「いや〜、散々だったね〜」

「本当に散々でしたわ」

 私が比較的明るくそう言ったのに対して、我らが総帥は何か物凄く疲れたって感じで私と同じ事を口にした。それでまぁ、もう一人いる眼鏡は、何とも言えない表情で俯いていた。

「……本当に散々でしたわ」

 もう一度同じ事を総帥が言った。

 きっと、あれだ。大事な事だから二回言ったって奴だ。

「……ごめん」

 ぼそりと眼鏡が言う。

 何と言うか、いつもの覇気がまるでない。いつもはもっと自分の頭脳に無駄に自信たっぷりって感じで、私は勿論総帥に対しても嫌味の一つも出てくるんだろうけど、今回ばっかしは思い切り眼鏡の作戦ミス。いや、正確に言うなら人選ミス。

「まさか……こんな事になるなんて」

「いや、ちょっと考えればわかる事だったような気が」

 何か信じられないって感じで呟く眼鏡に私が冷静に突っ込む。

「大体俳句同好会でどうやってあの女を倒す気だったんだよ……」



 話は一週間程前に戻る。

 眼鏡が建てた例の痛い女打倒計画”結託部活作戦”――例の痛い女に恨みを持っている様々な部活の連中をあの女に先にぶつけて美味しいところだけ私達が頂くと言う作戦なんだけど、何故かその第一回目として眼鏡が選んだのが”俳句同好会”。

 いや、何で空手部とか柔道部とか剣道部のような格闘系部活じゃなくて、何処かどう見ても思い切り文化系部活の”俳句同好会”なんだよ。どうやって俳句であの女を倒すんだよ。

「いや、とりあえずは軽いジャブ程度のつもりだったんだ……」

 今回ばかりは自分のミスを痛感しているのか、眼鏡にいつもの威勢がない。

「それと……やたら乗り気だったんだよ、俳句同好会の連中……」

「……それなら仕方ありませんわね」

 ええっ!?

 そ、それで納得しちゃうんだ!?

「やる気があると言うのはいい事ですわよ。それを無下になど出来ませんわ」

「いやいやいや! ちょっと待って! さっきも言ったけど、俳句であの女をどうやって倒そうってつもりなのさっ!?」

「まぁ……倒すって言うのは無理でもぎゃふんとぐらいは言わせられるんじゃないかと」

「そうですわね。ぎゃふんぐらいはまず言わせておかないと」

 眼鏡と総帥が口々にそう言い、頷きあっている。

「な、何言ってるの!? 私達の目標は……」

「わかっておりますわ。私達の最終的な目標は世界征服。でもその前にあの女を何とかしなければなりませんのよっ!」

「それなら……」

「しかしながら! 全くもって残念な事にあの女はチートレベルのスペックを持った変態! 更に残念な事に、私達の誰もがあの女に一度も勝てた事がありませんっ!」

「まぁ、何と言うか、彼我戦力差がおかしいんだよな。多分三人がかりでやっても勝てない気がする。まぁ、この三人の中でまともに戦力になるのはお前だけだ、脳天気。そのお前がダメな時点で私達にはどうしようもない」

「てか総帥、一度もあの女とまともにやり合った事ないじゃん」

「私の事はともかく!」

 何と言うか強引に話を逸らしたな。

「何も一度に無理にあの女を倒そうとしなくても! 一歩一歩着実に事を進めていけば何時かはあの女も倒せるはずですわっ! かつて恐るべき強敵と戦った豚顔の超人もそう申しておりましたっ!!」

「それはまぁそうだけど」

「そう言う訳で! まずはあの女をぎゃふんと言わせる事から始めましたのっ!」

 ……ん?

 と言う事はあれかな。もしかしなくても総帥は今回の人選を初めから知っていたって事?

 チラリと眼鏡の方を見ると、さっと私の視線から顔をそらせていた。どうやら知っていたか、そうでないなら先に総帥に言われていたのか。

 充分ありうる気がする……。

「でもさ……俳句同好会はなかったんじゃないかな?」

 同じぎゃふんと言わせるならもっと他にもいい部活があったような気がする。

「そうだな……大体連中、俳句同好会でありながらやっているのはただの川柳だったし」

「川柳?」

「俳句と同じく五七五ですが季語の入ってないものをそう呼びますわ。俳句程気負わずに出来ますから、こっちの方が簡単ですわね」

「後風刺とかによく使われるな。まぁ、勘違いしている奴も結構いると思う。お前みたいに」

 何か気のせいか馬鹿にされているような。特に眼鏡から。

「悔しいですけれど、あの女の俳句は見事でしたわね」

「ぐうの音も出ないとはあの事だったな。俳句同好会の連中、マジで泣いてたし」

 二人が何をそんなにあの女を賞賛しているのかイマイチわからなかったけど、とりあえず俳句同好会の連中が本当に散々な目にあわされて泣きながら帰っていったのは確かだ。おまけに帰り際に「もう俳句なんか止める」とか言い出されて、それを慌てて宥める羽目になったし。何で私達がそんな事しなければならないんだか。

