<調布市 16:58PM>
未確認生命体第17号が赤くなったカノンに倒されたのを見た国崎往人は変身を解いた祐に向かって自分の親指を立ててその健闘をたたえた。
それからライフルを肩に担いで自分の覆面パトカーに戻ろうとして、ようやく道の中央に止まっているフロントガラスのないライトバンに気がついた。
それを見て、国崎は首を傾げる。
この道は第17号対策のために封鎖されていたはずなのだ。一般の車両が入ってこれるはずがない。
ライトバンに近寄りながら国崎はそう考えていた。
ライトバンのそばまで来て、彼はその中に三人の女性が居ることに気付き、慌てて駆け寄った。
「大丈夫か!?」
「は、はい・・」
運転席に座っていた一番年上の女性、水瀬秋子が国崎を見て頷いた。
助手席にいる美坂栞は気を失っているようでぐったりと背もたれに身体を預けている。
もう一人、後部座席にいる女性・・・水瀬名雪は今も変わらず寝息を立てて眠っていた。
「・・・後ろのお嬢さんは無事のようだな・・・」
国崎はそう言って安心したように笑みを浮かべた。
秋子も苦笑を浮かべる。
「とりあえずそっちのお嬢さんを何とかしないとな・・・動くか?」
「あ、はい、何とか・・・」
そう言って秋子がキーを回すとエンジンがかかった。
「よし、俺の知り合いの所に行こう。ついてきてくれ」
国崎はそう言うと自分の覆面パトカーに向かった。
 
仮面ライダーカノン
Episode.17「黒翼」
 
<関東医大病院 17:42PM>
霧島聖はまたも不機嫌そうな顔をして国崎を睨み付けている。
二時間程前に妹の佳乃から電話があってようやく和解し、とりあえず何とか帰ることが出来そうになったその時に国崎が三人もの客を連れてきたのである。
「・・・全く君はどうして私が帰ろうとすると決まってやってくるんだ?」
「そう言うことを言われてもな・・・」
困ったような顔をする国崎。
彼が連れてきた三人、秋子、名雪、栞は今治療を受けている。もっとも名雪だけは秋子の申し出を受けて検査も一緒に受けているのだが。
「また佳乃に文句を言われてしまうな。それも君の責任だ」
不機嫌そうに聖は言った。
「しかし・・・あの名雪という女性だが・・・先ほど彼女の母親の話を聞かせて貰ったがなかなか面白いな。そう言っては不謹慎だが」
「俺も話を聞いただけじゃ信じられなかったがな。まさか5年間も眠り続けているなんて・・・」
そう言って国崎は聖を見た。
「どういう事かわかるか?」
「そっちは専門じゃない」
聖はそう言って言葉を切った。
「詳しいこともまだ検査中だ。今は何とも言えないな」
「そうか・・・俺は本部に戻る。後は頼む」
「・・・わかった、とは言わないぞ。これ以上私の仕事を増やさないでくれ」
歩き出した国崎にそう言い、聖はため息をついた。
結局仕事が増えてしまいそうだ。
また佳乃に文句を言われるかもしれない。
そう思うと憂鬱になる。
妹離れしていないのかもしれないな・・・聖はそう考えて苦笑を浮かべた。
 
<警視庁未確認生命体対策本部 18:02PM>
国崎が未確認生命体対策本部に戻ってくると神尾晴子と住井護がまた出ていこうとしているところだった。
「おい、また何かあったのか?」
住井を呼び止め、国崎は何事か尋ねてみる。
「第2号です!第2号が出たんですよ!」
「炸裂弾が第17号に効いたんや!第2号もこいつで一気に行くで!!」
晴子が振り返ってそう言った。
頷き住井は晴子を追って走り出した。
「第2号か!!今度は・・・」
国崎は先ほどまでの疲れも何のその、と言った感じで晴子達を追って走り出した。
 
<練馬区光が丘公園 19:21PM>
ライフルを持った警官達が公園の中を走っていく。
その中にはもちろん国崎や晴子、住井の姿もあった。
「居候!そっちや!住井はあっちから回り込むんや!囲んで一気に行くで!!」
晴子がそう言って指示を出し、自らも走り出す。
頷き、国崎は数人の警官を連れて別方向へ走る。住井の彼女の指示に従い、数名の警官を伴って違う方向へと走った。
彼らが追っているのは黒い服を着た男・・・未確認生命体第2号と呼ばれている存在である。
第2号は公園の中を警官をかわすかのように必死に逃げまどっていた。
「ゴ・・・ゴゴジェ・ギャダデヅ・ヴァゲミバ・・・」
ハァハァと荒い息をしながら第2号・ガダヌ・シィカパは木にもたれて左右を見回した。
数名の警官がその近くを走り抜けていく。
「サジャジャ・・・サジャ・・・」
ガダヌ・シィカパはそう呟くと空を見上げた。
空はもう暗くなっており、今なら変身して空を飛べばおそらく黒い翼が空の色にカモフラージュされて見つかることなく逃げることが出来るだろう。
しかし、今は空を飛んで逃げられない理由がガダヌ・シィカパにはあった。
夜に空を飛べない理由・・・それは鳥型怪人が持つ不可避な物。
「いたぞ!!」
誰かが木の陰に隠れているガダヌ・シィカパを見つけ、大きい声を上げた。
慌ててその場から逃げ出すガダヌ・シィカパ。
「逃がすか!撃てっ!!」
晴子がそこに追いついて来、ライフルを構えた。
一斉に警官達もライフルを構え、次々に引き金を引く。
逃げようとしているガダヌ・シィカパの背中にライフルから発射された炸裂弾が次々と命中するがそれでも足を止めない。
炸裂弾が文字通り炸裂するが、ガダヌ・シィカパは少しよろめいただけであった。
「この!逃がすかよ!!」
そう言って住井が逃げるガダヌ・シィカパの前に躍り出た。
素早くライフルを構え、引き金に指をかける。
いきなり前に現れた住井にガダヌ・シィカパは一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに人間体から怪人体へと変身し、目の前の住井に襲いかかった。
住井は慌てて引き金を引いたが、炸裂弾はガダヌ・シィカパに当たらず、逆にガダヌ・シィカパにライフルを弾き落とされてしまった。
素早く拳銃を取り出し、ガダヌ・シィカパに突きつけようとする住井だが、その手をぎゅっとガダヌ・シィカパの手が掴み、ひねりあげる。
「ぐあっ・・」
物凄い力でひねりあげられた彼の腕がミシミシと悲鳴を上げたその時、ガダヌ・シィカパの腕に炸裂弾が命中、小さな爆発を起こした。
思わず住井を掴んでいる手を放してしまうガダヌ・シィカパ。
「大丈夫か、住井!?」
そう言ったのはライフルを構えている国崎だった。
彼は二度三度と引き金を引き、炸裂弾を確実にガダヌ・シィカパに命中させていく。
小さな爆発が次々と起こり、よろけるガダヌ・シィカパを見て、住井は大急ぎでその場から離れた。
「ロモデ・・・ゴモササ・ジェバ・ヌマナヲ!!」
ガダヌ・シィカパは初めに炸裂弾を喰らった腕を押さえながらその場から逃げ出した。
二、三歩歩いてから意を決したように黒翼を広げて空に舞い上がる。
「この野郎、逃がすか!!」
そう言ってライフルを上に向けるが、既にガダヌ・シィカパの姿は空の闇に消えて見えなくなってしまっていた。
「くそっ!」
国崎は悔しそうに空を見上げた。
そこに晴子達がやってくる。
「第2号は?」
国崎は答えず、無言で指を空に向けた。
それを見た晴子も悔しそうな顔をして空を見上げた。
暗い空にはもう何も見えなかった。
 
