<都内某所(観鈴の家) 15:45PM>
地面に倒れた神尾晴子の首を両手で絞める蝶怪人。
「ぐはぁ・・・・・」
絶息し、白目をむく晴子。
意識が遠のいていく。
(もう・・・あかんか・・・観鈴・・堪忍やで・・・)
朦朧とする意識の中、晴子は娘である観鈴に向かって手を伸ばそうとする。
その手が震える。
と、その時、バイクのエンジン音が辺りに響き渡った。
その音に蝶怪人が振り返ると一台の黒いバイクがこちらに向かって突っ込んできているのが見えた。
そのバイクに乗っているのは・・・折原浩平!
黒いバイクがジャンプし、蝶怪人を跳ね飛ばした上で着地、ブレーキをかけ道路とタイヤを擦らせながら停止する。
「戻ってきて正解だったぜ・・・」
浩平はそう言ってバイクから降りる。
蝶怪人を睨み付けながら浩平は倒れている晴子の側へと行く。
「生きてるか、おばさん?」
「だ、誰がおばさんや!!ごほっごほっ!!」
咳き込みながら身を起こした晴子が浩平に向かって怒鳴る。
それを見た浩平はにやりと笑った。
「まぁ、それだけ言えれば大丈夫だな。・・・さて、お前は・・・」
言いながら浩平は蝶怪人を見た。
蝶怪人はようやく起きあがったところだった。
「折原浩平・・・ここで貴様と会ったのはいささか予定外だ。ここは引かせて貰うぞ」
蝶怪人はそう言って背の羽根を広げた。
その羽根が太陽の光を受けて不気味な光を放った。
「くっ・・・目くらましか・・・卑怯な!!」
浩平は両腕で自分の顔をかばった。
その為、蝶怪人の姿が彼の視界から消えてしまう。
「はっはっは、折原浩平!こいつらを返して欲しくばお台場海浜公園まで来い!そこがお前の死に場所だ!!」
蝶怪人の声が響き渡る。
はっと浩平が腕をどけると、前には誰の姿もない。
蝶怪人はおろか、倒れていたはずの観鈴や沢渡真琴の姿さえも。
「・・・くそっ!!」
悔しそうに浩平は歯をかみしめる。
まんまと敵の術中にはまってしまった。おまけに人質まで取られ、その人質が自分を助けてくれたあの二人と来ている。
ぐっと拳を握りしめ、浩平はバイクに駆け寄った。
「ちょっとあんた!ホンマに行く気か?」
晴子が声をかけてくる。
浩平は答えずバイクに跨った。そしてエンジンをかける。
「あんたの娘は俺が必ず助ける!」
それだけ言うと、浩平はバイクを急発進させた。
 
仮面ライダーカノン
Episode.20「決死」
 
<N県某山中 同刻>
未確認生命体ルシュト・ホバルに腕を捕まれ、投げ飛ばされる国崎往人。
宙を舞い、地面に落ちてごろごろ転がる。
「くう・・・」
全身に走る痛みに思わず呻き声を上げてしまう。
何とか手をついて起きあがろうとした時、ルシュト・ホバルが飛びかかってきた。
今まで何人の被害者の血を吸ったのか、赤く染まる鋭い牙が並ぶ口を大きく開けて。
それを見た国崎は慌てて地面を転がり、ルシュト・ホバルの牙をかわす。
「こ、このっ!!」
慌てて起きあがった国崎は足下に転がっていた石を掴むとルシュト・ホバルに向かって投げつけた。
ルシュト・ホバルは国崎の投げた石を大きく口を開いて待ち受け、一気に噛み砕いてしまった。
それを見た国崎は青くなった。
「なんて奴だ・・・・」
国崎はショルダーホルスターから拳銃を抜くと素早く構えた。しかし、その手をルシュト・ホバルが押さえた。
「く・・こいつっ!!」
国崎がルシュト・ホバルを睨み付けるが、相手の手の力は緩まらない。それどころかギリギリと締め上げた上で国崎の手をひねり上げる。
「ロショマ・ニグ・ニメ」
ルシュト・ホバルはそう言うと国崎の腹に空いている手でパンチを食らわせた。
「ぐふっ!!」
身体を曲げ、息を吐く国崎。その手から拳銃が落ちる。
ルシュト・ホバルは国崎の手を掴んでいた自分の手を離すと彼を地面に叩き伏せた。
「ぐあっ!!」
地面に叩きつけられ、苦痛の声を上げる国崎。
周囲にいる警官達は国崎が側にいるのと、怖いのとで身動き一つとれないで居た。
倒れた国崎を引き起こし、その首筋に鋭い牙をルシュト・ホバルが突き立てようとしたその時、警官達を飛び越えて一人の女性がルシュト・ホバルへと駆け寄っていく。
「やっ!!」
鋭い気合いの声が女性から漏れる。
同時に走る銀光。
一瞬の間をおいてからルシュト・ホバルの国崎を掴んでいる手から血が噴き出した。
ルシュト・ホバルが女性の方を振り返る。
女性は動きやすい服装、長い髪を首の後ろで無造作にとめている。そしてその手には鞘に収められた刀。鋭い眼光がルシュト・ホバルを睨み付けている。
ルシュト・ホバルは国崎を離すと女性を睨み付け、大きく口を開いた。
「威嚇のつもりなら・・・」
女性はそう言うと刀の柄に手をやった。
一瞬銀光がひらめく。
かちゃっと言う音と共に女性が刀の柄から手を離す。同時にルシュト・ホバルの胸に一条の傷が現れ、血が噴き出した。
思わずよろめくルシュト・ホバル。
「くっ・・・ロトレシェ・リド!!」
ルシュト・ホバルはそう言うと、川の方へと走り、一気に飛び込んだ。
女性はあえてそれを追おうとはせず、倒れている国崎の方へと駆け寄った。
国崎はごほごほと咳き込みながらも何とか起きあがろうとしているところだった。
「大丈夫?」
駆け寄ってきた女性が国崎に向かって言う。
「何とか大丈夫だ・・・」
頭を振りながら答える国崎。
「それにしても助かったぜ。あんた、凄いな」
完全に立ち上がった国崎はそう言って女性を見た。
女性はちょっと照れたように頬を赤らめると俯いた。それから何かを思いだしたように国崎に背を向けると歩き出した。
「おい、何処行くんだよ?まだ礼も言ってないのに」
国崎が声をかけながら彼女の隣に並んで歩く。
「俺は国崎往人。今は東京の警視庁の未確認対策班の一員だ。で、あんたは?」
「・・・川澄舞・・・旅の修行中の剣士・・・」
女性ははにかんだように笑みを浮かべて国崎に言った。
それから顔の疑問符を浮かべている彼をそこにおいて、川澄舞は警官達の後ろに置いてあったかなり大きい袋を両手に持ち川の上流に向かって歩き出した。
「剣士・・・?修行中?なんて時代錯誤な・・・」
そう呟きながら歩き去っていく舞の後ろ姿を見送る国崎。
「なぁ、この先に何かあるのか?」
近くにいた警官にそう声をかけると
「確かそれほど大きくもないですがキャンプ場があったはずです。多分そこに彼女、帰るんじゃないですか?」
と言う答えが返ってきた。
「キャンプ場か・・・」
国崎はすっかり祐のことを忘れて舞に興味を抱いていた。
 
