シュラはフクロウ怪人の方を向くと、陸上競技のスタンディングスタートのような体勢を取る。
すると右手のブレスレットの宝玉が、より強い輝きを放つ。
それと同時に右足のアンクレットに埋め込まれた宝玉も輝きを増した。
そしてフクロウ怪人目掛けて猛烈な勢いで駆けだし、一気に距離を詰める。
一定の間合いまで達したところで低くジャンプ、フクロウ怪人に向かって真っ直ぐ突き出された右足が、アンクレットの宝玉を中心に淡い光に包まれる。
大砲の如き威力のキックが、フクロウ怪人の背中を直撃した。
背骨を中心に骨格を砕かれ、前につんのめりうつ伏せの体制のまま地面を滑っていくフクロウ怪人。
地面との摩擦熱により白い煙が沸き上がっているのが見える。
フクロウ怪人の身体は数十メートルほど滑ったところでようやく止まるが、それきりピクリとも動かない。
一瞬の沈黙。そして、フクロウ怪人の背中、シュラのキックが当たった場所に大きな“死”の文字が現れると、その直後にフクロウ怪人の身体は爆発して木っ端微塵に砕け散った。
シュラがふう、と息をつくと、その姿が元の啓治のものへと戻っていく。
そんな啓治の後ろから遼一が駆けより、祝福の声を掛ける。
「やったな、啓治。見せてもらったぞ、お前の戦い。」
「ああ、楽勝だ。」
二人は互いに歩み寄ると、笑顔を浮かべてサムズアップを交わした。

その直後、不意に遼一が脇腹を抑えながらがくり、と地面に膝をつく。
「だ、大丈夫か?」
啓治は慌てて駆けよると、遼一に肩を貸して体を支えながら近くのベンチへと向かった。
遼一をベンチに座らせると、啓治は遼一の体に手を触れながら骨折していないかどうか確認していく。
丁度脇腹の辺りを触ったところで遼一は苦痛に表情を歪ませた。
服を捲り上げて確認すると、そこには先程の戦いで出来たと思われる大きな痣があった。
「うーん、骨に異常は無いみたいだが内臓にダメージが行っているかもしれないな。病院まで送って行こうか?」
「いや、いい。暫く休んでいれば大丈夫だ。それよりお前の方はどうなんだ?」
「こっちの方は何とも無いさ。これのお陰だ。暫くこれは俺が預かっていてもいいかい?」
そう言って啓治は右手首に着けられたままの腕輪を差し出して見せる。
遼一は暫く考え込む。

警察の人間である自分が任務を放り出して戦いに行くのはそう簡単にはいかないだろう。
かといって迂闊にこの事を公表する訳にもいかない。場合によってはかえって動きにくくなる可能性も考えられるからだ。
ならばいっその事戦いは啓治に任せて自分は警察官としての立場からそれをサポートしていけば良いのではないだろうか。先程の戦いを見た限りでは啓治ならば十分に戦士としてやっていけるはずだ。
「わかった。それは暫くお前に預けておく。頼んだぞ。」


仮面ライダーシュラ
第二話 『武闘』


啓治がシュラとなって謎の怪人たちと戦った日の翌日、警視庁では朝一で緊急会議が開かれていた。
会議室の入り口には『未確認生命体対策本部』と書かれた看板が立てられている。
集まったメンバーは私服警官を中心に制服警官などを含めておよそ20数名。その中には遼一やSAで警官隊の指揮を取っていた沢田の姿も有った。
やがてその中で責任者と思しき男がスクリーンの前に立ち、説明を始めた。
「私が今日からこの未確認生命体本部の本部長を務めることになった篠塚だ、これからよろしく頼む。・・・既に諸君も知っている通り、これまでに合計5体の未確認生命体が出現、警察官を含む22名の死傷者が出ている。これまでは混乱を避けるため極秘に捜査を行ってきたが、この度事件の長期化を見こんで合同捜査本部を設置し、各県警と協力しながら捜査を行う事になった。ではこれまでに出現している未確認生命体の映像を改めて全員に確認してもらう」
スクリーンにかなりぼやけた感じの写真が映し出され、操作している警官が説明を始めた。
「では第0号から、これは通報により現場に駆け付けた警官の持っていたカメラに収められていた写真です。フラッシュが焚かれていなかった為に大まかなシルエットしか確認できませんが、分析により背丈はおよそ150〜160センチ程度で、恐らく第1号とは別の存在と思われます」
写真にはこちらへ向かって手を伸ばす人影が映し出されていた。

