いつだって物語は唐突に始まるものだ。

 今私はそのことを思いきり実感させられてしまっている。

 その日、朝から何となく何かあるのではないかと言う、まるで予感めいたものがあった。

 今までの経験上、だいたいこう言う予感がした時はろくな目にあった試しが無い。

 だから今回もそうなのだろうな、と思いながら登校してみてお昼休みにいきなり生徒会室に呼び出されて。

「次の部活運営委員会までに部員を五人以上ちゃんと揃えないと廃部」

 などといきなり我らが生徒会長に申し渡されてしまうなどと誰が予想し得たことだろうか。

 ちなみにうちの学校はつい最近(と言ってもここ二、三年の話だけど)理事長が替わった。

 とある世界的な大企業の会長さんがこの学校の理事長に就任して、去年はその理事長様のご令息が生徒会長をしていたとか。

 まぁ、そのお陰かどうかは知らないがとにかくやたらとこの学校は生徒の自主性を重んじるようになった。
 
 そのおまけとして生徒会が変に強い権力を持っている。

 いや、その辺は一体どう言うやりとりが学校側とあったのかは知らないけど、とにかくうちの学校の生徒会はやたら強い。

 余程のことがないと生徒会およびそこに付属する各委員会で決定したことは覆らない。

 先生達もほとんどそれについては何も言わない。

 だけどその分、何を決定するにもかなり綿密に話し合われるし、一般生徒からの意見も随時受け付けられている。

 生徒会が独裁をしているわけではないのだ。

 それに今回のようにわざわざ通知して尚かつ猶予期間をくれたりもする。

 私的には全然嬉しくないんだけど。

 とりあえず次の部活運営委員会は一ヶ月後。

 それまでにちゃんとした部員を五人(ちなみにうちの学校では正式な部活として認められるには最低でも五人の部員を必要としている)揃える必要がある。

 今のところ正式な部員と呼べるのはこの私、灰田彩佳ただ一人。

 OBはやたらいるんだけど……後は今年卒業予定の黒宮先輩のみ。

 ちなみに先輩は今年卒業するので既に正式な部員としては認められていない。

 それでなくても先輩と私の二人しかいないのだ。

 まぁ、今時こんな部活が流行るとは自分でも思えないから仕方ないという気もしていたんだけど。

 今までは先輩は口八丁手八丁で上手く生徒会長を言いくるめていたらしいんだけど(それにしても良く前生徒会長を言いくるめていたものだと思う。何と言うか前の生徒会長は物凄い遣り手だったとかで実際にもう実家の会社で働いているとか言う噂があった程だ)、先輩から私に代替わりしたらいきなりこんな感じだ。

 まるで潰すタイミングを見計らっていたかのよう。

 当然と言えば当然か。

 部員数が規定に達してないくせにちゃんと正式な部活として認定されていて、更に広い部室と部活予算までちゃんと貰っていたんだから。

 それにしたって私になってほんの数日でこれはないだろうと思う。

 いやまぁ、確かに先輩を相手にするよりは私を相手にする方が遙かに楽だろうけど。

 先輩は「口先の魔術師」とか「ナチュラルボーン詐欺師」とか呼ばれていたからなぁ。

 これを相手にするのは非常に疲れるし(事実私も先輩の相手をするのは非常に疲れる。こんな事を先輩に聞かれたら後でひどい目に遭うとわかっているんだけど)、下手をすればまた言いくるめられてしまうことになる。

 それを避ける意味でも私に変わるところを狙っていたのだろう。

 さて、こんなところで愚痴っていても仕方ない。

 とにかく部員を集めなければ……今時流行らないだろう白黒メインの写真部の新規部員を。

 こうして我が写真部の存亡に関わる物語は始まったのだ……。



COLORFUL ALMIGHTYS
部員獲得編序章



「生徒会長様直々のお呼び出しだと聞いたからどんなことかと思ったらそんなことか」

 部室に入り、そこで待っていた先輩に事の次第を話し、その直後に先輩の口から出たのが今のセリフだった。

「そんなことかって簡単に言いますけどね、先輩。これは我が部にとって死活問題なんですよ?」

「大丈夫大丈夫! 期限までまだ一ヶ月もあるじゃん。その間に見つかるよ」

「何言ってるんですか。一ヶ月しかないんですよ? その間にこんな白黒メインの活動しかしてない写真部に入ってくれる物好きを四人も捜さなきゃならないんですよ? 全然期間が足りません」

