<倉田重工第7研究所内食堂 19:12PM>
「あ〜、寒い寒い・・・」
そう言って食堂の中に入ってきたのはPSKチームの一人、斉藤であった。
つい先程まで彼はPSKチームのリーダーである七瀬留美にPSK−03の掃除を命じられていたのだ。
Kトレーラーのおいてある駐車場の中で彼は一人、PSK−03の各パーツを運び出し、洗剤とスポンジ、そしてワックスまでかけていたのだ。勿論駐車場だから冷暖房など一切入っていない。だから物凄く寒いのである、この12月31日という時点では。
とりあえずそれが終わったら食堂まで来いと言われていたのでこうしてやって来たのだが。
ガタガタ震えながら食堂までやって来た彼が見たものはいかにも温かそうな鍋を囲んでいる七瀬留美、北川潤、深山雪見、川名みさきの4人の姿であった。
「あ〜〜〜〜!!人にばっかり掃除とか押しつけて何やってんですか!!」
思わず大きい声を上げる斉藤。
「年越し忘年会よ。今年は帰れそうにもないからね」
そう言ったのは雪見だった。
その横ではみさきが黙々と鍋の中の具をお椀に移しては食べている。そのペースは驚く程早い。
「食堂のおばちゃんの許可は貰ってあるし、具もたくさんあるからどんどん食べないとね〜」
みさきが嬉しそうに言う。
「斉藤、早く来ないとみさきさんに全部食べられるぞ」
潤がそう言って斉藤を手招きする。
「北川君、斉藤君なんかいいから君も食べなさい」
留美がそう言って潤のお椀に白菜やら大根やらにんじんやらを無造作に投げ入れてくる。でもってお肉やら魚は自分の所に、だ。
「七瀬さん・・・偏りが激しいですよ・・・」
自分のお椀を見て呟く潤。
斉藤は何か釈然としないものを感じながらもその鍋を囲む輪に入っていった。
 
<城西大学考古学研究室 19:28PM>
机の上に本を置き、美坂香里は時計を見上げた。
午後7時を過ぎたぐらいである。
「エディ、そっちは終わった?」
そう言って振り返ると、同じ研究室の仲間であるエドワード=ビンセント=バリモア、通称エディは悲しげに首を左右に振って見せた。
「もう、仕方ないわね〜」
そう言って香里がエディの机の側まで行き、つけっぱなしになっているパソコンを覗き込んだ。
「まだまだ時間、かかりそうね」
香里がそう言うとエディも困ったような顔をした。
「今日中には無理じゃない?」
「出来れば年内に仕上げておきたかったんだけどね。仕方ないか」
エディはそう言うと、今開いているファイルを保存し、それからパソコンの電源を切った。
椅子の背に掛けてある上着を手にすると同じように自分の椅子の背に掛けてあった上着に袖を通している香里を見る。
「何時からだっけ?」
「確か8時じゃなかったかしら?それにそろそろあの子が来ると思うし・・・」
香里が時計をちらりと見てそう言うと、研究室のドアが開き、ショートカットの女性が姿を見せた。
「お姉ちゃん、そろそろ行かないと遅れるよ!」
その女性を見て、香里は笑みを漏らしてエディに言う。
「ほら」
それを聞いて吹き出すエディ。
入ってきた女性、香里の妹の栞だけが何がなんだかわからず、きょとんとしたままだった。
 
