COLORFUL ALMIGHTYS
部員獲得編その3

「そう言えばさー」

 いつものように放課後、部室にて誰か入部希望の子が来ないかなーとのんべんだらりんと待っていた私に向かって声をかけてきたのは例によって黒宮先輩である。いつものように作業用のテーブルの上に胡座をかきながら、マンガ雑誌を広げつつ片手でスナック菓子を食べていたのだが何かを思い出したかのように私に声をかけてきたのだ。

 私こと灰田彩佳はちょっと考え事の真っ最中だっただけに何げに眉を寄せてしまう。先輩が「そう言えばさー」といって話し出す内容は大抵がくだらない話だったりするからだ。どうせ今回もまたくだらないと言うかロクでもない話だろうと思ったからこそ、そんなことで今考えていることを中断させられるのはたまらない。

 しかしながらそんな私の顔を見ているわけでもない先輩は(相変わらずマンガ雑誌の方に視線は向けられっぱなしだ)勿論私の表情に気付くはずもなく、まぁ、気付いたところでまったく気にしないのが先輩なのであるんだけども。

「今日は真白ん、どうしたの?」

「真白なら今日は家の用事があるとか何とか。まぁ、ああ見えても一応それなりのお嬢様ですから色々と用事もあるんでしょう」

「社交界とかそう言うのかなー?」

「さぁ? そこまでは知りませんよ。あまり話してもくれませんし、そう言うことは」

「ふーん……」

 それでまた興味を無くしたように先輩はマンガ雑誌に集中し始める。

 ちなみに先ほど話題に上ったのは私の幼馴染みにしてこの白黒メインの写真部の時季はずれの新入部員、白鳥真白のことだ。彼女の実家は由緒正しき、そこそこ名家の白鳥家。二、三日前に私の奸計によって(自分で言っておいて何だけど、結構ひどい話だ)この廃部寸前の写真部の新たな部員として迎え入れられたのだ。

 まぁ、お嬢様らしく少々気まぐれだったりお嬢様らしからぬ口の悪さはあるものの、根は真面目な彼女だ。部員になったからにはちゃんとさぼったりせずに毎日部室に来てくれている。今日みたいに来れない日はちゃんと部長である私に断りを入れてくるところが彼女らしい。

「やっぱり何かこっちから打って出る必要があるかもなぁ」

 再び考え事に頭を戻し、ついつい呟いてしまう。

 先日、生徒会長直々に呼び出された私はその生徒会長から「次の部活運営委員会までに部員数が規定に達しなければ廃部」と申し渡されてしまった。そう言うことで校内にある掲示板という掲示板に部員募集のポスターを貼り付けたのだが、あれから何の反応もない。まぁ、活動内容が白黒写真がメインという時代に逆行しまくっているようなものだから余計に興味を惹かないんだろうと思うけど。

 他にも問題はある。私たちの写真部が廃部になってしまうかも知れない次回の部活運営委員会でもう一つ議題に上がること、デジタル写真部新設のことだ。今の時代に即したデジタル写真をメインにやるという写真部。我が写真部とは対極の位置にあり、勿論興味を持っている人はそっちの方が多いだろう。

 白黒写真は白黒写真で味があるんだけどなぁ。まぁ、これからはそっちの方はどんどん廃れていくんだろうし、ある意味仕方ないと言えば仕方ないかも知れない。

 さてさて、話を戻そう。

 掲示板にポスターを貼ったはいいものの反応はまるで無し。待てど暮らせど興味を持って話を聞きに来るような生徒は一人もいない。こう言う消極的な策ではなく何かこちらから訴え出るような積極的な策に転換する必要があるかも知れない。

 そう言うことを先ほどからぼんやりと考えていたのだけれど、その積極的な策の良い案がまるで浮かばない。ただでさえ、生徒会からは疎まれているのだ。下手に騒ぎを起こせば次の部活運営委員会が来る前に廃部の憂き目にあってしまう。

「うーん、どうしたものかなぁー……」

 そう呟きながらチラリと先輩の方を伺ってみる。どうやら先輩はマンガに夢中で私の呟きは聞こえていなかったようだ。良かったような悪かったような。下手に先輩の助けを請うと後でロクでもないことになるのはほぼ間違いない。だけどもこの状況を打破する何かいい案を出してくれるような気がしないでもない。

