<N県某山中 16:47PM>
「ウオオリャアァァァッ!!」
雄叫びを上げながらカノンが宙を舞う。
空中で身体をひねり、右足を突き出す。
そのキックはカガヅ・ボバルの胸に直撃、大きく吹っ飛ばした。キックの命中した場所には古代文字が浮かび上がり、そこから光のひびが全身に走っていく。そして爆発。
その爆煙を見ながらカノンが立ちつくしていると、突如何かが後方からカノンに向かって飛びかかってきた。
「何!?まだいたのか!?」
「カノン、死んで貰う!!」
カノンの背に飛びかかってきたのはトンボのような怪人だった。その怪人はカノンを抱えるとジャンプし、空中を滑空する。
「くそ!離せッ!!」
もがくカノンだがトンボのような怪人の手はゆるむことはない。
「お前がいると我々の聖戦が邪魔される。だから・・・死んで貰う!!」
トンボのような怪人はそう言うと更に滑空するスピードを上げた。この先には大きく切り立った崖がある。
「この!!」
何とかしようともがくが空中では足場もなく力が入りきらない。そのうちにトンボのような怪人が崖の真上へと飛び出した。
「さらばだ!カノン!!」
そう言ってトンボのような怪人がカノンを捕らえていた手を離す。
「うわああぁぁぁっ!!」
流石のカノンも空を飛ぶことは出来ない。
為す術もなく、カノンは真っ逆様に落下していく。
「くっ・・・このままじゃ・・・」
落下しながら、それでも必死に何とかしようとするカノン。その身体が青く変化した!そしてそのまま、崖の一番下、急流へと突っ込んでいく。
大きな水しぶきが上がった。
トンボのような怪人はカノンが浮かび上がってこないのを確認してからようやくその場から飛び去っていった。
その下流・・・流れのやや弱い辺りで祐が水面に浮かび上がっていた。気を失っているようで彼はそのまま流れに乗ってどんどん下流へと流されていく・・・。
 
仮面ライダーカノン
Episode.19「危急」
 
<倉田重工第7研究所 17:04PM>
モニターに映っているのはトンボ怪人だった。そしてその怪人と戦うもう一人の怪人。紫と深緑の戦士。その姿はどことなくカノンに似ているが受ける印象は違う。カノンがスマートさを感じさせればこの深緑の戦士は荒々しさを、猛々しいものを感じさせる。
「で、この緑色の怪人がトンボみたいな怪人を倒した・・・」
そう言ったのは深山雪見である。
この第7研究所所属の研究員でPSK−01の強化や装備開発を担当しており、今は臨時のチームメンバーとなっていた。
「はい・・・」
少し自信なさげに言ったのは北川潤。
PSK−01装着員。恐るべき敵、未確認生命体に完全と戦いを挑む勇気ある男。
「警察からの正式発表がなかった・・・と言うことは誰も通報してないって事ですかね?」
北川の隣に座っている斉藤がそう言って北川を見る。
斉藤もPSKチームの一員。バックアップを主に担当している。
「多分そう言う事ね。今回は私達の出動も早かったし、それほど被害がでた訳じゃないわ。通報があったとしてもその頃にはあの怪人はもうやられていたでしょうし」
「証拠がないって事ですね・・・あの怪人が存在していた、と言う」
雪見に続いて潤が言う。
「このテープ以外にはね。それより残念だったわ。折角ブレイバーバルカンのテストが出来ると思ったのに」
そう言った雪見は心底残念そうな顔をしていた。イヤ、おそらく本当にそう思っているに違いない。潤と斉藤は半ば確信していた。
「警察の公式発表では第17号が多摩川で確認されて何とか撃破した・・・それだけですよね、まだ?」
「北川君の退院がもう一日早かったら第17号とも戦えたのに・・・」
まだ雪見は悔しそうである。
「じゃあのトンボみたいなのが18号で緑色のが19号?」
「イヤ・・・緑色のはともかくあのトンボみたいな奴は何か違う・・・今までの未確認とは全く別・・・いやある程度は同じだが、何か違うような・・・」
腕を組んで潤がそう言った。
そう、何か解らないが違和感がある。あのトンボ怪人には、何かが違うと思わせるものがあった。
斉藤と雪見が不思議そうな顔をして潤を見る。
二人の視線に気付かないまま、潤はひたすら考え込んでいた。
 
<都内某所(観鈴の家) 17:39PM>
折原浩平はまだ眠っていた。
だが、初めの頃のような苦しげな息はもうしていない。
ふすま一枚隔てた隣では二人の少女がにぎやかに喋っていたが、彼にはまるで聞こえていなかった。
深い、深い眠りに落ちていく浩平。
その側にすっと人影が現れる。
赤いカチューシャを付け、黒いタートルネックのセーターを着た少女。
一体どうやって入ってきたのか、その少女はすっと浩平の額に右手をかざした。
「君にはまだ強くなってもらわないと困るんだよ・・・」
そう呟くと、少女の右手に何かの紋章のようなものが浮かび上がる。
「君がもっと強くなるには・・・」
紋章が光を放つ。
そしてその光はまるで吸い込まれるかのように浩平の額へと消えていく。
「・・ふふ・・・じゃ、頑張ってね、アイン・・・」
少女の姿が現れた時と同じようにすっと消える。
それからしばらくして・・・浩平が目を開いた。
「・・・N県か・・・」
天井を見上げたままそう呟く浩平。
だが、すぐ彼の意識は再び深い眠りへと誘われていく。
隣の部屋から聞こえてくる話し声はやむことはない。
 
