ラピスがその場を去った直後、遼一や沢田を始めとする対策班のメンバーや、応援の警察官達が現場に到着した。
彼らは油断なく拳銃を構えると、幾手にも分かれて辺りを捜索する。
ここへ来る途中で啓治のバイクを見つけた遼一は、啓治がまだこの近くにいる事を確信し、注意深く辺りを散策する。
だが、戦闘が行われた痕跡は発見できたものの、肝心の啓治の姿は何処にも見つからなかった。
(到着するのが遅くなったからな・・・ もうこの付近にはいないのか?)
遼一が諦めかけたその時、

ぐうるるるる〜〜

すぐ近くで大きな腹の虫のような音が聞こえてきた。
遼一は音のした方向を見やると、そこには大小様々なガラクタが積まれており、人間一人は十分に隠れられそうな場所になっている。
遼一は注意深くそのガラクタの山に近づき、中を覗く。
「け、啓治? おい、大丈夫か? しっかりしろ!」
その中では気を失った啓治が膝を抱えてうずくまる様にして隠れていた。

先程未確認生命体達が集まっていた廃工場に、人間の姿に戻ったラピスが入っていく。
その腕にはどこから持ってきたのかはわからないが、何本かの缶ビールや酒が抱えられている。
建物の中では数人の男女が退屈そうな表情でたむろしていた。
「(ずいぶんと機嫌がいいな、調子はどうだ?)」
中に居た男の一人がラピスに向かって口を開いた。
「(目標の半分ほどさ。ついでにシュラの奴とも戦ったが、あの程度の強さでは私の敵ではないな)」
ラピスは自身満々にそう答えた。
「(それで? 死体は確認したのか?)」
今度は近くに寄ってきたガイムが問いかける。
「(いや・・・)」
「(そうか。その油断が命取りにならなければ良いがな・・・)」
ガイムの言葉にラピスは悔しそうにしかめ面をする。
「(まあ、本当にシュラの奴を倒したのならば証拠として奴の首かブレスレットを持って来る事だな)」
「(ところで、それは何だ?)」
ドグマがラピスの持っていた缶を指差して言う。
「(この時代の酒だ。ゲームを終えたらこれを祝い酒にするつもりだ)」
「(こんなものを何処で手に入れた?)」
「(鉄の箱を叩いたらこいつがいくつも出てきた)」
「(用意が良いな。もう勝った気でいるのか?)」
「(いずれそうなる。こいつはここに置いておくが、勝手に飲んだら只では済まさんぞ)」
ラピスはガイムやドグマ、そのほかの連中にそう言い残すと、暫しの休憩を取る為工場の奥へと歩いていった。

「う、うう〜〜ん」
ようやく目覚めた啓治が目にしたものは、見知らぬ白い天井に見覚えの無いベッド。
寝惚け眼で辺りをきょろきょろと見まわすと、ようやく意識と視界がはっきりしてくる。
どうやら自分はあの戦いで気を失った後、何時の間にかこのベッドに運ばれていたらしい。
(どこだ? ここは)
考えても答えは出ない。ふと視線を横に向けると、隣のベッドで本を読んでいた少女がいた。
啓治は少女にとりあえず声をかけてみることにした。
「ねえ、君、ここは何処かな?」
「あ、おはようございます。ここは第七病院の5階ですよ」
少女は読んでいた本を閉じるとにこやかな笑みを浮かべて答えた。
歳の頃は一六、七位だろうか。背中の辺りまで伸びた薄紫色の髪に、雪のように白い肌。そして髪の色と同じ薄紫の瞳。どこか儚い感じを漂わせている。
(そうか・・・ 俺はあの未確認とかいう奴との戦いの最中に気を失って、義姉さんのいる病院に運ばれたのか。これは兄さんの仕業だな)
「そうか、ありがとう。ところで君は?」
「あ、えと、私、御神 奈緒といいます、これからよろしくお願いします」
なかなか礼儀正しい娘の様だ。啓治も続けて自己紹介をする。
「ああ、俺の名前は鷹山啓治だ、よろしくね」
「啓治さんですか。もう体の具合は大丈夫なんですか?」
「え? ああ、もう大丈夫・・・だな」
啓治は軽く手足を動かしてから答える。どうやら痛みはほとんど残っていない様だ。
が、啓治の腕にちくっとした痛みが走った。よく見ると自分の右腕に点滴のチューブが刺さっている。
恐らく栄養点滴の類だろうが慣れていない啓治にとっては針の感触は不快極まりないものであった
「なんだこれ?」
啓治はパックの中の液体が空になっているのを確認すると、自分で点滴針を引っこ抜いてしまった。
「ああっ! だめですよ、勝手に抜いたりしちゃ!」
奈緒が慌てて制止しようと叫んだが、もう針は抜かれてしまっていた。
「あ〜あ」
溜息を付く奈緒をよそに、啓治は両手を頭の上で組んで欠伸をしていた。

