COLORFUL ALMIGHTYS
部員獲得編その5

 色々とあったけども放送部の協力を得て部員勧誘のコメントを放送部の誇る二大番組「お昼休みの放送局」と「放課後放送局」に流して貰うようになって三日。

 我が部を取り巻く状況に劇的な変化は特になかった。

 まぁ、当然と言えば当然だろう。だいたい新規部員募集をするには時期が悪すぎる。何処の誰がこんな二学期も半ばを過ぎた頃に部活をはじめようと言うのか。

 おまけに我が部は時代に逆行するかのような白黒写真がメインの写真部。今や一家に一台デジタルカメラな時代に何でまた白黒写真なのかって気が自分でもしないでもない。

 そう言うわけで我が部に対して興味を持ってくれるような酔狂な生徒はほとんどいないのであった。

 我が部の存亡がかかっている部活運営委員会まで後九日。それまでに後三人もの新規部員を見つけなければならないのは結構難題だ。

 例によってどうすればいいのか頭を悩ませながら部室へと急いでいると、部室の前で一人の男子生徒が小柄な女子生徒を捕まえて何やらやっているところに出くわした。

「ちょっと! うちの部室の前で何やってんのよ!」

 少々苛立っていた為に出た声はかなり荒っぽいのが自分でも理解出来る。だけどそれを後悔する必要がないと言うことがすぐにわかった。小柄な女子生徒を捕まえていたのは我が部に対抗して作られる予定のデジタル写真部の部長、大田原学だったからだ。

 何かと私に絡み、嫌味を言ってくるこの男。はっきり言って私は大嫌いである。もし許されるならこの場でぼこぼこにしてやりたい程だ。

「お、おや、これはこれは」

 少し慌てた様子でずれたメガネを直す大田原。その間に彼に捕まっていた小柄な女子生徒が私の後ろに回り込んできた。よく見るとその身体は小刻みに震えていて、かなり怯えているのがわかる。

 その様子を見た私は大田原の顔をじっと睨み付けた。

「あんた、この子になにやったの?」

「あ、い、いや! 誤解だ! 僕は何もやってない!」

「何もやってないなら何でこの子、こんなに怯えてるのよ?」

「ちょ、ちょっと話を聞いて貰おうと思っただけだ! 変なことは何もしていない!!」

 やたら慌てた様子で大田原が応える。

 何と言うか、こいつの話が本当だったとしてもその態度は余計に疑いを深めるだけなんじゃないかという気がしてきた。

 呆れたように小さくため息をつく私。

「何でそんなに慌ててるのか疑問だけど一応信じてあげるわ。で、うちの部室の前で何の話をしていたのか、それくらいは教えて貰えるわよね?」

「あ、い、いや、そ、それは……」

 またまた言い淀む大田原。

 どうやらあまり私には話したくないようなお話らしい。まさかと思うけどこの子に告白とかじゃないわよね?

「そ、それはない! 断じてそれは!!」

 それはそれでこの子に失礼な気がしないでもないんだけど。まぁ、こいつから聞き出そうとしたっておそらくは無理。そもそもこいつとは仲が悪いんだし。と言うことで私はくるりと振り返って小柄な女子生徒の方に向き直った。

「もしよかったらこいつと何を話していたか……こいつが何を言っていたか教えて貰えないかな?」

「あ、あの……」

 未だに怯えているらしく頻りに大田原の方を気にしている女子生徒。かけている大きな丸メガネの向こう側に見える目には少し涙が浮かんでいる。どうやら余程怖かったらしい。

「大丈夫よ。もしこいつが何か変な事してたって言うなら全力でこいつを弾劾してあげるわ。ええ、そりゃあもう、二度とこの学校に来れない程度にね」

「は、灰田君! 君は、その、日頃の恨みをこの場で一緒に晴らそうとかそう言うつもりじゃないのか、それは!?」

 私の発言に思い切り慌てる大田原。と言うか、私に恨まれていると言うことをわかっていたのか、こいつ。わかっていてやっているんだったらたいしたものだ。これからこいつに対する対応を考え直しておこう。