<N県警本部 18:54PM>
食堂で国崎往人はラーメンをすすっていた。
昼間、山の中で見つけた未確認生命体第2号の羽根を鑑識に渡し、調査をして貰っているのだが、結果がでるのにまだ時間があったので先に晩飯と決めたのであった。
メニューは彼の好物であるラーメンセット。お手軽でしかも安い。その上ボリュームもある。
「久々にきたと思えばまたそれか。君に進歩という言葉はないようだね・・・」
そう言って一人の男が彼の前に座った。
「・・そっちこそ久しぶりに会ったって言うのに嫌みか、いきなり?」
スープをすすりながら答える国崎。
「まぁ、君と私は犬猿の仲、でよく知られていたからねぇ」
「確かにな。もっとも俺はどうでもいいことなんだが」
国崎はとにかく食べることをやめようとしない。
それがどうやら相手の気に障ったようだ。
「君は!前から思っていたが、人と話をする時くらい食べるのをやめたらどうなんだ?」
怒りを隠さずに相手の男が言う。
「俺はあんたと話すことなんか無いからな。ここにいるのは鑑識の結果待ちだからだ」
相手の怒りなど何処吹く風、と言った感じで国崎が言い返す。
「ふん、警視庁に戻ったからと言って君が再びエリートコースに乗ったというわけでもないだろう・・・」
悔し紛れかそう言うことを言って男は立ち上がる。
国崎は相手が立ち上がったのを見て、またラーメンに箸を突っ込んだ。
「覚えておくんだな、国崎君!エリートとはこの私のようなもののことを言うんだ!何時か必ず違いを解らせてやる!!」
それだけ言うと男は食堂から去っていった。
「・・・一体何だったんだ、あいつは・・・全く橘さんも成長しないねぇ・・・」
ラーメンをすすりながら呟く国崎。
「それにしても・・・祐の奴、大丈夫なんだろうか?」
時計を見て国崎は一人山中に残った祐のことを思った。
「・・・まぁ、あいつなら大丈夫か」
意外と楽天的である。
 
<N県某山中 19:04PM>
辺りはすっかり暗くなっていた。
流れる川の畔には誰の姿もなく、静かに波が打ち寄せているだけだった。イヤ、よく見るとその波打ち際に一人の男性が倒れている。
祐であった。
かなり流されていたらしく全身びしょびしょで更にぼろぼろである。
彼は気を完全に失っているようでぐったりとして動かなかった。
 
<都内某所 21:32PM>
薄暗い中に数人の男女の姿が見える。
「カガヅザ・ギャダデシャ・ダニリ」
目つきの鋭い女が一歩前に出てそう言った。
「ジェバ・・・ガダヌバ・サジャ?」
別の女がそう言って目つきの鋭い女を見た。
その女の前に腕を組み、爪を噛んでいる男が出る。
「カガヅはバルの中でも思慮の足りない奴だ。しくじっても不思議じゃない」
「だが・・・ガダヌをこのまま放っておく訳にもいかないな」
顔に何やらペイントしている男が言う。
そこにすっと美しいドレス姿の女性が姿を現した。
「ガダヌの始末にはルシュトが行った。お前達はゼースを再開すればいい」
そう言って冷ややかな視線でそこにいる男女を見渡す。
その視線がある男の前で止まった。
「ロサレン・タヲジャ」
美しいドレス姿の女性がそう言ってリング状のものを男に向かって投げる。
それを受け取ったのは顔に何やらペイントしている男。
「ロデン・タヲガ・・・」
にやりと笑う男。
他の男女がその様子を冷ややかに見ている。
「リシャシィ・ボバルン・タヲガ!」
そう言って笑い出す男。
その姿がイタチのような怪人のものへと変わっていく。
「ターダ!マリヲガレリショ・シャショルーイガヲジェ・マリヲガマリヲ・シャマリヲガショルーミヲ!」
「リリジャドル・・・」
美しいドレス姿の女性が頷くのを見て、リシャシィ・ボバルはまた笑い声を上げた。その様子を他の男女は苦々しげに見ているだけであった。
 
<N県某山中 06:32AM>
朝霧が漂う川の畔。
そこを一人の少女が歩いていた。髪の毛を頭の脇で縛り、左右に垂らしたまだ小学生くらいの少女。
川の波打ち際をとことことこと歩いているとそこに気を失って倒れている男を見つける。
「にょわっ!」
驚きの声を上げる少女。
「わ、わ、わ、・・・土左衛門なんか初めて見たッ!!」
何故か嬉しそうな声を上げてその少女が走っていく。
少ししてから少女が別の少女を連れて戻ってきた。
「ほらほら美凪、土左衛門」
少女がそう言って倒れている男を指さした。美凪と呼ばれた少女は少しだけ驚いた表情を浮かべて倒れている男の側にしゃがみ込んだ。そして男が息をしていることを確認するともう一人の少女の方を振り返った。
「みちる・・・舞さんを呼んできて」
「んに?舞?」
聞き返すみちるという少女に頷く美凪。
「私一人じゃ運べませんから・・・」
「おう、りょ〜かいっ!」
わざわざみちるは美凪に敬礼して見せてから駆け出した。
「うう・・・」
男がうめき声を上げる。
美凪はそんな男の額に手をやって小さい声で呟いた。
「・・・大丈夫?」
もちろん男は答えない。
少ししてみちるがもう一人の女性を連れて戻ってきた。
動きやすい服装、長い髪の首の後ろ辺りで無造作に止めてあるその女性は倒れている男の顔を見て他の二人よりも驚いた表情を浮かべた。
「・・・まさか!!」
そんな表情を美凪達は見たことがない。
女性が男の側にしゃがみ込み、抱き起こした。
「・・・祐一?」
その女性・・・川澄舞は気を失っている男を見て、涙をこぼしていた。
 
