満月の輝く夜の街。
異形の影がビルからビルへと飛び移っていく。それは人のようでいて人ではない。まさしく異形。だいたい普通の人間にビルの上からビルの上に飛び移ることなど出来ようはずがない。ビルとビルとの間には大通りが広がっているのだ。
とあるビルの屋上に降り立った異形の影はその端に立つとゆっくりと下を見下ろした。
眼下にはイルミネーションに照らされた大通り。行き交う車と人々。恋人同士なのか寄り添いながら歩く男女に急ぎ足で通り過ぎていくサラリーマン風の男、店の呼び込みをしている青年、楽しげに喋りながら歩いていく女学生達、携帯電話でメールをうちながら歩いているのは小学生ぐらいの男の子。様々な人が歩いている。
そんな人々を見下ろしながら、異形の影は口から垂れた涎を手で拭った。何と無防備なことか。これでは襲ってくれと言っているようなものだ。この狩猟者たる自分を前にして。
遙か昔、封印される前はこうではなかった。あれから一体どれくらいの時が経ったのかは解らないが、時代は変わってしまったようだ。人間はあの頃からより豊かになったが、その分より愚かになってしまったらしい。
よりどりみどり、まずはどいつから喰ってやろうか。そう思って改めて下を見下ろそうとした時、背後に何者かの気配を感じた。さっと振り返ると、そこに黒いコートを着た男が立っている。
「ここにいたのか」
男は異形の影を睨み付けながらそう言うと、コートの内側から大振りのナイフを取り出した。満月の光を受けて、ナイフの刀身が冷たく輝く。
「お前らの好きにさせるわけには行かない」
そう言って男がナイフを逆手に持って異形の影に襲いかかるが、異形の影は軽々と男の頭上を飛び越えてしまう。そして着地するやいなや、男の背に向かって飛びかかってきた。
「チィッ!!」
コートの裾を翻しながら異形の影をかわす男だが、完全にはかわしきれず、コートの端が引き裂かれてしまう。それでも男は軽くステップして異形の影との間に距離を取った。だが、その距離をあっと言う間に異形の影が詰めてくる。
「くっ!」
男は手に持っていたナイフを突き出そうとするが、それを異形の影は振り払い、そして男をドンと突き飛ばした。その一撃は男の身体を軽々と反対側の端まで吹っ飛ばしてしまう。
背中から叩きつけられた男がすぐさま身を起こし、こちらをじっと見つめている異形の影を見やった。異形の影はすぐに襲いかかろうとはせず、じっと男が身を起こすのを待っている。一体どう言うつもりなのかは解らないが、それならそれで構わない。向こうが勝手に自分を倒すチャンスを放棄しただけだ。
「どう言うつもりかは知らないが……」
そう言いながらコートの内側から長方形の箱のように見える装置を取り出す。それを腰にあてがうとその装置の左右からベルトが伸び、彼の身体に固定された。その次に男が取り出したのは一枚のカードとそのカードを納めるケースのようなもの。すっと手を前に掲げ、ケースにカードを差し込む。
『Zodiac Rider System Preparation Start』
機械によって合成された無機質な音声が流れる。
「変身ッ!!」
男がそう叫びながら手に持ったケースを腰に固定された装置に差し込んだ。
『Completion of an Setup Code ”Leo”』
ケースが装置に差し込まれると同時にそんな機械的な音声が流れ、続けて装置から光が放たれる。その光は黒いコートの男の正面に光の幕のようなものを作り出し、その光の幕には獅子座を象った光点が明滅している。
黒いコートの男がその幕に向かって駆け出し、光の幕を通り抜けると同時にその姿が黒いコートを着た男の姿から銀に光るボディアーマーを身につけた戦士へと変化した。頭部には猫科の猛獣を思わせる仮面をつけた戦士、仮面ライダーレオへと。
「さっき一気に俺を仕留めなかったこと、後悔するなよ!」
仮面ライダーレオは正面にいる異形の影に向かってダッシュした。変身前とは違い、レオは異形の影との距離をあっと言う間に詰めてしまう。その勢いのままパンチを叩き込もうとするが、異形の影はそれよりも早くレオの頭上を飛び越えていた。
「同じ手が……!」
レオはさっと振り返り、異形の影が着地するであろうポイントへと駆け出す。先程は着地と同時に飛びかかって来られたが今度はこちらが着地の瞬間を狙う。どんな奴でも着地の瞬間というものには隙が出来るものだ。その隙を狙えば素早いこいつを捕まえることが出来るはず。
だが、異形の影は身体を捻って上手く軌道を替えるとレオの横に降り立った。
「何っ!?」
驚きの声をあげるレオに強烈なパンチを浴びせ、そしてそのまま後方へと飛び下がる。
またしても吹っ飛ばされたレオを尻目に異形の影はまた別のビルへと向かって大きくジャンプした。更に別のビルへとジャンプを繰り返し、異形の影は夜の闇の中へと消えていく。
何とか身を起こしたレオはそれを呆然と見ていることしか出来なかった。

変身を解除した男がビルの入り口から出てくると、その前に一台の黒いバンが止まった。スライド式のドアが開き、中から若い女性が顔を見せる。
「どうだった、獅堂君?」
獅堂と呼ばれた男は女性の顔を見ると苦笑いを浮かべ、それから肩を竦めて見せた。
それを見た女性も思わず嘆息してしまう。男の仕種だけで彼が失敗したのが解ったからだ。彼の失敗はそのまま被害者が増えると言うこととイコールになる。出来る限り被害者は少ない方がいいというのに。
「……落胆していても始まらないわ。とりあえず一旦戻りましょう」
「ああ、そうだな」
女性が奧に引っ込んでくれたので男も中に乗り込んだ。そしてスライド式のドアを閉じるとすぐにバンが走り出す。
走り出した黒いバンはすぐに大通りの車の波の中に消えていく。

仮面ライダーZodiacXU

Episode.02「迫り来る魔−Demon who approaches and comes−」

「何てこったぁ、こりゃ……」
周囲を見渡しながら北川 潤は呆然と呟くしかなかった。
見渡す限りそこは見事なまでの焼け野原と瓦礫の山。まるで戦禍に焼かれた街の跡のようだ。
「祐名に聞いた話だと火災は起きたって話だけど……こりゃそれ以上だよなぁ」
足下に転がる瓦礫を蹴飛ばし、北川は歩き出した。
数日前、いやもう数週程前になるのだろうか。ここにはとある研究施設があった。が、そこは謎の怪物達に襲われて壊滅したと言う。偶然そこに居合わせた研究施設に勤めるある研究員の子供達は奇跡的にその場を逃げ延び、彼らの両親とは知り合いだった北川が二人を保護することになったのだ。
ここにあった研究施設から脱出する際に負傷した二人を病院に残し、北川は研究施設がどうなったのか、二人の両親や他の研究者達がどうなったのかを調べにやってきたのだが、この様子だと生存者はゼロと言って構わないだろう。あの二人のように運良く逃げ出せた者もいるに違いないだろうが、ここを襲った怪物はあの後、わざわざ病院にまでやって来て逃げ延びた二人を襲っている。あの二人と一緒にいた自分は運良く助かったが、他の者も同じように助かったかどうかは定かではない。
「まぁ、俺には関係のないこったけど」
そう言ってまた周囲を見回す。
何の気配も感じられない。そこを支配しているのは静寂。そして死。死の気配だけが感じられる。ここは既に終わった場所なのだ。
「……あの二人に何て言うかねぇ……」
おそらく二人の両親も生きてはいないだろう。未だに一縷の望みを捨てていない二人に何て言うべきか、頭をかきながら北川は踵を返して乗ってきた大型バイクに向かって歩き出す。
その様子を少し離れたところから双眼鏡で伺っている男達がいた。一人は黒服にサングラスをかけたいかにも屈強そうな男でもう一人は痩せ気味の若い男だ。更にもう一人、黒服の男がおり、この男が双眼鏡で北川の様子を伺っている。
「どうやら帰るようですね」
双眼鏡を覗いている黒服が報告するようにそう言うと、屈強そうな黒服が痩せ気味の青年を振り返った。
「いかがなさいますか、若」
屈強そうな男の声音には何の感情も込められてはいない。命令されればそれを遂行する、まるでロボットのような声。
声をかけられた方の痩せ気味の青年は読んでいた文庫本にしおりを挟んでから閉じると、屈強そうな黒服を見やった。
「放っておけばいい。どうせ何も見つかりはしない」
興味なさそうにそう言うと痩せ気味の青年はまた文庫本を開くのであった。

