近戦なんて!!」
雪見の呟きに悲痛そうな声で言ったのは斉藤。
「でもそうしないと勝ち目はないわ」
次いでそう言ったのは計算を終えた留美であった。
「どれだけ計算してもブレイバーバルカンであいつを狙い撃ちするのは不可能だったわ。なら接近したところに叩き込むしかない」
「でも接近すると言う事は・・・」
「一度以上の攻撃を受ける事になるわね。PSK−03の装甲は大丈夫?」
雪見が留美を見る。
「PSK−03を甘く見ないで欲しいわね」
そう言って頷く留美。
「北川君、奴を倒すには接近戦で仕留めるしかないわ!今度奴が接近してきたらブレイバーバルカンで攻撃しないで受け止めて!」
『わかりました!!』
潤の返事が聞こえてくる。
その時だ。鷹怪人がまた急降下を始めたのは。
「来たな!!」
潤は迫ってくる鷹怪人を見るとさっと左肩のシールドを前にし、受け止めようとした。
『あ、駄目っ!!』
不意に耳に飛び込んでくる雪見の声。だがもう遅い、鷹怪人の手がそのシールドに振り下ろされていた。
ガキィィンッ!!と言う金属音がし、PSK−03の体がその衝撃に震える。
「くそっ!この野郎っ!!」
潤がそう言った時だった。
左肩にマウントされているシールドが真ん中から左右にスライドしたのは。その中央部には鋭い槍のようなものが収められている。更にシールドの先の部分が前方にスライドし、まるでガイドのようになる。
「こ、これは?」
驚きの声を上げる潤。
『パイルバンカー。拳銃とかと同じ原理で射出する槍よ。それであいつを何処かに貼り付けにしてやりなさい!!』
雪見の説明が聞こえてくる。
「しかし・・これ接近戦用ですよね?」
『だから奴を引き付けて・・・』
「何をごちゃごちゃと言っている!!」
そう言って猛スピードで鷹怪人がPSK−03に向かってきた。
どうやら雪見との話に夢中でそれに気付かなかったようだ。潤はガイドの下に出たレバーを握ると、左腕を迫ってくる鷹怪人に向けた。
(出来る限り引き付けて・・・)
物凄いスピードで鷹怪人が迫る。それは今までで一番速い。あっと言う間に距離がつまってくる。それでも潤は、PSK−03は待った。
「死ねぇっ!!」
「喰らえぇぇっ!!」
鷹怪人とPSK−03が同時に叫ぶ。
バシュッと言う音と共に衝撃がPSK−03の左肩を襲った。射出された槍は鷹怪人がPSK−03の首をかき切ろうとしていた腕を貫き、鷹怪人をも吹っ飛ばしていた。
「ぐぎゃああああああっ!!!」
悲鳴を上げながら地面に落ち、のたうち回る鷹怪人。
それを見たPSK−03は地面に落としていたブレイバーバルカンを拾い上げ、素早くその照準をのたうち回っている鷹怪人につけた。
「これで・・・とどめだっ!!」
そう言って引き金を引こうとした時、突如物陰から何かが飛び出し、PSK−03の背中に体当たりを食らわせてきた。
いきなりの事に前のめりになって倒れるPSK−03。
「くっ・・なんだ、いきなり?」
そう言ってPSK−03が身を起こすと、そこには新たな怪人が出現していた。
『北川君、別の奴よ!気をつけて!!』
留美の声が届くが、潤はそれどころではなかった。
新たに現れたのは蟹のような姿の怪人で右手だけが巨大なハサミになっている。言うならばシオマネキ怪人だろうか?そのシオマネキ怪人が巨大なハサミを振り上げ、今にもそれを振り下ろそうとしていたのだ。
「うわっ!!」
慌てて地面を転がり、巨大なハサミをかわすPSK−03。
転がった勢いで素早く起きあがると片膝をついた姿勢のままブレイバーバルカンをシオマネキ怪人に向け、引き金を引く。秒間50発の特殊弾丸が吐き出されるが、シオマネキ怪人は巨大なハサミを盾にするかの如く前にやり、その特殊弾丸を全てはじき返してしまう。
「な、なんて堅いんだ!?」
思わず驚きの声を上げるPSK−03。
「ならパイルバンカーで!!」
そう言って左腕をシオマネキ怪人に向けるが、そのシールドにはもう槍はなかった。
「・・・あれ?」
『北川君、それまだ試作品だから装弾数1しかないの』
申し訳なさそうな雪見の声が聞こえてくる。
潤はPSK−03のマスクの中で苦笑を浮かべた。
とりあえず今の武装ではシオマネキ怪人に勝つ事は難しい。このままではやられるのを待つだけだが。
と、シオマネキ怪人は動かないPSK−03から鷹怪人の方に目を向けた。鷹怪人はまだのたうち回っている。
「貴様の相手はまた今度してやる。今は奴を回収する方が先だ」
シオマネキ怪人はそう言うとのたうち回っている鷹怪人を拾い上げた。
「この・・逃がすか!!」
そう言って立ち上がるPSK−03だが、シオマネキ怪人は素早く鷹怪人の翼から羽根を数枚取り、PSK−03に向かって投げつけた。
思わず腕でその羽根をはねのけるPSK−03。羽根はPSK−03の腕に触れると小さな爆発を起こした。よろけるPSK−03。
その間にシオマネキ怪人は鷹怪人を連れて姿を消していた。
PSK−03が体勢を立て直した時にはもうそこには誰の姿もない。
「くそっ!!」
潤が悔しそうに舌打ちをする。
 
