<12月23日08:45AM 喫茶ホワイト・店内>
珍しく早起きした祐一はさっさと身支度を整え、いつでも出発出来るよう支度を整えていた。そこに何時もと変わらず、早起きの瑞佳がやってくる。
「お早う、祐さん、流石に今日は早いんだね」
「まぁね。日頃会えないから今日くらいはじっくりと……」
少し照れたように視線を外しながら言う祐一に、瑞佳は笑みを浮かべる。
「店の事は私達に任せて、今日は楽しんできてね」
「お願いします、瑞佳さん」
そう言って祐一は瑞佳に頭を下げると、カウンターにおいてあったウエストポーチを腰につけ、ヘルメットを手にドアへと向かっていく。
「それじゃ、行ってきます」
ドアを開けながら祐一が言う。
その背中に瑞佳は笑顔で言った。
「行ってらっしゃい」
ドアが閉まると、瑞佳はまだ何の準備も為されていない店内を見てため息をついた。マスターは相変わらず寝ているのだろうし、祐一は祐一でそれどころではなかったのだろう。そこら辺の所、もう少し気が利いてくれてもいいような気がするのだが。
そんな事を考えながら瑞佳は二階への階段を上がっていく。何時もと同じように、マスターを起こす為に。

<12月23日09:16AM 都内某所・路上>
祐一はロードツイスターを軽快に走らせながらゴキゲンだった。ロードツイスターの最高時速ならN県まであっと言う間だし、その分一緒にいる事の出来る時間が多くなる。明日からはまたバイトだの未確認生命体騒ぎだので忙しくなる事がわかっているだけに、今日だけはどうしても彼女と一緒に過ごしたいのだ。
何せ久し振りに会えるのだ。わざわざプレゼントも用意した。猫が大好きなくせに猫アレルギーという不憫な彼女の為に小さな真っ白い猫のぬいぐるみと、雪の結晶をかたどったブローチ。3時間以上かけて選んだのだ。きっと似合うに決まっている。そのプレゼントを渡し、笑みを見せてくれるであろう彼女の事を思い、思わず頬がにやける祐一。
『……聞こえているか、祐の字?』
コンパネについている無線から国崎の声が聞こえたが、祐一は気がつかなかった。アクセルを回し、更にスピードを上げていく。
『……祐の字、聞こえてないのか?』
また国崎の声が聞こえてくるが、祐一はあえて無視した。きっと幻聴に違いない。今日一日だけは絶対に連絡してくるなと彼にも伝えてある。何が起ころうと絶対に今日だけは。
『……お前の気持ちはわかるが、こっちも非常事態なんだ。聞こえているなら出ろ』
「少しも申し訳なさそうな感じがしないんだが?」
『悪いがお前の感情に構っている暇がない。第49号がN県に入った。合流してくれ』
「………確かにN県に向かっているのは事実だが、合流する気はない」
『お前の力が必要なんだ』
「北川が……PSK−03がいるだろう?」
『圧倒的に押されていたぞ』
「……何やってんだよ、北川の奴……」
『とにかくお前でないとダメそうなんだよ。これ以上あいつを野放しにしておくわけにもいかないだろう?』
「…………わかったよ、行けば良いんだろ、行けば!」
かなり不機嫌そうに祐一は言う。
『済まない、この埋め合わせは必ずすると約束だけはしておいてやるよ』
「あーあー、ありがたいこって。で、何処に行けば良いんだよ?」
『とにかくN県に入ったら連絡をくれ。何とか抜け出すから』
「了解」
無線のスイッチを切り、祐一はロードツイスターを道路の脇に寄せて止めた。
「……ったく……今日だけは絶対に嫌だったのに」
ぶつぶつ呟きながらヘルメットを脱ぎ、一応持ってきていた携帯電話を取り出す。メモリに登録してある電話番号からある人物のものを選択すると、早速通話スイッチを入れる。
『………もしもし、美坂ですけど?』
「香里か? 今どこにいる?」
『まだ部屋だけど……もう出る所よ。何か用なの? 今日は名雪に会いに行くんじゃなかったの?』
「例によって急用だ。悪いが名雪の所に行って遅れるという報告と時間つぶしに付き合ってやってくれ」
『何で私が……栞に電話しておくわ。あの子なら実家にいるからすぐに連絡つくでしょうし』
「ああ、それでもいい。とにかく、絶対に行くから待っていてくれと言う事を必ず伝えておいて欲しいんだ。頼む」
『ハイハイ。それじゃ頑張ってね』
「ああ、頼んだぜ、香里」
それで通話ボタンを切り、祐一はまたヘルメットを被った。
「一発でケリをつけてやる………」
そう言って再びロードツイスターを走らせ始める。

<12月23日09:42AM N県内・水瀬家>
せわしない足音が階段の方から聞こえてくるのをこの家の家主である水瀬秋子は微笑ましそうな表情で聞いていた。普段ならこんな時間に二階から一階に続く階段がこうも騒がしい事はない。何せ二階で寝ている彼女の娘は想像を絶する眠り姫で有名なのだ。
バタンと言う音と共に居間に続くドアが勢いよく開かれる。
「お、お母さん、今何時?」
「まだ10時前よ。そんなに急がなくても大丈夫よ」
居間に飛び込んできた娘に優しい口調で秋子が答える。
「祐一さんは東京なんだし、何で来るにしたってお昼頃になるはずよ」
「ううん、そんな事無いよ。祐一のあのバイクならお昼前にはつくはずだもん」
母親の言葉にそう言って反論しながらも娘は居間からくるりと踵を返して洗面所へと向かう。
「あらあら」
秋子は慌ただしそうに身支度を整えている娘を微笑ましげに見つめていた。
「流石は名雪ね。祐一さんの事なら何でも解ってるって感じ?」
洗面所の方に歩きながらそう言うと、中から照れたような声が返ってくる。
「お、お母さん、からかわないでよ〜」
娘は必死に髪を梳かし、綺麗に見えるように整えている真っ最中だった。彼女のその長い髪は彼女の自慢の一つでもある。
秋子は髪を梳かしている娘の邪魔にならないよう注意しながら洗面所から続いているお風呂場に入っていった。
「とりあえず一度帰ってくるんでしょ?」
「そのつもりだけど……祐一が何時着くかでわかんないと思うよ」
「日帰りじゃ祐一さんが可哀想よ。それでなくても疲れているんだろうし。絶対に連れて帰ってきなさい」
「うん、わかった。そうするよ」
娘の返事を聞きながらお風呂の掃除を始める秋子。
「う〜、お化粧なんて滅多にしないから難しいよ〜」
洗面所の方から娘の困ったような声が聞こえてくる。それを楽しげに聞きながら、秋子は掃除を続けるのであった。

