COLORFUL ALMIGHTYS
新人歓迎撮影会編その3

 机の上に突っ伏し、頭を抱えてみる。ついでに「うう〜」と呻き声も一緒に上げてみた。

 まぁ、そんなことをしたところで今抱えている問題が解決するわけでもないんだけど、とりあえずそうしたい気分なのだ。

 今度の日曜日に行う予定の新人歓迎撮影会。相談した結果、モデルさんを使ったポートレート系の撮影会にすることになったんだけど、そのモデルさんが何処にもいない。

 かつて我が校には「モデル研究会」という謎の部活が存在していたんだけど、今は活動停止中。その為、校内に知らない人物はいない、と評判の我がクラスの委員長、冴島恭香に声をかけてみたものの彼女にもモデルになってくれそうな人物の心当たりは無し。

 一応念のためと思って私、灰田彩佳も色々と動いて見たんだけども見事に全滅。

 そりゃ頭の一つも抱えて呻きたくもなるって。

 しかし、さっきも言ったけどそんなことをしていても問題は解決しない。ならばどうにかするまでだ。

 幸いにも今日は月曜日でまだ時間はある。

 あんまりのんびりもしていられないんだけど、とりあえず時間の許す限りは頑張ってみよう。



「と言うわけで真白」

「嫌ですわ。その話ならこの前にお断りしたはずですわよ」

 放課後、部室へと向かう前に私は部員である白鳥真白に声をかけていた。ちなみにこいつと私は幼馴染みで親友だったりする。

 ちなみに真白が断った、と言うのはモデルに真白の家のメイドさんを使えないかって事。まぁ、これは快諾して貰えそうだったところに某先輩の不用意な発言が飛びだし、その為に真白が態度を硬化させてしまい、ダメになったわけだけど。

「まだ何も言ってないし、それにあの話はもう諦めたわよ。あんたって意外と頑固なところあるからね」

 真白が意外と頑固だって言うのは昔からの知り合いだしよくわかっている。しかし、それ以上にメイドさんなんか連れてきたら某先輩がどんな暴走をしでかすかわかったもんじゃない。どっちかと言うとその方が私的には怖い。

「では一体何ですの?」

 何か警戒したようにそう尋ねてくる真白。

「んー、あんたのお仲間にちょっと声をかけて貰えないかなーって思って」

「お仲間?」

「双子と愉快な仲間達」

 私の口から出た言葉に真白の表情が固まった。

 これは真白が一年の時に仲良くしていた連中を周りが影でひそひそ呼んでいたグループ名だ。男女二卵性のくせにやたら似ている双子とその二人を取り巻く連中のことで、勿論真白もその一員に含まれる。

 二年になった時に真白だけが別のクラスになってしまったんだけど、それでも時折一緒にお弁当食べていたり遊びに行ったりしているらしい。まぁ、その面子の中に真白の憧れの君が存在しているから、と言う気もするんだけど。

「な、何を企んでおりますの、彩佳?」

 先程よりも明らかに警戒レベルが上がった目で私を見つめる真白。

 真白は私がその面子の中に真白の憧れの君がいると言うことを知っているってことを知っている。だからそのことについて何か言われるとか何かやらされるとか言うことを警戒しているのであろう。

「企むだなんて酷いなぁ、真白。あんたと私の仲じゃない」

 そう言ってニッコリと笑う私。

 まぁ、実際企んでいるって事に変わりはないんだけどね。と心の中で舌を出すのであった。



「い、嫌ですわっ!! 断固拒否致しますっ!!」

 顔を真っ赤にして、立ち上がって言う真白さん。

 う〜ん、何て言うか予想通りの反応だわ。

「何でよ? ちょっと声をかけてくれればいいだけの事じゃない。話は私がするって言ったでしょ?」

 真白が嫌がるとわかっていながらも重ねて言う私。

 ちなみに何を彼女にお願いしたのかと言うと、「例の双子にモデルを頼みたいから連れてきてくれ」って事。

 校内でも結構有名人だし、この二人、結構見栄えもいい。特に女の方は密かにファンクラブまで存在しているとか言う噂がある程だ。モデルには丁度いい。なってくれたら、の話だけど。

