<N県内某所 11:54AM>
トレーラーから地面に飛び降りるPSK−02。
手に構えているのはマグナマシンガン。
つい先程これで犬怪人を葬ったところである。
破壊力はPSK−01のオートマグナムを越え、ブレイバーバルカンには及ばない。しかし、それでも犬怪人を倒すことは出来た。
「こいつは凄いですね・・・」
そう呟いたのはPSK−02を勝手に装着しているキリト。
そこにオニヤンマ怪人が姿を見せた。
「キリト!貴様、裏切るつもりか!?」
オニヤンマ怪人がそう言ってPSK−02を睨み付ける。
PSK−02はマグナマシンガンをオニヤンマ怪人に向けた。
「人殺しは契約外でしょう?裏切ったのはそっちが先。違いますか?」
キリトはそう言って引き金を引く。
オニヤンマ怪人は素早く羽根を広げて宙へ逃れた。
すっとマグナマシンガンの銃口を上に向けようとするPSK−02の背後からラフレシア怪人が飛びかかった。
「貴様も我らに刃向かうなら殺してやる!」
ラフレシア怪人がそう言い、物凄い力でPSK−02を締め上げる。
だが、PSK−02は左手でラフレシア怪人の腕を掴むと強引に引き離し、そのまま投げ飛ばしてしまう。
倒れたラフレシア怪人に向けてマグナマシンガンを向け、躊躇うことなく引き金を引くキリト。
「殺されるのはゴメンでね」
そう言って弾丸がつきるまで引き金を引き続ける。
強化弾丸にズタボロにされたラフレシア怪人が爆発四散した。
それを見ながらPSK−02はマグナマシンガンの弾倉を引き抜き、新たな弾倉をセットした。
「次はあんたかい?」
キリトが上を見上げて言う。
だが、そこにはもうオニヤンマ怪人の姿はなかった。
「逃げたか・・まぁ、いいか」
頭部を守るヘルメットを脱いで、キリトは大きく息を吐いた。
そのままトレーラーに近寄り、中をのぞき込む。
内部にはPSK−02専用の武器やメンテナンス用の道具が設置されている。
「こいつを使い続けるならこれも頂く必要があるてことか・・・」
「あらら・・・ちょっと遅れたみたいね」
いきなりキリトの後ろから声がした。
振り返るとそこには無造作なショートヘアの女性が立っている。
「まぁ、それにしても・・・キリト君、やり過ぎよ・・・」
周囲を見回して女性が言う。
二つの爆発の跡、まだその煙がもうもうと立ちこめている。
付近の住民が警察に通報した可能性は低くはないだろう。
「葵さん、それよりも手伝って貰えますか?」
キリトはPSK−02のパーツを脱ぎながらその女性を見て言う。
「いくら何でもこれだけのものを転送することは出来ないわよ。秋子姉さんか、冬美姉さん、大婆様なら可能かもしれないけど」
そう言って肩をすくめる女性。
キリトはそれを聞いて、苦笑を浮かべた。
「違いますよ。こいつを運ぶんです。こいつは・・いずれ必ず役に立ちますよ」
 
仮面ライダーカノン
Episode.22「激走」
 
<城西大学考古学研究室 12:04PM>
美坂香里は疲れたような顔をしながら久しぶりに研究室に入ってきた。
いつもの自分のデスクの前の椅子に腰を下ろし、パソコンの電源を入れる。
「・・そう言えば・・エディからメールが来ているんだっけ・・・」
疲れたように呟き、背もたれに背を預けて天井を見上げる。
ここ二、三日、色々なことがありすぎた。
エディがN県華音遺跡に向かったその翌日、親友である水瀬名雪とその母親の秋子、そして香里の妹の栞が東京に出てきた。その途中未確認生命体第17号に襲われ、幸い無事だったものの関東医大病院にとりあえず収容された。次の日、見舞いに行った香里の前に相沢祐一と名乗る男が現れ・・・だが、そいつは名雪をさらうために祐一に扮した偽者で、秋子が何らかの力でもって撃退(その力について秋子はあまり語りたくなさそうだったのであえて尋ねなかった)、その後、ここの医師、霧島聖の提案で名雪を別の病院に移すことにし、それを実際に行ったのが昨日。その間、香里は妹とほとんど口を利いていない。今日も朝から名雪達の様子を見に行き、また栞と口論になったのだった。
はぁぁ、とため息をついて、香里はメールソフトを起動させる。
すっすっと手慣れた感じでマウスを動かし、エディからのメールを開く。
「新しい古代文字・・・ね・・・」
メールに添付されていたファイルを保存してから改めて古代文字検索ソフトを立ち上げる。
栞や秋子が来るまでは毎日のようにやっていた作業・・・古代文字解読だが何故か物凄く久しぶりにやるような気がしていた。
「エディのを先にやるかなっと・・・」
そう言って検索をスタートさせる。
香里は検索がスタートしたのをみると、立ち上がり、コーヒーメーカーに近寄っていった。
「誰も作ってないわよね・・・」
空っぽのコーヒーをみて、苦笑する香里。
「だったら・・・あそこしかないか・・・」
誰ともなしに呟く香里。
 
