<文京区内 14:45PM>
相沢祐一は必死に走っていた。
目指す場所は未確認生命体第21号が現れたという上野公園。
今いる場所からはかなりの距離があるが、それでも必死になって走っている。
足代わりのバイクがあるのだが、彼はそのことを覚えてはいない。記憶を失っている間のことを、記憶を取り戻したことによってすっかり忘れてしまっているようなのだ。だから彼は走っているのだ。
わき目もふらず走り続ける祐一。
その前方に一台の軽トラックが急に現れた。
慌てて足を止める祐一。それでも勢いは殺しきれず、トラックの側面にぶつかってしまう。
「急に飛び出すんじゃねぇよ、この馬鹿!!」
軽トラックの運転手が祐一の方に向かって怒鳴る。
その言い方にむっとした祐一が何か言い返そうとする前に、運転手が降りてきた。
「全く随分探させやがって!瑞ちゃんから電話がなかったら永遠に見つかんねぇんじゃないかと思ったぞ!」
運転手は祐一にそう言いながらすっと荷台にあがり、そこに固定してあるバイクを降ろし始めた。
呆然と見ている祐一。
それに気付いた運転手がまた怒鳴る。
「馬鹿野郎!こいつはお前ンだろ!!さっさと手伝わねぇか!!」
「は、はいっ!!」
慌てて祐一は運転手を手伝って荷台からバイクを降ろした。
「ほれっ!」
運転手が鍵を祐一の方に向かって投げ渡した。
普通の鍵ではない。
カード状の鍵だった。
「これは・・・?」
祐一が受け取った鍵を見て運転手に聞く。
「この前預かった時に色々と改造させて貰った。無線もそうだが、性能も前と比べて20%増しだ。起動キーもそいつに変えておいた。無くすなよ、祐の字」
運転手はそう言ってにやりと笑った。
祐一は受け取った起動キーを握りしめ、運転手に向かって頭を下げた。
「ありがとうございます」
「礼なんざ言うんじゃねぇよ。・・・折角記憶が戻ったんだ、その記念だと思えばいい」
運転手はそう言うと、上着のポケットからくしゃくしゃになったタバコの箱を取り出し、そこから一本だけ取り出して火をつけた。
「行ってこい、祐の字。俺はホワイトで待っているからな」
そう言って運転手は再び軽トラックに乗り込んで走り去っていった。
祐一はそれを見送った後、バイクに跨った。
カードキーをそのスロットに差し込む。普通のバイクとは違うコンソールパネルに灯がともった。
「これは・・・」
祐一はそれを見ながら何か懐かしいものを感じていた。
「・・・行くぞ、相棒!」
エンジンをかけ、一気にアクセルを回す。
祐一は久々に愛車であるロードツイスターを駆り、未確認生命体が出現した現場へと物凄いスピードで向かっていった。
 
