COLORFUL ALMIGHTYS
部員獲得編その2

 キーンコーンカーンコーン♪

 何処の学校でも授業の開始と終わりを告げるベルの音はそう変わらない。勿論うちの学校だってそうだ。

「……はぁ」

 先ほどの授業で使った教科書を片付けながらため息をつく私。何と言うかやるせない気持ちで一杯だ。同時にちょっと焦ってもいるし。漏れたため息はいかんともし難いこの状況に対する半ば諦めと言うか何と言うか。うん、自分でもよくわかってない。

「何をため息ばかりついているんですか?」

 少し呆れたような感じで私に声をかけてきたのは幼馴染みのお嬢様だった。名前は白鳥真白。本人曰く由緒正しき、そこそこ名家の白鳥家のご令嬢。多少口は悪いが根はいい奴だ。

「あまりため息ばかりついていると幸せを逃がしますわよ」

「はいはい。わかっておりますとも。でもね、今の状況を考えたらため息の一つや二つは出ようもんだって」

「その様子だと全然のようでございますわね」

「まぁ、こうなるような気はしていたけど。まぁ、よりによって私の代で潰すことになるなんて……卒業してった先輩達に申し訳が立たないわ……」

 そう言って私はまたため息をついた。

 今私を悩ませている問題、それは現在正式な部員が私一人の写真部に新規部員を四人入れること。うちの学校の規定によると正式な部活動として認められるには最低でも正式な部員が五名必要なのだ。にもかかわらず今現在我が写真部には部員が私だけ。まぁ、一応もう一人いるにはいるがあの人を戦力として計算してはいけない。下手をすれば足を引っ張るどころの問題じゃなくなる。一気に廃部に追い込まれる可能性すら秘めているのだ、その人は。

 問題はまだある。その新規部員を次の部活運営委員会までに揃えなければならないのだ。ちなみにその部活運営委員会は一ヶ月に一回ある。それぞれのクラブがその月に何をやったかとか何か問題がなかったかとか何らかの要望がないかとかを生徒会を交えて話し合う場だ。まぁ、たまにクラブ間で起こった問題とかの裁定もしたりするんだけど。で、次回の部活運営委員会で議題に上るのがうちの部の存亡と新たに作られるデジタル写真部の承認の件だ。それまでに部員が規定の五名に達してない場合うちの部は良くて同好会に格下げ、悪かったら廃部と言うことになる。かなりの可能性で廃部の方が濃厚なんだけど。

 それもこれも私の前の部長をやっていた先輩の所為だ。去年の時点で部員数は私と先輩の二人だけ。にもかかわらず生徒会にうちの部を正式な部活として承認させ続けていたんだから。生徒会からすれば目の上のたんこぶのようなものだったのだろう。しかし、それでも何も言わせなかったのは先輩が口八丁手八丁で上手く生徒会をだまくらかしていたらしいからなのだけど。そのお陰で生徒会からうちの部への視線は果てしなく冷たい。まぁ、それでもちゃんとした対応はしてくれているけど(そうでなければ部長が私に替わった瞬間、うちの部は廃部にされてしまっている)。それにしても一体先輩はどうやって生徒会を騙し続けていたのやら……。

 何にせよ次の部活運営委員会まで後二十日程。一応校内の掲示板という掲示板に部員勧誘の為のポスターを貼ってはみたものの反応はまるで無し。まぁ、時期が時期だし、何か今更部活に入るって人もそんなにいないだろう。

「うーん、やっぱり何かもう一つ手を打つ必要があるかなぁ」

「そうですわね。状況は極めて悪いのですからただ待っているよりも積極的に打って出る必要があるんじゃありませんか?」

「積極的にねぇ」

 何日か前に先輩にも同じ事を言われた。確かに真白の言う通り状況は極めて悪い。にもかかわらず待っているだけではこの状況を打破することは難しいだろう。ここはやはり自分からアクションを起こさなければならないようだ。

「何か考えてみますか」

「頑張ってくださいね、応援していますわ」

 そう言って真白が安心した、と言う風に微笑んだ。

 その顔を少しの間マジマジと見つめ、ふとあることに気付く。確か真白は何の部活にも入っていなかったはず。

「……真白」

「何ですか?」

「あんたって確か帰宅部だったわよね?」

「まぁ、一応そう言うことになりますけど」

 真白が何やら警戒した表情を浮かべる。流石は幼馴染み、私が何を考えたか見当をつけたようだ。

「彩佳さん、何を考えているのかはわかりませんがそれはお断り致しますわよ」

「わからないって言ったのに何で断るのよ?」

「わ、私は、そ、その、あ、あれですわ! わ、わかりますでしょう!?」

「あれって何よ?」

「だ、だから、その……私、ちょっと放課後は忙しくって」

「別段クラブ活動もバイトもしてないお嬢様が何を言うか。家帰ってもメイドさん達が色々とやってくれているからすること無いって前に言っていたじゃない」

「それは以前の話です! 今はそうじゃありません!」

 何故か真白はやたら必死だ。何かを隠している、そんな気がしないでもない。彼女の場合下手につっこむと物凄い勢いで機嫌を損ねてしまうので注意が必要だ。そう、私はこうやって何事かをひた隠しにされるとそれを暴き出したくなるという悪癖を持っているのだ。