<N県内某所 12:43PM>
国崎往人と祐はまだ山に残るという川澄舞、遠野美凪、みちると別れ、山を下りてきていた。
二人はずっと押し黙ったままで、車内には重苦しい沈黙が漂っていた。
「・・・なぁ・・・よかったのか?」
沈黙に耐えかねたのか国崎が口を開いた。
「よかったって・・・何がです?」
祐が国崎を見ていった。
どうもこのN県に来てから祐の様子がおかしい。
何か一人で思い悩んでいるようなことが確実に増えている。
柄にもなく国崎はそんな祐を心配していた。
「イヤ・・・あの舞って奴、お前のこと知っているような感じだったからな。もしかしたらお前の記憶も・・・」
「それなら構いません。舞・・・さんも何かやることがあったらしいし、それにこんなものを貰ってますから」
そう言って祐は上着のポケットから一枚のメモを取りだした。
「それは?」
「解りませんが、ここに書いてある住所の所に行けば何か俺の記憶の手がかりになるようなことを言っていました」
「ふうん・・・」
国崎は片手を伸ばして祐の手からメモを受け取った。
器用に片手でハンドルを操作しながらもう片方の手でメモを開く。
「・・・ここならそれほど遠くないな。行ってみるか?」
国崎がメモを返しながら祐に言う。
「いいんですか?あの未確認を倒したって報告とかしなくても・・・」
メモを受け取りながら祐が言うと国崎は大きく頷いた。
「無線で簡単な報告は一応してあるからな。ちゃんとした報告は東京に帰ってからでいいだろう。今はお前の記憶が先だ」
「・・・ありがとうございます」
素直に礼を言う祐。
それに黙って頷いた国崎の操る覆面パトカーが角を曲がる。
「それにしても・・・腹へったな・・・」
「そう言えばもう12時過ぎてますね・・・先に何処かで何か食べていきます?」
「その意見、賛成だ」
二人は頷きあうと、飲食店を探して再びコースを変えるのであった。
 
<都内某所 12:59PM>
折原浩平は粗末な作りのベッドに寝かされ、苦しそうな呼吸をしていた。
アインに変身した後はいつもなる現象である。
そんな浩平の額にそっと濡れタオルを乗せる女性。
無表情に苦しんでいる浩平を見下ろし、そしてまた去っていく。
誰もいない部屋の中、浩平の苦しそうな息だけが聞こえてくる。
「ええ、折原浩平は確保したわ。あなたはどうなの?・・・何ですって!?じゃ、あいつの思うままじゃないの!何やってたのよ、郁未!!」
浩平の寝かされている部屋の隣、さっきまで無表情だった女性の顔に怒りとも焦りともつかない表情が浮かんでいる。
「高槻にだけは思い通りにさせちゃダメなのよ!解ってる!?あんたはすぐに相沢祐一を確保しなさい!」
そう言って女性は電話を切った。
そしてため息をつく。
「まさか・・あいつに私達の計画が見破られた訳じゃないわよね・・・」
女性は隣の部屋に続くドアをみながら呟いた。
「由依も行方が知れないし・・・どうしろって言うのよ、全く!」
不機嫌そうに言い捨てる女性。
隣の部屋では未だ浩平が苦しんでいた。
 
<N県華音遺跡 13:29PM>
遺跡の内部の石室で発見されたその物体は発掘作業員達の手で外へと運び出されていた。
暫定的だがこの発掘隊のリーダーを勤める里村茜が所属するN県立大学の研究室に搬送するためである。
運び出されているのは三本の角を持つカブトムシかはたまたクワガタムシか、とにかく甲虫のイメージを持つ建造物であった。
細かい装飾が為されており、明らかに人の手で作られたものだと解る。その大きさは角の部分まであわせると2メートルはあるだろうか、かなり大型である。
「・・・一体何なんでしょうか?」
茜が首を傾げる。
その隣に立っていた城西大学考古学研究室生、エドワード=ビンセント=バリモア、通称エディは興味深そうにその物体をみていた。
「これ、不思議だね。何か冬眠しているようにも思えるよ」
手でその物体の表面を撫でながらエディは言う。
丁度目に当たる部分は閉じられているようにも見え、エディの言う通り、冬眠しているようにも見えなくもない。
その背中側、丁度二つに開いて羽根が出てくるような部分には少し大きめでくすんだ緑色の石がはめ込まれていた。
「何だろ、これ?」
そう言ったのは茜の親友、柚木詩子であった。
彼女はその大きめの石を指さすと、茜を振り返った。
「とにかく詳しい調査はまた後にしましょう。今はこれを大学に運ぶ方が先決ですから」
茜がそう言い、エディがその物体から離れる。
「じゃ、トラックに乗せますよ」
発掘作業員がそう言って4人がかりで物体をトラックの後部に運び込んだ。
「一度戻りますか?」
エディが茜をみて言うと、彼女は頷いた。
 
<喫茶ホワイト 13:46PM>
喫茶ホワイトは相変わらず暇そうで、今店内には香里しか客の姿はなかった。
「本当にやっていけているの、この店?」
香里は食後のコーヒーを飲みながらウエイトレスの長森瑞佳に尋ねる。
瑞佳は苦笑を浮かべて香里の隣に座った。
「ここは半分マスターの趣味でやっているからね〜、どうだろ?」
「おいおい、酷いこと言うな、瑞佳。ちゃんと商売やっていけるくらいの儲けはあるぞ、一応」
カウンターの内側の椅子に座って新聞を広げていたマスターが新聞を降ろしてそう言い返した。
「でも私のお給料たまに少ないもん」
瑞佳が恨めしそうな目をマスターに向けると、誤魔化すようにマスターは新聞を広げ直した。
「・・・そう言えば祐さんは?」
「ここ二、三日帰ってきてないよ。連絡もないなんて初めてだけど」
香里の質問に瑞佳がちょっと眉を寄せて答える。
何の連絡も無い祐のことが心配なのだろうか?
「まぁ、便りの無いのはいい便りと言うから、そのうちひょっこりと帰ってくるんじゃないか?または・・・記憶を取り戻して家に帰ったとか」
新聞を広げたままマスターが言う。
「記憶・・・」
香里が呟く。
記憶を取り戻した祐・・・果たしてそれは・・・彼女の知る相沢祐一なのだろうか?
それとも全く別人なのだろうか?
急に不安になる香里。
「香里さん、妹さんと仲直り出来た?」
不意に瑞佳にそう言われた香里が驚いたように彼女を見た。
「え?・・・どうして?」
「佳乃ちゃんから聞いたんだよ。妹さんがこっちに出てきているって」
「・・・そっか、霧島先生、佳乃ちゃんのお姉さんだから・・・」
何か納得のいった様子の香里。
それから彼女は立ち上がると持っていた鞄から財布を取りだし、その中から千円札を取り出すとカウンターの上に置いた。
「あれ?帰っちゃうの?」
「まだ仕事の途中なのよ。ごめんなさいね」
つまらなさそうな顔をする瑞佳にそう言い香里は歩き出した。
ドアの前まで来て香里は立ち止まり、瑞佳を振り返った。
「妹とはまだケンカの最中よ。結構根深いの、うちの場合は・・・」
寂しそうにそう言い、今度こそ、香里は店から出ていった。
 