<12月23日10:51AM 諏訪湖SA>
とにかくロードツイスターで飛ばしに飛ばし、祐一は諏訪湖SAに到着していた。約束通り国崎に連絡を入れると、彼も高速で移動中だったらしく更に近くに来ていたようですぐにやってきた。
「意外と早かったな」
「早く来たんだよ、早く終わらせる為に」
いかにも不機嫌です、と言う感じを前面に押し出し祐一が言う。それに対して国崎は苦笑を浮かべるしかなかった。
「で、49号は?」
「今日の3時頃にY県内の検問所に出て、PSK−03と交戦した後姿を消していたんだがな。朝の5時頃にN県の端っこの方の小さな街で見掛けられたらしいんだ」
「……見掛けられたって……それじゃ今どこにいるかは……」
「まぁ、落ち着けよ。とりあえず奴の現在位置の確認は総出でやっている。で、俺たち対策本部のメンバーはと言うと、奴の行動パターンを調べていたんだ」
「何か特徴でもあるのか?」
「ああ。奴、49号はある特定の条件を満たしている人物しか襲わない」
「ある特定の条件……? 何だよ、やけにもったいぶるじゃないか」
祐一がそう言うと、国崎は彼の方を見て、にやっと笑った。
「あいつは赤い服に白いヒゲをつけた人物しか襲わないんだよ」
「赤い服に白いヒゲ……?」
「この時期になったらお前もよく見掛けるだろ。商店街とかでも」
国崎にそこまで言われてようやく祐一も彼の言う特定の条件を満たす人物の正体に思い当たった。
「まさか、サンタの格好した奴が被害者なのか?」
「ああ、そうだ。東京で8人、こっちへと移動しながらすでに6人もの犠牲者が出ている。その全員がサンタの格好をしていたそうだ」
驚く祐一に対して国崎は真顔で言葉を返した。
「なぁ、さっき検問所でとか言ってたけど、そこにもいたのか、サンタ?」
「ああ、ひっくり返された車の中にサンタのコスプレをした中年の男が乗っていた。多分子供を驚かせようとか思っていたんじゃないか? プレゼントもあったしな」
それを聞いて、祐一は黙り込んだ。
どうしてあの時、第49号を倒しておかなかったのか。もし、あの時にきっちりと倒してさえいればこんな事にはならなかったはずだ。
ぎゅっと拳を握り込む。
「……今、対策本部では奴をおびき出す作戦を検討中だ。誰かがサンタの格好をして奴をおびき出す。そしてPSKチームとも協力して殲滅するってな」
「誰が囮になるんだ?」
「それで今揉めているよ。本部長はこれ以上の犠牲者を出したくないらしく、囮に人員を使う事には反対している。しかし、俺たちは誰でも囮になる覚悟は出来ているし」
国崎はそう言って乗ってきた覆面車の後部座席をちらりと見やった。それにつられて祐一も後部座席を見ると、そこにはすでにサンタの衣装が。
「……やる気満々じゃないか」
そう言って祐一が国崎を見ると、またも彼はニヤリと笑って見せた。
「独断専行はお得意技でな。それにお前がいればきっと何とかなると思った」
「……わかったよ。あいつを一回逃がしている責任もある。今度こそケリをつけるよ」
祐一の言葉を聞き、国崎は大きく頷いた。
「奴が何処にいるかまだはっきり特定出来ていないが俺がサンタになればきっと出てくるはずだ。頼むぜ、祐の字」
そう言って祐一の肩をぽんと叩く国崎。
祐一はそんな国崎に笑みを返しただけだった。

<12月23日11:12AM N県某市・駅前>
水瀬名雪が白い息を吐きながらそこにやってきたのは11時を過ぎて少し経ったくらいであった。何時か待ち合わせをしたベンチを見つけると、そこに向かってゆっくりと歩き出す。まだ待ち合わせの相手は来ていなかった。確か前に待ち合わせた時は2時間程待ちぼうけを相手に喰らわせた事を思い出し、ふっと笑みが漏れる。
あの時は待たせちゃったけど、今日は私が先に来て待ってるからね。
そんな事を考えながらベンチに腰を下ろし、駅の方を見やり時間を確認する。まだお昼にもなっていない。少しくらい待っていても充分時間はあるはずだ。一緒に過ごせる時間は少しでも長い方がいいけど。

<12月23日11:31AM N県内・某所>
サンタの衣装を着込んだ国崎が街角に立っている。勿論、対策本部には何も言っていないので彼は一人きりだ。周囲に警官隊は勿論機動隊の姿もない。いるのはロードツイスターに跨った祐一だけ。
「しかし、本当に来るかなぁ……別に何か匂いがしているわけじゃなし、どうやって49号が察知するって言うのかが疑問だけど」
一般市民に怪しまれないようにと近所のケーキ屋さんの宣伝のプラカードを持って立っている国崎の姿は何故か妙にはまっているように思えた。
「……似合いすぎだ、国崎さん」
そう言って、必死に笑いを堪える。もしかしたら刑事になる前はこう言うバイトでもやっていたのではないだろうか。
祐一がそんな事を考えている時だった。彼の視界の中に見た事のある体格のいい男の姿が入ってきたのは。頭には革の鉢巻き、冬だというのにメッシュのTシャツ、左手首には勾玉の付いたリング。未確認生命体第49号の人間体である。
「来たぞ、国崎さん!」
無線に向かって呼びかける祐一。いつもとは違い、国崎が用意してきた小型無線機にその周波数はあわされている。イヤホンで祐一の声を聞いた国崎は一つ頷くと、そのまま歩き出した。
第49号人間体はそんな国崎を一定の距離を取って追いかける。その姿は猛獣が獲物の品定めをしているかのようであった。この場合、獲物というのは言うまでもなくサンタの格好をした国崎であったが。
「こんな町中で戦ったらどんな被害が出るかわからん。町の外の誘導するから付いて来いよ」
サンタの衣装の上着につけていた小型マイクでそう祐一に言うと、国崎は止めてあった覆面車に乗り込んだ。それを見た第49号人間体が一気に覆面車に向かって走り出した。どうやら完全に次の獲物を国崎と定めたようだ。
バックミラー越しにこちらに突っ込んでくる第49号人間体を見た国崎は一気にアクセルを踏み込み、覆面車を急発進させる。
「よし、付いて来いよ!」
そう言って国崎がハンドルを切る。覆面車が急にターンするが、第49号人間体はそれに全く動じることなく走る覆面車を追って猛然とダッシュし始めた。それを見て、慌てて祐一もロードツイスターで覆面車と第49号を追いかける。
「何て足の速さだよ、あいつ! 4号並じゃないか!?」
覆面車に追いすがる第49号を後方から見ながら祐一が呟いた。猛スピードで走る覆面車に全く後れをとらない第49号。この調子では何時か追いついてしまうかも知れない。その前に何とか闘いに持ち込めればいいのだが。

<12月23日11:54AM N県某市・駅前>
待ち始めてすでに30分以上が経っている。特に何時という約束はしていなかったが、もうそろそろ来てもいいはずだ。向こうも気持ちは一緒のはずだから。
そう思うのだが、不安はどうしようもなくこみ上げてくる。
まさか、途中で何かあったのではないか。事故ったとか事故に巻き込まれたとか。何かトラブルでもあったのでは。それとも………約束を忘れてしまったのか。
「そんな事無い、祐一は絶対に約束は守る人だから」
そう呟いて、頭の中に浮かんだ事を振り払う。
「祐一……」
名雪はそう呟いて空を見上げた。
何時しか曇りだし、今にも雪が降り出しそうな空。