<港区東京水上署付近 14:43PM>
国崎が車を走らせていると、道路の脇に見知った顔が人待ち顔で立っているのを見つけた。
「どうかしたのか?」
わざわざ車を止めて声をかけると、その青年、相沢祐一はむっとした顔を彼に向けた。
「どうしたんだよ、そんなむっとした顔して?」
「何なんだよ、あの銀色の奴は?」
「銀色?」
「俺に銃を向けてきた奴がいただろ?あいつの所為で第24号を逃がしたんだぞ!」
祐一が語気荒く言う。どうやら相当頭に来ているようだ。
「・・ああ、あれか」
国崎も祐一の言葉からようやく合点がいったようだ。
先程カノンと第24号が戦っているところに突如現れたDS−01の事を言っているのだろう。
「あれに関しちゃこっちも何も知らないってのが実情だな。倉田重工のPSKシリーズでも無さそうだし」
国崎がそう答えると、祐一は少し考え込むような仕種をした。
「倉田重工のPSKシリーズと言うと・・・・確か第7号とかの時の?」
「そうだ。あの時のはPSK−01,今はそれの強化型のPSK−03というのが俺たちに協力してくれている」
頷いて答える国崎。
「それより、第24号、どうだった?」
「・・・第7号と同じタイプだな。身体がやたら柔らかくてダメージらしいダメージが与えられた感じは無かった。触手もあるし、今度は第7号と違ってあの水流が厄介だ」
「ああ、見ていたよ。だが、あの水流を出した後第24号は逃げ出した・・・」
「多分あれは切り札的なものじゃないかな?体中の水分を全部放出するような」
「つまりは一回こっきりって事か・・・で、どうやるつもりだ?」
国崎の問いに祐一はにやりと笑って見せた。どうやらかなり自信があるようだ。
「奴はその性質上水辺でしか動かないだろうな。とにかく奴を内陸部に誘い込む。そうすればあの水流でキックを防がれてももう一回キックを叩き込めるだろ?必殺のキックならそのエネルギーであいつを倒せると思うんだ。どんなにあいつが柔軟な身体をしていてもな」
得意げに言う祐一だが、国崎の表情は晴れない。
「・・・そう上手くいけばいいけどな。あの銀色もまたお前を狙ってくるだろうし、いろいろと厄介事が多い」
険しい表情をする国崎につられたかのように祐一も表情を険しくする。
「とにかく俺は俺でやれるだけの事はやるつもりだ。お前も何とかやってくれ」
「それしかないな、今の俺たちじゃ」
互いに頷きあい、国崎は車で、祐一はロードツイスターでそれぞれ走り去っていった。
 
<都内某所 16:39PM>
水上に一人の男が浮かんでいる。
目を閉じ、身動き一つしないその男はまるで水死体のようですらあった。だが、時折瞼の下が動く事から死んでない事がわかる。
と、その男が目を開き、ザバッと右手を挙げた。
「・・・ガリブグ・ニシャガ・・・」
男はそう呟くと、にやりと笑った。
くるっと身体を反転させると、男は波をかき分け、陸地に向かって泳ぎ始める。その速度は並の人間のものではない。あっと言う間に陸地にたどり着いた男はびしょ濡れのまま陸地に上がり何処へともなく歩き出そうとして、足を止めた。
「ウリツヲショ・モヲチヂ・ニシェリヅマ」
びしょ濡れの男の前に切れ長の瞳の女性が立っている。その周囲には数人の男女がいて、同じようにびしょ濡れの男を見ている。
「大きな口を叩いていたが、その程度か?」
そう言ったのは腕を組みながら爪を噛んでいる男。
「サジャ・イガヲバ・ラヅ」
びしょ濡れの男がそう言ってそこにいる男女を睨み付けた。
「ノデミ・カノンザ・カサンニシャ」
「サシャカノンガ・・・」
忌々しげに呟いたのは青白い顔の男。
「リリヴァゲバ・ノゴサジェミ・ニド」
凛とした声がその場に響き渡り、その場にいた全員が振り返る。そこにいたのは美しいドレス姿の女性だった。
美しいドレス姿の女性はびしょ濡れの男をちらりと見ると、冷たく言い放った。
「ロサレミ・モゴナデシャ・イガオバ・ラサヂマリショ・ロソデ」
「クッ・・・」
びしょ濡れの男は悔しげな表情を浮かべると、足早にその場から去っていった。
黙ってその後ろ姿を見送る美しいドレス姿の女性。
 
