<狛江市 14:59PM>
未確認生命体第17号オルー・ボカパが次々と包囲している警官達を投げ飛ばしていく。
そこに祐の操るロードツイスターが突っ込んできた。
猛スピードで突っ込んできたロードツイスターはそのままオルー・ボカパに向かっていく。一気に跳ね飛ばそうというのだ。
しかし、オルー・ボカパは物凄い力でロードツイスターを受け止めてしまう。
祐がアクセルを回すがタイヤが空回りするだけでオルー・ボカパは一歩も動かない。
「・・・何てパワーだ!!」
驚きの声を上げる祐。
オルー・ボカパはそんな祐に構わず、体をひねってロードツイスターごと祐を投げ飛ばしてしまった。
地面に倒れる祐とロードツイスター。
祐は倒れたロードツイスターから離れて立ち上がると両手を前に交差させながら突き出した。
そこに突進してくるオルー・ボカパ。
「何っ!?」
いきなりのことでかわす暇すらなく、祐はまともに体当たりを食らって吹っ飛ばされた。
地面に叩きつけられた祐が起きあがろうとすると、その首にオルー・ボカパの長い鼻が巻き付いた。
ぎりぎりと物凄い力で締め上げていくオルー・ボカパ。
祐は何とかふりほどこうとするが、指一本はいる隙間すらなく、更に締まっていく。
「く・・・・このままじゃ・・・」
苦しそうな声を出しながら祐は未確認生命体第17号を睨み付ける。
その時、いきなりオルー・ボカパが大きく体を回転させ、祐をその勢いで投げ飛ばした。
宙を舞い、パトカーの屋根に叩きつけられる祐。
そこで一度バウンドし、ボンネットへと落ち、地面へと転げ落ちる。
「・・・何て・・・パワーだ・・・変身しないと・・・勝ち目がない・・・」
地面に手をついて起きあがりながら祐は呟いた。
「ニメ!!カノン!!」
オルー・ボカパが立ち上がろうとしている祐に向かって二本の牙を突き出し走り出す。
祐はまだふらふらとしており、完全に立ち上がりきっていない。
だが、それでも彼は自分に向かって突進してくるオルー・ボカパには気がついていた。
ぎりぎりまで引きつけ、その牙を地面に倒れ込みながら横にかわす祐。
オルー・ボカパはそのまま走り抜け、パトカーのドアにその牙を突き刺した。
身体ごとぶつかったので牙はかなり深く刺さってしまったようだ。
牙を抜こうと悪戦苦闘するオルー・ボカパを見て、祐は立ち上がり、両手を前につきだした。そして左手を腰まで引き、残る右手で十字を描く。
「変身!!」
そう言いながら右手と左手を入れ替える。
次の瞬間、祐の腰にベルトが出現し、その中央がまばゆい光を放った。
その光の中、戦士・カノンへと変身を終える祐。
ほぼ同時にオルー・ボカパは牙をパトカーのドアから引き抜いていた。振り返り、カノンを睨み付ける。
カノンは両手を上下に構え、オルー・ボカパとの距離をとった。
未だやむことのない雨の中、死闘の第2ラウンドが始まろうとしている・・・。
 