<喫茶ホワイト 09:39AM>
ガレージの中で祐がロードツイスターに跨って何やら難しい顔をしている。
そのそばにはこのロードツイスターを作った本坂もいた。
「どうだ?」
「・・・ダメですね・・・昨日帰ってくるまでは大丈夫だったんですけど」
そう言って祐はロードツイスターから降りた。
「昨日第17号との戦いで思い切り吹っ飛ばされましたから・・・そのせいだと思います」
エンジンあたりをさわっている本坂に向かって祐が言う。
しばらく本坂はエンジンやら色々とさわっていたがやがておもむろに立ち上がると祐を振り返った。
「一度持って帰って調べてみる。とりあえず二日か三日はかかると思うからそのつもりでいろ」
本坂はいつもと同じく不機嫌そうな顔をしてそう言うと、店の前に止めてあった軽トラックへとロードツイスターを運んでいく。
「出来る限り急いでお願いします。いつ未確認が出るか解らないから・・・」
「解ってる。それと前に言っていた無線だが、修理ついでにつけておいてやるから安心しろ」
本坂を手伝ってロードツイスターを押しながら祐は頷いた。
国崎が協力者になってから連絡を取れるように何とかしろと祐はずっと言われており、本坂に相談してロードツイスターに無線を搭載することにしたのだ。だが、その無線自体が本坂の店になかなか届かなかったのと、本坂の本業が忙しかったのとが重なり、今日まで無線は搭載されることなくおいて置かれたのだ。
本坂の軽トラックにロードツイスターを積み込み、本坂が自分の店に帰っていってから祐はため息をついた。
これで少しの間だが相棒とも言えるロードツイスターはそばにない。
未確認が出たら自分一人で戦わなければならないのだ。まぁ、今までも一人で戦ってきたのだが。
とりあえず祐は頭をかきながら店の中へと戻っていった。
 
<警視庁未確認生命体対策本部 10:14AM>
未確認生命体対策本部は何時になく緊張感に包まれていた。
本部長鍵山が全員を集め昨日取り逃がした第2号についての対策会議が行われているのだ。
「後一歩まで追いつめておきながらとどめを刺せなかった・・・これは一体何を意味するか。解っているか、諸君?」
誰も無言で鍵山の次の言葉を待っている。
「新開発された炸裂弾すら通じない。今の警察の装備では未確認生命体を倒せない。そう言うことだ」
重苦しい沈黙が室内を包み込む。
「これまでの未確認は第3号が倒してきました。もし第3号と協力出来れば・・・」
そう言ったのは住井だった。
「でもそれは危険とちゃうか?3号かて未確認は未確認や。何時うちらに襲いかかってくるかわからへんで?」
晴子がそう言って住井を見る。
住井はそんな晴子を見て心外そうな顔をした。
「神尾さん、貴方何時か3号に助けられたって言っていたじゃないですか!3号は良い奴かもしれないとも」
「こ、こら!何言うとんねん!!」
かなり慌てた様子で晴子は住井の口をふさぐ。
「その話は本当かね、神尾君?」
鍵山がそう言って晴子を見る。
晴子は鍵山にじっと見つめられて観念したように頷いた。
「あれは第4号の時です。確かにうちは3号に助けられました」
「第3号は我々を守って戦っているような節があります。現場に居合わせた者はみんな知っていることです!」
我が意を得たり、とばかりに住井が言う。
「偶然かもしれないぜ、それは」
そう言ったのは国崎だった。
「確かに第3号は他の未確認を倒しているが、それが俺たちのためかどうかは解らない。自分の闘争本能を満足させるためかもしれないだろ?」
「ですが!」
住井が国崎を見て反論しようとするのを鍵山が制した。
「とりあえず今は第2号だ。何処に逃げたのか・・・そして何処へ行こうとしているのか、それが解れば対策の一つも出しやすくなる」
「炸裂弾は一応の成果がありました。今は科警研に依頼して更に強力な炸裂弾を開発して貰っています」
晴子がそう言い、頷く鍵山。
そこに一人の婦人警官が息を切らせて駆け込んできた。
「未確認生命体の目撃情報です!」
その言葉に騒然となる室内。
「場所は!?」
「八王子です!西に向かって飛行中とのことでした!」
「西・・・?」
そう呟いて国崎は首を傾げた。
八王子から西にあるところ・・・。
「まさか・・・奴は・・・」
他の者が出ていく中、一人残った国崎は鍵山を見た。
「本部長、俺・・・イヤ、私に単独行動させてください!」
「国崎君?」
「第2号の行く先・・・多分N県です!あそこなら俺に!」
鍵山は少しの間黙って彼を見ていたがやがて頷いた。
「許可しよう。N県警にも連絡を入れて置くから協力して第2号の捜査に当たってくれ」
「ありがとうございます!」
そう言って頭を下げた国崎はすぐに対策本部を出、自分の覆面パトカーに乗り込んだ。
警視庁から出てから彼は住井の言ったことを思い出していた。
「まぁ、確かに第3号・・・カノンと協力して未確認をたたくことが出来れば楽なんだけどな。あいつがそれを拒否するから・・・」
国崎が言う「あいつ」とは祐のことだった。
祐はどうも警察を避ける傾向があったので(色々と怪しいところもあるのだろう)国崎は彼がカノンだと言うことはもちろん他の警官には話していない。それどころかカノン・・・第3号が味方であり、本当は同じ人間であることすら隠していた。
だからこそ国崎はああいう態度をとったのだ。
「まぁ・・ばれたらばれたで良いんだろうけどな・・・」
そう呟き、彼は覆面パトカーをN県方向ではなく、あるところに向かわせていた。
 
