夜になり、また降り出した雪の中、祐一は香里の家の前にいた。
両手には物言わぬ香里を抱き上げ、自身は俯いたまま玄関の前に立ち、雪の積もるままにしている。
「・・・俺に・・・資格はない・・・許してくれよな、香里・・・」
祐一はそう言うと、香里の身体を雪の上におろし、門柱についているインターホンのボタンを押してから逃げるようにその場から去っていった。
商店街での死闘から数時間・・・祐一は助けることの出来なかった香里を前にしばらく泣き続けていた。だが、やがて彼女を抱き上げるとこうして家にまでやって来たのである。あの場に彼女をそのまま残しておくことは出来なかった。だからこそこうして香里の今まで住んでいた家にまで連れて帰ってきてやりたかった。だが、このような状態の彼女を彼女の両親や妹に見せたくはなかった。それ以上に自分がそれを見たくなかったのだ。だから祐一は逃げるようにして香里の家の前から去ったのだ。
(俺は・・・俺は・・・)
走りながら祐一は自分がどうなってしまったのか、そしてこれからどうなるのか、それを不安に思った。
 
降りしきる雪を、名雪は自分の部屋の窓から見ていた。
一日中泣いていたのか目は真っ赤になっている。今の自分は可愛くないな、と思いながら彼女は窓の外、降りしきる雪を見ている。
「祐一・・・」
本当なら隣の部屋にいるはずの従兄弟は、彼女にとって決して忘れられない少年は、今となっては恋い焦がれる存在の彼は一体どうなってしまったのだろうか?
こうして一日帰ってこないと言うことは・・・一番考えたくないが、それでも一番高い可能性・・・「死んでしまった」と言うことを考えなければならないのかもしれない。商店街にいたのは人間ではない。怪人なのだ。ただの人間の祐一が敵うはずのない相手。そんな存在を相手に生き延びていることは・・・でも、名雪は祐一が生きていることを信じていたかった。もしかしたら怪我をして動けないのかもしれない。もしかしたら病院に運び込まれているのかもしれない。もしかしたら今家の前にいるのかもしれない。
いくつもの「かもしれない」が彼女の頭に思い浮かぶが、しかしそれはあくまで彼女がそう思うだけなのだ。希望、願望と言ったものなのだ。そうであってくれればどれだけ良いか。
しかし・・・実際には祐一は家に帰ってくることもない。電話も来ない。誰も彼がどうなったか知らないのだ。
名雪はまた瞳に涙が浮かぶのを感じていた。
「うっ・・・ううっ・・・祐一・・・祐一ぃ・・・・」
泣きながら、彼女は床へと崩れていく。
そんな娘の様子を秋子はドアの外で感じ取り、哀しげな顔をしていた。
声をかけようと思って二階にまで来ていたのだが、これではそっとしておいた方が良さそうだ。そう思って階段を下りようとすると、真琴が顔を出した。
真琴は秋子に気付くと、慌てて駆け寄ってきた。
「どうしたの、真琴?」
秋子は自分の側にやってきた真琴に優しい笑みを見せる。
記憶喪失の居候少女でも、彼女にとっては娘の名雪と同じ家族の一員であり、可愛い娘のようなものなのだ。
「あう・・・秋子さん、早く!早く逃げて!!」
真琴は秋子の胸にすがりつくと、そう言った。
「逃げろって・・・どうしたの、真琴?」
困惑げな顔をする秋子。
そう言えば真琴は一昨日の朝から何かに怯えているようだったことを不意に思い出す。
「何か・・・あるの?」
「解らない・・解らないけど・・・早く逃げないと!!逃げないと・・・あいつらが・・・」
「あいつら?」
真琴の言葉に秋子が首を傾げた時、ガシャーンというガラスの割れる音が聞こえた。
秋子が振り返ると・・・そこには蜂のような姿の怪人が二人を静かに見つめていた・・・。
 
降りしきる雪の中、祐一はふらふらと歩いていた。
二度にわたる戦闘、それにこの寒さが彼の体力を着実に奪っている。とにかく休みたい・・・そう思う彼の身体は自然と水瀬家の方へと足を向けさせていた。それは無意識下でのこと。色んなことがありすぎた一日が終わり、彼はもう半分意識を失いかけていた。
時折、足がもつれ、雪の上に倒れてしまうが、すぐに立ち上がり、再びふらふらと歩き出す。それを何度繰り返したのだろうか、彼はようやく水瀬家の前まで辿り着いていた。
玄関を見て、自然と笑みがこぼれる。
これでようやく休むことが出来る・・・彼がそう思った瞬間、二階の窓を突き破って何かが表へと飛び出してきた。
はっと上を見上げた祐一が見たものは秋子、真琴、そして名雪を抱えて飛び去っていく蜂女・フラトの姿。
とっさに駆け出そうとする祐一だが、足がもつれ、更に雪に足を取られてその場に転倒する。
その間にも3人を抱えたフラトが夜の闇の彼方へと消えていく。
祐一は地面から顔を上げ、悔しそうにフラトの消えていった夜の空を見上げた。
「くそっ!!」
そう言って地面を叩く。
また守れないのか。
大事な、家族と言ってもいい3人を失ってしまうのか。
あの3人を、何より名雪を香里のように失ってしまうのか。
「この・・・うおぉぉぉぉぉっ!!」
天を仰いで祐一が叫ぶ。
その叫びは空しく雪の中に響いていくだけであった。
 
<2月6日>
雪はいつの間にかやみ、青々とした空に太陽が昇っている。
祐一は自分の部屋の窓のカーテンを開け、部屋の中に太陽の光を取り入れると窓に背を向けてクローゼットを開ける。
中から普段着ないような黒革のジャンパーを出し、洗濯されたばかりだろう綺麗に折り畳まれたGパンをはき、白いTシャツ、ジーンズ地のシャツを着てから黒革のジャンパーを羽織る。手にはジャンパーと同じ黒革のグローブをはめ、ドアの方を振り返る。
「行くんだね、祐一君」
ドアの所にはあゆが立っていた。
昨夜水瀬家の前で座り込んでいた祐一を偶然通りかかったあゆが見つけ、家の中に運び込んだのだ。家の中で事情を聞いたあゆはとりあえず今の祐一ではとてもじゃないが戦えない、せめて一晩休んでから、と言って無理矢理祐一をベッドに寝かしつけたのだ。体力の限界に来ていた祐一はベッドに寝かされてから程なく泥のような眠りに落ち、つい先程目を覚ましたのだ。
あゆはと言うと、祐一の身を心配してか、昨夜は主のいない水瀬家に泊まり込んでいたようだ。
「ああ」
短くそう答え、祐一はあゆを押しのけるようにドアノブに手をかける。
「でも何処に行くの?名雪さん達が何処に連れて行かれたかなんて・・・」
「何の話だ?」
部屋を出ていこうとする祐一の背にそう言うあゆだったが祐一から帰ってきたのは疑問だった。そう、考えられない疑問。
「何の話って・・・祐一君、名雪さん達を助けに行くんじゃなかったの?」
不安げにそう言うあゆだが、祐一は振り返りもしない。
「俺は・・この街を出ていくだけだ・・・」
小さい声で言う祐一。
それを聞いたあゆは思わず祐一の背に飛びかかっていた。
「どうして?どうしてそんな事言うの!?名雪さんとか真琴ちゃんとかを助けに行くんじゃないの?」
必死にそう言うあゆだが、祐一はそんなあゆを振り払った。
「みんな、祐一君のこと待っているんだよ?」
「俺は!」
振り払われてもあゆはあきらめずに祐一の背に手を伸ばす。だが、祐一の大声がその手を止めさせた。
「俺は・・・訳もわからずに・・・あんな訳のわからない怪人に殺されて、それでも何でか生き返って、あいつらと同じような姿になってあいつらと戦って、でもみんなは俺をあいつらと同じように見て怯えて、恐れて、逃げ出すんだ!そうだよ、俺はもうあいつらと同じ化け物なんだ!!」
祐一はそう言って壁をドン、と叩いた。すると、その壁が彼の手の形に陥没する。
「見ろ!これが今の俺だよ!!」
吐き捨てるように祐一が言う。そして振り返った彼の顔は無数の筋が入っていた。まるで傷跡のように。感情が高ぶると彼の意志に関係なく浮かび上がる。それに気がついたのは昨日の夜。
それを見たあゆがびくっと体を震わせる。
「こんな体になって、それでも必死に戦ったのに・・・俺は香里を助けることが出来なかった・・・俺はもうイヤなんだよ!目の前で誰かが傷ついていくのを見るのは!!」
「・・・だから・・・」
祐一の哀しげな、それでいて何処か悲愴な顔の叫びを聞いたあゆが小さい声で反応する。
「だから、逃げるの?」
今度ははっきりとあゆが言う。
祐一の顔を正面からじっと見て。
「自分の目の前で誰かが傷ついて、それで死んでしまうのが見たくないから逃げるの?自分が助けることが出来ないからって逃げ出すの?」
言いながらあゆの目に涙が浮かび始めていた。
しかし、あゆの迫力に祐一は何も言い返せない。
「香里さんのことは残念だったよ。悔しいって言うのも解るよ。でもね、だからってここで逃げたら、祐一君の知っている人がみんないなくなるかもしれないんだよ?それで良いの?」
あゆは泣きながら続ける。
「秋子さんも、真琴ちゃんも、栞ちゃんも、舞さんも、佐祐理さんも、天野さんも、それに名雪さんもいなくなっちゃうかもしれないんだよ?それでも祐一君はいいの?」
「・・・俺は・・・」
「今の祐一君にはみんなを助けることの出来る力があるんだよ!なのに・・・ここで全部投げ出すの?怖いからって、自分が傷つきたくないからって、みんなの思いを踏みにじって逃げ出すの?そんなの男らしくないよ!」
祐一は何も言わずにあゆを見ているだけだった。
「確かに今の祐一君はあの怪人達と同じ力を持っているかもしれないよ。でも、祐一君は祐一君だよ。少し意地悪で、少しひねたところがあるけど、本当は優しい・・あの怪人達と祐一君は違うんだよ、あいつらには心がない。でも祐一君には優しい心があるじゃない!」
そう言ってあゆは祐一に抱きついた。
「ボク、酷いこと言うよ・・・」
「・・・・・」
「祐一君、戦って。あいつらを倒して。祐一君が、祐一君だけが希望なんだよ」
祐一の胸に顔を埋めながらあゆが言う。
「あいつらは後二人・・・祐一君の頭なら倒す方法はきっと見つかるよ。だから・・・」
「・・・・・」
祐一は無言であゆを放した。そして、部屋を出ると階段へと向かう。
階段を下り、玄関で靴箱に中にずっとしまっていたブーツを取り出す。そこにあゆが追いついてきた。
「祐一君?」
声をかけるが祐一は答えない。
ブーツを掃き終えた祐一は玄関のドアを開けた。外に漂う冷たい空気が玄関の中にまで入って来、あゆはその寒さに肩を震わせた。
祐一はその寒さにもかかわらず表に出ると、ガレージの方へと歩き出した。あゆもそれに続く。
ガレージの隅に布をかぶった一台のバイクがあった。その布を取り、祐一は革のジャンパーのポケットから鍵を取り出す。
このバイクは祐一がこの街に来る前、乗り回していたものである。もちろん無免許で乗っていた時期もあった。今はちゃんと免許を所持しているが、この雪の多い街で乗れるような代物ではない。だからこっちに来てからはずっとガレージの中で埃をかぶっていたのだ。鍵を差し込み、エンジンをかけるとすぐにエンジンが始動した。軽く二、三度空噴かししてから祐一はヘルメットをかぶる。
「祐一君・・・」
不安げに声をかけるあゆ。
祐一はその時、初めてあゆを見て、笑みを浮かべた。
「なぁ、あゆは仮面ライダーって知っているか?」
「仮面ライダー?」
いきなりの祐一の発言にあゆが首を傾げる。
「俺の変身したあの姿な、仮面ライダーにそっくりなんだ。何かいい名前ないか?」
「祐一君・・・・」
あゆはその時ようやく祐一の言葉の意味を知った。
仮面ライダーは正義の、人類の味方。
祐一は決心したのだ。戦うことを。みんなを助けることを。
「・・・カノン・・・カノンが良いよ。この街のあの大きな木、覚えてる?」
「ああ、あの木・・・俺たちの学校だったあの木だな?」
「あの木の名前だよ・・・今は切られちゃったけど、あの木はカノンって言ったんだ・・・」
「・・・解った。お前はここで待っていろ。危ないからな」
祐一はそう言うとバイザーをおろした。
あゆに離れるよう手で指示し、一気にアクセルをふかす。
祐一を乗せたバイクが雪の降り積もった道路へと飛び出していく。その後ろ姿をあゆはいつまで見送っていた。
 
