爆発音が遠くから聞こえてくる。
まだこの部屋は無事だが、それも何時までのことか。幾つも並べられてある机の下に潜り込んでいる卯月みことはガタガタ震えるばかりだ。
突如研究所を襲撃してきた謎の怪物達。組織的に見えて、その実、それぞれの個体が思い思いに殺戮と破壊を繰り広げている。
その怪物達に対抗する為にこの研究所が開発したゾディアックライダーシステムも完成品の数が少なく、今まともに戦えているのはごく一部だろう。本来12あるゾディアックガードルの中でもみことが知っている限りまともに稼働するものは3つか4つ、後はどれも何らかの問題を残している。だから仮に12人全員がゾディアックライダーシステムを使い、仮面ライダーに変身しても正面から怪物達に挑めるのはその内の3分の1か4分の1。後はどうなっているか。いや、それ以前に相手の数が多すぎる。おそらくは20体からの怪物がこの研究所を襲っているのだ。それに対抗するにはあまりにも少なすぎる。
また爆発音が聞こえてきた。今度は先程よりも近い。ふと入り口の方を見ると、そこから黒煙が入り込んできていた。どうやら火災がこの近くでも起こったようだ。
「……っ!!」
半分涙目になってみことは机の下から這いずり出た。このままここにいたらいずれ火災に巻き込まれてしまう。だが、外に出ていっても謎の怪物達が跋扈しているのだ。無事に逃げ出せる保証は何処にもない。どちらかと言えば死の可能性の方が高いだろう。しかし、机の下に潜り込んだまま煙に燻され死ぬとか炎に巻かれて死ぬと言う苦しいのだけは嫌だった。ならば一か八かでここから出ていくしかない。運さえ良ければ何とか脱出出来るだろう。そう思ってみことがドアに駆け寄ると、いきなりドアが内側へと吹っ飛ばされた。
「きゃああっ!!」
危うく吹っ飛んだドアにぶつかりそうになるみこと。だが、それはギリギリのところで彼女に身体にぶつかることはなかった。それでも悲鳴を上げ、みことはその場に座り込んでしまう。
そんな彼女の視界の中にのっそりと大きな姿の異形が入ってきた。
それは上半身だけが異常なほどに盛り上がったまるでゴリラを思わせるような怪物。おそらくはこいつがドアをぶち破ったのだろう、そのみことの身体ほどもある太い腕で。もしもこの腕で殴られたら一溜まりもあるまい。
異形の姿を見たみことは声も出せなくなっていた。その太い腕には夥しい量の血がこびりついている。ここに来るまでに一体どれだけの命を奪ってきたと言うのか。そして、今度は自分の命をも。
ガタガタ身体が震えるのをみことは止められない。ここは研究所の中でもあまり使われていない区画だ。必死に逃げてきて、ここに隠れていたみことのことなど誰が知っているというのか。助けは来ない。あるのは確実な死だけ。
「ひ……ひぃぃっ!!」
ゴリラのような異形がみことの方を見、口元から白い涎を滴らせる。そして、殊更ゆっくりとその太い両腕を頭上へと振り上げていく。
あれが振り下ろされたら全ては終わりだ。自分などペシャンコになってしまう。涙目でゴリラのような異形を見上げるしかないみこと。
ゴリラのような異形の太い腕が振り下ろされようとした瞬間、その部屋の中に誰かが飛び込んできた。そしてすかさず持っていた消火器のノズルをゴリラのような異形に顔面に向け、レバーを握る。ノズルの先から勢いよく噴射される白い消火液。
消火液を顔面に浴びたゴリラのような異形は慌てて自分の顔をかきむしった。どうやら消火液が目に入ってしまったらしく、何度も何度も手で顔面を擦っている。
「今だ! こっちに!!」
消火器を持った男がそう言ってみことに手を伸ばした。
何とか立ち上がったみことはふらつきながらも男の手を取り、その部屋から廊下へと飛び出していく。
男は消火器を投げ捨てると、みことの手を取ったまま走り出した。そしてそのまま廊下の一番奥にある階段を下っていく。その先にあるのは確か誰も使っていないはずの地下室のはず。単なる倉庫のはずだ。そんなところへ逃げていったらまさに袋のネズミではないか。
「待ってください! そっちは」
「心配するな!」
男は振り返りもせずにそう言い、問題の地下室の前にまでやって来た。そして胸につけているIDパスを機械に通す。すると、地下室のドアがガチャリと言う音とも共にロックが解除され、自動的に開いていく。
「さぁ、入って!」
男はそう言うとみことを先に室内に入れ、自分は後ろを振り返って追っ手がないことを確認してから中に入り、ドアを閉じた。ただ閉じただけではなく厳重そうなロックをセットする。
みことは薄暗い地下室の中を見渡そうと目を凝らしてみたが、いきなりパッと電気がついた。その為に思わずみことは目を閉じてしまう。
「……無事なのは彼女だけ?」
「わからん。とりあえず俺が見つけられたのは彼女だけだった」
新たに聞こえてきた声は女性のものだった。それに答える男の声。
みことがゆっくりと目を開き、明かりに目を慣らしていくと、そこには先程自分を助けてくれた男ともう一人、同じような白衣を着た女性がそこに立っていた。尤もその白衣は裾の方が焼き焦げていたり、埃や煤、更には血でかなり汚れていたが。
「あ、あの……」
みことが恐る恐る声をかけると、二人が揃って彼女の方を振り返った。
「ここは緊急時用の避難シェルターになっている。もしもの時の為のな。だから奴らと言えどもそう簡単には入って来れないはずだ」
「もっともその事を知っているのは一部の職員だけだけどね」
男がみことの質問を先読みしたようにそう答え、それに続けて女性がみことを安心させるような笑みを浮かべてそう言う。
「君は……」
「セクション3の卯月みことです。あの……あなた方は……」
「セクション1の相沢だ。こっちは」
「その奥さんです。よろしくね」
今のこの状況下では明らかに場違いな笑みを浮かべる相沢夫人。その隣に立っている相沢と名乗った男はみことの胸についているIDパスを見、それから腕を組んで何事かを考えていた。
「セクション3と言うことはあれか、実働部隊のサポートがメインな訳か」
「は、はい……まだ実稼働はしていませんが」
「それはそうだろうな。まさか先手を打って襲撃してくるとは誰も思っていなかっただろうし」
「相手にもちょっとは頭の働く奴がいるって事だね」
「おそらく上位の奴が裏で糸を引いているんだろう。でなければ……」
「裏切り者でもいるのかな、この研究所の中に?」
「さぁな。それはともかくセクション3の人間と会えたのは都合がいい。これであいつのサポートは任せられる」
「彼一人だと突っ走るだけって感じだもんね」
みことは二人が話しているのを黙って見ていることしか出来なかった。一体何が起きているのかほとんど把握出来ていない混乱状態のままなのだ。しかし、この二人はやたらと冷静に話し合っている。まるで今何が起こっているか解っているかのように。
「あ、あの……」
恐る恐る声をかけようとするみことだが、二人がいきなりみことの方を向いたので思わず言葉を引っ込めてしまう。
「卯月君と言ったな。君はここを脱出するんだ」
「そして先にここを飛び出していった獅堂君をフォローしてあげて欲しいんだよ」
相沢とその夫人が口々に言う。
「ええっ!?」
「このままだとここは全滅、奴らは世界中で何の罪もない人々を襲うだろう。それを防ぎ、奴らを封印することが出来るのはゾディアックライダーシステムだけだ」
「わたし達は少なくても一人のライダーがここから出ていってあいつらを追っていることを知っているの。だからその彼、獅堂 凱をあなたの手でバックアップしてあげて欲しいんだよ」
「獅堂……凱……」
みことがその名を呟いた時だった。この地下シェルターのドアをどんどんと叩く音が聞こえてきたのは。その音はかなり大きく、物凄い力で叩いていることが解る。おそらくはみことを殺そうとしたところを相沢に邪魔されたあのゴリラのような異形だろう。あいつの太い腕から繰り出されるパワーならあのドアをぶち破ることも不可能ではないかも知れない。そう思ったみことの顔が青ざめる。
「……どうやらあまり長くは保ちそうもないな、ここも」
「そろそろ覚悟を決めた方がいいみたいだね」
相沢夫妻がそう言って互いの顔を見合わせ、頷きあった。
「この奧に駐車場に続く非常口がある。君はそこから駐車場に抜け、何とか逃げてくれ」
そう言って奧を指さす相沢。
「わたし達はここで時間を稼ぐから。早く行って」
「そ、そんな! 死ぬ気なんですか!!」
みことがそう言うが、相沢夫妻は揃って首を横に振った。
「我々にはまだやることが残っているんだよ。だから死ぬつもりは毛頭無い」
「そう、それに可愛い子供もいるしね。こんな所じゃ死ねないよ」
二人はそう言って笑みを浮かべてみせる。
「何、ここには武器になりそうなものがたくさんあるんだ。奴を倒すことは出来ないが足止めぐらいは出来る」
「さぁ、こっちだよ」
そう言いながら相沢夫人はみことの手を取って奧に向かって歩き出した。
「あ、あの! それなら一緒に……」
「そいつは出来ないな。我々にはまだやることが残っていると言っただろう」
心配そうなみことにそう答える相沢。
「大丈夫、心配いらないよ。あ、もしわたし達の子供に会うことがあったらよろしくね。双子で一雪と祐名って言うんだよ」
夫人は相変わらず場違いなほどに呑気そうな声で言う。
ドアを叩く音はどんどんその音質を変えてきていた。叩いていると言うよりも殴っている。ぶち破ろうとしている。このままだとそんなに保たないだろう。
不安そうにみことが夫人を見るが、夫人はニッコリと笑みを浮かべるだけだった。
「これだよ」
そう言って相沢夫人はハンドル式のロックがついているドアを指で指し示した。そしてハンドルに手をかけると軽々とそれを回し、ドアを開ける。
「ここを真っ直ぐに行けば駐車場だから。誰かいたら一緒に連れて逃げてあげて」
「一緒に……一緒に逃げましょう!!」
「ダメだよ。彼を一人にしていけないし……それに……」
その時、初めて相沢夫人が少し悲しげな表情を浮かべたのにみことは気付いた。それが一体どう言うことなのか、それを尋ねようと口を開きかけた時、ドォンと一際大きな音がシェルター内に響き渡った。おそらくはあのゴリラのような異形がシェルターのドアをぶち破ったのだろう。
「ほら、早く! 後は任せたよ!」
夫人はそう言うと、みことを通路の方へと押し込んだ。そしてすぐさまドアを閉じるとしっかりとロックする。
「相沢さん!! 相沢さん!!」
目の前で閉じられたドアを見て、みことが叫び声をあげた。だが、その声は通路の中で反響するだけだ。向こう側で、目の前で閉じられたドアの向こう側で一体何が起こっているのかもはや彼女に知る術はない。おそらくはあのゴリラのような異形による殺戮が行われているはず。武器があったとしてもあいつらを倒すことなど出来はしないのだ。
しばしの間その場に座り込んでいたみことだが、やがて目に浮かんだ涙を手でぬぐい取ると通路の向こうへと走り始めた。どう言うつもりであの二人が自分を助けてくれたのかは解らない。だが、あの二人は自分に託したのだ。先にこの研究所から出ていった敵を追いかけていった仮面ライダーのバックアップとフォローを。あの怪物達を封印すると言うことを。罪無き人々を守ることを。泣いている場合ではない。一刻も早くこの研究所を脱出し、その仮面ライダー、獅堂 凱とコンタクトを取らなければ。
みことはそう思い、決意を胸に秘めひたすら通路を駆けていくのだった。

