<科学警察研究所 12:09PM>
窓ガラスを突き破り、装甲板のあちこちから火花を飛ばしながらPSK−01が表に飛び出してくる。
「ぐあっ!!」
地面に叩きつけられ、装着員・北川潤が苦痛の声を上げた。
それでも素早く立ち上がると倒れても手放さなかったオートマグナムを自分の飛び出してきた窓に向ける。だが、その手に一発の銃弾が命中、オートマグナムを弾き飛ばした。
「くっ!!」
弾き飛ばされたオートマグナムを見、潤はまた窓の方を見た。
そこにはマグナマシンガンを構えたPSK−02の姿がある。
N県で何者かに強奪されたPSK−02。それが今、PSK−01の前に居て、PSK−01を圧倒している。
「このPSK−02はPSK−01を遙かに超える性能を持っているんですよ?勝ち目があるとは思えませんよね?」
そう言いながらPSK−02が表に出てくる。
マグナマシンガンの銃口はPSK−01に向けたままだ。
「一体、お前は・・・?」
潤がそう言うと、PSK−02は銃口を上に向けた。
「さぁ?この誰だっていいでしょう?あんた方をぶちのめして更に未確認の腕を奪い返す、それが仕事でね。おっとあまり話しすぎるのも問題だよな」
再び銃口をPSK−01に向けるPSK−02。
PSK−01は素早く足を振り上げ、PSK−02のマグナマシンガンを持つ手を蹴り上げる。
素早く起きあがったPSK−01は二、三歩後退したPSK−02に追いすがり、パンチを食らわそうとした。
だが、その腕を素早く受け止めたPSK−02は逆にパンチをPSK−01に叩き込んだ。
よろけるPSK−01に更にパンチを食らわすPSK−02。
「クッ・・・まだまだ!!」
何とか踏みとどまったPSK−01が逆襲のパンチを繰り出す。
PSK−02はそれをあっさりとかわすと膝蹴りをPSK−01に叩き込んだ。
身体を九の字に曲げ、よろけて後退するPSK−01。
そこに蹴りを食らわせ、吹っ飛ばすPSK−02。
「うわああっ!!」
あちこちからまた火花を飛び散らしながら吹っ飛ばされるPSK−01。
PSK−01が地面に叩きつけられ、転がっている間にPSK−02はマグナマシンガンを拾い上げていた。
「悪いね。本当にあんた達に恨みはないんだよ?」
そう言いながらマグナマシンガンの銃口を倒れているPSK−01に向ける。
「この・・・」
地面に腕を付き、何とか起きあがろうとするPSK−01。
そこを狙ってPSK−02は容赦なく引き金を引いた。
マグナマシンガンの銃弾がPSK−01に叩き込まれ、装甲板が火花を飛ばす。
「うわああああああっ!!!」
潤の悲鳴が轟く。
マグナマシンガンの全ての銃弾が打ち尽くされ、銃口から煙が上がる。
PSK−01はその装甲をぼこぼこにされ、ぴくりとも動かない。頭部のマスクの目の部分もひびが入り、アンテナも折れ曲がってしまっていた。
「まぁ、死んじゃいないでしょうけど・・・恨みっこ無しでよろしくね」
PSK−02はそう言い残すと倒れて動かなくなったPSK−01に背を向けて歩き出した。
倒れて動かないPSK−01のマスクからノイズ混じりの音声が空しく聞こえてきていた。
『北川君!北川君!!しっかりして!!北川君っ!!』
 