病院は今や混乱の渦の真っ直中にあった。
朝になってから突如飛来した蜂女フラトが人間狩りを始めたからだ。
「フフフ・・・種子を持つものはこのような場所にいるはずがない。だからここにいるものは役に立たない・・・」
逃げまどう人々を次々に針で射殺すフラト。
悲鳴、怒号、阿鼻叫喚の地獄絵図が病院内で繰り広げられる。
「フッフッフ・・さぁ。お逃げなさい。狩りはその方が楽しいわ・・・」
言いながらフラトがまた一人射殺した。
「やめてください!」
フラトの後ろからそんな声が聞こえてきた。
振り返るとそこにはパジャマ姿の栞が立っている。肩にはいつも愛用のストール・・・その送り主はもうこの世にいないことを彼女はまだ知らない。
「どうしてこんな酷いことをするんですか!?一体何が目的で・・・」
そこまで栞が言った時、すっとフラトが栞の前にまで飛んで来た。
その姿に全身の震えを止められない栞。
「私達はあなた達愚かな猿の末裔に新たな進化をもたらすためにやってきたの。でもね、新たな進化をもたらせるのはごく一部だけ、後は必要ないのよ」
そう言ってにやりと笑うフラト。
「特にね、お嬢ちゃんのような病気持ちや怪我人は新たな進化の対象外なのよ」
すっと針を生成した右腕を栞に突きつけるフラト。
栞は余りもの事に声も出ないようだ。
今にも針が射出されそうになった時、裂帛の気合いと共にフラトの背後から刀が振り下ろされた。
「せいっ!!」
その一撃をフラトは素早く回避する。それから振り返り、そこにいたのが舞だと知るとフラトはまたにやりとした笑みを浮かべた。
「またお嬢ちゃんなの?自分じゃ敵わないことがまだ解らないのかしら?だから愚かな猿の末裔は・・・」
「うるさい!!」
そう言って舞は刀を構えた。
初めの一撃がかわされたのはかなり痛い。彼女の身体は一昨日、そして昨日の戦いで限界にかなり近いのだ。左腕の傷、足首の捻挫、それに全身に残る疲労。それでも舞は戦うことをやめようとはしなかった。
自分の力で助けることが出来る者がいる限り、自分の身代わりとなって死んだ祐一のためにも。
キッとフラトを睨み付けながら舞は栞に逃げるよう片手で指示を送る。
頷き、栞はその場から走り出した。
「はぁ・・・お嬢ちゃんじゃ相手にならないから楽しくないのよねぇ・・・」
フラトはそう言いながら右腕の針を舞に向けて射出した。
物凄い速度で飛ぶ針が舞を襲う。だが、舞はすっと目を細めたかと思うと、その針を刀ではじき飛ばしてしまった。極度の集中によるものだ。限界まで集中力を高め、相手の攻撃を見切る。舞はそれを可能にしたのだ。
フラトの顔色が変わる。次々と針を生成しては射出していくが、舞はその全てをはじき飛ばしていた。その上、少しずつ前へと足を進めていく。
流石のフラトも焦りの色を隠せなくなってきた。
(一体何・・・?このお嬢ちゃん・・まさか・・種子の?)
と、その時、フラトの目前、刀の届く範囲にまで舞は近寄ってきていた。
「ハアァァァッ!!」
気合いと共に刀を一閃させる。
「チッ!」
何とか後方へと下がり、その一撃をかわすフラト。
その時、フラトの視界に一人の女性の姿が飛び込んできた。それを見て、にやりと笑うフラト。
舞がまた一歩踏み込み、刀を上段に構える。一気にケリをつけるつもりなのだ。限界集中は長続きしない。この一撃で相手を倒す。舞が決意と共に刀を振り下ろそうとした時、フラトに右腕が動いた。
音もなく射出される針。
それは舞の横をかすめ・・・その向こう・・・走って逃げようとしていた栞の背中から胸へと貫通する。
ぱっと血の花が咲いた。
ゆっくりとその場に崩れ落ちる栞。
彼女が倒れた床に血が広がっていき、それを見た舞は。
「・・・栞・・・栞っ!!」
慌てて彼女に駆け寄ろうとして、だが、その前にフラトが立ちはだかる。
「お嬢ちゃん、貴方は私を倒すのじゃなくて?」
勝ち誇ったように言うフラト。
「貴様ぁっ!!」
舞は怒りに我を忘れた。
二つ下の後輩。祐一を通して知り合った可愛い後輩。
佐祐理程ではないがなかなか料理がうまく、たまに作ってくるお弁当が楽しみだった。
話し相手にしてもなかなか楽しかった。
その栞が。
今、自分の目の前で。
こいつだけは絶対に許せない。
刀を大上段に振り上げる舞。
それはこのフラトの前で絶対にしてはいけない行為だった。
がら空きになった胴に、フラトの右手から射出された針が突き刺さる。その針は舞の身体を貫通し、向こう側の壁に突き刺さった。
よろける舞。
だが、それでもまだ刀は手放さない。
再び刀を構えようとする。
右肩に激痛。針が貫通したようだ。
それでもまだ舞は倒れない。
フラトは次々に針を射出する。
右胸、左足、右足、下腹部、次々と針が貫通し、その度に血の花が咲く。
「これでとどめよ、お嬢ちゃん」
フラトがそう言って針を射出した。
その針は舞の首の根本を貫通、舞は吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられ動かなくなってしまった。
血まみれのまま、ぐったりと動かない舞。既に彼女は呼吸すらしていなかった。
少し離れたところでは栞が呆然と天井を見上げていた。
(お姉ちゃん・・・?)
彼女の目に香里の姿が映し出される。
(・・・そうなんだ・・・お姉ちゃんの側に行けるんだね、私も・・・)
涙が一筋、栞の目からこぼれ落ちた。
病院の中でもう動くものは一人もいない。
静寂だけが、地獄絵図となった病院内を包み込んでいた。
 
バイクを走らせていた祐一はフラトが病院の屋上から飛び去っていくを見つけると慌てて病院の前でバイクを止めた。そして中に飛び込むと・・・思わず彼は目を覆ってしまった。
あちこちに広がる血の海。
息をすることすらない人々の群れ。
祐一は悔しそうに拳を握りしめた。
きびすを返して病院を出ようとして、ふと見覚えのあるものが廊下の奥で転がっているのが見えた。
倒れている人を踏まないよう注意しながら廊下の奥まで行くと、そこには血に濡れたストールが落ちていた。
それを手にし、ふと顔を上げると・・・そこには知っている顔が二つ。
廊下の床に倒れているのは栞。
壁にもたれて座っているのは舞。
どちらも血まみれで。
どちらの瞳ももう何も映してはいない。
それを見た祐一は、思わずストールを落としてしまった。
呆然としたまま、二人の側に行く。
「栞?舞?」
呼びかけるが返事はない。
「嘘だろ・・・何でだよ・・・どうして・・・お前らまで・・・」
祐一は涙を流しながら言い、床に膝をついた。
「ウオォォォォォォォッ」
床に肘をつき、祐一は大声で泣いた。
また助けることが出来なかった。
もっと早く決心していれば助けることが出来たかもしれなかったのに。
自分がもっと強ければ二人を死なせることなど無かったのに。
悔しかった。哀しかった。そして自分に対して怒りを覚えた。もし、自分を殺して二人が帰ってくるなら祐一はすぐにでも自分を殺しただろう。だが、もう二人は帰ってこない。
祐一はしばらく泣いた後、顔を上げた。
その目には決意の色が浮かんでいる。
「栞、舞、ゴメンな。俺がもっと強かったらこんな事にはならなかったんだ。だから、俺はもう泣かない。お前達の仇は絶対に俺がとってやる。みんなは必ず俺が守る。だから・・・今は許してくれ」
そう言って立ち上がる祐一。
二人の瞳を閉じさせ、祐一は舞の手にしっかりと握られている刀を手に取った。
「借りるぞ、舞・・・」
祐一は静かに歩き出した。
倒すべき敵は二人。
蜂女・フラト。
虎男・フォルティ。
特に蜂女には色々と借りがある。
「覚悟しやがれ・・・」
祐一はそう呟くと、フラトが飛んでいった方向へとバイクを猛スピードで走らせた。
 