仮面ライダーカノン
Episode.24「聖鎧」
 
<台東区上野公園付近 15:00PM>
また一人の警官がばたりとその場に崩れ落ちた。
その向こう側には血で濡れた長い爪を嘗めている未確認生命体第21号、ギャサメ・ボバル。
「ゴモイ・ジャリモ・ネヲニミ・ニシェバ・シェゾシャレ・モマリ」
ギャサメ・ボバルはそう言って残る警官達を見やった。
誰もが怯え、恐怖に顔を歪めている。
「くそっ!怖がっていちゃ何にも出来ねぇぞ!」
国崎がそう言って逃げ腰になっている警官達を叱咤するが、あまり効果はない。
ギャサメ・ボバルは怯え腰の警官達を眺めやるとさっと地を蹴ってジャンプした。
「っ!!」
国崎は弾かれたようにギャサメ・ボバルを目で追った。
着地したギャサメ・ボバルは立ち上がると同時に振り返り、近くにいた警官にその長い爪を突き立てた。
身体を爪に貫かれ、その警官がその場に崩れ落ちる。
「くそっ!!」
国崎がライフルを向けるがその時にはギャサメ・ボバルはまたジャンプしている。その動きは野生動物のものだ。とてもじゃないが人間の追いつけるものではなかった。
「早いっ!?」
そう言った時、国崎は誰かにどんと突き飛ばされた。
見ると、先程まで彼の隣に立っていた機動隊員が血の気を失って彼の上にもたれかかっている。どうやら、またギャサメ・ボバルの手にかかり、殺されてしまったようだ。
「くっ!!」
国崎は機動隊員の死体を押しのけると素早く立ち上がった。
その背後にすっとギャサメ・ボバルが降り立った。
彼の首筋に長い爪が押し当てられ、国崎はごくりとつばを飲み込んだ。
「ロサレソ・ニメ」
ギャサメ・ボバルがそう言って爪を当てている手に力を込める。
国崎が覚悟を決め、目を閉じたその時、辺りにサイレンの音が鳴り響いた。
その音にはっとしたように振り返るギャサメ・ボバル。
そこにはKディフェンサーに乗ったPSK−01の姿があった。
「エレクトリックガンは使えない・・・ならばっ!!」
そのまま突っ込んでくるKディフェンサー。
ギャサメ・ボバルは国崎を突き飛ばすと、大きくジャンプしてKディフェンサーをかわした。
PSK−01はKディフェンサーを停止させると素早く装備ポッドからグレネードユニットを取り出した。腰のホルスターに収められているオートマグナムを取り出し、グレネードユニットを装着、それからKディフェンサーから降りるPSK−01。
『いい、北川君。接近戦はしちゃダメよ!それと30分。それが限界だからね!』
PSK−01のマスクの中に内蔵されている無線から深山雪見の声が聞こえてくる。
装着員である北川潤は小さく頷くと着地したギャサメ・ボバルを睨み付けた。
装備の中では最大の威力を誇るブレイバーバルカンが使用出来ない今、手に持っているグレネードユニット付きオートマグナムが最大の攻撃力を持っている。しかし、これがどの程度まで目の前にいる未確認生命体に通用するか、彼には自信がなかった。
更にいえば、今のPSK−01は完全ではない。
修理しなければいけない箇所が所々に残っており、かろうじて動いている程度なのだ。
「それでも・・・やらないと!」
潤はそう呟くと、一歩一歩前へと踏み出していった。
それを見たギャサメ・ボバルが飛びかかってくる。
潤は冷静にそれを見、グレネードユニットの引き金を引いた。
宙を舞うギャサメ・ボバルにグレネード弾が直撃、爆発が起こり、吹っ飛ばされるギャサメ・ボバル。
「やった!?」
潤がそう言って更に一歩前に出た。
その時だ。
吹っ飛ばされ、倒れていたギャサメ・ボバルが起きあがり、そのままPSK−01に向かって飛びかかってきた。
突然のことに潤は対応しきれない。
倒せたと思って油断していたというのもある。
ギャサメ・ボバルの攻撃にPSK−01は為す術もなく、吹っ飛ばされてしまう。
「くっ!!何てパワーだ!全く敵わない!!」
倒れた潤が呻く。
『胸部装甲に60%のダメージ!』
PSKチームのオペレーターの一人、斉藤が悲痛な声を上げる。
『北川君、離れて!!』
雪見の声。
PSK−01が何とか立ち上がり、再びオートマグナムを構える。
だが、それよりも早くギャサメ・ボバルが接近して来、その腕を振るう。
弾き飛ばされるオートマグナム。火花を飛ばし、傷つけられていく装甲。
Kトレーラーの中でそれをモニターしている斉藤が青くなって雪見を見る。
「深山さん、このままだと北川さんが!!」
「北川君、後退しなさい!そのままだとやられてしまうわ!」
雪見がヘッドセットのマイクに向かって呼びかけるが潤からの返答はない。
PSK−01はギャサメ・ボバルの猛攻に晒されながらもまだ倒れない。
ギャサメ・ボバルが片腕を大きく振り上げた。
それを見たPSK−01が素早くその手を自分の手で押さえ、開いている方の手でギャサメ・ボバルのボディにパンチを食らわせる。
思わぬ反撃に二、三歩よろけながら後退するギャサメ・ボバル。
PSK−01は素早く身をかがめてオートマグナムを拾い上げるとその狙いをギャサメ・ボバルにつけた。
「食らえっ!!」
潤がそう言って引き金を引く。
グレネード弾が発射され、ギャサメ・ボバルに命中し、爆発する。
「今度こそ・・やったか・・・?」
今度は油断無くオートマグナムを構えたまま爆発を見ているPSK−01。
「ぎゃああっ!!」
いきなり別の所から悲鳴が上がった。
声のした方を振り返ると、ギャサメ・ボバルが一人の警官をその長い爪で刺し殺したままの姿勢でPSK−01を見ている。
「ビサンミ・ニシェバ・マガマガ・ギャヅ」
ギャサメ・ボバルはそう言って今刺し殺した警官を地面に投げ捨て、にやりと笑った。
「くそっ・・・やっぱり敵わないじゃねぇかよ」
忌々しげにそう言ったのは国崎である。
「あいつじゃねぇと・・・ダメなのか・・・?」
国崎がそう言った時、バイクのエンジン音が響き渡った。
振り返ると、こちらに向かって一台のバイクが突っ込んできている。
「・・・ロードツイスター!?まさか・・・!!」
見覚えのあるバイクに国崎は思わず顔に喜色を浮かべてしまう。
ロードツイスターに乗った祐一はギャサメ・ボバルを確認すると更にアクセルを回し、スピードを上げた。そしてそのままギャサメ・ボバルに突っ込んでいく。
「喰らえぇぇぇっ!!」
雄叫びをあげながら祐一の操るロードツイスターはギャサメ・ボバルを吹っ飛ばした。
祐一は急ブレーキをかけ、タイヤを滑らせながらロードツイスターを停止させると国崎を見た。
頷く国崎に、同じように頷いて見せ、再びロードツイスターを発進させる。
その光景をPSK−01は呆然と見ていることしか出来なかった。
「あ・・・あれは・・・」
『北川君!限界の30分よ!退却しなさい!』
雪見の声が聞こえてくる。
「・・しかし、未確認はまだ!!」
『それ以上その場にいても貴方はただの足手まといにしかならないわ!それに未確認生命体は逃走を開始している!貴方は充分にやったの!だから、今は引きなさい!』
「・・・わ、解りました・・・」
潤はやや不服そうにそう答え、Kディフェンサーへと急いだ。
一方、ロードツイスターに吹っ飛ばされたギャサメ・ボバルは立ち上がると一目散に逃げ出していた。自身のダメージが大きくなり、これ以上の戦闘は不利だと判断したのか、あっという間に警官達の包囲網を突破していく。
それを追う祐一。
国崎も落としていたライフルを拾い上げると祐一を追い始めた。
 