続いて一昨日、昨日と現れた犬怪人の写真が映し出された。
「未確認生命体第1号です。容姿は犬のそれによく似ています。未確認生命体第2号、及び4号と争った後逃走を続けており、未だその行方は判っておりません」
沢田、そして遼一が渋い顔をする。
さらに第2号、つまり白いシュラの写真が映し出される。
「そしてこれがその第2号です。これもまた行方は判っておりません。」「さらに鷹山警部の報告によりますと、フクロウに似た第3号、そして2号と酷似した緑色の第4号が確認されています。第3号は4号と争って死亡した模様です。」
沢田が「仲間割れか」と呟いた。

「理由は不明ですがその死体は爆発を起こしたらしく、その殆どは灰と化していましたが、現場に残されていた第3号の翼から採取された血液の成分分析を行い、つい先程その結果が出ました」
そしてスクリーンに二つの円グラフが映し出された。
「右側のグラフは人間の血液成分、そして左側が問題の第3号の血液サンプルの成分の分析結果です」
二つのグラフはどちらが人間のもので、どちらが未確認のものか、ぱっと見ただけでは見分けが付かない程酷似していた。
「ご覧の通り二つのサンプルはほぼ同一の結果を示しており、これだけで判断するなら未確認生命体とは我々人間とほぼ同じか、またはかなり近い種族と思われます」

「いずれにせよ、多数の被害者が出ている以上、未確認生命体が極めて危険な存在である事には変わりはない。とはいえ、これまでの報告から通常の拳銃では対処できない事が分かっている。そこで高性能狙撃用ライフル、及び357コルトパイソンの配備が決定された。まずは市民の避難を最優先事項とし、さらには捕獲よりも射殺を優先するように。では諸君の健闘を祈る」
「待って下さい! 第2号と4号は対象から除外するべきです。」
遼一が突然立ちあがり口を挟む。
「何故だね? 鷹山君」
「第2号は第1号と争っていた様ですし、第4号は私を危機から救ってくれました」
「それを証明できるのかね?」
「それは・・・」
篠塚の言葉に遼一は反論できず、押し黙ってしまう。
「・・・確かにその事は先の報告で分かっている。だがそのニ体が我々人類の敵ではないという確たる証拠が無い以上、警察としては攻撃の対象とせざるを得ない」
(啓治、すまん・・・)
遼一は心の中で啓治に謝罪した。

薄暗い廃工場の中にどこからともなく数人の男女が集まってきていた。
その内の一人は顔や体に何箇所かの擦り傷を負っていた。
その擦り傷にまみれた顔を、他の連中が嘲笑していた。
「(無様なものだな。まさか生身の人間やシュラ如きにやられるとは)」
その内の一人、長い銀髪を二本に束ねたツインテールの女性が、擦り傷を負った男に向かってそう言い放った。
いや、話している言語は彼らの独自の物であるが、恐らくそのような意味の言葉を話していた。
「(なんだと! 貴様!!)」
擦り傷の男が女性に食って掛かる。
「(ほう、やるのか? シュラに手も足も出なかったお前が)」
「(ラピス、貴様、言わせておけば!)」
両者はまさに一触即発の状態にあった。
が、その緊張を解くかのように、一振りの剣が両者の間に割って入る様に差し出された。
二人は剣の差し出された方に顔を向ける。
「ガイム・・・」
剣を差し出したのは長い黒髪を後ろで束ねた、黒い衣装を身に着けた青年であった。右手に一振りの剣を携えている。年の頃は18歳位であろうか。
ガイムと呼ばれた黒服の青年は、まず男の方に向き直ると、おもむろに男の首を掴み上げた
黒服の青年ガイムは凄まじい握力で男の喉をギリギリと締め上げていく。
「グウッ!? ゴ、ガッ!」
「(掟を破り勝手に『狩り』を始めるとはどういうつもりだ? ドグマよ。今回ばかりは目を瞑ってやるが今後一切このような真似は許さん)」
ガイムはそう言うと、ようやくドグマと呼ばれた男を解放する。
「(粛清されないだけでも幸運だと思え)」
青年はドグマにそう言い捨てると、今度はツインテールの女性の方へと向き直った。
「(ラピスもつまらぬ争いは止めろ。まだゲームも始まっていないというのに)」
ラピスと呼ばれた女性はやや不満そうな表情を浮かべながらもガイムの言葉に頷いた。

