<中央区築地 16:27PM>
未確認生命体第7号シャーゴ・ガカパに向けて専用の銃・オートマグナムを構えるPSK−01。
引き金を引き、強化された弾丸をその体に叩き込んでいく。
その衝撃にたまらず吹っ飛ばされるシャーゴ・ガカパ。だが、その軟体性抜群な体にほとんどダメージはない。
すぐに起きあがったシャーゴ・ガカパは触手を振り上げ、PSK−01に向かって襲いかかろうとした。
しかし、そこにカノンが割って入り、シャーゴ・ガカパの体に鋭いキックを叩き込む。
その一撃を食らったシャーゴ・ガカパは慌てて海に向かって逃げ出した。
カノンとPSK−01が追いかけるが、シャーゴ・ガカパは素早く海に飛び込み、海中深く消えていってしまった。
それを見たもう一体の未確認生命体・ヌメグ・バカパも姿を消した。
カノンとPSK−01が振り返ってもそこには何の姿もない。
「逃がしたか・・・」
どちらとも無しに呟く。
あきらめてカノンがその場を去ろうとすると、すっとPSK−01がその前に立ちふさがった。
左手に持っている銃・オートマグナムの銃口をカノンに向ける。
「お前は・・・一体何者だ?」
PSK−01、いや北川潤がそう尋ねる。
彼はカノンを知っている。
5年前、自分達を守って命がけで戦い、炎の中に消えていった友人。その戦士としての名こそカノン。体の色こそ違え、今彼の目の前にいるのはカノンそのものだった。
炎の中に消えていった友が生きているとは思えなかった。しかし、その死体は相打ちという感じになった怪人の死体と共に発見されていない。
もしかすると、と言う期待もある。何より、そいつは自分の人生を大きく変えた奴なのだから。
色々な思いが彼の中で交錯する。
だが、カノンは何も答えず、身動き一つしない。
一定の距離を保ったまま、両者の睨み合いが続く。
と、そこにパトカーのサイレンの音が聞こえてきた。
一瞬、それに気をとられるPSK−01。
カノンはその隙を逃さずに大きくジャンプしてPSK−01を飛び越える。
「待てっ!!」
そう言ってPSK−01がオートマグナムの引き金を引くがカノンはそれをかわし、ロードツイスターに飛び乗った。
そして一気にエンジンを吹かして走り出そうとするが、その前にまたもPSK−01が立ちふさがった。
「逃がさない・・・お前が誰なのか、それを聞くまではな」
カノンは無言でPSK−01を見ている。
PSK−01は油断無くオートマグナムを構えていて、いつでも撃てる態勢にある。
「やめろっ!!」
突然そんな声が響いた。
二人が声のした方を見ると、そこには国崎往人の姿があった。
「そいつ、第3号は敵じゃない!」
自分もコルトパイソンを構えながら国崎は言う。その銃口はPSK−01に向けられていた。
「お前さんが何者かは知らないが、ここは手を引いてもらえないか?」
油断無くPSK−01をにらみながら国崎が言った。
「断ると言ったら?」
「撃つ」
PSK−01にコルトパイソンが通じるかは疑問であったが国崎ははっきり断言した。
と、その時、いきなりカノンがロードツイスターを走らせ始めた。
PSK−01のすぐ横をすり抜け、一気に姿を消してしまう。
「しまった!!」
思わず掛けだそうとしたPSK−01の前に今度は国崎が立ちはだかる。
「おっと、今度はこっちが質問させてもらう番だ。一体何者だ、お前さんは?」
未だ拳銃を突きつけながら国崎が言う。
『北川君、早く戻りなさい!これ以上の長居は無用よ!!』
頭部に内蔵されている無線から七瀬留美の声が聞こえてくる。
「・・わかりました」
潤はそう言うと、自分に銃口を向ける国崎に背を向けて止めてある専用バイク・Kディフェンサーに向かって歩き出した。
「おい、こっちの質問に答えてないぞ!」
国崎を無視してPSK−01はKディフェンサーに跨る。
「悪いがあんたの質問に答えることは出来ない」
それだけ言い、PSK−01はKディフェンサーを走らせ始めた。
国崎はあっけにとられたような顔で去っていくPSK−01を見送っていた。
 