仮面ライダーカノン
Episode.25「結界」
 
<都内某所 14:52PM>
窓には黒いカーテンがかけられ、照明も完全に落とされている。
前方のスクリーンには2時間程前に撮影された未確認生命体第21号と第3号亜種との戦闘の模様が映し出されている。
「これが・・・カノンだというのか?」
居並ぶ者の中、一番奥の席に座る男がそう言った。
「はい・・・古代の碑文には『まやかしの力』と記述されたカノンの姿の一つです」
そう言ったのは映写機のすぐ横に立っている女性。
長い髪の毛をヘアバンドでオールバック風にとめている何処か理知的な女性である。
「この姿の場合、カノンの本来の姿・・・相沢祐一自身の意識は戦闘本能に取って代わられている模様です。それが証拠にこの姿での戦い方はかつてのカノンとは全く違い、まさに野生の獣そのもののようでした」
「ふむ・・・」
頷く男。
「醜い・・・何という醜い姿だ!!これではかの失敗作、折原浩平と何ら変わらないではないか!!」
そう言って一人の男が立ち上がった。
何処かやせぎすの、眼鏡をかけた神経質そうな男。
「これがカノンだというのか!?これが完全体だというのか!?何と言うことだ!我々の目指すものはこのような醜いものだったというのか!?」
「・・・高槻博士、落ち着いてください」
そう言ったのは先程の女性だった。
あくまで冷静沈着、である。
「これがカノン完全体とは言っておりません。むしろ・・・今まで天沢さんが見てきたものが完全体に近いものだと思われます」
「天沢・・・ああ、あの小娘か。ふん、小娘の言うことなどどれだけ信じられるかわかったものじゃないな」
高槻博士と呼ばれた男はそう言うと椅子に腰を下ろした。
その態度はかなり偉そうである。
「彼女の報告によりますと相沢祐一は自分の記憶を完全に取り戻したのではないか、と。5年前までで止まっている彼の記憶と今のギャップに戸惑い、あのような姿に変身したのではないか?」
「憶測に過ぎないな」
高槻がそう言い切った。
「それは君・・・いや、あの天沢という小娘の憶測に過ぎない。それ以前にカノンが今までもあの姿で無いという確信はないのでは?我々はカノンのことを小娘からの報告からでしか知らないからな」
「確かに高槻博士の言う通りです。しかし、私は彼女の報告に嘘偽りはないものと思います」
冷静な声でまた女性が言う。
スクリーンに映し出されている映像は何時しか第3号亜種・ブートライズカノンが空を飛ぶ甲虫のような物体から分離したパーツを身につけているシーンに変わっていた。
「この空を飛ぶ甲虫に関しての情報はないか?」
今まで黙っていた男がそう言って映写機の側の女性に尋ねた。
「城西大学とN県立大学の共同調査が行われている華音遺跡で新たに発掘されたものだと言う報告が天沢さんより届いております。それと・・・N県でレベル4の変異改造体が2体、損失しております。高槻博士の管轄のものだと思われますが?」
女性はそう言うと高槻を見た。
その目にはやや非難するような色が浮かんでいる。
「確かに私の管轄だな。しかし、損失とは驚いたな。一体何者が?」
高槻は自分の前にある報告書のコピーを見ながら興味なさそうに言った。
「損失と言えばその天沢とか言う小娘もかなりの量の変異改造体を損失していると聞くぞ?そっちを追求する方が先ではないのかね?」
「確かに幹部でもない彼女には少し特権を与えすぎだな。これからは他のものと扱いを同じくさせよう。これでいいかね、高槻君?」
「解りました・・・」
高槻はそう言うとすっと立ち上がった。
「これ以上この映像を見ても私には得るものはありません。これで失礼させて貰います」
高槻がその部屋から出ていく。誰も彼の行動を咎めることはない。
スクリーンではブートライズカノンが第21号にとどめを刺しているシーンが映し出されていた。
「鹿沼君。カノンに関する調査は天沢郁未から君に担当を変えよう。よろしいかね?」
「私に依存はありません。ただ一つ条件を付けさせて貰えますか?」
「よろしい。言いたまえ」
「天沢さんを私の配下として頂きたいのですが?」
鹿沼と呼ばれた女性の発言に男は低い声で笑い声を漏らした。
「ああ、いいだろう。君の好きにしたまえ」
「ありがとうございます。では私もこれで失礼させて貰います」
鹿沼葉子はそう言うと、一礼して部屋から出ていった。
廊下に出ると、一人の女性が壁にもたれかかって彼女の出てくるのを待っていた。
葉子と比べるとまだ何処かあどけなさを残している、そんな女性である。
「あら・・・?」
「さっき高槻に会ったわ。相変わらずやな奴よね?」
女性がそう言うのを聞いて葉子は苦笑を浮かべた。
「それでも彼は優秀よ。この教団でも一、二を争う頭脳の持ち主」
「あっれ〜?かばうんだ、あいつのこと?」
「そう言う訳じゃないわ。どんな人でも少しは認める部分があるってこと。ところで・・・あなたはこれから私の管轄で動いて貰うわよ?」
「へぇ・・・今度は葉子さんの?巳間さんからは見捨てられたかな?」
葉子が歩き出したのを見て、女性も同じように歩き出した。
「高槻があなたのことを言っていたわ。今までのようには行かないからね。でもやって貰うことは変わらないわ。今までと同じ、カノン・・・相沢祐一の監視」
「了解しました、鹿沼主任」
少しおどけるように女性が言う。
「相沢祐一に今、何が起こっているか。そして彼は完全体になりうるのか、それをしっかり見届けてちょうだい」
葉子は真剣な目をしてそう言い、女性を見た。
「この先、彼が教団にとって味方になるのか、それとも敵になるのか、しっかりとあなたの目で見極めてきてね、郁未さん」
郁未と呼ばれた女性は葉子の言葉に無言で頷いた。
葉子はそれを見ると、満足げに頷き、歩き出した。
その後ろ姿を見送りながら天沢郁未は表情を消す。
「敵か味方か・・・果たしてどっちになるんでしょうね・・・それに・・・きっと彼は全てを取り戻すわよ・・・」
郁未はそう呟き、葉子とは反対方向に歩き出した。
 
<関東医大病院 15:32PM>
国崎往人はベッドの上で眠っている相沢祐一を心配そうに見ていた。
未確認生命体第21号との戦いの後、不意に気を失ってしまった祐一をここまで運んできて、ここの医師である霧島聖に預けた後、一度未確認生命体対策本部に連絡を入れてから戻ってきたのが丁度今さっき。診察していたはずの聖の姿がないと言うことはおそらく診察は終わったのだろう。彼女のいる部屋に行けばどうだったかすぐに解るのだが、何となく彼はこの部屋に残っていた。
「・・・ここにいたか」
そんな声が聞こえたので振り返るとそこには聖が立っていた。
「下にいるのかと思って一度行ってみたのだがな」
「ああ、済まない。手間をかけたな」
「別に構わないさ。この礼は必ずして貰う予定だからな」
聖はそう言って笑みを浮かべると病室に入ってきた。
死んだように眠っている祐一を見て、彼女はまた笑みを浮かべた。
「余程疲れたらしいな。よく眠っている」
そう言った聖を見る国崎。
「で、どうだったんだ?」
「特に問題はない。あえて言うなら体力を相当消耗しているくらいだ」
聖は国崎の方を見ずに言う。
「気を失ったのはその所為だな。だから君が気にすることはない」
「しかし・・・今まではそんなこと無かったぞ?」
そう言った国崎を聖が横目で見る。
「おそらくあの変身のためだと思う。先程来ていた美坂君から聞いたのだが、心に迷いや恐れがあるとまやかしの力に取り込まれて君の言うような姿になるのだろう」
「じゃ・・こいつはこれから変身するたびにこうなるって言うのか?」
「そこまでは解らないが・・・おそらくはな。彼が心の迷いや恐れを振り切ることが出来ない限り君の言うような姿の第3号になる」
「・・・・どうすれば・・・」
「心を無にすることが出来ればあるいはな・・・」
「心を無に、か・・・」
国崎は腕を組んだ。
何とかしないと祐一は変身するたびに消耗して行くに違いない。それは何時か命に危険になりうるのではないか。昨夜美坂香里から聞いた5年前の祐一の様子から考えるとそれはただの想像とは思えなかった。
「何とかしないとな・・・次の未確認が出てくる前に・・・」
 
