<新宿区都庁付近 16:18PM>
「ウオオオオオッ」
雄叫びをあげながら走るブートライズカノン。
その姿が徐々に、あの白いカノンの姿へと変わっていく。
「ウオオリャァァァッ!!」
地を蹴ってジャンプするカノン。空中で一回転し、右足を突き出す。
ネシー・ゴバルは迫り来るカノンを見て、超音波を放った。
カノンのキックとネシー・ゴバルの超音波が正面からぶつかり合う!
それにより、吹っ飛ばされたのはカノンであった。
地面に叩きつけられたカノンの姿がまたブートライズカノンへと戻っていく。
「グハァ・・・」
苦しそうに呻くブートライズカノン。
車すら破壊する超音波を何度も喰らっているのだ。それはブートライズカノンにかなりのダメージを与えていた。立ち上がることすら出来ず、倒れてもがき、あがいている。
「グウ・・・グアア・・・」
呻き声を上げているブートライズカノンにゆっくりと近寄っていくネシー・ゴバル。
「ゴデジェ・ショジョセジャ・カノン」
ネシー・ゴバルはそう言うと、ブートライズカノンを持ち上げた。そして背の羽根を開き、空へと舞い上がっていく。
遙か上空までやって来たネシー・ゴバルは持ち上げていたブートライズカノンを地面に向けて一気に投げ落とした。
物凄い速度で落下していくブートライズカノン。既に意識は失われているようだった。身動き一つしない。
このまま行けば地面に激突してブートライズカノンは確実に死んでしまうだろう。そう思い、ネシー・ゴバルはにやりと笑った。
その時だ、何処からともなくブーンという羽音をさせながら三本角の甲虫が飛んできた。
「・・・!!ラデバ!?」
突如視界に現れた三本角の甲虫の姿を見てネシー・ゴバルは驚きの声を上げた。
三本角の甲虫は落下しているブートライズカノンをその三本の角で受け止め、そのまま何処かへと飛び去っていく。
「・・・サラリリ・ジャドル・・・リサバ・ゼースン・ヌヌセヅ・ボルザ・ナギジャ」
ネシー・ゴバルはそう言うと再び都庁の壁に取り付いた。
地上では一般人が都庁に近付くことが出来ないように封鎖されていることも知らずに。
 
仮面ライダーカノン
Episode.26「覚醒」
 
<渋谷区代々木公園内 16:42PM>
三本角の甲虫がブートライズカノンを抱えたまま地上にゆっくりと降り立った。
そっとブートライズカノンを地面に降ろすと、その姿がブートライズカノンから相沢祐一のものへと戻っていく。
三本角の甲虫はそれを見ると、その頭部の目を閉じた。まるで眠りについたかの如く。
それからしばらくして、そこに国崎往人がやってきた。
どうやらここに向かって飛んでいる三本角の甲虫を見つけ、追いかけてきたらしい。
「祐の字っ!!」
国崎は倒れている祐一を見つけると慌てて駆け寄ってきた。
彼を抱き起こし、まだ生きていることを確認すると、国崎は彼を背負って自分の車に向かおうとした。と、その時になって国崎は今まで祐一の側でじっとしていた三本角の甲虫に気が付いた。
「・・・こいつは・・・」
そっと近寄ってみるが、三本角の甲虫は身動き一つしない。
国崎は器用に携帯電話を取り出すとある番号を呼び出した。少しの間呼び出し音が続いた後、求める相手が出たようだ。
『もしもし?』
「俺だ」
『前にも言ったと思うけど俺なんて知り合いは居ないわ』
相手の声は死ぬ程素っ気なかった。
「ま、待て!国崎だ!警視庁未確認生命体対策本部所属の刑事、国崎往人様だ!」
『何で自分に様をつけているのか疑問だけど、まぁ、良いわ。何の用?』
「今面白いものが側にいるんだがな・・・あんた、興味ないか?」
『面白いもの?・・何よ?』
「カノンを助けたでっかい虫だ。動く気配がないから今から来ても大丈夫だと思うぞ」
『でっかい虫・・・聖なる鎧の虫ね。解ったわ、何処なの?』
「代々木公園の中だ。俺は用があるから待っているわけにはいかないが、多分大丈夫だろう。それじゃぁな」
国崎はそう言って携帯電話を切った。
それから急いで気を失っている祐一を車に乗せて関東医大病院へと向かったのだった。
 
<関東医大病院 18:28PM>
霧島聖は今日も不機嫌そうだった。
自分の診察室で机に肘をつき、苛立たしげに正面に座っている国崎を睨んでいる。
「済まないとは思うんだがな・・・」
「そう思うなら顔を見せるな。厄介ごとを持ち込むな。存在するな」
聖は申し訳なさそうに言う国崎にそう言い放った。
「存在するなっておい・・・」
「一応彼の身体を見てきたが・・・ここ最近では一番ひどいな。身体のあちこち・・・特に胸にあるあのアザは一体なんだ?」
「アザ?」
「ああ、何か・・・物凄い威力のものをぶつけられたような後と言っても良いな」
「・・・今度の未確認の出す超音波を正面から喰らったんじゃないか?」
国崎の言葉に聖は大きく頷いた。
「第22号は様々な手で殺していると思ったが・・・そう言うことか。普通の人なら一撃で死ぬようなものを喰らってあの程度で済んだのだから彼の身体の変化は凄いものだな」
「そこで感心している場合じゃないだろう?とにかく今は奴、第22号をどうやって倒すかが問題なんだ」
「遠距離から狙撃しかないだろうな。接近戦を挑んだ彼がこうなった以上、遠距離から狙撃するしかない」
聖はそう言って机の上にあったコップを手にした。
「300メートルくらいなら簡単だろう?」
「奴の超音波を何とかしないと弾丸が先に破壊されるよ」
国崎はそう言ってコップに口を付けている聖を見た。
「・・・囮・・・奴の超音波を引き付ける囮を使えばいい」
聖は至って冷静に言った。
「もっともその囮を第22号が狙うと言うことは死ぬ可能性が高いのだが・・・それ位しなければ倒せないだろう」
「・・・そう・・・だな。よし、解った。あんたは祐の字を頼む」
国崎はそう言うと立ち上がった。
聖は立ち上がった国崎を見上げ、頷いた。
「彼なら心配ないだろう。それより・・・死ぬなよ、国崎君」
その言葉に国崎はあえて応えず、聖の診察室から出ていった。
国崎が出ていったのと同じ頃、祐一はある病室の中で苦しそうに呻いていた。
体中のアザが痛むのか、額には脂汗が浮かぶ。
「くうう・・・ああああ・・・」
静かな病室に彼の呻き声だけが響いていた。
 