仮面ライダーカノン
Episode.16「必殺」
 
<狛江市 15:06PM>
オルー・ボカパがカノンに向かって走り出した。
どうやら力押しだけが得意のようだ。
カノンはそう思い、まともに組み合うことをさけ、ジャンプしてオルー・ボカパの突進をかわし、着地すると同時に地を蹴ってオルー・ボカパの背に飛びかかった。
しかし、オルー・ボカパは振り返り様にその長い鼻をカノンに叩きつける。
鞭のようによくしなった鼻がカノンの身体を打ち据え、カノンは地面に落下してしまう。
「・・・力だけじゃない・・・あの長い鼻、牙、どれも危険だ・・・!!」
素早く起きあがり、カノンはオルー・ボカパと距離をとるように離れた。
「・・なら・・・」
カノンは精神を集中させ、変身ポーズをとった。
するとカノンの身体は青くなった。
さっと地を蹴り、一気に青いカノンはオルー・ボカパに接近した。
オルー・ボカパの懐に飛び込んだカノンはその身体にパンチを何度も叩き込む。
青いカノンはスピード、瞬発力に優るがパワーが弱い。それを補うかのように何発ものパンチを叩き込んでいるのだ。
だが、オルー・ボカパは少しもダメージを受けた風ではなく、カノンの身体を掴むと後ろへと投げ飛ばした。
宙で一回転し、見事に着地するカノン。
「やっぱり青じゃダメか・・・なら・・・」
立ち上がるとカノンはまた変身ポーズをとった。
今度は紫に変化する。
紫のカノンはパワーや防御力がアップするが、その分スピードに難がある。この第17号とまともにやり合うならこのフォームしかない、そう考えたのだ。
カノンが紫に変化したのを見たオルー・ボカパがカノンに向かって突進してきた。
それを正面から受け止める紫のカノン。
流石にその突進の勢いは止められず、後退するカノン。
それでもぐっと踏ん張り、オルー・ボカパを押し戻そうとする。
「シィガダ・ジェロデミ・ガマルショ・ロソルマ!!」
オルー・ボカパが更に足を進めようとする。
「くう・・・」
何とか踏ん張ろうとするカノンだが、徐々に押され始める。
「このままじゃダメだ・・・何か・・・何か手はないのか・・・」
そう呟きながらカノンはオルー・ボカパの背に肘を落とした。
流石によろけるオルー・ボカパ。
さらに膝を叩き込み、カノンはオルー・ボカパから離れた。
カノンは紫のフォームから元の白いフォームに戻ると右手の平を上にして前に出し、左手は腰に構え、腰を低く落として身構えた。
(一か八か・・・やってみるしかない!)
オルー・ボカパが身構えたカノンに向かって走り出す。
カノンは右手をゆっくりと左方向に水平に動かしていたが、ある一点でその手を返すと、地を蹴ってジャンプした。
空中で右足を前に突き出す。
その時、カノンの頭の中にある女性の声が響いた。
ここに来る直前に出会った女性・・・天沢郁未。
『今のままの貴方じゃ勝てないわよ』
それを振り払うようにカノンが雄叫びをあげる。
「ウオオォォォォォッ!!」
突進してくるオルー・ボカパにカノンのキックが直撃した。
同時に両者が吹っ飛ばされる。
背中から地面に倒れるオルー・ボカパと腰の辺りから地面に倒れ込むカノン。
どちらもなかなか起きあがれなかったが、やがてオルー・ボカパが先に立ち上がった。
カノンのキックを受けた辺りには古代文字が浮かび上がっている。
カノンも起きあがると、オルー・ボカパを見た。
「フウウウウウウウウウッ!!!」
オルー・ボカパが天を仰いで気合いをこめる。
すると・・・浮かび上がっていた古代文字がかき消えてしまったではないか!
「な・・何っ!?」
流石に驚きの声を上げ、動揺を隠せないカノン。
今までどんな敵もこのキックを食らえばひとたまりもなかった。あの古代文字が浮かび上がり、そこから全身に光のひびが走ってそれで爆発してきたのだ。
しかし、今カノンの前に立つ第17号は自らの気合いでその古代文字をかき消してしまったのだ。
「・・こいつには・・・通じないのか!?」
焦り、恐れ、そう言ったものがカノンの心の中に浮かび上がる。
そこに新たなパトカーのサイレンが聞こえてきた。
どうやら遅れていた未確認生命体対策班の面々が到着したらしい。
新型ライフルを持った私服警官達が姿を見せる。
その中には国崎往人の姿もあった。
「これが効けばいいんだがな・・・」
そう呟くと国崎はライフルを構えた。
このライフルには科学警察研究所が開発した特別製の炸裂弾がこめられている。
「構え!」
同じようにライフルを構えている神尾晴子がそう言った。
「撃てっ!!」
一斉にライフルが発射される。
その銃弾の直撃を受けたオルー・ボカパに異変が起きた。
普通の弾丸ならその体表で跳ね返すのだが、この弾丸はオルー・ボカパの体表に直撃するとその先端がつぶれ皮膚に張り付き、更に爆発を起こしたのだ。
それが何度も起こり、よろめくオルー・ボカパ。
カノンは立ち上がるとオルー・ボカパに向かって突進していった。
よろけているオルー・ボカパに体当たりを食らわせ、そのまま多摩川へと突っ込んでいく。
追うように警官隊が多摩川のそばまで走ったが二体の未確認生命体の姿はそこにはもう無かった。
「逃がしたか・・・」
住井護が川面を見ながら呟く。
「各所轄に連絡や!多摩川沿いの警戒を厳重に!第17号はもちろん、第3号もこの多摩川のどっかに出てくる!今度こそ決めるで!!」
晴子がそう言って制服警官達に指示を与える。
それを横目に国崎は多摩川の水面を見つめていた。
このライフルに装填されていた炸裂弾は一応の効果を見せた。しかし、後一歩足りない。そんな予感がしてならない。
雨はまだ降り続けている・・・。
 
<神奈川県川崎市多摩区 15:27PM>
多摩川の川岸にびしょ濡れになった祐が倒れている。
そこに一人の女性が歩み寄ってきた。
彼女は傘を祐の上にまでやって、しゃがみ込んだ。
「言った通りじゃない。今のままじゃ勝てないって・・・まぁ、負けるとも言ってないけど」
女性がそこまで言った時、ようやく祐が意識を取り戻した。
「う・・うう・・・ここは・・・」
そう言って祐が起きあがろうとして、自分を見ている女性に気がついた。
「貴女は・・・?」
「天沢郁未。さっき会ったじゃない」
そう言って女性・天沢郁未は微笑んだ。
「大丈夫?立てる?」
「大丈夫です」
祐は立ち上がると、郁未を見た。
郁未は微笑みながら祐を見つめている。
「貴女は・・・一体何を知っているんですか?」
真剣な顔をして祐が郁未に問う。
「さあ?私が知っていることと言ったら貴女が未確認生命体第3号、カノンだって事ぐらいかな?」
そう言って郁未は祐の肩に自分の手を乗せた。
「そんなことより、第17号を倒すために始めるわよ」
「え?」
祐は郁未が何を言ったのかわからずえ?と言う顔をして彼女を見返した。
「特訓よ!仮面ライダーは強敵が現れたら特訓して強くなるのよ!!」
郁未は燃える目をしてそう言い、祐を連れて歩き出した。
 
<喫茶ホワイト 15:31PM>
カランカランとカウベルがなり、ドアが開いて美坂香里が入ってきた。
いつもと違い、憂鬱そうな顔をして、いつもと同じ場所に座る。
「よ、香里ちゃん」
マスターが声をかけるが、香里はカウンターに肘をついてため息をついている。
「・・・香里ちゃんも何かあったのかい?」
「・・・え?」
マスターの声に顔を上げる香里。
「私もって・・・何かあったの?」
「ああ、佳乃が・・・ちょっとな」
そう言ってマスターは苦笑を浮かべた。
それから今日今さっきまで何があったかを香里に話し始める。
「・・・そう、そんなことがあったの・・・」
暗い顔をして香里が言う。
「今、佳乃ちゃんは?」
「二階にいるよ。瑞佳が話をしている」
マスターはそう言うと、二階を見上げた。
かなり長い間話し込んでいるようで、二人とも降りてこない。
少しの間沈黙していたがやがて香里が立ち上がった。
「様子、見に行かせて貰っていいかしら?」
「ああ、頼むよ、香里ちゃん。佳乃、かなり落ち込んでいるみたいだから」
マスターの言葉に頷き、香里は二階へと続く階段へと向かった。
二階にはマスターの部屋と祐の部屋、そしてもう一つ部屋がある。マスターの部屋が一番手前、祐の部屋が一番奥、その真ん中の部屋は空いているのだが、ウエイトレスの長森瑞佳が遅くなった時に泊まっていけるようにベッドなどが準備されているのだった。
今その部屋の中には瑞佳と霧島佳乃がいる。
ドアをノックしようとすると中から佳乃の声が聞こえてきた。
「だって、お姉ちゃんは今日は絶対に私につきあってくれるって言ったんだよ!!なのに・・急に仕事が入ったって言って・・・絶対に、絶対に私との約束を守るって言ったのに」
「でも佳乃ちゃんのお姉さんってお医者様なんでしょ?だったら急患とか・・・」
「でもでも!!」
香里は小さくため息をついた。
裏切られたと思っている妹、約束を破った姉。
まるで自分達みたいだ。
そう思って自嘲的な笑みを浮かべてしまう。
コンコンとドアをノックしてから中に声をかける。
「瑞佳さん、佳乃ちゃん、入るわよ」
 
