<水瀬家 20:21PM>
水瀬秋子は台所でお茶の用意をしていた。
もう少ししたら彼女がやってくる。甘いものが大好きな彼女に出来れば何か甘いものを出してあげたかったが、この日に限って買い物に行く暇もない程忙しく、少し前に仕事を終えたところだったのだ。
ピンポーンとドアチャイムの音がした。
「はいはい・・・」
秋子はエプロンで手を拭きながら玄関へと向かう。
ドアを開けると、そこにはショートカットの雪のように白い肌をした少女が立っており、秋子を見てぺこりとお辞儀をした。
「すいません、遅くなりました」
少女がそう言うのを秋子は笑顔で制止した。
「いいのよ・・・栞ちゃんがこうして来てくれるだけでも助かっているから。さ、入って・・・」
秋子がそう言って彼女、美坂栞を家の中に招き入れる。
ここ最近栞はこの水瀬家に毎日のようにやってきていた。
いや、ここ最近という言い方は間違いであろう。
彼女は、姉である香里が東京に行ってしまってから、初めは週に一回、それが今ではほぼ毎日水瀬家にやってきては秋子の話し相手をしたり、未だ眠り続けている秋子の娘、名雪の世話をしていたりするようになっていた。
秋子も自分の生活のために働いているので(と言っても眠り続けている名雪をおいて外で仕事をするわけにもいかず在宅で出来る仕事をやっているのだが)栞が来て名雪の世話をしてくれているのには大いに助かっていたのだ。
本当ならばこの家にはもう一人の居候がいたはずなのだが、その居候は今は何処か別のところで働いているらしい。
「栞ちゃんもバイトとか大学とかで忙しいのに・・・いつもごめんなさいね」
秋子はそう言って栞を見た。
そう言われた栞は慌てて両手を振って
「そ、そんな事無いです!私が勝手にやっていることですから・・・その・・秋子さんも大変だろうなって思うし・・・それに・・・」
そこで言葉を切り、彼女は少しだけ暗い表情を浮かべた。
「それに・・・もしかしたら祐一さんが帰ってくるんじゃないかって思う・・・そうでしょ?」
微笑して秋子が言う。
「すいません・・・自分勝手ですよね、私・・・。こうして名雪さんのそばにいればもしかしたら祐一さんがひょっこり帰ってくるんじゃないかって思って・・・そう言う下心があって・・・」
栞は暗い表情のまま言う。
このやりとりを一体何度したことだろうか。
秋子は左手を頬に当ててそう思う。
彼女に栞を責めるつもりはない。
5年前のあの日、この家を出ていった相沢祐一という秋子の甥は帰ってくることはなかった。
栞の姉である香里に聞いたところ、彼は最強の怪人と戦って相打ちになって爆発の中に消えた、と言うことである。その爆発跡に彼の死体がなかったことから、彼を知っているものはそのほとんどが彼の生存を信じていた。
もちろん秋子もその一人である。祐一は名雪のことが好きだった。だから生きていれば必ずこの家に帰ってくる。今でもそう信じているのだ。
それは栞も同じである。
彼女は少なからず祐一に好意を抱いていた一人であり、その思いは今でも消せないようだ。たとえ祐一の目が名雪に向いていたとしても、彼女は自分の思いを捨てようとはしない。
それで彼女は満足なのだ。
自分が祐一のことを好きでいれれば。
「祐一さんも罪な人ね。栞ちゃんにここまで思ってもらいながら・・・」
秋子がそう言って栞を見つめる。
「私はいいんです。祐一さんが、私を見てくれなくても・・・名雪さんを選んでも・・・私が祐一さんを好きだって事に変わりはありませんから」
栞はそう言って明るい表情を見せた。
「それに私、名雪さんのことも好きですから」
「ありがとう、栞ちゃん」
秋子は素直に感謝した。
たとえ栞が何時か祐一が帰ってくるのではないかと期待して、そう言う下心を持ってこの家に来てくれているのだとしても、それでも彼女は名雪の世話をしてくれているし、秋子の話し相手にもなってくれている。
それでいいのだ。
秋子はそう思っていた。
栞が来るといつもこういう会話が初めにある。
彼女が持っている下心という罪悪感・・・それを生み出させた祐一が秋子には少々恨めしかった。
(祐一さん、帰ってきたらあのジャム、食べてもらいますからね)
 
