白いコートの男が指をパチンと鳴らす。次の瞬間、衝撃波が巻き起こり、真正面に立っていた獅堂 凱の身体を大きく吹き飛ばした。
「うおおっ!!」
 容赦なく地面に叩きつけられてしまう獅堂を見下ろし、白いコートの男がニヤリと笑う。
「フフフ……さぁ、早く変身しなよ。そうでないと面白く無いじゃないか」
 白いコートの男にそう言われて獅堂は顔を上げて彼の方を睨み付けた。実力の差は圧倒的だ。変身して仮面ライダーレオになったとしてもその差がどれだけ埋められるかわかったものではない。だが、それでも変身しなければ一分の勝ち目もない。
 獅堂はゆっくりと身を起こすと手に持っていたナイフを地面に突き立てた。そして、やはりゆっくりと立ち上がっていく。ベルトに引っかけているゾディアックガードルを取り出した。それを腰にあてがうとゾディアックガードルの左右からベルトが伸び、固定される。続いて取り出したのはカードリーダーと一枚のカード。そのカードをカードリーダーに挿入する。
『Zodiac Rider System Preparation Start』
 聞こえてくる機械的な合成音。
「変身っ!!」
 そう言って獅堂はゾディアックガードルにカードリーダーを差し込んだ。
『Completion of an Setup Code ”Leo”』
 カードリーダーが差し込まれると同時に機械的な音声が流れ、ゾディアックガードルから光が放たれる。その光は獅堂の前に光の幕を作り出した。そこに輝く獅子座を象った光点。その光の幕に向かって獅堂は駆け出し、そこを通り抜けた彼の姿は仮面ライダーレオへと変わっていた。
 仮面ライダーレオが白いコートの男に向かって突っ込んでいく。
 自分に向かって一直線に突っ込んでくるレオを見ながら白いコートの男は心底楽しそうな笑みを浮かべ、その本当の姿を現していく。白き翼を持つ白馬の怪人、ペガサス怪人へとその姿を変えていく。
「死んで貰うぞ、仮面ライダー!!」
 ペガサス怪人がそう言って背中の翼を広げて宙に舞い上がる。
「ウオオオオッ!!」
 そのペガサス怪人を追ってジャンプするレオ。そのまま右の拳を突き出すが、ペガサス怪人はそれを足の裏で受け止めてしまう。そしてもう片方の足で踏みつけるようにしてレオを攻撃、地面に叩き落とした。
 背中から地面に叩きつけられたレオに向かってペガサス怪人が急降下していく。このままレオを踏み潰そうと言うつもりなのか。その降下スピードは脅威的でいくら仮面ライダーと言えども直撃を喰らえば内臓破裂を免れない程だ。しかし、レオはその攻撃を喰らう寸前に身体を丸めて後転から倒立、地面に猛スピードで激突したペガサス怪人の頭部を両足で挟み込んだ。そのまま身体ごと捻ってペガサス怪人を投げ飛ばす。
 投げ飛ばされたペガサス怪人がすぐに身を起こすが、それよりも早くレオが蹴りを放ってきた。一発目の蹴りは何とか腕でガードしたが、続けて放たれた二発目の蹴りがガードしている腕を弾き飛ばし、三発目、今度は膝がペガサス怪人の顔面に叩き込まれる。たまらず吹っ飛ばされるペガサス怪人。
 それを見たレオは腰のカードホルダーから一枚のカードを取り出した。そのカードを左腕の手甲にあるカードリーダーに通す。
『”Leo Minor” Power In』
 機械的な音声が流れ、レオの前に光のカードが現れる。そこに描かれているのは子獅子座の星座図。そこに向かって右手を突き出すと、光のカードはレオの右手に吸い込まれるようにして消え、代わりに彼の右手が光に包まれた。
「行くぞ!!」
 ようやく起きあがろうとしているペガサス怪人に向かってレオがダッシュする。

仮面ライダーZodiacXU
Episode.12「挫けない輝き―Shine not depressed―」

 光を纏ったレオの右拳が唸りを上げてペガサス怪人に襲いかかる。だが、その一撃をペガサス怪人は左手で受け止めてしまった。
「何っ!?」
「調子に乗るな、仮面ライダー!」
 ペガサス怪人はそう言うとレオの右拳を受け止めている左手をぐるりと回し、レオの右腕を捻り上げた。そこからがら空きになってしまったレオのボディに自らの膝を叩き込んでいく。更に九の字に身体を折り曲げたレオにあいている方の手で裏拳を叩き込み、そこでようやく左手を離してすぐさま前に突きだし、レオを大きく吹っ飛ばした。
 またしても地面に叩きつけられてしまうレオだが、すぐさまその身を起こす。そこにペガサス怪人が突っ込んできた。背の翼を広げて、まるで空中を滑るように移動し、起きあがったばかりのレオの胸に何発もの蹴りを喰らわせていく。
「ぐわぁっ!!」
 吹っ飛ばされたレオの身体が近くに止められていた車の側面に激突し、跳ね返って前のめりに倒れてしまった。
「フフフ……さぁ、もっと楽しませてくれよ」
 倒れているレオに向かってペガサス怪人がそう言いながら近付いてくる。倒れて動けなくなっているレオの頭を掴んで引き起こすと、その腹に強烈なパンチを叩き込んだ。一発、二発、三発と連続で拳を叩き込み、その三発目でレオの身体を大きく上へと吹っ飛ばした。
 更にそれを追ってジャンプする。自らの手で吹っ飛ばしたレオを追い抜くと片足を大きく振り上げ、レオに向かって振り下ろしていく。ペガサス怪人の足がレオの身体に叩き込まれたその瞬間、レオの腕がその足をガシッと掴んだ。
「何っ!?」
 既に意識など失っているものと思っていただけにペガサス怪人はレオの予想外の動きに驚きの声をあげてしまう。
「舐めるな。俺はこれでも仮面ライダーだ!」
 レオはそう言うとペガサス怪人の足を掴んだまま、身体を捻った。
「ウオオッ!!」
 ペガサス怪人を下にするよう身体の位置を入れ替えたレオは、雄叫びと共にペガサス怪人の背にある翼をあいている方の手で掴むとそのまま力任せに引き裂いた。同時に足を掴んでいた手を離し、ペガサス怪人の頭部に蹴りを喰らわせる。
 勢いよく地面に叩きつけられるペガサス怪人。それを見ながら着地したレオだが、すぐに片膝をついてしまった。彼の方のダメージも決して小さくはないのだ。
「くっ……」
「フフフ……楽しませてくれるなぁ」
 倒れたままのペガサス怪人がいきなり笑い出した。驚きのあまり顔を上げるレオの前でペガサス怪人はゆっくりと立ち上がる。その背中では先ほどレオが引き裂いた翼が復元し始めていた。
「だけど、下位のものと同じだと思って貰っては困る」
 完全に復元し終えた翼をはためかせ、ペガサス怪人は未だ片膝をついた状態のレオにニタリとした笑みを向けた。この程度のダメージなどものの数でも無いという感じだ。
 一方、レオの方はすぐにダメージの回復をして見せたペガサス怪人に対し、恐怖の念さえ持ち始めていた。
(何て奴だ……こちらがどれだけのダメージを与えてもすぐに回復する……これでは勝ち目がない)
