「やっぱり来たんだね、フェイトちゃんにヴィータちゃん」
自分の目の前に立つ二人の姿に少し安心しつつ、同時に少し残念そうな表情を浮かべて高町なのはは言った。
「出来れば来て欲しくなかったんだけどな」
「お前を止めることが出来るとしたらあたしらだけだろうからな」
自分の肩に愛用のデバイス・グラーフアイゼンを乗せながらヴィータが言う。
「少なくても私たちはなのはを一度は倒している。だからこの場所に私たちが配置された」
そう言ったフェイト=T=ハラオウンは悲しげな瞳を前に立つ親友へと向ける。
出来れば彼女とは戦いたくない。戦う必要はないはずだ。
悪い奴は他にいる。
本当に倒さなければならない敵はここにはおらず、そしてそれは決して彼女ではない。
「……通させてもらうよ。フェイトちゃんやヴィータちゃんが邪魔するのなら」
なのはは言いながら自分のデバイス、レイジングハートをギュッと握りしめる。
この二人は共に自分を一敗地にまみれさせている実力者だ。
あれから模擬戦などはやったことがあるが全力で戦ったことはない。
はっきり言って勝てるかどうかは微妙なところだ。
だが、目的を達成する為にはこの二人を倒して先に進まなければならない。
その為には。
例え親友であっても。
「倒してでも通らせてもらうから」
それが二人に対しての最後通牒。
説得を受ける気はない。
自分を止めたければ倒してみせろ。
握りしめたレイジングハートを構え、すぐさま魔法を発動させる。
得意の射撃魔法、アクセルシューター。
「おう! やれるもんならやってみろ!」
そうはさせじとヴィータが突っ込んでいく。
「なのは……止めてみせる!」
フェイトもヴィータに遅れじとなのはに突っ込んでいく。
紅の鉄騎、閃光の戦斧と管理局の白い悪魔の激突が今始まる――。
魔法少女リリカルなのはStrakers―高町なのはの反逆V・高町なのはの復讐―
再び始まった襲撃事件。
その犯人は果たして高町なのはなのか?
襲撃者の特徴は確かに彼女である。
では何故彼女は時空管理局の幹部を次々と襲うのか?
しかもかつて自分が襲撃し、完膚無きまでに叩き壊した研究施設に関わる幹部ばかりを。
そこに今回の事件の謎があるとふんだこの事件を担当している執務官クロノ=ハラオウンは助手である新人執務官メアリー=スーと共に破壊された研究施設で何が研究されていたのかを調べ始める。
研究データの約9割は失われていたが、彼らは辛うじて「プログラム人格」「強化実験」などのキーワードを得ることに成功する。
しかし、平行して行っていた動機解明の件は暗礁に乗り上げていた。
なのはが失踪し、研究施設襲撃事件を起こす直前に休暇を取っていたことまではわかっていたが単なる里帰りでそれ以上のことはわからなかったのだ。
だが何かがあったとすればその時しかない。
クロノはメアリーをなのはの故郷である海鳴市へと派遣することを決意する。
メアリーが海鳴市に辿り着いたのと同じ頃、フェイトもまた海鳴市に降り立っていた。
前回対峙しつつも謎の乱入者と共に転移魔法で消え去った連続幹部襲撃事件の犯人。
その転移魔法の残滓を追って彼女はここにやってきたのだ。
偶然鉢合わせてしまったメアリーと共になのはに何があったかを探り始めるフェイト。
暗礁に乗り上げていた捜査に一筋の光明が差す。
それもまったく予想外のところから。
海鳴市にいるクロノの母、リンディ元提督を経由してクロノの元に届けられた一つの情報。
それはなのはの姉である高町美由希からのものであった。
ここ最近なのはがひどく疲れた顔をして家に帰ってきている。管理局の仕事はいいのか?と聞いても何も答えない。一体何がどうなっているのか。
これを聞いたクロノは海鳴市にいるメアリーとフェイトに美由希から詳しい話を聞いてくるよう伝えるのだった。
更に彼は休暇から戻ってきて失踪するまでの間、なのはが様々な人間に接触していたことを知る。
その内の一人、無限書庫司書長ユーノ=スクライアと会った彼はそこでなのはが何を調べていたのかを知った。
そして最終的に狙われるであろう人物の名も。
ギリアム=コンラッド。
時空管理局の幹部にして黒い噂の絶えない人物。
