<N県内華音遺跡 2日前 13:51PM>
エドワード=ビンセント=バリモア、通称エディと里村茜は華音遺跡と名付けられた例の古代遺跡の中のある一室の壁の前に並んで立っていた。
「・・・ここです」
茜がそう言ってライトに照らされた壁を指さした。
「この壁が・・・?」
エディが茜を見る。
頷き、茜は壁に手をやった。
ライトの明かりだけなのでよくは解らないが、そこには何かが書き込まれているように見える。
エディは持っていたペンライトで茜の手元を照らし出した。
するとそこにはいくつかの古代文字が書き込まれているのが見て取れる。
「これは・・・古代文字!?」
「はい。一応デジカメで撮っておきますか?」
「・・香里さんにすぐ送りましょう。何かわかるかもしれない・・・」
エディの言葉に茜はまた頷き、持っていたデジタルカメラをその壁に向け、シャッターを切った。
その壁に描かれた古代文字の中には・・・戦士・カノンを表す文字が含まれていたのだが・・・二人が気付くことはなかった。
 
<N県某山中 08:34AM>
川澄舞は遠野美凪、みちる、そして祐を逃がすために未確認生命体ルシュト・ホバルに一人立ち向かい、2時間以上戦い続けていた。
この5年間、ひたすら強くなるために修行を続けていた身体は長時間の戦闘にも耐えることが出来、更に集中力も持続している。
しかし、相手の未確認生命体は人間などとは比べものにならない身体能力を有している。
流石の舞も徐々に疲労がたまり、その動くが鈍くなり始めていた。
舞が浅瀬の水に足を取られたその隙にルシュト・ホバルの鋭い一撃が襲い、彼女は左肩を負傷してしまう。
「くっ!!」
素早くルシュト・ホバルから離れる舞。
しかし、疲労の限界に達したのか舞は足をもつれさせてしまいその場に倒れてしまう。
それを見たルシュト・ホバルがにやりと笑い、大きく口を開いた。
その端からよだれがこぼれ落ちる。
自分の身体を傷つけた舞を食い殺せるという歓喜のためか。
舞は何とか片膝をついて起きあがるが、それ以上立ち上がることが出来ない。刀を左手に持ち、右肩で左肩の傷を押さえて、出血を防ごうとする。
一歩一歩舞に迫り寄るルシュト・ホバル。
そこに一台の覆面パトカーがやってきた。
乗っているのは警視庁未確認生命体対策本部の刑事・国崎往人である。
彼は舞がピンチだと言うことを見て取ると助手席においてあるライフルを手にして表に飛び出した。
「この!やらせるかっ!!」
そう言って引き金を引く。
ルシュト・ホバルの背に弾丸が命中するが、ルシュト・ホバルは微動だにしなかった。ただ、足を止めてゆっくりと国崎の方を振り返る。
「くそ!やっぱりこいつじゃ効きもしないか!!」
そう言ってライフルを降ろす国崎。
彼の今持っているライフルは警視庁で支給された対未確認用の炸裂弾が使用出来るタイプのものではない。ごく普通の、警察の特殊部隊が使用するものと同型のライフルである。
それでも国崎はもう一度ライフルを構える。
たとえ通じなくても今の彼にはこれくらいしか武器がない。
その時だ。
「変身ッ!!」
そう言う声が聞こえてきたのは。
声のした方を見ると、そこには戦士・カノンが立っている。
「祐の字っ!!」
思わず国崎は叫んでいた。
片膝をついていた舞が国崎の声に振り返る。
彼女の後ろには・・・5年前、確かに彼女が見たものと同じ姿の戦士・カノンが立っている。違うのは身体の色。灰色だった身体が今はまぶしいばかりの白に変わっている。
「ゆう・・・いち・・・?」
呆然と呟く舞。
カノンは彼女の前に出ると身構え、ルシュト・ホバルを睨み付けた。
「カノン・・・ビナニツ・ヂジャマ!バザメモ・ラジショ・ルシュト・ホバルジャ!」
ルシュト・ホバルはそう言うとカノンに飛びかかっていく。
 
仮面ライダーカノン
Episode.21「予兆」
 
<江東区有明ジャンクション付近 同刻>
戦士・アインの右足が唸りを上げて振り回される。
すっとしゃがみ込み、それをかわすのは未確認生命体リシャシィ・ボバル。
続けて左足での回し蹴りを放つアインだが、リシャシィ・ボバルは後方へとジャンプしてそれをかわしてしまう。
着地したリシャシィ・ボバルは身体を低くして、アインを睨み付けた。
アインも同じようにリシャシィ・ボバルを睨み付ける。
「こいつ・・・かなり素早いな・・・」
思わずそう呟くアイン。
アインはどちらかというとパワーファイターである。その高い戦闘能力で相手を圧倒するのが主な戦法であり、素早い動きをする相手はどちらかというと苦手な部類にはいるのだ。そしてリシャシィ・ボバルは身軽な動きを持つ未確認生命体である。
現状では不利、そう判断するアイン。
リシャシィ・ボバルがアスファルトを蹴ってアインに飛びかかった。
それを何とかかわすアインだが、リシャシィ・ボバルはガードレールに足をついて、再びアインに飛びかかっていく。
鋭い爪がアインの胸を直撃し、アインを吹っ飛ばした。
よろめくアインの背にリシャシィ・ボバルがまた攻撃を加える。何度も何度もアインを中心にして左右から攻撃を加えていくリシャシィ・ボバル。
「ロデモ・ルゾギミ・ロリシュゲサリ!ロデバ・ネヲゴルモ・リシャシィ・ボバル!」
アインを攻撃しながらリシャシィ・ボバルが言う。
「この・・・調子に乗るな!!」
そう言ってアインはリシャシィ・ボバルの攻撃をあえて胸で受け止めた。
リシャシィ・ボバルの爪がアインの胸部装甲に突き刺さるが、アインは構わずその手をぐっと掴む。
「マリッ!?」
驚きの声を上げるリシャシィ・ボバル。
そのボディにアインの猛烈なパンチが叩き込まれる。
身体を九の字に曲げ、リシャシィ・ボバルの身体が宙に浮く。そしてそこからアインは一気にリシャシィ・ボバルを投げ飛ばした。
アスファルトに叩きつけられるリシャシィ・ボバル。
アインは胸から血を流しながらも天を仰いで吼えた。
「ウオオォォォォォッ!!」
マウスガードが開き、牙が光を受けて輝く。
その雄叫びを聞いたリシャシィ・ボバルは驚いたようにアインを見た。
アインは起きあがろうとしているリシャシィ・ボバルを見ると、猛然と走り出した。
右拳をぐっと握り込み、鉤爪を伸ばす。
慌てて起きあがるリシャシィ・ボバルに向かって鉤爪で斬りつけるアイン。
「ギャアッ!!」
リシャシィ・ボバルの悲鳴と共に血が噴き出す。
傷を手で押さえ、リシャシィ・ボバルが後退する。
アインはリシャシィ・ボバルの血で濡れた鉤爪を構え、リシャシィ・ボバルを睨み付けていた。いつでも動けるように腰を落とし、リシャシィ・ボバルの動きを見ている。
「クッ・・・ロトレシェ・ロゲ!アイン!!」
リシャシィ・ボバルはそう言うと、アインに背を向けて逃走を開始した。
アインはそれを追おうとしてガクッと片膝をついた。
その姿がアインから折原浩平へと戻っていく。
「・・・く・・・これで限界か・・・」
荒い息をしながら浩平はバイクへと歩み寄った。
「まだだ・・・まだ・・・」
そう言いながら何とかバイクに跨ろうとする浩平だが、彼はそのままバイクを通り過ぎて地面に倒れてしまう。
 