<千代田区北の丸公園 17:52PM>
未確認生命体第21号ギャサメ・ボバルが倒された場所にはもう誰の姿もなかった。
警察による現場検証も終わり、今はただ爆発の跡だけがそこであった出来事を物語っている。
と、そこに一人の男が現れた。
背を丸め、何かを探すように下ばかり見ている。
「捜し物はこれじゃないのか、じいさん?」
背を丸めた男に向かって声をかけたのはサングラスをかけたキザな男。
その手には沢山の勾玉の付いたリング状のものが握られている。
背を丸めた男はキザな男が持っているものを見ると側まで寄ってきて奪い取った。
「マミン・ニミギシャ・タッシャ?」
「フフ・・・カノンン・シミギシャ」
キザな男はそう言うとにやりと口の端を歪めて笑った。
それを見た背を丸めた男はつまらなさそうにキザな男を見、そして歩き出す。
「ウリツヲショ・ビサマ・ゴショジャマ」
「ソシィドヲ・ゼースモ・ヌヌシ・ズラリソ・シミギシャ・ヲジャザメ」
背を丸めた男の後を歩きながらキザな男が言う。
「シュジバ・ジャデザ・ゼースモ・ツデリギャージャ?」
「ターダバ・ネシーミ・ギャダネヅショ・リッシェリシャ」
「ネシーガ・・・シャモニシジャ」
二人の男の姿が雑踏の中へと消えていく。
国崎の願い空しく、新たな戦いが始まろうとしていた。
 
<N県内倉田重工第3研究所 18:09PM>
N県にある倉田重工の第3研究所の地下、今そこの通路を倉田佐祐理と七瀬留美は歩いていた。
二人とも無言で、かなり真剣な表情を浮かべている。
留美の頭には包帯が巻かれており、片腕も肩からの布でつっている。これはPSK−02強奪時に受けた傷であった。
彼女はPSK−02強奪の時、いち早く気を失い殺されることはなかった。しかし、酷く混乱しており、病院に運ばれた後鎮静剤を打たれ、ずっと寝かされていたのだ。その為に佐祐理の耳にPSK−02強奪の報告が入るのが遅れたのである。そしてN県までやって来た佐祐理にことの顛末を話し、そして東京に戻ろうと言う時にその東京から強奪されたPSK−02によってPSK−01が破壊されたとの報告を受けたのだ。
試作型のPSK−01のデータを元により強力に作られたPSK−02にPSK−01が敵うことはない。それは二人とも知っていたのだが、この報告を聞いて二人は唖然とした。
装着員である北川潤はかろうじて無事、しかしかなりの重傷らしい。だが、その代わりと言っては何だがPSK−01はその機能のほぼ全てを停止、修理するにしてもどれくらいかかるか解らない程だという。PSK−01はそれでも潤を守ったのだ。
これを聞いた留美は佐祐理を伴い、この第3研究所にまでやって来たのだった。ここではPSK−02と同時期に開発に取りかかっていたあるものがあった。制御用のAIなどの問題があり、未だ調整中であったがそれでも今の状況を打破するにはこれしかない、そう考えた留美はとりあえず佐祐理にそれを見て貰おうと今廊下を進んでいる。
廊下の一番奥、突き当たりの部屋にそれはあった。
留美は黙ってドアを開け、佐祐理に中に入るよう促す。
佐祐理が黙ってドアをくぐり、中に入ると、留美も続けて中に入りドアを閉めた。
そして部屋の電気のスイッチを入れる。
「こ、これは・・・?」
そこにあるものを見て佐祐理は言葉を失った。
留美は黙って佐祐理の横を通り過ぎ、それの前に立つ。
それはPSK−01によく似たパワードスーツ。だが、どことなく違う。全体的にややごつい目になっている所為だろうか?
PSK−02とも違う。無骨さの中に何か高潔なものを感じさせる。
それはまるで中世の騎士の鎧のような。
佐祐理にはそう思えた。
「これがPSK−03です・・・」
留美がそう言って佐祐理を見る。
「開発時のコードネームは”ベルセルガ”」
「ベルセルガ・・・・確か狂戦士という意味でしたね?」
佐祐理の言葉に黙って頷く留美。
「実験段階ですがこれには最新鋭のAIを搭載しています。しかし・・・そのAIに問題があって・・・今まで封印していました」
留美はそう言うとPSK−03のマスクを手に取った。
「これなら未確認に決して引けを取らないと言う自身があります。ですが・・・このAIに彼が同調出来るかどうかが最大の問題です」
「同調・・・?」
「はい。PSK−03は純粋に戦いに勝つことを目的にされています。その為に最適な行動を取るようAIには設定されています。それと装着員が同調出来ないと・・・」
留美はそこで言葉を切った。
佐祐理はその言葉の先にあるものを感じ、黙り込む。
「流石に死人はでていませんが負傷者はテストの段階でかなりでています。それでも・・・」
「それでも・・・これしかないんですよね?」
「はい」
「なら・・・北川さんを信じましょう。彼なら、北川さんならこのPSK−03を完全に扱えると信じて」
留美は佐祐理の言葉に大きく頷いた。
PSK−03・ベルセルガは何も言わず、彼女たちを見守っているかのようだった。
 
<中央区東京駅付近 10:29AM>
日曜日だというのに東京駅の辺りは相変わらずの人だかりであった。
しかし丸の内方面に行くに従ってやはり日曜日なのか、人の数は少なくなっていく。
その中、一人の男が歩いていた。
何処かぎょろりとした目の男である。
その男の正面から美しいドレス姿の女性が歩いてきた。
「お前の番だ・・・」
「俺は他の連中とは違う・・・ゼースに必ず勝つ」
ぎょろりとした目の男はそう言ってにやりと笑った。
美しいドレス姿の女性が勾玉の付いたリングをすっと差し出した。
そのリングをぎょろりとした目の男が受け取り、そのリングをはめながら美しいドレス姿の女性を見た。
「マリヲガブリツ・シャヌヂーイガヲジェ・マリヲガマリヲ・シャレリショミヲ・ジェリリガ?」
「リリジャドル」
美しいドレス姿の女性はそう言ってそのまま東京駅の方へと歩き去っていった。
ぎょろりとした目の男は少しの間歩き去っていく美しいドレス姿の女性の後ろ姿を見送っていたがやがて、空を見上げた。
するとその姿が人間のものから怪人のものへと変わっていく。
蝉のような怪人・ネシー・ゴバルは背の羽根を広げるとそのまま大空へと舞い上がっていった。
 