<城西大学考古学研究室 10:52AM>
美坂香里はパソコンの画面を見ながら、しかし、あまり落ち着いてはいなかった。
妹である栞と親友である水瀬名雪とその母親・秋子が東京に来たとたん未確認生命体第17号に襲われたと言うからだ。幸い命に別状はないが、栞はショックが強すぎて入院、秋子も軽い怪我を負い、一応念のために病院で一晩を過ごすことになったようだ。
「はぁぁ・・・」
ため息をつき、立ち上がろうとして、また椅子に腰を下ろす。
今更どのような顔をして妹と会えと言うのか。
妹は絶対に私を許さないだろうし、自分も許してくれと言うつもりはない。これは自分が選んだことなのだ。
「香里さん、入りますよ」
そう言って研究室のドアがノックされた。
「祐さん?良いわよ」
香里がそう言うと、ドアを開けて祐が入ってきた。
「何か新しいこと、解りました?」
香里のそばに来てパソコンの画面をのぞき込む祐。
「特にないわ・・・昨日言っていた赤いカノンのこともまだ検索中だし。その代わりだけど・・・」
香里はマウスを手にすると、すっすっと動かし、別のウインドウを開いた。
そこには今まで見せて貰った古代文字とはまた別の古代文字が写されている。
「これは?」
「ビサン・・・そう読むの。この古代文字を書き残した民族、それがビサン」
説明する香里を祐は振り返った。
「そしてこれが・・・」
そう言ってまた別のウインドウを開く。
「未確認生命体の総称・・・ヌヴァラグ」
「ヌヴァラグ・・・これがあいつらの・・・・」
祐の顔に緊張の色が浮かぶ。
「今まで解読した碑文の『邪悪なる者』とか言う部分はほぼ全てこの『ヌヴァラグ』という言葉に置き換えても良いわ」
香里がそこまで言った時、彼女の携帯電話が呼び出し音を鳴らした。
「ちょっとごめんなさい」
そう言って携帯電話をとる。
「はい、美坂ですが・・・」
『国崎だ。そこの祐の字はいるか?』
「いるけど?」
『だったら話が早い。ちょっと変わってくれ』
香里は話し口を指で押さえるとまだ画面に見入っている祐に携帯電話を渡した。
「俺ですか?」
「国崎から」
「はい・・・・はい、祐ですけど・・・」
『今から良いか?お前にもつきあって欲しいんだが』
「どうかしたんですか?」
『第2号が出た。N県に向かっているらしい。悪いがお前もつきあってくれ』
「つきあうのは良いんですけど・・・今ロードツイスター修理中なんですよ。どうやって・・・」
『今、城西大学のそばまで来ている。校門のところで待っていてくれ』
「解りました」
祐はそう言って通話ボタンを切ると、携帯電話を香里に返した。
「また何かあったの?」
「第2号が現れたそうです。N県に向かっているそうなんで国崎さんと行ってやっつけてきます」
そう言って祐は笑みを浮かべた。
香里も笑みを浮かべて、
「頑張ってね、祐さん」
そう言って研究室を出ていく祐を見送る。
と、祐が研究室のドアのところで立ち止まって彼女を振り返った。
「香里さん、昨日はありがとうございます。佳乃ちゃん、元気になりました。次は香里さんが妹さんと仲直りする番だよぉって言ってましたよ、佳乃ちゃん」
少しだけ佳乃の口調をまねして祐は言い、今度こそ研究室を出ていった。
一人研究室に残された香里はまたため息をついた。
「仲直り、か・・・」
そう呟いて天井を見上げる。
 
<城西大学校門前 11:08AM>
祐が城西大学の校門の前まで来ると国崎が覆面パトカーのドアにもたれて彼の来るのを待っていた。
「すいません、お待たせしました」
「ああ、本当に待った」
国崎はそう言うと、運転席のドアを開けた。
「早く乗れ。話は後だ」
「解りました」
頷いて助手席のドアを開け、乗り込む祐。
彼がシートベルトをしたのを確認すると国崎はアクセルを踏み込んだ。
覆面パトカーが軽快に走り出す。
「第2号が出たって聞きましたけど?」
「ああ、昨日一度追いつめたんだが逃げられちまった。その後行方不明だったんだが・・・ちょっと前に八王子で目撃されたらしい。どうもその進行方向がN県みたいなんだ」
運転しながら国崎は祐の疑問に答える。
「N県って言えば確か・・・」
「第0号が出たところだ。第2号が一体何の目的でN県に向かっているのか、そして何処に行くつもりなのか。全てが始まった場所に帰ろうとしている奴を追うことで少しでも第0号のことが解れば良いんだが・・・」
それを聞いた祐が視線を前に向ける。
「・・・茜さんとの約束、忘れていないんですね」
国崎は苦笑を浮かべた。
「正直言って忘れていたさ。第9号からは立て続けだったのに第16号から第17号までは2週間も空いている。今までのことを調べ直すのには良い機会だったがな」
「第0号・・・未だに何処に行ったのか解らないんですよね?」
「下手に見つけてもこっちの被害が増えるだけ、と言う気もするが・・・とりあえず発見はされていないらしい。何処に消えたのやら・・・」
それだけ言って国崎は黙り込んだ。
祐も同じように黙り込む。
覆面パトカーはN県目指して走り続ける。
 