<倉田重工第7研究所 19:21PM>
一人の男が松葉杖をついて廊下を進んでいる。
着ているシャツの下からは包帯が巻かれた身体がのぞいていた。その額に浮かんでいるのは脂汗。全身に走る激痛に耐えながら彼は一歩一歩前へと進んでいく。
彼の目的地、そこはKトレーラーのある大きな駐車場であった。
壁にもたれて、彼は二台並んだKトレーラーを見る。
「・・・二台・・・?」
そう呟いて彼はまた一歩一歩進んでいった。
新しい方のKトレーラーの側までやってくると彼はそのトレーラー部分にもたれかかる。
横にあるドアの部分にまで来ると、ロックを解除し、ドアを開けた。
「ハァハァハァ・・・・」
ひどく苦しそうな息をしながら彼は中に入っていく。
トレーラーの内部は前のKトレーラー内部とほとんど変わりはなかった。幾つかモニターが増え、それに対応するかのように席も増えている。
それを見ながら進んでいると、不意に松葉杖が滑り、彼は床面に倒れてしまった。
「くうっ!!」
全身に走った痛みに顔をしかめる。
その時だった。
彼の視界にあるものが入ってきたのは。
何とか床面に手を付いて起きあがり、彼は今自分の視界に入ってきたものをしっかりと見た。
それはPSK−01によく似たパワードスーツ。だが、随所にPSK−02にも似た部分がある。
と、いきなりトレーラー内の照明がつけられた。
振り返ると、そこには七瀬留美が立っていた。
「・・・それがPSK−03・・・」
留美はそう言ってパーツごとに置かれているPSK−03の側へとやって来た。
「PSK−01で得たデータを元にPSK−02と同時期に開発していたものよ。もっともスペックはこっちの方が上だけど」
PSK−03のマスクを手に取り、留美は彼の方を振り返った。
「これの開発コードは”ベルセルガ”。狂戦士・・・あなたがこれを扱いきれないなら装着員は別の人になるわ」
彼は留美の言葉を聞いていなかった。
そっと手をPSK−03の胸部アーマーに伸ばし笑みを浮かべている。
「これなら・・・これなら・・・やれる!」
そう言って彼は留美を振り返った。
「やります!俺、絶対にやりますよ!」
「やってくれるのは良いけど・・・少しは自分の身体を大切にしなさいよ、北川君・・・」
やや呆れたように留美が言うと、北川潤は苦笑を浮かべたのだった。
 
<新宿区都庁付近 21:18PM>
辺りは暗闇に包まれ、人の気配一つ無い。
警察は相変わらず300メートル程の距離を置いて包囲している。
「動き無し、か・・・」
双眼鏡をのぞきながら住井護がそう呟いた。
警視庁未確認生命体対策本部に属する若き刑事である。第22号出現時にヘリコプターで駆けつけようとしたのだがそれを国崎に止められ、今は地上で指揮を執っているのだ。
「しかし・・・一体どうすれば良いんだろうな・・・?」
住井が呟く。
長距離からの狙撃は試していないがおそらく無駄だと言うし、中からの突入は既に失敗に終わっている。
更に言えば300メートル以内に入れば何時何処から第22号の超音波が襲ってくるか解らないと言う。
まさに手出しの出来ない結界を敷かれているようなものだった。幸いなことは第22号が動かないので被害者が増えていないと言うことだ。
「しかし・・・どうして奴は動かない?」
それは先程あった会議でも議題に上ったことだった。だが答えが出たわけではない。動かないなら動かないで監視を続ける、と言うのが決定した方針であった。
「まるで何かを待っているような・・・」
「ほれ、差し入れや」
不意に住井の後ろに現れた神尾晴子が缶コーヒーを彼に差し出した。
「あ、神尾さん・・・ありがとうございます」
缶コーヒーを受け取って住井がそう言う。
「全く動かんようやな?」
都庁を見上げて晴子が言う。
「ええ・・・一体何を考えているんでしょうね?」
「未確認やからな・・・何を考えてるか何て解るはずがないわ」
素っ気なく言い放つ晴子。
彼女は自分で持っていた缶コーヒーのプルタブを開けると口を付けた。
住井は両手で缶をいじりながら俯いている。
「・・・第3号・・・来ませんかね?」
「あまり頼りにするもんやないと思うけどな、そいつも」
住井の言葉にそう返す晴子。
「でも・・手の打ちようがない・・・こうなったら神にでも祈らなあかんな・・・」
晴子も住井と同じように俯いてしまう。
「神様に祈る前にやれるだけのことをやるべきだと思うがな?」
そう言ってそこに現れたのは国崎だった。
「明日の朝、囮作戦を実行する。住井、お前はヘリに乗ってライフルで第22号を狙ってくれ」
「は、はい・・・ですが・・・」
国崎に言われた住井が一応頷く。だが、その顔には不審の色が浮かんでいた。
「居候・・・囮て言うたな?」
晴子がやや険しい口調で言葉を挟んできた。
「その囮は一体誰がやるんや?」
国崎はそう言った晴子をちらりと見たが何も答えなかった。
「住井、お前は狙撃手だ。ここは良いから帰って休んでいろよ」
住井に声をかけ、国崎はその場から離れるように歩き出した。
「居候!ちょっと待ちぃっ!!」
晴子が大きい声を出す。
流石に足を止める国崎。
「・・・あんた・・・まさか・・・」
「心配しすぎだよ、晴子さん。俺はそれほど無謀じゃない」
国崎は振り返りもせずにそう言うと、そのまま歩き去っていった。
 