「……彩ちん、ジュース買ってきてくれないかな?」

 唐突に先輩がそう言って私の方に小銭を差し出してきた。百二十円。どうやら自分の分だけらしい。

 人に行けと言うならばお駄賃ぐらい出せ。そう言いたかったが、それを必死に押し殺し私は先輩の手からひったくるように小銭を受け取ると部室から出た。気分転換にいいかも知れない。この煮詰まった頭を散歩でもして少し冷ますことにしよう。

 部室のある棟を出て自動販売機のある食堂へと向かう。ちょっと距離があるんだけど気分転換の散歩には丁度いい。

 食堂へと続く渡り廊下を歩きながら考えることはやっぱり部員勧誘のこと。期日が後十五日ぐらいなのでどうしてもそのことが頭から離れない。

「おや、灰田君じゃないか」

 そんな声が聞こえてきたので顔を上げてみると前方に一人の男が立っている。メガネをかけた細身の男子生徒。その顔には嫌味ったらしいニヤニヤ笑いが張り付いている。何と言うか、見ているだけで腹が立ってくるような、そんな笑みだ。

「どうだい、部員勧誘は進んでいるかい?」

 表情だけでなく口調も何処か嫌味ったらしい。もし許されるならその場に押し倒してマウントポジションで泣くまでぶん殴ってやるところなんだけど。それくらい腹が立つ口調だ。

「おかげさまで一人入部してくれたわ」

 殴る、いや怒鳴りたい気持ちを押し殺して素っ気なく答える私。

「それはそれは。こっちは毎日のように入部希望者がいててんてこ舞いだよ。いやぁ、君のところはいいねぇ、暇そうで」

「別段暇って訳でもありませんけど」

「ああ、これは失礼。言葉の綾ってもんだよ。それではまた無駄な努力を続けたまえ。後十五日程だけどね」

 そう言ってメガネの男子生徒は笑いながら去っていく。

 やっていいならその背中に跳び蹴りなんかを喰らわせてやりたいところなんだけどもぐっと堪える。よし、よくぞ堪えた私。

 あの嫌味ったらしい男子生徒、奴こそがデジタル写真部の部長となる大田原学。何故か私にやたらと因縁をつけてくる。噂によると先輩と何やら確執めいたものがあるとか無いとか言うのだけども、私に八つ当たりをするのは止めて貰いたいものだ。どうせなら直接先輩とやり合って欲しい。そうすればこっちの溜飲も下がるだろうし。何せ先輩は「口先の魔術師」とか「ナチュラルボーン詐欺師」とか呼ばれているぐらいだ。口喧嘩で先輩に勝てる奴はそうはいない。

 何かまたストレスがたまったのを感じながらも、何とか気を取り直して食堂へと向かう。何故かうちの学校の食堂は放課後も開いている。昼休みの時と違って放課後は喫茶店のような感じになっているのだけど、それがまた人気で放課後の早い時間なら結構人が多い。授業が終わった後、お茶してから帰る生徒もたくさんいるのだ。

 私が食堂に着いた時も中にはまだたくさんの生徒がいて、ワイワイガヤガヤと賑わっていた。そんな中を突っ切って自動販売機のおいてあるコーナーへと向かう。

「……何買って帰ろうかな」

 特に何か指定された訳じゃないから何を買って帰ったところで文句は言われないだろう。人を使いっ走りにしたんだから何か嫌味なものを買って帰ろうかな、と思わないでもないがここの自動販売機はまともなものしかおいていない。学校の外に出たら少々変わり種のジュースとかも売っているんだけど、そこまでやる程暇人でもない。やるとしたら精々炭酸系のジュースを買って思い切り振ってから渡すぐらいだろうか。

「あ、あの……」

 自動販売機の前で考え込んでいたら後ろからか細い声が聞こえてきた。振り返ってみるとそこには大きな丸メガネをかけた儚げな印象を人に与えるような線の細い女の子が立っている。ちょっと困ったようなそんな顔をして私の方を見ているその子に、私は自分が邪魔をしているという事実にようやく思い至った。