とある雑居ビルの3階のある一室。
そこそこ広い室内にはスチール製の机が幾つか並べられている。ドアに近い場所には応接セットと思われるソファとテーブルがおかれてあった。これで一応何かの事務所の体裁を整えているようだ。
今、その事務所っぽい部屋には応接用のソファの上に横になっている男が一人いるだけだった。顔の上には雑誌を載せて、どうやら眠っているらしい。
と、ドアが開き、大きな袋を両手に持った若い男が中に入ってきた。
男は両手に持った大きな袋を何も置かれていないスチール机の上に降ろすと、ソファの上で眠っているもう一人の男の方を振り返る。
「獅堂さん、寝てないで少しは手伝ってくださいよ」
そう声をかけるが横になっている男はぴくりとも反応しない。声が聞こえていないと言うことはまず有り得ない。本当に寝ているのか、それとも無視しているのか。雑誌によって顔が隠されているのでその判断が付かなかった。
「まだ運び込まなきゃいけない荷物、山ほどあるんですよ。ちょっとは手伝って……」
男が呆れたような表情を浮かべてそう言うのと同時に再びドアが開いた。今度入ってきたのは若い女性。手にはノートパソコンを抱えている。
「どうしたの、敷島君?」
女性は呆れたような表情を浮かべている男とソファの上で横になっている男とを交互に見ながら立っている方の男に声をかけた。
「どうしたのも何もないですよ。獅堂さんが……」
「情けない声出さない。それに獅堂君も起きて手伝いなさい」
本当に情けない声を出した男にぴしゃりとそう言い、ソファの上で横になっている男にも声をかける。それから持っていたノートパソコンをスチール机の上に降ろした。続けて必要なコードやら何やらを取り付けていく。見ていて感心するほどてきぱきとした動きだった。
「見てないで動きなさい!」
ぼんやりとこちらを見ていた男にそう言い、女性は未だに動きのないソファの上の男の側に歩み寄ると顔の上に載せていた雑誌を取り上げた。
「獅堂君も、いい加減にして起きなさいね」
「……やれやれ。人がいい気分で寝ていたって言うのに」
そう言いながら身を起こす男。
「だいたいここまではほとんど俺一人でやったんだ。後はお前らで……」
「早く行きなさい!」
文句を言う男にそう言い放つと女性はまた自分の作業へと戻っていった。
その後ろ姿を見やり、身を起こした男はため息をつく。
「やれやれ、人使いの荒い奴だ」
「そんな事言ってるとまた怒られますよ」
「……敷島、行くぞ」
「……はい」
渋々と言った感じで二人が部屋から出ていく。向かう先はこのビルの地下にある駐車場。かなりおんぼろな雑居ビルだが、地下にはちゃんとした駐車場が存在しているのだ。そこに停めてある車に積んである荷物をここまで運び込むのが二人の男に与えられた仕事らしい。
車に積んであった荷物を全て運び、室内を何とか事務所っぽく見せることが出来るようになるまでだいたい1時間。与えられた仕事を終えた男二人が応接用のソファに腰を下ろしてぐったりとしていると、そこにコーヒーカップを持った女がやってきた。
「はい、お疲れさま」
そう言ってぐったりとしている男達の前に手に持っていたコーヒーカップを置く。
「これで何とかそれっぽくは見えるようにはなったわね」
室内を見回すようにしてから女がそう言ったので、二人の男も同じように室内を見回した。確かに彼女の言う通り、何かの事務所のように見えないでもない。だが、何処か嘘くささを感じさせる何かが室内にはあった。
「まぁ、どうせ世を忍ぶ仮の姿なんだし、この程度でいいか」
「……それより例の奴はどうだ?」
鋭い視線を女に向けたのはソファの上で寝ていた男の方だった。テーブルの上に置かれたコーヒーカップを手に持ちながら立ち上がると先程まで女性がセッティングしていたノートパソコンの方へと歩き出す。
「まだ何の反応もないわよ。それに探知範囲も狭くて」
「やはり使っているのが地刑星だからか?」
「それに一つだけだからね。もっと数があれば範囲も正確性も増すんだけど」
「奴らを倒すしかない……倒して封印していけば数は増える。そうすれば探し出すのも楽になる」
そう言ってから男はコーヒーカップに口を付け、中に入っている液体を口にしてから思わず横を向いてぶっと吹きだした。
「な、何だ、これは!」
そう言って男が女を睨み付ける。
「何だって普通のコーヒー」
しらっと答える女。
「まぁ、思いっ切りブラックで少々濃すぎる気がしますけどね」
そう言ったのは二人から敷島と呼ばれているもう一人の男だった。
「ああ、そう言えば獅堂君、ブラックダメだったのよね。まったくいい大人が何でミルクたっぷりの上にお砂糖まで入れなきゃダメなんて」
呆れたように女がそう言って大げさにため息をついてみせる。そんな女をムッとした顔で睨み付ける獅堂と呼ばれた男。
「……でも……僕達だけで本当に出来るんですかね?」
少し不安げに敷島が言う。
それを聞いた女と獅堂は黙って彼を見た。
「研究所は壊滅して、たまたま僕達だけが助かって、ゾディアックライダーシステムも獅堂さんの分しか残らなくて、相手はまだまだ沢山いて……僕達3人だけで本当に……」
「やるしかない。それが俺たちに科せられた使命だ」
「そうよ、敷島君。私達がやらなくっちゃいけないの」
二人の口調に敷島のような迷いや不安はない。既に覚悟を決めているようだ。
「迷っている暇も、躊躇っている暇もない。俺たちは奴らを倒して封印する。それだけだ」
獅堂はそう言うと、さっと窓の向こうに広がる街を見やった。