仮面ライダーカノン
Episode.14「激突」
 
<倉田重工第7研究所 17:47PM>
PSK−01運用専用トレーラー・Kトレーラーが第7研究所に入っていく。
そのトレーラー部分ではPSK−01の頭部に内蔵されている小型カメラでとられた映像を留美、潤、斉藤の三人がじっと見つめていた。
画面上には未確認生命体第7号が映し出されている。
「第7号・・・・蛸みたいな奴ね」
「オートマグナムもたいして効いていないようでした。第3号の攻撃もダメージを与えているようではなかったですね」
留美、潤がそう言う。
「第8号・・・こっちは蛇?」
「エレクトリックガンが通用したようです。でも、あくまでその動きを少しの間だけ弱めただけですが」
「斉藤君、エレクトリックガンの電圧、まだあげられる?」
「今の電圧でも充分人が殺せるんですよ?まだあげるんですか?」
斉藤が顔をしかめた。
「相手は未確認生命体よ。やれることは全部やらないと」
留美は厳しい顔をしてそう言った。
「とりあえずさっきの戦闘で通用したのは高周波ブレードだけね・・・北川君、次に第7号が現れたら高周波ブレードで接近戦を挑んで」
「わかってます。接近さえすればあの触手も何とかなるでしょうし」
頷く潤を見て、留美はドライブからディスクを取り出した。
「斉藤君、このディスクを解析室に回して第7号の弱点となりそうなものを探して。それと第8号、第3号もよ」
ディスクをケースに入れて斉藤に渡しながら言う留美。
それから彼女は潤を見る。
「北川君、聞きたいことがあるんだけど?」
「第3号のことですか?」
この質問が来ることを潤は予想していたようだ。
そう言って彼はKディフェンサーにもたれかかった。
「前に話したことがありましたよね・・・俺の親友のこと」
「・・・5年前N県で起きた怪物事件の時に一人きりで戦ったと言う彼のことね?」
留美は少し思い出すような仕草をしてから言った。
それに黙って頷く潤。
「第3号は・・・そいつが変身した姿にそっくりだったんです。そう、戦士カノンに・・・」
そう言って潤は懐かしむような表情を浮かべて天上を見上げた。
「体の色こそ違え、あれはまさにカノンそのものだった・・・俺は・・・あいつがもしかすると、と思って・・・」
「でも、その彼は死んだんじゃなかったの?」
「わからないんですよ。確かにあいつは炎の中に消えた・・・でも死体は見つかっていない。相打ちになった怪人と一緒に吹き飛んだという可能性もありますが・・・」
「死んでいないと信じているの?」
「さぁ?俺にもわかりません。でも、もしかして、と言う気もします」
潤はそう言って苦笑した。
そこで彼はふと、あることを思い出した。
「・・・あれがもしあいつなら・・・美坂が知らないはずはない」
小さい声で呟く潤。
「とりあえず今日は休みましょう!N県から戻ってきたばかりなのに出動してもうくたくただわ!」
留美がそう言ってトレーラーのドアを開ける。
「シャワーでも浴びて、少しゆっくりしたいわね!」
振り返り、中にいる二人に笑いかける留美。
 
<喫茶ホワイト 18:57PM>
夕方の忙しい時間帯である。
城西大学の学生やそれ以外の客で喫茶ホワイトは一杯であった。
「祐さん、これ奧のテーブルにお願い!」
カウンターの中で調理をしている長森瑞佳ができあがったカレーを乗せたお盆を祐に渡す。
「はいはい!!」
お盆を受け取った祐がすぐに指定のテーブルへと運んでいく。
「佳乃ちゃん!あそこのお客様のコーヒー!」
今度は入れ立てのコーヒーの入ったコップを乗せたお盆をもう一人のウエイトレス・霧島佳乃に渡す。
「了解だよぉ!」
佳乃がお盆をテーブルに運んでいく。
まさに目の回るような忙しさ、である。
こんな時に限ってマスターは外出しており、不在であった。
「全くマスターもこんな日に限って出かけなくても・・・」
瑞佳がカウンターの中でぼやく。
客の姿が一人、また一人と減っていき、ようやく客がいなくなったのが19時をかなり回り、もう20時になろうかという時間だった。
「はぁぁぁぁぁ・・・疲れたぁぁぁぁ・・・」
そう言って佳乃がカウンターに突っ伏した。
「お疲れさま・・・」
瑞佳がそう言って水の入ったコップを佳乃の前に置く。
祐は佳乃の隣に腰を下ろすと大きくため息をついた。
「流石に疲れましたね、今日は。こんなに一杯のお客さんなんて久しぶりじゃないですか?」
「そうだね。でもそう言う時にマスターがいないなんて・・全くもう!」
瑞佳はそう言うと自分もカウンターの外に出て空いている椅子に腰を下ろした。
「それにしても祐さんのカレー、好評だったねぇ」
佳乃がそう言って祐を見る。
「途中までしか見ていないからあれは俺の、と言うより瑞佳さんの、だよ、佳乃ちゃん」
苦笑を浮かべてそう言う祐だが、瑞佳が
「そんなこと無いよ。祐さんが出ていった時点でもう煮込み始めていたし、私はそれを見ていただけだからあれはやっぱり祐さんのカレーだよ」
そう笑顔で言った。
「うーん・・・そう言われると・・・」
「嬉しい?」
「はい」
笑顔を浮かべて頷く祐。
と、そこに電話の呼び出し音が鳴り始めた。
「はいはい・・・」
祐が立ち上がり、受話器を取る。
「はい、白い雪のようにさわやかな味をお届けする喫茶ホワイトで・・・ああ、国崎さん。え?今からですか?」
受話器の口を押さえて瑞佳を振り返る祐。
瑞佳は小さく頷いた。
「わかりました、すぐに行きます」
再び受話器に向かってそう言い、祐は受話器を置いた。
「また?」
瑞佳が聞くと、
「違うみたいです。すぐに戻ってきますから」
そう言って祐が店の外に出る。
店の外の道路に国崎がいつも乗っている覆面パトカーが停車していた。
運転席の窓ガラスをとんとんとノックし、国崎を呼ぶ祐。
「済まないな。とりあえず乗れよ」
そう言って国崎は助手席を指さした。
祐が助手席側に回りドアを開け、中に入ってくる。
「どうだった?」
国崎が祐の顔を見て聞く。
「どうだった・・っていきなり言われても」
困ったような顔をする祐。
「第7号、倒せたのか?」
「ああ、そのことですか。すいません、逃げられました」
「やっぱりあの野郎が邪魔したのか?」
「あの野郎?」
「あの銀色の野郎だよ。人を食ったような奴だったぜ・・・」
「違いますよ。あの人は俺を助けてくれたんです。第7号と戦っているといきなり別の未確認生命体が出てきて苦戦していたところに出てきて」
「・・・別の未確認・・・第8号か?」
少し驚いたような顔で国崎が言う。
「はい、蛇みたいな奴でした」
「第7号は目撃者の話からすると蛸みたいな奴だったそうだ」
「物凄く体が柔らかかったです。パンチもキックも効いていなかったようでした」
「・・・そいつは厄介だな。パンチやキックが通じないとなると・・・どうやって第7号を倒す?」
「・・・まだ考えついていませんけど、多分何とかなると思います。香里さんがまた別の色の戦士の記述を見つけたって言っていましたから」
「別の色?」
「はい。紫の大地の戦士だそうです。解読が終わってなかったんで詳しいことはわからなかったんですが・・・怒れる大地の牙がどうとか・・・」
「・・・そうか・・・とりあえず俺は一度捜査本部に戻る。お前は美坂香里に連絡を取ってその解読を急いでもらうようにしておけ」
「わかりました」
頷いて祐が車を降りようとすると、その背に国崎が声をかけた。
「あの銀色の奴・・・あれは味方だと思うか?」
祐は動きを止めて国崎を振り返る。
「味方だと思います。少なくても、俺は敵じゃないと感じました」
そう言って今度こそ祐は車から降りた。
「・・・あいつは正義の味方かもしれないが、俺たちの味方かどうかはわからないぞ」
国崎はそう言い残して車を発進させた。
祐はその場に立ちつくし、国崎の言った言葉を考えていた。
おそらく彼はこう言いたかったのだろう。
未確認生命体第3号にとってあいつは敵になるかもしれない、と。
そう、あくまでカノンは未確認生命体の仲間だと思われているのだ。
暗い夜の道で、祐は一人静かに拳を握りしめていた。
 
