都内にあるとある大手出版社のビルの8階にある編集部。
エレベータから降りた北川 潤は真っ直ぐにそこに向かうと顔なじみの受付嬢にウインクしてみせた。
「よっ、編集長いる?」
「会議室にいると思いますよ。さっきから北川さんが来るの、ずっと待ってましたから」
「おう、そりゃ悪い事したな。ちょっと野暮用があって遅れたんだけど」
「早く行ってあげた方がいいと思いますよ」
「サンキュ、そうするよ。ところでこの間のことだけど覚えてる?」
「お食事の話ですか?」
「そうそう。この間いい店見つけてね。味はいいし、値段もそこそこ……」
「北川ちゃん、何やってるの!!」
受付のところで受付嬢と笑顔で話している北川の声を聞きつけたらしい編集長が会議室から顔を覗かせて彼を呼ぶ。
「早く早く、こっち来て!!」
そう言って北川を手招きする編集長。
「ん〜、呼ばれたからには仕方ないか。それじゃ、また後でな」
受付嬢に向かって投げキッスをしながら会議室へと歩いていく北川。
会議室に入ると編集長は慌てた様子で北川を座らせ、ドアを閉めるとそのドアの鍵をかけた。それから外に面している窓のブラインドを閉め、ようやく北川の正面に座る。
「どうしたの、編集長。随分と厳重に」
「これでも足りないくらいだっての。北川ちゃん、やっぱりやばいことに首突っ込んでるじゃない」
編集長はそう言ってからテーブルの上に伏せていたメモ帳を手に取った。
「北川ちゃん、K&Kインダストリー社って知ってる?」
「聞いたことぐらいはあるよ。確か外資系と日本の何処かの企業が合併して出来たって会社だろ。まぁ、色々と黒い噂も聞いたりしちゃってたりするけど」
「そうそう。いわゆる死の商人って奴。日本じゃともかく海外じゃ色々やってるって噂」
「で、そのK&Kインダストリーってのが例の研究所の?」
北川の質問に黙って頷く編集長。
何やらきな臭い話になってきた、と思いながら北川は黙り込む。
あの研究所では一体何が研究されていたのか。その成果の一つが、あのゾディアックガードルであるのは間違いない。だが、あの研究所は死の商人とも噂されるK&Kインダストリー社のもの。もしかしたらゾディアックガードルと言うのは軍事目的で開発されたものなのかも知れない。たまたまあんな怪物が出たから、それを使って戦っているだけなのかも知れない。しかし、あの研究所が壊滅してしまった今では真相は闇の中、だ。あそこの生き残りがいるならば少しは事情がわかりそうなものだが。
と、そこで北川はあの研究所の生き残りっぽい連中のことを思いだした。あいつらならば何か知っているかも。そう思うと、こんな所でのんびりしている場合ではない。すぐにでもあの連中を探しに行かなければ。
「助かったよ、編集長。あんたはこの件から手を引いてくれて構わない。後は自分で何とかするさ」
そう言って立ち上がる北川。編集長が何か言っているのを無視してそのまま会議室から出るとすぐにエレベータに乗り地下駐車場へと向かう。

北川がビルから出ていったのと同じ頃、一台の高級車が郊外にある病院のような建物に辿り着いていた。建物の裏にある搬入口の方に回った高級車がそこで停止すると、中からは高級車の到着を待っていたかのように数人の白衣を来たスタッフがストレッチャーを押しながら出てくる。
彼らは高級車の後部座席に座らされている男を中から慎重に引っ張り出すと、すぐさまストレッチャーの上に寝かせてベルトで彼の身体を固定した。
「彼の扱いは慎重にな」
反対側のドアから降りてきた青年がそう言うと、白衣のスタッフ達は皆一様に頷いた。そして、彼の指示を待たずにストレッチャーを押しながら建物の中に入っていく。
ストレッチャーを押して中に入っていった連中と入れ違いに一人の男が外に出てきた。先程のスタッフ達と同じように白衣を来たひどく痩せた男。その男は高級車の前に立っている青年を見ると卑屈そうな笑みを浮かべてみせた。
「これはこれは、若様。御機嫌麗しゅうございますかな?」
青年はそう言って近付いてくる白衣の男を一瞥すると、高級車を運転していた黒服の男を伴って歩き出した。まるで白衣の男などいなかったかのように。だが、そんな事をまったく気にすることなく白衣の男は青年達について歩き出す。
「あの男が例の研究所の生き残り、つまりは仮面ライダーの一人と言うことでしたな。研究対象としてはとても面白い素材でございますが」
白衣の男が前を歩く青年達に聞こえるように口を開く。勿論青年は白衣の男の言葉を聞き流しているし、相手にするつもりもない。それは白衣の男も心得ているのか、全然気にせずに言葉を続けていく。
「あの研究所の連中が一体どれだけの成果を上げていたのかを調査するまたとない機会でしょうな。その機会を与えてくださった若様には感謝の言葉を尽くしても尽くしきれないでしょう」
少し芝居がかったような感じで白衣の男がそう言うのを、青年のやや後方をアタッシュケースを持って歩いていた黒服の男が忌々しげに見る。彼はこの白衣の男が余り好きではない。何と言っても饒舌すぎる。少しは沈黙すると言うことを覚えたらどうなのだろうか、と思うほど。それにあの媚びへつらうような笑顔も気に入らない。元々相性が悪いのだろう。こいつといると苛立って仕方がない。
先を歩く青年は黒服が気分を害していることなどまったく知らないと言う感じで、黙って歩き続けていた。やがて目的地に着いたのか、青年が足を止める。それからちらりと白衣の男の方を見やった。
視線だけで、開けろ、と言っているのがわかったのか白衣の男が慌てて前に出てきてドアの電子ロックを外す。
「どうぞ、若様」
恭しく頭を下げながら白衣の男が言い、青年が一つ頷いて中に入っていく。彼に続いて黒服が中に入り、最後に白衣の男が中に入る。白衣の男の後ろでドアが自動的に閉まり、同時に部屋の照明が中を照らし出した。
中は様々な機械が乱雑に置かれてあり、とても綺麗とは言えなかった。だが、それをまったく気にすることなく白衣の男は奥へと進んでいき、その後に青年と黒服が続いていく。
「いやはや、この様なところへようこそ、若様」
この部屋の一番奥に辿り着いた白衣の男が振り返ってそう言い、また青年に向かって頭を下げた。白衣の男が背にしている壁には何やら大量の紙が貼り付けられてある。その紙には全て何かの公式のようなものがびっしりと書き込まれていた。まぁ、そんな事はまったく関係のないことだが。
「おべっかなどかまわん。お前の研究成果を教えろ」
冷たい口調で青年が言う。
「研究成果、ですか。まぁ、この程度ですが」
そう言って白衣の男がデスクの上に置いてあったベルト状のものを手に取った。ゾディアックガードルによく似たものだが、全体的に偽物感が漂っている。
「やはり実物がないとダメですな。資料が少なすぎます」
自分でもその出来を気に入っていないのだろう、白衣の男がため息をつきながら言う。
青年は白衣の男の手からそのベルト状のものを取り上げ、しばらくの間眺めていたが、やがて興味を失ったかのようにそれをポンと投げ出した。そして指をパチンと鳴らす。
自分の、気に入っていないとは言え、作品を無造作に投げ出され慌てる白衣の男をよそに黒服の男が持っていたアタッシュケースを開いてみせた。その中に入っている物を見た白衣の男が目を輝かせる。
「そ、それは!」
「本物だ。これを直ちに解析してこれと同じ、いや、もっと凄いものを作れ。期間は1週間。いいな?」
青年は有無を言わせない口調でそう言うと、白衣の男に背を向けた。
「い、1週間!? それでは……」
「口答えは許さん。泣き言もな。出来なければお前の居場所はない。そう思え」
白衣の男に背を向けたまま容赦無くそう言い放ち、青年が歩き出す。
黒服の男はアタッシュケースを閉じると無言のままそれをデスクの上に置き、青年の後を追うようにその部屋から出ていった。
残されたのは白衣の男一人。その表情には情けないものが浮かんでいたが、デスクの上に置かれたアタッシュケースを見ると、彼はニヤリと笑った。
「やってやる……やってやるさ。あのような若僧にこれ以上大きな顔をされてたまるか」
呟くようにそう言い、白衣の男はアタッシュケースを開け、中に納められていたゾディアックガードルを取り出すのであった。