その頃東京の喫茶ホワイトの店内では・・・祐が唐突に走った悪寒に体を震わせていた。
 
仮面ライダーカノン
Episode.15「姉妹」
 
<喫茶ホワイト 14:09PM>
店内はお昼の客が引けて丁度暇になった頃合いであった。
祐が客の食べ終わったカレーの皿を片付け、長森瑞佳が洗い物を行っている。
マスターはと言うと、先ほどからカウンターの一角に陣取って何やら新聞やら雑誌を見てはあるページを切り抜いていた。
そこにカランカランとカウベルの音がして美坂香里が入ってきた。
「こんにちわ〜」
笑顔でそう言って入ってきた彼女に続いて背の高い外国人が入ってくる。
エドワード=ビンセント=バリモア、通称エディである。
「いらっしゃ・・おお、外国人さんだ!!」
マスターが入ってきたエディを見て驚いたような顔をする。
「始めまして、エディです」
流暢な日本語でエディがそう言ったので更に驚くマスター。
「おお、日本語が達者だ!!」
「いや、それほどでも・・・」
照れたように頭をかくエディ。
瑞佳はそんなマスターを呆れたように見ていた。
「エディってここ来るの初めてだっけ?」
祐がエディを見てそう言うと、彼は頷いた。
「今日が初めてですよ。香里さんから噂を聞いてはいましたが」
そう言ってにっこりと笑うエディ。
「とりあえず座って座って」
マスターがカウンター席の空いているところを勧める。
二人が椅子に座ったところで瑞佳が水の入ったコップを前に置く。
「私はいつもの奴。エディは?」
「じゃあ、ボクはマスターのお薦めで」
メニューリストを見ながらエディがそう言ったので香里は彼が手にしているメニューリストをのぞき込んだ。
そこには確かに「マスターのお薦め!!」と書かれていた。
香里は何とも訝しげな顔をしてマスターを見る。
「これ、大丈夫なの?」
小声で瑞佳に尋ねる。
「多分大丈夫・・・まぁ、気まぐれで何がお薦めになるかはわからないけど」
同じように小声で返す瑞佳。
「で、今日のお薦めは?」
「よくぞ聞いてくれました!!当店本日のお薦めメニューは!!」
何故かびしっとポーズを決めてマスターが言う。
メニューリストをエディの手から取り上げてマスターが指さしたのは・・・「ホワイト特製バニラアイス」だった。
「バニラアイス・・・こんなものまでやっているんですか?」
エディが瑞佳に問いかけると彼女は頷いた。
「たくさんは作ってないから少ないけどね」
「バニラアイス、か・・・私も貰おうかしら?」
香里がそう言って瑞佳を見て微笑んだ。
「あれ?香里さん甘いもの、好きだったっけ?」
エディがそう言って驚いたように香里を見た。
「私だって女なのよ。甘いものが嫌いな女がいると思う?」
エディを見てそう言い、香里は笑みを浮かべた。
「本当は私より妹の方が好きなんだけどね、バニラアイスは」
何処か懐かしげな顔をして香里が言う。
それを聞いた瑞佳が香里の方を見た。
「へえ。香里さん、妹がいるんだ?」
「香里ちゃんの妹ならきっと可愛いんだろうねぇ」
マスターがそう言って話に入ってきた。
頷くエディ。
「・・・今はちょっとケンカしているんだけどね。何時か紹介出来たらいいけど・・・」
少しだけ寂しそうな顔をして言う香里。
それから彼女は先ほどから黙っている祐の方を見た。
もし、彼が相沢祐一ならば妹のことを知っているはずなのだ。
しかし、祐は少し考え込むような顔をしていたが、やがていつもの飄々とした表情に戻った。
「ダメですよ、香里さん。ケンカなんて。ちゃんと仲直りしないと」
そう言って彼は笑みを浮かべる。
「・・・そうね。今度会うことがあれば考えてみるわ・・・」
香里はほんの少しだけ残念そうな顔をしたがすぐに笑顔になって祐にそう言い返した。
 
<東京医大病院 15:21PM>
霧島聖は廊下においてある長椅子に腰を下ろし、缶コーヒーを飲んでいた。
先ほどまで外来患者の診察や入院患者の往診に追われており、ようやく休憩をとれたところなのだった。
缶から口を放し、ふうと息を吐く。
「何か用なのか、国崎君?」
そう言って彼女はまた缶に口を付けた。
廊下の角からすっと黒ずくめの国崎往人が姿を見せた。
「いや・・・声をかけていいものかどうか迷ったんだが・・・」
そう言って国崎は頭をかいた。
「君らしくないな。いつもなら私の都合など無視してくるだろうに」
「正直言ってそれをやる度に生傷が増えていくんだが・・」
「何の用だと聞いている」
不機嫌そうに聖は言う。
国崎の方など一度も向こうとしていない。
「また未確認でも出たか?」
「いや・・ここ2週間程平和なもんだよ。今までが嘘みたいにな」
「では一体何の用だ?」
「俺があんたと世間話をしに来たらいけないのか?」
「・・・・国崎君。いつも言っているが私はそれほど暇じゃない・・・」
聖はそう言って国崎の方を向き、手に何処から出したのか手術用のメスを握る。
「君が今ここで私の仕事を増やす気なら早々に帰った方が身のためだと思うぞ」
国崎はそう言った聖がかなり本気だと感じ、二、三歩退いた。
しかし、今日わざわざ彼女に会いに来たのには理由があった。
「あんたに話があるんだよ・・・あいつ・・・祐の字のことだが」
それを聞いた聖はため息をついて、メスをしまう。
「そうならそうと早く言えば良いんだ。で、彼がどうかしたか?」
「あれから未確認生命体は第16号まで出てきている。そのいずれもが第3号・・・カノンが何とか倒しているんだが」
「警察が未確認を倒した、と言う話は一度も聞いたことがない。かろうじて倉田重工が開発したパワードスーツが何度か活躍したと聞いているが・・・一体警察は何をしているんだ?」
「悪かったな・・・その倉田重工さんの開発した銀色もあまり役に立ってないけどな。第7号と8号の時以来見かけてないし・・・」
「それで?」
「・・・あいつの体は大丈夫なのか?第7号の時に紫になったという話は聞いているんだが・・・」
「彼の体に特に異常はない。この間彼に来て貰ってチェックしたから本当だ。ただ・・・」
「ただ・・・何だ?」
言葉を切った聖に国崎が先を話すよう促す。
「彼の体はかなり変化している。回復力も尋常ではない。それが彼を苦しめているように思えてならないんだ」
聖は俯いて言った。
「回復力が上がったことはいいことかもしれない。戦士にとって素早い回復は必要なんだろう。しかし、彼本来の体がその回復に追いついていない。彼はダメージを受けて、回復する間、かなりの苦しみを受けているのではないか?」
「確かに傷とかの回復が早いとその分熱が出たりするしな」
「つまりそれだけ新陳代謝が活発になっていると言うことだ。それはつまり・・・彼の体が・・・いや、あくまで私がそう思うだけだが・・・一度彼に聞いてみてくれ」
少し含んだような口調で言う聖。
「・・自分で聞けばいいじゃないか。あんたはあいつの世界でたった一人の主治医なんだろ?」
少し不服そうに言い返す国崎。
「・・・そうか・・そうだったな」
聖はそう言うと立ち上がった。
「休憩は終わりだ。まだまだ仕事が残っているからな。今の仕事を片付けないと今度の休みに佳乃との約束が果たせなくなる」
そう言って国崎に笑みを見せる。
「相変わらずだな、あんたは。今でも妹が最優先か?」
国崎は苦笑しながらそう言った。
「佳乃とはこの世でたった二人の姉妹だからな。大切に思って何が悪い?」
聖が少し不機嫌そうな顔を見せる。
このままだとまたメスが現れそうな予感がした国崎は大急ぎでその場から離れることにした。
「じゃ、俺も仕事に戻る・・・」
逃げるように去っていく国崎。
その後ろ姿を見ながら聖はまたため息をついた。
 
