COLORFUL ALMIGHTYS
部員獲得編その4

「やーよ」

 いきなりにべもなく言われた。

 いやはや、まさしくとりつく島が無いというのはこの事か。

「だいたいあんた達に協力したってこっちには何のメリットもないじゃない」

 うーむ、確かにその通りだ。その辺のことを言われるとこちらとしては言い返すことも出来ず、非常に辛い。

「まぁ、あんた達の立場には同情ぐらいはしてあげるけどさ」

「同情するならこっちのお願い聞いてくれてもいいじゃない」

「だから言ったでしょ。こっちにはメリットがないって」

「それはそうだけど」

「さてと、そろそろ放送の時間だから」

 そう言って私が何か言う前にその扉が閉じられた。成る程、これ以上話すつもりはないと言うことか。

 さて、そろそろ今の状況を説明しよう。

 私こと灰田彩佳は今、放送室の前にいる。一昨日、食堂で聞いた放送部の放課後放送局にヒントを得て思いついた部員勧誘大作戦。それは放送部のやっている二大放送番組、お昼休みの放送局と放課後放送局に我が写真部(白黒メインのまさに時代に逆行しまくりの、だが)の部員勧誘のコメントを流して貰おうというものだった。

 そうそう簡単に行くとは思ってなかったけど、こうもにべもなく断られるとは思わなかった。うーむ、世間とはこうも世知辛いものなのか。

 ちなみに先ほど私の相手をしていたのは放送部のアイドル、三笠きららだ。実は彼女とは一年の時に同じクラスだったと言うこともあり、一応顔見知りではある。その縁を頼って部員勧誘大作戦の協力をお願いしに行った訳なんだけど、結果は見ての通り惨敗。

 すっかり忘れていたんだけど、三笠きらら、あいつは見た目と声はやたらいいんだけどもその性格はやたらと打算的。彼女の行動指針は自分にとって損か得かだったりする。そんな彼女の性格なんか知りもしない男子連中がファンクラブなんか作っていたりするんだけども、その連中にあいつの実体を教えてやりたい程だわ。

 とりあえずいつまでも放送室の前で呆然としていても仕方ない。一旦部室に戻って放送部に協力させるいい方法を考えるか、それともまた別の方法を考えるか。どっちにしろあまり時間はないんだからのんびりはしていられない。私は足早に部室へと向かうのだった。



 部室のドアを開けてみると今のところ私以外の唯一の部員である白鳥真白と先代の部長である黒宮先輩が何やら難しい顔をして向かい合っていた。二人の間には一体どこから持ってきたのか将棋盤が置かれている。もっともその上にあるのは将棋の駒ではなくて何故かチェスの駒だったが。

「何やってるんですか?」

「んー、見ての通りチェス」

「何で将棋盤で?」

「チェス用のボードがありませんでしたから」

「まー似たようなものだからいいんじゃないかなーと」

「似て異なるものって言葉、知ってますか?」

 呆れたように言う私だが、二人はどうやら大まじめのようだ。人の苦労も知らないで何とも平和なことである。

「ところでどうでした、放送部の方は?」

 将棋盤から目を離さないまま真白が私に尋ねてくる。どうやらかなり白熱した勝負になっているようだ。ちなみに後で聞いた話だけど、この勝負、実は先輩と真白との間で何やら賭けが成立していたらしい。そりゃ白熱もするわけだわ。

「剣もほろろってところかなー。まぁ、話をしに行った相手が悪かったって気もするけど」

「三笠さんでしたっけ? あの放送部のアイドルとか言って調子に乗ってる」

「調子に乗ってるのは乗ってるけど、まぁ実力もちゃんとあるし人気も高いからねぇ。少なくても”言葉の魔術師”とか”ナチュラルボーン詐欺師”とか言う悪評じゃないのは確かだし」

「イヤー、それほどでもないかなー」

「先輩、誉めてません」

 何故か照れたように頭をかく先輩に容赦なくそう言い放って置いてから私は腕を組んだ。

 とりあえずこれからどうするか。三笠きららを何とか籠絡して放送部に協力させるか、それともまた別の方法を考えるか。時間は余り残ってないから早く考えなければならない。

 何となくチラリと先輩の顔を覗き見てみる。先ほど口にした”言葉の魔術師””ナチュラルボーン詐欺師”と言うのは先輩の異名だ。この人ならばあの手この手、そして口八丁手八丁で三笠きららを言いくるめてしまうだろう。もっともその後二度と協力はしてくれないだろうけど。放送部の恨みを買いたくないから先輩を使うという手段は止めにする。