<関東医大病院 10:42AM>
祐一は目を覚ますとすぐに身を起こした。
「また・・・病院か・・・」
そう呟いて、祐一はベッドから降りる。
ハンガーにかけられている自分の上着を取り、素早く羽織ると病室を出る。その足で病院の外に出ると、駐車場に止めてあるロードツイスターに跨った。
ヘルメットをかぶると上着のポケットの中からロードツイスター専用のキーを取りだし、差し込んで、エンジンをかける。
「何処に行く気だ?」
いきなり後ろから声をかけられ、祐一は振り返った。
そこには白衣を着た聖が立っている。
「ちょっと気晴らしに・・・」
「そう言う勝手なことをされては困るな。君が起きてからやろうと思っている検査が山のようにあるんだぞ」
「そんなこと言われても・・・俺、金持ってないし」
「そのことなら安心したまえ。検査代その他は全て国崎君から貰っている。正確に言えば請求書を問答無用で送りつけておいたのだがな」
そう言ってにやりと笑う聖。
祐一はその笑みにどことなく邪悪なものを感じ、苦笑を浮かべることしか出来なかった。
「とにかく、俺はこれで!」
祐一はアクセルを回してロードツイスターを発進させた。
「あ、こら、待たないか!」
聖がそう言うが、祐一はあえて聞こえないふりをしてそのまま何処へともなく走り去っていった。
 
<喫茶ホワイト 11:03AM>
城西大学考古学教室の学生・美坂香里は喫茶ホワイトの既に定位置となったカウンター席の一番奥でいつもと同じくコーヒーを飲んでいた。
「未確認生命体第21号、第3号が粉砕・・・ねぇ」
新聞を広げていたマスターがそう言って広げていた新聞を畳んだ。
「何か数が飛んでいるなぁ。そう思わないか、瑞佳?」
マスターはそう言って香里の側に座っているウエイトレスの長森瑞佳を見る。
「・・・ン?言われてみればそうだね。18号と20号は何処行ったんだろ?」
ちょっと上を見上げるようにして瑞佳が言う。
「そのどっちもN県で倒されたそうよ。やっぱり第3号にやられたって」
香里がそう言って二人を見た。
「おお!やはり第3号は我々の味方のようだな!安心だ」
マスターが嬉しそうに笑みを浮かべてそう言うのに対して香里はあまりいい顔はしていなかった。
「どうしたの、香里さん?」
瑞佳がそんな香里に気付いて声をかけてくる。
「・・・何でもないわ。さて、そろそろ研究室に帰らないとね」
香里はそう言うと立ち上がった。
「あれ?お昼、食べていくんじゃなかったの?」
立ち上がった香里を見上げて瑞佳が言うと香里は苦笑を浮かべた。
「そのつもりだったけど・・・調べものがまだたくさんあるのよ」
「だったら後で持っていこうか?」
「そうしてくれると嬉しいわ。じゃ、いつものでお願いね」
香里はそう言うとマスターと瑞佳に軽く手を振って見せ、店から出ていった。
香里が出ていった後、店内に客の姿はなくなってしまった。
ここしばらくの未確認生命体騒動で客足が遠のいてしまっているのだ。
「それにしても・・・祐の奴、帰ってこないな?」
マスターがそう言って外を見る。
つられたかのように瑞佳も表を見た。
「あいつ・・・記憶戻ってさっさと何処かに帰っちまったのかな?」
そう言ったマスターは少し寂しそうだ。
瑞佳はそんなマスターを見て、微笑んだ。
「なんだかんだ言ってもマスター、祐さんのこと気に入っていたもんね」
「まぁ・・・記憶喪失だったあいつを拾ったのは俺だからな。そりゃ気になりもするさ」
少し照れたようにマスターが言う。
「何て言うか・・・何処か放っておけないんだよな、あいつ。いつもにこにこしているんだけど、夜中にうなされていることもあったし、何か無理しているような所もあったし」
「・・・祐さんならきっと大丈夫だよ」
瑞佳はそう言って一人頷いた。
「きっと大丈夫。祐さんはああ見えても強い人だから」
「・・・買いかぶりすぎじゃないか?」
「かも知れない・・・でも・・・」
瑞佳はそう言いかけて急に表情を曇らせた。
マスターはそんな瑞佳を見て、黙り込んだ。
彼女がああいう表情をする時は決まって昔あったことを思いだしている。昔、彼女が救うことの出来なかった幼なじみのこと。そして彼女の前からいなくなってしまった幼なじみのことを。
「まぁ・・瑞佳がそこまで言うんなら大丈夫だろうな。あいつにも帰る場所があったってことだ」
マスターは沈黙に耐えかねたのかことさら明るい声で言った。
「そ、そうだね、うん、きっとそうだよ!」
瑞佳もマスターに同意するようにそう言った。
その時、カランカランとカウベルの音が鳴り、客が店内に入ってきた。
「いらっしゃいませ!!」
すかさず瑞佳が立ち上がって言う。
 
<新宿区西新宿付近 13:29PM>
新宿にある東京都庁・・・その壁に黒い点が地上から見て取れた。
かなり上の方にその黒い点がある。
「何だ、あれ?」
都庁の下を歩いていた男がその黒い点に気付き、上を見上げたその時だった。
突如上から目に見えない衝撃が彼を襲った。
「ぐあっ!!」
上から降り注いだ衝撃波に地面に叩きつけられる男。
「あ・・・ああ・・・・あが・・っ!!」
男の身体が地面を舗装しているアスファルトにめり込んでいく。
バキバキバキッ!!
イヤな音がして男の身体の全身の骨が砕け、男は絶命した。
男が完全に死んだのを見て、都庁の壁にくっついていた黒い点が離れて地上へと降りてきた。
「まずは一人・・・」
それはネシー・ゴバル。
ネシー・ゴバルはそう呟くと右手首にはめているリングの勾玉を一つ、動かした。
「さぁ、来い・・・ゼースに勝つのはこの俺だ・・・」
ネシー・ゴバルがそう言って再び羽根を広げ、空へと舞い上がる。
それを偶然通りかかったパトロール中のパトカーが発見、新たな未確認生命体出現の報が警視庁未確認生命体対策本部へともたらされたのはそれからすぐであった。
 