<中央自動車道 15:38PM>
雨の降りしきる中、水瀬秋子の運転するライトバンは思わぬ渋滞に出会い、のろのろと走っていた。
「参ったわねぇ・・まさか渋滞しているなんて思わなかったわ」
右手でハンドルを握り、左手を頬に当て困ったように言う秋子。
そのとなり、助手席に座っている栞は地図を開いて何やら考えている。
「・・・秋子さん、高速を降りて下を走った方が早いかもしれませんよ?」
そう言って秋子を見る栞。
「そうねぇ・・でもあまり道知らないからもっと時間かかるかも・・」
「あ、私なら大丈夫です!」
慌ててそう言う栞。
秋子さんに心配して貰いたくない。秋子さんが心配するべきは娘の名雪だけでいい。私のことなど気にしてくれなくてもいい、と思っているのだ。
「今日はもう帰れないって家に言ってありますから」
「ごめんなさいね、栞ちゃん・・・」
秋子はそう言うと、未だなかなか動かない前方の車を見やった。
 
<狛江市 15:42PM>
多摩川の浅瀬にぬっと一人の体格のいい男が現れた。
胸のあちこちには小さな傷があるが、もうほとんど塞がりかけている。
オルー・ボカパの人間体である。
カノンと共に多摩川に飛び込んだ後、カノンは対岸に、オルー・ボカパは少し上流側にたどり着いていた。
ザバザバと水をかき分け、オルー・ボカパが陸に上がり、近くの道路を走る車を睨み付ける。
「シュジモ・レソモジャ」
その目に狂気の色が伺われたが、誰も止めることは出来ない・・・。
 
<神奈川県川崎市多摩区 15:45PM>
郁未に連れられて祐は多摩川沿いから少し離れた公園にやってきていた。
「ここでやるんですか?」
祐がそう言うと、郁未は振り返って大きく頷いた。
「今日は雨だし、誰も来ないわ。さあ、特訓開始よ!」
「特訓って言っても・・・一体どういう風に?」
祐が疑問符を浮かべた顔をする。
「あの第17号は物凄いパワー、武器にもなる牙と鼻、更に硬い皮膚を持っているわ。そんな相手を倒すなら」
郁未の言葉に祐が身を乗り出す。
「一撃必殺の技を持つのよ!!」
ぴしっと郁未が祐を指さした。
指さされた祐はきょとんとした顔をして郁未を見返す。
「一撃必殺・・ですか?」
「・・何よ。気が乗らないようね?」
少し不服そうに言う郁未。
「いや、そうじゃないんですが・・・必殺のキックも効かなかったんですよ?」
慌てて祐がそう言うと、郁未はチッチッチッと指を左右に揺らした。
「だからこそ特訓するのよ!キックがダメならパンチ。そう、ライダーパンチを撃つのよ、貴方が」
郁未はそう言うと、ぐっと自分の拳を握りしめた。
しかし祐はあまりいい顔をしなかった。
「パンチって事はより深く相手の懐に潜らないといけませんよね・・・あの鼻と牙をかわしてそんなことが出来るかな・・・」
「やるのよ!貴方、仮面ライダーでしょ!だったら四の五の言わずにやるの!!」
そう言って郁未は祐の胸にパンチを食らわせた。
「は、はいっ!!」
郁未の勢いに負けたのか祐は頷いていた。
 
<喫茶ホワイト 15:46PM>
佳乃と瑞佳のいる部屋に入った香里はとりあえず笑みを浮かべた。
「香里さん・・」
驚いたような顔をしたのは瑞佳だった。
佳乃はベッドの掛け布団にくるまっていて顔すら見せない。
「佳乃ちゃん、ちょっとお話ししない?」
そう言って香里はベッドに腰掛けた。
瑞佳は黙ってその様子を見守っている。
「さっきマスターから話を聞いたわ。今日、本当だったらお姉さんと一緒に買い物に行く予定だったんだってね」
優しく語りかける香里。
だが、佳乃は何も答えない。
「でもお姉さん、急に仕事が入ってこれなくなったって。佳乃ちゃん、来てくれること信じてずっと待っていたんだってね・・・」
佳乃は答えず、それでも香里は話し続ける。
「本当はわかっているんでしょ?来れなくなったことをお姉さん自身悪いと思っているって。それにお姉さんのお仕事、お医者様で、いつ急に患者が来るかわからないから大変だって事も」
「・・・でも・・・今まで私との約束、お姉ちゃんは一度も破ったこと無かったのに・・・」
初めて佳乃が香里の声に答えた。
それに安心したように香里はそっと手を佳乃の上に載せた。
 