 やはり何か別の方法を考えた方が早いだろうか。放送部は三笠きららが実質支配しているようなものだから、彼女が「ノー」と言えば他の誰に言っても答えは等しく「ノー」となってしまう。そんな連中を相手にするよりも何か別の方法を……と言ってもそう簡単に思いつくようなものでもない。

「何なら私が説得しに行ってあげようか?」

「全力でお断りします。先輩が動くときっとろくなことになりませんし」

「何だとー!!」

「あ、先輩、チェックメイトですわ」

「何ー!!」

 私の方を見て大声を上げて、その次に真白の方を見てまた大声を上げる先輩。何と言うか、元気な人だ。

「ま、真白ん! ちょっと待った!」

「待ったなしと言ったのは先輩の方ですわよ。さぁ、どう致します?」

 勝ち誇ったようにニヤリと笑う真白。まぁ、事実チェックメイトな以上真白の勝ちなのだろう。しかし、相手は何と言っても先輩だ。負けない為ならなんでもやるだろう。

「あ!」

 少しの間将棋盤を見て唸っていた先輩がいきなりドアの方を指差した。

 思わず私も真白もその指の差す方向を見てしまう。

「えい」

 何とまぁ、古典的な策略に引っかかってしまったものだろうかと思わず頭を抱えたくなるのだが、その間に先輩は将棋盤を見事にひっくり返してしまっていた。

「ああー、なんてこった。これじゃしょうぶのゆくえがわからないなー」

「な、何を言ってるんですか! 先ほどの勝負はどう見ても私の勝利……」

 思いっきり棒読みで言う先輩に対し真白が物凄い勢いで食って掛かるが、もはや無駄だろう。先輩に口で勝てる人間などそうはいない。私は勿論、真白だって勝てっこない。

「やー、これでしょうぶはさんしょうさんはいのごぶごぶだねー」

 やっぱり棒読みでそう言う先輩を真白がお嬢様とは思えない物凄い目で睨み付けている。もし私に今の彼女の背に浮かぶオーラが見えたならばそれはきっと怒りと憎しみにどす黒く燃え上がっていることだろう。

「……まぁ、よろしいですわ。これなら賭けもチャラと言うことでよろしいですわよね?」

「五分五分じゃ仕方ない。まぁ、また今度ってことにしておこう」

 自分で無理矢理五分五分にしたくせによく言う。そんなところがこの先輩らしいと言えばそうなのだけど。

「それにしても困ったねー。真白んが入ってくれたのはともかく、あれから誰も見学にすら来ないんだからねー」

「ポスターは見てくれたりしているみたいなんですけどね」

 私が校内にある掲示板と言う掲示板に貼った部員勧誘のポスター、たまに様子を見に行くと足を止めて見てくれる子がいたりする。でも、そのすぐ隣に貼ってあるデジタル写真部のポスターを見るとあっさりと去っていく。

 うーむ、嫌味のつもりでやったんだけど、それが裏目に出たか。

「あれじゃございませんか? 黒宮先輩の噂を聞いてみんな来ないとか」

「真白ん、そりゃどう言う意味かね?」

 真白の言葉に引きつった笑みを浮かべながら尋ねる先輩。

 まぁ、確かに真白の言う通りかも知れない。先輩は良い意味でも悪い意味でも校内でもかなりの有名人だ。どっちかと言うと悪い意味の方が先行している気がしないでもないけど、とにかくこの様な先輩がいる部活に好き好んでくる奴なんか相当の物好きだろう。