ぐう〜るるる〜

啓治の腹の虫が再び騒ぎ出した。
「ああ〜、腹減ったな。ねえ、御飯ってまだなのかい?」
「まだ二時くらいですから、夕御飯にはまだ暫くありますね。あ、そうだ、良かったらこれ食べます?」
そう言って取り出したのはお見舞いの品でよくある果物の詰め合わせだった。
「いいの? こんな良い物を頂いちゃっても」
「私一人じゃ食べきれませんし、早く食べないと傷んじゃいますから・・・」
「それじゃ、お言葉に甘えて頂こうかな・・・ 良かったら一緒に食べない?」
啓治の問いかけに、奈緒ははい、と頷いた。

啓治は奈緒から渡された果物ナイフでリンゴを切り、うさぎ型に皮を剥いて奈緒に差し出す。
「うさぎさんですか。 お上手ですね」
奈緒が感嘆とした声を上げながらリンゴを受け取った。
(ウサギ・・・何で俺はこんなものを?)
不意に啓治の表情が曇る。ついさっきの戦いの忌まわしい光景が啓治の脳裏に蘇った。
「あの、どうかされたんですか?」
奈緒が心配そうに啓治の表情を覗きこんだ。
「え? あ、いや、ちょっとこのリンゴの耳の形が悪いかな〜と思ってさ」
啓治は慌ててとっさに思いついた言葉を口にする。
「そんな事ないですよ。綺麗に出来てると思います」
どうやらうまくやり過ごせた様だ。よくとっさにこんな口から出任せが飛び出すな、と啓治は自分自身に感心した。

それから二人は、果物を食べながらしばらく他愛もない会話を続けていた。
「そう言えば啓治さんはどうして怪我をされたんですか?」
奈緒がリンゴを咀嚼しながら聞いてみる。
「うん、階段から足を滑らせちゃってね。結構長い階段だったみたいであちこち打っちゃったらしい」
とうにリンゴを食べ終わった啓治は、四本目のバナナの皮を剥きながら適当な理由を答えた。
「ところで奈緒ちゃんはどうしたの? 結構長く入院しているみたいだけど」
そう言われた奈緒は少し寂しそうな表情を浮かべた。
(う〜ん、聞かない方が良かったかな?)
「私は、昔から身体が弱くて。早く退院して学校へ行きたいんですけど、なかなかそうはいかないみたいで」
「そうか・・・早く良くなるといいな」
啓治は短くそれだけを答えた。

バナナを食べ終わった啓治が、ブドウに手を伸ばそうとした丁度その時、誰かが病室のドアをこんこんとノックする音が聞こえた。
部屋の中にいた二人は口をそろえて「どうぞ」と声を掛ける。
すると病室のドアが開き、若い女医が姿を見せた。
「あ、義姉さん」
「お、啓治くん、目が覚めたのね」
啓治と女医は互いに軽く手を上げて挨拶をする。
「あれ? お二人はお知り合いなんですか?」
二人のやり取りを見ていた奈緒は二人の顔を交互に見ながら不思議そうに尋ねる。
「うん、彼、啓治くんは私の旦那の弟、つまり私の義理の弟という訳なのよ」
女医は奈緒にそう答えた後、今度は啓治の方を向いて、
「で、彼女が私の担当している患者で、御神奈緒ちゃん」
と答えた。
「とりあえず啓治くんは私の担当という事でここの病室にさせてもらったけど、くれぐれも変な気は起こさない様にね。まあその様子じゃすぐに退院できそうだから大丈夫かしら」
女医はちょっと悪戯っぽい表情を浮かべながら啓治に向かってそう言った。
言われた啓治の方は苦笑を浮かべながら黙り込んでしまう。
「あの、ところで響子先生、何か御用ですか?」
奈緒が響子と呼ばれた女医にそう尋ねてみる。
「あ、そうそう、啓治くんに用があったのよ。悪いけどちょっと付いてきて来てもらえるかしら? 検査の結果が出ているから」
「んむ、わかった」
啓治は急いでブドウをまとめて口に放り込むと、ベッドから下り響子の後を付いて行った。