<豊洲運河 21:17PM>
暗い水面にざばっと影が現れる。
それがゆっくりと陸上へとあがってきた。
その影の正体はびしょ濡れのピエロのような格好の男。
未確認生命体第7号シャーゴ・ガカパである。
「グヅニ・ノルジャマ?」
ハァハァと荒い息をついているピエロ服の男のそばにそう言いながら歩み寄ってくる影があった。
美しいドレス姿の女性を先頭に体格のいい男、腕を組んでいる男、黒い服の男が続く。
「ノデジェ・サミラル・モガ?」
「サミラナ・マゲデタ・ゼースニッタリジャ」
黒い服の男がそう言ってピエロ服の男をのぞき込む。
「リヴァデ・マグシェソ!!」
そう言って鬱陶しそうに黒い服の男を払いのけるピエロ服の男。
「イガヲミバ・サミラヴァネヅ!」
それを聞いてドレス姿の女性は大きく頷いた。
「ヌメグはどうした?」
腕を組み、爪を噛んでいる男がそう言ってピエロ服の男を見る。
「あいつと一緒じゃないのか?」
「ロデモ・ゼースモ・カサン・ナネヅマ!」
苛立たしげにそう言い、ピエロ服の男は立ち上がった。
そしてそのまま暗闇の中へと消えていく。
それを黙って見送るドレス姿の女性と男達・・・。
 
<N県倉田重工支社ビル 09:28AM>
倉田佐祐理は出社するなり支社長室に呼び出されていた。
その支社長室で待っていたのは支社長ではなく、一人の若い男とPSK計画に関わった別の倉田重工の幹部である。
「お久しぶりです、倉田さん。例の書類は受け取っていただけましたか?」
若い男は入ってきた佐祐理を見るなりそう言ってきた。
ニヤニヤとイヤな笑みを浮かべている。
「・・・久瀬さん、まさか、貴方が・・・・」
驚いた表情を浮かべる佐祐理。
「まぁまぁ・・・とりあえず座りませんか?」
久瀬、と呼ばれた若い男はそう言ってソファに腰を下ろした。
仕方なさそうに佐祐理も腰を下ろす。
「一体どういうことなんですか?」
いつになく厳しい口調で佐祐理が言う。
「PSK計画はまだ試作機ができあがったばかりだと・・」
「その試作機が問題なんですよ・・・PSK−01と言いましたか・・・未だ大した実績もないのに改修用の追加予算が投入されている・・・」
「それは・・・」
「諏訪湖での一件は聞いていますよ。装着員が勝手に起動させて更に大破させたってことをね・・・相手は未確認生命体だったと言うことらしいですが」
淡々と久瀬は語り続ける。
「それにしても問題があり過ぎじゃないですか?PSK計画、これは5年前の事件の時に現れたあの怪人達を倒すことが真の目的だったんでしょう?なのに未確認生命体にあっさりとやられてしまうとは・・・」
「違います!諏訪湖の時は・・・」
「何が違うと言うんですか?確かに敵のデータなどはかなり少なかった。しかし、それを承知の上で計画を開始したんでしょう?それなのに実績を残せなかった。問題だとは思いませんか?」
久瀬は佐祐理の反論を許さなかった。
「それにこんな噂もありますよ。元々このPSK計画は貴女がたった一人の人物のためだけに提案した計画であると言うね」
そう言って久瀬はずれた眼鏡を右手の中指で直した。
「あくまで噂、ですが・・・これがもし、本当ならPSK−01開発にかかった莫大な予算は全て貴女のわがままにつぎ込まれた、と言うことになる」
「久瀬さん。貴方は一体何を・・・?」
「私はこのPSK計画、かなりいいと思っているんですよ。しかし、手を加える点もある。一度、全てを白紙に戻して、この私をプロジェクトに参加させてはもらえませんか?」
にやりと笑う久瀬。
「今のPSK−01は予算を食うだけのものですが、もっと簡素なものとして再設計しこれを量産。これを警察や自衛隊に配備すれば未確認生命体など・・・」
「久瀬君、そこまでだ」
今まで黙っていた倉田重工の幹部がそう言って久瀬、そして佐祐理を見た。
「佐祐理君、私もその噂は聞いていた。だが、君のプロジェクトに対する姿勢を見てただの噂に過ぎないと思っていた。この久瀬君から彼女のことを聞くまでは、だがね」
そう言って幹部は咳払いをした。
「PSKチームは現在東京だそうだな?」
「はい・・・」
どことなく佐祐理の返事には元気がない。
「今東京では未確認生命体が事件を起こしているという。PSK−01が本当に使えるのかどうか、しばらく様子を見よう」
「・・・それでは・・・?」
「PSKチームは警察、自衛隊のいずれにも協力をする。ただし、その指揮権は我々、いや君に任せよう。目的は一つ、未確認生命体の殲滅だ。その目的を達成するために互いに協力すればいいのに協力しない彼らの言うことなど聞く必要はない」
「わかりました・・・第7研究所を本部に独自に対未確認生命体行動をとります」
佐祐理はそう言って立ち上がった。
「見せてもらいますよ、倉田さん。貴女ご自慢のPSK−01の活躍をね」
立ち上がった佐祐理を見上げて久瀬が言う。
佐祐理は何も答えず支社長室を出ていった。
「やれやれ。思い切ったことをしましたね。警察にも自衛隊にも協力しないとは」
彼女がでていった後、久瀬がそう言って肩をすくめた。
「協力しないとは言っていない。ただ、指揮権を譲るつもりはない、と言うことだ。今は未確認を倒すのが最優先だというのに反目している暇は無かろう?」
「まぁ、どちらも縄張り意識が強いでしょうからね・・・」
そう言ってから久瀬は立ち上がった。
「私はこれで失礼させてもらいますよ。一応新しいPSK計画について考えておいてください」
「わかった」
「それでは」
久瀬はそう言って支社長室から出ていった。
 
