<関東医大病院 14:51PM>
入院しているという水瀬名雪の病室の場所を通りかかりの看護婦に聞いて、礼を言った美坂香里が振り返ると、病院の入り口の自動ドアが開いて一人の若者が入ってくるのが見えた。
サングラスをかけたその若者の顔を見て、香里は足を止める。
若者のサングラス越しに視線が合う。
香里の顔に驚愕と・・・なんだか解らないが不安が広がっていく。
「あ・・・貴方は・・・」
絞り出すように言う香里。
「よお・・・久しぶりだな、美坂」
若者がサングラスをとる。
そこにいたのは・・・5年前に炎の中に消えていったはずの相沢祐一だった。
5年前とは少し違う印象を受けさせる祐一の姿に香里は言葉を失っていた。
成長、とでも言うのだろうか?
今、香里の前に立っている相沢祐一は・・・昔とは違う・・・どことなく冷たい印象を感じさせた。
 
<N県某山中 14:54PM>
白いカノンがカガヅ・ボバルの背に飛びかかっていく。
その肩に手をかけてカガヅ・ボバルをガダヌ・シィカパから引きはがし、投げ飛ばすカノン。
自分の肩口に食いつかれていたガダヌ・シィカパはその傷を手で覆い隠すと逃げるように立ち上がり、走り出した。
「逃がすか!」
そう言ってすぐに立ち上がったカノンがガダヌ・シィカパを追いかけようとすると、その前に投げ飛ばされたはずのカガヅ・ボバルが立ちふさがった。
「ギャシュバ・ロデン・レソモジャ!カサン・ヌヅマ!!」
「何っ!?」
カノンにはカガヅ・ボバルが何を言ったのかは解らなかったが何となく相手が怒っているようなそんな気がしていた。
油断無く身構え、相手がどう来るかを伺う。
互いに睨み合いながら、相手の隙をうかがうのだがどちらも全く隙が無く動くことが出来ないでいる。
「・・・カノン・・・バリリドン・サクル・カガヅ・ボバルジャ!」
カガヅ・ボバルはそう言うと身をかがめて地を蹴り、一気にカノンに向かって飛びかかっていく。
「早い!!」
カガヅ・ボバルの物凄いスピードに驚きを隠せないカノン。
肩からの体当たりを食らって吹っ飛ばされるカノン。
その上にのしかかり、大きく口を開き、その鋭い牙でカノンにかみつこうとするカガヅ・ボバルだが、カノンは両手で上顎と下顎を掴んで必死に抵抗する。
しかし、カガヅ・ボバルの物凄いパワーは徐々にカノンの身体に牙を近づけていく。
「くう・・何て・・パワーだ・・・こいつ、今までの未確認とは違う!!」
またも驚きの声を上げるカノン。
その牙が徐々にカノンの身体に迫っていく。
 
仮面ライダーカノン
Episode.18「疑惑」
 
<N県某山中 14:59PM>
カガヅ・ボバルの牙がカノンの首筋まで後少しと迫った時、静かな山中に銃声がひびき、カガヅ・ボバルの背で小さな爆発が起こった。
その衝撃に思わずのけぞるカガヅ・ボバル。
カノンは素早くカガヅ・ボバルの顔面に右の肘を叩き込むと、何とか下から抜けだし、立ち上がった。
そして振り返ると、ライフルを持った国崎がこっちを見ている。
頷く国崎。
カノンは起きあがったカガヅ・ボバルの方を向き、左足を少し後ろにひいた。更に腰を落とし、左手をひいて腰に添え、右手の平を上に向け、ゆっくりと右から左へと水平に移動させる。
「ハアアアアアアア・・・」
気を溜めるように息を吐くカノン。
起きあがったカガヅ・ボバルに向けて牽制するかのように国崎がライフル弾を叩き込む。
カノンが右手をある一点で返し、ジャンプした。
空中で右足を前に突き出す。
カノン必殺のキックがライフル弾を何発も喰らいよろめいているカガヅ・ボバルに迫る。
だが、カガヅ・ボバルはキックが直撃する直前、後方へと飛び退き、そのキックをかわしてしまった。
着地したカノンはさっとカガヅ・ボバルを振り返るが、カガヅ・ボバルはもうその場にはいなかった。
どうやらキックをかわすと同時に森の奧へと逃げていったらしい。
「大丈夫か?」
そう言いながら国崎が駆け寄ってくる。
変身を解いた祐が彼を振り返り、国崎に向かって右手の親指を立てて見せた。
「俺は大丈夫です。で、第2号は?」
「少し追いかけたんだが、空に逃げられた。で、戻ってきたんだが・・・今度の奴も手強そうだな?」
国崎にそう言われて頷く祐。
「この間の第17号もそうでしたけど・・・今までとは違って凄いパワーでした。それより、少し気になったんですが・・・」
「・・・第2号とあいつが争っていたことか?」
「はい・・・あいつら・・・かなり本気みたいでしたけど・・・一体何があったんでしょうか?」
「そんなこと、俺が知るか」
国崎はそう言うと、第2号が襲われていた場所に歩いていった。
後から続いて祐も歩いていく。
そこには黒い羽根が何枚も落ちており、その内の数枚には血らしきものが付着している。
国崎は上着のポケットから白い手袋を出し、手にはめると、そっと血らしきものが付着した羽根を手に取った。
「国崎さん、それは?」
「・・第2号のものだ。これを分析すれば何か解るかもしれない。一応持っていくか」
そう言って国崎は左手でポケットの中からビニール袋をとりだし、その中に黒い羽根を入れて封をした。
 
