ふっふっふ〜のふ〜。
一生懸命学校の中を駆けずり回っている彩ちんには悪いけど、そう簡単には見つからないんだな、これが。
何と言っても今私がいるのは前の生徒会長である一馬が秘密裏に作らせた隠し通路の中。これの存在を彩ちんは知っているけど、何処にどう張り巡らされているかまでは知らないはずだから、ここは安全地帯なのだよ。
まぁ、きっと彩ちんは私が疲れたら何処かで休むだろうと考えている訳で、でもってその休憩場所に多分写真部の部室を選ぶと考えているはず。今、彩ちん自身は私の姿を探して学校中を走り回っているだろうからね、逆にそこの方が安全だ、と思う訳で。
しかしながらそんなことはこっちも百も承知。
彩ちんが私の行動パターンを読んで色々と画策していることはわかってる。
だが、まだまだ甘ーい!
彩ちんが私の行動パターンを予測出来るように、私も彩ちんの思考パターンを読むことぐらい出来るのだ!
……まぁ、長期戦に備えてお菓子でも取ってこようと部室に寄ったら暗室の中からいきなり真白んが飛び出してきて、何かに蹴躓いて豪快に転んだのを見た時は焦ったけど。とりあえずそのまま床に放置しておくのも可哀想だったから、とりあえず椅子に座らせて、後意識を取り戻して彩ちんに報告されたら厄介だったから、何故か部室に用意されているロープで椅子にくくりつけておいたんだけど……あ、これは真白んが椅子からずり落ちたりしないようにする為の措置だったんだよ! 決して「緊縛された美少女っていいよねー」とか「この状態の写真撮って後で売りさばいたらいいお小遣い稼ぎになるかなー」とかそんなことは考えてないからね!
多分これやったら彩ちんに本気で怒られるような気がするし。怒られるだけならいいけど絶交とかされたら嫌だからねー。
何と言っても彩ちんは私のお気に入りだし。結構からかい甲斐あるし、いいツッコミ役だしね。最近ちょっとそのツッコミ方が激しくなってきてるけど。
さて、この隠し通路は見つからなくていいんだけど、隠し通路なだけあって冷房とか暖房とかそう言うものは一切無し。しかも何処からともなく隙間風が吹き込むような作りになっていて(前に一馬に聞いたら換気の為とか言っていたけど、単なる手抜き工事じゃないのかなぁ?)、この冬の時期だと非常に寒い。ただ駆け抜けるだけなら別にいいんだけどね。じっとしているとこの寒さにガタガタ震えてきてしまう訳なのだ。
「そろそろ移動するかなー」
寒さを紛らわせるようにそう呟いて私は立ち上がった。
何か暖かいものが飲みたい気分だなぁ。そうなると自販機のある食堂か購買に行かなきゃいけないし。後おトイレの問題もあるし。
ここは一気に学校脱出を図りますか。
でも、下足室にはきっと誰かいるだろうしなぁ。
あそこを抑えられたらちょっとまずい。可愛い後輩達に手を出す訳にもいかないからなぁ。
そう思いながら私は歩き出す。
そうそう、そう言えばこの隠し通路、もう一つ厄介な問題が残っているんだった。
一体何をどう考えて一馬の奴がこんなものを作らせたのかは聞いてなかったんだけど、この通路の出入り口は比較的人目に付かない場所に作られている。いや、隠し通路なんだから当たり前なんだけど。でもって何が厄介なのかと言うと、その出入り口から外を伺うことが不可能になっているのだ。
これは絶対に設計ミスだと思うんだけど、一馬にその事を問い質すと「下手に覗き穴なんか作ったら、ここに隠し通路があることがわかってしまうだろう。それに外の様子なんか壁越しに気配を察知すれば簡単にわかることだ」とか何とかほざいていた。
いや、壁越しに気配を察知しろって、あんたは一体何処のニュータイプだ?