<お台場海浜公園 同刻>
蝶怪人が神尾観鈴に手を伸ばす。
観鈴は恐怖のあまりに動けなくなってしまっていた。
「観鈴!」
地面に倒れたままの神尾晴子が悲痛な声を上げる。
娘である観鈴を助ける術を彼女は持っていない。炸裂弾を使用出来るライフル、それに拳銃は彼女から離れた場所に落ちていて手が届かない。
もう一人、その場にいる沢渡真琴も後ろ手に縛られたままの状態なのでどうすることも出来なかった。
「観鈴!!」
真琴も悲痛な声を上げる。
そこに銃声が響き渡った。
蝶怪人の肩で小さな爆発が起こる。
「・・・これは!?」
晴子が驚きに目を見張った時、更に銃声が響いた。
蝶怪人が身体の表面で起こった爆発によろめく。
「神尾さん!今のうちに!!」
そんな声が聞こえてきた。
晴子は素早く起きあがると蝶怪人を突き飛ばして、観鈴と真琴を連れてその場から逃げるように走り出した。
「お・・おのれ・・・!!」
突き飛ばされた蝶怪人は走り去ろうとしている晴子達を睨み付け、後を追おうと歩き出す。しかし、そこにまた炸裂弾が叩き込まれ、蝶怪人はよろめいた。
「むう・・・?」
見ると晴子達が逃げていく方向に一人の男がいて、ライフルを構えている。
警視庁未確認生命体対策本部所属の刑事、住井護である。
彼は上司である晴子が勝手にライフルと炸裂弾を持ち出した事を知っており、わざわざ後をつけてきたようなのだった。
「大丈夫ですか、神尾さん?」
自分の側までやって来た晴子達を見て住井がそう言うと晴子は苦笑を浮かべて
「助かったで、住井。この礼はちゃんとさせて貰うからな」
と言って彼の肩を叩いた。
「とにかくここはいったん引きましょう!炸裂弾もあまり効いている様子がありませんから」
住井の言葉に頷く晴子。
すぐ側には彼の乗ってきた覆面パトカーが止めてある。
「その二人を先に乗せてやってください」
「言われんでもわかっとるわ!」
そう言って晴子が覆面パトカーの側に歩き寄った時、そのボンネットの上にすっと蝶怪人が降り立った。
「一人たりとも生きては帰さん」
蝶怪人はそう言うと、一番近かった晴子に蹴りを食らわせ、地面へと降り立った。
「お母さん!!」
観鈴が悲鳴を上げる。
「な、なんて事するのよ!!」
真琴が吠えるが蝶怪人は平然と彼女たちに歩み寄ってきている。
住井が素早くライフルを蝶怪人に向けようとするが、蝶怪人は口である管を伸ばして彼の手からライフルをはじき飛ばしてしまった。
「しまった!!」
そう言った住井を殴り飛ばす蝶怪人。
住井は吹っ飛ばされ、地面に倒れて気を失ってしまった。
後に残るのは後ろ手に縛られたままの観鈴と真琴。
その二人を見て、ゆっくりと近付く蝶怪人。
「・・・や・・・助けて・・・助けて・・祐一っ!!」
思わず真琴が叫び声を上げる。
今、この場にはいない、大切な人の名を。
「いやぁっ!!往人さんっ!!」
観鈴も同じように声を上げた。
かつて自分の前から急にいなくなった人の名を。
そこへ・・・サイレンを鳴らしながら一台の大型スクーターが突っ込んできた。
乗っているのは銀色の騎士、PSK−01。
「エレクトリックガン、スタンバイ!発射!!」
彼の駆るKディフェンサーの前部から伸びた発射口から物凄い電光が走り、蝶怪人を直撃する。
「ぐぎゃぁぁぁっ!!」
悲鳴を上げて吹っ飛ぶ蝶怪人。
PSK−01はKディフェンサーから降りるとその後部に設置されているブレイバーバルカンを取り出した。
『北川さん、それの使用は禁止されています!』
無線でKトレーラーにいるはずの斉藤の声が飛び込んでくる。
PSK−01は取り出したブレイバーバルカンをKディフェンサーの座席に置くと別のボックスから高周波ブレードを取り出した。
「こいつで奴を倒せるか・・・?」
そう言いながらも高周波ブレードを右手にセットして振り返る。
よろよろと立ち上がろうとしている蝶怪人に向かってPSK−01は走り出した。
 