仮面ライダーZodiacXU

Episode.03「渇望する力−Power to desire−」

かなり広いリビングダイニングに高校の制服の上からエプロンをつけた少女が現れた。手にはフライパンとお玉。丁度部屋の中央辺りに立つと、少女は大きく息を吸い込んだ。
「朝だよっ!! 起きなさぁいっ!!」
大声で言いながら手に持ったお玉でフライパンを叩きまくる。はっきり言ってかなりうるさい。それが解っているから少女はちゃんと耳栓を装備している。
「……ふわぁ……」
欠伸を噛み殺しながら中年の男がこのリビングダイニングに続いている部屋のドアを開けて顔を見せた。
「朝から元気だなぁ、祐名……」
リビングダイニングの真ん中に仁王立ちになりながら未だフライパンをお玉で叩いている少女、相沢祐名を見ながらこの部屋の主、北川 潤は大きく伸びをした。
「あ、お早う、おじさん。ほらぁっ!! 後は一雪だけだよっ!!」
北川に向かって軽く頭を下げた後、祐名は更に激しくフライパンをお玉で叩く。叩きながら、もう一人の同居人が眠っている部屋へと近付いていく。相手は並大抵のことでは起きない。例え夜中に大地震があっても起きてこないだろうと言うぐらいに。
「一雪っ!!」
ドアを開けながら祐名が怒鳴る。
洗面所で歯を磨きながら北川はその声を聞いていた。
「早く起きなさいっ!! 今日も学校だよっ!!」
「……後5分……」
「5分で起きないでしょっ!!」
「じゃ30分……」
「増えてるし!!」
「じゃ3キロ……」
「単位が違う!!」
すっかり朝の名物となった祐名とその双子の兄妹、相沢一雪の攻防。それを聞きながら北川は今日もまた一日が始まったなぁと思っていた。