<都内某所・神尾家 19:46PM>
警視庁未確認生命体対策本部に所属する神尾晴子警部、だが家では関西弁のそれなりにずぼらな母親である。
「観鈴〜、出来たか〜?」
一人居間のこたつに入って日本酒を飲みながら台所にいる娘の観鈴に声をかける。もうかなり出来上がっている様子である。ちなみに彼女の側には既に空になった日本酒の瓶が何本か転がっている。
「ん〜、もうちょっと〜」
台所から聞こえてくる娘の声に少々むっとした顔を浮かべる晴子。
「何やっとんねん!!お母ちゃんは観鈴をそんな手際の悪い子に育てた覚えはないで!!」
「だったら手伝ってよ〜」
すっかり酔っぱらっている晴子の言う事などあっさりと受け流して観鈴が言い返す。
親子と言うよりも友達みたいな感じである。
「できた〜」
そう言って観鈴が台所から煮物の入った器を持って居間にやってきた。
「おお、うまそうやないか」
晴子がそう言って器の中を覗き込み、手を伸ばそうとするが、それを観鈴がぱしっとはたいた。
「お母さん、お行儀悪い」
顔をしかめてそう言う観鈴。
手をはたかれた方の晴子は憮然とした表情のまま、空になったグラスにまた日本酒をついている。
「それにお母さん、飲み過ぎ。それじゃ体壊すよ?」
「かまへんかまへん。これくらいで壊れるような柔な身体しとらんて」
そう言ってグラスを煽る晴子。
観鈴がはぁぁとため息をついた時、ピンポーンと玄関のベルが鳴った。
「は〜いっ!!」
観鈴が立ち上がって玄関に向かうとそこには寒そうに肩を震わせている住井護と相変わらず黒ずくめの国崎往人の姿があった。この二人も晴子と同じ未確認生命体対策本部の刑事である。
「こ、こんばんわ、今日はお招きに預かりまして」
何故か緊張気味の住井を押しのけ、国崎は無言で中に入っていく。
「よ、久し振りだな、観鈴」
「にはは、往人さん、お久し振り」
観鈴がそう言ってブイサインを出すので国崎は苦笑して同じようにブイサインを返してやる。
それからまだ玄関先で固まっている住井を振り返ると、
「いつまでそこで固まっているつもりだ?寒いから早く中に入れ」
「は、はいっ」
慌てて中に入ってくる住井。
二人が居間に入ってくると、晴子が空になったグラスをあげた。
「よぉ、随分と遅かったやないか!」
「あんたが出来上がるのが早すぎるんだよ」
国崎が冷たく言い放ち、そしてこたつの空いているところに座る。
「か、神尾さん、今日はお招き・・」
「そんな事ええから、住井も来ぃ!さぁ、まだまだ飲むでぇ〜〜!!」
住井が何か言うのを阻止して、晴子は上機嫌でそう言ってまた日本酒の瓶を手に取った。
そこに観鈴が料理の乗ったお盆を持ってくる。
神尾家の長い夜は始まったばかりだ。
 
<都内某所・教団支部 19:53PM>
天沢郁未は自分に与えられた個室の中でぼうっとベッドに寝転がり、天井を見上げていた。
結局何もまだ出来ていない。
この教団に入った真の理由、目的も果たせず、無為に時間だけが過ぎていく。
多少の慰めと言えば・・・仲間と呼べる人物が出来たという事だろうか?どっちかというと自分の足を引っ張っているような気もしないでもないが。それでも一人でやるにしては彼女の目的は大きすぎた。
コンコン。
ドアがノックされた。
「開いているわよ」
素っ気なく、ドアの方を見ずに言う。
ドアが開くと、いきなりクラッカーの鳴る音が聞こえ、郁未はびくっととして跳ね起きた。
「やった〜、驚いた驚いた」
無邪気な声。
思わず郁未は頭を抱えていた。
「もう、何なの、由依!?」
クラッカーを鳴らした張本人、名倉由依に向かってやや厳しい目の口調で言う。
「郁未さん、今日は大晦日ですよ!お・お・み・そ・か」
「わかってるわよ、そんな事」
由依は郁未のきつ目の口調など気にせずに明るくそう言って郁未の部屋の中に入ってきた。後ろからは何やらカートを引っ張ってきているようだ。
「・・・何?」
「クリスマスとかなかったじゃないですか、私達」
カートを引っ張りながら由依が言う。どうやらかなり重たいようだ。
「まぁ、忙しかったからね」
「だからせめて年越しイベントなどしようかと思って・・・」
「何もここでやらなくてもいいじゃない!!」
「食堂じゃばれるじゃないですか!!」
その一言で郁未は由依が勝手に食堂から食材やらを持ってきた事を悟ってしまった。
「ちょっとちょっと、本気なわけ?」
「この子の事だからね、本気の本気、大本気」
別の声が聞こえた。
そっちを見ると巳間晴香が立っている。どことなく諦めたような表情を浮かべて。
「晴香・・・あんたも共犯!?」
郁未がそう言うと晴香はため息をついた。
「そんなわけないでしょう・・・全部この子の発案、私も巻き込まれたのよ」
何か凄く疲れたように言う晴香。
それを聞いた郁未は晴香を一緒にため息をついた。
「ちょっと、二人とも、そこで切なそうなため息ついてないで手伝ってくださいよ!」
由依が郁未の部屋の中からそう言ってきた。
二人は互いに肩をすくめると、部屋の中に入っていき、由依が持ってきたカートの中の食材をベッドの上に広げ始めた。
「テーブルとかあると便利なんですけどね」
「今度探しておくわ」
「ちょっと由依、お箸とかフォークとかスプーンとかないの?」
「・・・忘れてました」
「あんたねぇっ!!」
いつの間にか郁未も晴香も由依のペースに引き込まれているようだった。
やはり皆寂しかったのか。
3人のわいわい騒ぐ声はまだやむ事はなかった。
 