「まぁ、引っ張り込んだのはこっちだからな。それくらいのフォローはしてやるべきだろう」

「そうですわ。こう言った地道な事も私達の最終目標の為に必要な事ですわよ。でなければいずれ私達が世界を征服したあと、何処で反乱が起こるかわかりませんし」

「別にいいけどさー。でも結局あの連中が泣かされたのってあの連中の実力が足りなかったからだよね?」

「それはまぁ、そうなんだが……」

「だったらいちいち私達がフォローなんかしなくっても、あの連中が本気なら自分たちでもっと頑張ろうって言う気になるんじゃないかな?」

「まぁ、よろしいではありませんか。世の中、持ちつ持たれつ、ですわよ」

「それはわからないでもないけど。でも、それって世界征服を企む悪の組織の言う事じゃないような気がするよ」

「よし、それなら今度のテスト、勉強会は無しの方向で行くか」

「ですわね」

「あう……それは、その、困ります」

 うん、あっさり陥落。

 正直この勉強会がないと余裕で落第しちゃいそうだし。落第は言い過ぎだとしても補習とか再テストは間違いない。はっきり言って勉強は嫌いだけど、補習とか再テストで二人に迷惑をかけるのもやだし。

「冗談だよ」

「冗談ですわ。小夜がいなければ私達としてもやりにくいですし」

「眼鏡、それに総帥……」

 ああ、私って頼りにされてるんだ……。普段から眼鏡には「脳天気」だの「お馬鹿」だの言われ続けて、総帥にもやや呆れられているんだけど、実はそう口で言っていても心の中じゃ意外と私の評価って高いんだ。

「まぁ、壁がいないとこっちが直接的な被害喰うからな」

「それに私が逃げる時間稼ぎもして貰わないと」

「逃走前提って、それは流石にないだろう、総帥」

「あら? 参謀だって自分が直接戦わない事前提じゃございません事?」

 私の感動を返せ、この野郎。女だから野郎じゃないけど。

「まぁ、それはともかくだ」

「次は何処の部活に出て貰うかですわね」

 人ががっかりしているのに二人は何処吹く風。ふんだ、いじけてやる。とりあえずは机の上に人差し指でのの字を書いてやる。いじいじ。

「とりあえずは今回同様まずはあの女にぎゃふんと言わせられるような人達を」

 いじいじ。

「う〜ん、でも無駄にスペック高いからなぁ、あいつ。なかなか難しいんじゃないか? 大体一回こてんぱんにされた連中だし、そう簡単にリベンジなるようなもんじゃないだろ」

 いじいじいじ。

「かと言って格闘系部活をぶつけるもの芸がありませんわ」

 いじいじいじいじ。

「一応一人大マジであいつに復讐誓った奴がいるらしいんだけどな。今連絡が付かなくて困ってる」

 いじいじいじいじいじ。

「そんな人がいるんですか? ですがどうしてまた連絡が付かないのです?」

 いじいじいじいじいじいじ。

「聞いた話によるとあいつに負けてから山に籠もっているらしいんだよ。一人で大特訓の真っ最中だとか」

 いじいじいじいじいじいじいじ。

「今時山籠もりなんて随分時代錯誤ですわね」

 いじいじいじいじいじいじいじいじ。

「それだけ本気って事だろ。まぁ、どれだけパワーアップして帰ってくるか見物だな」

 いじいじいじいじいじいじいじいじいじ。

「まさか片方の眉毛剃っていたりして」

 いじいじいじいじいじいじいじいじいじいじ……。

「いや、流石にそれはないだろ。大体そいつ女だし」

「だぁぁぁぁぁぁぁっ!! ちょっとはこっちのフォローもしろぉぉぉっ!!」

 人が思いっ切りいじけているのに全力で無視するたぁ、一体どう言う事だ。少しぐらいフォローするのが仲間ってもんだろうにっ!