<関東医大病院 15:01PM>
香里は黙ったまま前を歩く祐一の背中を見ていた。
何故だか解らないが、彼女は今前にいる祐一がどうも祐一だと信じられなかった。
先に、祐一そっくりの祐という青年に出会っているからかもしれない。彼女は祐と初めて会った時、直感的に彼が祐一だと思ったのだ。
もし、彼が本物だとしてもどうして今まで現れなかったのか。
聞きたいことは山程ある。
しかし、今の祐一は彼女の質問など受け付けない・・・そう言う感じを全身から醸し出している。
(・・・本物?・・・それとも・・・)
「なぁ、美坂。名雪の病室、何処なんだ?」
不意に立ち止まった祐一が香里を振り返って聞く。
それまで考え事をしていた香里は慌てて自分も立ち止まると、祐一を見た。
「え?何?」
「名雪の病室だよ・・・俺、まだ場所聞いてないぜ?」
冷ややかな目をして祐一が香里を見る。
イヤ、実際にはサングラス越しだったのだが、香里はそう感じていた。
「ああ、そうね・・・確か・・・701号室だったわ」
香里はそう言うと、祐一を追い越して歩き出した。
先にエレベーターに乗り込み、祐一が来るのを待つ。
口元を僅かに歪め、笑みを浮かべつつ祐一もエレベーターに乗り込んだ。
「相沢君・・・どうして?」
エレベーターが動き出してから香里が口を開いた。
「生きていたのならどうして今まで何も言ってこなかったの?みんな心配していたのよ・・・私も、栞も、秋子さんも」
しかし、祐一は何も答えようとはしない。
「ねえ・・ちょっと!!」
香里は何も言わない祐一に対し怒りを覚え、その肩をぐっと掴んで自分の方に向かせた。
「何か言ったらどう!?みんな・・・本当に・・・貴方が死んだと思って・・・人生狂わされたのよ!!」
そう言って香里は祐一の胸をどんと叩いた。
何時しか彼女の目には涙すら浮かんでいる。
そんな香里を祐一はそっと抱きしめた。
「・・済まない・・・何て言ったらいいか・・・悪い」
呟くようにそう言う祐一。
「悪いと・・・思うなら・・・私より先に謝らないといけない子がいるでしょう。あの子を・・・目覚めさせてあげるのが・・・貴方の役目よ」
祐一の胸に手をつき、彼を離してから香里はそう言って笑みを浮かべた。
「ああ・・・そうだな・・・」
そう答え、笑みを浮かべる祐一。
その時、香里の目は涙で曇っていたのだろう。
祐一の口元・・・邪悪な笑みが浮かんでいたことに彼女は全く気がついてはいなかったのだから。
 
<都内某所 15:16PM>
折原浩平は胸を手で押さえながら薄汚い路地に座り込んでいた。
「ハァハァハァッ・・・くそ、またか!!」
苦しげに息を吐きながら彼は毒づく。
彼はアインへと変身するとその後、かなり酷い全身の苦しみに襲われる。
それを彼は耐えるしか出来ないのだ。
おそらくこれが彼を「失敗作」と呼ぶ理由なのだろう。
「くそ・・・このままじゃ・・・終わらないぞ・・・」
そう言って必死に立ち上がる浩平。
壁にもたれながらゆっくりと立ち上がり、彼は胸を押さえたまま歩き出した。
路地を抜け、大きな通りに出た彼はふらつきながらも歩き続ける。
だが、限界が来た。
すっと意識が遠くなり、彼はその場に崩れ落ちてしまう。
「あうっ、ね、ねぇ、大丈夫!?」
そんな彼に慌てて駆け寄ってくる少女が姿があった。
栗色の髪を二つリボンでまとめたその少女は倒れて気を失った浩平のそばによると、何とか彼を起こそうとしたが一人では何とも出来ず、泣きそうな顔で周りを見た。
「あう〜・・・」
しかし、誰もこちらをちらりと見るばかりで助けようとはしない。
困ったように少女が周りを見ていると、一人の少女がそこを通りかかった。
栗色の髪の少女がその少女の前にばんと立ちふさがる。
「ちょっとあんた!!」
びしっと少女を指さし、栗色の髪の少女が言う。
「は、はい・・・?」
驚き、恐れながらもその少女が答える。
「手伝いなさいよ!!」
そう言って栗色の髪の少女が倒れている浩平を指さした。
もう一人の少女も倒れている浩平を見、それから自分を指さした。
コクコクと頷く栗色の髪の少女。
「が、がお・・・」
困ったようにそう言いながらも少女は栗色の髪の少女の言うことを聞いて浩平を二人がかりで何とか立たせた。
「何処かで休ませてあげないと・・・」
「それならうちが近いよ。ほら、行こう!」
今度は少女が主導権を取り、浩平を肩で支えながら歩き出した。
栗色の髪の少女も同じように歩き出す。
だが・・・二人の少女に気を失っている浩平を運ぶのは荷が重すぎたようだ。
途中何度も転んでは「あう〜」とか「が、がお・・・」とか言う声が聞こえてきていた。
 