<N県某山中 08:49AM>
バシャバシャと水を蹴立てて後退するカノン。
追いすがるようにルシュト・ホバルが前進してカノンを殴り飛ばす。
よろけるカノンだが、何とか踏みとどまり、ルシュト・ホバルにパンチを食らわせようとするが、それを難なくガードしてしまうルシュト・ホバル。
逆にカノンのボディにパンチを決め、素早く反転、背負い投げのようにカノンを投げ飛ばす。
水飛沫を上げながら倒れるカノン。
何とか起きあがろうとするその背をルシュト・ホバルが蹴りつけ、前へとつんのめってしまう。
今度は正面から倒れてしまうカノンを見て、ルシュト・ホバルは笑った。
「ロルニシャ、カノン?サレショ・シィザッシェ・シェゾシャレザ・マリオ!」
川底に手をついて起きあがったカノンは二、三度頭を振ってからルシュト・ホバルに飛びかかっていった。
肩からルシュト・ホバルに突っ込んでいき、相手を押し倒して馬乗りになる。
だが、ルシュト・ホバルは腹筋の力で馬乗りになったカノンを吹っ飛ばすと素早く起きあがった。
「くそっ!!」
カノンは立ち上がるとルシュト・ホバルを睨み付けた。
(なんて強さだ・・・歯が立たないじゃないか!!)
ルシュト・ホバルを睨み付けながらカノンは思う。
(この前のといい・・・奴らは強くなっている・・・)
前回戦ったカガヅ・ボバルといい、このルシュト・ホバルといい未確認生命体は想像以上に強くなっている。まるで、今までの未確認生命体とは異質な強さを持っているような・・・過去にカノンが戦った未確認生命体とは一線を画しているのが明らかであった。
カノンは油断無く身構えながら少しずつルシュト・ホバルと距離を取り始めた。
(一か八か・・・やってみるしかない!)
必殺のキックを試そうというのだ。
前回戦ったカガヅ・ボバルは何とかこれで倒すことが出来た。キックが当たりさえすればいくらこいつが手強くても倒すことが出来るはずだ。
浅瀬をでて、川岸にあがるカノン。
「行くぞ!」
そう言ってカノンは腰を低く落とし、右足を後方へと下げて、両手を斜め下に広げた。ぎゅっと地面を踏みしめ、走り出すカノン。
その右足に光が宿っていく。
駆け出すごとに光の粒子がカノンの右足からこぼれるように・・・そしてカノンがジャンプした。
空中で身体をひねり、右足を突き出す!
「ウオオリャアァァァっ!!!」
雄叫びを上げながらカノンのキックがルシュト・ホバルに迫るが、ルシュト・ホバルは大きく後方にジャンプしてそのキックをかわしてしまった。
水飛沫を上げながら浅瀬に着地するカノン。
その時。
カノンの頭に何かのイメージが割り込んできた。
それは・・・空を飛ぶ何かの姿。
敵意は感じられない。しかし、今ひとつよく解らない感じである。
「な、何だ!?」
思わず声を上げてしまうカノン。
そこに飛びかかってくるルシュト・ホバル。
はっと顔を上げ、ルシュト・ホバルに気付いたカノンが素早くジャンプして後方へと飛び下がった。
さっと着地したカノンの身体はいつの間にか青くなっていた。
素早さなどの敏捷性のあがったフォームである。その分パワーが下がり、攻撃力はやや低下しているのだが。
すっと左右の手を広げて身構える青いカノン。
それを見たルシュト・ホバルは首を傾げた。
「ノデジェ・ガシェヅショ・ロソッシャガ!」
ルシュト・ホバルがそう言い、青いカノンに向かってジャンプする。
青いカノンは飛びかかってきたルシュト・ホバルを前転してかわすと川岸に打ち上げられていた流木を拾い上げた。
その流木をすっとルシュト・ホバルに向けて構えると青いカノンの手首の宝玉が光を放ち、流木が青いロッドへと変化する。ロッドの両端がすっと伸び、青いカノンは一度大きく頭上でロッドを回転させてからロッドを構え直した。
第二ラウンド、開始である。
 
<N県内華音遺跡 09:09AM>
エディは華音遺跡の入り口の前に立って空を見上げていた。
「おはよう御座います。早いんですね、エディさん?」
声のした方を振り返るとそこには茜がいて、はにかんだような笑みを浮かべていた。
「今日はあの壁の奧の調査をするからね。わくわくして寝ていられなかったんだよ」
そう言ってエディが笑顔を見せる。
茜は持っていた荷物を降ろすと辺りを見回した。
「・・・まだ来ていませんか?」
「What?」
いきなりそう言われたエディが怪訝な顔をして茜を見る。
「・・ああ、言っていませんでしたね。今日は私の友人が来るんです。どうしても手伝いたいって言って・・・一応断ったんですが、押しが強くて・・・」
困ったような顔をする茜。
「ところで美坂さんから何か言ってきましたか?」
話題を変えるように茜が言い、エディを見る。
「昨日の夜に電話したんだけど、向こうで何かあったらしくてまだ見てないって言ってました。今日研究室に行って確認するとも」
「そうですか・・せめて何があそこに隠されているか、未確認みたいな危険なものが隠されていないかだけでもわかればよかったんですが」
少し残念そうな顔をする茜。
エディも頷く。
「未確認といえば・・・東京の方でまた現れたそうですね?昨日ニュースでやってました」
「香里さん達が無事だといいんですが・・・」
二人がそんなことを話している間にぽつぽつと発掘作業員達が集まってきた。
一応9時半集合であるがエディも茜もあまり口うるさい方でもないので実にのんびりとした空気が漂っている。しかし、今日は石室の壁の奧の調査のためにそれなりの緊張感が漂っていた。
そこに緊張感をぶちこわすかのように一台のスクーターがけたたましい音を立てて突っ込んできた。
「ゴメンゴメン、ちょっと寝坊しちゃった〜」
全然悪いと思っていない様子で一人の女性がスクーターから降りてくる。
「・・・遅いですよ、詩子」
唐突にやってきた女性を見て呆れたような顔をしたのは茜。
彼女に近寄っていった女性はぽんと彼女の肩を叩くとにっこりと笑った。
「間に合ったようだし、いいんじゃない?」
「・・・ハァ」
これ見よがしにため息をついてみせる茜。
女性はそんな茜の後ろに立っているエディに気付くと気さくに片手をあげて笑みを見せた。
「ハァーイ!貴方が噂の日本通の外人さんね?あたし柚木詩子、よろしくね!」
柚木詩子と名乗った女性は人懐っこい笑顔を浮かべたままエディの側まで来ると右手を差し出した。
「こちらこそよろしく、柚木さん。エドワード=ビンセント=バリモア、エディと呼んでください」
エディも笑顔でそう答え、詩子の手を握る。
「あたしのことも詩子さんでいいわ。じゃ、張り切っていきましょう!」
そう言って詩子は先頭を切って遺跡の中へと入っていく。
続くのはエディと茜。他の発掘作業員は苦笑を浮かべて二人に続くのであった。
 
