COLORFUL ALMIGHTYS
新人歓迎撮影会編その5
無情にも日時は流れ、気がつけば今日はもう金曜日。ちなみに撮影会の予定は変更など一切無く次の日曜日だ。と言うことは残された期限は今日の放課後と明日の土曜日のみ。毎度のことながらこう言う時間に追われる関係のことにおいてどうして私はこうも追い込まれるんだろうと頭を抱えたくなる。
事実、今、私こと灰田彩佳は頭を抱えているんだけどね。
「大丈夫ですかぁ、お姉様?」
心配そうにそう言いながら私にすり寄ってきたのは我が写真部の可愛い後輩の一人、緑川さつきだ。私を「お姉様」と呼んでやたら慕ってくれているのは別に構わないんだけど、過剰な程のスキンシップは何とかして欲しいと思う今日この頃だ。手を繋いでくると言うのは日常茶飯事、一緒に帰るようなことがあれば腕に腕を絡めてくるし、ちょっと油断したらすぐに抱きついてくる。
いやまぁ、何と言うか、それが真剣に嫌だってことは実はまぁ、それほど無いんだけど。何と言うか小動物的に可愛いし、うちには小生意気な弟はいるけどあいつとはケンカばっかりだから、こうも無条件に慕ってくれているって言うのは何ともこそばゆいけども同時に嬉しかったりもする。
「あー、まぁ、大丈夫」
「そこの百合っ子、彩佳ならいつものことだから心配など無用ですわ」
私がさつきに答えようとするのに被せるようにそう言ったのはこの写真部の自称副部長で、私の幼馴染みのお嬢様、白鳥真白。
私が彼女の方をジロッと睨み付けるけど、何処吹く風って感じで彼女は優雅な仕草で紅茶の入ったカップに口を付けている。
何と言うか、その優雅な仕草が妙にむかついた。ので、手元にあったフィルムケースを彼女に向かって投げつける。
フィルムケースは綺麗に真白の頭にヒットした。
「な、何をするんですの、彩佳っ!!」
「うるさい、黙れ。人が苦悩しているのを”いつものこと”で片付けるな」
「そうですそうです! お姉様がこうして悩んでいるのに親友の真白先輩はどうしてそう簡単に片付けちゃうんですか!」
私に続いて私の背中にぴたっとくっついているさつきがそう言う。
しかし、私はともかくさつきは真白に思い切り睨み付けられ、あっさりと黙り込んでしまった。
「まったく……そこの百合っ子は彩佳が絡むとどうして」
手に持ったカップをソーサーの上に降ろし、ため息をつく真白。
何と言うかいちいちその仕草が優雅な感じがするのはやはりお嬢様のなせる業なんだろうか?
「それはさつきにとって一番なのはお姉様ですから」
「つまり私達は二の次、と言う訳ですわね」
「そうなりますねぇ」
「まったく、どうして彩佳がそこまで良いのだか理解出来ませんわね。単なる一般庶民で、特に目立ってこれと言った特長もない平凡さ、背もそれほど高くなく成績も中の上程度、特筆すべきは妙な程運がないってことで」
「あんたねぇ……」
何か知らないけどやたら私をこき下ろす真白。いやまぁ、言っていること自体は事実なので何も言い返せないんだけど。何か今日は不機嫌っぽいな、こいつ。
「そんなことありません! お姉様はとっても優しい人ですし、いざと言う時はとっても頼りになるかっこいい人なんです! さつきにとってお姉様は誰よりも尊敬出来る人ですし、憧れの人なんです!」
何となく苦笑を浮かべていた私に代わってさつきが熱弁を振るう。
一体この子の中で私はどう言う風に美化されているんだろうか、と思うとちょっと怖いかも知れない。
「その割に……百合っ子、あなたはその憧れのお姉様に対して良からぬことを妄想しているのではなくって?」
「へ? ……あ」
ジロリと、別に睨んでいる訳でもないんだけど、じっとさつきを見据えて真白がそう言い、それを聞いたさつきの顔が一気に真っ赤になる。
「どうやら図星のようですわね」
そう言って勝ち誇ったようにニヤリと、お嬢様らしからぬ笑みを浮かべる真白。
えーっと、さつきちゃん、一体何考えていたのかなぁ?