<関東医大病院 15:20PM>
701号室と書かれたプレートの張ってある病室。
そのドアの前に立った香里は緊張の色を隠せなかった。
何しろ名雪にはもう何年も会っていないのだから。
前にN県に帰った時には秋子にだけ会っただけで名雪には会っていない。
眠り続けている彼女に会う、と言うのもおかしいかもしれないが・・・。
「どうしたんだ?入らないのか?」
後ろに立っている祐一がそう言って香里を見る。
「は、入るわよ・・・」
香里がドアをノックする。
「はい?」
中から聞こえてきた声に香里の肩が震えた。
おそらく彼女が一番会いたくなかった・・・その相手が中にいる。
そう思うと中に入るのが躊躇われる。
「どなた様ですか?」
そう言って中からドアが開けられた。
中から顔を出したのはショートカットの女性。
その女性は香里の顔を見ると、一瞬驚いたような表情を浮かべたが、すぐに無表情になり、ドアを閉じようとした。
「待って!」
その声は彼女が思っていたよりも大きかったようだ。
近くを歩いていた看護婦や入院患者が皆、こっちを向く。
「・・・待って。お願い・・・栞・・・」
絞り出すように言う香里。
ドアを閉じようとしていた女性はその声を聞いて、少しだけドアを開いた。
「何の・・・用ですか?」
冷たい声で言う栞。
「名雪に会いに来たの」
「今更会う権利なんてあるんですか?」
「・・・でも、それを決めるのは栞、貴女じゃないわ」
香里は毅然とそう言った。
栞は少しむっとしたようだったが渋々ドアを開けた。
香里がドアに手をかけて大きく開けると中に栞以外にも二人の女性がいることに気がついた。
「秋子さん・・・お久しぶりです」
中に秋子の姿を見つけた香里がそう言って頭を下げる。
「香里ちゃん・・・久しぶりね・・・」
少し疲れたような表情を浮かべながらも、秋子はいつものように笑顔を作る。
「それじゃあ、私はこれで」
もう一人いた女性・・・霧島聖はそう言うと秋子に向かって一礼してから病室を出ていった。
「今の方は?」
「ここの先生よ・・・名雪のこと、親身になって相談に乗ってくれているの。霧島聖って言ったかしら?」
「霧島?」
香里は何となくだが、今すれ違った女性、霧島聖に会ったことがあるような感じを受けていた。
それが名前を聞いてようやく理解出来た。
香里がよく行く喫茶ホワイトのウエイトレス・霧島佳乃の姉なのだろう。
「ああ、あの人が佳乃ちゃんの・・・」
そう呟きながら彼女はドアを見る。
栞はそんな姉の姿をじっと睨み付けていた。
香里はそんな妹を無視してベッドのそばに近寄った。
「久しぶりね、名雪」
まるで起きているかのように呼びかける。
「まさか東京で会うとは思ってもなかったわ。貴女は相変わらずのようね。私は変わったわ・・・」
そこまで言って言葉を切る。
「そろそろ目を覚まさないと・・・相沢君も貴女に愛想を尽かすかも・・・」
「お姉ちゃんっ!!」
不意に栞が大声を出した。
振り返ると、栞が肩を震わせている。
「それはお姉ちゃんが言う事じゃありません!本当なら・・・貴女が名雪さんに会いに来ることも・・・」
「そこまで言うことはないだろう?でないと美坂が可哀想だ」
ドアの方から聞こえてきた若い男の声。
その声に皆がドアの方を振り返り、秋子と栞の顔に驚愕の色が広がった。
「よお、久しぶり」
若者・・祐一はそう言って右手を挙げた。
「祐一さん・・・」
そう言ったきり二人は言葉を無くした。
栞など涙ぐんでさえいる。
祐一はつかつかと病室の中まで入ってくると名雪のベッドのそばにより、すっと名雪の顔をのぞき込んだ。
「・・相変わらずねぼすけだな、お前は・・・」
そう言って笑みを浮かべる祐一。
もっともサングラスだけは外していないのだが。
「祐一さん、今まで・・・」
秋子が声をかけようとした時、不意に栞が彼の背に飛びついて泣き始めた。
「祐一さん!祐一さん・・・会いたかった・・・ずっと・・・ずっと!!」
香里はそれを見て、すっとベッドのそばから離れていった。
そして、秋子はその様子を何故か神妙に観察するような感じで見つめていた・・・。
 
<N県某山中 15:26PM>
祐と国崎は国崎の覆面パトカーの止めてある所まで戻ってきていた。
国崎が先ほど手に入れた第2号のものと思われる羽根を県警の鑑識に調べて貰うためだ。
「どうした?乗らないのか?」
運転席のドアを開け、中に乗り込もうとしていた国崎が何やら考えて混んでいる祐に気がついた。
「国崎さん・・・俺、ここに残ってもいいですか?」
祐がそう言ったので国崎はきょとんとした顔で彼を見返した。
「まぁ・・・鑑識に回しても結果が出るまで時間がかかるだろうから別に構わないが」
「第2号と戦っていた奴・・・あいつは今までにない感じがしました。まだそう遠くに行っていないと思います。それにキックもかわされちゃったし・・・ちょっと別の技を考えてみたいんです」
「一人で大丈夫か?」
「大丈夫です・・・だって俺、カノンだし」
そう言って祐が笑顔を見せた。
国崎も苦笑を浮かべ、頷いた。
「気をつけろよ」
「はい・・・」
祐がそう言って再び山の方へと歩いていく。
国崎は車に乗り込むと県警へと急いだ。
 
<関東医大病院 15:31PM>
ドアのそばの壁にもたれながら香里はまだ泣いている栞とその頭に手をやり撫でてやっている祐一を見つめていた。
栞はもう少しの間祐一の胸に顔を埋めて泣いていたが、まだ目に涙を浮かべながらも彼から離れた。
「すいません、祐一さん・・・名雪さんのいる前で取り乱しちゃいました」
そう言って笑みを浮かべ、舌を出す栞。
「別に名雪も気にしないだろ、これくらい」
祐一がそう言い、笑みを浮かべた。
それからまた眠っている名雪の顔をのぞき込む。
「よく寝てるよ・・・」
「あの日からずっとです・・・未だに目を覚ます気配もないって」
栞が声をかけるが祐一は何も答えない。
「そろそろ起きて貰っても良いよな・・・」
小さい声で呟く祐一。
その声はこの部屋にいる誰の耳にも聞こえることはなかった。
祐一は名雪の長い髪を手で梳いている。
「・・・秋子さん、少しの間二人にしてもらえませんか?」
「・・・解りました。・・・名雪に変なことしちゃダメですよ?」
冗談めかしてそう言う秋子だが、祐一は振り返りもしなければ反論めいたことを言うこともなかった。
秋子は昔から冗談でなかなかきついことを言うことがあった。
それに素直に反応してしまう祐一や名雪を見るのが結構好きだったようだ。
しかし、今の祐一は何の反応も示さない。
少し残念そうな顔をして病室から出ていく秋子。
「香里ちゃん、ちょっと良いかしら?」
丁度ドアの横に立っていた香里にそう言った秋子はいつになく真剣な目をしていた。
頷いて香里も病室を出ていく。
後に続く栞。
病室には祐一と眠り続ける名雪だけが残された・・・。
 