<品川区鈴ヶ森周辺 同刻>
ガシャッと言う音と共に構えられるブレイバーバルカン。
その照準は起きあがろうとしているリシャシィ・ボバルを捕らえている。
PSK−01は油断無く相手を見据えながら、引き金を引いた。
「食らえ!!」
秒間50発を誇るガトリングシリンダーが回り、弾丸を吐き出す。
だが。
その発射の際の反動をPSK−01は受け止めきれなかった。
銃身が跳ね上がる。身体を支えることすら出来ない。
ブレイバーバルカンから弾丸を発射しながらよろけるPSK−01。
「な、何だ、これは!?」
装着員である北川潤の口から焦りの声が漏れる。
発射された弾丸はリシャシィ・ボバルに当たるどころか全く別の所へと飛び、周囲のものを破壊していく。
「こ、このっ!!」
無理矢理跳ね上がる銃身を押さえつけるPSK−01。
『一体どうしたの、北川君!?』
無線で深山雪見の声が聞こえてくるが答えている余裕すらない。
必死にブレイバーバルカンを押さえ、何とか銃口をリシャシィ・ボバルへと向けようとする。
と、その時、PSK−01の右肩から上腕部にかけてスパークが走った。
Kトレーラー内でそれをモニターしていた斉藤が驚いたような声を上げる。
「PSK−01の右肩部分のパワーアクセラレータがオーバーヒートしています!!」
外の状況を映すモニターの横にあるPSK−01の状況を確認するモニターの中、PSK−01の右肩が赤く点滅している。それだけではない。赤い点滅は右肩から右腕、胸へと着実に広がっている。
「・・・ど、どういう事・・・?」
焦りを隠せない表情で雪見が呟く。
「ま・・まさか・・・」
そっと外の状況を映しているモニターを見上げる。
その中ではブレイバーバルカンを必死に押さえ込みながら撃っているPSK−01の姿が映されている。
「北川君!ブレイバーバルカンの使用を今すぐ中止しなさい!!」
いきなり雪見が大きい声で言った。
隣にいた斉藤が驚いたように彼女を見る。
『ダメです!こいつで・・俺は・・・未確認を倒すんだ!!』
返ってきた潤の声は苦しそうであった。
「ダメよ!今のブレイバーバルカンは・・・」
雪見は泣きそうな顔をして潤に呼びかける。
モニターの中のPSK−01の右肩から火花が飛んだ。それは徐々に右腕へと広がっていく。
「今のブレイバーバルカンは・・・PSK−01じゃ扱いきれないわ!!」
悲痛な声。
斉藤は雪見の顔を見上げたまま、黙り込んだ。
それでもPSK−01はブレイバーバルカンを撃ち続けている。
「まだだ!!一発でも当たれば!!」
PSK−01の中で潤が歯を食いしばる。
右肩から腕にかけてもうほとんど感覚がない。予想以上の反動が、彼を苦しめている。
『北川さん!このままだと姿勢制御ユニットも!!』
斉藤の声が響いてくる。
「ウオオッ!!」
唸る潤。
一方リシャシィ・ボバルは身を起こすとブレイバーバルカンの弾丸をかわすように物陰へと飛び込んでいた。少しの間、物陰から様子を見ていたが、ブレイバーバルカンの弾丸が自分の方に来ないことを知るとPSK−01に向かって飛び出した。
それに気付いたPSK−01が相変わらず物凄い反動を与え続けているブレイバーバルカンを飛び出してきたリシャシィ・ボバルに向ける。
しかし、物凄い反動で照準が定まらず、弾丸はリシャシィ・ボバルには当たらない。
「くっ!!このっ!!」
迫り来るリシャシィ・ボバルに必死に銃口を向けようとするがブレイバーバルカンの反動が大きすぎどうやっても銃口が一定しない。その上、先程斉藤が危惧した事態、すなわちPSK−01の姿勢制御ユニットがスパークを起こした。更にPSK−01のあちこちから火花が散った。
「くっ!!」
それでもPSK−01は倒れない。
一気に接近して襲いかかるリシャシィ・ボバル。
その時、ブレイバーバルカンから発射された弾丸がリシャシィ・ボバルの肩に命中した。
それは偶然だった。
射撃の際の反動でぶれまくる銃口が偶然にもリシャシィ・ボバルの方を向き、その肩を撃ち抜いたのである。
その威力に吹っ飛ぶリシャシィ・ボバル。
撃たれた肩からは真っ赤な血が流れ落ちている。そこを手で押さえ、リシャシィ・ボバルは慌てて逃げ出した。
それを見たPSK−01は弾丸を撃ち尽くしたブレイバーバルカンを降ろし、その場に片膝をついた。
「くっ・・・くそっ!!」
PSK−01は悔しそうに言う。
今のPSK−01はあちこちにダメージがあり、リシャシィ・ボバルを追うことが出来ない。それどころか立ち上がることすら出来なかった。
 