 だが、それでもレオは立ち上がった。この怪物達を倒せるのは自分だけだと言う使命感が自分を奮い立たせている。心の中に湧き上がる恐怖と絶望を払いのける。
「まだ立つのか……」
「俺は負けない!」
 腰を少しだけ落とし、身構えるレオ。ギュッと拳を固く握りしめる。地面をしっかりと踏みしめる。闘志を燃え上がらせ、ファイティングポーズを取る。
(奴にだって限界はあるはずだ。使えるエネルギーが無くなれば回復は出来なくなるはず。あの翼を修復したことでかなり消費したはずだ……後少し、後少しダメージを与えれば……)
 地面を蹴って走り出すレオ。その姿はさながら獲物を見つけ、一気に襲いかかる猛獣の如く。待ち受けているペガサス怪人の前まで迫り、物凄いパンチのラッシュを浴びせかける。
「フハハハハ!」
 高らかに笑いながらペガサス怪人はレオのパンチの一つ一つを手で払いのけていく。その手の動きは早すぎて見えない程だ。しかしレオもペガサス怪人に反撃させないだけの速さで攻撃を続けている。速さだけで見れば互角だ。
「ハハハハハ! やってくれる! 楽しませてくれる!」
 レオの攻撃をいなしながら更に楽しそうに笑うペガサス怪人。
 パンチだけでは埒があかないと考えたのか、レオは鋭い回し蹴りを放った。素早くしゃがみ込んでペガサス怪人が蹴りをかわす。振り回した足を降ろすと同時にもう片方の足を振り上げて二度目の回し蹴り。今度はバックステップしてレオの蹴り足をかわすペガサス怪人。だが、そこに追いかけるようなレオの三回目の回し蹴りが襲う。
「ぐおっ!」
 流石のペガサス怪人も遂にかわしきれず、レオの蹴りをまともに腹に受けてしまった。二、三歩程よろけながら後退してしまう。
「オオオッ!!」
 そこに雄叫びと共に叩き込まれるレオの右拳。その一撃が綺麗にペガサス怪人の顔面を捕らえ、ペガサス怪人はそのまま地面に転倒してしまう。
 それを見ながらレオはカードホルダーから一枚のカードを取り出し、すかさず左腕の手甲のあるカードリーダーに通した。
『”Andromeda”Power In』
 機械的な音声が流れ、レオの前に光のカードが現れる。そこに描かれているのはアンドロメダ座の星座図。そこに向かってレオが右手を突き出すと、光のカードはレオの右手に吸い込まれるようにして消えていく。
「たぁっ!」
 レオが右手を突き出すとそこから光のチェーンが飛び出した。光のチェーンは一直線に伸びていき、起きあがったばかりのペガサス怪人の左腕に巻き付く。それを見たレオは光のチェーンを掴むと、大きくジャンプした。だがチェーンがある為に途中で止まってしまう。
「ふはは! バカめ! 自分の技で……」
 ペガサス怪人が笑い声を上げるが、それこそがレオの狙いだった。ピンと張ったチェーンを掴んでいる右手で引き寄せると同時に身体を回転させる。そのままペガサス怪人目掛けて落下していくレオ。
「何っ!?」
「ウオオリャアアッ!!」
 回転による威力を増したキックをペガサス怪人に叩き込むレオ。その直撃を受けたペガサス怪人が吹っ飛ばされるのを見て、レオはゾディアックガードルに納められていたカードを引き抜き、前方に投げた。レオの前に現れる光のカード。そこに描かれているのは勿論獅子座の星座図。拳をぎゅっと握りしめながら光のカードを駆け抜け、全身に光を纏わせながら、まるで獅子が獲物に飛びかかるかのように軽くジャンプする。
「喰らえ、”獅子の一撃”!!」
 レオの必殺の一撃がペガサス怪人に襲いかかる。起きあがりかけで体勢の整わないままだったがペガサス怪人はそれでもギリギリの所でレオの拳を自分の手で受け止めた。
「ぐうっ!!」
 歯を思い切り噛み締め、レオの必殺の一撃を押し返そうとするペガサス怪人。レオの拳を掴んでいる手からぶすぶすと煙が上がる。レオの身体が纏っている光が自分の方に流れ込もうとするのをそこで必死に防いでいる為だ。
「こいつ……っ!!」
「ヌオオオオオッ!!」
 更に拳に力を込めるレオだが、ペガサス怪人が雄叫びをあげると同時に後方へと大きく跳ね飛ばされた。地面を何度か転がりながらも何とか体勢を整え、ペガサス怪人の方を見る。
「フ、フフ……なかなかやってくれる」
 笑いながらペガサス怪人は立っていた。だが、その姿に先ほどまでの余裕はない。レオの必殺の一撃を受け止めた衝撃は大きく、受け止めていた手は黒ずんでいた。更に背中の翼もボロボロになってしまっている。
「少し……お前のことを甘く見ていたようだ」
 そう言うペガサス怪人をレオは黙って見つめている。
「次は確実に殺す。今回のように遊びはしない。覚えておくがいい、仮面ライダー」
 ペガサス怪人はそう言って指をパチンと鳴らした。直後、突風が巻き起こり、レオを吹っ飛ばした。またしても地面を転がるレオ。
 突風が収まり、ようやく身を起こしたレオだったが、その前にはもうペガサス怪人の姿はなかった。どうやら先ほどの突風をカモフラージュにして何処かへと行ってしまったらしい。
「……逃げた……いや、見逃して貰ったと言うべきか?」
 一人呟きながら立ち上がるレオ。
「獅堂君!」
「獅堂さん!」
 消えたペガサス怪人のことを考えているレオの元に駆け寄って来た者がいた。彼にとって唯一の仲間である卯月みことと敷島慎司だ。戦闘が終わったことを知り、様子を見にやってきたらしい。
「あいつは?」
「さぁな。何処かへ行った」
 みことの質問に素っ気なく答えながら変身を解くレオ。
「一体どうして?」
「エネルギーが尽きたのか、それとも気まぐれか……前者だと思いたいがな」
 そうでなければ困る、と心の中で続けながら獅堂は歩き出した。だが、先ほどの戦闘でのダメージはかなり大きくすぐにふらついてしまう。
「獅堂君! 敷島君!」
「は、はい!」
 みことに言われてすぐに敷島がふらついている獅堂を支えた。
「大丈夫ですか?」
「……ああ、これくらい、少し休めばすぐに直る」
 不安げな敷島にそう答え、獅堂は彼の肩を借りながら歩き出す。何にせよ休息は必要だ。ダメージの回復、体力の回復、そして戦略の練り直し。その為の時間が必要だ。
「卯月」
「何?」
 いきなり声をかけられ、みことが驚いたように顔を上げた。
「今度の奴は今まで以上の強敵だ。俺は俺で対策を考える。あの小僧達はお前に任せた」
「……わかったわ。敷島君、獅堂君をお願いね」
「はい、わかりました」
 獅堂は獅堂で何か考えることがあるのだろう。そう判断したみことは彼のことを敷島に任せて一人別方向へと歩き出した。約束していたのは夕方だったが、今は非常事態だ。訳を話せば協力してくれるはずだと信じ、みことは携帯電話を取り出す。一応向こうの携帯電話の番号は聞いておいた。今が授業中でないことを祈ってメモリに登録したばかりのその電話番号を呼び出す。

