季節はすっかり冬。

 とは言っても今年は暖冬なのか去年程寒いという気はしない。あくまで気がしないって言うだけで天気予報などで見る最低気温とか最高気温とかはほとんど例年通りなんだけど。

 さてさて、何とか部員も増え、その新入部員達に写真の取り方などを教えることにも成功した私なんだけど、今は新たな問題に頭を悩ませていた。

 学生である以上、この問題からは避けて通ることは不可能。例え避けて通ってもしっかりその分後で自分に返ってくる。いや、そもそも普通は避けて通ろうとは思わないと言うか、みんな本当を言えば避けて通りたいとは思うんだろうけど、そう言うことは出来ないんだと思っているはずなんだから。

 しかしながらその普通は避けて通れないと思っていることを堂々と避けて通ろうと言うか、逃げようとしている人物が私の側にはいる訳で。

 先生達がほとほと手を焼いているその人物をしっかり監視して尚かつ避けて通れないはずの問題に直面させるように申しつけられると言うのは一体何の罰ゲームなんだろうか。

 これはここ最近の中で一番の問題なんじゃないだろうか。

 と言うか、何で私にこう言うお役目が回ってくるのかその辺がどうにも理解出来ないと言うか。

「それはやっぱり……あなたが一番あの人の扱いが上手いという認識があるからではありませんか?」

 職員室から帰ってきて机に突っ伏して頭を抱えている私に向かってそう言ったのは幼馴染みにして親友(だと一応思っている)白鳥真白。本人曰くそこそこ名家のお嬢様で、我が写真部の自称副部長。しゃべり方などは丁寧だがその中に様々な毒を含んでいる、ツンデレお嬢様。現在絶賛片思い中の可愛いところもある。

「ここ最近あの人の暴走を色んな方法で押さえ込んでいると言うことが結構有名になってきているようですわよ」

「そもそもあの人が変なくらい有名だからねぇ……」

「まぁ、何だかんだ言って彩佳も振り回されるのを楽しんでいる節がありますし、いいコンビとして認識されているのでは?」

「うがー……私の苦労も知らないで何て勝手な……」

 そう言って私はため息をついた。

 しかしながら真白達が写真部に入ってくれるまではあの人と二人だけだったし、その頃から色々と暴走するあの人の後始末というか尻ぬぐいを散々やらされてきたから……。

「でもねー。今回は私もちょっとやばいって言えばやばいんだよねー。色々とありすぎたし」

「まぁ、その辺は私からはなんとも言えませんが。とりあえず頑張ってくださいまし」

「何言ってるのよ。私一人であの人の全てを押さえ込める訳ないでしょ。あんたにも手伝って貰うからね」

「はぁ?」

 突っ伏していた顔を上げてジロッと真白を睨むように見つめながらそう言うと、真白は心底驚いたような顔をした。

「こうなりゃ写真部の総力を挙げてやるわよ! 意地でも先輩にちゃんと期末試験を受けさせるんだから!」

 そう言って私は決意を込めて立ち上がった。


COLORFUL ALMIGHTYS
死闘!期末試験 大逃亡編


 ばたばたばたと物凄いスピードで廊下を走っていく人影を追って私も同じように走っている。と、前方を走る人影が角を左に曲がった。

「よし、予想通り! 伊織! 頼むわよ!」

 さっきの人影は勿論黒宮先輩。先輩の行動パターンは長い付き合いでだいたい把握出来ている。だから先輩が逃げようとしている先に後輩である黄川田伊織を配置しておいた。

 普段何考えているのかわからないような無表情と言うかぼうっとした表情をしていることが多いけど、私が頼んだことはきちんとこなしてくれるから結構頼りになる。それに伊織は私や先輩よりも遙かに大きい(身長がね)。だから通せんぼにはかなりいい感じのはずだ。

 問題があるとすれば海千山千の古強者である先輩に敵うかどうかって言うところぐらいで。いや、これが一番の問題なんだけど、責任感の非常に強い伊織ならきっと何とか先輩を止めてくれるはずだ。