<N県内某所 14:02PM>
結局国崎と祐は国道沿いのファミリーレストランの中で昼食を取っていた。
二人とも何故かラーメンを注文し、ひたすらすすっている。
「ねぇ、国崎さん・・・」
祐が箸を止めて話しかけるが国崎はラーメンを食べるのに夢中で、全く聞いていない。
聞いて無いどころか耳にも届いていないような気すらしている。
仕方なく、祐は再びラーメンに箸を付けた。
スープの最後の一滴まで飲み干し、国崎は水をぐいっと一気に飲み干してから大きく息をついた。
「はぁぁぁぁぁぁ・・・生き返ったな!」
祐はそんな国崎をやや呆れたような目で見ていた。
「今日は朝早くから忙しかったからな。朝飯なんかろくに食ってない」
「それは俺も同じですよ」
満足しきった様子の国崎に対して祐はやや不満げだった。
「朝早くから未確認に襲われて、必死に倒して、それでようやくお昼にありつけたと思ったらラーメンだけだし・・・」
「おごりなんだから勘弁しておけ。それよりもその未確認で少々気になったことがあるんだが」
急に国崎が真剣な顔をする。
それにつられて祐も顔を引き締めた。
「何か奴ら急に強くなってないか?カノンも何かパワー負けしていたように見えたんだが・・・」
国崎の言葉に頷く祐。
「確かに奴らは強くなっています。こっちに来て戦った二体の未確認は今まで東京で戦った奴らとは違う強さを感じました。カノンも今のままじゃ勝てなくなると思います」
「おいおい、勝てなくなるって・・・」
驚き、焦ったような顔をする国崎。
今まで未確認生命体のほとんどを第3号ことカノンが倒してきた。警察はほとんど未確認生命体に対して成果を上げられていないのが現状だ。
この状況下でカノンが未確認生命体に勝てなくなると言うことは未確認生命体の跳梁跋扈を許すことになる。これからもっと多くの、何の罪のない人々が未確認生命体によってその命を奪われることになるだろう。
「どうするんだよ?」
「解りません。俺は俺の出来ることを精一杯頑張るつもりです。だから・・・もっと強くなるために・・・」
真剣な顔をした祐がそこまで言った時、どやどやとちょっと汚れた服装の一団が入り口から入ってきた。
その一団の中にエディや茜、そして詩子の姿もある。
どうやら華音遺跡の発掘隊のようだ。
茜が空いている席を探そうときょろきょろしていると、窓際にいる祐と国崎に気がついた。
「あら・・・」
そう言って茜が二人の側にまでやってくる。
「お久しぶりです、祐さん、それに国崎さん」
二人の側まで来た茜が一礼するので、二人は顔を見合わせた。
「・・・里村さん、どうしてここに!?」
祐が驚いたように言うと、茜は苦笑を浮かべた。
「私はN県立大の生徒ですよ。N県にいても何の不思議もないと思いますが?」
「そりゃそうだ。何言ってんだ、祐の字?」
自分のことを棚に上げ、国崎がそう言って祐を見る。
そこにエディもやってきた。
「ハイ、祐さん。お久しぶり」
「あれ?エディも?」
祐はまたしても驚きの表情を浮かべる。
「ははは、僕は華音遺跡の発掘のお手伝い。面白いものが見つかったんでそれをN県立大に運ぶ途中、休憩がてらここに来たんだ」
相変わらず流暢な日本語で話すエディが外に止めてあるトラックを指さした。
エディのあまりにも上手な日本語を聞いた国崎が目を丸くしているその正面で、祐はエディが指さしたトラックを見た。
「面白いものって?」
興味をそそられたらしい祐が尋ねると、茜の後ろにいた詩子が代わりに答えた。
「三本角のカブトムシみたいなの」
「三本角!?」
驚きに思わず腰を浮かせてしまう祐。
それは祐がルシュト・ホバルと戦っていた時に見たイメージと全く同じものだったからだ。
「ちょ、ちょっと、どうしたのよ・・・」
いきなりの祐の態度の詩子が引く。
「あ・・・すいません・・・」
祐は慌てて詩子に向かって頭を下げた。
「詩子、この人がいつか話した祐さん。こちらは警察の国崎さん。前に東京に出てきた時にお世話になった人たちよ」
茜がそう言って二人を紹介する。
「こっちは私の親友の・・」
「柚木詩子で〜す!よろしくね!」
詩子がやたら明るくそう言って笑顔を振りまく。
国崎、祐の視線が彼女に向いた時、そう、トラックに誰も注目しなくなった時であった。
不意に祐の腰の辺り、丁度変身の時にベルトが浮かび上がる辺りに痛みに似た衝撃が走る。
思わずそれに祐が顔をしかめた時、突如爆発音のようなものが響き、レストランの窓ガラスをゆらした。
「な、何だ!?」
国崎が立ち上がり、外を見やった。
祐は素早くレストランの外へと飛び出していった。
エディ、茜、詩子も祐に続いて外に出ていく。
4人はトラックの後部を見て、言葉を無くしていた。
遅れてやって来た国崎が声をかけてくる。
「おい、どうした?」
「こ、これ・・・」
エディが呆然とトラックの後部を指さして言う。
そこには何もなかった。
元はコンテナがあったと思われるのだが今はその影も形もない。
「・・・さっきの爆発音はこれだったのか?」
国崎が言うと、祐が頷いた。
「多分・・・ですが・・・」
そう言った時、祐の脳裏に何かのイメージが割り込んできた。
空を飛ぶ三本角の甲虫。
前回とは違い、今度ははっきりとそのイメージが浮かび上がる。
そして何かが彼の中に接触してくる。
(・・何だ・・・この感じは・・・懐かしいような・・・そんな・・・)
「危ない祐さんっ!!」
茜がそう言って祐を押し倒した。
その頭上を何かが飛び去っていく。
「な、何なんだよ、あれ・・・」
呆然と国崎が呟く。
祐達のすぐ頭上を飛びすぎた物体はそのまま空の彼方へと姿を消していった。
「・・・・行ってしまったね」
残念そうにエディが言う。
「せっかくの研究材料・・・」
「ま、心配ないんじゃない?」
不意に詩子がそう言った。
ようやく起きあがった茜と祐、エディ、国崎が彼女を見る。
「何となくだけどさ、敵じゃなさそうだし、またすぐに会えるような気がするんだよね〜、あたし」
そう言って笑みを浮かべる詩子。
「・・なぁ、里村さん。あいつ、あまり何も考えてないだろ?」
国崎がそっと茜の側により、小声で言う。
「・・・ハイ」
茜はため息をつきつつ、頷くのであった。
 