<都内某所 12:21PM>
折原浩平はオンロードタイプのバイクを押しながら自分の後ろをちょこちょこついてくる少女・名倉由依をちらちら見ていた。
一体何処までついてくるつもりなのか。
バイクに乗って走り出そうとすると泣きわめいてそれを邪魔し、おかげで浩平はずっとバイクを押して移動する羽目になっている。
「ねぇねぇ、浩平さん、何処行くの?」
由依が後ろからのんきに声をかけてくる。
浩平は無視して歩き続ける。
これと言って目的地などない。ただ教団・・・彼の人生を狂わせた組織が何かやろうというのを全力で叩きつぶすだけだった。
「浩平さーん、お腹空かない?」
またのんきな声がしたが浩平はやはり無視した。
「浩平さーん」
無視。
「あー、そうなんだ、無視しちゃうんだ。良いの?折角教団のこと、話してあげようと思ったのに」
由依がそう言った時、浩平は足を止め、彼女を振り返った。
「・・・あのな、昨日から何度同じ事を言って俺をだましてきたんだ?」
ついつい不機嫌な口調で浩平は言ってしまう。
しかし、それは本当だった。
「教団のことを知っている」・・・そう言って近付いてきたこの少女は昨日何度浩平が聞いても一言も教団のことを話さなかった。
初めは教団の関係者か、と思っていた浩平だったがあまりにもはぐらかされるのでいい加減腹が立ってきたらしい。しかし、その度に由依は「教団のこと、知りたくないの?」と言い、蠱惑的な、その少女には不似合いな程魅惑的な笑みを浮かべて浩平を混乱させてきたのだ。
正体不明・・・浩平はこの少女にそう言う印象を抱いていた。
「今度は本当だよ。いい加減じらすのも可哀想だと思って・・・」
「ああ、そりゃどうも」
浩平は信じていない。
昨日も同じようにして何度もはぐらかされてきたのだ。
「男はさんざんじらした方がいいってお姉ちゃんが言ってたからね」
由依がそう言って笑みを浮かべる。
その笑みはこの少女の年相応の笑顔である。
「ああ、そりゃ大した姉さんだな」
いい加減イライラしながら浩平は答えていた。
どうしてこの少女にここまでつきあってしまうのだろう?
教団のことを知っているからか?
それとも誰かに似ているからか?
そう・・・死んだ・・・イヤ、殺された妹に・・・。
その考えを浩平はすぐに振り払った。
今目の前にいる由依という少女は彼の妹・みさおには似ていない。
妹は病気がちで・・・やせ細っていて・・・こんなにも元気はよく喋るような少女ではなかった。
それでも何処か・・・面影を重ねてしまうのだろうか。
「浩平さん?」
はっと我に返る浩平。
目の前にいる由依は首を傾げて浩平を見上げている。
「・・・話せ」
低い声で浩平は言う。
まるで先ほどの自分を見られたことを咎めるように。
「良いけど・・・でもここじゃねぇ」
そう言って由依は周囲を見回した。
確かに人通りの多い道端でするような話でもないだろう。
浩平は頷くと、同じように周囲を見回した。
「あそこなんてどうかな?」
そう言って由依が指さしたのは近くにある小さい公園だった。
 