 パチッと目が覚めて一番初めに見えたものは天井だった。ベッドの上に寝かされていたのだから当然ではあるのだが、その天井を見て、つい顔をしかめてしまう。
「……見知らぬ天井……」
 そう呟き、顔を横に向けてみると部屋全体に全く見覚えがないことに気付いた。
「てか、何処だよ、ここは?」
 身体を起こそうとすると全身に激痛が走る。それに耐えて無理矢理身体を起こそうとしたが、どうやら身体は言うことを聞きたくないらしい。よりひどく激痛が全身に走るだけだった。
「〜〜〜〜っ! しゃ、シャレになってねぇぞ、これ……」
 痛みの余り目に涙を浮かべながら全身の力を抜く。それで少し楽になった。じっとしている分には痛みはないらしい。
 仕方がないのでぼんやりと天井を見つめてみる。続けて部屋の中を見回すように顔を左右に倒してみる。部屋の中の調度品には全く見覚えがない。と言うか寝かされているベッド自体自分のものではない。その証拠に何ともいいニオイが漂っている。天気のいい日にはちゃんと干しているようだ。勿論それだけではないのだが。
「……で、何処だ、ここは?」
 改めてそれを考えてみる。動けるのならば立ってこの部屋から出てみればすぐにわかることだろう。だがそうすることが出来ない今は自分の記憶を掘り返すことだけ。だが、それすらも何処かあやふやなのだが。
「……思い出せん……おかしい、痴呆症ではなかったはずなんだが」
 そう呟いて顔をしかめてみた。だからと言ってどうなるものでもないのだが。
 と、そこにドアが開く音が聞こえてきた。そっちの方を向いてみようとしたのだが首だけしか動かせないこの状況ではそれは出来なかった。
「目、醒めたんですね」
 そう言いながら誰かが近寄ってくる。
「大丈夫ですか? まだ痛みます?」
 心配そうにそう声をかけながら覗き込んできた顔を見て、ようやくここがどこだか思い出した。正確には思い出せた。
「悪いね、実は痛みのあまり動けない」
 我ながら情けない、と思いながらも正直にそう言う北川 潤。
 それを聞いた相手が驚きの表情を浮かべる。
「ええ、そんな。手当は完璧だったのに……」
「ああ、いや心配すんなって。もうちょっと休めば動けると思うからさ」
 相手を安心させるようにそう言い、北川はウインクして見せた。
「ところで学校はどうしたんだ? もう始まってるだろ?」
「こんなボロボロの北川さんをおいてなんか行けません。今日はお休みするって電話しておきました」
「……で、あいつらにも電話した?」
「相沢君達ですか? いえ、してませんよ。するなって言ってたじゃないですか」
「それは助かる。あいつらに心配はかけさせたくなかったんでな」
「私ならいいんですか? ずっと心配していたんですよ?」
「いや、感謝してます。本当に助かりました。やっぱり知り合いに保健の先生がいるってのは助かるよ」
「……全く……とりあえず目が覚めたのなら何か食べますよね? ちょっと待っててください。すぐに何か作ってきますから」
「おお、そりゃ助かる」
 北川の返事を聞いて相手は立ち上がり、部屋から出ていった。
 実はここは彼の同居人である相沢一雪、祐名の双子が通う高校の保健医の住んでいるマンションなのだ。昨日、ペガサス怪人にこっぴどくやられた彼が助けを求めたのが彼女なのである。理由は単純、彼女が保健医だったからで他意はない。事実北川を迎えに来た彼女は傷だらけの彼の姿を見て大急ぎで応急手当を施してくれたのだ。更にあんまりよくは覚えていないのだが、どうも病院に行くのは嫌だとか一雪と祐名に連絡するなとか言っていたらしい。その為にわざわざ自分のマンションに運び込んでくれたのだろう。
「さて、と……」
 再び天井に目をやり、北川はこれからどうするかと言うことを考えた。
 身体が動くようになればすぐにここから出ていかなければならない。これ以上彼女に迷惑をかけるわけにもいかないし、一雪や祐名も心配してくれているだろう。同じ寝込むならばとりあえず自分の家でもいい。むしろその方が彼女の手を煩わせないので一層マシだろう。
 その次はあのペガサス怪人だ。今までで一番の強敵だが、奴に勝てなければこの先戦っていくことは出来ないだろう。奴以上の敵がこの先出てくるかも知れないのだ、ここで手間取っている暇はない。
「何とかしねぇとな……」
 ただ単に、今までのような力任せでの戦いでは勝つことは出来ないだろう。何か新しい戦法を考える必要がある。しかし、彼の変身する仮面ライダータウロスはパワータイプだ。力で敵を粉砕するタイプの仮面ライダー、果たしてどう言う戦法が考えられるか。
「……一人じゃ厳しいかもなぁ」
 そう呟いて目を閉じる。脳裏に浮かび上がるのはあの小生意気な若造、獅堂の顔。北川を戦闘の素人と呼ぶ彼と上手く連携して戦えればペガサス怪人と言えどもそう簡単には勝てないはずだ。むしろこちら側が有利に戦えるだろう。だが。
「冗談じゃねぇ」
 あの小生意気な若造と上手く連携など出来るわけがない。その為にこちらが頭を下げるなどもってのほかだ。向こうから頭を下げて来ると言うなら考えないでもないが。それよりも今は身体を治す方が先だ。動けないままと言うのは何とも気分が良くない。それに彼女に迷惑をかけることになる。もう充分以上かけているような気もするのだが。

 バンッと乱暴に病室のドアを閉じ、倉田一馬は廊下を急ぎ足で歩き始めた。
「お待ちください、若!」
 先ほど一馬が閉じたドアが開き、中から医者が出てきて、歩いている一馬に声をかける。だが、一馬の足は止まらない。それを見て医者は慌てた様子で彼を追ってきた。
「まだ完全に回復しておりません! もうしばらくのご休養を!」
「うるさいっ! 俺に命令するなっ!」
 苛立たしげに一馬はそう言うと、医者を睨み付けた。
「し、しかし、その身体で出歩かれては……」
 それでも一馬の身体のことを任されている医者は引き下がらない。彼の不興を買っても、それでも次期K&Kインダストリー総帥候補の身を案じているのだ。
「黙れ。俺の身体だ、俺が一番よくわかっている。これ以上何か言うなら貴様の首を飛ばしてもいいんだぞ」
 一馬の目は本気だった。医者がこれ以上何か言おうものなら本当に彼はこの医者を首にしてしまうだろう。それだけの実権を彼は持っている。それを知っているだけに、医者は押し黙るしかなかった。だが、それでも医者はじっと一馬の方を見る。
 北川と同じくペガサス怪人にこっぴどくやられた一馬の身体はかなりのダメージを負っていた。今彼が動き回れる程に回復しているのは彼が北川よりも先にやられていたからと言うこと、その後優秀なスタッフによる完璧な手当を施されたこと、そして何よりも北川よりもはるかに若いと言うことの三点が理由としてあげられる。しかし、それでも完全に回復しているわけではない。むしろ歩き回れるのが不思議な程だ。本当ならば三日は安静にしておかなければならない程のダメージを彼は負っている。