一雪と祐名の二人が北川の部屋で一緒に暮らすようになってから既に2週間が過ぎようとしている。そこで北川が知ったのは一雪が異常なほどに寝起きが悪いと言うこと。おそらく母親に似たのだろうが、起きるまで最低でも15分はかかる。それに対して祐名は非常に早起きだ。何時も先に起きて朝食の準備をしてくれている。夕食の準備などは一応持ち回り制にしてあるが朝食だけは常に祐名が作っていた。
「う〜………」
未だに眠たそうに目をショボショボさせている一雪の前に祐名が入れたてのコーヒーを置く。
「まったく……前よりも遠くなったんだから時間かかるよって何時も言っているのに」
どことなく不機嫌そうに祐名がそう言い、自分のイスに腰を下ろした。
「何だよ、ちゃんと起きただろ……」
「起きたんじゃなくて起こしたの! 私が!」
「まぁ、そりゃ確かにそうだな」
コーヒーを飲みながら北川がそう言った。そしておいてあった新聞を広げようとすると、すかさず祐名がそっちを睨み付ける。
「おじさん! 食事中に新聞広げない! 行儀悪いでしょ!!」
「あ、ああ……悪かった」
祐名の剣幕に北川はスゴスゴと引き下がるしかなかった。
これも一緒に暮らしだして知ったことだが、祐名はテーブルマナーに妙なくらい厳しい。正確にはテーブルマナーと言うほどでもないのだろうが、行儀については結構うるさい。食事中に新聞を広げたり、イスの上で膝を立てながら食事しようものなら容赦無く怒鳴られる。普段大人しいと思っていただけにちょっと意外な発見だった。それは一雪の寝起きの悪さも同様だが。
もしかしたら祐名は低血圧気味なのかも知れない。それなのに朝早く起きて食事を作り、なかなか起きない一雪を叩き起こしているのだからたいしたものだ。そんな事を考えながら北川は焼きたてのトーストに手を伸ばすのであった。
すったもんだの末に朝食を終え、まだ半分寝ているような感じの一雪を洗面所に放り込んだ祐名が忙しそうにテーブルの上を片付けている。それを見ながら北川は食後のコーヒーを楽しんでいた。これは祐名が入れたものではなく、自分で改めて入れ直したものだ。祐名が入れるコーヒーはなかなか美味しいのだが、北川の好みの濃さではない。だから自分の好みの濃さになるようにわざわざ湧かし直したのだ。
「ん〜、コーヒーはやっぱり入れたてに限るな」
そう呟き、先程止められた新聞を改めて開いた。
何処でどう言った報道管制が敷かれたのか解らないが、先日の異形の影による大量殺害事件は偶然そこで起こったガス爆発によるものと言うことになっていた。だからそれ以上のことはあれから一度も載っていない。
「まぁ、目撃者もそれほど沢山いるわけでもないからなぁ」
あの異形の影を見たものの大半が死んでいるのだ。騒ぎ立てられることもほとんどないだろう。しかしながらよく生き残れたものだ。一歩間違えればここに自分達はいなかっただろう。
「ほら、一雪! 行くよ!!」
新聞を読みながらふとあの夜のことを思いだしている北川の耳に祐名の少し焦ったような声が聞こえてきた。時計を見ると二人はそろそろ出ないといけない時間になっている。
「何だったら送ってやろうか?」
新聞を畳みながら北川が声をかけると、祐名がエプロンを外しながら首を左右に振って見せた。
「ダメだよ、おじさん。そこまで甘えられないよ」
「そうそう。ちょっと走れば間に合うよ」
言いながら一雪が洗面所から出てきた。ようやくちゃんと覚醒したらしい。何時の間にやらパジャマからちゃんと高校の制服に身を包んでいる。
「そうか? いや、今日は仕事の打ち合わせで出掛けなきゃならないからな。ついでに送って行ってやろうかと……」
少し残念そうに北川が言う。
「それじゃ行ってきます」
「おう、気をつけてな」
二人が出ていくのを見送った後、北川はゆっくりと立ち上がり、出掛ける準備を始めるのであった。

祐名と一雪が通う高校の最寄り駅。到着した電車から二人と同じ制服を着た学生達が我先に改札を抜け、そして学校へと向かっていく。そんな学生で一杯の駅前広場の外れに一台の黒いバンが止まっていた。
そのバンの前には引きつり気味の愛想笑いを浮かべた男が立っており、急ぎ足で進んでいく学生達に何かのチラシを配っている。いや、学生ばかりではなく、この駅を利用する人達全てに、だ。だが、その大半は相手にもして貰えず、たまに受け取って貰えてもすぐに捨てられてしまっている。
「獅堂さ〜ん、少しは手伝ってくださいよ〜」
泣きそうな顔をしながらバンの助手席の方を振り返る男。だが、バンの助手席にいるはずの相手は何の返答も返さなかった。男がそっと覗き込むと助手席のシートを思い切り倒し、ご丁寧にアイマスクまでして眠っている男の姿が見えた。
「ハァァ………」
思わずため息が零れ出る。
朝早くに叩き起こされ、何かと思えばチラシ配りをしろと言われ、そしてやって来た駅前は学生の方が多いと来た。更に一緒に来た人間はまったく手伝う気がないようだ。一体何しに来たのやら。と言うか、自分は一体何でこんな事をしているんだろう。そんな事を考えると段々気が滅入ってくる。
「ハァァァァァ……」
今度は先程よりも長い目のため息をつき、敷島慎司は空を見上げた。雲一つ無いいい天気だ。この調子だと今日は暖かいに違いない。
とりあえず渡されたチラシを全て配り終えるまでは戻れないのだ。気を取り直し、敷島はまた愛想笑いを浮かべて駅に向かう人、駅から出てくる人にチラシを渡す努力を再開するのであった。

駅から出てきた祐名と一雪は駅前の広場で道行く人々に手に持ったチラシを配ろうと努力をしている男の姿を見つけると、足を止めた。
「ねぇ、一雪……あの人って」
「うん、この前僕達を助けてくれた人だね」
北川のマンションに引っ越す前、とある繁華街で異形の怪物に二人と北川は襲われた。その時、怪物を倒してくれたのは仮面ライダーレオだが、その仮面ライダーと一緒にいたのが今必死にチラシを配っている男なのである。
「知ってる人? あの仮面ライダーの人は知ってたみたいだけど」
「仮面ライダーレオ……獅堂さんは何回か会ったことあるけど、あの人は知らないなぁ。多分父さん達とはセクションが違ったんじゃないかな?」
「そうなんだ」
「僕は何回か遊びに行ったことがある程度だからね。あそこにいた人と全部知り合いな訳じゃないよ」
「それもそうよね」
二人はじっとチラシを配っている男、敷島の方を見ながら喋っていたが、敷島の方はチラシを配ることに必死になっていて二人のことにはまったく気付いていなかった。
「でも……何やっているんだろう?」
「さぁ? 何か配ってるみたいだけど……貰ってくる?」
祐名の疑問に一雪がそう言うと、祐名は首を左右に振った。
「あんまり関わり合いたくないな、あの人達とは。何となくまた襲われそうな気がして……」
不安そうな表情を浮かべる祐名。ここ最近一度ならず二度、三度も命に関わるほどの出来事に巻き込まれ、その度に辛うじて生き延びている。出来るならばこれ以上そう言う事態には遭遇したくない。
「それもそうだね。それじゃそろそろ……」
そう言って一雪が歩き出そうとすると、そっとその背中に忍び寄ってくる影があった。一雪も祐名もその影には気付いていない。それをいいことにその影は一雪と祐名の真後ろにまで接近すると、ドンと乱暴に一雪の背中を叩いた。
「よぉっ!! 相沢ツインズ!!」
まるで相手を驚かせるつもりのような大声。勿論一雪の背を叩いた人物には驚かせるつもりはない。これが彼の地声なのだ。
「……誰かと思ったら天海君か」
振り返った祐名が声をかけてきた人物を見てそう言うと、天海、と呼ばれた少年は彼女に向かって軽く手を挙げてみせた。
「痛いよ、天海……それにうるさい」
非難めいた目を天海少年に向ける一雪。だが、天海少年はそんな一雪の視線を何処吹く風と受け流している。
「なんだなんだ、朝っぱらから辛気くさい顔してるよな〜、一雪」
「何時もと同じだよ、僕は」
「それに比べて祐名ちゃんは何時もいい表情してるよな〜。可憐というか何と言うか」
「……天海、見え見えのお世辞はよすべきだと思うよ」
「まぁ、こんな辛気くさい奴はほっておいて。それじゃ参りましょうか」
そう言って天海少年が祐名に向かって手を差し伸べる。
すっかり無視された形の一雪は少々ムッとしたような顔をしていたが、黙って天海少年が差しだしている手を横から掴んでやった。
「なっ!?」
「それじゃ参りましょうか、天海君」
嫌味たっぷりにニッコリと笑い、一雪が歩き出す。
「お、おい! 俺は男と手を繋いで歩く趣味はねぇっ!!」
一雪に手を引っ張られている天海少年が情けない声をあげると、一雪はその手をパッと離し彼の方を振り返った。
「僕にもそう言う趣味はないよ」
「……お前なぁ……」
呆れたようにため息をつく天海少年。
そんな二人のやりとりを見ていた祐名はくすくす笑っていた。
一雪と祐名、そしてこの天海 守は中学時代からの友人同士である。高校も同じで、更にはクラスまで一緒。一雪と天海は揃って「腐れ縁」だと言っているが、実際のところいいコンビのような感じだ。ちなみに天海はどうも祐名に惚れているような節があるが、祐名はまったく気がついておらず、一方通行もいいところだった。
「ところでそろそろ行かないとやばいんじゃないか?」
天海が腕時計を見てそう言うと、一雪と祐名もそれぞれ自分の腕時計を見た。確かに彼の言う通り、ちょっと急いだ方がいい時間になっていた。
「それもそうね。そろそろ行く?」
「行かないでどうするんだよ」
「そいじゃ参りますか」
3人が揃って歩き出す。その様子を黒いバンの中から獅堂 凱が見つめていたことには勿論知るはずもない。3人の姿が見えなくなると獅堂はダッシュボードの中からこの辺りの地図を取りだし、3人が何処に向かっているのかを確認した。
「なるほど……俺に監視しろと言う訳か」
ボソリと呟き、アイマスクの代わりに今度はサングラスをかける。車の外では敷島がまだチラシを配っているが、あまり芳しくはないようだ。彼を手伝ってやろうという気は更々無いが、見ていて苛々してきたので自らもバンの外に出る。
敷島はチラシを配るのに必死になっており、獅堂が外に出てきたことにまったく気付いていない。それをいいことに獅堂はその場から離れるのであった。