「何なら先輩に話通そうか? 明日にはもうあることないこと大騒ぎになってるわよ?」

「や、やめないか! 黒宮さんにだけは……あの人にだけは……」

 どんどん大田原の声が小さくなっていく。

「ならこの子に何を言っていたか正直に話す事ね。ちなみにここから逃げても先輩に話すわよ。私があることないことね」

 ニヤニヤと勝ち誇った笑みを浮かべながら言う私。

 何かもう既にこの女子生徒のことだけじゃなく私個人の日頃の恨みを晴らすような感じになっているんだけど、まぁ、この際それは気にしない。

「う……じ、実は……」

 大田原が悔しそうに言うところによると、どうやらこの女子生徒が我が写真部の様子をうかがっていたらしい。もしかして入部希望かもしれないと思ったこの野郎はそれを思い止まらせ、尚かつ自分のデジタル写真部に入るよう説得していたのだそうな。

 念のためにこの女子生徒に確認を取ってみると大田原の奴は我が写真部の悪口を散々言ったあげくいかにデジタル写真の方が楽で尚かつ素晴らしいかを力説していたらしい。おまけにかなり強引に入部するように言っていたらしいのだ。道理でこの子が怯えているわけである。

「成る程、そう言うこと」

 女子生徒からの補足説明を聞いてから私はゆっくりとした動作で大田原の方に振り返った。日頃温厚な私でもちょっとこれは許せないかなぁと思うので、出来る限り凶悪な笑みを浮かべてみる。

「大田原君……明日、楽しみね」

 私の笑顔を見た大田原が瞬時に青ざめる。

 まぁ、それだけ私が凶悪な笑顔をしていたと言うことなんだろうけど、それでも失礼な奴だ。

「ちょ、ちょっと待ちたまえ! そ、それは、その、卑怯じゃないかね?」

「うちの部への誹謗中傷、更には入ってくれるかも知れない生徒への横槍的な強引な勧誘……どっちの方が卑怯なのかしらね?」

「い、いや、それはその……」

「あ、そうだ。この事生徒会に報告しちゃおうかな? そうすればうちの部の懸案事項の一つはほぼ確実になくなるわけだし」

「そ、それは……! その……非常に困るんだが……」

 私の言葉に今にも泣き出しそうな顔になる大田原。

 これが普段の私ならちょっと同情してあげなくもないんだけど、今回はちょっと出来そうにもない。何せこいつがやったことは我が写真部の廃部へと繋がりかねないことだ。この部をまぁ、それなりに愛おしく思っている私としてはとてもじゃないが許せる行為じゃない。

「何が非常に困るよ! 私が今までどれだけ苦労してきたか、あんた知ってる? あんたはそれを全部水の泡にしようとしていたのよ! それ位されても当然だわ!」

 何と言うか、頭に来ていた私が思いきりそう言い放つと大田原はそれこそ世界が終わったような、そんな表情を浮かべた。自業自得なので同情する余地はない。ないんだけど……何か微妙に悪いことをしているような気になるのは何故だ。

 と、そんな私の服の裾を誰かがクイクイッと引っ張った。まぁ、この場にいるのは私と大田原、そして後一人、例の女子生徒だけだから誰が私の服の裾を引っ張っているのかわからないはずがない。

「あ、あの……もうその辺にしてあげてはいかがでしょうか?」

 大きな丸メガネの向こう側から私を上目遣いに見上げてくる女子生徒。

「流石に可哀想ですし……」

 そう言って大田原の方をチラリと見やる彼女。 

 うわ、この子にまで同情されてるよ、大田原の奴。何つーか情けねー奴。

 まぁ、事の発端はこの子なんだし、その彼女がそう言うのならば、そろそろやめてやっても良い。それに私としてもいまいち引き際が見えてなかったし、ある意味渡りに船って奴だ。

「……仕方ないわね。この子に免じて今日のことはとりあえず私の胸の中だけにしまっておくわ。生徒会にも言いつけないから安心しなさい」

「は、灰田君……」

「ただし! もしまた同じようなことをしているのを見たり聞いたりしたらその時は容赦しないからね!」

 うるうると潤んだ目で私を見る大田原にそう言うと私はさっさと行けとばかりに手を振った。

 尻尾を巻いて逃げる犬のようにさっさとその場から駆け出す大田原。

 その後ろ姿をため息をつきつつ見送ってから、私は丸メガネの女子生徒の方を振り返った。

「さてと、お待たせ。えっとうちの部に何か用だったのかしら?」

「あ、あの……そ、その……えっと、その、あの」

 何だ何だ。さっきは結構普通に喋ってくれたのに急にしどろもどろになるなんて。一体どう言うことだ?