<城西大学考古学研究室 14:23PM>
研究室に戻ってきた香里は上着をハンガーにかけてパソコンのおいてあるデスクの前に座った。
モニターの電源を入れ、検索が出来ているかどうか確認する。
「あら・・・?」
文章全体の検索は出来ていなかったがいくつかの文字の検索が完了していた。
「これは確か・・光の戦士・・・」
モニターに映る文字を指でなぞりながら香里が呟く。
「しもべ・・・」
また別の文字を指で示す。
「聖なる・・・鎧・・・甲虫・・・」
流石に文字だけでは何のことか解らない。
「聖なる鎧の虫・・・?どういうことなの?」
首を傾げる香里。
 
<都内某所 15:09PM>
顔にペイントを施した男がビルの屋上に立ち、地上を見下ろしている。
「何をしている?まだ数は全然足りないぞ?」
「ジャサデ!サジャ・マリヲガブリツ・シャブリツイガヲバ・ラヅ!ノデジャゲ・ラデバ・クルツヲジャ!」
すっと音もなく後ろに現れた女に向かって不機嫌そうに言い放つ顔にペイントを施した男。
後ろにいる女は何処か猫を思わせる容貌をしていた。
いつもは一緒にいる男女もここにはいない。
「アインザ・・・アインザ・ラダヴァデシャ・・・ギャシュナレ・カサニマ・ゲデタ・・・」
「アイン・・・ラモアインガ!?」
驚いたように猫を思わせる女性が顔にペイントを施した男を見る。
「カノンジャゲ・ジェマグ・アインサジェソ・・・」
「全部・・殺してしまえばいい・・」
第三の声が聞こえた。
二人が振り返るとそこには切れ長の瞳をした女性が立っていた。
「カノンもアインも・・・邪魔をする奴はみんな殺してしまえばいい」
そう言ってにやりと笑う切れ長の瞳の女性。
二人はそれを見て、背筋が凍るような寒気を感じていた。
 
<倉田重工第7研究所 15:34PM>
モニター上にPSK−01が映し出されている。
その各部があちこち赤く点滅していた。
「これだけのダメージで済んだのが奇跡でしょうね。ほとんどゼロ距離での爆発でしょう?よく無事だったものです」
そう言って倉田佐祐理は胸をなで下ろした。
「ブレイバーバルカンのグレネードを発射した時、その反動で後方に飛ばされたのだと思います。そうでなければいくらPSK−01でも・・・」
冷静にそう言ったのは深山雪見である。
「これだと修理にかなり時間がかかりますね。その間未確認が出てこないことを祈るほかありません」
「そう言うわけにもいかないでしょう・・・まだ大井競馬場付近で戦った未確認が残っている・・・」
そんな声が聞こえたので二人が振り返るとそこには額に包帯を巻いた北川潤がドアにもたれかかって立っていた。
「北川さん、大丈夫なんですか?」
「これくらい大丈夫ですよ・・・こんな事で何度も倒れていられないでしょう?」
潤はそう言ってよろよろと佐祐理達の側までやってくる。
「深山さん、PSK−01の修理、早くお願いします」
「・・まぁ、何を言っても無駄なんでしょうね。出来る限りのことはするつもりよ。あなたの熱情に答えるためにもね」
雪見はそう言って苦笑し、立ち上がった。
「早速PSK−01の修理に取りかかります」
佐祐理にそう言うと、佐祐理は頷いた。
一礼して出ていく雪見を見送った後、潤は空いている椅子に腰を下ろした。
そして大きく息を吐くのを見て、佐祐理は心配そうな目を彼に向けた。
「どうして・・メディカルを抜け出したりしたんですか?」
「な、何の話ですか?」
佐祐理の言葉に動揺を隠せない潤。
そんな潤に佐祐理は笑みを見せた。
「PSK−01の装着員はあなただけです。あまり無茶をされては困りますよ?」
「・・・すいません・・・ですが」
「気持ちは充分わかっています。でも北川さんが倒れたらPSKチームは立ちゆきませんからね。そこの所を忘れないでください」
佐祐理はそう言うと立ち上がった。
「何時出撃になるか解りませんが今はゆっくりと休んでください。少しでも体力を回復しておかないと次の出撃に堪えますよ」
笑みを浮かべたままそう言い、佐祐理も部屋から出ていった。
一人残された潤はぐったりと背もたれに身体を預け、そのまま目を閉じ、眠りに落ちていった。
 
<城西大学考古学研究室 15:47PM>
香里はあれからずっとパソコンの前に座り、解読を続けていた。
「うーん・・・これじゃ今ひとつね」
腕を組みながらモニターを睨み付ける香里。
先程から彼女は解読された単語を並び替えたりして意味のある文章を作っているのだ。ただ単語の意味がわかっただけではそこに何が書かれているか解らない。そこまでやって初めて解読が完了した、と言える。
「光の戦士はカノンのこと・・・」
モニターを指でなぞりながら香里は呟く。
「聖なる鎧の虫はカノンの僕・・・?」
香里はまだその存在のことを知らない。
三本角のカブト虫かクワガタ虫のような甲虫が今、東京へと向かっていることを。
「何かしら・・・カノンの僕って・・・?」
首を傾げる香里。
 