<??? ??:??PM>
俺は何も見えない程の闇の中にぽつんと立っていた。
右を見ても左を見ても闇。
前も後ろも、上も下も。
何も見えない程の闇の中に俺はいる。
足下も闇なのだが自分の姿だけがはっきりと見えるというのはどういうことだろうか。
そんなことを考えていると、不意に背後の人の気配を感じ、俺は慌てて振り返った。
そこには・・・白い仮面の怪人が立っていた。
いや、怪人じゃない。
俺はこいつを知っている。
そう・・・こいつは俺の変身した姿・・・戦士・カノンだ。
「何で・・・カノンが?」
「カノンの姿を借りているけど俺はカノンじゃない。俺は君だよ」
カノンが俺を指さして言った。
「お前は・・・俺だと?」
俺は少々たじろぎながら聞き返す。
「そう・・・俺は君だ。もっと言うなら俺は君の記憶が復活した時に記憶の奥底に隠された”祐”の記憶だよ」
「な・・・何だと!?」
カノンの言うことに俺は本当に驚いていた。
正確にはカノンじゃない。
こいつはもう一人の俺、祐なのだ。
俺・・・相沢祐一が記憶を失っていた頃、この祐がカノンとなって未確認生命体と戦ってくれていた。
国崎の言っていた4つの色のカノンになれるのもこの祐の方だ。
「一体・・・何の用だ・・・?」
俺は・・・正直言って恐れていた。
こいつに再び取って代わられることを。
俺が俺でなくなると言うことを。
「もう俺が君の変わりになることはないよ。安心してくれないか?」
カノンはそう言って両手を広げた。
それはまるで自分に敵意がないことを示すかのように。
「・・・だったら何で俺の前に出てきた!?」
俺は未だ警戒心ばりばりで問いかける。
「今の君を見ていられないからだよ。君は戦うことに恐怖している。それはいいんだ。普通の人間なら戦うことに恐怖して当たり前なんだから」
「俺は普通の人間だ!!」
カノンの言葉に俺は思わず大きい声で返していた。
「俺は奴らとは違う!俺は・・・俺は・・・人間だ!!」
俺の言葉にカノンは大きく頷いた。
「そう、君は人間だ。愛するものを傷つけられるのを見て、それを助けることの出来る力を求めた・・・普通のね」
「・・・俺が・・・」
「でも・・今の君じゃみんなを守ることは出来ない。未確認生命体に勝つことは出来ない。だから・・・俺の力を君に返すよ。これは元々君の力だからね」
そう言ってカノンが俺の方に手を伸ばしてきた。
「俺の力・・・?」
俺は首を傾げた。
あの白いカノンは俺が自分の意志でベルトを身につけた時のものとは違う。あの時は灰色だった。これは香里から聞いた話だが、俺の体内にあった灰色のカノンに変身するためのベルトは一度壊されている。その上からもう一度俺は、いや、正確には祐がベルトを身につけたらしい。
「だったらそれは俺の意志じゃないからお前の力じゃないのか?」
俺がそう言うとカノンは首を左右に振った。
「思い出してくれ。あの時、俺は気を失っていた。半ば無意識にあのベルトを手に取った訳じゃないんだ。あの時・・・俺の意識の代わりに君の意識が体を動かしたんだ」
カノンの言う「あの時」とは香里から聞いた白いカノンが初めて現れた時・・・諏訪湖サービスエリアの時のことだろう。だが・・・祐が気を失っていて、その身体を俺が動かした・・・?俺にそんな覚えは・・・。
「無いはずはない。君がまた自分の意志でベルトを手にしたんだ」
「そ・・そんな・・俺が自分から・・・?」
「そうだ・・・俺も君の記憶の奥底に封じ込まれて初めて知ったんだけどね。俺が第2号に吹っ飛ばされて気を失った時、不意に君の意識が覚醒、そして何かに導かれるかのようにトラックの荷台に入って迷わずベルトを手にして身につけた・・・その時、俺と君の心は完全に一つになっていたと思う。いきなり現れた未確認に傷つけられている人を見捨てておけなかった。俺は変身も出来ないのにバイクで向かっていったけど、君は、いや、君の中にある前のベルトの破片がもう一つのベルトの存在を君に教え、それを取りに行かせたんじゃないかって」
「そう考えるわけだ、お前は・・・」
「まぁ、俺が君である以上、それほど間違っていないと思うけど?俺も君も・・・誰かを見捨てて生きることが出来る人間じゃないから・・・」
カノンはそう言うと再び右手を俺の方に向かって差し出した。
「今の君の心はまだ戦うことに怯えている。それが変身を不完全にしているんだ。君が持っていた勇気を、俺の記憶と一緒に封じ込めてしまったから。だから、今、君にその勇気を返す。カノンの・・・本当のカノンの力を返す」
俺は・・・おずおずと自分の右手をカノンの方に差し出していった。
「守りたいものを守れる強さ」
「誰かのために何かが出来る力」
互いの口から同じ言葉が漏れる。
「その力がある限り・・・」
「たとえ誰にも認められなくても」
俺はカノンの手を力強く握った。
「俺は自分の信じた道を行くだけだ!」
俺がそう言った瞬間、カノンの身体が物凄い光を放ち、その光は俺の中へと吸収されていく。
そして・・・・。
 
<関東医大病院 05:39AM>
祐一はカッと目を開いた。
ゆっくりと身体を起こしてみると、昨日あれだけ受けたダメージが綺麗さっぱり消えていることに気付いた。更に今までもやもやしていた気分もさっぱりとしており、今なら何でも出来そうな気さえしていた。
ベッドから降り、大きく伸びをしてから両方の拳をぎゅっと握りしめる。
全身に力が漲っていた。
「これなら・・・やれる・・・」
祐一はそう呟いて、大きく頷いた。
 
