ここは、私たちの世界とは全く違う世界。
この世界の空は全て漆黒の重量感を漂わせる雲が覆いつくしている。
太陽の光は遮られ、大地に根付く木々は殆んどが枯れ果てている。
人々は絶望に屈し、その人々を異形の姿をした怪物達が馬車馬のように働かせている。
だが、そんな状況にありながら絶望に屈しない人も存在していた。
一人の少女が誰にも見つからないように隠れながら、それでも一刻も早く目的地に辿り着こうとして廃墟となった市街地を走る。
その手には、それぞれ違う色をした四つの宝玉を大事そうに握り締めている。
走っている途中、集団の足音が聞こえて少女は近くの物陰に素早く身を潜める。
今、自分が持っている物はこの世界を救う唯一の希望。
これが異形の怪物に奪われてしまえば、この世界に未来は無い。
給付に震える体を抑えながら身を潜めていると、近くの大通りを十数体の異形の怪人が慌ただしく走り去って言った。
恐らく自分の持っている宝玉を奪う為に躍起になっているのだろう。
近くに怪人の姿が無いことを確かめながら、少女は再び走り出した。
だが、彼女は気づかなかった…
上空から自分を見ている異形の影の存在に…
その蝙蝠の姿をした異形の影は、口元に邪悪な笑みを浮かべて彼女の様子を見続けた。
仮面ライダーRSL
SPECIAL
「集合/
時空を超えた戦士達!!」
Story of legend that crosses each other
昔はかなりの研究者達が集ったであろう研究所。
今は寂れて、僅かな光量しかなく、すぐにでも崩れてしまいそうな建物の一室。
そこで一人の白衣を着た老人が何かを待っているように研究室の扉を振り返ったり、目の前に立っている巨大なカプセルを見たり部屋をうろついたりと落ち着きが無い。
彼がその行為を繰り返していると、バンッと大きな音を立てて入り口の扉が開けられる。
「来たか!?」
老人が驚いて振り返ると扉を開けた所で少女が息を切らせ、胸に手を当てて呼吸を整えていた。
少女が息を整えるのを待たずに、老人は半分走るようにして彼女に近づいていく。
「アレは!?」
少女は老人の言葉に頷いて答え、両手に抱えている四つの宝玉を差し出した。
赤、青、黄、緑。四つの宝玉は内側にそれぞれ違う色の炎を宿し淡い光を放っている。
その光は全て小さいが確かな力強さを感じさせるものがある。
「よし、これがあればこの時空間転送装置を起動できる!」
そう言って四つの宝玉を受け取ると、老人は部屋の奥にある巨大なカプセルへ駆け寄っていく。
老人は巨大カプセルに近づいていくと、その手前にある四つの窪みがある機器に四つの宝玉をはめ込む。
その後同じ機器に取り付けてあるキーボードを叩き、時空間転送装置と呼んだカプセルへ向けてデータを入力する。
すると、部屋が徐々に明るくなり、その明かりでカプセルの上下から伸びるケーブルが確認できるようになる。
「よし、いいぞ!」
「はい!」
老人が入り口の方に顔を向けて叫ぶと、そこにいた少女が壁にある二つのレバーの一方に手をかけてそれを下げる。
レバーを下げると部屋の隅々に張り巡らされ、中央のカプセルに繋げられたケーブルにエネルギーが行き渡り水が流れるように光りが灯る。
その光がカプセルに届くと、カプセルの表面に何かしらの単語がいくつも浮かび上がり、それに呼応するように四つの宝玉も強く光り輝く。
「エネルギー確執…粒子変換を素粒子レベルまで調整…転送後、物質再構成による質量維持力調整…エネルギー良好。各システム破損無し…完了だ!」
老人がすべての作業を終了させて叫ぶ。
作業の狩猟を見て取った少女は全身の力と、ありったけの思いを込めてもう一つのレバーを下げた。