「……わかった、無茶はしない。これでいいな?」
「ありがとうございます、若。それではお気をつけて」
 じっと自分を見つめる医者に仕方なさそうに一馬がそう言うと、それで安心したのか医者は小さく頷き、そして彼に向かって一礼した。決して納得したわけではないだろう。だが、一馬が一度言いだしたら聞かない性格だと言うことは医者もよく知っている。これが精一杯の譲歩なのだろう。
 医者が廊下の向こうに去っていくのを見て、一馬はため息をついた。彼が自分のことを心配してくれていることはわかる。だが、今はじっとしている場合ではない。やらなければならないことがある。
「黒崎!」
「何でしょうか、若」
 一馬の鋭い声にすぐに反応した声が返ってくる。何時の間に現れたのか一人の黒いスーツを着た男が彼の側に立っていた。一馬の私設秘書の一人、黒崎だ。
「今から特訓だ! あいつは絶対に俺が倒す!」
 そう言って一馬が足早に歩き出した。その後ろに無言で続く黒崎。二人はそのまま病院を後にし、いずこかへと行方をくらますのだった。

 城西大学付属高等学校の近くにある喫茶店でみことは相沢一雪が来るのを待っていた。実際に携帯電話にかけてみたところ、出たのは彼ではなく彼とは双子の祐名の方だったのだが、一応話は伝えてくれると言うのでこうしてこの喫茶店を待ち合わせ場所にして彼が来るのを待っているのだ。
 初めに頼んだコーヒーを飲み干し、お代わりを頼もうかどうか悩んでいると喫茶店の入り口が開いて一人の学生が入ってきたのが見えた。みことは手を挙げてその学生を呼ぼうとして、思わずその手を止めてしまう。入ってきたのは一雪ではなく、祐名の方だったからだ。
 祐名はみことの姿を見つけると、いつになく険しい表情を浮かべながら彼女の側までやってきた。無言のまま会釈すると、やはり無言で椅子に腰を下ろす。
「……彼は?」
「来ません」
「伝えてくれるって言ってなかったっけ?」
「さぁ? 覚えていません」
「すっとぼけてくれちゃって。初めから彼に会わせてくれるつもりはなかったのね?」
「……」
 黙ってじっとみことを見つめる祐名。どうやらそう言うことらしい。あえて何も言わないことでそれを質問の答えとしたようだ。
「あの、祐名ちゃん」
「気軽に呼ばないでください。私はあなたの名前も知りませんし」
「そ、そうだったわね。私は卯月みこと。今後ともよろし……」
「よろしくするつもりはありませんから。それで、一雪に何の用なんですか?」
 とりつく島もない程素っ気のない祐名に内心やりにくいなぁと思いながら、それでもみことは辛うじて笑みを浮かべてみた。
「あの、何か誤解してないかな? 私たちは別に……」
「お話は手短にお願いします。学校に戻らないといけませんので」
 どっちかと言うと敵意むき出しの祐名。前に会った時は彼女が怪我をしていたり、獅堂が怪我をしていたりであまり話すことはなかったのだが、こうも敵意をむき出しにされる理由に覚えはなかった。もしもあるとすれば、おそらくは獅堂の態度であろう。傲岸不遜とも言うべき彼の態度は無駄に人に敵意を抱かせてしまう。それくらいしか思いつかないのだが。
「だったらはっきり言わせて貰うわ。あなたには用はない。用があるのはあなたの双子のお兄さんの方」
「……」
「もっと言わせて貰えば彼が持っているはずのあなた達のお父さんの研究資料に用があるの」
 みことがそう言って祐名の方を伺うようにじっと見つめる。相変わらず彼女の表情からはこちらへの敵意が感じ取れる。一体どうしてこうも敵意を向けてくるのか、全く見当もつかない。
「彼を呼んできてくれる? あなたじゃ話にならないの、悪いけどね」
「……お断りします」
 冷たくそう言い、話は終わりとばかりに祐名が立ち上がった。
「ちょっと!」
 慌ててみことがそう言って立ち上がりかけるが、それを祐名の冷たい視線が遮る。
「あなた達が何をしているのかは知りません。知りたくもありません。ですが以前に助けて貰ったことには感謝しています。あの時あなた方に助けて貰わなかったら私はここにいませんでしたから。もっともそうなればお父さんやお母さんに会えていたかも知れませんが」
 まるで交渉の余地無し、とばかりに祐名が一方的にそう言うのをみことは黙って聞くしかなかった。どうやら彼女は両親が既にこの世にいないと思っているらしい。交渉条件の一つに彼女の両親のことも含まれていたから、その時点で彼女は交渉する気を無くしていたようだ。
「ちょっと待って。あなたね……」
「これ以上私たちを巻き込まないでください! そうでなくても一雪は無茶ばかりするんです! 私は、これ以上一雪が傷つくのを見ていられない! だから! 私たちに関わらないで!!」
 みことが何か言いかけるのを阻止するように祐名はそう言うと、そのまま喫茶店から出て行ってしまった。
 その後ろ姿をみことはただ見送ることしか出来なかった。小さくため息をつき、椅子に腰を下ろし直す。
「……交渉は決裂って事ね」
 ぽつりと呟くと携帯電話を取り出す。メモリの中に登録した彼女の携帯電話の番号を消去しようとして、そしてやめる。何も消してしまう必要はないだろう。少し時間をおいて、またちゃんと話してみればこっちの言うことを聞いてくれるかも知れない。もっともそれだけの時間が今はないのだが。

 カーテンを閉め切った薄暗い部屋の中、上半身裸のその男は椅子に座ってじっと目を閉じている。椅子の周りにはたくさんの灰が落ちており、まるで小さな砂漠のようになっていた。
「……仮面ライダーレオ」
 静かに呟く男。その背中に白い翼が広がった。あちこちに傷のある翼だが、それがゆっくりと回復していくのが見て取れる。
「これほどの屈辱を味わったのは久し振りだ……今度、次に会った時は確実に殺してやる……」
 そう言って男がゆっくりと目を開く。同時にその姿が人間のものからペガサス怪人のものへと変わっていく。その身体にもはやレオと戦った時のダメージはなかった。唯一、引き裂かれた翼だけが未だ回復しきっていなかったが、それでも戦闘に支障はない。
「さて……狩りにでも行くかな」
 再び人間体に戻り、ペガサス怪人はニヤリと笑った。

 とある森の中、頭上の枝から吊した幾本もの木刀、そしてその中央に一馬の姿があった。木刀を下段に構えてじっと目を閉じ静かに佇んでいる。
 どれだけの時間、そのままじっとしていただろうか。いきなり枝から吊されていた木刀が音もなく動きだし、一馬に襲いかかった。