逃げるギャサメ・ボバル。
それを追う祐一のロードツイスター。
その差はだんだんと縮まって行く。
祐一は更にアクセルを回し、遂にギャサメ・ボバルを追い越した。そしてその前方で停止する。
それを見て足を止めるギャサメ・ボバル。
祐一は無言でロードツイスターから降りるとさっと腰の前で両手を交差させた。すると、腰にベルトが浮かび上がってくる。
交差させた両腕をそのまま左の腰へと持っていき、右腕だけを伸ばし、空に十字を描く。
「変身っ!!」
そう言って腰に残していた左手を挙げ、顔の前で右腕と交差させてから一気に左右に開く。
その瞬間、祐一の心臓の鼓動がドクン、ドクンと大きく響き、冷や汗が彼の頬を伝った。
完全に恐怖心などが消えたわけではない。極度の緊張が彼を包み込んでいる。
そんな彼の身体が変化を始める。だが、それは今までの変化とは違っていた。
ベルトの中央がいつもより鈍い光を放ち、全身を第二の皮膚が覆っていく。しかし、その第二の皮膚の上には筋肉の筋や血管が浮かび上がり、いかにも生体的であった。いつもならその上に現れる生体装甲も現れず、分厚い筋肉が鎧のように身体を覆う。それが全身を覆い、徐々に硬化し始めるがその姿はいつもの白いカノンとはまるで別物のようにも見えた。
頭部の変化もいつもとは違う。
大きな赤い目は何処か白く濁り、口も牙がずらりと並んだ獰猛そうなものへと変わる。特徴的だった金色の左右に開いた大きな角もあまり大きくはなかった。そしてその角の中央に光る第三の目。
それは戦士・カノンと言うにはあまりにも姿が違いすぎた。
まるで未確認生命体のような姿、しかし、それでもこれが今の祐一の変身した姿である。
彼は知らなかった。
自分の心の中に巣くう恐怖、戸惑い、そう言う負の感情がベルトの奧に秘められている秘石に影響を与え、不完全な形態へと変化してしまったことを。
ブートライズカノン。
カノンが完全に変身しきれなかった場合に現れる一種のフォームである。
そして祐一の意識は戦闘本能に取って代わられていた。
「フウウウウウウッ!!」
息を吐きながらギャサメ・ボバルを睨み付けるブートライズカノン。
ギャサメ・ボバルは目の前にいる相手を見て、油断無く身体を構えていた。
ダッと地を蹴ってギャサメ・ボバルに飛びかかるブートライズカノン。だが、ギャサメ・ボバルはジャンプしてかわすと逆にブートライズカノンに向かっていった。
鋭く長い爪がブートライズカノンに向けられ、その胸板を切り裂いたがブートライズカノンは止まらない。血を胸板から吹き出しながらもギャサメ・ボバルに飛びかかってくる。
慌てて後方へと飛び退くギャサメ・ボバル。
その顔に焦りの表情が浮かぶ。
「フー、フーッ」
ブートライズカノンは身体を低くしてキッとギャサメ・ボバルを睨み付けている。
まるでその姿は血に飢えた野獣のようだ。
ギャサメ・ボバルを睨み付けているブートライズカノンが突如口を大きく開けた。獰猛な牙が光を放つ。
それは相手を威嚇するような、そんな仕草であった。
と、そこにようやく国崎が追いついてきた。
彼はまず止めてあるロードツイスターに気付くと、ギャサメ・ボバルと睨み合っている異形の姿に目を見張った。
「何だ・・あれは・・・?」
思わずごくりとつばを飲み込み、異形の姿、ブートライズカノンを見つめる。
「・・まさか・・・あれが・・・カノンだと・・・?」
ここに止められているロードツイスター。ギャサメ・ボバルと対峙している異形の存在。そして姿のない祐一。そこから出せる答えはそれしかなかった。
信じられないが、あの異形の姿こそカノンである、と。
「ガアアアアァァ!!」
いきなりブートライズカノンが吠え、ギャサメ・ボバルに飛びかかっていく。
国崎は援護すべきかどうか迷った。
あの姿のカノンが未確認生命体を倒した後、次に狙ってくるのはもしかしたら自分かも知れない。そう言う不安を感じさせたのだ、あの姿のカノンは。
だが、それは彼の杞憂に終わった。
ブートライズカノンをジャンプしてかわしたギャサメ・ボバルはその背に蹴りを食らわせると素早く着地、そして反転しながら起きあがろうとしているブートライズカノンに回し蹴りを叩き込んだのだ。
吹っ飛ばされるブートライズカノン。
その身体が不忍池へと叩きつけられるのを見てからギャサメ・ボバルはその場から逃げ去っていった。
国崎は少しの間呆然としていたが、やがて、そっと不忍池の方へと歩み寄った。
池の水面に浮かんでいるのは意識を失ったブートライズカノン。その姿がだんだん祐一のものへと戻っていく。
「・・・あいつ・・・どうなったんだ・・・?」
知らず知らずのうちに国崎は冷や汗をかいていた。
 
<関東医大病院 17:49PM>
国崎は祐一が寝かされている個室の前に立ち、苛立たしげに組んだ腕を自分の指で叩いていた。
そこにこの関東医大病院の医師である霧島聖がやってきた。
彼女は国崎の姿を見ると、指で自分についてくるよう促した。
国崎はちらりと部屋の中をのぞき、まだ祐一が気を失って眠っていることを確認すると聖について歩き出した。
聖が自分の診察室に入り、机の上に大きな封筒を投げ出してから椅子に腰掛け、国崎を睨み付けた。
「全くいつも言っていることだが、君はどうして私が帰ろうとする時間に限って厄介事を持ち込むんだ?」
そう言って封筒から写真を取りだした。
「これは先程撮った彼のレントゲン写真だが・・・この身体の異物、これの輝きが以前と違ってかなり鈍くなっている。その代わりにこの大きい異物の陰に隠れている小さな破片が前の時よりも輝きを増している。君が見た異形の姿に変身した彼はそれが原因ではないか?」
「・・・あくまで推測でしかないんだろ?」
国崎がそう言うと、聖は苦笑を浮かべた。
「そうだ。確かに推測に過ぎない。だいたいこの異物の正体も未だにわからないのだからな。・・・ところで未確認はどうした?また逃がしたのか?」
そう言って聖がにやりと笑う。
「・・・俺たちの装備じゃ全く相手にならないからな。あんたも知っているだろう?被害者の大半が警官だって言うことを」
国崎は苦渋に満ちた顔をして言う。
「・・・済まない」
その表情を見た聖がそう言って目を細めた。
彼女も知っているのだ。
未確認生命体に殺された人々の検死解剖の大半を彼女が引き受けているから。今日一日で10人以上の死体を解剖している。
「いや、俺の方こそいつも無理を言っているからな。気にしないでくれ。それに未確認を逃がしたって言うのは事実だ」
国崎はそう言うと、空いている椅子に腰を下ろした。
「上野公園で第21号を逃がしてからすぐに非常線を張ったがどうやら突破されてしまったらしい。今は行方不明で、捜索を続けている最中だ」
「・・・佳乃には出歩かないよう言っておく必要があるな」
聖が机の上に備え付けの電話に手を伸ばす。
家にいるであろう彼女の妹に電話で余程の用がない限り外に出ないよう言い、受話器を戻した。
「その・・異形の姿の第3号のことだが・・・」
「なんだ?」
「例の彼女には話をしてみたのか?」
「例の彼女?」
「城西大学の・・・」
「ああ、美坂か。そうだな、あいつに聞いてみたら何か解るかも知れないな」
国崎はそう言って携帯電話を取りだした。
ぱっぱとメモリから美坂香里の携帯の番号を呼び出す。
 