<お台場海浜公園 09:11AM>
高周波ブレードが唸りを上げて空を切る。
蝶怪人は間一髪宙へと逃れていた。
「おのれ・・・よくもやってくれたな!貴様から殺してやる!」
そう言った蝶怪人は着地すると羽根を広げた。
その羽根が太陽光を受けて、不気味な光を放つ。
「そいつの羽根を見ちゃダメ!!」
真琴がそう叫ぶが遅かった。
PSK−01は羽根から放たれる光を見て、構えていた両腕をだらりと下げてしまう。
『北川さん!どうしたんですか!?北川さん!?』
無線から斉藤の慌てた声が聞こえてくるが装着員である北川潤の耳には聞こえていなかった。
彼の思考能力は急速に奪われつつあった。
蝶怪人の催眠術にかかりつつあるのだ。
『北川さん!しっかりしてください!敵は正面にいるんですよ!北川さん!!』
必死に叫ぶ斉藤。
その声にはっとPSK−01が顔を上げた。
高周波ブレードを構えるといきなりあらぬ方向に斬りかかった。
『北川さん!?』
「斉藤、いきなり敵が増えたぞ!どうなっているんだ!?」
潤からそんな言葉が返ってきた。
PSK−01は正面にいる蝶怪人には一切斬りかからず、別の方向ばかりに高周波ブレードを振り回している。
Kトレーラーの中でそれを見ていた斉藤と川名みさきは顔を見合わせた。
「どういう事でしょうか?」
「・・うーん・・よくは解らないけど・・・催眠術とかじゃないかな?」
みさきがそう言って首を傾げる。
「あまりよくは見えなかったんだけど、あの蝶のお化けが羽根を広げてから北川君がおかしくなったんだと思うから・・・」
「・・・そうか!・・・でも・・・どうやって催眠術を解いたらいいんだ・・・?」
斉藤が困ったような顔をする。
みさきも腕を組んで考え込み始めた。
PSK−01はありもしない敵に向かって高周波ブレードを振り回し、徐々に体力とエネルギーを消耗していっている。
「くそっ!!いくら倒してもきりがないじゃないかっ!!」
PSK−01はそう言って振り返り、高周波ブレードを横に薙ぎ払った。
潤は幻影の蝶怪人を倒したつもりでいるのだろう。
肩を大きく上下させ、荒い息をつきながらもまた別の蝶怪人へと向かっていくPSK−01。
真琴や観鈴ははらはらとその様子を見ているしか出来なかった。
一方蝶怪人は腕を組んで楽しそうにPSK−01のダンスを見守っている。
「フッフッフ・・・貴様が疲れ切った時、動けなくなった時が最後だ・・・」
蝶怪人がそう言った時、その場にみさきが現れた。
みさきは少しずれていた眼鏡をかけ直すと、大声で叫んだ。
「北川君!左!!」
その声を受けて、北川が左側に高周波ブレードを向けた。
そこには本物の蝶怪人が立っている。
「な、何っ!?」
驚きの声を上げ、よろめく蝶怪人。
「ならば貴様も!!」
再び羽根を広げる蝶怪人。
しかし、みさきは全く動じなかった。
蝶怪人の羽根が広がると同時に眼鏡を外し、じっと蝶怪人を見つめる。
「・・・これで貴様も・・・」
蝶怪人が羽根を閉じる。
『川名さん、奴の羽根が閉じられました!』
みさきの耳に付けられているレシーバーが斉藤の声を伝え、みさきは外していた眼鏡を再びかけた。
「北川君!そのまま前!」
みさきがそう言うのを聞いて蝶怪人が怯んだ。
「な、何っ!?」
「そこかっ!!」
PSK−01の高周波ブレードが蝶怪人を捕らえた。
慌てて身を翻し何とか高周波ブレードの直撃をかわす蝶怪人だが、左腕を浅く切られてしまう。
「クッ・・・何故だ!何故お前には・・・」
蝶怪人がみさきを見て言う。
「私は本当は目が見えないんだよ。だから視覚に影響して掛ける催眠術は通用しない・・・そう言うこと」
みさきがそう言って笑みを浮かべる。
「逃がすかっ!!」
PSK−01が蝶怪人に追いすがる。
蝶怪人は羽根を広げると、それを羽ばたかせて宙に浮かび、PSK−01の手から逃れてしまう。
PSK−01は高周波ブレードを外すと素早く腰のホルスターからオートマグナムを引き抜いた。
空を逃げようとする蝶怪人に向けてオートマグナムを向け、引き金を引く。
オートマグナムの弾丸が蝶怪人の薄い羽根を面向き、ぼろぼろにした。
揚力を失い落下する蝶怪人。
(・・・チャンスは今しかない!)
PSK−01は落下した蝶怪人を見ると、大急ぎでKディフェンサーの側に駆け寄った。シートの上に置いてあるブレイバーバルカンを手にすると、それを構えて走り出す。
「ウオオオオオッ」
雄叫びを上げながら突進するPSK−01。
『北川さん、ブレイバーバルカンは!!』
斉藤の声が響くが無視する潤。
ブレイバーバルカンで敵を倒し、この武器が通用することを示してやりたい。ブレイバーバルカンは有効な、未確認に対して有効な武器であることを示してやりたい。自分のためにも、開発者の深山雪見のためにも。
「北川君!やっちゃえ!!」
みさきの応援の声が潤を後押しする。
よろよろと立ち上がりかけていた蝶怪人のブレイバーバルカンの先端を突きつけ、そのまま止まらずに走るPSK−01。
「ウオオオオオッ」
そのままブレイバーバルカンの引き金を引く!
ゼロ距離射撃。いくら反動が凄くてもこれなら確実に弾丸は命中する。秒間50発を誇るガトリングシリンダーが回転し、弾丸を吐き出していく。
物凄い反動がPSK−01を襲うがそれでも引き金から指を外さない。
蝶怪人の身体がびくびくと痙攣するように震える。そのままPSK−01は蝶怪人を壁へと押しつけた。
逃れようのない状態のまま、蝶怪人の身体に弾丸が叩き込まれていく。
蝶怪人は悲鳴すら上げられない。
ブレイバーバルカンの反動は相変わらずだが、それを身体をかぶせることによって無理矢理押さえつけるPSK−01。
その全身から火花が飛び始めた。
物凄い負荷がPSK−01の全身にかかっているのだ。
それでも。
(まだだ・・・まだ・・・もう少し・・・!!)
ブレイバーバルカンが不意に軽くなった。
どうやら弾丸を全て撃ち尽くしたらしい。
PSK−01はブレイバーバルカンのトリガー脇のボタンを押した。すると、ガトリングシリンダーの中央部が開き、そこからグレネード弾が発射される。
この距離でグレネードを使えば自分もただでは済まないことは覚悟の上である。それでも、彼は確実に蝶怪人を倒したかったのだ。
爆発が起こる。
吹っ飛ばされるPSK−01。
『北川さん!!』
「北川君!!」
斉藤、みさきが口々に叫ぶ。
蝶怪人が吹き飛んだ爆発の煙がもうもうと立ちこめる中、PSK−01は倒れたまま動かない。
『き、北川さん!!』
斉藤の悲痛そうな声。
みさきが倒れているPSK−01の側へと歩み寄ろうとした時、一台の車がそこにやってきた。
中から倉田佐祐理と雪見が相次いで降りてくる。
二人は倒れているPSK−01を見ると慌てたように駆け寄っていった。
PSK−01は全身から白い煙を立ち上らせながらぴくりとも動かない。
「北川君!!」
「北川さん!!」
みさきの隣に雪見が並ぶ。その反対側には佐祐理。
「何で・・・何で・・・」
雪見が目に涙を溜めながら言う。
「何でこんな無茶をするのよ!自分が死んだら意味なんかないじゃない!!」
その時、ぴくりとPSK−01の手が動いた。
「・・・この程度で・・・!!」
そう言って身を起こすPSK−01。
「北川さん・・・!!」
佐祐理が起きあがったPSK−01を見て嬉しそうな顔をする。
潤は頭部のマスクを取り、笑みを浮かべた。
「やりましたよ、深山さん・・・ブレイバーバルカン、やっぱりあれは最高です」
それだけ言うと、潤は気を失ってその場に倒れたのだった。
一方。
「そろそろほどいて欲しいんだけどな・・・にはは・・・」
物凄く困ったような顔を観鈴と真琴は浮かべていた。
足下には気を失ったままの住井と晴子が倒れていた。
 