<都内某所 20:19PM>
「わ〜〜〜、正輝、見て見て、あれ物凄く綺麗〜!!」
そう言って皆瀬真奈美が駆け出す。
その後ろを歩いていた山田正輝は苦笑を浮かべて彼女を追った。
二人は夜の街中を歩いている。ショーウインドウに飾られた宝石やらを見て目を輝かせている真奈美を見ながら正輝は何故か自分も嬉しそうに微笑んでいる。
「何時か私もこんなの欲しいなぁ〜」
そう言って真奈美が正輝を振り返ると、正輝は素早く視線をそらせた。
「欲しいなぁ〜」
真奈美は正輝の方をじっと見て、また言う。
正輝は視線をそらせたままだ。
「ほ・し・い・な〜」
今度は身体を寄せていく真奈美。
「わかった、わかったから少し離れろよっ!!」
顔を真っ赤にして言う正輝。意外と純情なようだ。もっとも二人の周りには通行人が沢山にて、中には興味ありげに二人を見ていたものもいる。
「とりあえず、今の事が終わったから考えるよ、マジで」
「ホントに?」
「男に二言はないっ!!」
そう言って自分の胸を叩く正輝。
「きゃ〜〜〜、さっすが私の正輝っ!!もう、大好きっ!!!」
真奈美が感激のあまり正輝に飛びついてキスをする。
周囲の通行人から「おお〜」という声が挙がるが二人は全く気付いていなかったようだ。
 
<都内某所・とある廃工場の中 20:34PM>
暗がりの中、一台の大型トレーラーがあった。
そのすぐ横にはたき火の跡と一台のアメリカンバイク。
「全く大晦日って言うのに寂しい限りね」
そう言って暗がりから一人の女性が姿を現した。
髪を無造作なショートカットにした女性、皆瀬葵である。
「キリト君、いないの?」
トレーラーに向かって呼びかけるとトレーラーの側面にあるドアに開いた。
「誰かと思えば葵さんですか。一体何の用です?」
やけに丁寧な口調で話す青年が姿を見せた。この暗がりの中でもサングラスを外す事はない。
「お正月の三が日くらいはゆっくりとさせていただきたいものですが?」
「仕事じゃないわ。今日は個人的な事」
葵はそう言ってウインクするとトレーラーのドアの側まで歩いていった。
キリトは葵を中に招き入れるようにドアの奧へと引っ込んでいった。
トレーラーの中はまるで作業所のようになっていた。工具やコードなどが無造作に転がっており、更にはノートパソコンも床に投げ出されている。
「忙しかった?」
「いえ、暇でしたからね。こいつの調整を」
葵の質問にキリトはトレーラーの一番奥におかれているPSK−02を示して答えた。
「ふうん・・・」
あまり葵は興味がないようだった。
キリトは苦笑すると、まだ比較的綺麗な部類に入る椅子を彼女に勧める。
「で、個人的な用とは?」
「きっと一人で寂しい思いをしているだろうなぁっと思った葵ねーさんがわざわざ君の為に年越しそばを持ってきてあげたのだ!」
そう言って葵は手に持っていた袋を前に突き出した。
「・・・年越しそばですか?」
「年越しそばよ?何?何か不満でも?」
葵の表情が険しくなる。
慌ててキリトは手を振って、
「イヤ、そう言う訳じゃないんですが・・・ここじゃ作れませんよ?」
「え?」
今度は固まる葵の表情。
「お湯とかそう言うものは一切ありませんから」
平然と言うキリト。
「・・・ど、ど、どうしろって言うのよ、この私にっ!!」
「そ、そんな!いきなりキレられても!!」
「ムキー!!!折角持ってきてあげたのにっ!!!」
「あ、葵さん、暴れないで!!!」
 