「(ではこれからゲームを始める。まずは最初のプレイヤーを決める)」
一同はガイムの言葉の『ゲーム』及び『プレイヤー』を意味する言葉に対してにわかに色めきだった。
「(お、俺に任せてくれ! シュラのやつに借りを・・・)」
だがガイムは目の前に寄って来たドグマには目もくれず、彼を張り倒すと、ラピスの元へ歩み寄り、懐から取り出した腕輪を差し出した。
その腕輪には大小いくつもの玉が取り付けられている。
「(ラピス、お前がやってみろ。日没までに64人だ)」
腕輪を受け取ったラピスは満足そうな表情でそれを手首にはめると、はあっと気合を入れ、自身の身体を兎を思わせる容貌の怪人体へと変化させた。
「(記念すべきファーストプレイヤーか。このゲームは貰った)」
ラピスはそう宣言すると、そのまま建物の外へと歩いていった。

ラピスが去ってから暫くした後、一人の体格のいい男が誰にともなく口を開いた。
「(しかし解せんな。いかに舐めてかかっていたとはいえ、たかがシュラ一匹に二人掛かりで敗北するとは。特にアランの奴は跡形も無く爆発したそうではないか。更にはシュラはあの時我々が一人残らず始末したはずだ。アランを倒したのは本当に我々の知っているシュラなのか?)」
辺りに暫しの沈黙が流れるが、やがてガイムが口を開いた。
「(シュラとはあの腕輪を装備した戦士の事だ。腕輪さえ残っていれば誰でも戦士になれる可能性がある。恐らく奴もまた、選ばれた実力者なのだろう。以前の連中とは比べ物にならない位のな)」
一同はガイムの言葉に黙って頷く。
「(それに、この時代にはどうやらそういった素質を持った人間が何人もいるようだ。二日前にドグマと戦っていた人間もその一人だろう。いずれにせよラピスが動けばシュラもまた動き出してくるはず。その時に奴の真価を見極められる筈だ)」

啓治のマンションの寝室。
啓治は昨晩の戦いから帰った後、わき目も振らずベッドに直行し、未だ目覚めることなく眠り続けていた。
バイクでの長距離走行に加えて二度に渡る戦い。いかに体力に満ち溢れている啓治といえど、その疲労は相当なものだろう。
だがその静寂を破るかのように電話の呼び出し音が鳴り響く。
一回、二回、三回目の呼び出し音にも啓治は反応しない。
十回目の呼び出し音でやっと啓治の体がピクリと反応し、二十回目でようやく受話器を手探りで探しあてた。
「ふぁい、もひもひ・・・」
半分眠ったようなだらしの無い声で受け答えをする。
『おお、やっと起きたか。俺だ、遼一だ』
「ああ、にいはん・・・ おはよう、じゃあ、おやふみ・・・」
そう言って啓治は再び眠りに付こうとするが、
『起きろっ!!!』
部屋中に響き渡る遼一の怒号により、そこで啓治の意識はようやくはっきりとする。
「ごめん、今の今まで寝てたもんだからさ。で、こんな朝早くから何?」
「ああ、こちらこそ起こしてしまって済まない。実は、今日の会議での事なんだが・・・」
そう言って遼一は今朝の会議での出来事を啓治に話し始めた。

「え〜、それじゃ俺まで化け物扱いって事じゃないか」
啓治がやや不満そうな声を漏らす。
「ああ、お前が、いやあの戦士が俺達人間の味方である、または敵ではないとはっきり証明できなければダメだという事だ。」
「う〜ん、要はやつらに襲われてる人達を助けたり、警察の味方をすればいいって事か。出来るかなあ・・・」
「俺としても出来る限りのサポートはさせてもらう。何とか頑張ってくれ。」
「・・・わかったよ。で、用件はそれだけ?」
「いや、後もう一つ、お前これから国立東京第七病院に行ってくれ」
「第七病院? 義姉さんのいる所かい?」
「そうだ、あれを身に付けた事でお前の体に何か変化が起きていないか調べてもらう。響子にはもう話はつけてあるから、10時から11時くらいまでの間に直接響子を尋ねればいい。そうそう、レントゲン写真なども撮るので朝食は抜いておく様にとの事だ」
「ええ〜? 俺昨日の夜から何も食べてないのに。どうしても抜かなきゃダメ?」
「ダメ」
啓治が不満の声を上げるも、遼一はそれを一言であっさりと切り捨てた。
「・・・わかった。じゃあこれから行ってみるよ」
「済まないな。じゃあよろしく頼むぞ」
遼一はそう言って電話を切った。
啓治はふと時計を見やる。時刻は既に午前9時を回っていた。
(もう9時か・・・ あんまり時間は無いな。一応シャワーと歯磨きくらいは済ませておくか)
それから啓治は身支度を整え、いつもの愛車で義姉の待つ病院へと向かった。