<N県某山中 同刻>
ルシュト・ホバルの攻撃を青いロッドで受け流す青いカノン。
それはまるで流れる水のように滑らかな動きであった。
それを見ながら国崎は舞の側に駆け寄った。
「大丈夫か?」
国崎の言葉に頷く舞。
左肩からの出血はだいぶん治まってきているようだ。
「あれは・・・?」
視線をしっかりとカノンに向け、舞が言う。
「未確認生命体第3号・・・と俺たちは呼んでいるが・・・戦士・カノンとも呼ばれている」
「戦士・・・カノン・・・」
舞はそう呟くと、素早い動きでロッドを操り、ルシュト・ホバルの攻撃を受け流しているカノンをじっと見た。
その表情が険しくなる。
「違う・・・あれは・・・祐一じゃない!」
そう言って立ち上がる舞。
左手に持っている刀をぎゅっと握りしめ、歩き出す。
「おい、何処に行くんだよ!」
国崎がそう言って舞の右肩を掴んだ。
「あいつを倒す・・・」
舞がそう言って国崎の手を振り払う。
「無茶言うな!その傷じゃあいつの足手まといにしかならないだろっ!」
「あの戦い方じゃいつまでたってもあいつを倒すことが出来ない!」
国崎にそう返し、舞は走り出す。
確かに彼女の言う通りであった。
カノンは先程からルシュト・ホバルの攻撃を受け流しているだけの防戦一方なのである。これでは何時になってもルシュト・ホバルを倒すことは出来ないだろう。
だからといって舞が行ってもカノンにとっては守るべき対象が増えるだけで必ずしも好機となるとは思えない。しかし、舞本人は自分がルシュト・ホバルを倒すと言って息巻いている。万全の体調ならば彼女にも勝ち目があるかもしれないが、今の、左肩を負傷している彼女には万に一つもの勝ち目があるとは国崎には思えなかった。
「くそっ!どいつもこいつも世話をかけさせる!!」
そう言ってライフルを構える国崎。
「少しは牽制になればいいんだが・・・」
呟きながら引き金を引く。
銃声が轟き、ルシュト・ホバルの背で銃弾が命中する。
振り返るルシュト・ホバル。
そこに駆け寄ってきた舞が下段からの逆袈裟切り。
のけぞってかわすルシュト・ホバル。そのまま後方回転して水飛沫を上げながら着地する。
「ロソニ・ドリ・ロサレソ・リッコミ・ゴドニシェ・ギャヅ!」
ルシュト・ホバルはそう言うと舞を睨み付けた。
その背に飛びかかっていく青いカノン。
「早く逃げて!こいつは貴方が勝てるような相手じゃない!!」
カノンがそう言うが舞は首を左右に振る。
「そう言う戦い方じゃ勝てない!」
舞が言い返す。
その間にルシュト・ホバルはカノンを振り払い、舞へと一歩前に進み出た。
刀を前に突き出す舞。
ルシュト・ホバルはその刀身を片手で掴むとくいっと手首を捻ってあっさりと折ってしまった。
「くっ・・・」
慌てて下がろうとする舞。
だが、その舞の肩をルシュト・ホバルの手ががしっと掴んだ。
舞は折れた刀を振り上げ、残る部分でルシュト・ホバルに斬りかかった。しかし、ルシュト・ホバルの身体にはその刃は通用しなかった。うっすらと血がにじんだだけである。
「ニメ・・・」
ルシュト・ホバルがそう言って大きく口を開いた。
そこにいきなり横から青いロッドが突き込まれた。
思わず舞を掴んでいた手を離すルシュト・ホバル。
「させないっ!!」
カノンはそう言うと、ルシュト・ホバルの口にロッドを突き込んだまま、投げ飛ばした。
大きく宙を舞うルシュト・ホバル。
水飛沫を上げて水面に叩きつけられるルシュト・ホバルに向かってジャンプするカノン。
その動きは先程までの防戦一方だったカノンとは違っていた。
ロッドを振り上げ、起きあがろうとしているルシュト・ホバルに叩きつける。
ルシュト・ホバルが再び水面に叩きつけられ、派手に水飛沫が上がった。
着地したカノンはロッドを回転させ、今度は下からルシュト・ホバルに一撃を加え、宙に浮かせる。更に横から薙ぎ払うようにロッドを叩きつけ、ザバァッと水飛沫が上がって、ルシュト・ホバルが川の中に沈む。
それを見るとカノンはロッドを川底に突き立て、それを支点にジャンプした。ジャンプの頂点でロッドを引き上げ、頭上で一回転させ、落下と同時に突き出す!
「ウオオリャアァァァッ!!」
何とか起きあがったルシュト・ホバルの身体を、雄叫びと共に突き出されたロッドの先端が直撃した!
更にルシュト・ホバルの胸板を蹴って後方へと飛び下がるカノン。
すたっと川岸に着地するカノンの後方でルシュト・ホバルは、ロッドを叩き込まれた場所に古代文字を浮かび上がらせ、更にそこから全身に伸びる光のひびに苦しみの声を上げていた。
「グアアアア・・・ゴモササジェ・・・ゴモササジェ・バロヴァダヲオ」
そう言ってカノンに向けて手を伸ばし、そのまま正面から倒れた。そして次の瞬間、物凄い爆発が起こり、水飛沫が柱のように立ち上がる。
爆発に持ち上げられた水がまるで雨のように降ってくる中、カノンは祐の姿に戻り、その場に膝をついた。
舞を介抱していた国崎はそんな祐に気付くと声をかけた。
「大丈夫か、祐の字!?」
その声を聞いた祐は国崎達の方を見て、親指を立てて見せた。
「大丈夫!ちょっと疲れただけです」
そう言ってにこりと笑みを浮かべようとした時、また彼の頭に何かのイメージが駆け抜けた。
空を飛ぶ何か。
先程よりは鮮明になっているが、それでもはっきりと見えない。
解るのは・・・その頭部らしき部分に3本の角があるということ。そして、堅い甲羅にような部分が二つに割れて、その下からでた羽根で空を飛んでいること。
敵意はやはり感じられなかった。
だが、今度はその何かがまるで探るかのように祐の中に侵入してくるような感じがあった。味方か、敵か、それを探るかのように。
「祐の字?」
不意に近くから声が聞こえたので、はっと祐が顔を上げると舞に肩を貸した国崎が側に立っている。
「お前、本当に大丈夫か?」
祐はその国崎の言葉に苦笑を浮かべるしかなかった。
 