 カッと目を開いた一馬はギリギリのところで向かってきた木刀をかわすと更に別の方向から襲いかかってきた木刀を自らが手にしている木刀で打ち払う。その後も次から次へと襲いかかってくる木刀を時にかわし、時に打ち払い、その全てを叩き落とすと一馬は苛立たしげに持っていた木刀を地面に投げ捨てた。
「違うっ! こんなものではダメだ!!」
「わ、若様!」
 一馬が怒りを露わにしているのを見て、慌てた様子で一人の中年の男が彼の側へと駆けつけてくる。この男は一馬の武術指南役で、かなりの使い手である。空手や柔道のみならずおよそ武術と名の付くものならば何でもこなす達人級の男。そんな彼ですら一馬には頭が上がらない。
「俺が求めているのはこんなものではない! 俺は……」
 そう言って武術指南を睨み付ける一馬。
「一体何をそんなにお怒りになっておられるのですか、若様。そのようなことでは……」
「うるさいっ! 口出しするな!」
 吐き捨てるようにそう言い、一馬は歩き出す。だが、すぐに立ち止まり、武術指南の方を振り返った。
「答えろ、元谷。死の恐怖を乗り越えるにはどうすればいい?」
 その声は先ほどまでの怒りが嘘のように落ち着いたものであった。今は感情にまかせて怒鳴り散らしている場合ではない。自らの身体に、心に刻み込まれた死の恐怖を乗り越えることが出来なければこの先戦っていくことなど出来ない。それがわかっているから、彼はすぐに怒りの感情を抑え込んだのだ。
「……いかなる武術家であろうともそう簡単には出来ることではございません。己が心を幾日、幾年と鍛え抜かねば」
「そのような悠長なことは言ってられん。今日明日にでも乗り越えなければならんのだ」
 質問に答えた武術指南に対し、一馬は苦々しげにそう言った。
「無理とか言うなよ。多少の無茶は承知の上だ。それでも」
「……わかりました。若様がそこまで仰るなら微力ながら力をお貸し致しましょう」
 武術指南はそう言うと一馬についてくるよう促し、歩き出した。無言で先に歩き出した武術指南についていく一馬。
 彼らが向かった先にあったのは小さな洞窟の入り口だった。
「短期間で死の恐怖を乗り越えるにはその恐怖に自ら打ち勝つ以外にありますまい。若様、この中にお入りなさいませ」
「ただの洞窟のように見えるが?」
「この中には様々な仕掛を施してあります。普段ならば蝋燭の一本も持たせて中に入れるのですが、今回それは無し。真の暗闇の中、その罠をかいくぐり出口へと向かっていただきます」
「その程度のことで……」
「中には命に関わる仕掛もございます。心を研ぎ澄まさねば大怪我を致します」
 武術指南が真剣な表情を浮かべてそう言ったので一馬はニヤリと笑みを浮かべてみせた。
「わかった」
「お気をつけて。出口でお待ちしております」
 武術指南がそう言って頭を下げるのを見てから一馬は洞窟の中へと入っていった。すると、その後ろで武術指南がいきなり入り口を塞いでしまうではないか。外からの光を遮断され、洞窟の中があっと言う間に暗闇に浸される。
 全くの暗闇と静寂。流石の一馬もこれには緊張を覚えてしまう。ここから出口までどれだけの距離があるのかわからないが、かなり精神を磨り減らしそうだ。だが、こんな事で根を上げていたら死の恐怖など乗り越えられないだろう。
 意を決して一馬は暗闇と静寂の支配する洞窟内部へと歩を進めていくのであった。

「よっと」
 軽くかけ声をかけながら北川はベッドから飛び起きた。
 この部屋で初めに目を覚ました時のように激痛が身体を襲って動けなくなると言うことはなかったが、それでも全身に痛みが走る。思わず涙が目に浮かぶが、それでも耐えられない程ではない。動けるようになったのならさっさとお暇するべきだろう。
 ベッドの側に綺麗に畳まれてあった自分の服を身につけ、そっと寝室を出ると、リビングルームにあるテーブルの上に突っ伏すように保健医の女性が居眠りしているのが見えた。昨日自分をここに運び込んでくれてからずっと看病してくれていた彼女だ。疲れが出ているのだろう。起こすのも可哀想なので一旦寝室に戻り、そこから毛布を取ってリビングに戻ってくる。彼女を起こさないように注意しながら毛布を掛けてやり、それからいつも持っているメモ帳に「お世話になりました。動けるようになったので帰ります。このお礼は必ず。北川」と書き、そのページを破ってテーブルの上に置いてから、やはり彼女を起こさないように注意しながら彼は部屋から出ていった。
 マンションから外に出ると愛用のバイクが止めてあるであろう場所へ向かって歩き出す。意識を失っていた北川を運ぶのが精一杯だったはずなので、彼のバイクは彼が倒れていた場所に放置されているはずだ。保健医の女性のマンションからは結構距離があるのだが、これもリハビリだと思って痛みを堪えて北川は歩くことにした。それに歩きながら考えたいこともある。
「さてと、あの馬野郎……どうしてくれるかねぇ……」
 まともにぶつかれば勝てるかどうかは怪しい。悔しいことではあるが単純に実力だけを比べれば向こうの方が遙かに上だ。だが、北川言うところの”馬野郎”、ペガサス怪人には妙に自信過剰なところがある。それは実力に劣る彼にとってつけ込むに充分な隙だった。
「見てやがれ、馬野郎……俺にとどめを刺さなかったこと、後悔させてやる」
 何やら我に秘策あり、と言う感じでニヤリと笑う北川。
 だが。
「イテテ……先に身体が回復しねぇとなぁ……」
 一歩歩くごとに身体中に走る痛みに涙を浮かべながら、それでも北川は歩くのであった。

 みことが祐名との話し合いをしていた頃、一馬が洞窟に入っていった頃、北川が痛みに涙を目に溢れさせながら歩いていた頃、敷島を伴った獅堂は郊外にある竹林にいた。
「これでいいんですか?」
「ああ、もう少し下がってくれ」
「は、はい」
 竹林の中でも少し開けた場所で獅堂は敷島に指示を飛ばす。
 二人が何をしているのかというと、獅堂発案の特訓の準備をしているのである。まず獅堂が良くしなりそうな一本の若竹を切り、その枝を全て払った後別の竹に垂直になるように固定する。そして若竹の方を敷島に持たせて思い切りしならせている。勿論敷島が手を離せば若竹は勢いよく元に戻ろうとするだろう。その途中に獅堂は立っており、若竹が真っ直ぐに戻ろうとしているのをジャンプしてかわそうと言うのだ。
「それじゃ行きますよ!」
「ああ」
 敷島が手を離すと同時に若竹が唸りを上げてしなった。とっさにジャンプしようとした獅堂だが、その動きは若竹よりも遙かに遅い。あっさりと腹部を打ち据えられて倒れてしまう。
「くうっ……結構来るな」
 打たれた腹部を手でさすりながら身を起こす獅堂。
「大丈夫ですか、獅堂さん?」
「ああ、心配するな。それよりも次だ。こいつをかわせるようになるまでやるぞ」
 心配そうに声をかけてくる敷島に向かってそう言うと獅堂は立ち上がった。