<倉田重工第7研究所 13:51PM>
一台の大型トレーラーが倉田重工第7研究所の裏門から敷地内へと入っていく。
そのトレーラーのサイズはKトレーラーとほぼ同じ。よく見ればその塗装もKトレーラーとそっくりであった。
大型トレーラーが地下にある駐車スペースに入り、Kトレーラーの隣に並ぶ。
「あー・・もう、疲れたわ・・・」
そう言ってトレーラーの中から留美が降りてきた。もう包帯はしていない。
彼女は大きく伸びをして、更に深呼吸をしてから歩き出した。
「本当ですね〜・・・」
続けて佐祐理がトレーラーから降りてきた。
二人はこのトレーラーをN県にある倉田重工第3研究所から運んできたのだ。そしてそのトレーラーの中ではPSK−03”ベルセルガ”が留美の手で最終調整されていたのだ。
「とりあえず先に休憩しましょうか?お昼もまだですし」
佐祐理がそう言って前を歩く留美に追いつく。
「私は北川君の様子を見てきます。彼がダメなら別の装着員を探す必要がありますから」
留美は真剣な顔をしてそう言い、佐祐理を見て、一礼した。そしてそのまま奧へと歩き去っていく。
それを見送ってから佐祐理は所長室に向かった。
PSK−01破壊についての報告書なども既に完成しているであろうし、やらなければならない仕事がたまっている。
小さくため息を漏らし、苦笑を浮かべて佐祐理は所長室のドアを開けた。
「これはこれは、随分とごゆっくりとしたご帰還で」
いきなりそんな声が聞こえた。
所長室にあるデスクの椅子にどっかりと腰を下ろしている一人の男、彼がそう言ったのは間違いがなかった。
「折角ですので待たせて頂きましたよ、倉田さん」
「・・・何の・・・用ですか、久瀬さん?」
佐祐理は努めて動揺を隠すように声を落として言った。
久瀬、と呼ばれた男は眼鏡を直してからゆっくりと立ち上がる。
「いやね、私もあなた方のPSKシリーズに負けないものの開発を始めたので、一応ご挨拶を、と」
久瀬はそう言うとニヤニヤといやらしい笑みを浮かべた。
「PSKシリーズに負けないもの・・・?」
佐祐理が訝しげな顔をする。
「はい。あなたが開発に心血を注いだPSK−01,強奪されたというPSK−02,そしてあなた方が先程運んできたPSK−03,それを越えるべく新たな装備をね」
久瀬は所長室内を歩きながら言い、自信たっぷりの表情を浮かべて佐祐理を見た。
「あなた方の開発したPSKシリーズ、それは倉田重工が誇る最高の頭脳、そして技術者を動員していましたよね?私は違いますよ。この日本という国の誇る最高級のスタッフを集めていますからね。何しろ未確認生命体などという謎の怪物が一般市民を殺害しているんだ、それを倒すためならと皆快く協力を引き受けてくれましてね」
佐祐理は黙ったまま何も言わなかった。
「自衛隊が何故PSKシリーズの全ての権利を放棄したか、その理由がこれでおわかりでしょう?」
久瀬はそう言うと勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「彼らはこの私の開発する新たな装備の方がより的確に未確認生命体を叩けると判断したんですよ。既に開発は開始されていますし、完成までそう遠くはないでしょう」
「・・・PSKシリーズの真の実力を甘く見ないでください、久瀬さん」
佐祐理はそう言って毅然と久瀬を見返した。
「あなたが日本中から優秀なスタッフを集めて何を開発しようとそんなことは私には関係ありません。私は私がやるべきことをやるだけのことです」
久瀬は佐祐理にきっぱりとそう言われ、驚いたような表情を浮かべていたが、咳払いをして、いつもの表情に戻るとまたニヤニヤとした笑みを浮かべた。
「・・・いいでしょう。どちらが正しいかはすぐに解ることです。あなた方は警察、私は自衛隊、どちらが未確認生命体をより多く倒せるか・・・結果が全てですからね。それでは今日の所はこれで失礼させて貰いますよ。ここで予想以上に時間を潰してしまいましたからね」
最後まで嫌みったらしくそう言い、久瀬が所長室から出ていった。
佐祐理は彼が出ていくのを確認すると初めてイヤそうな顔を浮かべた。
一方久瀬は第7研究所の表に停めてあった車に乗り込んでいるところだった。
「お疲れさまでした」
中に乗っていた女性がそう言って久瀬を出迎える。
「どうでしたか、倉田佐祐理女史は?」
「どうもこうもないね・・・彼女は変わったよ。昔とは随分な違いだ」
不機嫌そうに久瀬は言い、ドアを閉めた。
「しかし、彼女もいずれ私の前に跪くことになる。我々の開発するDS−01、これが完成し、その実力を発揮すればね」
走り出す車の中、久瀬は続ける。
「その為にはもっと君にも頑張って貰わないといけなくなる。頼むよ、広瀬さん」
隣に座っている女性・広瀬真希に久瀬はそう言って優しい笑みを見せた。
だが、真希はその笑みの中に、久瀬の抱える暗い心の本性を感じ取っており、黙って頷くだけであった。
 