直後、雷が落ちるように電流が巨大カプセルに流れ込み、激しい放電現象による目映い光が部屋を埋め尽くす。
そして、一際大きな光と爆音が轟く。
暫く重苦しい静寂が部屋を包み込む。
それから時を置かずに空気が漏れるような音がして、カプセルから白い煙が少しずつ漏れだしていた。
「失敗…なのか?」
「そんな…」
これといった変化が起きないことに、老人が呟き、全ての希望が潰えた二人は俯く。
同時に少女が力が抜けたように、掴んでいたレバーからゆっくりと手を離す。
「痛た!?」
「うわっ!?」
「ぐぇっ!?」
「えっ!?」
突然カプセルの中から何かが落ちるような音と、何人かの呻き声が聞こえ、二人は驚いてもう一度カプセルに目を向ける。
すると、カプセルの下半分が少しずつ上に持ち上がり、中から大量の煙が流れ出る。
「ゲホッ…」
「一体なにが」
「…何なんだよコレェ」
カプセルの中から三人の青年が煙を掻き分けながら歩み出て周囲を見渡す。
そして、一緒にカプセルから出てきた三人はお互いの姿と、自分たちを見て動きを止めている老人と少女を見つける。
老人と少女は三人の青年が現れたことに暫く呆然としたが、徐々にその表情が例えようのない喜びのものに変わっていく。
「やっっっっっ……たーーーーーーーーーーー!!!」
「やっぱり私は、天! 才!! ダァ〜〜〜〜!!!」
感極まって叫び、両手を挙げたり走り回ったりしながら喜びを表現する二人を、三人の青年は困惑した表情で眺める。
「何なんだ?」
「さぁ…」
「…ていうか、誰?」
一人が訪ねるのと同時に、激しい爆発音と振動が部屋に響く。
「なんだ!?」
現れた男性三人のうちの一人があたりを見渡しながら叫ぶ。
ほかのメンバーも同じように周りを見渡すが、未だに状況が掴めない。
すると突然部屋の中央あたりの天井が崩れ、そこから人の形をした異形の存在が現れ着地する。
「何だ!?」
「お、お前は…ブラックバット!?」
青年たちの戸惑いの声を遮って、老人が天井から現れた蝙蝠に近い姿の怪人に恐怖を感じながら叫ぶ。
「こちらの自己紹介は要らないようですね。あなた方が我々に抵抗しようとしている人間の残党ですか」
ブラックバットと呼ばれた蝙蝠男は翼の生えた両手を翻して淡々と話す。
そして、ブラックバットが空けた天井から二つの異形の影が飛び降りてきた。
「シュ〜。んな事聞くまでもないだろ蝙蝠」
「さっさとエナジーコアの在処を聞き出して帰るッシャー!!」
遅れてきた蜘蛛と蟷螂の姿をした怪人が口々にブラックバットに言い立てる。
その事にブラックバットはフンと鼻を鳴らした後、老人に向き直る。
「さあ、あなた方が奪ったエナジーコアを返してもらいましょうか?」
そう言ってブラックバットは老人に近づいていく。
相手が歩き出すと同時に老人は後ろに下がっていくが、それは何の意味も持たない。
「シュ〜。逃げても無駄だってんだよ」
「さっさと殺してから探した方が早いッシャー!!」
「それもそうですね」
「う…うぅ」
死刑宣告に近い状況に老人は恐怖に支配され叫び声を揚げることも出来なくなっていた。
「おじいちゃん!!」
祖父の危険に入り口で待機していた少女が叫びながら駆け寄っていく。
だが、その行為は怪人たちの注意を引く愚かな行為であった。
「獲物! 頂きッシャー!!」
「えっ?」
「ルナ!!」
少女の動きに過剰反応した蟷螂怪人は、ご馳走を目にした獣のように飛びかかる。
老人はただ少女の名前を叫ぶことしか出来ずなかった。
「待たんかいコラァ!!」
「なっ!?」
その時起こった事に三怪人と老人、襲われたルナは驚き、目を見開いた。
蟷螂怪人がルナに飛び掛かったと同時に三つの影が跳び蹴りを喰らわして蟷螂怪人を弾き飛ばしたのだ!!