<都内某所(古びた倉庫の中) 16:33PM>
体格のいい男が黒服の男と共にラジオに聞き入っている。
どうも興味津々という感じで聞き入っているのは日本語を覚えるためであろうか?
「ミカク・・・ニン・・・セイメ・・・イタ・・イ?」
体格のいい男がそう呟く。
「我々のことだ」
すっと何処からともなく姿を見せ、そう言ったのは腕を組みながら爪を噛んでいる男であった。
その男の後ろから更に数人の男女が姿を現す。
新たに現れた男女の姿を見て、体格のいい男と黒服の男が顔色を変えた。
「マエ・ロサレシャシィ・ザ?」
「ロサレシャシィ・ザモルマニ・ジャガダジャ」
そう言って一人の男がすっと前に出た。
「マヲジャショ!!」
体格のいい男がそう言って前に出た男に詰め寄る。
「しかし、これが現実だ」
そう言って腕を組んでいた男が別の女性が手にしていたボードを見せた。
そこには何かが書き込まれているが、それはあまり芳しくない内容のものらしい。
体格のいい男の顔が苦渋に歪む。
「もうお前達カパの出る幕はない」
切れ長の瞳を持つ女が一歩前に出てそう言い放った。
「これからは我々バルがゼースをやる」
「サジャシャ!サジャ・ゴモロデ・ザリヅ!!」
そう言って体格のいい男がその場にいるものに背を向けて歩き出した。
それを追いかけようとする男を切れ長の瞳の女性が制止する。
「ギャシュモ・ヌギミ・ナネシェロゲ」
切れ長の瞳の女性がそう言い、自分達の後ろにいる美しいドレスの女性を見た。
頷くドレスの女性。
 
<水瀬家 19:29PM>
秋子はテーブルにお茶を置き、栞の方を見た。
栞はお茶の入った湯飲みを両手で握り、口を付ける。
それから自分をじっと見ている秋子の視線に気付き、秋子を見た。
「どうしました、秋子さん?」
湯飲みをおいてそう言うと秋子は左手を頬に当てて少しだけ困ったような顔をした。
「・・名雪を東京のお医者様に見せようと思うんだけど・・・」
「それ、いいと思います。名雪さん、このままずっと目を覚まさないと・・・秋子さんも大変でしょうし」
「・・栞ちゃん、今度いつお休みかしら?」
「バイトならいつでも休めますよ。大学の方も大丈夫です。秋子さん一人じゃ何かと大変ですからいつでも声をかけてください」
栞はそう言って笑顔を見せた。
「ありがとう、栞ちゃん」
秋子はそう言って頭を下げた。
「いいんですよ!私なら、別に、そんな!!」
慌てて栞が手を振ってそう言う。
「そ、それでいつ東京に行く予定なんですか?」
「そうねぇ・・・最近東京は未確認生命体とかが出て物騒らしいんだけど・・・出来れば早い内に・・・」
また頬に左手を当てて秋子がカレンダーを見る。
栞もカレンダーを振り返る。
「・・・栞ちゃん、明後日、いいかしら?」
秋子がそう言って栞を見る。
「わかりました。明後日ですよね?一応お母さんに言って許可貰っておきます」
栞はそう言うと自分の鞄から手帳を取り出し、中に何かを書き込んだ。
「・・・東京と言えば・・香里ちゃんがいたわね。香里ちゃんにも連絡、とってくれないかしら?」
香里、と言う名を聞いた栞の顔色が変わった。
今まで明るかった栞の顔が暗い表情に覆われる。
「お姉ちゃんは・・・お姉ちゃんは・・・祐一さんとの約束を裏切ったんです。そんなお姉ちゃんに・・・」
そう言った栞の目に何か暗い炎が浮かび上がっている。
秋子は栞の中に姉に対するかなり深い負の感情を感じ取っていた。
 
<香里のマンション 22:14PM>
城西大学から帰って来、まずはシャワーを浴びてすっきりとした香里が冷蔵庫を開けて中で冷やしておいたミネラルウォーターを飲んでいると電話が鳴った。
受話器を取り、ベッドに腰掛ける。
「はい、美坂・・・あ、お母さん?」
電話の相手はどうやら香里の母親だったらしい。
「・・・え?栞が?・・・秋子さんと?・・・そう、わかったわ・・・来たら連絡するように栞に・・・言っても無駄ね。秋子さんに後でこっちから電話しておくわ。・・・うん、出来たら今度そっちに帰るから・・・じゃ・・・」
香里は受話器を置くと、ため息をついた。
それからベッドに横になり、天上を見上げる。
「栞は・・・私を許してないんでしょうね、きっと・・・」
そう呟き、香里は目を閉じた。
 
<警視庁未確認生命体対策本部 10:03AM>
国崎が椅子に座って今までの資料を見ていると、そこに神尾晴子が入って来、彼の後頭部を手に持っていた書類ではたいた。
「いてっ・・・何するんだよ?」
はたかれた後頭部を押さえながら国崎が非難っぽい視線で晴子を見る。
「ぼうっとしとるから気合い入れたったんや!」
晴子はそう言って手に持っていた書類を彼の前に置いた。
「これ見てみぃ。ここ2週間程出てきてない未確認のことや」
「・・・・・確かに出てきてないよな・・・」
2週間程前、未確認生命体第16号が現れ、白い第3号によって倒されてから新たな未確認生命体は出てきていない。
その間に今まで現れた未確認生命体の資料がまとめられたらしい。
「今まで現れた未確認で倒された形跡の無いのは第2号と、第0号。それ以外の未確認は全部第3号が倒しとる。警察は何をやっとるんや、ちゅうことやな」
「こっちの武器が通用しない、常識はずれの連中が相手なんだぞ。仕方ないと思うがな」
書類をぱらぱらとめくりながら国崎は言った。
「そやけどな・・・」
晴子は不満げに口をとがらせる。
彼女を無視して国崎は考えを今までの戦いへと走らせた。
カノンが紫になった時、第7号、第8号との戦いから立て続けに未確認生命体は現れ、一般市民の殺害を繰り広げた。
国崎はカノン、祐と共にそれら未確認生命体を何とか少ない被害で倒してきたのだが、第16号を倒してからと言うもの、ぱったりと未確認生命体の活動はやみ、2週間程平和な日々が続いている。
そのことがどうにも国崎は気にかかっていた。
(何か・・・連中、新しいことを始めるつもりじゃないんだろうか・・・?)
未確認生命体の動きの沈静化、それは新たな殺戮の前触れではないか?
漠然とした不安を国崎は感じていた・・・。
 