薄暗い路地裏を何かに追い立てられる様に走り続ける中年のホームレスと思しき男がいる。
彼は時々後ろを振り返りながら、姿の見えない追跡者から必死で逃れようとした。
どうやらもう追って来ないと思い、ようやく安堵の息を漏らす。
が、次の瞬間彼の頭上から急降下してきた影が彼の頭を踏み砕いた。
男は驚く間も無く絶命した。
男を殺した影の正体は兎を思わせる容貌の未確認生命体、ラピスであった。
「(これで、四人目・・・)」
ラピスはにんまりとした表情で呟きながら、腕輪に付けられていた玉を一つ移動させる。
玉を移動させた先には今のとあわせて合計四つの玉があり、どうやらこれで死者の数を数えている様だ。
そして、怪人の姿が人間の女性ものへと変わっていく。
外見だけならどこにでもいそうな若い女性に見えない事もない。だが彼女のもう一つの姿は恐ろしい殺人者なのだ。
人間体へと戻ったラピスは、次の獲物を求めてその場を後にした。

(はあ、眠い・・・ 検査が終わったら病院で寝かせてもらおうかな・・・)
啓治が信号待ちをしながらそんな事を考えていると、はるか後方からサイレンの音が聞こえてきた。
啓治や他の車両は車体を道路の左端に寄せて、緊急車両が通りすぎるのをじっと待つ。
暫く待っていると、啓治のバイクの横をサイレンをけたたましく鳴らしながら一台のパトカーが通りすぎていった。
(あれは・・・ まさか?)
普段なら気にも留めなかったであろう光景。だが啓治は直感的に何かを察知していた。
啓治はその場で目を閉じ意識を集中させる。
(・・・いた!)
啓治は昨日の怪人と良く似た気配を感じた。それもここからそう遠く離れていない場所だ。
(義姉さんゴメン。ちょっと遅れるかも!)
啓治は心の中で謝罪すると、それまでの進路を変更し、気配のした方角に向けてバイクを走らせた。

恐らくこの辺りの警官はみな現場に集結しているだろう。啓治はそう考え、出せる限りのスピードで飛ばしていく。
やがて啓治のバイクが薄暗いトンネルに入る。辺りに他の車の影は無い。
そのとき啓治の腕輪の石が緑色の輝きを放った。
「装身!!」
啓治が変身へのキーワードを叫ぶと同時に啓治の衣服が黒いボディスーツと緑色のプロテクターに変化していく。
両の手首、足首及び腹部には緑色に輝く宝玉(クリスタル)の埋め込まれたパーツ。頭部は鬼の如き角と牙が設けられ、大きな目と額に緑色に輝く宝玉の埋め込まれたマスクがそれぞれ覆っていく。
啓治はシュラへの変身を完了すると、さらにアクセルを捻り、スピードを上げて現場へと急いだ。

現場では既に警官と怪人との戦闘が始まっていた。
どこか兎を思わせる風貌の怪人、兎怪人ラピスは拳銃の弾を食らっても平然としている。
すると突然ラピスの姿が警官たちの視界から消える。
だが次の瞬間ラピスが一人の警官の頭上を狙って飛びかかってきた。
辺りに何かの砕けるような鈍い音が響き渡る。
ラピスの一撃を食らった警官は頭蓋骨と頚椎を砕かれその場に崩れ落ちる。即死だった。
「う、うわあああっ!!」
余りの出来事にその場に居た警官達ただただ驚くしか無い。
続いてラピスはそんな警官達を見まわしながら次の獲物を見定める。
そしてラピスは低く飛びあがると警官の一人に向かって飛び蹴りを放った。
それを食らった警官は吹き飛ばされて壁に叩きつけられ即死した。
残りの警官達が発砲しながら後退するが、ラピスはそれをものともせず歩を進めていく。
やがて拳銃の弾が切れ、その場に居た警官達はラピスに背を向け脱兎の如く駆け出す。
だがラピスは一跳びしただけで警官達の頭上を飛び越え彼らの前に立ちはだかった。