「で、ですが……そ、それなら、彩佳が自分で」

「だって直接の知り合いじゃないし。真白は仲いいんでしょ?」

「そ、それはそうですが……ですが何で私に」

「だから仲がいいから、に決まってるじゃない。ほとんど面識のない私が声をかけるより知り合いのあんたの方が声をかけやすいでしょ?」

「ですからって、どうして私が一人で声をかけて部室まで連れて行かなければならないのかって事ですわっ!」

「そこはそれ、あんたにチャンスをあげようと言う親友の優しい心遣いってもんよ」

「よ、余計なお世話ですわっ! そう言うことであればお断り致します!」

 うーん、素直じゃないなー。本当は声をかけたいくせに、本当にツンデレお嬢様だな、こいつは。

 仕方ない、ここはあまり使いたくはなかったけど。

「真白、あんた一応副部長よね?」

「そ、そうですわよ」

「私、部長。部長命令よ」

「う……ぐ……」

 再びニッコリ笑う私に真白は何とも言えない悔しそうな表情を浮かべるのだった。



 そんなこんなで嫌そうな真白を連れて私は自分の教室を出、噂の双子のいる教室へと向かった。と言っても隣のクラスな訳なんだけど。

 そっとドアの陰に隠れて教室の中を伺うと例の双子は両方ともしっかり教室の中にいた。帰る準備をしながらクラスメイトの子と何か話している。

「よし、真白、あんたの出番よ」

「……本当に行かなければなりませんか?」

「何よ、普段はやたら強気なくせに今日に限っては随分弱気じゃない」

「えーと……その……相沢さんには普段そうこちらから話しかけると言うことはございませんし、相沢君とは……その……えっと……」

 何やらやたら口籠もる真白。

 どうもこの様子だと間に誰かいないとあの双子とはまともに喋れないっぽいな、こいつ。

 さて、どうしたものか。このままだと私の計画が頓挫してしまうことになるし、何と言っても真白のデレモードが見れないと言うのはちょっと悔しい。いや、今でも充分普段なかなか見れない弱気な真白、と言うものを堪能出来てはいるんだけど。

「あ、真白ちゃん!」

 不意に教室の中からそんな声が聞こえてきた。どうやらドアの陰に隠れているのを見つけた子がいるらしい。

「どったの、そんなところで? 入ってくればいいじゃない」

 そう言いながら手を振っているのは双子の女の方の側にいる背の小さい子。見た感じ小学生と言っても通用しそうな感じだ。何故かあの子を見ていると某先輩が頭の中に思い浮かんだんだけど……共通点はやはり小さいって事か。

「あー、その、今日はちょっと……」

 何かやたら歯切れの悪い返事をしながら真白が私を見る。

 おい、そこで私を見たら私が関係者だって事がわかってしまうだろう。だから素早く見つからないようにドアの陰に隠れる。

「おやおやおや、これはこれは最近付き合いの悪くなった似非お嬢じゃないか。一人だけクラスが違って寂しいから今日もやってきたって訳か?」

 そんな声が聞こえてきたのでもう一度教室を覗いてみると双子の男の方と喋っていた猿顔の男がこっち、と言うか真白を見てニヤニヤしているのが見えた。

 どうにも挑発的、と言うか挑発そのもの。普段勝ち気で強気の真白だ、この挑発に乗らないはずがない。まぁ、今は妙に弱気になっちゃってるけど。

「何を仰るのやら。付き合いが悪くなったのはクラブ活動を始めたからであって、これはこれで充実した日々を送っておりますわ。何と言ってもあなたのようなサル以下のミジンコと顔を合わせなくなったことは私の精神衛生上とてもよろしいことでしてね。今日ここに来たのは用があったからでして、まぁ、もっともサル以下のミジンコにはまるで関係のないお話ですけども」

 先程まで私に見せていた弱気な真白は何処へやら、普段以上に勝ち気&強気な口調で一気に捲したてる。その目つきも普段の彼女以上に険しいものとなっていることから、どうやら先程真白を挑発してきた奴と真白はまさしく犬猿の仲、と言う奴なのだろう。

「だいたい私があなた方と会えなくて寂しいですって? まるで私にはあなた方以外の友人がいないみたいな仰りようですわね。私には私でちゃんと友人がおりますわよ。まぁ、あなたみたいな単細胞生物は自分で勝手に分裂出来るから放っておいても仲間が出来て寂しいなどと言う感情はまるでないんでしょうけど」

 うおおお……わ、私の知っている真白じゃない!