都内にあるとある大手出版社のビル。その地下駐車場に北川の運転する大型バイクが入っていく。彼の目的地はこのビルの8階にある編集部だ。大型バイクを駐車場に止め、エレベータで8階へと向かう。
「よっ、編集長いる?」
受付嬢に向かって無駄に笑みを振りまきながら北川が問うと、受付嬢は彼に向かって愛想笑いを返しながら奧を指さした。
「毎度ながらサンキューね。よかったら今度食事でもどう?」
「北川さんのお薦めの店じゃなかったら考えてもいいですよ」
「OK、今度いい店探しておくよ」
言いながら受付嬢に手を振り、北川は編集部の奥へと進んでいく。勝手知ったる何とやら、と言うわけでもないがこの編集部には何度も足を運んでいる。顔見知りの編集部員に軽く挨拶しながら、一番奥にある大きなデスクの前に向かうとそこで偉そうにふんぞり返っている中年男に声をかけた。
「よっ、編集長」
「おう、北川ちゃん。丁度良いところに来てくれたよ」
編集長と呼ばれた男は北川に気付くと、笑みを浮かべて立ち上がった。そして北川を連れて編集部の隣にある会議室へと入っていく。
「何々、今度は何させようってのさ?」
「こないだのさ、レポート評判良くってね〜。うちの社長からほら、報奨金が出ちゃった訳よ」
そう言って編集長が上着のポケットの中に折り畳まれていた封筒を北川にちらっと見せる。
「おお〜。で、何、何処連れてってくれるんだ?」
「フフフ……で、どう、北川ちゃん。また海外とか?」
そう言いながらニヤリと笑う編集長。
その笑みを見た北川は何か嫌な予感を覚え、乗り出していた身体を少し退く。
「何だよ、またそうやって人に変な仕事押しつけようとする気?」
この編集長との付き合いもそれなりに長い。今までこうやって何度騙され、奇妙な仕事を回されてきたか。中には命懸けだった仕事もあるのだ。まぁ、それだけに彼の書くレポートや記事は評判がいいのだが。
「いやいやいや、今度はマジでリゾート。本気と書いてマジと読むくらいの勢いでリゾート」
「……またまた。そう言ってリゾート開発に絡む汚職とかそう言うののレポート書かす気じゃないの?」
「疑い深いねぇ、北川ちゃん」
今度は苦笑を浮かべる編集長。
「あんたのおかげでね。少しは人を疑うって事を覚えたよ」
同じような苦笑を浮かべ、北川が肩を竦めてみせる。
「酷いこと言ってくれちゃって。でも、今回は本当の本当、マジにマジでリゾート。休暇ついでにそこのリゾートを紹介するレポートの一つでもあげてくれたらいいから」
「やっぱり仕事じゃないか」
「まぁまぁ。ちゃんといいホテル用意してあるし。それに宿泊費もこっち持ちで、どう?」
「悪い話じゃないんだけどなぁ。生憎、ちょっと海外に行けるような状況じゃないんだわ、こっちが」
少しだけ申し訳なさそうに言い、北川は編集長を見た。この編集長には騙されたこともあったが、それ以上によく世話になっている。こうして様々な仕事を回してもくれるのだから、出来ることならいい返事を返したいところであったが、今はそうもいかないのだ。何と言っても同居人のことがある。あの二人をほっておいて一人だけ海外のリゾートへ行くわけにはいかなかった。
「仕事があるなら出来れば東京都内で済むのにして欲しいんだけど」
「そうそう都合良く都内で済むようなのってないよ。北川ちゃんには是非ともあのリゾートの話、やって欲しかったのに」
編集長は心底残念そうにそう言う。
その様子を見て、何となく北川はリゾートの話にも何か裏がありそうな気がしてきた。だが、それを口にはしない。
「その話は誰か別の奴に回してやってくれよ。ところで今日はちょっと頼みがあって来たんだけどさ」
「珍しいねぇ、北川ちゃんからお願いだなんて」
「茶化さないで聞いて欲しいんだけどね、編集長。あんたのその広い顔を最大限に頼りにしてるんだから」
そう言った北川の顔は真剣そのものだ。それに気付いた編集長もどうやらただ事では無いと言うことを察したらしい。表情を引き締め、北川の方に向き直る。
「何? どったの?」
「ここの住所にあった研究所のこと、何でも良いから調べて欲しいんだ。俺も俺なりに調べてるんだけど個人じゃどうしても限界があってね」
北川はそう言いながらポケットの中から折り畳んだメモを取りだし、それをすっと差し出した。それから急に周囲をぐるりと見渡す。
そんな北川の様子を見ながらも編集長は差し出されたメモを拾い上げ、開いてみた。そこに書かれてあるのは本当に住所だけ。北川が言った研究所のその名前すら書かれていない。
「……なんかやばいことに首突っ込んでんじゃないの、北川ちゃん?」
「さぁな。本気でやばいことだったらすぐに手を引いてくれて構わない。あんたの身に危険が迫ったら元も子もないからな」
「脅かしっこ無しだよ、北川ちゃん」
「驚かせるつもりはないんだけどな。ここには今俺が預かってる連中の両親が働いていたんだが……それが今行方不明でな。消息を探そうにもどう言った研究所で何処の企業のもだとかそう言うことも解らないんだ。おまけに火事起こしてもう建物とか何も残ってないし」
北川の説明を聞いた編集長は少しの間難しい顔をしていたが、やがて手に持っていたメモを折り畳んで自分の上着のポケットの中に突っ込んだ。
「雲を掴むような話だけど……OK、引き受けた。何と言っても北川ちゃんの頼みだもんね」
「助かるよ、編集長。この礼は必ず」
「それなら仕事で返して頂戴。とりあえず何か解ったら連絡するよ」
そう言って編集長が立ち上がる。会議室から出ていこうとして、不意に思い出したかのように足を止め、北川を振り返った。
「この報奨金、半分は北川ちゃんの口座に振り込んでおくわ。それと……何、誰かに見張られでもしてるの?」
「あ、いや……そう言うわけでもないんだけど……何となくね」
言葉を濁す北川。先程周囲を見回したのは何となく視線を感じたような気がしたからなのだが、確証があるわけでもない。だから何も言わなかったのだが、その誰かに見張られているような気がしているのは先日、あの壊滅した研究所の様子を見に行って以来のことだ。一体誰が、何の為に自分を監視しているのか。いや、それは自分の考え過ぎなのかも知れないのだが。
とりあえず編集長と別れた北川は編集部をでると、すぐさま地下駐車場に向かった。自分の大型バイクの側まで来ると、また誰かに見られているような感じがしたので、足を止めて周囲をぐるりと見回してみる。
「……気の所為って奴かね?」
並んでいる車を見ながらそう呟くと、ヘルメットを被り、大型バイクに跨り、エンジンをかけた。
北川の大型バイクが地下駐車場から出ていくのを待ってから、一台の車が動き出した。その中には何時か北川が壊滅した研究所を訪れた時、少し離れたところで彼の様子を監視していた黒服の男達が乗っている。
「……なかなか勘のいい奴だな」
「だが、まだ気付いたわけでもないだろう」
「とりあえず若と奥様に報告しないとな」
黒服達を乗せた車が地下駐車場を出ていく。