 再び若竹を大きくしならせる敷島。獅堂が位置に着くと手を離す。勢いよく元に戻っていく若竹にまたしても身体を打たれる獅堂。
 それから何度も同じ事を繰り返す二人。果たしてこの特訓にいかなる意味があると言うのだろうか。少なくても付き合わされている敷島にはわからなかった。

 照明を落とした薄暗い研究室の中で矢野は自分の携帯電話をパソコンに繋いでいた。それからとある番号を打ち込んでいく。それから少しして、モニターに一人の女性の顔が映し出された。
「お久し振りですね、相沢夫人」
『うん、久し振りだね、矢野君。元気だった?』
「こちらは相変わらずですよ。半監禁状態、外出することもままならない。もう慣れましたがね」
『それはこっちも同じだよ。少しくらい外に出て運動したいんだけど』
「そちらはそうもいきますまい。もうしばらくは我慢するしかないでしょう」
『他人事だと思って酷いよ、矢野君』
「いやいや、事実他人事ですし。ところで……」
『ああ、ちょっと待ってて』
 モニターに映る女性が後ろを振り返り、そこにいた男性を呼ぶ。彼はすぐにモニターの前までやってくると女性と交替する。
『盗聴の方は大丈夫か?』
「例のお坊ちゃんがなかなか楽しいシステムを組ませてるが俺に言わせればまだまだだな」
『お前と比べられたら向こうの方が可哀想だろうよ』
 そう言って男性がニヤリと笑う。
 それにつられたわけでもないのだろうが矢野も笑みを浮かべた。男性の笑みは何処か意地の悪そうな笑みだが矢野の笑みは嫌味な程自信に溢れている笑みだ。
『お前の作った例のものの設計図、見せて貰った。流石だな』
「何を言う。基礎設計がしっかりしていたからこそだ。俺はちょっと手を加えただけに過ぎんよ」
『それでもたいしたものだよ。あのままだと装着する奴をかなり選ぶのにお前の改良版だとその欠点が解消されている。量産するにはそっちの方がいい』
「量産したところで全部で十二個が限度だろう?」
『いや……何もゾディアックにこだわることはない。例の石板の解析はあれからもうちょっとは進んでいるからな』
「だがそれだと奴らに対抗出来ないんじゃないか?」
『そこは数で押すしかないな。まぁ、それまでにケリをつけることが出来ればそれが一番いいんだが』
「……今のところあいつ、獅堂だったか? 奴と我らがお坊ちゃん……」
『後一人、俺の親友がやっている。これで辛うじて三人』
「鮫島を失ったのは痛いな。素質の方は獅堂の方が上だがあいつの経験はかなり惜しい」
『俺たちを逃がす為の犠牲になったんだ、彼の為にも』
「ああ、俺は俺でもうちょっと改良出来ないかやってみる。で、あんたはどうするんだ?」
『例の石板の解析が今は最重要課題だな。それと四人目の発掘』
「そのことなんだが……久住の反応がロストした。どうやら追っ手にやられたみたいだ」
『そうか……久住君がな。いい奴だったんだが』
「あのお嬢ちゃんはまだ無事らしいが……上手く現れるかねぇ?」
『現れるさ。あの子には素質のある奴が自然と引き寄せられるようになっている。そう言う星の巡りにな』
「おいおい、随分ロマンチストな発言だな」
『からかうなよ。後は五人目以降の為にガードルの開発も続けないとな』
「部品とかの調達は大丈夫か?」
『ああ、それなら何とか出来る。それよりも例のお坊ちゃんにガードルを渡して大丈夫なのか?』
「何、とんでもない無茶でもしない限り死にはしないだろう。それにあの野心家のお坊ちゃんだ、そうそう自分の命を危険に晒すことはないだろうよ」
 矢野はそこまで言って何かを思いだしたようにニヤリと笑った。
『どうした?』
「いや、ちょっと前に入ってきた情報だがな。もっともハッキングして仕入れた情報だが」
『相変わらずだな』
「外に出してもらえないんでね、そうするしか情報を仕入れることが出来ないんだよ。さて、その情報なんだが……ようやく上位の奴が姿を見せたようだ」
『ほう……ようやくか』
「ああ、ようやくだ。我らがお坊ちゃんは手酷くやられてお怒りのご様子」
『ふふっ、まだまだ若いって事だな。そうなると俺の親友もやられているだろうな。まぁ、あいつはしぶといから死んではいないだろうが』
「随分と信頼しているんだな、その親友とやらを」
『そうでなければ息子達を預けないし、ガードルも渡さないさ』
「後は獅堂が無事なら問題はないって事だな。まぁ、一回ぐらい負けた方がいい経験になるだろう」
『そう言うことだ』
 モニターの中の男性と矢野が互いに笑いあう。
『なんか酷い事言ってるね、二人して』
『そんなことはないさ。なぁ?』
「ええ、そんなことはありませんよ、ご夫人」
 モニターの奥の方から話しかけてきた女性に向かって目配せしながら答える二人。その息はぴったりだ。
『とりあえず気付かれるとやばいからな。今日のところはこの辺にしておくか』
「そうだな。また何か面白い情報が入ったら連絡する。居場所は変えているんだろう?」
『ああ、見つかるわけにはいかないからな。それでは例のお坊ちゃんにもよろしくな』
 最後に互いにニヤリと笑みを交わしあい、矢野は通話の終了ボタンを押した。同時にモニターの電源も落ちたらしく一気に部屋の中が暗くなる。

 獅堂達の特訓は未だに続いていた。しかし、何度やっても獅堂は唸りを上げて元に戻ろうとする若竹をかわすことが出来ないでいる。
「獅堂さん、そろそろ暗くなってきたからやめましょうよ」
 敷島は薄暗くなってきた竹林を見回してそう言うが、獅堂は首を横に振るだけだった。
「何を言っている! まだまだだ!」
「ですけど、暗くなったら見えませんよ!?」
「そっちのほうが好都合だ。敵の攻撃はいつ来るかわからん。見えるとも限らんしな」
 そう言って獅堂は再びポジションに着く。
 仕方なさそうな顔をして若竹を引っ張る敷島。何度も同じ事をやらされていい加減彼も疲れていたのだろう、その手が滑り、合図をするよりも早く若竹がしなった。
 はっと気付いた時にはもう遅い。獅堂の身体を若竹が思い切り打ち据える。
「くっ!」
 打ち据えられた場所は既に何度か打たれた場所。服の下では内出血になっているであろう。そう言うところを思い切り打ち据えられたのだ、流石の獅堂も思わず痛みのあまりにその場に踞ってしまう。
「す、すいません、獅堂さん!」
 慌てて駆け寄ろうとする敷島だが、獅堂はすぐにそれを手で制した。
「……気にするな。これでいい……合図があってからではダメなんだ」
 獅堂はそう言うと痛みを堪えて立ち上がる。
「さっきも言ったが……敵の攻撃は合図があってから来るものじゃない。いつ来るかわからないんだ。そんな基本的なことを俺は忘れていた。敷島、これからは合図は無しだ。放すタイミングもお前に任せる」
「わ、わかりました」
