魔法少女リリカルなのはStrakers―高町なのはの反逆―エピローグ
高町なのはが目覚めたのはとある病院の一室だった。
自分がベッドに寝かされていると言うことを知った彼女は自分が最後の最後で失敗したと言うことを理解する。
悔しさのあまり涙をこぼす彼女の元に機動6課所属、ヴォルケンリッターの一人、シャマルが現れた。
意識を刈り取るばかりか身体の動きまでも完全に止める為に相当量の電流が使われ、その為に重傷を負ってしまったなのはの治療を買って出たのが彼女だった。
今は何も考えずにとにかく休めと言うシャマルの言葉になのはは従い、再び眠りにつく。
次の彼女が目覚めた時、そこに丁度彼女の様子を見に来ていた機動6課部隊長八神はやての姿があった。
あれからどうなったのかを尋ねるなのはにはやては自分が知っている範囲で、と前置きして話し出す。
なのはが意識を失った後、クロノがいきなりコンラッドを逮捕したと言うこと。
その後、どこからか彼が入手してきた実験施設で行われた様々な非道な実験の詳細なデータを元にコンラッドは告発され、今は特別調査班が組まれてその調査が行われていると言うこと。
そしてなのは自身の罪は今のところ保留にされていると言うこと。
それらを話した後、はやては冗談ぽくなのはがいなくなってからの機動6課の苦難の日々を彼女に伝えるが、それは彼女にまた暗い影を落とすだけだった。
ひどく落ち込んだ顔で謝ろうとするなのはを押しとどめ、はやてはその彼女の前で彼女が書いた辞表を破り捨てる。
「早いこと退院して、帰ってきてや。なのはちゃんに処理してもらわなあかん書類、山のように溜まってるんやからな〜」
笑いながらそう言って去っていくはやて。
そんな彼女の後ろ姿をなのはは微妙な面持ちで見送るのだった。
入院中のなのはの元にメアリー=スーがクロノ=ハラオウンからの手紙を携えてやってきた。
その手紙には止める為とは言えなのはに重傷を負わせたことに対する詫びとコンラッド告発の為の資料提供の礼、更に彼女の刑罰軽減の為に様々な人間が動いていると言うことが書かれてあった。
手紙を読み、安堵したようにため息をつくなのは。
自分のことは自業自得だからどうでもいい。こんなひどい怪我をしたのも自分の所為だし、どんな罪に問われても文句は言えない立場だ。
そんなことよりも、あのコンラッドの非道が明るみに出、そして罪に問われることになった。そのことの方が彼女には重要な事項だった。
手紙を持ってきたメアリーに礼を言うなのは。
そんな彼女に向かって思い切り恐縮するメアリー。それから、なのはに向かって退院したら自分を鍛えて欲しいと頼み込む。
今回の一件自分は助けられたばかりでほとんど何の役にも立てなかった。自分が襲われた時も逃げまどうばかりでろくに対処も出来なかった。そのことが何とも情けなく、そして悔しい。だからせめて自分の身は自分で守れる程度には、と言うことだ。
必死そうにそう訴える彼女にはなのはは少し困惑しながらも、最後には笑って頷く。
嬉しそうに帰っていくメアリーをよそになのははまた微妙な笑みを浮かべるのであった。
次にやってきたのはフェイト=T=ハラオウン、ヴィータを除く機動6課フォワード陣の面々であった。
心配そうな若い四人になのははこの間の自分との戦闘でのダメ出しをしていく。
自分たちは全力だったにもかかわらずなのははダメ出しが出来る程度にしか実力を見せていなかったという事実に愕然となる四人とその後ろで苦笑を浮かべているシグナム。
訓練メニューを見直して、もっと鍛え直すと言うなのはに四人が青ざめる。
それからシグナムに向かってフェイトとヴィータが一緒じゃないのかと言うことを尋ねると、彼女はまた苦笑を浮かべて二人は入院中のなのはに代わって色々と仕事を押しつけられているとのこと。
慣れない事務的な作業にヴィータは不満一杯だし、フェイトは自らなのはの分の仕事をやると買って出た割に自分の分の仕事も溜まってしまい、てんやわんやでなのはの見舞いどころではなくなってしまっているという。
手伝ってあげればいいのに、と言うなのはに矢張り苦笑を浮かべるだけのシグナム。
シグナムにヴィータとフェイトに対する謝罪と労いを頼み、帰っていく五人を見送るなのは。
矢張りその顔には微妙な表情が浮かんでいる。