それと何でそう言うことがわかったのか後で真白に問い詰めておかないと。一般庶民の私はともかく、真白はそれなりに純粋培養のお嬢様なはずで誰がそんな余計な知識を付けたのか、確認しておく必要がある。そしてその人物に言ってやろう、GJと!
「あ、あの、ち、違うんです、お姉様! えっと、その、確かにもっとお姉様と仲良くなりたいなぁとかもっと親密な関係になりたいなぁとか、いっそお姉様のお嫁さんになりたいなぁとか、でもお嫁さんなんて大胆すぎるから側にいられるならメイドでも使用人でもそれこそ雌奴隷でも」
「あー、わかった。わかったから落ち着きなさい、さつき」
慌てまくり、焦りまくり、自分が何を口走っているのかもう完全にわかってないのだろうさつきにそう言って私はため息をついた。
「さ、さつきのこと、嫌ったりしませんか?」
大きな丸メガネの下、目をうるうると潤ませつつ上目遣いにそう言ってくるさつき。こう言うところが小動物的で可愛いなぁとか思っちゃうんだけど、その実でちょっと怖いこと考えてるってのがわかったから……うーん、でも一応私のことを慕ってくれてるってのは変わらないからなぁ。何と言うか扱いに困る。
「嫌わない、嫌わない。大丈夫だから……」
何とか笑顔を浮かべながらそう言うんだけど、何処か自分でもその笑顔がぎこちないってのがわかる。いや、だって、私、ノーマルですよ? 一応男の子とかに興味があるんですよ? 恋人もボーイフレンドもまったくいないけど。
「本当ですか?」
「本当だって。ほら、泣きやみなさい」
私はそう言ってポケットからハンカチを取り出してさつきの頬を伝っている涙を拭ってやった。
「お姉様ぁ……」
何とも嬉しそうな顔で、頬まで赤くして私を見上げるさつき。
「……そう言うことをするから余計に……」
ブツブツと呟いている真白の声が聞こえてくるんだけど、とりあえず今はさつきを宥める方が先だろう。何と言っても私を慕ってくれる可愛い後輩だし、それに貴重な部員だしね。ああ、ちょっと打算的だなぁ、私。
「おはようございます」
部室のドアを開けて新たに入ってきたのは勿論この写真部の部員である黄川田伊織だ。
「おはよー、いおりん」
「もう放課後ですわよ、むっつり」
「おはよう、伊織。今日は遅かったのね」
先に部室にいた三人がそれぞれ入ってきた彼女に声をかける。
同じ一年生のさつきは伊織のことを「いおりん」と呼んで結構仲良くしている。背の高い伊織に対してさつきは背が低い。よく喋るさつきに対して基本無口な伊織。見事なまでのデコボココンビだ。
「今日は日直だったので。すいません、何かありましたか?」
「ううん、別に何もないけどね。伊織はいつも早いから」
「まー、何かあったと言うならいつものように彩佳が頭を抱えていたってことぐらいで」
「……成る程、いつものように、ですか」
そう言って伊織は私の方を見た。
彼女は私よりも遙かに背が高い(ちなみに私は平均身長よりもちょっと小さいぐらいだ)のでどうしても見下ろされるような形になるんだけど、いつも何を考えているのかわからない無表情なのでやっぱり何を考えているのかわからない。
「……部長、あまり悩んでばかりだと頭髪に悪い影響があると」
「何の話じゃぁっ! いや、確かにそうだけど!」
思わずつっこみを入れてしまう私。
この子も何と言うか何処か微妙にずれている。何か私の回りにはそんな奴ばっかりだ。類は友を呼ぶって言うから……でも、だとすると私も何処か微妙にずれているのだろうか? そんなことはないはず、私はちょっと不幸と言うか薄幸なだけだ!