<都内某所・とある建物の中 20:42PM>
老婆はため息をついた。
「やれやれ、一年が終わろうというのに、のんきなものじゃ」
そう言って窓の外、寒風吹きすさぶ街を見下ろす。
「残された時間はそう長くはない・・・奴らの動向も気になる・・・やれやれ、次の一年、それも始めの1,2ヶ月が勝負かの?」
呟きながら老婆は振り返った。
そこには大きな椅子があり、そこに身体を預けるようにして一人の女性が眠っている。
何もない時は何時もこの調子だ。
持っている力が強大な所為か、その反動のようなものらしい。起きている時間より寝ている時間の方が長い時すらある。
老婆はまたため息をつく。
「本当に・・・これで良いのかの?」
眠っている女性・水瀬名雪は何とも幸せそうな顔をしていた。
 
<関東医大病院 20:53PM>
霧島聖は近くのコンビニで買ったインスタントの蕎麦を片手に給湯室にまで歩いていた。
本当なら妹である佳乃と一緒に過ごす予定だったのだが、運悪く夜勤になってしまったのである。もっとも佳乃は佳乃でアルバイトをしている先での年越し会の参加すると言っていたから特に一人で寂しい思いをしていると言う事はないだろうが。
「しかし・・・年越し蕎麦がこれとは・・・随分惨めだな」
そう呟いて苦笑する。
自分に与えられている診察室にも一応ポットぐらいあるのだが、この日に限って中は空になっていた。
給湯室につき、手に持っていたインスタント蕎麦のカップにお湯を注ぎ込み、待つ事3分。簡単なものである。
「さて・・・」
ふたを開け、いざ食べようかと思った時、聖は箸がない事に気付いた。
「ク・・・・私とした事が・・・」
やや表情を引きつらせ、今度は食堂へと歩いていく。あまり時間をかけるわけには行かない。伸びてしまったらおいしくない。やはり蕎麦は熱いうちに食べなければ。そう思うとついつい足が速くなってしまう。
食堂に着くと、何故か明かりがついており、中からわいわい騒ぐ声が聞こえてきた。
「ん?」
聖が中を覗き込むと、入院患者達が集まっており、皆手には蕎麦の入ったどんぶりを持っている。
「・・・??」
訳がわからないと言った感じで聖が中に入っていくと、皆が彼女に会釈して、それに適当に相づちを返しながら彼女は厨房に良く知る顔がある事に気がついた。
「な、何をしているんだ、秋子さん?」
「あ、聖先生、これから呼びに行こうかと思っていた所なんですよ」
水瀬秋子はそう言うと外し掛けていたエプロンを再び付け直した。
「イヤ、だから何を・・・」
「皆さんに年越し蕎麦を振る舞っていただけです。勿論許可はいただいておりますから」
笑顔でそう言いながら秋子は手際よく蕎麦をゆであげていく。
あっと言う間に蕎麦が出来上がり、どんぶりに移し替えると聖の前に置いた。
「いや、・・・あの・・わたしは・・・」
戸惑う聖。
手に持っているインスタントの蕎麦を思わず背中に隠してしまう。
「先生、ご遠慮なさらずに」
にっこり微笑む秋子。
この状況で箸をもらいに来ただけとは彼女は言えなかった。しかし、思わず隠してしまったインスタントの蕎麦はどうなる。
「さぁ、先生」
秋子は期待した目で彼女をじっと見ている。
「・・・はい」
聖は遂におれた。おれるしかなかった。
片手にどんぶり、口に箸をくわえ、空いている椅子に座るとインスタントの蕎麦もどんぶりの横に置く。そして何かに取り憑かれたかのように一気にその両方をすすりだした。
「あらあら」
そう言って嬉しそうに目を細める秋子。
 