<12月23日12:39PM N県内・某所>
たっぷり30分以上走り、国崎の車は何時しか山道に差し掛かっていた。その間、第49号人間体の姿は常にバックミラーに映し出されており、一度も消える事はない。
「何て体力だ……奴は化け物……だな」
そう言ってまたハンドルを切る。アクセルは踏みっぱなし。スピードを緩めればすぐにも追いついてきそうだ。いや、実際徐々に第49号は覆面車との距離を詰めてきていた。
「後は祐の字に任せるか……」
国崎がそう呟いて、バックミラーを見ると、第49号の姿がそこから消えていた。
「なっ!?」
驚きの声を上げると同時に運転席側のドアの窓がぶち破られ、にゅっと太い腕が中に侵入してきた。第49号だ。いつの間にか覆面車に追いつき、遂に攻撃を開始してきたのだ。
「うおおっ!?」
侵入してきた腕に胸元を掴まれ、外に引きずり出されそうになる国崎だが、必死にハンドルを握り抵抗する。更にハンドルを左右に切り、覆面車を蛇行させる事によって第49号を覆面車から振り払おうとした。
「このっ!!」
第49号は掴んだ手をなかなか離そうとはしない。それに業を煮やした国崎は右手をハンドルから離し、懐からコルトパイソンを取り出した。ぶち破られた窓の外、覆面車にしがみついている第49号の頭にその銃口を向け、容赦無く引き金を引く。銃声が3回響き、ようやく第49号が掴んでいた腕を放し、更に地面に倒れて後方へと転がっていく。それを見た国崎は急ブレーキをかけて、覆面車を停止させた。
変身前とは言え、相手は未確認生命体だ。コルトパイソンの弾丸で倒せたとは思えない。油断無く、倒れた第49号を見ながら覆面車を降りる国崎。勿論拳銃は持ったままだ。
猛スピードの覆面車から振り落とされた第49号はぴくりとも動かない。倒れたままじっとしている。
その第49号に拳銃を向けたまま、一歩一歩近寄っていく。今までの経験からすれば相当に危険な事をやっているのはわかるが、それでも相手の生死を確認する必要はある。もっとも死んだとは一つも思っていないが。後一歩まで倒れた第49号に近寄り、国崎は足で俯せになっている第49号の身体をひっくり返した。それでも第49号はぴくりともしない。
「……まさか……な」
訝しげな顔をしてそう呟いた時、いきなり第49号が立ち上がった。同時に人間体から怪人体へと変身し、国崎に襲いかかる。
「思った通りだぜっ!!」
そう言って引き金を引くが、コルトパイソンの弾丸では牽制にすらならなかった。
第49号ショマガ・ボバルはあっさりと国崎の持っている拳銃を払い落とすと、彼の首に手をかけた。そのまま、物凄い力で締め上げ、徐々にその身体を持ち上げていく。
「ロサレジェ・マリヲ・シャニグヌミヲ」
そう言ってニヤリと笑うショマガ・ボバル。
国崎は首を締め上げられたまま必死に抵抗するが、人間の力では未確認生命体に敵うはずもない。徐々にその顔色が土気色になってくる。
(こ、こんなところで……)
意識が朦朧としてくる中、彼はこちらに猛スピードで突っ込んでくるロードツイスターの姿をようやく見つけた。
「おぉらぁっ!!」
前輪を振り上げ、ウィリーしながら突っ込んでくるロードツイスター。そのまま、ショマガ・ボバルの横に体当たりし、ショマガ・ボバルを吹っ飛ばす。
ロードツイスターの体当たりによってようやく解放される国崎。その場に尻餅をつき、激しく咳き込む。
「大丈夫か、国崎さん?」
「お、遅いぞ、祐の字!!」
「わりぃわりぃ。先回りしようと思ってちょっと道間違えたんだ」
そう言いながら祐一はロードツイスターから降り、ヘルメットを脱いだ。吹っ飛ばされたショマガ・ボバルが起きあがろうとしているのを見ながら、両手を交差させながら前に突き出す。その内左手だけを腰に退き、残る右手で空に十字を描く。
「変身ッ!!」
叫ぶと同時に前に出していた右手を引き寄せ、一気に振り払う。彼の腰にベルトが浮かび上がり、その中央にある霊石が光を放った。その光の中、祐一は戦士・カノンへと姿を変える。すっと腰を落とし、身構えるカノン。
その間にショマガ・ボバルも立ち上がっていた。首をゆっくりと回し、カノンを見据える。
「カノン・ゴヲジョゴノ・ゴドヌ」
そう言って走り出すショマガ・ボバル。
「国崎さん、一気にケリをつける。銃を貸してくれ」
カノンはそう言うと、国崎に向かって手を伸ばした。
国崎は先程払い落とされた拳銃を拾うと、すぐにカノンに手渡す。
銃を受け取ったカノンはその銃を左手に持ち、こちらに向かってくるショマガ・ボバルに向けて構えた。
「フォームアップ!!」
その声と共にカノンの身体が緑色に変わる。同時に構えていた拳銃も緑色のボウガンへと姿を変えた。ボウガン後部のレバーを引き、内部に圧縮空気の矢を生み出す。
「ウラァァァァァッ!!」
雄叫びをあげながら突っ込んでくるショマガ・ボバルに狙いをつけ、緑色のカノンはボウガンの先端にエネルギーを込め、後ろのレバーを放し、引き金を引く。圧縮空気の矢がボウガンから放たれ、ショマガ・ボバルに向かって打ち出される。
「ウラァァァァァッ!!」
再び雄叫びをあげたショマガ・ボバルは自分に向かって放たれた圧縮空気の矢をその角でうち砕いてしまう。
「何っ!?」
これに驚いたのは緑のカノンの方だった。再びボウガンを構えようとするが、それよりも早くショマガ・ボバルが突っ込んで来、頭部の角でカノンを吹っ飛ばす。コンクリートで固められた山の斜面に叩きつけられ、そこから道路へと落下し、倒れるカノン。
「祐の字ッ!?」
驚きの声を今度は国崎が上げた。
緑のカノンはその変身時間に限界がある。その限界をオーバーすると、白いカノンに戻らず、祐一の姿に戻り、2時間以上変身出来なくなるのだ。
ショマガ・ボバルが倒れたカノンを見、それから国崎の方を振り返った。どうやらカノンよりも先に国崎を殺す事にしたらしい。一歩一歩着実に彼に迫っていく。
「ニメ」
そう言ってまた国崎の胸ぐらを掴もうとした時だった。誰かが頭部の角をつかんで倒立している。
「おいおい、お前の相手は俺じゃなかったのかよ?」
そこにいたのはカノンだった。緑色のボディから今度は青いボディへとフォームを変えている。
カノンの声にはっと上を見るショマガ・ボバルだが、カノンは角から手を離し、そのまま回転しながらショマガ・ボバルを蹴り飛ばした。
吹っ飛ばされるショマガ・ボバルを見ながら、華麗に着地し、身構える青いカノン。
「祐の字、無事だったのか……」
安堵したような声を漏らす国崎。だが、カノンは
「余り無事じゃない。吹っ飛ばされた時にあばらを何本からやられたみたいだ。緑の時は防御力も落ちるからな」
振り返りもせずに冷静な声でそう言う。
「大丈夫なのか、それで?」
「やるしかないんだ、やるしか」
そう言うと、カノンは起きあがりかけているショマガ・ボバルに向かって走り出した。途中で地面に手をついて前方展開を繰り返し、一気に距離を詰めると相手の頭に踵落としを決める。
頭に踵の一撃を食らったショマガ・ボバルがよろけるところにカノンの後ろ回し蹴りがヒット。そこから連続でキックを叩き込んでいくカノン。青いカノンはスピードの戦士。一撃一撃にパワーはないが、それを補うだけのスピードがある。ショマガ・ボバルはロクに反撃出来ないうちに吹っ飛ばされてしまった。
尻餅をついて倒れるショマガ・ボバル。
そこに飛びかかっていくカノンだが、ショマガ・ボバルはそのカノンをあっさりと掴み、そのまま投げ飛ばしてしまう。宙を舞うカノンだが、くるりと空中で一回転してコンクリートで固められた山肌に着地、そのまま山肌を駆け下りながらコンクリートを突き破って生えている枯れ木の枝に手をかけた。車の排気ガスにやられていた所為か、あっさりとその枝が折れ、カノンの手の中で青いロッドへと変化する。
青いロッドを頭上で振り回しながらジャンプするカノン。すでに立ち上がっていたショマガ・ボバルはカノンが振り下ろしてきたロッドを角で受け止めてしまう。更に角の突起部分でロッドを挟み込み、頭を振り回してカノンを吹っ飛ばした。
「うおおっ!?」
思わずロッドから手を離してしまい、カノンが大きく投げ出される。だが、何とか上手く着地する。
ショマガ・ボバルは角の突起に挟んでいたロッドを手に取ると、膝で二つにたたき割り、その場に投げ捨てた。そして着地したばかりのカノンに向かって突っ込んでいく。
「ウラァァァァァッ!!」
雄叫びをあげながらカノンにぶつかっていくショマガ・ボバル。
「うわぁっ!!」
ショマガ・ボバルの体当たりをまともに食らい、大きく吹っ飛ばされるカノン。コンクリートで固められている山肌に再び叩きつけられ、地面にも叩きつけられ更なるダメージを受けてしまう。
「くう……」
身を起こすカノンだが、かなりのダメージを受けており、その動きは鈍い。
そこにまたも突っ込んでくるショマガ・ボバル。
「くそっ!!」
何とかその場から移動し、ショマガ・ボバルの体当たりをかわしたカノンは地面を転がりながら起きあがり素早く周囲に目をやり、何か棒状のものがないか探した。青いカノンは棒状のものを持ち、それを青いロッドに変える事によってその最大の力を発揮する事が出来るのだ。だが、舗装された道路の上にはその様なものが都合よく落ちているはずがない。あるのは先程ショマガ・ボバルが叩き折った枯れ木の枝のみだ。流石にそれでは長さが足りない。
ショマガ・ボバルはそんなカノンを見ながら、一歩一歩迫っていく。
「祐の字っ!!」
突如そこに響き渡る国崎の声。同時に銃声も響き渡った。ショマガ・ボバルの角で小さな爆発が起こる。
カノンがその声に振り向くと、国崎がライフルを構えて立っていた。いつの間にかサンタの衣装は脱いでおり、いつもの黒尽くめの姿に戻っている。
「何ぼうっとしてるんだよ! 敵はすぐそこにいるんだぞ!!」
「ああ、助かったよ!」
カノンは国崎にそう答えると、素早くショマガ・ボバルに向き直り、身構えた。
ショマガ・ボバルは足を止め、身構えたカノンをしばしじっと見ていたが、やがて急に走り出した。
「ハッ!!」
走り出したショマガ・ボバルを充分に引き付けてからカノンはジャンプした。そのまま飛び越え、後ろから攻撃しようと言うつもりらしい。だが、それを予測していたのかショマガ・ボバルが軽くジャンプした。角の先端にカノンの足が引っかかる。
「うわっ!」
バランスを崩し、カノンが地面に倒れる。すぐに身体を反転させるカノンだが、そこにショマガ・ボバルが襲いかかり、カノンの足を角で引っかけ持ち上げた。ふわっとカノンの身体が重力を無視して浮き上がる。ショマガ・ボバルはそのまま頭を大きく振り下ろし、カノンを地面に叩きつけた。
「ぐはっ!!」
カノンが苦悶の声を上げるが、ショマガ・ボバルはそれを無視してカノンを再び持ち上げる。今度は地面に叩きつけたりせずに頭を振り上げた勢いを利用してそのまま後ろへと投げ飛ばした。
「うわっ!!」
国崎の側にまで飛ばされたカノンが、彼のすぐ後ろに止めてあった覆面車のボンネットの上に落下する。
「だ、大丈夫か、相沢……?」
国崎が飛ばされてきたカノンを見て言うが、カノンは気でも失ったのか返事をしない。
そこにショマガ・ボバルがジャンプしてきた。国崎には目もくれず、ボンネットの上でぐったりしているカノンを掴みあげ、今度はガードレールの方に向かって放り投げた。
「ラァァァァァッ!!」
ショマガ・ボバルが雄叫びをあげ、自分で投げ飛ばしたカノンに向かって突っ込んでいく。
「祐の字ッ!!」
国崎が叫ぶ。
「ラァァァァァッ!!」
雄叫びと共にショマガ・ボバルがカノンに突っ込んでいき、そのままガードレールを突き破って下へと落ちていく。
「祐の字ッ!!」
慌ててガードレールに駆け寄り下の方を覗き込む国崎だが、もうそこからショマガ・ボバルとカノンの姿を確認する事は出来なかった。
「祐の字ィッ!!!」
国崎の叫び声だけがその場に響き渡る。