 ……何か自分で言っていてむなしくなってきたけど。ああ、私もその物好きの一人なんだなーって。

「とにかく困りましたわね。後二週間で三人。この状況では絶望的じゃございませんか?」

「絶望的とか言うな。折角良いアイデアだと思ったのになぁ」

 腕を組み、困ったようにため息をつく真白にそう言い、私は机の上に突っ伏した。

「要は放送部に協力させればいいってことでしょ? やっぱりここはこの私の出番……」

「先ほど全力でお断りしました。二度も言わせないでください」

 何やらニヤニヤ笑いながら先輩が言うけれども、私は情け容赦なくそう言い放つ。先輩がああ言う笑い方をしている時は大抵ろくなことを考えていない時だ。私としてはあくまで事を穏便に進めたいんだから、ここで先輩に動いて貰うのは得策ではない。先輩に何か頼む時は、それは本当の本当に最後の時にしたい。まぁ、その時には既に手遅れと言う気がしないでもないけど。

「むー、さっきから彩ちん何げに酷くないかい?」

「私は事を穏便に進めたいだけです」

「私がやると事がややこしくなるって言うのかよー?」

「ややこしくなるだけなら良いんですがそれ以上に混沌とするからイヤなんです」

「それは誤解だよ、彩ちん。私は何も事を混沌とさせて楽しんでいるわけでは決してないんだから。私としてはごく普通に物事を進めようとしているだけなのに相手が私のこの進歩的な考えについて来れなくて、それで勝手に混沌としているだけなのだ。だから私は決して悪くない」

「負けそうになったから人の注意をよそに向けて将棋盤をひっくり返す事の何処が進歩的な考えかじっくりお聞きしたいものですけど」

 大真面目に言う先輩の横で真白がぼそりと呟くのが聞こえたけど、あえて聞かなかったことにする。

「言ったな、真白ん」

「前から思って降りましたが、その”真白ん”という呼び方、何とかして頂きたいものですわ、先輩」

 相変わらず机の上に突っ伏している私をよそに先輩と真白が睨み合う。どうでもいいけど、ケンカするなら何処か別の場所でやって欲しい。私は今どうやって部員勧誘するか必死で考えているんだから。

「相変わらずの様子だな、黒宮」

 いきなり聞こえてきたそんな声に私が顔を上げるとドアのところに一人の男性が立っているのが見えた。その姿を確認した瞬間、私は大慌てで立ち上がる。

「す、水前寺先輩じゃないですか!?」

「よう、灰田。相変わらず黒宮に振り回されているようだな」

 水前寺先輩は私の顔を見るとにこやかな笑みを浮かべた。

 この水前寺先輩は我が写真部のOBだ。今は卒業して大学に行っているはず何だけど、こうして時折遊びにやってくる。どっちかと言うと先輩が何か無茶やらかしてないか、その様子を見に来ていると言う気がしないでもない。

 ちなみに私はこの水前寺先輩には一方ならぬ世話になっている。写真の技術なんかもかなり色々と教えて貰った。白黒写真の面白さを教えてくれたのもこの先輩だ。

「……おー、誰かと思えば群青じゃん。久し振りー」

 しばし水前寺先輩の顔をまじまじと見ていた先輩が思いだしたかのようにそう言い、片手をあげた。ちなみに「群青」とは水前寺先輩の名前だ。

「お前、今俺のこと忘れてただろ?」

「そんなことないさー。やだなー、群青ちゃん」

 ちょっと引きつり気味の笑みを浮かべて先輩を見る水前寺先輩。先輩はと言うと例によって何を考えているのかわからない笑みを浮かべているだけ。

 それから水前寺先輩はこの部室にいるもう一人、真白の方を見ておやっと言う顔をする。

「君は……白鳥さんとこの」

「お久し振りでございますわ、水前寺さん」

 少し驚いたような感じの水前寺先輩に優雅な仕草で頭を下げる真白。この辺は流石お嬢様、って感じだ。しかし、私としてはそんなことよりもこの二人が知り合いな事の方が驚きなんだけど。

「うーん、ある意味凄いね。この街の名家が二つ揃ってるなんて。これで後神坂の人間がいれば三名家全部揃うのになー」

 感慨深げに言う先輩。

「三名家?」

「彩ちん、知らない? この街の三つの名家。群青の水前寺家はこの街の元領主様、真白んの白鳥家はこの街でも有数の名主の家系だし、後はここの御領主様に使えていた武術指南役の神坂家。確か今年の一年にその神坂の御曹司がいるはずなんだけどね」