「な、何を笑っているんです?」

 ジロリと真白が私を睨み付けてくる。どうやら彼女の言った通り顔には笑みが浮かんでしまっていたようだ。気をつけないと。

「あー、ゴメンゴメン。それで何だったっけ? ああ、放課後は忙しいって話だったっけ?」

「そ、そうですわよ。私、放課後は忙しいのであなたのお手伝いは出来ませんの」

「それでさ、何で放課後忙しくなったわけよ? 少なくても去年はそんなこと言ってなかったでしょ? 付き合いは悪くなってたけど」

「わ、私にだって他の友人との付き合いとかそう言ったものがあります!」

「……ああ、そうか。あの双子と愉快な仲間達の一人だったもんね、真白は」

「その他大勢みたいな言い方はよしていただけませんこと?」

 少しムッとしたような感じで私を見る真白。

 ちなみに双子と愉快な仲間達というのは別のクラスにいる相沢って言う双子の兄姉とその二人の周りにいる連中のことを指す。まぁ、こう言う風に命名したのは私なんだけど、そもそもの情報源はこの真白だ。彼女曰く、運動神経だけしかない野生児だの、とてもじゃないが高校生には見えないちびっ子だの、やたらお堅い上に素直じゃない委員長だのが二卵性のくせにやたらそっくりな双子の周囲にいていつもうるさく騒いでいるらしい。で、その中にもう一人、ツンデレお嬢様として真白が加わっているというわけだ。本人は全力で否定しているけど、その連中のことを話す時の彼女は何と言うか楽しそうで、幼馴染みとしてはちょっと嫉妬してしまいそうになる程だったりする。

「そう言えば二年になって真白だけがクラス変わっちゃったんだよねー。おーおー、それで寂しいわけだ。よしよし、この幼馴染みで腐れ縁の私が慰めてあげよう」

 そう言って真白の頭を撫でてあげようと手を伸ばすが、その手はあっさりと振り払われてしまった。

「別に寂しくなんてありませんわ。ああ言ううるさい連中と離れることが出来て清々しております」

「嘘つけ。いつも昼休みには一緒にお弁当食べてたり、放課後一緒に遊びに行ったりしているくせに」

 そこまで言って私はふとあることに気付いた。

 真白はお嬢様らしく家事能力はほとんど無い。その真白が最近はお弁当など作って持ってきている。彼女に聞いてみたところ、家のメイドさんとかに作らせたわけではなく自分で作ったとのこと。一応は花嫁修業の一環だと顔を真っ赤にして言っていたんだけど。もしかするともしかするかも知れない。

「ねぇ、真白」

「何ですか?」

 先ほどのセリフに図星を突かれたのかちょっと拗ねたように顔をそむけていた真白は私の顔に浮かんでいるニヤニヤ笑いに気付いていない。

「お弁当、食べて貰えたの?」

「まだ人に食べさせられる程の出来ではありませんわ。それに相沢さんの料理の腕前はかなりのもの、比較でもされようものなら……」

 真白はそこまで言ってはっと何かに気付いたように口元を手で押さえた。それから真っ赤になって私の方を睨み付けてくる。

「そうかそうか、真白ちゃんも遂に恋に目覚めたか。子供の頃のあの高飛車な頃を知っているだけに大丈夫かと内心不安に思っていたんだけども、まさかあの真白が好きな男の為に料理の勉強をする程になるとは……いやはや、恋ってのは凄いわねぇ」

「な、な、な、何を言ってるんですか彩佳は! あ、あ、あれは私の花嫁修業の一つとして!」

「ほう。花嫁修業? さて、中学の頃は家事などはメイドにやらせておけばいいんですわ、などと仰っておりましたよね、真白お嬢様?」

「あ、あう」

 いやはや、伊達に幼馴染みはして無いっつうか。真白のお嬢様な様々な発言はよぉく記憶させて頂いておりますのでね、この庶民の私は。

 真っ赤になって口をぱくぱくさせている真白。まぁ、その名前の通り色白な顔が今は本当に茹で蛸みたいに真っ赤になってしまっている。

 これ以上この話を続けても真白が拗ねるだけだろうからそろそろ止めるかな、と思って彼女の肩に手を乗せる。

「さて、真白。ちょっとお願いがあるんだけど聞いてくれる?」

 後で真白に聞いたところ、この時私が浮かべていたのはまさしく悪魔の笑みだったそうな。



 放課後、真白を連れていつものように部室に向かう私。ガックリと肩を落とし、意気消沈している真白とは対照的に私は意気揚々と、まさしく小躍りしそうな感じで部室へと向かって歩いている。