<新宿区都庁付近 08:16AM>
国崎は一台のバイクのエンジンを軽く吹かしながらヘルメットを手に、都庁を見上げていた。
「ほんまにやるンやな?」
そう言って側にやってきたのは晴子である。
「誰かがやらないといつまで経ってもこのままだろ?それに・・・俺は天涯孤独だからな。一番後腐れがない」
そう言って笑みを浮かべる国崎。
その笑みを見た晴子が少し悲しそうな顔をした。
「・・・絶対に死んだらあかん。お前のことをずっと待っとるもんもおるンや。そいつのために、絶対に死んだらあかんで」
晴子の言葉に国崎は彼女の顔を見た。
「俺にそう言う奴がいるとは知らなかったな。じゃ、努力するかな?」
「そや!絶対に帰ってこい!それがあんたの一番するべきことや!!」
そう言って晴子が国崎の背中を叩いた。
げふ、とむせる国崎を見て、晴子はようやく笑みを見せた。
「じゃ、サポート、頼むぜ、晴子さん」
国崎はそう言ってヘルメットをかぶった。
(祐の字が・・・本調子だったら)
そう思ったが、すぐに頭を左右に振ってその考えを振り払った。
たとえ祐一が本調子・・・要は白いカノンになれたとしても今度の未確認生命体に何処まで戦えるかは解らない。それに・・・本来祐一には関わり合いのないことだ。一般市民を守るのは本来警察の仕事だ。たまたま祐一は戦う力を得た。だから戦っているだけのことで、本当なら戦わせるべきではないのかも知れない。
「そうだな・・・あいつにばっかりやらせておくわけにもいかないからな」
アクセルを回し、バイクを発進させる。
国崎の操るバイクが猛スピードで都庁に向かって走っていく。
同じ頃、都庁の壁にまだくっついていた未確認生命体第22号ことネシー・ゴバルはこちらに向かって猛スピードで走ってくるバイクに早々と気付いていた。
だが興味なさそうにネシー・ゴバルは別のところに視線を向けた。
その方向は・・・人で賑わう原宿。
一気に大量の人を殺害して数を稼ぐつもりなのだ。
今まで動かずにこの場にとどまっていたのはこの高い位置から何処に人が大勢集まるかを観察していたに過ぎない。
こっちに向かってくる国崎など気にせず、ネシー・ゴバルは原宿に人の集まっていくのをじっと待っている。
 