しかし、それでもまだなのはがどうして彼を狙わなければならないのか、その理由がわからない。
美由希と会ったフェイト、メアリーの二人はそのままとあるところへと連れて行かれる。
そこはなのはにとってもフェイトにとっても親友である月村すずかの家。
なのはの兄、恭也が婿入りした家でもある。
そこで二人が出会ったのはまだ幼い二人の少女。
だがそのうちの一人にフェイトは見覚えがあった。
いつか連続幹部襲撃犯と共に消えた謎の乱入者、それがこの少女だったのだ。
何故かフェイト達を見て怯える少女達。
何とか話を聞き出そうとする二人の前に臨戦態勢のなのはが現れる。
少女達をかばいつつ、なのはは二人に真実を告げる。
それは管理局の一部幹部が抱える闇。
知ってはいけない、知るべきではなかった闇の部分。
それを知ってしまったが為になのははもう止まれないという。
全ての始まりは久々の休暇で海鳴市の実家に帰ってきていた時のことだった。
極々わずかな魔力をこの海鳴市で感じた彼女がその魔力の元へとやってくると、そこには幼い二人の少女を抱えた、その二人よりも少しだけ年上の少女が瀕死の状態で倒れていた。
その場所が偶々すずかの屋敷の敷地内だったこともあり、彼女に協力してもらってなのははその三人を保護したのだが、瀕死の少女も、彼女に抱えられていた二人の少女もなのはが魔道士であることを知ると頑なに彼女を拒否し始める。
それでもなのはの三人を助けたいという思いが届いたのか、ようやく三人が心を開き始めた。そして彼女たちが語る恐るべき管理局の闇。
クローン体にプログラム人格を植え付け、更に強化を施して人材不足に悩む管理局の人材の補填に当てる。その為の実験施設から彼女達は命からがら逃げ出してきたのだと言う。
実験施設での彼女たちの待遇はひどいものだった。クローン体であると言うことからまともな人間扱いされず、強化に耐えられないものは失敗作だとして切り捨てられる。
あまりにもひどい、まさに人道無視のこの所業になのはもすずかも怒りを隠せなかった。
そして、瀕死だった少女が遂に事切れる。
残る二人をなのはに託して。
泣きじゃくる二人を優しく抱きしめながらなのはは決意する。
この子達を苦しめた人達への復讐を。
二人から話を聞いて、そして休暇が終わった後は自分が武装教導官時代に築き上げた様々なつてを使って彼女たちがいた実験施設のことを調べるなのは。
そして辿り着いた一人の男の名。
この実験施設の全てを管轄している時空管理局幹部、ギリアム=コンラッド。
この男こそが二人を苦しめ、あの少女を死に至らしめた張本人。
彼に二人の受けた苦しみを、死んだ少女の無念を思い知らせてやる。
その為になのはは全てを捨てる決意をした。
大切な仲間達に迷惑をかけないように管理局を、機動6課を辞め、たった一人で様々な次元世界に点在していた実験施設を襲撃、二度とこんな研究や実験が出来ないようにそのデータを全て破壊し尽くす。
その一方で彼女は実験施設から、そこに関わった人物達の情報を集めていた。
それが充分だと自分で思えた時、彼女はミッドチルダに戻ることを決意する。
かなりの確率で自分は捕まるだろう。そして裁判にかけられるはずだ。そこで時空管理局の幹部達がやったことを全てぶちまける。
初めはそのつもりだった。
だが、そんな彼女の口を封じるように何者かが法廷へと護送される彼女を襲う。
勿論それは彼女が何をやろうとしているのかを知ったコンラッド達の差し金。
際どいところで彼女を助けたのは襲撃者の中にいた、教導官時代の教え子の一人だった。
そしてなのはは思い知らされる。
相手は自分を殺してでも例の研究及び実験のことを隠そうとしている。
法廷で全てを話そうという自分が如何に甘かったか。
ならば真っ向から相手になってやる。
悪魔と呼ぶならそう呼べばいい。
全て叩き潰すまでだ。
なのはの告白を聞いたフェイトは、それでもまだ彼女を説得しようとする。
暴力で全てを解決するなどなのはらしくない。
最後の最後まで話し合おうという、今までの姿勢は何処に行ったのか、と。
だが、なのははそれに答えようとはせず、彼女たちを追い返すだけ。
説得を諦めて帰ろうとするフェイト達になのはは言う。