<新宿区都庁付近 14:18PM>
都庁の付近はいち早く出動してきた所轄の警官達によって封鎖されていた。
そこに警視庁からやって来た未確認生命体対策班が到着した。
「今度で何号だ?」
車から降りながら国崎が言うと、一緒に乗ってきたらしい神尾晴子が呆れたような顔をして答えた。
「第22号や。それくらい覚えておき」
「ああ、そうだっけ・・・で、何処にいるんだ?」
国崎がそう言って歩き出す。
所轄の警官達に声をかけ、封鎖されている中へと入っていく。
「お疲れさまです」
一人の警官が声をかけてきた。
他の警官達よりも階級が高いのだろう、この現場での指揮を執っている人物であった。
「ご苦労さん。で、第22号は?」
晴子が声をかけると、彼は都庁の建物の遙か上の方を指で指し示した。
「あそこです」
そう言って双眼鏡を晴子に手渡す。
双眼鏡を覗き込んだ晴子は都庁の壁にぴたっとくっついている未確認生命体第22号を見つけるとため息をついた。
「どうした?」
「・・・蝉や・・・」
何かに疲れ切ったように言う晴子。
「蝉?」
何のことか解らない国崎は晴子から双眼鏡を受け取ると上に向けて覗き込んだ。
「・・・確かに蝉だ・・・」
思わず呆然とした口調で言う国崎。
二人は何か激しく疲れたように肩をがっくりと落としていた。
「あの・・・」
二人の様子に焦りながらも先程の警官が声をかけてくる。
「ああ、済まない。どう見ても蝉にしか見えなくてな」
「とりあえずまずは内側から攻めてみよか。あそこにおられたら手も足もでぇへんし、外から攻めんには準備に手間がかかるしな」
晴子がそう言って二人の後に続いて到着した同じ未確認生命体対策班の面々と機動隊員数名に都庁の中へと入るように指示した。
国崎は都庁に入っていく仲間を見ながらもう一度双眼鏡をのぞいてみた。
都庁の上の方にいる第22号は身動き一つしない。それはまるで何かを待っているかのように。
「・・・何で動かない・・・?」
国崎はそう呟いて、双眼鏡を降ろす。
「ヘリの手配が出来たで。住井が乗ってくるそうや」
晴子が言いながら国崎の方にやってくる。
「中からの攻撃が失敗したら即ライフルで狙撃や。あいつもなかなか銃の腕前はええからな」
「・・・ところで聞いておきたいことがあるんだ。科警研、どうなったんだ?」
国崎は隣に並んだ晴子に尋ねる。
「あんたが行った時にはもう終わっていたんだろ?」
「まぁな。うちに科警研に着いた時にはあの銀色がズタボロにされて、回収されてる最中やった。科警研の連中に怪我人はほとんどおらんかったけど例の未確認の片腕、あれが無くなってた。目的はそれやったみたいやな」
「そうか・・・折角奴らのことが少し解るかと思って期待してたんだがな・・・」
二人は並んで肩を落とした。
と、その時だ。
いきなり地面が揺れるように感じたのは。
「な、なんだ?」
国崎はそう言ってもたれかかっていた車に捕まった。
「な、何や?何があった?」
晴子も慌てたようにそう言うと、車の中の無線を手にした。
「地震か!?」
「違います!!」
そう言ったのは先程の警官であった。
「あの未確認生命体の仕業です!先程から何度か同じことがありました!」
「何でそれを先に言わねぇんだよ!!」
思わず言い返してしまう国崎。
その間にも振動は治まっていた。
「一体何だったんだよ?」
首を傾げる国崎。
「解りませんが・・・」
恐縮する警官。
「・・どないしたんや!返事しぃっ!!」
晴子の慌てたような声が後ろから聞こえてきた。
どうやら中にいる突入部隊と連絡を取っていたらしい。
「どうしたんだ?」
国崎が晴子に声をかけると、晴子は首を左右に振った。
「中に入った連中、全滅や・・・」
「な・・・!!」
晴子の言葉を聞き、国崎は言葉を失った。
確かに彼女の言う通りだった。
都庁の中に入ったものは皆、あの振動が起こった時、全身に目に見えない衝撃波を喰らい、為す術もなく吹っ飛ばされ、ある者は壁に叩きつけられ、ある者は耳や目、口、鼻から血を吹き出し、またある者は全身の骨を全て砕かれたようにその場に崩れ落ちたのだった。
「・・・蝉・・・・まさか・・・」
国崎はあることに思い至り、さっと上を見上げた。
「晴子さん、ヘリはどうなってる?」
「ヘリ?・・・ああ、こっちに向かってるはずやけど?」
「ダメだ!こっちに来たら撃ち落とされる!!」
そう言って国崎は無線を手に取った。
「住井、住井、聞こえていたらすぐに引き返せ!」
それを見た晴子が慌てて彼の手から無線を取り上げる。
「な、何ゆうとんねん、居候!」
「あの未確認・・・22号は超音波を掴んだよ!中に入った連中がやられたのもその所為だ!」
国崎はそう言って晴子の手から無線を取り返す。
「22号は蝉そっくりだった。蝉って言えばあのうるさい鳴き声だ。あれを極めるところまで極めたら超音波となってあらゆるものを破壊することが出来る!」
「んなアホな・・・」
晴子が呆れたようにそう言った時、いきなり近くに止めてあったパトカーが上から何かで押しつぶされたかのようにぺしゃんこになった。
それを見て言葉を無くす晴子と国崎。
「ぜ、全員一時退却だ!!」
そう言ったのは先程の警官だった。
この場に残れば何時未確認生命体第22号の超音波攻撃を喰らうか解らない。彼のこの判断は正しかった。
慌ててこの場を逃げ出す警官達。
国崎と晴子も一緒になって逃げ出していた。
 
