<香里の住むマンション・屋上 18:14PM>
降り出した雨の中、マンションの屋上を走る影がある。
その影こそ倉田重工の誇る対未確認生命体駆逐用強化装甲服PSK−03”ベルセルガ”であった。
手に持っているのは大型ガトリングマシンガン、ブレイバーバルカン。対未確認生命体用に開発されたPSKシリーズ用の武器で、秒間50発の特殊弾をガトリング部から発射、更にはガトリング部の中央からはグレネード弾の発射も可能。PSK−01ではその発射時の反動に耐えられなかったがPSK−03は違う。完全にこの武器を扱いこなしていた。
「そこか!?」
さっと振り返り、ブレイバーバルカンの銃口をその方向へと向ける。同時に素早く引き金を引く。
ダダダダダッと発射される特殊弾。
だが、それが狙った相手に命中する事はなかった。
相手はそれよりも素早い動きで物陰へと隠れてしまう。
「くっ!!」
舌打ちするのはPSK−03の装着員である北川潤。
「やはりAI無しじゃ追いつけないのか?」
焦ったように呟く潤。
今PSK−03は搭載されている特殊AIのサポート無しで、つまりは潤のみで起動している。ブレイバーバルカンの照準など、全て潤がマニュアルでやっているのだ。それだけに敵の動きに反応しきれない事もあるのだ。
「七瀬さん、AIの起動をお願いします!!」
マスクに内蔵されている無線で自分をサポートしているPSKチームのリーダー、七瀬留美に呼びかける。
彼女は今、マンションの下、駐車場に止めてあるKトレーラーの中でこの戦闘の様子をモニターしているはずだ。
『北川君、大丈夫なの?』
心配そうな声が聞こえてきた。
留美にしては珍しい事だと内心思いながらも、潤は大きく頷いた。
「大丈夫です!やれます!!」
『・・・わかったわ。無理はしちゃダメよ。朝も一度倒れているんだからね!』
留美がそう言って一度無線を切った。
Kトレーラーの中では留美がサポート用のモニターの前に座り、前にあるキーボードを叩いている。
「本当に大丈夫でしょうか?」
そう言ったのは隣に座っている斉藤だった。
「本人が大丈夫って言っているのよ!やるしかないわ!!」
留美はそう言いながらPSK−03搭載の特殊AI起動のキーワードを打ち込んでいく。
キーワードを最後まで打ち込んで、留美は手を止めた。
不安が拭いきれない。
前の時、丁度今日の午前中にこのAIを起動させた時、PSK−03は装着員である潤を無視して稼働した。その為、潤は全身の筋肉断列の一歩手前まで行ってしまったのだ。今度も同じ事になれば潤の命すら危ないかも知れない。
その不安が彼女の手を止めさせたのだ。
「七瀬さん?」
斉藤が留美が急に手を止めたので何事かと思って彼女の顔を覗き込んできた。
はっとなる留美。
「何でもないわ・・・行くわよ、北川君っ!!」
留美は不安を拭い去るかのようにそう言うと、エンターキーを押した。
同時にPSK−03のマスク内のディスプレイが赤く染まった。次々と表示される様々なデータ。
(今度こそ・・・やるしかないっ!!)
潤は赤く染まったディスプレイを見ながら覚悟を決めていた。
ディスプレイに「Ready?」と表示され、潤は頷いた。
さっと物陰から何かが走り出た。
すぐさま反応するAI。
「くっ!!」
PSK−03が潤の意志とは無関係に動き、ブレイバーバルカンを走り出たものに向け、同時に引き金を引く。
火線がまるで糸を引くように横へと流れていく。だが、特殊弾は命中していない。
相手が物陰から物陰へと素早く動き、こちらの攻撃を巧みにかわしているのだ。
「このままでは埒があかぬ・・・一時引くべきか」
物陰に隠れているのは鷹の姿をした怪人。
教団が美坂香里抹殺の為に派遣した改造変異体レベル4である。
午前中に彼女を襲撃した時もこのPSK−03によって撤退を余儀なくされている。まさか今度も撤退を余儀なくされるとは。
「またしても・・・覚えておくがいい。貴様も必ず抹殺してやる!!」
鷹怪人はそう言うと、一気に屋上のフェンスを飛び越え、雨雲の覆う空へと飛び出していった。
それを見て慌ててフェンスまで駆け寄るPSK−03だが、もう鷹怪人の姿は見えなくなっていた。
しばらく鷹怪人が消えた空を見ているPSK−03だが、いきなりその場に崩れ落ちる。
どうやら装着員である潤が気を失ったらしい。
『北川君!北川君!!返事して!!北川君っ!!』
留美の声だけがマスクの中から聞こえていた。
 
仮面ライダーカノン
Episode.31「深刻」
 
<喫茶ホワイト 20:32PM>
降り出した雨は通り雨だったらしく、今はすっかりやんで星空が見え隠れしている。
相沢祐一は一度シャワーを浴びてから店の中に戻ってきていた。
今は客もなく、店内にいるのはマスターと、ウエイトレスの長森瑞佳、アルバイトの霧島佳乃、そして祐一の4人しかいない。
「祐さん、何かあったの?」
佳乃が店に出てきた祐一を見て、首を傾げながらそう言った。
「え?」
驚いたのは祐一の方だった。
「ん〜。なにかさ、顔色良くないから何かあったのかなって」
「ああ・・・いや、何もないよ。雨に降られたから風邪でも引いたかな?」
そう言って笑みを浮かべる祐一。
「そう?だったらいいけどって良くないよぉ。風邪なんか引いたら大変だよ」
佳乃がそう言って祐一の側にやってくる。すっと右手を出して、祐一の額に当て、もう片方の手を自分の額に当てる。
「熱はないみたいだね。もし何かあったら言ってね。お姉ちゃんすぐ呼んでくるから」
そう言って微笑む佳乃を見て、祐一は頷いて見せた。
「ああ、ありがとう、佳乃ちゃん」
「まぁ、とりあえずコーヒーいれたからこれでも飲んで身体暖めておけ」
マスターがそう言ってコーヒーカップをカウンターにおいた。
「ありがとうございます、マスター」
「お前に風邪引かれると治療費がかかるからな」
感謝の言葉を言う祐一にしれっとマスターが言い放つ。
「うわ、容赦のない一言だよ〜」
驚いている佳乃をよそに祐一は苦笑を浮かべていた。
そんな中、瑞佳だけが何か神妙な顔をして祐一の方を見ている。だが、それに気付くものはいなかった。
 