フラトは森の方へと飛んでいった。
祐一もバイクを森の方に向ける。途中商店街を通り抜けた時、彼は違和感を感じバイクを停車させた。
(・・・何だ・・・この違和感は・・・?)
祐一はヘルメットを脱ぐと、左右を見回した。程なく違和感の正体に気付く。昨日倒したはずの怪人・スタカトの死体がないのだ。
バイクから降り、スタカトの死体が刺さっていた道路標識の側まで行く。
地面に血の跡が残っているが、死体は影も形もない。
ふと思いついたことがあり、祐一はその場から駆け出した。行く先は一つ、もう一体の怪人・リ・ピトーの死体のある場所。しかし、そこにはやはりリ・ピトーの死体はなかったのだ。
漠然とした不安感が祐一の心にわく。
(あいつらにとって死体を回収する意味は何だ・・・?)
祐一はその場で腕を組んだ。
わざわざ死体を回収し、悲しむような連中ではない。では何だ?死体を回収した意味・・・死体を解剖して倒した相手の研究をするのか?イヤ、あの死体から倒した相手の情報など解るはずがない。一体どういう意味があるというのか?
(・・・今は考えている暇はないな・・・とにかくあの蜂女を追いかけないと・・・)
祐一は組んでいた腕を放すとバイクのあるところに向かって走った。再びバイクに跨りエンジンをかけて走り出す。
住宅街を抜けて森へと続く道へと猛スピードで疾走する祐一。
すると遙か前方に人々の列があるのが見えた。その人々の列は森の奧へと続いている。
祐一はバイクを人の列の側まで寄せるとブレーキをかけて、停止させた。
「おい、どうしたんだ?」
声をかけるが反応がない。
他の人に声をかけようとして、祐一はこの列に並んでいる人々の様子がおかしいことに気がついた。誰もが虚ろな目をし、ふらふらと歩いている。まるで自分の意志など無いかのように。
「・・・これは・・・」
祐一は人々の流れの先を見た。長い人の列の先は森の奥の方に続いている。そこから何かどす黒いオーラが漂っているのを祐一は敏感に感じ取っていた。そして、そのオーラが人々の思考能力を奪っているであろう事も。もちろんそれは目には見えない。祐一が肌で感じ取っているだけのものなのだ。
(この先に・・・いる・・・)
ぐっと拳を握りしめる祐一。
それからバイクを人々の列に沿って走らせ始める。このまま人々の列に沿って行けば必ず敵の本拠地に着くはず。そう思うとついアクセルを握る手に力が入る。スピードを上げ、バイクが人の列に沿って走る。
しばらく行くといきなり開けた場所に出た。そこでは美しい白い花が咲き乱れ、沢山の人がうっとりとした表情でその花園の中にいる。その中に祐一は見知った顔があることに気付いた。
「佐祐理さん、それに天野?」
思わずヘルメットを脱ぎ捨て、祐一はバイクから降りると恍惚とした表情をしている二人の側へと駆け寄った。
「どうしたんだ?しっかりしろよ、二人とも!」
とりあえず近い方だった天野美汐の肩を両手で掴み、前後に揺するが彼女は恍惚とした表情、虚ろな目をしたままである。
仕方なく祐一は彼女の頬を張り飛ばした。
ぱーんと言う音と共に美汐の目が焦点を合わす。それからゆっくりと張られた頬に手を当て、それから祐一を見上げてじっと睨み付けた。
「何をするんですか、相沢さん。仮にも女の子である私に手を挙げるなんて・・・」
「こうでもしないと正気に戻りそうにもなかったんでな。とりあえず今は許しておけ」
祐一はまだ不満そうな美汐から離れると佐祐理の側に向かった。
と、その時だ。
彼の足下の花が一斉に風に煽られたかのように舞い上がったのは。
それはさながら白いカーテン。白のヴェールの向こう側の佐祐理の姿が消える。
「佐祐理さん!!」
祐一が手を伸ばそうとするが白のヴェールに阻まれてしまう。それに白い花を巻き上げている風が強くなり、祐一は思わず顔をかばっていた。
「くっ・・・・」
風に吹き飛ばされないようにするのだけで精一杯の祐一。彼の後ろにいる美汐も顔を手で押さえている。
「あ、相沢さん!一体何が?」
風に負けないように大きい声で美汐が言うが、祐一に答える余裕はなかった。
彼の身体は何かに持ち上げられて空中に浮かび上がっていたからだ。
「しまった!?」
気付いた時は遅かった。彼の身体は空高く運ばれていたのだ。
「どうしてあの花の力が効かないのか知らないけどお前は厄介な存在のようね。だから死んで貰うわ!」
聞き覚えのある声。
振り返らなくても解る。
こいつだけは倒さねばならない。そう約束した。
「ウオォォォォォォォッ!!」
雄叫びをあげる祐一。
「このまま死になさい!!」
フラトが祐一を抱えていた手を離す。
一気に落下していく祐一。このまま地面に叩きつけられてしまうのか。そう思った時、彼の身体が変化した。
白い花が咲き乱れる花園の中央に降り立つ緑色の怪人・仮面ライダーカノン。
それを見たフラトは驚愕に顔を歪ませる。
「あ、あれは・・・」
カノンは上を見上げるとそこにいるフラトを確認してからバイクに駆け寄った。バイクに跨り、エンジンを吹かす。二度三度噴かしてから、猛スピードで走り出すバイク。そのバイクが緑色の光に包まれ、姿を変えていく。ただの市販のバイクから仮面ライダーカノン専用のバイク、アーツランダーへと。
アーツランダーのタイヤが白い花を踏みにじりながら疾走する。ばっと前輪を持ち上げ、ウィリー。そこから更にアクセルを回してジャンプ。
宙を舞うアーツランダー。
フラトの居る位置までジャンプしたアーツランダーからカノンが更にジャンプする。その手には舞の刀が握られている。
「貴様っ!!」
慌ててフラトは右腕をカノンに向け、針を射出した。その針を刀の柄で受け止め、そのままフラトに体当たりするカノン。もつれ合ったまま落下していく。
地面まで後数メートルにまで迫った時、両者がばっと左右に分かれ着地した。白い花をまき散らしながら片膝をついて着地するカノン、対してフラトは背の羽根を羽ばたかせて華麗に着地する。
「フフフ・・どうやら出来損ないのようね・・・」
片膝をついているカノンを見てフラトが言う。
「進化した我々と同じ力を持つのならばそのような無様な姿をさらすことはないわ」
カノンはまだ片膝をついたまま。
よく見ると、その腹の部分に針が一本刺さっている。その刺さった部分からは血が流れ落ちていた。
「貴様のような出来損ないが我々に勝てるなどと思うな!」
フラトがそう言って笑い声を上げる。
カノンはまだ立ち上がることが出来ない。
その様子を美汐は何も言えない状態で、ただ見守っていた。
白い花はそのほとんどが風により吹き飛ばされ、花園の中にいた人々も正気を取り戻したようだ。美汐と同じくカノンとフラトを無言で見ている。
「とどめを刺してあげるわ」
フラトがそう言って右手を挙げ、針をカノンに向けた。
「ダメだ・・・」
誰かがそう呟くのが美汐の耳に聞こえた。
「俺たちは・・・もう終わりだ・・・」
「まだです!まだ終わっていません!!」
思わず美汐は大きい声で叫んでいた。
何事かと皆が美汐を振り返る。その中にはフラトの姿もあった。
「まだ戦えるはずです!貴方は・・まだ!!」
美汐は叫び続ける。
「・・・うるさいお嬢ちゃんね」
フラトはそう言うと、カノンに向けていた右手をすっと美汐に向けた。
「先にあなたから殺してあげるわ・・・この針で・・・」
「相沢さんは・・・勝ちます!!」
フラトの右手から針が射出されるのと同時に美汐が一際大きい声で叫ぶ。
針が美汐の胸に迫る。
彼女が為す術もなく針に貫かれようとした時、すっとカノンが彼女の前に出た。がしっと針を受け止め、その場に投げ捨てる。
「これ以上誰も殺させない!お前らは絶対に俺が倒す!!」
言いながら走り始めるカノン。
フラトは背の羽根を羽ばたかせるとすっと宙に舞い上がった。
ジャンプしてそれを追うカノン。だがぎりぎり届かない。
「出来損ないがよくぞほざいた!お前にはむごたらしい死を与えてやろう!!」
空中からフラトがカノンを見下ろし、そう言った。
片膝をついて着地したカノンは振り返ると同時に手に持っていた針をフラトに向かって投げた。その針は先程カノンの腹に刺さっていたものである。針を抜き、その傷が回復するのをじっと待っていたのだ。その姿を見て、フラトが油断することを半ば確信しながら。
案の定フラトは油断してくれた。
しかし、美汐を危険にさらしてしまったのは予想外である。それでもカノンはチャンスを待ったのだ。そしてそのチャンスが来たのだ。
振り返り様に投げられた針はフラトの左目に突き刺さり、その視界の半分を奪う。
「くっ・・・」
左目を押さえてフラトが地上へと降下する。
そこにいつの間にかアーツランダーに乗ったカノンが突っ込んできた。一気に跳ね飛ばされるフラト。宙を舞い、地面に叩きつけられる。
少し走ってからブレーキをかける。
アーツランダーから降りたカノンは倒れているフラトを見てゆっくりと近寄っていく。
フラトは倒れたまま動かない。
警戒しながらカノンが一歩一歩近寄っていくカノン。
その時、フラトが右手を挙げ、針を射出した。
針がカノンの左腕を貫く。
だが、それに構わずカノンはフラトの側に歩み寄り、思い切りその顔面を蹴り飛ばした。
吹っ飛ばされるフラト。
その身体が地面に落ちる前にカノンが第二撃、第三撃を叩き込んでいく。
「ウオォォォォォォォッ!!」
倒れたフラトに更に拳を叩き込んでいくカノン。その返り血に濡れるカノンの身体。真っ赤にカノンの身体が染まっていく。
カノンはぐったりとなったフラトを無理矢理立たせると渾身の力を込めたアッパーカットを喰らわせる。
吹っ飛ばされ、地面に倒れるフラト。
カノンはそれを見ると、地面においていた刀を手に取った。
刀を逆手に持ち、フラトの側に立つカノン。
「お前は・・・お前だけは・・・!!」
怒りをこめて刀を振り上げる。
脳裏に浮かぶ舞、栞の顔。その笑顔。ちょっと怒ったような、すねたような顔。照れたような真っ赤な顔。その全てが彼の脳裏に思い浮かび。
何時しかカノンの真っ赤な目に涙が浮かんでいた。
「ウワァァァァァッ!!!」
一気に刀を振り下ろす!
その鋭い切っ先がフラトの身体を貫く。
「ぎゃあぁぁぁぁぁっ!!」
フラトが絶叫する。
それに構わずカノンは何度も何度も刀を振り下ろした。噴き出す血が、更にカノンの身体を赤く染めていく。
怒りの感情のままに刀を振り下ろしていたカノンは何時しか祐一の姿に戻っていた。
フラトの返り血にまみれた彼の姿は鬼のようですらある。
「相沢さん!相沢さん!!」
自分を呼ぶ声が聞こえ、祐一はようやく我に返った。
振り上げていた刀をゆっくりと降ろし、フラトを見る。その身体はずたぼろにされ、完全に絶命していた。
かたんという音がして祐一の手から刀が落ちる。
フラトの死体を見て、祐一は何故か虚しさに捕らわれていた。
たとえフラトを倒しても舞や栞が生き返るわけでもない。死んだものは還らないのだ。彼がしたことは復讐。虚しさだけが残る復讐に他ならない。
「相沢さん・・・?」
美汐が祐一を呼ぶ。
祐一はそれでようやく彼女を見た。
ヒッと息をのむ美汐。
今の祐一はフラトの返り血にまみれ、物凄い姿となっている。それはまるで地獄の鬼のような姿。
その姿を見た他の人々がどよめく。
恐れ、とまどい、戦慄、恐怖など様々な表情で祐一を遠巻きにして見ている。
「天野・・・」
一歩彼女のほうに足を踏み出そうとして、彼は美汐が震えているのに気付いた。それから、彼は苦笑を浮かべて彼女に背を向けて歩き出した。
「あ・・・相沢さん・・・」
美汐が遠慮がちな声をかけてくる。
「・・・天野、ここにいる人を安全な場所まで誘導してやってくれ」
「相沢さんは?」
「俺には・・まだやることがあるんだ・・・」
言いながら祐一は未だ左腕を貫いたままの針を右手で握り、一気に引き抜いた。その針を地面に投げ捨て、アーツランダーの側に歩み寄る。腕からは血が流れ落ちているがそれにも構わずアーツランダーに跨ってエンジンをかけた。
その時になって祐一は大事なことを思い出した。
「そうだ、佐祐理さんは・・・」
「倉田先輩ですか?」
側にまで来ていた美汐が首を傾げて聞く。
「ああ・・・さっきまで居たはずなのに・・・」
そう、佐祐理を助けにいこうとしてフラトが現れたのだ。その辺りにいてもおかしくないはずなのに彼女の姿は何処にも見えない。
「・・・とにかく、天野。ここから早く逃げろ」
顔を手で拭いながら祐一は言った。
「ですが・・・」
「真琴とかもあいつらに捕まっている。助けにいかなくちゃいけないんだ」
祐一はそう言うと美汐の返答を待たずにアーツランダーを発進させた。
行く先は一つ。
この森の奧。
敵の本拠地。
そこに待つのは虎男・フォルティ。
地上最強の肉食獣、虎の能力を持つおそらく最強の怪人。
今まで以上に苦しい戦いになるだろう。
アーツランダーを走らせながら祐一はそんなことを考えていた。
それでも、戦うしかない。
みんなを助けるために。みんなを守るために。
アクセルを更に回し、アーツランダーのスピードを上げる。それにあわせるかのように祐一の姿がまた変化していく。戦うべき姿へと。仮面ライダーカノンへと。
彼の遙か前方には、巨大な機械の固まりが見えてきていた。
あの中に秋子さんや真琴、佐祐理さん、そして名雪が居る。
そう思ってアクセルを回そうとした時、カノンの視界にあるものが飛び込んできた。
それは巨大な機械の固まりの周囲の木に打ち付けられているに物言わぬ人々の姿。
「・・これは・・・」
百舌鳥の速贄・・・そう言う言葉が浮かび上がる。
「ゆるせねぇ・・・一体何の権利があってこんな事を・・・」
怒りに拳を震わせるカノン。
そこに一人の男が現れた。白い服を着た毛深い、野獣のような容貌の男。
「こいつらには進化する資格がなかった。だから必要のないものは処分する。それだけだ」
男はそう言うとカノンを見て、にやりと笑った。
「貴様は進化に対応出来たようだな。面白い。この俺が相手になってやろう」
男の姿が虎のような姿に変化していく。
虎怪人・フォルティ。
カノンはアーツランダーから降りるとフォルティと向かい合った。
互いに相手を睨み合い、一歩一歩動き出す。
歩みが徐々に早くなり、互いに駆け出しながらそれでも距離は一定に保ったまま。
森の中を疾走する両者。
ある程度走ってから、両者は示し合わせたように足を止め、お互いに向かって飛び出した。
一瞬両者が交差し、その一瞬の間に物凄い攻防が展開される。
カノンの放つパンチをかわし、反撃とばかりに右手の爪で斬りつけるフォルティ。それを上体をそらせてかわしたカノンが両足を跳ね上げてフォルティの顎を狙うがフォルティは軽くジャンプしてカノンの足をかわした。着地したカノンがフォルティを追うようにジャンプすると、フォルティは素早く右足での蹴りを放った。その蹴りがカノンを捕らえ、吹っ飛ばす。だが、カノンは素早く起きあがり、猛然と右拳を構えながらフォルティに向かって突っ込んでいった。着地したフォルティも同じように右拳を構え、カノンに向かってダッシュする。これだけの攻防が一瞬の間に展開され、両者はその位置を入れ替えた。
ガクッと膝を折ったのはカノンのほうだった。
よく見るとカノンの胸には鋭い爪痕が三本程走っており、そこから血が流れ落ちていた。
あの一瞬の攻防を制したのはフォルティだったのだ。
フォルティは悠然と振り返るとカノンを見下ろした。
「フッ・・・所詮貴様は出来損ないと言うことか。出来損ないは出来損ないらしく、そこで、このまま死に果てろ!!」
そう言って笑うフォルティ。
カノンはその笑い声を聞きながらゆっくりと立ち上がった。そしてフォルティの方を振り返る。
「ほう・・まだやる気か?貴様の力ではこの俺を倒すことは出来ないぞ」
余裕綽々と言った感じで言うフォルティ。
カノンはそれに答えず身構えた。胸の傷からはまだ血が流れ落ちている。それすら気にせず、カノンはフォルティを睨み付ける。
「・・・貴様がやる気ならば相手をしてやろう!」
そう言ってフォルティがカノンに飛びかかる。
素早く身をかがめてフォルティをかわしたカノンは着地したばかりのフォルティに肉迫し肘をその後頭部に叩き込んだ。
流石によろけるフォルティだが、二撃目を加えようとしたカノンの動きを察し地面を転がってかわす。攻撃をかわされ、たたらを踏むカノンに起きあがったフォルティはパンチを食らわせた。よろけるカノンに何度もパンチを浴びせ、更に接近し膝蹴りを喰らわせる。背中に組んだ両手を落とし、カノンを地面にはいつくばらせると、フォルティはカノンの背を右足で踏みつけた。
「弱い!弱すぎる!貴様では俺を満足させることは出来ない!!」
ぐりぐりとカノンの背を踏みにじりながらフォルティは吐き捨てるように言った。
「この程度の奴に倒されたとは・・・奴らも所詮その程度だったと言うことか・・・」
フォルティはそう言うと、カノンの背から足を降ろし、代わりにカノンの首筋を掴んで立ち上がらせた。そして腕力に任せてカノンを投げ飛ばす。
投げ飛ばされたカノンは為す術もなく宙を舞い、近くの木の幹に叩きつけられ、地面に落下した。
何とか地面に手をついて起きあがろうとするカノンだが、上手く力が入らず、また地面に倒れてしまう。
それを見ながらフォルティが一歩一歩カノンに近付いてくる。
「進化に対応出来てその程度・・・この星に住む知的生命体・・・やはり愚かな猿の末裔でしかないか・・・」
明らかに落胆したようなフォルティの声。
それでもカノンは立ち上がることすら出来なかった。
フォルティはカノンの側に立つと、先程と同じようにカノンを立たせ、今度は木の幹にカノンの顔面を叩きつけた。それを何度か繰り返し、カノンの顔面がぼろぼろになるとようやく手を離し、カノンがその場に崩れ落ちるのを見てからカノンに背を向けて歩き出した。
だが。
がさりと言う音がフォルティの背後から聞こえてきた。
立ち止まるフォルティ。
振り返るとそこにはカノンが立ち上がっており、フォルティに向かってダッシュしてきていた。
「ウオォォォォォォォッ!!」
雄叫びを上げながら突っ込んでくるカノン。そのパンチがフォルティを捕らえ、吹っ飛ばす。勢い余ってカノンも地面に倒れ込むが、フォルティはかなり吹っ飛ばされていた。
地面を転がったフォルティが顔を上げると、カノンが地面に手をついて起きあがっているところだった。
立ち上がると同時に走り出すカノン。
フォルティは慌てて身体を起こすが、そこにカノンのパンチが直撃する。また勢い余って地面に倒れ込むカノンだが、今度はすぐに起きあがって吹っ飛ばされたフォルティを見た。
地面を転がり、うつぶせになってようやく止まるフォルティ。
「く・・・よくも・・・」
地面に手をついて起きあがるフォルティ。
その顔は憤怒に赤くなっている。
「よくもやってくれたな!出来損ないの分際で!!貴様は殺す!無惨に殺して晒してやる!!」
怒りのままに吠えるフォルティ。
カノンは拳をぎゅっと握ると身構えた。
フォルティが姿勢を低くして走り出す。その姿は獲物を見つけ、一気に仕留めようとする野獣のようだ。
最初の突撃をジャンプしてかわすカノン。着地すると同時に後ろ回し蹴りで牽制するが、フォルティはしゃがんでそれをかわすとカノンに飛びかかった。そしてその右肩に大きく口を開いて噛みつく。
何本もの鋭い牙がカノンの皮膚を切り裂き、食い込んでいく。
カノンはもがく。何とかしようと左手でフォルティのボディにパンチを食らわせるが左腕の傷がまだ回復しておらず、大したダメージは与えられない。続いて右手と左手でフォルティの頭を掴み引きはがそうとするが牙ががっちり食い込んでいて離れない。
「ぐう・・・」
カノンの右肩から大量の血が流れ落ちている。
フォルティはその血すらすすっているようだ。更にギリギリと牙を食い込ませていく。
左手でのパンチをフォルティの顔面に食らわせるが、それでもフォルティは離れない。
「ううっ・・・」
だんだんと意識が朦朧としてきた。
血を失いすぎたせいだろう。この身体の回復力も追いつかなくなってきているようだ。このままだと変身すら解けてしまい、後はやられるだけである。
(・・・まだ・・まだやられるわけに・・・)
カノンが左手を振り上げる。そしてその拳を・・・抜き手にして振り下ろした。
その指が・・・フォルティの右目を貫く!
「ギャァァァァッ!!」
悲鳴を上げ、フォルティがカノンから牙を離し、今カノンの指で貫かれた右目を押さえてのけぞった。
それを見たカノンはその場でジャンプ、フォルティに思い切り体重を乗せたキックを食らわせる。
思い切り吹っ飛ばされるフォルティ。
地面を転がり、木にぶつかってようやく止まる。
「ぐおぉぉぉぉぉっ!!よくも!!よくもぉぉっ!!」
怒りの雄叫びを上げながら立ち上がるフォルティ。
だが、その正面にカノンの姿はない。
「何処だ!?何処へ消えた!?」
左右を見回すフォルティ。その耳にバイクのエンジンの爆音が聞こえてきた。
さっと振り返ると同時にフォルティは突っ込んできたアーツランダーに吹っ飛ばされる。
「ぐああっ!!」
また地面に叩きつけられるフォルティ。
アーツランダーに乗っているカノンはそれを見るとブレーキをかけ、アーツランダーを停車させた。
フォルティは何とか顔を上げてアーツランダーに跨り、こちらを見ているカノンを見上げた。つぶされた右目の視界は完全に失われている。しかし、無事だった左目に、あるものが映った。それは一人の女性。フラトの花園から逃げ出してきたところを捕まえておいた女性。にやりと笑うフォルティ。
カノンがアーツランダーから降り、フォルティに向かって歩き出した。
それを見た瞬間、フォルティは身体のバネを利用して一気に起きあがると、近くの木の根の部分に倒れている女性の側まで一気に走った。
カノンがそれに気付いた時はもう遅い。
フォルティの腕の中にその女性は抱きかかえられていた。
「はっはっは!動くな!動くとこの女の命はないぞ!!」
勝ち誇ったように笑うフォルティ。
走り出そうとしていたカノンが足を止める。
その女性は何と佐祐理だった。
彼女はまだ気を失っているようだったが、フォルティが舌を伸ばしてその頬をなめ上げた時、何故か急に目を覚ましたようだ。
「キャァァァァァァァッ!!」
悲鳴を上げる佐祐理。
「おっと騒ぐなよ、お嬢ちゃん・・・大人しくしないと先にお嬢ちゃんを殺すことになる」
脅すようにそう言うフォルティ。実際に脅しているのだが。
佐祐理は黙ってコクコクと頷くだけだ。
フォルティはそれからカノンの方を見た。
「先に殺すのはお前だ。まずはその姿から元に戻って貰おうか・・・」
「・・・・・」
カノンは無言のまま、握っていた拳を開いた。すると、その姿がカノンから祐一へと変わっていく。
それを見た佐祐理の表情が驚愕に彩られた。
そう、佐祐理は前にカノンを見て悲鳴を上げているのだ。その時は恐怖のため。カノンが祐一だとは知らなかったため。しかし、それでも佐祐理は自分のしたことを後悔していた。
「祐一さん・・・」
瞳から涙がこぼれる。
自分達を助けるために必死に戦ってくれた祐一を否定した自分がどうしようもなく悔しかった。情けなかった。
「これで良いだろう。佐祐理さんを離せ」
祐一がフォルティを睨みながらそう言う。
「誰が何時そんなことを言った?お前はこのまま死ぬんだ!!」
フォルティは祐一を馬鹿にしたようにそう言い、佐祐理を抱えたまま、祐一に飛びかかった。鋭い爪が祐一の右足を貫く。
「くっ・・・」
思わず片膝をつく祐一。右足からは血がどくどくと流れ出している。
もう相当量の血を失っているだろう。普通ならば昏倒していてもおかしくない量だ。それでも祐一がまだ立っていられるのはやはり変身出来るようになっているからか、それとも皆を救い出すという使命感のためか。
「まずは手!足!それからこの目の仇をとる!後は八つ裂きにしてその内臓までも切り裂いてやる!!」
フォルティが吠える。
その目は残虐なことを楽しむかのように輝いていた。
祐一は片膝をついたまま、動かない。
フォルティは祐一が抵抗しないのを良いことに次々と爪で彼を傷つけていく。
「・・祐一さん!戦ってください!佐祐理のことなんかどうでも良いですから!!」
佐祐理が叫ぶ。
しかし。
「・・・佐祐理さん・・・ダメですよ。俺は佐祐理さんを助けるって決めたんだ。だから・・・それが・・・」
舞に約束したんだ。みんなを助けるって。
祐一は笑みを浮かべた。
それを見た佐祐理は。
(祐一さんは死ぬ気だ・・・)
佐祐理は覚悟を決めた。
ここで祐一を死なせてはいけない。彼にはまだやることが残っている。自分のために彼が動けないなら、その動けない理由を無くしてしまえばいい。
いつになく佐祐理の表情が険しくなる。
フォルティがまた走り出した。
佐祐理は自分を抱えているフォルティの手に思い切り噛みついた。そして、そのまま身体を捻る。
「ぐあっ!」
フォルティの足が止まった。佐祐理を投げ捨て、左手を押さえる。そこからは血が流れ落ちていた。
祐一が驚いて佐祐理を見ると、彼女は口から何かを吐き捨てていた。それはフォルティの左手の指。佐祐理はフォルティの左手の指を噛みついた上に食いちぎったのだ。
佐祐理は口に付いた血を拭いながら祐一に笑みを見せた。
「佐祐理さん・・・!!」
祐一が笑みを返そうとした時、フォルティが佐祐理の背後に迫り寄り、その右手を振り下ろしていた。
ぱっと飛び散る鮮血。
佐祐理の髪の毛をとめていたリボンが宙に舞う。
「佐祐理さんっ!!」
祐一が叫ぶ。
「愚かな猿の末裔風情がよくも!!」
フォルティの怒りの一撃は容赦なく佐祐理の上に振り下ろされた。
また飛び散る鮮血。
「ウオオォォォォォォォォォッ!!」
祐一が怒りの雄叫びを上げる。その身体が雄叫びに呼応するかのように仮面ライダーカノンに変わっていく。
カノンは立ち上がるとフォルティに飛びかかっていった。
「貴様も一緒に・・・!?」
振り返りカウンター気味のパンチを繰り出すフォルティだが、カノンはその拳をあっさりと受け止めていた。そしてカノンはその拳を握りつぶす!
グシャッという音と共にフォルティの拳が砕ける。
「ギャアアアアッ!!」
悲鳴を上げるフォルティ。
カノンはぎゅっと拳を握りしめると、フォルティの胴にアッパーカットを喰らわせた。宙に浮くフォルティの身体。その場で素早く反転したカノンの後ろ回し蹴りが炸裂し、フォルティは為す術もなく吹っ飛ばされた。
カノンは吹っ飛んだフォルティを無視して佐祐理の側に歩み寄った。
「・・・佐祐理さん・・・」
声をかけると佐祐理は顔を上げてカノンを見た。
ニコッと笑顔を浮かべる佐祐理だが、苦しそうだった
「祐一さんに謝らないといけません・・・佐祐理は・・・」
「何も言わないで良いから!あの時は仕方なかったんだ・・佐祐理さんは何も知らなかったんだ・・・だから・・・」
カノンはまた祐一へと姿を変える。
祐一は泣きながら佐祐理を抱き起こした。
「それでも・・・祐一さんは傷ついたでしょう・・・だから佐祐理は謝らないといけないんです」
「俺は何とも思ってないよ・・だから・・・お願いだ、佐祐理さん、死なないでくれ・・・」
「あはは・・・佐祐理はもうダメです・・・でも悲しまないでください・・・佐祐理は・・・これで一弥に謝りにいけるから・・・」
そう言って佐祐理はそっと祐一の頬を手で撫でた。
「泣かないで・・・祐一さん・・・貴方にはまだやることがあるはずです・・・だから・・・」
「佐祐理さぁん・・・」
祐一は佐祐理の手に自分の手を重ねた。
止めどなく流れる涙。
それが佐祐理の頬に落ちる。
「・・・舞・・・そう、舞も行ってたんだ・・・じゃあ・・一緒に行こう・・・」
佐祐理はそれだけ言うと目を閉じた。
祐一の頬を撫でていた手から力が抜け、地面に落ちる。
「佐祐理さぁぁぁぁぁんっ!!!!」
絶叫が森を震わせる。
また一つの命が失われた。
しかも自分のせいで。
自分の親しい人が。
「ううう・・・」
俯き、涙を流し続ける祐一。
その背後にフォルティが忍び寄っていた。
右手はつぶされており、左手は指の数本が佐祐理によって食いちぎられている。のこるは牙。大きく口を開いて祐一の首筋を狙う。
と、いきなり祐一が振り返り、思い切りフォルティにパンチを食らわせた。パンチが直撃する瞬間、彼の身体は仮面ライダーカノンへと変身している。
吹っ飛ばされ、地面に倒れるフォルティ。今のパンチはフォルティ最後の武器である牙を砕き、更に顎の骨も粉砕していた。
カノンはゆらりと立ち上がると倒れているフォルティを見た。
「てめぇらのせいで何人死んだ・・・てめぇらの進化とやらのせいで何人殺されたぁっ!!」
怒りをこめた蹴りを倒れたままのフォルティに喰らわせる。
大きく吹っ飛ばされるフォルティ。
地面でバウンドし、倒れたまま動かなくなる。
そこはあの機械の固まりのすぐ側であった。
「ぐああ・・・マザー・・・お助けを・・・マザー・・・」
縋り付くように機械の固まりに手を伸ばすフォルティ。
だが、何の返答もない。
そこに爆音が響き渡った。
アーツランダーに乗ったカノンが猛スピードで突っ込んできているのだ。
振り返り、それを見たフォルティが青ざめる。
カノンは迷うことなくフォルティの方へと向かってきている。
アーツランダーのスピードも並じゃない。おそらく全開にして走ってきているのだろう、後ろには土煙さえ上がっている。
「う・・・うわぁぁぁっ!!」
フォルテが悲鳴を上げる。
アーツランダーはそれに構わず、フォルティにぶつかり、そのまま機械の固まりへと突進する。
ドカーンと言う音と共に機械の固まりの外側を崩して中に飛び込んでいくアーツランダーとフォルティ。
そこで急ブレーキをかけ、アーツランダーのカウル部分にへばりついていたフォルティを吹っ飛ばす。それを見たカノンがジャンプし、空中でフォルティに必殺のキックを食らわせる。
そのまま両者は中の壁をぶち破って隣の部屋へと飛び込んでいった。
床に叩きつけられ、大きくバウンドするフォルティとさっと着地するカノン。
「キャアアアッ!!」
いきなり悲鳴が上がった。
着地したままの姿勢でカノンが振り返るとそこには大勢の人の姿がある。
カノンは立ち上がろうとして、いきなり片膝をついた。
フラトおよびフォルティとの戦いでの疲労で、体力の限界に来てしまっているようだ。
フォルティは叩きつけられたままの姿勢で動かない。
それを見てようやくカノンは安心したかのように変身を解いた。
 