<喫茶ホワイト 14:52PM>
「ふんふんふ〜ん♪」
機嫌の良さそうな鼻歌が聞こえてくる。
店の中では佳乃が何とも楽しそうに仕事をしていた。
「ずいぶんとご機嫌だな、佳乃」
マスターがそう言って佳乃を見る。
彼は今日もカウンターの一角に陣取り雑誌や新聞などを切り抜いていた。何やらスクラップブックを作っているようだ。
「明日久しぶりにお姉ちゃんと買い物に行くのだぁ」
嬉しそうに佳乃がマスターを振り返って言う。
「佳乃ちゃんのお姉さんって確か何処かの病院の先生なんだよね?」
瑞佳が洗い物をしながら言うと、佳乃は大きく頷いた。
「へえ、そうなんだ?」
興味津々と言った感じで祐が言う。
「と言うことは女医さんなんだ」
「そう、祐さんの言う通り、女医さんなんだよぉ。お姉ちゃんは物凄く腕のいいお医者様で何でも直しちゃうんだから」
佳乃はそう言って自分の胸を張った。
祐はぱちぱちと拍手している。
「本当に凄いんだよぉ。子供から大人はもちろん、老人まで。その気になったら車とか自転車も直しちゃうんだから」
「いや、それは違うだろ」
マスターが調子に乗ってきた佳乃につっこみを入れる。
佳乃はえへへと舌を出して笑う。
つられたようにマスターや瑞佳、祐も笑い出す。
平和な午後であった。
 
<城西大学考古学研究室 15:56PM>
エディがいそいそと自分の荷物を鞄に詰め込んでいる。
「ずいぶん持っていくのね?」
香里が呆れたように言った。
「暇つぶしだよ。ボクの卒業論文もあるけどね」
「・・・私はこのまま大学院に行くからいいけど、エディは一度帰るの?」
「そうだね、この間帰った時にも帰って来いって言われたからね。ボクも大学院に進むつもりだけど一度帰ってみるよ」
エディはそう言うと、鞄を肩に担いだ。
「その前にこの調査をきっちりやってくるけどね」
「茜さんにもよろしくね」
香里はそう言って笑みを浮かべてエディを見送った。
N県に帰った里村茜から手紙が来たのはつい昨日のことであった。
あの惨劇があった遺跡の再調査の許可が取れたので城西大学側からも誰か来て欲しいとのことであった。既に彼女はあの遺跡に入り、他の石室から何かを発見しているらしい。それについても意見が欲しいと書かれていた。
香里は古代文字の碑文の解読に手が一杯なので、代わりにエディがN県に行くことになったのだ。
彼は元々合同調査隊の一員だったのだがあの惨劇の日の数日前に親が倒れたとの連絡を受けて帰国していたので惨劇を免れたのであった。ちなみに彼の親はただのぎっくり腰だったそうですぐに帰国してきたらしいのだが。
「それじゃ行って来るね」
「気をつけてね、エディ」
そう言った香里にエディは右手の親指を立ててにっこりと笑って見せた。
 
<水瀬家(名雪の部屋) 19:31PM>
秋子は眠り続けている娘を抱き起こすとそっとその長い髪をすいてやった。
「そろそろ起きて欲しいわね・・・いつまで眠っているつもりなの、名雪?」
眠り続けている娘にそう呼びかけるが、全く反応せず娘は気持ちよさそうに寝息を立てている。
「祐一さんも呆れるわよ・・そんなに寝てばかりだったら・・・」
そう言って秋子は嘆息する。
また娘を寝かせて、秋子は窓のそばに近寄り、窓を開ける。
もう3月も終わりに近いのに冷たい風が室内に入り込んできた。
その中、秋子は妙な気配を感じて目を細めた。
「・・・・・・まさか・・・・?」
そう呟き秋子は窓を閉じる。
その顔色は今までになく悪くなっていた。
「まさか・・・あの人達が動き出した・・・?」
呟きながら秋子は娘を見る。
彼女が今もこうして眠り続けているのは・・・。
秋子の胸に不安が広がっていく。
 
<喫茶ホワイト 10:29AM>
窓の外は雨であった。
店内からつまらなさげに窓の外で降りしきる雨を眺めている瑞佳。
「昨日までいい天気だったのに・・・」
「そう言うこともあるさ。晴れてばかりじゃ大変だろ?」
マスターが今日もまたスクラップブックを作りながら言う。
「でも雨だとお客さんが来ませんからね〜。困りますよね〜」
暇なのかモップで床を拭きながら祐が言った。
「佳乃ちゃん、今日のこと楽しみにしていたのに・・・残念だよ」
「買い物くらい雨でも出来るだろ」
「忙しいお姉さんと久しぶりに一緒にお出かけするって言ってたんだよ?楽しみにしていたんだから・・・」
「そう言う意味では可哀想ですよね・・・」
瑞佳の言うことに祐が同意する。
彼も瑞佳と同じように降りしきる雨を眺めた。
 