 突き刺さるような獅堂の視線に敷島は頷くしかなかった。

 私立城西大学付属高等学校の裏門。そこに祐名と一雪の姿があった。
「もう真っ暗なんだけど」
「いいから! まだ諦めてないかも知れないじゃない!」
 ちょっと不服そうな一雪に祐名がそう言い返す。
「そもそも何でこんな事をするんだよ? 僕は話をしてもいいと思ってるのに」
「ダメよ。これ以上あんな変なことに巻き込まれたら身体がいくつあっても足りないもん。そうでなくても一雪は無茶ばかりするんだから」
「お姉さんぶるなよな。いつも言ってる通り……」
「わかってる。私と一雪は双子、上下は無し。お互いが兄であり弟であり姉であり妹である。でもね、心配ばかりかけさせるのは一雪のほうじゃない」
「その辺のことは一応反省してるよ」
「口だけじゃなくって態度でも示して欲しいの」
「ん、気をつけるよ」
 本当にわかっているのだろうか、とちょっと不安げに一雪の顔を見る祐名。口で何度言っても彼は誰かが危険な目に遭っていればすぐに我が身を省みずに飛び込んでいくのだろう。そう言う性分なのだ。こればっかりはどうしようもないのだろう。
 二人が並んで裏門から外に出る。駅に行くには少し遠回りだが、今は会いたくない人物が表門の方で待ち伏せている可能性があるから仕方ない。
「ちょっと急ごうか。おじさんも帰ってきてるかも知れないし」
「それもそうだね。でも一体何処に行ってたんだろ?」
「仕事か、それとも……」
「仕事だと思いたいね、僕は」
 そんなことを喋りながら歩いていると、後ろから鋭い視線を感じ、二人は同時に足を止めた。双子らしく揃ってゆっくりと振り返る。
「流石双子。全くタイミングはばっちりね」
 そこにいたのはみことだった。目つきは鋭いが口元には笑みを浮かべていると言うなかなか不可思議な表情を浮かべている。
「裏をかいたつもりなんでしょうけどね。人生経験はこっちの方が長いのよ」
「単に年取ってるだけじゃない」
 みことを睨みながらぽつりと祐名が呟く。
 それを聞いたみことのこめかみ辺りが一瞬ぴくっと動いたのを一雪は見逃さなかったが、あえて何も言わなかった。ここで下手に口を出したら絶対にやばいことになると言う確信があったからだ。
「私たちに関わらないでくださいって言ったと思いましたけど?」
「私が話をしたいのはあなたじゃないって言ったはずよね。言われた通りあなたに関わる気はないわよ。用があるのは一雪君、あなたの方」
「複数形って知ってますか?」
「悪いわね、もう学生だった頃なんて昔のことだから忘れちゃった」
「……年増」
「何よ、ガキ」
 祐名とみことの間で視線がバチバチと火花を飛ばす。
(嫌だなぁ、この空気……)
 出来ることならば今すぐこの場から逃げ出したい。だが、そんなことをしようものなら確実に後で酷い目に遭う。そんな気がする一雪だった。
 しばし睨み合いを続けていた二人だが、いつまで経ってもこの状態では家に帰ることも出来ないと思った祐名の方が先に折れた。ため息をつきつつ、一歩下がったのだ。
「一雪、話があるんだって」
「初めからそうしてくれれば早かったのに」
 苦笑しつつ一雪が前に出る。
「出来る限り手短に終わらせてね。晩ご飯の準備もあるんだから」
 そう祐名が耳元で囁いていくを小さく頷いて答える一雪。それからみことと対峙するように彼女の正面に立つ。
 祐名と違って一雪は穏やかではあるが少し緊張したような表情を浮かべていた。
「朝言っていた話ですよね。お父さんの研究について」
「話が早くて助かるわ。で、何処まで知っているのかしら?」
「何処までって言われても、家から持ち出した資料じゃ大したことはわかりませんでしたよ」
「その資料の中にカードのことが……」
 みことがそこまで言いかけた時だった。突然彼女の鞄がけたたましい音を発し始めたのは。
「な、何!?」
 音に驚いた祐名がみことの方を見ると、彼女は慌てた様子で自分の鞄の中からノートパソコンを取りだしていた。すぐさま開いてみると、モニター部分に地図のようなものが映し出されている。そしてそこに点滅する光。
「嘘!? まさか!?」
 みことが驚きの声をあげると同時に一雪と祐名は本能的に危険を察知したかのように二人揃ってみことに飛びかかっていった。もつれ合うようにして倒れる三人の頭上を何かが飛び越えていく。
「あたた……何よ、いきなり……」
 そう言ってみことが身体を起こす。だが、彼女を押し倒した二人は彼女には全く反応せずにじっと向こうを見つめていた。何事かとみこともそっちの方を向いてみるとそこには一体の怪物がいて、こちらの方をじっと見つめ返しているではないか。そして、その怪物の姿に彼女は見覚えがあった。
「こいつ……獅堂君達が取り逃がした……」
 じっと倒れている三人を見つめているのは以前獅堂と北川が互いの連携の悪さの為に取り逃がしてしまった蚤怪人。例によって感情のない不気味な目で三人を見つめている。
「最悪の事態って感じかしら?」
 今、獅堂が何処にいるのかみことにはわからない。おそらくだが、呼んですぐに来れるような場所ではないだろう。それでも彼女は携帯電話を取り出し、そっと敷島の携帯電話の番号を手探りで打ち込んだ。何故に獅堂本人ではなく敷島なのかというと、獅堂が携帯電話を持っていないからである。
『もしもし、卯月さん?』
 敷島の声が聞こえてくる。
 みことが何か言おうとしたが、それより先に蚤怪人が飛びかかってきた。彼女が手に持っている携帯電話をはたき落とすと、ジロリと感情のない目でみことを睨み付ける。
「これは本格的にやばいかも……」
 地面に叩きつけられて壊れてしまった携帯電話を見下ろしながら、青ざめるみこと。
「このっ!」
 その声と共にいきなり一雪が立ち上がり、蚤怪人に頭から突っ込んでいった。それがあまりにも突然だったので、流石の蚤怪人もかわすことが出来ずに吹っ飛ばされてしまう。
「祐名!!」
「一雪、また!」
「いいから! こう言うのは男の役割だろっ!!」
 一雪はそう言うと持っていた鞄を振り回しながら起き上がろうとしている蚤怪人に向かっていく。
 その様子を見て、みことは初めて祐名が言っていたことの意味を理解した。
「成る程ね……無茶するわ、彼」
「そんなこと言ってないで、あの人呼んでください! 早く!!」
 祐名が言うところのあの人とはおそらく獅堂のことだろう。彼女が知っている仮面ライダーと言えば彼しかいない。しかし、みことは困ったように壊れてしまった携帯電話を指差すしかなかった。
「そうしたいのは山々なんだけどこれじゃあね」
「私の携帯使って」
 そう言って自分の携帯電話を取り出す祐名だったが、そんなところに蚤怪人によって吹っ飛ばされた一雪が突っ込んできた。
「うわああっ!」
「きゃあっ!」