響子に連れられて行った先は診察室で、そこには遼一の姿があった。
「あ、兄さん」
「お、啓治、目が覚めたのか」
先程と全く同じやり取りに、響子と啓治の二人は思わず笑ってしまう。
そんな二人の仕草を見た遼一は首を傾げていた。
「兄さんはどうしてここに?」
本来ここにいるはずの無い人物に対し、啓治はそう問い掛ける。
啓治はてっきりまだ遼一は勤務時間中で、恐らくさっきの未確認の捜査を現場周辺で続けているはずだと思っていた。
「昨日と一昨日と色々あったからな。上から病院で検査を受けてくる様にとの命令を受けたんだが、ここならば色々と都合がいいと思ってな」
「なるほどね・・・」
啓治が納得した表情で差し出された椅子に腰掛けると、響子は机の上のトレース台にレントゲン写真を並べ始めた。
「しかし驚いたわね〜、魔物と戦う戦士なんて、まさかそんな事あるわけないと思ってたのに」
「ん? 俺たちの力は前に何度も見せた事があるだろ。まさかトリックだとでも思ってたの?」
「いや、そうじゃなくて、その腕輪を使って変身する仮面ライダーみたいなやつの事よ」
響子は啓治の腕輪を指差しながらそう答えた。
(仮面ライダー、ねえ・・・)
啓治自身はライダーを観た事は無く、知識といえば以前遼一が子供の頃再放送をやっていたのを観てファンになったと聞いた事がある程度だった。
その為啓治は『仮面ライダー』の単語を出されてもいまいちピンと来なかった。
「啓治くんが気を失っている間に色々と検査させてもらったけど、結論から言うと啓治くんの身体には今のところは目だった変化は起きていないみたいね」
「今のところは?」
啓治が聞き返す。
「ええ、もう少し詳しく調べたら何か判るんじゃないかと思うんだけどね。もっとも遼一や啓治くんは普通の人間とは体の造りが違うから、二人の体の様子を比較しての話だけど」
そう言って響子は二枚のレントゲン写真をボールペンで交互に差す。
片方が遼一の写真で、もう片方が啓治のものなのだろう。確かに二つの写真には一目見ただけでわかるような違いは無い。
「さっきの怪我の具合はどうなんだ?」
遼一が誰にともなく聞く。
「う〜ん、そんなにひどく攻撃を食らったわけでもないし、もう退院しても大丈夫じゃないかな。そうだろ? 義姉さん」
「ええ、確かにここへ運ばれてきた時は全治2週間くらいの怪我だったけど、もうだいぶ治りかけているわ。凄い回復能力ね。それもその腕輪のおかげなのかしら」
そう言って響子は啓治の腕輪を指差すが、その表情には微かに困惑の色が浮かんでいた。
「何か心配な事でも?」
響子の表情を見た遼一がそう聞く。
「ええ、こんなに速い回復速度じゃ、恐らく啓治君の体には相当な負担が掛かっているんじゃないかと思って」
「まあそうかも知れないな、やたらに腹が減るし、関節もまだ痛むし。なに、要はこれ以上ダメージを受けなけりゃいいのさ。そうだろ、兄さん」
「まあ、それはそうなんだが・・・」(まさか腹が減って倒れたというのか?)
遼一の表情には僅かな疑問と困惑の色が浮かんでいた。
「え〜と、まあこんなところね。二人とも他に何か聞きたいことは?」
響子がそう問いかけると、啓治が
「おっとそうだ、未確認の奴はどうなっているんだ?」
とが聞き返した。
「そうだ、ラジオはあるか?」
と遼一が響子に尋ねる。病院内ということで携帯電話の電源は切ってある為、今まで警察からの連絡が入ってこなかったのだ。
響子が机の上にあったラジオを取り出すと、スイッチを入れ適当に選局をする。
その中で臨時ニュースを放送している局を見つけた。
「・・・警視庁の発表によりますと、未確認生命体第5号は現在、都内・・・」
その言葉を聞くやいなや、遼一と啓治の二人は立ちあがる。
「兄さん、俺のバイクは?」
「あの場所に置いてきたままだ、俺の車を出すから、それに乗っていけ」
「義姉さん、俺の着替えは?」
「ベッドの下に畳んで置いてある。頑張って!」
啓治は二人の言葉に、黙って親指を立てて応えた。
そして診察室を出て自分の病室へと早足に戻った。