<喫茶ホワイト 16:54PM>
「ただいま〜」
祐一がそう言ってドアを開けると、物凄くタイミング良く雑巾が彼に向かって飛んで来た。
「おお、命中だ」
何故か嬉しそうに言ったのはマスター。
祐一は見事に頭に命中した雑巾を手で取りながら半眼になってマスターを見る。
「何するんですか、マスター?」
「ただいまじゃないよ、祐さん。今日物凄く忙しかったんだから」
そう言ったのはウエイトレスの霧島佳乃である。
頬を膨らませて腰に手を当ていかにも怒っています、と言う感じで祐一を見ている。
「あ、そうだったんだ。ゴメンゴメン、ちょっと色々と用事があってさ」
祐一はそう言ってとりあえず空いているカウンター席に腰掛ける。
「用事ねぇ・・・全く、これじゃもう一人くらいバイトを雇った方がいいな」
マスターは言いながら洗い物を再開した。
「バイトを雇うんなら一人心当たりがあるけど?」
祐一がそう言うと、マスターが渋面を作る。
「お前が言うな、お前が」
「でも実際最近あまり手伝えてないからね。どうせそいつも暇しているだろうし、後で聞いてみるよ」
「・・・一応頼んでおくぞ」
マスターはそう言うと、祐一の前に水の入ったコップを置いた。
「そう言えば瑞佳さんは?」
「今日はお休みだよ〜」
祐一の質問に佳乃が答えた。
「なるほど、だから忙しかったわけだ」
納得する祐一を見て、佳乃がまた頬を膨らませる。
「祐さん、ひどい」
「冗談だよ、冗談。佳乃ちゃん、そう怒らないで」
慌てて佳乃のご機嫌を取ろうとする祐一。
ぷいと横を向く佳乃。両手をあわせて謝っている祐一。
その様子を見ながらマスターは平和だなぁと思っていた。世間では未確認生命体が出て大騒ぎとなっているが、少なくてもこの喫茶ホワイトの中は今までと変わらず、平和そのものである。
マスターがしみじみと平和をかみしめていると、電話が鳴った。
「はい、雪のように爽やかな・・・ああ、香里ちゃん?どったの?・・・祐の字?いるよ・・・ン、替わればいいの?」
マスターは受話器を取って話していたが、やがてその受話器を祐一に渡した。
祐一は受話器を受け取りながら首を傾げる。
「マスター、誰から?」
「香里ちゃん。何か物凄く慌てていたようだぞ」
「香里?」
更に首を傾げる祐一。受話器を耳に当てると香里の慌てたような声が飛び込んできた。
『相沢君、大変なの!大至急関東医大病院まで来て!!』
「イヤ、俺今戻ってきたばかりなんだけど・・・?」
『秋子さんがいなくなったの!とにかく早く来て!!』
「秋子さんが・・・!?わかった!!」
祐一はそう言って受話器を電話機に戻すと、さっと立ち上がった。
その表情には明らかな動揺が見て取れる。
「すいません、また出てきます!」
そう言うと、祐一は大急ぎでホワイトから飛び出していく。
飛び出していった祐一を呆然と見送る佳乃とマスター。
「・・・これは本当にあいつをクビにして新しいバイトを考えるべきかな」
ぼそりと呟くマスター。
とりあえず佳乃は苦笑を浮かべそれを聞かなかった事にした。
 
<関東医大病院 17:43PM>
秋子のいたはずの病室は確かにもぬけの殻になっていた。
今、その病室の中には祐一と美坂香里、その妹の美坂栞がいる。
「・・・栞が気がついた時にはもういなかったんだな?」
「・・・はい」
申し訳なさそうに頷く栞。
祐一はそんな栞の頭をくしゃくしゃと撫でてやった。
「お前が責任を感じる必要はないさ。本当なら・・・俺が止めるべきだったんだ」
そう言って祐一は香里の方を見た。
「香里、心当たり、無いよな?」
秋子が何処に行ったか・・・それさえわかれば彼女を止める事が出来る。だが、それを香里が知っているとは思えなかった。
彼の予想通り香里は首を左右に振り、知らないと言う意思表示をする。
「・・・でもわかる事があるわ」
やや間を開けてから香里が口を開く。
だが、それは言われなくても祐一にもわかっている事。だから黙って頷く。
「どうすれば・・・良いのかしら?」
ぽつりと呟く香里。
「あれから必死で古代文字の碑文の解析をしたけど水瀬一族についての記述はないわ。これじゃ・・・どうしたらいいのか・・・」
泣きそうな香里の声。
彼女は彼女なりに必死になっている。だが、その結果が出てこない。それが彼女を苦しめている。
「・・・お姉ちゃん・・・」
心配そうに姉を見る栞。その姿にはもうわだかまりなど無いように見える。
「やれる事を・・・やるしかないんだ、今は」
祐一はそう言って香里の肩に手を置いた。
「俺たちが自分の出来る事を精一杯やる。今はそれしかない」
「相沢君・・・」
香里が祐一の顔を見る。
「でもな・・・秋子さんにやらせちゃいけないんだよ!それだけは!」
不意に祐一が強く口調でそう言った。
「絶対に秋子さんを止めなくちゃならない。それが今の最優先事項だ」
「そうですね。よく解りませんけど、私も出来る事は何でもやります」
先に頷いたのは栞だった。
「自分の出来る事、ね。わかったわ。私も出来る事を精一杯やる。だから、相沢君、秋子さんの事は任せるわ」
香里はいつものきりっとした表情に戻ると、未だ肩におかれた祐一の手をやんわりと払いのけた。
「古代文字の碑文の中になにもない事がわかった以上、そっちは相沢君に任せる。私は早く古代文字の碑文を解読して未確認とかを何とかするから」
「ああ、そっちの方は頼んだぜ、香里」
祐一はそう言った香里に笑みを見せた。同じようにシニカルな笑みを返す香里。そんな二人を見ながら栞も頷いている。
「・・とりあえず栞。おまえに頼みがあるんだが?」
何かを思いだしたかのように祐一は栞を見た。
「私に出来る事なら喜んで!」
嬉しそうに言う栞。
 