警官達は誰もが金縛りにあったかのようにその場を動けなかった。
と、その時またしても警官達の頭上を飛び越え彼らとラピスとの間に割って入って来る影があった。
その影はラピスから警官達を守るかの様に片手を広げて立ちはだかっている。
「だ、第2号っ!?」
警官の一人がそう叫ぶ。
その言葉を聞いた影の正体、未確認生命体第2号ことシュラは、
「俺は敵じゃない。ここは任せて早く逃げろ」
と、警官達を促した。
シュラの言葉に従い素直に逃げ出す警官達。シュラはその様子を見届けると眼の前の兎怪人を睨み付ける。

「(シュラか・・・まだ生き残りが居たとはな。この脅威のアクロバッター、ド・ラピスに勝てるかな?)」
ラピスは正体不明の言語でそのような意味の言葉を口にした。
もっともシュラは彼らの言葉の意味をなんとなく理解できるだけで、言語を操る事は出来ないが。
兎怪人ド・ラピスはおもむろにジャンプすると、空中で一回転しシュラに向かってキックを放つ。
「ハっ!」
シュラはその攻撃をかわすがラピスは着地と同時にハイキックを放った。
シュラはキックを片手で受け止めると残った手で反撃のパンチを放つ。
だがラピスは後方にジャンプしてシュラのパンチをかわす。
そしてビルの壁を三角跳びの要領で蹴ると、空中で錐揉み状に回転してシュラにキックを浴びせた。
強烈なそのキックはシュラをガードの上から弾き飛ばした。
シュラは後方に転がってダメージを抑えると、今度は着地したラピスに向けて前転し、立ちあがり様にラピスのボディにパンチを食らわせる。
さすがにこれは効いたのか、ラピスは身体をくの字に曲げて腹を押さえている。
シュラは続けざまに顔面に向けてキックを放つが、ラピスはこれを後方に倒れ込む様にして回避、バック転で距離を取ると一跳びで遥か上空へ舞い上がり、建物の屋上へと着地した。
そして遥か下方にいるシュラを見下ろすと、親指を立てて手招きした。
(な、なんてジャンプ力だ!)
シュラは驚愕した。恐らくラピスは今の自分の跳べる高さの倍もの高さを跳んだのだ。
そう思ったシュラは目の前の壁に向かってジャンプすると、窓の窪みを足場にしてビルとビルの間を交互に飛び移りながら上を目指していく。
その様子を見ていたラピスは少し呆れた様に鼻で笑う。
やっとの事で屋上に着地したシュラ。だが、それと同時にラピスの放ったキックがシュラの顔面を直撃する。
「うわあああっ!!」
身体のバランスを崩したシュラは屋上からまっ逆さまに転落。コンクリートの地面にしたたかに叩きつけられる。
着地の瞬間に何とか受身は取れたものの、そのダメージは決して軽いものではない。
仰向けになったシュラの胸を、追って着地したラピスが片足で踏みつける。
「(ほらほら、もう少しは頑張ってみろ)」
ラピスはさらに体重を掛けてシュラの胸を踏みにじるとおもむろにジャンプし、シュラの心臓のあたりを狙って両足を突き出した。
シュラは何とか身を捩って攻撃を回避するとそのまま地面を転がりながら距離を取り、立ちあがるとすぐさまラピスに向かって駆けだし、ある程度の距離でジャンプした。
空中で突き出された右足がアンクレットの宝玉を中心に緑色の輝きに包まれる。
昨晩フクロウ怪人アランを葬り去った必殺のキック、シュラはこれで一気に勝負をつけるつもりだ。
が、ラピスはそのキックをジャンプで難なくかわすと再び屋上へと降り立った。
必殺の攻撃をかわされたシュラは悔しそうにラピスのいる屋上を見上げる。
(当たらなければ意味が無い、か・・・ もっと疾(はや)く、もっと高く跳べたら・・・)
そう思うシュラの身体に突然奇妙な感覚が湧き上がってくる。それと同時に全身の宝玉がほんの僅かな一瞬青い輝きを放った。
(これは・・・?)
シュラはその感覚に従い、屋上に向かってあらん限りの力でジャンプした。

「はあっ!!」
すると、シュラの宝玉、眼、及びプロテクターの色が一瞬にして青へと変化した。さらに、シュラの身体を覆うプロテクター、いわゆるショルダーガード、ブレストアーマーは全体的にすっきりと簡略化されたものとなり、少々頼りない印象すら受ける。
だが、驚いたことにシュラはたった一度きりのジャンプでラピスの居る屋上まで辿りついたのだ。
(か、変わった?)
シュラは青く変化した自分の身体を確認する。そしてラピスの方へ向き直ると、サッと拳法のような構えを取った。恐らくこの構えが今の自分に一番合っている事を直感したのだろう。