<都内某所・教団支部研究室 21:32PM>
薄暗い研究室の中、一人の男が培養液に満たされたカプセルを見上げてニヤニヤと笑っている。
「もうすぐだ・・もうすぐ・・・俺は神に並ぶ・・・イヤ、神そのものになる・・・・」
そう言って低い声で男が笑い出す。
だが、その笑い声は徐々に高鳴っていく。
「はーはっはっは!世界はこの私にひれ伏すのだ!!」
男は狂ったかのように笑い続ける。
その男を培養液に満たされたカプセルの中で”それ”は静かに見下ろしていた。
 
<都内某所 22:11PM>
一台の黒いオンロードマシンが疾走している。
乗っているのは黒いライダースーツに身を固めた青年、折原浩平。
特に目的地があるというわけでもなく、彼はただ愛車・ブラックファントムを走らせていた。
何気なく港の方までやって来て、ふと浩平はブラックファントムを止めた。
ヘルメットを脱ぎ、はぁと白い息を吐く。
ブラックファントムから降りると浩平は海の側まで歩いていった。
聞こえてくるのは波の音だけの静かな海。
「ウオオオオオオオオオッ!!」
突如吠える浩平。
彼の雄叫びが海に吸い込まれていく。
まだだ、まだ戦いは終わらない。彼にとっての戦いはまだ始まったばかりだ。それは決して楽ではなく、つらく苦しい戦いになるだろう。それでも立ち止まる事はない。
浩平はいつの間にか目からこぼれていた涙を手の甲で拭うとブラックファントムに向かって歩き出した。
ミラーにかけていたヘルメットに手を伸ばした時、彼の目の前に白いものが舞い降りてきた。
思わず空を見上げる浩平。
一つ、また一つと白いものが暗い空から舞い降りてくる。
「雪、か・・・」
ふと口元がゆるんだ。
「一晩中走っていようかと思ったけど・・・早く帰るとするか・・・」
そう呟いて浩平はヘルメットをかぶった。
 
<N県内倉田重工支社ビル 22:34PM>
倉田佐祐理は窓の外、降りしきる雪を見ながら親友の事を思い出していた。
無口で無愛想だが、本当は心優しい彼女は今どこにいるのだろうか?
「佐祐理君、あまり楽しそうでは無さそうだね?」
そう言って声をかけてきたのは彼女の叔父でもある倉田重工の社長だった。
「東京の方が気になるのかな?」
「はい、まぁ・・・」
曖昧な笑みを浮かべる佐祐理。
彼の言う通り、東京の方が気にならないわけではない。しかし、何時未確認生命体が出ようともPSKチームはすぐに出動出来るよう待機状態のはずだ。
「来年は君の提出していた新たな計画の事も検討しよう。その為にはもっと頑張って貰わないといけないがな」
「わかっておりますわ、叔父様」
社長の言う事に頷く佐祐理。
「まぁ、君の事だから心配はしておらんがな」
そう言って社長は佐祐理の肩を叩いていった。
佐祐理は少しの間社長の背を見送っていたが、やがてまた窓の外に目をやった。
雪はより激しさを増してきているようだ。
 
<N県内某所 22:38PM>
ハァァッと白い息を吐きながら川澄舞は手に持った熱々の缶コーヒーを待っていた遠野美凪に手渡した。
「ありがとうございます」
美凪がそう言うと舞は小さく頷いた。
プルタブを開け、空を見上げる。
「・・・このままだと凍死?」
コーヒーに口を付けながら美凪が言う。
先程から降り続けている雪は容赦なく積もり始めていた。
舞は自分の財布の中を見ながらどうするかを考えていた。
二人分くらいの宿泊費ぐらいはある。しかし、そうなるとまたしばらくバイトの日々が続くだろう。
「・・・仕方ない・・・」
ここで凍死しては意味がない。
舞は一つ頷くと、美凪を見た。
「行こう」
「・・・何処へ?」
「宿を探しに」
「はい」
雪の降りしきる中、二人が歩き出す。
 