 二人の注意を引くべく、バンッと強く机を叩いたのだが、二人とも驚くことなく私の方をじっと見つめている。それから二人揃ってニヤリと笑った。

「……やっと飽きたのか」

「それだけ大声が出せるならまだ安心ですわね」

「とりあえず会議に参加しろ。何時までもいじけてないで」

「いじけていても何も変わりませんわよ」

 ううう……何か容赦ないなぁ。またいじけたくなってきた。

「大体さっきのは冗談だってわかってるだろ、お前も。総帥はともかく、私は基本戦闘の場には出ないからお前を壁にする意味なんか無いし」

「私も一応あなた一人をその場に残して逃げることだけはしたことありませんわよ」

「自分に被害が及ばないような距離まで下がりはするけどな」

「それは……その、総帥たる私がやられてしまったらそこで終わりですから」

「まぁ、そう言う事にしておくか。ともかく、脳天気。この面子で体を張れるのはお前だけなんだ。私も総帥もお前の事頼りにしてるんだよ」

「そうですわ。あなたがいないと始まりませんもの」

 二人にそう言われて、再び私はジーンとなる。

 ああ、やっぱり私って頼りにされてるんだ……。

「もっとも今回の作戦じゃその方向性から何一つ役にたたなそうだけどな」

「こう言った搦め手は参謀の方が得意分野ですものねぇ」

「まぁ、頭脳労働担当としてもたまにはいいところ見せないとな。さてと、脳天気はあまりと言うか全く聞いてないようだし、さっさと次の連中決めてしまうか」

「ですわね。とりあえずはあの女にぎゃふんと言わせられそうな部活は……」



 私がはっと我に返った時、その場に眼鏡がいなかった。総帥の方を見ると、何故かティーカップ片手に優雅なティータイムを楽しんでいる。

「あ、あれ? 会議、終わっちゃった?」

 やや焦りながら総帥に聞いてみると、総帥はティーカップから口を放してコクリと頷いた。

「それで、眼鏡の奴は?」

「参謀なら次の部活の人に話をしに行きましたわ。もっとも下準備は既にばっちり出来ているそうなので、後は何時あの女を襲撃するかぐらいの話し合いをするだけですけれど」

「ふぅん……ところで、そのティーセットは一体何処から?」

「これくらいお嬢様としての嗜みですわ」

「あ、いや、一体何処から持ってきたのかと言う事なんですけど」

「私の従姉妹がよく言っておりましたわ。これ位出来なくて何がお嬢様かと」

「だからそう言う事じゃなくて。てか、従姉妹なんかいたんだ」

「この街の名士ですわよ、そこそこの。まぁ、その従姉妹は今は家を出て何処かの殿方のところにいるとかいないとか」

「へー」

 て言うか、どっちなんだ、一体。

「話に聞いたところ、お見合いが嫌で好きな殿方の元へと逃げ込んだのだとか。それからどうなったかまでは聞いておりませんわ」

「……何と言うか、総帥の従姉妹なのに随分とロマンチックなお話だね」

「ロマンチックかどうかは知りませんが、私の従姉妹なのにって言うところに引っかかりを感じますわね」

「いや、だって総帥って小さい頃から世界征服を目指していたじゃない。それを家族の誰も止めないどころか応援すらしてるでしょ。だからその従姉妹さんもそう言う人なんじゃないかなーと思って」

「……生憎ですが、世界征服を目指しているのは我が白鳳院家だけですわよ。昔一度だけその従姉妹に話をした事がありますが、正直取り合って貰えませんでしたわ」

「そりゃそうだろうね」

 と言うか、家族総出で世界征服を目指してるってのも結構凄い気がする。もっともそれに協力するって言っている私や眼鏡も大概なんだと思うけど。

「ちなみにその従姉妹の好きになった殿方ですが、一応正義の味方らしいと聞いた事があります」

「ええっ!?」

「もっとも今は現役じゃないとも聞いておりますが」

「……何処からそう言った情報を手に入れてくるんだか」

「白鳳院家の情報力を馬鹿にして貰っては困りますわ」

「だったらそれを」

「つかうな、とお爺様に厳命されておりますの。この学園ぐらい自分たちの力だけで征服して見せろと」

「うわー、意外と厳しいんだ」

「実績のないものに組織を任せられないと言うのは常識ですわ。だからあなたももっと……」

 総帥がそこまで言いかけた時に眼鏡が教室に入ってきた。何か知らないが、非常に疲れた表情をしている。

「ただいま〜」

 声にもなんか元気がないと言うかやる気がないと言うか。

「お帰りなさいませ、参謀。首尾はいかがでした?」

「ん〜、まぁまぁってとこかな? とりあえず無駄にやる気だけはあったけど」

 大体ああ言う風にやる気だけ無駄にあるところってのは大抵ダメなんだよなぁ、などとブツブツ言っているのが丸聞こえなんだけどいいんだろうか。本人も総帥も気がついてないっぽいから別にいいか。