「彩ちんは心配性だなぁ。大丈夫大丈夫! この私が言ってんだから間違いないっ!」

 そう言って豪快に笑う先輩。

 しかしながら私は先輩程楽観的にはなれないでいた。決して私が心配性な訳ではない、と思う。おそらく――いや、おそらくってことはないか――私の方が先輩よりも現実的なだけだ。それか先輩が楽観的すぎるだけだ。

 ハァ、と小さくため息をつく。

「心配ないない! 大丈夫、私を信じなさいっ!」

 ため息をついた私を見て、私の背中を乱暴に叩きながら言う先輩。

「素直に先輩を信じられたらどれだけいいか……」

 先輩と知り合ってまだ一年しか経ってないが、それまでの間にどれだけこの先輩に泣かされてきたか。いや、色々と楽しい思い出もたくさんあるんだけど、どっちかと言うと振り回されたことの方が遙かに多い。だから今回もどうしても先輩を信じることが出来そうにもないのであった。



 生徒会長に呼び出されてから三日が過ぎた。

 あれから何故か先輩は一度も部室に顔を見せないでいる。普段は用もないはずなのに部室に私よりも先にいたりするのに。

 何で鍵を預かっている私よりも先に部室の中にいたりするのかを疑問に思って聞いてみたことがあったが、上手くはぐらかされてしまった。流石は口先の魔術師、私なんかじゃ全く敵わない。そこでちょっと調べてみたらどうも持ち出し禁止のはずの部室の鍵を先輩が部長をしている時に勝手に持ち出して合い鍵を作っていたみたいだった。しかしながら問いつめようとしたところでまたはぐらかされてしまうに決まっている。だからとりあえずは学校側とか生徒会にばれない限りは黙認しているんだけど。

 それはさておき、あの先輩が部室に来てないとなるとはたして何をやっているのか。私の知らないところで何かを画策している、となると後でとばっちりが来るのが目に見えている。事が大きくなる前に止めないと。

 とりあえず部室に鞄をおき、先輩のいるであろう教室に向かおうと廊下に出たその時だ。やたらニコニコしている先輩がこっちに向かってくるのが見えた。

「せ、先輩!」

「おー、彩ちん。元気にしていたかい?」

 私の姿を見つけたらしい先輩が片手を挙げて小走りに近寄ってきた。

「ここ二、三日程姿を見ませんでしたけど何やってたんですか?」

 じっと先輩を見やって私が問いかけると、先輩は途端に拗ねたような表情を浮かべた。

「何だよー。折角優しい先輩が可愛い後輩の為に色々としてやってたのにー。いきなり詰問かよー」

「その色々というのが気になって仕方ないんですが。出来れば早く説明して貰えますか? 事が大きくなって生徒会とかに知られる前に」

「大丈夫だよー。まだそんなやばいことはしてないからさー。まぁ精々職員室に忍び込んで持ち題し禁止の生徒名簿のコピーとってきたぐらいだからさー」

「な、何やってんですか!! と、とにかく早く中に入ってください!!」

 先輩の口からやはり出てきたとんでもない一言に私は慌てて先輩を部室の中へと押し込んだ。それから廊下に誰もいないことを確認してから私も中に入る。

「な、何恐ろしいことやってんですか、先輩! こんな事生徒会にばれたら写真部一巻の終わりですよ!!」

「イヤー、ばれなきゃ大丈夫だって。それに今回は持ち出してないし。ちょっとコピーとらせて貰っただけ」

「充分問題ですよ、それ。どうせまた無許可なんでしょ?」

「いちいち先生に許可貰うの面倒なんだもーん」

「それくらいの手間を惜しまないでください!」

「大丈夫大丈夫、夜中に忍び込んでやったから見つかりっこないって」

「尚悪いわー!!」

 思わず大声を出してしまう私。

 全くこの先輩は一体何を考えて生きているんだか。やや(かなりの間違いか)興奮気味の私が肩を大きく上下させていると、先輩は何か可哀想な目をして私を見つめてきた。

「なぁ、彩ちん」

「な、何ですか?」

「疲れない?」

「あんたが疲れさせてんでしょうがっ!!」

「まーまー、少し落ち着きなさいってば。ほら、座って座って」

 そう言って先輩が椅子を引いてくれた。とりあえずその椅子に腰を下ろし、大きく深呼吸して心を落ち着かせる。

 一応当の本人は我が写真部の為にやってくれたのだ。これ以上何か言うのは止めておこう。どうせこれ以上何か言ったところで聞いてくれそうにもないし。また変にはぐらかされるだけだろうし。