<N県内某所 15:52PM>
国崎はファミリーレストランで起きた出来事をN県警と警視庁に無線と電話で報告すると、茜たちと別れて祐の持つメモに書かれている住所へと向かっていた。
「しかし・・何だったんでしょうか、あれ?」
祐がそう言って国崎を見る。
「さぁな・・・でも例の遺跡から発見されたらしいからカノンに関係するものじゃないか?もしくは未確認に関係するようなものか・・・」
ハンドルを握る国崎があまり感心無さそうに答える。
「とりあえず何処に行ったか解らないんだ。一応県警にも、対策本部にも連絡しておいたから発見されたら連絡くらいあるだろ?」
「だといいんですが・・・」
祐はやや不安げな様子を隠せなかった。
あの時飛び去った謎の物体・・・あれが味方なのか敵なのか。まだ祐にはあれがはっきりと味方だと言い切る自信はなかったし、敵ではないかという不安も残っていた。
「そう言えば第2号はどうなったんですか?」
「全く行方不明だ。一体何処に消えたのやら・・・そう言えば、例の遺跡の近くの森の中で大量の穴が発見されたって話をしたか?」
「穴?」
「何かが這いずりだしてきたような穴だそうだ。俺もこの前知った馬鹿林だがな、どうやら未確認どもがそこに封印されていたんじゃないかって話だ。その数ざっと200以上」
「200以上!?本当ですか!?」
祐は国崎の言葉に目を丸くした。
「この先まだ100体以上の未確認を倒さなくちゃならないのか・・・大変ですね」
「ああ、そうだ。それにこっちにあまり長居も出来なくなってきた。東京にも未確認が出てきたらしい」
「東京にも!?」
また驚きの声を上げる祐。
「すぐに戻らないと!」
「イヤ、ここまで来たんだ。その住所に行ってみる方が早い。それに・・・東京には例の銀色もいることだしな」
国崎はやけに冷静にそう言うと祐を見た。
「頼りないが何もないよりはマシだ。それに・・・俺もお前の記憶に興味があるしな」
そう言ってにやりと笑う国崎。
「う・・・ああ、ところで・・・」
やや引きつった表情を浮かべた祐だが、すぐにいつもの飄々とした笑みを浮かべ直す。
「何だ?」
「白から他に色に変わる時に何か・・こう勢いをつけるようなことを言いたいんですよ」
身振りを交えて祐が言う。
「勢いねぇ・・どういった?」
「そうだなぁ・・・超変身!とか・・・再変身!とか」
「うーん・・・」
国崎は少し顔をしかめた。
「何かこう・・・もっと目新しいものはないか?」
「目新しいもの、ですか?」
今度は祐が顔をしかめる。
「何も日本語にこだわる必要はないだろ?英語とか入れてみてだな」
「スーパー変身?」
「イヤ、そうでなく・・・」
苦笑を浮かべる国崎。
「・・・じゃ・・・カラーチェンジ!」
「そのまんまじゃないか」
「国崎さんは俺にどうしろって言うんですか!!」
祐が苦笑を浮かべてそう言う。
国崎も同じように答える。
「それは俺の台詞だ!だいたいお前が言い始めたんだろうが!」
「だからといって全部否定しなくても!」
「もう少しマシなものはないのか、マシなのは!!お前、ボキャブラリー貧困だぞ!」
「だったら国崎さんが考えてくださいよ!」
言い合い、互いに睨み合う。
しばらくその状態を続け、互いに笑い出す。
「ははは、お互いボキャブラリー貧困のようだな!」
「ははっ・・・そうですね!」
「一ついいこと教えてやるよ!未確認対策班じゃ白以外のカノンのこと、緑の3号とか青い3号とかで呼んでいるんだぜ!こっちもそろってボキャブラリー貧困だよな!」
「もうちょっとマシな呼び方無かったんですか!?青いフォームとか紫のフォームとか・・・あ、そうか!」
祐がぽんと手を叩いた。
「フォームアップ・・・ってどうです?」
そう言って国崎を見る。
「フォームアップか・・・いいんじゃないか、それ?」
「そうですか・・・よし、フォームアップ!!・・うん」
一人ポーズを決めて頷く祐。
何か嬉しそうである。
「・・・と、この辺だな」
国崎がブレーキを踏んで車を停車させた。
そこは何の変哲もない住宅街の一角であった。
「この辺りがメモに書いてあった場所だ。どうだ、車で回ってみるか?」
そう言って国崎が祐の方を見ると、祐は既にドアを開けて表に飛び出していた。
辺りを見回しているその表情は何か焦りのようなものが浮かび上がっている。
「祐の字?」
国崎も車から降りる。
「こ・・・ここは・・・・」
祐がいきなり走り出した。
「お、おいっ!何処行くんだよ!!」
慌てて追いかける国崎。
祐は何処を目指しているのか、全く迷うことなく住宅街を走り抜けていく。
国崎は追いかけるので精一杯であった。
「何て足の速さだ・・・」
ハァハァと息を荒くしながら必死に祐の背を追いかける。
やがて、彼はある一軒の家の前で足を止めた。
門を開け、ドアに手をかけるが、鍵がかかっているのか開かない。
それに気付いた祐がまた門を飛び出して走っていく。
国崎はようやくその家の前まで辿り着き、門柱に手をかけ、荒い息をついていたがまた走り去っていく祐を見て、慌てて走り出した。
「一体何処に行くつもりだよ、あいつは!!」
そう言いながら走る国崎。
彼が今先程手をかけていた門柱にはこういう表札がかかっていた。
「水瀬」と書かれた表札が。
 