都内から少し外れたところにある50階建てのマンション。その入り口の前で二人は呆然と立ち尽くしていた。
「……ここで……いいんだよね?」
手に持ったメモに視線を落としている少年に向かって隣に立っている少女が尋ねると、少年は小さく頷いた。メモに書かれている住所、そしてマンションの名前に間違いはないらしい。
「ああ、間違いない……けど……」
何か信じられないものでも見るかのように二人は一緒に視線を上へと上げていく。
そこにそびえ立つのは地上50階建ての最新式のオートロック式のマンション。地下にはマンションの住人用の駐車場も完備されている。1階部分にはコンビニエンスストアやコインランドリーが入っているが、それでも何故か高級感漂う感じがするのだ。
「おじさんって、そんなに収入のいい仕事してたっけ?」
「詳しくは聞いたこと無いけど……一応世界中を駆け回っているルポライターだって」
「ルポライターってそんなに儲かるのかな?」
「さぁ……?」
呆然とマンションを見上げながらそんな事を二人で喋っていると、一台の大型バイクがそのマンションの前にやってきた。大型バイクに乗っていた男はマンションの前で呆然としている二人を見つけると、そのすぐ後ろで停止する。
「おう、二人とも。道に迷わなかったか?」
そう言いながら、大型バイクに乗っていた男はフルフェイスのヘルメットを脱いだ。
いきなり声をかけてきた大型バイクの男に二人は警戒の視線を送っていたが、フルフェイスのヘルメットの下から出てきた顔を見て、安堵のため息をついた。
「北川のおじさん……」
少女が呟くようにそう言って北川に歩み寄る。
「おじさん、ここが本当におじさんの?」
「ああ、そうだぞ。どうだ、なかなか凄いだろ」
そう質問してきた少年に向かってそう答えると、北川はにんまりと笑った。
とりあえず大型バイクを駐車場に置いて来ると言う北川と別れた二人はマンションの入り口で彼が戻ってくるのを待つことになった。マンションの住人ではない二人が中に入るには住人である北川と一緒でなければならない。先に部屋に行っておくか?と北川は言ったのだが、何となく二人は辞退していた。
「……で、どうする?」
手持ち無沙汰な中、不意に少年が口を開いた。
「……どうするって?」
「これからのことだよ。父さんも母さんも……どうなったか解らない。僕達だけで生きていくなんて到底できっこない」
「……だよね。でも……頼れる人って言っても……お婆ちゃんぐらいしか」
そこまで言って少女はため息をついた。
両親の生死が不明な今、二人にとって頼れる肉親は母方の祖母のみだった。父方の祖父母も健在だが、父が半ば家出のような感じで飛び出してしまっている以上、頼ることは何となく憚られたのだ。だが、母方の祖母も今は母の田舎で一人で静かに暮らしているとのこと。例え押し掛けていっても拒絶されることはないだろうが、祖母の静かな生活を自分達が押し掛けることにより乱したくはなかった。
「困った……ね」
「……ああ」
二人してまったく同じタイミングでため息をつく。
そこに大型バイクを駐車場に止めてきた北川がやってきた。
「なぁに二人揃ってため息ついているんだよ。ほれ、行くぞ」
北川はそう言うと二人を先導するようにマンションの中へと入っていった。

北川の部屋は35階にあり、案内された二人はその広さにまたも呆然と部屋の中で立ち尽くしてしまうのであった。
「何、ここ?」
「……うちの家よりも広いかも……」
二人がキョロキョロと部屋の中を見回していると、手にペットボトルとコップを持った北川が二人のいる部屋にやってきた。部屋の真ん中にドンと置かれているソファに腰を下ろすと、彼はまだ立ち尽くしている二人を見やる。
「何してるんだよ。ほれ、座れって」
そう言って二人を手招きすると、ようやく二人は北川に気がついたように彼の座っているソファの正面に腰を下ろした。
「ミネラルウォーターしかないけど別にいいよな、二人とも」
「あ、お構いなく」
「僕は何でも」
正面に座る二人の返事を聞いてから北川は一緒に持ってきたコップにペットボトルの中身を注ぎ込み始める。その間も二人は落ち着かなさげに周囲を見回していた。
「何キョロキョロしてるんだ?」
何となく気になった北川が尋ねると二人は慌てて首を左右に振る。それを見てからやや首を傾げながら二人にコップを差しだす。
「まぁいいけど……そんなに気になるか?」
「気にならないと言ったら嘘になります」
北川が差しだしたコップを受け取りながら少女が答えた。
「うちの父さんと母さんもそれなりに給料貰っていたけど、こんなに広い部屋なんて」
「何言ってるんだよ。お前らの家は都心にほど近い場所にあるだろ? それに比べりゃ……」
「それはそうだけど」
何か納得いか無げな少年に北川は苦笑を浮かべる。
「それよりも……」
手に持ったコップをテーブルの上に置いて少女が表情を硬くしながら口を開いた。これから尋ねることは彼女たちにとって非常に重要なことだ。これからの生活、いや運命をも左右しかねないほどに。
「あの……」
「……父さん達は……どうだった?」
言いにくそうな少女を見かねてか、少年が横から口を出す。
この質問を聞いた北川は遂に来たか、とばかりに表情を沈ませた。嘘をついてもすぐに解ることだろう。この二人ならば本当のことを話しても充分受け止められるはずだ。
「はっきり言うぞ。あそこには何も残っていなかった」
「何も……?」
「ああ。瓦礫の山があるだけだった。誰かが片付けたのかも知れないが……誰の死体も見つからなかった。まぁ、俺が行った時には、だが」
北川の言葉を聞き、二人の表情が曇った。
二人の脳裏に思い起こされるのは炎に包まれた研究所。その研究所内を蠢くのは異形の怪人達。聞こえてくる悲鳴、怒号、そして不気味な笑い声。あの中で自分達が助かったのは奇跡だろう。だからこそ、解るのだ。あの中で生き残った者などいないだろうと言うことが。
「ううっ……」
いきなり少女が顔を覆って泣き出した。
それを見た北川は慌てて腰を浮かせ、少女の肩に手を置く。
「だ、大丈夫だ! まだ死んだって決まった訳じゃない! それにあいつらがそう簡単に死ぬもんか!!」
その言葉は少女に言い聞かせると言うよりも自分に向かって言い聞かせているようであった。彼だって信じたくないのだ。この二人の両親が、高校以来の親友が、あっさりと死んでしまうなどとは。何があっても信じたくはないのだ。
「そうだよ、祐名。おじさんも言っていたじゃないか。まだ死体は見つかってない。何とか上手く逃げ延びたって事も考えられる」
少女の隣に座っていた少年がそう言って少女の顔を覗き込んだ。
「……一雪……」
少女が涙の浮かぶ目で少年を見返す。
こくりと頷く少年。しかしながら、彼自身、自分の言っていることが儚い希望に過ぎないことを解っている。あの時、炎に包まれた研究所から逃げ出す際に自らが負った傷。謎の蔦人間に受けたその傷は危うく彼の命を奪いかけた。逃げようとした自分でさえこうなのだから、あの場に残った者はどうなったか、想像に難くない。
「……それじゃ……どうして……」
「連絡がないのは……ほら、僕みたいに怪我して何処かに入院しているとか……」
少女が言いたいことを先読みしてそう言い、少年は無理に微笑んだ。
「大丈夫だよ。父さんと母さんは死んでなんかいない。そう信じよう」
「……そうだね」
目に浮かんだ涙を拭って少女がそう言い、少年と同じように無理矢理微笑みを浮かべる。その微笑みが痛々しいものであることはありありと解ったが、北川も少年も何も言わなかった。