「ぐへぁ!!」
吹き飛ばされた蟷螂怪人は受け身も取れずに地面を転がる。
そして、蟷螂怪人を蹴り飛ばした三人の青年は少女を庇うように身構えながら前に出る。
「何なんだよコイツ等は?」
「分からない…けど」
「女の子を虐める最低野郎だってことは確かだ」
青年達はお互い全く知らないもの同士だが、考えている事は同じだった。
この異形の怪人達は敵だと。
「中々生きの良いのが残っているようですね」
ブラックバットは珍しいものを見たかのように呟く。
「シュー。少し楽しんでから探すか?」
蜘蛛男が楽しげに話すとブラックバットは無言で頷く。
「シャー!! バラバラにするぜぃ!!」
ブラックバットの反応、というより蜘蛛怪人の言葉を聞いた蟷螂怪人はすぐに身を起こして大声で喋る。
「ちょっと下がってて」
怪人達の態度に全く怯みもせず、三人の青年のうちの一人がルナに優しく語りかける。
他の青年二人にも下がるように顔を向けるが、それを知らずに二人はスタスタと前に歩み出て行く。
「危ないから逃げた方が良い…ですよ」
「ふっ。襲われてる女の子を放っておくなんて、男のすることじゃないだろ?」
怪人を目の前にしながらも世間話をする様に話す二人。その事に怪人達は少し苛立っていた。
「まさか我等の恐ろしさを知らない馬鹿がいるとは…」
「ぶっ殺すッシャー!!」
明らかに敵意を剥き出しにしながら怪人達が青年達に向かって歩き出す。
ルナは近づいてくる怪人達に恐怖し、身を固くする。だが、青年達は怪人の姿にあまり恐怖はなかった。
彼らにとっては彼らの姿はそれ程珍しい事ではなくなってしまっていたのだ。
有るのはこれから戦いをするという緊張感。
青年達は歩みを止めて、ゆっくりと構えを取っていった。
人でない者に対抗する為、人でない者に変わる為に…
それぞれが行った動作。
一人は両手をクロスさせて十字架を象るように。
一人は両手を伸ばして流れるような動きでSの字を描き。
一人は両手を伸ばし、空を切るように一挙一動に力を込めて五望星を描く。
一連の動作を終えた後…彼らは……叫ぶ。
『変身!!』
彼等がそれを口にして動作を終えると一瞬光が部屋を包み込む。
そして一瞬の光が消えた時、人の姿から変わった三人の戦士の姿がそこに現れた。
長き迷いの末に他人の為ではなく、己を救う為に人を守る絆の戦士、仮面ライダークルス。
青き鋼鉄の体を持ち、己の記憶を無くしながらも悪を粉砕する戦士、仮面ライダースマッシュ。
宿命に囚われず、愛した者を守る為に運命と戦う邪悪を封滅する戦士、仮面ライダーセル。
「…天使?」
彼等の姿をみたルナは思わず呟いていた。
変身によって生じた光が収まる時、ルナの目には光の名残によって彼等の背に翼が生えたように写ったのだ。
「な!? 貴様等は一体!?」
変身した三人の姿を見たことによって、ブラックバットに初めて動揺を露わにする。
「仮面ライダークルス」
「仮面ライダースマッシュ!」
「仮面ライダーセルだ!!」
名乗りを上げると共に三人はそれぞれのファイティングポーズを取って構えた。
三怪人達は一瞬たじろぐが、すぐに気を引き締めてライダー達を見据える。
「何者かは知りませんが、すぐに片づけて差し上げますよ!!」
「シュ〜。久々に楽しめそうだ!」
「ぶっ殺シャー!!」
言うや否や、三怪人はライダー達に躍りかかっていく!
「ふっ!!」
「!!」
「行くぜ!!」
同じようにライダー達も迎え撃つ為に怪人達に飛び掛かっていった!
お互いが全速力で走り、車が激突するように激しく衝突した時にそれぞれの相手が決まる。
ある組は衝突した後距離を取って互いを敵と認め、ある組はもつれ合って転がり、ある組は互いに腕を掴みその場で力比べとなった。
「シュー! 俺の相手はお前か!!」
「本当に何なんだよ? アンタ等は」
「このポイズン・タランチュラに殺される事を誇りに思って死ね!!」
蜘蛛怪人、ポイズン・タランチュラとクルスは距離を取り話しながら相手の出方を伺う。
そんな中、クルスはポイズン・タランチュラがつらづらと話す事に少し戸惑っていた。
彼が戦ってきた相手は殆どが余りろれつの回らない怪人で、人間と同じように話すポイズン・タランチュラに妙な違和感を感じてしまう。
「シュー! 来ないのならこっちから行くぞ!!」
痺れを切らしたのかポイズン・タランチュラはクルスに向けて口から粘着性の糸を吹き出す。
その糸をクルスは一歩横に移動して難なく交わす。だが次の瞬間、糸を吹き出したままポイズン・タランチュラが一瞬にして距離を詰めてラリアットを仕掛けていた。
「ゴア!?」
咄嗟に腕を盾にして受けたが勢いが強く、耐えることが出来ずに後ろに吹き飛ばされる。
後方に転がりながらも、その勢いを利用して立ち上がりポイズン・タランチュラに目を向けるクルス。
「シュシュシュ!! その程度か? ほれ、攻撃してきたらどうだ? ま、効かないだろうがな!!」
部屋の太い柱に糸を巻き付け、糸の粘着力と足の力で横向きに立ちながら笑うポイズン・タランチュラ。
どうやら柱に糸を巻き付けて、それを吸引する力を使って高速移動の体当たりを仕掛けたようだ。
「くそっ!!」
先制を取られて焦った気持ちを切り替えてクルスはポイズン・タランチュラに向かって駆けだした。
それを見て取ったポイズン・タランチュラは床に降り、クルスに向けて再び糸を吹き出す。
「ハッ!!」
クルスは大きく跳躍して糸をやり過ごし、そのままポイズン・タランチュラの顔面にキックを叩き込む!!