 とりあえず私も先輩が曲がった角を同じように左に曲がる。

 そこにいたのは呆然とした表情の伊織だけ。先輩の姿は影も形もない。

「伊織、先輩は!?」

「……すいません、止められませんでした」

 私の姿に気付いたのだろう、呆然としていた表情から一転して申し訳なさそうな顔になり、頭を下げてくる伊織。

 伊織の話によると先輩は伊織に気付くと更に走る勢いを増して、伊織の手をかいくぐるようにして壁に足をかけ、そしてそのまま壁を駆け上り走り抜けていったらしい。

「何と言う無茶苦茶な……」

 これは伊織でなくても呆然としてしまうに違いない。と言うか、無駄に凄い運動神経だな。黒宮先輩、恐るべし。

「まぁ、いいわ。伊織はよくやった。ただあの先輩が規格外の化け物だったって言うことで」

「いいんですか、そんなこと言って?」

「事実じゃない。言葉の魔術師なだけじゃなくってまさか運動神経もそこまで良いとは……何と言う無駄に高いスペック」

 これは感心すると言うよりもむしろ呆れ返ってしまう。

 しかし、何時までも感心というか呆れ返っていても仕方ない。私には先輩を捕まえてしっかりと試験勉強させるという使命があるんだから!

 と、決意を新たにしているとポケットの中の携帯電話が鳴った。

「もしもし……あ、さつき? 先輩見つかった?」

 かけてきたのは伊織と同じく写真部の後輩、緑川さつきだ。

 大きな丸メガネとちっこい身長がチャームポイントで私のことをお姉様と呼んで過剰なスキンシップを求めてくるところがちょっと難点。でも基本的にはいい子だし、私の言うことならばほとんど無条件に従ってくれる可愛い子。今回も先輩を捜すよう頼んでおいたらこうして連絡が来たという訳だ。

 ちなみに伊織と違って彼女にはどこそこにいて先輩を捕まえろと言う指示は出していない。あくまで捜すだけ。それほど運動神経が悪い訳でもないんだけど、何となく危なっかしい気がしてそう言う指示が出せなかったのだ。間違っても自分を慕ってくれているから危ない目に遭わせたくない、と思った訳じゃないぞ。

 それにあの先輩のことだ、自分が逃げる為ならどう言う行動に出るかわかったもんじゃない。さっきの伊織の時だって、まさかの壁走りという常識はずれな行為をしてのけたのだ。さつきが相手だと何をやらかすか。

『すいません、お姉様。下足室の方に向かうのを見たんですけど、そこで見失っちゃいましたぁ』

「わかった、下足室の方ね。でもそこには真白がいるはずだから安心していいわ。とりあえず学校の外に出ていないことがわかっただけでも充分。よくやったわよ、さつき」

 泣きそうな声のさつきにそう言って、私は携帯電話を折り畳んで伊織を振り返った。

「下足室よ、伊織! 今度こそ捕まえるからね!」

「は、はい」

 やたら気合い入りまくっている私にちょっと引き気味の伊織。



 そう言う訳で下足室へと私は伊織を引き連れてやって来た。

 まず行ったのは先輩の靴箱の確認。校内から外へと逃亡していないか、それを確認する為だ。

 靴箱を開けてみるとそこには先輩の靴の他に教科書やら辞書やらノートやら色んなものがびっしりと詰め込まれていた。ま、まぁ、私だって辞書とかは重たいから普段持ち歩かないし、こうして靴箱とかロッカーとかに置いてあることもあるんだけど、まさかここまで徹底してやるとは。驚きを通り越して、何て言うか呆れて言葉が出ない。道理で普段から身軽な訳だ。そう言えば部室に来る時もいつも手ぶらだったり鞄持っているかと思えば中からはマンガが出てきたりお菓子が出てきたりしていたなぁ……。

 ふと思い起こしてみると部室の戸棚の中にも先輩の私物がまだかなりあったはず。もしかしたらあの中にも教科書やら辞書やら色々と入っている可能性が。意地でも教科書類を家に持って帰りたくないのか、あの人は。

 しかしながら、先輩の靴がまだここにあると言うことは一応確認出来たからまだ校内の何処かにはいるのだろう。とは言うものの我が校は結構広い。おまけに先輩は前の生徒会長が秘密裏に作らせた校内の隠し通路などを熟知している。探し出すのは非常に困難だと言えるだろう。