「ところで、お前らこれからどうするんだ?」
少しの沈黙の後、北川がそう尋ねてきた。
「どうするって……?」
「いや、これからの生活だよ。二人だけで生活していくって訳にもいかないだろう」
問い返してきた少年にそう答えると北川はテーブルの上に置いてあったコップに手を伸ばす。中に入っているのは勿論ミネラルウォーターだ。それで口を湿らせると、コップを置いて二人の顔を見る。
「あの二人のことだからお前らが生活に困ると言うことは絶対にないと思うんだが……それでもお前らまだ高校生だしな」
北川が二人のことを本当に心配しているのだと言うことはその表情で伺い知れた。しかしながら、二人だけで生活しようと思えば出来ないわけでもないのだ。特に北川の言う通り、金銭面に関しては両親がかなりの額を貯金していることを二人とも知っている。それ以外の面ではかなり不安は残るのだが。
「そこで、だ。俺に提案があるんだが」
そう言った北川を二人が見る。
「見てのとおりこの部屋はやたら広い。俺自身使ってない部屋が幾つかあるくらいだ」
ぐるりと室内を見回しながら北川が言う。
「どうだ。お前らさえ良ければここで暮らさないか?」
「ええっ!?」
北川の提案に驚きの声をあげたのは少女の方だった。すぐ隣にいる少年は北川の言動から薄々彼の提案内容を察していたらしく、少女ほど驚いてはいない。それでも充分驚いてはいるのだが。
「で、で、でもおじさんに迷惑なんじゃ……」
「お前らのことで迷惑なんかあるものか。実際お前らは俺にとっちゃ甥っ子姪っ子のようなもんだしな。それにあいつらが行方不明な以上、俺がお前らの後見人として面倒見た方がいいだろう?」
「……」
「あの家のことなら心配はないぞ。ちゃんと俺が管理しておく。まぁ、無理にとは言わないが……」
言いながら北川は二人の顔を伺った。
この二人にとって彼の申し出は決して悪いものではないはずだ。二人ともまだ高校生になったばかり、両親がいない中で学校に通いながら生活するのは大変だろう。自分が側にいれば何かとフォローしてやることも出来る。二人が住んでいた家に関しては知り合いにその手のことに詳しい奴が居るのでそいつに任せていいだろう。そいつがダメなら自分でやってもいい。
「……少し相談してもいいかな?」
そう言ったのは少年の方だった。どちらかと言うと彼の方は北川の話に乗り気っぽいのだが、もう一人、彼の隣にいる少女が躊躇いを見せている。北川に対する遠慮なのか、それとも両親が帰ってくるかも知れないあの家を離れるのが嫌なのか。どちらにせよ少女と相談すると言う少年に頷き、北川は立ち上がった。
「隣の部屋にいる。話が終わったら呼んでくれ」
そう言うとこの広いリビングの隣にある書斎代わりの部屋に入っていく。
二人が北川を呼びに来たのはそれから1時間後のことで、二人が選んだ答えは彼の世話になると言うことだった。
「よし、それじゃ早速二人の部屋の用意をしなくっちゃな! だけどその前に……」
そう言ってちらりと時計を見る。時計の針はそろそろ6時を指そうとしていた。外もかなり暗くなってきている。
「先に腹ごしらえでもするか。詳しい話はまた明日って事にしてな」
ニヤリと笑みを浮かべて北川がそう言うと、どうやらお腹をすかせていたらしい二人は照れたような笑みを浮かべながらまったく同じタイミングで頷くのだった。

夜の街を黒塗りのバンが走っている。
ハンドルを握っているのは敷島慎司。とある雑居ビルに事務所ぽいものを作っていた3人組の一人である。
少し疲れたような面持ちでハンドルを握っている彼の後ろ、本来なら後部座席になっているところは全てシートが取り払われ、その代わりに様々な機器が詰め込まれており、それに取り囲まれるかのようにして一人の女性が座っていた。真剣な表情であるモニターを見つめている。
「ど、どうですか、卯月さん」
緊張の為か少し震える声で敷島が尋ねると女性が彼の方を向いた。
「ダメね。やっぱり探査範囲が狭すぎるわ。これじゃ見つけるのにどれだけ掛かるか……」
「いや、きっと見つかる」
そう言ったのは敷島の隣、助手席に座っている男、獅堂 凱だった。
「あいつはこの間俺に邪魔をされたから誰も襲えていない。その分をきっと取り戻そうとするはずだ」
「な、何でそんな事が解るんですか?」
「奴らの活動源は人の生体エネルギーなのよ。どう言う形でそれを奪い取るのかはそれぞれの個体によって違いはあるけどね」
敷島の質問に答えたのは後ろにいた女性、卯月みことだ。その視線は相変わらずモニターに向けられている。
「敷島君は搬送要員だから知らないと思うけど、私や獅堂君にとっては知っていて当然の事よ」
「奴はこの前、俺に邪魔されて必要な生体エネルギーを奪うことが出来なかった。だから絶対に来る。そうしないと奴自身が動けなくなるからな」
自信たっぷりに獅堂が言い、後ろではみことが頷いている。それを見た敷島は何か釈然としないような顔をしながらもまた視線を前に向けた。まだ夜は始まったばかりだ。この調子だと今夜も遅くなるだろう。気合いを入れていかなければ。そう思い、ハンドルを握る手に力を込めるのであった。
3人の乗ったバンが大通りを進んでいく。
その大通りに面している小さなラーメン屋の引き戸が開き、中から北川と例の少年と少女が出てきたのは丁度黒いバンが通り過ぎた直後だった。
「どうだ、美味かっただろ?」
ニコニコ顔の北川が二人を振り返る。
「まぁ……確かに美味しかったけど……」
「北川のおじさんの奢りって時点で気付くべきだったよ……」
何故かガックリと肩を落としている二人。
北川が奢ってくれると言うことで何処に連れて行ってくれるのだろうと期待していたのだが、まさかラーメン屋だとは思ってもみなかった。わざわざ都内にまで出てきたのだからそれなりに名のあるレストランか何かだろうと思っていただけにやや期待外れだったと言っても良いだろう。
「何て言うかさ、洒落た感じのレストランとかそう言うのは苦手なんだよな、俺って。ああ言うラーメン屋とか定食屋とかの方が安くて美味い場合が多々ある。今まで取材であちこち行ってそれがよく解ったんだ」
「……もしかしておじさん、女の人とデートした時もああ言う店に?」
「そうだぞ。何でか知らないけど、いっつも店に案内した時点でみんな『帰る』って言うんだよなぁ。美味しいのに。損してると思わないか?」
少年の質問に腕を組んで考え込むようにしながら北川が答える。
それを聞いた少女がため息をついた。
「おじさんに恋人が出来ないわけが解ったよ……」
「同感……」
二人してガックリと肩を落とし、首を傾げながら歩き出した北川について歩き出す。
「う〜ん、美味しいんだけどなぁ」
「それは認めるけどね」
3人が喋りながら駅に向かって歩き出すのを近くにあるビルの屋上から見下ろしている影があった。正確に言えばそれが見下ろしていたのは北川達ではない。眼下の通りを歩く全ての人々だ。
前に来た時は邪魔が入って失敗に終わったが、今度という今度こそは成功させなければならない。狩りが成功しなければ死ぬのは自分だ。いや、死ぬことはないが、動けなくなる。それは死と同意義だ。ここでそうなることだけは防がなければならない。今度は邪魔が入る前に。そう思って慎重に眼下の獲物を見定める。
眼下の通りを歩く人々は前の時も思ったが何とも無防備だ。どいつもこいつも襲ってくれと言っているようなもの、獲物はよりどりみどり。あの邪魔さえ入らなければ、だが。だから今回は急ぐことにしよう。
さっとビルの屋上から身を躍らせる異形の影。そのまま一気に地上へと落下していく。いや、そのまま落下すると地面に激突するだけなので途中でその鋭い爪をビルの壁に突き立てて落下速度を落とす。コンクリート製のビルの壁面と異形の怪人の爪とが火花を散らした。ある程度、地上が近くなると突き立てていた手を離し、そして華麗に着地する。丁度そこに停まって、客待ちをしていたタクシーの真上に。
タクシーは異形の怪人の体重に加えてその落下エネルギーによってペシャンコになってしまう。運転席で客の来るのを待っていたタクシードライバーは自分に何が起こったかを知ることなくあっけなくその命を失ってしまうのだった。
そのタクシーの近くを歩いていた人達は何が起こったのか始めは理解出来ず、足を止めてつぶれたタクシーとその上に立つ異形の怪人を少しの間呆然と見ていたが、やがてそれぞれが我に返ったかのように悲鳴が上がり始めた。
その悲鳴を聞きながら、異形の影はゆっくりとつぶれたタクシーの上から降り立った。そしてゆっくりと周囲を見回していく。それはまるで獲物を見定める猛獣のような目で、ゆっくりと、殊更時間をかけて、もっとも良い獲物を見定めているかのように。
「な、何だよ、お前……」
そう言ったのは近くにいた若い男だった。髪を筋に染め、耳にはいくつものピアスを付けた今風の若い男。ガタガタ震えているが、声をかけれるとはなかなか勇気があると言えるだろう。だが、それが彼にとっての命取りと言えた。
声をかけられた異形の影はさっと彼に向かって鋭い爪を持つ手を突き出した。それはひどく無造作な仕種に見えただろう。だが、たったそれだけの行為で若い男の命は奪われていた。鋭い爪が若い男の胸を易々と貫いていたのだ。
異形の影が若い男の胸を貫いていた手を抜くと、若い男は呆然とした表情のまま自分の胸に穿たれた穴を見やり、やがて悲しげな、恐怖に彩られた表情を浮かべると二、三歩後退して背中から地面へと倒れ込んだ。と、同時に男の胸の傷から血が噴水のように噴き出す。その血を浴びながら、平然と爪についた血を舐め取る異形の怪人。
「きゃああああっ!!」
「うわぁぁぁぁっ!!」
驚愕と恐怖に彩られた声が次々と上がる。その中を異形の怪人は悠然と歩き、次々とその爪で悲鳴を上げる人々の命を奪っていく。そこには何の感情もない。機械的に命を奪っていくだけだ。