(終わったんだ・・これで・・・)
祐一は笑みを浮かべると最後の一踏ん張り、と言った感じで立ち上がった。
この場にいる人々は青ざめた顔で祐一をじっと見ているようだったが、彼はそんなこと気にしていなかった。
「・・・真琴・・・秋子さん・・・名雪・・・」
家族・・・そう、彼にとって家族の名を呼びながら祐一はふらふらと歩く。
その姿はぼろぼろであった。
革のジャンパーはもちろん、下に着ているジーンズ地のシャツも血にまみれ、変色している。それにあちこちに破れも目立っている。Gパンは右足の太股あたりに先程のフォルティによって傷つけられた跡があり、そこの周りも血に染まっている。
「・・・あ、相沢・・・なのか?」
聞いたことのある声が聞こえてきた。
祐一が足を止めると、そこには北川が居た。青ざめた表情で、怯えを必死に隠すかのように引きつった笑みを浮かべながら祐一の方を見ている。
「よお・・・無事だったか・・・」
祐一は無理矢理笑みを作った。
「お前は一体・・・」
北川がそう言いかけた時、祐一は周囲の自分を見る目が恐怖に彩られていることに気がついた。
(・・そうか・・・ここにいる人たちにとっちゃ俺もあいつらも一緒なんだよな・・・)
祐一はふっと自嘲的な笑みを浮かべると北川を見た。
「北川、頼みがあるんだが」
「お、おう・・・俺に出来ることならな・・・」
ちょっと怯えたような感じで北川は答える。
無理もないだろう。彼は普通の人で、祐一は怪人なのだから。
「多分この中に秋子さん達がいると思うんだ。探し出したら、俺は死んだって伝えておいて欲しい」
それを聞いた北川が驚きの表情を浮かべた。
「死んだってお前、まだ・・・」
「俺は死んだんだよ、北川。人間である俺は・・・ここにいる俺は・・・」
祐一はまた自嘲を浮かべる。
(そうだ。ここにいる俺はもう人間じゃないんだ)
周囲の視線が痛い。
この中にいる人々が祐一を人間だと認めてくれるとはとうてい思えない。
人が人にあらざる力を持った時、何の力も持たない人は力を持った人を恐怖と異端の目で見、自分達を脅かす存在として監視するか排斥するだろう。
(そうだ、このまま何処かにいっちまおう。香里、栞、舞、佐祐理さん・・・何処か静かな場所で供養してやって・・・)
そう思って天を見上げようとした時、彼の視界に一人の少女の姿が飛び込んできた。
「祐一!!」
会わなかったのはだいたい24時間と少しのはず。でも、今は懐かしく思える従姉妹の少女の姿。
「名雪・・・」
だが、祐一は彼女に背を向けた。
(今の俺に、名雪の側にいる資格はない・・・)
そう思って歩き出す。
「祐一さん」
今度は世話になっていた叔母の声。
祐一は足を止めた。
「・・・相沢祐一は死にました・・・」
一言そう言って逃げるように歩き出す。
「祐一は・・死なないの!!」
そう言って正面に回ってきた少女が居る。
「だって・・・ここにいるから!!」
理屈にならないことを言う少女。
沢渡真琴。
祐一にとって家族といえる居候で記憶喪失の少女。
祐一は足を止めざるをえなかった。
真琴が正面にいる。秋子と名雪がその側にまでやってくる。
「祐一・・・随分遅かったね」
名雪が声をかけてきた。
いつも通りにしたかったのだろうが、しかし、彼女の声は震えている。
「随分待ったんだよ。なかなか帰ってこないから」
そう言って名雪が祐一の背にそっと寄り添った。
「帰りましょう、祐一さん。家に帰って何かおいしいものでも食べてから話を・・・」
秋子がそこまで言った時、天井が開き、そこから銀色の球体がすーっと降りてきた。
それは重力を無視するかのように浮かびながら、倒れて動かないフォルティの上で停止する。と、いきなり銀色の球体はまるで液体のように広がり、フォルティを包み込んでしまった。
それを見た祐一は全身に戦慄を感じていた。
(まさか・・・終わって無いというのか・・・?)
銀色の球体がその形を元の球体に戻していく。そして、それは光を放ちながら人のような姿へと変わっていく。それはかつてフォルティ達が地球に戻る前にいた部屋の奥にいた異形の生命体。
それの異形の生命体は光を押さえながらゆっくりと着地する。その足下にはフォルティの死体などもう転がっていなかった。
「・・そう言うことか・・・」
祐一はようやく解った。商店街で倒したはずのリ・ピトー、スタカトの死体が消えていたわけを。この異形の生命体が吸収してしまったからだ。おそらくは森の中で死んでいるフラトも吸収されているのだろう。何処と無くこの異形の生命体にはカノンが必死になって倒した4体の怪人の面影がある。
「な、何よ、あんた!!」
真琴が異形の生命体を見て震えながらそう言った。
「我が名は・・・超越生命体オメガ」
異形の生命体、イヤ、超越生命体オメガはそう言って祐一を感情のない目でじっと見つめた。
「よくぞ我が配下たる進化生命体を倒した。貴様に我が配下となることを許そう」
オメガがそう言って祐一に向かって手を伸ばす。
「祐一・・・」
不安げに祐一を見る真琴と名雪。
祐一は自分の前にいる真琴の肩を掴むとそっと押しのけ、更に一歩前にでて、名雪からも離れた。
「祐一?」
名雪が声をかけてくるが祐一は答えない。
「相沢・・・」
北川も心配そうに見守っている。
他の人々も黙ってじっと様子をうかがっていた。
祐一がオメガのほうへと手を伸ばし、オメガの手を思い切りうち払った。
「冗談じゃねぇ!!誰がてめぇの配下に何かなるものか!!」
祐一が吠える。
オメガはうち払われた手を少しの間見ていたが、やがて感情のない声でこう言い放った。
「愚かな・・・後悔することになるぞ」
「お前らを許すわけにはいかねぇんだよ!!」
そう言って祐一がオメガに向かって飛びかかる。
だが、オメガは重力を無視してすーっと上に舞い上がり、祐一をかわしてしまう。
「配下にならないのなら・・脅威となる前に抹殺するのみ」
オメガはそう言うと、右肩にある小さな水晶から光を放った。
その光はレーザーとなり、祐一に襲いかかる。
とっさに床を転がり、レーザーをかわす祐一。
「北川!みんなを逃がせ!あいつのレーザーは危険だ!!」
床を転がり、次々と発射されるレーザーをかわしながら祐一が叫ぶ。
頷く北川。
「みんな、早く逃げろっ!!」
彼の声に今まで動こうともしなかった人々が我先に飛び出していく。
オメガはそれに構わず、祐一だけを狙ってレーザーを発射し続ける。
祐一は逃げる人とは出来るだけ反対の方向へと床を転がっていく。
(くそ!!変身する暇さえないじゃないか!!)
レーザーが祐一の左肩をかすめた。
革のジャンパーが焦げるイヤな臭いがする。
(だんだん狙いが正確になってきてやがる・・・くそ、これまでか!?)
祐一は片膝をついて起きあがると上空にいるオメガを見上げた。
と、その時だ。
誰かが投げた石がオメガに当たり、レーザーの狙いを狂わせたのは。
「やった〜!!当たった当たった!!」
そう言って喜んでいるのは真琴。
それを見た祐一は次にオメガがすることの予想が出来た。素早くダッシュする。
「・・・よくも・・・邪魔を!!」
オメガがレーザーを狙いを真琴につけ、発射する。
はっと真琴が気付いた時はもう遅い。
「真琴、危ないっ!!」
名雪がそう言って真琴の身体を後ろから抱き寄せる。
一発目はそれで何とかかわせた。
だが、オメガは二発目をすぐに発射する。
二人はもつれ合って転んでいたので二発目をかわすことは出来ない。
もうダメだと二人が目を閉じた時、祐一がレーザーと二人の間に立った。
「ぐあっ!!」
レーザーの直撃を受け、祐一が顔をしかめる。
その声に二人が目を開ける。
「祐一・・・?」
そこで二人は見た。
祐一の顔に無数の筋が入っているのを。そして額に浮かび上がろうとしている第三の目を。
言葉を無くす二人。
それを見た祐一は哀しげな笑みを浮かべる。
「お前だけには・・・見られたくなかった・・・」
さっと二人に背を向ける。
「これが今の俺だ。もう、昔の俺は何処にも居ない。昔の相沢祐一は死んだんだ!」
祐一は俯いてそう言い、ぐっと拳を握りしめた。
「あの怪物と同じ、これが本当の俺なんだ!」
オメガは黙ってその様子を見下ろしていた。
「大丈夫だよ」
不意に優しい声が聞こえた。
「どんな姿になっても祐一は祐一だから。ちょっと意地悪で、ちょっとひねくれてて、でも本当は優しい・・・私は祐一のこと大好きだよ・・・」
名雪は至って穏やかな表情を浮かべていた。
気を失っている真琴を抱きかかえたまま、名雪は祐一の背に向かって続ける。
「祐一が誰のことを好きかなんて知らないけど、でも、それでも私は祐一の側にいたい。祐一が私を見てくれるまで待っているから。たとえ祐一がどんな姿になっても、世界中の人が祐一のことを怖がっても、それでも一緒にいたいの」
「・・・愛の告白って・・・」
小さい声で祐一が呟く。
「男からするもんだと思って・・・それをさせちまうなんて・・・馬鹿だよな、俺は・・・」
「・・・祐一」
「俺もお前のこと、好きみたいだ。絶対にお前を守る。だからそこで見ていろ。俺の、変身!!」
祐一は最後まで名雪を振り返らなかった。
それでもいい、二人の心は通じ合ったのだから。
だからこそ、祐一は名雪の目の前で変身して見せた。
初めて自分の意志で。
守りたいものがあるから。
命をかけても守りたいものがあるから。
絶対に負けないと言う思いを胸に。
勝つと信じてくれている少女の思いを胸に。
死んでいった人々の無念を胸に。
今、仮面ライダーカノンが変身を完了する!!
全身を緑色の光沢のある外骨格のような第二の皮膚で覆った戦士の姿。
中にいるオメガを見据えながらカノンはゆっくりと身構える。
オメガはゆっくりと床に降り立ち、カノンを見据えた。
「貴様は・・・」
すっと右手を前に伸ばしながらオメガが言う。
「仮面ライダーカノン!!」
ビシッとポーズを決めてカノンが名乗りを上げる。
その姿は確かに仮面ライダーそのものであった。戦うことを決意し、全てを守ることを決意した戦士の姿がそこにある。
「お前など・・・敵にすらならん・・・そのことを教えてやろう・・・」
オメガは余裕たっぷりにそう言い、一歩前へと踏み出した。
それを見たカノンがその場から駆け出す。
オメガの右肩のクリスタルから放たれるレーザーの威力は馬鹿にならない。事実、先程背中に受けたレーザーの一撃はかなりのダメージを残している。それでもカノンが動けるのは名雪のため。彼女を守るためになら何度でも立ち上がることが出来る。そしてあのレーザーが再び名雪達を狙うことがないようにあの右肩のクリスタルは確実に破壊する必要があった。
その為カノンが選んだのは接近戦。接近するまでにレーザーの直撃を食らう可能性は高いが接近してしまえばレーザーを封じることは出来る、そう考えたのだ。
オメガはまた肩のクリスタルからレーザーを発射した。
それを右に左にかわしながらカノンはどんどんオメガに接近していく。
「うりゃぁぁっ!!」
雄叫びを上げながらオメガに肉迫し右拳をオメガの右肩のクリスタルに叩きつけるカノン。
パリーンと言う音と共にクリスタルが砕け、同時に吹っ飛ばされるオメガ。
壁に叩きつけられたオメガを見て、カノンが駆け寄り、さらなる攻撃を加えようとする。だが、オメガの側まで来たカノンはいきなりレーザーの直撃を受け逆に吹っ飛ばされていた。
「うわっ!!」
床に叩きつけられたカノンだが、すぐに身を起こすとオメガの方を見た。
オメガは壁から離れてカノンの方にゆっくりと歩き出している。その右肩のクリスタルは割れたはずなのにもう再生していた。
「・・・どうした・・・私を倒すのではないのか?」
ゆっくりと歩くオメガ。その姿は自信に満ちあふれている。この地球・・・イヤ、この宇宙に自分を倒すことの出来る者などいない・・・そう言った自信がオメガの全身から放たれている。
カノンは胸の受けたレーザーの跡を見、それほどのダメージを受けていないことを理解すると素早く立ち上がった。そして身構える。
迫り来るオメガに向かって飛びかかりパンチを食らわせようとするがすっとそれをかわすオメガ。着地すると同時にカノンは身体を反転させながら肘をオメガに喰らわせようとするがそれも上体を逸らすだけでかわされてしまう。
互いに向き合う形になったカノンとオメガ。一瞬だけ睨み合い、またカノンが動く。鋭い前蹴り。それを手で払いのけ、オメガのパンチがカノンを捕らえる。
強烈なパンチを受け、よろけるカノンだがそれでも反撃のパンチを繰り出す。
そのパンチを右手で受け止め、オメガはカノンを投げ飛ばした。
床に叩きつけられるカノン。
それを見て悲鳴を上げる名雪。
「祐一!!」
その声を受けてカノンが起きあがる。
だが、そこにオメガが飛びかかって来、膝をカノンの腹にたたき落としてきた。
「ぐはっ!!」
思い切り息を吐くカノン。
オメガは立ち上がるとカノンを持ち上げ、そのまま床へと叩きつけた。そして更に倒れたカノンを蹴り飛ばす。
吹っ飛ばされ、床を転がるカノン。
「・・・なんなんだ・・あいつは・・・今までの奴とは違いすぎる!!」
素早く起きあがりながらカノンが呟く。
オメガは悠然とカノンの方を見ている。
「それでも・・・」
ゆっくりと立ち上がるカノン。
「俺は・・・俺は・・・負けられないんだ!!!」
そう言い、カノンはオメガに向かって走り出した。
「愚かな・・・折角進化した力を得たというのに・・・」
オメガはそう言って右手をカノンの向けてすっと伸ばした。同時に発射されるレーザー。
「ハアァァァァァッ!!」
気合い一閃、レーザーを手でうち払うカノン。
そのままオメガに一気に接近しそのボディに強烈なパンチを食らわせる。身体を九の字に曲げ、オメガの身体が宙に浮く。そこに左の肘を叩き込み、思い切り振りかぶった右のパンチ。
吹っ飛ばされるオメガだが今度は倒れない。床の上を滑り、ぐっと踏みとどまる。
そこにカノンのジャンプキック。
胸にその一撃を食らい、今度こそ吹っ飛ばされ、壁に二度目の激突をするオメガ。
片膝をついて床に着地したカノンがオメガを見る。
オメガは壁に叩きつけられたまま動かない。
「・・・やったのか・・・?」
立ち上がるカノン。
オメガに背を向け名雪達の方を振り返ろうとする。
「祐一!後ろ!!」
名雪の絶叫。
カノンが振り返ると、オメガが目前にまで迫ってきていた。ショルダーアタックをまともに喰らい、倒れるカノン。
オメガは倒れたカノンを見るとまた飛びかかっていった。
それに気付いたカノンは両足を突き出し、オメガを受け止める。そしてそのままオメガを押し返し、反動をつけて起きあがる。
押し返され、よろめいているオメガに向かって飛びかかり、その首筋に首刀をたたきつける。だが、オメガはその首刀を受け止め逆にひねり上げる。
「ぐああ・・・」
うめき声を上げるカノン。
そのがら空きになった腹にオメガの膝が叩き込まれ、今度はカノンが身体を九の字に折り曲げる。そこからオメガは物凄い力でカノンを投げ飛ばした。
今度はカノンが壁に叩きつけられる。
そこにオメガがレーザーを発射する。
しかも何度も、念入りに。
カノンの周りにレーザーが着弾し、次々と爆発が起こり、煙がカノンの姿を覆い隠す。
「祐一ぃぃっ!!」
切なそうな名雪の叫び声。
「ああ・・・」
思わず顔を伏せてしまう名雪。
あれではきっと助からない。折角二人の思いが通じ合ったのに。もう祐一は自分の側から居なくなってしまう。
それが哀しくて、信じたくなくて、思わず目を閉じてしまう。
オメガは一頻りレーザーの雨をカノンに向けて降らせた後、ゆっくりと名雪の方へと振り返った。
「心配するな。お前もすぐ後を追わせてやる・・・」
そう言ってオメガが右手を名雪の方に向けて伸ばす。
今正にオメガの右肩からレーザーが放たれようとした時、背後の煙の中からカノンが飛び出してきてオメガの背中に飛びついた。その後頭部に肘を叩き込みながらカノンはそのままオメガを押し倒す。
カノンはそのまま床を転がり素早く身を起こすが、オメガは倒れたままだ。
名雪達の前に立ち、カノンが両手を広げる。
「名雪達に手を出すな!お前の相手は俺だけだ!!」
そう言い、倒れたままのオメガに向かって駆け出す。
起きあがろうとしているオメガに蹴りを食らわせ、身体を浮かせ、右のフック。よろけたところにまたパンチ。カノンの猛攻がオメガを徐々に追いつめていく。
「食らえっ!!」