<倉田重工第7研究所 13:02PM>
北川潤は久々にPSK−01の全装備を装着していた。
最後にこの装備を装着したのはもうどれくらい前だっただろうか?
少なくても1ヶ月は前ではないか?
そんなことを考えながら潤は完全修復され、更に改良が加えられたというPSK−01で、専用マシン・Kディフェンサーのそばに立った。
未確認生命体第7号、第8号との戦いでPSK−01は装着員である潤ごとかなりこっぴどくやられてしまっていた。
結果潤は入院してしまう程の重傷を負い、PSK−01もかなりのダメージを受け、また改修がされることになったのだ。
『北川くん、今回のシミュレーションは実践を想定したものよ。だから気を抜いていると貴方がやられると言うことを十分承知しておいてね』
モニター室からそんな声が無線を通じて聞こえてきた。
PSK−01を運用するチームのリーダー格、七瀬留美の声ではない。
この第7研究所に所属する研究員、深山雪見であった。
今、留美はN県に戻っており、PSK計画の新たな段階のために色々とやっている。その間、彼女に代わって雪見がPSK−01の全てを任されているのだ。
「解っています。お願いします」
潤がモニター室を見ながらそう言うと、窓ガラス越しに雪見が頷いた。
『シミュレーション、開始します』
その声と共に潤・・・PSK−01のいるシミュレーションルームが暗くなる。
潤は久々に緊張していた。
何しろ退院してから初めてのシミュレーションである。リハビリをし、体力は前まで位に戻っているはずだが、それでも彼は不安を隠せなかった。
暗がりから何かが姿を見せた。
潤は素早くオートマグナムを手にするとその照準を出現した何かにあわせる。
暗がりから現れたのは・・・何と未確認生命体第1号だった!!
ヤモリのような姿の第1号は下を伸ばしてPSK−01を攻撃してくる。
地面を転がってその舌をかわし、オートマグナムを発射した。
更に強化された弾丸が第1号に叩き込まれ、第1号はその場にのけぞって倒れてしまう。
続けて背後から蛸のような未確認生命体第7号が飛びかかってきた。
立ち上がろうとしていたPSK−01の背中に飛びかかってきた第7号が両腕でPSK−01の首を締め上げてくる。
PSK−01は肘を第7号に叩き込み、相手が怯んだところを背負い投げの要領で投げ飛ばした。
倒れた第7号を見てPSK−01はKディフェンサーに駆け寄り、高周波ブレードを左腕に装着した。
そして起きあがってきた第7号を一刀両断にする。
と、そこに蛇のような未確認生命体第8号が出現、第7号を倒して油断していたのか、PSK−01の左腕を蹴り上げ、高周波ブレードを吹っ飛ばしてしまう。
だがPSK−01は慌てることなくオートマグナムを第8号に向けて引き金を引いた。
至近距離からの銃弾を受け、吹っ飛ばされる第8号。
『第1レベル突破』
無線から雪見の声が聞こえてくる。
『続いて第2レベルに移行』
ぬっと第1号が現れる。
先ほどオートマグナムを喰らった傷など何処にもない。
今度は先ほどと違い、素早い動きでPSK−01に接近し、その体にパンチを食らわせるが、PSK−01は少しよろめいただけであった。
逆にパンチを食らわせ、PSK−01はオートマグナムを構えた。
容赦なく引き金を引く。
無数の弾丸が第1号に叩き込まれていく。
『第3レベルに移行』
第7号が触手を振り回しながらPSK−01を睨み付けている。
高周波ブレードは先ほど第8号との戦闘で失ってしまっていた。
それでもPSK−01は慌てず冷静に左の腰に装備されている大型ナイフを取り出した。
高周波ブレードとは長さがあまりにも違うが、それでもあの触手に対しては一番有効なのがこういう剣状の武器である。
それをPSK−01は経験から解っていた。
第7号が触手を振り下ろす。
それを右に左にかわしながら接近するPSK−01。
その機動性は今までとは比べものにならない。
一気に第7号に接近したPSK−01は大型ナイフを第7号に叩き込んだ。
『第4レベルに移行』
いきなり第8号が、PSK−01の頭上から飛びかかってきた。
その直撃を受け、倒れるPSK−01。
着地した第8号があっという間にPSK−01に詰め寄り、倒れているPSK−01の上に乗る。
素早く右手に持ったオートマグナムを向けるが、それを蹴り飛ばし、第8号がPSK−01の頭部を殴った。
「くっ・・・」
初めて潤が声を上げる。
二度三度とPSK−01を殴る第8号。
PSK−01は左手に持った大型ナイフを第8号の足に突き刺し、第8号がその痛みにのけぞっている間に起きあがると思い切り、仕返しとばかりに第8号を蹴り飛ばした。
吹っ飛ばされる第8号。
倒れた第8号に接近したPSK−01はそこに容赦なく大型ナイフを叩き込んだ。
『最終レベルに移行』
その声と同時に第1号、第7号、第8号が出現する。
PSK−01は立ち上がると素早くKディフェンサーに駆け寄った。
一斉に走り出す第1号、第7号、第8号。
それを横目にPSK−01はKディフェンサーの後部から大型の銃を取り出した。
その先端はまるでガトリング砲のようになっている。
これがPSK−01の新兵器、ブレイバーバルカンである。ガトリング部は秒間50発の特殊弾丸を発射することが出来、その中央部の砲からはグレネードを発射することが可能。
対未確認生命体用の兵器である。
「ブレイバーバルカンセットアップ!ファイア!!」
ガトリング部が回転しながら秒間50発の特殊弾丸を発射する。
その攻撃を受け、よろめく第1号、第7号、そして第8号。
PSK−01はガトリングを止めると、素早くトリガー脇にあるボタンを押した。
中央部が開き、そこからグレネード弾が発射される。
グレネード弾は未確認生命体達の中央に落下、爆発が起き、第1号、第7号、第8号が吹っ飛ばされていく。
その爆発が収まった時、すっとまた暗くなった。
『お疲れさま。全てのレベルクリア・・・流石ね』
無線から雪見の声が聞こえてくる。
潤は自分の手の中にあるブレイバーバルカンを見ながら荒い息をしていた。
「凄い威力だ・・・これなら・・・」
未確認にも勝てる・・・そう潤は思っていた。
 
<都内某所(小さな公園) 13:11PM>
また浩平は不機嫌そうな顔をしていた。
彼の隣には由依が座っておいしそうにサンドイッチを頬張っている。
「何時になったら話してくれるんだ?」
思わず由依を見て浩平はそう言ってしまう。
「慌てない慌てない。昨日と違って今日はいい天気なんだから外でお食事ってのもいいもんでしょ?」
そう言って由依は笑った。
憮然とした表情でそっぽを向く浩平。
この調子だと何時になったら話してもらえるかわかったものではない。
浩平はすっと立ち上がった。
「もう待てないな。俺は俺で独自に情報を探す。じゃあな」
そう言って浩平が歩き出そうとすると、由依がその背中に声をかけてきた。
「教団の掲げる聖戦、もう始まっているわ。それを止めることは出来ない・・・」
足を止め振り返る浩平。
「いえ、貴方なら止められるわ」
そう言って微笑む由依。
「・・・教団のいう聖戦・・・一体何なんだ?」
「聖戦よ・・・教団にとっての聖なる戦い・・・この地球にいる全ての人類をよりよき方向へと導く・・・その為には不必要なものを抹消する・・・」
「何っ!!」
浩平は由依の言葉に驚きを隠せなかった。
「・・・その為の・・・変異改造体・・・・」
呆然と呟く浩平。
彼は知っている。
教団のある施設内で作られている怪人達のことを。
しかし、その全てが教団の聖戦のための尖兵であり、人類をよりよき方向へと導くために邪魔となる存在を抹消するために作られていることを彼は今初めて知ったのだった。
「・・・人類をよりよき方向にって言ったが・・・」
そう言って由依を見たが、そこに由依の姿はもうなかった。
「・・・由依・・・?」
浩平が周囲を見回すが由依の姿はない。
その時、突如空中から何かが飛来し、浩平に飛びかかってきた。
それに気付いた浩平は素早く身をかがめて飛来した何かをかわした。
「流石だな、折原浩平!」
すっと着地した何かが立ち上がり浩平の方を向きながら言う。
それは直立したトンボのような姿の怪人だった。
「・・・レベル3の変異改造体か・・・その姿は・・B−06か?」
トンボ怪人をにらみながら浩平は言った。
「貴様は我らの聖戦にとって不必要と判断された!よってこの場で抹殺する!!」
そう言ってトンボ怪人が宙に舞い上がる。
その姿のモチーフとなったトンボのように空中を滑走するトンボ怪人。
浩平はその姿を目で追っていたが、やがて仕方なさそうに目を閉じた。そして、一瞬後、カッと目を見開く。
「変身っ!!」
彼の目が紫色に変化し、その身体にも変化が訪れる。
腰にベルトが浮かび上がり、その中央が光を放つ。
その光の中、ベルトから全身に向けて濃い紫色の第二の皮膚が覆っていき、更にその上に深緑の厚めの生体装甲が形成される。手には肘まで生体装甲が多い、その外側に一列に棘が並ぶ。手首の少し上に二本の鉤爪が現れ、一度しゃきんと伸び、再び手首に収まった。肘の先にも爪のようなとげが生えている。足も膝から下が厚い目の生体装甲に覆われ、膝には棘が、踵には天に向かって伸びている鉤爪が生えている。
頭部を覆う仮面には荒々しく左右に広がる角、鋭角的な赤い目、マウスガードには大きめの牙が備わっている。
戦士・アインに変身を完了させた浩平は右手を一振りして鉤爪を伸ばし、猛然とジャンプした。
空中を滑空するトンボ怪人はすっと上昇し、アインの攻撃をかわし、逆に蹴りつけた。
地面に落下し、叩きつけられるアイン。
「貴様が変身したとて同じ事!貴様は失敗作!この私は戦闘用に調整されている!貴様など相手にならない!」
トンボ怪人は地面に倒れているアインを見ながらそう言った。
アインは両手を地面について起きあがると恨めしげに宙を滑空するトンボ怪人を睨み付けていた。
 