駅に向かって歩いていた北川達は後ろの方から聞こえてくる悲鳴に何事かと振り返った。
その現場からはまだ距離があるが、何か異常事態が起こったのは解る。誰もが我先にこちらに向かって走ってくるからだ。それはまるで何かから逃げてくるかのように。そして、その光景は3人にある事件のことを思い起こさせた。
数週間前、とある病院に突如現れた謎の蔦人間。病院の入院患者達を何人も惨殺した蔦人間はその場に現れた仮面ライダーによって何とか倒された。だが、倒されるまでに起こったパニックはかなり大きいものだった。病院から逃げようと狭い入り口にひしめき合い、更に怪我人が続出。もし、そこを蔦人間が襲ったならばもっと多くの被害者が出ていたことだろう。
今回もあの時と同じように怪物が居たならば、今すぐにでもこの場を離れた方がいい。そう判断した北川が二人に声をかけた。
「逃げるぞ。いいな!」
「あ……で、でも」
躊躇ったような声をあげたのは少年の方だ。このまま自分達も逃げだしていいものかどうか迷っているのだろう。少なくても自分はあの怪物のことを知っているだけに。
「俺たちが至ってどうしようもないだろ! 行くぞ、一雪! 祐名もいいな?」
まだ人々が走ってくる方向を見ている少年と違って少女の方はすぐにこくりと頷いた。そして少年の手を取る。
「行こう、一雪」
「あ、ああ……」
少女に手を取られて少年はようやく彼女の方を振り返った。
だが、その時である。どこからか吹き飛ばされてきたらしいパトカーが少年達の真後ろに落ちてきたのは。その衝撃に吹っ飛ばされる少年と少女。
「うわあぁっ!!」
「きゃああっ!」
アスファルトの地面に叩きつけられる二人に北川が慌てて駆け寄る。
「だ、大丈夫か!?」
「僕は何とか……」
そう言って少年が身を起こすが、もう一人、少女の方は地面に叩きつけられた時に足首を捻挫してしまったらしくその足首を手で押さえて苦痛に涙を浮かべていた。
「祐名!?」
「捻挫したみたい……」
「動けるか?」
「……ちょっと無理」
心配そうに少女の顔を覗き込む少年と北川。二人は少女の返答を聞くと互いに顔を見合わせ、そして頷きあった。
北川はひょいと少女を抱え上げるとちらりと少年の方を見、それから走り出した。遅れじと少年も走り出す。二人が向かった先は他の人達と同じではなかった。他の人達と同じ方向に逃げていれば必ずパニック状態になった群衆に巻き込まれる。只でさえ足を痛めた少女を抱えているのに、そんなところに飛び込んでは無事なものも無事でなくなってしまう。そう判断してのことだ。
だが、他の人々と違う方向へと走っていく北川達の姿を不気味に見つめている影があった。手には今自分が命を奪ったばかりの警官を無造作に掴み、血に濡れた牙を涎だらけの舌で拭いながら。次の獲物はあいつらだ。幸いにも他の連中とは違う方へと逃げている。ああも沢山いるとやりにくくてしようがない。だから今度は静かにゆっくりと。血まみれの口元を歪め、異形の影は手に持っていた警官の死体を投げ捨て、軽やかにジャンプした。