<神奈川県川崎市多摩区 15:50PM>
降りしきる雨の中、祐はカノンへと変身してパンチを繰り返していた。
「ダメダメ、全然気合いがこもってない!!」
傘を差し、その様子を見ている郁未がそう言う。
「それじゃ第17号に勝てないわよ!」
「そんなこと言われても・・・何かこうイメージが今ひとつわかないんですよ」
困ったようにカノンが言う。
「目の前に目標があるならともかく・・・何もないところでパンチを繰り出しているだけじゃ・・・」
「・・・それもそうよね・・・ちょっと待ってて」
郁未は少し考えるような仕草をしてから公園の外に出ていった。
少しの間所在なさげにカノンが待っていると、そこにいきなり二体の怪人が現れた。
「何だ!?新しい未確認か!?」
素早く身構えるカノン。
「我々をあのような奴らと一緒にしないで貰いたいな!」
そう言ったのはカノンに対して右側に立っている怪人だった。
姿はどことなくアメンボを思わせる。
「我々は選ばれし者!あのような奴らとはひと味も二味も違う!」
もう一体の怪人・・・アリのような面立ちの怪人が言う。
襲いかかってくるアリ怪人とアメンボ怪人。
カノンは最初の一撃をかわすとアリ怪人にパンチを食らわせた。
吹っ飛ぶアリ怪人。
背を見せたカノンに飛びかかろうとするアメンボ怪人だが、カノンは振り返り様に裏券を叩き込む。
よろけるアメンボ怪人にカノンは右拳を握りしめて走り寄った。
「ウオオオオッ!!」
雄叫びをあげて全力でパンチを叩き込む!
その瞬間、カノンの頭の中に何かのイメージが走った。
パンチを食らい吹っ飛ばされたアメンボ怪人は地面に倒れ、爆発四散する。
「何だ・・・今のは・・?」
カノンは爆発よりも今走ったイメージに気をとられていた。
そこに立ち上がったアリ怪人が襲いかかる。
アリ怪人の体当たりを食らってよろけるカノン。
「くっ・・・先に!!」
何とか踏ん張り、倒れるのをこらえたカノンが再び拳を握りしめる。
ぐっと力一杯拳を握りしめ、カノンはアリ怪人めがけて走り出した。
「ウオオオオオオッ!!」
再び雄叫びをあげながらカノンはアリ怪人に向けて思い切りパンチを放つ!
そのパンチがアリ怪人の身体に直撃した瞬間、カノンの頭に今度はよりはっきりとしたイメージが浮かび上がった。
それは・・・鮮烈なまでの赤。
炎のように真っ赤に燃えるイメージだった。
「・・・そうか・・・」
カノンは頭に浮かんだイメージに大きく頷いた。
これなら勝てるかもしれない。
その様子を少し離れたところで郁未がじっと眺めていた。
「5分も保たないとはねぇ・・・所詮はレベル1の失敗作か。まぁ、カノンが何かに気付いたからいいけど・・・でもまぁ、改造変異体を二体も勝手に使ってあっさり死なせたんだから、後で葉子さんがうるさいだろうなぁ」
そう呟き、彼女は笑みを口元に浮かべた。
 
<喫茶ホワイト 15:53PM>
そっと掛け布団をかぶっている佳乃をなでながら香里は優しく言う。
「今は未確認とかが出ていていつそれに襲われた人が運び込まれるかわからないの。だから佳乃ちゃんのお姉さんもその人を助けないといけないのよ。わかるでしょ?」
佳乃はまた黙り込む。
「医者の仕事って大変なのよ。少しでも可能性があるならその可能性に賭けてその人を助けようと最大限の努力をしなくちゃいけない・・・」
香里は言いながら天井を見上げた。
「佳乃ちゃんのお姉さんはそう言った立派なことをしている人なの・・・それは佳乃ちゃん自身が一番よくわかっているじゃない」
「でも・・・」
「佳乃ちゃん、佳乃ちゃんのお姉さんはきっと佳乃ちゃんのこと大事に思ってくれているわ。でもね、佳乃ちゃんも大事だけど、怪我や病気で苦しんでいる人を助ける事の同じようにお姉さんにとっては大事なことなのよ」
「・・・・・・」
「今日のことは仕方なかったのよ。お姉さんも悪いと思っているはず。だから、佳乃ちゃんもこれ以上わがまま言っちゃダメよ。佳乃ちゃん、お姉さんのこと好きなんでしょ?」
「・・・・・・好き・・・ずっと一緒で・・いつも私に優しくしてくれて・・・」
小さい声で佳乃が言う。
「あんまりわがままばかり言っているとお姉さん、佳乃ちゃんのこと、嫌いになるかもね?」
いたずらっぽい笑みを浮かべて香里が言う。
「そんな!そんなのやだ!!」
そう言って佳乃が初めて布団から顔を出した。
すっと香里はそんな佳乃を抱きしめた。
「でしょ?だったら・・・佳乃ちゃんも、もう少し大人になろうね?」
「香里さん・・・」
瑞佳は香里が今まで見たこと無いくらい優しい表情をしていることに気がついた。
もしかすると、ケンカしているという自分の妹のことを思いだしているのかもしれない。
「・・・お姉ちゃんに謝らなきゃ・・・私、電話してくる!!」
そう言って佳乃は香里の腕の中から出て、部屋を出ようとした。
「あの・・・香里さん、瑞佳さん・・・心配かけてごめんなさい。もう大丈夫だから・・・」
言いながら振り返った佳乃に香里は右手の親指を立てて、ウインクして見せた。
頷いて、佳乃も親指を立てて見せた。
佳乃が出ていった後、瑞佳が香里の隣に腰を下ろした。
「ありがとう、香里さん。助かったよ」
「少しはお役に立てて嬉しいわ」
瑞佳にそう答えて香里は笑みを浮かべた。
「この調子で妹さんとも仲直り出来るといいね?」
同じように笑みを浮かべて瑞佳がそう言った瞬間、香里の表情が曇った。
それは先ほどの優しい表情とはうってかわって暗い表情。
「あの子は・・・私を許してはくれないわ」
呟くように言い、香里は立ち上がった。
どういう事か瑞佳が尋ねようとすると、香里は彼女を振り返り
「私はあの子を裏切ったの・・・あの子だけじゃない。私の親友も、そして・・・彼も・・・」
哀しげにそう言った。
 