<倉田重工第7研究所 13:38PM>
模擬戦闘シミュレーションが終わった後、潤はシャワーを浴びて汗を流し、タオルを首にかけたままモニタールームに入ってきた。
そこでは先ほどのシミュレーションの映像がモニターに映し出されている。
それを見ているのは雪見以外に、このPSK計画の発案者であり、現PSKチームの最高責任者となった倉田佐祐理、PSKチームの一員・斉藤、他にもこの第7研究所に勤める研究員が数名。
しばらく潤も黙ってモニターを見ていたが、やがて全ての映像が終了したようだ。
室内が明るくなる。
「新兵器・ブレイバーバルカンの性能は申し分ないです。これなら未確認生命体を相手に充分効果を発揮することが出来ると思います」
そう言ったのは雪見であった。
「警視庁の科警研が開発した炸裂弾、あれがこの間出た第17号に一応の効果があった、と聞いています。このブレイバーバルカンにはそれを越える威力の弾丸を使用していますから」
手元にある資料の束をめくりながら雪見は言う。
ぱっとモニターが付き、そこにブレイバーバルカンが映し出された。
「ガトリングモードでは秒間50発の弾丸を発射可能。それでダメージを与えた上でグレネードモードに切り替え、とどめを刺します」
資料を見、モニターを見、佐祐理は少しだけ表情を曇らせた。
「どうしましたか?」
雪見が尋ねると佐祐理は困ったような笑みを浮かべた。
「・・・これは一民間企業が持つようなものじゃないですね・・・」
「確かにそうですが、未確認生命体に対抗するにはまだ不十分だと考えています」
はっきりと雪見は言った。
「おそらく自衛隊の部隊が現状の装備で未確認生命体に立ち向かっても勝つことはおそらく無理でしょう。逆に・・・下手をすれば全滅の可能性も考えられます。それは・・北川主任が一番よくご理解なさっていることだと思いますが?」
モニタールームの片隅に立っていた潤を雪見が見る。
「未確認生命体と自らの体で戦った貴方には解るはずです。PSK−01はまだ不十分だと言うことが」
真剣な目で潤を見て言う雪見。
潤は何も答えようとはしなかった。
ただ苦笑を浮かべただけである。
「PSK−01はいわゆる試作機の範疇に入ります。今は七瀬さんが新たなPSK計画を進めるべくN県に戻っています」
佐祐理がそう言って雪見を見る。
「新たなPSK・・・PSK−02ですか?」
そう言ったのは斉藤であった。
「まだ正式名称は決定していませんが・・・そう言うことです」
佐祐理は斉藤の質問に笑みを浮かべながら返した。
と、そこに一人の男が駆け込んできた。
「都内に未確認生命体が出現したとの情報がありました!」
それを聞いて室内がざわめき立った。
「七瀬さんがいない時に・・」
斉藤がそう呟く。
「PSKチーム、出動です!」
佐祐理がそう言って潤を見た。
頷き、潤は首にかけていたタオルを手に持ってドアの方に向かった。
続く斉藤。
「深山さん、佐祐理と一緒にPSK−01のバックアップをしてください」
そう言って相手の返事も待たずに佐祐理が部屋を出ていく。
それを見て、雪見は苦笑を漏らし、彼女を追いかけた。
数分後、倉田重工第7研究所の裏門からKトレーラーが発進していった。
 
<N県内某所 13:45PM>
国崎は覆面パトカーを止めると近くにあった交番に駆け込んだ。
「電話借りるぞ!」
警察手帳を見せながらそう言い、受話器を手にする。
「捜査課を頼む・・・そうだ。警視庁未確認生命体対策本部の国崎だ。誰かいるだろう?」
どうやらかつて彼がいたN県警捜査課に電話をしているようだ。
少しの間待たされてからようやく相手が出たようだ。
「久しぶりだな・・まさかまだいたとは思わなかったが・・・」
少しだけ顔をしかめて国崎が言う。
どうやら応対に出た相手とはあまり仲がよくないらしい。
「ああ?・・・第2号だよ!本部から連絡が来ているだろう?・・・そっちじゃまだ確認してないのか?・・・解った!勝手にやらせて貰う!」
そう言って受話器を置く国崎。
「済まなかったな、邪魔した」
国崎が覆面パトカーに戻ってくる。
「どうでした?」
助手席に座っている祐が国崎を見てそう言った。
「ダメだ。こっちじゃまだ確認されていないらしい。・・・しかし、まぁ・・・腹も減ったことだし、先に昼飯でも食うか」
言いながら国崎は運転席に収まり、ドアを閉じた。
覆面パトカーが走り出す。
しばらく走っていると、いきなり祐の頭に何かが走った。
はっと顔を上げる祐。
そして窓を開けて空を見上げる。
その空に・・・黒い翼を広げて飛んでいる影が見えた。
「国崎さん!いました!」
その声に国崎も空を見上げ、そこに未確認生命体第2号の姿を発見する。
「いたか・・・よし、今度という今度こそ!」
アクセルを踏み込み、空を行く第2号を見失わないようにスピードを上げる。
 