<豊島区池袋駅周辺 17:33PM>
夕闇がその帳を降ろそうとしている中、それでもまだ繁華街を含むこの一帯は大勢の人で賑わっていた。
仕事帰りの人、遊びに出てきた若者、その目的は様々であるが、そんなことはそいつには何の関係もなかった。
見える範囲にいる人間は全て獲物。狩りの対象に過ぎない。
「ゴゴジェ・リッギミ・ガネズ!」
そう言って舌なめずりする顔にペイントを施した男。
彼はあるビルの屋上に立ち、下を見下ろしている。そして、何を思ったか地上に向かって一気にジャンプした。
「きゃ〜、飛び降りよ〜!!」
それを見た女性が叫び声を上げた。
皆が一斉に上を見上げ、落下してくる男の姿を確認する。
誰もが最悪のシーンを連想したその時、飛び降りた男がすっと身体の体勢を立て直し、着地した。
驚きのあまり、周りが押し黙ってしまう。
着地した男がゆっくりと顔を上げ、にやりと笑った。
その姿が顔にペイントを施した男からリシャシィ・ボバルへと変わっていく。
「キャァァァァァァッ!!」
誰かが悲鳴を上げた。
同時に周囲がパニックに陥る。
逃げまどう人々、腰を抜かし倒れ込む人、ただがたがた震えている人々。
リシャシィ・ボバルは一番近くにいる人に飛びかかった。
首筋に噛みつき、血を噴き出させる。
惨劇が始まった。
 
<都内某所 17:38PM>
粗末なベッドに寝かされていた浩平の息はだいぶんと落ち着いていた。
しかし、まだ額には大粒の汗を浮かべている。
その彼がカッと目を開いた。
「奴だ!」
そう言って起きあがる浩平。
彼の頭に突如リシャシィ・ボバルの姿が浮かび上がったのだ。
「くっ・・・」
まだ全身に残る疲労感、苦痛に顔をしかめながらも浩平はベッドを降りた。
壁のハンガーにかけられていた上着を手に取り、それを羽織ってから隣の部屋に続くドアを開ける。
そこには誰の姿もなく、机の上に無造作に浩平のバイクのキーが置かれていた。
浩平はキーを掴むと、外に続くドアを開けて外に出る。
道の端に停められている自分のバイクに駆け寄り、キーを差し込んでエンジンをかける。
「行くぞ、相棒!」
そう言って一気に走り出す。
バイクが猛スピードで走り去っていくのを見て、慌ててそこに駆け寄ってくる姿があった。
浩平を助け、この場所に運び込んだ女性である。
「しまった・・・逃げられたか・・・」
女性はそう言うと舌打ちした。
 
<豊島区池袋駅周辺 17:49PM>
未確認生命体出現の通報を受けてその場に所轄の警察が到着、パニックに陥っている人々の避難誘導を開始する。
更に少し遅れて警視庁未確認生命体対策班が到着した。
「各員は未確認を発見次第包囲、銃による攻撃は一般市民の避難が完了してから行うこと!」
額に包帯を巻いた神尾晴子が指示を飛ばす。
その指示を受けた機動隊員と未確認生命体対策班員が人混みの中へと走っていく。
「神尾さん、大丈夫ですか?」
そう言って晴子に駆け寄ったのは頬を赤く張らせた住井護だった。
二人とも午前中、蝶怪人にさらわれた晴子の娘、観鈴とその友人・沢渡真琴を助けるために無謀にも蝶怪人に戦闘を挑み、見事に返り討ちにあったのだ。蝶怪人はPSK−01が辛うじて葬ったのだが、二人はそれを知らない。
その後、本部長である鍵山に勝手な行動をしたと散々叱られた後、報告書を書かされ、それが終わったと思ったら未確認出現である。
住井は蝶怪人のキック一発でダウンしたからいいものの、晴子はかなり痛めつけられている。それが住井には心配だったのだが。
「何ゆうとんねん!住井!あんたもさっさと行きぃ!!」
晴子はそう怒鳴って、彼の頭をはたいた。
「そ、それだけ元気なら大丈夫ですね。じゃ、行きます!」
住井はライフルを片手に走っていった。
それを見送りながら晴子は所轄の警官を呼び、付近の地図を広げ、対策を考え始めた。
その頃、リシャシィ・ボバルは自らの手で殺した人々の血に染まった口を手で拭いながら新たな獲物の物色を始めていた。
まだ逃げ遅れた人が大勢いる。その全てを殺せば軽く目標の数に達する。
にやりと笑うリシャシィ・ボバル。
そこにジュラルミンの盾を持った機動隊員が数名現れ、逃げ遅れた人々の前に出て、盾を構えた。更にその後ろにも数人の機動隊員と未確認対策班の刑事達が現れライフルを構える。
それを見たリシャシィ・ボバルは首を傾げた。
「マヲモ・シュソヂジャ?カサン・ヌヅマ!」
そう言って警官達の方へと一歩一歩歩いてくる。
リシャシィ・ボバルは圧倒的な殺気を放っていた。
その殺気に気圧されたのか、まだ民間人の避難が終わってないと言うのにも関わらず機動隊員の一人が一歩前に出てライフルの引き金を引いてしまう。
初めて見る未確認生命体に対する恐怖が勝ってしまったのだろうか。
彼はまだ新人だった。
これが初めての出動だった。
そして、これが彼の最初で最後の出動でもあった。
リシャシィ・ボバルはライフル弾をジャンプしてかわすとその機動隊員に飛びかかり、首筋に噛みついていく。
「うわぁぁぁっ!!」
断末魔の悲鳴が上がる。
がっくりと力を失った機動隊員の身体を地面に投げ捨て、リシャシィ・ボバルはすぐ側でジュラルミンの盾を構えている機動隊員とその後ろでライフルを構えている機動隊員、警官達をにやりと笑い見た。
「ビサンモ・ネヲニバ・ゴモシェリジョガ」
馬鹿にしたように言うリシャシィ・ボバル。
その時、そこにサイレンを鳴り響かせながら一台の大型スクーターが突っ込んできた。
警官達とは反対の方向、つまりはリシャシィ・ボバルの背中側からやって来たその大型スクーターに乗っているのは銀色の騎士、PSK−01。
PSK−01は足下に倒れている大勢の一般市民の死体を見、拳を震わせる。
『北川君、本当に大丈夫!?』
無線から雪見の心配そうな声が聞こえてくる。
「大丈夫です・・・俺なんかよりもこいつを倒す方が先だ!」
PSK−01装着員の潤が怒りに震えた声で言い返す。
ハンドルの中央にある幾つかのボタンのうち、一つを押し、大型スクーター・Kディフェンサーの装備ポッドから高周波ブレードを取り出し、右腕にセットする。
『今倉田さんが警察との連携をとれるようここの責任者に会いに行っています。北川さんは上手く協力して未確認を殲滅してください!』
「了解した!」
PSK−01は右手の高周波ブレードを振り上げると猛然とリシャシィ・ボバルに斬りかかっていく。
それを大きくジャンプしてかわすリシャシィ・ボバル。
PSK−01はジュラルミンの盾を持った機動隊員のすぐ側まで行き、立ち止まった。
「皆さん、協力をお願いします!あいつにこれ以上好きにさせないためにも!」
「だ、だが・・・」
ためらいを見せる警官達。
PSK−01の存在を彼らも薄々知ってはいたものの、はっきりとその正体が明かされているわけでもない。更に警察に対して正式な協力要請があったわけでもない。勝手なことをして後で上司に何か言われるのがイヤなのだ。
「何をやっているんですか!今は未確認を倒すことの方が先じゃないですか!」
そう言って警官達をかき分けて姿を見せたのは住井だった。
「何をすればいいですか?」
「ありがとう。接近戦は俺がやります!あなたはそれで援護してください!」
「解りました!」
PSK−01がリシャシィ・ボバルを振り返り、走り出す。
住井はライフルを構え、リシャシィ・ボバルに狙いをつける。すると、横にいた他の警官達も一斉にライフルを構えた。
住井が驚いたように警官達を見ると、
「市民を守るのが警察の仕事ですから」
そう言ったので、住井は大きく頷いた。
その前方でPSK−01がジャンプする。
「撃て!!」
タイミングを合わせて警官達が一斉に射撃、PSK−01にのみ意識を向けていたリシャシィ・ボバルの身体に次々と炸裂弾が命中、リシャシィ・ボバルがよろける。
その前に着地したPSK−01が高周波ブレードで斬りつけた。
リシャシィ・ボバルの胸に一条の傷が付けられ、そこから血が噴き出す。
更にPSK−01が高周波ブレードを下から上へと振り上げ、リシャシィ・ボバルの左腕を切り飛ばした。
肘の上辺りから切り飛ばされたリシャシィ・ボバルの左腕が血をまき散らしながら地面に落ちる。
「グギャアァァァァッ!!」
悲鳴を上げながらリシャシィ・ボバルは切られた部分を手で押さえた。そして素早くPSK−01に背を向けると大きくジャンプした。近くのビルからビルへと飛び移り、頭上に走る高速道路の上に降り立ってしまう。
「しまった!」
住井がそう言って頭上を見上げる。
PSK−01はすぐにKディフェンサーに駆け寄り、高周波ブレードを装備ポッドに戻すとエンジンをかけた。
「ここからじゃ登り口に着くまでに逃げられてしまう!」
「それでも追わないとダメだろう!」
駆け寄ってきた住井にそう言い、PSK−01はKディフェンサーを発進させた。
住井はその背中を見送るとすぐに他の警官を振り返った。
「すぐに高速道路を閉鎖するんだ!奴が上で暴れるととんでもないことになるぞ!」
その指示を受けた警官が大急ぎで走っていく。
 