<N県某山中 15:38PM>
祐は森の中の適当な広さのある空間を見つけると周囲を見回した。
「ここなら誰もいないし・・丁度良いか」
そう呟くと、祐はその場に腰を下ろした。
更に背を地面につけて寝転がり、空を見上げる。
「どうすれば・・・いい?」
目を閉じる。
第2号と争っていた未確認生命体第18号はカノン必殺のキックを引き付けた上で後方にジャンプしてかわして見せた。
「スピードが足りない・・・と言うことか?」
今の必殺のキックは一度気を溜め、それからジャンプしてキックを放っている。しかし、それでは気を溜めている間に逃げられるかもしれないし、キックのスピードもそう速くはない。
「キックのスピードを上げて、かつ、威力を増さないと・・・これからは戦えない・・・」
そこまで言って祐は目を開けた。
身体を起こし、立ち上がる。
それから身体をほぐすように手首を降り、首を回し、準備体操をする。二、三度軽くその場でジャンプしてから、必殺のキックの体勢をとる。
左足をひき、左手を腰に当て、右手の平を前に突き出し、右から左に水平に移動させる。
移動させながら腰を少しずつ低く落としていく。
まるでバネを縮めて行くかのように。
「ハァァァァァァァァ」
気を溜めるように息を吐く祐。
水平に動かしている右手の平をある一点でひっくり返す。
そして・・・限界まで縮めたバネが反発するかのように祐の身体が宙を舞った。
(ここまではいつもと同じ・・・だが!!)
空中で祐は自分の身体をひねった。
身体を回転させながらキックを放つ。
祐の右足が地面にぶつかり、落ち葉を舞い上げる。
「・・・威力は増した・・・身体にひねりを加えて、回転を加えることによって・・・だが・・・」
このままではスピードの問題は何一つ解決していない。
ただ威力の増したキックでも当たらなければ意味がない。
またその場に座り込む祐。
「・・・スピード・・・どうすれば・・・?」
その祐の姿を少し離れたところから見ている者がいた。
「やれやれ・・・また悩んでいるのね、彼は」
天沢郁未であった。
何時この場にやってきたのか、彼女は少し呆れたような顔をして祐の姿を見ていた。
「この前特訓してあげたのに・・・まぁ・・・今までと同じようにはいかないのは解るけどね」
そう呟いた彼女の後ろに異形の影が現れる。
「今のうちに奴を始末しますか?」
異形の影が郁未にそう言うが、彼女はちらりと異形の影を睨み付け、黙らせた。
「過ぎたことを申しました」
「解ったらいいわ。彼のことは私が一任されているはず・・・高槻には手を出さないよう伝えておいてくれる?」
「解りました・・・しかし、ここにはまだヌヴァラグのものが潜んでいる可能性が・・・」
「大丈夫よ・・・彼がいるからね・・・」
郁未はそう言うと木の陰から離れ、祐に向かって歩き出した。
異形の影はそれをじっと見ていたが、やがて消えるかのようにその場から姿を消した。
祐はまだ座ってああでもない、こうでもないと考え込んでいた。
その後ろでかさりと言う枯れ葉を踏む音がした。
祐が振り返ると、そこに笑顔の郁未が立っていた。
「ハイ、お久しぶり」
郁未の突然の登場に祐は言葉を無くしていた。
口をぱくぱくさせ、郁未を指さして固まっている。
「どうしたの?また何か悩んでる?」
「イヤ、それ以前にどうしてここにいるんですか?」
何とかそう言う祐だが、郁未は笑顔のままその質問には答えなかった。
「で、今度は何?」
ずいっと祐に迫る郁未。
その迫力に祐は屈してしまった。
「キックです・・・今度は」
おそるおそるという感じでそう言う祐。
「キックかぁ・・・ライダーキックはやっぱり特訓して強化するもんだもんねぇ」
腕を組んで一人頷いている郁未。
「よし、また特訓よ!!」
そう言って明後日の方向を向いてぴしっと指さす郁未。
祐はその後ろで困ったような笑みを浮かべることしか出来なかった。
 