<東京都狛江市 16:01PM>
雨はまだやまない。
降りは少し弱くなってきているが、それでもやむ気配はまだ無かった。
祐はそんな中、置きっぱなしのロードツイスターを取りに戻ってきていた。
ロードツイスターは道の端にスタンドを建てて止められており、その前には一台の覆面パトカーが止まっていた。
祐が覆面パトカーのそばまで行くと、運転席側の窓が開き、中から国崎が顔をのぞかせた。
「よう、祐の字、無事だったか?」
「国崎さん!!」
祐がドアに駆け寄る。
「17号はどうした?」
「17号はどうなりました?」
二人が同時に言った。
「・・・・・・」
思わず沈黙する二人。
「・・・こっちは今第17号の捜索中だ。強化型ライフルに使用した炸裂弾が一応の効果を上げたからな」
国崎はそう言うと祐を見た。
「助かりました。実際の所、白のカノンのキックが効かなかったからどうしようかと思っていたところだったんです」
「何!?白のキックが効かなかっただと!?」
祐の発言に驚いた顔を見せる国崎。
「それじゃ、お前、どうやって倒すんだよ、17号を・・・」
「青でも紫でも敵いそうにないです」
「・・・勝ち目無し、か?」
「いえ、試したいことがあるんです。もしかすればそれで倒せると思います」
そう言い、祐は頷いた。
それを見た国崎も頷いた。
「お前に考えがあるならいい。・・・17号はどうも車に乗った人を襲う傾向にある。囮になれればいいが、この東京だけでも車の数なんか数え切れない程だからな。とりあえずこの多摩川沿いは所轄と協力して警戒しているが・・・」
そこまで国崎が言った時、彼の車に積まれている無線がピーッと鳴った。
『警視庁より未確認対策班各位へ!第17号が狛江市元和泉の水道局周辺に出現、局員をまた自動車ごと殺害して逃亡した模様!』
それを聞いた国崎と祐が顔を見合わせた。
「もう出やがったか!」
「国崎さん、急ぎましょう!ここからなら近いです!」
そう言って祐がロードツイスターに乗る。
「よし!」
国崎も窓を閉じ、車を発進させた。
 
<都内某所 16:09PM>
折原浩平は降りしきる雨を喫茶店の中からじっと眺めていた。
店の外には黒塗りのオンロードタイプのバイクが止められている。
「この調子だと・・・もう少ししたらやむかな」
そう呟き、すっかり冷めてしまっている紅茶を飲む。
そこにすっと一人の少女が現れ、浩平のそばに立った。
「すいません、ここ、いいですか?」
そう言って笑顔を浩平に向ける。
浩平は周りを見回し、他にも空いている席があることを見ると
「何もここでなくても他にも空いている席はいっぱいあるぜ?」
そう言って少女を見た。
「ここがいいんです」
少女は浩平がまた何か言う前にちょこんと彼の前に腰を下ろした。
そして通りかかったウエイトレスにフルーツサンデーを注文し、テーブルの上に肘をついて浩平の顔をじっと見る。
「な、なんだよ・・・」
ちょっと照れたように視線をそらせる浩平。
「ふふっ、意外と優しそうな人でよかった」
少女はそう言ってにっこりと笑った。
「あたし、名倉由依。よろしくね、浩平さん」
名倉由依と名乗った少女が笑みを浮かべたままそう言う。
浩平は、目の前の名も知らぬ少女が自分の名を知っていたことに驚きながらも、何とも言えない警戒心を抱いていた。
「何で・・・」
「フルーツサンデー。お待たせいたしましたぁ」
浩平が問いただそうとした時、ウエイトレスが由依の頼んだフルーツサンデーを持ってやって来た。
「わーい、フルーツサンデー、フルーツサンデー♪」
嬉しそうにスプーンを持ってフルーツサンデーを口に運ぶ由依。
それを見た浩平は何か馬鹿馬鹿しくなって、黙り込んだ。
自分も残っていた紅茶を口に運び、そのままレシートを掴んで立ち上がる。
「あれ?もう行っちゃうの?もうちょっと待ってよ」
由依が立ち上がった浩平を見て言う。
まだ手にはフルーツサンデーを食べるためのスプーンが握られている。
「女の子を放っておいて一人で行くなんて酷いよ」
「・・あのなぁ、俺とあんたは何の関係もないんだ。ただ、ここで偶然同じ席に着いただけ。それだけの関係だ」
浩平はそう言って歩き出した。
それを見た由依は慌ててフルーツサンデーの残りをかき込み、立ち上がって浩平を追いかけた。
「ちょっと待ってよ、浩平さ〜ん!」
浩平はレジのところで彼女を振り返り、
「さっきも行っただろう。俺とあんたは何の関係も・・・」
そう言いかけたが、由依はすっと浩平に抱きつき、小声でこう囁いた。
「教団のこと、追っているんでしょ?あたし、いいこと知っているんだけどな・・・」
浩平の顔色が変わった。
彼の人生を狂わせ、全てを奪った教団・・・。
まさかこんな少女が・・・。
「ねえ、どうするの?」
そう言った由依の表情は先ほどまでの屈託のない明るい少女のものではなかった。今の彼女の顔は・・・妖しい女性の顔・・・蠱惑的な・・・男を誘うような表情。
浩平はとまどった。
一体どうすればいいのか?
「あんたを信じろと?」
ただそう言うことしか出来なかった。
「信じてくれていいわ・・・あたしは貴方の敵じゃないから」
由依はそう言って浩平から離れた。
「じゃ、ここの払いは浩平さんで、お願いね」
由依はまた少女のような表情になり、笑顔でそう言って店から出ていった。
浩平は一瞬あっけにとられていたが、すぐに憮然とした顔をして、レジでの支払いを果たした。
 