<N県警本部鑑識課 10:41AM>
「いかんいかん、すっかり寝過ごしてしまった・・・」
そう言いながら国崎が廊下を歩いている。
昨夜はここの仮眠室を借りて寝ていたらしいのだがここしばらくの疲れなども手伝ってすっかり寝入ってしまったようだ。本当なら起きていなければならない時間をすっかり寝過ごしてしまったのだった。
首を左右に振り、肩を大きく回しながら歩いていると向こうから顔見知りの鑑識課の人間が歩いてくるのが見えた。
「おっす」
国崎が片手を上げてそう言うと鑑識課の男は国崎に気付いたようで、彼の側に駆け寄ってきた。
「おっすじゃないですよ、国崎さん!昨日の奴の調査結果が出たから探していたんですよ!」
その男はそう言うと、国崎の手を取って鑑識課の部屋に連れて行く。
デスクの上に置いてあるパソコンをつけ、モニターにあるデータを表示させる。
「これは?」
「あの羽根についていた血液の成分を分析したものです。上がそれ、下のはなんだと思いますか?」
「何だって言われてもな・・・第2号はカラスに似ているからカラスじゃないのか?」
国崎は頭をかきながら言った。
あまりそう言うことに彼は詳しくないのだ。
「これは・・・人間の血液成分なんですよ」
鑑識課の男がそう言って国崎を見た。
「何!?」
驚きの声を上げる国崎。
「人間の血液を構成する成分の約98,7%と一致しています。つまり・・・」
「あいつらも人間だって事か・・・?」
更に驚きの声を上げる国崎。
「詳しいことはもっと調査をしてみないと解りませんが・・・国崎さんの言う通りだと思います。それとこの羽根、貸して貰っていいですか?」
「それは構わないが・・どうするんだ?」
「DNA鑑定をしてみます。どれほど人間に近い遺伝子を持っているか調べてみたいんですよ」
鑑識課の男の目は興味津々と言った感じで輝いている。
「・・・解ったよ。こいつは任せる。その代わり調査結果は警視庁未確認対策班の俺に回してくれ」
国崎はそう言うと鑑識課から出ていった。
廊下を歩きながら彼はようやく別れた祐のことを思いだした。
「・・・そろそろ迎えに行った方がいいかな・・・」
そう呟く国崎だがとりあえず先に朝飯にしようと思い、食堂へと足は向いていた。
 
<N県某山中 11:25AM>
渓流に向かって釣り糸を垂らしている姿がある。
「あーあ、釣れないなぁ・・・」
ため息をつく男。
朝早くからこの場所でつりをしているのだが未だ一匹も釣れていない。
「やっぱり場所を替えるかな・・・」
そう言って釣り糸を引っ張る。
その様子を水中から見ている者がいた。
じっと釣り人を見つめている。
「場所替えよ・・」
釣り人が立ち上がった。
それを見た水中の影が動く。
バシャアッ!!と言う音と共に水中からジャンプして釣り人に襲いかかる。
鋭い牙が並ぶ口を大きく開けて釣り人の首に食いつくと水中へと引きずり込んでいく。
川の水面に血が広がっていく。
その中から顔を出した者がいた。
それは・・・新たなる未確認生命体。
ウツボのような姿を持つルシュト・ホバルであった。
その口は先程の釣り人の血で真っ赤に染まっている。それを手で拭いながらルシュト・ホバルは水を蹴立てて波打ち際まで歩き出した。
 
<都内某所(観鈴の家) 11:43AM>
隣の部屋へと続くふすまを開けると机に突っ伏したような形で二人の少女が眠っていた。
「まさか一晩中起きていたんじゃないだろうな・・・?」
そう言って浩平は二人を起こさないように歩き出す。
ドアの所まできて、彼は一度部屋の方を振り返った。
「世話になったな・・・俺に関わるととんでもない目に遭うと思うからこのまま失礼させて貰う。助けてくれたことは感謝するよ、お二人さん」
そう言ってドアを開ける。
外に出るととりあえず歩き出す。
「さて・・・バイクを探さないとな・・・」
何処へ行くにしてもバイクがないと動けない。おそらく昨日戦ったあの公園の近くにあるのだろうが、その公園が一体何処にあるのかさえ、今の彼には見当もつかない。
「ちょっと、待ちなさいよ!そこのあんた!!」
いきなり大声が後ろから聞こえてきた。
ぎょっとして振り返ると、寝ているものだとばかり思っていた二人の少女が道の真ん中に立ってこっちを見ているではないか。
「やれやれ・・・何か用か、俺に?」
肩をすくめて浩平が言う。
「助けてあげた真琴達に何も言わずにでていくなんて卑怯じゃない!!」
「真琴さん、卑怯ってそれちょっと違うと思う・・・」
大きい声を出しているのは栗色の髪の少女。
もう一人、ポニーテールの少女は困ったような顔をしている。
「それは確かにそうだったな。助けてくれたことは感謝しているよ。これでいいか?」
そう言ってにやりと笑う浩平。
「こっちがどれだけ苦労してあんたを運んだと・・・」
「も、もう身体は大丈夫なんですか?」
栗色の髪の少女の声に重なるもう一人の少女の声。
浩平は黙って頷いた。
「私、神尾観鈴って言います!あの・・・よかったら名前・・・」
だんだん声が小さくなっていく。
そして俯いてしまう観鈴。
「・・・神尾観鈴ね・・・で、そっちは?」
浩平がもう一人、栗色の髪の少女を指さした。
「人を指ささないでよ!あたしは真琴!沢渡真琴よ!!」
不機嫌そうに言う少女。
苦笑を浮かべ、浩平は口を開いた。
「俺に関わるとろくな目に遭わないぞ、お二人さん。俺のことは忘れて、元の生活に戻るんだな!」
そう言うと、素早く二人に背を向けて走り出した。
あっけにとられて見ていることしか出来ない二人。
二人の視線を背に受けながら浩平は、我ながらなかなかナイスな感じだったな・・・と自己陶酔していた。
そんな彼とすれ違う一人の女性。
明らかに寝不足の顔、それに何処かくたびれたスーツ。
神尾晴子であった。
昨夜から未確認生命体第2号の情報を追い続けていたが朝になってN県警から第2号が現れたという報告があり、ようやく帰ることが出来たのである。
「全く・・・居候が昨日のうちに連絡しとったら帰れとったんに・・・」
ぶつぶつ言いながら晴子が歩いていると、自分の家の前で娘の観鈴ともう一人、見知らぬ少女が立っているのに気がついた。
「ん?どないしたんや?」
観鈴に声をかけると彼女ははっとした風に晴子を見た。
「お母さん、今すれ違わなかった?」
「は?誰と?」
「男の人」
「ん〜・・・すれちごたような・・・すれちがわんかったような・・・」
晴子は額に指を当てて考え込んだ。
寝不足のためかなりぼうっと歩いていたのであまりきちんと記憶してないようだ。
「とにかく追っかける!!」
そう言って走り出したのは真琴だった。
「あ、私も行く!」
観鈴も真琴を追って走り出す。
後に残ったのは晴子だけ。
「・・・うちはどうすればいいんや?」
ただただ呆然と走り去っていく娘の後ろ姿を見ているだけであった。
 