「啓治さん、どうでした?」
「ああ、もう退院しても大丈夫だそうだ」
奈緒に短くそう答えると、啓治はベッドのカーテンを閉め入院着から元の衣服へと着替える。
「もう行かれるんですか?」
「ああ、ちょっと急ぎの用事があるんでね。果物美味しかったよ、ご馳走様」
「あの・・・よかったら今度は遊びに来てもらえませんか?」
奈緒がほんの少し寂しそうな声色で啓治にそう言った。
「まあ、これからもちょくちょくここにお世話になるかもしれないし、その時はよろしくね、じゃあ」

啓治はそう言い残すとおもむろに病室の窓から飛び降りた。
「え、うそ? ここ五階ですよ!」
啓治は空中で体勢を整え地面に着地した。辺りに着地の際に発せられた凄まじい轟音を響きわたる。
そして何事も無かったように駆け出す。地面を抉ったような大きな足跡を残して。
その様子を見ていた患者や職員達は皆、あまりの突拍子もない光景に驚いて声も出なかった。
腰を抜かしてその場に座り込んでしまう者、逆に車椅子から立ちあがり、そのまま固まってしまう患者。
手を滑らせて針を打つ位置を間違えてしまう看護婦、ショックのあまり気を失ってしまう年配の患者。
病院内はちょっとしたパニックになっていた。

(・・・てな事になるとまずいよなあ・・・)
先程のような光景を想像した啓治は、大人しく非常階段を利用して一階へと下りていった。
階段を下りきると丁度そこに遼一の覆面車が通りかかる。
啓治は素早くドアを開け、助手席に乗り込んだ。
遼一の覆面車は回転灯を点け、サイレンを響かせながら現場へと急ぐ。
車内で二人は先程の戦いの事を話していた。
「・・・で、あいつよりも高く跳びたい、って思ったら体が青くなっちゃった訳さ」
「青く? 戦士の姿は一つじゃないのか?」
「ああ、俺が最初に戦った時は白かったし、多分いくつかのバリエーションがあるんだと思うけど・・・」
「で、その青い姿で戦ってみたら確かにスピードとジャンプ力は上がったんだけど、代わりにパンチやキックの威力が落ちちゃったんだ」
「ううむ、一長一短ってところか・・・ で、なにか策はあるのか?」
「ああ、大丈夫さ。車には車の良さがあり、バイクにはバイクの良さがあるように、どんな姿でも特性を生かした戦い方をすれば良いのさ。俺は病院の中で何もボケーっと話を聞いていた訳じゃない、あの間も頭の中で繰り返しイメージトレーニングを続けていたんだ」
啓治は自身満々にそう答える。
「そうか、お前ならきっと大丈夫だ」
遼一は頷きながら自分に言い聞かせる様に答えた。

やがて二人を乗せた覆面車は現場まであと数キロの地点まで辿り着いた。
だが、道路はひどい渋滞でごった返していた。
恐らくは元々の交通量の多さに加えて避難しようとしている人々がかなりの数に登るのだろう。
「まずいな・・・ これではいつまでたっても現場に辿りつけない」
不満を漏らす遼一。そして啓治が意を決して口を開く。
「それならここからは俺一人で行く。青の力を使えばほんの数分で辿りつけると思う」
「大丈夫なのか? 場所は分かるか?」
「ああ、大体の場所と方向はさっきの無線でわかっているし、気配を辿って行けば奴の居場所なんてすぐに判るさ」
啓治はそう言って車から降りると、自らの足で現場へと駆けて行った。
「見つけた・・・ 奴の気配だ。今度こそ!」
啓治がそう叫ぶと同時に腕輪に埋め込まれたクリスタルが青い輝きを放ち、啓治の姿が青いシュラのものへと変わっていく。
啓治の姿が完全に変わると同時に、それまでの巡航速度が一気に上昇、目にも止まらぬスピードで青い影が街中を駆け抜けて行った。