<東京都調布市調布インターチェンジ周辺 16:18PM>
真剣な表情で地図を見ていた栞が不意に顔を上げた。
「秋子さん、ここで降りましょう。甲州街道は混むと思いますから少し下って多摩川沿いに行けばいいと思います」
秋子は頷き、ハンドルを切った。
ライトバンが車線を離れて脇の下りに入っていく。
後部座席では名雪が気持ちよさそうに眠っている。
「栞ちゃん、疲れない?」
「大丈夫です!もう昔とは違うんですよ!」
そう言って栞は笑みを浮かべた。
秋子はそんな栞を見て、微笑んだ。
「・・・昨日ね、香里ちゃんから電話があったの」
「・・・お姉ちゃんから?」
栞の表情が強張った。
それでも秋子は気にせずに続ける。
「栞ちゃん、お姉さん・・・香里ちゃんのこと、嫌いになったの?」
「・・・・・・」
「香里ちゃん、哀しそうだったわ。・・・香里ちゃんはね、東京に行く前、私に謝りに来たの。どうしてもやりたいことがあるから、祐一さんとの約束は守れないから、名雪のこと見てあげられないから、そう言って泣いて私に謝っていたの。・・・香里ちゃんの人生は香里ちゃんのものだから、祐一さんとの約束や名雪のことに縛られる必要はない。そう言ってあげたの」
秋子は前を見ながらそう言った。
雨はもうやみかけている。
「栞ちゃん、貴女が香里ちゃんのことを許せないのはわからないでもないわ。何て言っても栞ちゃんは祐一さんのこと好きなんだものね。だからこそ、祐一さんとの約束を守らなかった香里ちゃんが許せない・・・でもね、香里ちゃんをそこまで縛る権利は誰にもないのよ。祐一さんも、名雪も、それに私も、香里ちゃんの人生を縛ることなんか出来ないの」
「秋子さん・・・秋子さんの言いたいことはわからないでもないです・・・でも・・・それでも・・・私はお姉ちゃんを許すことなんか・・・」
栞はそこで言葉を切って黙り込んだ。
秋子も何も言わずハンドルを握っている。
重苦しい沈黙が車内の漂う中、名雪の寝息だけが聞こえていた。
 
<狛江市元和泉 16:20PM>
祐と国崎が水道局前にたどり着いた時には既に未確認生命体第17号オルー・ボカパの姿はなく、破壊された車と無惨にも突き殺された被害者がやみかけている雨の中に放置されているだけであった。
「酷いな・・・」
国崎がその光景を見て呟く。
どうやらまだ所轄の鑑識などは到着しておらず、偶然にも国崎と祐が一番近くにいたらしい。
祐は目を閉じて両手を合わせていたが、その時、頭の中に何かがピキーンという感じに走った。
「国崎さん!俺、行きます!」
そう言って駆け出す祐。
「わかった!俺も後で追いかける!無茶はするなよ!!」
国崎はそう言うと、覆面パトカーに向かい、無線を手に取った。
「こちら国崎!第17号は既に移動した模様!周囲の警戒を強化してくれ!!」
そう言っている国崎の横をロードツイスターに乗った祐が走り抜けていく。
その様子を遠くから郁未がじっと見ていることに二人は気がついていなかった。
 
<調布市 16:25PM>
秋子の運転するライトバンが人気のない道をずっと走っている。
車内は先ほどから気まずい沈黙が続いていた。
「・・おかしいわね・・・」
不意に秋子が呟いた。
「どうか・・しました?」
栞が尋ねると秋子は頷いて、
「さっきから一台も車を見かけないの。この多摩川沿いの道に入ってから・・・」
そう言った。
車だけではない。
人の姿さえない。
実はこの道は警察によって通行禁止になっていたのだ。
もちろん第17号対策のためである。
車に乗っている人を襲う傾向にある第17号は多摩川沿いを上流に向かって移動しており、多摩川沿いの道路は東京都側、神奈川県側と両方とも通行止めになっていたのだが、それを知らなかった秋子は偶然にも警察による道路封鎖をくぐり抜けてその道に入ってしまっていた。
「何かあったのかしら・・・?」
秋子がそう言った時、前方に人影が見えた。
それに気がついた栞がその人影に向かって指を指す。
「あ、誰かいますよ」
その時だった。
前方にいる人影が両手を振り上げてライトバンに向かって走り出したのは。
「栞ちゃん!掴まって!!」
何故か危険なものを感じた秋子が慌ててギヤをバックに入れ、ライトバンを後退させる。
急に制動がかかり、更に反対側に進行し始めた車に対応しきれず、栞はシートベルトに締め付けられた。
思わず息が詰まる。
苦しかったがそれでも栞は前方からライトバンに向かって走ってくる人影をしっかりと見ていた。その姿が異様なもの・・・未確認生命体第17号オルー・ボカパに変化していく様も。
「ひいいっ!!」
喉で何かが引っかかり変な悲鳴を上げてしまう栞。
「あれが・・未確認生命体・・・」
秋子もちらりとオルー・ボカパの姿を見て、言葉を無くしてしまう。
オルー・ボカパは物凄いスピードで走り、どんどんライトバンに迫ってきていた。
それを見た栞の顔が青くなる。
「あ・・あ・・秋子さん!!ダメ!追いつかれちゃう!!」
悲痛な声で栞がそう言った時、遂にオルー・ボカパがライトバンに追いつき、その頭をフロントガラスに叩きつけた。
無数のひび割れがフロントガラスに走る。
「きゃあああああっ!!」
悲鳴を上げる栞。
それでも秋子はアクセルを踏み続ける。
再びオルー・ボカパが頭をフロントガラスに叩きつけた。
更にひび割れが増える。
もうフロントガラスは役に立っていなかった。
オルー・ボカパはライトバンを両手を広げてがっしりと掴むとその場に踏ん張り、止めようとした。
物凄い力でバックしようとするライトバンを引き留めるオルー・ボカパ。
ライトバンのタイヤが白い煙を上げ、空回りをする。
「・・・ダメ・・・?」
秋子が小さい声で呟く。
オルー・ボカパがまた頭をフロントガラスに叩きつけ、フロントガラスは粉々に砕けてしまった。
「きゃあああっ!!」
二人が悲鳴を上げる。
秋子は思わずアクセルから足を放してしまっていた。
ライトバンはそのままエンジンまで停止してしまう。
二人は椅子の背もたれにがっくりと背を預けて大きく息を吐いた。
オルー・ボカパは砕けたフロントガラスを手でかき分け、中の二人をじっと見た。そしてにやりと笑う。
「もう・・ダメ・・・」
栞がそう呟いた。
(祐一さん・・・生きているなら・・・もう一度・・会いたかった・・・)
そう思って涙をこぼす栞。
ぬっとオルー・ボカパが太い腕を車内に伸ばそうとしたその時、一台のバイクが物凄い勢いで突っ込んで来、オルー・ボカパを吹っ飛ばして停車した。
バイクはもちろんロードツイスター、乗っているのは祐である。
「大丈夫ですか!?」
そう言って祐はライトバンの中の二人を見た。
「ここは危険です!すぐに別の所へ逃げてください!!」
それだけ言うと祐はロードツイスターを再び走らせた。
秋子はそんな彼を追うように車から降り、彼の背をじっと見つめ呟いた。
「あれは・・・まさか・・・祐一さん?」
 