<喫茶ホワイト 10:21AM>
この日は珍しく佳乃が表で掃き掃除をやっていた。
店内では瑞佳が洗い物を、マスターがカレーの下ごしらえを、祐がテーブルをふいている。
「全く・・・一日中パチンコしていたなんて」
不機嫌そうに瑞佳が言う。
「だから悪かったって言っているだろ?昨日はたまたま忙しかっただけで・・・」
マスターが困ったような顔をして瑞佳を見るが彼女は全く無視、である。
「祐・・何とか言ってやってくれよ」
困り果てたマスターが祐の方を見るが、祐はテーブルの上に置いてある醤油やらソースの瓶を眺めていた。
「ブルータス、お前もか・・・」
天上を見上げて手を額に当てるマスター。
祐はマスターの嘆きにも気付かずに瓶をじっと見つめている。
「どうしたの、祐さん?」
洗い物を終えた瑞佳がそう言ってカウンターの中から出て、祐のそばにやってくる。
「・・・ソースと醤油がどうかした?」
「どちらもオリジナルの味付け以外につけるものですよね?」
じっと瓶を見たまま祐が言う。
「そうだよ。人には好みの味があるから」
「どうして・・・一つじゃいけないんでしょうか?」
「だから・・・それぞれにはそれぞれの役割があって、それで良いんじゃないかな?」
そう言って瑞佳は笑みを浮かべた。
彼女の笑顔に頷く祐。
(そうだ・・・俺には俺の、あの人にはあの人の役割がある・・・俺の役割は・・・みんなの明日を守ること・・・)
祐は一人頷いていた。
 
<倉田重工第7研究所 12:03PM>
潤、留美、斉藤の三人が会議室のモニターで昨日の戦闘の様子を見ていた。
そこには彼らPSKチーム以外にもこの第7研究所に所属する研究員が数名会議室で一緒にモニターを見ている。
モニター上ではPSK−01が未確認生命体第7号にオートマグナムを撃ち込んでいるシーンが映し出されていた。
「ここです」
研究員の一人がそう言って映像を止めた。
「オートマグナムの弾丸が第7号に叩き込まれていますが、よく見てもらうとわかるんですが・・・実際には弾丸はその皮膚によって弾かれているんです」
「と言うことは・・・第7号が吹っ飛んだのは・・・」
そう口を挟んだのは潤である。
「オートマグナムの弾丸が当たった時の衝撃で、でしょうね」
研究員が冷静な顔をして言った。
「じゃあ、全く通じてないんじゃない」
そう言ったのは留美だ。
腕を組んで椅子の背にふんぞり返っている。
その仕草がやたら似合っていたので誰も文句を言おうとはしなかった。
「やっぱり接近戦しかないようね。高周波ブレードで接近して一気に斬りつける。第7号はそれで行くしかないわ」
留美はそう言って潤を見た。
「しかし、何処に第7号が出てくるのかわからない以上・・・それに我々の処遇も決定していないのに・・・」
「PSKチームは警察でもなければ自衛隊でもない、独自に動く遊撃隊としてこれから未確認生命体と戦うことになります」
そう言って一人の女性が会議室に入ってきた。
「・・倉田さん!!」
入ってきた女性を見て、会議室内にいた全ての人が立ち上がる。
「七瀬さん、斉藤さん、そして北川さん。お待たせしました。今日からはPSKチームはこの第7研究所を本部として活動を行います」
会議室に入ってきた女性、倉田佐祐理はそう言って一同を見回した。
「皆さんはこれからもPSKチームのサポートおよびバックアップを担当してもらいます」
「わかりました・・・ですが・・・」
「この佐祐理がこれからここの指揮を執ります。PSKチームはKトレーラーで出動準備を始めてください。未確認生命体第7号をおびき出し、一気に殲滅します」
佐祐理はそう言うと、一同に背を向けて会議室から出ていった。
「・・・倉田さん、様子が変ね・・・」
留美がそう言ったので潤と斉藤が彼女の顔を見た。
「何か焦っているみたい・・・もっとも私達のことでしょうけど」
留美は自分を見ている二人の肩をたたいた。
「さあ、行くわよ!第7号を倒して私達の力を見せてやるのよ!!」
一人先に会議室から出ていく留美。
それを追って潤と斉藤も慌てて会議室から出ていった。
 