<都内某所 21:43PM>
カチコチカチコチ・・・。
静かなその場所に時計の針の音だけが鳴り響いている。
「ターダはまだ戻らないのか?」
不機嫌そうな男の声が聞こえてくる。
闇の中から一人の男が姿を見せた。腕を組み、爪を噛んでいる。
「まだだ。それに・・・あの一族がまた現れた。おそらくそれで手間取っているのだろう」
もう一人、その男の正面から一人の女性が姿を見せた。
切れ長の、だが何処までも冷たい印象の瞳を持つ女性である。
「このままでは何時ゼースが再開出来るかわからないぞ?」
「ゼースモ・ナリガリ・ヌヅオ」
新たな声が聞こえてきた。
二人が振り返るとそこにはドレッドヘアの男がいる。
「ギナザバ・・・」
「マエ・ゴゴミリヅ?リソジ・ガバル」
二人が新たに現れた男を見て口々に言う。
ドレッドヘアの男は肩をすくめて見せた。
「ターダミ・ギョタデシャミ・ギサッシェリヅ・・・ノヲマ・ゴショソ・ヴァガラ・マリモガ?」
ドレッドヘアの男にそう言われて他の二人はむっとした顔になる。
「ノデミ・ロデバ・ゼースン・ヌヅシャセミ・ギシャ・・・」
「ジャザ・ターダザ・リマリリマ・ゼースバ・ジェギマリ」
切れ長の瞳の女性が言う。
「ヴァアヴァア・ゾグヅルマ・ゴショジャ」
腕を組んでいる男がそう言ってあざけるようにドレッドヘアの男を見る。
と、そこに背を丸めた男が姿を現した。
「ロサレシャシィミ・ターダガダ・ジェヲゾヲバ・ラヅ」
背を丸めた男がそう言ってドレッドヘアの男の方を振り返った。
「ゼースモ・ナリガリ・ヌヅ・ツデリギャーバ・リソジジャ」
背を丸めた男の発言を聞いて、切れ長の瞳の女性は眉をひそめた。
切れ長の瞳の女性の事などまるで気にせず、背を丸めた男はドレッドヘアの男に勾玉の付いたリングを渡す。
リングを受け取った男はにやりと笑った。
「シャシャシャ・・・ロデモ・イシュヂョグン・シシェリヅ・ザリリ」
そう言ってその場にいる皆に背を向けてドレッドヘアの男が歩き出す。
 
<倉田重工第7研究所 21:57PM>
カチャカチャカチャ。
静かな室内でキーボードを叩く音だけが響いている。
室内にいるのは七瀬留美だけである。他には誰もいない。正確には彼女が追い出したのだ。
彼女がいるのはPSK−03のメンテナンスルーム。
今、彼女が行っている作業はPSK−03に搭載されているAIの改良であった。
現在搭載されているAIは敵・・・この場合は未確認生命体や、未確認生命体亜種と呼ばれる存在を指すのだろう・・・を倒す為に最も適している行動を取るように設定されている。その為には中にいる装着員の身体など全く無視する事もいとわない。
その為に装着員である北川潤は全身の筋肉に想像以上の負荷をおい、全身の筋肉断裂の一歩手前までまた追い込まれ意識を失ってしまったのだ。今も彼はメディカルルームで鎮痛剤を打たれて眠っているはずだ。
カチャカチャカチャとキーボードを叩いている手を止め、留美は椅子の背もたれに背を預け、首を左右に振った。
「・・・北川君じゃ・・・無理なの?」
天井を見上げながらそう呟く。
一度ならず二度までも彼はPSK−03に搭載されているAIと同調出来なかった。AIが高性能すぎるというのかも知れない。たった二回の装着、それもいきなり実戦で同調しろと言うのが無理なのかも知れない。
「とりあえず・・・出来る事をやるだけね・・・」
そう呟くと、再びキーボードに手を伸ばす留美。
夜は更けていくがキーボードを叩く音はなかなかやむ事はなかった。
 
<都内某所 22:39PM>
そこは一体何処なのだろうか、まるで神社か寺の内部のようもあり、そうでもないようであり。
とにかくそこには今、一人の老婆を中心に数人の男女が集まっていた。
「やれやれ・・・このお婆の言いつけ一つ守れんとはな・・・」
老婆がそう言って一人の女性を睨み付ける。
睨み付けられた女性は少しばつが悪そうな笑みを浮かべ、隣に立っている男の背に隠れた。
「聞いてない事があったぞ。相手が変身するとかな」
男が老婆を見ながら言う。
「おかげで随分と苦労させて貰ったよ。それに・・・妙な奴も出たしな」
「そうそう、蝙蝠みたいな変な奴。ヌヴァラグと似ていたけど全然違う、弱っちぃの」
男の後ろに隠れた女性がそう言って頭だけを出す。
「・・・多分教団とか言う連中のものね。あいつら、何かやらかそうとしているみたいだもの」
また別の、ショートカットの女性がそう言った。
老婆はそれを聞くと小さく頷いた。
「おそらくはその連中も我らと利害は一致すまい。いずれは奴らも・・・」
「手数が違いすぎると思いま〜す」
すかさずそう言ったのは男の背に隠れている女性だった。
「あの時浩平って子の頭の中、少し覗いたんだけどかなり大きな組織みたいだったもん」
「どんな大きな組織でも我らの敵ではない・・・そうですのう、名雪様?」
老婆が振り返った。
そこは一段高くなっていて、そこにおかれてある椅子に一人の女性が座っていた。長い髪を後ろに垂らし、椅子にぐったりと座り込んでいる。どうやら眠っているようだ。
「流石、次の宗主様は余裕たっぷりで」
少し馬鹿にしたようにショートカットの女性が言う。
と、その女性を老婆が厳しい目で睨み付けた。
とたんにショートカットの女性の顔色が変わる。
「口が過ぎるぞ、葵」
老婆の目が金色の光を帯びている。どうやら力を使っているようだ。その矛先はショートカットの女性のようであり、彼女は苦しそうに首に手をやっている。
「もういいよ」
不意に老婆の後ろから声が聞こえてきた。
老婆の目から金色の光が消え、ショートカットの女性は咳き込みながらも顔を上げる。
椅子に座っていて眠っているものとばかり思われていた女性が、やはり眠たそうにこっちを見下ろしていた。
「ただでさえ少ない手数をこれ以上減らすのはどうかと思うよ?」
「・・・名雪様の仰います通りで」
老婆がそう言って椅子に座っている女性の方を向いて恭しく一礼する。
「今は・・・ヌヴァラグの動きに同調する方が先決だよ。教団とかはその後で充分。問題は・・・カノンとアインの方だよ」
そう言って女性が立ち上がる。
長い髪がさっと揺らめき、波打った。
「それはそっちも同じようだね・・・」
女性がそう言って老婆や他の女性達の向こう側を見た。
そこには美しいドレス姿の女性が立っている。
その女性を見て、ここにいる唯一の男がさっと身構えた。
「・・・お前達に敵対するつもりはない」
美しいドレス姿の女性がそう言う。
「私達もあなた達に敵対する意志はないわ」
長い髪の女性・水瀬名雪がそう言った。
「遙か昔の盟約、それを果たす為に私は来た。お前達が我ら、ヌヴァラグに敵対しない限り我らがお前達に害を為す事はない」
「私達はあなた達のやる事に力を貸すわ。それがこちら側の盟約だからね」
「必要ない」
美しいドレス姿の女性はそう言ってきびすを返す。
「カノンもアインも我らが王の敵ではない」
「何と言われてもこっちは力を貸すわ。それが私達の存在意義だもの」
名雪は笑みを浮かべながら美しいドレス姿の女性の背に向かって言う。
美しいドレス姿の女性は振り返りもしなければ何か言葉を返す事もせずにそのままそこから出ていった。
その女性の気配が完全に消えるまで、誰一人として動こうとはしなかった。
「お、大婆様、今のは・・・?」
ショートカットの女性、皆瀬葵が大婆様と呼んだ老婆を見て尋ねる。
「・・・ヌヴァラグの一人・・・しかもかなりの高位のもの。かつての約定を覚えているとは・・・なかなか律儀な奴じゃ」
そう言って老婆が低い声で笑う。
だが、それを聞いた葵、もう一人の女性・皆瀬真奈美、唯一の男・山田正輝は冷や汗が流れるのを止められなかった。
「・・・あれが・・・ヌヴァラグ・・・」
正輝がそう呟く。
名雪は黙ってその様子をじっと見下ろしていた。
 