「それで、何で生徒名簿なんかコピーしてきたんですか?」

「何言ってるのさ。部員確保の為だよ」

「わざわざ夜中に職員室に忍び込んで持ち出し禁止の生徒名簿を無断でコピーしてまでやることですか、それ?」

「何か言葉の端々に棘を感じるんだけど気のせいかなぁ?」

「気のせいです。で、それでどうするんですか? 生徒の名前がわかったところであまり役には立ちませんよ」

「その辺は心配ない。何の為にわざわざ夜中に職員室に忍び込んだと思っているのかね、彩ちんは」

「生徒名簿を無断でコピーする為じゃないんですか?」

 チッチッチッと人差し指を立てて左右に振る先輩。何かその姿を見て更にイヤな予感がしてきた。これ以上聞いたら何か後には引けなくなるような、そんな気が。

「この生徒名簿をよーく目をかっぽじって見てみたまえ」

 そう言って先輩が自分の鞄の中からやたらと分厚いファイルを取り出してきた。

「何ですか、その分厚いファイルは?」

「だから生徒名簿って言ったじゃん」

 分厚いファイルを受け取りながら更にイヤな予感を覚える私。心の何処かでこのファイルを開いちゃいけないと警告している自分がいて、また別のところにはこのファイルに物凄く好奇心をそそられている自分がいたりする。

 結局好奇心に負けて恐る恐るそのファイルを開いてみて、私はそのことをすぐに後悔した。何と言うか、これはまずいだろう。まずいとか言うレベルじゃないような気がしないでもない。何せこれは……。

「……見なかったことにしていいですか、これ?」

「もう見たじゃん」

「……生徒名簿って言いましたよね?」

「似たようなもんでしょ。ただちょっと他にも色々と書いてあるだけで」

 何か肩がぷるぷる震えているのが自分でもわかる。一体何つー事をしてくれやがったんだ、この先輩は。これがばれたら廃部どころか停学、下手をすれば退学になってしまうじゃないか。

「先輩、これが何かわかっていますよね?」

「勿論わかってるに決まってるじゃないか。全校生徒の内申書のコピーだよ」

「な、何て事を……」

「まぁねぇ、流石にそれだけの数があると一晩じゃ無理だったからさ、三日もかかっちゃったけど。これさえあればどんな奴も我が部に勧誘し放題!」

 そう言ってサムズアップする先輩。

「今すぐ破棄してください、これ。誰にも見つからないように。そうですね、焼却してしまうのが一番ですね。いっそのこと先輩も一緒に燃やされてみますか? 何か新しい世界が垣間見られるかも知れませんよ? ええ、そうですね、それがいい。そうと決まれば早速実行しましょう。他にいらないものもまとめてやればきっとばれません。すぐに職員室に行って焼却場の使用許可を取ってきますからそこで動かないで待っていてください。絶対に動いちゃダメですよ。逃げたりしたら地の果てまでも追いかけて行きますから。ああ、心配しないでください。灰は海に流してあげますから。あ、ご両親に遺書を残すなら今のうちにお願いしますね。まぁ、一緒に燃やしてしまう予定ですが。さて、それじゃ行ってきますから」

 先輩に何も言わせないよう一気にそう捲したててから立ち上がる私。勿論声には一切の感情を込めず、顔も無表情。

 そんな私を見て先輩が明らかに慌てたような表情になる。流石にまずいと思ったのだろう、物凄い速さで私の手からその分厚いファイルを奪い取ると物凄い勢いで背中側に隠す。

「や、やだなぁ、彩ちん。こ、これは私がちゃんと処分しておくから。まぁ、とりあえず落ち着いて話し合おう? ね?」

 額に大粒の汗を浮かべて私をなだめるように先輩が言う。

 私はまだ少々不承不承という感じで椅子に腰を下ろした。この傍若無人な先輩に対して対抗する手段はあれくらいだ。下手に話し合いを持とうとすると先輩の口車に乗せられてしまう。ならば先輩に一切喋らせずに一方的に話をし、尚かつ結論をつけて一気に行動に持っていこうとする。相手に口を挟む機会を一切与えなければ、その口車に乗せられることはない。今はもう卒業してしまったOBの人から教えて貰ったことだ。

「とりあえずそれは誰にも見つからないうちに処分してください。そしてそんなものがあったことも忘れてください。私も記憶の中から消去しておきますので」

「三日も徹夜したのになぁ……」

「処分してください!」

「うう、了解……」

 ちょっと落ち込んだように肩を落とす先輩。一応我が部の為にしてくれたことだからと思うけども、ここで甘い顔をするわけにはいかないのだ。いくら何でもこのファイルの存在はやばすぎる。今すぐにでも処分してしまわないと絶対に私たちの首を絞めることになる。