<??? ??:??PM>
こちらに迫ってくる怪しい影。
彼はそれから必死に逃げていた。
影は一つではない。二つ、三つ、四つと増えていく。
ハァハァハァと荒い息をしながら彼は走り続ける。
後ろから彼を追ってくる影に追いつかれないように。
追いつかれたら殺される。そう、確実に。
彼にあの影を倒す力はない。
必死に走り続ける。
捕まったら終わりだ。
後ろを振り返る。
影が次第にその姿をはっきりとし始める。
一つは黒い亀のような姿へ。
一つは赤い鳥のような姿へ。
一つは白い虎のような姿へ。
一つは青い龍のような姿へ。
その姿を見て、彼は青くなった。
「く、来るなぁっ!!」
思わず叫んでしまう。
影は、しかし、止まりはしない。
彼は前よりも一層必死になって走り出す。
だが、四つの影はだんだん彼に追いついてくる。
「うわぁぁぁっ!!」
彼が悲鳴を上げる。
四つの影から伸ばされた手が彼の身体を掴む。
必死にその手を振り払い、彼は更に走った。
その時、不意に新たな影が彼の前に現れた。
彼は新たに現れた影を見て、怯えたように身体をすくめた。
「死ね・・・」
影がそう言う。
後ろから伸ばされた手が彼を羽交い締めにする。
正面の影が彼の首に向かって手を伸ばす。
「うわぁぁぁっ!!」
悲鳴を上げる彼。
 
<N県某山中(ロッジの中) 16:23PM>
はっと祐は目を覚ました。
身体を起こそうとすると、全身に痛みが走る。
「あ・・・」
不意にそんな声が聞こえたので祐は声のした方を見た。
丁度この部屋の入り口に小学生ぐらいの女の子が居て、祐の方を見ている。
「美凪〜、土左衛門が生き返ったよ〜」
そう言いながら奧へと引き返していく。
「土左衛門って・・・」
寝ながら苦笑を浮かべる祐。
どうやら死んではいないらしい。天井を見ながら祐はそう思って、笑みを浮かべた。
「目、覚めましたか?」
そう言って先程の少女とは別の少女が入ってきた。
先程の少女は小学生くらいだったが新たに入ってきたのは大学生ぐらいの少女と言うよりは女性と言うべき女性だった。
「君が・・・助けてくれたのか?」
祐が聞くと、その女性は首を左右に振った。
「私は貴方の看病をしただけ。見つけたのはみちる、ここまで運んだのは舞さん・・・」
女性はそう言うと、側にある椅子に腰を下ろした。
「みちるってのはあの子の事かな?」
そう言って祐は女性の奧、入り口の所に立ってこちらを見ている少女を見た。
少女は二人の様子をうかがうようにじっと見ている。
「はい・・・」
頷く女性。
「私は遠野美凪と申します。貴方は?」
「俺は祐。とりあえずそう呼ばれている・・・」
そう言って身を起こす祐。
だが、全身に走る痛みに顔をしかめてしまう。
「まだ横になっていた方が・・・」
遠野美凪と名乗った女性が心配そうにそう言うが祐は首を左右に振る。
「あまりのんびりもしていられないんだ」
そう言って祐はベッドから降りようとした。
「あ・・・」
不意に美凪が真っ赤な顔をして、手で顔を覆った。
それを見た祐はその時になって自分の格好に気がついた。
彼は全裸で寝かされていたのだ。
慌ててシーツで自分の身体を隠す祐。
「わ、悪い!そう言うつもりじゃなかったんだ!本当に!」
かなり焦ったように言う祐。
と、そこにまた別の女性が入ってきた。
長い髪を首の後ろ辺りで無造作にまとめている女性・・・川澄舞である。
彼女は部屋の中の様子を見ると・・・いきなり祐の側に駆け寄り、彼に思い切りパンチを食らわせた。
それを食らって祐はまたベッドに倒れ込んだ。見事に決まったその一撃で祐の意識は綺麗に失われていた。
「あ・・・折角起きたのに・・・」
倒れた祐を見て美凪がそう呟いた。
 
<倉田重工第7研究所 17:03PM>
Kトレーラーの中で、雪見は椅子に座り、俯いていた。
側には誰もいない。
斉藤は先程の戦闘を記録したDVD−Romを持って解析室へ、PSK−01装着員である潤はメディカルへと運ばれており、PSK−01も修理のためKトレーラー内にはない。
「・・・・・・ここにいたんですね」
そんな声が聞こえたが雪見は顔を上げなかった。
入ってきたのは倉田佐祐理。
この第7研究所の総責任者、PSKチームの総責任者でもある。
「北川さんは右肩の脱臼だけで済んだそうです。PSK−01もすぐに修理が出来るそうです」
佐祐理はそう言いながら雪見の隣にある椅子に腰を下ろした。
「・・・申し訳ありません・・・私の責任です」
雪見は顔を俯かせたままぼそりと言った。
「ブレイバーバルカン・・・攻撃力にのみ気が行っていてその反動を考えていませんでした。PSK−01の損傷も北川君の怪我も全部私のミスです」
「同じようなことを北川さんも言っていましたよ」
佐祐理の言葉に雪見がようやく顔を上げ、彼女を見た。
「自分が未熟だったからブレイバーバルカンを扱いきれなかった。PSK−01をまた壊したのは自分の責任だって」
「そんな・・・彼には責任はありません!全部私の・・・」
そう言う雪見を佐祐理は手で制した。
「やめましょう。誰が悪いと言うことはないんです。PSK−01ではブレイバーバルカンの使用は出来ない。それは貴方も危惧していて私に進言してくれていたことです。だから、責任があるならそれを無視して今回の出動を許可した私にあります」
「違います!私は・・・PSK−01の性能の全てを把握し切れていなかった!把握しているつもりで・・・それでブレイバーバルカンを開発して・・・でも・・・これじゃ・・・何の意味もないわ!!」
雪見は言いながら泣いていた。
「私は・・・また・・何も出来なかった・・・・!!あの子の時も・・・今回も・・・私は・・・私は・・・!!」
佐祐理は何も言わずに泣いている雪見を見ているだけであった。
雪見の泣き声だけがKトレーラーの格納庫に響いている。
その格納庫の入り口に一人の女性が立っていた。
彼女の名は川名みさき。
盲目の、雪見の大親友である。
 