<城西大学考古学研究室 10:19AM>
トントンとドアをノックする音が聞こえてきた。
「開いてますよ〜」
研究室の中にある机に向かって何やらレポートを書いているエドワード=ビンセント=バリモア、通称エディがそう答えると、ドアを開けて祐一が中に入ってきた。
「お早う・・・あれ?香里、いないのか」
エディに向かって尋ねると、エディは彼女の机の方を見て、頷いた。
「と言う事は関東医大病院か・・・あれ?エディ、何時帰ってきてたの?」
「昨日の夜。あの三本角の虫がいなくなってからもう少しの間遺跡を調べたけど結局何も出なかったからね、一度帰ってきたんだよ」
「で、今その時の事をレポートにまとめてるってとこかな?」
「そう!祐さん、ナイス直感」
エディがそう言って祐一に向かって親指を立ててみせる。
祐一も片目をつぶって同じ仕種で答えた。
それから祐一はパソコンのおいてある美坂香里の机の側まで歩いていった。
「エディは古代文字の碑文の解読については関わってないのかな?」
「僕は発掘の方に興味があるからね。香里さんみたいに何かをこつこつ調べたりするよりも現場に出て直に古代のロマンに触れる方がいいよ」
レポートを書きながらエディが祐一の問いに答える。
「そっか・・・じゃ勝手にパソコン立ち上げるわけにも行かないって事だよな」
「下手な事して香里さんに怒られるのイヤだからね」
「そりゃそうだ」
律儀に答えてくれるエディにそう言って祐一は苦笑を浮かべた。
「仕方ないな、いないんなら。また出直してくるよ」
そう言って研究室から出ようとするとエディが呼び止めた。
「ちょっと待って、祐さん」
エディは立ち上がると自分の鞄の中から一通の封筒を取りだした。
「これ、茜さんから」
祐一は封筒を受け取りながらこの封筒に出し主、里村茜を思い出した。
初めて会った時は父親を失った悲しみに沈んでいた彼女だったが、つい先日会った時にはかなり回復したようで笑顔も見せてくれていた。あの様子ならもう心配はないだろう。
「サンキュー、エディ。じゃ、レポート、頑張ってな!」
祐一は今度こそそう言って研究室から出ていった。
薄暗い廊下に出て、祐一はすっと表情を強張らせる。
研究室にいないとすればいるところはマンションか・・・関東医大病院に違いないだろう。出来れば関東医大病院には行きたくなかったのだが、そうも言っていられない。祐一は拳をぎゅっと握りしめると城西大学を後にした。
 
<倉田重工第7研究所 10:32AM>
留美は眠たそうな目を擦りながら廊下を歩いていた。
結局AIの改良に徹夜してしまったようだ。それでもまだ満足のいく結果は得られていない。今は小休止がてら朝食を取ろうと食堂に向かっている最中なのだ。
「七瀬さん!」
いきなり後ろから大きい声が聞こえてきたので留美は足を止め、振り返った。
そこには潤が何やら申し訳なさそうな顔をして立っている。
「お早う、北川君。身体はもう大丈夫なの?」
「お早う御座います。すいません、また・・・その、倒れてしまって」
そう言って頭を下げる潤。
「・・・そうね、同じ倒れるなら屋上じゃなくってKトレーラーのすぐ側にしてもらいたいものだわ」
そう言ってから留美はこれが失言だと言う事に気付く。睡眠不足の所為でどうやら思考が鈍っているようだ。
「ゴメン、今のは失言だったわね」
素直にそう言うと、潤は慌てて手を振った。
「いえ、事実ですから。本当にすいません・・・色々と信頼して貰っているのに裏切ってばかりで」
潤の言葉に留美は黙り込む。
少しの間沈黙が二人を包み込むが、先に留美の方が口を開いた。
「北川君、朝食はもう済んだ?」
「あ、い、いえ、まだですが?」
留美のいきなりの言葉に戸惑ったように答える潤。
「じゃ、一緒に行きましょうか」
留美はそう言って先に食堂へと歩き出した。
潤は慌てて彼女を追った。
この第7研究所には独身の研究員の為の寮も同じ敷地内にあり、そこに住んでいるものも食堂を利用している事が多い。だからこの時間でも食堂は結構人がいて、賑わっていた。
「お早う、留美ちゃん。久し振りだね、朝ご飯食べに来るの」
笑顔で留美と潤を迎えたのは食堂のアイドル、川名みさきであった。先にも述べたが彼女、元々は倉田重工に関係のない人間だったのだが、今ではこの食堂でバイトをしていてすっかり独身研究員達のアイドルと化しているのだった。
「あ・・・あの、川名さん。お願いですからその留美ちゃんってのやめてください・・・」
顔を真っ赤にして留美がそう言う。
どうやらかなり照れくさいらしい。
「何で?留美ちゃんは留美ちゃんじゃない」
みさきが首を傾げる。
「それに留美ちゃんの方が年下だからね。やっぱり年下にさん付けはおかしいと思うし、それにこの方が可愛いと思うよ、ね、留美ちゃん」
何処まで本気なのかわからないが、みさきは笑顔たっぷりでそう言った。この笑顔、邪気がないだけに留美は何も言えなくなる。
「・・・好きにしてください・・・」
寝不足も手伝ってか、すっかり諦めムードの留美。
「北川君もお早う。もう身体、大丈夫?」
「お早う御座います。はい、すっかり大丈夫、回復しました」
みさきの笑顔に潤もつい、にこにこしてしまう。
しかし、実際の所、彼は今立っているのも必死の状態だった。二度にわたる出撃時の筋肉への負担、かなりのものだったようだ。
それでも彼は笑みを浮かべてみさきや留美に心配させないようにしていた。
「・・・無理しちゃダメだよ、北川君。北川君は身体が資本なんだからね」
ちょっと怒ったような顔をしてみさきが言う。
それを聞いた潤が苦笑を浮かべた。
みさきは目が見えない。今は視力を補助する眼鏡をかけているから見えるようなのだが基本的に彼女は目が見えない。その代わりなのかどうか、彼女は様々な事に敏感だった。一番発達しているのはおそらく味覚なのだろうが嗅覚や触覚もなかなかのものであり、更には人の言葉の中から相手の状態をもだいたい判断出来るようになっている。
どうやら今の潤の嘘も彼女にはお見通しだったらしい。
「ご忠告、感謝します」
そう言って潤は先に席に着いている留美の前に座った。
「何も食べないの?」
「え?」
留美に言われて潤は初めて自分が朝食を何も買ってこなかった事に気付いた。
「ああ、しまった!忘れてた!!」
慌てて立ち上がる潤を見て、留美は笑みを浮かべていた。
 