<N県華音遺跡 10:32AM>
エディと茜、そして詩子の3人が真剣な顔をして石室の中の壁を向いている。
「ほら、ここ・・・」
詩子がそう言って壁のある一点を指で示した。
そこには明らかに人工的な割れ目が入っており、まるでドアのつなぎ目のようにも見える。
「・・開くのでしょうか?」
茜がそう言ってエディを見る。
「開くなら爆破しなくていいね」
そう答えるエディ。
そっと指をかけてみるが全く動く気配を見せない。
「これはダメね・・・やっぱり爆破した方が早いんじゃない?」
そう言って詩子が茜を振り返る。
少し下がって壁を見ていた茜も小さく頷いた。
「まぁ、もう少し待ちましょう。香里さんに何か解ったか聞いてみますから」
エディはそう言うと、遺跡の外に出ていった。
石室内に残された詩子と茜は互いにため息をついた。
「もう少し面白いもんだと思っていたけど、あまり面白いものじゃなかったわね」
「初めにそう言いました・・・」
「でもでも・・・」
「わがまま言わないでください。元々詩子が来たいと言って勝手に来たんですから・・・」
茜はそう言うと、壁にそっと手をやった。そして石室内を見回す。
この石室は例の事件が起こった石棺のある部屋とはまた別の部屋である。
華音遺跡はいくつかの石室に別れており、一番広い部屋に石棺が安置されており、そこで事件は起こった。発掘隊が未確認生命体第0号によって皆殺しにされたという忌まわしい事件。茜の父もその被害者の一人である。
父の意志を継ぐかのようにこの遺跡のまだ調査されていない石室を調べている時に偶然この部屋を発見、他の部屋にはない古代文字があることに気がついた彼女は大急ぎで城西大学の美坂香里に連絡を取り、それを受けてエディが調査に加わったのである。
エディは元々調査隊の一人であったのだが、事件の起きた時は偶然にも日本を離れていたため被害に遭うことはなかった。発掘隊の一員だった彼が参加したことで茜が発見した壁に更に奧があると言うことが解り、今、その壁を爆破して調査するかどうかを検討しているのである。
すっと壁に手をはわせていく茜。
不意にその指先が止まった。
「・・・これは・・・一体・・・?」
訝しげな顔を茜がした時、エディが戻ってくる。
「ダメダメ、圏外だったよ」
「ははは、どじ〜」
詩子がエディを見て笑う。
苦笑を浮かべるエディ。
茜はそんな二人に構わず指先の感触に神経を集中させた。
壁に書かれた古代文字・・・そのいくつかが書かれているのではなく、彫り込まれている。
ドキドキしながら彫り込まれている文字を指でなぞっていくと・・・いきなり、壁が動いた。
「きゃあっ!!」
思わず悲鳴を上げてしまう茜。
それを聞いた詩子とエディが彼女を見、そして開いた壁を見て言葉を無くした。
「こ、これは・・・」
エディが一歩前に出て、開いた壁の向こう側をのぞき込む。
その後ろに好奇心たっぷりの詩子が続き、マグライトで中を照らし出した。
そこには・・・3本の角を持つ、カブト虫とクワガタ虫の中間のような姿を持つ作り物の甲虫が台の上に据えられていた。
 