<倉田重工第7研究所 12:09PM>
倉田重工第7研究所内にある食堂、その一角に人だかりが出来ている。
そんなところにPSK−01の整備とその新装備ブレイバーバルカンの調整を終えたばかりの雪見が入ってきた。
入り口で食券を買い、それを受け取り口で渡す。それから彼女はようやく食堂の一角に出来ている人だかりに気がついた。
「・・・何あれ?」
側を通りかかった研究員を捕まえて聞く。
「さぁ・・よくは解りませんが何でも凄い美人がいるとか・・・」
ちょっと困ったような顔をして言う研究員。
あまり詳しいことは知らないようだ。
「そう、ありがと」
そう言って雪見はその研究員を解放してやる。
研究員と入れ替わりに潤と斉藤が連れ立って入ってきた。
「あれ?何の騒ぎでしょう?」
斉藤が早速人だかりに気付き、近寄っていく。潤はそれに構わず食券を買って雪見の方へとやって来た。
「深山さんも食事ですか?」
「ようやくね。ブレイバーバルカンの調整に予想以上に手間がかかっていてね・・・」
「ブレイバーバルカンですか。あれさえあれば未確認にも勝てますよね?」
潤がそう言って雪見を見たので雪見はえっと言う感じで彼を見た。
潤は今までになく思い詰めた表情をしている。
「今までPSK−01は一度も未確認に勝てていません。第3号やあの緑色の奴が本当は未確認を倒している。俺は・・・何も出来てないんです」
「そんなこと無いわよ。北川君はよくやっているわ。相手が強いだけで・・・こっちの予想を超えてね」
雪見は内心困惑したままそう言う。
北川潤がここまで思い詰めているとは思わなかった。彼は目の前のことに必死になっていて悩んでいる暇すらないと思っていた。しかし、実際はどうだ。鳴り物入りで誕生したPSK−01だが未だ戦果らしい戦果を上げていない。そのことが彼を追いつめている。
「大丈夫。ブレイバーバルカンだけじゃないわ。PSK−01をもっと強くするためにみんな研究を続けているもの。北川君は北川君の出来ることをしてくれたらいいのよ」
そう言って笑みを浮かべる雪見。
「そう・・でしょうか?」
まだ不安げな、思い詰めたような顔をする潤。
「そうよ」
今度は断言する雪見。
そこに斉藤が戻ってきた。
「凄いですよ、北川さん!物凄い美人が、物凄い勢いで何杯ものカレーを・・・」
興奮した様子で斉藤が言う。
それを聞いた雪見の顔色が変わった。
「まさか・・!!」
慌てたように彼女は人だかりの中へと飛び込んでいく。
人を押しのけ、テーブルの側に立つと、彼女は一心不乱にカレーを食べている女性を睨み付けた。
「やっぱり!!」
雪見がやや呆れたような声を上げると、その女性が食べる手を止めた。
「あ・・・その声・・・ゆきちゃんだね?」
「そうよ・・・全く・・・来るなら来るって連絡ぐらいしてくれても良いでしょ?」
今度こそ呆れた声を出す雪見。
「えへへ・・驚かそうと思って」
「充分驚いたわよ・・・」
そう言って雪見はその女性の正面に座った。
そして周りにいる人々を睨み付ける。
「見せ物じゃないんだから!短い休憩時間をこんなところでつぶしていてもいいの!?」
彼女がそう言うと周りにいた人々が散っていく。
そこに潤と斉藤がやってくる。
「深山さん、ご一緒させて貰っていいですか?」
そう言ったのは斉藤である。
その後ろに二人分のトレイを持った潤がいる。
「・・・みさきは構わないわね?」
「うん、いいよ。沢山で食べた方がおいしいし」
雪見の正面にいる女性がそう言って笑顔で頷いた。
嬉々としてその女性の隣に座る斉藤。それを見て潤は雪見の隣に腰を下ろした。
「始めまして、深山さんの知り合いの方ですよね、僕、斉藤って言います」
そう言って斉藤が笑みを見せるが隣の女性はにこにこしているが前を向いたままである。
「始めまして。ゆきちゃんの同僚でいいのかな?私、川名みさき、よろしくね」
斉藤の方を向かず、その女性、川名みさきが言う。
特に潤の方を向いているというわけでもない。
「同僚って言うわけではないんですけどね。俺、北川潤です。よろしく、川名さん」
とりあえず潤も自己紹介する。
頷くみさきだが、やはり何処を見ているか今ひとつ彼には解らなかった。
その瞳には光がないのである。
「深山さん、もしかして・・・?」
潤が隣にいる雪見を見る。
「そう・・・この子、目が見えないのよ」
それを聞いて驚いたのは斉藤だった。潤も驚いたのだが、ある程度予想出来ていたようで斉藤程でもない。
「ほ、本当ですか、川名さん!?」
「うん、本当だよ。でも大丈夫だから」
そう言ってみさきがまたスプーンをカレーに突っ込んだ。
「大丈夫って・・・」
「私は元々そっちの研究をするために入ったのよ」
雪見が口を挟む。
「みさきと私は元々幼なじみでね、この子の目が見えていた頃も知っているし、目が見えなくなってからどれだけ苦労したかも知っているわ。だから少しでもこの子の役に立てるものを研究しようと思ったの」
「そうだったんですか・・・」
「まぁ、その研究もPSKチームに引き抜かれてからは進んでないけどね」
神妙な顔になる潤に笑みを見せる雪見。
「今までのでも充分役に立ってるよ。今日だってこうしてここまで来ることが出来たし」
そう言ったのはカレーを食べているみさきだ。彼女の前には眼鏡が置かれてあり、それが彼女の失われた視力に代わりを為しているらしい。
「それに未確認とかが出てきているんじゃ仕方ないよ。ゆきちゃんで役に立つならいくらでも使ってやってくれていいよ」
「あんたに言われる筋合いはないわよ」
苦笑しつつ雪見はみさきに言う。
そのやりとりを見て、潤はこの二人が本当に仲がいい親友同士だと解る。
彼にも昔こういうやりとりの出来る相手がいた。たった1ヶ月程だったがそれでも親友だと呼べる程気のあった奴。しかしあいつは・・・。
「北川さん、どうかしました?」
声をかけてきたのは斉藤だった。
その声にはっとなった順は慌てて苦笑を浮かべた。
「ああ、済まない。ちょっと昔のことを思い出していたんだ」
「昔のこと?」
そう言ったのは雪見である。
興味をそそられたのだろう。日頃、潤は雪見にあまり自分のことを話そうとしないからだろう。
「深山さんと川名さんのように気軽に軽口とかたたき合えるような奴が俺にも居たなってことですよ」
潤はそう言って寂しげな笑みを浮かべた。
「ああ、例の彼のことですか」
斉藤は前に聞いたことがある話のようだ。
「例の彼って?」
雪見がそう言って斉藤を見る。
潤に聞いても話しそうにないと判断したのだろう。
「俺の親友だった奴ですよ。そいつが居たから俺はPSK−01の装着員になった・・・それだけのことです」
潤が口を挟んでから立ち上がった。
「あれ?何処行くんですか?」
斉藤が立ち上がった潤を見て言う。
「何か食欲無くなったんだ。よかったらそれ、食べてもいいぞ」
潤はそう言い残し、食堂からでていった。
「いいの?じゃ、私が貰うね」
みさきが嬉しそうにトレイに手を伸ばすのを雪見が手ではたいた。
「あんたねぇ・・・どれだけ食べるつもり?だいたいそれで何杯目よ?」
「大丈夫、今日はいつもより少ない目だから」
「それで少ない目なんですか!?」
驚いたような声を上げる斉藤。
食堂はまだ賑わっている。
 