<12月23日13:35PM N県某市・駅前>
腕時計を見て、そして今度は近くにある大時計を見る。
まだ約束の相手が来ない事に、名雪は段々心細くなってきていた。
「………祐一」
そう呟いて、ため息をつく。
「あ、いたいた。名雪さ〜〜〜〜ん」
不意に聞こえてきた声に名雪が顔を上げると、向こうの方から見知った顔が走ってくるのが見えた。
「……栞ちゃん?」
首を傾げる名雪。一体どうしてここに彼女が来るのか、その理由に思い当たらない。
美坂栞は名雪の前まで来ると、大きく上下している胸を押さえて、ぺこりと頭を下げる。
「お、お早う御座います、名雪さん」
「お早う、栞ちゃん。どうしたの、そんなに慌てて?」
名雪が尋ねると、栞は少し困ったような笑みを浮かべた。
「ハイ、実はですね……お姉ちゃんから朝電話貰いまして」
「香里から?」
名雪がまた首を傾げた。どうしてここに栞の姉、香里の名前がでてくるのかわからない。
「香里ってまだ東京だよね?」
「そうです。まだ例の古代文字の碑文の解読していると思います」
「……その香里が栞ちゃんに電話してきて、それでどうして栞ちゃんがここに来る事になるの?」
「詳しい事はわかりませんけど、お姉ちゃんは祐一さんから電話を貰って、私に連絡してきたみたいなんです」
「……祐一が?」
祐一の名前が栞の口から出た途端に名雪の表情が曇る。
何かあったのではないかと言う不安がまたわき出してきたのだ。
「祐一さん、急用が出来てしまったって。それで……」
そう言った栞の表情も曇る。
祐一が言う「急用」、それが何を意味するか彼女たちは知っている。また現れたのだ、罪のない人々を脅かす未確認生命体が。それを倒す事の出来る力を祐一は持っている。だからこそ、彼は。
「ここからは祐一さんから名雪さんへの伝言です。『絶対に行くから待っていてくれ』」
「……絶対に……」
「祐一さんが来るまでの間、私が名雪さんのお相手をします。よろしくお願いしますね」
そう言って栞がまたぺこりと頭を下げた。
「……わかったよ。それじゃ祐一が来るまで付き合って貰おうかな」
名雪がそう言って笑みを見せた。

<12月23日14:29PM N県内・某所>
カノンとショマガ・ボバルが突き破ったガードレールの下は崖になっており、その下には余り広くはなく、流れの速い川が流れていた。
その川の、水の流れる音に、倒れ気をう失っていた祐一の意識が段々引き戻されてきた。
「ううっ………」
意識が戻ると共に全身の痛みがはっきりしてくる。
苦悶の声をあげながら何とか身体を起こすと、すぐに周囲を見回した。一緒に落ちたはずのショマガ・ボバルの姿はなく、そこにいるのは彼一人であった。
「や、奴は………何処に……」
祐一は立ち上がろうとして左足に走った激痛に、再びその場に倒れ込んでしまった。
「くあっ!!」
見ると、ズボンが真っ赤に染まり、その中心には大きく穴が開いていた。
「………あの時か……」
ガードレールを突き破った時におそらくあの角で抉られてしまったのだろう。霊石の超回復能力のおかげで血は止まっているが、痛みまでは消せていない。更にズボンの染まり具合からしてかなりの出血量のようだ。さしもの超回復能力といえども失った血液をすぐに補給出来るわけではない。
道理で先程からくらくらしているわけだ。そう思って苦笑する祐一。だが、すぐに表情を引き締め、崖の上を見上げた。ここでじっとしているわけには行かない。消えた第49号がどうなったのかを確認すると言う事もあるが、それよりも何よりも自分を待っている人がいる。その人の為に、ここにじっとしているわけには行かないのだ。
「……約束は……守らないとな」
そう呟くと祐一はふらふらと立ち上がり、かなり急な斜面に手をかけた。自分の身体一つで登るにはかなり難しい斜面だったがそんな事で挫けるわけには行かない。体調も完全ではない。肋骨の何本かは折れているだろうし、何よりも左足の傷は深い。まともに歩けない程に。それでも祐一は斜面を登り始めた。
「行くって……約束した……」
そう呟きながら必死になりながら祐一は急斜面を登り続ける。途中何度も滑り落ちながらも、上を目指していく。
「行くんだ……待ってろ……絶対に行くからな」