<喫茶ホワイト 19:04PM>
憮然とした表情で栞はテーブルを拭いていた。
「・・・何で?」
「栞ちゃん、次はこっちお願い〜」
佳乃が栞を呼ぶ。
「はいは〜い」
栞は営業用の笑顔を浮かべて彼女を振り返った。
 
<倉田重工第7研究所 19:32PM>
留美と雪見はモニターに映し出されているPSK−03とシオマネキ怪人との戦いを無言で見つめていた。
現状ではおそらく最高の破壊力を持つブレイバーバルカンのガトリングモードですら歯が立たなかった強敵。その弱点を探す為に今、二人は必死であった。
「・・・ブレイバーバルカンはこれ以上強化出来ないわ。銃身が持たないし、反動を押さえ込めなくなるからね」
雪見が手に持ったクリップボードに挟んでいるファイルを見ながら言った。
「パイルバンカーに関しては改良中。せめて装弾数を2にしたいからね」
ファイルをめくりながら雪見が言う。
「他に開発している武装は?色々とやっていると聞いていますけど?」
同じクリップボードに挟まれたファイルを見ている留美が尋ねると、雪見は苦笑した。
頭をかきながら雪見は困ったような笑みを浮かべる。
「まぁね。確かに色々とやっているのは事実だけど、実際効果の上がっているものはそれほど無いのよ。パイルバンカーもようやくテストが終わったばかりだし、他のは・・・」
「海のものとも山のものともつかないって事ですか?」
明らかに落胆した様子で留美が聞くと、雪見は頷いた。
「ゴメンねぇ、PSK−03の開発始まった頃から色々とやっていたんだけどブレイバーバルカンに手間取っていたから」
そう言って両手をあわせる雪見。と、そこにお茶の入ったコップを持った倉田佐祐理が姿を見せた。
「ご苦労様です。どうですか、調子は?」
佐祐理がそう言って二人にコップを渡す。
「ありがとうございます、所長にこんな事をさせてしまって」
留美がコップを受け取りながらそう言う。
「良いんですよ。佐祐理に出来る事はこれくらいですから。で、どうですか?」
笑みを浮かべながら言う佐祐理。
だが、二人の顔を見て、その笑みもすぐに消えてしまう。
「あまり思わしくないようですね」
「すいません。所長にはこれだけして貰っているのに成果を上げられなくて」
留美がそう言って頭を下げると、佐祐理は慌てて手を振った。
「何を言っているんですか。皆さんがよくやってくれている事は解っています。必ず結果はついてきます!だから頑張りましょう!」
佐祐理にそう言われて、二人は苦笑を浮かべるしかなかった。
同じ頃、潤は研究所内に作られたトレーニングルームで一人黙々とトレーニングに励んでいた。
時間に余裕のある時は何時もこのトレーニングルームで体を鍛えている。それはPSK−03装着員として当たり前の事だし、それに何より、鍛えている間は何も考えずにいられるからだった。
「・・・次は・・・負けない」
そう呟き、腹筋を続ける潤。
 
<中央区晴海埠頭 10:20AM>
客船ターミナルの方に向かって一人の男が急ぎ足で歩いていた。
その男をじっと見つめているドレッドヘアの男が一人。
「イガヲザ・マリ・ギャシュジャ」
ドレッドヘアの男はそう呟くとダッと駆け出し、男の後ろから飛びかかった。
いきなり飛びかかられ、押し倒された男が振り返ると、その目の前でドレッドヘアの男はその正体をあらわにした。
未確認生命体第24号リソジ・ガバルである。
「う、うわああああああっ!!」
悲鳴を上げ、逃げようとする男だが、その足に触手が巻き付き、逃がさない。
触手は男の首に素早く巻き付き、一瞬で男の首の骨を砕いてしまう。
リソジ・ガバルはぐったりとなった男の身体から触手を離すと止まっている客船に目を向け、にたりと笑う。
 
<都内某所(路上) 11:03AM>
未確認生命体第24号出現の報に警視庁未確認生命体対策本部の刑事達は一斉に出動していた。勿論、国崎もその中にいる。
「祐の字、聞こえるか?」
祐一のロードツイスターに取り付けられている無線に繋がる専用回線で呼びかけると今回はすぐに返事が返ってきた。
『聞こえているよ。何か用か?』
「第24号が出た。今回は晴海埠頭の客船ターミナル辺りだ」
『了解、すぐに向かうよ』
祐一からの返事は短く、それきり国崎が呼びかけても彼は返事をしなかった。
その祐一であるが、昨夜からずっと秋子を捜しており、丁度国崎からの連絡があった時、豊洲付近のコンビニエンスストアの前で休憩していたところだった。
「晴海か・・・近いな」
そう呟くとミラーにかけてあったヘルメットをかぶる。
「未確認が出たって事は・・・今度も来るな。だとしたら・・・」
きっと秋子もその場に姿を見せるだろう。
第24号を倒すのに時間はかけられない。一刻も早く第24号を倒し、秋子を止める。そう、名雪と顔をあわせる前に。
祐一はロードツイスターのエンジンをかけると一気にスタートさせた。軽く前輪を浮かせ、ロードツイスターが走り出す。
未確認生命体第24号が現れたと言う晴海客船ターミナルはすぐ目と鼻の先である。ここからなら10分もかからないだろう。
「変身っ!!」
アクセルを回しながら叫ぶ祐一。腰にベルトが浮かび上がり、その中央が光を放つ。その光の中、祐一の姿は戦士・カノンへと変わり、同時にロードツイスターもカノン専用マシンへと姿を変える。
ロードツイスターが更にスピードを上げ、第24号の出現ポイントへと急いだ。
 