仮面ライダーZodiacXU
Episode.06「消えた獅子―Disappearance of Leo―」

「かっずゆっきく〜〜ん」
教室に入るなり気味が悪いほど明るい声で天海 守が声をかけてきたので、相沢一雪は露骨に嫌な顔をしてみせた。彼がこうやって声をかけてくる時はだいたい何かを頼んでくる時だ。宿題見せろだのノートを写させろだの、そう言うパターンがほとんどだ。
「何だよ、天海」
自分の机の上に鞄を置きながら一雪が答えると天海は彼の方にすり寄ってきた。
「今日なぁ、英語の授業俺当たる日なんだよなぁ」
「ああ、そうだね。でもまぁ、予習、とまでは言わないけど授業ちゃんと聞いていれば大丈夫だろ」
素っ気なく言う一雪。だいたい何を頼みたいかわかったような気がした。しかしながら自分もあまり英語は得意な方ではない。頼むならもっと別の人間にしてくれ。そう言う意味も込めて素っ気ない態度を取ったつもりなのだが。
「そんなもの、俺がちゃんと聞いているわけ無いだろ!」
どうやら一雪の思いは彼には通じなかったようだ。逆に胸を張ってそう答えられてしまう始末である。
「自慢するような話じゃないだろ、それって」
「まぁまぁ、その辺はおいておいて、だな」
「おいちゃダメだと思う」
「気にするなって、相棒!!」
「誰が相棒だよ……」
バンバン肩を叩いてくる天海に一雪はまだ学校に来たばかりだと言うのに物凄い疲れを感じていた。
「で、結局何? どうして欲しいの?」
これ以上何を言っても無駄だと思ったのか、少し諦めの入った表情で言う一雪。
「おお、流石は親友!! おそらく今日はこの辺からこの辺が出ると思うのでその辺をバッチリ訳して頂ければ……」
先に用意していたらしい英語の教科書を出し、目的のページをさっと開いて書かれている英文を指でなぞる天海。何だかんだ言って一雪はお人好しだ。頼まれて嫌と言えるような性格ではない。まぁ、多少意地の悪いところもあるが、それでも基本的にお人好しの彼だから頼めばきっと教えてくれるはずだ。そう判断していたのだろう。
やれやれと言った感じで肩を竦めながら一雪も鞄から英語の教科書とノートを取り出す。確かこの辺りは訳しておいたはずだ。そう思ってノートを開こうとした時、バンッと誰かが一雪の机の上に強烈な勢いで手をついてきた。顔を上げるとそこには同じクラスの白鳥真白が立っている。
「何をなさっているんですか、天海君?」
「ゲゲッ、出たな、偽物お嬢様」
じっと自分を笑顔で見つめている真白を見て、天海は露骨に嫌な顔をして見せた。もっとも真白の浮かべている笑顔もかなり引きつったような感じの笑顔、いわゆる怖い笑顔なのだが。
「誰が偽物ですか、誰が。我が白鳥家は由緒正しい名家です。その辺のこと、まだ理解出来ないんですか、このお猿さんは」
明らかにムッとした顔になる真白だったが、すぐにまたあの怖い笑顔を浮かべて天海を見ながら言う。
「まぁ、英文を訳することも出来ないお猿さんだから仕方ありませんか」
「ぬわっ! 誰が猿じゃい!!」
「そんな大きな声を出さなくても聞こえていますわ。だから粗暴な人って嫌ですわ」
心底呆れたように言う真白を見て、天海は余計に怒りを募らせてしまう。彼にとってこのお嬢様気取りの少女は天敵だった。今日みたいに向こうから突っかかってくることもあれば、彼の方から戦端を開くこともある。まぁ、口で彼が勝った例は一度もないのだが。流石に手をあげるわけにもいかず、天海の限界が近くなったら一雪や他の誰かが止めにはいるのが常であった。
「ぬううっ、この似非お嬢様め! 今日こそ決着をつけてやる!!」
「あら、今まで一度でも勝った事ってありましたっけ?」
怒りに燃える天海に対し、それを更に煽る真白。その二人の側にいた一雪は、また始まったと言うような表情を浮かべて立ち上がった。そろそろ止めた方がいいと判断したのだ。でないとこちらまで被害が及んでくる。
「まぁまぁ、天海も白鳥さんもその辺でやめにしておこうよ」
「一雪は黙っていてくれ! これは俺とこの似非お嬢との問題だ!!」
「そうですわ! あなたは黙っていて貰えますこと!」
互いに睨み合いながら天海と真白がそう言って一雪を黙らせる。
二人の間ではまるで見えない火花が散っているようだ。その迫力に一雪はすごすごと引き下がるしかない。少々情けなくはあったが、彼だって自分の身が大事だ。一応やるだけのことはやったつもりだし。そう思ってまたイスに腰を下ろす。
二人はまだ睨み合っている。と、その片方である天海に後ろに誰かが現れたかと思うと、いきなり彼の耳を思い切り引っ張った。
「イテテテテッ!! こ、こら、何をするんだ華子!!」
「五月蠅いっ!! いいからこっち来い!!」
そう言ってその少女、初野華子は天海の耳を引っ張った状態で彼を連れて向こうに去っていく。華子は天海と幼馴染みだ。それだけの彼の扱い方をよく心得ている。と言うか、見事なまでに彼を尻に敷いている。何か色々とあるらしく天海も彼女にはあまり逆らえないらしい。
「流石は委員長」
連れ去られていく天海を見送りながら一雪が呟くと、その場に残っていた真白がまた机をバンと叩いた。ビクッと身体を震わせて彼女の顔を見ると何故か物凄く不機嫌そうに彼女は一雪を見下ろしている。
「お人好しにも程がありますわ、あなたは。ああ言う輩は甘やかしてはいけません。それは決してあなたの為にはなりませんことよ」
「で、でもまぁ、あいつとは友達だし」
「だったら余計に、ですわ。下手な情けはあの方にとってもよろしくありません。それに何よりあの方は自分でなすべき事をなしてないんですからお叱りを受けて当然です」
「でもね、白鳥さん」
「でももストもありません! あなたは少し甘すぎます! そんな事で渡っていけるほど、今のご時世、甘くはありませんわよ!」
それだけ言うと満足したのか真白は自分の席の方へと去っていく。
その後ろ姿を呆然と見ていることしか出来ない一雪。彼女の言うことはそれはそれで正しいのだろうと思うのだが、どうしてああも僕に食って掛かるのだろう。一体僕が何をしたって言うんだ。何が気に入らないのやら。
「はぁぁぁ……」
何かまだ来たばかりだと言うのにどっと疲れた気のする一雪であった。