<警視庁未確認生命体対策本部 13:09PM>
警視庁未確認生命体対策本部では昨日現れた第7号についての捜査会議が行われていた。
「昨日現れた未確認生命体第7号は江東区若洲のサイクリングロード、江東区夢の島マリーナ、そして中央区築地の中央卸売市場で数名の殺害を行った後、そこに現れた第3号と交戦、そして海に消え、現在も行方がわかっていません」
ホワイトボードに貼られた地図を示しながら住井護が言う。
「目撃者の話によると第7号は蛸のような姿をしているらしいとのことで・・・」
「蛸なら蛸壺でも用意すれば入ってくれるんじゃないか?」
住井の報告に茶々を入れたのは国崎だった。
皆が彼を睨み付け、黙らせる。
一度咳払いをして住井が報告を再開した。
「第7号の犯行現場が沿岸部だけと言うことから海上保安庁に協力を要請して沿岸部の警備を強化しています」
「各所轄にも連絡して水辺に近づかないように市民に呼びかけています」
別の刑事がそう報告する。
「わかった。諸君も警備を強化してくれたまえ」
本部長である鍵山がそう言って皆を見回した。
「本部長、先日より依頼していた強化型ライフルですが導入が決定しました。それに今まで使用していた弾丸では未確認生命体には通用しないことから科警研に依頼して強化型の弾丸の開発に着手してもらいました」
その報告をしたのは神尾晴子であった。
「うむ・・・・武器の使用に関して細心の注意を払うように。それでは解散!」
鍵山がそう言って立ち上がった。
他の面々も立ち上がり、本部として使用されている会議室から出ていこうとする。
そんな中、国崎は一人、その場に残って長机に肘をついていた。
(今度第7号が現れた時、また第8号かあの銀色野郎が出てくる可能性は高い・・・その時・・・第3号、カノンはどうする?)
 
<江東区有明 14:05PM>
10号地埠頭東岸壁に佐祐理の姿があった。
「まさか自ら囮になるとは・・・本当に追いつめられているって感じよね・・・」
Kトレーラー内のモニターに映る佐祐理を見ながら留美が言う。
その隣では斉藤がレーダーモニターを睨み付けている。
「北川君、いつでも出れるようスタンバっておいてね?」
「わかっています」
潤は既にPSK−01の全ての装備を装着しており、いつでもKディフェンサーで出動出来る態勢を整えている。
「倉田先輩をこんなところで失うわけにはいきませんからね」
「ここなら全力で戦えるから思い切りやりなさい!」
頷くPSK−01。
その頃佐祐理は少々緊張気味に歩いていた。
「本当に・・大丈夫ですよね・・・あ、あははー・・・」
笑顔を浮かべるが緊張のために強張ってしまう。
PSK−01の実績づくりのために自ら囮となって未確認生命体をおびき出す・・・これが彼女が立てた作戦であった。
もちろん危険きわまりない役目であり、彼女はそれを自ら志願してやっているのだ。周りの人間は止めようとしたのだが、佐祐理の決意は固く、そしてPSKチームが必ず彼女を守る、と言うことでようやくこの作戦が始まったのだ。
歩きながら佐祐理は今、そばにいない親友のことを考える。
彼女は佐祐理の元を離れ今どこにいるのだろうか?
5年前のあの事件で受けた心の傷は癒えたのだろうか?
そして何より・・・彼女が求めていたものは手に入ったのだろうか?
「・・・舞・・・」
すっと視線を空の彼方へとやり、佐祐理はごく自然な笑みを浮かべた。
「佐祐理は・・・佐祐理は頑張っていますよ。佐祐理の出来ることを、佐祐理の場所で・・・舞、貴女は頑張っていますか?」
空の彼方に親友の姿を思い浮かべて佐祐理は呟く。
その彼女の足の下、岸壁に沿った海中に未確認生命体第7号シャーゴ・ガカパの姿が不気味に浮かび上がっていた。
 