まぁ、出入り口となっている壁にぴったり耳をくっつければ外の音とかは一応聞こえないでもないから多分大丈夫なんだろうし、実際今までこの隠し通路から外に出るところを見られたこともないし。
しかしなー……何となく嫌な予感がするんだよなー。
彩ちん、結構勘がいいから。
まぁ、とにかく今はこのクソ寒い隠し通路から一旦外に出ることにしよう。でないと風邪引いちゃいそうだし。
COLORFUL ALMIGHTYS
死闘!期末試験 大追跡編
何となくだけど、誰かに何か呼ばれた気がして私、灰田彩佳は後ろを振り返った。
しかしながら現在私がいるのは普段からあまり人気のない特別教室棟で廊下にはほとんど誰の姿もない。
それはそうだろう。特別教室……まぁ、化学実験室やら家庭科の調理実習室やら工作室やら美術室やらそう言うものがあるこの棟はそれらの授業で使用されることがないとほとんど人が寄りつかないのだ。
まぁ、それらの特別教室名がつくクラブ活動の拠点には一応なっているんだけどそろそろ期末考査も近いと言うことで、各クラブもお休み状態になっているらしい。
「……気のせい……かな?」
そう呟き、首を傾げる私。
とりあえず今は先輩を見つけることの方が先決だ。そう思って私はまた歩き出した。
あ、危なかった……。
ここならきっと誰もいないだろうと思ってやって来たのは特別教室棟。化学実験室やら調理実習室やらそう言った特別教室が詰まった棟で、そう言う授業がない限り滅多に人がいないはずなんだけど、何でまた彩ちんはこんなところにいたのやら。
足音に気付かなかったら見つかっていたところだよ。
やっぱり勘がいいなー、彩ちんは。まさか私が外に出ようとしていた、その場所に現れるなんて。この隠し通路の出口の場所は知らないはずなのになー?
あの時焼き捨てさせられたこの隠し通路の地図は見てなかったと思うんだけど……何にせよ、ここから出ていくのは止めた方がいいか。まだそんなに離れた訳でもないだろうし、下手に見つかってこの隠し通路の出口とかを知られちゃったら色々とやばいしね。
しかし、寒いなー。とにかく一回この隠し通路から出て、何処かで暖を取らないと風邪引いちゃいそうだ。
とりあえずこの特別教室棟から一番離れたところにある出口はっと……ああ、あそこか。この寒い時期にはあまり近寄りたくない場所なんだけど、仕方ないか。
とりあえず一通り特別教室棟を見て回った私は渡り廊下で立ち止まり、携帯電話を取り出していた。メモリーに登録している中から選んだのは後輩である黄川田伊織の携帯の電話番号。
『はい、黄川田です』
「伊織? どう? 先輩、来た?」
『いえ、警戒されているのか全く』
「そっか。悪いけどもうちょっとそこにいてくれる?」
『了解です』
伊織の返事を聞いてから通話を切り、続けてもう一人の後輩、緑川さつきに電話する。
「さつき? 今どこにいるの?」
『お姉様!? 今、屋上にいますです』
屋上……何でこのクソ寒い中、そんな場所にいるんだか。まぁ、さつきにはさつきなりの考えがあるんだろうとは思うんだけど……。
『高いところから先輩を捜そうと思ったんですけどぉ……』
「いや、先輩は校内にいるんだからそこからじゃ見つからないでしょ……とりあえず寒いだろうし、中に入りなさい。それで、一旦部室に集合。いい?」
『了解しましたぁ』
例によって何処か舌っ足らずな感じのさつきの返事を聞いてから私は携帯電話をポケットに戻した。
下足室で待機している伊織にはちょっと悪いけど、一旦態勢を整えないといけない気がする。部室では一応我が親友であるところの白鳥真白がまだ気を失っているはずだし、あいつを起こすついでもある。
そう考えた私は急ぎ足で部室へと向かうのだった。
「あ、お姉様!」
部室のドアノブに手をかけようとした時、さつきの声が聞こえてきた。振り返ると、息を切らせたさつきがそこに立っている。
「走ってこなくてもよかったのに」
そう言いながら私は側に寄ってきたさつきの頭を撫でてやる。
気のせいか、最近さつきに対して甘くなったような気がするなぁ、私。うーん、家にいる弟がマジで生意気なクソガキだからか、こうも純粋(かどうかは微妙な気がするけど)に慕ってくれているのが嬉しいのかも。
「お姉様に早く会いたかったから……」
あー……そこで顔、赤くしないで欲しいな、出来たら。
「とりあえず中に入ろうか。作戦立て直さなきゃ」
微苦笑というものを浮かべてそう言いながら、再びドアノブに手を伸ばしたその時だった。いきなり部室のドアが開いて、真白が中から飛び出してきた。
「あ、あのチビ先輩〜!!」
そう言いながら真白は何処かへと走り去ってしまう。
半ば唖然としたまま、私とさつきは走り去っていく真白の背中を見送る。
「……えっと……」
果たして何を言えばいいのか自分でもわからないまま、何故か私の口からそんな言葉が漏れた。
「とりあえず、目が覚めたみたいだね、真白の奴」
続けて出たのは見たままを告げるどうでもいい言葉。
あの様子だと真白は自分が気絶したのをきっと先輩の所為だと思っているんだろうなぁ。飛び出したところを足払いでも喰らったとか勝手に勘違いして。実際には単に床の段差に気付かずに自滅しただけなんだけど。
まー、頭に血が上った真白は何しでかすかわからないからとりあえず落ち着くまで放っておこう。とばっちりは喰らいたくないし。
「お待ちなさいっ! そこのチビ先輩っ!!」
そう怒鳴りながら物凄い勢いで追っかけてくるのは真白んだ。
校内のあちこちにある隠し通路の出口の一つから出て、ほっと一息ついた瞬間、何処でどう気配を察知したのか真白んに見つかってしまい、こうして今は彼女から必死に逃げている訳なんだけど……真白ん、こっちの予想以上に体力あるなぁ。
真白んはそこそこ名家の白鳥家のご令嬢。いわゆるお嬢様なのだから体力とかそう言うのにはあまり自信ないんだと思っていたんだけど……おそらく全力で部室からここまでやって来た上にもう十分以上追いかけられている。私は体力にかなり自信のある方だけど、その私を唸らせるんだから大したもんだね。
っと、感心している場合じゃなかった。
何とかして真白んの追及をかわして逃げないと……て言うか、何でこうやって追いかけられなきゃならないんだ?