<品川区鈴ヶ森付近 13:32PM>
近くにある大井競馬場から数人の中年男が不機嫌そうに出てきていた。
手にはいずれも外れの馬券を持っている。
「やれやれ、今日はついてないぜ」
「こんな時間に負け確定だからな」
口々に言いながら男達は歩いていく。
彼らはこの後どうするかなど特に決めていない。稼いだ金の大半を競馬につぎ込み、そしてそのほぼ全てを失ってしまったのだから。
そんな彼らをじっと見つめる影がある。
顔にペイントを施した男。その目は何か狡猾なものを感じさせる。唇を舌でなめ、獲物を選ぶかのように中年男達を指で数え始める。
「シェバイセミ・ラリシュダジャ」
そう言ってダッと物陰から飛び出し、一番近くにいた中年男を物陰へと連れ込む。
他の男達は気がつかない。
しばらく進んでから、後ろでどさっと言う物音がした。
全員が足を止め、振り返る。
物陰から何かが見えていた。それが人間の足だと解るまで数秒、そしてその足の下から徐々に広がっていく血。
「うわあああああっ!!」
誰かが悲鳴を上げた。
それを合図に一斉に逃げ出す男達。
中には腰を抜かした者もおり、這いずるようにして逃げる者もいる。
そのうちの一人、腰を抜かしている者の後ろに突如出現するリシャシィ・ボバル。その口は先程の犠牲者の血に濡れている。
「うわああああああああっ!!!」
血に濡れた牙が男に迫っていく。
「ぎゃあああああっ!!」
断末魔。
更に口を赤く濡らしたリシャシィ・ボバルはさらなる獲物を追って走り出した。
白昼の惨劇は始まったばかりだった。
 
<警視庁未確認生命体対策本部 14:01PM>
新たな未確認生命体が現れたとの報告が未確認生命体対策本部に入ってきたのは初めの犯行が行われてからほぼ30分後のことであった。
「新たな未確認生命体が品川区の大井競馬場付近に出現、既に5名以上の被害者が出ているそうです!!」
その報告が来た時、ここ、対策本部にはほんの数名しか残っていなかった。
「周辺住民に警戒を呼びかけるんだ!こちらからは回せる全ての人員を回す!」
本部長、鍵山がそう指示を出す。
「現場に向かいます!」
そう言って住井護が飛び出していく。
何もなければもう帰るところだったのだが、それでも未確認生命体が出たとなるとそうも行かない。
(神尾さんも国崎さんも居ないんだ!俺がやらなきゃ!!)
そう思って彼は現場へと覆面パトカーを飛ばした。
 
<倉田重工第7研究所 14:14PM>
警視庁未確認生命体対策本部に入った情報と同じ情報が倉田重工第7研究所にもたらされたのは警視庁に情報がもたらされてから約10分後であった。
「大井競馬場周辺に新たな未確認生命体が現れたそうです!」
「PSKチーム、出動です!」
PSK計画の責任者であり、PSKチームの総責任者兼指揮官倉田佐祐理が指示を出す。
彼女は倉田重工の重役の一人であるが現在はこの第7研究所の所長も兼任していた。
PSK−01バックアップ用トレーラー・Kトレーラーが倉田重工第7研究所裏門から発進していく。
Kトレーラーの中で潤は斉藤に手伝って貰いながらPSK−01の装備を装着していた。
「ブレイバーバルカンはKディフェンサーの後部に設置して置くわ。使う時は取り外して使って。弾丸の予備はここに入れて置くから」
そう言って雪見はKディフェンサーの後部、格納庫スペースを指さした。
未確認生命体出現の報を聞き、みさきを食堂に残してやって来たのだ。
「解りました!確実に未確認を倒しますよ、今度こそ!!」
そう言って潤は右手の親指を立てて見せた。
 