<倉田重工第7研究所 11:06AM>
未確認生命体第24号出現の報はすぐに倉田重工第7研究所にも伝えられていた。
慌ただしくPSKチームの面々がKトレーラーに集まってくる。
「すいません、遅れました!」
一番最後にやってきた潤がそう言って頭を下げる。
「遅いわよ、北川くんっ!!」
留美がそう言って先にKトレーラーに乗り込んだ。どうもあまり機嫌が良くないようだ。
それを感じ取った潤は無言でKトレーラーに乗り込んだ。
最後に斉藤が乗り込み、ドアを閉じる。
Kトレーラーが第7研究所から発進していくのと同じ頃、所長室では佐祐理がある人物からの電話を受けていた。
「そうですか。どうぞそちらはそちらでご自由にやっていただいて一切構いませんよ・・・ええ、こちらはこちらで確固たる自信がありますから。では、お話はこれで終わりですね?」
佐祐理はそう言って会話を一度切る。
「ではこれで切りますよ・・・ええ、久瀬さん、あなた方のDS−01の活躍、期待しておりますわ」
それだけ言って受話器を置き、彼女はため息をついた。
彼女の頭を悩ませる問題がまた一つ増えそうだ。
 
<中央区晴海埠頭 11:14AM>
かつて国際展示場のあった場所のすぐ脇の道路を疾走するロードツイスター。その頭上には三本角の聖鎧虫が飛んで来ていた。だが、カノンにはそれに構っている余裕はない。
カノンの前方にパトカーが見えてきた。
警官隊が遠巻きに客船ターミナルを囲んでいるようだ。
「あそこか!!」
カノンがアクセルを回し、更に加速するロードツイスター。
ジャンプしてパトカーと警官隊を飛び越えたカノンは着地すると真っ直ぐに客船ターミナルに突っ込んでいった。後ろで警官達が騒いでいるがそんな事は一切無視、ギリギリまでロードツイスターを近づけ、停止させると第24号リソジ・ガバルの姿を探す。
「・・・船の中か!?」
さっと停泊している船を見上げ、カノンはロードツイスターから降り、走り出した。
「フォームアップ!!」
走りながらそう叫ぶと、カノンの身体が青くなった。そして地を蹴ってジャンプし、船に飛び乗る。
甲板に片膝をついて着地するカノン。と、そこに振り下ろされる触手。
甲板を転がって触手の一撃をかわしたカノンは素早く起きあがり、振り返る。そこにはリソジ・ガバルが立っていた。片腕には船員らしい男を抱えている。
「ロノガッシャマ・カノン」
リソジ・ガバルはそう言うと船員を投げ捨てカノンに向かって左右の触手を振り上げ、攻撃してきた。
「ゴモサレモ・ガヂン・ガレニシェ・ギャヅ!」
言いながら次々に触手を繰り出すリソジ・ガバル。
カノンは大きく後ろにジャンプしてその触手をかわし、着地すると同時に近くに立てかけてあったモップを手にする。すると、カノンのアームガードにはめ込まれている宝玉が光り、モップを青き力を秘めたロッドへと変化させた。ロッドの両端がすっと伸び、その長さを増すと、カノンはそれを構え、リソジ・ガバルを見た。
「これ以上お前らの好きにはさせない!!」
そう言ってリソジ・ガバルに飛びかかるカノン。
同じ頃、そのすぐ近く、晴海埠頭公園内に秋子の姿があった。
彼女は表情を引き締め、じっと誰かが・・・名雪が現れるのを待っている。
「名雪・・・早く来なさい」
空を見上げながらそう呟く秋子。
 
<都内某所・教団支部 11:21AM>
その男は苦々しげな表情を隠さず、目の前に立っている男の報告を聞いていた。
「高槻め・・・勝手な事を・・・」
報告を終えた男は無言で立っている。
「それでB−11はどうした?」
「改造手術が終わった後、復讐すると言って出ていったぜ」
そう言って一人の男がその部屋に入ってきた。やせぎすの、何処か神経質そうな眼鏡をかけた男。
「高槻・・貴様・・・」
入ってきた男、高槻を睨み付ける。
「巳間、お前には悪いが俺はもうレベル5に手が届いたぜ。B−11の強化改造はその応用に過ぎないからな」
自信たっぷりに高槻がそう言い、嫌みったらしい笑みを浮かべる。
巳間、と呼ばれた男は渋面を作り、もう一人、黙っている男を見ると、出ていくように目で命令した。
「では失礼いたします」
そう言って一礼してからその男が部屋を出ていく。
「で、高槻博士。わざわざその事を報告に来たのかな?」
巳間はそう言って高槻を睨み付けた。
「レベル5に手が届いたのは君だけではない。鹿沼君ももう手が届いたと言っているし、私もまた然りだ。今はそれ以上のものを生み出す事が我らの課題だと思うが?」
嫌味を込めて言う巳間だが、高槻は気にした様子はない。
「それよりも、だ。巳間、お前は俺と同期だよな?」
急に親しげに話しかけてくる高槻。
巳間は嫌悪感を露わにしながら彼を見る。
「少しの間俺を自由にしてくれないか?研究に没頭したいんだ」
「何を言う。今でもお前は自由に研究を・・・」
「そうじゃない。ここじゃない、あの研究所に行かせて欲しいんだよ、俺は」
「・・・何故だ?研究の為に設備はここでも・・・」
訝しげな顔をする巳間。
高槻が何を考えているのかまるで読めない。
「お前の言うそれ以上のものの為だよ。俺は俺で実験してみたい事があるんでな。何、スタッフは俺が何時も使っている連中だけでいい。頼むよ」
そう言って高槻が巳間に向かって手を合わせる。
「・・・勝手にしろ。お前は何時もそうやってきただろう?」
巳間はそう言うと高槻を追い払うように手を振った。
「ああ、それじゃ勝手にやらせて貰うぜ。支部長さん」
高槻はそう言うと、すぐに部屋から出ていった。口元ににやりとした笑みを浮かべつつ。
「ああ、そうだ。一つ忠告しておいてやるよ。倉田重工、特に第7研究所は聖戦の邪魔になる。早めに潰しておいた方がいいぜ」
ドアを閉める直前に高槻は中に向かってそう言った。
巳間がそれを聞き逃すはずがないと確信出来る。
そして彼の予想通り、確かに巳間はそれを聞いていた。
「倉田重工第7研究所・・・PSKチームの本拠地か」
静かに呟く巳間。
先程の男の報告にもあった。
B−11、鷹怪人にあれほどのダメージを与えたのはカノンやアインではなく、倉田重工が誇る強化装甲服PSK−03であると言う事が。
「厄介事の芽は早めに摘んでおいた方がいいと言う事だな・・・」
そう呟いて、冷酷な笑みを浮かべる巳間。
 