午前中一杯かけて書きかけの原稿を仕上げた北川はそのフロッピーをケースに入れてから大きく伸びをした。今時フロッピーはないだろうと自分でも思うし、相手側にも言われたことが何度もあるのだが、何となく彼はフロッピーが気に入っていた。だからかたくなに使い続けているのだが、それもそろそろ限界だろう。新しい媒体を見つけるべきだ、と思う。だが、何がいいのかいまいちわからない。今度誰か詳しい奴に聞いてみようと思いながらイスから立ち上がった。
リビングダイニングにあるテーブルの上には同居人である相沢祐名が作っておいてくれた昼食が載せられていた。双子の片割れである一雪と違い、彼女はかなり早起きな方だ。それは彼女がいつも朝食の準備をしていることからも解る。余裕のある時はこうやって昼食の準備もやってくれているのだから北川としてはありがたいことこの上ない。一人暮らしをしていた頃に比べれば食生活の充実ぶりは格段に上がっている。
「祐名様々だねぇ……これでもうちょっと落ち着きがあれば完璧なんだろうけど」
用意してあった昼食に箸を付けながら呟く北川。
一見完璧に見える祐名だったが、少しそそっかしいところがある。後先考えずに怪物の前に飛び出したり、慌てていたりすると何もないところで転んだり。今日もちょっと慌てていたのか、微妙に用意されていた料理の塩加減がおかしかった。多分調子に乗って作っていたら時間が無くなってしまったのだろう。はっきり言って辛い。食べられないほどでもないが。
「ま、作っておいて貰って贅沢は言えねぇわな」
昼食を終えた北川は使った食器を流しのシンクにつけておくと、外出する準備を始めた。
先日はまったく見つけることが出来なかったが、今日こそはあの3人組を見つけなければならない。交渉の材料となる物は彼が持つゾディアックガードルとこの前倒したゴリラのような異形の残した水晶玉。特にあの3人組は水晶玉を集めていたようだから充分交渉する材料になりうるだろう。
「さてと、いくか」
あの3人組の一人、獅堂という男がしていたのと同じようにゾディアックガードルを腰のベルトに下げ、その上から革のジャンパーを着る。もし、外に出ている時にあの怪物に出会ったりしたらすぐに自分が戦えるように準備と心構えだけはやっておく。
マンションを後にした北川は愛用の大型バイクを駆り、都心部へと向かうのだった。

先日、ゴリラのような異形が暴れ回った下町地区に北川の探している3人組の黒いバンがあった。だが、今日は中には2人しかいない。
「いないわね、獅堂君」
助手席から外を見回しながら卯月みことが呟く。
「一体何処に行っちゃったんでしょう?」
ハンドルを握っている敷島慎司がやはりみことと同じように周囲に目を配りながら言った。どうやら二人して誰かを捜しているらしい。
二人が捜しているのは先日の戦い以来姿を消してしまっている獅堂 凱だった。彼は先日のゴリラのような異形との戦いの後からまったく姿を見せていない。完全に行方不明になってしまっているのだ。ただ行方不明なだけならまだいいのだが、彼ははっきり言って重傷の身だ。何処かで倒れているのかも知れない。更に傷を負って命が危ないのかも知れないのだ。一刻も早く彼を見つけださなければならない。
「とりあえずあの怪物は倒したみたいだからいいんだけど……」
「こんな時にまた出てこられたらどうしようもありませんからね」
「そう言うことを言うとまた出てくるのよ」
「やな事言わないでくださいよ、卯月さん」
この近辺の人に聞き込みもしているのだが、誰も獅堂らしき姿を見ていないと言う。何処か人目に付かないところに倒れているのか、誰かが通報して何処かの病院に運び込まれているのか、それとも何者かに連れ去られたのか。そのどれにしろ、この辺りに彼の姿は無さそうだ。
「この辺にいないとなると何処を捜していいやら」
「それもそうね……」
近くにあったコンビニの駐車場にバンを停めて休憩しながら二人はこれからどうするかを相談していた。この下町地区にいないとなると一体何処に彼が行ったのか見当もつかなくなる。それ以前に彼女たちは彼のことを何も知らないのだ。3人一組のチームでありながら彼女たちは獅堂について何も知らないのだ。彼が一体どういう経緯であの研究所にやってきて、どう言った理由で仮面ライダーに選ばれ、何の為に戦っているのかなど。
「私達、獅堂君のこと、何も知らないのね」
力無くそう言い、みことはため息をついた。これから一体どうすればいいのだろう。もし獅堂が戻ってこなければあの怪物達と戦う術はない。怪物達が暴れ回っているのを見つけてもどうすることも出来ないのだ。何と情けないことか。自分達は獅堂に頼らないと何も出来ないのか。
「とにかく獅堂さんを捜しましょう。諦めちゃダメですよ」
敷島が努めて明るくそう言うのを聞いて、みことは顔を上げた。彼なりにみことを気遣っているのか、それとも何も考えていないのか。どちらにしろ、彼の言う通りだ。諦めては何もならない。手がかりはないに等しくても、それでも捜さなければならないのだ。諦めなければきっと何処か西堂の手がかりが見つかるはずだ。そう信じるしかない。
「行くわよ、敷島君」
いつもの口調でみことはそう言い、バンの助手席に乗り込むのだった。

ビルとビルとの間にある薄暗い路地。
そこに不自然なものが転がっている。金色に輝く渦巻き状の殻。その大きさたるや尋常なものではない。直径1メートルほどの大きさだ。
「まったくついてねーよなー」
「厄日だ、厄日」
ぶつぶつ言いながらその近くにあるパチンコ屋から二人の若者が出てきた。おそらくは大負けでもしたのだろう、その二人の表情はあまり明るくはない。それ以上に財布の中がほとんど空っぽだ。缶ジュースの一本も買えやしない。
「とりあえず銀行行くか」
「ちょっとでも降ろさないと生活出来ねぇもンな」
やっぱりぶつぶつ言いながら歩き出す二人。大きく肩を落としながら少し歩くと、何やら路地の方で光るものが目についた。
「お、おい」
「ああ、何だありゃ?」
二人がそっと路地を覗き込むと、それは金色に輝く渦巻き状の何かの殻。もしかしたら金そのものかも知れない。そうだとすれば一体どれだけの価値になるのか、二人には見当もつかなかった。
「ど、どう思う?」
「いや、まさか……でももしかしたらって事も」
互いに顔を見合わせながら、二人はこの降って湧いた幸運に顔をにやけさせる。二人で山分けしても、当分食うには困らない。それどころか遊んで暮らせるだろう。バイトに精を出す必要など無くなるのだ。
「い、いいか、二人で山分けだからな」
「わ、わかってるよ!」
そう言い合いながら路地に入っていく二人。だが、この時、二人は完全に忘れていたのだ。こんな幸運など有り得ないと言うことに。偶然路地に金の固まりが落ちていると言うことなどあり得ない。普通に考えればわかるはずなのに、二人は目の前の金に夢中になってその事に気付かない。それが金と言うものの魔力なのだろうか。
「すげぇ……」
「本物かよ」
二人が前の前に転がっている金の殻に目と心を奪われていると、突然金の殻が起きあがった。そして、その中からにょろっと突き出す二つの目。
「わぁぁっ!!」
いきなり金の殻から突き出してきた二つの目に驚きの声をあげる若者達。だが、それだけではなかった。金の殻からは不気味な軟体質を思わせる身体が出てきたからだ。それはカタツムリの怪物。
その怪物は触手のように突き出た目で二人の若者を見下ろすと口と思われるところから白い泡を吹きだした。その白い泡を浴びた若者達が苦悶の表情を浮かべる。いや、それもほんの一瞬のこと、あっと言う間に二人の若者の身体はその白い泡に包まれ、溶かされてしまったのだ。
カタツムリの怪物は嬉しそうにその場にしゃがみ込むと、若者達を溶かした白い泡を啜り始めた。これこそがこの怪物の生体エネルギーの吸収方法なのだろう。
こう言ったやり方で今までどれくらいの生体エネルギーを補給してきたのだろうか。そろそろ活動するに充分すぎるほどの生体エネルギーを得たはずだ。動き出してもいいだろう。他の連中も動き始めたはずだ。自分達よりも活動に必要なエネルギーが多い上位の連中が本格的に動き出す前に、動くべきだろう。
そう思い、カタツムリの怪物はビルの壁に手をついた。そしてぬめぬめと上に登っていく。まさしくカタツムリの動きで。