渾身の力を込めた右のパンチ。
それがオメガの顔面を捕らえた。錐もみ回転をしながら床に叩きつけられるオメガ。
「ハァハァハァ・・・」
荒い息をし、肩を大きく上下させながらカノンは片膝をついた。
流石に限界であった。
朝からフラト、フォルティと連続で戦ってきた上にフォルティには想像以上のダメージを喰らわされている。それにオメガとの戦いでもかなりのダメージを受けているし、何より、体力の限界であった。
今の一撃は今彼が出せる限界一杯の力を込めた一撃である。これでオメガを倒せないならもう勝ち目はない。それほどの一撃だったのだ。
「立つな・・・立つなよ・・・」
カノンの姿が祐一のものへと戻っていく。
不安と恐怖、期待と願いをこめて祐一が呟く。
オメガは動かない。
徐々に安堵の色が祐一の顔に広がっていく。
その時、いきなりオメガが立ち上がった。
「な・・・?」
安堵の表情が一点驚きの表情が祐一の顔に広がった。
立ち上がったオメガの身体にはまるでダメージが残っていなさそうだった。そう、まるでリ・ピトーのようにダメージが回復しているようだ。
「・・そう・・・言うことか・・・」
祐一は苦笑を浮かべた。
どうしてオメガが今まで祐一が、カノンが倒してきた怪人の死体を吸収していたかこれで完全に理解出来たからだ。
おそらくオメガは吸収した怪人の持つ特殊能力をも吸収出来るのだろう。今のはリ・ピトーの回復能力。他にもスタカトの防御能力、フラトの飛行能力、フォルティの戦闘能力をも持ち合わせているに違いない。
これでは一度にあの4体の怪人と戦っているのと同じ事だ。元々勝ち目はなかったのかもしれない。
オメガが祐一に向かって一歩一歩迫ってくる。
祐一は全身を襲う酷い疲労感に動くことすら出来なかった。
(・・・ここまでか・・・俺は・・また守れないのか・・・香里、栞、舞、佐祐理さんと同じように・・・名雪と真琴を・・・ここで死なせてしまうのか・・・?)
悔しげに顔をしかめる祐一。
だが、それでも体は動かない。
「ここまでだな・・・自分の力の無さを、愚かさを呪うが良い」
オメガがそう言って右手の平から光の剣を伸ばした。それを祐一の方に向け、オメガはにやりと笑う。
「フッ・・・死ぬが良い・・・」
オメガの手から光の剣が飛ぶ。それはフラトの針が射出されるのと同じように。一直線に祐一に向かって飛ぶ光の剣。
名雪がまた顔を背ける。
今度こそダメだ。あれをかわす力は今の祐一にはない。今度こそ、本当に祐一が死んでしまう。
そう思った時、誰かが名雪の脇を駆け抜け、祐一の前に立ち、彼をかばうかのように両手を広げた。
「え!?」
驚きの声が名雪の口から漏れる。
ほんの一瞬の出来事。
祐一は自分の前に立ったのが誰かすぐに理解出来た。
「あゆっ!!」
必死に叫ぶ。
「祐一君は死なせないっ!!」
そう、祐一と光の剣との間に飛び込んできたのはあゆであった。
どうしてここまでやって来たのか。何故ここまでやってこれたのか。そんなことはどうでもいい。今解ることは、あゆが祐一の前に立ち、彼をかばっていると言うこと。そして、光の剣があゆの胸を貫いた。
ばっと飛び散る血。
その血は祐一の顔にも飛び、彼の顔を濡らす。
「あゆちゃんっ!!」
名雪が叫ぶ。
祐一は呆然としたまま動くことすら忘れたように目の前で倒れるあゆの姿を見ていることしか出来なかった。
「・・・あゆ・・・どうして・・・?」
祐一は目の前で倒れているあゆを見て呆然と呟く。
あゆは祐一の方を見て微笑みを浮かべた。
「言ったでしょ・・・祐一君は死なせないって」
「だからって・・・どうしてお前が・・・」
祐一はあゆのそばにまで膝をついたまま移動する。
彼女の胸に刺さった光の剣は何時しか光を失い、消えている。だが、そこに出来た傷はそのままだ。どくどくと血が流れ落ちている。その血が床にも流れ落ち、広がっていく。
それを見た祐一の脳裏に、ある光景がフラッシュバックされる。
そう、あれは7年前の冬。
彼は同じような光景を目にしている。
地面に倒れ、ゆっくりと広がっていく赤い血。もちろん倒れているのはあゆ。
そしてそれを泣きながら見ていることしか出来なかった自分。
また繰り返される悲しみ。
「あゆっ!!」
あの悲しさを繰り返したくない。
祐一はあゆを抱き起こした。
「ダメだ!死ぬな!死ぬんじゃない!!」
「ダメだよ・・祐一君・・・無理言わないで・・・」
哀しげな笑みを浮かべるあゆ。
「それにね・・・ボク、本当だったらもう死んでいたんだよ・・・あの・・・7年前のあの日に・・・」
「・・・!!どういう意味だよ、それ!?」
「覚えてる、祐一君?あの日のこと・・・?」
あゆの言葉に祐一は首を縦に振った。
「ああ・・・思い出した・・・」
「あの時、ボクは助かることはなかった・・・本当なら助かることはなかったんだよ・・・でも・・」
「お前は助かった・・・そうだな?」
祐一の言葉に頷くあゆ。
「ボクは一度死んだんだよ・・・ボクの言っている意味、解るよね・・・」
あゆのその言葉に祐一の顔に驚きの色が広がった。
「・・・どういう意味だ?」
「お前達の身体には種子がとりついているのだ」
オメガが二人を見下ろしながら言った。
「種子?」
祐一がオメガを見上げる。
「7年前、我らの宇宙船がこの星のそばに通りかかった時、マザーが降らせておいたのだ」
「そしてその種子の力でボクは助かった・・・」
あゆがオメガの後を受けて続ける。
「種子はとりついた人の身体を守る。発芽するまで大事な宿主だからな。もっともそこの女の身体にとりついた種子は力を使い果たしているようだがな」
「ボクは・・本当にあの時死ぬはずだったんだよ・・・でも、あの時種子が降ってきて、ボクにとりついたおかげでボクはどうにか生きることが出来た・・・」
「つまり種子の本来の力は全てお前の傷を治すために使われた、と言うことか・・・」
祐一はあゆの身体をそっと抱きしめる。
「発芽することなく力を失った種子・・・フッ、進化出来なかったと言うことか。素質を持ちながらも惜しいことだ」
オメガがそう言って笑う。
祐一はそんなオメガを睨み付けた。
「黙れぇ!!てめぇが・・・てめぇがやったんじゃねぇかっ!!」
「フッ・・・お前にも種子がとりついているというのに・・・我に刃向かうとは愚かなことだ」
「・・・どういう事だ・・・?」
「まだ気がつかないのか?貴様が変身出来るのは種子が発芽しているからに他ならないのだぞ?」
「なっ・・」
オメガの言葉に祐一は自分の言葉を失った。
まさか・・・自分が仮面ライダーカノンに変身出来るのは・・・奴らが7年前に降らせた種子のおかげだというのか?
「種子が発芽する・・・それは進化の始まり。今までの進化していない状態とは明らかに違う力を得ることが出来るのだ」
「人にあらざる力・・と言うことか・・・それが・・進化だというのか・・・」
祐一が呟く。
「こんな力が・・・進化だというのか・・・お前らは・・・こんな・・・こんな・・・」
ぐっと拳を握りしめる祐一。
敵の力によって生かされ、そして対抗する力を身につけ、しかし、それは敵が望んだこと。
だが・・・進化出来ない・・そんな奴らの一方的な理由で殺された人々がいる。
そして、今も目の前であゆが死にかけている。
それを許すことは出来ない。
しかし・・・。
「祐一君・・・」
弱々しい声であゆが語りかけてくる。
力のない動きだが、それでも祐一の頬を手で撫でる。
「戦って・・・その力は確かにあいつらが与えたものだけど・・・祐一君は一度死んで・・・生まれ変わったんだ・・・」
あゆの手がいつの間にか流れ出していた祐一の涙を拭う。
「泣かないで・・あの時と一緒だよ、これじゃ・・・祐一君は強くなったんでしょ?」
「俺は・・俺は強くなんか無い・・・強くなんか無いよ・・・」
「ダメだよ・・名雪さんを・・・守るんでしょ?だったらここで泣いている暇はないよ・・・あいつを・・倒して・・・」
あゆがオメガを見る。
オメガは余裕たっぷりで二人を見下ろしている。
「ボクは・・・」
あゆが再び祐一を見る。
「祐一君のことが好きだよ・・・誰にも負けないくらい好きだよ・・・でもね、名雪さんになら負けても良いって・・・祐一君を任せても良いって・・・」
「あゆ・・お前・・・」
祐一はあゆを見る。
あゆはにこりと力無い微笑みを浮かべた。
「名雪さんを守ってあげて・・・ボクは・・・いなかったんだよ・・7年前のあの日に死んだんだよ・・・だから・・・」
「何言ってんだよ!お前は今ここに、俺の腕の中にいるじゃないか!」
泣きながら祐一が言う。
彼のやや後方では名雪も泣きながら顔を背けていた。
「ボクのことは忘れて・・・気にしなくて良いから・・・だから名雪さんを守ってあげて・・・あいつを倒して・・・」
そう言ってあゆがオメガを指さす。
「これが最後のお願いだよ・・祐一君・・・名雪さんを守って、あいつを倒して・・・祐一君になら出来る・・・祐一君にしか出来ないお願いだから・・・」
そう言ったあゆの手ががくりと落ちた。
「あゆっ!!」
祐一が一際大きい声であゆを呼ぶが、彼女はもう返事すらしない。瞳を閉じ、何か安心したかのようにあゆの顔は安らかだった。
祐一は顔を伏せる。
涙が止まらない。
また、自分の前で一人死なせてしまった。
また、自分を助けるために一人の命が失われた。
また、助けることが出来なかった。
また、自分の親しい人が。
また、自分を好きだと言ってくれた人が。
祐一の胸にやるせない悲しみが渦を巻く。その悲しみは怒りを呼ぶ。怒りは憎しみを呼ぶ。憎しみが炎となり、その矛先をオメガに向ける。
祐一の全身に怒りの炎が充満した。
抱きかかえていたあゆの身体を床に降ろし、ゆっくりと立ち上がる。
その身体には先程までの動けない程の疲労の色は見受けられない。
「ウオォォォォォォォッ!!」
天に向かって雄叫びをあげる祐一。
名雪はそんな祐一の背に悲しみを見ていた。
「あゆちゃん・・・」
そっと床の上に横たわっているあゆの側に行く。
「祐一・・あゆちゃんの仇・・・絶対にとって!」
まだ天に向かって吠え続けている祐一に向かって名雪は泣きながら言う。
「絶対に、絶対にあいつを倒して!それが・・あゆちゃんとの最後の約束だから・・・絶対に!!」
名雪の言葉に祐一は頷いた。
「名雪・・・あゆを頼むぞ・・・」
そう言って駆け出す祐一。
「変・・・」
走りながら、オメガに迫りながら、彼は精神を集中させる。
脳裏に浮かぶのは今までに死んでいった人の顔。彼が親しくしていた彼女たちの顔。
「・・・身っ!!」
祐一の姿が変わる。
怒りのままに、赤く染まった仮面ライダーカノンに。
それを見たオメガの顔に驚きの色があった。
「なんだと・・・?更に進化したというのか!?」
慌てたように肩からレーザーを放つ。
だが、カノンはかわすことなく、それを真っ正面から受けて立った。レーザーがカノンの身体に直撃するが火花を散らしただけであった。
続けて何度もレーザーを発射するオメガだが、カノンは止まらない。レーザーはカノンの身体に当たっては火花を散らすだけで少しもダメージを与えてはいない。
その間にもカノンが接近し、走りながら勢いをつけたパンチがオメガを直撃し、吹っ飛ばした。今度は半端ではない威力である。
吹っ飛ばされたオメガは壁にぶつかり、更にその壁をも吹っ飛ばした上で表に叩き出されたのだ。
まだ雪の残る地面に叩きつけられ、もがくオメガ。
それを追ってカノンも表に出てきた。
「お、おのれ・・・・」
オメガは立ち上がると先程あゆの命を奪った光の剣を手に生やした。
「これならば!!死ね!!」
光の剣がオメガの手から発射される。
だが、カノンはそれをよけようともせず、首刀で払い落としてしまう。そしてジャンプ。宙を舞いながらカノンのキックが何度もオメガに叩き込まれていく。
またも為すすべなく吹っ飛ばされるオメガ。
「な・・なんだというのだ、奴のこの力は・・・?」
オメガは起きあがりながらカノンの戦闘能力に驚きを感じていた。
先程まで・・・緑の時のカノンの戦闘能力はそれほどでもなかった。しかし、今の赤いカノンは違う。回復能力が追いつかない。防御能力が役に立たない。確実に身体が破壊されている。この、超越生命体の自分の身体が!
「そんなはずはない!!」
そう言って立ち上がるオメガ。しかし、ぐらりとふらついて、片膝をついてしまう。
「ま、まさか・・・この超越生命体である私が片膝をつくなど・・・」
自分のしたことに驚きの声を上げるオメガ。
その前にカノンが現れる。
はっとオメガが気付いた時はもう遅い。
顔面に叩き込まれるカノンの膝蹴り。雪の上を吹っ飛ばされるオメガ。
「貴様には解らないだろうな・・・俺がどうして今まで以上に強くなったかなんて・・・」
カノンはそう言いながらオメガの側に歩み寄る。
オメガが顔だけを上げてカノンを見る。
「俺は・・・絶対に負けられない理由がある・・・お前達に殺された人の無念を背負っている限り・・・俺は絶対に負けない!!」
そう言ってカノンは起きあがったばかりのオメガを殴り飛ばした。
またまた宙を舞うオメガ。
「ぐうう・・・貴様如きに・・・・」
地面に手をつき、起きあがりながらオメガが呻く。
「この超越生命体が!貴様如き!進化したばかりの猿に負けるはずがない!!」
オメガはそう言って一気に立ち上がると左手の指先を伸ばした。そこが変形してナイフのようになる。
「これでも食らえ!!」
さっと下から斜め上へと切り上げる。
カノンの胸が斜めに切り裂かれ、そこから血が噴き出す。
二、三歩よろめき後退するカノン。だが、踏みとどまり、ぐっと拳を握りしめ、右のパンチ。同じ手を素早く返して裏拳。左でのボディへのアッパー。その場で軽くジャンプしてのキック。
その全てを喰らい、オメガは吹っ飛ぶ。
「何故だ・・・理解不能・・・理解不能・・・・理解不能・・・」
壊れた機械みたいに同じ言葉をはき続けるオメガ。
その身体中から火花が散っている。ぴくぴくと痙攣さえ起こしている。
だが、それでも何とか立ち上がるオメガ。
「理解不能・・・理解不能・・・」
その様子は明らかにおかしい。
カノンはそれに構わずジャンプした。
「ライダァァァァァァァァパァァァァァンチッ!!」
空中から全体重を乗せたパンチ。
着地し、再びジャンプ。
空中で一回転し・・・。
「ライダァァァァァァァァキィィィィィィィィックッ!!!!」
怒り、憎しみ、悲しみ、彼が背負った全てをこめて、今必殺のキックがオメガに炸裂する!!
カノン渾身のライダーキックを胸に受け、吹っ飛び、機械の固まりに叩きつけられるオメガ。
「ガァァ・・・奴は・・・・何だ・・何だというのだ・・・」
その言葉を最後にオメガの身体は大爆発を起こした。
着地したカノンはその爆発を見上げるとゆっくりとその変身を解いていった。
祐一の姿に戻り、笑みを浮かべる。
今度こそ終わった。この機械の固まりは奴らの乗ってきた宇宙船。後は警察とかに任せればいい。安堵の笑みがこぼれる。
と、その時、すっと膝の力が抜け、彼はその場に倒れ込んだ。
今度こそ限界が来たようだ。
それでも地面に手をついて起きあがる。
その肩を誰かが掴んだ。そして彼に力を貸すように彼の肩の下に自分の肩を入れて起きあがらせる。
祐一は自分に肩を貸している人物を見て驚いた。
「北川・・・」
「俺たちは親友だ・・・そうだろ?」
北川はそう言うと、片目をつぶって見せた。
「・・・そうだったっけ?」
祐一がからかうようにそう言う。
「あ、そう言うこと言うんなら肩貸してやらないぜ?」
「冗談に決まってるだろ・・・」
そう言って笑い出す二人。
周囲にはまだ沢山の人がいた。中には秋子や美汐の姿もある。
二人に気がついた祐一は開いている方の手で親指を立てる仕草・・・いわゆるサムズアップ・・・をして見せた。
それを見て頷く秋子。美汐は少々照れながらも同じ仕草を返してきた。
「祐一っ!!」
後ろから声が聞こえた。
振り返ると名雪が真琴を連れて機械の固まりから外に出てきていた。
「終わったぜ・・・名雪」
祐一が微笑みを浮かべながらそう言う。
真琴は美汐の姿を見ると彼女に向かって走り出した。
それを見た名雪も祐一に向かって走り出す。
「祐一っ!!」
「名雪っ!」
名雪が手を伸ばす。
祐一がその手を受け止めるために自分の手を伸ばし、二人の手が触れ合おうとしたその瞬間!

