「グエェ!!」
クルスのキックに大きく吹き飛ばされ、床を転がるポイズン・タランチュラ。
壁にぶつかって回転が止まり、起きあがろうとした所をクルスが跳び蹴りを食らわせようとする。
ポイズン・タランチュラはそれを転がってかわし、すぐに起きあがって左右のジャブを繰り出す。
そのジャブをクルスは左右の手で打ち払うと逆に力を込めたストレートパンチを叩き込む!
「ガッ!? カヵ…馬鹿な……この俺が…こんな事」
「フッ!!」
よろけながら呟くポイズン・タランチュラ。そこにクルスが突っ込んで連続して殴りつける。その連続攻撃によろけたポイズン・タランチュラの肩を掴み、その腹に思い切り膝蹴りを叩き込み、最後に顎に鋭いアッパーを喰らわしてポイズン・タランチュラの体を吹き飛ばす。
「グバァ!?」
床に叩き付けられて血と共に呻き声を出すポイズン・タランチュラ。身体的なダメージだけでなく、大きな力の差が彼の思考を混乱させる。
彼はこの世界では仲間内以外で苦渋を味あわされる事など予想もしていなかった。その驕りが大きな差となって現れたのだ。
ポイズン・タランチュラが困惑している間にクルスは左足を半歩後ろに下げ、右手を前に、左手を腰に落とし力を溜める。
その時、彼の足下に一瞬だけ星の輝きのような十文字に似た紋章が浮かび上がり消え、ベルトから第二皮膚にある金色の紋様を伝って光が走り、右足にオレンジ色の炎が宿る。
そして、よろよろと起きあがろうとするポイズン・タランチュラ目掛けて一気に駆け出した。
「ぬぁ!?」
「ハッ!!」
ポイズン・タランチュラが近づいてきているクルスに気付いた時にはすでに遅かった。
クルスは跳躍し大きく錐揉み回転しながらキックを叩き込む!
キックが命中し、大きく吹き飛ぶポイズン・タランチュラ。
その胸にはクルスの足下に浮かんだ紋章と同じ炎を宿した紋章が浮かび上がり、徐々に燃え広がっていく。
炎が広がっていくと共に苦しむポイズン・タランチュラ。そして炎が一際輝いた瞬間、蜘蛛の怪人は爆発四散した。
スマッシュとブラックバットは、激突した衝撃で縺れ合って転がっていた。
「ウオオオオオオオ!!」
「ヌゥ!!」
転がりながら気合の咆哮を上げてスマッシュはブラックバットを蹴り飛ばし、密着状態から抜け出し転がった勢いを利用して立ち上がる。
蹴り飛ばされたブラックバットは空中で身を翻し、両腕から翼を広げて空中に浮かぶ。
「地面にはいつくばっている虫けらに私は倒せませんよ」
「そうかな?」
「そうですよ…キェエーーーーー!!」
返事を返すとブラックバットはスマッシュ目掛けて急降下を仕掛ける。
スマッシュはその突進を腕で防ぎながら、体を捻って衝撃を殺して受け流す。
攻撃を受け流されたブラックバットはヒュウと感心したように口笛を鳴らしながら、部屋の壁を足蹴にして反転しスマッシュに再度突進を仕掛ける。
最初と同じ要領でそれを受け流すが、今度は壁を蹴っていた分勢いがあった為にスマッシュは弾かれて床を転がった。
「フハハハ!! 所詮翼を持たぬ者などこの程度よ!!」
「調子に乗るな! ワイヤーホーン!!」
スマッシュは手と片膝を床についた状態で自分の角をブラックバットに向ける。すると、スマッシュの二本の角がブラックバット目掛けて勢い良く射出された!!