<都内某所 22:45PM>
沢渡真琴は目の前にいる天野美汐をじっと睨み付けていた。
「・・・いくら睨んでもダメですよ、真琴」
湯飲みでお茶を飲みながら美汐が冷たく言い放つ。
「自分の事は自分でする、それが最低限の約束だったはずです」
「あう〜〜〜、美汐、冷たいっ!!」
真琴が恨めしげにそう言うが美汐は取り合わない。
「冷たくても結構。そうでなければ交通課などつとまりません」
「あう〜〜〜」
やはり容赦のない美汐に真琴は仕方なく、立ち上がった。そして隣の台所へと向かっていく。
「何処においてあるの?」
「流しの横にあるでしょう?」
「あう〜〜〜・・・あ、あった」
台所の方からそんな声が聞こえてき、真琴が手にミカンを数個持って戻ってきた。
コタツのテーブルの上にミカンを置き、一個手にとってむきはじめると別の一個に美汐が手を伸ばしてきた。
「あ〜〜、何するのよ!それは真琴が取ってきたんだからねっ!!」
真琴は美汐がミカンを取ろうとするのを見つけるとその手を自分の手ではたいた。しかし、美汐はそれにも構わずミカンを手に取り、さっさとむきはじめる。
「あう〜〜〜」
「次は私が取りに行きますからそんなに恨みがましい目で見ないでください」
流石に悪いと思ったのか美汐がそう言うと、真琴はようやく納得したらしく自分のミカンを改めてむき出した。
 
<喫茶ホワイト 23:12PM>
「それでは次は紅組、美坂シスターズ!!」
マスターがそう言って香里と栞を見た。
「おお〜〜〜〜っ!!」
歓声がわき上がる店内。
拍手と歓声の中、香里と栞がマイクを片手に急ごしらえの舞台に上がってくる。
「お、お姉ちゃん、本当にやるの?」
「諦めなさい、栞・・・こうなったらもう誰にも止められないから・・・」
小声で話し合う香里と栞。
戸惑っている栞と諦めきった香里。
そんな二人をよそに音楽がなり始める。ちょっと古い女性デュオの有名な曲だ。香里も栞もこの曲は良く知っていた。
曲にあわせて歌い出す美坂姉妹。
それを見ながら手を叩いているのは霧島佳乃。
喫茶ホワイトのアルバイトのウエイトレス。明るく誰とでもすぐのうち解ける事の出来る彼女だが、唯一料理の腕だけが壮絶である。
ぐびぐびと酒を飲んでいるのは近所にあるバイク屋・モーターショップMOTOSAKAの店主である元坂である。
あまり愛想の良くない男だが、その腕は物凄く、自分でバイクを作ったりもする。浩平の乗るブラックファントム、そしてロードツイスターも彼の手によるものだ。
他には香里と同じ研究室生であるエディ、数少ないホワイトの常連客が喫茶ホワイト大忘年会に参加している。
皆がわいわい騒いでいる中、料理やらお酒やらを運んでいるのは佳乃と同じくこのホワイトのウエイトレスである長森瑞佳。彼女はほぼ何でも出来る万能選手である。ちょっと世話好き過ぎる面もあるが、佳乃と並んでこの店のアイドル的存在である。
「お疲れさま〜」
歌い終わって席に戻ってきた香里と栞に水の入ったコップを差し出す瑞佳。
「ありがとうございます」
コップを受け取る栞。
「まさか本当に歌わされるとは思わなかったわ」
げんなりとした顔で言う香里。
「でも上手だったよ。プロ顔負け」
「瑞佳さん、それ言い過ぎ」
香里は瑞佳にそう言って苦笑する。
瑞佳も香里に笑顔を見せている。
「よーしっ!!次っ!!瑞佳、お前だ!!」
マスターがそう言って瑞佳を指さした。
「え〜、ダメだよ、私なんか〜」
驚きの声を上げる瑞佳だが、マスターは首を縦には振らなかった。
「んなこと言ってもダメだ!さぁ、出てこい、瑞佳!!」
すっかり酔っぱらっているマスターがそう言うと、周りの常連客からも瑞佳を呼ぶ声が挙がる。その中にはエディや本坂もいた。
「もう・・・」
仕方なさそうに舞台に上がる瑞佳。
曲がかかり、静かに歌い出す瑞佳。それは切なげなバラード。
今まで騒いでいた皆が黙って聞き入る程、彼女の歌は切なかった。
彼女が歌い終わると物凄い拍手が巻き起こった。
瑞佳は照れたような笑みを浮かべながら舞台からおり、香里達の側に戻ってくる。
「物凄く上手でした。感動しちゃいました、私」
そう言って栞が瑞佳を見る。
「ははっ、たいしたことないよ」
苦笑して栞を見返す瑞佳。
「でもホント、私も感動したわ。瑞佳さんにこんな特技があったなんて」
香里がそう言って瑞佳に先程自分がして貰ったように水の入ったコップを手渡した。
「人は見かけによらない?」
「見かけ通りかしら?」
瑞佳にそう言い返し、香里は笑った。
「・・・あ、そう言えば・・・相沢君の姿をさっきから見ないけど?」
不意に思い出したかのように香里がそう言うと、瑞佳は困ったような笑みを浮かべた。
「ちょっと前まで居たんだけどね、何か急に出て行っちゃったんだよ」
「出ていった?」
「うん。でもあれじゃなかったみたい」
「あれじゃない・・・良かった。折角何もなく今年が終わりそうなのに、こんな時に未確認が出たら・・・」
香里は呟くようにそう言ってから、瑞佳を見た。
「じゃ、一体何処に?」
「・・・あまり話してくれなかったけど・・・何か思い詰めたような顔をしてた・・・やっぱり名雪さんの事・・・」
瑞佳の表情も曇る。
「そう簡単にはいかないわよ。私だって・・・」
そう言った香里の顔も陰りがちな表情だ。
そんなところにエディがやってきた。
「どうしたんですか、二人とも。暗い顔して」
「ちょっとね」
「そうじゃないんだけど・・・」
香里と瑞佳が口々に答える。
「暗い顔してないでさぁ、飲みましょう!!」
そう言ってエディは手に持っていたビールの瓶を二人の前に差し出した。
それを見て苦笑する二人。
 