<12月23日17:38PM N県内・某警察署内会議室>
国崎はショマガ・ボバルと共に崖下に落ちた祐一の捜索を頼みにこの警察署まで来て、そこで同じ対策本部の住井とばったり出会っていた。
「国崎さん! 何していたんですか!!」
国崎を見つけるなり住井が駆け寄ってくる。
「対策本部が囮作戦の決行を決断しましたよ。PSKチームもすぐにここに来ます」
「そ、そうか……」
独断で囮作戦を実行していた国崎は少し頬をひくつかせながら答えた。
「今度という今度こそ仕留めましょう!」
「ああ、そうだな……」
そう答えながら国崎は思う。
(第3号……カノンですら倒せなかった奴が相手だ……PSK−03じゃ圧倒的に不利……だと思うが)
住井は囮作戦の実行と言う事でかなり興奮しているようだ。今まで後手後手に回り続けていた警察側初の反撃と言う事もあるのだろう。だから彼はカノンが、第3号がすでに第49号に破れている事を言わなかった。
「あ、来ましたよ」
住井がそう言ったので国崎が振り返ると、彼がボンネットの凹んだ覆面車を止めた駐車場にKトレーラーが入ってくるのが見えた。
「国崎さん、今度は勝手にいなくなったりしないで下さいよ。囮をやるのは俺なんですから、しっかりフォローして貰わないと」
そう言って住井が駐車場の方へと出ていく。
その背中を見送りながら国崎はこれからどうするべきかを考えていた。
崖下に落ちたが祐一は死んではいないと半ば確信している。それはあの後、第49号が別の場所に出現し、また犠牲者を産んだ事からもわかる。第49号が死んでいないのなら確実に祐一は生きている。あいつはこんなところで死んではいけない奴だ。だが、あの負傷具合だと崖下に倒れたままかも知れない。
「探しに行くべきか……それとも……」
腕を組んで考えていると、そこに住井に案内されてPSKチームの面々がやってきた。
「こんばんわ」
留美が国崎に声をかけてきたので、国崎は軽く会釈だけ返した。
「今度という今度こそ、ここでケリをつけるわよ。時間が余り無いからね」
そう言った留美の顔を国崎は思わずじっと見てしまった。
同じような事を、第49号と対峙した祐一も言っていた。そもそも彼は今日だけは絶対に呼ぶなと言っていた。その理由を今、彼はようやく思いだしたのだ。
(………悪い事をしたな……あいつにも、あの子にも……)
表情を曇らせる国崎を見て、首を傾げる留美。
「今度こそ、奴を倒しますよ。秘密兵器もある事ですし」
そう言ったのは北川である。
彼もあれからどうして祐一が今日だけは絶対に呼ぶなと言っていたかを思いだしていた。
(……そうだ、今日は確か水瀬の誕生日だったな……)
二人の間に何があったかを彼も少しは知っている。だからこそ、今日ぐらいは二人を普通に過ごさせてやりたい。その為には自分が第49号を倒さなければならないのだ。そして、その為にわざわざ東京に戻ってPSK−03に換装パーツをとってきたのである。
「会議室へ行きましょう。作戦の説明をします」
住井がそう言って歩き出した。

<12月23日17:54PM N県内某市・駅前の喫茶店内>
名雪は栞を連れてしばらく駅前の商店街をウインドウショッピングした後、この喫茶店にやってきていた。この店の窓側の席からなら約束のベンチがよく見える。
「……遅いですね、祐一さん」
そう言ったのは栞だった。その声には少し不安が混じっている。
「祐一さんの事だから負けたとか言う事はないと思いますけど……余程相手は強敵なんでしょうか?」
栞の質問にも似た口調に名雪は何も答えない。
何故なら彼女も全く同じ事を考えていたのだ。
祐一は、世間では未確認生命体第3号と呼ばれている存在は、一部ではカノンと呼ばれている戦士は他の未確認生命体と同程度の力を持っている。だが、それでは互角なだけで相手よりも強いわけではない。格闘技などの経験がほとんど無い祐一には不利な事の方が多いだろう。しかし、それを頭の回転と努力と根性で補って今まで勝ってきたのだ。
「……大丈夫だよ」
栞に、と言うよりも自分に言い聞かせるかのように名雪が口を開く。
「祐一は約束を破ったりはしないもん。ちょっと遅れるかも知れないけど、絶対に約束は破らないよ」
「そう………ですよね……」
栞の声にはまだ不安が残っている。名雪はそんな彼女の抱えている不安がよく解っていた。この子も自分と同じだから。自分と同じく祐一の事が好きだから。だからこそ不安なのだと言う事が痛い程わかる。
「祐一が来るって言うんならきっと来るよ。絶対にね」
名雪はそう言って笑みを浮かべて見せた。
「………」
栞がそんな名雪の笑みを見て、驚いたような表情を浮かべる。
どうしてそこまで信じられるのだろうか。ヘタをすれば敵にやられて死んでしまったかも知れないと言うのに、目の前にいるこの人は絶対的な信頼を彼に寄せている。彼が来ると言えば必ず来る。そう信じきっている。
「………名雪さんには敵いません」
そう言って栞は目を落とした。
「私はもしかしたら祐一さんは来ないかも知れないと思っちゃいました。祐一さんの言葉を疑っちゃったんです。……ダメですね、私」
「……祐一とは付き合いが長いからそう思うだけだよ。もし私が栞ちゃんの立場だったらきっとそう思う」
名雪はそう言って栞を見た。
「もうそろそろ栞ちゃんは帰った方がいいよ。夜道は危ないし、これからもっと寒くなるだろうし」
「……名雪さんはまだ待つ気ですか?」
「うん。祐一はきっと来るからね、ここで待ってないと怒られちゃうよ」
栞の問いに名雪は何の衒いもなく答えた。
「……やっぱり名雪さんは凄いです」
「そんな事無いよ〜。栞ちゃんが付き合ってくれなかったら今日はもっとつまらなかったよ。ありがとう、栞ちゃん」
「私は……お姉ちゃんに頼まれただけです。もっと言えば祐一さんに頼まれただけですからそんなお礼なんて」
そうだ。親友の香里なら知らず、いわば恋敵である栞が何でここに来たのか。何でわざわざ恋敵の名雪の所に来たのか。全ては祐一が頼んだ、その一点にある。
「それでも……お礼を言いたいんだよ」
名雪もそれを理解しながら、あえて微笑んだ。
「………」
栞は黙って名雪の笑みを見つめていた。その笑みには何の邪心も見えない。本当に感謝しているのだろう。何となく打算的だった自分が恥ずかしく、悲しくなり、栞は席を立つ。
「……帰りますね」
「……栞ちゃん」
名雪が何か言うよりも早く栞は立ち上がり、歩き出した。慌てて自分も立ち上がり、栞を追いかける名雪。会計を済ませて外に出たところでようやく栞に追いつく。
「待って、栞ちゃん」
声をかけるが、栞は立ち止まらない。
「私は……」
その代わり、栞は背中を向けたまま声を返してきた。
「私はまだ祐一さんを諦めていませんから! 私だって祐一さんの事好きですから!」
「………うん、それでいいよ」
栞の告白に、ゆっくりと頷く名雪。
「でも私は負けないよ。祐一は渡さないからね」
そうだ、何年も待ってようやく叶った思い。そう簡単に手放せるものではない。だからはっきりと言う。
「来るなら来い、だよ、栞ちゃん」
名雪の言葉に栞は振り返った。
何時しかこぼれ落ちていた涙をそのままに、栞は右手の親指を立てて見せた。名雪も同じ仕草を栞に返す。
「それじゃ、名雪さん。風邪引かないように、気をつけてくださいね」
栞はそう言って名雪に向かって手を振った。
「うん、今日はありがとう」
名雪も手を振りかえす。
駅前から商店街の方へと去っていく栞を見送り、名雪はゆっくりと手を下ろした。
「………物凄い誕生日プレゼントだよ、栞ちゃん」
そう呟いて苦笑する。