カタツムリの怪物が若者二人を餌食にした路地の前に黒いバンが停車した。中からみことと敷島が降りて来、その路地に入っていく。
「……遅かったようね」
足下に広がっている何かのシミのようなものを見てみことが呟いた。
行方不明の獅堂を捜して付近を走り回っている時に、後部に積んでいたレーダーが新たな怪物の反応を見つけたのだ。戦闘要員である獅堂がいないのは不安であったが、それでも二人はまずその現場に来ることを優先した。もしかしたら獅堂がそこに現れるかも知れないと思ったからだ。だが、そこには誰の姿もなく、怪物も既に移動してしまったようだった。
「今度はどう言った奴なんでしょうか?」
「さぁ……相手のことに関してはほとんどその資料は無くしたっぽいから。詳細不明ってのが一番厄介なんだけどね」
しゃがみ込み、地面のシミを観察しながら敷島の質問に答えるみこと。流石に直接触れようとはせずに白い手袋をはめて持っていたボールペンでシミをつついている。
敷島は不安そうに周囲を見回している。怪物が何処かに潜んでいて、実はこっちを伺っていて、襲いかかるタイミングを計っているのではないだろうか、などと思いながら。
もし、今襲われたら二人とも一溜まりもないはずだ。何と言っても戦える人間が一人もいないのだから。しかし、ここは自分が体を張ってでもみことを逃がすべきなんだろうか。何と言っても自分は男なのだから。それにみことが生きていれば、何とかなるかも知れないし。自分は運転手以外にほとんど役に立ってないから。
情けないことを考えながら敷島はビルの壁にもたれかかった。と、背中にベチョッと何か嫌な感触。
「うわぁっ!!」
悲鳴を上げてビルの壁から離れる敷島。
「な、何よ、敷島君。驚かさないで」
いきなり悲鳴を上げた敷島に、ムッとした顔をみことが向ける。だが、すぐにその顔がより険しいものに変わった。敷島がもたれかかっていたビルに何かが這いずったような後を見つけたからだ。
すぐさまその壁に駆け寄ると、先程と同じようにボールペンでその後をつついてみる。まだ乾いていないらしく、それは糸を引くような粘着質を見せた。まるで何かの粘液のように。
「敷島君、すぐに上着、脱ぎなさい!」
「は、はいっ!!」
みことに言われるまでもなく、敷島は着ていたジャケットを脱ぎ捨てた。はっきり言って背中がべとべとで気持ち悪かったからだ。
みことは敷島が脱ぎ捨てたジャケットを手に取るとその背中部分についている粘液を見た。何とも嫌な臭いがしたが、それに構わず彼女はそこに顔を近付けていく。少しの間そのようにして観察を続けていたのだが、やがてこれではどうしようもないとばかりに顔を離した。
「敷島君、戻りましょう」
「え!? 獅堂さんを捜すんじゃ?」
みことの言葉に敷島が驚いたように言う。
「それも大事だけど、今は怪物の正体を突き止める方が先決だわ。どんな力を持っているかわからないとフォローも出来ないでしょ?」
「わ、わかりました」
「あ、私がこれを調べている間は君が一人で獅堂君を捜しておいてね」
「……やっぱり……」
ガックリと肩を落として敷島はみことと共にバンに戻っていくのだった。

その頃、北川はと言うといつもの編集部とは別の編集部に出来上がったばかりの原稿を届け、それから街中をあの3人組の黒いバンを捜して走り回っていた。と言っても何処にいるのか見当もついていないのだが。
「弱ったな。あいつらの誰かの携帯の番号ぐらい聞いておけば良かった」
そのチャンスはあったのにそれをやらなかった自分に少し腹が立つ。だが、もう何を言っても後の祭りである。自分の先見の無さに後悔するばかりだ。
と、その時だ。上着のポケットの中で何かが震えているのを感じた彼が大型バイクを道路の端に停めるとそのポケットに手を突っ込んでみた。携帯電話かと思っていたがどうやら違うようだ。そこに携帯電話を突っ込んだ覚えはない。そこに入っていたのは前回あのゴリラのような異形を倒した後に転がっていた水晶玉。それが何かに反応しているかのように振動している。
「何だ……?」
さっと周囲を見回してみる北川。
何かわからないが、物凄く嫌な予感がする。そしてだいたいこう言う予感は外れない。逆のパターンはほとんど無いのだが。
周囲を警戒しながら北川はバイクから降りる。何が起こってもいいように、そっとベルトに引っかけてあるゾディアックガードルに手を伸ばしながら。と、彼の頭上をいきなり何かが飛びすぎていった。
「何っ!?」
あまりにも速かったのでとっさに反応しきれない北川。だが、すぐさま振り返ってその何かを目で追いかける。それは翼を持つ怪人。物凄い速さで近くにあったビルすれすれを急上昇していく。
「何だ、ありゃあ!?」
思わず声をあげてしまう彼だが、道行く人は誰も彼に反応しなかった。それをいいことに北川は翼を持つ怪人が上昇していったビルへと駆け込んでいく。向かう先は勿論屋上だ。あの怪物を見つけるにはそこに上がってみるしかない。
エレベータなど使わず、非常階段を一気に駆け上っていく北川。流石に屋上に到着した時には息が上がっていたが、それに構わずドアを開け放った。
そこで彼を待っていたのはカタツムリの怪物とその怪物を上空から襲っている梟の怪物。二体の怪物が戦っている、そんな光景だった。
「何だ……こいつら、仲間割れか?」
口でそう言ってみたものの、実際は違うだろうと頭の中で北川は考える。あの様子からして、本気で戦っている。本気で殺し合っている。そうとしか見えない。
(何でこいつらは互いに殺し合っているんだ?)
カタツムリの怪物が口と思われる場所から白い泡を吹きだした。翼を広げて急上昇してその泡をかわす梟の怪物。次いで急降下すると足の鋭い爪でカタツムリの怪物に襲いかかった。それを見たカタツムリの怪物は素早く背負っている殻の中に身を隠して梟の怪物の爪をかわしてしまう。そのような攻防を先程から何度も繰り返している二体の怪物達。
(……何か知らないが……チャンスだな。2体一気に倒せば一石二鳥ってもんだ)
そう考え、北川はニヤリと笑った。すかさずゾディアックガードルを手にし、腰にあてがう。腰にゾディアックガードルが固定されると今度は一枚のカードとカードリーダーを取り出し、カードをカードリーダーに挿入した。
『Zodiac Rider System Preparation Start』
機械によって合成された音声が屋上に響き渡る。
「変身ッ!!」
そう言って北川はゾディアックガードルにカードリーダーを差し込んだ。
『Completion of an Setup Code ”Taurus”』
カードリーダーがゾディアックガードルにはめ込まれると同時にそんな機械的な音声が流れ、ゾディアックガードルから光が放たれる。光は北川の真正面に光の幕を作り出した。そこに輝く牡牛座を象った光点。光の幕に向かって北川は走り出し、その光の幕を通り抜けると同時に彼の姿が仮面ライダータウロスへと変わった。
仮面ライダータウロスはそのまま、争い合っている二体の怪物のところへと突っ込んでいく。そしてまず梟の怪物に向かってジャンプし、思い切り振りかぶったパンチを叩き込むと今度はカタツムリの怪物に向かって同じようにパンチを叩き込んだ。だが、カタツムリの怪物は予想以上の反応の早さで殻の中に身を隠してしまう。タウロスのパンチはカタツムリの怪物の身体ではなく、その殻に命中する。
「いってぇぇっ!!」
カタツムリの怪物の黄金の殻を殴った手を大きく振るタウロス。ダメージは見事に返ってきてしまったようだ。
「な、何だ、あれは……固すぎるじゃねぇか!!」
そう言いながら痛む手を押さえてタウロスはカタツムリの怪物を見やる。
カタツムリの怪物は殻に閉じこもったままだ。どうやらこれで様子を見るつもりらしい。
その一方で殴り倒されていた梟の怪物はようやく身を起こしていた。そして翼を広げると宙に舞い上がり、タウロスに向かってくる。
「ぬおっ!?」
いきなり襲いかかってきた梟の怪物にとっさに反応出来ず蹴り倒されてしまうタウロスだったが、更に足の爪で掴みかかってきた梟の怪物のその足を掴むと逆に引っ張って屋上へと引きずり降ろしてしまう。
「舐めてんじゃねぇぞ、この野郎がッ!!」
そう叫んでタウロスは梟の怪物を屋上の床面に叩きつけ、そして自分は起きあがる。次いで背中に装着されている斧を手に取った。すかさず柄に付いたボタンを押すと、柄が伸び、更に刃の部分も巨大化する。仮面ライダータウロス戦用の武器、タウロスアックス。その破壊力はタウロスのパワーと相まって絶大なものを誇る。
タウロスアックスを両手で持ち、それを振り上げたタウロスは倒れている梟の怪物に目掛けて一気に振り下ろした。だが、一瞬早く梟の怪物は身を起こしてタウロスアックスをかわしてしまう。
「チィッ!! 逃がすかよっ!!」
舌打ちしてからタウロスアックスを横に薙ぐタウロスだが、梟の怪人は素早く翼を広げて宙に舞い上がり、その一撃を完全にかわしてしまった。
「くっ!!」
さっと逃げた梟の怪物を見上げるタウロスだが、その時には梟の怪物は空高く舞い上がっており、タウロスアックスでも届かない場所にいた。そこからタウロスを忌々しげに見下ろしていた梟の怪物だが、やがて空の彼方へと飛び去っていった。
空を飛ぶことに出来ないタウロスはそれを見送ることしか出来ない。更に振り返ってみると、いつの間にかカタツムリの怪物も姿を消しているではないか。どうやら梟の怪物にかまけている間にさっさと逃げ出してしまったらしい。それを知ったからこそ、あの梟の怪物も何処かへと行ってしまったのかも知れない。
「くそっ、両方とも逃がしたか……これじゃ一石二鳥どころか二兎を追うもの一兎も得ず、だな」
変身を解きながら北川はそう呟き、苦笑を浮かべてその場に座り込むのであった。