そして、二本の角は余裕を見せていたブラックバットの両腕に突き刺さる。
「何ぃ!?」
その時、突然ブラックバットは体が引っ張られる様に前へ進めなくなる。
ブラックバットは知らない事だが、射出された角は細い糸状のワイヤーで繋がれていて、それが飛行中のブラックバットの動きを止めたのだ。
「ライン・フラッシャー!!」
スマッシュが力を込めるように両腕を頭上で交差させて勢い良く手を腰に落としながら叫ぶ!
すると、額から白い光が放たれ、その破壊エネルギーが繋がっていたワイヤーを伝ってブラックバットの両腕に到達した瞬間爆発を起こす。
「グギャァアアアアアアアアアア!!?」
爆発した腕の痛みに叫びながら地面に激突するブラックバット。
腕は千切れてはいないようだが、それでも腕が焼き焦げていて翼は使用する事は出来なくなっていた。
スマッシュはワイヤーを戻すとブラックバットに向かって走り出す。
ブラックバットも応戦しようと立ち上がり腕を振るうが、力のこもらない攻撃は簡単に避けられる。
攻撃をかわしたスマッシュはブラックバットの首を片手で掴み、もう片方の手で胴体を押してブラックバットを持ち上げる。
「スマッシュ・トルネード!!」
叫びながらブラックバットの体を回転させ、勢いが付くと片手を脇の下に下げて握り拳を作り、ブラックバットの体に思い切りその拳を振り上げて上空へ殴り飛ばす!
「グボ…ァ!」
上空に殴り飛ばされたブラックバットは錐揉み回転しながら口から血を吐き出す。
スマッシュはその後を追うように跳躍しキックを放った!!
キックを突き出す動きに合わせるように白いラインを伝って光が流れ、エネルギーがキックの威力を更に引き上げる。
「スマッシュ・キィイック!!」
「グエエエエエエエエエエエエエエ!!!!」
突き出されたキックがブラックバットに命中し、物質を砕く音が響く。
普段装っていた体裁も忘れ、醜い悲鳴を叫びながらブラックバットは爆発した。
「シャアーーーーーーーーー!!」
「アーーーーームローーーー!! ……なんつって」
組み合って力比べをしている状態にも関わらず、セルは余裕の言葉を述べる。
その瞬間、セルは左腕を引いて蟷螂怪人の体勢を崩す。
「ムゥ!?」
「オラァ!!」
腕を引た事で前のめりに体制を崩した蟷螂怪人にセルは引いた腕を戻す様に拳を叩き込む!
「グェ!?」
「まだまだ行くぜぇ!!」
一撃喰らって怯んだ隙にセルは一撃、二撃、三撃と続けて拳を叩き込んでいく。
「舐めんじゃねぇッシャー!!」
セルの連続攻撃の打ち払い、距離を取ってから蟷螂怪人は怒り狂って叫ぶ。
蟷螂怪人の怒りに呼応するかの様に怪人の肘から先が全て鎌状の物に変化していく。
「オイ!? テメェそれ卑怯じゃねえか? そんなんありか!?」
「シャー!」
セルの慌てる声も意に介さず、蟷螂怪人は鎌に変化した両手を振り上げてセルに襲いかかる。
「おっと!」
滅茶苦茶に振り回される鎌をセルは寸での所で避ける。
避けながらも反撃しようと試みるが、まるで子供の喧嘩の様に腕を振り回す蟷螂怪人の動きには中々踏み込めなかった。
ただ振り回しているだけには違いないが、その振り回す早さが問題なのだ。迂闊に飛び込もうとすればすぐに斬りつけられる。
やむを得ずセルは大きく後方に跳躍して距離を取り一息つく。
「まったく…子供の喧嘩なら刃物使うんじゃねえよ」
思った事を隠そうともせず、むしろ相手に向けて呆れた様に言い放つセル。
その様子に激情した様に蟷螂怪人は両腕を挙げながら突進してくる。
セルは自分のベルトにある宝玉の手前に竹刀を握る様な形で両手を添える。
「ハァアアアアアアアアアアアアア!!!!」
セルが気合いを込めると緑色の宝玉が光を放ってセルの手に集まり、セルは剣道の面を打つ様に両手を振るった。
振るった事で光が弾けると、その手の中には日本刀の様な武器が生み出されていた!