北川達が逃げ込んだのは近くで建設中だったビルの工事現場だった。まだ建設途中らしくビルはまだ鉄骨で組まれたままの部分が目立つ。地上には鉄骨やらの資材が場所狭しと置かれてあった。
そんな資材の山の陰に抱え上げていた少女を降ろすと、北川はすぐさま少女の足の具合を確かめた。少女自身が言っていた通り、捻挫しているらしく少し腫れている。だが、これならそれほど大事には至っていないだろう。少し安静にしていればすぐに歩けるはずだ。
「湿布かなんかあれば良いんだがな」
そうは言っても手持ちがあるわけでもない。周囲を見回すと、水道があったのでそこまで行って持っていたハンカチを濡らしてから少女の元に戻り、腫れた足首に巻いてやる。これで多少はマシだろう。
「有難う、おじさん」
「礼なんか言いっこ無しだ。とにかく家に帰ったらちゃんと手当てしないとな」
言いながら笑みを浮かべる北川。だが、それもこの場を上手く脱してからの話だ。もしあの騒ぎの元凶があの時と同じような怪物だったとしたら。とてもではないが警察では手に負えるような相手ではないだろう。逆に被害者となるだけだ。あの時、結果的には自分を助けてくれたあの仮面ライダーでも現れない限り。しかし、そう上手くいくかどうか。
「……まぁ、諦めちゃダメだわな」
そう呟き、北川は近くに転がっていた鉄の棒を拾い上げる。病院の時と同じような怪物だとすればこんなものなど意にも介さないだろうが、それでもないよりはマシだ。同じ事を考えていたのか、少年も北川と同じように鉄の棒を手にしている。出来ればここには来ないで欲しい。それが最上だが、もしもこっちに現れたら。そう考えると不安でどうしようもなくなってしまう。少年はあの研究所で、北川は病院で、あの謎の怪物に人間の力など一切通じないことを思い知らされているからだ。
「祐名、じっとして居るんだぞ」
周囲を見回しながら北川が言う。
今度はどんな怪物かは解らないが、今のところ追ってくる気配はない。
「一雪、朝までここで粘るぞ。いけるな?」
「僕は大丈夫。おじさんこそ大丈夫?」
「どう言う意味だよ」
「僕はまだ若いけどおじさんってそれなりに歳でしょ?」
「馬鹿にするな。お前らの親父さん達と同じ歳だぞ、俺は」
「だからだよ」
二人が軽口を叩いていると、さっと何かが二人の頭上を横切った。夜の闇、街灯すらないこの工事現場、そして軽口を叩き合っていた二人はそれにまったく気がつかなかった。
まだ鉄骨で組まれただけのビルに降り立った異形の影は下にいる3人を見下ろすと、再び口元を歪める。おそらくは笑っているのだろうが、その口の端から垂れ落ちる涎や見え隠れしている鋭い牙、それによってとても笑みを浮かべているようには見えない。
下にいる3人はまだこちらに気付いていないようだ。これなら一瞬であの3人の命を奪えるだろう。只の人間に自分に立ち向かえる訳がない。そう思って異形の影が一歩踏み出した時、足下に転がっていたナットが踏み出した足に当たって地面に落下した。それは明らかに油断だった。だが、それが何ほどのものか。相手に気付かれたところでどうなるものでもない。そう頭を切り換えて宙に身を躍らせる。
まだ軽口を叩き合っていた二人は何かが落ちてくる音に同時にそちらの方を見た。
「何だ?」
そう言って北川が落ちてきたものを確認しようと歩き出す。
北川が動いたのを見て少年は何処から落ちてきたのだろうかと不思議に思い、上を見上げてみた。そして、上から急降下してくる異形の影を発見する。
「おじさんっ! 上!!」
少年の声に北川がハッと上を見上げると異形の影が鋭い爪を振りかざして彼に向かって真っ逆様に落ちてくるのが見えた。
「ぬおっ!」
慌てて横に飛び退く北川。そのほんの一瞬後、異形の影の鋭い爪が彼のいた場所を薙ぎ払っていく。恐ろしいことにその一撃は地面を深くえぐり取っていた。もし、あの場に北川が居たなら一瞬にしてズタズタに引き裂かれていたことであろう。
「な、何だ、こいつは……前のと違うのか!?」
尻餅をつきながらも北川は突如上から振ってきた異形の影を見やる。前の時は蔦が複雑に絡み合い、人間の形を成したような化け物だった。だが今回の化け物は違う。何か肉食の獣を思わせるシルエットを持っている。
「こ、この野郎!!」
何とか立ち上がると手に持っていた鉄の棒を構えた。剣道をやっていたわけでもないが、それなりに心得はある。相手を怯ませるぐらいのことは出来るはずだ。そう思って異形の影と対峙する。
「一雪、祐名を連れて逃げろ!」
「で、でも!」
「ここは俺に任せろ! 俺なら大丈夫だ! こんな奴に負ける訳ねぇ!!」
北川が自分の側にいる少年にそう言った。勿論目は異形の影から離さない。一瞬でも目を離せばすぐにでも襲いかかってくるだろう。今は少しでも時間を稼ぐ。時間を稼いであの二人を何とかこの場から逃がす。まだ高校生になったばかりの二人だ。ここで死なせるわけには絶対に行かない。例え自分がここで犠牲になったとしても、だ。
「おじさん一人じゃどうにもならないよ!」
だが、少年はそんな北川の思いを知ってか知らずか、そう言いながら彼の横に並んで鉄の棒を構えた。いや、少年は知っているのだ。この怪物がどれだけ危険なのかを。人間の手ではどうしようもない怪物であると言うことを。この怪物の前では北川など一瞬で殺されてしまうだろう。次は自分か、それとも足を怪我して動けない少女か。どちらにしろ、狙われてしまった以上もう助かる道はほとんど無いに等しい。
「馬鹿野郎! お前まで死んじまったら俺はあいつらに合わせる顔が……」
北川がそう言いかけた時、異形の影がさっと動いた。目にも止まらないほどの速さで北川の前に来ると彼が持っていた鉄の棒をその爪であっさりと切り落とす。
「なっ!?」
驚いている北川の胸にドンと手をつき、彼を吹っ飛ばすと今度は少年の方を振り返った。
「うわぁぁぁっ!!」
悲鳴のような声をあげて少年が鉄の棒で異形の影に殴りかかるが、それをあっさりとかわし、異形の影は少年に蹴りを食らわせる。その一撃で少年の身体が宙を舞う。ビルからビルへと軽々とジャンプする脚力を持っているその足で蹴り飛ばされたのだ、かなりの距離を吹っ飛ばされた少年は地面に叩きつけられそのまま気を失ってしまう。
「こ、この!!」
起きあがった北川は既に役に立たなくなった鉄の棒を投げ捨てると、猛然と異形の影に飛びかかっていった。だが、異形の影は飛びかかってきた北川の身体を片手で受け止め、大きく振り回してから地面に叩きつけるのだった。
背中から地面に叩きつけられ、一瞬呼吸が出来なくなる北川。そしてその胸の上に異形の影は足を踏み降ろしてきた。
意識が朦朧としている北川は自分を踏みつけている異形の影がニヤリと笑ったような気がしていた。ああ、もうダメだ。このまま俺は奴に殺されてしまうんだ。そう思い、助けることが出来なかった二人に思いを馳せる。
(済まない……せめてお前らだけでも助けたかったが……あいつらに詫びようもねぇな、これじゃ)
脳裏に浮かんだのはあの二人の両親。高校時代からの親友。よく一緒に馬鹿をやったものだ。あいつらが、自分達の子供を残して死んでしまうなんて到底信じられなかった。だが、今、自分も同じように殺されかけている。あの世というものが本当にあるなら、そこであの二人に詫びるしかない。
「だめぇぇぇっ!!」
もはや助かるまいと死を覚悟していた北川の耳にそんな声が聞こえてきた。声のした方へと目を向けると、そこには足を怪我したはずの少女が立っている。手には彼らと同じように鉄の棒を持ち、フラフラとしながらも北川を踏みつけている異形の怪物に向かっていく。
「お、おじさんは殺させないんだから!」
震える声でそう言う少女。
「ゆ、祐名……逃げろ」
何とか声を絞り出す北川だが、それはほとんど聞き取れないほどのものだった。必死に少女に向かって手を伸ばそうとするが、胸板を押さえられてはどうしようもない。
異形の影はゆっくりと少女の方を見やると、また口元を歪めた。新たな獲物が自分の方から出てきてくれた。探し出す手間が省けたと言うものだ。ではお望み通り先に殺してやろう。そう考えたのか、異形の影が北川から足を離し、少女の方へと向き直った。ゆっくりと少女に向かって歩き出そうとするが、その足に北川がしがみつき、その歩みを止めてしまう。
「祐名! 逃げろ!!」
必死にそう叫ぶが少女は首を左右に振り、拒絶する。
「おじさんや一雪を残して逃げれない!」
「お前じゃどうしようもないだろっ!!」
「それでも!! もう逃げるのはいやなの!!」
それを聞いた北川ははっとなった。
少女は両親を残してあの研究所から逃げ出した。その結果、両親の生死は不明になってしまった。いや、かなりの確率で死んでいるだろう。もし、ここでまた逃げ出せば、今度は双子の兄弟と後見人になってくれると言った男を失ってしまう。もうこれ以上誰も失いたくない。一人で生き残って、そのまま生きていけるほど自分は強くない。どうせ死ぬならみんな一緒に。おそらくそう考えたのだろう。
「馬鹿野郎が……」
少女の気持ちが痛いほどに解った北川はそう呟くしかなかった。だが、それでもまだ諦めたわけではない。自分を振り解こうとする異形の影の足に懸命に離されまいとしがみつく。誰か通りかかれば、いや、あの仮面ライダーを名乗る奴が現れれば。それは奇跡に近いことだろうが、それでも諦めるわけにはいかない。
しかし、そんな北川の気持ちを裏切るかのように異形の影は北川をしがみつかせたままジャンプし、大きく足を振り上げると彼を地面に叩きつけた。
「おじさん!!」
叩きつけられた北川を見て少女が叫び声をあげる。
北川にとってこの一撃は強烈すぎた。一瞬目の前が真っ白になり、身体から力が抜けてしまう。その隙をついて異形の影が彼の手をすり抜け、一気に少女に迫っていった。鋭い爪を持つ手を振り上げながら。あの手が振り下ろされれば少女の身体などボロ布のように引き裂かれてしまうだろう。半ば意識を朦朧とさせながら、それを北川は見ていることしか出来ないのだ。悔しさに、涙が目尻に浮かぶ。
(俺に……俺に力があれば……!!)
異形の影が少女の目前にまで迫った。まるでスローモーションの映像を見ているように、ゆっくりと鋭い爪が少女に迫っていく。実際には物凄い速さなのだろうが、北川にはそう見えていた。そして少女自身もその速さに対応出来ないのか、只自分に向かって振り下ろされる鋭い爪を見ているだけだった。
と、その時だ。一台ののバンが猛然と突っ込んで来、そしてライトで異形の影を照らし出したのは。今までほとんど星明かりだけだったので、そのライトの光は強烈だった。異形の影が思わずその手を止めてしまうぐらいに。それとほぼ同時にバンの助手席から一人の男が飛び降り、そのまま異形の影に向かって黒いコートを翻しながら跳び蹴りを喰らわせた。
いきなり強烈なライトで照らし出され、更に横合いから跳び蹴りまで喰らった異形の影は為す術もなく吹っ飛ばされてしまう。
「卯月、敷島! 任せたぞ!!」
黒いコートの男、獅堂はそう言うと吹っ飛ばされた異形の影に向かって走り出した。
それを見た少女がその場にヘナヘナと崩れ落ちる。どうやら緊張の糸が切れてしまったらしい。そこにバンから降りてきた敷島とみことが駆け寄ってきた。
「大丈夫だった?」
「は、はい……」
「もう安心よ、後は任せてね」
少女を安心させるようにみことが微笑む。
その間に異形の影は起きあがり、ビルの中へと逃げ込んでいた。それを追って獅堂も薄暗いビルの中へと躊躇無く踏み込んでいく。