<渋谷区代々木公園付近 15:21PM>
祐一はロードツイスターを道の端に停め、自分は道路に座ってぼうっと空を見上げていた。
何処へ行く宛もないし、何をするというわけでもない。
ただ、何も考えずにぼうっとしているだけなのだ。
色々と考えすぎていたのかも知れない。自分が変身出来ることや、謎の敵、未確認生命体と戦うことについて。
こうして何も考えずに空を眺めていると何となくだが気分が落ち着いた。
「祐さん、お久し振り♪」
いきなりそう言って空を見上げている祐一に声をかけてきた者がいた。
祐一が声のした方を見ると、そこには自分とそう歳の変わらなさそうな女性が立っている。
「お久し振りって言われても俺には君に会った記憶がないんだけどな・・」
少し困ったような顔をして言う祐一にその女性は微笑みかけた。
「そうね、私が会ったのは記憶を取り戻す前のあなただから。この場合、改めて始めましてって言うべきかな?」
女性はいたずらっぽい笑みを浮かべてそう言う。
「・・・・・・」
祐一はやや警戒したように女性を見た。
彼が記憶を取り戻したことを知っている人間はそう多くはない。彼が記憶を失っている間、特に世話になった人物・・・マスターや瑞佳、国崎、香里に聖くらいなものだ、知っているのは。にもかかわらずこの女性は自分のことを知っている上に自分が記憶を取り戻したことも知っている。これで警戒するなと言う方がおかしいだろう。
「・・・君は・・・」
「私は天沢郁未。あなたとの関係は・・・そうね、謎のトレーナーってところかしら?」
天沢郁未と名乗った女性はそう言って祐一の隣に座った。
「トレーナー?」
「そう。何度かカノンの特訓につきあってあげたのよ、この私が」
「・・・!!」
祐一は驚きの表情を隠せなかった。
自分を知っているのみならずカノンのことまで知っている。一体何者なのだ、この女性は?
祐一の頭の中をその疑問が占めていく。
「少なくても敵じゃない・・・つもりだけど」
郁未がそう言って祐一の顔を覗き込む。
「まぁ、どう取るかは君次第。別に敵になりたい訳じゃないけどこっちにも色々と都合があってね」
「都合ね・・・」
祐一はそう言うと苦笑を浮かべた。
少なくてもこの女性からは敵意は感じられなかったし、邪念も感じられなかった。それはただ、祐一が気付かなかっただけかも知れなかったが、それでも別にいい、そう彼は思っていた。
「で、俺に何の用なんだ?」
「特に用は無かったんだけどね、たまたま見つけたから。記憶を取り戻した君ってどういう感じか見ておきたかったし」
郁未は屈託のない笑みを浮かべてそう言う。
「それで、ご感想は?」
「そうね・・祐さんと比べて・・・君は素っ気ない」
「素っ気ない?」
「そう。祐さんはいつもにこにこしていてなかなか付き合いよかったけど、君は何か素っ気ない」
「そう言われてもな・・・俺は俺だし、それに・・・」
「まだ5年のブランクは埋められてないってこと?」
「そうかもな。まだ戸惑っている・・・そうだ、そう言うことだ」
自分に言い聞かせるように祐一が言う。
郁未はそれを聞いて何か言おうとしたのだが、その時、ロードツイスターに新たに取り付けられた無線が祐一を呼びだした。
祐一は立ち上がるとハンドルの中央にあるコントロールパネルのスイッチをさわり、無線をオンにした。
『祐の字、聞こえているか?』
国崎の声だった。
もっともこの周波数を知っているのは国崎とこれを取り付けてくれたバイク屋の親父、本坂だけであるが。
「ああ、感度良好とまでは言わないが聞こえているよ」
『今どこにいる?』
「代々木公園の近く」
祐一は少し身を伸ばして道路の標識を見ながら答えた。
『初台のオペラシティ、解るか?』
「初台・・?何処だ?」
『山手通と甲州街道との交差点の角にある。そこまで来てくれ』
「・・・解った」
祐一はそう言うとミラーにかけていたヘルメットを手に取った。そしてまだ座っている郁未を見て、
「悪いが急用が入った。これで失礼させて貰うぞ」
そう言ってヘルメットをかぶる。
「はいはい、頑張ってね。多分今度のも強敵よ」
郁未はそう言って祐一に向けて手を振ってみせた。
祐一はそれに答えず、ロードツイスターのエンジンに火を灯し、走らせ始めた。
しばらく走り去っていく祐一を見送っていた郁未だが、やがてすっと立ち上がると先程とはうってかわって真剣な表情を浮かべた。
「今のあなたじゃ勝てないんでしょうけど・・・何処までやれるか見せて貰うわ」
その声も先程までとは違って冷たいものであった。
 
<渋谷区初台交差点付近 15:42PM>
祐一はオペラシティと呼ばれる新国立劇場の前に止まっているパトカーを見つけるとロードツイスターをそのすぐ後ろにつけて停車させた。
ヘルメットをミラーにかけ、パトカーのドアをノックすると、中から国崎が顔をのぞかせた。
「また病院を抜け出したそうだな?」
「人聞きの悪いこと言わないでくれ。俺は至って健康、何も悪いところなんか無いんだぜ?」
そう言った国崎に祐一は苦笑を浮かべて答える。
「で、今度の未確認は?」
「今も新宿にある都庁の壁にひっついているようだ」
「なら中から・・・」
「失敗だった」
「じゃ、外から・・・」
「それも無理」
「・・どういうことだよ?」
怪訝な顔をする祐一。
中からもダメ、外からもダメでは何も出来ないのではないか?
「今度の第22号は見た目蝉そっくりだ。その特殊能力も蝉らしく超音波だった。中から行こうとした連中は見事に全滅、外からヘリを近づけさせようとしたがあの超音波がヘリを撃墜する可能性があって飛ばすことも出来ない」
「ヘリで行くってことは相当な高さじゃないか。だったら狙撃でもしてみたらどうだ?」
祐一がそう提案するが国崎は首を左右に振った。
「未確認対策班にそれほど凄腕のスナイパーはいない。それに実体のある弾丸だと超音波で落とされる可能性もあるしな」
「だからといって俺が変身してもそんな高い位置にいるんじゃどうしようもないじゃないか」
「それなんだが・・・お前の変身が昔のように出来るなら手はあるんだ」
そう言って国崎は祐一を見た。
「前のお前は基本の白い色から後四つ程別の色になれたんだ。そのうちの一つ、緑のカノンならあの蝉野郎を撃ち落とせるはず」
「緑・・・だけど、今の俺には出来る自信がない・・・」
祐一は顔を曇らせた。
「あんたの言う前のようなカノンになれるかどうか、自信がないんだ。でも・・・未確認が出たならやれるだけのことはやる。それでいいだろ?」
国崎はそんな祐一を黙って見ていた。
祐一は国崎の返事がないのが少し気になったがとりあえず停めてあったロードツイスターに向かっていった。
「蝉野郎の超音波はかなりの威力だ。俺たち警察は奴を中心に半径300メートルの範囲で封鎖している。それが奴の超音波の届かないギリギリの範囲だ」
「半径300メートル・・・その中に入ると?」
「何時、何処から、蝉野郎の超音波が襲ってきてもおかしくない。行くなら・・・気をつけろ。今のお前じゃかなりきついはずだ」
こっちを見ずにそう言った国崎に祐一は頷き、右手の親指を立てて見せ、ロードツイスターを発進させた。
「半径300メートルの結界・・・お前ならどう突破する?」
走り去っていくロードツイスターを見ながら国崎はそう呟いていた。
 