<城西大学考古学研究室 09:17AM>
美坂香里が研究室のドアを開けると中には先客がいた。
何時も香里が座っている席の後ろにある窓を大きく開いて中に吹き込んでくる風に目を閉じて身を任せている。
「・・・相沢君・・・?」
「よう、香里。ちょっと聞きたいことがあってな」
祐一は目を開けて、窓の側から離れるとまだドアのところに立ちつくしている香里の方にやってきた。
「聞きたいこと?」
香里はようやく硬直が溶けたかのように研究室の中へと歩いて来、自分の席に鞄をおいた。そしてすぐにパソコンの電源を入れる。
祐一は手持ち無沙汰そうに研究室内を歩き回っている。
「何を聞きたいの?」
少し緊張したように香里が言う。
彼女には祐一にかなり酷いことを言ってしまった、と言う負い目がある。祐一がそれをどう思っているか不安なのだ。
「解っている限り全てのカノンのこと」
「カノンの?」
祐一の言葉に香里は思わず彼の顔を見て聞き返した。
「ああ、そうだ。俺はまだカノンの力を余りよく知らないからな。これから先、どう戦えばいいかの参考になるだろ?」
何を言っている、と言う感じで祐一が言う。
「俺が知っているのは白いカノンと灰色、そしてあの野獣みたいな奴。それぐらいだからな」
「そ、そうね・・・こっちに来て」
香里は慌てたようにそう言った。
祐一が自分の後ろに来るのを待って香里はあるフォルダを開いた。それは今まで解読出来た碑文をちゃんと対訳付きで保存しているフォルダである。
「まずはこれからね・・・『戦士の姿は一つに非ず』・・・これがカノンには他の色があることを示しているの」
祐一は香里の言葉を聞きながら目を閉じた。
「で、初めの色はこれ・・・白。『白き戦士は光の戦士、まばゆき光で邪悪を討ち倒せ』」
閉じられた瞳の奧で祐一は白いカノンの姿を思い浮かべる。
ベルトの中央から白い光を放ちながら勇猛果敢に戦うカノン。
「次に現れたのは青。『青き戦士は水の戦士、流れる水の如く邪悪を受け流し、溢れる水の如く薙ぎ倒せ』」
今度は青いカノンの姿を思い浮かべる。
手には長いロッドを持ち、敵の攻撃を受け流し、そして素早い動きで翻弄、逆襲に転じる。
「続いて緑。『緑の戦士は風の戦士。遙か彼方の敵を知り、疾風のように撃ち落とせ』『緑の戦士、長き時を置かず、風の如く素早く射抜け』『緑の戦士、敵をそばに寄せず、彼方より射抜け』」
緑のカノン。
手には変わった形状のボウガンを持ち、遙か上空にいる敵をそれで射抜く。
「次は紫・・・。『紫の戦士は大地の戦士、怒れる大地の牙持ちて、邪悪を切り裂け』『紫の戦士、堅き鎧に身を包み邪悪の力を跳ね返す』」
紫のカノン。
鋼の色の鎧に身を包み、片手には紫の刀身の長剣を持つ。その剣の鋭さは断ち切れないものなど無さそうだ。
「そして最後は赤・・・。『赤き戦士は炎の戦士、烈火の如き拳を用いて邪悪を討ち滅ぼせ』」
赤いカノン。
それは怒りの炎が身を包んだかのように。その右肩は大きく盛り上がり、その右拳にはまるで炎が宿っているかのようである。
「・・・これがいま解っている全てのカノンの形態よ」
香里にそう言われて祐一は閉じていた瞳を開いた。
「白、青、緑、紫、そして赤、か・・・基本の色が白で・・・」
何か考えるかのように呟く。
「ジャンプ力とか瞬発力が高い反面、攻撃力が落ちる青、超感覚で見えないものを見たり、聞いたり出来るけど長時間持たない緑、高い防御力と何でも切り裂く剣を持つけどスピードに難のある紫、攻撃力に全てをつぎ込んでいるため他の部分が劣る赤・・・」
香里はそう言って祐一の方を振り返った。
「どれも一長一短があるってことか・・・一番バランスがとれているのが白。後のは白の状態じゃ敵わない場合のための形態っぽいな」
腕を組んで頷いている祐一。
「動きの早い奴とかには青、空を飛んでいたりする奴には緑・・そう言う感じだな?」
「そうね。状況によって使い分けていけばいいと思うわ」
香里がそう答える。
「他には何か無いのか?」
祐一がモニターを覗き込みながら聞く。
「他にはって?」
首を傾げる香里。
カノンについての記述はこれでほとんど伝えたはずだ。祐一がまだ”祐”であった頃に伝えられなかったことも含めて。しかし、彼は何を求めているのだろうか?
「このベルトのこととかだよ。こうやって取扱説明書みたいになっているんだからベルトのこととか、他にも何かあると思うんだが?」
そう言って祐一は香里を見た。
香里は少し考えるような仕草をしてから祐一を押しのけ、マウスを操作した。すると、画面上にまた別のフォルダの内容が表示される。
「これは・・・?」
また画面に釘付けになる祐一。
「まだ解読中なんだけどね、昨日相沢君を助けた奴についての碑文よ」
香里がそう説明し、祐一はぽんと手を打った。
「ああ、あいつか。えーと・・・・これを見ると・・・・『聖なる鎧の虫』?」
「略して『聖鎧虫』って呼んでいるけどね。これはカノンの仲間みたいなもので、ビサンがその神秘的な技術を導入して作り上げた生体メカのようなものよ」
「ビサン・・・?」
「カノンのベルトや聖鎧虫を作った古代民族のこと。ついでに言っておくけど、未確認生命体というのは『ヌヴァラグ』という古代の好戦的種族らしいわ」
「何だ、名前あるんじゃないか。未確認生命体っていう言い方、長ったらしくていやだったんだよな」
冗談めかして言う祐一に呆れたような視線を向けて香里は続ける。
「そう言う問題でもないでしょ。とにかくこの聖鎧虫は色々なことが出来るみたいなのよ。たとえば解っている限りでいうと・・・その身体の一部を分解してカノンの身体にくっつける鎧になったり」
そこまで言われて祐一は不意に前の未確認生命体第21号との戦いを思い出した。
あの時、聖鎧虫が空からやって来てブートライズカノンに自分の身体の一部をまるで鎧のように着せてくれた。そのおかげで第21号に勝てたのだ。
「・・・どうしたの?」
祐一が急に神妙な顔になったので不審に思ったらしい香里が尋ねる。
「いや・・・それは知っている。この前の時、あいつはそうやって俺を助けてくれたからな」
祐一が答えると香里はふっと笑みを漏らした。そしてまたパソコンの方に向き直る。
「まだあるわ。聖鎧虫は鎧だけでなく武器にもなるみたいなの。紫の剣とか青のロッドとかね。そして・・・これがまだ解読中なんだけど・・・」
香里はそこまで言って言葉を切った。
やや躊躇うかのように祐一を見上げる。
「聖なる鎧の虫、戦士の馬と一体になり、大いなる力を示せ」
祐一は香里の口から出た言葉を聞いて首を傾げた。
「どういうことだ?」
「解らないわ。戦士の馬と一体になるって言うのは多分鎧のようなものになるんだと思うけど・・・大いなる力ってのがね・・・」
香里も困ったように首を傾げている。
祐一はそんな香里の肩にぽんと手を置いて、ニッと笑って見せた。
「まぁ、いいさ。一気に全部出来る訳じゃないんだからな。とりあえず香里は解読を続けてくれればいいから。俺は俺の出来ることを精一杯やるだけだし」
「そう言ってくれると助かるんだけど・・・」
香里はそう言いながら肩におかれた祐一の手をそっと払った。
「相沢君・・・私、あなたに謝らないといけないことが幾つかあるの・・・」
そう香里が言った瞬間だった。
祐一の頭に何かのイメージが駆け抜けたのは。
はっと顔を上げる祐一。
「相沢君!?」
香里は祐一の様子に気が付き、表情を変えた。彼が見せたこの様子、それはかつて”祐”が敵の存在を感知した時に見せたものと同一だったからだ。
「悪い、話は後だ!」
祐一はそう言うと大慌てで研究室から出ていき、それを香里は黙って見送るしか出来なかった。
 