 祐名の手からみことに渡そうとしていた携帯電話がこぼれ落ちる。ガシャッと言う音と共に二つ折りの携帯電話が、丁度折れ目から真っ二つになってしまう。
「あいたた……」
 倒れていた一雪が身体を起こすと、彼の目の前で祐名とみことが硬直しているのが目に入ってきた。
「えっと……どうしたの?」
 恐る恐る声をかけてみるが、二人は壊れた携帯電話を注視したまま反応しない。
 そんなところに向かって蚤怪人がジャンプしてきた。
「くそっ!!」
 二人は蚤怪人の動きに全く気付いていない。対応出来るのは自分だけだと一雪が鞄を前に突き出しながら蚤怪人に突っ込んでいった。
 蚤怪人は一雪が突き出してきた鞄の上に一旦足を降ろすと、そこから後方へともう一度ジャンプした。その反動で彼を大きく吹っ飛ばしながら。
「うわああっ!!」
 またしても吹っ飛ばされ、地面を転がる一雪。その勢いはなかなか止まらず、そのまま学校の敷地を取り囲んでいる塀にぶつかってしまう。
 その時になってようやく祐名とみことが我に返った。慌てた様子で塀にぶつかってぐったりとなっている一雪の側に駆け寄っていく。
「一雪! ちょっと! しっかりして!」
 祐名が声をかけても一雪は気を失ってしまっているのか全く反応しない。
 蚤怪人はそんな三人の様子を見て、ゆっくりと近付いてきた。如何なる抵抗をしようと無駄だと言うことがわかっただろう。後は順番に生体エネルギーを奪えばいい。もはや逃げられることはないのだ。
 みことはこちらにゆっくりと近付いてくる蚤怪人を睨み付けながら、何とか出来ないかと必死で模索していた。獅堂達はこちらの異変を知り、急ぎこの場へと向かってきているはずだ。彼らが到着するまでの時間を稼げればいい。問題はそれがいつぐらいなるかがわからないと言うことだが。
「……あなたは彼を連れて逃げなさい」
「ど、どうする気なんですか?」
「私が囮になって奴を引きつける。獅堂君達はこっちに向かっているはずだから、私が時間を稼げればきっと助けてくれるはずよ」
「で、でもそれじゃあなたが!?」
「心配してくれるの? 大丈夫よ、そう簡単にやられるつもりはないから」
 みことはそう言って立ち上がった。気を失っている一雪と彼を起こそうとしている祐名を背にかばうように。そして、蚤怪人をしっかりと睨み据えて叫ぶ。
「ほらほら! 捕まえてみなさいよ!」
 叫ぶと同時にみことは走り出した。
 一瞬キョトンとなる蚤怪人だが、すぐに走り出したみことを追いかけるようにジャンプする。一回のジャンプで軽々とみことを飛び越え、その前に降り立った。ゆっくりと、彼女の恐怖を煽るかのように振り返っていく。
「あ、あら……?」
 みことが少し間抜けな声をあげる。どうやら蚤怪人のジャンプ力を少し侮っていたようだ。まさかたった一回のジャンプであっさりと追い越されてしまうとは思っていなかったらしい。これでは囮になった意味が台無しではないか。
 そんなみことの戸惑いやら後悔やらを無視して蚤怪人が少しずつみことに近付いていく。今度と言う今度こそ逃げても無駄だと言うことがわかったはずだ。これでようやく大人しくなることだろう。細いストロー状の口をみことに向けながら一歩、また一歩とみことに歩み寄っていく。
 と、その時だった。まばゆい光が蚤怪人を照らし出したのは。
 その光の余りものまぶしさに蚤怪人が思わず目を覆ってしまう。
『Zodiac Rider System Preparation Start』
 聞こえてくる機械的な合成音。
「変身っ!!」
『Completion of an Setup Code ”Taurus”』
 思わず振り返ったみことが見たものは今まさに光のカードをくぐってその姿を現した仮面ライダータウロスの姿であった。
 ポキポキと指を鳴らしながらタウロスは蚤怪人の方へと歩み寄っていく。
「三度目の正直って奴だ。次はねぇぜ」
 タウロスはそう言うと、背中に装着されているタウロスアックスを取りだした。
(正直体調は完璧じゃねぇが……こいつぐらい倒せなきゃあ、あの馬野郎には到底かなわねぇだろうしな)
 構えた大斧の柄をギュッと固く握りしめ、タウロスがまた一歩前に踏み出す。と、いきなりタウロスがバランスを崩したようによろけてしまう。まだ彼の身体は完全に回復したわけではないようだ。
 よろけたタウロスを見た蚤怪人がチャンスと思ったのかジャンプして突っ込んできた。実際のところ蚤怪人はタウロスがペガサス怪人に叩きのめされるところを見ている。だからタウロスがかなりのダメージを受けていると言うことも知っている。先ほどよろけたのはその時のダメージがまだ残っているからだ。そう判断したのだろう。
「そう来ると思ったぜ」
 よろけた足をさっと踏ん張り、タウロスは突っ込んでくる蚤怪人に向かってタウロスアックスを振りかぶった。どうやらよろけたのは相手を誘い込む為の演技だったらしい。思い切り振りかぶったタウロスアックスを蚤怪人に向かって叩き込んでいく。
 タウロスの全力で叩きつけられたタウロスアックスが蚤怪人の身体を真っ二つにする。継いで起こる爆発が二つ。真っ二つにされた上半身とか半身が同時に爆発したのだ。
 爆発が収まると、そこには小さな水晶玉が残されていた。黙ってその水晶玉を拾い上げるタウロス。
「これで三つ目か……」
 水晶玉を見ながらそう呟くタウロス。それから呆然とした様子でこちらを見ているみこと達の方を振り返った。
「おい、あの野郎に伝えておけ。一人で無茶するんじゃねぇってな」
「ど、どう言う……」
「もう会ってんだろ、あの馬野郎に。あいつを倒すにゃ俺一人の力じゃ無理だ。勿論あいつの力だけでもな」
 そう言われてみことは獅堂が、仮面ライダーレオが翻弄され、大苦戦をしたペガサス怪人のことを思いだした。何とか退けたものの獅堂は相手の強大な力にかなりのショックを受けていたようだ。だからこそ特訓を思いついたのだろう。
 そしてあのペガサス怪人は目の前にいる仮面ライダータウロスとも既に戦っている。タウロスもペガサス怪人にはこっぴどくやられてしまっていたのだろう。その上でペガサス怪人を倒すには協力して当たるしかないと判断したのか。
「一緒に戦ってくれるの?」
「さぁな。ただ、あの馬野郎には俺も借りがある。勝手なことはするなって事だ」
 タウロスはそれだけ言うとその場にみこと達を残して歩き出した。変身を解かないのはその場に一雪や祐名がいるからだろう。
 夕闇の中に消えていくタウロスの後ろ姿。
 みことは無言でその後ろ姿を見送っているのだった。

This Story was Completed!
To be Continues Next Episode!

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