放課後の教室で一雪は電卓片手に何やら考え込んでいた。
「……ダメだ……どう考えても足りない……」
絶望的だ、と言う感じで呟き机の上に突っ伏す。
彼が計算していたのは数日前に豪快に転んで壊してしまったバイクの修理の費用。貯金と今月の小遣いとを足してもいくらか足りない。もっとも走らせるだけなら充分走るのだが、まだ新品だっただけにきっちりと修理したかったのだ。
「う〜ん……祐名は絶対に貸してくれないだろうし……北川のおじさんに頼むのも気が引けるし……バイトでもするかなぁ」
「バイトするなら付き合うぜ、相棒!」
いきなりそう言って天海が現れた。
「ん〜……なんだ、天海か。いたんだ」
机から顔だけを上げて天海を見た一雪が興味なさそうにそう言うと、天海は物凄くショックを受けた、と言う風にその場にヘナヘナと崩れ落ちる。
「ひどい、ひどいぞ、相棒……よりによって”いたんだ”、とは……」
「さっきまで英語の先生に絞られていただろ。何時帰ってきたんだよ?」
「ん、今さっき。丁度お前が机に突っ伏した辺りからだな」
パンパンとズボンに付いた埃を払いながら立ち上がる天海を見て、一雪はため息をついた。
そんな彼を無視して天海は彼の前の席に腰を下ろす。
「それで、何でまたバイトなんかしようと思ったんだ?」
「僕の個人的事情だよ。天海は関係ない」
相変わらず素っ気ない口調でそう言う一雪。
「まぁまぁ、そう言うな。何と言っても俺とお前は親友じゃないか」
「悪友の間違いだろ」
「素っ気ないなぁ、一雪。なんか機嫌悪い?」
「そう言う訳じゃないけど。まぁ、天海になら話してもいいかな。この間新しいバイクで事故ったんだよ」
「あ、そういやこの前腕吊してたし体育の時間も休んでたっけ」
「そう、その時だよ。で、修理するのにお金がかかるから」
「なるほど、それでバイトをしようと言う訳か」
うんうんと頷きながら天海が言う。
ちなみに二人が通うこの城西大学付属高校はバイク厳禁である。だから一雪はあまり話したがらなかったのだ。まぁ、相手が天海なら大丈夫だと思ったから話しているのだが。彼なら先生に報告することはないだろう。
「祐名ちゃんに借りたらどうだ?」
「祐名は貸してくれないよ。お金の貸し借りについては物凄く厳しいから」
昔本を買うのにお金が足りなくて一緒に来ていた祐名に借りたところ、その分を返すまで毎日のように言われ続けたことがあるのだ。更にちゃんと貸した分をメモ帳に記載しているのだから恐ろしい。まぁ、あまり家に両親が居ないこともあったので家計の大半を彼女が握っていたから当然なのかも知れないが。
「ちなみに俺にはお前に貸してやるほど金はないぞ」
「天海に借りようと思うほど落ちぶれてないよ、僕は」
一雪はそう言うと机の上に置いてあった電卓を鞄に直し、イスから立ち上がった。
「お? 帰るのか?」
「帰らないのか?」
イスに座ったままこっちを見上げている天海に逆にそう問い返す一雪。授業は全部終わっているし、掃除も終わった。残っている意味はほとんど無い。
「フッフッフ、実は祐名ちゃんを待っているのだ。最近物騒だからな。是非とも送っていってあげないと」
「天海と一緒の方が不安だという気がするよ、僕は」
下心満載の天海をじと目で見下ろす一雪。
「何を言うか、いずれ義弟となる親友よ」
「祐名と僕はどっちが上とかそう言う感覚無いんだけど……」
「何なら今からお義兄さんと呼んでくれてもいいのだぞ、義弟よ」
まったくこっちの話を聞いていない天海に対して一雪はため息をつく。何と言うか、無駄に自信たっぷりなところが凄いと思う。まだ誰かを好きになったことがない彼としては天海のその恋愛に対するエネルギーは正直感心出来るものであった。それが見事なくらい空回っていると言うことも。
「お待たせ、一雪」
そう言って教室に入ってきたのは相沢祐名。一雪とは双子の兄妹、いや、姉弟なのかも知れない。少しほわほわしている彼に比べて彼女はどっちかと言うと落ち着きのある風に見られている。だから彼女の方が双子の姉の方、と思われていることが多いらしい。実際二人にはそんな事はどうでもいいことなのだが。一雪が先程言った通り、二人にはどっちが上だとかそう言う感覚はほとんど無い。そう言う風に育てられてきたからだ。
「終わったの?」
一雪が入ってきた祐名の方を見てそう言うと、祐名は大きく頷いた。彼女は先程まで委員会の仕事をやっていたのだ。一雪はずっとそれが終わるのを待っていたらしい。
「あれ、天海君もいたんだ?」
一雪の前の席に座っている天海に気付いた祐名がそう言うと、天海はバッと立ち上がった。そしてさささっと祐名の前まで移動する。
「お待ちしておりました、お姫様。さぁ、それではお送り致しましょう」
大げさな仕種で頭を下げる天海を見て笑みを浮かべる祐名。
「僕の時と随分態度が違うよね、天海」
呆れたような顔をして一雪が呟くが、勿論天海は聞いていなかった。