響子が再び啓治のいた病室を訪れたのは、啓治が病室を出てから暫く経ってからの事だった。
「先生・・・」
「ん、どうしたの? なんだか寂しそうね?」
奈緒の表情を読んだ響子はそう声を掛ける。
「ええ、ちょっと・・・ せっかくお友達になれそうだと思ったのに・・・」
「まあ大丈夫だと思うわよ。そのうちまた何度も入院することになるんでしょうし」
「何度も? そういえば啓治さんもそんな事を・・・ 何か危険なお仕事でもされてるんですか?」
そう聞かれた響子は少し困ってしまう。まさか本当のことを話す訳にもいかないし、何か上手い言い訳はないかと考えた。
「うん、格闘技か何かやってるみたいね。まあそんなに頻繁に入院することも無いでしょうけど、私からもたまには顔を出すように言っておくわよ」
「ありがとうございます」
響子はふと、一ヶ所にまとめて置かれていたリンゴやバナナの皮を見つけた。
「ところで、これは二人で食べたの? 結構な量だけど」
「はい、啓治さんがリンゴの皮を剥いてくれたんです。とっても上手いんですよ」
(うう・・・ あとで奈緒ちゃんと一緒に食べようと思ってたのに・・・)
響子が密かに楽しみにしていたフルーツの詰め合わせは、啓治によってあっという間に食い散らかされてしまったのだった。

現場となった割と規模の大きい公園では、警官隊とウサギ型怪人ド・ラピスとの交戦が続いていた。
既に何人もの警官が犠牲になっており、彼らの亡骸があちこちに横たわっていた。
「くそっ、昨日はこれで何とかなったってのに、どうなってんだ、こりゃ!!」
現場に駆けつけた警官の一人である沢田がそう言って激しく舌打ちする。
確かに昨日は通常装備の拳銃で犬怪人ド・ドグマや白いシュラを追い払うことができた。
しかしそれは両者とも覚醒したばかりで充分に力が発揮できていないせいであって、既にコンディションを取り戻している怪人達にはもはや通常の拳銃など足止めにもならないのだ。
ラピスが近くにいた制服警官の一人に近づいていく。
「く、来るなっ!!」
その警官は無我夢中でラピスに向かって発砲した。やがて拳銃は装填された弾を撃ち尽くし、撃鉄がカチカチと弾切れを知らせる音を鳴らす。
だが警官はそれでもなお引き金を引き続けた。
ラピスが警官の首に手を伸ばし、片手で軽々と吊り上げた。
警官の表情が恐怖の色に染まっていく。
「(このまま首の骨をへし折ってやろうか?)」
ラピスの手に更に力が込められる。
「やめろーーー!!」
あたりに銃声が鳴り響いた。
ラピスの背中に2、3発の銃弾が命中する。
ラピスが振り返った先には拳銃をこちらに向けて構えた沢田の姿があった。

もはや並の拳銃などあの生物には通用しないという事は沢田は十分過ぎるほど理解していた。
しかし彼はそれでも仲間を助けようと引き金を引かずにはいられなかったのだ。
ラピスは掴んでいた警官を無造作に放り捨てると、今度は沢田の方に向かって歩き出した。
「く、来るな!」
沢田が残っていた弾丸を立て続けに発射する。
が、放たれた弾丸はまるで銀玉鉄砲のようにピシピシとラピスの体に弾かれるのみであった。
やがて沢田の銃が弾切れを起こすと、ラピスはそのタイミングを見計らっていたかのように一気に沢田との間合いを詰め、先程の警官と同じ様に襟首を掴み上げた。
ラピスは片手で押し出すようにして沢田を放り投げる。
沢田は受身を取り切れずに腰を地面に打ち付けてしまい、痛みで上手く立ちあがることが出来ずにもがいている。
ラピスはそんな沢田の様子を見るとおもむろに空高く大ジャンプし、未だ立ち上がる事が出来ずにいる沢田目掛けて両足を突き出した。
ラピスはこれまでの被害者と同じ様に沢田の頭部を踏み砕くつもりなのだ。
(わ、あ・・・)
ラピスと沢田の距離があと数メートルにまで達したその時、突然沢田の視界の外から青い影が飛び出して来て、ラピスの体を体当たりで突き飛ばした。
バランスを崩したラピスはそのまま地面に叩き付けられる。