<N県内倉田重工第3研究所 11:02AM>
デスクの上の資料を片付けながら七瀬留美は部屋につけられている時計を見た。
11時を回ったところである。
「やれやれ・・ようやく現場に復帰出来るわね・・・」
そう言って首を回す留美。
「車の準備は出来てる?」
近くにいた所員に尋ねるとその所員は頷いた。
「ありがと。それじゃそろそろ出発することにするわ」
留美はそう言うと椅子の上に置いてあった鞄を手に取った。
そしてその部屋を出ようとして、ふと振り返る。
「例のあれだけど、一応開発は続けておいて。もしかしたらって事もあるから」
「解りました、七瀬主任」
所員がそう答えるのを聞いてから留美は部屋を出た。
急ぎ足で廊下を歩いていると向こうから誰かが歩いてくるのが見え、留美は表情を強張らせた。
向こうから歩いてくる人物達に見覚えがあったからだ。
「おやおや、これは七瀬君じゃないか。こっちに戻ってきていたとは知らなかったよ」
前にいる男が大げさに手を広げてそう言った。
留美は一瞬イヤな顔をしたがすぐにそれを押し隠して笑みを浮かべた。
「お久しぶりです、久瀬さん。ちょっとした用事で戻ってきていたんですよ。もっとももう帰りますけどね」
そう言って留美は一礼して、久瀬の横を通り過ぎようとした。
「こちらに帰ってきていた理由はPSK−02のことかな?」
留美が通り過ぎようとした時、ぼそっと呟く久瀬。
はっとした顔で久瀬を見上げる留美。
それを見てにやりと久瀬は笑った。してやったり、と言う表情である。
どうやら久瀬は留美に対してカマをかけていたようだ。見事に留美はそれにかかってしまったらしい。
留美はしまった、と言う表情を浮かべて、久瀬を睨み付けている。
「まぁ、頑張ってくれたまえ。PSK−02は倉田重工のみならず未確認生命体の脅威に怯える一般人の希望なのだからね」
いやみったらしく言う久瀬。
「まぁ、もっともこの私に言わせればあれはただの金食い虫だが・・・」
それを聞いた留美は流石にカチンと来たようだ。
むっとした顔で久瀬を見て、こう言った。
「お言葉を返させて貰いますが、PSK計画は必要以外の予算は貰っていません!修理費用なども全て予算の枠内でまかなっています!」
「本当にそうであるならいいのだがね。では私も用事があるので失礼させて頂くよ」
久瀬はそう言うと、歩き始めた。
二、三歩進んでから足を止め、留美の方を振り返る。
「ああ、そうそう。私も彼女と一緒にPSKシリーズに変わるものを開発中です。お互い頑張りましょう、七瀬主任」
それだけ言うと久瀬はまたにやりとしたイヤな笑みを浮かべて歩き始めた。
久瀬の後ろにいた女性にも留美は見覚えがあった。
その女性がにやりと笑って、久瀬を追って歩き去っていく。
留美はその女性に後ろ姿を見送りながら、悔しそうに唇を噛んでいた。
「広瀬さん・・・一体何をやるつもりなの・・・?」
ぼそりとそう呟いてから、留美はまた急ぎ足で歩き出した。
第3研究所の正面玄関の前に一台の大型トレーラーが停車している。その大きさはKトレーラーとほぼ同じくらいであった。
「ただ第7研究所に運ぶだけなのよ!どうしてこんな大型を用意するのよ!!」
思わず留美は運転手に怒鳴ってしまう。
「知りませんよ!こっちはこれで行けって言われただけなんですから!」
運転手も怒鳴り返してきた。
「解ったわよ!じゃ、さっさとやってちょうだい!!」
そう言って留美は助手席に乗り込んだ。
何故か二人とも不機嫌そのもので。
トレーラーが第3研究所を出ていく。
その様子をじっと屋上から見ている影が3つあった。その3つ、どれもが人とは違う異形の姿をしている。
「やれやれ・・・まさかあんたらみたいな連中と組むことになるとは思いも寄りませんでしたよ・・・」
そう言って異形の影の後ろに気配もなく一人のサングラスをかけた男が姿を見せる。
振り返る3つの異形の影。
「貴様がキリトか?」
犬のような頭の影が言うと、男は頷いた。
「まぁ、金の分は働かせてもらうさ・・・あんたらがどういう目的であろうとな」
キリトという男はそう言うとにやりと笑って見せた。
 