揃って教室を出て、下足室に向かう。
「何だ、何で一雪がいるのかと思ってたらそう言うことだったのか」
「男手があるのと無いのだったら違うからね」
階段を下りながら天海と祐名が喋っているのを少し後ろにいた一雪は聞くともなしに聞いている。ちなみに一雪がどうして教室で祐名を待っていたのかと言うと、彼女から買い物があるから付き合って欲しいと頼まれていたからである。
「俺に言ってくれたらいつでも手伝うのに。どう、一雪よりは役に立つと思うぜ?」
露骨なほどのアピールだったが、祐名は笑顔でさらっと受け流してしまう。
「ふふ、ありがとう、天海君。でも、今は家の方向違うから」
と言うか、アピールとは気付いていないっぽい。
「う〜ん、そりゃ残念」
流石に天海もわかっているのか、あまり残念だと言う風でもなくそう言った。祐名も一雪に負けず劣らず鈍感な方だ。特に自分に向けられる好意に関しては。まだ時間はたっぷりある。この高校生活が終わるまでには、ちょっとくらいはこの関係を一歩進んだものにしたいものだが。
(まぁ、無理だろうね、天海じゃ)
一雪は天海の気持ちを知っているが、そう思っていた。ああ見えて祐名の理想は高い。彼女が理想としているのは何と言ってもあの父親なのだから。二人の父親と天海では何と言うかかけ離れすぎている。
(何と言うか、可哀想になぁ)
ちょっとくらいは協力してあげてもいいかも、と思わないでもないがあまり積極的に彼に協力してあげようとは思わない。友人として嫌いではないが、そこまでしてやろうと思うほどでもない。一雪としては祐名の気持ちを最優先するべきだと思っているからだ。天海と祐名を比べるならどう考えても祐名を優先する、それが一雪のスタンスだ。それは天海もよく解っているようで、祐名のことに関しては決して彼に協力を求めたりはしなかった。
下足室で靴を履き替え、とりとめのない話をしながら校門の辺りに差し掛かった時、いきなり一台の高級車が3人の前に飛び出してきた。
「うわわっ!!」
「うおっ!?」
「きゃっ!」
3人がそれぞれ声をあげる中、その高級車が停止し、その運転席から品の良さそうな年輩の男性が降りてきた。
「申し訳ありません、お怪我はありませんでしたか?」
年輩の男がそう言って3人に向かって頭を下げる。
「あぶねぇなぁ。気をつけてくれよなぁ」
ムッとした顔でそう言う天海と、その横でうんうんと頷き同意を示す一雪。
「私達は大丈夫です。ちょっとびっくりしただけですから」
祐名だけが年輩の男を気遣うようにそう言っている。それから側にいる二人を、ちょっと顔をしかめて見やった。
「一雪も天海君も何ともなかったんだからあんまり」
「わかったよ」
「むう、祐名ちゃんがそう言うなら」
これ以上ごねていると祐名から説教されると思った二人があっさりと引き下がる。一雪は説教なんて鬱陶しいと思ったからで、天海は祐名に嫌われたらたまらないと言う思いから。
「いや、驚かせてしまったようで申し訳ございません。お怪我が無くて幸いです」
そう言ってまた年輩の男が頭を下げた。
「高見沢」
と、後ろの高級車の方からそんな声が聞こえてきた。見ると、後部座席の窓が開き、一人の青年が年輩の男を手招きしている。
「申し訳ありません、少々お待ち下さいませ」
年輩の男性がそう言って高級車の方に戻っていく。少しの間後部座席に座っている青年と何やらやりとりしていたが、何かを申しつけられたらしく、3人の元へと戻ってきた。
「どうぞお受け取り下さい」
そう言って年輩の男が封筒を差し出す。
思わずその封筒を受け取ってしまった祐名の手から一雪がすっとその封筒を奪い取り、中を確認した。中に入っていたのは一万円札が3枚。
「これは?」
一雪が年輩の男に尋ねると、年輩の男は事も無げにこう言った。
「詫び料でございます。ご主人様からお預かり致しました。どうぞお納め下さいませ」
「そんな、困ります!!」
そう言ったのは勿論祐名だ。慌てて一雪の手から封筒を奪い返すと、年輩の男にその封筒を突き返す。
「これは受け取れません」
ああ、やっぱりな、と側にいた一雪は思った。あのお金があればバイクの修理費用が多少マシになる。だが、決して祐名が受け取るとは思えなかったし、やはり彼が考えた通りになった。
「それは困ります」
突き返された封筒を見て年輩の男が言った。
「私と致しましてはそれを受け取っても貰わなければお勤めを果たしたとは言えませんので」
「でも、私達にこれを受け取る理由がありません」
「あるような気がしないでもないけど」
「まぁ、危うく轢かれかかったわけだしな」
祐名に聞こえないように男二人がぼそぼそと言い合い、頷き合っている。一雪にしろ天海にしろ、バイトをしようかと話していたぐらいなのだから、このお金が貰えるものならあっさりと貰っているだろう。
「どうかお受け取り下さい」
「いいえ、受け取れません」
年輩の男と祐名の会話は既に押し問答、全くの平行線状態になっていた。主人の命令の為にどうしても受け取って貰わなければならない年輩の男、自分達は何ともないのだからこんなものを受け取る理由がないと突っぱねる祐名。もはやどうしようもない。
こんな事をしていたらいつまで経ってもここから動けないと思ったのか高級車から一人の青年が降りてきた。先程年輩の男を手招きした青年である。青年と言っても着ているのは一雪達と同じ城西大学付属高校の制服、その見た目からもっと年上かと思っていたがどうやらそれほど年は変わらないようだ。
「何をしているんだ、高見沢」
「これは若様。このお嬢様がどうしてもこれを受け取れないと申されておりまして」
青年の方を振り返った年輩の男が頭を下げながらそう言う。
「……わかった。君、どうしても受け取れないと言うのか?」
青年が祐名の方を見てそう言った。何とも言えない冷徹な眼差しに思わずビクッと身体を震わせてしまう祐名。物凄い威圧感をこの青年から感じたのだ。何故かはわからないが、この青年に怖さを感じてしまっている。
「あ、あの……で、でも、受け取る理由が……」
震える声で、祐名は自分の声が震えているのをしっかりと感じていた。どうしてかはわからない。あの冷徹そうな目でこちらを見られると、逃げ出したくなってしまう。
「これは君たちを轢きそうになった、驚かせた分の詫び料だ。こちらが悪いと思ったから出している。遠慮無く受け取って欲しい」
言いながら口元に笑みを浮かべる青年。だが、その目は少しも笑っていない。あくまで冷徹に、まるで値踏みするかのように祐名を見つめている。
「気に入らない目つきだな」
小さい声で、呟くようにそう言って祐名の前に一雪が進み出た。
「そこまで言うのなら受け取らせて頂きます」
祐名の手から封筒をひったくるように奪い取り、一雪はそれをポケットにねじ込んだ。そして、青年の目を睨み付けるかのように見つめ返す。
「フフッ、受け取ってくれればそれでいいよ。それじゃ、急ぐのでね」
青年は一雪を、祐名と同じように値踏みするような冷徹な目で見、それから彼らに背を向けて高級車の方へと戻っていった。彼が高級車に戻っていくのを見て、高見沢と呼ばれていた年輩の男もまず3人に向かって一礼してから高級車に戻っていく。
「おーおー、やるじゃないの、一雪」
青年と年輩の男が高級車に戻っていったのを見てから天海が話しかけてきた。
「あの人と正面切ってやり合うとは度胸あるなぁ」
「知ってるの、天海君?」
そう言ったのは一雪ではなく祐名の方だ。
「ありゃりゃ、二人とも知らないのか?」
「同じ学校だろうと言うことぐらいは解るけど」
ちょっと意外だと言う顔をした天海にそう言ったのは一雪の方だった。祐名も彼の隣で頷いている。
「何だよ、本当に知らないのか。あれは我が城西大付属高校一の金持ちにして生徒会長の倉田さんだよ」
「生徒会長はいいとして何で学校一の金持ちなんて解るんだ?」
「あの人の親がここの理事長なんだよ。しかも理事長になったのがここ最近の話だし」
「そうなんだ」
「詳しいんだね、天海君」
天海の説明に感心する二人。
そんな二人を見た彼は呆れたように肩を竦めた。
「何で知らないのか、そっちの方が俺には疑問だが。それはともかく、理事長の息子にして生徒会長に楯突いたんだ。ちょっと覚悟しておいた方がいいんじゃねぇか?」
「楯突いた覚えはないけど。祐名が困っていたから助け船を出しただけだよ」
少しムッとしたように一雪がそう言うと、祐名が思い出したかのように一雪の手を取った。
「一雪、さっきのお金は!?」
「持ってるけど」
「あれ、どうして受け取ったのよ!!」
「受け取る以外に方法がなかったと思ったんだけど」
「でも受け取る理由が無いじゃない!」
「向こうがあるって言ってるんだからいいじゃないか」
「それでもね……」
祐名と一雪が口論を始めたのを見て、天海は止めるべきかどうか真剣に悩むのであった。心情的には一雪と同じなのだが、一雪をかばうとなると祐名に悪感情を与えることになりそうだ。かと言って祐名側に回ると今度は一雪の恨みを買いそうだ。一雪には借りが山のようにあったりするから、出来れば恨みを買いたくはない。これからも借りを作っていくのだろうし。
「どうしたものかねぇ……」
天海はそう呟き、天を仰ぐのであった。