<関東医大病院 15:43PM>
秋子と香里は階段の所までやって来ていた。
栞は一階のロビーに降り、彼女の家に電話をしているようだ。
「どうしたんですか、秋子さん?」
香里がそう言うと秋子は妙に神妙な顔をして彼女を振り返った。
「香里ちゃん、前にうちに来た時に言っていたわよね・・・祐一さんに似た人を見たって。それって今さっきから・・・」
「・・・いえ、彼・・・祐さんとは違います。相沢君とはここの入り口でばったり・・・」
香里の返答を聞いて秋子はまた眉を寄せた。
「・・・昨日・・・例の未確認生命体に襲われた時に私達を助けに来てくれた人がいたの。私はその人が一瞬祐一さんのように思えたわ」
それを聞いて、香里の顔色が変わった。
「・・・それが、前に言った・・祐さんです。多分・・・・」
「そう・・・」
少しだけ安心したような笑みを浮かべる秋子。
「香里ちゃん・・・あの祐一さん、どう思う?」
不意に秋子が真剣な顔をして香里に聞いた。
「え?」
驚いたように秋子を見る香里。
今ひとつ彼女には質問の意味がわからなかったようだ。
「そうね・・・言い換えるわ。香里ちゃん、あの祐一さんが本物の祐一さんだと思う?」
「・・そ、それは・・・一体どういう事ですか?」
「私の知っている祐一さんとは・・・何か違うような気がしてならないんです。何処が、と言われるとはっきりとは言えないんですが・・・」
困ったような顔をする秋子。
しかし、それは香里も同じであった。
確かに姿は祐一そのものである。だが、何処か違う・・・何処がと言われれば答えることは出来ないのだが、何かが違う・・・そう、言うならば全体的な雰囲気が違うとでも言うのだろうか?
「でも・・それは今までずっと会わなかったからじゃ・・・」
自分の考えを否定して欲しかったのか、香里はそう言って秋子を見た。
「昔、祐一さんは7年も私達に会いに来なかった時期があります。でも、7年ぶりに会っても私は祐一さんが祐一さんだとはっきり解りました。人の本質はそうそう変わるようなものではないと思いますから・・・」
「でも、今名雪の病室にいる相沢君は・・・」
「5年という月日は意外と長いようで短い、とは思いませんか?5年あれば祐一さんのことを調べることは簡単に出来ます・・・」
そう、あの人達ならばそれはいとも容易いこと。
その時になって、秋子ははっとなった。
もし、今名雪の病室にいる祐一が偽者ならば、その目的は・・・。
秋子は顔面蒼白になって走り出した。
「あ、秋子さん!?」
香里はいきなり走り出した秋子に置いてけぼりにされる形になった。
「・・・一体・・・何・・・?」
 
<N県某山中 15:45PM>
祐が駆け出す。
「そう!ダッシュダッシュ!!」
郁未が声援を送る。
祐はひたすらダッシュを繰り返していた。
「本当にこれで良いんですかぁ?」
走りながら祐が聞くと、郁未は大きく、自信たっぷりに頷いた。
「キックのスピードって言うか勢いを増したかったらこれで良いはずよ!」
「ですけど・・・」
「・・・・」
郁未は祐の疑問の視線を受けて、黙り込んだ。
祐も立ち止まる。
「自分から相手に向かって突っ込んでいくんだからキックの勢いは増すはずだけど・・・違うかしら?」
郁未がそう言って祐を見る。
「・・・確かにそうですね・・・」
「一度やってみる?目標はあの木の幹で」
そう言って郁未は少し離れた場所にある木を指さした。
頷き、祐はその木に向かって走り出す。
木との距離を測ってジャンプ、右足を突き出す。
その瞬間、祐の頭に何かのイメージが走った。
灰色の身体のカノンが黒い亀のような怪人、白い虎のような怪人、青い竜のような怪人に向かってダッシュしていき、ジャンプ、空中で一回転してから右足を突き出してキックを決める。
木に祐の右足が当たった。
その反動を利用して、祐は後方へとジャンプして着地する。
「・・・あれは・・・」
今頭の中に走ったイメージを再び思い浮かべようとするが、不意に彼の頭に鋭い痛みが走った。
「くうっ・・・・」
頭を押さえて踞る祐。
「ど、どうしたの!?」
そんな祐の様子を見て慌てて郁未が駆け寄ってくる。
祐は自分の方に駆け寄ってくる郁未を手で制した。
「大丈夫です・・・!!」
郁未は祐が予想以上に大きい声を出したのでびくっとなって立ち止まっていた。
「ほ、本当に大丈夫なの?」
心配そうな声で郁未が尋ねてくる。
祐は二、三度頭を振ってから郁未の方を見て、右手の親指を立てて見せた。
「大丈夫です」
そう言って笑顔を見せる。
郁未は胸をなで下ろすと、くるりと彼に背を向け、歩き出した。
「さぁ、特訓の続き、行くわよ!!」
「はいっ!!」
祐が彼女についていく。
同じ頃、別の山中では・・・。
ガダヌ・シィカパがカガヅ・ボバルに噛みつかれた傷を手で押さえて苦しそうにうめき声を上げていた。
出血は大分治まっているが、痛みだけは消しようがない。
「・・・クウゥ・・・・サジャ・・サジャ・ロデバ・・・」
痛みをこらえて立ち上がるガダヌ・シィカパ。
その彼の前に、一人の男が現れた。
びくっと体を震わせるガダヌ・シィカパ。
今の彼には人間を襲い、殺すだけの力もなかったのだ。
「ふっふっふ・・・安心したまえ。私は敵じゃない・・・」
男はそう言うと口元をゆがめて笑みを浮かべた・・・。
 
<都内某所 15:51PM>
気を失った浩平をベッドに寝かせ、二人の少女はようやく肩の荷が下りた、とばかりにため息をついて床に座り込んだ。
「あうう〜〜」
栗色の髪の少女がそう言ってぐったりと床に寝ころんでしまう。
それを見たもう一人の少女が立ち上がって台所に行き、お茶を入れたコップを二つもって戻ってきた。
「はい、どうぞ」
そう言って片方を栗色の髪の少女に渡す。
「ありがと・・・」
コップを受け取り、一気に飲み干す二人の少女。
「はぁぁぁぁ・・・生き返ったわ・・・」
栗色の髪の少女がそう言ったのでもう一人の少女は笑みを浮かべた。
「・・・あたし、神尾観鈴。よかったらお名前、教えて欲しいな?」
笑みを浮かべたまま、少女がそう言ったので、栗色の髪の少女は少し考えてから、名乗ることにした。
「沢渡真琴。真琴で良いよ」
「じゃ、あたしのことも観鈴で良い」
にこにこ笑みを浮かべて観鈴がそう言った時、ベッドの上の浩平がうめき声を上げた。
慌てて二人がベッドの側に寄る。
「真琴さん、この人、知り合いなの?」
「違うわよ。ただ目の前で急に倒れたから・・・」
苦しそうに息をしている浩平を見ながら二人はおろおろしていた。
「と、とにかく一度お医者様に見せた方が・・・」
そう言って立ち上がろうとして観鈴の手を、浩平の手ががしっと握って引き留めた。
「ま・・待ってくれ・・・医者はダメだ・・・」
うっすらと目を開けて浩平がそう言う。
「医者はダメだって・・・そんなこと言っている場合じゃないでしょ!あんた、死にそうなのに!」
そう言ったのは真琴だ。
「・・・イヤ・・・頼む・・・しばらく寝かせてくれればこの症状は治まるんだ・・・それに・・・」
「それに?」
「俺は・・医者が嫌いなんだよ・・・」
そう言って浩平はまた目を閉じた。
同時に観鈴の手を掴んでいた彼の手からも力が抜ける。
「・・・どうしよう?」
「・・・真琴に言われても・・・」
二人は顔をつきあわせて困っていた。
 