<都内某所 14:41PM>
折原浩平はようやく自分のバイクの元に辿り着いていた。
「やれやれ・・・全く随分歩き回されたぜ」
ため息をつきながら無事だったバイクのシートを撫でる。
12時前ぐらいに観鈴の家を出てからだいたい2時間くらいは歩き回ってようやく発見出来た時、思わず天を仰いでしまった。
あまり顔には出さなかったがそれくらい嬉しかったのだ。
「さて・・それじゃ行くか」
ヘルメットをかぶり、キーを差し込んでからエンジンをかける。
「あ、いたぁっ!!」
いきなり後ろの方からそんな声が聞こえてき、浩平は思わず振り返ってしまった。
そこには自分の方を指さした真琴と観鈴が居る。
浩平は思わずヘルメットのバイザーに手を当て、それから仕方なくエンジンを切った。その間に二人が側に駆け寄ってくる。
「ちょっと!いきなり逃げるなんて酷くない!?」
いきなりくってかかったのはやはり真琴。
観鈴はその隣で浩平をじっと上目遣いに見上げている。
「あのな、俺に関わるなって言っただろ?」
ヘルメットを脱ぎ、浩平がそう言うと、真琴が更にむっとした顔を見せた。
「あんたを昨日助けた時からもう充分関わっているわよ!!」
そう言われて言葉を無くす浩平。
確かに真琴の言う通りである。別に望んで助けて貰ったわけではないが、彼女たちが自分を必死になって助けてくれたのは事実だった。何せ家まで運んでくれたのだ。これで関わっていないと言う方がおかしい。
「・・・そうだな、真琴の言う通りだ。それについては俺が悪かったよ」
浩平は素直にそう言い、二人に頭を下げた。
「だがな、俺にこれ以上関わるとろくな目に遭わない。だからもう帰れ。そして俺のことなんか忘れろ」
今度は真剣な目をして浩平は言う。
もし、この少女達が教団の手先である改造変異体に襲われでもしたらそれは俺と関わったからだ。それを防ぐためにもこれ以上関わるべきではない。浩平はそう思ったのだ。
しかし。
「そんなこと言わないでください。折角知り合えたのに・・・そんなこと・・・」
そう言って悲しげな瞳を浩平に向ける観鈴。
隣にいる真琴も何故か悲しげな目を浩平に向けている。
浩平はこの二人の過去に何があったかは知らない。
観鈴が憎からず思っていた相手がいきなり自分の元から居なくなったことなど。
真琴が好きだった相手がいきなり自分の前から消えていなくなったことなど。
彼に解ろうはずがなかった。
だが、彼は自分がそう言う思いをさせている相手が居ることすら知らない。今も彼の帰りを待ちわびている人がいることを彼は知らない。
だから、と言うわけでもないが。
浩平はこの二人をどうしても自分と関わることによって起こりうる危険から遠ざけたかった。
「真琴、それに観鈴。俺はお前らに助けて貰ったことは忘れない。だけどお前らは俺のことなんか忘れた方がいいんだ。その方が・・・」
安全だ・・・と言う言葉を飲み込む浩平。
二人は無言で浩平を見ている。
「だから俺はお前らに名乗る気はない。あいにくと追われている身なんでな。じゃ、もう二度と会うことはないだろうけど、元気でな!」
浩平はそう言うなりヘルメットをかぶり、バイクのエンジンをかける。そして猛スピードでその場から走り去っていった。
それを真琴と観鈴は呆然と見送っていた。
「これでいいんだ・・・俺には・・・もう無くすものなんか無いからな・・・これで・・・」
少し、心に痛みを感じながら浩平は呟いた。
あの二人が自分を心配してくれていることが解るから。だからこそ、自分に関わらせて、あげく敵に襲われでもしたら。
その不安を振り払うように浩平はスピードを上げる。
一方後に残された二人は走り去っていき、見えなくなったバイクをずっと見送っていた。
「・・・行っちゃった・・・」
観鈴がそう言って真琴を見る。
「何よ、カッコつけちゃって!あ〜あ、あんな奴、助けるんじゃなかった!」
真琴はそう言って天を仰いだ。
「でも、悪い人じゃなかった」
「いい人でもなさそうだったけど・・・」
「でもあの人のおかげで真琴さんと友達になれた」
そう言って観鈴がニコッと微笑んだ。
真琴も同じように笑みを浮かべる。
「とりあえず帰ろっか?」
そう言った真琴のお腹がグ〜ッとなったので観鈴が笑い声を上げる。
「な、何よ!そんなに笑うこと無いじゃない!!」
真っ赤になって言う真琴。
観鈴はまだ笑っている。
「ちょっと観鈴!!」
真琴が観鈴につかみかかるが、それは仲のいい友達同士のふざけあい。
そんな二人をじっと見下ろしている姿があることなど二人は気付くはずもなかった。
 
<N県内某山中 15:09PM>
川から少しあがったところにある林の中で一人の男がゴミを集めて歩いていた。
ここ数年のアウトドアブームでこの辺りにもキャンプに来る人が増えているが、それは同時にマナーの低下、と言う現象も起こしていた。
「全く・・・自分で出したゴミくらい持って帰ればいいものを・・・」
不機嫌そうに呟きながらゴミを集め続ける。
それでもこうしてゴミを拾い集めているのはやはり彼が自然を愛しているからに他ならない。
そんな彼の背後からじっと彼を見つめる無機質な瞳。
まるで獲物を狙うかのようにじりじりと気配もさせずに男に忍び寄っていく。
「さて、ちょっと休憩でもするかな?」
そう言って大きく男が伸びをする。
そこに、いきなり背後から飛びかかったのはルシュト・ホバルであった。
あっという間に男を押し倒し、その喉笛に鋭い牙が並ぶ口で食いつく。ブシャーッと吹き出す血。それを浴び、真っ赤に染まるルシュト・ホバル。
「・・キャアアアアアアアッ!!」
背後から悲鳴が上がった。
ルシュト・ホバルが振り返るとそこには男と同じような服装の女性ががたがた震えながら立っている。手に男と同じような袋を持っていることからこの女性もゴミ集めをしていたようだ。
更にその悲鳴を聞きつけ、数人の男女がこちらへとやってくるのが気配でわかったルシュト・ホバルは素早く女性に飛びかかると物凄い勢いで木に叩きつけ、その喉笛を食いちぎる。新たな血で赤く染まるルシュト・ホバル。
「くっくっく・・・獲物が次から次へと来る・・・くっくっく」
低い声で笑うルシュト・ホバル。
したたる血を腕で拭いながらゆっくりと歩き出す。新たな獲物に向かって。
 