いつものように部室に入ろうとするなり、いきなり彩ちんと他三名が襲い掛かってきたから慌てて逃げたんだけど、一体全体私が何をした? あの撮影会以降それなりにおとなしくしていたはずなのに……いやまぁ、あくまでそれなりにだし、こうやって追いかけられなきゃならない程のことはしてないはずなんだけどなぁ?
「おとなしく捕まりなさい、このオチビ先輩!!」
「へっへ〜んだ! やなこった! 悔しかったら捕まえてみな〜!」
そう言いながら私は後ろを振り返って”あかんべ”をしてみせる。勿論、真白んを挑発する為だ。いやまぁ、するまでもないような気がしないでもないんだけど。何か滅茶苦茶怒ってる感じだし。
しかしながらどうすっかな〜。真白んを挑発して更に怒らせるのは面白いんだけど、このままだと家に帰ることも出来ないし……困ったな〜。あ、勿論おとなしく捕まるって選択肢は無しね。
ま、ここはもうちょっと真白んとおいかけっこをして、その間に考えますか。
部室でさつきとちょっとだけ休憩した後、私はあることを思いついて放送室にやってきていた。
部員勧誘の時には放送部の連中に、正確に言うならば放送部のアイドル(自称)、三笠きららに一応世話になったのだが、今回もまた、図々しくも世話になろうと思っていたりする。もっともそれなりの見返りはちゃんと用意しているんだけど。
「三笠さん、いる?」
「何よ。もうすぐ本番なんだから用事があるなら早くしてよね?」
ちょっとムッとしたような感じで三笠きららが放送室から出てくる。
時間的には放送部主催の人気番組、放課後放送局のオンエア直前。色々と準備などで忙しいタイミングだったのだろう。ムッとなる気持ちはよくわかる。
「ちょっとお願いがあってさ。これ、放課後放送局にちらっと流して欲しいんだ」
そう言って私は手に持っていたレポート用紙を三笠きららに手渡した。
「何これ?」
「ちょっと厄介事を先生に頼まれててね。色々と策を講じたいのよ」
「あのさ、前にも言ったけど、こっちに協力するメリットが」
「これ、欲しくない?」
かなり打算的な性格の三笠きららが私にレポート用紙を突っ返そうとするけども、それよりも先に私は切り札となりうる一枚の写真をポケットから取り出していた。
「そ、それは……あの時の!」
写真を見た瞬間、三笠きららの目の色が変わる。
その写真に写っているのは我が写真部のOBである水前寺先輩だ。ちょっと前に部室に遊びに来てくれた時に撮らせて貰ったもの。おそらくは水前寺先輩の一番新しい写真のはず。
「……これを流せばいいのね?」
三笠きららは写真をじっと見つめたままそう言ってきた。
実はこの三笠きらら、以前写真部部員勧誘の時に偶々出会った水前寺先輩に一目惚れしたらしい。あの後、何度か水前寺先輩のことを聞かれたし。あんまり教えなかったけど。まぁ、何時かこう言うこともあろうかと思ってのことだけどね。
「それじゃよろしくね」
私はそう言うと、三笠きららの制服の胸ポケットに水前寺先輩の写真をそっと押し込んだ。
「大船に乗った気持ちで任せて貰っていいわ」
満面の笑みでそう返してくる三笠きらら。
何と言うか、我ながらあくどいことをしているような気がしないでもないんだけど……これも逃げ回っている先輩を捕まえる為!
とりあえず水前寺先輩には心の中で謝っておこう。
続く!