<城西大学考古学研究室 17:53PM>
美坂香里は浮かない顔でパソコンの前に座っていた。
マウスを操作しながらいつものように古代文字の検索を進めているが目はモニターを見ているようで見ていなかった。
「はぁぁぁ・・・」
ため息をつき、香里は首を振った。
「考えていても仕方なんだけど・・・」
今から2時間程前、長森瑞佳から電話があり、祐一が再び戦うことを決意し、未確認生命体が現れた場所へ向かったことを聞いた。
瑞佳が祐一をどう説得したのは知らない。だが、彼女が祐一に会う直前に香里も祐一に会っているのだ。その時、香里は祐一を説得出来なかった。更に祐一にかなり酷いことを言ってしまっている。
次に祐一に会う時、どんな顔をして会えば彼女には解らなかった。もっとも祐一がそう言うことを気にするような人間かどうかは解らなかったが。
「はぁぁぁ・・・」
またため息をついた時、携帯電話が呼び出し音を鳴らした。
「はい、美坂です・・」
つい、声のトーンが落ちてしまった。
『どうした、元気無さそうだが?』
相手が少し心配そうに言ってくる。
「そんなこと無いわ。で、何か用?」
『ちょっと調べて欲しいことがあってな。今からそっちに行っても良いか?』
「・・・別に良いけど・・・そうね、夕飯おごりだったら待っていても良いわ」
『・・・足下見やがって・・・解った。その条件でも良いから待っていてくれ』
「・・ところで相沢君、どうだった?」
『相沢?・・・ああ。祐の字のことか。あいつなら今関東医大病院だ。そのことも関係しているから、すぐに行く』
「・・何かあったの?」
香里は急に不安になった。
もしかして祐一の身に何かあったのではないか。あれほど戦うことを恐れていた彼が、未確認生命体と戦ってまさかの事態が起きたのではないか。彼はまだ名雪と再会していないのに。
『ちょっとな。とりあえず身体の方は何ともないようだ。聖に任せてあるから心配ないだろう。じゃ、後でな』
それきり電話が切れてしまったようだ。
香里はほっと息を吐くとまたパソコンに向かった。
モニターを見ると検索が終わっている。
ここしばらく続けていた新たに華音遺跡で発見された碑文の検索だった。
「・・・聖なる鎧の虫、戦士の新たなる力とならん・・・それを身にまとい、新たな力となせ」
口に出して読んでみる。
「解らないのは・・聖なる鎧の虫ね、やっぱり・・・」
そう呟いて香里は椅子の背もたれに背を預けた。
「何とか・・力になりたいけど・・・」
 
<城西大学学生食堂 19:38PM>
香里は国崎と向かい合いながら不機嫌な様子を隠そうともせずにラーメンをすすっていた。
「全く・・・あんたに期待した私が馬鹿だったわ」
そう言って香里は国崎を睨み付けた。
「何言ってるんだよ。貧乏な俺が驕ってやっているんだから少しは感謝しろよ」
国崎はラーメンをすすりながら香里を見て言う。
香里は箸を置いてため息をついた。
「で、相沢君に何があったの?」
「俺が見ただけだから信じて貰えるかどうか解らないけどな・・・カノンが妙な姿になったんだ。まるで未確認みたいなな」
「カノンが・・?」
「ああ。何て言えばいいのか・・・不気味な姿でな。俺でも寒気がするくらいだった。それに・・・戦い方がおかしかったんだよ。今までとは全く違う・・・何というか野生の本能のままに戦っているというか」
国崎はそう言っている間も箸を止めることはなかった。
香里はしばらく考え込むように黙っていたが、やがて箸を動かし始めた。そして見る見るうちにラーメンを平らげていく。
それは国崎も驚く程のスピードであった。
「・・・おい?」
ずずずっとスープまで飲みきると、香里は立ち上がった。
「研究室に戻っているわ。あんたは後から来なさい」
そう言い残し、彼女は学生食堂を後にした。
その場に残された国崎は呆然と香里の後ろ姿を見送ることしか出来ないでいた。
 
<関東医大病院 21:13PM>
ベッドに寝かされている祐一が苦しそうに顔をしかめている。
その額には大粒の汗。
「くうう・・・」
掛けられているシーツをぎゅっと掴み、もう片方の手が天井に向かって伸ばされる。
一体何に苦しめられているのか。
それは解らないが、祐一はただ苦しそうに呻き声を上げている。
不意に天井に向けて伸ばされていた手から力が抜け、ベッドの上に落ちた。
苦しそうにしかめられていた顔も今は落ち着いたようだ。
呼吸も落ち着いてきたようだが、彼の顔色はあまり悪くなかった。
しかし、それに気付くものは誰もいない・・・。
 
<城西大学考古学研究室 21:21PM>
先程から香里は真剣な顔をしてモニターとにらめっこを続けており、国崎は暇そうに椅子に腰掛けていた。
「ふわぁぁぁ・・・」
思わず出る欠伸をそのままに、国崎は時計を見る。
「眠いんだったら帰ってもいいのよ」
モニターから目を離さず香里が言う。
「そう言うわけにもいかないだろ。俺が頼んだことなんだからな。何か解るまでは・・・」
そう言って国崎は立ち上がり、大きく伸びをした。
「・・・そこにコーヒーが残ってない?」
香里がやはり目をモニターに釘付けにしたまま指でコーヒーメーカーを示す。
国崎はコーヒーメーカーまで歩いていき、中にコーヒーがあるのを確認すると近くにおいてあった紙コップに注ぎ込んだ。
「砂糖とミルクはそこの引き出しの中」
「あいにくブラック派でな」
そう言って紙コップに口を付ける。
「・・・これじゃないかしら・・・」
香里がそう言ってようやくモニターに釘付けにしていた視線を国崎に向けた。
それを聞いて、国崎が香里のそばにやってくる。
「『戦士の心に迷いある時、まやかしの力、その身に宿る』」
モニター上に出ている言葉を香里が読み上げる。
「・・・あれは・・まやかしの力だって言うのか?」
国崎は何か納得のいかないような顔をして香里を見た。
「少なくても本当の力じゃないと思うけど?」
「・・・・俺にはあれもカノンの力の一つだと思えるんだがな。祐の字の記憶が戻って、あいつ自身それに戸惑っているから使いこなせないだけで・・・本当ならもっと使いこなせるんじゃ?」
「確かに相沢君は戦うこと・・・変身すると言うことにまだ完全には思い切ってないと思うわ。5年前の時、死にかけているものね。その恐怖が彼をまだ・・・」
「・・・5年前、か・・・一体何があったんだ?」
「話したこと無かった?」
「聞いたかも知れないが忘れた。それ以前に聞いてないような気も・・・」
そんな国崎を見て香里はため息をついた。
「・・・そう言えばあんたには話してないわね・・・5年前ね・・・」
香里はそう言って5年前に起こったことを国崎に話し始めた。
 
<都内某所 21:57PM>
薄暗がりの中、一人の女性が地面に腰を下ろしている。
何をするわけでもなく、ただ座っている。
「随分と余裕があるじゃないか」
そう言って青白い顔の男が姿を現した。
「今日一日で何人のビサンを殺した?」
女性は青白い顔の男の質問に答えずすっと立ち上がった。
そこにどこからともなく美しいドレス姿の女性が姿を見せた。
「ビサンの戦士にもなかなか手応えのある奴がいた」
美しいドレス姿の女性に向かってその女性、ギャサメ・ボバルは言った。
「だが、それでもまだまだ私達の敵ではない」
「カノンとはどうだった?」
そう言ったのは青白い顔をした男。
「カノンとて敵ではない。このゼース、私が貰った」
にやりと笑うギャサメ・ボバル。
「そうやって油断していると痛い目を見ることになる」
美しいドレス姿の女性がぽつりとそう言い、歩き出した。
「あれがこっちに向かっている。気をつけることだな」
青白い顔の男がそう言い、美しいドレス姿の女性の後について歩き去っていった。
残されたギャサメ・ボバルは苛立たしげに舌打ちすると二人とは別の方向へ歩き出した。
 