 いつもと違ってちょっと上機嫌で部室のドアを開け、中に真白を招き入れる。

「さぁ、ようこそ我らが部室へ!!」

 そう言って真白を部室の中に引っ張り込む。

 部室の中には例によって先輩がいて、これまた例によって作業用のテーブルの上に胡座をかいて座っていたが入ってきた私と真白を見て目を白黒させた。

「……彩ちん、その子は?」

「新入部員です!」

「おおっ!?」

 私の言葉に先輩が目を丸くした。それからマジマジと真白の方を上から下まで舐めるように見渡す。更にテーブルの上から降りると真白の周りをぐるぐる回り始めた。まるで何かをチェックしているかのようだ。

「あ、あの、彩佳? このちっちゃい人は何ですの?」

 自分の周囲をぐるぐる回っている先輩に戸惑っているのか、真白が珍しく不安げな声をあげる。まぁ、初対面の人間にこんな事されたら誰だって戸惑ってしまうだろう。

 しかしまぁ、真白もやっぱり口が悪いというか何と言うか。思ったことをそのまま口にするのは悪い癖だ、彼女の。少しはオブラートに包むと言うことをいい加減に覚えなさい。などと私が軽く呆れていると先輩がムスッとした顔で私の方を振り返ってきた。

「彩ちん……」

「その人が前の部長の黒宮先輩。話はしたことあるでしょ?」

 何か言いたげな先輩をさらりとスルーして真白に先輩の紹介をごく簡単にする。真白には何度か先輩の話をしたことがあるからこの程度の紹介で充分だろう。

「ああ、あなたがあの噂の。色々と彩佳から聞いておりますわ、先輩」

 そう言うと真白は優雅な仕草で先輩に頭を下げた。この辺は流石はお嬢様って言う感じだ。礼儀作法などを幼い頃から叩き込まれているだけのことはある。その割には口が悪いんだけど。

「私は白鳥真白と申します。この灰田彩佳の幼馴染みですわ」

「おー、よろしくなー。で、この部に入ってくれるって?」

 真白の仕草を見てあっさりと機嫌が回復したらしい先輩が片手をあげながらそう尋ねる。

「まぁ……不承不承ではございますが、そう言うことになりましたわ。これからよろしくお願いしますね」

「うむ、大船に乗ったつもりでいたまえ。ところでちょっと聞きたいことがあるんだがいいかね?」

「何でございましょう?」

「彩ちんから聞いた噂ってどんなものだったのかなと」

「ああ、それですか? それなら……」
 
 そこまで言って真白が私の方をチラリと見た。それから口元にお嬢様らしくないいやらしい笑みを浮かべる。

「是非ともご本人の口から聞いていただければよろしいですわ」

 何を言い出すんだ、こいつは!

 私が真白に語った先輩の噂――その大半はロクでもないものの方だ。多分だけど、真白の前で先輩を褒め称えたことなど一度もないはず。今日はこんな事があって後片付けに大わらわだったとか、先輩がしかけた罠に誰某がひっかっかって大迷惑をかけてしまったとか、先輩に関する負のエピソードは事欠かない。それを話のネタにする私も私だけど。

 そんなことを先輩の前で言えるわけがない。おそらくは真白もそれをわかっていて、で尚且つ私に対する腹いせのつもりなのだろう。あの口元に浮かんでいる笑みがその証拠だ。

「真白……あんた……」

 ジロリと真白を睨み付ける私。だけど、こんな事で怯むような真白ではないことを私は良く知っている。

「彩佳、先輩がお望みですわよ。ほら、早く」

 満面の笑みを浮かべて言う真白。

「彩ちん、何を言っていたか先輩、是非とも知りたいなー」

 更に先輩がそう言って笑顔を私に向ける。

 あの笑顔、先輩もわかってやっているに違いないことがはっきりとわかった。何と言う嫌味なことを!!

「ほら、彩佳」

「彩ちん、早くー」

 初対面のくせにやたら息のあったコンビネーションで私を追いつめていく真白と先輩。

 


 我が写真部に新たな仲間が一人(半ば無理矢理にだけど)入った。

 これで残り三人。

 期日は後二十日程。

 少しは先行き明るくなった……のだろうか。

「彩佳、早く言いなさいな」

「ほらほら彩ちん、日が暮れちゃうよー」

 とりあえず部の先行きよりも今のこの状況を何とかして欲しいと切に願う私なのであった……。


続く

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