<品川区大井埠頭 10:45AM>
大井埠頭コンテナ置き場。
そこを一人の男が欠伸をしながら歩いていた。
岸壁には巨大な貨物船が止まっており、そこからコンテナが運び出されている。
その男も作業員の一人なのだが、今は仕事をさぼって休憩中のようだ。
「やれやれ・・・不景気だ何だって言っても給料出るだけマシかねぇ」
言いながらタバコに火をつける。
タバコを吸いながら空を見上げると昨夜の雨の名残か、かなり曇っていた。
「降ってこなけりゃいいんだけどねぇ・・・」
ふう〜と煙を吐き出しながら男が呟く。
その足下に、不気味に蠢く触手が迫っていた。ゆっくりと、だが着実に男の方に忍び寄っていく。
男はそれに全く気がつかないまま、吸い終わったタバコを足下に捨て、靴の裏でふみ消してから歩き出そうとした。と、そこに突如巻き付く触手。しかも、それは一本だけではない。二本、三本と増えて行くではないか。
「う、うわあああああっ!?」
悲鳴を上げる男。
だが誰も彼に気付かない。
男はすっかり触手に体の自由を奪われてしまっていた。そんな彼の前に触手の主が姿を見せる。それは巨大なイソギンチャク。身体の自由を奪っているのはこのイソギンチャクの手の指らしい。頭はまさしくイソギンチャクそのものだった。これこそヌヴァラグの一員、リソジ・ガバルであった。
「み、み、みかくに・・・」
男がそこまで言った時、リソジ・ガバルの頭部から物凄い勢いで水が発射され、男を吹っ飛ばした。
吹っ飛ばされた男は全身の骨を砕かれ、絶命している。それを確認するとリソジ・ガバルは左手首につけているリングの勾玉を一つ動かした。そして満足そうに頷く。
新たなゼースはここに始まったようだ。
 
<倉田重工第7研究所 10:51AM>
食後のコーヒーを飲みながら留美はため息をつく。
「どうしたんですか?」
潤が尋ねると彼女は彼を見た。
「・・・結局の所、PSKチームって何が出来ているんだろうって思って。未確認のほとんどは第3号が倒していて、PSK−01は未確認亜種を倒すのも精一杯で、PSK−02は何者かに奪われたままで、PSK−03はまだまだで・・・」
そう言って留美はまたため息をついた。
潤もそれを聞いて申し訳なさそうな顔をする。
「すいません。俺がPSKシリーズの力を出し切れないばかりに・・・」
「北川君の責任じゃないわ。未確認に対する研究がまだ足りないのよ。あいつらがこっちの予想を遙かに越えて強い、それだけだわ」
留美はそう言って空になったコーヒーカップをテーブルの上に置く。
「警察の方で押さえた第19号の片腕もPSK−02に取り返されたし・・・未確認生命体に関しての情報はほとんど何もないと言っても過言じゃないわ」
「警察からは何も情報が提供されないんですか?」
「ほとんど向こうも何も持ってないわよ、未確認の情報なんて。第19号の片腕が分析されたらもっと色々わかったんだけど」
「・・・・申し訳ありません。俺がもっとしっかり出来ていれば第19号の腕も奪われずに済んだのに・・・」
また潤が謝る。
だが、留美は手を振ってそれを制した。
「君の責任じゃないって。PSK−01でPSK−02に勝とうと思うのが無茶なのよ。試作機とそのデータを応用したものとじゃ比べる方が間違っているわ」
「ですが・・・」
「北川君。君はPSK−01で使用出来ないはずのブレイバーバルカンを使って見せた上に未確認亜種を倒しているわ。それで充分よ」
そう言って留美は微笑んだ。
その時、潤は初めて留美の笑顔を見たような気がしていた。
「PSK−03の方は今AIを改良しているわ。少しは使いやすくなると思うから、次こそ頑張って」
「ありがとうございます、七瀬さん」
潤はそう言って頭を下げた。
「少しは・・・例の彼に近づけるといいわね」
「・・あいつには・・・まだ敵いませんよ、きっと・・・」
苦笑する潤。
そう、今のままではまだあいつには追いつけない。あいつに負けないように、あいつと同じラインで戦えるように、その為には何としてでもPSK−03を使いこなさなければならない。
心の中で決意を新たにする潤。
 