<世田谷区多摩川周辺 10:31AM>
一台の車が多摩川沿いの道路を走っている。
「やれやれ・・・雨だなんてついてないよなぁ・・・」
乗っているのは若い男のようだ。
車も少々改造がなされているらしくその排気音はかなりうるさかった。
「急がないと・・約束の時間に間に合わないな・・・」
男がアクセルを踏み込もうとしたその時、いきなり一人の体格のいい男が車の前に飛び出してきた。
慌ててブレーキペダルを踏み込む。
タイヤが白煙を上げて急制動をかけ、何とか体格のいい男の前で停車した。
運転していた男は思わず窓を開けて飛び出してきた男に向かって大きい声で文句を言う。
「あぶねえだろ、この馬鹿野郎!!」
しかし、体格のいい男は何も答えない。
それどころか荒い息をしながら運転していた男を睨み付けてきた。
「どけよ、この馬鹿!俺は急いでンだよ!!」
イライラしながら若い男が言う。
と、いきなり体格のいい男が車のバンパーに手をやり、車を持ち上げ始めた。
「な、何だぁ!?」
驚く若い男。
徐々に車が持ち上がり始める。
「フーッフーッ、フーーッンッ!!!」
体格のいい男が一気に車を持ち上げ、ひっくり返してしまった。
「うわわっ!!」
乗っていた若い男は何がなんだかわからないまま、ひっくり返された車の中で悲鳴を上げる。
何とか外に出ようとした若い男のそばに体格のいい男が近寄ってきた。
「サシュ・ヴァヲミヲ」
体格のいい男はそう言うとその姿を変えた。
鋭い二本の牙をはやした鼻の長い生物・・・象に似た未確認生命体・・・オルー・ボカパへと。
それが若い男が見た最後の光景だった・・・。
 
<警視庁未確認生命体対策本部 11:04AM>
国崎や晴子もこの日の雨にはうんざりしていたようである。
不機嫌そうな顔でテーブルに肘をついていた。
「・・・そう言えば、観鈴は元気なのか?」
国崎が晴子を見て言う。
「・・相変わらずや。・・・まだ気にしとったんか?」
晴子がいかにも意外そうだと言わんばかりの顔をして言い返した。
「・・・俺はあいつを傷つけたかもしれないからな・・・N県に行くことを黙っていて、それで当日になって知られてさんざん喚かれたし・・・」
「気にするこっちゃ無い。あの子はまだまだ子供やっちゅうことやからな」
「二十歳前の娘を捕まえて言う言葉じゃねーな」
「うちの娘や。親が何言うても構うかい」
そう言って苦笑する晴子。
観鈴とは彼女の娘である。もっとも本当の親子ではないらしいのだが、晴子は観鈴のことを本当の娘のように育ててきたし、観鈴も彼女を本当の母親のように慕っていた。
そこに息を切らせて住井護が飛び込んできた。
「出ました!第17号です!!世田谷の多摩川沿いで一人の若者を車ごと殺害した模様です!現在所轄が追跡中との報告がありました!」
それを聞いて対策本部内がざわめいた。
「・・・行くで、居候!」
「ああ!」
国崎、そして晴子が本部を飛び出していく。
国崎は心の中で「遂に始まったか」と思っていた。
 
<関東医大病院 11:09AM>
聖は慌てて更衣室に飛び込んでいった。
「霧島先生、どうかしたんですか?」
馴染みの看護婦が声をかけてきた。
「妹と買い物に行く約束をしていたんだ!仮眠をとったつもりだったが、つい寝過ごしてしまったらしい!!約束まで後30分もない!!」
聖がこんなに慌てているのは珍しい。
他の看護婦達も物珍しい顔をして彼女の様子を見ている。
「霧島先生、病院内は走っちゃダメですよ」
「慌てると怪我しますよ」
からかうように看護婦達が言う。
聖はそんな看護婦達をきっと睨み付け、更衣室を出ていく。
丁度病院の入り口まで来た時だった。
彼女の携帯電話が呼び出し音を鳴らしたのは。
「何だ!私は今忙しいんだ!用なら後にしてくれ!」
携帯電話の液晶画面出かけてきた相手を見、通話ボタンを押して早口にまくし立てる。
『・・・悪い。いや、未確認が出たんだよ!あんたには悪いが大至急検死の方を頼む!』
国崎だった。
「未確認だと・・・誰か別の奴ではいけないのか!?」
『あんた、自分に任せろって言っていただろう!とにかくそっちに回す手はずは整っているから後は任せたぞ!』
国崎はそれだけ言うと勝手に切ってしまったようだ。
聖は立ち止まると・・・苦渋に満ちた表情をして病院内へと戻っていった。
少しして、裏口に一台の救急車が入ってくる。
それを出迎えた人の中に白衣を着た聖の姿があった。
 
<喫茶ホワイト 13:11PM>
雨はまだ降り続けている。
「ありがとうございました〜」
瑞佳がそう言って客を送り出す。
「はぁ・・また暇になっちゃったね」
そう言って祐を振り返る。
「そうですね・・・」
洗い物をしながら答える祐。
マスターは未だにせっせとスクラップブックづくりに没頭しているようだ。
「・・・マスター、何作っているんだよ?」
そう言って瑞佳がマスターの後ろから手元をのぞき込んだ。
するとそこには・・・未確認生命体関連の記事がびっしりと貼り付けられたスクラップブックがあった。
「何これ・・・?未確認生命体第3号、第16号を撃破・・・2週間前の新聞の記事?」
「どれどれ?」
カウンターの中から身を乗り出して祐がマスターの手元のスクラップブックをのぞき込んだ。
「へぇ・・・見事なもんですね」
感心したように祐が言ったのでマスターは大きく頷いた。
「古新聞や古雑誌をとっておいてよかった・・・」
「・・・余った分はただのゴミだよ」
呆れたように瑞佳が言う。
その時、カランカランとカウベルの音がしてドアが開いた。
「いらっしゃいませ・・・佳乃ちゃん!?」
瑞佳が振り返るとドアの所にびしょ濡れになった佳乃が立っていた。
慌てて佳乃のそばに駆け寄る瑞佳。
「祐、タオルもってこい!」
「はいっ!」
マスターがそう言い、祐が二階へと駆け上がってタオルをとってくる。
「一体どうしたの?今日はお姉さんと買い物に行くんじゃ・・・」
そこまで瑞佳が言った時、佳乃はわっと泣き出した。
そして瑞佳の胸にすがりつく。
困ったような顔をして瑞佳がマスターと祐の方を振り返る。
とりあえずマスターは祐の手からタオルを受け取り、佳乃の頭にかけてやった。
佳乃は瑞佳の胸に顔を埋めながら泣き続けている。
三人はどうすることも出来ずにただ佳乃が泣きやむのを待つしかなかった。
 