 あ、まさかさっきの私を見て思い切りびびっちゃったか。

 うーん、さっきのはたまっていたストレスを解消させようとしていたからなぁ。普段の私からは考えられない態度だったかも。普段の私はそれはもう温厚で知られているというのに。

「そ、そうだ。こんなところで立ち話も何だから」

 私は精一杯笑みを浮かべながら部室のドアに手をかけた。

 とりあえず部室の様子をうかがっていたって言うんだから入部希望か、または説明とかを聞きに来たのかも知れない。なら中に入って貰ってゆっくりと説明とかした方がいいだろう。

 そう思ってドアを開けようとして、私はその手を止めた。

 鍵が開いている。

 部室の鍵は一応私が管理していて、必要のない時は職員室に返す決まりになっている。でも、この部には何故か自分専用の合い鍵を持っている人がいたりするのだ。具体的には前の部長である黒宮先輩のことだが。勿論そのことは先生達には内緒である。

 そっとドアノブから手を離して腕時計を見てみると……うん、この時間ならもうとっくの昔に先輩が来ている時間だ。

 さて、そうなるとちょっと問題がある。

 先ほどまでこのドアの前で散々大騒ぎしていたにもかかわらず先輩がまったく顔を出さなかったと言うことだ。普段ならばあれだけ騒いでいたら絶対に顔を出し、そして話に絡んで来て引っかき回す。そう言うことが好きな人なのだ、困ったことに。

 にもかかわらず今回は出てきていない。おそらく中にいるのは間違いないだろう。そこで何かを企んでいるのか、それとも……。

「あ、あの……?」

「ああ、ゴメンゴメン。ちょっと鍵持ってくるの忘れちゃったみたいだわ。そうだ、場所変えて話そうか? とりあえず食堂辺りが良いわね。うん、そうしよう」

 ドアの前で固まっていた私におずおずと声をかけてきた彼女に私は一気に捲したてると彼女を連れて大急ぎで食堂へと向かった。



 さて場所変わって食堂。

 放課後も早い時間だとまだ結構生徒が残っていて、その為にこの食堂はカフェテリアとして開放されている……と言うことはいつかも説明したような気が。

 とりあえず自動販売機で買ったココアを二つ持って空いている席に座る。

「さてと……それじゃまずは名前教えてくれるかな? あ、私は灰田彩佳。知ってると思うけど写真部の部長。よろしくね」

 すっとココアの入った紙コップを彼女の前にやりながらまずは私が口火を切った。

「あ、はい。えっと、私、緑川さつきと言います。よろしくお願いします」

「緑川さんね」

「あ、さつきって呼んでください」

「そ、そう? ならさつきちゃん……」

「さつきって呼び捨てで結構です」

「……イヤ、何と言うかそう言うわけにもいかないでしょ。とりあえずは初対面な訳だし」

「……それもそうですね。すいません、無理言っちゃって」

 そう言った彼女、さつきちゃんのかけている大きな丸メガネの奥の目に見る見るうちに涙がたまっていく。

 やばい、このままだと泣き出しそうな雰囲気だ。

「わ、わかったわ。さつき。これでいいんでしょ?」

 とりあえずこんなところでいきなり泣き出されたら困るのは私。呼び方ぐらい別にどうってことないだろ、と自分に言い聞かせる。

「はい♪」

 私が彼女のことを呼び捨てにした途端、急に彼女の目から涙が消えて満面の笑みになる。

 一体何なんだ、この子?