<都内某所 19:36PM>
顔にペイントをした男が肩の傷に指を突っ込み、何かをほじくり出している。
激痛に顔をしかめながら肩から弾丸を取り出し、地面に投げ捨てた。
荒い息を吐きながら男が尻餅をついた。
「こんなところで休憩していて間に合うのか?」
不意に後ろから声が聞こえてきた。
顔にペイントをした男が振り返ると、そこには数人の男女が居て、彼を見下ろしていた。
「・・・サジャ・イガヲバ・ラヅ」
そう言って顔にペイントをした男が後ろに立つ男女を睨み付ける。
「フッ・・ビサンにもなかなかやる奴が居るようだ・・・」
何処か楽しげな声を出したのは何処か猫を思わせる長い髪の女性。
「ルシュトもしくじったらしい。果たしてどちらが先に終わらせるかな?」
「ジャサデ・・・ロデバ・サゲマリ!」
顔にペイントをした男はそう言うと立ち上がった。
そして自分の後ろにいる男女を一度睨み付け、歩き出した。
歩き去っていく顔にペイントをした男の背を見送りながら、一歩前に出たのは美しいドレス姿の女性であった。
「ガダヌの始末よりもゼースの方が大事だ・・・」
そう言って周囲にいる男女を見回した。
 
<倉田重工第7研究所 21:31PM>
第7研究所の中にあるメディカルルーム。
事故や不注意などで怪我をした人が運ばれるこの部屋の常連に潤は既に名を連ねていた。
「そうですか・・・深山さんがそんなことを・・・」
ベッドの上で身を起こしている潤はそう言って俯いた。
彼の側にいるのは佐祐理である。
ちょっと困ったような笑顔で彼を見つめている。
「やはり俺に責任が・・・」
「北川さん、やめてください。それぞれに責任があった。それでいいじゃないですか。問題はそれよりも・・・」
そう言った佐祐理の目は真剣であった。
潤も同じように真剣な目をして彼女を見つめ返す。
「逃げた未確認生命体です。おそらくまた人を襲うでしょう。何としてもそれを食い止めなければいけません」
「わかっています」
「しかし、ブレイバーバルカンの使用は許可出来ません。現状の装備だけで戦うことになります。それで、大丈夫ですか?」
そう言われて潤は驚いたような顔を見せた。
「ブレイバーバルカンの使用は許可出来ないって・・・それじゃ深山さんが・・・」
「北川さんの身体のことを考えてのことです。深山さんの了承も既に貰っています。今ある装備で、何とかしてください」
佐祐理は厳しい口調でそう言い、立ち上がった。
「ブレイバーバルカンはPSK−01では扱えないことが判明した以上、使用を禁じます。Kトレーラー内で封印していますからそのつもりで居てください」
そう言い残してメディカルを出ていく佐祐理。
潤は黙ってその後ろ姿を見送っていたが、やがてベッドに身体を横たえた。
「それでも・・・俺はやる!!やるしかないんだ!!」
潤の呟きが誰もいないメディカルの中に響く。
同じ頃、雪見は未だKトレーラー内で俯いていた。
「・・・ゆきちゃん・・・?」
恐る恐ると言った感じの声が聞こえてきた。
その声に顔を上げる雪見。
Kトレーラーの入り口にみさきが居た。
心配そうな顔をして雪見の方を見ている。
「・・・みさき・・・どうしてここに?」
「ゆきちゃんのことが心配だったんだよ。かなり落ち込んでいるようだったから」
そう言ってみさきがトレーラーの中に入ってくる。
「本当はここ、関係者以外立ち入り禁止なのよ」
雪見が苦笑を浮かべつつそう言う。
みさきは笑みを浮かべてその言葉をかわし、雪見の隣の椅子に座った。
「一体何があったか、話してくれないかな?」
「・・・ゴメン・・・それは・・・」
「あ、そっか・・・一応企業秘密って奴だよね」
「そう言う訳じゃないんだけどね・・・」
困ったような笑みを浮かべる雪見。
すっと立ち上がると奧にあるコーヒーメーカーからコーヒーを紙コップに注ぎ込み、両手に持って戻ってくる。
「飲む?ブラックだけど?」
「うん、貰うね」
みさきが片方の紙コップに手を伸ばす。
盲目の彼女がそう言うことが出来るのも今彼女がかけている眼鏡のおかげだった。視覚障害者用に開発されたその眼鏡はかけている人間の視覚を補助する画期的なものであり、まだ商品化はされていなかったがその試作品を雪見は試験的に親友であるみさきに渡したのだ。以来、彼女はその眼鏡を愛用しており、その眼鏡は彼女にとって無くてはならないものへとなっていった。
「どう、その眼鏡。調子いい?」
雪見は椅子に腰掛けると紙コップに口を付けた。
「結構いいよ。流石はゆきちゃんだね」
同じように紙コップに口を付けながらみさきは言う。
「・・私は・・・何もしてないわ」
悲しげな笑みを浮かべて雪見は言う。
「私がしたのはその眼鏡をあんたに渡して実験データをとっていただけ」
そう言って雪見はみさきを見る。
「・・・悪く言えば・・・あんたの目が見えないことをいいことにあんたで実験していたのよ。その眼鏡のことを」
「ゆきちゃん・・・」
「あんたを私のいいように利用していたって言ってもいいわ。あんたでとれたデータは次に開発されるものに大いに役立つから・・・」
「ゆきちゃん、もういいよ」
みさきの口調は優しかった。
「それ以上自分を責めちゃダメだよ。ゆきちゃんはよく頑張ってる。私はそれを知ってる。それで充分だよ」
「みさき・・・」
雪見の目が潤んだ。
 