<12月23日18:30PM N県内某市街地>
白い息を吐きながら、真っ赤なサンタの衣装を着けた住井が街角に立っている。一般市民の姿はなく、通りかかるのは全てこの囮作戦の為に駆り出された警官達である。一応怪しまれないように皆私服に着替えていた。
一般市民には避難命令が出されており、この町の一角にはKトレーラーが止まっており、その中ではPSK−03がいつでも飛び出せるように待機している。
「来ますかね?」
モニターに映し出されている住井の様子を見ながら斉藤が言う。
「来るわよ。N県全域にサンタクロースの衣装の一時使用禁止を言い渡してあるはずだからね」
留美がそう言って斉藤を見た。
「他の県に移動でもしない限り大丈夫なはずよ」
「移動していたらどうしましょう?」
「さぁ? その時はその時よ」
あっさりとそう言い、留美は立ち上がった。すでにPSK−03のマスク以外の各パーツを装備し終えている潤の側に寄っていく。
「北川君、勝算はあるの?」
「やってみない事には何とも。只、こいつならあの角で防がれる事はないでしょうしね」
そう言って潤はPSK−03のいつもの装備の上に着けられた追加装甲に手をやった。そこには数千とも言えるベアリング弾が内蔵されている。散弾銃のように発射されるベアリング弾、これを完全に防ぐ事は不可能に近い。
「来ました!!」
斉藤がそう言って二人の方を振り返った。
頷く留美とマスクを装着する潤。
「PSK−03モードA、アクティブ!!」
留美の声と共に立ち上がるPSK−03モードA。
外では突如現れた未確認生命体第49号を包囲するように展開した警官隊がそれぞれ拳銃を構えて発砲していた。だが、未確認生命体対策本部の面々が使用しているコルトパイソン、更に各種特殊弾を使用しているライフルですら通用しなかったそのボディには通常の弾丸が通用するはずがない。
囮となった住井自身も持っていたコルトパイソンで自分に向かってくる第49号を撃つが、第49号はその歩みを止める事はない。近くにいた国崎もライフルに装填されている強化型炸裂弾で住井を援護するが、それすらも第49号の足を止める事が出来なかった。
銃弾の雨をかいくぐった第49号が手を住井に伸ばす。
恐怖に住井の顔が引きつった。
「死ね……」
そう言ってニヤリと笑い、人間体から怪人体に変身する第49号ショマガ・ボバル。
崖下にカノンと共に落下したにもかかわらずそのボディに傷は無さそうだった。
「奴は……不死身か!?」
国崎がそう呟いた時、背中に設置されたブースターを全開にしたPSK−03が突っ込んでくる。肩からの体当たりを食らわせ、ショマガ・ボバルを吹っ飛ばす。
「下がってくれ! ここは任せろ!」
PSK−03にそう言われ、住井が大きく頷いた。そして慌ててその場から離れていく。同時に警官隊もPSK−03とショマガ・ボバルから離れていった。後は国崎が持っているようなライフルでの援護をするだけだ。
「……よくもやったな、ビサンの戦士」
明らかに日本語で喋るショマガ・ボバルに、思わず驚いてしまうPSK−03。
「日本語?」
「お前から先に殺してやろう」
ショマガ・ボバルはそう言ってPSK−03に飛びかかった。
左腕に内蔵されている小型ガトリングガンで飛びかかってきたショマガ・ボバルを迎撃するが、それに構わずPSK−03に殴りかかってくる。その場にしゃがみ込み、ショマガ・ボバルのパンチをかわしたPSK−03が右手でそのがら空きのボディを殴る。勿論、それでダメージが与えられるとは思っていない。狙いは別にある。
「ウラァァァッ!!」
両手を振り上げるショマガ・ボバル。そのままPSK−03の背中に振り下ろそうとするが、それよりも早く、何かの炸裂音のようなものが響いた。
「グオッ!?」
腹部に急激な激痛を覚えたショマガ・ボバルの動きが止まる。ゆっくりと見下ろすと、そこには鋭い槍のようなものが突き刺さっていた。PSK−03モードAの右腕に装備されている武器、ガトリングステーク。それがショマガ・ボバルの腹筋を深々と貫いているのだ。
「これだけ接近してたらその角も使えないだろう?」
そう言ってPSK−03がショマガ・ボバルの顔を見上げる。
「これでも喰らいな、おつりはいらないからよっ!!」
PSK−03がそう叫ぶのと同時に盛り上がった肩の部分が開き、そこから数千発にも及ぶベアリング弾が発射された。一発一発は細かいベアリング弾。それが数千発、散弾銃の要領で発射されたのだ。人間なら消し飛んでしまうほどの威力のある攻撃用装備、クレイモアランチャー。
超至近距離から発射されたクレイモアランチャーの直撃を受けたショマガ・ボバルが血まみれになりながら吹っ飛ぶ。
「とどめを刺す! 七瀬さん、モードBを!!」
『了解、任せたわよ!! PSK−03モードB、起動!!』
PSK−03のマスク内のモニターが真っ赤に染まる。全ての敵を殲滅する事を最優先にし、装着員の事など無視した超反応を見せる超AI”ベルセルガ”、それが起動したのだ。「行くぞぉっ!!」
潤が叫ぶと同時に背中のブースターが火を噴き、PSK−03がショマガ・ボバルに向かって突っ込んでいく。右手を構えて、左手には電磁ナイフを持ち、物凄いスピードで倒れたショマガ・ボバルに向かっていく。
「クッ………」
ショマガ・ボバルは素早く起きあがると頭の角を突っ込んでくるPSK−03に向けた。
「何っ!?」
驚きの声を上げるPSK−03だが、その身体はすでに加速が付きすぎていた。正面からショマガ・ボバルの角に突っ込んでいってしまう。
「ぐわっ!!」
ショマガ・ボバルの角に正面からぶつかり、火花を飛ばしながら吹っ飛ぶPSK−03。
しかし、同時にショマガ・ボバルも吹っ飛んでいた。PSK−03の突進時の勢いそのものは殺しきれなかったのだ。
「グウッ!!」
カウンター気味に吹っ飛ばされたPSK−03とは違い、ショマガ・ボバルはすぐに起きあがった。そしてゆっくりと倒れたPSK−03に向かっていこうとし、急によろけ出す。
「グ……グオッ!?」
ショマガ・ボバルは頭を手で押さえ、そのままよろけながらその場から逃げ出した。
「な、何だ………?」
ようやく身を起こしたPSK−03がよろよろと逃げ出していくショマガ・ボバルを見て、呟いた。
「何で……逃げた?」