「それで、うちの部室の様子をうかがっていたってあの野郎が言っていたけど、もしかして入部希望?」

 物凄く期待の眼差しを彼女に向けて尋ねる私。

 もし彼女が入ってくれれば残り後二人になる。まだ状況的には非常にやばいわけだけど多少マシって気分にはなれる。

「あ、すいません。そう言う訳じゃないんです」

「あ、そう……」

 あっさりと、それはもう非常にあっさりとお答えになった彼女に対して私は正直落胆の色を隠せなかった。うう、まだまだ未熟だなぁ。

「そ、それじゃ何のご用だったのかしら?」

 何とか気を取り直して彼女に部室をうかがっていた理由を問い質してみる。それくらい知りたいと思っても別に罰は当たらないだろう。

「あの……実はお姉様にどうしても聞いて頂きたいことがありまして」

「聞いて頂きたいこと?」

「はい……」

 そう言って顔を真っ赤にして急にもじもじし始めるさつきちゃん。

 つーか、ちょっと待て。今何げに聞き逃しそうになったが何か不穏な事言ってなかったか、この子。

「あの、実は」

「あー、ちょっと待った。その前に一つ確認したいことあるんだけど」

 口を開きかけた彼女に向かって手を突き出し、制止させる。

 気のせいかも知れないけど非常にイヤな予感がする。まぁ、だいたいにおいて良い予感は外れる可能性が高いが悪い予感に関しては当たる可能性が非常に高い。

 出来れば私の勘違いであって欲しいと切に願いながら私はじっと彼女を見た。

「今私のこと、何て呼んだ?」

 望むべきは”先輩”とか”部長”とか。百歩譲って”彩佳さん”でも許そう。”灰田さん”なら尚良し。

「お姉様、ですが?」

 何か悪い事言ったのかな、と首を傾げながら言う彼女。

「ゴメン、もう一回」

 お願いです、神様。私の聞き間違いだと言ってください。

「お姉様」

 またしても小首を傾げている彼女にそう言われ、思わず私はその場に突っ伏してしまった。

 な、何故に、よりによって”お姉様”なんだ?

 間違っても私はそう言う趣味は持ち合わせていない。まぁ、男の子とちゃんと付き合ったこともないけど。でも、だからと言って百合系じゃないんだから。

 そう言えばやたら私に絡んでくる先輩……もしかしたらあの人もそっち系なんじゃないだろうか。急に不安になってきた。後で問い質しておこう。もしそうだったらそれはそれで怖いんだけど。

「あ、あの、さつきちゃん……」

「呼び捨て」

「……さつき、一体全体どう言うわけで私がその、”お姉様”な訳なのかな?」

「そ、それは……」

 さつきの説明は何と言うか、彼女がもじもじしまくっていたせいかなかなか進まなかった。それでもまぁ、根気よく聞き出してみたのを要約すると。

 どうやら私とさつきは今日が初対面と言うわけでもないらしい。正確に言えば私のことを彼女が知っていたって事なんだけど。

 彼女が初めて私を見たのはこの学校の入学式の日。初の登校と言うことでおろおろとしていた彼女を私が案内してあげたらしい。確かに入学式の日は手伝いの為に駆り出されていたんだけども、色々と忙しかったんで私にはその記憶はない。

 ちなみにそれだけで私のことを「お姉様」などと呼ぼうと思ったわけではなく、その後も私はさつきとちょこちょこニアミスしていたらしい。例えば一学期の球技大会の時、流れ弾を私がかばったりとか(ちなみに競技はソフトボールで誰かが打ったファールボールを私が頑張ってキャッチした時のことらしい)、お昼の混雑する食堂の中で人混みに突き飛ばされた彼女を助けたとか(そう言えばそう言うこともあったかも知れないんだけど、あんまり覚えてない。だってそう言うことはここじゃ日常茶飯事だものね)。

 とにかく私がそれと知らずに彼女のことを色々と助けていたらしいのだ。そして極めつけなのがついさっきのこと。大田原から助けて貰ったというのが彼女の中で決定的なものだったらしい。

 それにここしばらく私が部員獲得の為に奔走していたのを見かけて、その賢明な姿に彼女のハートが撃ち抜かれてしまったらしい。いや、私的には撃ち抜いたつもりは全くないんだけど。

「と言うわけで……おわかり頂けましたか?」

「……わ、わかったわ。でも出来ればその、”お姉様”はやめて貰いたいなぁと」

「ダメですか?」

 ちょっと頬を引きつらせながら私が言うと、途端に彼女の目に大粒の涙が浮かんだ。

 おい、ちょっと、それは反則じゃないか?

 上目遣いに瞳をうるうるさせるなんて……おまけにこの子、なかなか可愛いからそれが非常に、何と言うか女の私でも可愛いと思えてしまう……!!

「……わかった。もう好きに呼んでくれていいわ」

 ガックリと肩を落として言う私。

 物凄い勢いで負けた気分だ。

「ありがとうございます、お姉様♪」

 さっきまで泣きそうだったのにもう満面の笑顔だよ、この子。

 くるくると表情が変わって、まぁ、何つーかなかなか面白い子だ。まぁ、単純に私を慕ってくれているだけみたいだから、それはそれで悪くはないし。問題があるとすれば呼び方ぐらいだけど、それは私が我慢すれば良いだけのことだ。

「それで私に聞いて欲しい事って何?」

 何とか気を取り直して笑顔を浮かべる。

 入部希望じゃなかったのは正直言って残念だけど、それでもこんな可愛い子と知り合いになっただけでもよしとしよう。一応そっちの趣味はないと自分にもう一回言い聞かせながら。

「あの……私をお姉様の側に置いて欲しいんです!」

「……は?」

「ですからお姉様のお側にいてお姉様のお世話をさせて貰いたいんです!」

「ちょ、ちょっと待った!」

 慌てて私はそう言い、くるりと後ろを向いた。

 まさかこの子、真性……本物の百合っ子か!? ちょっと微妙な感じで怪しい先輩よりも質悪くないか、それって?