<水瀬家 13:21PM>
栞が傘を差しながら走ってくるのを見て秋子は手を振った。
「すいません、遅くなっちゃって・・・」
「いいのよ。栞ちゃん、あまり無理しちゃダメよ」
栞がそう言って頭を下げるのを制する秋子。
「あの、名雪さんはまだ部屋ですか?」
「もう車に乗せてあるわ。栞ちゃんが来たらすぐに出られるように」
そう言って秋子が歩き出す。
「すいません、やっぱり遅くなっちゃったようですね・・・」
慌てて後を追う栞。
水瀬家のガレージの中には一台のライトバンが止まっていた。
その後部座席では既に秋子の娘である名雪が気持ちよさそうに眠っていた。
ちなみに体はシートベルトで固定されている。
「・・・驚きました」
このように移動されても眠り続けている名雪に、だろう。
栞は本当に驚いたような顔をしている。
「乗って、栞ちゃん。早くしないと今日中に病院に行けなくなるわ」
秋子は既に運転席に座っていた。
「は、はいっ!」
慌てて助手席に座る栞。
「それじゃ、行くわよ」
そう言って秋子はエンジンを始動させた。
ゆっくりとライトバンが水瀬家のガレージから出ていく。
それを見て、一台のアメリカンバイクが物陰から姿を見せ、ライトバンを追うように走り出した。
 
<喫茶ホワイト 13:32PM>
ようやく落ち着いた佳乃にシャワーを浴びさせている間、マスターは瑞佳に佳乃に着せる服を取りに帰らせた。
瑞佳が戻ってくるのとほぼ同時に佳乃が浴室から出てくる気配がした。
「瑞佳」
マスターが一言そう言って瑞佳を見、瑞佳は頷いて浴室に向かう。
「・・・一体、何があったんでしょうかね?」
祐がそう言ってマスターを見る。
「さぁな・・・でもあの佳乃があそこまで泣きわめいたのを俺は初めて見た・・・」
そう言ってマスターは沸かし立てのコーヒーをカップに入れた。
そこに瑞佳に連れられた佳乃がやってきた。
「ほれ、体暖めろ」
マスターが入れ立てのコーヒーカップを彼女に渡す。
両手で受け取り、口を付ける佳乃。
そこに電話の呼び出し音が鳴り響いた。
祐が受話器を取ると、聞いたことのある声。
『済まないが・・そこに霧島佳乃はいるか?』
「・・・あれ?霧島先生じゃないですか?あ、佳乃ちゃんのお姉さんの女医さんって霧島先生のことだったんですね」
『む・・その声は祐君か?まさか君が佳乃と同じところでバイトしていたとは・・・世間は狭いものだな。で、佳乃はそこにいるのか?』
何故か落ち着き払った声の聖。
祐はそれに違和感を感じたが、口には出さなかった。
「ちょっと待ってください・・・」
そう言うと受話器の片方を手で押さえて、佳乃を見た。
「佳乃ちゃん、お姉さんから電話」
佳乃はちょっとためらったが祐から受話器を受け取った。
それから二言三言話していたがいきなり佳乃が大きい声で、
「お姉ちゃんのうそつき!!」
そう言って叩きつけるように受話器を置いてしまう。
周りにいたマスター、祐、瑞佳に気まずい沈黙が流れる。
佳乃は受話器を置いた姿勢のまま、ハァハァと息をしていたがやがて三人の方を見るとにこっと笑って見せた。
それはどことなく痛々しい笑みだったが。
「マスター、今からでもバイトしていいかな?」
「・・・二階に瑞佳の泊まり用の部屋があったろ?そこ、開いているからもう少し休んでこい」
マスターがそう言って二階を見る。
「でも・・・」
「ほら、佳乃ちゃん、まだ顔色悪いよ。だから、行こう?」
躊躇う佳乃の後ろに瑞佳が立ち、優しくそう言って佳乃の肩に手をやった。そしてマスターと祐の方を見て、頷き、佳乃を連れて二階へと上がっていく。
それを見送ってからマスターはため息をついた。
心配そうな目をして二階を見上げる祐。
雨はまだ降り続けている・・・。
 
<世田谷区多摩川二子橋公園周辺 13:46PM>
一台のワゴンがアイドリングしながら道ばたに停車していた。
「全然やまないねぇ・・・」
助手席に座っている女性がそう言って降りしきる雨を窓越しに見る。
「昨日までいい天気だったのに」
「このままじゃいつまで待ってもやまないだろうな。もう帰るか?」
運転席の男がそう言って女性を見やった。
「そうねぇ・・・そうしようか・・・」
気怠げに女性がそう言った時、いきなりワゴンが大きく揺れた。
「うわっ!!」
慌ててハンドルにしがみつく男。
女性は思いきり天上の頭をぶつけたらしく手で頭を押さえていた。
「・・・ったく、何処かの馬鹿がぶつけたか?」
そう言って男が窓を開けて面倒くさそうに後ろを見るが、そこに車の姿はなかった。
「おいおい・・まさか当て逃げか?」
男が傘を手に車を降りる。
ワゴンの後部まで来て、男はそこに傷がないことに気付き、首を傾げた。
と、その時、いきなり彼の後ろから何かが伸びてきて、彼の首に巻き付いた。
男の首に巻き付いたのはかなり太いロープのようで・・それがぐいぐいと彼の首を締め上げていく。ミシミシと男の首の骨が悲鳴を上げ、バキッと言う音がして男の体から力が抜け、ぐったりとその場に倒れ込む。
男が事切れたのを見て、ゆっくりと姿を見せる未確認生命体第17号・・・オルー・ボカパ。
オルー・ボカパはゆっくりとした足取りで未だエンジンのかかっている車に近寄るとその後部に手をかけた。
そして、ぐっと力を込めてワゴンを持ち上げようとする。
その時になって女性も以上に気がつき、ワゴンの外に飛び出してきた。
倒れている男を見て、悲鳴を上げる女性。
悲鳴に気がついたオルー・ボカパはワゴンから手を放すと、女性の方へと歩み寄っていった。
オルー・ボカパの姿を見て女性が逃げだそうとする。が、雨に濡れたスカートが足にもつれてその場に転んでしまう。
「ロサレソ・ゴドニジェ・ギャヅ」
そう言ってオルー・ボカパが女性に近寄っていく。
「いや・・いや・・・いやあああぁぁぁっ!!!!」
再び悲鳴を上げる女性・・・だがその悲鳴は雨音に消され、何処にも届くことはなかった。
 