<都内某所 23:54PM>
降りしきる雪の中、相沢祐一はロードツイスターを走らせていた。
雪の為に視界は物凄く悪い上、バイクを走らせているので物凄く寒い。それでも彼は何かに取り憑かれたかのようにロードツイスターを走らせている。
何故にホワイトを飛び出してきたのか、祐一自身もよく解っていなかった。誰かに呼ばれたような、そんな気がしたと言えばそうなのかも知れない。いつもの未確認生命体が出現した時に起こる感覚によく似ている。だが、決してそうでない事も自分ではよく解っている。
暗い道を唯一照らしているのはロードツイスターのライトのみ。
そのライトにいきなり浮かび上がるシルエット。
祐一は慌ててロードツイスターのブレーキをかけ、急停車させるとヘルメットを脱いで、シルエットをじっと睨み付けた。
「・・・お前が俺を呼んだんだな?」
そう言いながら祐一はロードツイスターから降りる。
シルエットは何も答えない。
ただ、そのシルエットから放たれている気配は物凄く邪悪なものを祐一に感じさせていた。
「お前は・・・」
そこまで言いかけて祐一は口を閉じた。
このシルエットが放つ邪悪な気配。それに祐一は確かに覚えがあった。忘れろと言われても決して忘れる事の出来ない、それほど鮮烈に彼の脳裏に記憶されている気配。
だが、その気配の持ち主はあのシルエットの姿とは違っていた。今、祐一の目の前にいるシルエットは彼の知っている気配の持ち主とは違い、小柄なものである。
「お前は・・・一体・・・」
祐一がそう言うとシルエットはすっと手を前に伸ばした。
一瞬の間をおいて物凄い衝撃波が祐一を襲う。何とか踏みとどまり、祐一は相手を睨み付けた。
「・・・どうやら・・・やるしかないようだな!!」
そう言って祐一は両手を腰の前で交差させた。そのまま両腕を胸の前まで持ち上げ、左手だけを腰まで引く。残った右手で空に十字を描き、短く、それでいてしっかりと力強く言う。
「変身っ!!」
言うと同時に右手を顔の側まで引き、一気に振り払う。
腰の辺りに浮かび上がったベルトの中央部が光を放ち、祐一は戦士・カノンへと変身する。
「行くぞ!」
そう言って走り出すカノン。
その右足の裏から光の粒子がこぼれていく。シルエットとの間合いを計った上でジャンプ、空中で一回転する。
「ウオオリャァァァッ!!」
雄叫びをあげながら右足を突き出すカノン。その足が光に包まれ・・・。
シルエットは手を前に突き出し、カノンのキックを受け止めようとする。その手が光に包まれ、カノンの右足をぶつかり合う!!
物凄い光が辺りを包み込み、そして・・・。
 