突如天から降り注いだ光の槍が名雪の胸を上から下へと貫いた!!

































祐一の目の前で・・・ばっと血の花を咲かせながら・・・地面に倒れていく名雪。
「な・・・名雪ぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」
祐一は北川から離れると名雪の側に駆け寄り、跪いて彼女を抱き起こした。
「なぁ・・嘘だろ・・・どうしてなんだよ・・・終わったんじゃないのかよ・・・」
北川が二人を見ながらそう呟く。
秋子や美汐、それに真琴は何が起こったのかすら解らなかったように呆然としていた。
「名雪・・・名雪・・・名雪・・死ぬな・・死なないでくれよ・・・」
祐一は名雪を抱き起こしながら涙ながらにそう訴える。
「・・・ゴメン・・・祐一・・・」
苦しそうに名雪が答える。
「俺は・・お前を守るために・・・あゆともそう約束したんだ・・だから・・・死なないでくれよ・・・」
子供のように、泣きながら祐一は言う。
「泣かないで、祐一・・・泣いちゃダメだよ・・・」
そう言う名雪の目からも涙がこぼれ落ちていた。
「祐一が帰ってきてくれて・・・ほんの少しの間だったけど・・・私、毎日が嬉しかったし・・・楽しかったよ?」
「やだよ・・・そんなこと言うなよ・・・これから、もっと楽しい日を・・思い出を作るんだ・・・お前と一緒に・・」
「大丈夫だよ・・・祐一は強いから・・・あんな怪物にだって勝てたじゃない・・・だから・・大丈夫・・・」
「俺は・・・俺は・・・強くなんか無い!!」
「祐一・・・ほんの少しの間だったけど・・思いが伝わって・・・嬉しかったよ・・・だから・・・私のことは良いから・・・みんなを・・お母さんとか真琴を・・・」
「イヤだ、イヤだ、イヤだ!お前がいないなんて、俺はイヤだ!!」
「祐一・・お願い・・みんなを・・・助けてあげて・・・」
そう言った名雪の顔はまるで天女のように美しかった。
そっと泣いている祐一の頬を撫で、そして祐一の顔を自分の方に引き寄せる。
重ねられる唇。
「ゴメンね・・・これが・・・最初で・・最後のキスで・・・」
そう言って微笑みを浮かべる名雪。
祐一は涙に濡れる目でもう名雪の姿が見えなくなっていた。
すっと祐一の肩に回されていた手が地面に落ちる。
その瞬間、祐一は慟哭した。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
名雪をきつく抱きしめ、もう何も言わない最愛の少女の身体の体温を逃がさないように、だが、それでもまるですり抜けていくように彼女の身体は冷たくなっていく。
折角・・・折角思いが通じ合ったというのに!
これからだというのに!
まだ何も始まって無いというのに!
最愛の少女はもういない。
もうこの世には存在しないのだ。
祐一はただその場で名雪を抱きしめながら泣き続ける。
そんな彼を見下ろすように重厚な、機械的な音声が響き渡った。
『ヨクモ我ガ息子達ヲ滅ボシテクレタ。オ前達ニ新タナ進化ノ機会ヲ与エヨウト思ッテイタガ取リヤメダ。コノ星ノ知的生命体ハ全テ抹殺スル』
その声と共にまた光の槍が降り注いだ。
その光の槍にまだ近くにいた人々が次々と串刺しになっていく。だが、不思議なことに祐一達の周りは何故か無事だった。
秋子は真琴、美汐を連れて祐一の側に駆け寄った。
祐一はまだ名雪を抱いたまま泣いている。
「祐一さん・・・哀しいのは解ります。でも今は悲しんでばかりじゃいけません」
秋子が祐一の側にしゃがみ込みそう言う。
「戦えるのは貴方だけなんです。貴方が止めないとこの星は滅ぼされてしまうんです」
だが祐一は答えない。
また光の槍が降り注いだ。
犠牲者が増えていく。
「祐一さん、立って、戦ってください。貴方だけが頼りなんです」
「・・・ダメですよ・・・」
ぼそりと祐一が答える。
「俺はもう戦えない・・・もうこの世の何処にも名雪はいない・・・名雪を守る・・そう決めて必死に戦って・・・でも・・・もう名雪は死んでしまって・・・」
虚ろな目をして祐一は言う。
その目が一体何処を見ているのかは誰にも解らないだろう。
「俺は・・誰も守れなかった・・・香里も、栞も、舞も、佐祐理さんも、あゆも、名雪も・・・誰一人守ることが出来なかった・・・何をやってももう無駄なんだ・・・」
「そんなこと無いです!相沢さんは私や真琴を助けています!」
美汐がそう言うが彼は首を左右に振る。
「ダメだよ・・・もう・・・あいつらには勝てない・・俺は・・・もう疲れたんだ・・・このまま・・そっとしておいてくれ・・・」
祐一がそう言った時、秋子が彼の頬を張り飛ばした。
一瞬誰もがえっと言う顔をして秋子を見た。
頬を打たれた祐一が、頬を手で押さえて秋子を見る。
彼女の目には涙が溢れていた。
「今の貴方に・・・名雪を任せることなんか出来ません!」
そう言って秋子は祐一を突き飛ばし、名雪を抱きかかえた。
「今の貴方は名雪が好きになった祐一さんじゃありません!みんなが好きなった祐一さんじゃありません!今の貴方はただのいじけ虫で・・・弱虫で・・・馬鹿です!」
秋子が泣きながら言う。
祐一はなにも言い返さない。
「今の貴方は・・・誰も好きになる資格なんか無いです!ただ・・目の前の現実を受け入れたくなくて・・・逃避していて・・・流されようとしていて・・・そんな人、名雪が・・・好きになるわけないんです!」
秋子はぎゅっと名雪を抱きしめる。
「この子は私の子です!だから・・・解るんです!!」
祐一はその時、初めて秋子を見た。
その表情は・・・まるで幼子のようで。
「俺だって・・俺だって・・・」
祐一は泣く。
子供のように。
「悲しいのは解ります。でも、私だって悲しんですよ、祐一さん。何と言っても私の子ですから」
今度は諭すように秋子は言う。
「でも・・・今は悲しむより先に、この子の願いを叶えてあげてください」
「名雪の願い・・・?」