<城西大学考古学研究室 14:09PM>
パソコンを前に美坂香里と祐は難しい顔を並べていた。
彼女は昨日から紫の戦士の記述に関してずっと調べているのだがこれと言った新情報はなく、少々行き詰まりを感じていた。
「流石に簡単にはいかないわ・・・」
そう言って彼女が背もたれに体を預ける。
「今使っている検索用のデータベースは5年前に見つかった古代文字の碑文、あれを解読した時に使用したものと同じだからね・・・少しバージョンアップを図る必要があるわ・・・」
香里はそう言って祐を見た。
祐は困ったような表情を浮かべて香里を見返す。
「こう言う時に限って先生がいないんだから・・・全くあのろくでなしは・・・」
そう言って香里は立ち上がった。
ここの責任者であり、香里やエディの教授でもある中津川忠夫助教授は今、海外の別の遺跡の発掘にいっていて不在なのだ。自分の好奇心を抑えられない彼はここの管理を香里に任せっきりにしているのだ。
コーヒーメーカーからコーヒーをコップに入れて香里は自分の机に戻ってきた。
「この解読システムはその中津川教授が作ったんですか?」
祐がそう言って香里を見る。
「違うわ。これは5年前に亡くなられたここの本当の教授が作ったものらしいわ。世界中の古代文字に似たものがないかそれをデータベースに照合して似たような意味を持つものを探し出す・・・それがこの解読用検索データベースよ」
椅子に座りながら香里が言う。
「じゃ、すぐに古代文字の碑文の意味も?」
「検索に引っかかっても言葉の意味まではわからないわ。それを考えるのが私の仕事」
香里はそう言って微笑んだ。
「とにかくあの第7号に勝つにはどうにかして紫の戦士の戦い方を見つける必要があるんです。怒れる大地の牙の意味さえわかれば何とかなりそうな気がするんですが・・・」
祐はそう言って腕を組んだ。
「一体どういうことなんでしょうか、怒れる大地の牙って?」
「何かの武器じゃないかしら?それを手にして戦う戦士・・・それが紫の戦士」
言いながら香里はコップを手に取った。
そしてコーヒーを飲みながら彼女は画面を見る。
「紫の戦士は大地の戦士。怒れる大地の牙を手に・・・」
そう言った時、いきなり別のウインドウが開いた。
「何かの検索結果がでたようね・・・えっと『紫の戦士、堅き鎧に身を包み邪悪の力を跳ね返す』・・だって」
香里はコップに口を付けながら祐を見た。
「堅き鎧・・・もしかすると防御力の高い戦士かもしれませんね・・・それにしても怒れる大地の牙・・・」
祐はまだ腕組みをして考え込んでいる。
余程「怒れる大地の牙」が気になるようだ。
「牙って言えば肉食獣の口にあるような鋭い歯のことよね・・・そこから連想すると・・・剣みたいなものじゃないかしら?」
「剣?」
コーヒーカップをテーブルの上に置きながら香里が言った。
きょとんとした顔を見せる祐。
「ほら、牙ってそう言う感じがしない?」
香里に言われて祐は肉食獣の口を思い浮かべた。
鋭く並んだ牙は確かに彼女の言う通り、剣のようにも見える。
「・・もし・・怒れる大地の牙が剣なら・・・第7号に勝てる・・・」
小さい声で祐が呟く。
未確認生命体第7号の柔らかい体でも鋭い剣ならば突き通せるかもしれない。それに何より、あの厄介な触手を切り払うことが出来る。
問題は第7号の吐く爆発する墨だが・・・紫の戦士が堅い鎧を持つ防御力の高い戦士ならば問題はないだろう。
そう考えた祐はは一人頷いていた。
「香里さん、何とかやれそうです!」
祐はそう言うと立ち上がった。
「あれ?帰るの?」
香里が立ち上がった祐を見上げる。
「はい、店の手伝いもありますから」
そう言って出ていこうとする祐を香里は呼び止めた。
「ねえ祐さん。携帯持つ気、無い?」
祐は立ち止まって振り返ると困ったような顔を見せた。
「携帯電話って身分証明書が必要でしょ?俺、自分が誰だかわからないから無理ですよ」
そう言って苦笑する祐。
香里は「だったらバイクの運転免許はどうしているのか?」と聞きたかったがあえて何も言わなかった。
「それじゃ、国崎さんから連絡があったらまたお願いします」
祐が研究室を出ていく。
香里はその姿を見送ってため息をついていた。
 
<江東区有明 14:26PM>
佐祐理はまだ気がついていなかった。
自分を狙うものが海中に潜んでいることを。
それは彼女を見守っているPSKチームも同様である。
「来ないわね・・・」
Kトレーラーの中でモニターを見ながら留美が呟く。
「第7号は水辺を今までの犯行現場に選んでいるから来ると思ったんだけど・・・・」