<品川区鈴ヶ森周辺 15:11PM>
所轄の警察署の素早い展開によってこの辺り一帯は既に封鎖されていた。
しかし、肝心の未確認生命体の姿は何処にも見えなかった。
「逃げられたか・・それともまだ潜伏しているのか・・・」
住井は焦燥を隠せない様子で呟いた。
封鎖している一体をいくつかのエリアに分け、虱潰しに当たっているが未確認生命体らしき姿は何処にも目撃されていない。まだ潜伏しているなら何処に姿を隠したのか。
「本部、応答願います、こちら住井です!」
覆面パトカーに搭載している無線で未確認生命体対策本部を呼び出す。
これからの指示を仰ぐためだ。
「封鎖した一体の捜索は一応全て終了しました!第18号は発見されておりません!」
『解った。警戒範囲を更に拡大、君はそのまま第18号の捜索を続けてくれたまえ』
無線から鍵山の声が帰ってくる。
「了解しました!」
わざわざ無線にまで敬礼し住井はここの現場を取り仕切っている所轄の幹部に駆け寄った。
その様子を少し離れたところにKトレーラーを止めて、モニターで見ているのは潤達である。
「どうやら未確認は居ないようですね・・・」
モニターを見ながら斉藤が言う。
「まだそう遠くへは行ってないと思うわ。北川君はいつでも出ていける準備をしていて」
雪見がモニターをのぞき込みながら言う。
と、その時、モニターの端に黒い影が映った。
その黒い影は物凄い早さで近くにいた警官に飛びかかり、物陰へと引きずり込んでしまう。
「いたわ!北川君!PSK−01,出動!!」
振り返り、雪見が鋭い声で言う。
同時にKトレーラーの後部ドアが開き、Kディフェンサーが発進していく。
一方住井達は突如現れた未確認生命体リシャシィ・ボバルを前に騒然となっていた。
リシャシィ・ボバルは片手に今殺したばかりの警官の死体を引きずりながら、次の獲物を定めるように住井達を見ている。
今この場で未確認生命体に一応の効果のあった炸裂弾の入ったライフルを持っているのは住井一人である。他の警官は皆普通の拳銃しか持っていない。
「う、撃て!!」
それでも住井はそう言った。
とにかくこの場を何とかしないといけない。たとえ効かなくても相手を怯ませることぐらいは可能なはずだ。
住井を初めとする警官達が拳銃を構えて一斉に発砲する。
リシャシィ・ボバルは手に持っていた警官の死体を盾代わりに前に突き出すとそのまま猛然と走り出した。そして住井達の近くまで来ると死体から手を離してジャンプ、住井達を飛び越える。
「うわああっ!!」
悲鳴が上がったのはそれからすぐだった。
振り返ると一人の警官の首筋にリシャシィ・ボバルが噛みついている。その警官はそれだけで絶命しているようだ。
口を開け、警官が倒れると、リシャシィ・ボバルはにやりと笑った。
「シュジバ・ジョリシュジャ?」
そう言って警官達を見回す。と、その視線が住井のところで止まった。慌ててライフルを構える住井だが、それより早くリシャシィ・ボバルは彼に飛びかかっていた。
物凄い力で押し倒される住井だが、何とかリシャシィ・ボバルの口にライフルを突っ込み噛みつかれるのは防いでいた。
しかし、それでもじりじりと血に濡れた牙が彼に迫ってきている。
そこにKディフェンサーが駆けつけた。
「エレクトリックガン、スタンバイ!!発射!!」
Kディフェンサーの前部から伸びた発射口から物凄い電光が走り、リシャシィ・ボバルを直撃する。思わず吹っ飛ばされてしまうリシャシィ・ボバル。
それを見たPSK−01はKディフェンサーを止めると素早く降り、後部に設置されられているブレイバーバルカンを取り出した。
「こいつで一気に!!」
ブレイバーバルカンを構えるPSK−01。
PSK−01の頭部に内蔵されたモニターの照準が起きあがろうとしているリシャシィ・ボバルを捕らえる。
「食らえ!!」
PSK−01がブレイバーバルカンの引き金を引く。
 
<N県某山中 15:28PM>
この近くにいたのは全くの偶然だった。
祐を迎えに行く途中、国崎の覆面パトカーに県警本部からの緊急連絡が入ったのも偶然だったのかもしれない。
『未確認生命体と思われる怪人が出現!近くをパトロール中の各員は急行されたし!場所は・・・』
それを聞いた国崎は後部座席に無造作においてあるライフルをちらりと見やった。
装填されている炸裂弾の残りはそう多くはない。
「それでも・・やるしかないか!」
思い切りよくハンドルを回す国崎。
彼が現場に到着した時には他のパトカーも数台集まってきていて、制服警官達が未確認生命体を遠巻きに包囲しているところだった。
口元を赤く血で濡らした未確認生命体ルシュト・ホバルの姿に皆恐れを抱いたのか身動き一つしない。
一方囲まれているルシュト・ホバルも自分を取り囲んでいる警官達をじっと見回している。これはどちらかというと誰から襲うか狙いを定めている、と言った感じだった。
国崎は相手が動く前にライフルを構え、素早く発砲、先制攻撃をかけた。
装填されている全ての炸裂弾をルシュト・ホバルに叩き込む。
だが・・・ルシュト・ホバルの身体に命中した炸裂弾が文字通り炸裂するがルシュト・ホバルは少しよろめいただけで、その身体には傷一つついてはいなかった。
「何・・・こいつ・・・全く歯が立たないじゃねえか!!」
驚きの声を上げる国崎。
そこにルシュト・ホバルが飛びかかってきた。包囲している警官達を一気に飛び越え、かなり離れた場所にいる国崎の所までジャンプしてきたのだ。物凄い跳躍力である。
そのことに驚いている暇もなく、国崎はライフルでルシュト・ホバルの攻撃を受け止める。
鋭い牙が並ぶ口を大きく開けて国崎に噛みつこうとしたのだが、その口にライフルを横にして突っ込まれ、しかしそれでもじりじりと国崎に迫るルシュト・ホバル。と、いきなりルシュト・ホバルが口を閉じた。
グシャッという音と共にライフルが粉砕される。
それを見た国崎が慌てて離れようとするが、その腕をルシュト・ホバルが掴み、そして投げ飛ばした。
宙を舞い、地面に落ちて転がる国崎。
「くう・・・」
痛みに呻き声を上げる。
そこにルシュト・ホバルが飛びかかってきた。今までの被害者の血で赤く濡れた鋭い牙が並ぶ口を大きく開け、倒れている国崎に向かって。
 