「よう、昨日のお巡りさんじゃないか。また会ったな」
着地したシュラは首だけ廻して後ろの沢田に声をかける。
「よ、4号なのか・・・?」
「どうやらそう呼ばれているらしいな。まあ後は任せて休んでいな、こいつは俺が仕留める」
シュラは沢田にそう促すと、あらためて丁度立ちあがったところのラピスの方に向かって歩き出した。
「(死に損ないが舐めた真似を・・・ 今度こそ貴様の首とその腕輪を頂く!!)」
そう言ってラピスは凄まじいスピードでシュラに襲いかかってきた。
シュラはラピスの突撃をサイドステップで素早く回避すると、親指を使ってラピスを人気のない広い場所へ誘導しようとした。
「こっちだ、来い!!」
凄まじいスピードとジャンプ力でラピスを先導するシュラと、それに劣らぬスピードで追うラピス。二人はやがて周りを雑木林に囲まれた並木道へとやって来た。
二人は距離を取って向き合い、構えを取る。
「さっきはよくも恥を掻かせてくれたな。この借りはきっちり返させてもらうぞ」
「(ほざけ!)」
そう言って凄まじいスピードで跳び掛かってくるラピス。シュラもジャンプしてラピスを迎撃しようとする。
空中で互いの攻撃が交差し、鋭い打撃音が辺りに響き渡った。
両者は背中合わせに着地すると何事も無かったかのように振り向き再び構えを取った。
「(少しは進歩したな。ではこれはどうかな?)」
ラピスは素早くジグザグに移動しながらシュラの目の前まで近づいてくる。
間合いを詰めハイキックを放つラピス。シュラはそれを手で打ち払うと、ラピスの腹に真っ直ぐキックを打ちこむ。続いてその足を軽く引き戻すと今度はラピスの腿の部分を蹴り飛ばした。
さらに顔面に向けて廻し蹴りを放つが、これはバックステップによって回避されてしまう。
シュラの攻撃を回避したラピスはシュラに向かって斜め上方から飛びかかり、パンチを放つ。
シュラはそのパンチを前に踏み込みながら身を屈めて避わし、すれ違い様にラピスのつま先を手で払った。
空中でバランスを崩したラピスは前のめりになるが、両手を伸ばして地面につけると前転の要領で再び空中を舞い、体を反転させてシュラの方を向いて着地した。
両者は互いに走り出し、攻撃を繰り出す。暫しの間パンチ、キックの打ち合いが続いた。
「うぐぅっ!」
ラピスのパンチが顔面にヒットし、シュラは顔を押さえてよろめきながら二、三歩後退する。
続けて繰り出されたラピスの突きをシュラは紙一重で避わすと、突き出された腕を絡めとり一本背負いで投げ飛ばした。
ラピスは背中から地面に叩き付けられるが、すぐさま立ちあがって後方にある立ち木に向かってジャンプする。
そして立ち木の幹を三角跳びの要領で蹴ると、追いすがるシュラに向かって錐揉み上に回転しながらキックを放つ。
(そんなものが何度も通用するか!!)
ラピスの攻撃を事前に察知していたシュラは体を反転させながらラピスよりも高くジャンプすると、攻撃を回避しつつオーバーヘッドキックをラピスの脳天に叩き込む。結果、ラピスは物凄い勢いで地面に叩き付けられた。