<N県某山中 11:21AM>
「本当にいいのか?」
国崎がそう言って左肩に包帯を巻いた舞に尋ねる。
「かすり傷だから大丈夫」
「とてもじゃないがそうは見えないが・・・まぁ、そう言うなら止めはしないが・・・」
戸惑ったような表情を浮かべて国崎はそう言って離れた場所にいる祐達を振り返った。
祐は酷く疲れた様子でぐったりと項垂れたまま腰を下ろしている。
その側には美凪、みちるが心配げに付き添っていた。
「そう言えばあの二人は一体何なんだ?姉妹と言うわけでもないんだろうし・・・」
「友達・・・」
「友達?」
呟くように言った舞に驚きの表情を浮かべる国崎。
「まぁ、別にいいが・・・それともう一つ。あんた、祐の字のことを『祐一』って呼んでいたよな。あいつのこと、知っているのか?」
国崎は今度は真剣な顔をして言った。
舞は国崎の言葉を聞いて、彼を見た。
「あいつな、記憶喪失なんだそうだ。今はみんなあいつを『祐』って呼んでいるんだがな。あいつを『祐一』って呼んだのはあんたともう一人だけなんだよ。だからもし、あいつを知っているのなら・・・」
「・・・あれが・・・私の知っている祐一なら・・・」
舞はそう言うと、祐の方へと歩き出した。
美凪とみちるが近寄ってきた舞に気付いて、祐の側を離れる。
俯いたままの祐は近寄ってきた舞に気付かない。
「祐一・・・」
そっと呼びかける。
祐が顔を上げた。
「・・・あなたは・・・俺を知っているんですか?」
祐がそう言うのを聞いて、舞はすっと顔を伏せた。
だが、すぐに顔を上げると、舞は祐の前にしゃがみ込んだ。
「あなたは多分、祐一・・・相沢祐一。思い出して・・・私のこと、みんなのこと、そして自分のことを・・・」
すがるような目をして舞が言う。
しかし、祐はその視線を自分からそらせてしまっていた。
「俺は・・・俺は・・・!!」
そう言って祐は頭を抱えて俯いてしまう。
「逃げないで・・・祐一なら逃げないで・・・祐一はそう言う人じゃない・・・祐一は・・・もっと強いから・・・大丈夫だから」
舞は言いながら祐の頭をそっと自分の胸へと引き寄せた。
「・・舞・・さん・・・」
祐が呟く。
「・・・舞・・・」
小さい声。
 
<N県内某所 11:42AM>
トレーラーは快調に進んでいた。
助手席に座っている留美は窓枠に肘をついてうつらうつらしている。
と、その時だ。
一台のアメリカンバイクがトレーラーの横を追い越し、前へと躍り出てきたのは。
「うわっ!!」
運転手が慌ててブレーキを踏む。
その衝撃で前へつんのめってしまう留美。
「一体何だって言うのよ・・・」
そう言って運転手を見ると、彼は困ったように前を指さした。
留美も前を見てみるとそこには一台のアメリカンバイクが止まっている。
「ちょっと!危ないじゃない!」
窓を開けて留美がアメリカンバイクに乗っている男に向かって怒鳴った。
アメリカンバイクに持っている男は留美の方を向くとにやりと笑った。
「あんた、倉田重工の七瀬留美さんだよね?」
「そ、そうだけど・・・」
いきなり男の口から自分の名前が出て、戸惑う留美。
「じゃ、こいつに例のあれが入っているわけだ?」
男がそう言ってバイクから降りる。
同時にトレーラーの上に何かが飛び乗ったような衝撃があった。
はっと留美はシートベルトを外してドアを開け、表に飛び出す。
そしてトレーラーを振り返ると、その上にトンボのような姿の怪人、犬のような頭部の怪人、そして巨大な花のような頭部の怪人が立っている。
「な、何なの!?未確認がこんなに沢山・・・」
驚いたように留美が言う。
その背後に音もなく男が立ち、彼女の首筋に手刀を喰らわせて昏倒させる。
「悪いね。女性に荒っぽいことはしたくないんで・・・」
そう言って留美を地面に寝かせてやると今度は運転手を見やった。
運転手はあっさりと留美が倒されたのを見、そして更に異形の3つの怪人がトレーラーの上から飛び降りてきたのを見て、慌てて逃げ出した。
それを追う巨大な花の怪人。
その花はラフレシアという種であろうか、後ろから見ると運転手の姿は完全に見えなくなってしまう。
「うぎゃあぁぁっ!!」
断末魔の悲鳴が上がる。
「やれやれ・・・また殺してしまったようだな」
トンボのような怪人が言う。
どちらかというとオニヤンマという種に近いものがある。
「フッ・・別にどれだけの死人が出ようと構いはしないさ・・・聖戦が始まればこの比ではない。それより早く例のあれを奪取するのだ・・・」
犬の頭部の怪人がそう言ってトレーラーの後部へと回った。
だが、そこは既に開け放たれ、中からダークブルーの装甲服が姿を現した。
PSK−02である。
「キリトか・・・早くそれを渡せ!」
犬怪人がそう言って手を伸ばす。
PSK−02は返事をする代わりに腰のホルスターから大型の銃を抜いた。
PSK−01が使用しているオートマグナムよりも大きく、破壊力を増した上に連射能力も加えられている新型銃、マグナマシンガンである。
マグナマシンガンを犬怪人に突きつけるPSK−02。
「悪いな、人殺しは契約外なんでな・・・」
PSK−02を身にまとったキリトがそう言って引き金を引く。
大幅に強化された銃弾が犬怪人をずたずたにしてしまう。
後ろによろけ、そのまま倒れて爆発する犬怪人。
「な、何っ!?」
オニヤンマ怪人が爆発に気付いて走ってきた。
その間に地面へと降り立つPSK−02。
「キリト、貴様、裏切る気か!?」
「人殺しは契約外だろうに!裏切ったのはそっちの方が先でしょう!」
そう言ってキリトはマグナマシンガンをオニヤンマ怪人に向けて発砲する。
新たな戦いが始まった・・・。
 
Episode.21「予兆」Closed.
To be continued next Episode. by MaskedRiderKanon
 
次回予告
PSK−02を奪ったキリトは何処へともなく去っていった。
祐と国崎は舞がくれたメモを頼りに祐の記憶の断片を求めていく。
葵「キリト君、やり過ぎよ・・・」
国崎「お、おいっ!!何処行くんだよ!!」
東京に向かう謎の飛行体。
新たに解読される古代文字がその正体を探る。
香里「聖なる鎧の虫・・・?」
詩子「ま、心配ないんじゃない?」
夜の街で起こる追跡劇!
アインのスーパーマシンがそのベールを脱ぐ!
浩平「・・・俺を甘く見るなっ!!」
次回、仮面ライダーカノン「激走」
目覚めの時は近い・・・!!


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