 こいつ、ここまで毒舌吐くのか。はっきり言って知らなかった。長年友達やってて、今じゃ親友だって言っても多分差し支えないと思っていたけど、こんな一面は初めて見た。うーん、まだまだ知らない面ってあるものなんだなぁ。

 てか、そう言う真白の一面を引き出してるこいつって意外と真白と相性いいのかも。いや、むしろその真逆で最悪の相性だからこそ真白のあんな一面が引き出せた様な気がしてきた。

「あ、相変わらずじゃねぇか、この似非お嬢……」

「黙りなさい、このミジンコ。先ほども言った通り今日はあなたになど用事の欠片もございません。ここに来たのはちゃんとしたクラブ関係の用事ですわ」

「クラブって確か写真部だったっけ?」

「そうですわ」

 再び声をかけてきたちびっ子に何故か胸を張って答える真白。

「写真部って言えばあれ? デジカメとか使ってやる?」

 そう尋ねてきたのは如何にも委員長、って感じの女の子。何と言うか、その見た目というか雰囲気が私は委員長です、と物凄い勢いで主張している。

「生憎ですがそちらではございませんわ。私が所属しているのはデジタル写真部ではなく普通のフィルムの方の写真部です。まぁ、少々時代遅れという気がしないでもありませんが、温故知新という言葉もございますし」

 ほほう、そんなこと思っていたのか、こいつ。しかし私だって時代遅れだとは認識しているから仕方ないって言えば仕方ない。だからとりあえず今回はスルーしておいてあげよう。

「あ、私デジカメなら持ってるよ! この間新しいの買ったんだ!」

「桜ちゃん、また買ったの?」

「へへーん。今度撮ってあげるね、祐名ちゃん!」

「あ、ありがとう。期待しているね」

「そこのチビ、いや磯谷様! 撮ったならば是非私目にも一枚回していただけませんか?」

「ふっふ〜ん、一体いくらぐらいなら出せる?」

「千円、いや、出来如何によっては五千までだそう!」

「オッケー、商談成立」

「何、人を無視して変な相談やってるんですかっ!!」

 思い切り存在をスルーされていた真白がいきなり怒鳴った。

 ふむ、この連中を前にしていると真白はこうも怒りっぽくなるのか。覚えておこう。何かの役に立つかも知れない。

「それで白鳥さん、どう言った用なの?」

「あー……それなんですが……」

 尋ねてきたのは双子の女の方。何と言うか見た感じほわほわした雰囲気の持ち主だけど、その声からは妙な落ち着きを感じさせる。

 でもって声をかけられた方の真白はと言えば何やら困ったように視線を彷徨わせていた。

「ほら、チャンスじゃない。あの双子だけを部室の方に呼び出すの!」

 私が小声でそう言う。

「そ、それはかなり難しいですわ。今の状況だと絶対におまけが付いてくること間違いなしですもの」

「そこは上手くやりなさいよ!」

「出来るものならやってますわ!」

 互いに小声での応酬。

「上手く出来たなら特別に双子の片割れと二人っきりにしてあげるから!」

「そ、そのような事言われても!」

「何とでも上手く言い含めなさ……ふわぁっ!!!」

 そこまで言いかけて私は不意に肩を叩かれて思わず大声を上げてしまった。

「わわわっ!」

 私が上げた大声に私の肩を叩いた誰かも同じように大声を上げる。

 振り返ってみると、そこにいたのは何と黒宮先輩だった。

「せ、先輩!?」

「何やってんの、彩ちんに真白ん。部室で待ってても全然来ないからさー、迎えにきちったよ」

 ニコニコと笑顔でそう言う先輩だけど、その先輩を確認した真白はいきなり教室のドアを豪快に閉じた。そして先輩の身体をひっつかむと物凄い速さでその場から、まるで逃げるかのように駆けだしていく。

「……おーい、廊下は走っちゃダメなんだぞー……」

 あまりにも突然のことだったので呆然となった私が出来たのはそう呟くことぐらいだった。

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