その頃、遼一や他数名の増援の警察官がやっとの事で現場に到着した。
そこでは沢田と僅かに生き残った警察官が負傷者の救護に当たっていた。
もっとも彼らにできる事と言えば脈拍や呼吸の確認、いわゆる生死の確認くらいであったが。
「沢田さん、大丈夫ですか!? 未確認はどうなりましたか?」
「鷹山君・・・ 見ての通りだ。俺達では未確認の奴には勝てない。だが、あいつは・・・ 4号は俺を助けてくれた」
「4号が? それでは4号と5号は何処へ?」
「奴らはあっちの並木道の方へ行った。ここは他の部下達に任せて奴らを追おう」
「ええ、でも沢田さんの体のほうは・・・」
遼一が心配そうに聞くが、沢田は大した事は無い、大丈夫だ、と答えた。
遼一は他の警官達に指示を出すと、沢田と二人で並木道の方へ向かった。
暫く進んで行ったところで二人はシュラとラピスの姿を発見する。
ニ体の未確認生命体は林の中を縦横無尽に跳び回り、激しい戦いを繰り広げていた。
見た感じではシュラの方がやや優勢のようだ。ラピスの攻撃を捌き、避わしつつ、的確に攻撃をヒットさせている。
遼一達二人はシュラの流れる様な攻撃、言うならば蝶の様に舞い、蜂の様に刺す、といった戦いぶりに、暫くの間我を忘れて見入ってしまっていた。

次第にラピスの動きが鈍くなっていく。それもその筈、シュラは最初からラピスの足を狙って攻撃を繰り返していたのだから。勿論それをラピスに気付かれぬ様巧みに狙いを分散させながら。
威力の低い攻撃でも何度も当てられればそのダメージは徐々に蓄積していき、更に自分の攻撃が一向に当たらない苛立ちでラピスの攻撃は見る見るうちに精細を欠いていった。
(やった、狙い通り奴は徐々に焦ってきている。この調子で奴をもう少し疲弊させたら、後は一気に勝負を付ける!)
シュラは腰を深く落とし、体重を乗せた肘打ちをラピスの腹に叩きこむ。更にアッパーカットでラピスの顎を殴り飛ばし、ラピスが仰け反っているうちに間合いを離し、ダッシュして距離を詰め、素早いジャンプキックを食らわせた。
吹き飛ばされたラピスは蓄積されたダメージにより上手く立ちあがる事ができないでいた。それを見たシュラは昨日のフクロウ怪人に必殺のキックを放った時の感覚を思い出し、右手に意識を集中させる。
(これで終わらせる!)
そしてシュラは右手を肩の高さまで振り上げラピスに向かって突進していく。やがてその右手には腕輪のクリスタルを中心に青白い光が宿っていく。
ある程度距離を詰めたところでジャンプ、振り上げた手刀をようやく立ちあがったところのラピスの肩口から斜めに振り下ろした。
振り下ろされた手刀は青い光の筋を描きながらラピスの皮膚を切り裂いていく。シュラはそのままラピスの背後へと走り抜けた。
やがてラピスの胸に描かれた光の筋が消えると、その下からざっくりと裂けた傷口が現れ、そこから大量の鮮血が噴き出された。
「(ば、ばかな、こんな事が・・・)」
ラピスは左手で傷口を抑え、シュラに向かって右手を伸ばしながらよろよろと歩き出す。すると突然傷口を抑えている左手の下、丁度心臓の当たりに光り輝く『終』の文字が浮かび上がった。
「(まだだ、私は、ま・だ・・・)」
浮かび上がった刻印から幾本ものひびの様な光り輝く筋が伸び、それが体の中心、丁度腹の辺りまで達した時、ラピスの腹部は一瞬膨れ上がり、大爆発を巻き起こした。
焼け焦げたラピスの体の破片と思われる物があちらこちらに飛び散っていく。
シュラの脳裏に昨晩のフクロウ怪人の最期の光景がフラッシュバックする。
(そうか・・・ これが『破邪の力』の正体・・・)
木っ端微塵に砕け散ったラピスの最期の姿を見ながら、シュラはそう確信した。
シュラは先程から自分の方を伺っていた沢田と遼一の方へ振り向くと、親指を立てて合図をして見せる。
心なしかその表情は笑っていた様に見えた。
そしてすぐまた向き直ると、林の中へ駆け込み姿を消した。
「あいつは、4号は・・・ 一体何者なんだ」
沢田がそう呟いた。
「仮面、ライダー・・・ いえ、“味方”ですよ・・・」