<12月23日19:27PM N県内某所>
突如頭に走った激痛によろよろとあの場から逃げ出したショマガ・ボバル。警察の追跡を振り切り、何時しか人気のない場所にやってきていた。
「グウウウ………」
唸り声をあげ、ふらりと電柱にもたれかかる。
と、そこに浴びせかけられるライトの光。その光を眩しそうに見やると、そこには一台のバイクが止まっていた。そのバイクの隣にはボロボロになった一人の男。
「よぉ、随分探したぜ」
その男はそう言うと、一歩前に出た。
ショマガ・ボバルからは逆光になってその男が誰かは確認出来ない。だが、その気配から相手が誰であるかを察知した。
「……カノン」
ショマガ・ボバルの声にその男、祐一はニヤリと笑って一歩前に出た。左足の傷が痛むのか、少し引きずりながら。
「さっきはお前を侮っていたよ。名雪に早く会いたいからって思って一気に倒そうとか思って油断した。だが今度はそうはいかない」
祐一はそう言うと、両手を腰の前で交差させた。そのまますっと上に挙げていき、胸の前辺りで止めると、左手だけを腰に退く。残った右手で宙に十字を描く。
「変身ッ!!」
言うと同時に右手を引き寄せ、一気に振り払った。腰にベルトが浮かび上がり、中央にある霊石が眩い光を放つ。その光の中、祐一は戦士カノンへと変身した。
「カノン……ゴドヌ!!」
ショマガ・ボバルがそう言って走り出した。
「今度はそう簡単にやられねぇっ!!」
カノンがそう言ってショマガ・ボバルに向かっていく。左足が痛むが構っていられない。
例によって角を前に突っ込んでくるショマガ・ボバルをギリギリのところでかわし、その背中に肘を落とす。その一撃で地面に倒れるショマガ・ボバル。その背に足を振り下ろすカノンだが、素早く地面を転がって、ショマガ・ボバルは足をかわすと同時に起きあがった。そして、また角を前にしてカノンに突っ込んでいく。
「馬鹿の一つ覚えがッ!!」
そう言ってまた横にかわそうとするカノンだが、左足に激痛が走り、一瞬反応が遅れた。そんなところにショマガ・ボバルが突っ込んで来、カノンを角で吹っ飛ばす。
「うおっ!?」
吹っ飛ばされ、地面を転がるカノン。すぐに起きあがるが、やはり左足の痛みにその場に屈み込んでしまう。
「くうっ!!」
必死に痛みを堪えるが、身体はそうはいかないらしい。どうやら自分の想像を超えたダメージのようだ、この左足は。
(くそっ、これじゃどうにも出来ねぇじゃねぇか!!)
心の中で毒づくが、まさにどうしようもない。
ショマガ・ボバルはカノンが動けないのを見ると、急に余裕たっぷりの表情を浮かべて見せた。悠々とカノンに向かって歩いていく。
(このままじゃ奴を倒せねぇ……何とか……)
自分に向かって悠然と歩いてくるショマガ・ボバルを視界の中に納めながらカノンは周囲を見やった。と、そこに飛び込んでくるロードツイスターの姿。
(あれだ!!)
ショマガ・ボバルがカノンの目の前まで迫り、その腕を振り上げる。一気に振り下ろされた腕をかいくぐり、カノンは地面を転がりながらロードツイスターの側へと寄っていった。
「頼むぞ、相棒!!」
そう言ってロードツイスターに跨り、一気に発進させる。短い距離で一気にトップスピードまで上げ、前輪を振り上げてショマガ・ボバルを跳ね飛ばす。大きく吹っ飛ばされたショマガ・ボバルを追って再び疾走するロードツイスター。
起きあがったショマガ・ボバルは先程PSK−03に喰らわせたのと同じようにカウンター気味で角を突きだした。だが、その一歩手前でロードツイスターは急停止し、更にその反動を利用して後輪を振り上げ、ショマガ・ボバルを横殴りに吹っ飛ばした。
地面に叩きつけられるショマガ・ボバルを見ながら、カノンはロードツイスターのアクセルをふかせた。クラッチレバーを戻し、また走り出す。前輪を振り上げ、ウィリーしながら突っ込んでいくロードツイスターに起きあがったばかりのショマガ・ボバルは為す術もなかった。前輪での強烈な一撃を受けてまたも吹っ飛ばされる。
「行くぞっ!!」
カノンがそう叫び、ロードツイスターが急スピードで発進する。そこに何処からともなく聖鎧虫が飛来して来、自身の身体を分解してロードツイスターと合体する。
「ウオオオオオッ!!」
雄叫びと共にカノンが聖鎧虫の合体したロードツイスターをショマガ・ボバルに向けて突っ込ませた。先端部分の3本の角がスパークし、そこから溢れ出した光がロードツイスターを包み込んでいく。
それはさながら光の弾丸。
光の弾丸と化したロードツイスターが物凄いスピードでショマガ・ボバルを跳ね飛ばした。
宙を舞い、地面に叩きつけられるショマガ・ボバルを背にロードツイスターを止めるカノン。振り返ると、ショマガ・ボバルがよろよろと立ち上がっていた。その身体に浮かび上がる古代文字。
「ヌ……ヌオオオオッ!!」
突如ショマガ・ボバルが天を仰いで雄叫びをあげた。その途端に身体に浮かび上がっていた古代文字が消滅する。
「チッ、まだか!!」
カノンはそう言うと、聖鎧虫の合体したロードツイスターを反転させ、また走らせ始めた。
(今度こそ決める!!)
心の中でそう決意し、アクセルを更に回しながら、すっとシートの上に立つ。
「頼むぜ、相棒!!」
そう言ってカノンがジャンプした。そのまま突っ込んでいくロードツイスター。物凄い勢いのまま突っ込み、ショマガ・ボバルを吹っ飛ばす。
その間にカノンは空中で身体を丸めて一回転していた。それはいつもの必殺のキックの体勢。助走をつけられないのでロードツイスターの勢いを利用したのだ。
「ウオオリャァァァァァッ!!」
雄叫びと共に右足を突き出すカノン。
ロードツイスターに跳ね飛ばされていたショマガ・ボバルの頭、その角をカノンの光に包まれた右足が蹴り砕く。更にそこで同じく光に包まれた左足を入れ替えるように突き出す!
「もういっちょぉっ!!」
更にもう一度右足を突き出し、ショマガ・ボバルを蹴り上げる!
必殺の三段キック。
それを受け、大きく吹っ飛ばされたショマガ・ボバルが、地面に叩きつけられた。
「グオオオオ………」
苦悶の声を上げながら、それでもまだ立ち上がるショマガ・ボバル。その頭部にはもはや角はない。その代わりに古代文字がくっきりと刻み込まれていた。更に古代文字は最後の一発を食らった顎元にも浮き上がっている。
「オオオオ…………」
よろよろとよろけるショマガ・ボバル。その身体に古代文字から伸びた光のひびが行き渡り、そして、爆発。
その炎が夜の闇を照らし出す。
カノンは変身を解くと、先程自分の蹴りで砕いたショマガ・ボバルの角を拾い上げた。
「何でだ……何で折れた?」
あれほどの強固さを誇っていた第49号の角。そう簡単に折れるはずのないものが、何故キックで折れたのか。その理由は拾い上げた角からすぐにわかった。
角には無数の細かいひびが入っていたのだ。
祐一は知らない事だが、ショマガ・ボバルの角は、アインの踵落としやPSK−03に攻撃などを全て受けきっている。更にはカノンと一度目の対戦時にも緑のカノンのボウガンや青いカノンのロッドを受け止めていたのだ。どうやらそのダメージが少しずつ蓄積していった結果なのだろう。
「……随分と苦しめてくれたよ、お前には」
そう言って祐一はその角を投げ捨てた。
そこにサイレンの音が聞こえてきた。誰かがカノンとショマガ・ボバルの戦いを見て通報したらしい。
「やっと来たのかよ……」
祐一はそう呟くと聖鎧虫が合体したままのロードツイスターに向かって歩き出そうとした。と、いきなり目の前が真っ暗になり、平衡感覚が失われる。
「なっ!?」
自身に対して驚きの声を上げつつ、その場に倒れ、気を失ってしまう祐一。

<12月23日21:19PM N県某市・駅前>
名雪はほうっと白い息を吐き、大時計を見上げた。
時刻は午後9時を過ぎた。そろそろ駅から出てくる人も少なくなってきている。
「………はぁ」
またため息をつく。これで何回目か、もはや数え切れない。
「……やっぱりいたわね」
後ろからそう声をかけられ、名雪が振り返ると、そこには暖かそうなコートを着た秋子が立っていた。手には水筒を持っている。
「お母さん……」
「なかなか帰ってこないからちょっと様子を見に来たんだけど……まだ来てないみたいね、祐一さん」
秋子がそう言って周囲を見回すが、祐一の来るような気配はなかった。
「出てくる前にニュース見たけど、また現れたそうよ」
「うん、知ってる。だから祐一、急用で遅くなるって」
「そうなの?」
「そう言ってたって香里から、栞ちゃん経由で聞いたんだよ」
「それじゃまだ待ってるのね?」
「そのつもりだよ」
「それじゃ、ハイ、これ」
秋子がそう言って手に持っていた水筒を名雪に渡した。
「それとこれも。風邪引かないようにね」
次に秋子が渡したのは自分がつけていたマフラーだった。そっと名雪の首にマフラーをかけてやり、笑みを浮かべる。
「……お母さん?」
水筒を見て、首を傾げる名雪。蓋を取ってみると、中からは暖かそうな湯気が立ち上る。匂いをかいでみると紅茶のいい匂いがした。
「少しは温もると思うけど」
「うん、ありがとう」
「それじゃ気をつけてね」
秋子がそう言って家の方に去っていく。
名雪は黙ってその後ろ姿を見送った。母の入れてくれた温かな紅茶の入った水筒を胸に抱きしめながら。