残るはあと一人、コンラッドだけ。
三日後に彼を襲撃すると。
何故それを自分たちに伝えるのかと尋ねるフェイトだが、矢張りなのはは何も答えなかった。
ミッドチルダに戻ったフェイトとメアリーはようやく判明したなのはの動機をクロノに伝え、そしてまた彼女が宣言した襲撃予告についてどう対処するかを相談し始める。
なのはの言うこともわかるが、彼女にコンラッドを襲わせるわけには行かない。
そこで問題となるのは、いざというときになのはに協力するかも知れない武装局員がどれだけいるか、と言うことだ。
教導官時代の彼女の教え子は膨大な数になる。
それになのはの人気はかなりのものだ。
もし彼女がコンラッド達の悪行を彼らに伝え、協力を求めたなら一体どれだけの者が彼女に協力するか、考えただけでも恐ろしい。
クロノのそんな心配をフェイトは一蹴する。
なのはは一人で来る。
誰にも迷惑をかけたくないと思っている彼女は誰にも協力を求めずたった一人でやってくる、と。
義妹の言うことを信じてクロノは対策を立て始める。
コンラッドが自分の権限を利用してボディガードにした機動6課の面々を使って。
三日後、遂にその日が来た。
ミッドチルダ首都にあるとある高級ホテルの一室にコンラッドを匿い、やってくるであろうなのはを迎え撃つ。
スバル=ナカジマとティアナ=ランスター、そこにヴォルケンリッター・盾の守護獣ザフィーラを加えたチームを第一陣、エリオ=モンディアルとキャロ=ル=ルシエ、ヴォルケンリッター・烈火の将シグナムを第二陣に据え、本命としてフェイトとヴィータを置く。
更に後詰めとしてクロノと機動6課部隊長八神はやてがホテルに詰め、なのはを迎え撃つ体勢は整った。
後はコンラッドを狙ってやってくるなのはを待つだけ。
その頃、なのはは護送車襲撃時に自分を助けてくれた武装局員からクロノ達の布陣を聞いていた。
これは確実に彼女を捕まえる為の罠だという武装局員に、それでも行くといい、彼女は動き始めた。
第一陣であるスバルとティアナをあっさりと下し、続けて第二陣であるシグナム達の元に現れるなのは。
苦手とする接近戦を挑まれ苦戦するなのはだが、間一髪のところでキャロを人質に取り、その場を脱することに成功する。
そして遂にたどり着いたホテルの前で彼女はフェイト、ヴィータと対峙する。
なのはの戦闘スタイルからすればこの二人との相性はかなり悪い。
それにどちらもなのはと戦い勝利を収めたことがあるのだ。
それを見越してのクロノの配置であったが、なのはも自分の弱点である接近戦を克服する為の策を持ってきていた。
ほんの短い間だけだったが姉の美由希と兄の恭也から御神流を教わってきたのだ。
付け焼き刃に過ぎない自分の御神流に自らの魔法を組み合わせてヴィータを、フェイトを倒すなのは。
かなりの魔力を消費し、疲れ切ったなのはだったがそれでも目的を果たす為ホテルの中に踏み込んでいく。
そこに話しかけてくるクロノに挑発され、なのははホテルの中を、コンラッドのいる部屋を目指して激走する。
それこそがクロノの罠だとも知らずに。
コンラッドのいるであろう部屋の前でなのはが来るのを待っていたクロノは物凄い速さで飛んでくるなのはを見て悲しげな表情を浮かべる。
レイジングハートを構えて突っ込んでいくなのはだが、クロノのいる少し手前で彼女の身体は見えない程極細の糸に絡め取られてしまう。
次の瞬間、その糸を通してなのはの全身に物凄い電流が叩き込まれた。
その衝撃に白目を剥いて倒れ伏すなのは。
倒れたなのはをすかさず自分の部下に確保させ、クロノはその足でコンラッドの元へ向かう。
コンラッドに一連の襲撃犯人であるなのはを捕らえることに成功したと伝える。
なのはの身柄を自分に引き渡すように命じるコンラッド。
このまま彼女を亡き者として全ての証拠を隠滅するつもりなのだろう。
だが、そんなコンラッドにクロノは言う。
「貴様がやってきたことは全て管理局の局長に伝えてある」と。
その言葉に愕然となるコンラッド。
続けて入ってきた武装局員が彼の身柄を拘束する。
何事が起きたのかわからず呆然としているはやてにクロノは言った。
「これで今回の一件は終わった」と。