<新宿区都庁付近 09:45AM>
先程から一時間以上都庁の下を走っているにもかかわらず第22号は全く反応してこなかった。これは国崎にとって予想外の出来事である。
「くそっ!!何で来ないんだよ!?」
そう呟いてバイクを止め、都庁を見上げる国崎。
都庁の壁にくっついている未確認生命体第22号ネシー・ゴバルはまだ動こうとはしなかった。
「奴・・・こっちには興味無しって言うのかよ?」
忌々しげにそう言う国崎。
「人が命懸けでやっているってのに・・・」
ネシー・ゴバルはそんな国崎の呟きなど知らず、未だ原宿方面をじっと見つめている。あそこに人が大勢集まった頃を見計らってここを飛び立ち、向こうで超音波を放って大量に犠牲者を増やすというのがネシー・ゴバルの目論見である。
勿論ネシー・ゴバルの目的など国崎が知るよしもなかったのだが。
だが、ネシー・ゴバルにも少々誤算が生じていた。
原宿方面の人出が予想以上に悪いのである。
これはここしばらくの未確認生命体騒動の所為であるのだがそんなことを彼らヌヴァラグの者が知るわけがない。
ただ、なかなか集まらない人に苛立ちを感じているだけなのだ。
「イガヲモ・スジャジャザ・ギャシュモ・ラリシェジェソ・ニシェギャヅザ」
そう呟くと遙か下の路上にいる国崎を見、羽根を広げた。そして一気に下に向かって降下していく。
国崎はじっと上を見ていたので急にこっちに向かってくるネシー・ゴバルに気付くのは早かった。慌ててバイクを反転させてその場から逃げ出す。
「おいおい、今度は急にかよ!」
アクセルをめいいっぱい回し全速でその場から、いやネシー・ゴバルから逃げる。だが、ネシー・ゴバルはそれを超えるスピードで国崎に迫ってきていた。
国崎は今にも自分に追いつこうとしているネシー・ゴバルを振り払うようにバイクをターンさせた。だが、物凄いスピードを出していたため、曲がりきれず、バイクはバランスを失ってそのまま倒れてしまう。同時に投げ飛ばされる国崎。
全身を強打し、激痛に身動きのとれない国崎を見ながらネシー・ゴバルはゆっくりと着地した。
「くう・・・」
着地した第22号に気付きながらも国崎は全身を襲う激痛に身動きがとれない。自分のやったことながら無茶をしたものだとやけに冷静に考える。
こちらに向かって一歩一歩迫り来る第22号。
国崎は目を閉じた。
悔しいことだがここまでのようだ。今この状態から逃れることは不可能に近い。もし、ここで生き延びることが出来ればそれは奇跡というものだろう。それくらい絶体絶命の大ピンチなのだ。
ふと脳裏に「絶対に帰ってこい」と言った晴子の怖い顔が浮かぶ。そしてもう一人・・・長い髪をポニーテールにした少女の顔が彼の脳裏におぼろげに甦った。
『往人さん・・・死なないで・・・』
手を胸の前で合わせ、泣きそうな顔で言う少女。
国崎は目を開いた。
「まだ・・・死ねないっ!!」
そう言うと、全身を走る激痛に構わず懐から拳銃を抜き、後一歩と言うところにまで迫っていたネシー・ゴバルに突きつけ、引き金を引いた。
銃声が6回、静かな街に響き渡った。
二、三歩後ろによろけるネシー・ゴバル。
国崎はそれを見ながらヘルメットを脱ぎ捨てた。
額にはびっしょりと汗をかいている。
「ハァハァハァ・・・」
荒い息をしながら国崎は二、三歩後退したネシー・ゴバルを見ている。今までの経験からこれくらいでダメージを与えられているとは思えない。せいぜい怯ませる程度のはずだ。状況は先程とそれほど変わったわけでもない。
「く・・・」
痛みに顔をしかめながら国崎は立ち上がろうとする。
ネシー・ゴバルはいきなり反撃されたことに戸惑っていた。今目の前にいるのは無力なただのビサンであるはずなのに。カノンではないはずなのに、ヌヴァラグに反抗するとは。
「ロソデ・・・ビサンモ・ツヲアリジェ!!」
ネシー・ゴバルはそう言うと起きあがろうとする国崎を掴みあげた。
「ニメ・・・」
そう言ってネシー・ゴバルがその羽根を振動させる。
と、その時だ。
横合いから一人の青年が飛び出してきたのは。
青年は猛然とネシー・ゴバルにタックルを喰らわせるとその勢いを利用して前転し、立ち上がった。
その青年を見た国崎が声を上げる。
「祐の字!?」
国崎の声に頷く青年・相沢祐一。
「ここは俺が引き受けた!」
祐一はそう言うと起きあがったばかりのネシー・ゴバルに再び飛びかかっていく。が、今度はネシー・ゴバルの手であっさりと振り払われてしまう。
路上を転がる祐一だが、素早く起きあがり、今度はネシー・ゴバルに殴りかかった。そのパンチがネシー・ゴバルの顔面を捕らえ、ネシー・ゴバルをよろけさせる。
よろけたネシー・ゴバルに祐一は跳び蹴りを喰らわせておいてから、腰の前で両手を交差させた。すると、腰にベルトが浮かび上がってくる。
交差させた両手を胸の辺りまであげ、左手を腰まで引き、残る右手で空に十字を描く。
「変身っ!!」
そう言って右手を大きく振り払った。
その瞬間、ベルトの中央がまばゆい光を放ち、祐一の身体が変身を始める。
ベルトから全身に向かって白い第二の皮膚が覆い、その上を筋肉を模したような生体装甲がまるでボディアーマーの様に包み込む。左右の手には手甲とナックルガード、手首に当たる部分には赤い宝玉がはめ込まれたブレスレットが。足首には手首と同じ赤い宝玉をはめ込んだアンクレット。膝には同じく赤い宝玉がはめ込まれたサポーター。頭には赤い大きな目、牙のような意匠の口、金色に輝く左右に開いた大きな角を持つ仮面。
祐一はカノンへと変身を完了した。
そう、本当のカノンへと!
国崎は目の前で変身を完了したカノンを見て思わず言葉を失っていた。
今までのブートライズカノンとは違う。
祐一が記憶を取り戻して初めてカノンへと変身出来たのだ。
「祐の字・・・今度こそ大丈夫なんだろうな?」
恐る恐る国崎が聞く。
カノンは国崎を振り返ると大きく頷き、右手の親指を立てて見せた。そして、素早くネシー・ゴバルと向き合った。
(奴の超音波を何とかしないとダメだ。動きで翻弄するか?)
カノンが走り出す。
対してネシー・ゴバルは動かずに羽根を細かく振動させていた。それが何を意味するか、まだカノンは気付かない。
ネシー・ゴバルが超音波を放った。同時にカノンがジャンプする。
「フォームアップ!!」
その声と共にカノンの姿が白から青へと変化した。
着地と同時に地を蹴って再びジャンプするカノン。そのスピードは先程とは比べものにならない。目にもとまらない程の早さである。そうやって超音波をかわすカノン。
再び超音波を放つネシー・ゴバル。
青いカノンは目にもとまらぬ動きで超音波をかわす。
ネシー・ゴバルはその場から動かずひたすらカノンに向けて超音波を放ち続ける。青いカノンは素早く動き回ってその超音波をひたすらかわしている。超音波の直撃を食らえば動きが止まる。それはカノンにとって致命的なピンチになりうる可能性が大きいのだ。
(しかし・・・このまま近寄れないのは・・・!!)
カノンの戦闘スタイルは主に接近戦である。
近寄ることが出来ないと言うことは倒すことが出来ないと言うことである。
(どうすれば・・・いい!?)
ネシー・ゴバルの超音波をかわしながらカノンは考えていた。
どうすれば近寄ることが出来るのか、と言うことを。
今回は国崎の援護も期待出来そうにない。
(ならば・・・一か八かやるか?)
カノンは着地するとネシー・ゴバルの方を向いた。
「フォームアップッ!!」
カノンがそう言うのと同時にカノンの身体が青から紫に変わる。
そこを狙ってネシー・ゴバルが超音波を放った。
だがカノンはそれをあえてかわそうとはしなかった。
超音波がカノンに直撃するが、鋼の色をした生体鎧はそれをものともしなかった。少しよろけただけでカノンにはダメージはほとんど無さそうだ。
それを見たネシー・ゴバルは驚いたように一歩後ずさった。
また超音波を放つが紫のカノンは全く怯まず一歩一歩ネシー・ゴバルへと歩いていく。
そこに三本角の甲虫、聖鎧虫が飛んで来た。
聖鎧虫は三本の角の内、一本を外し、カノンの手元へと落下させる。
ぱしっとそれを受け止め、正面に構えるカノン。すると角が紫の刀身を持つ剣へと姿を変えた。
ネシー・ゴバルは剣を持ったカノンを見ると明らかに焦った様子を見せた。
自分の必殺技の超音波が通じず、更に相手は必殺の武器である剣も持っている。これでは勝ち目がない。
「ク・・・ロトレシェ・ロゲ・カノン!!」
ネシー・ゴバルはそう言うと羽根を広げ、一気に飛び上がった。
「逃がすかっ!!」
紫のカノンが剣を振り下ろすが間一髪ネシー・ゴバルに届かない。
空に飛び上がったネシー・ゴバルはそのまま飛び去っていく。
「くそっ!・・・ここまでか・・・?」
飛び去っていくネシー・ゴバルを見ながら悔しそうな声を出すカノン。
そこに国崎がよろよろと歩み寄ってきた。
「これを使え。緑なら遠距離からでも奴を倒せるはずだ」
そう言って持っていた拳銃を差し出す。
カノンはそれを見ると頷き、拳銃を受け取った。
そして紫の姿から白の姿へと戻る。
「お前の力を貸してくれ」
いつの間にか側にやってきていた聖鎧虫を見てカノンが言った。はずれた角を戻してやると、その三本の角でカノンの身体を抱え上げ、背の羽根を開いて飛翔する。
「何としても奴を倒してくれよ、祐の字」
国崎が宙に浮かぶカノンと聖鎧虫を見て言う。
カノンはそんな国崎に右手の親指を立てて見せた。
「よし、行ってくれ!!」
そう言って聖鎧虫を軽く叩くと、聖鎧虫は物凄い早さでネシー・ゴバルの飛んでいった方へと飛び始めた。
 