祐名や一雪達の通う高校を見ることの出来る大きな木の上に獅堂はいた。手には双眼鏡を持ち、高校の方を覗き込んでいるその姿は一歩間違えれば変態そのものだ。しかし、彼は巧妙にその姿を枝の中に隠しているのでしたから見つけられることはなかった。
「……二度あることは三度ある……が、本当に来るか?」
静かにそう呟く獅堂。
今彼が監視しているのは一雪と祐名の二人だ。あの二人は研究所の時、病院の時、そしてこの前の繁華街の時と3度もあいつらに襲われている。その度にうまく生き延びているのは一体どう言う幸運なのか。その場その場にたまたま自分がうまく居合わせてしまったこともあるのだろう。だが、それでもあの怪物達を前にして3度も生き延びたというのには驚かされる。あの人の命をエサとしか思っていないような奴らを前にして、だ。
『決してそれは偶然じゃないんじゃないかしら』
不意に脳裏に思い浮かんだのは仲間である卯月みことの声だった。

それは先日のことである。
とある古ぼけた雑居ビルの3階のある一室。事務所風に設えてあるその部屋で獅堂はソファの上にドデンと腰を下ろし、その前にあるテーブルの上に足を投げ出していた。
「それで?」
そう言いながらソファの向こう側に並べられてあるスチール製の机のの上に置かれたパソコンに向かい合っている卯月みことを見やる。
「こう言う言い方はあまりにも非科学的でしたくはないんだけどね。あの3人と私達、特に獅堂君、そしてあいつらとは何か運命的なもので繋がっているような感じがするのよ」
「運命的、ね」
少し小馬鹿にしたような感じで獅堂が言ったので、みことがムッとしたような顔をして獅堂の方を向いた。
「偶然にしちゃ出来過ぎじゃない。地刑星と地狗星、偶然にもその両方に命を狙われたこと、そしてそこに偶然にも獅堂君が出くわして3人を結果的に助けることになったこと」
「確かに偶然もそこまで来れば何か別のものって気もしてきますね」
そう言いながら敷島が給湯室から姿を見せた。手にはお盆を持ち、その上にはコーヒーカップが3つ。獅堂、みこと、そして敷島本人の分だろう。
「更に言えば獅堂君は偶然にもあの3人を見知っていると言うこと……偶然もここまで来れば何処かで必然になってもおかしくないと思うけど?」
敷島がデスクの上に置いたコーヒーカップを手にしながらみことが言う。
「生憎だが俺が見たことがあるのはあの3人の中では二人だけだ。それもどっちも話したことすらない」
獅堂がそう言いながら足を投げ出しているテーブルの上に置かれたコーヒーカップに手を伸ばした。そのコーヒーカップの中に入っているのはミルクと砂糖がたっぷり入ったコーヒーである。
「それでも見たことはあるんでしょう。とにかくよ、サーチレーダーに何の反応もないんだから、あの3人を見張っていても特に損はないと思うわ」
「……何であの3人を見張るんです?」
そう尋ねたのは敷島だった。どうやら獅堂も同じ意見だったようで、理由を話せと視線だけでみことに問いかける。
「あの3人は偶然にも地狗星、地刑星に襲われた。2度あることは3度ある。可能性としては次もまた襲われるかも知れない」
「それはまぁそうかも知れませんが……」
「随分と頼りないな、それだけじゃ」
男性陣はまだみことの発案に疑問的なようであったが、例の怪物達を見つけだす手段が無い以上、その案に乗るしかなかった。
「あの3人のうち、二人は高校生ね。相沢一雪と相沢祐名。共に私立の城西大学付属高校の1年生。もう一人のおじさんの方はまだ調べてる最中だけど」
パパッとキーボードを操作してモニター上に二人のデータを呼び出すみこと。これはこの間、地狗星に襲われた時に祐名が持っていた学生証から調べだしたデータだ。勿論、非合法的な手段を使ってだが。
「とりあえずどうします?」
敷島がそう尋ねるとみことはニヤリと笑って彼の方を向いた。
「あの二人を見張るついでにここの宣伝も兼ねていい方法があるのよ」
そう言ってみことはパソコンのおいてあるデスクの横に積み上げてあった段ボール箱を指さした。
何となく嫌な予感のした敷島だったが、恐る恐る段ボール箱を開いてみると、そこにはびっしりと詰まったチラシの束。それにはここの住所とかが書き込まれてある。
「……これって?」
「敷島君。ここの家賃とか光熱費とか、更には車のガソリン代とか私達の食費とかも稼がなきゃいけないの。頑張って頂戴。獅堂君も」
少し目を潤ませながらみことがそう言い、敷島、そして獅堂の順で二人を見やる。唖然とした顔の敷島とあからさまに視線を背ける獅堂。

おそらく敷島は未だにチラシを配っていることであろう。だが、それを手伝う気は更々無い。それよりもあの二人の様子を見ている方が大事だ。もしも、みことの言う通り、奴らが襲ってきたら……その可能性が一体どれだけあるのかは解らないが、その時こそ自分の出番だ。すぐにでも飛び出していって仕留めてやる。どんな奴が相手だろうと負ける気はしない。
そんな事を考えながら獅堂は二人の監視を続けていた。