<倉田重工第7研究所 22:18PM>
雪見はPSK−01の修理箇所を見ながらこの日何度目かのため息をついていた。
「今夜も徹夜ね、これじゃ」
そう呟くと首を振りながら椅子に腰を下ろす。
昼間の戦闘で受けたダメージはかなりのものであった。元々のダメージもあわせるとPSK−01は起動出来るギリギリのラインである。
「一度本格的に修理とか調整が必要、か・・・」
手に持ったクリップボードにはPSK−01の修理や調整が必要な箇所が書き込まれた書類が挟まれている。
「はぁぁ・・・未確認が待ってくれるとも思えないし・・・あの計画はどうなっているのやら?」
雪見はそう言って手に持っていたクリップボードを机の上に置き、愛用のコーヒーカップを手に取った。
「まぁ・・・北川君じゃないけど、頑張るしかないか・・・」
コーヒーカップに口を付け、雪見は小さくため息をついた。
PSK−01の修理はまだ終わらない。
 
<警視庁未確認生命体対策本部 10:21AM>
この日も朝から対策本部のメンバーは忙しかった。
昨日取り逃がした未確認生命体第21号は一体何処に消えたのか全く手がかりが無く、捜索は難航を極めている。その為、それぞれが各所轄に出向いて東京都内の各所に警戒を呼びかけているのだ。
対策本部の置かれている会議室ではホワイトボードに都内の地図が貼られ、その中の上野公園当たりに大きく赤い丸がつけられている。
その地図を前に、神尾晴子は腕を組んで顔をしかめていた。
「一体何処に消えたゆうんや・・・」
第21号が姿を消してすぐに非常線が上野公園を中心にして敷かれたのだが、そのどれにも第21号は引っかかっておらず、尚かつ姿すら誰一人目撃していないと言う。
「まさか人間の姿になって逃げたんとちゃうやろな・・・」
未確認生命体が人間の姿になれると言うことは早い時期から解っている情報である。しかし、その姿を目撃したものはそういないし、たとえ目撃してもその場で怪人体に変身しなければそれが未確認生命体だとは誰にもわからないだろう。
「もしそうやとすると・・・あいつら・・・確実に頭ようなっとんな・・・」
少しは観鈴にも見習わせなあかんな・・・などと不謹慎なことを考えながら晴子は地図に手を伸ばした。
「いっちゃん初めの被害者がここ・・・」
地図上の一点を指さす。
「次がここ・・・包囲したんがここ・・」
次々と指を動かしていく。
「次に現れそうな場所・・・人の多い場所は・・・」
すーっと指が動き、ある一点で止まる。
そこに書かれている地名は・・・東京ドーム。
「・・・先読みして行ってみるか・・・」
そう言って晴子が会議室を出ようとした時だった。
一人の婦人警官が慌てたようにやってきた。
「た、大変です!今科警研から連絡があって・・・」
科警研・・・科学警察研究所。
犯罪科学に関する総合的な研究を行う機関である(科警研オフィシャルHPより)。
今はこの未確認生命体対策本部の要請を受けて対未確認生命体用の特殊弾を開発したり、未確認生命体の研究などが行われている。それについこの間の戦闘で対策本部が入手した第19号の片腕の分析が行われているはずだった。
「どないしたんや?」
「何者かの襲撃を受けているとのことです!」
「何やて!!」
婦人警官の報告を聞いて晴子は顔色を変えた。
「一体何処の誰が・・・?」
「解りませんが・・・早く救援に行かないと・・・」
「解った、あんたはこのことを鍵山本部長に伝えといてや!」
晴子はそう言い残すと大急ぎで走り始めた。
 
<倉田重工第7研究所 10:38AM>
雪見は鳴り響く電話の音で目を覚ました。
「はい、深山です・・・」
半分ぼうっとしたまま、自分の携帯電話を取る。
「はい・・・はい・・・解りました!すぐに急行します!」
電話の内容により、雪見ははっきりと目を覚ましていた。はきはきした声で答えると携帯電話を切り、研究所内の内線電話を手に取る。
「PSKチーム、出動よ!」
それだけ言うとまだ修理中のPSK−01を見た。
まだ80%しか修理は完了していない。しかし、それでも出動要請が来た以上、行かないわけにはいかなかった。
彼女は立ち上がると着ていた白衣を脱ぎ、PSKチームの一員であることを示すジャケットに袖を通し、部屋から出ていった。
それから約10分後、PSKチームを乗せたKトレーラーが千葉にある科警研に向けて発進していった。
 
<関東医大病院 10:52AM>
祐一は不意に開けられたカーテン、そして窓から入ってくる光に顔をしかめた。
「うう・・・」
「目が覚めたかな?」
いきなり声をかけられ、祐一は目を開けた。
「ここは・・・?」
身体を起こしながら祐一が聞くと、側に立っている白衣を着た女性が笑みを浮かべた。
「関東医大病院だ。君は昨日、未確認と戦った後、気を失ってここに運ばれてきたんだ」
「・・それじゃあんたは俺のことを・・・」
そう言った祐一の頭をその女性は豪快に殴りつけた。
「いてっ・・・何するんだよ!」
祐一が頭を押さえて女性を睨み付ける。
「国崎君から聞いてはいたが本当だったようだな。記憶を取り戻したがその記憶を失っている間の記憶をすっかり無くしてしまったというのは」
女性はそう言って嘆息すると、祐一をじっと見た。
「私は世界で唯一の主治医、霧島聖だ。君の身体のことは知っている。・・・それと、私は君より年上だ。それなりの敬意は払いたまえ」
聖はそう言うと、祐一の頭をぽんとはたいた。
「・・・確かにそうだ。じゃ、霧島先生、でいいか?」
「聖でかまわん。君が記憶を無くしている間は聖先生と呼んでいたからな。その方が違和感が無くていい。私の方は君のことを相沢君と呼ばせて貰うが構わないな?」
「祐一でいいよ、聖先生。ところで・・・どうして俺は気を失ったんだ?」
祐一の質問に聖は意外そうな顔をした。
「覚えていないのか?」
「・・・ああ。変身したところまでは覚えている・・・でもそこから先はあまりはっきりしないんだ・・・」
祐一は額に手を当ててそう言った。
聖は腕を組んで考えているようだったが、やがて祐一を見て口を開いた。
「君は変身して未確認第21号と戦って敗れた。その時、君の姿は今までのものとは違っていたそうだ」
「今までのものとは違っていた?」
聖は祐一の言葉に頷いた。
「そうだ。私は見たことがないのだが、今までの第3号・・・カノンとは違ってまるで未確認みたいな姿だと国崎君が言っていた」
「そんな・・・」
聖の言葉を聞き、祐一の顔が青くなった。
「やっぱり・・・変身するんじゃ・・・」
呆然と呟く祐一を見て、聖は顔をしかめた。
「それは違うと思うぞ。君が戦うことで救われる人が大勢いる。少なくてもそれを君は誇りに思っても良い」
そう言って聖は祐一の肩に手を置いた。
「君に戦えと強制するつもりはないが・・・私としては君が戦ってくれることで大勢の人が、沢山の人の明日が守れていると信じている。何時か君が・・・記憶を無くしていた時の君が言った言葉だ。誰かのために何かが出来るというのはいいことだと」
優しく諭すように聖が言う。
祐一は俯いたまま何も答えない。
「たとえ記憶を無くしていようと・・・君は君だ。その君が言ったことだ。私は信じているよ」
聖はそう言うと祐一の肩から手を離した。
「体の調子はどうだ?」
医師の顔になって聖が聞く。
「・・あまりよくない」
短く答える祐一。
「だろうな。顔色がよくないし、目も充血している。余りよく眠れなかったようだな」
祐一の顔を覗き込みながら聖は言った。
「それも覚えてない」
「今はゆっくりと休むことだ。第21号が再び出てくるまでは、な」
聖はそう言って笑みを浮かべると祐一のいる個室から出ていった。
部屋に残された祐一はベッドに倒れ込むと、目を閉じた。
 