「充分あなたも変な人ですわよ」
「何か今日は妙に絡むわね、あんた」
「……色々ありますのよ、私も」
「だからって人に当たるな」
とりあえず、まだ紅茶を飲んでいる真白を一睨みしてから私は大きくため息をついた。
「部長、ため息をつくと幸せが逃げると」
伊織が心配そうな口調でそう言ってくる。一応私を心配しての発言なので(そうなんだと思う)、あまり邪険にするのも悪いと思い、小さく頷いておいた。
これでこの部の主たる面子が揃った。後は……この部の最大のトラブルメーカーにして最上級生。普段は誰よりも早く部室にいたりするんだけど、今日は今のところまだ姿を見ていない。何処にいるんだか。何か問題起こしてないといいんだけど。
少しの間四人でとりとめのないことを喋っていると、いきなり部室のドアが大きく開かれた。
一体何事かと思ってドアの方を向くと、そこには我がクラスのクラス委員長である冴島恭香が立っている。何やら顔を真っ赤にして、肩を震わせている。うーん、あれは怒っているって感じなんだけど……果たして何か彼女を怒らせるようなことをしただろうか? 少なくても私にそんな記憶はないんだけど。
「あら、冴島さんではありませんか。一体どうしたのです?」
「どうしたもこうしたもあるかー!」
冴島さんはいきなりそう怒鳴ると、部室の中に入ってきて、私のすぐ側に立った。
「灰田さん! あなたこの写真部の部長よね!?」
「あ、はい、一応そうですが」
冴島さんのあまりもの剣幕に思わず及び腰になってしまう私。
「だったら今すぐあれを何とかしなさいっ!!」
そう言って彼女が指を指した先に見えたのは……「モデル募集中!」と書いた大きなプラカードを持っている黒宮先輩の姿だった。
姿を見ないと思っていたけど、あんなことやっていたのか。しかし、一体どうしてそれを冴島さんが怒るのだろう?
「……声をかけられたのよ、私も」
成る程。
「しかも何て勧誘されたと思う?」
「気のせいか激しく嫌な予感がしますわね」
「同感ですぅ……」
真白とさつきがそう言うのもよくわかる気がする。と言うか、私だって激しく嫌な予感がしてならない。
「へい、そこのなかなかスタイルのいいおねーちゃん、モデルやってみない? 今ならモデル代弾むよー。ああ、ちょっと肌の露出とかあるかも知れないけどいいよねー?」
冴島さんが如何にも先輩が言ったのだろう言葉をそのままそっくり先輩のマネまでして言ってくれた。
それを聞いた瞬間、私、真白、それにさつきと伊織までも一緒になって頭を抱えてしまった。一体何なんだ、その怪しげなモデル勧誘な台詞は。どっちかと言うとそれはちょっとえっちぃグラビアとかのモデル勧誘の台詞じゃないか。
これは冴島さんが怒るのも無理はないかも。クラス委員長をやっているぐらいだからそれなりに厳しい人だし。
「とりあえず大至急止めてくる。ゴメン、冴島さん、迷惑かけたみたいで」
「……まぁ、わかって貰えたならいいんだけど。問題になる前に早く止めて頂戴」
「そうね。生徒会とか風紀委員に見つかると厄介だし」
私はそう言うと立ち上がり、すぐさま先輩がモデル勧誘をやっている中庭に向かって走り出した。
「ねーねー、そこのおねーちゃん、いい身体してるじゃん。モデルとか興味ないー?」
如何にも下心たっぷり、と言う感じのいやらしい笑みを浮かべつつ通りかかった女子生徒に声をかけている先輩を発見した私は全速力で先輩に接近するとどこからともなく取り出したハリセンで豪快に先輩の頭をはり倒した。
地面に豪快にぶっ倒れた先輩の襟首を掴んで無理矢理引き起こすと、呆然としている女子生徒にぺこりと頭を下げてから、これまた全速力でその場から離れていく。
一体何事だろうとあの子はきっと思っているに違いない。今度ばったり出会うようなことがあればちゃんと謝っておこう。先輩はともかく私の顔を覚えているかどうかは不明だけど。