獅堂が一雪と祐名の監視をしているのと同じ頃、北川は自分のマンションにまで戻ってきていた。まだやりかけの仕事が残っている。とりあえずそれを仕上げてしまわないことには話にならない。
大型バイクを地下駐車場に置き、上に上がってくると入り口のところで運送屋が困っているところに出くわした。
「よぉ、どうしたんだい?」
北川が気さくに声をかけると運送屋は助かったと言うような顔をして彼を振り返る。
「すいません、この部屋なんですけど」
そう言って運送屋が持っていた大きめの箱を北川に見せた。その箱の表面に張られている伝票に書かれてあったのは北川の部屋のナンバーだった。それに気付いた彼がニヤッと笑う。
「こいつは俺んとこのだな。受け取っておくよ」
そう言って箱を受け取り、運送屋が持っていた別の伝票にサインをしてからオートロックを解除する。エレベータに乗ってから手に持った箱を色々と眺め回してみた。何処にでもありそうな段ボールの箱、それほどの大きさではないが片手で持つには少し余る大きさだ。重さもそれほどではない。
「何なんだろうねぇ……差出人も不明だし」
訝しげな顔をして箱を手の上で軽く回してみる北川。
何となくだが、嫌な予感がする。この箱を開けると何かとんでもないことに巻き込まれてしまうような、そんな予感がひしひしとする。
「なーんかやな予感がするねぇ〜」
そんな事を呟きながら自分の部屋まで来た北川は玄関を開けて中に入り、リビングダイニングにある大きめのテーブルの上に箱を降ろした。そしてすぐにその梱包を解いていく。蓋となっている部分を開けると中には梱包材がたっぷりと詰められていた。大きさに比べて妙に軽い感じがしたのはおそらくその為だろう。
「何が入っているのかな〜?」
先程は嫌な予感がしていたのに、いざ開けるとなると何が出てくるか楽しみなような気がするから不思議だ。だが、同時に中を見てはいけないと言う警報のようなものを何処かで感じている。
梱包材をどかしていくと中から出てきたのは長方形の箱のような装置であった。それに彼は何となく見覚えがある。確か、自分を二度も怪物から助けてくれた奴が持っていたのと同じような。
「……マジかよ?」
少し頬を引きつらせながらその装置――ゾディアックガードルを手に取ってみる。すると、その下から一枚のカードと二つに折り畳まれた手紙が出てきた。手に取ったゾディアックガードルを横に置き、手紙を取り上げる。二つ折りになったその手紙を開き、その内容を読んでいくうちに彼の顔色が段々と変わっていく。手紙を読み終えた彼はグシャッとその手紙を握りつぶすと怒りに拳を振るわせた。
「あ、あの野郎……勝手な事ばかり言いやがって……!!」
怒りにまかせて握りつぶした手紙を床に叩きつける。
少しの間そのまま床に叩きつけた手紙を見つめていた北川だが、やがて落ち着きを取り戻した彼は叩きつけた手紙をそっと拾い上げた。個人的な感情で床に叩きつけたが、一応これは残しておくべきだろう。だが、これを同居人の二人に見せるのはまずい。少なくても今はまだ。だから何処かに隠しておくべきだろう。
しかし、箱に入っていたもう一つ……いや、こちらこそがメインなのであろうものは果たしてどうするべきか。ゾディアックガードル。あの男はこれとカードを使って仮面ライダーに変身していた。これを自分の元に送ってきたと言うことは自分にも仮面ライダーになってあの化け物達と戦えと言うことなのだろう。事実その辺のことは一緒に入っていた手紙にも書かれていた。
「冗談じゃない……確かに力が欲しいとは思ったが……何で俺が……」
そう呟いた北川の声はどことなく震えている。だが、それを本人はまったく自覚していなかった。

城西大学付属高校の裏手には通称裏山と呼ばれる小高い丘がある。今まででの卒業生達が植樹などをしたおかげでそこはかなりの緑に覆われていた。
その緑の木々に紛れ込むかのようにして一体の異形が潜んでいる。いや、潜もうと努力しているのだが、その巨体の為に隠れ切れていない。口からはダラダラと涎を垂らし、荒い息をしながらじっと城西大学付属高校の校舎のある方を見つめている。そこに大量の獲物がいることを理解しているのだ。封印から解放されて、あの研究所を襲って以来、ろくにエネルギーの補給をしていない。そろそろ大量にエネルギーを補給しておかないと自分がやられてしまう。いつ、何時、誰に襲われてもいいように、エネルギーだけは補給しておかなければ。でなければ勝ち残ることなど出来るはずもない。
じりじりと校舎のある方へと進んでいく異形。
と、その異形の背後に何の気配もさせずに真っ白いコートを着た、サングラスの男が姿を現した。
「フフフ……こんな所にいたのか、地暴星」
白いコートの男はそう言うとニヤリと笑みを浮かべる。
「お前の力ならあの仮面ライダーも手こずるだろう……楽しませて貰うぞ」
その声に異形が振り返るが、その時にはその場に白いコートの男の姿はなかった。現れた時と同じように何の気配もさせずに、そして雲か霞のように消えてしまったのだ。
異形は少しの間首を傾げていたが、やがて何事もなかったようにまた校舎の方に向き直った。あまりものを深く考えることは苦手である。何事も単純が一番だ。そして今一番に優先させることは足りないエネルギーを補給すること。飢えを満たすこと。欲望を満たすこと。
異形が一歩一歩校舎へと近付いていく。その姿は丁度校舎の反対側にいる獅堂には校舎が影となってまったく見えていなかった。