「全く……先輩はもう動かないでください! 部員の確保は私が頑張ります!」

「えー?」

「何か文句ありますか?」

 思いっきり先輩を睨み付けながら言う私。

「……私だってこの写真部の一員だよ? 少しぐらいは手伝わせてくれたっていいじゃないか」

 じっと私を見返してくる先輩。ちょっとその目がうるうるしているのがわかった。まぁ、さっきのも一応我が部のことを思ってのこと……おっといけない。また先輩の罠にかかるところだった。

「だ、ダメ……かな?」

 私を見つめている先輩の目に涙が溢れ出してきた。うーん、何かこっちが悪いことをしているみたいな気分になってくる。まったく……私もまだまだ甘いなぁ。

「わかりました。今回みたいな違法行為をしないって言うのなら手伝ってください」

 小さくため息をつきつつ私がそう言うと、途端に先輩の顔がぱっと明るくなった。

「OK、それじゃまずこれ見てくれるかな〜」

 先ほどまでのしおらしい態度は何処へやら、またいつもの様子に戻った先輩が取り出したのは一枚の紙。良く学校側から配られるプリントなどに使う藁半紙だ。それを受け取ってみると、そこには名前がいくつも並んでいた。

「何ですか、これ?」

「見ての通りだよ」

「いや、だから」

「もう、何でわからないかなぁ?」

 先輩は私がこの紙に書かれた名前の意味がわからないのが苛立つらしい。私の手からその紙を奪い取ると、ビシッとその紙に指を突きつけた。

「このリストに挙がっている名前をよぉく見てみろっ!」

 何故かやたら自信たっぷりにそう言われて改めて名前を見てみる。だけど今一つわからないので首を傾げてみる。

「まだわかんないの〜?」

「わかりません」

 呆れたように言う先輩にぴしゃりと叩きつけるように答える私。何と言われてもわからないものはわからないのだ。

「彩ちんのクラスの子もいるのに」

「そういえばそうですね」

「まだわかんない?」

「わかりません」

「うう〜、なんでわかんないのさー」

「わかるわけないじゃないですか。そんなただ単に名前を羅列しただけのリストの意味なんか」

 私の言う通り、紙にはクラスと名前が書いてあるだけ。っとよく見てみるとそこに書かれているのはみんな男子生徒ばかり。もう一度じっと紙に書かれている名前を見てみて、そこにある私のクラスの生徒の名前で目をとめ、そいつのことを思い浮かべてみる。

 確かこいつは……クラスでもなかなかのいい男だったはず。クラスメイトの女子がわいわい騒いでいるのを聞いたことあるなぁ、そう言えば。

 そのことを思い出して、改めてリストの名前を見てみる。

 あー、それでわかった。

「先輩……」

「お? ようやく彩ちんもわかったみたいだね。それじゃ勧誘に行こうか?」

 ジロッと先輩を見る私だったが先輩は私の冷たい視線に気がついていないようだった。何か嬉しそうにそう言って部室から出ていこうとしたのでその襟首を掴んで引き留める。

「先輩、何考えてるんですか?」

「え? え? 何?」

「このリストですよ。何考えて選んだんですか?」

 そう言って先輩の手からリストを取り上げる。

 このリストに名前があるのは我が校でも美男子だのいい男だのと言われている連中ばっかりだ。私的にはあまり興味がないのだが、先輩は結構面食いだ。その先輩がそう言う連中ばかりを集めたリストを作っていた。もうだいたい何考えているか見当がつく。

「あ、いや、その……ほら、うちって女ばっかりだし、ちょっとくらいいい男がいてもいいかなぁと」

「わざわざリスト化した意味は何です?」

「そこはそら、一応って奴で」

「……あ。もしかしてさっきの内申書のファイル……先輩、初めから企んでいましたね?」

「な、何の話かなぁ?」

 あからさまに目をそらす先輩。どうやら私の予想通りのようだ。

「こうやって全校生徒の中でもいい男ばっかりを選んでおいて、さっきの内申書のファイルを使って無理矢理うちの部に入部させる。要するに先輩のお気に入りを集めた逆ハーレムを作ろうと思っていたわけですね?」

「や、やだなぁ、彩ちん。私の逆ハーレムだなんて……勿論彩ちんのお気に入りも入れてあげるから」

「そう言う問題じゃないっ!!!」

 そう言って私は思い切り先輩を殴り倒すのであった。

 次の部活運営委員会まで後二十七日。

 必要な部員数は後四人。

 前途多難である……。


続く……かも知れない

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