<関東医大病院 11:21AM>
祐一はとある病室の前で入るかどうかを迷っていた。
ここにいるのは水瀬秋子。
彼にとって叔母であり、5年前の時の居候先であり、そして海外にいるであろう母親代わりでもある。だが、今はとてもじゃないが会えるような気分でないのもまた事実であった。
その理由は彼女の娘である名雪の事である。
5年前、祐一が初めて変身した時に頭部を打ってそれ以来ずっと眠り続けていた彼女が遂に目覚めたのがつい先日の事。だが、目覚めた彼女は元の彼女ではなかった。彼女、いや秋子も含めた水瀬一族の血に目覚めた名雪は祐一の目の前で、全人類に対して残虐な行為を働いている未確認生命体ヌヴァラグに協力する事を宣言、祐一はそんな名雪に説得を試みるも失敗、彼女を殺す事を決意せざるを得なくなる。秋子に言われていたのだ。名雪を説得出来ないのならば殺すしかない、と。躊躇いを見せれば死ぬのは祐一だと。
だから、説得出来ないと祐一は悟った時、即座に決めていた。それが彼女の為であると信じて。だが・・・出来なかった。
一度決めた覚悟をもう一度取り戻すのは容易ではない。
それに祐一は名雪にまだ昔の彼女の部分が残っていると信じている。
だが、このまま行けば確実に彼女を殺さなければならないだろう。そのことを秋子に伝えなければならないのだが、その勇気がわかないのもまた事実であった。
「・・・祐一さんね?」
まだドアも開けていないのに中から声が聞こえてきた。
「・・・はい」
そう言って祐一はドアを開ける。
「お早う御座います、秋子さん」
「お早う御座います、祐一さん・・・その様子だと・・・名雪に会ったんですね?」
秋子は何時もと変わらぬ優しい微笑みを浮かべながら祐一に言った。
ドアを閉めながら俯き、祐一は小さく頷く。
「説得・・・出来なかったんですね?」
秋子の声は優しかった。責める様子など一切無い。だが、何処か哀しげでもあった。
「すいません・・・」
「そして・・・殺す事も出来なかった・・・そうですね?」
「はい・・・」
祐一は秋子の顔が見れなかった。
彼女がどういう表情をしているのか見るのが怖かった。しかし、それ以上に名雪に似ている彼女(この言い方はおかしいかも知れない。名雪が秋子に似ているのだから)を見るのが怖かった。
「やっぱり祐一さんは優しいんですね」
秋子にそう言われて、祐一ははっと顔を上げた。
「祐一さんに名雪を殺す事は出来ないと思っていました。仮に出来たとしてもそれは祐一さんをずっと苦しめる事になるでしょうし。だから・・・あの子の事は私が自分の手で決着をつけます」
そう言った秋子の顔は決意に満ちていた。
優しげな笑みの中、明らかにそれを決意している。
たった一人の娘、この22年間ずっと育ててきた大事な娘である名雪をこの手で葬り去る事を。
「そんな・・・秋子さん・・・」
呆然とする祐一。
「祐一さん・・・あなたは今、誰の為に戦っているんですか?」
「え?」
秋子の質問に戸惑う祐一。
「何の為に戦っているんですか?」
「そ、それは・・・」
「あなたは昨日言っていましたね。誰かの為に何かが出来る、守りたいものを守れる、その力を誰にでも来るはずの未来、みんなの明日を守る為に使うんだって」
祐一は秋子の言葉に黙って頷いた。
彼女の言う事、それは確かに祐一が己の信念としていることだ。
「たった一人の命の為に、他の大多数の命が奪われるのはいけないと思いませんか?」
祐一は秋子の言いたい事がわかった。わかってしまった。
秋子はこういいたいのだ。
名雪一人の命の為に他の大勢の命を犠牲にしてはならない、と。
「しかしっ・・・それはっ!!」
反論したくても言葉が出なかった。
秋子が真剣な目で祐一を見ていたからだ。
その眼差しは祐一の反論を完全に否定していた。もうこれはどうしようもない事だと。誰にも止められない運命であると。
「くっ・・・・」
祐一は歯をかみしめると病室から出ていった。
「祐一さん・・・・」
出ていった祐一を見送るかのように秋子はドアの方をじっと見つめている。するとまたドアが開いた。
「秋子さん・・・少しお話があるんですが・・・」
そう言って入ってきたのは香里だった。
彼女は昨日の名雪の襲来以降心神喪失状態にあったので結局ここの病室を借りて泊まり込んでいたのだ。
「・・・名雪の事かしら?」
秋子は微笑みながらそう言うと香里に椅子を勧めた。
椅子に座り、香里は秋子を見た。
「一体名雪に何が・・・あの名雪は私が知ってる名雪じゃないみたいで・・・正直言って怖かったんです」
そう言って香里は自分の身体を抱きしめた。
あの時の事を思い出すとまだ体が震えてくる。
「・・・香里ちゃんには話したわね、水瀬一族の事」
「はい、聞きました」
「もうあの子は香里ちゃんの知っている名雪じゃないの。今のあの子は水瀬一族の次期宗主の名雪、人類に対して敵対するものになってしまったのよ」
秋子はそれをあまりにもあっさりと言った。
そう、あまりにもあっさり過ぎたので香里には一瞬何のことだかわからなかったくらいに。
「・・・人類に敵対・・・?」
「罪のない人たちを殺して回っている未確認生命体に協力しているのよ、水瀬一族は。それはつまり、人類に敵対していると言う事にならないかしら?」
「それは・・・そうかも知れませんが・・・でも・・・」
香里はあまりにもあっさりとしている秋子の様子に逆に戸惑っていた。
何故この人はこうもあっさりと名雪の変貌を受け入れられるのだろうか?彼女の変貌ぶりは並大抵のものではない。まるで別人のように変わっているというのに。まるでそれを全て受け入れてしまっているかのようだ。
「・・・あの子を止める事はもう出来ないわ。ある方法以外ね」
静かに秋子が言う。
香里はびくっと身体を震わせた。
これを聞いてはいけないような気がした。これを聞けば何か取り返しのつかない事になりそうな気がする。そう、それは彼女の妹、栞がずっと香里を許してくれなかった時のように。
「あ、秋子さん・・・」
声が震えていた。
それに気付いているのかいないのか、秋子は香里から視線を外す。それから、ひどく静かに言う。そう、それはあまりにもあっさりとしていて、まるで決まった事を伝えるかのように淡々と。香里にとっては信じられない事を、秋子が口にする。
「名雪を殺す以外に方法はないわ、もう」
それを聞いた香里はがたっと椅子を揺らしながら立ち上がっていた。
「そんな・・・名雪は・・・たった一人の・・・」
やはり声が震えていた。
否定して欲しかった。
実の親子である秋子と名雪が殺し合うなど、信じられなかった。この親子の仲の良い事は名雪の親友である香里にはイヤと言う程わかっていたから。
名雪は母親である秋子を慕い、秋子は娘である名雪にこれ以上無い程の愛情を注いでいた。それを知っていたから。
だからこそ、いや、それは香里の希望でしかないのかも知れない。
全て変わってしまったのだ。5年前のあの日から、何もかもが。
香里は黙り込み、うつむいた。
目から涙がこぼれてくる。悔しかったのか。何も変わらないと思っていた事が。何も変わっていないと思っていた事が。だが、祐一は変身する力を得てから表情を曇らせる事が多くなり、栞は自分を嫌うようになり、北川潤も自分の前からいなくなり、名雪に至っては変貌してしまっていた。
「どうして・・・どうして・・・」
泣きながら香里が呟く。
秋子はそれを見ると、そっとベッドからおり、香里を抱きしめた。
「泣かないで香里ちゃん。これは誰かがやらないといけない事なのよ・・・祐一さんじゃ出来なかった。もっとも祐一さんに出来るとは始めから思ってもいなかったけど。だからと言う訳じゃないけど・・・子供の不始末は親が正すべきだわ。だから・・・」
「だから・・・だからって・・・秋子さんが・・・」
香里は秋子に抱きしめられたまま秋子を見上げる。
その顔は涙でぐしゃぐしゃだった。
「言ったでしょ?子供のしでかした不始末は、親が正すべきなのよ。・・・名雪が人類に敵対するならそれを止めるのは私の役目。あの子を殺してあげるのがあの子の為なの」
そう言いながら、秋子は物凄く悲しげな顔をしていた。
当たり前だ。自分が愛し、育てた娘をそう簡単に割り切って殺せるはずがない。だから、名雪を殺すと言う事を決意したのは・・・物凄い苦悩の末の事なのだろう。もはや香里には何も言う権利はなかった。
香里はそっと秋子から離れると涙を拭って秋子を見た。
「相沢君も・・・知っているんですね?」
そう言うと、秋子は大きく頷いた。
祐一が知らないわけがない。秋子の話からすると祐一は名雪ともう一度会い、そして・・・名雪の説得に失敗した。そして名雪を殺そうとしたのだが、やはり出来なかったようだ。
それは祐一が名雪の事をやはり好きだったからか。それとも秋子に対する遠慮か。
だが、と香里は考える。
祐一が本当のところ優しい性格だという事は彼女も良く知っていた。だからこそ、彼は何の罪もない人々の明日を守る為に未確認生命体と戦っているのだ。その優しさが名雪を殺すの躊躇わせたのではないのだろうか。
(・・・実際の所・・・その全てが理由だと思うけどね・・・)
きっと祐一はまだ苦悩しているだろう。
今、自分に出来る事はそんな祐一をサポートする事ではないか?
この先、名雪が敵となる可能性はかなり高い。いや、既に敵である可能性の方が高い。ならば、あの碑文の解読を進めて名雪達が手を出せない方法を見つけるべきなのではないか。
香里はそう決意すると大きく頷いた。
「秋子さん、私、自分のやれる事を精一杯やります。今の私に出来るのはこれくらいだと思いますから。だから・・・名雪を殺すというのは待って貰えませんか?」
そう言って秋子の目をじっと見つめる。
「相沢君と協力して何とかやってみたいと思うんです。きっと名雪を取り返せると思うんです。だから・・・」
香里の言葉を聞いた秋子は黙って首を左右に振った。そして、また悲しげに香里を見る。
「香里ちゃん、もう遅いのよ。祐一さんにも言ったわ。名雪を説得出来ないなら殺すしか方法はないと。だから・・・」
「それでも!それでも・・私は・・・名雪を助けたい!名雪は親友で、相沢君にとっても大切な人で、秋子さんにしたって・・・」
「・・・香里ちゃん・・・」
いつになく激しい口調の香里を見て秋子はまた悲しげな目をする。
「とにかく私は私で何とかやってみます!それじゃ!」
香里はそう言って秋子に一礼すると病室から飛び出していった。
呆然と秋子はそれを見送っていたが、やがて真剣な顔をするとベッドの方を振り返った。
 