「やれやれ、まったくかったるいことですなぁ」
グラウンドに出ながらそう呟いたのは天海だ。
「何が悲しくて4時間目に体育なんだか……」
「時間割だから仕方ないだろ」
そう言ったのは少し後方を歩いている一雪だ。二人とも城西大学付属高校指定の体操服に着替えている。どうやらこの時間の授業は体育らしく、他にも同じ格好をした男子生徒が続々と校舎の中から出てきていた。
「女子はいいよなぁ……調理実習だなんて」
「なら天海も行ってくればいいじゃないか」
「馬鹿、女ばっかりの中に一人男入って料理なんか出来るか」
「へぇ、天海って料理出来たんだ」
「出来るわけねーだろ。男子厨房に入らずって奴だ」
「……その考え方は古いよ、天海」
何故か自信たっぷりに天海が言ったので一雪は苦笑を浮かべて肩を竦めるのだった。
それから少しして授業開始を告げるチャイムが聞こえて来、やや遅れて体育の教官が押っ取り刀でやってくる。この日の授業は生徒全員から不評の上がる持久走だった。
「おいおい、4時間目だぜ〜」
「もたねぇよ〜」
やはり生徒達の口から不平不満の声が上がるが体育の教官はそれをあっさりと無視して生徒達を走らせはじめた。
皆ぶーぶー言いながら仕方なさそうに、そしてやる気無さそうに走りはじめる。お昼前の空腹時に持久走などろくなものではない。誰もが同じ事を考えていた。ある意味当然である。
同じ頃、校舎の1階にある調理実習室では一雪や天海と同じクラスの女子生徒達が調理実習を行っていた。男子達の憂鬱な雰囲気と違ってこちらは何とも華やかでかしましい。そのままお昼休みに突入すると言うこともあって、何とも和気藹々とした雰囲気が漂っている。
「よろしいですわねぇ、相沢さんは。お料理が得意で」
そう言ったのは祐名と同じ班になった女子生徒の一人、白鳥真白だ。白鳥家と言うそこそこ名家のお嬢様で、勿論料理などしたこと無いと言う典型的なタイプ。少々嫌味っぽいが基本的にいい人なので嫌われていることはない。
「祐名ちゃんは家で自分でご飯作っているんだもん。当たり前だよね〜」
真白とちょっと困ったような顔をしている祐名の間に割って入ったのはやはり同じ班になった小柄な女子生徒、磯谷 桜だった。背は低いが人懐っこく、誰とでもすぐにうち解けることの出来る彼女はこのクラスの人気者である。その小動物的な愛らしさがポイントらしい。どうも彼女自身祐名をかなり気に入っているらしくいつも祐名の後ろにくっついていることが多い。
「あなたに話しかけているのではございませんわ、ちびっ子。私は相沢さんに話しかけているんです」
「あ〜、また真白ちゃんがあたしのことちびっ子って言ったぁ〜!!」
「あら? ちびっ子をちびっ子呼ばわりして何か悪かったかしら?」
「あ〜、またぁ〜!! それも2回も〜!!」
桜が真白を指さして喚く。その顔は半泣きだ。どうやら密かに自分の背が低いことを気にしているらしい。
「祐名ちゃ〜ん、真白ちゃんが苛める〜」
「よしよし……白鳥さん、桜ちゃんに謝って」
自分に抱きついてきた桜をなだめるようにその頭を撫でてやりながら祐名は真白の方を見た。その顔にはちょっと困ったような表情が浮かんでいる。
「あら、私が謝る理由がありませんわ。事実を言ったまでですもの」
真白はぷいとそっぽを向いてそう言い放つ。
「事実は事実かも知れないけど、あまりあからさまに言うこと無いと思うよ」
「祐名ちゃん、それってフォローになってない……」
涙目の桜が祐名を見上げて言うが、祐名はあえて聞こえないふりをした。今はこの騒動を治める方が先だ。そうしないと……。
「相沢さん、白鳥さん、磯谷さん、何を騒いでいるんですか!!」
そう言って3人の方にやってきたのはやはり同じ班になった初野華子だった。彼女はクラス委員長も務める真面目でちょっとお堅い才女。さっきまで家庭科の教師に何やら質問しに行っていたのでこの場にはいなかったのだ。いれば真白と桜がああ言う騒ぎを起こすこともなかっただろう。
「あ、委員長。ゴメンね、ちょっと……」
祐名が半ば助かったという表情を浮かべて華子の方を見る。
「またいつもの騒ぎですか……白鳥さんも磯谷さんも飽きませんね」
祐名の顔から何があったのかを察した華子がため息をつきながらそう言った。真白と桜のああ言うやりとりは今日に限ったことではないらしい。その度に祐名がそれに巻き込まれ、更にその始末に華子が引っ張り出されることも少なくないのだ。そう言う縁からこの4人はいつしか一緒のグループとして周りに認識されるようになってしまっている。
「あら、私は何も悪くはありませんわ」
「嘘だぁ〜。真白ちゃんがいつもあたしの悪口言うんじゃない!」
「悪口なんて言ってません。言ったのは事実のみです」
「むか〜。もう怒った!」
桜がそう言って祐名から離れると、真白に掴みかかろうと彼女に向かっていく。だが、それを華子が制止した。
「そう言うことは授業が終わってからにしてください。まったく……私達の班だけ遅れているんですよ!」
華子にそう言われて他の3人が周囲を見回すと他の班の生徒達は皆調理を始めていた。どうやら真白と桜が騒ぎを起こしている間にかなり後れを取ってしまったらしい。
「時間内に出来なかったらお昼休みを……」
「大丈夫! あたし達の班には祐名ちゃんがいるもんね!」
少し不安げな華子に向かって何故か自信たっぷりに桜が言い放った。
「え? 私?」
いきなり自分の名を出された祐名が目を丸くする。
「相沢さんはいつもお家でお料理なさっているんでしょう? なら安心ですわ」
何故か真白も安心しきったような表情で桜に同意していた。
そう言われて華子も祐名の顔を見、そして頷く。
「それもそうね。相沢さんがいれば安心だわ」
「委員長まで〜」
どうやら遅れを取り戻すのは祐名の役目になってしまったらしい。他の3人……真白は料理などしたことがないだろうから論外として、桜も華子も料理の腕前はどっこいどっこいだろう。二人が家で積極的に料理をしていると言う話は聞いたことがない。桜はお菓子作りなどが好きだと話していたことがあったような気もしたが、好きだと言うのと実際に作ると言うのはまた話が別だ。このメンバーだと祐名の負担は大きい。更に遅れを取り戻すとなると。
「ハァァ……」
ため息をつきつつ、祐名は置いてあった包丁を手に取るのであった。

ガシャーンと言うガラスの割れる音が聞こえてきたのは4時間目が終わる直前だった。
グラウンドにいた一雪や天海達は持久走によって地面の上にだらしなく座り込んでいたが、その音を聞くとハッと顔を上げた。
「何だ?」
「誰か暴れ出したか?」
クラスメイトが疑問を口にする中、一雪は何とも嫌な予感を覚えてさっと立ち上がっていた。そして校舎に向かって走り出す。
「おい、一雪! 何処行くんだよ!!」
走り出した一雪を見て天海も立ち上がり、彼を追いかけて走り出した。
更にその様子を双眼鏡で覗いていた獅堂も何かあったとすぐに感づき、木の上から飛び降りる。
「本当に来たか!」
地面に着地すると同時に学校に向かって走り出す。
「こうなると偶然とは言っていられないな……」
そう呟きながら。
一方、ガラスを割って校舎の中に潜入したのは、やはり裏山にいた異形だった。ゴリラのような姿の異形はその太い腕でガラスをまるで紙を破るかのように簡単に割ると校舎の中にのっそりと侵入したのだ。そして周囲を鼻を利かせながら見回す。何処に獲物がいるかを嗅ぎ出すかのように。
ゴリラのような異形がゆっくりと歩き出す。どうやら獲物を見つけたらしい。しかもかなり大量に。これだけいればエネルギーの補給には充分だろう。涎だらけの口元を歪めて笑みのようなものを形作る。その足の向かう先には祐名達がいる調理実習室があった。