<関東医大病院 15:52PM>
秋子が息を荒げて廊下を走り、名雪と祐一のいる病室、701号室の前まで戻ってきた。
息を整えるようにその場で一度深呼吸をし、ドアノブに手をかけるが動かない。
中から鍵をかけているようだ。
秋子の顔色が変わる。
(やっぱり・・あの祐一さんは・・・)
先ほどから胸に去来していた不安が現実味を帯びてくる。
秋子はドアから少し離れると、精神を集中させるように一度目を閉じた。
何かの力が発生し、目を閉じている秋子の周りに渦巻いていく。
カッと目を開く秋子。
その瞳が金色の光に覆われていた。
ガキッ!!と言う音がしてドアノブが回る。どうやら何らかの見えない力が働いてドアの鍵を破壊したようだ。
ドアを押すようにして開け、中に入った秋子が見たものは・・・。
名雪を抱きかかえた祐一が今にも窓から飛び出そうとしている光景だった。
「待ちなさい!!」
鋭い声で秋子が呼びかけると、祐一は振り返り、意外そうな顔をした。
「意外と早かったですね・・もう少し騙せると思っていたんですが・・」
そう言うと、観念したかのように名雪をベッドにおろし、両手を上げる。
「貴方は一体・・・何が目的で?」
祐一さんになりすましたんですか?
目の前にいる祐一を見て、そう尋ねる秋子。
「ははっ・・・流石水瀬秋子さんだ。何時俺が相沢祐一じゃないって思ったんですか?」
祐一がそう言って笑みを浮かべた。
少しも恐れている節はない。
「香里ちゃんに貴方が『美坂』と呼びかけた時かしら・・・祐一さんは香里ちゃんのこと、『香里』って呼び捨てにしていたから」
油断無く相手を見ながら秋子が答える。
「やれやれ・・・事前調査は完璧だったつもりだったけど・・・まだまだだった訳か」
祐一は、イヤ祐一に変装したその男は苦笑を浮かべてそう言うと、両手をおろし肩をすくめた。
何処か道化じみた仕草。
やけにオーバーなリアクションをする。
秋子はこの男にかなり危険なものを感じていた。
男が両手をポケットに突っ込もうとしたその時、再び秋子がそれを鋭い声で制した。
「動かないで!動くと・・・」
「おっと・・貴女の言うことに逆らいはしませんよ・・・貴女の力のことは聞いていますからね」
再び両手を上げる男。
「そうそう、俺の目的でしたよね、貴女の知りたいことは?」
男はそう言ってにやりと笑った。
その笑みに秋子がはっとなった時、男はいきなり手に隠し持っていた発煙筒を床に投げ捨てた。
一気に病室が煙に包まれる。
「俺の目的はね、秋子さん、あんたの娘さんを俺のスポンサーの所まで連れて行くことさ!!」
煙の中、男の声がする。
秋子は口を手で覆いながら、再び目を閉じ、精神を集中させた。
「そうは・・させません!!」
再び彼女が目を見開いたのと同時に、病室中に充満していた煙が窓の外へと吹き飛ばされる。
そしてまたしても秋子の瞳の色が金色に変化している。
煙が吹き飛ばされたことにより、男は自分の不利を悟ったようだ。
抱きかかえようとしていた名雪をまたベッドに戻し、両手を上げて窓際に後退する。
「いやはや、参ったな、こりゃ・・・話には聞いていたけど・・・これほどとは思っていませんでしたよ・・・」
苦笑を浮かべる男。
「私の力のことを知っているなら・・私の質問に答えなさい。貴方のスポンサーは一体・・・」
秋子がそこまで言った時、音もなく、一人の女性が病室の中に現れた。
その女性を見た秋子の顔色が変わる。
「はぁぁ・・・だから言ったじゃない・・・秋子姉さんにあんたが敵うわけがないって」
女性は男を見てそう言うと、ため息をついた。
それから秋子の方を振り返り、頭を下げる。
「お久しぶりです、秋子姉さん。25年ぶりかな?」
「・・葵・・・貴女がどうして・・・?」
葵と呼ばれた女性は笑みを浮かべると、
「決まっているじゃない。私達が動き出したのは、あれが始まったからよ」
「あれが始まった・・・まさか・・・!?」
顔面蒼白になる秋子。
すっと名雪を見、それから葵ともう一人、男を見る。
「ふふ・・・今日の所は退散するわ。秋子姉さんを相手にして勝てるとは思えないし・・・それにこの子の覚醒もまだのようだし・・・」
葵はそう言うと、にっこりと笑った。
「この子が覚醒する前に連れて来いってのが大婆様のお達しだけど・・・今の秋子姉さんを相手にするにはちょっと私やキリト君じゃきついからね・・・何と言っても一族最強の力を持つ姉妹の片割れだし・・・」
「葵、貴女はまだ・・・・」
「それじゃ姉さん、またこの子が覚醒した頃に来るわ。じゃあね。キリト君、行くわよ」
葵はそう言うと、キリトと彼女が呼んだ男の腕をとって身体を密着させた。
葵の目が金色の光を帯び、その姿が消えていく。
秋子はそれを呆然と見ていることしか出来なかった・・・。
これだけの騒ぎがあった中でもまだ名雪は眠っている。
秋子はそんな娘を見、哀しげな表情を浮かべた。
「まさか・・・名雪が・・・」
 