<関東医大病院屋上 11:32AM>
屋上の柵にもたれて祐一はやるせない気持ちを何とか耐えているかのように空を見上げ、目を閉じていた。
このままではいけない。何とか秋子さんと名雪が会うのを、二人が殺し合うのを止めなければならない。しかし・・・その為にどうすればいいのかが全くわからない。
先に俺が名雪を殺せばいいのか?そんな事、出来るわけがない。俺だって名雪の事が好きだ。でも秋子さんは俺以上に名雪の事を好きなはずだ。名雪を殺した俺を秋子さんが許してくれるとは思えないし、表向き許したとしても俺は一生秋子さんの前に立つ資格を失うだろう。
だが、このまま手をこまねいていては秋子さんが名雪を殺す為に動き出す。動き始めれば秋子さんの事だ、きっとすぐだろう。秋子さんの力がどの程度のものかは知らないが、名雪の力はかなりのものだ。互いに無傷というわけには行かないだろう。下手をすればどちらも死んでしまう可能性すらある。最悪それだけは止めなければならない。
「でも・・・どうすれば・・・」
そう呟きながら俯いていく。
何とか・・・何とか秋子さんと名雪を会わせない方法、いや、出来るならば名雪を助ける方法はないのか。
祐一は苦悩する。だが、答えは出てこない。堂々巡りになるだけ。
「くそっ!!」
思わずフェンスを叩いてしまう。
背を預けていたフェンスから離れ、今度はフェンスの方を向き、頭をフェンスに押しつける。
「どうしたら・・・どうしたらいい?」
答えが返ってくるわけでもない。だが、それでも問わずにはいられなかった。
「・・・あの・・・祐一さん・・・」
後ろから遠慮がちな声が聞こえてきた。
祐一が振り返るとそこには香里の妹である、美坂栞が立っていた。
「・・・栞か・・・どうした?」
そう言って祐一は無理矢理笑みを浮かべる。
「私じゃ・・・祐一さんの力になれませんか?」
栞は真剣な表情でそう言って祐一の目をじっと見た。
「え?」
「今の祐一さん、物凄く苦しそうに見えます。昔・・・私は祐一さんと出会って生きる希望というものを貰いました。あの時の借りを返したいんです」
栞はそう言うと祐一の腕を自分の手で掴んだ。
「私じゃ何も出来ないかも知れません。でも、今の祐一さんは見ていられないんです。だから・・・」
栞は目に涙すら浮かべていた。それほど必死なのだ。それほど必死で祐一の力になりたい、彼の心の苦しみを取り除いてやりたいと思っているのだ。
祐一はそんな栞に始め戸惑っていたが、彼女の気持ちを理解すると、苦笑を浮かべた。
「栞に心配されるとはな、俺もダメになったものだ」
少し冗談めかして言う。
「祐一さん?」
顔を上げる栞。
何処かきょとんとした顔で祐一を見上げている。
「その気持ちだけで充分だよ・・・俺は俺の出来る事を精一杯やるだけだ。だから栞も栞の出来る事を精一杯やってくれればいい。何も出来ないなんて事はない。今、栞は迷っていた俺を助けてくれたんだからな。これであの時の貸しはチャラだ」
祐一はそう言って笑みを浮かべて見せた。
その笑みは何かを決意した時の爽やかな、そして穏やかな笑顔。それは5年前、青龍との戦いに望む前に浮かべたものと同じ笑み。勿論栞がそれを知るはずもないが、しかし、彼女はその笑顔を見て思わず頬を染めていた。
と、その時である。
祐一の頭の何かが走ったのは。
いつものあの感覚。未確認生命体が現れるとほぼ必ず起こるまるで警告か、はたまた信号か。とにかく、祐一は表情を引き締めた。
行かなければならない。行って未確認生命体の暴挙を止めなければならない。だが、それは名雪との再会、そして戦う事を意味している。
(決めたんだ、俺は俺のやれる事をするって・・・!)
祐一は頭を振って迷いを振り切り、栞をその場に残して走り出した。
「祐一さん!ファイトです!!」
走り去ろうとする祐一に向かって栞が大きい声で呼びかける。
祐一は屋上の入り口のドアの前で立ち止まって栞を振り返るとビシッと右手の親指を立てて見せた。
それを見て栞も同じ仕草を返した。
 