<中央区晴海埠頭 11:24AM>
客船ターミナルのすぐ横に停泊している船上ではカノンとリソジ・ガバルとの戦いが続いていた。
警官隊も、到着したばかりの未確認生命体対策本部の刑事達もそれを見ていることしかできない。その中には国崎の姿もあった。
「くそ、船の上じゃどうしようもないか・・」
悔しそうに船を見上げる国崎。
そこにKトレーラーが到着した。その中からPSK−03が降りてくる。手にはブレイバーバルカンを持ち、左肩には前回の出動時に使用したパイルバンカーを装備している。勿論標準装備であるブレイバーショットは腰のホルスターに、左の二の腕には電磁ナイフ。
PSK−03は完全装備のまま、警官隊の間を抜け、客船ターミナルに入っていく。
「相手は船の中、第24号と第3号が交戦中。気をつけてください!」
警官の一人がそう言って敬礼する。
それに頷き、PSK−03はターミナルから船の方へと歩を進める。甲板まで出てくると、第3号カノンが第24号リソジ・ガバルの触手を手に持ったロッドで払い除けているところだった。
「目標確認!これより戦闘モードに入ります!」
『北川君、PSK−03の実力、見せてやりなさい!』
留美の声を聞きながらPSK−03が走り出す。
ブレイバーバルカンを第24号に向けながら引き金を引いた。秒間50発、特殊弾丸が次々と吐き出されていき、第24号に命中していく。だが、特殊弾丸は第24号の体表に受け止められ、無力化されて甲板上に落ちていくだけで、ダメージらしいダメージは与えられない。それでも命中時の衝撃に第24号がよろめいた。
それを見たカノンがロッドを甲板に突きたて、そこを支点にしてジャンプし、リソジ・ガバルにキックを喰らわせた。吹っ飛ばされ、甲板を転がるリソジ・ガバル。
着地したカノンはロッドを構え直すと、再びジャンプ。空中からロッドを突き出そうとした。
その時、突如空の彼方から何かが猛スピードで突っ込んできた。
それはカノンを吹っ飛ばすと、一度大きく旋回して、甲板上に着地した。
「お前は!!」
PSK−03が驚きの声を上げる。
そこにいたのは鷹怪人だった。前回の戦いで傷付いた腕は金属製のものになっており、身体のあちこちにも機械が埋め込まれている。
「貴様を・・・殺す!!」
鷹怪人はそう言うと猛然とPSK−03に飛びかかってきた。
すかさずブレイバーバルカンを構えようとするが、それより早く鷹怪人が迫り、その手からブレイバーバルカンを弾き飛ばしてしまう。
「しまったっ!」
PSK−03がそう言った瞬間、鷹怪人の手がPSK−03の肩を掴んだ。そして力任せにPSK−03を振り回し、投げ飛ばす。
投げ飛ばされたPSK−03が甲板の端のフェンスに叩きつけられ、火花を散らした。
そこに鷹怪人が突っ込んでくる。
「くそっ!!」
PSK−03が素早くブレイバーショットを引き抜いた。
「お前なんかに・・・負けるかよぉっ!!」
叫びながら引き金を引く。
特殊弾が突っ込んでくる鷹怪人に直撃するが、鷹怪人は止まらない。金属製の腕を振り上げ、PSK−03に向かってくる。
PSK−03はギリギリまで鷹怪人を引き付けていたが、とっさに身体を屈めてその腕による一撃をかわすと鷹怪人の脇腹に膝蹴りをお見舞いした。よろける鷹怪人。そこに至近距離からの特殊弾を叩き込もうとする。
カノンはリソジ・ガバルの触手をかいくぐり、何とか接近を果たしていた。がら空きのボディにパンチを何発も叩き込むが、その柔らかいボディにはダメージを与えられない。必殺の武器である青いロッドはここまで来る途中に捨ててきてある。あの長さがリソジ・ガバルの懐に入るのに邪魔になったのだ。
「くそっ!!」
カノンは毒づくと鋭い蹴りをリソジ・ガバルの腹に叩き込み、素早くその場から脱出する。
さっとリソジ・ガバルとの間合いを取り、カノンは身構えた。
(何とか地上に引きずり降ろさないと・・・)
よろけていたリソジ・ガバルが態勢を整え、カノンめがけて触手をまたも振り上げた。
振り下ろされる触手をかいくぐり、カノンは何とかリソジ・ガバルに接近しようとするが今度は上手くいかない。
リソジ・ガバルは右、左とコンビネーションを活用しカノンを近寄らせないのだ。と、カノンの左手首に触手が一本巻き付いた。
「シャシャシャ・・・シュガサ・レシャオ・カノン!」
笑いながら言うリソジ・ガバル。
カノンは身体を引き寄せられないよう必死に足を踏ん張っている。
あざ笑いながらカノンを引き寄せようとするリソジ・ガバル。
「くう・・・」
少しずつカノンの身体がリソジ・ガバルの方へと引き寄せられていく。
一方PSK−03は鷹怪人に向けていたブレイバーショットを弾き飛ばされていた。あまりにも素早い反応。PSK−03は、イヤ、装着員である潤はそれに追いつけなかった。
「なっ!?」
驚いている間にも鷹怪人は立ち上がり、PSK−03のボディに金属製の腕を叩き込む。
「ぐはっ!!」
吹っ飛ばされるPSK−03。
甲板に叩きつけられるが、それでも何とか起きあがろうとする。だが、そこに鷹怪人がやって来、PSK−03の背を踏みつけた。
「この腕の恨み・・・ここで晴らさせて貰うぞ」
鷹怪人がそう言い、ゆっくりと腕を振り上げる。
「・・・七瀬さん、AIを起動させてください!」
『北川君!?』
「こいつに勝つ為にはそれしかないっ!!」
潤の声は必死だった。
今まで幾度と無く苦汁を飲んできた。未確認生命体に勝てない。まともに倒せたのは一体だけ。このPSK−03でも成果が上げられない。しかもAIと同調すら出来ない。それでも。