<渋谷区原宿上空 10:32AM>
原宿は先程とあまり変わっていない。
人通りもそれほどではなく、どちらかというと閑散とした状態に近い。
と、その上空300メートル程の地点にネシー・ゴバルの姿があった。
ネシー・ゴバルの超音波の最大射程はだいたい300メートル。これ以上離れると殺傷能力が低下する。だからこそ、もっとも効率のいいポイントをネシー・ゴバルは探していた。
カノンのことも気にかかるが、今はゼースを進める方が大切であった。期限となる時間のこともある。それに目標人数にはまだかなりの数字を必要としている。ゼースに失敗するわけには行かないのだ。
ネシー・ゴバルはキョロキョロと見回しながら何処で超音波を放てば一番効率がいいか考えている。
その姿を・・・かなり離れた空の上でカノンは発見していた。
「居たっ!!」
そう言って拳銃を構える。
「フォームアップッ!!」
今度は緑に変わるカノン。同時に構えていた拳銃も緑色のボウガンへと姿を変える。ボウガン後部のレバーを引いて、内部に圧縮空気の矢を生み出す。
その間に緑のカノンは正確にネシー・ゴバルを捉えていた。
すっとボウガンをネシー・ゴバルに向ける。
ボウガンの先端にエネルギーを込め、後部レバーを放し、引き金を引く!
圧縮空気の矢がボウガンから放たれ、ネシー・ゴバルに向けて打ち出されていく。
その時になってネシー・ゴバルは初めてカノンの存在に気が付いた。慌てて降下しようとするが時既に遅し。圧縮空気の矢がネシー・ゴバルの身体を貫いていく。
「グワアアアアアッ!!!」
悲鳴を上げながら落下していくネシー・ゴバル。
圧縮空気の矢に貫かれた場所には古代文字が浮かび上がっており、そこから全身に向かって光にひびが入り・・・そのひびがあるところに到達して、ネシー・ゴバルは空中で爆発四散した。
その爆発を彼方から見ているカノンの姿が緑から白へと戻っていく。
「やった・・・・?」
安心したように呟くカノン。
彼にとって幸いだったのはネシー・ゴバルが空中にいたことだろう。
ネシー・ゴバルの放つ超音波はネシー・ゴバル自身が動きを止めている時にしか放てないものだったのだから。
何にせよ、未確認生命体第22号はカノンこと、第3号の手によって殲滅されたのである。
 