「ああ、ゴメンね。ちょっと考え事しちゃってて。先、いいわよ」

 そう言って横にどく私。

「あ、あの、そうじゃなくて……」

 何やらその子が言っているけど、私はいかにして先輩に意趣返しをするかをまた考え始めていたので全く聞いていなかった。と、そこに突然やたら軽快な音楽が聞こえてきた。

『ハーイ、放課後の一時をお過ごしの皆さーん! 放課後放送局の始まり始まりー! 今日もこれから一時間半程お付き合いよろしくー!!』

 音楽に負けず劣らずお気楽なノリのセリフがスピーカーから聞こえてくる。まるでどこぞのFM放送みたいな感じだが、これはうちの学校の放送部の立派な活動の一つである。お昼休みにやっている「お昼休みの放送局」と放課後にやっているこの「放課後放送局」の二大番組を企画立案し、実際にやっている。少々ノリが暴走気味ではあるんだけども、生徒からの人気は非常に高い。

『今日のDJは放送部のアイドル、三笠きららでお送り致しまーす! それでは本日の一曲目、いってみよー!!』

 三笠きらら、自らを放送部のアイドルと言い切ってしまう辺り彼女の自意識過剰ぶりがわかるものだが、実際に人気もかなりある。校内でミスコンとかやったら確実に上位入賞は間違いない。それはともかくスピーカーからは最近流行りのJ−POPなどが流れ始めた。これは最近売り出し中の美少女アイドル、栢木エミナの新曲だ。よくテレビのCMで流れているから私でも知っている。

 ついでに言うとこの栢木エミナというアイドル、その容姿だけではなく歌唱能力も非常に高い。天は二物を与えないと言うけどもこの子は二物も三物も持っているんじゃなかろうか。何とも羨ましいことだ。

「あ、あの……ちょっとお話を……」

 栢木エミナの歌を何とはなしに聴いていると先ほどの少女が話しかけてきた。制服に付いている学年章を見るとどうやらこの子は一年生のようだ。と、そんなことはどうでもいい。問題はその子が未だに何も買っていないと言うことか。

「私ならまだ何買うか決めてないから先に買ってくれていいわよ」

「あ、あの、そうじゃなくて……」

 その子が何か言っているというのは口の動きでわかるんだけど、スピーカーから聞こえてくる栢木エミナの声が彼女の声をかき消してしまっていて何を言っているのかが聞き取れない。その子の方はそれがわかっていないらしく、口をぱくぱくと動かし続けているのだけども私の耳に聞こえてくるのはやっぱり栢木エミナの歌声だけだ。

「あー、ゴメンね、何言ってるか聞こえないのよ。ちょっとスピーカーの音大きすぎるんじゃないかしらねー」

 そう言ってスピーカーを見上げる私。この食堂の中にも各教室と同じようにスピーカーのボリュームスイッチがあるはずだと思うんだけど、私が勝手にそれを触っていいものかどうか。栢木エミナの歌を聴いていたい奴だっているだろうし。

 と、その時私の頭に急に何かが閃いた。具体的に言うならばここに来るまでずっと私を悩ませ続けていた問題のいい解決……になるのかどうかはわからないけど、とにかく良いアイデアだと思う。

 さて、アイデアを思いついたならばこんな事している暇はない。すぐにでも行動に移さなければ。時間に余裕はないし、待ってもくれないのだから。

「ゴメンね! 私、急用が出来たから!!」

 何事かを話したげな一年生の子をその場に残し、私は大慌てで部室へと走り始めた。



 バン!と派手な音を立てて部室のドアを開けた私が中に飛び込んでいくと先輩は相変わらずの格好で別のマンガ雑誌を読んでいるところだった。

「先輩先輩! 良いアイデアが浮かびました!!」

「アイデア? 何の?」

 私の興奮した様子に先輩はマンガ雑誌から目を離して私の顔を見た。

「何言ってるんですか! 部員勧誘のですよ!」

「部員勧誘……?」

 興奮している私に対して先輩は何処か話がかみ合っていないと言う感じで首を傾げていた。その表情から私が何をそんなに喜んでいるのかまるで理解出来ないと言った感じだ。ええい、一体どうして私のこの喜び具合がわからない!?