建設中のビルの中には明かりなどほとんど無い。だが、獅堂はまるで見えているかのように何の躊躇いもなくビルの中を進んでいく。
「かくれんぼのつもりか?」
そう言った声が反響する。
「悪いが今日はお前を逃がすわけにはいかないんでな。きっちりと決着をつけさせて……」
獅堂がそこまで言いかけた時、頭上から異形の影が彼に向かって襲いかかった。だが、一瞬早く獅堂は床を転がってその一撃をかわし、起きあがると同時に長方形の箱のような装置”ゾディアックガードル”を腰に装着する。続けて一枚のカードとカードリーダーを手に持ち、素早くカードをカードリーダーに挿入する。
『Zodiac Rider System Preparation Start』
機械によって合成された無機質な声が響き渡った。
「変身ッ!!」
獅堂がそう叫ぶのと同時に手に持ったケースを腰の固定された装置に差し込む。
『Completion of an Setup Code ”Leo”』
ケースが装置に差し込まれると同時にそんな機械的な音声が流れ、続けて装置から光が放たれる。その光は獅堂と異形の影との間に光の幕のようなものを作り出し、その光の幕には獅子座を象った光点が明滅している。
その光の幕が獅堂の身体を通過し、獅堂は仮面ライダーレオへと変身を完了した。
「いくぞ!」
そう言って仮面ライダーレオが走り出す。
異形の影もまるで迎え撃つかのようにレオに向かって走り出した。前回と同じようにこの場を脱してもきっとこいつは追って来るに違いない。ならばこの場で倒すのみ。そう考えたのか。
両者が交錯する。その一瞬でレオは異形の影にパンチを叩き込み、異形の影はレオに蹴りを食らわせている。互いに吹っ飛ばされるような形で離れるレオと異形の影。何とか踏みとどまるレオだが、顔を上げた瞬間、異形の影がレオに回し蹴りを叩き込んできた。どうやらレオよりも先に立ち直ったらしい。
「くっ!」
何とか異形の影の回し蹴りを腕でガードするレオ。だが、何と言っても相手はビルからビルへと跳躍出来るほどの脚力を持っているのだ。ガードしたままレオは大きく吹っ飛ばされてしまう。
「やってくれる……!!」
そう呟き、異形の影を睨み付けるレオ。先程の蹴りをガードした腕はまだ痺れている。そう何度も同じようにガードは出来ないだろう。その前にこっちの腕の骨が折れてしまう。それほどの威力をあの異形の影の蹴りは秘めている。
異形の影は先程の一撃でレオが怯んだと見たのか、猛然と距離を詰めてきた。瞬きをするほどの間に一挙にレオの魔の前まで迫る異形の影だが、その腹にカウンター気味にレオの膝蹴りが叩き込まれていた。自身のスピードも手伝って、それはかなりのダメージを異形の影に与えている。
身体を九の字に折り曲げ、思わずよろけてしまう異形の影にレオは容赦無くパンチを叩き込んだ。一度や二度でなく、三度四度と。最後に大きく振りかぶって強烈な一撃を異形の影にお見舞いする。その一発を食らった異形の影が大きく吹っ飛ばされた。
レオは吹っ飛んだ異形の影を見やると大きく息を吐いた。こんなもので倒せるような相手でないことは充分解っている。むしろここからが本当の勝負だ。まだまだ油断は出来ない。そう思い、異形の影に向かって走り出す。
よろよろと起きあがった異形の影は自分の方に向かってくるレオを見ると、鋭い爪を持つ手を突き出した。だが、レオはそれをまるで予想していたかのようにジャンプしてかわすと異形の影の頭部に鋭い蹴りを叩き込む。またしても吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられる異形の影。そこに追い打ちをかけようとするレオだが、それよりも早く異形の影はジャンプし、天井をぶち破って上の階へと逃げ出した。
「逃がすか!!」
レオもジャンプして異形の影がぶち破った穴を抜けて上の階へと移動する。
そこはまだ建設の途中らしく鉄骨がむき出しになっていた。寒々とした強い風が吹き抜けている。星明かりしかないそこに異形の影の姿は見当たらない。何処かに隠れたのか。隠れてこちらの様子を伺っていることに間違いはないだろう。
全神経を集中させてレオは異形の影の気配を探った。
その異形の影はとある鉄骨にしがみつき、完全に気配を消すことに成功していた。元々奇襲の方が得意なのだ。いくら相手が仮面ライダーといえどもいきなり背後から襲いかかれば、この爪の前にはどうすることも出来ないだろう。じっくりと相手の隙が出来るのを待つ。相手がこちらに背を向ければそれで充分。
まったく何の気配もしないそのフロアをレオが歩き始めた。相手はどうやら気配を消すのが得意のようだ。ならば自らを囮にして誘き出す他無い。ゆっくりと周囲を警戒しながら歩く。
それは異形の影が待ち望んでいた行為であった。気配を消し、レオが自分の居る鉄骨の下を通り過ぎるのを待つ。いくら周囲を警戒していようと気付かれなければこちらの勝ちだ。背を見せた瞬間、飛びかかり、この爪で引き裂いてやる。
レオが異形の影のしがみついている鉄骨の下を通り過ぎた。異形の影が待ち望んだ瞬間が来る。レオの無防備な背中を見た異形の影が鉄骨から手を離し、レオの背に向かって飛びかかっていく。鋭い爪を振りかざし、一気に引き裂こうとするがレオはまるで後ろにも目があるかのようにすっと横にかわしてしまった。そして振り返りながら肘を異形の影の顔面に叩き込む。それはどうやら異形の影の鼻を直撃したらしく、異形の影は自分の鼻を押さえて後退した。
「血の臭いをさせすぎなんだよ、お前は!」
気配はまったく感じ取れなかったが、血の匂いは消せていなかったらしい。ここに来るまで数多くの人間の命を奪ってきたことが、仇となったのだ。振り返ったレオがそう言いながら左腰に装着されているカードホルダーから一枚のカードを取り出す。そして、そのカードを左手につけられている手甲にあるカードリーダーに通した。
『”Leo Minor” Power In』
機械的な音声が流れ、レオの前に光のカードが現れる。それに描かれているのは子獅子座の星座図。そこに向かってレオが右手を突き出すと、光のカードはレオの右手に吸い込まれるようにして消え、代わりに彼の右手が光に包まれた。
「ウオオオッ!!」
雄叫びをあげてレオの右の拳が放たれる。光に包まれたその拳が与える破壊力は今までのものとは比べものにならない。よろけている異形の影に直撃した光の拳は異形の影の口に生えている牙を叩き折りながら異形の影を大きく吹っ飛ばした。そう、ビルの外にまで。