<N県某山中 23:21PM>
山間を流れる川・・・その中央辺りに黒い影があった。
黒い影は川の中央から川岸に向かって移動し、やがてその姿を現した。
ルシュト・ホバルである。
水を蹴立てながら岸に上がるとすっと目を細めた。
その視線の先には小さなキャンプ場がある。
「・・・ラモ・ロヲマモ・ミロリザ・ヌヅ」
そう呟いて胸の傷に手を這わせる。
昼間、舞によって付けられた傷はもう完全に回復していた。後にはうっすらと傷跡が残る程度である。
「ゴヲジョゴノ・ゴドヌ!」
そう言い、ルシュト・ホバルは歩き出した。
 
<都内某所 23:53PM>
折原浩平は黒いバイクを路肩に止めて地面に腰を下ろし、じっと空を見上げていた。
観鈴と真琴をさらっていったのは確実に教団の手による改造変異体の一体であろう。しかもそのレベルはかなり高い。
「これまでにないタイプ・・・だな。俺も知らない・・・かなりのレベルの相手・・・」
不安が彼の胸を押しつぶそうとする。
「だが・・・ここで死ぬわけにはいかないんだ・・・」
そう言って立ち上がった浩平はヘルメットを手にすると素早くかぶり、バイクに跨った。
エンジンをかけ、軽く二、三度空噴かししてからクラッチを離しバイクを発進させる。
目的地はお台場海浜公園。
罠であることは疑いようもなかったが、それでも行かなければならない。
人質にされてしまった観鈴と真琴を助けるために。
「たとえ、それが罠だとしても・・・」
バイクを走らせながら呟く浩平。
 
<??? ??:??AM>
闇の中、一人歩いている祐。
一体どれくらいの時間、どれくらいの距離を歩いたのか解らないが、かなり息も荒くなっている。
「・・・誰だ・・・俺を呼ぶのは?」
呟く祐。
彼の耳には声が聞こえていた。
『早く・・早く思い出して・・・』
何処かで聞いたことのある声。
だが、それが誰であるか思い出せない。
「誰なんだ・・・?」
そう言いながら闇に手を伸ばす祐。
伸ばした手の向こう側に一人の少女の姿。
心配そうな目で彼をじっと見ている。
『早く・・・早く思い出して・・・でないと・・お願い・・・』
少女がそう言う。
悲しげな表情。
祐は胸が締め付けられるような思いに捕らわれた。
思い出さなければならない。
この少女は自分にとって大事な人だ。
彼女のことを。
『思い出すな!』
不意に別の声が聞こえた。
振り返ると、そこには怖い顔をした自分が立っている。
『思い出すな!思い出すと・・・きっとつらいことになる!思い出すな!』
『思い出して!お願い!思い出して!』
後ろに立つ自分、前に立つ少女。
二人の声が頭に響く。
祐は頭を抱えた。
『思い出すな!』
『思い出して!』
「やめてくれっ!!」
祐が叫ぶ。
「俺は・・・俺は・・・!!」
『思い出して・・・祐一・・・』
『思い出すな・・・祐・・・』
「俺は・・・一体誰なんだ?」
彼の意識が再び闇に閉ざされる。
 
<N県某山中(ロッジの中) 06:20AM>
ピキーン、と何かが祐の頭を走り、彼は目を覚ました。
さっと掛けられていたシーツをのけてベッドから降りる。
「・・・は」
かなりのんびりとした声が聞こえた。
自分の服を着ながら祐が振り返るとベッドの側に置いてある椅子に美凪が腰掛けていた。
「・・・おはよう御座います」
「・・おはよう」
ややあっけにとられながら祐が答える。
美凪は少しぼうっとした目で祐を見ていたが、やがて時計へと目をやり、それから窓の外を見た。
「・・・朝、ですね?」
「・・・朝だけど・・・」
「・・・早起きさん?」
何処かずれたような美凪の発言に苦笑を浮かべる祐。
自分の服を着終えると祐は美凪の側に駆け寄り、こう言った。
「急いでみちるちゃんともう一人の人を起こすんだ。ここは危ない!」
「・・・え?」
美凪は驚いたような顔をしただけだ。
その時、ガシャーンというガラスの割れる音が聞こえてきた。
祐はその音を聞くと、素早く部屋のドアを開けて、隣の部屋に飛び込んでいった。
そこにはルシュト・ホバルが居て、入ってきた祐を睨み付けた。
「未確認!!」
言うが早いか祐は元居た部屋に戻り、ドアを閉めて鍵をかけてから窓を大きく開けて、呆然としている美凪を振り返った。
「逃げるんだ!早く!」
祐がそう言うとのと同時にルシュト・ホバルがドアをぶち割って中に入ってきた。
それを見ると、祐は美凪の手を取り、窓の外へと飛び出した。
「中に舞さんとみちるが!」
「あいつが俺たちを追ってくるなら二人は大丈夫だ!」
表に出た二人が走り出す。
それを追うように外に飛び出してくるルシュト・ホバル。
「でも、二人を放って置くことは出来ません!」
そう言って美凪が祐の手から自分の手を離した。
ルシュト・ホバルはそんな美凪のすぐ後ろまで迫ってきている。
祐は美凪をかばうように彼女を自分の方に引き寄せた。
それとほぼ同時にルシュト・ホバルの腕が先程まで美凪のいた場所に振り下ろされる。
「ひっ!!」
物凄い勢いで振り下ろされたルシュト・ホバルの腕を見て驚き、青ざめる美凪。
祐は彼女を自分の後ろへと回すとルシュト・ホバルを睨み付けた。
(何とかこの場を切り抜けないと・・・)
ルシュト・ホバルは大きく口を開き、牙を見せて二人に迫り寄ってきている。
その時。
「祐一!美凪!!」
女性の声が聞こえた。
ルシュト・ホバルの後ろの方に刀を構えた女性が居て、こちらに向かって走ってきている。
「舞さん!!」
美凪の声に頷く舞。
ルシュト・ホバルが振り返るのと同時に舞の刀が振り下ろされる。
素早くその場を飛び退き、刀をかわすルシュト・ホバル。
返す刀で切り上げる舞。
大きく後方へとジャンプして第二撃目をかわしたルシュト・ホバルは舞を見るとにやりと笑った。
「ギュルギャ・グジェシェギ・シャマ・ゴスヌセ!ゴヲジョ・バサレモ・ギョルミバ・リガヲ!」
舞はルシュト・ホバルがそう言うのを聞いても顔色一つ変えずに刀を構えている。
油断無く相手を見ながらも、祐と美凪の方をちらりと見て、逃げるように促す。
「しかし!」
祐がそう言うが美凪は彼の腕を取り、走り出そうとする。
「舞さんに任せていれば安心です」
「相手は未確認生命体だ!刀なんかで相手に出来るものじゃない!」
「大丈夫です!」
美凪は真剣な目をして言った。
舞を信頼しきっている、そう言う目であった。
「・・解った・・・とりあえず君とみちるちゃんだけでも・・・」
祐はそう言うと心配そうに舞を見、それから美凪を連れて走り出した。
二人が逃げていくのを見て、舞は刀を構え直した。
ルシュト・ホバルはニヤニヤと笑みを浮かべたまま舞を見つめている。それはこれから彼女をどう料理しようか考えているかのようだ。
「もう・・・祐一を戦わせるわけにはいかない・・・」
そう呟き、舞は刀の柄を握りしめた。
 