<科学警察研究所 11:23AM>
Kトレーラーから発進したKディフェンサーが科学警察研究所、通称科警研の敷地内に入ってくる。
PSK−01を装着した潤は余りもの静けさを不気味に思いながらKディフェンサーから降り、装備ポッドからオートマグナムとグレネードユニットを取り出すと建物に向かって歩き始めた。
建物の中もまるで誰もいないかのように静かである。
潤は油断無く一歩一歩進んでいく。
『気をつけて、北川君・・・ここにいるのが一体何者かまだ解ってないからね』
雪見の声が無線を通じて聞こえてくる。
PSK−01のマスクに取り付けられている小型カメラで内部の状況はKトレーラーにも映し出されているはずである。更に様々な分析がその映像から為されているはずだ。
潤は近くにあったドアに手をかけるとすっと押してみた。
何の抵抗もなくドアが開き、潤はオートマグナムを構えて中に飛び込んだ。しかし、そこには誰の姿もない。
「・・・誰もいない・・・?」
潤が呟く。
「深山さん・・・ここを襲撃したのが何者かは解りませんが一つ気になることがあるんです」
『何?』
「第19号の片腕が運ばれてきたのはここですよね?もしかしたらそれを狙って・・・」
『仲間の未確認が取り返しに来た、とでも?』
「その可能性は否定出来ないと思います。それに・・・俺たちが何度か遭遇しているあの別の未確認・・・」
『・・・そうね。北川君、第19号の片腕の分析が行われているのはそこの廊下の一番奥の部屋よ。充分気をつけてね』
雪見の通信に頷き、潤は廊下の奥のドアを確認した。
廊下を一歩歩くごとに緊張感が増す。
ドアの前まで来たPSK−01はすぐ横の壁に背を預けてドアノブに手をやった。
その時だ、ドアが内側から大きく開けられたのは。いや、開けられたのではない。吹っ飛ばされたのだ。
素早く手を引っ込めるPSK−01。
「な、何だ?」
もうもうと煙が吹っ飛ばされたドアの向こう側から立ちこめる。
『北川君!何かいるわ!油断しないで!!』
潤はごくりとつばを飲み込むとオートマグナムを構えた。
ガシャンガシャンと言う機械的な足音が聞こえてきた。
煙の向こう側に黒い影が映り、そこから赤いレーザーがPSK−01の胸に注がれる。次の瞬間、PSK−01の胸の装甲板に物凄い衝撃が襲いかかった。
思わず吹っ飛ばされ、倒れるPSK−01。
「な、何だとっ!?」
何とか身を起こしたPSK−01が見たもの・・・それは。
煙の中からゆっくりと姿を現したのは。
マグナマシンガンをPSK−01に向けたPSK−02であった!
「あなた方には恨みはないんですがね。これがスポンサーの意向でね」
PSK−02の装着員はそう言うとマグナマシンガンの引き金を引いた。
 
<千代田区北の丸公園付近 12:09PM>
コンサートでもあるのか今日も九段下の駅からは多くの人々が次から次へと出てきている。
そんな中を同じように歩いている猫を思わせる容貌の女性、ギャサメ・ボバル。
キョロキョロと周りを歩く人々を見回している様はまるで獲物を物色しているかのようだ。
その遙か上空を飛んでいる物体があった。
先日、祐一や国崎の目の前でいきなり飛び去った華音遺跡から発掘された謎の物体である。
それはカノンが未確認生命体第21号と戦っている時に見えたビジョンそのままの姿であった。
その飛行物体はしばらくギャサメ・ボバルの上空をくるくると飛び回っていたがやがて何処かへと飛び去ってしまった。
そんなことはつゆ知らずギャサメ・ボバルは遂にその牙をむこうとしていた。
往来の中でギャサメ・ボバルは突如怪人体に変身し、近くにいた若者に長い爪を突き立てた。
あまりにも突然だったのでその若者は何が起こったのかすら解らなかっただろう。首筋を爪で貫かれ、その場に崩れ落ちる。
「キャアアアアアッ!!」
悲鳴が上がった。
同時にパニックが起こる。
ギャサメ・ボバルの姿を確認した人々が我先に逃げまどい、大混乱が始まった。
 