<首都高速5号池袋線 18:18PM>
片腕を失ったリシャシィ・ボバルは高速道路の壁にもたれて荒い息をついていた。
左腕の切り落とされた部分からはかなりの血が流れ落ちている。
このままだと流石にやばいだろう。
「ゴモルジェモ・ガシャギバ・ガマダウ・ショル!ロトレ・シェロゲ!」
そう言って歩き出そうとしたリシャシィ・ボバルをいきなりライトの光が照らし出した。
思わずライトの方を振り返るリシャシィ・ボバル。
そこにはエンジンをアイドリングさせ、じっとこっちを見ている者がいた。
「よう・・・また会ったな」
バイクに乗っている男・・・折原浩平はそう言ってにやりと笑った。
「今度こそケリをつけてやるよ・・・」
凄味のある言い方でそう言い、浩平はアクセルを回す。
それを見たリシャシィ・ボバルは慌てて逃げ出した。
「逃がすかっ!!」
浩平はギヤを変え、バイクを発進させて、リシャシィ・ボバルを追う。
流れる車をかわしながら疾走するリシャシィ・ボバル。
浩平も巧みに車をかわしながら逃げるリシャシィ・ボバルを追っていく。
「リシュザジェ・ロッシェグヅ・シュソヂジャ?」
後ろを振り返りながらリシャシィ・ボバルが言う。
「・・・俺を甘く見るな!!」
浩平はそう言うと、一瞬だけ目を閉じ、すぐに開いた。
その瞳が紫色に光る。
「変身っ!」
鋭くそう叫んだ浩平の腰の辺りにベルトが浮かび上がり、その中央が光を放つ。
その光の中、浩平の姿が戦士・アインへと変わり、また彼の乗るバイクも姿を変えていく。漆黒のボディにアインの身体にあるものと同じ生体鎧を身にまとったアイン専用のスーパーマシン・ブラックファントムへと。
ブラックファントムに乗るアインが更にアクセルを回し、スピードを上げる。
「マ、マリッ!!」
あっという間に距離を詰めてくるブラックファントムに恐れを抱いたリシャシィ・ボバルは高速道路のガードを飛び越え、地上へと飛び降りていった。
着地すると同時に地面を転がり、衝撃を緩和する。
「ゴゴサジェ・グデタ・・・」
そう言ってリシャシィ・ボバルが立ち上がろうとした時、エンジンの爆音が上から聞こえてきた。
振り返り、見上げるとブラックファントムが高速道路のガードを飛び越え、地上へと向かってジャンプしてきているではないか!
「マ、マヲジャショ!?」
「グワァァァァァァッ!!」
リシャシィ・ボバルの驚きの声とアインの雄叫びが重なった。
アインはブラックファントムの上に立ち、リシャシィ・ボバルに向かってジャンプする。
両手の鉤爪を伸ばし、それを突き出しながらリシャシィ・ボバルにぶつかっていく。
アインの鉤爪がリシャシィ・ボバルの身体を貫き、噴き出した血がアインの身体を濡らした。
リシャシィ・ボバルが痛みにのたうつにも関わらず、その身体に右足を押し当て突き飛ばすアイン。
倒れるリシャシィ・ボバル。
アインは天を仰いで大きく吠えた。
「グオォォォォォォォォッ!!」
そして、リシャシィ・ボバルの方を向くと、ジャンプした。
大きく右足を振り上げるアイン。
その踵に生える鉤爪が唸りを上げて振り下ろされる!
起きあがろうとしていたリシャシィ・ボバルの肩口に突き刺さるアインの踵の鉤爪。
再び天を向き、大声でアインが吠えた。
「グアアアァァァァァッ!!」
それは野生動物が勝利の雄叫びを上げるかのように。
その声と同時にリシャシィ・ボバルの身体を左足で蹴り、大きく後方へとジャンプして離れる。
アインが着地するのと同時にリシャシィ・ボバルの肩、丁度アインの踵の鉤爪が直撃した場所に古代文字が浮かび上がった。その古代文字はカノンがとどめを刺す時に浮かぶものと似ていたが、どことなく違っていた。
「ア・・アイン・・・ギョグソ・・・」
リシャシィ・ボバルはそう言ってアインに向かって手を伸ばす。
だが、肩口に浮かんだ古代文字から伸びる光のひびが全身に達し、リシャシィ・ボバルはその場に倒れ、爆発四散した。
もうもうと立ちこめる黒い煙の中、アインはブラックファントムに跨るとその場を物凄いスピードで去っていった。
それからしばらくしてKディフェンサーに乗ったPSK−01がその場に辿り着いたのだが、そこにはもう誰の姿もなかった。
 