『・・・わかったわ。北川君、AIを起動させるから・・・必ず勝ちなさい!!』
留美が力強い声で言う。
『そこの鷹の化け物に言ってやりなさい!これ以上好きにやらせないってね!』
その声と共にPSK−03のマスク内のディスプレイが赤く染まる。
「ウオオオオオッ」
雄叫びをあげてPSK−03は手を地面について起きあがった。その拍子に足でPSK−03の背を踏みつけていた鷹怪人がバランスを崩して倒れてしまう。
立ち上がったPSK−03は左腕から電磁ナイフを引き抜くとそれを逆手に持って鷹怪人に振り下ろす。
ガキンッと言う金属的な音がして電磁ナイフを鷹怪人は金属製の腕で受け止めた。だが、PSK−03はその鷹怪人に蹴りを食らわせ、吹っ飛ばしてしまう。今度は鷹怪人がフェンスまで吹っ飛ばされてしまっていた。
それを見るとPSK−03は甲板上に転がっているブレイバーバルカンを拾い上げた。
鷹怪人がまだ態勢を整えられないうちに狙いをつけ、引き金を引く。秒間50発の特殊弾丸が鷹怪人を襲った。その動きには一つも澱みが無く、スピーディだった。
「うおおおおおおっ!!」
潤の雄叫びと共に連続して叩き込まれていく特殊弾丸。
為す術もなく、それを受け続ける一方の鷹怪人。
やがてブレイバーバルカンの弾倉が空になり、ガトリングシリンダーが空回りを始めると、素早くトリガー脇のボタンを押す。するとガトリングシリンダーの中央部に空洞が現れ、そこからグレネード弾が覗いた。ブレイバーバルカンをしてPSK−03最強の武器と言わしめているのはこのグレネード弾によるところもあるのだ。
「これで、とどめだぁっ!!」
素早くセイフティロックを解除、グレネード発射ボタンを押す。
発射されたグレネード弾が真っ直ぐに鷹怪人に向かって飛んでいき、鷹怪人に直撃、爆発を起こした。
その爆発を見ながら、潤は荒い息をしていた。
「ハァハァハァ・・・やった・・・のか?」
ブレイバーバルカンの銃口を降ろし、目の前の爆炎と煙を見る。そこに鷹怪人の姿はない。完全に倒してしまったようだ。
それに気付いた潤は思わず両手を上に挙げていた。
「やった!俺はやったぞぉっ!!」
PSK−03が勝利を上げる少し前、カノンはリソジ・ガバルと睨み合っていた。
左手首に巻き付いた触手はぐいぐいと手首を締め付けている。更にはその距離も徐々に縮まっていた。
(このままじゃまずい・・こうなりゃ・・・一か八か・・・)
覚悟を決めるカノン。
一歩間違えれば自分の身も危うい。しかし、死中に活あり。危険な賭けではあるがやるしかない。
「行くぞ!フォームアップ!!」
そう言いながらカノンはリソジ・ガバルが引っ張る力に抵抗せず、逆にそちらの方に向かって走り出した。その為、リソジ・ガバルが思わずよろけてしまう。
「おおりゃあぁぁっ!!」
雄叫びをあげながら突っ込んでいくカノン。
肩からリソジ・ガバルにぶつかっていき、そのまま甲板の一番端、フェンスの所まで行く。イヤ、そこでも止まらない。そのままフェンスを突き破ってカノンとリソジ・ガバルは地面に向かって落下していく。
「来い!」
カノンがそう言って手を伸ばすと、そこに聖鎧虫が飛んで来てカノンの手を掴んだ。
リソジ・ガバルはそのまま地面へと落下し、叩きつけられている。
それを見ながらカノンは聖鎧虫を降下させ、地面に降り立った。そしてすぐに停めてあるロードツイスターに駆け寄る。
「あいつをもっと奧に連れていかないと!」
この位置ではまた逃げられる可能性がある。
アクセルを回し、エンジンを吹かすカノン。その場でターンしてよろよろと起きあがるリソジ・ガバルに向かって突っ込んでいく。
その時、聖鎧虫がまた飛び上がり、ロードツイスターの真上でいきなりその身体を分解させた。分解したパーツはまるで意志があるかのようにロードツイスターを覆っていく。それはまるで鎧のように。
カノンは驚きながらそれを見ていたが、それでもアクセルをゆるめることはなかった。
「これが・・香里の言っていた馬と一体になるって事か!?じゃ大いなる力って言うのは・・・」
何時か香里が聖鎧虫について解読できたことを教えてくれていた。
『聖なる鎧の虫、戦士の馬と一体になり、大いなる力を示せ』
それが今ここに具現化する!
ロードツイスターのカウル部分には例の三本の角。その丁度三角形を描いた角の先端部分にスパークが走る。そこから溢れ出る光の粒子が聖鎧虫と合体したロードツイスターを包み込んでいく。
それはさながら光の弾丸。
それを見たリソジ・ガバルは頭から水流を放射するが全く効果はなかった。全てその表面に弾かれてしまう。
「ウオオオオオオッ!!」
カノンの雄叫びと共に光の弾丸と化したロードツイスターがリソジ・ガバルに襲いかかった!
猛スピードで跳ね飛ばされるリソジ・ガバル。
宙を舞い、地面に叩きつけられるリソジ・ガバルを背にカノンはロードツイスターを減速させ、停止させた。
振り返ると、リソジ・ガバルは体中に巨大な古代文字を浮かび上がらせて、もがき苦しんでいる。
「グ・・・ググ・・・サナガ・・・ゴモロデザ・・・」
そう言ったリソジ・ガバルの全身に浮かび上がった古代文字から光のひびが全身に走り、次いでリソジ・ガバルが爆発四散した。
爆発とそこから上がる煙を見届けたカノンは聖鎧虫が合体したままのロードツイスターを再び走らせ始めた。
事の成り行きをじっと見守っていた警官達が慌てて道を空ける。誰もカノンを止めようとはしなかった。出来なかった。
そのまま走り去っていくカノン。
 