「やる気があると言うのはよろしいですわね。これなら次は期待出来そうですわ」

「あー、えっと、ちなみに一つ質問があるんだけどいいかな?」

 恐る恐る手を挙げて質問してみる私。

 結局会議の内容をほとんど聞いてなかったから今になってこの質問をする羽目になっているんだけど、やはりこの質問はどうしてもしておかなければならない気がする。

「次の結託部活って、一体何処なのかな?」

「……聞いてないだろうと思っていたが、やっぱりだったか」

「まぁ、あの様子では仕方ありませんわね。参謀、説明してあげなさい」

 うん、二人の反応も予測通りだね。でも、その使えない子目線はやめてほしいなーと思ったり。

「次の結託部活は……吹奏楽部だ」

「……吹奏楽部……?」

「その通りですわ。この学園の吹奏楽部はそれなりに優秀でコンクールにも入賞した事が何度かあるそれなりの実力派。ここならばきっとあの女にぎゃふんと言わせてくれるはずですわっ!」

 何かやたらめったら乗り気の総帥にちょっとため息をついている眼鏡。

「いやいやいや! 一体吹奏楽でどうやってあいつを!? 確かに俳句同好会よりはマシだと思うけどさっ!」

「初めは軽音部とかジャズ研とかだったんだけどな。どうしても総帥が吹奏楽がいいって言うから」

「そう言う問題なの!?」

「当然ですわっ! 大体軽音楽だのジャズだのポップだの、そう言うただやかましいだけの音楽など邪道ですわっ! 音楽と言えばやはりクラシック! 様々な楽器が奏でる極上のハーモニー!! これに限りますわっ!」

「いや、軽音部とかジャズ研とかでも複数の楽器を使うと思うんだけど」

「多分言っても無駄だ。この辺、総帥は頭が固いからな」

 何と言っても一応お嬢様だからな、こいつ、などと続けながら眼鏡が苦笑していた。どうやら既にこの辺は諦めきってしまっているらしい。まぁ、総帥の頭が変なところで固いって言うその意見に関しては私も同意だけど。

「あなた達も、今度一緒に連れて行ってあげますわっ! 極上の音楽がどう言ったものか、徹底的に教えて差し上げますから!!」

「ああ、是非とも遠慮しておくよ」

「私もー。クラシックなんか聴いてると眠くなっちゃうし」

 ビシッと私達に人差し指を突きつけてくる総帥に、満面の笑みを浮かべてそう答える眼鏡と私。

 総帥の厚意は嬉しいんだけども、私はクラシックとか聞いてると本当に眠くなっちゃうタイプだし(よく音楽の授業中それで寝ちゃって先生にこっぴどく怒られたからなぁ)、眼鏡はああ見えて総帥が嫌いだと言っていたポップ系の音楽が大好きだし、そもそも総帥は自分の好きな事や興味のある事柄について説明し出すと非常に長いという欠点の持ち主だ。その本人が徹底的と言うからにはおそらく一時間や二時間では済まないだろう。クラシックのコンサートに連れて行かれたあげく、その日は夜までずっとその話で盛り上がって(多分考えるまでもなく一人で)、下手をすれば感想文まで書かされかねない。うん、考えただけでも嫌だ。

「遠慮などしなくてもよろしいですのよ。コンサートのチケットは全部私持ちで構いませんし」

「大丈夫、気にするな、総帥。ただ全力で遠慮しているだけだから」

「あははー、私もほら、弟とか妹の面倒見なくっちゃいけないしさー」

 正直言って私も眼鏡も笑いが引きつっている。と言うか、眼鏡、あんたのは理由になってない気がするぞ。

「残念ですわね……折角二人にもよりよい知識と深い教養を味わい、極上の一時を過ごさせてあげようと思いましたのに」

 心底残念そうに言う総帥。

 いやまぁ、本当に厚意から来る発言だから悪いと思わないでもないんだけど、やっぱりその後に控えている総帥のうんちくやら自慢やらを散々聞かされるのはちょっとなぁ。

「まぁ、その辺はまた今度って事にしておこう。出来ればクラシック以外で誘ってくれ」

「私的にはお食事会とかがいいなーと」

「脳天気にしてはいい事を言ったな。総帥、ここは我々の親睦も兼ねてそれにしよう。それなら脳天気の弟や妹も来て問題ない」

「確かにそうですわね……何かはぐらかされたような気がしないでもありませんが」

「気のせいだよ、総帥」

「そう、気のせいだ」

「何か承伏しかねるようなものがなきにしもあらずなんですけども……まぁいいですわっ! 今日のところはこれでお開きと言う事に致しましょう!」

 総帥がそう言って立ち上がったのを見て、私と眼鏡はそれぞれホッと胸を撫で下ろした。それから慌てて私と眼鏡は拳を突き上げた。総帥がいつものように拳を突き上げていたのに、私達はそれをしてなかったからだ。