とりあえず先輩を小脇に抱えたまま校舎の中に戻ってきた私は大急ぎで部室に戻ると、先輩を投げ捨て、それからドアの鍵をしっかりとかけた。
「伊織、窓!」
「はい!」
伊織に命じて窓のカーテンを閉じさせると、私は床の上で伸びている先輩を無理矢理引き起こし、空いている椅子に座らせた。そして今度はさつきに命じて、何故か部室の棚に置いてあったロープを持ってこさせると先輩を動けないようきっちり椅子に固定する。
「さてと」
全ての準備を整え、私は先輩の真正面に椅子を持ってきてそこに腰を下ろした。
何故か他のみんなも同じように椅子を持ってきて、先輩を取り囲むようにして座る。まぁ、尋問するにはこんな感じでもいいのかも知れない。
「……真白」
「いやですわよ。何で私がそのようなことを」
「仕方ないわね。あんたならお似合いだと思ったんだけど」
あからさまに不快そうな顔をされては仕方ない。しかし本当に似合うと思うんだけどなぁ、ビンタで他人を叩き起こすのって、真白に。
とりあえず私は立ち上がると先輩の側に行き、その頬を容赦なく叩いた。
「うに……痛い」
どうやらこの一発で先輩は目を覚ましたようだ。ううむ、我ながらナイスビンタ。
「何かすっげー頭が痛いんですけど……彩ちん?」
目尻に涙を浮かべながら私を見上げてくる先輩。おそらく誰がやったかという見当はついているのだろう。まぁ、目の前に私が立っているんだから当然かも知れないけど。
私は先輩の質問に答えず、椅子に腰掛けるとじっと先輩の顔を見た。
「えっと……やだなあー、何か……そんなに見つめられちゃうと」
「何勘違いしているんですか。今私は怒ってるんですよ?」
何か照れたように頬を赤らめて首を振る先輩にそう言い捨て、私はため息をついた。
まったくどうしてこう、いつもいつも妙な騒ぎを起こすんだ、この人は。その尻ぬぐいがかなりの確率で私にくるって言うのが本当にわかっているんだろうか。
「あー……いや、その……言い訳していい?」
「その言い訳次第では後でたっぷりと酷い目に遭わせますが構いませんよね?」
「参考までにその酷いことの例を教えて頂きたいんですが?」
「そうですね……例えば……」
言いながら私はチラリと伊織の方を見た。
例によって伊織は何を考えているのかわからない顔をしている。下手したら目を開けたまま寝ているんじゃないかって言う程、表情に変化が乏しい。私がチラリと見ていることにも気がついているのかどうか。いや、でも案外鋭いところもある彼女だからわかっていて放っているだけなのかも知れないが。
「伊織のお父さんのモデルを一日やってもらうとか?」
「げげっ!? そ、それは出来ればご遠慮したいなーと」
私の言ったことに思い切り青ざめる先輩。
この黒宮先輩という人はとにかく行動派だ。その行動力をもっと良い方向に向けてくれればそれはもう凄い人になるんだと思うんだけど、何故か自分にとって面白い、と思うことにしかその素晴らしいとも言える行動力を発揮しようとしないのが困りもの。
まぁ、そんな人だからじっとしているのは超苦手なんだそうだ。そう言う人にじっとしていなければならないモデルをやらせる。これ以上のお仕置きはないだろう。
それに伊織のお父さんはそこそこ有名な芸術家、見た目からして如何にも芸術家って感じの人で、そっち方面のことに関してはうるさいことこの上ない。それは以前にモデルみたいなことをやらされた私がよく知っている。先輩との相性はおそらく最悪だろう。以前ちょっともめたこともあったし。
と、そこまで考えてふと私はあることに気がついた。もしかしたらこれって良いアイデアかも知れない。この人を放っておいたらろくなことにならないし、手綱を締めるという意味では丁度いいのではないだろうか。まぁ、とりあえず先輩の言い訳を聞いてからだけど。