<調布市多摩川緑地公園 16:43PM>
ロードツイスターを駆る祐は多摩川緑地公園の方に吹っ飛ばされたオルー・ボカパを追ってその中へと入っていた。
公園のほぼ中央にオルー・ボカパが倒れていた。
それを見た祐はロードツイスターを止め、ヘルメットを脱いだ。
そしてロードツイスターから降り、両手を交差させて前につきだした。左手を腰まで引き、残る右手で十字を描く。
「変身っ!!」
その声と共に右手と左手を入れ替える。
次の瞬間、祐の腰の辺りにベルトが出現、その中央がまばゆい光を放つ。
ベルトから全身に向かって白い第二の皮膚が覆い、その上を筋肉を模したような生体装甲がまるでボディアーマーの様に包み込む。左右の手には手甲とナックルガード、手首に当たる部分には赤い宝玉がはめ込まれたブレスレットが。足首には手首と同じ赤い宝玉をはめ込んだアンクレット。膝には同じく赤い宝玉がはめ込まれたサポーター。頭には赤い大きな目、牙のような意匠の口、金色に輝く左右に開いた大きな角を持つ仮面。
戦士・カノンである。
カノンはまだ倒れているオルー・ボカパを油断無く見て、距離を少しずつ縮めていく。
と、いきなりオルー・ボカパが立ち上がり、長い鼻を大きくそらせてカノンに向かって振り下ろした。
素早く右にかわすカノン。
オルー・ボカパの鼻は先ほどまでカノンが立っていた場所に叩きつけられ、地面をえぐった。
「カノン!!ゴドヌ!!」
そう叫び、牙を突き出し、カノンに向かって走り出した。
ジャンプしてオルー・ボカパを飛び越えるカノン。
だが、オルー・ボカパは素早く振り返り、その勢いを利用して長い鼻を横に薙ぎ払った。
着地したばかりのカノンはその直撃を受けて吹っ飛ばされてしまう。
カノンは大きく宙を舞い、多摩川の河原へと叩きつけられてしまった。
ずんずんとカノンを追ってくるオルー・ボカパ。
カノンは地面に手をつくと素早く立ち上がり、オルー・ボカパを見た。
「くっ・・・やっぱりあのパワーは危険だ・・・」
圧倒的にパワーは相手の方が上。
今のカノンでは太刀打ちできないほどに。
「出来るか・・・あのイメージが・・・」
カノンはぐっと拳を握りしめ、オルー・ボカパに向かって走り出した。
「ウオオオオオッ!!」
雄叫びをあげながらカノンが拳を振り上げる。
それを見たオルー・ボカパも走り出した。
右肩を前に突き出し、猛スピードで突進していく。
両者が激突した。
吹っ飛ぶカノンとオルー・ボカパ。
多摩川の浅瀬に倒れ込むカノン。
河原に倒れるオルー・ボカパ。
先に立ち上がったのはオルー・ボカパの方だった。
カノンのパンチを肩で受け止めたのでダメージがそれほど無かったようだ。
一方カノンはパンチを受け止められた上に物凄い衝撃を受け吹っ飛ばされていた。
「カノン・・ゴドヌ・・・ゴドヌ・・・ゴドヌ!!」
オルー・ボカパは怒りに燃える目でカノンを見、そう叫んだ。
そして一歩一歩カノンに向かっていく。
カノンは何とか手をついて立ち上がろうとしている。
「・・だ、ダメか・・・」
そう呟いた時、オルー・ボカパの鼻がカノンの胴に巻き付き、カノンを持ち上げた。
頭上まで持ち上げ、そこで回転させてカノンを放り投げる。
またも宙を舞い、地面に叩きつけられるカノン。
「くっ・・・・」
カノンはぐったりとして動けなくなっていた。
そこにまたオルー・ボカパが迫っていく。
今度は鼻を使わずに両手でカノンを持ち上げ、思い切り上へと放り投げた。
牙を上に向けてカノンが落ちてくるのを待つオルー・ボカパ。
空中にいるカノンにその牙をかわす術はない。
落下を始めるカノン。
その時、いきなりオルー・ボカパの胸で小さな爆発が起こった。
連続して何度も爆発が起こり、よろけるオルー・ボカパ。
カノンは体勢を何とか整え、オルー・ボカパの牙を掴み、その顔面に膝蹴りを叩き込んだ。
顔を押さえてよろめくオルー・ボカパ。
着地したカノンが振り返るとライフルを構えた国崎が少し離れたところに立っている。
国崎は自分の方を見たカノンに大きく頷いて見せた。
カノンはぐっと拳を握りしめ、立ち上がった。
(さっきはダメだった・・・でも今度こそ決める!)
更に拳に力を込めるカノン。
「ウオオオオオッ」
雄叫びをあげ、カノンは走り出した。
それを見たオルー・ボカパも迎え撃つかのように走り出そうとするが、そこを狙って国崎がライフルを撃つ。
オルー・ボカパの胸で爆発を起こすライフル弾。
「ウオオオオリャアアアアッ!!!」
拳を振り上げて走るカノン。
そのベルトの中央が赤い光を放った!!
その赤い光の中、カノンの姿が変化する。
振り上げている右拳に大きなナックルガード、赤い手甲、肩には大きな肩当てが現れ右腕全体の筋肉が異様なまでに盛り上がる。その代わり左肩の肩当てやナックルガードが無くなり、膝のサポーターも消えてしまう。
どうやら全ての力を右腕に集めているようだ。
その右拳に炎が宿った!
オルー・ボカパはライフルの銃撃を喰らいながらも何とか倒れるのをこらえている。
そこに赤いカノンが突っ込んできた。
右の拳による必殺の一撃!!
物凄いパワーの秘められたパンチがオルー・ボカパを吹っ飛ばした。
一気に多摩川の中程にまで吹っ飛ばされるオルー・ボカパ。
その胸には古代文字が焼き付けられていた。
今度はキックの時とは違う。その古代文字はしっかりとオルー・ボカパの身体に焼き付けられ、そこから全身に光のひびが走っていく。
「カノン・・・カノン・・・ゴドヌ・・・ゴドヌッ!!!」
多摩川の中程に立ち、カノンに向かって手を伸ばすオルー・ボカパ。
次の瞬間、オルー・ボカパは爆発四散した。
爆発が水しぶきを上げ、いつしかやんでいた雨の代わりに赤いカノンの上に降り注ぐ。
「・・・赤・・・」
国崎は離れた場所から赤くなったカノンをじっと見つめていた。
カノンがゆっくりと国崎の方を振り返り・・・その途中で祐の姿に戻っていったが・・・右手の親指を立ててにっこりと笑って見せた。
国崎は苦笑を浮かべると、同じように右手の親指を立てて見せ、彼の健闘をたたえた。
 