<12月23日22:48PM N県内某所>
はっと祐一が意識を取り戻した時、彼は車の後部座席にいた。
「……ここは……?」
「ようやく気が付いたな」
運転席に座っていた国崎がそう言って振り返る。
「大変だったんだぞ、お前を他の連中に気が付かれないように車に運び込むの」
「あ、ああ……済まない」
少しぼうっとしながら答える祐一。まだ完全に覚醒しきっていないようだ。
「どうやら49号は倒してくれたようだな。これでようやく帰れる」
「ああ、そうだな……」
国崎の言葉にぼんやりと応える祐一。
「……お前、何か約束あるんじゃなかったのか?」
呆れたように国崎が言う。
その言葉に祐一が「え?」と驚いたような顔をし、そして一気に青くなる。
「い、い、今何時だ!?」
物凄く慌てた様子で国崎に尋ねる祐一。
「ん〜?」
国崎が腕時計を見ると、もうそろそろ11時になろうとしていた。
「そろそろ11時だな」
「なにぃっ!!!」
思わず大きい声で言ってしまう祐一。
その声の大きさは側にいた国崎が思わず耳を閉じてしまう程だ。
「ロ、ロードツイスターは!?」
「そこに停めてあるが?」
「悪い、今日はここまでだ!」
祐一はそう言うと慌てて車から飛び出し、ロードツイスターに跨った。そしてエンジンをかけると、あっと言う間に走り去っていく。
「………まぁ」
自分も車から降り、走り去った祐一の背を見やってニヤリと笑みを浮かべる国崎。
「恋する男は大変だって事か」
そう呟くと、車の中に戻る。
「さて、帰りますか」

<12月23日23:54PM N県某市・駅前>
もう後少しで日が変わってしまう。
流石に名雪の表情も不安で曇っていた。どうしても今日中に会いに来て欲しい。今日でなければダメだ。今日でなければ意味がない。世間的には明日でもいいかも知れないが、どうしても自分は今日でないとダメなのだ。
「……祐一……」
そう呟くと、不意に涙がこみ上げてきた。
「会いたいよぉ……祐一ぃ……」
ボロボロとこぼれていく涙。
と、そこにバイクのエンジンの音が聞こえてきた。
その音が聞こえてきた方を見ると、一台のバイクがこちらに向かって猛スピードで走ってきているのが見えた。そのバイクは市販されているようなものではない。だが、見た事があり、忘れる事の出来ないバイクでもある。
「……ロード……ツイスター………?」
名雪が驚いたように呟く。
ロードツイスターに乗っていた男は、スタンドを建てるのも面倒そうに、名雪の方に駆け寄ってくる。但し、左足を少し引きずりながら。見ると、太股の辺りが何か黒ずんでいる。
「わ、悪い! まだ今日だよな?」
ヘルメットを脱ぎながらそう言ったのは勿論祐一だった。
名雪は涙がこぼれるのも構わずに腕時計を見て、時間を確かめる。まだ針は12時を指してはいない。後少しだったが、それでもまだ12月23日だ。
「………間に合ったよ、祐一」
「随分遅くなったけどな」
そう言って苦笑を浮かべる祐一。
「待たせて済まなかった。これは俺が全体的に悪い。本当にゴメン!」
頭を大きく下げる祐一を見て、名雪は慌てた様子で手を振った。
「祐一は悪くなんか無いよ! だってまた出たんでしょ、あの人達。だったら仕方ないよ」
「いや、それでも、だ。ここまで待たせるつもりはなかった」
「……でも、そんなにボロボロになりながらでも来てくれたんだからもういいよ」
そう言って名雪が微笑んだ。
「……そう言ってくれると助かるよ。そうだ、日が変わる前に渡しておかないと」
祐一が腰につけたウエストポーチから彼女の為に選んだプレゼントを取り出した。喫茶ホワイトを出る時にはきちんと包装されていたのだが、二度に渡る戦闘の所為か、包装紙はボロボロになっており、中身が飛び出している。
「……あちゃ〜」
しまったという顔をする祐一。だが、名雪はそんな祐一の手からそのプレゼントの品物を取り上げた。
「ありがとう、祐一。嬉しいよ」
そう言ってボロボロの包装紙を剥がしていくと、中から出てきたのは真っ白い猫のぬいぐるみと小さな箱。
「わぁ……」
猫のぬいぐるみを見た名雪の表情が一気に明るくなる。更に小さな箱を開けて、中から雪の結晶をかたどったブローチを取り出すと、すっと胸元につけて見せた。
「……似合うかな?」
「あ、ああ! とっても! うん、最高に似合う!」
祐一は思わず名雪の姿に見とれていて、変に声がうわずってしまう。
「そ、そうだ。これ言っておかないと。誕生日、おめでとう、なゆ……」
そこまで言った時、名雪の腕時計が12時を指した。
「あ………」
名雪がそう言って、祐一を見る。
「……間に合わなかったか……ゴメン、名雪!」
祐一が両手を合わせて頭を下げる。
「さっきから謝ってばかりだよ、祐一」
名雪は笑みを浮かべて祐一の手を取った。
その手を自分の胸元に持っていく。
「私は祐一が来てくれただけで充分なんだよ」
「名雪……」
祐一が顔を上げた。名雪の言葉に目頭がジンと熱くなるが、涙を零すわけには行かない。俺は男だし、何よりもそんな情けない姿を見られたくなかった。だから顔を見られないように名雪を抱き寄せる。
「きゃっ!」
突然抱きしめられ、驚きの声を上げ、真っ赤になる名雪だが特に嫌そうな素振りは見せなかった。当然と言えば当然だが。驚いたのも始めだけで、後は祐一の胸に身体を預けるように寄り添っていく。
と、そこに白いものが空から舞い降りてきた。
抱きしめていた手を離し、その白いものを手の平で受け止める祐一。
「……雪?」
祐一の言葉に名雪も顔を上げる。その鼻先にふわっと舞い降りる雪。それは名雪の体温ですぐに解けてしまう。
「……雪だね」
「ちょっと早いけど、ホワイトクリスマスってとこか」
「そうだね。何時も雪ばっかりで余り実感無いけど」
名雪のその言葉に祐一が吹き出した。つられたように名雪も笑い出す。ひとしきり笑った後、二人は互いに見つめ合った。
「名雪……」
「………好きだよ、祐一」
「俺もだ」
そう言って互いの唇を重ね合わせる。
そんな二人を祝福するように白い雪は降り続けていた。

Episode.EX「聖夜-2002-」Closed.
To be continued original Episode. by MaskedRiderKanon


後書き
すいません、とりあえず首吊って死にますのでどうかお許し下さい。
かおりん「首つりは汚いからやめて頂戴」
では腹かっさばいて……。
かおりん「誰が後を掃除するのよ」
とりあえず謝ります。
12月23日に間に合わなかった事を深くお詫び致します。
許してくれ〜〜〜〜!!!!なゆなゆ〜〜〜〜〜!!!!!
かおりん「激しく馬鹿」
と言うことで2002年最後の作品がようやく完成致しました。
かおりん「いきなり復活したわね」
何時までも落ち込んでいられません。ポジティブシンキングです。
かおりん「まぁ、あえて何も言わないわ」
一応必死に頑張ったのですが、何か久し振りにライダーカノンを書いた事もあり、序盤から苦戦の連続。更に体調の不良やら仕事やらがかさなりこの体たらく。
かおりん「言い訳はそれだけ?」
とりあえず頑張ったと言うことだけ認めてくれ。気が付いたら「一太郎」で50ページ行ってたんだから。
かおりん「だから前半分と後ろ半分に別れているのね」
特別編だから一時間構成(笑)
かおりん「単純におさまりきらなかっただけでしょ」
そうとも言う。
しかしまぁ、久し振りに書いたライダーカノン、色々と楽しゅうございました。
これで来年、もっとがんばれるでしょう。
かおりん「今年は予定の所まで行かなかったものね」
う〜む、何でだろう?
かおりん「きっとネットゲームとかやってた所為よ」
あっさりと断言されてしまいました。
申し訳がないのでこれからの展開を少し。

終了。
かおりん「どうやって見ろと言うのよ?」
簡単に見れたらおもしろみがないので少し考えてください。
このページのURLの後ろの部分を書き換えれば見れるはず。そうですね、一番最後の「mreider_ex2002_2.html」の部分を来年にすれば。少し消して貰わないといけませんが。
かおりん「ヒントなの、それ?」
わからなくても私、年明けるまで答えは出しませんよ。
かおりん「と言うかいないものね」
はい。
では、ここまで読んでくれた人達に感謝しつつ。
かおりん「また来年もよろしくお願いします」
良いお年を〜。


EXIT

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