<都内某所(観鈴の家) 15:39PM>
新たな未確認生命体が現れていることも知らず、晴子は自分の部屋で気持ちよさそうに眠っていた。
隣の部屋では観鈴が真琴と何やら楽しげに喋っている。
その部屋の様子を少し離れたビルの上から見ている影があった。
「フフフ・・・折原浩平に関わったことを不幸と思うがいい・・・」
影はそう呟くと背中の羽根を広げた。
それはまるで蝶のように美しい紋様の羽根。太陽の光を受けてきらきらと光ってさえいる。しかし、それがこの蝶怪人の恐るべき武器であることを知るものはその場にはいない。
蝶怪人がビルの上から飛ぶ。観鈴の家に向かって一直線に滑空し、窓ガラスをたたき割って中に潜入する。
「な、なんや!?」
ガラスの割れる音に目を覚ます晴子。
観鈴と真琴は突如現れた蝶の怪物を見て悲鳴を上げることすら忘れ呆然としてしまっている。
「お前達には奴をおびき出すエサになって貰う・・・」
蝶怪人はそう言うと、また羽根を広げた。
その紋様が外からの光を受けて不気味な光を帯びる。
それを見ていた観鈴と真琴の目がだんだん虚ろになっていき、そして遂に二人はその場に倒れてしまった。
蝶怪人はそんな二人の側によると、二人を両腕に抱え込む。
「ちょっと待ちいや!!」
そう言って現れたのはタンクトップ姿の晴子。手には拳銃を構えている。
「うちの可愛い娘とその友達を許可無く何処に連れて行こうゆうねん?」
相手が未確認生命体とわかり、やや緊張しながら晴子は言う。今構えている拳銃では全く敵わないことを知りつつ、それでも彼女は娘である観鈴を守るために必死であった。
蝶怪人はそんな晴子をじっと見ていたが、いきなり口である管をすっと伸ばし彼女の手から拳銃をはじき飛ばした。
「フッ、大人しくしていればいいものを・・・」
そう言うと蝶怪人は観鈴と真琴を両脇に抱えたまま、晴子に飛びかかっていった。
突然の蝶怪人の行動に晴子は対処しきれない。蝶怪人の体当たりを食らって部屋の隅のまで吹っ飛ばされてしまう。
「くうっ・・・」
壁にぶつけた頭を左右に振りながら素早く晴子は起きあがった。
蝶怪人は自分が飛び込んできた窓から今にも飛び出そうとしている。
「やらすか、このボケッ!!」
そう言いながら蝶怪人に飛びかかる晴子。ほぼ同時に蝶怪人が宙に飛び上がる。
辛うじて晴子の手は蝶怪人の足を掴むことに成功していた。
「貴様ッ!!」
蝶怪人が慌てたように晴子を見る。流石にこの状態では逃げられないと思ったのか、蝶怪人は地上へと急降下していった。
地面に晴子を叩きつけてから、脇に抱えた二人を降ろす。
そして倒れたままの晴子の側に近寄り、その首に手をかけた。
「これ以上邪魔をされては敵わないのでな。ここで死んで貰う」
言いながら物凄い力で晴子の首を締め上げる蝶怪人。
「ぐあ・・・」
思わず白目をむく晴子。
だんだん意識が遠のいていく。
その視線の先には観鈴の姿。
(観鈴・・・堪忍やで・・・)
 
<N県内倉田重工第3研究所 15:45PM>
倉田重工第3研究所の地下のある一室で七瀬留美はパソコンのモニターと向かい合っていた。
画面上に映し出されているのはPSK−01とよく似た姿のパワードスーツの設計図。
「これでほぼ全ての問題はクリア・・・」
そう呟いてキーを押す。
さっと画面に切り替わり、また別のパワードスーツの設計図が映し出される。
そこに電話がかかってきた。
面倒くさそうに受話器を取る留美。
「はい・・・はい、解っています・・・」
相手の質問に対して言葉少なに答えているようだ。
「ええ・・・それはもう。・・・PSK−02・・・完成は間近です」
そう言って留美は振り返った。
彼女の視線の先にはガラス窓があり、その向こう側の作業室では新たなパワードスーツ、PSK−02が静かに鎮座していた。
PSK−01よりも更に重厚なシルエット、無骨な印象を抱かせる姿。
主無きパワードスーツの赤い目が静かに留美を見つめていた。
 
Episode.19「危急」Closed.
To be continued next Episode. by MaskedRiderKanon
 
次回予告
晴子の危機に駆けつける浩平。しかし敵の力に翻弄されてしまう。
強力な力を持つブレイバーバルカン、しかし意外な欠陥が発見される!
雪見「これじゃ・・・何の意味もないわ!!」
浩平「たとえ、それが罠だとしても・・・」
舞、美凪、みちるを襲うルシュト・ホバル。
絶体絶命の危機が襲う中、祐は目覚めるのか?
美凪「舞さんに任せていれば安心です」
潤「それでも・・・俺はやる!!」
それぞれに迫る最大のピンチ!
決死の覚悟で戦いに向かうのは誰だ!?
祐「俺は・・・一体誰なんだ?」
次回、仮面ライダーカノン「決死」
目覚めの時は近い・・・!!


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