<関東医大病院 12:13PM>
ベッドに横になっていた祐一に頭に突如何かが走った。
はっと目を開き、起きあがる祐一。
ベッドから降りるとハンガーに掛かっていた服を着、部屋の外へと出ていく。
廊下を走っていると、丁度角を曲がってきた香里とぶつかりそうになった。
「きゃあっ!!」
悲鳴を上げる香里。
「あ、悪い!急いでいたから!!」
祐一はそう言ってから今ぶつかりそうになったのが香里だと気付いた。
「香里じゃないか・・・どうしたんだよ?」
「相沢君・・・」
香里は相手が祐一だと気付くといきなり顔を背けてしまった。
「まぁ、いいや・・・俺、ちょっと行かないといけないからさ。じゃな」
祐一は香里の様子を不審に思いつつもまた走り出そうとしたが、その腕を香里が掴んだ。
「・・・何だよ?」
香里の方を見て、祐一が聞く。
「・・・相沢君・・・貴方、まだ戦うのが怖い?」
香里は俯いたままそう言った。
「・・・ああ、確かに怖い。でもな、俺には戦う力がある。それで誰かのためになることが出来るんだ。怖いとか言っている場合じゃないだろ?」
祐一はことさら笑顔を見せて言った。
香里はそう言った祐一の顔を見て頷いた。
「戦士の心に迷いある時、まやかしの力、その身に宿る・・・きっとこれだと思うわ。相沢君、変身する時に怖がったり迷ったりしたらダメよ。まやかしの力に取り込まれるわ」
香里はいつになく真剣な目をしてそう言った。
祐一は黙って頷いた。
「俺は・・・負けない!!」
そう言うと祐一は香里をその場に残して走り出した。
 
<千代田区北の丸公園付近 12:34PM>
未確認生命体出現の報を受けた未確認生命体対策班の面々は大急ぎで現場へと急行していたが、現場の大混乱のため、思うような動きがとれないでいた。
「一体何処にいるんだよ、21号は!?」
国崎がそう言って周囲を見回す。
しかし、彼の周囲は逃げまどう人々で何も解らない状態であった。
「だぁぁっ!!これじゃ何にも出来ないじゃないかっ!!」
所轄による避難誘導も混乱のため上手くいってないらしい。これでは第21号を倒すどころか発見することすら難しかった。
「国崎さん、こっちです!!」
同じ未確認生命体対策班の住井護が大きい声でそう言い、手を振っている。
「住井か!?」
「はいっ!!早くこっちに!!」
国崎が手を振っている住井の側に人の波をかき分けて何とか辿り着く。
「第21号は日本武道館の方に向かっています。我々も移動しましょう!」
住井が先導して国崎が後に続く。
日本武道館の周辺には機動隊が既に展開しており、逃げ遅れた人の避難を行っていた。
「流石は機動隊、素早いな」
国崎がそう言って周囲を見回す。
「いた!あそこだ!!」
住井がそう言って走り出した。
慌てて続く国崎。
ギャサメ・ボバルは逃げまどう人々をニヤニヤ笑いながら追いかけていたが、いつの間にか警官達に包囲されつつあることに気付くとその狙いを警官隊に変えていた。
国崎達がその場に辿り着いた時には既に数人の警官が倒れていた。
「銀色はどうした!?」
「科警研で何かあったらしくそっちに行っているらしいです。後、神尾さんもそっちに」
「てことはここは俺たちで何とかするしかないってか・・・」
国崎はそう言うと懐から拳銃を取りだした。
あの人混みの中ではライフルを持ち歩けなかったからだ。
「第3号が来てくれればいいんですけどね・・・」
弱気なことを言う住井。
彼も拳銃を構えるとギャサメ・ボバルに向かって走り出した。
その頃、祐一はロードツイスターを駆って北の丸公園の近くまでやって来ていた。
周囲の道は既に封鎖されているのかあまり車の量は多くない。
(まやかしの力か・・・前の時はその力に完全に取り込まれていたんだな、俺は・・・)
祐一はロードツイスターを走らせながら考えていた。
(今度も取り込まれないとは言い切れない・・・それでも・・やるしかない・・・!!)
アクセルを回し、更にスピードを上げる。
その頭上に何かが飛来してきた。
思わず頭をかがめる祐一。
だが、彼の頭上までやって来た飛行物体は一定の距離を置いてロードツイスターについてくるだけである。
「・・・何だ?」
首を傾げる祐一だが、その視界にそろそろ日本武道館が見えてきたので、意識をそっちに集中させた。
 