地上にいたみことと敷島は気を失っている男二人をバンの側に運び、そして足を捻挫しているらしい少女の応急処置を行っていた。
「よかったわ、救急箱用意して置いて」
「まぁ、獅堂さん用だったんですけどね」
湿布を貼った上から包帯を巻き、みことが少女の顔を見上げる。
「これで大丈夫だと思うけどあくまで応急処置だから。念のために病院行った方がいいかもね」
「あ、有難う御座います」
「それとあの二人だけど気を失っているだけで大丈夫だから。すぐ目を覚ますと思うわ」
「すいません……」
「謝って貰う必要はないわよ。まぁ、何て言うかこれは私達の不始末のようなものだし。もうちょっと早くあいつを見つけていればこんな事にならなかったはずだもの」
「……あの、あなた達は……」
少女がそう尋ねようとした時、仮面ライダーレオの一撃を食らってビルの外にまで吹っ飛ばされた異形の影が地面へと墜落した。その衝撃は予想以上に大きかったらしく、気を失っていたはずの二人が驚いたように目を覚まし、身を起こす。
「な、何!?」
「な、何だ、今のは!?」
二人揃ってキョロキョロと左右を見回す光景は何処か滑稽であったが、彼ら以外にはそれどころではなかった。地面に叩きつけられたはずの異形の影がよろよろとしながらだが、すぐに身を起こしたからだ。
「う、卯月さぁん」
情けない声を敷島があげるが、みことはじっと異形の影を睨みつけるだけだ。その視線には憎悪すら込められている。
(こいつが……こいつらがみんなを……)
思い出されるのはあの日、研究所を襲った怪物達。逃げまどう仲間達を次々と殺していった怪物達の中に、こいつもいた。自分の目の前でこいつは仲間の研究員を何人も殺したのだ。
「あ……ああ……」
異形の影を見て驚いているのは敷島達だけではなかった。はっきりとその姿を見た少女の顔には信じられないと言った表情が浮かんでいる。この怪物こそ、自分の両親の居た研究室にいた怪物だったのだ。もしかしたら両親はこいつの手に掛かって死んでしまったのかも知れない。そう思うと、少女の中に憎悪という名のドス黒い感情が沸き上がってくる。
「いやああああっ!!」
少女が叫んだ。
その声にはっとなるみこと、敷島、そして少年。
少年は立ち上がるとすぐに少女の側に駆け寄って、少女を抱きしめた。感情のたがが外れてしまった少女が異形の怪物を指さしながら泣き喚く。
「こいつが……こいつがお父さんとお母さんを!! こいつがぁッ!!」
異形の影は少女の断崖の叫びを耳に、キッと少女達の方を振り返った。まるで威嚇するかのように鋭い目つきで少女達を睨み据え、そして口を開く。先程仮面ライダーレオに食らった一撃の所為で牙の何本かは折れてしまっていたが、それでも充分に役に立つ。何よりも鋭い爪はまだ生き残っているのだ。ここにいる5人を殺すことなど容易い。あの忌々しい仮面ライダーレオが降りてくる前に5人を殺し、そしてこの場から逃げればいい。奴とはまた今度決着をつける。そう思って一歩踏み出した時だった。
異形の影の頭上で何かが光った。ハッと上を見上げるとそこには獅子座の星座図を描いた光のカードが浮かんでいる。そしてその向こう側にはビルから帯び降りてきた仮面ライダーレオの姿。レオが光のカードをくぐり抜けると、光のカードは消え、レオの全身が光に包まれた。
「喰らえ、”獅子の一撃”!!」
上空からの急降下パンチ。只でさえ威力、スピードなどが増している上に必殺の威力が込められているそのパンチを異形の影はかわすことなど出来なかった。そのパンチが異形の影に直撃した瞬間、レオの全身を包み込んでいた光が彼の右腕を通して一気に異形の影へと流れ込んでいく。そして、次の瞬間、異形の影は弾かれるようにして吹っ飛ばされてしまった。
続いて起こったのは大爆発。その爆発を背に仮面ライダーレオが華麗に着地を決める。すっとレオが立ち上がるのと同時に爆発は急速に収束し、そこには小さな水晶玉が残った。
その水晶玉を拾い上げると同時変身を解くレオ。
「地狗星か……今回も小物だったな」
そう言って獅堂はその水晶玉をポンと放り投げた。
すかさずそれをキャッチするみこと。
「これで二つ目。まぁ、ちょっとはレーダーの精度も上がるわね」
そう言いながら受け取った水晶玉をポケットの中に入れる。
「お、お前!!」
いきなり大声を上げたのは北川だった。獅堂の方を指さしながら彼に向かって歩み寄っていく。獅堂の方でも北川を確認したらしく、小さくため息をついていた。
「またあんたか……二回も襲われるなんてよくよく運がないようだな」
「うるさい! それよりも今度と言う今度は聞かせて貰うぞ。一体あの化け物は何なんだ? お前はどうして変身なんか出来るんだ?」
そう言って獅堂に詰め寄る北川。
「答える義務はないと前にも言ったはずだ」
獅堂は素っ気なくそう言うと、北川を押しのけて歩き出した。
「首を突っ込むなともな。それがあんたの為だ」
「……助けて貰ったことには礼は言っておくぞ。だがな、もう二度も巻き込まれたんだ。絶対にまたお前達と会うぜ」
そう言って北川はニヤリと笑う。おそらくはまた近いうちに出会うだろうと言うことを何故か彼は確信していた。その時こそ、あの化け物が一体何なのか、どうして変身出来るのかを聞き出してやる。
「……」
獅堂は足を止めて一瞬だけ北川を振り返ると、同じようにニヤリと笑ってみせた。それから仲間の待つバンの側へと歩いていく。
「……獅堂……さん……?」
まだ泣いている少女を胸に抱き寄せながら少年は通り過ぎていく獅堂を見て、呟いた。だが、その声はあまりにも小さく彼の耳には届かない。

This Story was Completed!
To be Continues Next Episode!

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