<新宿区都庁付近 16:01PM>
祐一の駆るロードツイスターは警察による封鎖を突破して一気に都庁の側までやって来ていた。
もちろんその様子はネシー・ゴバルにわからないはずもない。
「シュジモ・レソモジャ・・・」
嬉しそうにそう言い、ネシー・ゴバルは壁から離れた。
今度は哀れな獲物の前まで行ってこの手で殺してやろう。そう言うのもたまにはいいかも知れない。他の連中と同じことをするのもいい経験だろう。それにより上位のゼースに役立つかも知れない。そう考えたのだ。
一方祐一は空から自分の方に向かってくる黒い影に気が付いていた。
「奴か!!・・・こっちに来てくれるとはありがたい!!」
祐一はそう言うと、アクセルを回し、更にロードツイスターのスピードを上げた。
ネシー・ゴバルはスピードを上げたロードツイスターを見て、にやりと笑った。相手が逃げ出そうとスピードを上げたものだと思ったらしい。
そのまま体当たりを食らわせてやろうとネシー・ゴバルが祐一の正面まで降下してくる。
「このっ!!」
祐一が何とかネシー・ゴバルをかわすと慌ててブレーキをかけ、ロードツイスターを停止させた。そしてヘルメットを脱ぎながら地面に降り立つ。
ネシー・ゴバルも少し離れた場所に着地していた。
互いに睨み合いながら、祐一は両手を腰の前で交差させた。すると、腰にベルトが浮かび上がってくる。
交差させた両腕をそのまま左の腰へと持っていき、右腕だけを伸ばし、空に十字を描く。
「変身っ!!」
そう言って腰に残していた左手を挙げ、顔の前で右腕と交差させてから一気に左右に開く。
ベルトの中央が鈍い光を放ち、祐一の身体が変身を始める。
ネシー・ゴバルが見ている前で、祐一の姿がやはりブートライズカノンへと変わっていく。
それを見たネシー・ゴバルは驚きに、思わず二、三歩後退してしまった。
「ギ・・・ギナサバ・カノン!!」
驚きの声を上げるネシー・ゴバル。今まで獲物だと思っていたのが自分達の仲間を次々と倒している戦士カノンだったのだ。驚かないはずがない。
対するブートライズカノンは身体を低く構え、肩を大きく上下させて相手を威嚇するようにその牙をむいている。
「ロソ・ニドリ・ラリシェミ・マッシェギャヅ」
ネシー・ゴバルは初めこそ驚いていたが、やがて冷静さを取り戻し、ブートライズカノンに向かって一歩踏み出した。
「グワアァァァァッ!!」
ブートライズカノンが吠えながら地面を蹴ってネシー・ゴバルに飛びかかった。
その突撃を正面から受け止めるネシー・ゴバル。だが、ブートライズカノンの勢いはネシー・ゴバルの予想以上で思わず地面に倒されてしまう。
倒れたネシー・ゴバルの上に乗り、ブートライズカノンが拳を振り上げる。その拳を振り下ろそうとした時、物凄い衝撃がブートライズカノンの胸を直撃、大きく吹っ飛ばしてしまう。
地面に叩きつけられたブートライズカノン。その胸が赤紫色に変色している。
ビルの上から車を破壊する程の超音波をあれだけの近距離で喰らったのだ。むしろその程度で済んだのが凄いのかも知れない。
起きあがったネシー・ゴバルは倒れて、苦しげな声を漏らしているブートライズカノンを見、ゆっくりと近寄っていった。
「ウガアアアァァッ!!」
いきなりブートライズカノンが吠え、ばっと起きあがって近寄ってきたネシー・ゴバルを殴りつけた。
突然のことにネシー・ゴバルはかわせずにその一撃をまともに食らって吹っ飛ばされてしまう。
そこに更に飛びかかっていくブートライズカノン。だが、ネシー・ゴバルは再び超音波を放ち、ブートライズカノンを吹っ飛ばした。
宙を舞い、地面に叩きつけられるブートライズカノン。
「ぐはあ・・・」
苦しげに息を吐くブートライズカノン。
近寄ることすら出来ない。先程のように相手が油断して近寄ってこなければ、接近戦しか出来ない自分に勝ち目はない。飛びかかっていけばあの超音波が迎撃するだろう。いや、接近してもあの超音波は容赦なく襲いかかってくる。
ブートライズカノンには祐一の意識はない。彼の心の中に巣くう恐怖心を押し殺すために戦闘本能が取って代わってしまうからだ。
その戦闘本能が、今のブートライズカノンに全く勝ち目がないことを教えていた。だが、それでもまだブートライズカノンは起き上がる。
「ハアアアアア・・・」
ゆっくりと息を吐きながらブートライズカノンが片膝をついて立ち上がっていく。
ブートライズカノンの濁った色の赤い目が徐々に赤い輝きを取り戻していく。
それは祐一の理性が戻ってきたという証だった。
「今度こそ、俺はやるんだっ!!」
そう言ってブートライズカノンが走り出した。
「ウオオオオオッ」
雄叫びをあげながら走るブートライズカノン。その姿が徐々に、あの、白いカノンのものへと変わっていく。
「ウオオリャァァァッ!!」
地を蹴ってジャンプするカノン。
空中で一回転して右足を突き出す。
カノン、必殺のキックがネシー・ゴバルに迫る!!
 
Episode.25「結界」Closed.
To be continued next Episode. by MaskedRiderKanon
 
次回予告
ネシー・ゴバルの超音波攻撃にカノン、必殺のキックも通じない!
絶体絶命のピンチを救ったのは聖鎧虫だった。
潤「これなら・・・」
香里「何・・・が・・・」
祐一はもう一人の自分と向き合うことになる。
それは新たな力の覚醒か?
祐一「お前は・・・俺だと?」
国崎「今度こそ大丈夫なんだろうな?」
そして、訪れるもう一つの覚醒。
それが呼び覚ますのは新たな悲劇か、それとも・・・。
???「・・・おはよう・・・お母さん・・・」
次回、仮面ライダーカノン「覚醒」
遂に、その時は来た・・・!!

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