「うわぁぁぁっ!!」
一人の警官がギャサメ・ボバルの手であっさりと投げ飛ばされる。
地面に叩きつけられた彼は気を失ったのかぴくりともしない。
それを見た国崎と住井は拳銃をギャサメ・ボバルに向けた。先程から何発も撃っているが全く通用していない。それでもこれしか武器がないのだから仕方なかった。
「くそっ!牽制にもなりゃしねぇっ!!」
国崎が毒づく。
そこへ一台のバイクが突っ込んできた。もちろん祐一のロードツイスターである。更にはその頭上に飛行物体まで連れている。
「な、何だ?」
突然の乱入者に目を丸くする住井。
祐一は周囲の警官達に構わず、ロードツイスターをウィリーさせて前輪でギャサメ・ボバルを跳ね飛ばす。すると、吹っ飛ばされたギャサメ・ボバルを飛行物体がその頭部にある三本の角で引っかけて運んで行くではないか。
「やっぱり敵か!?」
祐一はそう呟くとアクセルを回し、急いで飛行物体を追跡し始めた。
「住井、ここは任せた!俺は奴らを追う!!」
そう言って国崎も走り出す。
飛行物体はしばらく飛んだ後、人気のない場所でギャサメ・ボバルを地面に落とした。そして自身は地上へと降り立ち、その背の羽根を閉じる。
そこに追いついてくるロードツイスター。
祐一はロードツイスターを止めるとヘルメットを脱ぎ、ギャサメ・ボバルと飛行物体を交互に見た。
ギャサメ・ボバルは忌々しげに飛行物体を見、そして祐一の方を見て舌でその唇を嘗めた。
獲物、とでも思っているのだろう。
祐一はさっと腰の前で両手を交差させた。すると、腰にベルトが浮かび上がってくる。
交差させた両腕をそのまま左の腰へと持っていき、右腕だけを伸ばし、空に十字を描く。
「変身っ!!」
そう言って腰に残していた左手を挙げ、顔の前で右腕と交差させてから一気に左右に開く。
ベルトの中央が鈍い光を放ち、祐一の身体が変身を始める。だが、その姿はやはりブートライズカノンのものだった。
「フーッ、フーッ」
相手を威嚇するように息を吐き、身体を低くさせ、いつでも飛び出せるような体勢を取るブートライズカノン。
ギャサメ・ボバルはブートライズカノンを見るとにやりと笑った。
前回、あっさりと勝ちを拾ったからだろうか。余裕の表情を見せて悠然と構えている。
「ガアアアッ!!」
ブートライズカノンが地を蹴った。
低い姿勢のままギャサメ・ボバルへと接近し、下から拳を振り上げる。
のけぞるようにしてその一撃をかわすギャサメ・ボバル。
続けてブートライズカノンが残る片方の手を地面についてそれを軸に身体を反転させ、蹴りを放つ。
今度は後方にジャンプして蹴りをかわしたギャサメ・ボバルは、着地すると同時に身体をかがめてブートライズカノンに向かって突っ込んでいった。
鋭い爪を伸ばし、ブートライズカノンに向かってその腕を振るう。
バック転してその爪の一撃をかわすブートライズカノン。
一定の距離を置いてブートライズカノンとギャサメ・ボバルが睨み合う。
そこに国崎が辿り着いた。
彼はブートライズカノンを見ると、思わず舌打ちしていた。
「チッ・・・またあの姿かよ・・・」
香里が言っていたまやかしの力、今、その力にカノンは、祐一は取り込まれていた。
やはり心の中に巣くう恐怖などの負の感情は簡単には消せないようだ。
「シミグリ・ヌザシャ・ジャマ・カノン」
ギャサメ・ボバルは油断無くブートライズカノンを睨みながら言った。
「ノデシェ・ゴモ・ギャサメ・ボバルミ・ガシェヅガマ?」
そう言って地を蹴るギャサメ・ボバル。
素早くブートライズカノンとの距離を詰め、伸ばしたままの爪をブートライズカノンに向けて振り上げる。
余りもの早さにブートライズカノンは反応しきれず、ただ両腕でガードするだけであった。
腕の表面が切り裂かれ、血が噴き出す。
ギャサメ・ボバルは何度も爪を振るい、ブートライズカノンの身体を傷つけていく。
「くそっ!!」
国崎は思わず拳銃を構え、発砲していた。
銃弾がギャサメ・ボバルの背に命中するが、ギャサメ・ボバルの動きは止まらない。蚊が刺した程にも感じていないのだろう。
「やっぱりダメか!!」
悔しそうに国崎が言う。
ギャサメ・ボバルがいきなりブートライズカノンをその両手のガードの上から蹴り飛ばした。
吹っ飛ばされるブートライズカノン。その全身は既に傷だらけで、一緒に血が舞った。
その血が先程から動こうともしなかった三本角の甲虫に似た物体に付着する。次の瞬間、甲虫に似た物体の頭部にある目らしき部分が開き、背中の甲羅のような部分を開いて羽根を広げ、空へと舞い上がった。
「な、なんだ!?」
いきなり起こったことに国崎が目を丸くする。
ギャサメ・ボバルも何事かと空を飛ぶ甲虫のような物体を見ているようだった。
ブートライズカノンは何とか身を起こし、立ち上がろうとした時だった。空に飛び上がった三本角の甲虫がブートライズカノンに向かって降下してきたのだ。
甲虫はそこで幾つかのパーツに分解し、ブートライズカノンの身体に次々と装着されていく。六本ある足のうち四本が外れ、ブートライズカノンの手足に手甲、足甲のように装着され、胸には背中の部分の甲羅のような部分が、頭には甲虫の頭部がヘルメットのように覆い被さった。
その姿はまるで鎧を着た戦士のようだった。
「ウオオオオオオッ!!」
ブートライズカノンが天に向かって吠えた。
その目がくすんだ赤い色から鮮やかな赤い色へと変化する。
「・・・祐の字?」
国崎が吠えているブートライズカノンを見て、言葉を失う。
ブートライズカノンはギャサメ・ボバルの方に向かって走り出した。
「ゴカグ・マ!」
ギャサメ・ボバルは突っ込んでくるブートライズカノンを見て片腕を振り上げた。鋭い爪が太陽の光を受けて輝く。
「ニメ!カノン!」
爪を振り下ろすギャサメ・ボバル。
だが、ブートライズカノンは左腕でその爪を受け止めた。丁度先程甲虫から分離した装甲をつけている部分で。
ギャサメ・ボバルの爪がパキーンと言う金属的な音を立てて折れ飛んだ。
驚くギャサメ・ボバルをよそにブートライズカノンは右手でそのボディにパンチを叩き込む。
物凄いパワーで叩き込まれたその一撃に吹っ飛ばされるギャサメ・ボバル。
何とか起きあがろうとするが、口から血を吐いてしまう。かなりのダメージを受けてしまったようだ。
それを見たブートライズカノンが走り出した。
そのすぐ後ろに先程の甲虫が飛んでいる。
残る一対の手でブートライズカノンを掴み、宙へと持ち上げた。そしてそのまま倒れているギャサメ・ボバルに向かっていく。
「喰らえぇぇぇぇっ!!!」
ブートライズカノンが両手を前へと突き出し、一本の槍と化す。同時に甲虫が手を離し、ブートライズカノンはその勢いのままギャサメ・ボバルに向かって突っ込んでいった。更に身体を回転させ、攻撃力を増していく。
何とか立ち上がったギャサメ・ボバルは回転しながら突っ込んでくるブートライズカノンを見て、思わず逃げ出そうとしたが・・・遅かった。
両手を前に突き出し、回転しながら突っ込んでくるブートライズカノンに直撃され、大きく吹っ飛ばされるギャサメ・ボバル。
ダッと着地するブートライズカノン。その身体から装甲が離れ、甲虫の元へと戻っていく。その後方では地面に叩きつけられたギャサメ・ボバルが、よろよろと起きあがっていた。
体には大きく古代文字が焼き付けられていた。
「ウガアアア・・・ロ・・・ロソデ・・・カノン・・・」
古代文字から光のひびがギャサメ・ボバルの全身に広がっていく。そして、バタンとその場に倒れ、爆発を起こした。
その爆発を背にしながらブートライズカノンが祐一の姿へと戻っていく。
「祐の字、大丈夫か?」
国崎は思わず声をかけていた。
祐一は声をかけてきた国崎を見ると右手の親指を立てて、笑みを浮かべて見せた。そして、そのままその場にいきなり崩れ落ちてしまう。
「祐の字っ!!」
慌てて国崎は祐一に駆け寄った。
 
Episode.24「聖鎧」Closed.
To be continued next Episode. by MaskedRiderKanon
 
次回予告
何とか第21号を倒した祐一だったが彼の体は予想以上に消耗していた。
しかし新たに未確認生命体が出現し、猛威を振るう。
聖「心を無にすることが出来ればあるいはな・・・」
留美「これがPSK−03です・・・」
突如現れたPSK−02に手も足も出ないPSK−01。
潤の身に最大の危機が迫る!
瑞佳「祐さんならきっと大丈夫だよ」
郁未「きっと彼は全てを取り戻すわよ・・・」
人々の思いをよそに新たな未確認生命体の殺人ゲームが開始される。
果たしてそれを止めることは出来るのか?
祐一「今度こそ、俺はやるんだっ!!」
次回、仮面ライダーカノン「結界」
遂に、その時は来た・・・!!


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