<関東医大病院 13:57PM>
国崎が現場から関東医大病院に着いた時、聖は手術着のまま、椅子に座り、壁に背を預けていた。
「済まないな、佳乃との約束破らせて」
「・・・これが私の仕事だ。佳乃もわかっている」
そう言って聖は立ち上がった。
「被害者は物凄い力で押しつぶされたようだ。更に体に大きな穴が二つ程穿たれている。まるで何か太い・・・牙のようなもので貫かれたかのように」
「牙?」
「何かはわからん。私がそう思っただけのことだ。今回の・・・17号は、車も破壊していたそうだな?」
「ああ」
頷き国崎は手帳を取り出した。
さっとペンを挟んでいるページを開く。
「車は見る影もない程破壊されていた。初めにひっくり返されて、それから物凄い力であちこちを引きちぎり、殴り、蹴り、踏みつけたようだ」
「想像を絶する力を持っているようだな・・・それにその様子だと何か車に対して恨みでも持っているようにも感じられる」
「俺も同感だ。でもまさか東京の住民に車を使うな、とは言えないだろう?そんな事したら一気にパニックが起こる」
手帳を閉じながら国崎が言う。
聖も頷いた。
「警戒を強めないとならないな」
「所轄に協力して貰って多摩川周辺を警戒して貰っている。第17号が場所を変えたらお終いだがな」
国崎はそう言って苦笑した。
「・・・彼には連絡したのか?」
「祐の字か?いや、まだだ」
「どうして連絡しないんだ?彼の力がないと未確認は倒せないだろう?」
聖が真剣な顔をして言う。
「おいおい、警察をもっと信頼してくれよ。今回は新兵器もあるんだ」
またも苦笑して言う国崎。
「未確認に何処まで通用するか、が問題だな」
「・・・とにかくあいつの手を借りるのは最後の最後にしたいんだよ。流石に警察のメンツってもんが・・・」
「何せ未確認生命体第3号に手を借りているくらいだからな」
そう言って聖が笑みを浮かべた。
「とにかく事件の早期解決を期待しているよ。佳乃との約束をおじゃんにした奴だ、必ず倒してくれよ、国崎君」
「ああ・・・本当に済まなかったな。あんたが佳乃のこと、大事に思っているのは知っているんだが・・・」
「構わないさ・・・それが仕事だからな」
今度は自嘲的な笑みを浮かべる聖。
その耳に佳乃の声がよみがえってくる。
『お姉ちゃんのうそつき!!』
「そうだ・・・私が悪いのはわかっている・・・!!」
そう呟いて壁をどんとたたく聖。
国崎はそんな聖を黙ってみていたがやがてきびすを返して去っていった。
これは彼女たち姉妹の問題、俺が口を出す問題ではない・・・そう思ったからだ。
一人残された聖はそのままの姿勢でじっと動こうとはしなかった。
 
<城西大学考古学研究室 14:02PM>
香里は壁に掛かっている時計を見て、ため息をついた。
「・・・もう・・出た頃よね・・・」
パソコンをおいてあるデスクに一緒においてある写真立てを見、またため息をつく。
そこには香里と、妹の栞、そして相沢祐一が映っている。
このころは何もなかった。
栞の病も快方に向かい、学校にも登校出来るようになって、よく祐一や名雪達と騒いだものだった。
しかし、5年前のあの日を境に全ては変わってしまった。
名雪は未だ眠りから覚めることなく、北川潤は自ら選んだ目標を追い求め、祐一は炎の中へ消えて行方不明。
そして栞とも・・・自分が高校を卒業した後、東京に行くことを告げてからすっかり仲が悪くなってしまっていた。
その時のことを香里は思い出す・・・。
 
『お姉ちゃんは祐一さんに名雪さんを頼むって頼まれたんでしょう?なのにどうして?』
真剣な表情をして栞は香里にそう言った。
香里は黙ったまま答えない。
『祐一さんのと約束を破るんですか?そんなのって・・・そんなのって・・・』
栞は最後のあの場にはいなかった。
だから祐一の最後の頼みを聞いていない。
それが悔しかったのだろうか。
いつしか栞の目には涙が浮かんでいる。
『私なら絶対に約束を守ります!でも祐一さんは・・・お姉ちゃんに頼んだんです!なのに・・・なのに・・・そんなお姉ちゃんなんか大っ嫌いです!!』
そう言って栞は自分の部屋に駆け込んでいった。
それから香里が東京に行く時も、彼女は香里とは顔を合わせようとはしなかった。
 
そう、その日から香里は栞とは一度も顔を合わせてもいなければ声すら聞いていない。
「・・・来るのなら・・・イヤでも顔を合わせることになるのよね・・・」
窓の外、降りしきる雨音を聞きながら香里は憂鬱な気分になる。
顔を合わせたところで話すことなどなさそうだ。
以前、栞の病状が思わしくない時、香里は栞が死んでしまうことが怖くて彼女の存在を否定したことがあった。その時は、それでも栞は自分のことを慕ってくれていた。しかし、今度は向こうからこっちを拒絶しているのだ。
「・・・話にすらならないわ・・・ねえ、栞、私は私に出来ることを精一杯やっているだけよ・・・信じられる?」
写真の中、微笑んでいる妹に向かって呼びかける香里。
「信じられるわけ、無いわよね・・・」
 