「さぁ、来いよ!!」
「シャー!!」
蟷螂怪人が腕を振るうとセルは具現化した刀で鎌を受け止め、弾き、捌き、斬りつける!!
子供の様に腕を振り回す蟷螂怪人は、徐々にセルに押されて肩口を切り裂かれた。
「ギャァ!?」
自分の体に斬り付けられた事に驚き、一気に後退る蟷螂怪人。
「斬られるのは初めてか?」
その言葉にビクッと体を強張らせる蟷螂怪人。
「少しは狙われる方の身にもなってみろ!!」
そう言って一歩踏み出したセルに蟷螂怪人は恐怖し、叫びながらセルに飛び掛かっていく。
「ハァアアアアア……」
セルは刀を抜刀するかの様に構え、引き抜く様にゆっくり前に出しながら峰の部分を指でなぞる。
すると、触れた部分から刀が緑色の光を宿し、やがて全体に光が行き届くと三日月型の光刃となり、空中に横から縦方向になって止まる。
「激・天・光・陣…封滅刃ァアアアアアアアアアア!!!」
そう叫びながらセルは両腕を握り拳にして光刃を殴りつける様に突き出す。
蟷螂怪人は両腕の鎌を構えて防御したが、鋭利な刃となったエネルギーは防御を無視して蟷螂怪人の体に直撃する。
「グッ!? …ギ!!」
激しい音と共に蟷螂怪人が苦悶の声を挙げ、その鎌もろとも体に封の印字が浮かび上がる。
セルは右手を手刀の形に伸ばし身構える。すると、手刀にした手が緑色の光に包まれ剣の様な鋭さを表す。
「ウォオオラアアアアアアアア!!」
セルはそれを見て取るまでもなく一気に走り出し、鋭い剣と化した右手を蟷螂怪人の光刃の跡をなぞる様に振り下ろす。
緑光の手刀は蟷螂怪人の体を切り裂き、封の印字と重なる様に刃の印字が浮かび上がる。
「シャァ…ア……あ」
蟷螂怪人のうめき声をかき消す様に爆発の轟音が木霊する。
こうして名前を名乗る事もせずに、殺戮に狂った蟷螂怪人は封滅された。
「すごい…」
戦闘が終わり、その一部始終を見ていたルナが呟いた。
異世界から来てもらった戦士達が、あっさりと怪人達を倒したことに驚いて少し呆けているようだ。
三人の戦士達は人間の姿に戻って老人とルナの方に近づいていく。
「ちょっと…話しを聞かせてもらっても良いかな?」
ルナと老人のすぐ目の前に来ると三人の中で一番大人しそうな青年が話しかける。
その事にルナと老人は二人で顔を見合わせてから頷く。
「はい」
「どうして君達は、あの怪人達に襲われていたんだ?」
「それにここは何処なんだ?」
(それに、あいつ等普通に喋ってたしな)
「じゅ…順を追って説明しますね。まず最初に言えるのは、ここはあなた達の世界とは別の世界だと言う事です」
「別の世界?」
ルナの言葉に三人の青年は頭に?マークを浮かべて首を傾げる。
「はい。今この世界はさっきの様な怪人達に支配されているんです」
「ちょっと待ってくれよ。そんな映画みたいな事あるわけないだろ?」
最後に女の子を疑う訳じゃないけど、と言って青年が口を挟む。
「でも、事実なんです」
そう言ったルナの辛そうな表情を見て、話しが嘘偽りではない事を知った三人は黙って話を聞く事にした。
「この世界は元から小規模の戦争が多かったんです。けど、段々戦渦が広がってこの世界全部を巻き込む戦争にまで発展してしまったの。何時しか戦いは手段を問わなくなり、人々は大量破壊兵器だけでなく人造の生体兵器を作るまでになって、あいつ等の様な怪人が生まれて…」
「人の手で作られた生体兵器は大きな戦果を上げ、この世界の兵器の主体となり大量に量産された…が、そこから世界は一変したんだ」
ルナの言葉を繋ぐ様に老人が話し、ルナが頷く。