 何故か自慢げに言う先輩。あなたはその何処にも関係してないだろうに、と思ったがあえて口には出さないでおく。

「話はしたことはありませんが見たことぐらいならありますわよ。神坂の御曹司と言っても何処にでもいそうな普通の人に見えましたわ」

 そう言ったのは真白だ。流石は三名家の一つ、他の名家のことも知っているらしい。

「普通の人、ねぇ」

「良い意味でも悪い意味でも、ですが」

「まぁ、神坂さんのところは長女の方がしっかりしているってもっぱらの噂だからね。丁度灰田とか白鳥さんとかと同じ歳のはずだよ」

 真白の何処か嫌味っぽい一言をフォローするかのように水前寺先輩が口を挟む。

「もっともここに通っている訳じゃないみたいだけどね。何処か別の、全寮制の学校にいるとか」

「おお、全寮制!」

 妙なところに反応する先輩。

「何と言うか禁断の香りがする魅惑な言葉だねぇ、彩ちん」

「知りませんよ、そんなこと」

 先輩が何を考えたのかはわからないけど、同意を求められても困る。しかし、今にも涎を垂らしそうな感じでニタニタ笑っているところからろくな想像じゃないらしい。一体何を考えているんだか。

「ところで灰田、何か悩んでいたみたいだけど、どうかしたのか? まぁ、黒宮のことだったら野良犬にでも噛まれたと思って諦めろとは前にも言ったと思うが」

「群青ー! そんなこと言ったのか、私の彩ちんに!!」

 水前寺先輩の言葉に噛み付かんばかりの勢いで声をあげる先輩。だけどそんな先輩の叫びをあっさり無視して私はここ数日間頭を悩ませ続けている問題――部員が五人揃わないと廃部と言うこと――を水前寺先輩に話した。

 私の話を聞いた水前寺先輩は腕を組んで何やら難しい表情を浮かべて考え込みはじめた。どうやらどうすればいいのかを考えてくれているようだ。流石は水前寺先輩。ただ事態を引っかき回して、どっちかと言うと悪い方向へと進めてしまう黒宮先輩とは大違いだ。きっと何かいいアイデアを出してくれるに違いない。

「まったく……やっぱり黒宮に任せるべきじゃなかったな」

「だから言ったじゃんか。私にやらせると後悔するよって」

「しかし他にやってくれる奴もいなかったしなー」

「まぁ、私と彩ちんぐらいしか残ってなかったしねー」

 そう言って笑い合う二人を見つつ、私はガックリと項垂れていた。水前寺先輩がこの状況を打破してくれる良いアイデアを考えてくれているとばかり思っていただけに、実は単純にこう言う状況になった原因を考えていただけと知って結構と言うかかなりショックだ。

 すっかり忘れていたけど……水前寺先輩、あまり深く物事を考えない人なんだった。今思えばそれも水前寺家のおぼっちゃまだからなのかも知れないけど。その割には自分の好きなものに関しては非常に情熱的でもある。

「しかしそうなると困るなぁ。来年には妹も入学してくるはずだし、ここを紹介しておこうと思っていたんだけど」

「ほう、群青に妹がいたとは初耳だね、この私でも」

「そりゃ話さなかったからな。妹のことをお前に知られると何をしでかすかわかったもんじゃなかったし」

「どう言う意味だよー」

「お前の灰田に対する接し方を見ればそう考えたくもなる」

「もっとどう言う意味だよ、それー!?」

「ところで水前寺先輩、その妹さんなんですけど先輩みたいに白黒写真に興味とかあるんですか?」

 水前寺先輩の発言に不服そうな先輩を横に押しのけて私が尋ねてみる。もし興味があるのなら来年度の部員が一人確保出来たも同然だ。それに私が今までに水前寺先輩に受けた恩を妹さんを世話することで少しでも返せる。

 と思っていたんだけど……。

「いいや。あいつは写真とかはまったく興味ないな。まぁ、実の兄である俺から見てもなかなかに変な奴ではあるけどな」

「はっはっはー。それじゃ入学したところでうちに入ってくれそうにはないなー」

「よく考えるとそれもそうだなー」

 またしても豪快に期待を外された私がガックリと肩を落としている横で笑い合っている二人の先輩。

 一体何なんだ、今日は。厄日か? 天中殺か? それとも大殺界か? とりあえず仏滅な事だけは確かだろう。

 こう言う日はさっさと帰って不貞寝でもするに限る。何つーか、もう何も考えたくない気分だ。とりあえず全部忘れて今日は帰ろう。明日、明日になってから必死に頭を働かせるんだ。よし、そう決めた。