<警視庁未確認生命体対策本部 07:02AM>
人気の全くない対策本部の中、一人の女性がロッカーからライフルを取り出している。
ライフルをテーブルの上に置き、今度は厳重に施錠された箱の中から炸裂弾のケースを取り出す。
そこに住井護が眠そうな顔をして入ってきた。
「あれ・・・神尾さんじゃないですか。今日はまた随分と早い・・・」
そこまで言って彼はテーブルの上に出されたライフルと炸裂弾のケースを見つけ、言葉を無くす。
「神尾さん・・・一体どうしたんですか!?こんなもの、どうする気なんです!?」
「住井・・・悪いけど・・・」
晴子はそう言ってライフルと炸裂弾のケースを手にして、対策本部から出ていこうとする。
「ちょっと待ってくださいよ!勝手に持ち出したりしたらいけないことは・・・」
呼び止める住井だが、晴子は振り返ると彼を睨み付けた。
それから彼に詰め寄っていく。
「ええか、うちはな!警官である前に一人の親や!たとえ自分の娘やないにしても!娘がさらわれて、そのさらった相手が未確認やったら!」
言いながら晴子の目から涙がこぼれだしている。
「神尾さん・・・一体何が・・・」
困ったような顔をして住井が言うが晴子はもう何も言おうとはせず、涙を手の甲で拭うと彼から離れて歩き出した。
「神尾さん!俺に出来ることが・・」
「住井!このことは誰にも言うな!ゆうたら承知せぇへんで!」
振り返りもせずに晴子はそう言い、そのまま警視庁から出ていったのであった。
住井は何も言えずにただその後ろ姿を見送ることしか出来なかった。
 
<お台場海浜公園 08:12AM>
観鈴と真琴は両手を後ろで縛られたまま地面に転がされていた。
「あう〜〜〜・・・何でこんな事になっているのよ?」
真琴が言うが答えは返ってこない。
「観鈴〜、生きてる?」
「・・・すー・・・」
観鈴から寝息が帰ってきたので真琴はため息をついた。
「こんな時によく眠れるわね・・・まるで名雪みたい・・・」
そう呟いてから真琴は自分の姉とも言ってもいい存在の女性のことを思い出す。
長い髪が綺麗で、何処かおっとりとしていて、少々天然ボケで、でも優しい女性。
5年前の事件以来未だに彼女は目を覚ましていないのだろうか?
自分は親友と一緒に家を出て東京にでてきてしまっているからあれからどうなったのかは解らない。気にならないこともなかったが、自分が居ることで迷惑がかかる、そう言う気がしたからだ。
「名雪も・・・秋子さんも・・・元気かな・・・」
そう呟いて、真琴は二人の姿を思い起こす。
もし、無事にこの場を切り抜けることが出来たなら、二人に連絡を取ってみよう。真琴は元気だよって秋子さんに伝えてあげよう。きっと秋子さんは喜んでくれる。そう言う確信が真琴にはあった。
その為にも何とかこの場を切り抜けないといけない。
「遅いな・・折原浩平。昨日のうちに来ると思ったが・・・」
そう言いながら蝶怪人が二人の側に降り立った。
「まさか俺が怖くて逃げ出したか?」
蝶怪人が笑い声を上げる。
その時、一発の銃声が辺りに響き渡った。
一瞬の後、蝶怪人の胸で小さな爆発が起こる。
よろける蝶怪人の胸でまた小さな爆発が起き、蝶怪人は倒れてしまった。ぴくぴくと痙攣を起こしているのを見て、真琴は少しの間驚いたような顔をしていたがすぐに観鈴を起こしにかかった。
「観鈴!観鈴!起きて!!」
「う・・ん・・・何?」
肩で小突いて何とか観鈴を起こすと真琴は
「ほら、あの蝶の怪人がやられたから、今の間に逃げるわよ!」
そう言って、何とか立ち上がる。
観鈴も同じようにして立ち上がり、真琴と一緒に走り出した。
「観鈴!こっちや!!」
晴子の声がしたので二人がその方を見ると、ライフルを構えた晴子が物陰から顔を見せている。
どうやらそこから蝶怪人を狙撃したらしい。
「お母さん!!」
二人が自分の側に来ると、晴子はもう一度ライフルを構えて蝶怪人を狙った。
完全にとどめを刺そうと言うつもりらしい。
しかし、そこに蝶怪人の姿はなかった。
「お母さん・・・」
観鈴の怯えたような声が後ろから聞こえた。
晴子が振り返ると、そこに蝶怪人が立っている。しかも全くの無傷で!
「な・・・」
驚いたような顔をする晴子。
「よくもやってくれたな!今度こそ殺してやる!」
そう言って蝶怪人は晴子の手からライフルをはじき飛ばし、彼女の胸ぐらを掴み上げると、一気に投げ飛ばした。
地面に叩きつけられる晴子。
「くっ!!この!!」
何とか身を起こし、素早く拳銃を引き抜く晴子だが、その手を蝶怪人が蹴り飛ばす。
銃が晴子の手を離れ、地面を転がる。
「ああ!!」
そう言って拳銃に手を伸ばそうとする晴子だが、蝶怪人はその手を踏みつけた。
「くっ!!」
上を見上げて蝶怪人を睨む晴子。
蝶怪人は無表情に晴子を見下ろしている。
「殺す・・・そう言っただろう?」
そう言って蝶怪人が手を晴子に向けたその時、観鈴が後ろ手に縛られたまま蝶怪人の背に体当たりしてきた。
思わずよろける蝶怪人。
「お母さんは殺させない!」
観鈴はそう言って蝶怪人を睨み付けた。
一方真琴は必死に自分の手を縛っている縄をほどこうともがいている。
「・・・ならばお前も一緒に殺してやろう!」
蝶怪人はそう言うと観鈴に飛びかかろうとした。
その足にがしっとしがみつく晴子。
「観鈴!いいから逃げぇ!!」
必死に叫ぶ晴子。
「逃げない!逃げるならお母さんも一緒!」
観鈴も必死な顔をして言う。
「観鈴・・・」
「感動の場面と言うところか・・・くだらんな!」
蝶怪人はそう言うと自分の足にしがみついている晴子をもう片方の足で蹴り飛ばし、観鈴に手を伸ばす。
「先にお前からあの世に送ってやろう・・・」
観鈴は動けなかった。
恐怖のあまり、足が震え、硬直してしまっている。
「観鈴!!」
真琴と晴子が同時に叫び声を上げる。
 