「で、一体どう言う訳でああ言う我が写真部の品位が疑われるような真似をしでかしたんですか?」
ジロッと思い切り先輩を睨み付けて尋ねる私。
「あー……彩ちんがモデルがいないーってずっと悩んでいたからさ。ここは先輩である私が一肌脱がないとって思って」
「理由は案外まともでしたわね」
「その辺は想像してた通りだわ。問題なのはあの勧誘の文句よ」
ぽつりと呟いた真白にそう答え、私はまた先輩を見る。
「先輩、先輩のその気持ちは本当に嬉しいです。嬉しいんですが……どうしてああ言う言い方で勧誘をしようと思ったんですか?」
「モデルの勧誘って言えばああ言うんじゃない。常識だよ、彩ちん」
そう言った先輩は何故か何処か誇らしげであった。
「……ど、何処の常識じゃー!!」
そのあまりにも清々しい笑顔を見た私の中で何かが切れる。
「部、部長、落ち着いてください」
「お姉様、落ち着いてください〜」
がたっと椅子を蹴倒しながら立ち上がった私を慌てて伊織とさつきが止めてくる。
「わわっ、じょ、冗談! 冗談だよ、彩ちん! だからちょっと落ち着け!」
おそらく鬼のような形相の私を見て先輩が物凄く慌てた様子でそう言い、がたがたと椅子を揺らしながら逃げようとする。
「モデルの勧誘するならああ言う風に言った方が面白いじゃんってだけで! 特に他意はない! だから落ち着けー!」
「尚悪いわー!!」
面白いってだけで我が部の品位が貶められてたまるか。とりあえずこれはもうお仕置きする他ないようだ。
「……放して、さつき、伊織」
とりあえず私を羽交い締めにしている伊織、そして正面に回って私を抱きしめているさつきにそう言う私。どーでもいいんだけど、さつき、何で私の胸に顔を埋めてそんなに嬉しそうにしているんだ? どさくさ紛れに何をやっているんだか。
こほんと一回咳払いして、私は先輩を見下ろす。
「先輩、言い訳はそれだけですか?」
「あー……いや、一応この部のこととか彩ちんのことを思ってやったと言うことで情状酌量の余地は欲しいなーと」
「それ以上に面白がってやっていましたよね?」
「あー……それは否定出来ないかも」
「出来ればそこは否定しておいてください。とりあえずわかりました。判決を申し渡します」
「ちょっと待って! 弁護士は!? 私の弁護は無し!?」
そう言って先輩が周囲を見回す。
ここにいるのは真白、さつき、伊織に私。誰も先輩の弁護をしようとはしない連中ばっかりだ。
「検察側の証人ならここにいるけど」
不意にそんな声が聞こえてきて私が振り返ってみると、部室の端っこの方に冴島さんがいた。何やらニヤニヤ笑っている。と言うか、ずっといたのか、この人は。まったく気がつかなかった。
「何この出来レースみたいな裁判!? 異議を! 異議を申し立て」
「却下します」
「即答!?」
「ちなみに上告も控訴も無しの方向で」
そう言いながら私はこれで今度の日曜日の不安が無くなったことに、内心先輩の愚行に感謝するのであった。
そして日曜日。
ちなみに集合場所は一番分かり易い学校。撮影会も校内を使ってやることになっている。
「……ねー、彩ちん」
「何でしょうか、先輩?」
「本当にやらなきゃダメ?」
「今更何言ってんですか、先輩」
何とも複雑な表情をしている先輩に対して私は満面の笑みで答える。
「天気もいいし、今日は絶好の撮影会日和ですよねー。まぁ、雨降っていたら校舎の中でやるだけなんですけど」
言いながら私は綺麗に晴れた青空を見上げた。うん、いい天気だ。これなら校庭で撮影会やっても大丈夫。
「いや、そのね、彩ちん。この間のことは本当に私が悪ノリして悪かったと思ってる。だから出来れば外でやるのは勘弁して頂きたいなーと」