「……帰ります」

 そう言って机の上に置いてあった鞄を手にする私。

「およ? もう帰っちゃうの、彩ちん?」

 少し驚いたような顔をして私を見る先輩。

「折角群青が来たのに」

「ああ、別に構わないよ。何か疲れてるみたいだし、今日は帰ってゆっくりと休め。そうでなくても黒宮の相手をして日々疲れているだろうしな」

「群青、そりゃどう言う意味だっての」

 疲れている理由にはあなたも含まれています、などとは勿論口に出せない。だけども水前寺先輩がいい感じで勘違いしつつも気遣ってくれたので私はぺこりと水前寺先輩のほうに向かって頭を下げた。

「すいません。それじゃお先に失礼します。先輩、帰る時戸締まりしっかりとお願いしますね」

「わかってるよー。大船に乗ったつもりで任せておきなさい」

「その大船がタイタニックでないことを祈っておきます」

 それほど大きくもない……と言うか真っ平らな胸を張って安請け合いする先輩にそれだけ言うと私は部室を後にした。

 我が写真部が廃部になるかも知れないってのに何をそんなに暢気にしているんだろう……思わず漏れる深いため息。

 とりあえず明日、また何かいい考えが浮かぶことを祈ろう。



 そして翌日。

 何とも重い足取りで私が自分の教室へとやってくると、何故か私の机のところに三笠きららが少々ふてくされたような顔をして座っていた。

「……ねぇ、そこ私の机なんだけど」

 私が彼女にそう言いながら鞄を机の上に置くと、彼女はようやく来たかって顔をして椅子から立ち上がった。そしてすっと私の方に手を出してくる。

「出しなさいよ」

「は?」

 いきなり何を言い出すんだ、こいつ?

 あからさまに不審げな顔をして三笠きららを見る私。すると彼女は小さくため息をついてこう言ってきた。

「あんたの部の部員勧誘の為のコメントの原稿。まさか作ってないってわけでもないんでしょ?」

 確かにお願いしに行った手前作ってないわけではない。だがこの話は容赦なく断られたはずだったのでは?

「事情が変わったの。協力してあげるんだから感謝しなさいよ。ほら、だからさっさと渡す。今日のお昼の放送から流してあげるんだから」

 そう言って私の方に手を突き出してくる三笠きらら。

 何かよくわからないが、とにかく我が写真部の部員勧誘の為のコメントを放送部の番組で流してくれるようだ。一体どう言う事情かはわからないけど、協力してくれるならそんな事情どうだっていい。

 私は鞄を開けるとその中からクリアファイルを取り出した。そこに挟んである一枚のレポート用紙を彼女に手渡す。

 レポート用紙を受け取った三笠きららは少しの間それをじっと見ていたけど、やがて小さく頷くと私の顔を見た。

「このまま流す? それともこっちで少しアレンジする?」

「え?」

「ちょっと文章がかたっくるしいのよねぇ。もう少し柔らかい感じにした方がいいんじゃない? 良いんだったら私の方で手直しさせて貰うけど」

「あ、う、うん。それじゃお願いするわ」

「了解。それじゃ後でまた来るわ。手直ししたの、見て貰う必要があるから。それじゃね」

 そう言って去っていく三笠きらら。

 一体何なんだ、あの豹変ぶりは? 何で昨日の今日でああも協力的になったんだ? 