『みんなを助けてあげて』

名雪の声が祐一の脳裏にフラッシュバックされる。
「そう、名雪が貴方に託した最後のお願い・・・それを叶える必要が貴方にはあるはずです」
優しい声。
祐一は俯いてしまう。
名雪の最後のお願いを俺は聞いてやらないといけない。だが・・今の俺に・・・。
「立ちなさい、相沢祐一。そして行くんです。この子の・・・この子が好きだった相沢祐一なら、きっと・・・約束を破ることはしないはずですから」
秋子が厳しい口調で言う。
それを受けて、祐一は俯いたまま立ち上がった。
「そう・・・約束だ・・・」
舞と栞にも約束した。
佐祐理さんにも約束した。
あゆにも。香里にも。
そして何より名雪にも。

『約束を破ったら針千本だよ』

子供の頃かわしたそんな約束。
「・・・針千本はイヤだからな・・・」
苦笑してそう呟く祐一。
そして北川の方を振り返る。
「秋子さん達を任せた。俺はこの機械の化け物をぶっ潰してから戻る」
そう言った祐一の目には決意の色が浮かんでいた。
「任せておけ。でも・・帰って来いよ。約束だからな」
「男との約束は果たす自信ないけどな・・・」
北川にそう答え、祐一は真琴を見た。
「真琴、秋子さんに迷惑かけるなよ。名雪がいなくなった今、お前が秋子さんを支えないといけないんだからな」
「・・・祐一?」
真琴は驚いたように祐一を見た。
「それってどういう・・・」
「天野、真琴をよろしく頼む」
「約束しました。だから・・・」
祐一は美汐の言葉を最後まで言わせないように秋子を見て言った。
「行って来ます、秋子さん。帰ったら・・おいしい晩ご飯、楽しみにしていますね」
「ええ・・・温かいシチューでも用意しているわ。それに・・・私は信じます・・・祐一さんが祐一さんであることを」
「ありがとうございます」
祐一は小さく頷くと、その場から走り出した。
「・・・祐一・・・もう帰ってこないつもりなの?」
真琴がそっと目から涙をこぼしながら呟いた。
「帰ってきます・・・祐一さんは・・・」
そんな真琴をそっと抱き寄せ、秋子も涙を流しながら走り去っていく甥っ子の後ろ姿を見守っていた。
 
祐一は機械の固まりの中に飛び込むとずっとおいてあったアーツランダーに跨った。
「行くぞ、相棒・・・こいつをぶっ壊すんだ!」
アクセルを回し、エンジンを吹かす。
「これで最後だ・・・変身・・・・!!」
祐一の姿が緑の仮面ライダーカノンに変わる。そしてそれを待っていたかのように走り出すアーツランダー。
「こいつをあちこちぶっ潰していたらきりがない!中枢部を破壊するぞ!」
カノンがそう言い、それに答えるかのようにアーツランダーのエンジンが吠える。
次々と壁を砕きながら進むアーツランダー。
やがて、かなり広い通路にでたアーツランダーとカノンはその先に物凄い邪気を感じた。
「この先か・・・行くぞ、相棒!!」
カノンがアクセルを回す。
アーツランダーが通路の奧、分厚い扉をぶち抜いた。
そこはかなり広い部屋。
その中央には巨大な脳のようなものが浮かんでいる。脳の周りからは触手のように伸びた白い糸が部屋のあちらこちらに張り巡らされていた。
「これが・・・マザーだというのか?」
カノンはアーツランダーから降りながらそう呟いた。
と、その時、いきなり白い触手がカノンに襲いかかった。
触手はカノンの両手両足、首、胴に巻き付き、彼の体の自由を奪う。
「しまった!!」
「愚かな猿の末裔が・・・進化した力を持ってわが子達を滅ぼした・・・決してゆるさん・・・」
外で聞こえていた機械的な声ではない。
もっと生身な声がカノンの耳の飛び込んできた。
「くっ・・・何処だ!?」
カノンが何とか左右を見回すが脳以外に何も見えない。
「まさか・・・お前が!?」
脳を見て、カノンが言う。
「我が名はマザー・・・宇宙中の知的生命体に進化の機械を促す存在・・・かつてこの星に来た時、猿に進化の力を与えたのも我・・・」
マザーは言う。
「この星の知的生命体となったヒト・・・しかし既に進化に行き詰まってしまった存在・・・だから我は新たな進化の機会を与えるためにやってきた」
「ふざけるな!俺たちは貴様なんかに進化させて貰う必要なんかねぇ!!」
カノンが身体に巻き付いた触手を振り払おうともがきながら言う。
と、いきなり触手に電流みたいなのが走った。
「ぐああっ!!」
全身に走る激痛。
「愚かな猿の末裔・・・貴様はいわば神に刃向かっているのだ・・・」
再び電流が走り、カノンを痛めつける。
「神に逆らう愚かさを知るが良い」
今度は触手が物凄い早さで動いた。
この部屋の壁に何度も叩きつけられるカノン。
「ぐわぁっ!!」
カノンの悲鳴が部屋中に響く。
やがてカノンはぐったりと動かなくなってしまった。
「この星の知的生命体は全て滅ぼす。神である我はそう決めた。もう誰にも止めることなど出来はしない」
マザーはそう言ってカノンを外へと続く穴へと放り込んだ。
機械の固まりのかなり上部からカノンは投げ出され、地面へと落下していく。
地面に叩きつけられ、動かなくなるカノン。
(くぅ・・・もう・・だめか・・・)
身体が動かない。
何処にも力が入らない。
周りを見ると光の槍にやられた人々が転がっている。
カノンは、祐一は何も出来ない自分の無力さに涙をこぼした。
「約束・・・一つ守れないのかよ・・・俺は・・・」
何とか立ち上がりたい。
せめて一矢報いたい。
また光の槍が降り注いだ。
逃げ遅れた人々が無惨にも貫かれていく。
「やめろぉっ!!」
カノンが叫ぶ。
だが、光の槍は止まらない。
「やめてくれぇ!!この世に神がいるのなら、あいつをとめてくれぇ!!」
「神とは我のこと・・・愚かな猿の末裔よ・・・忘れたか?」
マザーの声が響く。
「くっそう!!畜生!!俺は!俺は!!お前を神だなんて!!絶対に!!絶対に!!認めねぇぞ!!!」
カノンがそう叫びながら起きあがった。
イヤ、起こされた。
誰かがカノンに手を貸している。
カノンが振り返るとそこには呆れたような顔をした香里が立っていた。
(ほら、吠えてばかりいないでちゃんとやってくれる?)
すっと今度は横から支えられる。
そこには栞がいた。
(これくらいなら私でも出来ますから)
カノンの前には舞が、後ろには佐祐理が。
(祐一一人じゃない)
(祐一さんの背中はこの佐祐理はお守りしますよ)
すっと体が軽くなる。
上を見ると天使のような羽根を広げたあゆが彼を持ち上げようと必死になっていた。
(空飛ばないと、敵わないでしょ、祐一君?)
「みんな・・・・」
カノンは、イヤ、祐一は死んだはずのみんながどうしてここにいるのか解らなかった。だが、死んだはずのみんなが力を貸してくれている。それだけははっきりと解った。
(祐一、私も一緒に行くよ)
笑顔で名雪が立っている。
頷く祐一。
「みんな、力を貸してくれ!俺は・・・神を倒す!!」
カノンは叫ぶ。
彼の周りにいるみんなが頷いた。
次の瞬間、カノンの身体が光に包まれた。
それは神々しいまでの白き光。
その光をまとったカノンが走り出す。
「小癪な!!」
カノンに向かって光の槍が降り注ぐ。
光の槍がカノンの身体を貫いていくがカノンは止まらない。
カノンの背に光の翼が生まれた。
それは6対、12枚の羽根。
まるで彼の力を貸している少女達の思いが結集したかのように。
光の翼がきらめき、力強く羽ばたく。
ダッと地を蹴り、宙に舞い上がるカノン。
そのジャンプは機械の固まりを越え、遙かな空まで届く。
「ライダァァァァァァァッ!!!!」
カノンの叫び声。
イヤ、彼一人の声ではない。
奴らに殺された人々の思いを込めて。
「キィィィィィィィィィィィィックッ!!!!」
片足を突き出した状態で落下するカノン。
そのカノンへと光の槍が飛来し、その身体を貫いていくがそれでもカノンの勢いは止まらない。
それだけではない。
街の、イヤ、地球中のあちこちから光が集まってくる。
全てカノンめがけて。
光をましていくカノン。
その落下スピードが音速を超え、カノンは光の槍となった。
「おのれ・・愚かな猿の末裔の分際で!!」
マザーが次々と光の槍を放つが同じように光の槍と化したカノンには通じない。
光の槍となったカノンは機械の固まりの頂上部から突入、その中枢部にいるマザーを粉砕する。
「ま・・まさか・・・神である我が・・・愚かな猿の末裔如きに・・・」
マザーは光の中へと蒸発していく。
そして・・・次の瞬間、機械の固まりが大爆発を起こし・・・・だが、それはまるで何処かに消え去るかのように収束した。
後に残ったのは・・・静寂に包まれた森、無惨な死体の多く・・・。
生き残った人が死んだ人を見て泣き声を上げる。
そこに・・空から光の粒子が雪のように降り注いだ。
その光の粒子は・・・死んでいた人々の上に降り積もり・・・そして奇跡を起こした。
「あ・・・あれ?」
次々と起きあがる人々。
人々の泣き声が歓声へと変わる。
 
光の粒子は森だけに降り注いだわけではなかった。
被害のあった商店街、病院、とにかく町中に降り積もって奇跡を起こし続ける。
「・・・あれ・・・どうして私、こんなところで寝てるの?」
美坂家の前、香里は身を起こしていた。
きょとんとした顔で周囲を見回している。
 
「あたた・・・」
顔を押さえて栞が身を起こした。どうやら倒れた時に顔を打っていたらしい。
「・・・いた・・・」
壁により掛かるようなカッコで舞が立ち上がる。
「あれ・・・舞先輩?」
「栞?どうして・・・?」
きょとんとした顔を見合わせる二人。
 
森の中、佐祐理は地面に座ったまま、落ちているリボンをじっと見つめていた。
「・・・夢・・・だったんでしょうか?」
首を傾げる佐祐理。
 
だが。
秋子の手の中から名雪の身体は消えてしまっていた。
そう、それはカノンが白い光に包まれた時。
名雪も白い光に包まれ消えてしまっていたのだ。
しかし、秋子の顔を安らいでいた。
「そう、祐一さんの側が良いのね、名雪は・・・」
次々と生き返る人々を見ながら秋子は自分の娘が選んだ道に幸せがあるように祈っていた。
 