「……あー、そう言えばそんな話もあったねー」

 先輩の口から出たその言葉に私は思わずその場に崩れ落ちてしまった。

「どったの、彩ちん? あ、そうだ。ジュース買ってきてくれた?」

 キョトンとした顔で私に尋ねてくる先輩。

「そ、そ、そ……」

「そ?」

「そんなこと言ってる場合かー!!」

 遂に我慢の限界。今までずっと悩んでいたこととか大田原の嫌味に必死に耐えてきて積もりに積もったストレスが遂に爆発。もう自分でも止められない。

「今うちがどう言う状況だかわかっていますか!? 後十五日以内に部員が三人入らないと廃部になっちゃうんですよ!! いわば危急存亡の時って奴なんです! それなのに何ですか、先輩は!? 廃部になるかも知れないのにそうやってのんびりとマンガ読んでいるわ、色々と考えている私を使いっ走りにするわ、あまつさえ”そんな話もあったねー”? 一体何考えて生きてるんですか、あんたは!!!」

 それだけ一気に捲したてると手に持っていた小銭を先輩の前に叩きつけた。

「あ、彩ちん……ちょ、ちょっと落ち着こうよ……」

 完全にブチギレている私の剣幕に流石の先輩も怯んでいるようだ。まぁ、こう言うことは滅多にないからなぁ、と心の何処かで冷静な私が分析していたり。

「ほ、ほら、まぁ座って。彩ちんが思いついたアイデア聞いてあげるからさ」

 私のご機嫌を取るかのように先輩が空いている椅子に私を座らせる。

「それで、どう言うアイデアを思いついたのかな?」

「…………」

「えーと、彩ちん。そろそろ機嫌直して貰いたいなーと私は思うのだけどれども。さっきのは確かに私が悪かった。でも部員勧誘については自分がやるから何もするなと言ったのは彩ちんだよ? だから私としては安心して任せていたつもりだったのだけどもね」

「……そうでしたね」

 そう言えばそうだった。先輩に部員勧誘の方法を考えさせるととてもじゃないがロクでもない方法を考え出すに違いない――というか一番初めに全校生徒の内申書を勝手にコピーしてきてそれを盾に部員を強制入部させようとかしたからなぁ。それを考えると先輩には手を出させない方がいい。そう判断したんだった……ここ最近悩んでばっかりだったんですっかり忘れてたけど。

「すいません、ちょっとストレスたまっていたみたいです」

「彩ちん、結構考え込むタイプだからねー。もうちょっと気楽に行こうよ」

「先輩みたいにそんな何でも楽観的に考えられないだけです」

「楽観的ってわけでもないって。まー、あれだ。言うなれば人生後ろ向きよりも前向きの方が楽しいって奴だよ」

「たまには後ろを振り返って反省した方がいいと思いますよ、特に先輩は」

「何げにひどい事言うねー、彩ちん」

「そりゃ先輩の後輩ですから」

「それはさておいて。さっきのアイデアって奴を聞こうじゃないか。私に手伝えることがあったら是非とも手伝わせて貰いたいしさ。さっきのお詫びも兼ねて」

「さっき放課後放送局聞いて思いついたんですけど……」

 私が真剣な顔をして先ほど思いついたばかりのアイデアを先輩に話す。先輩も同じく真剣な顔をして私の話を聞いている。

 おそらく端から見ればその姿は…………何か悪巧みをしているようにしか見えないだろう。



 次の部活運営委員会まで後十五日程。

 我が部が存続する為に必要な部員数は後三人。

 さて、私の思いついたアイデアがどう言う風に事態を動かすか……いい方に転がってくれたらいいんだけどなー。



―interlude―

「ああ……今日もまた話を聞いて貰えなかった……」

 ガックリと肩を落としながらとぼとぼと歩いている少女が一人。

 よく見るとその少女、食堂で彩佳に何やら話しかけようとしていた少女だ。

「一体何時になったら出来るんだろう……」

 ブツブツ呟きながら意気消沈したようにため息をつく。

 河川敷沿いの桜並木を夕陽に照らされながら少女がとぼとぼ歩いていく。

「はぁぁ……」

 やたら切なげなため息をつきながら。

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