<喫茶ホワイト 17:52PM>
すっかり雨もやみ、祐がロードツイスターをガレージに止め、店に戻ってきた時はもう薄暗くなっていた。
「ただいま〜」
ドアを開けて中にはいるといつの間にか中はお客さんが一杯いる。
どうやら雨がやんだので徐々に増えてきたのだろう。
瑞佳やマスターが忙しそうに働いている中、佳乃がいつもの笑顔を見せて同じように働いているのに気がついた祐は笑みを浮かべた。
「遅いぞ、祐!早く手伝え!!」
マスターがそう言って祐に彼愛用のエプロンを投げ渡した。
それを受け取った祐と佳乃の視線が合う。
佳乃は祐に向かって右手の親指を立てて見せた。
頷いて、祐も右手の親指を立ててみせる。
「祐!早くしろ!」
「祐さん、こっち手伝って!!」
マスターと瑞佳の声がする。
「はいはい、今すぐに〜」
そう言って祐はエプロンをつけてカウンターのそばに駆け寄っていく。
窓の外にはいつしか星が輝いていた・・・。
 
<都内某所 18:12PM>
そこはまるで何かを祀っているような祭壇があった。
しかし、その祭壇には何もない。
郁未は祭壇に向かってじっとその人物の来るのを待っていた。
「待たせたな」
「本当、待たされたわ」
新たに入ってきた男にそう言い、郁未は振り返る。
「カノンは新たな力に目覚めたわ。全ては予定通り・・・かしら?」
そう言って郁未が笑みを浮かべた。
「アインの監視には由依がついたそうね・・・あの子で大丈夫?」
「君が気にすることではない。・・しかし・・・改造変異体を二体も使うとはな。また鹿沼主任が怒るのではないか?」
「それこそ気にする事じゃないわ。私達の聖戦のための貴い犠牲・・・そう、犠牲は付き物よ」
相手の男はそれを聞いてにやりと笑みを口元に浮かべた。
郁未は気にせず、男の横を歩き部屋を出ていこうとする。
「カノンの監視は私が引き続きやらせて貰うわ。貴方はもっとちゃんとした改造変異体を作る事ね?」
それだけ言い残し、郁未は部屋を出ていく。
後に残った男はさも愉快そうに低い声で笑っていた。
「楽しみだよ・・・我々の聖戦・・・遂に始まるのだ・・・」
 
Episode.16「必殺」Closed.
To be continued next Episode. by MaskedRiderKanon
 
次回予告
暗躍する未確認生命体第2号。
それを追って祐と国崎はN県に向かう。
国崎「第2号か!!今度は・・・」
潤「違う・・・今までとは・・・」
東京に現れる謎の怪人!
立ち向かうPSK−01だが・・・。
由依「貴方なら出来る・・・そう思うけど?」
秋子「それじゃ・・あの祐一さんは・・・?」
秋子達の前に現れた謎の青年。
新たな戦いの幕が上がり、運命の輪が回る。
香里「あ・・・あなたは・・・」
次回、仮面ライダーカノン「黒翼」
運命の輪は回り始めた・・・!!

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