「水辺って言ってもここだけじゃないですか。昨日の第7号の犯行現場だけでも三つもあるんですよ?」
斉藤が留美を見てそう言うが、留美は彼を睨み付けただけであった。
潤は黙ってモニターを見ているだけであった。
佐祐理はぶらぶらと歩きながらため息をついた。
「来ませんね・・・やっぱり佐祐理の考えた作戦じゃ・・・」
そこまで呟いた時、突如海面が盛り上がり、シャーゴ・ガカパが飛び上がってきた。
シャーゴ・ガカパは佐祐理の前に着地すると、にたりと笑った。
ぽたぽたと水滴を垂らしながら手を佐祐理に向かって伸ばす。
「来たわ!北川君!出動よ!!」
Kトレーラー内で留美が叫ぶ。
頷く潤。
KディフェンサーがKトレーラーから発進していく。
佐祐理は突如目の前に現れた未確認生命体第7号に、声を上げることすら忘れて震えていた。
「ニヲジェ・ソダル」
シャーゴ・ガカパがそう言って触手を伸ばそうとした時、その場にKディフェンサーに乗ったPSK−01が到着した。
Kディフェンサーを運転しながらオートマグナムを発射する。
その弾丸を食らったシャーゴ・ガカパが吹っ飛ばされている間にPSK−01は佐祐理の前まで来、Kディフェンサーを停車させた。
「倉田さん、後は任せてください!」
潤はそう言うと、右手に高周波ブレードを装着した。
「お願いします、北川さん」
佐祐理はそう言い残してKトレーラーが止まっている方へと走り出した。
PSK−01は倒れているシャーゴ・ガカパが起き出そうとしているのを見ると、猛然と飛びかかっていった。
「ウオォォォォォォォッ」
雄叫びをあげながら高周波ブレードをふるうPSK−01。
「サシャ・ギナサガ!」
そう言いながら触手で迎え撃つシャーゴ・ガカパ。
PSK−01の高周波ブレードが届くよりも先にシャーゴ・ガカパの触手がPSK−01を襲った。
物凄い勢いで横から触手が叩きつけられ、今度はPSK−01が吹っ飛ばされてしまう。
倒れたPSK−01にシャーゴ・ガカパは次々と触手による一撃を浴びせてくる。
地面を転がって何とかその攻撃をかわすPSK−01。
「くそっ、接近すら出来ないのか、俺はっ!!」
地面を転がりながら潤は悔しそうにそう言う。
腰のホルダーに手を伸ばし、何とかオートマグナムを手にしたPSK−01は転がりながらシャーゴ・ガカパに狙いをつけて引き金を引いた。
発射された弾丸が再びシャーゴ・ガカパを吹っ飛ばす。
その間に立ち上がったPSK−01は再び高周波ブレードを構えると一気に距離を詰めようと走り出した。
「今度こそ!!」
潤がそう言ってシャーゴ・ガカパに斬りつけようとした時、どこからか飛び出してきたヌメグ・バカパがPSK−01の背後から襲いかかった。
無防備だった背後からの攻撃にPSK−01は為す術もなく吹っ飛ばされてしまう。
「くっ・・なんだ?」
何とか起きあがり、振り返るとヌメグ・バカパがPSK−01をじっと睨み付けていた。
「第8号・・・・くっ・・・」
新たに現れた未確認生命体第8号に潤は戦慄を覚えていた。
いくらPSK−01でも一度に二体の未確認生命体を相手にするのは荷が重い。
「ど、どうする・・・?」
『北川君、一度に二体を相手にするのは危険よ!一度引いて・・』
留美がそこまで言った時、ヌメグ・バカパがPSK−01に飛びかかって来た。
それをかわそうとするPSK−01だが、いつの間にか起きあがっていたシャーゴ・ガカパが触手を伸ばして彼の動きを阻害した。
ヌメグ・バカパのパンチがPSK−01に直撃する。
よろけるPSK−01に次々とパンチを浴びせるヌメグ・バカパ。
『PSK−01の胸部装甲に45%のダメージ!』
『北川君!逃げなさい!!このまま戦闘を続けると・・・!!』
斉藤、留美の声が無線から聞こえてくるが潤はそれどころではなかった。
「俺は・・俺はまだ負けるわけにはいかないんだ!!」
そう言ってPSK−01はヌメグ・バカパのパンチをかわし、高周波ブレードを振り上げた。
「食らえっ!!」
一気に高周波ブレードを振り下ろそうとするが、そこにシャーゴ・ガカパの吐いた墨が直撃、爆発を起こす。
吹っ飛ばされるPSK−01。
『PSK−01の各ユニットに60%以上のダメージ・・・このままでは戦闘不能に陥ります!!』
悲痛なまでの斉藤の声。
『北川君!!引きなさい!これは命令よ!!』
留美の声にも焦りの色が隠せない。
『北川さん、貴方の命の方が大事です。だからここは引いてください!』
佐祐理の声も聞こえてきた。
だが、PSK−01は倒れたまま動かない。
そこに迫るヌメグ・バカパとシャーゴ・ガカパ。
 