<江東区有明ジャンクション付近 同刻>
折原浩平はかなり焦っていた。
本当なら夜中に奇襲をかけるつもりであったにも関わらず、ちょっと横になっている間に朝を迎えてしまっていたからだ。
慌ててバイクに乗り、猛スピードでお台場海浜公園へと向かう。
湾岸道路を飛ばしに飛ばし、もう少しで目的地に着くであろう、そんな時、彼の前にすっと飛び出してきた影があった。
慌ててブレーキをかけ、その影を回避する浩平。
何とか転倒することなく、影を回避してから浩平はバイクを止め、その影を見た。
「あぶねぇだろ!この・・・」
影は顔にペイントをした男だった。
その男は浩平を見るとにやりと笑って飛びかかってくる。
浩平はバイクを発進させて男をかわすと、素早く振り返った。
顔にペイントをした男は着地すると同時にその姿をリシャシィ・ボバルへと変えていく。
「・・こいつは・・・噂の未確認生命体か!?」
そう呟いて浩平はバイクのスタンドを建て、バイクから降りた。
「レソモジャ・・・」
リシャシィ・ボバルが嬉しそうに浩平を見やって言う。
浩平はすっと両手を腰に構えた。そして手を開き、右手を上に、左手を下に向けてゆっくりと気合いを込めながら前へと突き出す。
「変身ッ!!」
その声と共に浩平の目が紫色に変化し、その身体にも変化が訪れる。
腰にベルトが浮かび上がり、その中央が光を放つ。
その光の中、ベルトから全身に向けて濃い紫色の第二の皮膚が覆っていき、更にその上に深緑の厚めの生体装甲が形成される。手には肘まで生体装甲が多い、その外側に一列に棘が並ぶ。手首の少し上に二本の鉤爪が現れ、一度しゃきんと伸び、再び手首に収まった。肘の先にも爪のようなとげが生えている。足も膝から下が厚い目の生体装甲に覆われ、膝には棘が、踵には天に向かって伸びている鉤爪が生えている。
頭部を覆う仮面には荒々しく左右に広がる角、鋭角的な赤い目、マウスガードには大きめの牙が備わっている。
浩平の姿が完全に戦士・アインへと変わり、リシャシィ・ボバルと向き合う。
「!!・・・ギナサバ・アイン!!」
驚きの声を上げるリシャシィ・ボバル。
それに構わずアインは猛然と飛びかかっていった。
 