<警視庁未確認生命体対策本部 11:37AM>
未確認生命体対策本部では今日も対策会議が行われていた。
しかし、今ひとつ芳しくはないようだ。
何しろ相手は神出鬼没の未確認生命体、次にどんな奴が何時、何処に現れるか、その予想すら立たないのだ。そのような状況では対策の立てようもない。その所為か常に後手に回っている。これでは警察の威信に関わる。
更に言えば現状の装備では未確認生命体はおろか未確認生命体亜種にすら敵わない事も大きな問題となっていた。仮に包囲出来たとしてもこれではこっちの被害の方が大きいのだ。この一連の未確認生命体騒動が始まってから殉職した警官の数は連日鰻登りである。
誰もが頭を悩ませていたそんな時、一人の警官が慌ただしく会議室に入ってきた。
「で、出ました!第24号です!!」
それを聞いた会議室の中にいる捜査員が騒然となる。
「場所は?」
冷静に対策本部長の鍵山が問う。
「品川埠頭にある火力発電所です!現在、付近の所轄が何とか辺りを封鎖しています!」
「・・・諸君、聞いての通りだ。我々の装備では奴らに敵わないかも知れないが、それでも我々は一般市民を守る義務がある」
「本部長、わかってますって」
そう言ったのは神尾晴子警部。
「うちらはうちらで全力を尽くすだけやな、住井?」
隣にいる青年を振り返ってそう言う。
「はい!」
青年刑事・住井護が立ち上がってそう答えた。
「まぁ、住井は晴子さんの言いなりだからなぁ」
茶化すように言ったのは国崎往人刑事。
今日も相変わらずの黒ずくめだ。
「居候・・・ええ度胸やないか・・・」
国崎を睨み付ける晴子。
「おっと、そんな場合じゃないだろ、晴子さん?」
そう言ってにやりと笑う国崎。
「そ、そうやった。行くで!」
慌てて晴子が会議室から出ていく。
「国崎さん、からかいすぎですよ」
苦笑を浮かべた住井がそう言ってから晴子を追いかけていく。
国崎も同じように苦笑を浮かべながら会議室から出た。駐車場に向かって歩いていると一人の男がキョロキョロと周りを見回しながら歩いているのが見えた。
「おい、どうかしたのか?」
声をかけてみると、その男が彼の方を向いて、それから国崎だと確認すると嬉しそうな顔を見せ、近寄ってきた。
「国崎さん、探しましたよ〜」
そう言われたが、国崎は首を傾げるだけであった。
「・・・誰だっけ?」
国崎がそう言って、相手の男がガクッと項垂れる。
「・・・何言っているんですか、もう。わざわざN県から出向いてきたって言うのに・・・」
何か物凄く疲れたように男が言う。
また首を傾げる国崎だが、ふとある事を思い出し、ぽんと手を打った。
「ああ、鑑識の!そう言えば何か頼んでいたっけ?」
「国崎さん、健忘症ですか?」
「多分そうじゃないと思うぞ」
「・・・・・・あの時借りた羽根の分析が出来たからその結果を持ってきたんですよ」
男はそう言うと持っていた封筒を彼に渡そうとした。
「ちょっと待ってくれ。また未確認が出たんだ。それは・・・本部長に渡してくれないか?」
国崎はそう言ってから対策本部の置かれている会議室の場所を彼に伝え、また駐車場に向かって今度は走り出した。
自分の愛用している覆面パトカーに駆け寄り、ドアを開けてからふと思いついて、無線を手に取る。
「祐の字、聞こえてるか?」
無線のスイッチをONにして呼びかけると、少しの間をおいてから返事が返ってきた。
『誰だ?』
「この回線を知っている人間はほとんどいないと思うんだが・・・お前も健忘症か?」
『・・・冗談だ。で、何か用か?』
「・・・お前、少しは年上に対する敬意というものをだな・・・」
『あんたに言われたくないような気がひしひしとするのだが・・・で、話はそれだけか?なら俺は今忙しいから切るぞ』
「忙しいってお前・・・この通信に出ている時点でバイクに乗っているんだろ?何処に・・・あ、そうか!」
『ようやくわかったか。じゃ、俺は忙しいから・・・』
「待て待て。場所は品川埠頭の火力発電所、付近は所轄が封鎖しているはずだ。今度の奴がどういう特殊能力を持っているかわからないから気をつけろよ」
『ありきたりだな、もうちょっと気の利いた事を言ってくれないのか?』
「・・・全力で俺がサポートする!!・・・これで良いか?」
そう言って国崎は一人にやっと笑った。
『・・あんたに期待した俺が馬鹿だった』
呆れたように返してくる声。
「こっちでやれる事はやるつもりだ。とりあえずはお前が第24号の元にいけるよう手は打つ。お前は思う存分やってくれればいい」
国崎は言いながら車に乗り込み、ドアを閉める。これ以上ここにいると祐一が現場に着く前に自分が着く事が出来なくなるだろうからだ。
『・・・わかった。頼んだぜ、国崎さん』
少しの間をおいてから祐一の返事が返ってきた。その声にどことなく緊張があった事にはあえて気付かないふりをする。
「・・・あいつなら大丈夫・・・だと思うんだがな・・・」
そう呟き、覆面車を駐車場から現場に向けて発進させる国崎であった。
 
<倉田重工第7研究所 11:43AM>
国崎達が新たな未確認生命体第24号出現の報を受け、現場に向かって飛び出していたのと同じ頃、倉田重工第7研究所にも同じ連絡が届けられていた。
「PSKチーム、出動です!」
第7研究所内の内線放送で所長である倉田佐祐理が宣言する。
この宣言が出るとこの第7研究所は全てをおいてPSKチームのサポートに回るようになるのだ。
「行くわよ!」
留美が先陣を切ってKトレーラーに乗り込んでいく。
潤と斉藤がそれに続き、最後に深山雪見が大きなトランクケースを持ってKトレーラーに飛び込んできた。
「深山さん、どうしたんですか?」
斉藤がそう問いかけると彼女は苦笑を浮かべた。
「PSK−03用に開発した新兵器よ。もっともブレイバーバルカンとかと違って接近戦用なんだけど、データが欲しくて」
「深山さん、とりあえず発進しますよ」
潤がそう言うのと同時にKトレーラーが発進していく。
行き先は祐一らと同じく品川埠頭火力発電所。
Kトレーラーが猛スピードで走っていくその横を一台のバイクが走り抜けていった。
「・・・今のは!?」
Kトレーラーを追い越していったバイクを見て、留美が顔色を変えた。
「・・・どうやら出動したのは我々だけじゃないようですね・・・」
斉藤が驚きを隠せないような口調で言う。
あのバイクに乗っていたのはPSK−03と同じ強化装甲服DS−01であったのだ。
「完成していたとは聞いていたけど・・・もう実戦に出てくるとは余程自信があるのね」
雪見が呟く。
「北川君、あんな二番煎じに負けたら許さないわよ!」
留美がPSK−03の各パーツを装着している潤にそう言って彼を睨み付けた。
苦笑を返す潤。
 
<品川埠頭 12:18PM>
品川埠頭にある火力発電所の付近では何台ものパトカーが走り回っていた。
未確認生命体第24号リソジ・ガバルを火力発電所に追い込んでいるのだ。
正確に言えば追い込んでいるのではない。リソジ・ガバルによって誘い込まれているのだ。だがそれに気付いているものはいない。
そこに晴子達未確認対策班の車が到着した。
「状況はどうなってるンや?」
晴子がライフル片手に近くにいた制服警官に尋ねた。
「第24号は火力発電所の中に逃げ込んだ模様です。今全ての出入り口を封鎖、中にいた職員の救出を急いでおります!」
敬礼しながら答える制服警官。
晴子は頷くと一緒に来た住井達を振り返った。
「住井、あんたは所轄と協力して中にいる職員の避難誘導、他のもんは第24号の捜索や。くれぐれも気ぃつけや」
その指示を受けて皆がそれぞれ行動を開始する。
少し遅れて到着した国崎もライフルを手に大急ぎで第24号捜索の為に走り出した。他の連中よりも先に第24号を見つけ、祐一をそこに上手く誘導しなければならないのだ。
 
<関東医大病院 11:45PM>
秋子は静かにベッドから降りると、羽織っていたカーディガンをベッドの上に置き、ベッドの横に置かれているボストンバッグに手を伸ばした。
中から取りだしたのは何時か名雪が着ていたのと似たような和服。
水瀬一族としての正装。
これを取り出すと言う事は・・・彼女の決意の現れであった。
水瀬一族から逃げ出した自分が、水瀬一族の新たな宗主になるであろう者を殺す。
自分が生み、そしてずっと愛情を持って育てていた子供をこの手で殺す。
そこにどういう心の葛藤があったのかは計り知れない。そしてその末に決意したのだ。もう誰にも彼女を止める事は出来ない。
秋子は着ていたパジャマを脱ぎ、その巫女服にも似た和服を着ると、手に黒い指無しの手袋をはめた。
「名雪・・・今行くわ」
静かにそう呟き、秋子は病室から出ていった。
 