「さて、どうしたものかねぇ?」

 そう言いながら私はてきぱきと先輩の靴箱にねずみ取りを設置していく。

「……あの、部長。一体何を?」

「見ての通りよ」

「いえ、そうじゃなくて」

「まぁ、こんな罠に引っ掛かるような先輩じゃないと思うけど、逆に考えれば何か仕掛けているんじゃないかと思ってここには来ない可能性が強まるかも知れないわよね」

「ああ、成る程。そう言うことですか。流石です」

 私の説明に伊織は納得したように手をポンと叩いていた。

 まぁ、本当にこんな馬鹿馬鹿しい罠に先輩が引っ掛かる訳はないと思うし、でも私がここに来るであろう事はきっと先輩も予想しているだろうから、ここに私が罠を仕掛けるんじゃないかと言う疑念はあるはずだ。その疑念がある以上、ここにはそうそうやってこないだろう。

 だけどちょっと気になることがある。

 私と伊織がここに来る前、さつきが先輩がこの下足室に向かうのを目撃している。でも靴はまだここにあるし、靴があるから学校の外に出たと言うことはないはずだ。ならば一体どうしてこっちの方へとやって来たのか?

 今のところ、その辺のことはどれだけ考えても考えるだけ無駄だろう。もしかしたら学校中に張り巡らされているらしい隠し通路の出入り口の一つがこの辺にあるのかも知れない。巧妙にカモフラージュされているらしいからぱっと見ただけじゃわからないんだけど、もしかしたら先輩はそこに隠れてこっちの様子をうかがっているかも知れない。

「……伊織、しばらくここにいてくれる? 先輩が来たら容赦なく捕まえてくれていいわ」

「わかりました」

「捕まえられなくても学校の外に逃がさなければそれでいいわ。とにかく姿を見たら私に連絡して」

「了解です」

 伊織が頷くのを見てから私は下足室を後にした。



 次に私が向かった先は我が写真部の部室だ。

 先輩の立ち回りそうなところの見当はだいたいついているが、変に交友関係の広い人だから(もっともその大半が先輩に弱みを握られていたりする人達だったりするんだけど)何処に現れるかわかったもんじゃない。しかしながらそう言う人達には協力してくれるよう頼んであるから何処に現れても私に連絡が入るはず。

 多分先輩もそれはわかっているだろうから必死であちこち逃げ回っているはずなんだろうけど、それでも何時かは疲れが来て休みたくなるはず。でもって休むならば出来る限り私に見つからない安全な場所。今、私は先輩を捜して学校中を歩き回っているから、逆に部室は安全地帯になっているはずだと先輩なら考えるはずだ。

 私はそうなることを見越して真白を部室に残してきている。勿論、真白で先輩を捕まえられるとは到底思ってないんで、真白には暗室に隠れて先輩が来るのを見張るだけでいいと言っておいた。もっともそれでも安心は出来ないんだけど。

 とりあえず部室にまでやってくると、私はそっと中の様子をうかがってからドアを開けた。中に人の気配はしなかったから、おそらく先輩はまだここに来ていないのだろう。そう思ったんだけど、中に入った私を待っていたのは驚くべき光景だった。

「ま、真白!?」

 部室の中に置かれた椅子の一つに真白が縛り付けられていたのだ。

 慌てて真白の側に駆け寄る私。見てみると真白は気を失っているらしく、ついでにおでこが赤くなっている。

 うーん、もしかすると入ってきた先輩を捕まえようとして暗室から飛び出してきたのはいいけれど返り討ちにあった、のかなぁ?

 しかし、先輩が直接的な暴力を振るうとは考えられない。口八丁手八丁で人をだまくらかして惑わしたり混乱させたりするのは得意と言うか好きな人だけど、自分から手を出すような真似だけは絶対にしない人だし。

 そうなると真白のおでこが赤くなっているのは……きっと暗室から飛び出した時に何かに足を引っかけて豪快に転んだんだろうなぁ。

 そう思って床を見てみると、ちょっと前に先輩に塞がせた隠し通路の出口が目に付いた。部室側から板で止めてあるからちょっとした段差がそこに出来ている。多分真白はそこに蹴躓いたに違いない。

 功を焦ったな、真白。とりあえずこのまま放置しておこう。一応縄だけはほどいておくけど。

 さて、先輩は一端ここにやってきた、と。しかしながら真白が先走ったお陰で先輩はまた何処かへ逃亡してしまった。

 今度は一体何処へ逃げていったのやら。もっと部員がいたら捕まえるのも簡単なんだろうけど、今いるのは私と先輩を含めて五人。先輩は逃げている方なんだから後は四人で、真白がダウンしているから三人。内、伊織は下足室に待機させたから後はさつきと私だけ。

「何か捕まえられる気がしなくなってきた……」

 私は力無くそう呟くと、ガックリと肩を落とすのだった。


続く!

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