<喫茶ホワイト 14:36PM>
喫茶ホワイトの前まで戻ってきた祐がドアを開けようとした時のことだった。
頭の中に何かがピキーンと走ったのは。
さっと振り返り、祐は止めてあったロードツイスターに駆け寄る。
と、そこに国崎の覆面パトカーが現れた。
「おい、どうした?」
車を降りながら国崎が祐に声をかける。
「奴らが現れたようです!」
「何っ!?」
祐の発言に驚きの表情を浮かべる国崎。
「場所は?」
「・・わかりません。でも・・いきます!」
そう言ってヘルメットをかぶる祐。
「よし、俺もいく!案内してくれ!」
国崎も車に戻ろうとし、一度足を止めた。
そして振り返り、祐を見ると、
「いいか、これを忘れるな。一気に敵をやっつける!それがお前の使命だ!あの銀色の奴が出てきても構わずに、未確認だけを相手にしろ!」
そう言って車に乗り込む。
祐は頷くと、ロードツイスターを発進させた。
 
<江東区有明 14:41PM>
倒れ伏し、ぴくりとも動かないPSK−01。
ゆっくりと二体の未確認生命体が近寄ってくる。
と、いきなりPSK−01が立ち上がった。
手に持っていた高周波ブレードを振りかざし、二体の未確認生命体に襲いかかる。
だが、全体のダメージが大きいせいか、その動きは鈍く、高周波ブレードはかすりもしない。
「ウオオオオ!!このっ!このっ!!このぉっ!!」
叫びながら高周波ブレードを振り回すPSK−01。
その手を受け止め、膝を叩き込むヌメグ・バカパ。
PSK−01の手から高周波ブレードが落ちた。
更にヌメグ・バカパはPSK−01の背後に回ると羽交い締めにし、シャーゴ・ガカパの方を向かせる。
「くそっ!!放せっ!!」
潤がそう言ってもがくがヌメグ・バカパの手はゆるまなかった。
シャーゴ・ガカパが口を開き、墨を吐こうとする。
今度あの墨をくらえば流石にPSK−01のボディも保たないだろう。中にいる装着員の潤も無事では済まない。
潤が自分の死を覚悟し目を閉じた時、一台のバイクが物凄いスピードで突っ込んできて、シャーゴ・ガカパを跳ね飛ばした。
バイクはそのまま停止せず、今度はヌメグ・バカパとPSK−01の方に向かってくる。
それを見たヌメグ・バカパがPSK−01を投げ飛ばしバイクの突進を受け止めようとするが、バイクの勢いは止まらない。
乗っているライダーは更にアクセルを回して遂にヌメグ・バカパを吹っ飛ばしてしまった。
「・・お、お前は・・・」
倒れているPSK−01が何とか頭を上げてバイクの方を見た。
ライダー、祐はバイクを止めると、素早くヘルメットを脱ぎ捨て、倒れている二体の怪人の方を睨み付ける。
そして両手を前に突き出し、左手だけを腰まで引く。残った右手で十字を書き、鋭い声で叫ぶ。
「変身!!」
その声と共に右手と左手を入れ替える。
次の瞬間、彼の腰にベルトが浮かび上がり、その中央がまばゆい光を放った。
今回はいつもと違う、紫の色の光をベルトが放つ。
それを見た瞬間、シャーゴ・ガカパは口から墨を吐いていた。
「危ないっ!!」
潤が叫ぶ。
墨が爆発を起こした。
立ち上る炎と煙。
それは彼に5年前のあの日を連想させた。
「・・・相沢・・・くそっ!!」
必死に全身を奮い立たせて潤は立ち上がる。
その時、彼は見た。
爆発の衝撃をものともせずに立っている戦士の姿を。
紫の縁取りのなされた鋼の色の生体鎧に身を包み、悠然と立っている戦士。
全身の筋肉も盛り上がり、力強さを際だたせている。
いつもなら赤いはずの目が紫に変わり、大きく開いた角の中央に紫色の宝玉が光り輝いている。
手甲も生体鎧と同じように変わり、ナックルガードが無くなっている。
足には膝くらいまでやはり生体鎧と同じ色のレッグアーマーが現れていた。
肩には大きく開いた肩当てがあり、腕の動きを阻害しないようになっている。
「これが・・・紫のカノン・・・」
カノンがそう呟き、目の前にいるシャーゴ・ガカパを見た。
明らかに狼狽しているシャーゴ・ガカパとヌメグ・バカパ。
カノンは足下に落ちているPSK−01の高周波ブレードを拾い上げると、手に持って構えた。すると高周波ブレードは紫の刀身を持つ剣へと姿を変えてしまう。
「これが『怒れる大地の牙』か!!」
カノンはそう呟くと、ゆっくりと歩き出した。
両手を広げ、悠然と歩きながら未確認生命体に迫っていく。
シャーゴ・ガカパは何度も墨を吐いて攻撃するがその爆発すら今のカノンはものともしなかった。
徐々に距離を詰めていくカノン。だんだん歩くスピードも速くなってきていた。
シャーゴ・ガカパは墨による攻撃が効かないと悟ると今度は触手を振り上げ、襲いかかった。
それを見たカノンが走り出し、手に持っている剣でその触手を薙ぎ払っていく。
触手は剣が振れただけで切断され、シャーゴ・ガカパはその武器の全てを失ってしまった。
「おおりゃぁぁぁぁっ!!」
雄叫びをあげながらカノンの剣がシャーゴ・ガカパの体を貫いた!!
剣が突き刺さった部分に古代文字が浮かび上がり、そこから全身に光のひびが走っていく。
そして、次の瞬間、シャーゴ・ガカパは爆発四散した。
至近距離で爆発したにもかかわらずカノンは全くの無傷で立っている。
「・・・カノン・・・ロサデン・ゴドヌ!!」
今まで呆然としていたヌメグ・バカパだったが仲間が倒されるやいなや猛然とカノンに飛びかかっていった。
カノンはそれに反応していなかった。
ジャンプしてカノンに襲いかかるヌメグ・バカパ。
そこにPSK−01のオートマグナムが叩き込まれ、ヌメグ・バカパは落下する。
地面に叩きつけられたヌメグ・バカパを見たカノンは手にしていた剣を捨て、元の白い姿に戻ると右手を前に、左手を腰に当てて腰を低く落とし構えた。
手の平を上に向けてゆっくりと水平に動かし、ある一点でその手を返し、ジャンプする。
まるで気を溜めるようなポーズ、それの意味は・・・。
ヌメグ・バカパに向かって右足を突き出すカノン。
必殺のキックだった。
起きあがったところにそのキックを食らったヌメグ・バカパはまたしても吹っ飛ばされて、地面に叩きつけられた。
何とか地面に手をついて起きあがろうとするヌメグ・バカパを背に着地するカノン。
ヌメグ・バカパの体にはやはり古代文字が浮かび上がっており、そこから全身に光のひびが走っていく。
「ロモデ・・・ロトレシェロゲ!カノン!!」
そう言い、ヌメグ・バカパは地面に倒れた。
続けて起こる爆発。
その爆発を見ながらPSK−01は、安心したようにその場に倒れ込んだ。
何とか顔だけを上げてカノンを見ると、カノンはこちらに向けて右手の親指を立てて見せていた。
それから止めてあった自分のバイク・ロードツイスターに乗って何処へともなく去っていった。
その様子を見送りながら、潤は気を失っていった。
ただ、その顔には満足したような表情が浮かんでいたのだが・・・。
そこにようやく国崎の覆面パトカーがやってきたらしく、サイレンが聞こえてきた。
 
<N県倉田重工支社ビル 16:30PM>
とある部屋に久瀬が一人立っていた。
そこに一人の男が入って来、彼に何かを耳打ちする。
「そうですか・・・わかりました。ご苦労様ですと伝えてください。そしてこれからも彼らの情勢は漏らさず私に伝えるように、とも」
その男は久瀬の言葉に頷くと、彼に一礼して部屋を出ていった。
久瀬は男が出ていくと肩をすくめてため息をついた。
「やれやれ・・・今回は私の負けですか・・・」
どうやら先ほどの男はPSK−01が未確認生命体と戦い、何とか撃破したことを伝えに来たようだ。
実際には未確認生命体第7号と第8号を倒したのはカノンなのだが何処かで情報が間違ってしまったらしい。
佐祐理達にはそれは嬉しい誤算であったのかもしれないが。
「しかしまぁ・・・PSK計画、まだ利用出来ますよ」
そう言って不適に笑う久瀬。
 
しかし、その頃東京では・・・未確認生命体第7号と第8号との戦いで負傷した北川潤が病院に運び込まれていた・・・。
 
Episode.14「激突」Closed.
To be continued next Episode. by MaskedRiderKanon
 
次回予告
その姉は友人との約束を守らず東京へと出ていった。
その妹は代わりにその約束を果たそうとその地に残っていた。
香里「・・・私は私の出来ることを精一杯やっているだけよ」
佳乃「お姉ちゃんのうそつき!!」
もう一つの姉妹に訪れる不幸。
ちょっとしたすれ違い。
栞「お姉ちゃんは・・・祐一さんとの約束を裏切ったんです」
聖「私が悪いのはわかっている・・・!!」
二つの姉妹がカノンと出会う時、新たな敵が遂に動き出す・・・!
襲い来る未確認生命体の驚異!!
郁未「貴方じゃ勝てないわよ」
次回、仮面ライダーカノン「姉妹」
運命の輪は回り始めた・・・!!

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