<品川埠頭 12:46PM>
警官が宙を舞った。
地面に叩きつけられて意識を失う。
「く・・・まさか・・・追い込まれていたのはこっちだったのか・・・」
所轄の警官達が遠巻きに未確認生命体第24号を見ながら拳銃を構えていた。だが、その誰もが震えていたり、怯えていたりしている。
話に聞いてはいたが彼らが実際に未確認生命体と遭遇するのはこれが初めてなのである。それでは仕方ない事だろう。逃げ出さないだけマシだと言う事だ。
「シャシャシャ・・・ノッシィザ・ゴマリマダ・ゴッシィザダ・リグオ」
未確認生命体第24号ことリソジ・ガバルは奇怪な笑い声を上げながら一歩一歩前へと踏み出してくる。
それにあわせるかのように後退する警官隊。
そこに国崎が駆けつけてきた。
「ここにいたか!!」
素早くライフルを構え、未確認生命体第24号を狙う。
ライフルに装填されているのは対未確認生命体用に開発された炸裂弾。しかし、その成果は一向に上がっていない。おそらく今回も通用しないだろう。それでもこれしかない以上使うしかない。
「喰らえっ!!」
そう言って引き金を引く国崎。
だが、炸裂弾が命中しても第24号は怯まなかった。それどころか炸裂弾の名の通り、この弾丸は命中すると相手の体表に張り付き、爆発するのだが、それさえ起こらなかった。
「な、何!?」
驚きの声を上げる国崎。
「あいつ・・・一体・・・・」
その時だった。
一台のバイクがその場に突っ込んできたのは。
白く輝くそのバイクの名はロードツイスター、乗っているのは勿論カノンである。
カノンはそのままロードツイスターで第24号リソジ・ガバルに突っ込んでいき、跳ね飛ばしてからロードツイスターを止めた。
国崎はカノンを見ると、小さく頷き、その場にいる警官隊を後退させ始めた。
それを横目にカノンは立ち上がろうとしているリソジ・ガバルに駆け寄り、その頭を蹴り飛ばした。
吹っ飛ぶリソジ・ガバル。
カノンが再び駆け寄ろうとすると、リソジ・ガバルは素早く右手の指を伸ばし、触手と変えてからカノンの首や腕に巻き付かせた。
「し、しまった!!」
思わず呟くカノン。
何とか腕で首に巻き付いている触手を掴み、首を絞められるのだけは防ぐ。
その間にリソジ・ガバルは立ち上がり、更に左手の指も触手に変え、鞭のように横からカノンを殴りつける。
今度はカノンが吹っ飛ばされる番だった。だが、吹っ飛ばされたおかげで首や腕に巻き付いていた触手はほどけている。素早く片膝をついて起きあがるカノン。
その視線の先に、一人の女性の姿が映った。
巫女のような衣装・・・水瀬一族の正装をまとった名雪である。
「名雪・・・!!」
そう呟いてカノンはジャンプする。ジャンプしてリソジ・ガバルを飛び越えると名雪の方へと駆け出そうとするが、そこに背後からリソジ・ガバルの触手が襲いかかってきた。首、腕、腰に巻き付く触手。
「くっ!!」
触手のおかげで立ち止まる事を余儀なくされるカノン。
「俺の邪魔を・・・するなぁっ!!」
そう言うと同時に振り返り、触手を掴んで投げ飛ばす。
弧を描き、地面に叩きつけられるリソジ・ガバル。
触手をふりほどき、カノンが再び走り出す。今度はジャンプして飛び越えようとは思っていない。必殺のキックを叩き込むつもりだった。
「させないよ、カノン・・・」
名雪が小さい声で言う。
手をすっと持ち上げ、振り下ろそうとした時だ。彼女の手を横から誰かの手が掴んだ。黒い指無しグロ−ブに包まれた女性の手。
「何を・・させないのかしら、名雪?」
そう言って秋子は微笑んだ。
名雪は突如現れた秋子に明らかな動揺を見せ、思わずその手を振り払っていた。
「お、お母さん・・・・」
秋子は名雪に振り払われた手を少しの間悲しげに見つめていたが、すぐにいつもの微笑み顔になる。
「名雪・・・あなたを殺しに来たわ」
 
<品川区天王洲アイル付近 12:28PM>
PSK−03を装着した潤はKディフェンサーを走らせながら前方の上空にいる鷹怪人から目を離さなかった。
「今度こそ逃がさない!!」
『気負うのは良いけど充分気をつけなさい。あいつのスピードはかなりのものよ。ブレイバーバルカンでも追いつくのがやっと。格闘戦なんかしようと思っちゃダメよ』
無線から聞こえてくるのは留美の声。
「わかっています・・・ですが・・・・」
『新兵器を使えばいいわ。それなら相手の動きを止められるから』
今度は雪見の声が聞こえてきた。
彼女の言う新兵器・・・それはPSK−03の左肩に装着されたシールドである。下の方に行けば行く程鋭角になっていくやや風変わりなショルダーシールド。それは決してPSK−03の左腕の動きを阻害するものではない。だが、これが新兵器と言われても潤にとっては疑問であった。
「これが・・・本当に役に立つんですか?」
『役に立つわ!絶対にっ!!』
雪見の声がやや怒気を含んでいた。
「わ、わかりました!深山さんを信頼します!」
慌てて言う潤。
その時だ、鷹怪人が急降下してPSK−03に襲いかかってきたのは。
「くっ!いきなりかっ!?」
Kディフェンサーをカーブさせ、鷹怪人の突撃をかわすとPSK−03はKディフェンサーに急ブレーキをかけ、停車させる。
「貴様のような奴は我らが聖戦の邪魔になる!ここで死んで貰うぞ!!」
鷹怪人はとあるビルの窓の所に器用に立ち、PSK−03を見下ろしながら言った。
それを無視してPSK−03はKディフェンサーの後部装備ポッドから分解されたブレイバーバルカンを取りだした。素早く組み上げ、ブレイバーバルカンを構える。
「今度こそ・・・俺は勝つんだ!!」
振り返ると同時に引き金を引き、迫り来る鷹怪人を迎え撃つPSK−03。
その様子をじっと伺う者がいる事を彼は知らない。
それは鷹怪人と同じ、改造変異体。
教団が新たな動きを見せ始めている事を、まだ誰も知らない・・・。
 
Episode.31「深刻」Closed.
To be continued next Episode. by MaskedRiderKanon
 
次回予告
PSK−03VS鷹怪人、カノンVSリソジ・ガバル、名雪VS秋子。
しかしそのどの戦いも決着を見せない。
留美「PSK−03を甘く見ないで欲しいわね」
祐一「秋子さんにやらせちゃいけないんだよ!」
祐一達の前から姿を消す秋子。
悲しき宿命が彼女を突き動かし、悲劇へと進んでいく。
名雪「邪魔をするなら・・・お母さんでも、殺しちゃうよ?」
潤「お前なんかに・・・負けるかよぉっ!!」
男の意地が遂に奇跡を呼ぶ。
だが、新たな魔手が確実に迫っていた。
秋子「死になさい、名雪っ!!」
次回、仮面ライダーカノン「悲劇」
それは悪夢の序章・・・!!

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