「何言ってるんですか、先輩。こんなにいい天気なんですよ? 外でやらなくて一体何処でやるって言うんですか」
後ろでぼそぼそ先輩が言っているけど、今日の私は一切容赦する気はない。何と言ってもこれはお仕置きだからだ。傍若無人な先輩に、たまにはいい薬だろう。
そうこうしているうちにみんな集まってきた。準備の為に一番早く来ていたのは私と先輩。その次に来たのは大きなトランクを持ったさつきだ。そのトランクは私が頼んで持ってこさせたものなので特に驚きはしない。その次は伊織。相変わらず何を考えているのか、と言うか非常に眠たそうな顔である。最後に来たのは真白で、妙なくらい上機嫌なのが気にかかる。いやまぁ、今日のことを色々と楽しみにしていたんだろう。
「さーて、みんな揃ったわね。それじゃ始めましょうか……の前に」
とりあえずみんな揃ったところで一応確認しておかなきゃならないことがある。
「みんな、カメラは持っているのかな?」
そんなこと入部した時に聞いておけという気がしないでもないんだけど、何となく聞きそびれていたんだから仕方ない。いや、入部の時も騒動だらけだったし、ほぼその直後の今回の撮影会だって色々と私は頭を悩ませ続けていたから聞いている余裕がなかったというのが正解なんだけど。
「はーい!」
元気よくそう言って手を挙げたのはさつきだ。そして取り出したのはちゃんとした一眼レフのカメラ。うーん、一番持っていなさそうなのがさつきだったんだけど、これは嬉しい誤算だ。
「えっと、私はこう言うのしかなかったんですが」
続けて口を開いたのは伊織。でもって彼女が持っていたのはいわゆるバカチョンカメラだ。そうか、伊織のお父さんって基本的に絵描きさんだから写真など撮る必要がないのか。資料用に撮ったりすることはあるかも知れないけど、その為に一眼レフまではいらないってことなんだろう。
「私はこう言うものを持って参りましたわ」
そう言って真白が取り出したのは、これはもう何と言っていいのか物凄くレトロなものだった。と言うか二眼レフって初めて見たような気がする。はっきり言ってこんなもの、私だって扱えないぞ。
「……とりあえず伊織と真白は部の備品を貸すからそれを使って」
「了解です」
「……まぁ、わかりましたわ」
ちょっと真白の返事に間があったのはおそらく持ってきた二眼レフカメラに自信があったからだろう。でも私が浮かべた微妙な表情に気がついて、自分が持っているものがどう言うものなのかを理解したに違いない。
それはさておき。
本日のメインイベントはやっぱり。
「それじゃ先輩、お願いします」
そう言って私は校舎の入り口の方を振り返る。そこにいるのは勿論、黒宮先輩だ。ちなみにその格好は何故か黄色い帽子にスモッグと言った幼稚園児ルック。これがまた似合うの何の。笑いを堪えるのに必死になってしまう。
そう、先輩へのお仕置きは今回の撮影会のモデルをやらせると言うことなのだ。しかもさつきの家からは先輩に似合いそうな衣装を色々と持ってこさせている。いわばコスプレ撮影会……まぁ、初めの趣旨とちょっと違ってしまったような気もしないでもないが、これはこれでいいだろう。
そんなこんなで始まった撮影会だけど、まぁまぁ成功だったと言えるだろう。真白達に写真の取り方とか色々と教えることが出来たし。写真の焼き方とかはまた次の機会に教えればいいしね。
ちなみに。
初めは嫌がっていたり恥ずかしがっていた先輩だったのだけど、最後はもうなんかノリノリでコスプレに興じていた。
「いやー、彩ちんのお陰で何か新しい趣味に目覚めちまったよ」
なんて事言いながら笑っていたんだけど……あれはまったく懲りてないな。次に何をしでかすやら。
どうやら私の苦労はまだまだ続きそうな気配だ……。
新人歓迎撮影会編 終