ラピスも一瞬戸惑いの表情を見せる。だがそれはすぐに余裕の表情へと変わった。
「(ふむ? その姿なら少しはおもしろくなるかな?)」
両者は互いの隙を伺いながらゆっくりと円を描く様に、一定の距離を保ちつつ横に移動していく。
先に仕掛けたのはラピスの方だ。
ラピスがシュラに向かってパンチを放つ。シュラはそれを素早い動きで難なく回避すると、ラピスのボディに素早くワンツーパンチを放った。
だが、ラピスは少しも堪えた様子は無い。何事も無かったかのように平然としている。
その様子に戸惑いつつもシュラが更にパンチを放とうとした瞬間、ラピスの蹴りがシュラの身体を吹き飛ばす。
シュラは空中で体勢を整えて着地すると、すぐさまダッシュして一気にラピスとの間合いを詰める。
ラピスはチョップで迎撃しようとするが、シュラはこれを片手の手甲で受け止め、開いたもう片方の拳でラピスの脇腹にパンチを放った。
「グウッ!」
カウンター攻撃となったこれはさすがに効いたのか、ラピスはくぐもった声を上げてよろめいた。
ラピスはシュラに背中を向けると、おもむろに大ジャンプをしてその場から離れようとした。
シュラはチッと舌打ちすると、ラピスに追いすがる様にジャンプする。
ビルの屋上から屋上へと飛び移るラピスの驚異的なジャンプ力。だがシュラもまたラピスに匹敵するほどの大ジャンプでラピスを追っていた。
(そうか、この青い姿になるとスピードやジャンプ力が増すのか・・・)
シュラがそんなことを思っていると、ラピスがあるビルの屋上に着地したところでシュラに向き直った。
シュラも続けて同じビルに着地する。
暫しの間睨み合いが続く。今度はシュラが先に仕掛けた。
シュラはラピスに向かって突進すると、ある程度の距離まで近づいたところでおもむろに前転。片手を地面につくと腕のばねを利用して起き上がり様にキックを放つ。
だがラピスはこれを軽いジャンプでかわし、空中で一回転してシュラの後方に華麗に着地した。
シュラは振り返って再び間合いを詰めるとハイキックを放つ。
ラピスはこれをガードすると身を屈めシュラの軸足に足払いをかける。
シュラは背中が地面につくと同時に地面を転がって間合いを取る。
そして続けて放たれたラピスの踵落としを頭上で両手を交差してガードし、無理矢理押しのけると素早く懐に入り込んでパンチを連発した。
だが、シュラは自分のパンチにまるで威力が無い事を感じ取ると、反撃を食らう前に素早くバックステップで相手の間合いから離れる。
(スピードが上がる代わりにパンチ力が落ちる・・・ 一長一短って訳か。さあて、どうするか?)
啓治が自分自身に問い掛けたその時、突然シュラの身体を強烈な空腹感が襲った。
(な、何? しまった、これからって時に。こんな事なら構わずに朝飯でも食っておくんだった・・・)
啓治は昨日の戦いの後、帰宅と同時にベッドに横になって眠ってしまっていた。最後に食事をしたのは昨日の夕方、遼一と待ち合わせの約束をして怪人たちと戦う前だ。二度の戦闘にもかかわらずこの間啓治は一度も食事をしていないのだ。
極度の空腹感が啓治の意識を朦朧とさせる。
途端に啓治の動きは精細を欠き、放たれたラピスのキックををまともに食らってしまった。
シュラは受身を取る暇もなく床にまともに叩き付けられる。
(くっ、これ以上戦っても勝ち目はないか。ここはひとまず体勢を整えてから・・・)
そう判断したシュラは立ちあがり、その場を離れようとジャンプの体勢に入る。
だが、そのときシュラはラピスに背中を蹴り飛ばされ、ビルの屋上から真っ逆さまに転落してしまった。
「うわあああーーっ!!」
辺りにシュラの地面に叩きつけられた際に発せられた大きな音が響き渡る。
続いてラピスがシュラを追って地面に降り立った。
辺りをきょろきょろと見まわしシュラの姿を探すが、何処にも見当たらない。
「(逃げ足の速い奴・・・ とんだ期待外れだった様だな。まあいい、ゲームを続けよう)」
ラピスは人間の姿に戻り、その場を立ち去った。

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