<N県内某所(森の中) 18:42PM>
ハァハァハァと息を荒くしながら祐は森の中を走っていた。
あれから彼はまるで何かに取り憑かれたかのようにあちこちを走り回っていた。
住宅街から商店街、噴水のある公園、並木道、学校・・・祐にはまるで覚えがあるかのようにその場所を駆けめぐっていく。
後から追いかけている国崎にはいい迷惑だった。
「ったく!何処に行くつもりなんだよ、あいつは!!」
そう言いながらも、しっかり祐の後を追っているところが彼の人の良さなのだろうか?
しかし、祐が平然と森の中へと入っていくのを見て、流石の彼も顔をしかめた。
「おいおい、本気かよ?」
辺りはもう暗くなってきている。
明かりも無しに森の中へと入っていくのは無謀に思えた。
祐は国崎など気にせず、森の中をどんどんと突き進んでいく。
やがて彼は少し開けた場所に出てきた。
そこには昔はさぞ大きかったであろう木の切り株がぽつんと残されていた。
祐は何かに取り憑かれたかのようにふらふらと切り株に近寄っていく。
その切り株の上に一人の少女の姿がすうっと現れた。
頭には赤いカチューシャ、黒のタートルネックのセーターを着、セーターと同じく黒いダッフルコートに身を包んだ少女。
だが、祐はその少女に気付かない。
「遂に帰ってきたんだね、祐一君・・・ずっと待っていたよ」
少女はそう言うとすっと手を祐の方に向けて伸ばした。
「君は記憶を取り戻さなきゃいけないんだよ・・・そう、これからのためにも・・・」
祐がふらふらと手を切り株へと伸ばしていく。
「彼女のためにも・・・それに、ボクのためにもね・・・」
祐の手が切り株に触れる。
その瞬間、祐の頭の中に何かが流れ込んできた。
はっと目を見張る祐。
 
その場に国崎が現れたのはそれから少ししてからだった。
国崎は切り株の前に倒れている彼を見つけると慌てて彼の側まで駆け寄り、彼を抱き起こした。
「おい!大丈夫か!?目を覚ませ、祐の字!!」
そう呼びかけながら彼の頬を片手で軽く叩く。
「しっかりしろ!一体何があった!?」
「・・・うう・・・」
彼が軽く身体を揺すって目を開けた。
それから国崎の手から自分の体を離し、きょろきょろと周囲を見回す。
「・・・何処だ・・・ここは?」
彼はそう言って頭を左右に振った。
「何で・・・俺はここに?」
「・・・祐の字?」
国崎は明らかに彼の様子が違っていることを感じ取っていた。
心配そうに彼の顔をのぞき込む。
「大丈夫か、祐の字?」
呼びかけられた彼は国崎の顔を見て、訝しげな顔をした。
「・・・誰だ、あんた?」
 
Episode.22「激走」Closed.
To be continued next Episode. by MaskedRiderKanon
 
次回予告
祐一「俺は・・相沢祐一だ・・・」
遂に記憶を取り戻した祐一。
しかし、彼は戦うことに躊躇いを見せるようになってしまっていた。
祐一「何で・・・俺がこんな目に遭わなきゃならないんだよ!!」
留美「だったら・・・あれを出すしかありませんね」
新たに人々を襲い始める未確認生命体。
傷付いた身で立ち向かうPSK−01こと北川潤。
佐祐理「あなたを死地に追いやるようなマネは出来ません・・・」
国崎「それでもやるしかねぇんだろ!!」
未確認生命体の前に次々と傷付いていく人々。
それでも彼は・・・。
香里「だったらそこでがたがた震えていなさいよ!!」
次回、仮面ライダーカノン「不安」
目覚めの時は近い・・・!! 


BACK
NEXT

本・漫画・DVD・アニメ・家電・ゲーム | さまざまな報酬パターン | 共有エディタOverleaf
業界NO1のライブチャット | ライブチャット「BBchatTV」  無料お試し期間中で今だけお得に!
35000人以上の女性とライブチャット[BBchatTV] | 最新ニュース | Web検索 | ドメイン | 無料HPスペース