<喫茶ホワイト 14:20PM>
相変わらず店内に客の姿はない。
「全く雨だと言うだけでこれだ・・・」
マスターがそう呟くが、何となく嬉しそうである。
と、その時、また電話が鳴った。
「はい、白い雪のようにさわやかな味をお届けする喫茶ホワイトで・・・あ、祐ですか。ちょっと待ってください・・」
受話器を取ったマスターが片方を押さえて二階に佳乃の様子を見に行っている祐を大声で呼ぶ。
「おーい、祐っ!!お前に電話だぞ!!」
「はーい!!」
そう言って祐が降りて来、受話器をマスターから受け取る。
「はい、祐ですけど・・・あ、国崎さん?・・・え?わかりました!すぐに行きます!!」
祐はそう言うと受話器を置いて、マスターを振り返り、
「すいません、ちょっと急用が出来ました!!」
そう言って店を飛び出していく。
「おい、まだ雨降っているんだぞ・・・ってもういない・・・」
マスターはあっという間に店から出ていった祐のことを思いながらため息をついた。
店の外に出た祐は素早くレインコートを着、ヘルメットを手にした。
と、そこに傘を差した一人の女性が歩み寄ってきた。
「ねぇ、貴方が祐さん?」
いきなり声をかけられて、祐はとまどいつつも頷いた。
「そう・・・私は天沢郁未。よろしくね」
「は、はぁ・・・」
天沢郁未と名乗った女性が何をしたいのか今ひとつわからず祐は頷いた。
「まぁ、そんなに緊張しないで。これから長いつきあいになるんだから・・・」
笑みを浮かべて郁未が言う。
「まずは今日君と出会えた記念に一つ忠告しておいてあげる。今のままの貴方じゃ勝てないわよ」
「え!?」
驚きの表情を浮かべる祐。
「ふふふ・・じゃあね、祐さん」
郁未はそう言うと足早に去っていった。
その後ろ姿を少しの間見ていた祐だが、すぐに気を取り直し、ロードツイスターに跨りエンジンをかけた。
そして喫茶ホワイトのガレージから国崎が呼び出した場所へと向かう。
それを郁未は物陰から見ていた。
彼女のそばには一台の車が止まっている。
「・・・あれが・・カノンか?」
車の窓が開き、中に乗っている男がそう言う。
「ええ、そうよ・・・折原浩平と同じ・・・古代遺跡から発見されたベルトを身につけた男・・・何時か我々教団の邪魔になりうる可能性を秘めた男・・・」
郁未が冷たい声でそう言う。
そこには先ほど祐に見せた笑みなど存在しない。氷のような冷たい声と表情。
「私が彼を監視するわ。折原浩平は・・・晴香にでもやらせるの?」
「いや、彼女には他の役目がある・・・由依にやらせよう」
車内の男がそう言って窓を閉める。
「そっちは任せたわよ」
郁未が車内の男に声をかけて、歩き始めた。
 
<東京都狛江市 14:51PM>
多摩川緑地公園そばの河川敷にオルー・ボカパは追いつめられていた。
所轄の警官達が何とかここまで追いつめたのだ。
しかし、ここからが問題だった。
通常の装備では一切未確認生命体にダメージを与えられないことは今までの経験でわかっている。しかし、それでも足止め程度は可能だから何とかこの場所に釘付けに出来ているのだ。
オルー・ボカパは自分の周囲に集まっている警官達をじっと睨み付けている。
未確認生命体対策班はまだ到着していない。
ゆっくりとオルー・ボカパが歩き始めた。
「う、撃てっ!!」
誰かがそう言い、一斉に警官達が発砲する。
銃弾の雨の中、オルー・ボカパは平然と警官の一人に近寄るとその胸ぐらを掴みあげ、一気に放り投げた。
長い鼻を伸ばし、近くにいる警官を捕らえ、投げ飛ばす。
そうやって次々と警官達がオルー・ボカパの手にかかっていく。
そこにようやく一台のバイクが突っ込んできた。
祐の操るロードツイスターである。
猛スピードで突っ込んできたロードツイスターはそのままオルー・ボカパに向かっていく。一気に跳ね飛ばそうというのだ。
しかし、オルー・ボカパは物凄い力でロードツイスターを受け止め、一歩も下がらない。
「・・なんてパワーだ!!」
驚きの声を上げる祐。
オルー・ボカパはそんな祐に構わず、体をひねってロードツイスターを祐ごと投げ飛ばしてしまう。
吹っ飛ばされ、倒れる祐とロードツイスター。
祐は素早くロードツイスターから離れ、立ち上がると変身ポーズをとろうとした。
両手を交差させながら前に出した時、いきなりオルー・ボカパが物凄い勢いで突っ込んできたのだ。
「何っ!?」
いきなりのことで祐はかわすことすら出来なかった。
まともにオルー・ボカパの体当たりを食らって吹っ飛ばされてしまう祐。
地面に叩きつけられた祐が起きあがろうとすると、その首にオルー・ボカパの長い鼻が巻き付いた。
ぎりぎりと締め上げていくオルー・ボカパ。
祐は何とか鼻をふりほどこうとするが、物凄い力で締まっており、指の入る隙間すらない。
「く・・・このままじゃ・・・」
苦しそうな息の下、祐は未確認生命体第17号を睨み付ける。
その時、いきなりオルー・ボカパが大きく体を回転させた。
その勢いで祐はまたも宙を舞い、今度はおいてあったパトカーの屋根に叩きつけられる。
そこで一度バウンドして、ボンネットへと落ち、地面へと転げ落ちる祐。
「・・・なんて・・・パワーだ・・・変身しないと・・・勝ち目がない・・・」
そう呟いて祐は立ち上がろうとする。
「ニメ!!カノン!!」
オルー・ボカパがその太い牙を前に突き出し、祐に向かって走り出した。
祐はまだふらふらとしていた立ち上がりきっていない。
オルー・ボカパの太い牙が祐に迫る・・・!!
 
Episode.15「姉妹」Closed.
To be continued next Episode. by MaskedRiderKanon
 
次回予告
未確認生命体第17号の恐るべきパワーの前に苦戦を強いられるカノン。
必殺のキックすら通じない相手にどう立ち向かうのか?
佳乃「・・・お姉ちゃんに謝らなきゃ・・・」
浩平「あんたを信じろと?」
敵か味方か謎の女・天沢郁未。
彼女の協力の下、祐は特訓を開始する。
栞「それでも・・・私はお姉ちゃんを許すことなんか・・・」
秋子「あれは・・まさか・・・祐一さん?」
二つの姉妹の絆は復活するのか?
そしてカノンの必殺の一撃が・・・!!
郁未「そう、ライダーパンチを撃つのよ、貴方が」
次回、仮面ライダーカノン「必殺」
運命の輪は回り始めた・・・!!

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