「怪人達は戦争を行っていく中で疑問を持ち始めたんです」
「疑問?」
「怪人達は、なぜ自分達が人間に従うのかと考えるようになり…人間の為に戦う事をやめて手を組んだんです……怪人同士…人間を支配しようと」
「…」
「怪人達が手を組んでから世界が支配されるのに時間は掛かりませんでした…戦争のほとんどを怪人達に委ねていたから、それが全部敵に回ったから当然かもしれないけど」
自嘲気味に微笑むルナ。
「どこの世界も人間は馬鹿やってるんだな」
「…」
「別に今に始まった事じゃないだろ?」
青年達も内心はやり切れない気持ちで一杯だった。自分達の周辺でさえ争いが多く起こっているのに、他の世界でも自業自得と言える戦渦が起こっているのでは良い気はしない。
「そう言えば、どうしてオレはこの世界に呼ばれたんだ?」
「それは、あの時空間転送装置で来てもらったんです」
そう言ってルナは青年達が出てきたカプセルを指さした。
“時空間転送装置”
これは、自分達のいる世界とは別の時空にある世界との繋がりを作り、自由に行き来することを目的に作られた装置である。
この世界を支配した怪人たちはこの装置と同じ、いや、より高性能なもの作り出し、それを使って別世界を侵略しようと企んでいるのだ。
ただ、この装置を起動させるには特殊な超エネルギーを必要とするため、これまで実用化することができなかったのだ。
ルナ達はその要となるエネルギーの鉱石を命辛々手に入れ、この装置を使って別の世界から青年達を召還した。
「ガシャポンみてーだな」
「よくこんな物を…」
「俺達はSD○士か?」
驚きと呆れが混ざったように話す。
その後、轟音と共に部屋の扉が砕け散った!
「なんだ!?」
全員が驚き扉の方に顔を向ける。そこには頭に巨大な二本角を生やしたクワガタのような怪人が立っていた。
クワガタの怪人はゆっくりと足を上げて、壊した扉の欠片を跨いで部屋に入ってくる。
「エナジーコアを渡せ」
「またかよ」
三体の怪人がを倒した直後だというのに新たな怪人が現れた事に少し動揺しながらも、三人はすぐに変身の為の動作を行う。
ただ、今度は三対一という自分達に有利な状況が三人の青年の思考を楽観的にさせていた。
『変身!』
一瞬、光が部屋を包み三人はそれぞれクルス、スマッシュ、セルの姿に変わる。
その様子を見てもクワガタ怪人はフンッと鼻を鳴らしただけで特に驚いた様子は見せなかった。
「やるか!!」
「フッ!!」
「行くぜ!!」
クルスとセルは一気に駆け出してクワガタ怪人に戦いを挑む。
二人に続かなかったスマッシュは攻撃を仕掛けるタイミングを見計らうつもりのようだ。
クルスとセルはクワガタ怪人の左右から拳を突き出す。クワガタ怪人はそれを左手だけ左右に動かしてあっさり払い除け、裏拳でセルの後頭部を打ち据える。
「くっ!?」
セルは前につんのめり、クワガタ怪人はその間にクルス三、四発拳を叩き込む。
「ぐっ!? 痛ぇ…!」
クルスはそれらを辛うじて腕で受けて防ぐが、相手のパンチ力が大きく防御の上からダメージが響いてくる。
クワガタ怪人は力を込めた拳を大きく振るう。クルスはそれを横に避けて拳を叩き込もうと距離を詰めた。
瞬間クワガタ怪人は体を回転させてクルスの胸目掛けて回し蹴りを放つ!!
「ぐぅ!?」
カウンター気味に攻撃を喰らい大きく吹き飛ばされるクルス。
「くっ!!」
スマッシュは駆けだしてクワガタ怪人に牽制として跳び蹴りを突き出す。
クワガタ怪人はそれを避けようともせず、右腕を楯にしてキックを受け止め、そのまま大きく振るってスマッシュの蹴りを弾き飛ばす!!