調理実習室の中では女子生徒達が自分達で作った料理を試食しながらわいわいと騒いでいる。家庭科の教師もあえてそれを止めようとはせず、何処かのグループに入って一緒になって話に参加していた。
そんな中、祐名だけは何やらしきりに外の方を気にしていた。まるで何かがこちらに向かってきていることに気付いているかのように。
「どしたの、祐名ちゃん?」
先程から何か落ち着かない祐名に気付いた桜がそう声をかけると、祐名は慌てて取り繕ったような笑みを浮かべた。
「な、何でもないよ」
「何でもないと言うことはございませんわね」
そう言ったのは真白だ。彼女も挙動の不審な祐名に気付いていたらしい。いや、気付かない方がおかしいのだが。
「先程からそれだけ落ち着きを無くしている相沢さんを見るのは初めてですわ」
「私も白鳥さんと同意見ね。何をそんなに気にしてるの?」
華子もそう言って祐名を見る。
「あれかな、誰か来るのを待ってるとか」
「……それだと……相沢君かな? 仲いいもんね」
「ち、違うよ〜。そんなんじゃなくって……」
「そう言う委員長こそ天海君が来るのを待っているんじゃありません事?」
「なっ! 何で私が守のことなんか!!」
「あ、華子ちゃん赤くなったぁ〜」
「ま、守はただの幼馴染みで……そう言うのじゃありませんっ! それに磯谷さん、私のことを華子って呼ばないでください!!」
「何で〜? 華子ちゃんは華子ちゃんじゃない」
「そうやって必死に否定するところが怪しいですわね」
顔を真っ赤にしている華子にちょっと勝ち誇ったような顔の真白、そして理解出来ないと言う風に頬を膨らませている桜。そんな3人をよそに祐名はまだ教室の外が気になっていた。何か嫌なものが来る。それはもはや予感ではなく確信。ここ最近で連続して起きた命に関わるような出来事 、それが彼女の直感をより鋭くさせているのだろうか。
ガタッと音をたてて立ち上がる祐名。それがあまりにも突然だったので隣に座っていた桜がビクッと身体を震わせて立ち上がった彼女を見上げた。
「祐名ちゃん?」
桜が声をかけてくるが祐名には聞こえていなかった。思い詰めたような表情をして、無言で調理実習室から出ていこうとする。
「相沢さん、何処に……」
華子が祐名に声をかけようとした時、教室の後ろの方で誰かの悲鳴にも似た金切り声が上がった。皆がそっちを見ると、教室の外にゴリラのような異形の姿が窓ガラス越しに見えた。
「……!!」
祐名も異形の姿を見、そしてすぐさま教室の外へと飛び出した。
廊下にいたゴリラのような異形はかなり体格がいい。廊下の天井にその頭部が届きそうなほどだ。物凄く太い腕。祐名の身体ほどもある。あれで殴られれば一溜まりもないだろう。
「な、何が目的なのよ!!」
恐怖をこらえて必死に叫ぶ祐名。
その声にゴリラのような異形が彼女の方を向いた。
「いつもいつも……あんた達って何が目的で現れるのよ!!」
祐名がそう言うが、ゴリラのような異形は首を傾げるだけだった。どうも祐名の言っていることが解らないらしい。人の言葉を理解するだけの知能が足りないのか。
それでも祐名は必死で叫ぶ。どうしてこいつらは自分の大切なものの前に何度も現れるのか。一度目は両親を。二度目と三度目は双子の兄妹と後見人になってくれたおじさんと。今は大切なクラスメイトを。何か自分に恨みでもあると言うのか。何で自分から大事なものを奪おうとするのか。
「何なのよ、あんたはぁッ!!」
祐名の声にのっそりとゴリラのような異形が動き出す。まずはうるさいこの小娘からだ。この小娘を叩き潰した後は、部屋の中にいる連中。その次はこの建物の中にいる奴ら。これだけいればエネルギーの補給には困らない。
祐名の前まで来たゴリラのような異形はゆっくりとその太い腕を振り上げた。
呆然としたまま、それを見上げている祐名。既に恐怖で声も出なくなっている。あの腕が振り下ろされれば全ては終わりだ。前回、前々回と偶然にも助けが入ったが今回も助けが来るとは思えない。何しろここは他から隔絶された学校の中だ。この場にあの仮面ライダーが現れるはずがない。
「あ……ああ……」
ゴリラのような異形が振り上げた腕を振り下ろそうとしたその時、いきなりその顔面に白い泡状のものが吹き付けられた。
「祐名っ!!」
その声と同時に一雪が呆然としている祐名の肩を掴んで後ろに引き寄せた。入れ替わるように消火器を持った天海が二人の前に飛び出してくる。
「天海、よせっ!!」
「この野郎!!」
一雪が制止するのも聞かず、天海が持っていた消火器でゴリラのような異形を殴りつけた。
だが、ゴリラのような異形はそれに怯むことなく、顔についた白い泡状の消火液を手で拭うと目の前にいる天海をじろりと睨み付ける。そして虫でも払うように軽く手を振り、天海を弾き飛ばした。
「天海っ!!」
「天海君っ!!」
二人の見ている前で吹っ飛ばされた天海が廊下の上を転がる。
「こ、このっ……よくも天海を!」
そう言って一雪が祐名を押しのけるようにして前に出、そしてそのままゴリラのような異形に向かっていった。もとより敵うとは思っていない。だが、それでも親友とも言える天海を傷つけられたのだ。とてもじゃないが、そのまま黙っていることなど出来るはずがなかった。
「一雪、ダメ!!」
先程天海が突っ込んでいくのを制止しようとした一雪と同じように、今度は祐名が突っ込んでいこうとする一雪を制するべく声をあげる。だが、それでも一雪は止まらない。頭に血が上った彼にその声は届いていない。
「このぉっ!!」
大きく振りかぶった拳をゴリラのような異形に叩き込むが、ゴリラのような異形はびくともしなかった。それどころか厚い胸板に一雪の拳が逆に弾き返されてしまう。
「くうあっ!?」
拳を弾き返された一雪が少し後ろに下がって手首を押さえた。どうやら弾き返された拍子に捻挫してしまったらしい。痛みに顔をしかめる一雪。そこにゴリラのような異形が手を伸ばしてきた。慌ててその手をかわす一雪だが、逆の手が彼の身体を捕らえた。そしてあっさりと投げ飛ばされる。
ゴリラのような異形に投げ飛ばされた一雪の身体は窓ガラスを突き破って外へと投げ出されてしまう。そのまま地面に叩きつけられた一雪は気が遠くなりそうになるのを必死に堪え、立ち上がろうとするが身体が言うことを聞かなかった。背中から叩きつけられた所為で全身が痺れているのだ。
「ううっ……くそっ! また……また何も出来ないのか……」
空を見上げながら悔しさに涙を浮かべる一雪。
思い起こされるのはあの研究所から逃げ出す時のこと、そしてついこの間の繁華街でのこと。あの時も何も出来なかった。自分にもっと力があれば、助けることが出来る人がいたはずだ。自分にもっと力があれば、祐名も北川も危険な目に遭わせないで済むと言うのに。自分にもっと力があれば、天海も怪我しないで済んだはずなのに。
「何で……何で僕には……」
悔し涙がこぼれ落ちる。
その時、彼の耳に機械的な音声が聞こえてきた。
『Zodiac Rider System Preparation Start』
はっとなった一雪が何とか顔を上げるとそこには黒いコートを着た男が立っているのが見えた。その男の腰にあるのはゾディアックガードルと呼ばれる変身ツール。
「……獅堂……さん……?」
「変身ッ!!」
一雪の呟きはその男には届かなかったようだが、男――獅堂 凱は手に持っていたカードリーダーをゾディアックガードルに差し込んだ。
『Completion of an Setup Code ”Leo”』
カードリーダーが装置に差し込まれると同時にそんな機械的な音声が流れ、続けて装置から光が放たれる。その光は獅堂と異形の影との間に光の幕のようなものを作り出し、その光の幕には獅子座を象った光点が明滅している。
その光の幕が獅堂の身体を通過し、獅堂は仮面ライダーレオへと変身を完了した。
仮面ライダーレオは前方の校舎の中にいるゴリラのような異形を見ると、小さく頷き、そちらへと向かって駆け出した。

This Story was Completed!
To be Continues Next Episode!


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