シャマルがなのはの裁判の日時が決まったと告げたのと同じ日、もっとも予想外の人物が彼女の病室を訪れた。
リンディ=ハラオウン元提督に連れられた高町美由希、そしてなのはが助けた二人の少女だ。
二人の少女は包帯だらけでベッドの上に横たわっているなのはを見て、心配そうに駆け寄ってくる。
そんな二人を心配ないよと言う風に頭を撫でてやりながら、なのはは一緒にやってきた姉を見た。
美由希はつかつかとなのはに近寄ると容赦なく彼女の頭を殴りつけた。それから今回の一件でどれだけ周りがなのはのことを心配していたかを伝え、また一発彼女の頭を殴りつけた。
どうやら彼女は父母、そして兄やなのはの親友の分までなのはを怒ってくるよう申しつけられているらしい。
二人の少女が怯えるのをよそに美由希はなのはに説教し続ける。
涙目になってリンディに助けを求めるなのはだが、リンディは一杯みんなに迷惑と心配かけたんだから黙って怒られなさいと言う視線を返すのみ。
美由希による説教は二人の少女がわんわん泣き出すまで続けられた。どうやらそれほどの剣幕だったらしい。
一頻り怒った後、美由希は二人の少女を宥めながらなのはの病室から一旦退出する。
残されたリンディはなのはに「やり方は間違っていたが結果的にやったことは間違いではない」と言い、現在彼女の減刑嘆願の為にみんな頑張ってくれている、管理局をクビになることだけはないはずだと言う。
しかし、なのははその言葉に首を振った。
あれだけのことをした自分が管理局にいていいわけがない。管理局の施設を破壊し、幹部職員を次々と襲撃し、何と言ってもはやて達機動6課の仲間に想像以上の迷惑をかけた。みんながいいと言っても自分を許せそうにはない。
そう言うなのはをリンディはゆっくりと諭す。
だったらその分だけみんなの為に頑張ればいいではないか、と。今、管理局を辞め、機動6課を辞めてしまったら心配してくれた皆に、迷惑をかけた皆に何の償いも出来ないまま、単に逃げるだけだと。
自分を許す為にも、もう一度皆と共に働けばいいと言うリンディ。
だがなのははそれに頷こうとはしない。
意外と頑固な一面のある彼女をよく知るリンディはそれ以上強制はせず、裁判の日までじっくりと考えればいいと言って病室を辞するのであった。
そして裁判の日。
未だ身体は完治せず、一人で歩くことすら出来ないなのはの元にフェイトとはやてが現れる。
二人に支えられながら法廷に立つなのは。
傍聴席には機動6課の面々や教導官時代の教え子達、彼女をよく知っているアースラのクルーまでがいる。
そんな人達に見守られながら、なのはに下された判決は一ヶ月の謹慎と半年の減俸と言った実質の無罪であった。
その判決に呆然となるなのはと喜びに沸く傍聴席。
なのはが裁判官に抗議しようとするのを介添人として側にいたフェイトとはやてが止め、彼女の裁判は終了する。
たった一人、なのは自身の不満を残しながら。
そして、それを見届け法廷から無言で立ち去るクロノ。
彼を見つけたユーノが法廷の外で去っていこうとしている彼を呼び止める。
クロノはユーノに他言無用だと前置きしてから言う。
何故なのはの罪があれだけ軽いものになったのかを。
全てはこの事件を闇に葬りたいという管理局上層部の意向。
管理局の幹部が非人道的な実験に積極的に関与していたと言う不名誉な事実を’なかった’ことにする為に、なのは自身の罪を問わないことにしたのだ。
実験施設の壊滅は単なる事故、幹部が重傷を負ったのは自らの過失。
流石に首謀者であるギリアム=コンラッドだけはその罪から逃れられず、管理局を追放、収監されることになったが。
この事件に関わった者全てに箝口令が敷かれるだろう。そして闇に葬られるのだ。何もなかったことにされて。
「組織が大きくなるとどうしてもこう言うことが起こる。そしてそれがいつか全体に広がって、全てをダメにするんだ」
時空管理局という組織が内部に抱える闇と腐敗。その根は相当に深く、もはや一人二人が何を叫んで行動しても、どうすることも出来ないだろう。
せめて自分だけはその闇に飲み込まれたくないな、とクロノは言い、その場から立ち去るのであった。
呆然と彼を見送るユーノの後ろからなのはを抱えた皆が出てくる。
去っていったクロノの沈鬱な表情と違って抱えられているなのは以外の誰もが皆笑顔を浮かべていた。