「(ラピスも死んだか・・・ これで奴の、シュラの実力が偽物ではない事がはっきりしたわけだ)」
廃工場の中で、ラピスの持ってきた酒の缶のプルタブを起こしながらガイムがそう言った。
他の連中も皆持ち主を失った酒を口にしている。
(思ったよりも早く新たな力に目覚めた様だな。ラピスの奴をぶつけておいて正解だったか・・・)
その場に居た未確認達は皆口々に次のゲームの権利を得ようと名乗りをあげる。
だがガイムはそれを諌めるようにしながら口を開いた。
「(まあまて。まずはこの時代の連中の言葉を早く覚える事だ。できるだけゲームをスムーズに進める為にはな)」

啓治は置き去りにされたバイクを取りに戻る為、バスに乗って今朝ラピスと戦った場所へと向かっていた。
(また腹が減ってきたな、帰りがけに何か食べていくかな?)
啓治は車内で頬杖を付き、そんな事を考えながらふと窓の外を見上げた。
時刻は既に午後五時を回っており、空には真っ赤な夕焼けが広がっていた。



仮面ライダーシュラ 第2話『武闘』 完



次回予告

新たに青の力を手に入れ、快進撃を続ける啓治ことシュラ。そんな時啓治の前に仮面ライダーに会いたいと言う一人の少年が現れる。
「仮面ライダーなら、0号をやっつけてくれると思ったから・・・」

啓治は何故自分は戦士になったのか、何故未確認生命体と戦い続けるのか、はっきりした理由を見出せないでいた。
「俺は、仮面ライダーにはなり切れない・・・」

だが、少年を守る為、そして暴挙を続ける未確認生命体を打ち滅ぼす為、啓治は新たに決意を固める。
そしてついに姿を現す四つ目の形態、赤き剛力のシュラ。
「俺は、この戦いを生き抜いてみせる!!」

次回 仮面ライダーシュラ 第3話 『不動』






登場人物+設定紹介


鷹山 響子

遼一の妻で啓治の義姉。国立東京第七病院に勤める医師である。
結婚してから二年ほど経つが、子供はまだない。


御神 奈緒

響子の担当する患者。幼少の頃より病弱で、入退院を繰り返していた。その為親しい友達は殆ど居ない。
病室で知り合った啓治に興味を抱く。



シュラ その2


劇中でガイムが少し触れていたが、シュラの戦闘力は装備した者の筋力、体格、体調、及び精神状態などに大きく左右される。
各形態への変異も精神、いわゆる意思の力が関わっている。
腕輪には装備者の体調を整える機能が備わっているが、精神状態を安定化する機能は備わっていない。
その為空腹、睡眠不足、過剰ストレスなどにより精神が不安定な状態にある時はシュラとしての能力は格段に下がり、時には変身(装身)不能に陥ってしまう事さえある。


 俊敏形態 ライオットフォーム (多彩の青)

緑の形態よりもスピードとジャンプ力に優れた形態。身軽だがその分防御力、攻撃力共に大幅に落ちてしまう。ただし手数の多さと相手の力を利用した戦い方は緑のシュラを上回る強さを見せる。
必殺技は機敏性を活かして手刀で相手の身体を切り裂く“ブルーインパルス”
そしてカノンキックと同様の“ゲイルシュート”
こちらは若干威力に劣るものの、助走距離が短くて済むので使い勝手が良い。



未確認生命体第五号 兎種怪人 ド・ラピス

ウサギ型の怪人に獣身化する自称『脅威のアクロバッター』。緑のシュラ以上のジャンプ力を持ち、攻撃力も決して低くはない。
主に狙った人間を執拗に追い回し、最後には頭上から踏み潰すといった陰湿な殺害方法をとる。
機敏な動きを活かしたヒット&アウェイ戦方を得意とし、一度は青の力に目覚めたばかりのシュラを追い詰めたものの、その後戦い方を確立させた青のシュラによって倒された。
(ジャンプ力といえばバッタ、カエル、ウサギ、ノミなどがあげられますが、格闘能力重視という事でウサギを選択しました)


未確認生命体 黒服の青年 “ガイム”

他の未確認生命体のリーダー的存在であり、ゲームの進行役も務めている。
刃渡り50センチほどの剣を常に携帯している。
(バルバとガドルを足して二で割ったような存在です。
衣装をどう表現していいか判らなかったので単に黒服としたのですが、イメージとしてはエロゲー『恋ようび』『恋愛CHU!』などに出てくる男子制服を黒くしたような感じです。
どんな種の怪人に獣身化するかは・・・ 察してください(笑))


続く
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