<N県某山中 16:03PM>
夕暮れも近く、そろそろ辺りが薄暗くなってきていた。
山道を歩くハイキング客の足取りも速い。
「やれやれ・・・もう少し早い目に降りとけばよかったな・・・」
そう呟きながら脚を進めるハイキング客。
その姿を木の陰から見つめている姿があった。
カガヅ・ボバルである。
怪人体になり、口からよだれをたらせながらじっとハイキング客を見ている。
我慢出来なくなったのかカガヅ・ボバルが山道へと飛び出していく。
「うわぁぁぁぁっ!!」
突如目の前に現れたカガヅ・ボバルを見て悲鳴を上げるハイキング客。
カガヅ・ボバルが大きく口を開け、ハイキング客に迫っていく。
その頃、祐は郁未と共に同じ山道の少し上の方を下に向かって歩いていた。
「別に送ってもらわなくても良いのに」
「いえ、何かあったら大変ですから」
二人がそんなことを話しながら歩いていると、やや下の方から悲鳴が聞こえてきた。
その悲鳴に祐の顔つきが変わる。
「・・・行って来て!特訓の成果を見せてあげなさい!」
「はい!」
郁未に頷いて見せ、祐は走り出した。
走りながら両手を交差させて前に突き出す。
「変身!!」
素早く左手を腰まで引き、右手で十字を描き、その左右の手を入れ替える。
腰にベルトが浮かび上がり、その中央が光を放った。その光の中、祐の姿が戦士・カノンへと変化していく。
白いカノンが悲鳴の聞こえた現場に到着した時、今にも一人のハイキング客がカガヅ・ボバルの牙の餌食になろうとしていたところだった。
カノンはジャンプして、カガヅ・ボバルの頭に膝を叩き込むと、素早くハイキング客を振り返り、
「早く逃げて!!」
「は、はいっ!!」
腰を抜かしかけていたハイキング客が必死にその場から走って逃げていく。
それを見てからカノンはカガヅ・ボバルの方を振り返った。
同時に飛びかかってくるカガヅ・ボバル。
それをかわすことが出来ずにカノンはカガヅ・ボバルと一緒に地面に倒れ込んだ。
地面を転がりながら互いに首を絞めようとしたり、引き離そうとしたりする。
カガヅ・ボバルは大きく口を開くとカノンに噛みつこうとした。
必死によけるカノン。
今度は国崎の助けもない。
「くっ・・・」
何度も何度も迫り来る牙をかわし、カノンはカガヅ・ボバルの隙をついてパンチを食らわせた。
殴られた場所を押さえてのけぞるカガヅ・ボバル。
そこに更にパンチを食らわせ、カノンは更に膝も後ろから叩き込んでいく。
背にカノンの膝に一撃を食らい吹っ飛ばされるカガヅ・ボバル。
カノンは素早く立ち上がると、カガヅ・ボバルの方を見た。
カガヅ・ボバルはカノンが立ち上がったのを見ると、森の中へと逃げ出していく。
「逃がすか!!」
そう言ってカノンも森の中へと駆け込んでいった。
その様子をじっと郁未が見ている。
「・・・誘い込まれたわね、カノン・・・」
そう呟いた彼女の後ろに異形の影が姿を現した。
「高槻博士が改造変異体を三体程送り込んだとの情報が先ほど・・・」
「高槻が!?」
驚いたように振り返る郁未。
「あの馬鹿・・・何をやるつもりよ・・・・」
そう言って郁未が木の幹をどんと叩く。
「カノンはまだ死なせてはいけないわ・・・その三体の改造変異体を牽制しなさい。少なくてもあのヌヴァラグをカノンが倒すまで・・・」
「解りました」
異形の影が現れた時と同じように音もなく姿を消す。
残された郁未は舌打ちをすると、再び木の幹をどんと叩いた。
 
<都内某所(観鈴の家) 16:25PM>
観鈴はようやく苦しげな息の治まった浩平の額に濡らしたタオルを置き、少し安心したような笑みを浮かべて部屋を出た。
隣の部屋では真琴が心配そうに観鈴を見ている。
「もう大丈夫・・・ようやく落ち着いたみたい・・・」
そう言って真琴の前に腰を下ろす。
「あう〜・・・ゴメンね、何の役にも立たなくて・・・」
「ううん、そんなこと無い。真琴さんえらいと思う。観鈴ちん一人だったらあの人ここまで運べなかったし、それに助けたかどうかも解らないし・・・」
真琴が本当に済まなさそうな顔をしたので慌ててそう言う観鈴。
「・・・何か・・・昔知っていた奴に似ていたの・・・助けた理由はそれだけ・・・」
不意に真琴がそう言った。
その顔は・・・観鈴がどきっとするくらい大人びていた。
「あ、あの・・・その・・・昔知っていた人って・・真琴さんの・・・?」
おそるおそる聞く観鈴。
「・・・真琴にとってはお姉ちゃんみたいな人の恋人・・・でもないか。意地悪で・・・自分勝手で・・・でも、たまに優しくして・・・」
そこまでいて真琴は俯いてしまう。
観鈴は自分が余計なことを聞いてしまったと思い、やはり俯いてしまう。
「・・・あいつは・・みんなを助けるために・・・」
真琴が呟くようにいう。
あの日・・・彼は帰ってこなかった。
後で聞いた話に寄ると、最後に現れた怪人と相打ちになったという。
それを聞いた真琴の胸にぽっかりと穴が開いた。
悲しさも、寂しさも、全てその穴に吸い込まれ、彼女はふさぎ込むことすら出来なかった。
「・・・祐一の・・・馬鹿・・・」
真琴の目から涙が落ちる。
観鈴は何も言わずに黙り込んでいた。
少しの間沈黙が続く。
と、涙をふいて真琴が顔を上げた。
笑みを浮かべて観鈴を見る。
「ほら、そう言う話はやめにしよ!あ、ちょっと電話貸してね!」
そう言って電話の受話器を取り、何処かへとかける。
観鈴は呆然とそれを見ているしか出来なかったが、何となく真琴が無理をしているように見えていた。
「・・・あ、美汐?今ねぇ・・・ちょっと色々あって今日帰るの遅くなりそうだから・・・先に晩ご飯食べてても良いから・・・あれ、そうだっけ?・・・うん、帰る時又電話するね」
それだけで電話を切る真琴。
「さて、あいつの様子は、と・・・」
真琴はそのまま隣の部屋に続くふすまを開ける。
浩平はまだ眠っていた。
安心したかのように真琴は頷いた。
「ねぇ、観鈴・・・観鈴の家族は?」
振り返りもせずに真琴が聞くと、観鈴は
「お母さんがいるけど・・・多分今日も仕事で遅くなると思う。だからあの人寝かせていても大丈夫」
そう言って笑みを見せる。
真琴は振り返ると呆れたように観鈴を見た。
「あんたねぇ・・男はオオカミなのよ?いくら助けてあげないといけないへろへろの男だって回復したら何するかわかったモンじゃないんだから・・・もう、仕方ない!真琴がついていてあげるわ!」
そう言って真琴は観鈴の前に座った。
そしてにっこりと笑みを見せる。
「にはは・・・」
観鈴もつられたかのように笑みを浮かべた。
 