北川はポケットの中に突っ込んである水晶玉を取り出し、周囲を見回した。
あの時、二体の怪物を見つけた時にこの水晶玉は激しく振動していた。もしかしたらあの怪物達に反応していたのかも知れない。事実、あの怪物達がいなくなった後、水晶玉の振動は治まっている。これを使えばあの怪物達を探し出せるかも知れない。そう思った彼は街中を走り回りながら、時折水晶玉の反応を確認しているのだ。
「反応無し、か」
水晶玉をポケットに戻し、また大型バイクを走らせはじめる。
こうやってあの怪物達を探し求めてどれくらいの時間が経っただろうか。もしかしたら今日はもう動かないのかも知れない。あの怪物達だってそれなりにダメージを受けているのだろうから、その回復の為に休養しているのかも知れない。
疲れを感じ始めていた北川が少し諦めモードに入りかけていたその時、いきなりポケットの中の水晶玉が振動を始めた。それに気付き、慌てて大型バイクを路肩に寄せて停止させる。すかさずポケットの中の水晶玉を取り出すと、周囲を見回した。だが、何処にもあの怪物の姿はない。その代わりに彼の視界に入ってきたのは見覚えのある黒いバンだった。
「あれは確か……」
北川は水晶玉をポケットに戻すと大型バイクから降り、その黒いバンに近付いていった。向こうはまだ近付いていく北川に気付いていないらしい。バンのすぐ側までやって来た彼が窓をコンコンとノックする。
「よぉ」
そう言ってニヤリと笑う北川。
バンの窓が開き、中から引きつった表情の敷島が顔を見せた。
「こ、こんにちわ」
「いいところで会ったぜ。お前さん達に話があったんだ」
「生憎だけどあなたと話をしている暇はないわ。こっちは忙しいもの」
その声は奥の方から聞こえてきた。身を乗り出して奧を覗き込んでみると、そこには険しい表情を浮かべたみことが座っている。
「またあの怪物捜してるのか?」
「ノーコメント。獅堂君じゃないけど、関わらない方があなたの為よ」
素っ気なくみことが言うが、北川はニヤリと笑うだけ。
「生憎だが、もうとっくの昔に関係者入りしているよ、俺は」
そう言って北川はポケットの中から水晶玉を取りだした。
その水晶玉を見た瞬間、みことの顔色が変わる。次いで身を乗り出すと彼の手からその水晶玉を奪い取ろうと手を伸ばした。だが、それより先に北川は水晶玉を持った手を引っ込めてしまう。
「おっと、そうはいかないぜ」
「ど、どうして、それを……」
「だから言ったろ、俺も関係者だって。さて、それじゃちょっと話を……」
そこまで彼が言った時、手の中にある水晶玉が激しく振動を始めた。同時にバンの奧からピーッピーッと言う音が聞こえてくる。
はっとなった北川が振り返ると遙か頭上で何かの影が通り過ぎていくのが見えた。
「あれは……!!」
先程取り逃がした梟の怪物に違いない。そう思った北川は急いでバイクのところまで戻ると、すぐさま発進させた。頭上を通り過ぎていった影は何処か目的地があるかのように真っ直ぐ南へと下っていく。それを追って北川もバイクを走らせた。
「敷島君、追うのよ!!」
「は、はい!!」
みことが走り出した北川のバイクを見て、敷島にそう言う。この二人はまだ北川が変身出来ることを知らない。だから、彼が自ら危険に飛び込んでいくのを見逃すことが出来なかったのだ。それにもしかしたら獅堂がそこに現れるかも知れない、そう言う期待もあった。
何かの影を追って走り出して数分、突然その影が降下を始めた。前方に見えるデパートの屋上に降りようとしているのか。あのデパートの屋上には屋上遊園地があったはずだ。もし、そこに奴が降りたのならその目的は一つ、そこにいる人々を殺害することだろう。そうすることにどれだけの意味が奴らにあるのかは知らないが、そんな事をさせるわけには行かない。
北川は大型バイクを止めるとすぐさまデパートの中に駆け込んだ。その後には同じく黒いバンを止めた敷島とノートパソコンを持ったままのみことが続く。
屋上へと続くエレベータに飛び込む敷島とみこと。北川は別のエレベータに乗ったのか、それとも階段を駆け上っていったのか。どちらにしろ、彼が屋上に向かったのは間違いないだろう。自ら関係者だと彼は言い切った。ならばあの怪物に挑んでいくに違いない。
「で、でも、どうやってあの人は」
「それを確かめる為に行くのよ。何であの人が水晶玉を持っているのかも含めて、その辺の謎はきっとここで解けるはずよ」
何となく不安げな敷島にそう言い、みことは折り畳んでいたノートパソコンを開ける。モニターに映し出されている光点は確かにこのデパートの上だった。おそらくは屋上に降り立っているのだろう。そこで繰り広げられているであろう惨劇を想像してみことは思わず目を閉じてしまう。
その頃、北川はやはり階段を駆け上っていた。エレベータでは間に合わない。そう判断したのだが、やはり30を過ぎている身体はそうそう言うことを聞いてくれない。それなりに体は鍛えている方だが、やはり今日は既に一回全力で階段を駆け上がり、変身して戦うと言うことをやっている。そろそろ体力の限界が見えてきそうだ。
「ハァハァ……やっぱりエレベータを使えば……」
屋上の手前の踊り場で息を切らした北川がそう呟いた時、上の方から悲鳴が聞こえてきた。それを聞いた北川は顔を上げると、歯をギュッと噛み締めた。ここで自分が弱音を吐いてどうする。あの怪物の魔の手から何の罪もない人々を守ると決めたのは自分自身だ。ならば、やれるだけのことはやる、それが男だ。
さっと腰のベルトに引っかけていたゾディアックガードルを手にすると腰にあてがった。そして一枚のカードとカードリーダーを手にする。階段を駆け上りながら、カードリーダーにカードを挿入する。
『Zodiac Rider System Preparation Start』
機械的な音声が流れるのを聞きながら北川は屋上へのドアを開け放ち、もう片方の手でカードリーダーをゾディアックガードルに差し込んだ。
「変身ッ!!」
『Completion of an Setup Code ”Taurus”』
カードリーダーがゾディアックガードルにはめ込まれると同時にそんな機械的な音声が流れ、ゾディアックガードルから光が放たれる。光は北川の真正面に光の幕を作り出した。そこに輝く牡牛座を象った光点。光の幕に向かって北川は走り出し、その光の幕を通り抜けると同時に彼の姿が仮面ライダータウロスへと変わった。
屋上遊園地では梟の怪人が女性係員に上から襲いかかっていた。その側には小さい子供達がいる。どうやら彼女は子供達を守ろうとしているようだ。
仮面ライダータウロスは背中から斧を取り出すと、その柄に付いているボタンを押し、タウロスアックスへと変形させる。
「オオオオッ!!」
雄叫びをあげながら猛然とタウロスアックスを振るうタウロス。
女性係員の髪の毛がタウロスアックスによって切り飛ばされるが、そのおかげで梟の怪物は彼女を襲うことを諦めねばならなかった。その場にヘナヘナと崩れ落ちる女性係員。その周りでは子供達が泣き喚いている。
「早くここから逃げろ!!」
タウロスはそう言うと女性係員と子供達をかばうようにその前に出た。そこに襲いかかってくる梟の怪物。鋭い足の爪がタウロスの身体に叩き込まれるが、ぐっと足を踏ん張ってタウロスは耐える。ここで彼が踏ん張らなければ、奴は次に女性係員と子供達を襲うだろう。それを許すわけには行かないのだ。
しかし、女性係員は先程のことで腰でも抜かしてしまったのか、タウロスの後ろで座り込んだままガタガタ震えているだけ。それでも子供達を守ろうとしているのか、両手を広げて一緒にいる子供達をその腕の中に包み込んでいる。
「くっ! このままじゃ」
ちらりと後ろを振り返り、女性係員と子供達の様子を見た。そこに襲いかかってくる梟の怪物。鋭い爪がタウロスに襲いかかるが、タウロスはそれを耐えるだけ。下手にタウロスアックスを振るうと後ろの女性係員や子供達に当ててしまうかも知れない。だから今は耐えることしか出来ない。
梟の怪物はタウロスが攻撃出来ないのをいいことにまた空中から襲いかかってきた。鋭い足の爪がタウロスの身体にダメージを与えていく。
と、そこにようやくみことと敷島がやってきた。二人は梟の怪物から女性係員と子供達をかばっている仮面ライダーを見て、一瞬足を止めてしまうがすぐに走り出し、女性係員と子供達を助け出した。
「こっちはもういいわ! あなたはあいつを!」
「おう! 助かったぜ!!」
タウロスはみことの声にそう答えるとまたしても急降下して襲いかかってきた梟の怪物に向かってタウロスアックスを振り上げた。その刃が起こす突風に降下していた梟の怪物がバランスを崩して落下する。
「よくも好き勝手やってくれたな! お礼はたっぷりさせて貰うぜ!!」
タウロスはタウロスアックスを構えてそう言うと梟の怪物に向かって猛然と走り出した。