<中央区晴海埠頭公園 12:05PM>
爆発の音が二度聞こえてきていた。
だが秋子は表情一つ変えない。
目の前にいる娘もそうだ。
二人は互いに睨み合ったまま対峙している。
「また・・・やられたようね。流石はカノンという所かしら?」
静かに秋子が言う。
このまま睨み合っているだけでは埒があかない。相手の動揺を誘う、もしくは相手の動きを誘うべく声をかけてみたのだ。
「・・・私達があの場にいればそうはさせなかったよ。カノンでも、アインでも・・・それに・・・お母さんでも」
名雪も静かに返してきた。
「お母さん、考え直さない?今ならまだ間に合うよ?」
「考え直す気はないわ。名雪、あなたを殺して・・・お母さんも死ぬから」
にっこりと笑って秋子は言う。
だが、その笑顔は何処までも悲しげだ。
「・・・そう」
名雪はそう言って俯いた。
「本当に残念だよ。邪魔をするなら・・・お母さんでも、殺しちゃうよ?」
そう言って名雪が顔を上げる。
そこに浮かぶ邪悪な笑み。
はっと秋子が後ろを振り返ろうとした時、何者かが彼女に当て身を喰らわせた。
その一撃であっさりと気を失ってしまう秋子。
ぐったりとなった彼女を抱きかかえたのは山田正輝だった。
その側には皆瀬真奈美の姿もある。
「それじゃ行こうか。邪魔者は早く始末するべきだもんね」
名雪がそう言って二人を促す。
黙って頷く正輝と真奈美。
三人はそのまま秋子を連れて何処かへと消えていった。
 
Episode.32「悲劇」Closed.
To be continued next Episode. by MaskedRiderKanon
 
次回予告
消えた秋子を捜す祐一の前に現れた一人の男。
その男の名は折原浩平。
浩平「俺と勝負しないか?」
雪見「予想外の展開って奴?」
教団の魔手が倉田重工第7研究所に伸びる。
次々と襲い来る改造変異体に立ち向かうPSK−03。
真希「私達はあなた方とは違います」
名雪「大好きだったよ、お母さん」
運命が運んでくるのは悲劇か?
そして祐一に襲いかかる謎の影!
祐一「・・お前は・・・!?」
次回、仮面ライダーカノン「邂逅」
それは悪夢の序章・・・!!

BACK
NEXT
本・漫画・DVD・アニメ・家電・ゲーム | さまざまな報酬パターン | 共有エディタOverleaf
業界NO1のライブチャット | ライブチャット「BBchatTV」  無料お試し期間中で今だけお得に!
35000人以上の女性とライブチャット[BBchatTV] | 最新ニュース | Web検索 | ドメイン | 無料HPスペース