<N県某山中 16:32PM>
森の中、カノンは何時しかカガヅ・ボバルの姿を見失っていた。
「何処に行った・・・?」
きょろきょろと周囲を見回すがカガヅ・ボバルの気配すらしない。
イヤ、殺気が周囲を包み込んでいる。
油断無くカノンが歩いている・・・その近くの木の枝にカガヅ・ボバルの姿があった。
じっと下を歩いているカノンを睨み付けている。
カノンが真下まで来た時、カガヅ・ボバルが枝だから飛び降りた。
それに気付いたカノンが後ろへと飛び退く。
着地したカガヅ・ボバルは身をかがめ、カノンに飛びかかった。
その手を掴み、受け流すカノン。
空中で一回転し、着地するカガヅ・ボバル。
一定の距離を取り、睨み合う両者。
互いに動かない。
と、不意に風が二人の間を吹きながれた。
その風に落ち葉が巻きあげられていく。
次の瞬間、両者は駆け出していた。
交差する一瞬、カノンのエルボーがカガヅ・ボバルの顎に命中する。
カガヅ・ボバルの攻撃をカノンは完全にかわしきっていた。
顎を押さえてよろけるカガヅ・ボバル。
振り返ったカノンは左手を腰に当て、右手を手のひらを上にして前に突き出した。
「ハァァァァァァァ」
息を吐きながら気を溜めていく。
だが、その動きは前と違いかなり早い。
右手がある一点まで来ると、両手を斜め下に広げ、右足を後ろに下げ、腰を落とし、カノンは走り出した。
その右足に光が宿っていく。
駆け出すごとに光の粒子がカノンの右足からこぼれるように・・・そしてカノンがジャンプした。
空中で身体をひねり、右足を突き出す!
「ウオオリャアァァァっ!!!」
雄叫びを上げながらカノンのキックが未だよろけていたカガヅ・ボバルに命中する!!
今までとは違い、勢いのついた、そして威力を増したキックを食らい、カガヅ・ボバルが吹っ飛ばされる。
キックの命中した場所には古代文字が浮かび上がっており、そこから全身に向かって光のひびが入り・・・カガヅ・ボバルは断末魔の悲鳴を上げることすらなく、爆発した。
どうやらカノンが喰らわせたエルボーがカガヅ・ボバルの顎を砕いていたようだ。
爆発がうんだ黒煙を見ながら、カノンはその場に立ちつくしている。
と、その時、いきなり後方から何かが飛びかかってきた!!
「何!?まだいたのか!?」
「カノン、死んで貰う!!」
カノンの背に飛びかかってきたのはトンボのような怪人だった。
トンボのような怪人はカノンを抱えたまま、ジャンプし、空中を滑空する。
「くそ!離せっ!!」
必死にもがくカノンだが、トンボのような怪人は手を離さない。
「お前がいると我々の聖戦が邪魔される。だから・・死んで貰う!!」
トンボのような怪人はそう言うと、更にスピードを上げた。
その先は・・・大きく切り立った崖がある。
「この!!」
何とかしようともがくが、空中で、しかも足場もないから今ひとつ力のでないカノン。
トンボのような怪人が崖の真上へと飛び出した。
「さらばだ!カノン!!」
そう言ってカノンを捕らえていた手を離す。
「ウワァァァァッ!!」
流石のカノンも空を飛ぶことは出来ない。
真っ逆様に落下していくカノン・・・。
 
Episode.18「疑惑」Closed.
To be continued next Episode. by MaskedRiderKanon
 
次回予告
崖の上から下へと落とされたカノンの運命は!?
更に出現する新たな未確認生命体!!
美凪「・・・大丈夫?」
国崎「こいつ・・・全く歯が立たないじゃねえか!!」
運命に導かれるかのように浩平もN県へと向かう。
そこで彼を待つものは・・・?
浩平「俺には・・・もう無くすものなんか無いからな・・・」
留美「PSK−02・・・完成は間近です」
新たな出会い、そして再会・・・。
運命は何処まで彼らを翻弄するのか?
舞「・・・祐一?」
次回、仮面ライダーカノン「危急」
目覚めの時は近い・・・!!

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