タウロスが梟の怪物との戦いを始めていたのと同じ頃。
新東京国際空港の国際線到着ロビーにその青年が立っていた。一雪達に半ば無理矢理詫び料と称した金を渡していたあの青年。城西大学付属高等学校理事長の息子にして生徒会長を務める青年、倉田一馬。彼の側には高級車を運転していた年輩の男、高見沢も控えている。
「もうそろそろだな、高見沢」
「はい、若様」
一馬の問いに高見沢は小さく頷いた。
彼らはつい先程到着した飛行機に乗っている人物を出迎えにやってきたのだ。本当なら彼が出迎えに来る必要はないのだが、それでも彼が来ているのはそれだけ彼にとって大事な人物であるからに他ならない。
ゲートの方から続々と客が出てくる中、一馬はじっとゲートの方を見つめている。目的の人物が出てくるのを見逃さない為だ。
やがて、ゲートをくぐって車イスに乗った女性が姿を見せた。少し年を食ってはいるが、その美貌はかなりのものだ。そしてその車イスを押している若い女性もかなりの美少女だった。同じゲートから出てきた客達が思わず足を止めてその二人を見つめてしまうほどに。
「お帰りなさいませ、奥様」
高見沢がそう言って車イスの女性に向かって頭を下げた。そして美少女に変わって彼が車イスを押し、一馬の側までやってくる。
「お帰りを一日千秋の思いで待っておりましたよ、母上」
「一馬さんも元気そうで何よりです」
一馬が笑みを浮かべてそう言うのに車イスの女性はにこやかな笑みを浮かべて答えた。
「お前もご苦労だったな、舞耶」
続けて美少女に向かって一馬がそう言うと、その美少女はいたって無表情のまま頷いた。彼女のそんな反応は彼にとって予想済だったのか、一馬は嘆息して肩を竦める。
「少しは愛想よく出来ないのか、お前は。それではお前の美貌がもったいないぞ」
「お兄様に言われたくはありませんわ。その何か企んでいそうな笑み、止めた方がよろしいかと思われますわよ」
舞耶と呼ばれた美少女がやはり表情を一つも変えずにそう言い返す。元々彼女は感情を表に出すことがほとんど無い。嬉しいのか悲しいのか、喜んでいるのか怒っているのか、一見しただけではほとんどわからない。まるで鉄面皮のように、彼女が何か表情を変えたところを見たことのある人間の方が少ないだろう。一馬ですら舞耶が何か表情を変えたところなど見た記憶がほとんど無いくらいだ。
「まぁまぁ、一馬さんも舞耶さんもその辺にしておいて。一旦屋敷に戻りましょう」
軽く睨み合っていた一馬と舞耶を止めたのは車イスの女性だった。ニコニコと笑顔を浮かべたままそう言うと、高見沢の方を振り返る。
「行きましょう、高見沢さん」
「わかりました、奥様」
高見沢が車イスを押し始めたので一馬と舞耶がその後に続いた。
この車イスの女性こそ、かの研究所を所有していたK&Kインダストリー社の社長、倉田佐祐理であった。ヨーロッパ視察を終え、日本に帰ってきた彼女。その彼女に付き従うように歩いているのは倉田一馬と川澄舞耶の二人。

郊外にある病院のような建物の中、ある一室で眠り続けている獅堂。

デパートの屋上で梟の怪物と戦う仮面ライダータウロス。

何かが、始まろうとしていた。

This Story was Completed!
To be Continues Next Episode!

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