「うわぁっ!!」
大きく吹き飛ばされたスマッシュは壁に激突して倒れ込む。
「この野郎!!」
吹き飛ばされたスマッシュと入れ替わりに、体制を整えたセルがすぐにクワガタ怪人の体を殴りつける。だが、セルの攻撃にクワガタ怪人は全く動じていない。
「邪魔だ」
クワガタ怪人は短く言い放ち、肘をセルの顔面に打ち付ける。
大きくよろめいて地面に倒れるセル。
「ぐっ…く」
強い!!
立ち上がりながら三人のライダー達は同じ考えを抱いていた。
このクワガタ怪人は先ほど戦った三怪人と比べ物にならない実力を持っている。
一対一で戦って勝つ事はかなり困難だという事が戦ってみて分かった。下手をしたら三人で戦っても互角に戦えるかも分からない。
三人の思惑を知ってか知らずか、クワガタ怪人はゆっくりと巨大カプセルに向かって歩き出す。
「あそこか」
クワガタ怪人はカプセル手前の機器に填められた四つの宝玉を見つけると一気に駆け出した。
三人のライダー達もクワガタ怪人に立ち向かう為に走り出す。
「いかん!? アレを奪われたら!!」
(くそ! 間に合わない!!)
クルスが歯痒く想った通り、老人が叫んだ時にはクワガタ怪人は機器に収められた宝玉を全て抜き取っていた。
「これで我等のエネルギーが尽きる事は無い」
「ダメェ!!」
クワガタ怪人が笑いながら呟いた瞬間、真横からルナがクワガタ怪人の腕に飛び掛かっていく。どうやらライダー達が戦っている間に少しずつカプセルに近づいていたらしい。
突然腕に体当たりを喰らったクワガタ怪人は手から宝玉を三つほど落としてしまう。
「何だと!?」
クワガタ怪人が不意打ちを喰らって驚いている隙に、ルナは床に転がった宝玉を素早く掻き集めて走り出す。
だが、すぐに平静を取り戻したクワガタ怪人に捕まってしまう。
「小癪な事を!!」
「あぅ!」
クワガタ怪人はそう言いながらルナの首を引っ張り、腕を回して羽交い締めにする。
「ルナ!!」
「くそ!」
「やらせるか!!」
「その子を話しやがれ!!」
怒りを露わにしてライダー達が全速力で駆け寄る。
その様子を一別しながらクワガタ怪人は空いた手を背中に廻してそこから大降りの青龍刀のような武器を取り出した。
「フン!!」
気合いと共に青龍刀を大きく横薙ぎに振り抜くと、刀身から破壊のエネルギー波が打ち出されてライダー達の手前の床を切り裂き、激しい爆発を起こしてライダー達を吹き飛ばす!!
その時、ルナは手に持った宝玉の内三つをクワガタ怪人に気付かれないように部屋の隅に向けて投げつけた。
「うおぁ!!」
「うぁ!!」
「ぐうぅ!!」
吹っ飛ばされ床を転がる三人。その様子を見ながらクワガタ怪人は青龍刀を振ってから背中に仕舞う。
「くっ…」
直撃したわけではないので比較的にダメージが軽く三人はすぐに起きあがってクワガタ怪人に向き直る。
人質を取られた形になるが、ここから通さなければまだ何とかなる。そういった事を考えながらクワガタ怪人と対峙する。
「貴様等と付き合う暇は無い」
「なに?」
クワガタ怪人はそう言い捨てるとルナを羽交い締めにしたまま大きく跳躍し、砕けた天井から部屋を抜け出した。
「しまった!?」
「なっ!?」
「そっちがあったか!!」
クワガタ怪人が抜け出した天井の穴を見上げながら驚く三人。
「ああ、ルナが…」
力無く穴の空いた天井を見上げながら老人が呟く。
その様子を見て三人は悔しさに拳を堅く握りしめる。
(くそ…こんな力を持ってるのに……何も守れやしないのか!!)
「くそ!……?」
自分の力が至らなかった事を悔やんでいると、クルスが部屋の隅に何かが転がっている事に気付く。
「これは…」
変身を解いて近づき、それ等を手に取る。
彼が手にしたそれは、ルナが咄嗟に放り投げた赤、黄、緑の三つの宝玉だった。
「それは、エナジーコア!? なぜここに!?」
彼が手に取った宝玉を見て驚きの声を上げて老人は駆け足で青年に近づく。
「これは?」
「何なんですか?」
「確かあいつ等、これを狙ってなかったか?」
宝玉があるという事に落ち着きを取り戻した老人は青年達に顔を向けて説明を始める。