<都内某所(小さな公園) 13:51PM>
アインは空を飛ぶトンボ怪人に想像以上の苦戦を強いられていた。
トンボ怪人の空を滑空する速度は速く、更に急浮上などもするためにこちらがジャンプしても全く届かない。
時折、急降下してアインを攻撃してくるがアインの身体はその攻撃を全く受け付けていなかった。
「失敗作の割にはなかなか頑強なボディをしているな、折原浩平!!」
トンボ怪人がそう言って笑う。
アインは空を自由に飛び回るトンボ怪人をキッと睨み付けているだけだ。
地上に降りてさえ来ればトンボ怪人などアインの敵などではない。だが、空中では相手の方が一枚も二枚も上だ。
(・・・どうする・・・?)
歯をかみしめて考えるアイン。
その時、そこに一台のバイクが突っ込んできた。
大型スクーターを改造したそのマシンはアインと距離をとって停車した。
「お前が新しい未確認か?」
乗っていた銀色の騎士・・・PSK−01が油断無くアインに向かって問いかける。
アインは新たに現れたPSK−01を警戒しながらも、空を滑空するトンボ怪人にも注意を払っていた。
PSK−01はKディフェンサーから降りるとオートマグナムを構えながらアインに近寄ってきた。
『北川さん、上に何かいます!』
無線から佐祐理の声が飛び込んできた。
さっと上を見上げると、トンボ怪人が急降下してきていた。
とっさにオートマグナムを上に向け引き金を引く。
強化された銃弾がトンボ怪人を襲う。
銃弾の直撃を受けたトンボ怪人はそのまま地面に叩きつけられてしまった。
「くう・・・貴様も我々の聖戦を邪魔するというのか・・・」
起きあがりながらPSK−01を睨み付けてそう言うトンボ怪人。
しかし、その声はPSK−01には届いていなかった。
「ウオオオオオオオッ!!」
いきなり雄叫びが辺りをふるわせたからだ。
トンボ怪人が振り返り、PSK−01がはっとして前を向くと、アインが猛然と駆け出しているのが見えた。
一気にトンボ怪人の背後に迫るとその半透明の羽根を掴み、背中からもぎ取ってしまう。
「ギャアアアッ!!」
思わず悲鳴を上げるトンボ怪人。
それに構わずアインは右手を振り上げた。
鉤爪をトンボ怪人の背に突き刺し、下へと薙ぎ払う。
再び悲鳴を上げて、地面に倒れ、転げ回るトンボ怪人。
その傷口からは真っ赤な体液が流れ出していた。
アインは鉤爪についた血をさっと振り払うと、天に向かって大きく吠えた。
「ウオオオオオッ」
あっけにとられて見ていることしか出来ないPSK−01の前でアインは大きくジャンプし、右足を振り上げる。
その踵の鉤爪が太陽の光を受けて輝いた。
そして地面に倒れているトンボ怪人の上に一気に右足を振り下ろす!!
踵の鉤爪がトンボ怪人の頭を直撃、そこからまた赤い体液が飛び散った。
PSK−01はそれを見ると、アインに向けてオートマグナムを構えた。
「・・・お前は・・・一体何者だ!?」
アインはそんなPSK−01の問いに答えず、踵の鉤爪を引き抜き、後方へとジャンプした。
「待て!!」
そう言って駆け出そうとしたPSK−01の目の前でトンボ怪人が爆発する。
その爆風によろめくPSK−01。
爆発の起こした炎と煙がアインの姿を彼に見えなくさせてしまう。
「くっ・・・」
何とか体勢を立て直したPSK−01が炎を越えてアインのいた場所まで行くが、そこにもうアインの姿はなかった。
「なんだったんだ・・あいつは・・・それに・・・こいつも・・・違う・・・今までとは・・・何かが・・・」
PSK−01は呆然と炎と煙の立ちこめる中立ちつくしていた。
 
<N県某山中 14:26PM>
覆面パトカーを降り、祐と国崎は油断無く山道を歩いていた。
未確認生命体第2号はこの山の何処かに降り立ったのだ。
二人は今、その第2号を探して山の中を歩き回っている。
「一体何処に行きやがったんだ、第2号は?」
ライフルを片手に国崎がそう言う。
額には汗をかいていた。
「祐の字、何か感じないか?」
「そこまで出来たら凄いと思いますよ・・・」
祐は口を少し尖らせて答えた。
「あまり宛にならないんです、この感覚は」
それを聞いて国崎はがっくりと肩を落とした。
どうやら本気で頼りにしていたようだ。
それから二人は無言で山道を進んでいった。
一方その頃、山の中腹あたりに降り立った第2号、ガダヌ・シィカパは油断無く辺りを見回し、誰もいないことを確認すると姿を人間体に変えて歩き出した。
目的地はまだ遠い。だが、空を飛んでいて発見されるのもゴメンだった。今は誰にも見つからないように行動すること、それが彼にとって最優先するべき事なのだ。
がさがさと茂みをかき分けしばらく歩いていると、不意に生臭い臭いが彼の鼻についた。
足を止め、ゆっくりと臭いのする方を見る。
すると、そこには背の曲がった一人の男がじっと彼の方を見つめていた。
「ギョルギャグ・ギシャガ・ウリツヲ・サッシャエ」
背の曲がった男はそう言って嬉しそうに目を細めた。
ガダヌ・シィカパはその男の出現に顔色を変えた。
「マ・・・マエ・・・ロサレザ・・・?」
「ロサレモ・ニマシュン・ヌヅシャセジャ」
背の曲がった男がそう言って低い声で笑った。
その姿が灰色の毛を持つ犬科の怪人に変身していく。
怪人・カガヅ・ボバルは鋭い牙の並んだ口からよだれを垂らしながらガダヌ・シィカパに迫り寄ってくる。
「サジャ・・サジャ・ニムヴァゲ・ミバ・・・・」
そう言ってガダヌ・シィカパも怪人体へと姿を変えた。
二体の怪人が互いに一定の距離を保ちながら歩き出す。
「ギナサバ・ニメ!」
カガヅ・ボバルはそう言ってガダヌ・シィカパに飛びかかっていった。
素早く翼を広げ上昇してそれをかわすガダヌ・シィカパ。
着地したカガヅ・ボバルは素早く方向転換するとガダヌ・シィカパを追うようにジャンプした。だが、後一歩届かない。
一度地面に着地したカガヅ・ボバルは素早く周囲を見回し、にやりと笑った。
この森の中ではガダヌ・シィカパの飛行能力も大幅に制限される。
事実、ガダヌ・シィカパはそれほど高い位置にいるわけでもなく、それにあまり早く飛んでもいない。
これならすぐに追いつける・・・そう判断したカガヅ・ボバルは地を蹴って駆け出した。
中空を飛ぶガダヌ・シィカパ。
地を駆けてそれを追うカガヅ・ボバル。
ダッと再び地を蹴りジャンプする。
今度は近くの木の枝の上に着地し、更にそこからジャンプしてガダヌ・シィカパの背に飛びかかるカガヅ・ボバル。
いきなり背中に飛びつかれたガダヌ・シィカパが地面めがけて落下する。
その黒い翼の羽根がいくつも宙を舞った。
 