「あの、お姉様?」

 不安げな声をかけてくるさつきの方に私はゆっくりと振り返る。顔には必死に笑みを貼り付かせながら。

「ああ、ゴメンね。ちょ、ちょっと色々と心の中で整理していたから」

 うう、頬が引きつっているのが自分でもわかる。ちゃんと笑えているんだろうか、私。

「……ご迷惑ですか?」

「ふえ?」

 いきなり泣きそうな顔になるさつきに私は思わず間抜けな声を返してしまった。

「もしお姉様が迷惑だって言うんなら……」

 しょ、正直な話、そんなお世話して貰うような立場じゃないし、別段必要でもない。だけどここでもし「迷惑だ」なんて言ったら彼女、泣き出すどころか、それこそ自殺しちゃうんじゃないだろうか。そんな雰囲気を感じ取れてしまう。

「め、迷惑じゃないんだけどね。でもさ、そんなお世話して貰うような、そんな偉い人でもないし、その、さつきにだって色々としたいこととかあるでしょ?」

 何とか必死に彼女の気持ちをはぐらかそうとする。

「だから私がしたいのはお姉様のお側でお姉様のお世話です」

「だ、だからぁ……」

「やっぱりご迷惑なんですね?」

 さつきがそう言ってまた瞳をうるうるさせ始めた。

 だからそれ反則だろっ!!と心の中で思い切り突っ込む。口に出して言ったら本気で泣き出しかねないと思ったからだ。

 もしかしたらこの子みたいなタイプ、私苦手かも。

「もしそうでしたらそう言ってください。もう二度とお姉様の前に姿はおろか顔も出しませんから」

 どーんと背中に黒いものを背負って言うさつき。

 ああ、もう!

 そう言う言われ方したら断れないじゃない!

「わかった、わかりました。私の負けよ。あなたの好きに……」

 半ばやけくそ気味にそう言いかけた時、私の頭の中であることが閃いた。

 この子は私の側にいたいと言っていた。まぁ、お世話云々はいいとして、側にいたいのならば……。



「そう言うことで新入部員の緑川さつきです。よろしくお願いします」

 そう言ってぺこりと頭を下げるさつき。

「これで後二人だねー」

「先が見えてきましたわね。まぁ……残り日数も先が見えていますが」

 先輩と親友の白鳥真白が口々に言う。なかなかいい感じの歓迎ムードだ。

 だが、すぐにそれを打ち破るように真白が半眼になって私をじっと見つめてきた。

 より正確に言うならば、私の腕に自分の腕を絡ませているさつきの方を、だが。

「それで、それは一体どう言うことですの? 私の記憶に違いがなければあなたにそう言った趣味はなかったと思うんですけど」

「まー、色々とあるのよ、色々と」

 疲れたようにそう答える私。

 そう、私はさつきに「私の側にいたいって言うんなら同じ部に入ればいいじゃない」と持ちかけたのだ。ちなみにお世話云々の方は丁重にお断りしておいた。それでも私と一緒にいる時間が増えると言うことでさつきは二つ返事で入部を承諾。そして彼女を連れて(正確にはひっつかれて)部室まで戻ってきたのだ。

「むー……私と言うものがありながら彩ちんはー」

 何故か妙にむくれている先輩を華麗にスルーしながら私は疲れたような笑みを浮かべるのであった。



 そんなこんなで写真部にまた一人仲間が増えた。

 ちょっと色んな意味でやばいような気がしないでもないんだけど、それでもこれで状況はそこそこ好転したと言っていいだろう。

 しかし残り日数は九日。

 必要な部員数は後二人。

 余裕はない。

 とにかく最後まで諦めずに頑張らなければ。



「離れろ、新人! 彩ちんの隣は私の特等席だー!」

「先輩のお言葉でもお姉様のお隣は譲れません!」

「……モテモテですわね、彩佳」

 喧々囂々とやり合う先輩とさつき。

 何か呆れたような、冷めた目で私を見る真白。

 果たして最後まで頑張れるだろうか……ちょっと自信なかったり。

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