<2年後 1月10日>
ばたばたと慌ただしい音が水瀬家に響き渡る。
「あう〜〜〜、遅刻遅刻〜〜〜!!」
真琴の声が玄関の前で待っている美汐にも聞こえてきた。
くすっと笑みを漏らす美汐。
「ごめ〜〜ん、美汐。目覚まし時計、止まっててね・・・」
慌てた様子で玄関にでてきた真琴を見て美汐はちょっと怒ったような顔を見せた。
「嘘を言わないでください、真琴。どうせ自分で止めてまた寝てしまったんでしょう?」
「あう・・・なんでわかるの?」
「真琴のことですから・・・」
本気で感心したように自分を見る真琴に美汐は少しだけ微笑んだ。
「お〜い、二人とも、遅刻するぞ〜!」
そう言って北川が二人の脇を通り抜けた。
私服姿に肩掛け鞄を提げて自転車で通り過ぎていく。
「北川先輩、よそ見をしていると・・・」
美汐がそう言って注意する前に北川が見事に転んでいた。
「あいた〜〜〜」
情けない声を上げ、北川は二人を見てばつが悪そうに頭をかく。
「や〜〜〜い、潤のどじ〜〜!!」
真琴がそう言って舌を出す。
「真琴、お弁当忘れているわよ」
玄関から秋子が顔を出した。
手には小さめのお弁当箱。
「あ、ありがとう。じゃ、行って来るね、お母さん!!」
「行ってらっしゃい、真琴」
手を振って走り出す真琴。
美汐は軽く秋子に会釈してから真琴を追って走り出した。
「真琴、待って!!」
「二人とも気をつけていくのよ」
秋子も手を振って二人を見送り、そしてようやく転んでいる北川に気がつく。
「あら・・・大丈夫、北川君?」
「ははっ、大丈夫です、これくらい!日常茶飯事です!!」
少し照れたように北川は言う。
「でも・・急がないと予備校、遅れますよ?」
腕時計を見て秋子が言う。
それを聞いた北川は慌てて自転車を起こすと秋子に一礼して走り出した。
「やべ〜〜〜!!遅刻だ〜〜〜!!」
そんな彼の後ろ姿を秋子は微笑みながら見送っている。
ふと空を見上げる。
いい天気だ。
雲もなく、穏やかに晴れ渡っている。
あの日から2年。
真琴は秋子の本当の娘のようになり、今では秋子を「お母さん」と呼ぶようになった。秋子もそんな真琴を実の娘のようにかわいがっている。それに今は美汐と同じ学校の1年生だ。
美汐と言えば今年3年生。3学期初の登校日、わざわざ真琴を迎えに来てくれたようだ。
北川は大学受験に失敗して今は予備校通いと聞く。毎日、自転車で水瀬家の前を走っている。たまに顔を合わせると少しばかり話をすることだってある。
香里はちゃんと大学に合格したようでこの街を離れている。
香里の妹の栞は美汐を同じく3年生。香里と同じ大学目指して勉強中だ。
舞と佐祐理は同じ大学に進み今は二人で暮らしているそうだ。とても仲のよい二人。
かつて、祐一の側にいた人たちは皆確実に自分の人生の新たな1ページを刻んでいる。
「・・・あなた達も・・幸せでいてくれたらいいのだけど・・・」
青い空を見上げながら秋子はそう呟き、ため息を漏らした。
そして家の中に戻ろうと玄関のドアノブに手をやったその時。
「うぐぅ・・・止まらないよぉっ!!」
「わわっ・・だからって俺の服を掴むな、馬鹿ッ!!」
「わわ・・危ないよ〜」
玄関の向こう・・・道の方から聞いたことのある声。
「うわぁっ!!」
どさどさどさっと誰かが倒れる音。
「うぐぅ・・・」
「うぐぅじゃないっ!!お前もどうして俺の上に乗っている!?」
「だって・・・止めようとしたんだけど・・・止まらなかったんだよ〜」
男一人の女二人。
聞き覚えのあるどころじゃない。
絶対に忘れることの出来ない声。
彼女の愛しい子供達の声。
秋子は思わず駆け出していた。


























そして、そこにはもつれ合うようにして転んでいる3人の姿・・・などはなかった。
幻聴だったのか。
あの3人を思うあまりの。
秋子はため息をつくと玄関の方を向いた。































そして、今度こそ。
































「ただいま、お母さん」
「ただいま、秋子さん」
「ただいま、秋子さん」
3人がいた。
少し雪で汚れていたが。
それでも前と変わらない。
照れくさそうな笑顔を浮かべて。
秋子の目に涙が溢れる。
「お帰り・・・お帰りなさい・・・」
そう言って秋子は3人に抱きついた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
仮面ライダーカノン
The Another Legend
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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後書き
すっげぇ〜〜〜〜疲れました。
イヤ、本気で。本気と書いてマジと読む。それくらい疲れた・・・。
間に夏コミを挟んだのがいけないのかもしれない。
ほぼ8月一杯かかってしまったではないか。本当ならもっと早くに終わっていてもいいはずだったのに。
さて、ここからしばらく真面目な後書き、およびこの作品について色々と語っていこうと思います。
読むのが面倒とか、読む気無いとか、別に構わないし〜とか言う人は上の「BACK〜〜」から戻って頂いて結構です。
イヤ、本当に長くなりそうなんで。

>まず初めに・・・。
今回は前半部の終わりから中盤部、そして終盤にかけてヒロインを殺しまくっています。
本編・・・と言うかTVシリーズ(爆)というか、連載している方のカノンでは誰も死んでいません。
ですがこちらでは殺しまくっています。
話が短い・・と言うのもあるんですが祐一の戦いによりいっそうの悲壮感を漂わせたかった。
自分の周りの人がどんどん死んでいくという、そしてそれを止めることが出来ない自分。
自分にはそれを止める力があったはずなのに・・・。
祐一の今回の戦いは全て復讐、と言う言葉に彩られています。
自分を殺した憎い奴、香里を殺した許せない奴、舞と栞を殺した倒すべき奴、佐祐理を殺した酷い奴、あゆを殺したとんでもない奴、名雪を殺した全ての元凶。
それらを倒すために怒りと憎しみでもって立ち向かうカノン。
連載中のカノンではあり得ないことです。
あえてタブーに近いものを・・・そう、何処にも正義など無い、ただ怒りと憎しみのままに戦う仮面ライダー。
これを仮面ライダーと言っていいものかどうか・・・少々自信ありませんが(笑)

>何故真琴は死ななかったのか?
簡単に言うと、殺すシーンが思い浮かばなかった・・・要は幸運なわけですが。逆を言えば殺すシーンを思いついていたら彼女も間違いなく死んでいた、と言うことです。
それ以外に理由を挙げるとすれば秋子さんのため、でしょうか?
名雪、あゆの死は初めから予定されていたもの、祐一も敵を倒して消えていくことは決定していました。では残された秋子さんはどうなる?なら真琴が残れば少しは秋子さんの心の支えになるか?とまぁ、思ったわけでして。
決してえこひいきとかじゃありませんよ。
私、これでも名雪が一番好きですから。
だから名雪が死んでしまうシーン、ドキドキしながら書いていたんです、はい。
私の中では真琴は水瀬家の一員としてしっかり勘定に入っているわけでして。
真琴が残れば秋子さんも少しは大丈夫だろうと。
だから、真琴はヒロインの中で唯一生き残ったわけです。

>何で香里は殺された?
舞は激しく抵抗したため。
栞は舞の油断を誘うため。
佐祐理も抵抗したがため。
あゆは祐一をかばって。
名雪は逆上したマザーの手で。
では香里はどうして死ななければならなかったのか?
実はその解答はこの下の奴らの目的に絡むのです。
彼女を殺したスタカトは手当たり次第に人を襲い、抵抗出来たものを種子の宿主と考え、それで惨殺を繰り返していたのです。
たまたまその場にいた香里。
彼女は抵抗らしい抵抗も出来ず、ただ為す術もなくスタカトのハサミの一撃を腹に受け、殺されてしまったのです。
もしかすると一番の被害者は彼女かもしれない・・・。

>活かしきれなかった設定。
種子と敵の目的、ですね。
特に種子の設定が色々とあったんですが・・・かなり活かし切れていない。
種子の力は話の中でも語られていますが、そのほかにも「宿主が一度死んで初めて発芽する」とか、「発芽した後、全身に根を張り巡らせて変身をさせる」とか、色々と考えていたわけですが。
まぁ、書いているうちにややこしくなったのと説明が長くなりすぎになりそうだったのでやめ。
それに敵の目的もはっきりしませんよね。
初めは「種子の回収」とか言っていたり、「進化を促進させろ」とか言っていたのに気がついたら虐殺している・・・。
一応本来はこういう目的が彼らに設定されていたんです。
「地球の知的生命体をより上位の知的生命体に進化させる」「その為の種子は既にまかれている」「種子が選んだものこそ新たなる人類の可能性を秘めたもの」「それ以外のものは全て奴隷にするか殺してしまえばいい」
まぁ、一応話の中でもそれっぽいことをやっているようではありますが。
中盤にフラトが秋子さん達をさらっていったのは種子が選んだ人を捜すために大勢に人々をマザーの前に連れていく。種子が誰を選んだかはマザーにしか解らない。その為だったのです。

>何であゆは知っている?
消えた設定その一に絡みます。
彼女は何故か種子の存在、そしてその力をある程度は理解していたようです。
7年前の事故で死ぬはずだった自分が生きているのは種子の力のおかげ。
一体何処でその情報を知ったのか。
実は彼女の身体の種子は既に力を無くしており、しかし、彼女の回復のために使われた種子の遺伝子が彼女の脳にまで達しある程度の情報を彼女に与えたのではないでしょうか?
だから、彼女は初めて見たカノンを恐れることなく接することが出来たのでしょう・・・。
実はあまり考えていなかったりして(爆)

>謎の白い花園。
フラトとカノンの戦いの舞台となった白い花園。
これはフラトがより効率よく人を集めるために作った幻覚作用のある花園でした。ここの白い花から発せられる香りに人は引き寄せられ、自然とマザーのいる方へとやって来てしまうのです。
もっとも祐一がここに現れ、その目的は台無しになってしまうのですが。
ちなみに祐一にはこの白い花の香りは効きませんでした。それは何故か?彼の身体はもう人とは違うものだったから。それが正解です。
それに気付いたフラトは自分の計画を台無しにしても祐一を抹殺する方がいいと考えたのです。だからあの風を起こしたのはフラト本人なのでした。

>今回の怪人の名前について。
リ・ピトー。
スタカト。
フラト。
フォルティ。
解りましたか?
全部音楽記号とかからです。
オメガはギリシャ文字の最後の文字。
全てを超越した存在・・・何となくΩという感じがするな、と言うことでそうなりました。
マザーはそのまんまですね(笑)
全てを生み出した母、と言うことです。

>ハッピーエンド。
ダークな結末も用意してあります。
とか言ったら驚きますか?
初めは死んだ人間は生き返らないまま終わるはずだったんです。
でも書いているうちにどんどん人が死んでいく。ヒロイン達以外の名もない人たちが死にすぎた・・・と言うことで急遽変更。そうなるとヒロイン達が死んだままだとおかしい。じゃ、生き返らせますか。そんな安易な感じで彼女たちは生き返っちゃいました。
でも、名雪と祐一だけは死んだままにしてもよかったんですけどね。
それじゃハッピーじゃないでしょうという自分の中の声が(爆)
ちなみに彼女たちが生き返ったのはカノンに集まった光(これは地球の光、と考えて貰ってもいいでしょう。地球上に生きる全てのものがマザーによる進化を否定した。マザーを神とは認めなかった、と言うことです)とマザーが内部に蓄えていた命のエネルギー(オメガ達を作ったのはこの力。尚、オメガ以外の4体はかつて地球に来た際にサンプルとして回収していった遺伝子を元に作られたものであり、彼らの記憶はねつ造されたものなのである)が混ざり合い、失われたはずの命の代わりとなった・・・と言うことにしておきましょう。

>消えた設定
話の都合上いくつか消えた設定があります。
その一。
種子を研究していた特殊なグループ。
7年前に降り注いだ種子を偶然発見し、それを研究していたグループ。実はあゆはその研究に協力していた・・・そして祐一に近付いたのはその研究のため・・・という設定が実は初めにはあったのです。4大怪人が襲来してきた時、彼らもカノンに協力して戦うはずだったんですが、これだとヒロイン達の出番が確実になくなる(というかこのグループがでてくると舞など必要なくなってしまうのだ。何せ、戦闘訓練を受けた人や、他の種子の宿主とかもいるのだから)のであっさりと切り捨てられました。美人の金髪のお姉ちゃんとかもいたんだけどなぁ・・・(爆)
その二。
4大怪人VSオメガ。
4大怪人は元々オメガのためのデータ回収用に過ぎなかった。カノンを倒したものにはオメガと戦う権利が与えられる・・・という設定。イヤ、何処かで聞いたことある設定でしょ?それにこれだと4大怪人をカノンが全部倒さなくてもよくなる。じゃ、やめだな。と言うことでお蔵入り決定。
その三。
祐一にとりついた種子は二つだった。
まぁ、本編でもいきなり緑から赤に変わったりしていますからこの設定は完全に消えたわけではなかったんですが。実は一度身体にとりついた種子を破壊される、と言うシーンがあったのです。それを見て泣き叫ぶ名雪。
その涙がもう一つの種子を目覚めさせる・・・という感じな。
でもこれをやると・・・・連載中の方のEP.6と内容がかぶる(爆)そう言う理由でやめと相成りました。
主だったのはこの辺かな?

>赤いカノンと緑のカノン(笑)
何処かのうどんじゃないんだから(笑)
冗談はさておいて。
本編中カノンは常に緑色をしています。それが唯一オメガとの決戦の時だけ赤く変わります。
これは本編中でも書いている通り、怒りと憎しみの炎に染まった色。
いわばクウガアルティメットフォームに近いものです。
この状態のカノンはまさに最強。
その理由は上に書いてある没ネタ第三弾によるもの・・・がベースだったんです。でも結局理由は不明。
まぁ、人間の感情が感情のない作られた存在である超越生命体を上回った・・・としておきましょう。

>光の翼
左右6対、12枚の翼。
確か一番偉い天使の羽根の枚数がそうだったような気が。うろ覚えでスマン。
ちなみに死んでいるヒロインの数も丁度6人。
そう、あの光の翼はまさに彼女たちそのものだったのです。と本編にも書いていたような気が(爆)

>最後のシーン
考えていたものはもう一つありました。
秋子さんが玄関に入っていってから、その前の道に雪を踏みしめる二つの足音。
手をつないだ二人が水瀬家の方へと歩いていく・・・そう言う終わり方も考えていたんですが。
ふと気がつくと。
これではあゆが出せない!!
そう言うことでああいう終わり方を選びました。
画的には祐一、名雪、あゆの3人は最後まで顔を映さずに秋子さんだけを映して、涙をこぼして3人に抱きつく・・・そう言ったシーンを思い浮かべてください。
とりあえず「ただいま」「お帰りなさい」を言わせたかったと言うことは内緒だ(笑)

>終わりに
しないと流石に疲れる(爆)
この作品の決定的な方向性を決めたのはとある小説でした。あれがなければこの作品はもっと変わった方向へと進んだでしょう。
興味のある方は掲示板なりメールなりでお知らせください。
タイトルをお教えいたしますので。
それとこの話の元ネタとなっているのは「仮面ライダーJ」と「仮面ライダーZO」の二つです。
言うまでもないような気もしますが(笑)
・・・えと言っておきますが、ディレクターズカット版とか完全版とかそう言うのは書きませんよ。
これはこれで完結です!
この世界の仮面ライダーカノンはこれでお終いです!(後日談を何か書きそうな気もするが・・・もっともそっちはギャグ風に)
これでだいたいこの作品の補完も出来たと思います。もし、聞きたいことがあるのなら掲示板にてどうぞ。
次にこういう風に劇場版だ!とか言って書くのはきっと連載中の方でやるでしょう。
もう構想は始まっていますから<そう言ってまた自分の首を絞める私(爆)
それでは、また次回作・・・・やるのか、おい?

長々とおつきあい、ありがとうございました。
読んでくれた全ての皆様に感謝いたします。
これからも我がHP「Worldend of Foll'nAngels」をよろしくお願いいたします。

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