 とりあえず何か言われる前に誤魔化すようにいつもの台詞を私は口にする。

「戦闘担当、犬神小夜!」

 そう言ってVサインをする私。

「作戦参謀、雨宮 凪!」

 続けて眼鏡がその眼鏡をきらーんと光らせながら、くいっと真ん中の部分を右手の中指で持ち上げる。

「そして総帥、白鳳院沙耶佳!」

 最後に総帥が口元に手をやって高飛車笑いのポーズをとりながら、高らかにそう言った。いつ見てもこのポーズが似合う。本当に、マジで似合うから怖い。

「我ら三人、生まれた時は違えども!」

「我らが大いなる野望果たされる日まで!」

「決して裏切らず、共に戦い続けることを!」

「今再びここに誓う!」

「我ら、世界征服同好会!」

 そこまで言って私達は上に掲げた手を叩き合わせた。パァンと言う小気味いい音と共に打ち合わされた手を下ろし、私達は笑い合う。今日の場合、私と眼鏡はどっちかと言うと苦笑気味だったけど。

「さて、今日は凪ちゃんの奢りだね」

「ちょっと待て。何でそうなる?」

「だって今回は明らかに凪ちゃんの作戦ミスじゃない」

「作戦自体はまだ始まったばかりだ。大体一つダメだったからって奢らされてたらあっと言う間に破産するだろ! それに俳句同好会を選んだのは総帥、沙耶佳だぞ!」

「ちょっ!? 何を言うんですか、凪! あなたも反対しなかったじゃありませんか!!」

「何を言うんだか。沙耶佳、私達はとりあえずこの学園を征服する事を目的とした同好会だが、組織内の規律についてはちゃんとすると言ったのはあんた自身だぞ」

「え、ええ、言いましたわ」

「ならば! 総帥である沙耶佳が決めた事に部下であるこの私が反対など出来るはずもないだろう!!」

「がーん……そ、そう言えばそうでしたわ……なら今回の失敗は私の人選ミス……」

 そう言ってガックリと肩を落とす沙耶ちゃん。と言うか、自分で「がーん」とか言うかな?

「それに!」

 何だ、凪ちゃん、まだ何か言い足りない事あるのか?

「そもそも今回の作戦でお前が何をした、小夜!? 俳句同好会のフォローだってほとんど私がしたんだぞ! お前は横でまーまー言っていただけじゃないかっ! そんなお前に何で私が奢らなきゃならないンだっ!!」

「あ、あうっ……!」

 流石は凪ちゃんだ……的確に人の痛いところをついてくる。と言うか、物凄くマジなんですけど。これはあれかなー……俳句同好会の不甲斐なさとそのフォローで結構ストレス溜まっちゃってたかなぁ?

 とりあえずこれ以上凪ちゃんの機嫌を損ねるのは危険だなぁ。テスト前に勉強教えて貰えなくなっちゃうし、宿題とかも手伝って貰えなくなっちゃいそうだし。

「そ、それじゃー、今日は沙耶ちゃんの奢りって事で」

 そう言ってチラリと沙耶ちゃんの方を窺うと、そこにはもう誰もいなかった。どうやら凪ちゃんの矛先が私に変わった時にさっさと逃げ出してしまったらしい。と言うか、見事に自分が逃げる為の囮にされたっぽい。

「流石は沙耶佳。本当に小夜を囮にして逃げるとは」

「沙耶ちゃんの裏切り者ー!!」

「さてと、小夜。今度のテスト前の勉強会、ちゃんとして欲しかったらわかるよな?」

「あ、あう……」

「お前のクラス、宿題出てるんだよな?」

「……うう、今月ピンチなのにぃっ!!」

 涙目になってそう言ってみるけど、そんな事で揺らぐ凪ちゃんじゃない。機嫌を損ねた凪ちゃんは本当に、マジで容赦ない。

「まぁ、何もオーヴに行こうとかは言わないさ。精々購買でジュースだな」

「ううう……それでも充分厳しい……」

「一体何に使ったんだ……ほら、行くぞ。ちゃんと今日の宿題手伝ってやるから」

 そう言って先に出ていく凪ちゃんを私はとりあえず半泣き状態で追いかけるのだった。


それ行け!世界征服同好会その4 ――とりあえず完

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