<喫茶ホワイト 07:56AM>
「祐さん、祐さん、起きて!起きてってば〜!!」
瑞佳がそう言って祐一の身体を揺さぶる。
「ん・・・ふわああ・・・」
祐一はカウンターから身を起こすと大きく欠伸をし、背を伸ばした。
「あれ、お早う瑞佳さん・・・」
まだ半分寝ぼけたような目で瑞佳を見て、そう言う祐一。
「お早うじゃないよ〜。もしかしてずっとここで寝ていたの?」
あきれ顔で言う瑞佳。
祐一は左右を見回してから、頼りなげに頷いた。
「あ〜・・・そうみたい」
店の中は物凄い事になっている。
紙吹雪が床に散らばり、空になったビール瓶やら日本酒の瓶やらが転がっており、テーブルの上には食べ残しの料理が未だに残っていたり。
「祐さん、こんなところで寝ていたら風邪引くよ」
「・・・大丈夫。こう見えても結構頑丈だから」
祐一は椅子から降りるとカウンターの中に入り、流しの水で顔を洗うと瑞佳を見た。このときまで気がつかなかったが瑞佳は晴れ着を着ている。
「あれ?瑞佳さん、どうしたの、そんな格好して?」
「どうしたのって・・・祐さん、今日何日?」
今度はため息までつく瑞佳。
祐一はカレンダーを見て、ぽんと手を叩いた。
「ああ、1月1日か。そうか、あれは夢だったんだ・・・」
そう呟き、祐一はカウンターから出ていく。
首を左右に振りながら彼はドアを開けた。
空は明るく晴れ渡っている。初日の出は見逃したが、それでも全く気にならない程いい天気だった。
「いい天気だね」
そう言って瑞佳が祐一の側にやってくる。
頷く祐一。
「・・・瑞佳さん」
「・・・何?」
「明けましておめでとう。今年もよろしく」
祐一はそう言ってニッと笑って瑞佳を見た。
「こちらこそ、よろしくだよ、祐さん」
瑞佳も笑みを返す。
 
二人を見下ろしている空は何処までも青く、雲一つない。
だが、相沢祐一を待ち受けている運命は更に過酷なものになる。
この1年、果たして彼の運命は。
 
Episode.EX「賀正」Closed.
To be continued original Episode. by MaskedRiderKanon

珍しく後書き
作者D「イヤ、ライダーカノンで後書きなど凄く久々というか始めてのような気もしますが」
かおりん「前書きは1話であったんだけどね」
作者D「TALでは長々と後書き書いておりますが」
かおりん「あれはまた別物でしょうに」
作者D「確かに。でもってこれが2002年のお正月記念な訳ですが」
かおりん「レギュラーキャラ総登場の大晦日のお話ね。でもタイトルは『賀正』(笑)」
作者D「一応一番最後はお正月だからね。それと実はあちこちに何やらちらばめていたりして(笑)」
かおりん「良くやるわね、そう言う自分の首を絞めるような事を」
作者D「まぁ、多分大丈夫でしょう。それほど本編に深く絡むようなものはないですから」
かおりん「そもそも時間軸自体が違うものね。本編中はまだ5月末か6月頭でしょ?」
作者D「第2部が始まった時点で2月半ばとしていたのでまだ3ヶ月くらいしか本編の中では時間が過ぎてないという」
かおりん「現実には1年近く過ぎているのにね」
作者D「・・・1年?まじ?」
かおりん「そうじゃないの?」
作者D「・・・もうじきここ、1周年じゃないか」
かおりん「あら?そうだったの?」
作者D「いけないなぁ、これはまた忙しくなりそうだ」
かおりん「でもまぁ、どうせ何時もと変わらないんでしょうけど」
作者D「まぁ、とりあえず今年もこのHPをよろしくお願いします、と言う事で」
かおりん「どうか遅筆の作者を見捨てないであげてね」
作者D「新年早々ひどいなぁ、かおりん様・・・(涙)」

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