<倉田重工第7研究所 08:31AM>
研究所内の所長室、今そこは佐祐理のオフィスとなっていた。
そのドアの前に雪見が立っている。
ノックしようかどうか迷っている、そう言う感じであった。
その時、研究所内のアナウンスがサイレンを鳴らした。
『未確認生命体が出現したという情報が入りました!PSKチームは直ちに出動してください!』
放送を聞いてはっとなる雪見。
思わず駆け出そうとして、足を止めてしまう。
そこに所長室のドアが開き、佐祐理が姿を見せた。
「深山さん・・・どうしました?」
佐祐理は所長室の前にいた雪見に驚いたようだが、すぐにいつもの笑顔を見せて尋ねた。
「・・・倉田さん・・・あの・・・」
雪見は俯いて、彼女を見ようとはしない。
そこへ二度目のアナウンス。
「聞いたでしょう?すぐに出動ですよ、深山さん?」
そう言う佐祐理。
だが、雪見は首を横に振った。
「ダメです。行けません。私はPSKチームに参加する資格なんか無いんです!」
そう言って雪見は上着の内ポケットから封筒を取り出し、佐祐理に突き出した。
「お願いです!これを受理してください!」
佐祐理は封筒をのぞき込み、言葉を失った。
封筒には「辞表」と書かれていたからだ。
「一晩考えて・・・どうしても、これしか責任をとる方法が思いつかなくて・・・それで・・・」
俯いたまま雪見が言う。
佐祐理は黙って彼女を見ているだけであった。
同じ頃、Kトレーラーの格納庫では斉藤が潤や他のメンバーが来るのを待っていた。
そこにまずやってきたのは潤や佐祐理、雪見ではなく、みさきだった。
「川名さん!ここ、関係者以外立ち入り禁止ですよ!」
斉藤がそう言うが、みさきは笑顔のままで彼を見た。
「手伝わせて欲しいんだよ。ゆきちゃんが、ゆきちゃんのしたことが間違ってないことを証明するために」
そう言った彼女はいきなり真剣な表情を見せた。
「でも・・・」
斉藤が困ったような表情を浮かべる。
「いいじゃないか。俺も深山さんに責任がないことを証明したい」
そう言って潤が姿を見せた。
「北川さん!」
「川名さん、深山さんが開発した新兵器、あれは俺が使いこなせなかっただけだ。深山さんが責任を感じる必要なんか無い。それを証明するのを手伝って欲しいんですが?」
潤がそう言ってみさきを見ると、彼女は嬉しそうに頷いた。
「私で手伝えることなら何でも!」
「よし、倉田さんや深山さんが来る前に出動するぞ!」
みさきの手を取り、潤がKトレーラーに乗り込んでいく。
「ちょっと!いいんですか・・・もう、知りませんよ、俺は!」
ぶつぶつ言いながら斉藤もKトレーラーに乗り込む。
3人を乗せたKトレーラーが第7研究所から発進していったのはそれからすぐのことであった。
 
<N県某山中 08:41AM>
祐は美凪と途中で合流したみちるを連れて必死に走っていた。
あのキャンプ場から少し上流にのぼったところにある小さな滝の近くまで来て、3人はようやく足を止める。
「ハァハァハァ・・大丈夫?」
自分も荒い息をしながら二人を振り返る祐。
「・・・へっちゃらへーです・・・と言いたいですが・・・ハァハァ・・」
「みちる、もう限界〜」
流石に2時間以上走り続けてきたのだ。
美凪もみちるももう限界なのだろう。
この調子だと自分達を逃がすためにあの場に残った舞の体力も限界に近いはずだ。
「何とか・・身を隠せるような場所は?」
祐が美凪を見るが彼女はふるふると首を左右に振った。
この二人を安全な場所に隠して自分は戻り、舞を助ける・・・そう言う祐の計画は早くも崩れ去ったようだ。
「あ、そうだ!みちる、いいところ知ってるよ」
不意にみちるがそう言って手を挙げた。
「あの滝の裏に小さな洞窟みたいな所があるんだ。舞がこの辺で修行している時に見つけたって言ってた」
滝を指さすみちる。
「そこだ!早く・・・」
そう言って祐は二人を連れて滝の側まで行った。
滝は切り立った崖から落ちてきており、裏側に行こうと思ったら滝をくぐらなければならなかった。
「・・・仕方ないな・・・みちるちゃんは俺にしっかり捕まって・・」
そう言ってみちるを抱き上げる祐。
みちるの身長では滝壺に足が届かないと思ったからだ。
ちょっと美凪が残念そうな顔をしていたがあえて無視して祐は先に滝をくぐる。後から来る美凪に手を貸しながら、祐は切り立った崖に小さな洞窟があるのを見て取っていた。
「ここか・・・」
「ここならきっと安全だよ」
みちるがそう言って洞窟に足を踏み入れる。
続いて祐が入り、最後に美凪が洞窟の中へ入り、その場に座り込んだ。
「とりあえず俺はあの人・・舞さんって言ったかな?様子を見てくる。帰ってくるまでじっとしていてくれ」
そう言って祐が立ち上がった時、滝の向こう側で銃声が聞こえた。
思わずびくっと体を震わせたのは美凪。
「・・・国崎さんかな・・・?」
祐はそう呟いて滝をくぐって、外へとでていく。
滝の向こう側では舞が左肩から血を流し、川の浅瀬で片膝をついている。
少し離れたところにルシュト・ホバル。
丁度舞とルシュト・ホバルとで三角形を描くポイントに国崎の姿があった。手にはライフルが構えられている。対未確認用に使用されているものではなく、警察が使うタイプのものだった。
「くそ!やっぱりこいつじゃ効きもしないか!!」
国崎がそう言うのが聞こえてくる。
祐は両手を交差させて前へと突き出した。
そこから左手を引き、腰に構え、残した右手で十字を描く。
「変身ッ!!」
そう言って右手と左手を入れ替えると祐の腰にベルトが現れ、その中央が光を放った。その光の中、祐の姿が白い戦士・カノンへと変化していく。
「祐の字っ!!」
その姿を見つけた国崎がそう叫んだ。
その声に振り返る舞。
そこには・・・5年前に彼女が見たものと同じ姿の戦士・カノンが立っていた。
 
Episode.20「決死」Closed.
To be continued next Episode. by MaskedRiderKanon
 
次回予告
それぞれ強敵に挑むカノンとアイン。
一方PSK−01はギリギリの戦いを強いられていく。
潤「この程度で・・・!!」
舞「・・あれは・・・祐一じゃない!」
そんな中遺跡から発掘される謎の物体・・・。
果たしてそれが持つ謎とは!?
茜「これは・・・一体・・・?」
留美「一体なんだって言うのよ!」
蠢く陰謀の中、PSK−02に危機が迫る!
そして祐に異変が!!
祐「俺は・・・俺は・・・!!」
次回、仮面ライダーカノン「予兆」
目覚めの時は近い・・・!!

BACK
NEXT
本・漫画・DVD・アニメ・家電・ゲーム | さまざまな報酬パターン | 共有エディタOverleaf
業界NO1のライブチャット | ライブチャット「BBchatTV」  無料お試し期間中で今だけお得に!
35000人以上の女性とライブチャット[BBchatTV] | 最新ニュース | Web検索 | ドメイン | 無料HPスペース