<N県某山中 14:41PM>
国崎と祐が山道を歩いていると近くの茂みから人間の足がのぞいているのに気がつき、二人が駆け寄ると、辺り一面血生臭い臭いが充満していた。
「これは・・・」
国崎が顔をしかめ、倒れている人に手を合わせる。
祐も黙って手を合わせていたが、すぐに目を見開いて茂みの向こう・・・深い森の奧を見た。
そこで・・黒い翼を広げた怪人が灰色の毛に包まれた怪人ともみ合っている。
「国崎さん!いました!」
そう言って駆け出す祐。
彼の声に振り返り、国崎はライフルを構えながら彼を追った。
「第2号と・・また新しい奴か!?」
「とにかく行きます!」
先を走る祐が地面を走る木の根っこを飛び越えて両手を交差させて前につきだした。
素早く右手で十字を書き、左右の手を入れ替える。
「変身!!」
祐の腰の辺りにベルトが浮かび上がり、その中央が光を放った。
その光の中、祐は戦士・カノンへと変身を完了する。
ガダヌ・シィカパを地面に押し倒し、その肩に食いついているカガヅ・ボバル。
そんなところに飛び込んでいくカノン。
国崎はライフルを構えてそれを見守るしか出来なかった。
 
<関東医大病院 14:48PM>
聖は難しい顔をして机の上に置いてある資料を見ている。
そのそばには心配そうな顔をした秋子が椅子に座っていた。
「・・・私は専門ではないし、それにあくまで推論・・・私独自の考えだが・・・それでも構わないのですか?」
「はい・・・お願いします」
秋子は頭を下げると、聖は慌てて手を振った。
「イヤ、よしてくれ。あくまで私の勝手な推論でしかないんだから」
そう言って聖は秋子を見た。
「それで・・・霧島先生のご意見は?」
「うむ・・・名雪君の身体は何処にも異常がない。5年前の、今の状態になった時の傷も完全に回復しているし、脳波にも全く異常がない。考えられることは心因性のものだが・・・」
そこまで言って聖は視線を逸らした。
「名雪は明るいいい子でした。特に悩みなど・・・もっとも親の私にも話せないことはあったかもしれませんが・・・」
秋子がそう言うと聖は小さく頷いた。
「あの年頃の娘さんならそうだろう。しかし・・・こうも目覚めないのはどう考えてもおかしい」
「はい・・・」
困ったように左手を頬に添える秋子。
聖は手に持っていた資料を無造作に机に置くと、少し考えるように眉を寄せた。
「・・ここからはあくまで推論に過ぎない。私が思うに・・・名雪君は今、何かを充填しているようだ。クマが冬を越えるために冬眠して体力を蓄えるように・・・」
「・・・・・・」
聖の言葉を聞いて秋子の顔色が変わった。
「いい言葉が見つからないのだが・・・まるで何か時が来るのを待っているかのようだ・・・」
秋子の顔色が変わったことに気付かず聖は続ける。
だが秋子はもう聞いていなかった。
そこに栞がやってきた。
「すいません・・・」
そう言ってドアを開ける栞。
「ン?開いているから入って良いぞ」
聖がそう言ったので中に栞は入ってきた。
「どうやら君の方はちゃんと目を覚ませてくれたようだな」
少し冗談交じりで聖が言う。
その頃、一台のアメリカンバイクが関東医大病院の前に停車していた。
ヘルメットを脱ぎ、ミラーにそれを掛け、乗っていた若者はサングラスを胸ポケットから取り出し、身につける。
「さて・・・それじゃ行きますか・・・」
若者はそう呟くと病院の入り口に向かって歩き出した。
ロビーに入るとそこには偶然にも香里がやってきており、名雪のいる病室を看護婦に教えて貰っている最中だった。
看護婦に礼を言い、香里が歩き出そうとして、今ロビーに入ってきた若者を見て足を止める。
その表情に驚愕の色が広がり・・・そして同時に何か解らないが不安が同じように心に広がっていく。
「あ・・・あなたは・・・」
言葉を失う香里。
「よお・・・久しぶりだな、美坂」
若者がサングラスをとる。
それは・・・5年前に炎の中に消えていったはずの相沢祐一だった!!
 
Episode.17「黒翼」Closed.
To be continued next Episode. by MaskedRiderKanon
 
次回予告
香里達の前に現れた祐一。
果たして彼は本物なのか?
香里「相沢君・・・どうして?」
祐「あいつら・・・かなり本気みたいでしたけど・・・」
N県内で暗躍する第2号、それを追う第18号。
カノンに勝ち目はあるのだろうか?
浩平「・・・N県か・・・」
秋子「貴方は一体・・・何が目的で?」
蠢く陰謀、暗躍する謎の敵。
そしてまた新たな敵が・・・。
葵「今日の所は退散するわ」
次回、仮面ライダーカノン「疑惑」
運命の輪は回り始めた・・・!!

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