<喫茶ホワイト 14:03PM>
店内は相変わらずの人であった。
常連である本坂が居るくらいで後はマスター、ウエイトレスの長森瑞佳、霧島佳乃が暇そうにカウンターに座っている。
「暇だね〜」
佳乃がそう言って欠伸をした。
その隣に座っている瑞佳は大きく伸びをする。
「マスター、おかわり」
本坂がそう言ってからになったコーヒーカップを差し出した。
無言で受け取るマスター。
だがしっかり伝票に書き加えることは忘れない。
「ふうう・・」
4人が同時にため息をついた。
それぞれ理由があったのだろう、しかしタイミングは見事にあっていた。
と、その時、バイクのエンジンの音が店の外で止まった。
思わずドアの方を見てしまう4人。
ドアの前に二つの人影が見えた。
「ほら、先に行きなさいよ」
「いや・・・ここは香里が先に」
「何言ってるのよ!あなたが先に入らなくてどうするの?」
「いや・・・でもなぁ・・・」
「らしくないわね!ほら、行きなさい!」
ドアが開かれ、中に祐一がたたらを踏みつつ入ってきた。
その後ろには香里がいる。
祐一は中の4人の注目を浴びていることに気付くと苦笑を浮かべた。
「あ、あの・・・」
言葉が上手く出ない。
何を言えばいいのだろうか、祐一は思わず考えてしまう。
そんな祐一を見て、まず瑞佳が微笑みを見せた。
「お帰り、祐さん」
「あ・・・た、ただいま・・・で良いのかな?」
瑞佳の言葉に困ったように答える祐一。
「何がただいまだ」
そう言ったのはマスター。
むっとしたような顔で祐一を睨み付ける。
祐一がまた困ったような表情をするとマスターは祐一の側までやって来て彼の頭を鷲掴みにしてわしゃわしゃと髪を掻き回した。
「散々心配させやがって、この野郎!!」
嬉しそうに言うマスター。
そこに佳乃もやってきた。
「祐さん、お帰りだよぉっ!!」
そう言って祐一に飛びつく佳乃。
本坂は少し離れた場所で一人頷いている。
祐一はそんな4人を代わる代わる見回し、ニコッと笑みを浮かべた。
「マスター、またお世話になるけど良いかな?」
「あったり前だ!!」
マスターがそう言って右手の親指を立てて見せた。
祐一も頷いて同じ仕草を返す。
香里はそんな祐一の姿を微笑みながら見ていたが、ふと時計を見て、くるりときびすを返した。
そんな香里に気が付いたのは瑞佳であった。
「香里さん、何処行くの?」
「ちょっと用事。相沢君・・・祐さんによろしく言っておいて」
香里は足を止め瑞佳を振り返って笑みを見せた。
 
<都内某所・病院 15:34PM>
外はいつの間にか曇り始め、雷の音が聞こえ始めていた。
この時間とは思えない暗い空。
香里はそんな空を不安げに見上げていた。
と、突然稲光が辺りを一瞬明るく照らした。
その光が今香里が向かっている先の病院を不気味に浮かび上がらせる。
香里は肩を振るわせた。
何か物凄くイヤな予感がする。それが何かは解らない。ただ、感覚としてそう言う感じがするのだ。
その頃・・・香里が向かおうとしている病院では。
水瀬秋子がやや疲れた表情をして廊下を歩いていた。
関東医大病院で謎の襲撃者に襲われた日から彼女の気が休まる時はなかった。何時、どこからやってくるのか見当も付かない相手から未だ眠り続ける娘・名雪を守るのは容易なことではない。
秋子は正直疲れ切っていた。
窓の外では雷の音が聞こえてきている。稲光も時折見えていた。
名雪が眠っている病室のドアノブに手をかけた時、また窓の外が明るくなった。
その光を背に一瞬何者かの姿が浮かび上がる。
はっと振り返る秋子。
だが、そこには誰の姿もない。
自分の気のせいだったか、とため息をつく。
それからドアノブを捻りドアを開けようとして・・・秋子は中から放たれた物凄い衝撃にドアごと吹き飛ばされた!!
反対側の壁に叩きつけられる秋子。
彼女を吹き飛ばした衝撃波はそのまま廊下の窓を割って外へと抜けていく。
背中の激痛に意識を朦朧とさせながら秋子は部屋の中を見た。
吹き飛ばされた入り口から見えたのは・・・。
まるで無重力空間にいるかのように髪の毛を宙になびかせている娘の姿。
「な・・・なゆ・・・名雪・・・?」
呟くように言う秋子。
よく見れば中にいる名雪の身体は宙に浮かんでいる。
秋子の声が聞こえたのか名雪が秋子の方を振り返った。そしてにっこりと笑みを浮かべてみせる。しかし、それは彼女の知っている名雪の笑みではなかった。何処か人を見下したような、そんな傲り高ぶった笑み。
「・・・おはよう・・・お母さん・・・」
名雪はそう言ってゆっくりと、まるで重力など無いように床に降り立つ。
秋子は消えかかる意識の中、それをぼんやりと見ていることしか出来なかった。ただ、一つ、彼女はしっかりと見ていたことがある。それは・・・。
名雪の瞳が金色に輝いていたと言うこと。
それは・・・彼女の持つ力が覚醒した証。
彼女の、いや、彼女や秋子、ひいてはその一族が持つ力の覚醒した証。
「・・・名雪・・・」
秋子はそのまま意識を失ってしまった。
そんな秋子を見下ろす影が二つ。
一人は無造作なショートヘアの若い女性。
もう一人は杖を持った不気味な老婆。
二人は意識を失った秋子からすぐに興味を名雪に移した。
名雪は微笑みながら二人を見ている。
その笑みにショートヘアの女性は何か薄ら寒いものを感じたが、老婆は何故か嬉しそうな笑みを浮かべるのであった。
・・・それから数分後、香里が病院にたどり着いた。
彼女は窓が何枚も割れているのを見つけると何か凄く不安に捕らわれ、大急ぎで病院に中へと駆け込んでいく。
何度か来たことのある名雪の病室・・・その前で秋子が気を失っているのを発見すると香里は慌てて中を覗き込んだ。
そこはまるで台風でも通ったかのように荒れ果てていた。
そして、中に名雪の姿はなかった。
その事実に呆然となる香里。
「何・・・が・・・」
香里が言葉を無くす。
外ではまた雷鳴が轟いていた。
それは・・・まるで・・・この先の運命を表すが如く、不気味に轟いている・・・。
 
Episode.26「覚醒」Closed.
To be continued next Episode. by MaskedRiderKanon
 
次回予告
長い眠りから覚醒した名雪は秋子達に何も言わず姿を消してしまった。
名雪を捜し東京中を走り回る祐一達。
香里「何で・・・何でいなくなるのよ、あの子が!?」
国崎「済まないな、役に立たなくて」
忍び寄る教団の魔の手。
そして遂に動き出す新たな希望・PSK−03。
留美「行くわよ、北川くんっ!!」
祐一「名雪ぃぃぃぃぃっ!!」
祐一の絶叫が木霊する中、秋子の口から語られる驚愕の事実。
そしてもう一人の戦士にも新たな危機が迫っていた。
秋子「・・・これは嘘じゃありません・・・」
次回、仮面ライダーカノン「水瀬」
遂に、その時は来た・・・!!

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