 疑問符がいくつも私の頭の上で展開する。

「どうやら上手く行きましたわね」

 後ろから聞こえてきた声に振り返るとそこには真白が立っていた。何かしてやったりという顔をしている。

「一体どう言うこと?」

 何やら事情を知っているっぽい彼女にちょっと詰め寄ってみる。自分の知らないところで何か変なことをやらかされたのではないかという不安があったからだ。そこに先輩が絡んでいたら事態は結構最悪に近いものがある。

「どう言うことも何も……見ての通りですわ。三笠きらら率いる放送部は我が写真部に対して協力してくれることになりましたの」

「だからどうやってその協力を取り付けたのって事。もし何か変なことをしたのなら……」

 ジロリと真白を睨む私。

 もしも何か後ろ暗いことをして放送部に協力をさせたのならすぐにでも謝りに行く必要がある。いくら協力して欲しいとは言っても、そう言う他人に何か遺恨を残すような方法ではダメだ。後で絶対に報いが来る。そして、先輩ならそう言う手段に訴える可能性が非常に高い。

「変なことなんか何もしておりませんわ。ええ、それは私の家名に誓ってもよろしいですわよ」

 思い切り睨んでいる私に対して真白がちょっとムッとしたようにそう言う。

 ちなみに真白は自分の家のことを結構誇りに思っているらしく、彼女が「家名に誓って」と言った場合は余程と言うかほぼ確信的に自信がある時だ。だから彼女の言う通り変なことはしていないのだろう。

「それじゃどうして? 昨日はあんなにもにべもなく断ってきたのに……」

「それは……」

「その秘密は群青にあるんだよ、彩ちん」

 いきなりそう言って私と真白の間に現れる先輩。そのあまりにも唐突な登場に思わず私も真白も後退ってしまっていた。

「ど、どこから湧いて出ましたか、このちびっ子先輩は!!」

「こらこら、人をボウフラみたいに言うな、真白ん。それとそのちびっ子というのも訂正したまえ。私は自分の意思でちょっと発育を止めているだけなのだよ」

「先輩、それ人間じゃありません」

 普通自分の意思で発育を止められる人間はいない。まぁ、たまに何か心理的な要因で発育が止まっちゃうような人もいるにはいるらしいけど、その実例が先輩であるとはとてもじゃないが思えない。この人に心理的なダメージを与えるのはおそらく不可能に近い難行だろう。

「それはともかく……水前寺先輩が一体どう関わっているんですか?」

「ふっふっふ〜。それはだね〜」

 先輩の話を要約するとこうだった。

 昨日私が帰った後、私のひどく落ち込んだ様子を見かねた真白がいかに今私が追いつめられているかを水前寺先輩に話したらしい。それならばと言うことで水前寺先輩は先輩と真白を引き連れて放送部にもう一度お願いしに行ったそうだ。

 応対に出たのは勿論三笠きらら。で、その彼女が水前寺先輩を見た瞬間、何故か真っ赤になって(その様子はとても普段の彼女からは考えられないものだったらしい。これは放送部に所属しているとある部員からオフレコと言うことで聞きだした事なのだけど)、もう後は水前寺先輩の言うことにただ首を縦に振るだけ。まさしく言いなり同然。

「あの様子だと彼女、群青に一目惚れしたね」

 ニヤニヤ笑いながら一人頷いている先輩。

 だけどその意見には私も同意だった。水前寺先輩、家柄もそうだけど見た目もかなりいい男。まぁ、お坊ちゃんらしいところもあるけどその全身から発しているふんわりとした雰囲気は敵を作らない。

 それに三笠きららはかなりの面食いだって噂を聞いたことがあったし、そう言う意味でも彼女のお眼鏡にかなったのだろう。

「何にせよこれで状況は少しだけマシになりましたでしょう?」

「そうね。真白もそうだけど水前寺先輩にもお礼言わなきゃ」

「おいおい、私は無視かよ」

「イヤ、先輩はこれで三笠きららに対する良いネタ拾えたーとか思っているでしょうし」

「な、何でわかった!? まさか彩ちん、私の心を読んだ? それとも……私と彩ちんの心は繋がっている!?」

「どっちもあり得ませんから」

「やっぱり私と彩ちんはラブラブなんじゃん。うーん、困っちゃうなー」

「あの、先輩、人の話聞いてますか?」

 何やら自分の身体を抱きしめてくねくねしている先輩を見て私は引きつった笑みを浮かべるしかなかった。

 

 何はともあれ、これで状況は少しだけ進展した。

 残り日数は後十二日。

 必要な部員数は三人。

 この放送で一体どれだけの生徒が興味を持ってくれるか、そこが勝負だ。 

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